RFIDタグ用ブースタアンテナ
【課題】電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長できるようにすることである。
【解決手段】電波方式のRFIDタグ1のアンテナ1aと同じ側に配置されるブースタアンテナ2の線状のアンテナ素子2aの長さL、電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、アンテナ素子2aの形状を表す形状パラメータs、電波対向面に投影した電波の回転方向へのアンテナ素子2aの傾斜角度θ°、アンテナ1aの傾斜角度φ°としたときに、長さLと電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにし、アンテナ1aの重心からアンテナ素子2aを配置した面に下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心までの距離dと波長λとの比d/λが、(1)式を満足するようにした。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
【解決手段】電波方式のRFIDタグ1のアンテナ1aと同じ側に配置されるブースタアンテナ2の線状のアンテナ素子2aの長さL、電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、アンテナ素子2aの形状を表す形状パラメータs、電波対向面に投影した電波の回転方向へのアンテナ素子2aの傾斜角度θ°、アンテナ1aの傾斜角度φ°としたときに、長さLと電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにし、アンテナ1aの重心からアンテナ素子2aを配置した面に下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心までの距離dと波長λとの比d/λが、(1)式を満足するようにした。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency Identification)タグシステムにおける質問器のリーダと応答器のRFIDタグ間の通信距離を延長させるためのRFIDタグ用ブースタアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製品や部品等の物品の情報を自動認識する手段として、物品や物品を収納したケースにRFIDタグを装着し、RFIDタグに記録された物品情報を、リーダから電波で電力を供給して読み取るRFIDタグシステムが実用化されている。このRFIDタグシステムは、物品情報をバーコードから光学的に読み取るバーコードシステムに較べて、多くの情報を記録でき、情報を書き換えることもできるので、製造業、流通サービス業等の広い分野に普及しつつある。
【0003】
リーダのアンテナから電波で電力を供給するRFIDタグシステムの通信方式には、周波数が135kHz以下の長波や4.915MHz、13.56MHz等の短波を使用する電磁誘導方式と、周波数が数百MHz以上の極超短波や2.45GHz等のマイクロ波を使用する電波方式とがある。電波方式でリーダのアンテナから放射される電波には、回転する円偏波、回転しない直線偏波、およびこれらを合成した楕円偏波としたものがある。
【0004】
波長の長い電波を使用する電磁誘導方式は、アンテナの指向性が広く、水を透過する特徴を有するが、通常、その通信距離は数十cm以下である。これに対して、波長の短い電波を使用する電波方式は、水の透過性が悪いが、アンテナの指向性が高く、通常、その通信距離は0.2〜5m程度である。これらの通信方式は、使用環境や物品が水等の液体を含むものであるか否か等によって使い分けられている。
【0005】
前記電磁誘導方式のRFIDタグシステムには、RFIDタグの前方に、リーダからの電波のキャリア周波数と同調させたブースタアンテナをリーダと対面させて配置し、通信距離を延長するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたものでは、RFIDタグを取り付けた商品を収納するキャビネットの前扉の周囲にブースタアンテナを取り付けている。
【0006】
また、前記電波方式のRFIDタグシステムに用いられるRFIDタグには、半導体回路に接続したアンテナ素子の他に、導波用や反射用のアンテナ素子を配列し、これらのアンテナ素子の長さをリーダからの電波の半波長λ/2の整数倍として、通信距離を延長するようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−323019号公報
【特許文献2】特開2002−151947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載された電波方式のRFIDタグは、半導体回路に接続したアンテナ素子の他に導波用や反射用のアンテナ素子を配列する必要があるので、個々の物品またはその包装物に装着されるRFIDタグが高価で寸法の大きなものとなる問題がある。また、RFIDタグに配列できる導波用や反射用のアンテナ素子の本数は制約されるので、通信距離もそれほど延長することはできない。
【0009】
そこで、本発明の課題は、電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のRFIDタグ用ブースタアンテナは、質問器であるリーダのアンテナからの回転する円偏波、回転しない直線偏波またはこれらを合成した楕円偏波の電波を受けて応答する電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、前記リーダのアンテナに対してRFIDタグのアンテナと同じ側に配置される少なくとも1個の直線、開曲線、閉曲線またはこれらの直線もしくは曲線が交叉したものとした線状のアンテナ素子からなり、この線状のアンテナ素子の長さL、幅Wおよび重心G、ならびに前記電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、および前記アンテナ素子の形状を表す形状パラメータsを下記のように定義し、このように定義したアンテナ素子の長さLと前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにして、下記の長さLの定義におけるアンテナ素子の長さ方向の両端の点a1、a2が1組だけ存在する場合には、これらの点a1、a2を結ぶ直線を前記リーダのアンテナからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したときの、投影された直線の電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をアンテナ素子の傾斜角度θ°とし、前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有する場合には、このアンテナを前記電波対向面に投影したときの、投影されたアンテナの長手方向の向きの電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度を前記RFIDタグのアンテナの傾斜角度φ°として、前記RFIDタグのアンテナの重心から前記アンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、下記のように定義したアンテナ素子の重心Gまでの距離dと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比d/λが、下記の(1)式を満足するようにした。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
(定義)
・長さL:線状のアンテナ素子上に任意の2点i、jを選び、点iから点jに向かうベクトルVijに対して、アンテナ素子に沿う点iから点jへの経路の進行方向の向きとベクトルVijの向きのなす角度が経路内の全ての点で±90°以内であるときに、点iと点jは戻らずに繋がっているとし、このように戻らずに繋がっている任意の2点i、jの組み合わせのうち、2点i、j間の直線距離が最も長くなる2点を長さ方向の両端の点a1、a2として、これらの点a1、a2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さをアンテナ素子の長さLとする。
・幅W:長さLの定義における両端の点a1、a2を結ぶ直線と垂直方向(幅方向)に平行な任意の直線上にアンテナ素子の複数の点があるときに、これらの複数の点のうちの幅方向の距離が最も長くなる2点を幅方向の両端の点b1、b2として、これらの点b1、b2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、および長さLのうちの最小値をw1とし、両端の点a1、a2を結ぶ直線と平行で、アンテナ素子と交わる任意の2本の直線について、これらの2直線間の距離の最大値と長さLのうちの小さい方の値をw2としたときに、w1とw2のうちの大きい方の値をアンテナ素子の幅Wとする。
・重心G:長さLの定義における両端の点a1、a2間の全ての最短経路に存在する素線の重心をアンテナ素子の重心Gとする。
・回転パラメータr:リーダのアンテナからの電波における回転する円偏波の割合を回転パラメータrとする。電波が円偏波のときはr=1、直線偏波のときはr=0、楕円偏波のときは0<r<1となる。
・形状パラメータs:上記のように定義したアンテナ素子の長さLと幅Wとの比L/W(≧1)によって決まる形状に関するパラメータで、L≧2Wのときはs=1、L=Wのときはs=0、W<L<2Wのときはs=(L−W)/Wとする。
なお、RFIDタグのアンテナの重心と長手方向については、RFIDタグのICチップとアンテナ素線を含めたものに対して、ブースタアンテナのアンテナ素子と同様に定義することができる。
【0011】
図14(a)〜(h)は、各種の例の線状のアンテナ素子について、前記長さLと幅Wの定義と重心Gの位置を具体的に説明する。図14(a)は、最も単純な直線のアンテナ素子であり、両端の点が長さ方向の両端の点a1、a2となって、直線の長さがそのままアンテナ素子の長さLとなり、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、直線素子の幅がアンテナ素子の幅Wとなる。また、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、点a1、a2間の中点となる。
【0012】
図14(b)は、円弧の開曲線のアンテナ素子であり、両端の点が長さ方向の両端の点a1、a2となって、円弧曲線に沿った長さがアンテナ素子の長さLとなる。また、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、円弧のアンテナ素子のw1は十分小さいので、点a1、a2を結ぶ直線m0と、これと平行で円弧曲線の接線となる直線m1との2直線間の距離w2がアンテナ素子の幅Wとなる。この場合も、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、点a1、a2間の中点から円弧曲線側へ偏った位置となる。
【0013】
図14(c)は、振幅が一定な波状の開曲線のアンテナ素子であり、両端の点が長さ方向の両端の点a1、a2となって、波状曲線に沿った長さがアンテナ素子の長さLとなる。また、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、波状のアンテナ素子のw1は十分小さいので、点a1、a2を結ぶ直線m0と平行で、波状曲線の両側の波の頂点を通る2本の直線m1、m2間の距離w2がアンテナ素子の幅Wとなる。この場合も、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致する。
【0014】
図14(d)は、L字状の開曲線のアンテナ素子であり、L字の両端の2点が点a1、a2となって、点a1からL字に沿って点a2に至る経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。この例でも、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、L字状のアンテナ素子のw1は十分小さいので、点a1、a2を結ぶ直線m0と、これと平行なL字のコーナ点を通る接線m1との2直線間の距離w2がアンテナ素子の幅Wとなる。この場合も、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、点a1、a2間の中点近傍からL字のコーナ点側へ偏った位置となる。
【0015】
図14(e)は、U字状の開曲線のアンテナ素子であり、U字の両端の2点が点a1、U字の底の点が点a2となって、いずれかの点a1からU字の片側に沿って点a2に至る経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、点a1、a2を結ぶ直線m0と垂直方向に平行な任意の直線のうち、U字の平行部を通る直線n1上にある2点が点b1、b2となり、これらの点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、すなわち、線分b1b2を直径とする半円弧の長さが、点b1、b2間の最短経路の長さと長さLよりも小さくなってw1となる。また、直線m0と平行で、U字状開曲線の曲線部と接する直線m1と、点b1と反対側の平行部の端の点a1を通る直線m2との距離が、長さLより小さいので、w2となる。この場合は、w2よりも大きくなるw1がアンテナ素子の幅Wとなる。重心Gの位置は、2つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、U字の中心線上で底側へ偏った位置となる。
【0016】
図14(f)は、円の閉曲線のアンテナ素子であり、180°の位相で対向する任意の2点がアンテナ素子の両端の点a1、a2となって、半円弧の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、円の中心を通る任意の直線n1上にある円周上の2点が点b1、b2となって、点b1、b2間の最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さおよび長さLが全て等しくなってw1となる。また、円の平行な接線となる2本の直線m1、m2間の距離が、長さLより小さいので、w2となり、w2よりも大きいw1がアンテナ素子の幅Wとなって長さLと等しくなる。重心Gの位置は、多数の最短経路を形成する全素線の重心と合致し、円の中心となる。
【0017】
図14(g)は、長円の閉曲線のアンテナ素子であり、長円の長軸上の2点がアンテナ素子の両端の点a1、a2となって、点a1から点a2に至る2つの等しい経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、点a1、a2を結ぶ直線m0と垂直方向に平行な任意の直線のうち、長円の平行部を通る直線n1上にある2点が点b1、b2となって、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さが、点b1、b2間の最短経路の長さと比べて等しいかまたは小さく、長さLよりも小さくなってw1となる。また、直線m0と平行で点b1、b2を通る2本の直線m1、m2間の距離が、長さLより小さいので、w2となり、w2よりも大きいw1がアンテナ素子の幅Wとなる。重心Gの位置は、2つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、長円の中心となる。
【0018】
図14(h)は、3本の同じ長さの直線を60°の交叉角で交叉させた雪の結晶状のアンテナ素子であり、各直線の両端がアンテナ素子の両端の点a1、a2となり、各直線の点a1から点a2に至る3つの等しい経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、1組の点a1、a2を結ぶ直線m0と垂直方向に平行な任意の直線のうち、直線n1、n2上にある他の組の点a1同士および点a2同士が、それぞれ点b1、b2となって、これらの点b1、b2間の最短経路の長さと長さLが互いに等しく、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さよりも小さくなってw1となる。また、直線m0と平行で異なる他の組の点a1、a2を通る2本の直線m1、m2間の距離が、長さLより小さいので、w2となり、w2よりも大きいw1がアンテナ素子の幅Wとなって長さLと等しくなる。重心Gの位置は、3つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、雪の結晶状の中心となる。
【0019】
なお、上述した各例のアンテナ素子は、いずれも重心Gの位置が全素線の重心と合致するものであるが、例えば、ト字形状のように、長さLと無関係の分岐経路等を有するものでは、重心Gの位置が全素線の重心と合致しないこともある。
【0020】
前記リーダのアンテナに対して、ブースタアンテナをRFIDタグのアンテナと離間させて同じ側に配置する場合は、リーダのアンテナから直接RFIDタグのアンテナに到達する1次電波と、ブースタアンテナを経由してRFIDタグのアンテナに到達する2次電波との間には位相ずれδが生じ、この位相ずれδが電波の周期の整数倍±0.2倍、より好ましくは、整数倍±0.1倍程度の範囲であれば、1次電波と2次電波の山同士の重なり代が多くなって電波が強められ、通信距離が長くなると考えられる。位相ずれδがこの範囲を越えると、1次電波と2次電波の山と谷の重なり代が多くなって次第に電波が弱められると考えられ、位相ずれδが電波の周期の±0.5倍になると、1次電波と2次電波の山と谷が完全に重なり合う。
【0021】
前記1次電波と2次電波の間に生じる位相ずれδの要因としては、アンテナ素子の長さLによるブースタアンテナの受信波と発信波の位相ずれδ1、電波の光路差による位相ずれδ2、および、リーダのアンテナから送信される電波が円偏波や楕円偏波のように回転する成分を含む場合における、電波の放射方向と直角に対向する電波対向面におけるアンテナ素子の傾斜角度θと、RFIDタグのアンテナの傾斜角度φとの差による位相ずれδ3とが考えられる。なお、図14(f)、(h)に示したように、長さLと幅Wが等しくなるアンテナ素子では、電波の回転に伴う位相ずれδ3はほとんど問題とならない。
【0022】
本発明者は、種々の長さLのアンテナ素子を、電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、リーダのアンテナに対して同じ側に配置し、アンテナ素子の傾斜角度θとRFIDタグのアンテナの傾斜角度φとが等しい場合の通信実験を行い、アンテナ素子の長さLによるブースタアンテナの受信波と発信波の位相ずれδ1を調査した。この結果、位相ずれδ1は長さLに対して双曲線状に変化するが、電波の波長λとの比L/λを0.36〜0.64となる範囲に限定すれば、(2)式に示すように、長さLに対して直線近似できることを確認した。
δ1=1.2×L/λ−0.17 (0.36≦L/λ≦0.64) (2)
【0023】
また、電波の光路差による位相ずれδ2は、アンテナ素子からRFIDタグのアンテナまでの距離に対して、アンテナ素子からリーダのアンテナまでの距離は十分に長いので、RFIDタグのアンテナの重心からアンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、アンテナ素子の重心Gまでの距離をdとすると、(3)式で近似的に表すことができる。
δ2=d/λ (3)
【0024】
さらに、電波の回転に伴う位相ずれδ3は、電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したアンテナ素子の電波の回転方向への傾斜角度θ°、および同じく投影したRFIDタグのアンテナの電波の回転方向への傾斜角度φ°、ならびに、先に定義した回転パラメータrと形状パラメータsを用いて、(4)式で表すことができる。
δ3=r×s×(θ−φ)/360 (4)
なお、電波が回転しない直線偏波である場合はr=0、アンテナ素子の長さLと幅Wが等しい場合はs=0となり、いずれの場合もδ3=0となる。
【0025】
このような考え方に基づいて、前記1次電波と2次電波が強め合って、通信距離が延長されるように、位相ずれδ(=δ1+δ2+δ3)が電波の周期の整数倍±0.2倍の範囲、すなわち、0.8〜1.2の範囲に入るように、(5)式を設定した。
0.8≦δ1+δ2+δ3≦1.2 (5)
この(5)式に(2)〜(4)式を代入し、δ1とδ3を不等式の両外側へ移項して、電波の光路差による位相ずれδ2(=d/λ)の範囲を、つぎに再掲する(1)式のように設定し、電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長できるようにした。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
より好ましくは、位相ずれδが電波の周期の整数倍±0.1倍の範囲、すなわち、0.9〜1.1の範囲に入るように設定すると、(1)式は下記の(1‘ )式となる。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.07≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.27 (1‘ )
【0026】
なお、電波の波長λとの比L/λは0.36〜0.64の範囲であればよく、好ましくは0.40〜0.60、さらに好ましくは0.44〜0.56の範囲とするとよい。また、アンテナ素子の個数は特に限定せず、1個あれば通信距離が向上するが、好ましくは2個以上、さらに好ましくは4個以上とするとよい。
【0027】
前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記点a1、a2を結ぶ線分a1a2とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記線分a1a2とのなす角の余角ξを0〜60°の範囲、好ましくは0〜45°、さらに好ましくは0〜30°の範囲とすることにより、ブースタアンテナを経由してRFIDタグのアンテナに到達する2次電波の強度を高めて、通信距離をより延長することができる。
【0028】
前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有するものとし、前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記RFIDタグのアンテナの長手方向に沿ったアンテナ長手直線とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記アンテナ長手直線とのなす角の余角ηを0〜60°の範囲、好ましくは0〜45°、さらに好ましくは0〜30°の範囲とすることにより、RFIDタグのアンテナで受信される2次電波の強度を高めて、通信距離をより延長することができる。
【0029】
前記RFIDタグのアンテナの重心から、前記アンテナ素子を配置した面までの距離zと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比z/λが、0〜0.3の範囲に入るようにすることにより、上述した(3)式における位相ずれδ2の近似精度を高めて、より確実に通信距離を延長することができる。
【0030】
前記RFIDタグが電波を透過するケースに収納された物品または前記ケースに装着される場合は、前記アンテナ素子を前記ケースに装着されて配置されるものとすることができる。
【0031】
前記電波を透過するケースは段ボール箱とすることができる。
【0032】
前記アンテナ素子を、前記段ボール箱を形成する段ボールシートのフラップ部、継ぎ代部または継ぎ代の延長部の、段ボールシートとの重ね面側に装着することにより、アンテナ素子が製函後の段ボール箱の段ボールシートで挟まれる位置に配置されるようにし、物品等との接触や摩擦による剥がれを防止することができる。
【0033】
前記アンテナ素子は、前記ケースの封緘用テープ等の副資材に装着することもできる。
【0034】
前記アンテナ素子は、導電インクまたは導電ペーストを塗工して形成したものとすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のRFIDタグ用ブースタアンテナは、質問器であるリーダのアンテナからの電波を受けて応答する電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、リーダのアンテナに対してRFIDタグのアンテナと同じ側に配置される少なくとも1個の直線、開曲線、閉曲線またはこれらの直線もしくは曲線が交叉したものとした線状のアンテナ素子からなり、この線状のアンテナ素子の長さL、幅Wおよび重心G、ならびに電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、およびアンテナ素子の形状を表す形状パラメータsを下記のように定義し、このように定義したアンテナ素子の長さLとリーダのアンテナからの電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにして、下記の長さLの定義におけるアンテナ素子の長さ方向の両端の点a1、a2が1組だけ存在する場合には、これらの点a1、a2を結ぶ直線をリーダのアンテナからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したときの、投影された直線の電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をアンテナ素子の傾斜角度θ°とし、RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有する場合には、このアンテナを電波対向面に投影したときの、投影されたアンテナの長手方向の向きの電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をRFIDタグのアンテナの傾斜角度φ°として、RFIDタグのアンテナの重心からアンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、下記のように定義したアンテナ素子の重心Gまでの距離dと、リーダのアンテナからの電波の波長λとの比d/λが、下記の(1)式を満足するようにしたので、電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長することができる。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
(定義)
・長さL:線状のアンテナ素子上に任意の2点i、jを選び、点iから点jに向かうベクトルVijに対して、アンテナ素子に沿う点iから点jへの経路の進行方向の向きとベクトルVijの向きのなす角度が経路内の全ての点で±90°以内であるときに、点iと点jは戻らずに繋がっているとし、このように戻らずに繋がっている任意の2点i、jの組み合わせのうち、2点i、j間の直線距離が最も長くなる2点を長さ方向の両端の点a1、a2として、これらの点a1、a2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さをアンテナ素子の長さLとする。
・幅W:長さLの定義における両端の点a1、a2を結ぶ直線と垂直方向(幅方向)に平行な任意の直線上にアンテナ素子の複数の点があるときに、これらの複数の点のうちの幅方向の距離が最も長くなる2点を幅方向の両端の点b1、b2として、これらの点b1、b2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、および長さLのうちの最小値をw1とし、両端の点a1、a2を結ぶ直線と平行で、アンテナ素子と交わる任意の2本の直線について、これらの2直線間の距離の最大値と長さLのうちの小さい方の値をw2としたときに、w1とw2のうちの大きい方の値をアンテナ素子の幅Wとする。
・重心G:長さLの定義における両端の点a1、a2間の全ての最短経路に存在する素線の重心をアンテナ素子の重心Gとする。
・回転パラメータr:リーダのアンテナからの電波における回転する円偏波の割合を回転パラメータrとする。電波が円偏波のときはr=1、直線偏波のときはr=0、楕円偏波のときは0<r<1となる。
・形状パラメータs:上記のように定義したアンテナ素子の長さLと幅Wとの比L/W(≧1)によって決まる形状に関するパラメータで、L≧2Wのときはs=1、L=Wのときはs=0、W<L<2Wのときはs=(L−W)/Wとする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の実施形態のRFIDタグ用ブースタアンテナを配置したRFIDタグシステムの概略図
【図2】図1のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図3】図1のアンテナの重心からアンテナ素子を配置したケースの前面までの距離zを示す模式図
【図4】第2の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図5】a〜cは、それぞれ図4のアンテナ素子の傾斜角度θを0°として、アンテナとの相対配置位置を変えたときの余角ξ、ηを示す模式図
【図6】a〜eは、それぞれ図4のアンテナ素子の傾斜角度θを45°として、アンテナとの相対配置位置を変えたときの余角ξ、ηを示す模式図
【図7】第3の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図8】第4の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図9】第5の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図10】第6の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図11】a、bは、それぞれ第7の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図12】第8の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図13】a〜dは、それぞれ図1の段ボール箱のケースへのブースタアンテナの装着位置の変形例を示す模式図
【図14】a〜hは、それぞれ線状のアンテナ素子の例を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図3は、第1の実施形態を示す。図1は、RFIDタグ1が装着された物品11を収納したケース12に、本発明に係るRFIDタグ用ブースタアンテナ2を配置した電波方式のRFIDタグシステムの概略図である。この概略図は、説明を分かりやすくするために、ケース12の中に1つの物品11のみを表示し、RFIDタグ1のアンテナ1aは、リーダ3のアンテナ3aからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面としての物品11の前面11aに装着され、ブースタアンテナ2は、同じく電波の放射方向と直角に対向する電波対向面としてのケース12の前面12aに配置されている。リーダ3のアンテナ3aからは、周波数が2.4GHzのマイクロ波の電波が、反時計回りに回転する円偏波または回転しない直線偏波としてRFIDタグ1に向けて送信される。
【0038】
前記ケース12は電波を透過する段ボール箱とされ、ブースタアンテナ2は、その前面12aの内面または外面に導電インクまたは導電ペーストの塗工で形成された線状のアンテナ素子2aで形成されている。アンテナ素子2aは、アルミニウム等の導電性の金属線で形成してもよく、後述するように、段ボール箱のフラップ部、継ぎ代部、継ぎ代の延長部等に装着して配置してもよい。
【0039】
この実施形態では、図2に拡大して示すように、前記アンテナ素子2aは、2個の同じ長さLと幅Wの直線状のアンテナ素子2aで形成され、その後方のRFIDタグ1の直線状のアンテナ1aに対して両側に近接して、互いに平行に配置されている。前述したようにアンテナ素子2aの両端の点a1、a2間の最短経路の長さとして定義される長さLは、リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波の波長λ(=125mm)に対する比L/λが0.36〜0.64の範囲に設定され、前述したように定義される幅Wは、素線の幅として0.5mmとされている。各アンテナ素子2aのケース12の前面12a内での電波の回転方向への傾斜角度θは、図中に実線で示す0°と、一点鎖線で示す±45°に設定され、アンテナ1aの物品11の前面11a内での電波の回転方向への傾斜角度φは0°に設定されている。
【0040】
図3は、前記アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aまでの距離zを説明する模式図である。この実施形態では、距離zは0mm、すなわち、アンテナ1aが装着された物品11の前面11aがケース12の前面12aに重ね合わされている。このように距離zを0mmとしたときは、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなる。
【実施例1】
【0041】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)とし、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第1通信試験を行った。2個のアンテナ素子2aの長さL(≧2W、形状パラメータs=1)は、マイクロ波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64となる範囲で4段階に変化させ、アンテナ素子2aの傾斜角度θは、−45°、0°、45°の3段階に変化させた。通信距離は、ブースタアンテナがない場合に対する向上率で評価した。
【0042】
【表1(a)】
【0043】
【表1(b)】
【0044】
【表1(c)】
【0045】
【表1(d)】
【0046】
表1(a)、(b)、(c)、(d)に、上記第1通信試験の結果を示す。表1(a)はL/λ=0.40、表1(b)はL/λ=0.48、表1(c)はL/λ=0.56、表1(d)はL/λ=0.64の場合であり、いずれの表にも、前記(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を○×で表示した。比d/λの下限値と上限値は、前記(1‘ )式で求められる値もカッコ内に併記した。
【0047】
この試験結果より、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は、通信距離が顕著に延長されている。比d/λが(1‘ )式も満足するものは、より顕著に通信距離が延長されている。また、比L/λが0.44〜0.56の範囲に入る表1(b)、(c)に示した実施例のものは、通信距離の向上率がより大きい。これに対して、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が延長されず、ほとんどのものが却って短くなっている。これにより、前記位相ずれδが電波の周期の±0.2倍の範囲に入るように規定した(1)式を満足させることにより、通信距離を延長できることが確認された。なお、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zについては、0〜0.3λの範囲で変化させたが、表1(a)〜(d)の結果と同様の傾向が認められた。
【実施例2】
【0048】
つぎに、前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を回転しない直線偏波(回転パラメータr=0)として、アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λを0.48一定とし、前記距離dを変化させた第2通信試験を行った。第2通信試験では、前記RFIDタグ1のアンテナ1aの代わりに、スペクトラムアナライザのアンテナを配置して、このアンテナが受信する電波の強さを測定し、ブースタアンテナがない場合に対する電波の強さの向上率を調査した。その他の試験条件は第1通信試験と同じである。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に、上記第2通信試験の結果を示す。表2にも、(1)式で求められる比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、電波を回転しない直線偏波とした場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は、電波の強さが顕著に強くなり、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、電波の強さが却って弱くなることが確認された。この場合も、距離zを0〜0.3λの範囲で変化させたが、表2の結果と同様の傾向が認められた。
【0051】
図4乃至図6は、第2の実施形態を示す。この実施形態では、図4に示すように、前記前面12aに、1個の直線状のアンテナ素子2aが配置されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、重心G1からアンテナ素子2aを配置した前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。また、アンテナ素子2aの前面12a内での傾斜角度θは、図中に実線で示す0°と、一点鎖線で示す±45°に設定され、アンテナ1aの前面11a内での傾斜角度φは0°に設定されている。
【0052】
図5および図6は、前記前面11a内でのアンテナ1aと前面12a内でのアンテナ素子2aの相対配置位置を変えたときの、アンテナ1aの重心G1とアンテナ素子2aの重心G2とを結ぶアンテナ重心線gと、アンテナ素子2aの両端の点a1、a2を結ぶ線分a1a2とを含む平面内における、アンテナ重心線gと線分a1a2とのなす角αの余角ξ、および、アンテナ重心線gとアンテナ1aの長手方向に沿ったアンテナ長手直線とを含む平面内における、アンテナ重心線gとアンテナ長手直線とのなす角βの余角ηを説明する模式図である。なお、距離zが0mmでない場合は、各余角ξ、ηはz方向の成分を含むものとなるが、図5および図6は、説明を分かりやすくするために、距離zが0mmの場合について示す。
【0053】
図5(a)〜(c)は、アンテナ素子2aの傾斜角度θとアンテナ1aの傾斜角度φを0°とした場合について、アンテナ1aとアンテナ素子2aの相対配置位置を変化させた例を示す。図5(a)は、重心G1、G2を結ぶアンテナ重心線gと、アンテナ1aおよびアンテナ素子2aが角α(=β)で交叉する一般的な例であり、各余角ξ、ηは、いずれも(90−α)°となる。図5(b)は、アンテナ素子2aをアンテナ1aの真横に平行に配置した例であり、角α、βが90°となって各余角ξ、ηは0°となる。図5(c)は、アンテナ素子2aがアンテナ1aと同一直線状に載るように配置した例であり、角α、βが0°となって各余角ξ、ηは90°となる。
【0054】
図6(a)〜(e)は、アンテナ素子2aの傾斜角度θを±45°、アンテナ1aの傾斜角度φを0°とした場合について、アンテナ1aとアンテナ素子2aの相対配置位置を変化させた例を示す。図6(a)は、重心G1、G2を結ぶアンテナ重心線gが、アンテナ素子2aと角α、アンテナ1aと角βで交叉する一般的な例であり、角αの余角ξは(90−α)°、角βの余角ηは(90−β)°となる。図6(b)は、アンテナ1aの重心G1での法線上にアンテナ素子2aの重心G2を配置した例であり、角αの余角ξは45°、角βの余角ηは0°となる。図6(c)は、アンテナ素子2aの重心G2での法線上にアンテナ1aの重心G1を配置した例であり、角αの余角ξは0°、角βの余角ηは45°となる。図6(d)は、アンテナ1aの延長線上にアンテナ素子2aの重心G2を配置した例であり、角αの余角ξは45°、角βの余角ηは90°となる。図6(e)は、アンテナ素子2aの延長線上にアンテナ1aの重心G1を配置した例であり、角αの余角ξは90°、角βの余角ηは45°となる。なお、これらの各図は、傾斜角度θが45°の場合を示すが、傾斜角度θが−45°の場合も、相対配置位置の分類パターンは図6(a)〜(e)のいずれかに該当するので、図示を省略する。
【実施例3】
【0055】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λを0.48一定とし、前記比d/λが(1)式を満足する範囲で、図5および図6に示したように、アンテナ1aとアンテナ素子2aの相対配置位置を変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第3通信試験を行った。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に、上記第3通信試験の結果を示す。表3には、図5および図6における相対配置位置と、各余角ξ、ηが0〜60°の範囲にあるか否かの判定を併記した。傾斜角度θが−45°の場合は、図6(a)〜(e)に示した傾斜角度θが45°の場合の該当する分類パターンで表記した。この試験結果より、各余角ξ、ηが0〜60°の範囲にある判定が○のものは、通信距離を顕著に延長できることが分かる。また、各余角ξ、ηが0〜30°の範囲にあるものは、より顕著に通信距離が延長されている。これに対して、いずれかの余角ξ、ηがこの範囲を外れる判定が×のものは、通信距離が延長されていない。この理由は、余角ξ、ηが60°を越えると、アンテナ素子2aからの2次電波の発信方向からアンテナ1aの位置がずれ、アンテナ1aに到達する2次電波の強度が弱くなるためと考えられる。
【0058】
図7は、第3の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、2個のL字状の開曲線のアンテナ素子2aが、アンテナ1aの重心G1に点対称にL字のコーナを外向きにして、長さ方向、すなわちアンテナ素子2a両端の点a1、a2を結ぶ直線の向きが、アンテナ1aと9°の角度をなすように配置されており、アンテナ素子2a両端の点a1、a2を結ぶ直線の傾斜角度θは9°、アンテナ1aの傾斜角度φは0°に設定されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置した前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例4】
【0059】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させ、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第4通信試験を行った。アンテナ素子2aのL字状の経路に沿った長さL(≧2W、形状パラメータs=1)とマイクロ波の波長λとの比L/λを0.48一定とした。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【表4】
【0060】
表4に、上記第4通信試験の結果を示す。表4には、前記(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aがL字状の開曲線の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は、通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が却って短くなっている。この場合も、距離zを0〜0.3λの範囲で変化させたが、表4の結果と同様の傾向が認められた。
【0061】
図8は、第4の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、2個の円の閉曲線のアンテナ素子2aがアンテナ1aの両側に近接して配置されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例5】
【0062】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第5通信試験を行った。アンテナ素子2aの長さL(=W、形状パラメータs=0)とマイクロ波の波長λとの比L/λは、0.36と0.50の2段階に変化させた。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0063】
【表5】
【0064】
表5に、上記第5通信試験の結果を示す。表5にも、前記(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aが円の閉曲線の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が却って短くなっている。この場合も、距離zを0〜0.3λの範囲で変化させたが、表5の結果と同様の傾向が認められた。
【0065】
図9は、第5の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、2個の雪の結晶状のアンテナ素子2aがアンテナ1aの両側に近接して配置されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例6】
【0066】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第6通信試験を行った。アンテナ素子2aの長さL(=W、形状パラメータs=0)とマイクロ波の波長λとの比L/λは0.48一定とした。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0067】
【表6】
【0068】
表6に、上記第6通信試験の結果を示す。表6にも、(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aが雪の結晶状の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が却って短くなっている。
【0069】
図10は、第6の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、1個の波状の開曲線のアンテナ素子2aがアンテナ1aと並列に配置されており、アンテナ素子2aの傾斜角度θは、図中に実線で示す0°と、一点鎖線で示す−45°に設定され、アンテナ1aの傾斜角度φは0°に設定されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例7】
【0070】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第7通信試験を行った。アンテナ素子2aの波状の経路に沿った長さL(≧2W、形状パラメータs=1)とマイクロ波の波長λとの比L/λは0.48一定とした。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に、上記第7通信試験の結果を示す。表7にも、(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aが波状の開曲線の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が延長されていない。
【0073】
図11(a)、(b)は、第7の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、6個または10個の円の閉曲線のアンテナ素子2aが、アンテナ1aの重心G1の周りの同心円上に配置されている。
【実施例8】
【0074】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λを0.50一定とし、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離z=0mmのときの距離dと波長λとの比d/λが前記(1)式を満足するように0.68一定として、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第8通信試験を行った。なお、距離zを0〜5mmまたは0〜37.5mm(=0.3λ)の範囲で変化させたり、アンテナ1aの傾斜角度φも0〜90°の範囲で変化させた通信試験も行い、これらの距離zや傾斜角度φを変化させたときは、通信距離の平均値で通信距離向上率の評価をした。
【0075】
【表8】
【0076】
表8に、上記第8通信試験の結果を示す。表8には、図11に示した配置パターンと、距離zおよび傾斜角度φの変化範囲も併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aの個数を6個としたものは、第5通信試験で2個のアンテナ素子2aを配置し、表5に示した比d/λが0.68に近いものと比較すると通信距離が向上し、アンテナ素子2aの個数を10個としたものは、通信距離がさらに向上している。
【0077】
図12は、第8の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、傾斜角度φが0°とされたアンテナ1aの両側に、それぞれ傾斜角度θが45°と−45°とされた2個ずつの同じ長さLと幅Wの直線状のアンテナ素子2a(L≧2W、形状パラメータs=1)が配置されている。
【実施例9】
【0078】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zを0〜37.5mm(=0.3λ)の範囲で変化させ、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第9通信試験を行った。参考例として、傾斜角度θが45°の2個のみのアンテナ素子2aを配置したもの、傾斜角度θが−45°の2個のみのアンテナ素子2aを配置したものについても通信試験を行った。なお、各アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λは0.48一定とした。また、距離z=0mmのときに、傾斜角度θが45°のアンテナ素子2aは、距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λを0.54として、前記(1)式の範囲(0.30〜0.67)を満足するようにし、前記余角ξは18°、余角ηは27°とした。傾斜角度θが−45°のアンテナ素子2aは、比d/λを0.84として、(1)式の範囲(0.52〜0.92)を満足するようにし、余角ξは28°、余角ηは17°とした。
【表9】
【0079】
表9に、上記第9通信試験の結果を示す。表9には、前記距離zを0〜37.5mmの範囲で変化させたときの通信距離向上率の平均値のほかに、距離zを0mmとしたときの通信距離向上率も表示した。傾斜角度θが45°と−45°の2個ずつ、合計4個のアンテナ素子2aを配置した実施例は、通信距離が大幅に延長されており、傾斜角度θが45°または−45°の2個のみのアンテナ素子2aを配置した参考例の各通信距離向上率を加算した通信距離向上率と近くなっている。
【0080】
図13(a)〜(d)は、それぞれ前記段ボール箱のケース12へのブースタアンテナ2の装着位置の変形例を示す。図13(a)は、ブースタアンテナ2を段ボール箱を形成する段ボールシート13のフラップ部13aに装着した例、図13(b)は、段ボールシート13の継ぎ代部13bに装着した例、図13(c)は、段ボールシート13の継ぎ代の延長部13cに装着した例であり、いずれも段ボール箱が形成されたときの重ね面側に装着されている。図13(b)、(c)の段ボールシート13に点線で示したように、継ぎ代部13や継ぎ代の延長部13cが重ね合わされる部分にブースタアンテナ2を装着することもできる。また、図13(d)は、段ボール箱のケース12の副資材としての封緘テープ12bの裏面または表面側に装着した例である。
【0081】
上述した各実施形態では、リーダのアンテナからの電波をマイクロ波としたが、この電波は周波数が数百MHz以上の極超短波とすることもできる。また、電波を反時計回りに回転する円偏波または回転しない直線偏波としたが、時計回りに回転する円偏波や、円偏波と直線偏波を合成した楕円偏波とすることもできる。
【符号の説明】
【0082】
1 RFIDタグ
1a アンテナ
2 ブースタアンテナ
2a アンテナ素子
3 リーダ
3a アンテナ
11 物品
11a 前面
12 ケース
12a 前面
12b 封緘テープ
13 段ボールシート
13a フラップ部
13b 継ぎ代部
13c 継ぎ代の延長部
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency Identification)タグシステムにおける質問器のリーダと応答器のRFIDタグ間の通信距離を延長させるためのRFIDタグ用ブースタアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製品や部品等の物品の情報を自動認識する手段として、物品や物品を収納したケースにRFIDタグを装着し、RFIDタグに記録された物品情報を、リーダから電波で電力を供給して読み取るRFIDタグシステムが実用化されている。このRFIDタグシステムは、物品情報をバーコードから光学的に読み取るバーコードシステムに較べて、多くの情報を記録でき、情報を書き換えることもできるので、製造業、流通サービス業等の広い分野に普及しつつある。
【0003】
リーダのアンテナから電波で電力を供給するRFIDタグシステムの通信方式には、周波数が135kHz以下の長波や4.915MHz、13.56MHz等の短波を使用する電磁誘導方式と、周波数が数百MHz以上の極超短波や2.45GHz等のマイクロ波を使用する電波方式とがある。電波方式でリーダのアンテナから放射される電波には、回転する円偏波、回転しない直線偏波、およびこれらを合成した楕円偏波としたものがある。
【0004】
波長の長い電波を使用する電磁誘導方式は、アンテナの指向性が広く、水を透過する特徴を有するが、通常、その通信距離は数十cm以下である。これに対して、波長の短い電波を使用する電波方式は、水の透過性が悪いが、アンテナの指向性が高く、通常、その通信距離は0.2〜5m程度である。これらの通信方式は、使用環境や物品が水等の液体を含むものであるか否か等によって使い分けられている。
【0005】
前記電磁誘導方式のRFIDタグシステムには、RFIDタグの前方に、リーダからの電波のキャリア周波数と同調させたブースタアンテナをリーダと対面させて配置し、通信距離を延長するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたものでは、RFIDタグを取り付けた商品を収納するキャビネットの前扉の周囲にブースタアンテナを取り付けている。
【0006】
また、前記電波方式のRFIDタグシステムに用いられるRFIDタグには、半導体回路に接続したアンテナ素子の他に、導波用や反射用のアンテナ素子を配列し、これらのアンテナ素子の長さをリーダからの電波の半波長λ/2の整数倍として、通信距離を延長するようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−323019号公報
【特許文献2】特開2002−151947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載された電波方式のRFIDタグは、半導体回路に接続したアンテナ素子の他に導波用や反射用のアンテナ素子を配列する必要があるので、個々の物品またはその包装物に装着されるRFIDタグが高価で寸法の大きなものとなる問題がある。また、RFIDタグに配列できる導波用や反射用のアンテナ素子の本数は制約されるので、通信距離もそれほど延長することはできない。
【0009】
そこで、本発明の課題は、電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のRFIDタグ用ブースタアンテナは、質問器であるリーダのアンテナからの回転する円偏波、回転しない直線偏波またはこれらを合成した楕円偏波の電波を受けて応答する電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、前記リーダのアンテナに対してRFIDタグのアンテナと同じ側に配置される少なくとも1個の直線、開曲線、閉曲線またはこれらの直線もしくは曲線が交叉したものとした線状のアンテナ素子からなり、この線状のアンテナ素子の長さL、幅Wおよび重心G、ならびに前記電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、および前記アンテナ素子の形状を表す形状パラメータsを下記のように定義し、このように定義したアンテナ素子の長さLと前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにして、下記の長さLの定義におけるアンテナ素子の長さ方向の両端の点a1、a2が1組だけ存在する場合には、これらの点a1、a2を結ぶ直線を前記リーダのアンテナからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したときの、投影された直線の電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をアンテナ素子の傾斜角度θ°とし、前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有する場合には、このアンテナを前記電波対向面に投影したときの、投影されたアンテナの長手方向の向きの電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度を前記RFIDタグのアンテナの傾斜角度φ°として、前記RFIDタグのアンテナの重心から前記アンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、下記のように定義したアンテナ素子の重心Gまでの距離dと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比d/λが、下記の(1)式を満足するようにした。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
(定義)
・長さL:線状のアンテナ素子上に任意の2点i、jを選び、点iから点jに向かうベクトルVijに対して、アンテナ素子に沿う点iから点jへの経路の進行方向の向きとベクトルVijの向きのなす角度が経路内の全ての点で±90°以内であるときに、点iと点jは戻らずに繋がっているとし、このように戻らずに繋がっている任意の2点i、jの組み合わせのうち、2点i、j間の直線距離が最も長くなる2点を長さ方向の両端の点a1、a2として、これらの点a1、a2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さをアンテナ素子の長さLとする。
・幅W:長さLの定義における両端の点a1、a2を結ぶ直線と垂直方向(幅方向)に平行な任意の直線上にアンテナ素子の複数の点があるときに、これらの複数の点のうちの幅方向の距離が最も長くなる2点を幅方向の両端の点b1、b2として、これらの点b1、b2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、および長さLのうちの最小値をw1とし、両端の点a1、a2を結ぶ直線と平行で、アンテナ素子と交わる任意の2本の直線について、これらの2直線間の距離の最大値と長さLのうちの小さい方の値をw2としたときに、w1とw2のうちの大きい方の値をアンテナ素子の幅Wとする。
・重心G:長さLの定義における両端の点a1、a2間の全ての最短経路に存在する素線の重心をアンテナ素子の重心Gとする。
・回転パラメータr:リーダのアンテナからの電波における回転する円偏波の割合を回転パラメータrとする。電波が円偏波のときはr=1、直線偏波のときはr=0、楕円偏波のときは0<r<1となる。
・形状パラメータs:上記のように定義したアンテナ素子の長さLと幅Wとの比L/W(≧1)によって決まる形状に関するパラメータで、L≧2Wのときはs=1、L=Wのときはs=0、W<L<2Wのときはs=(L−W)/Wとする。
なお、RFIDタグのアンテナの重心と長手方向については、RFIDタグのICチップとアンテナ素線を含めたものに対して、ブースタアンテナのアンテナ素子と同様に定義することができる。
【0011】
図14(a)〜(h)は、各種の例の線状のアンテナ素子について、前記長さLと幅Wの定義と重心Gの位置を具体的に説明する。図14(a)は、最も単純な直線のアンテナ素子であり、両端の点が長さ方向の両端の点a1、a2となって、直線の長さがそのままアンテナ素子の長さLとなり、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、直線素子の幅がアンテナ素子の幅Wとなる。また、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、点a1、a2間の中点となる。
【0012】
図14(b)は、円弧の開曲線のアンテナ素子であり、両端の点が長さ方向の両端の点a1、a2となって、円弧曲線に沿った長さがアンテナ素子の長さLとなる。また、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、円弧のアンテナ素子のw1は十分小さいので、点a1、a2を結ぶ直線m0と、これと平行で円弧曲線の接線となる直線m1との2直線間の距離w2がアンテナ素子の幅Wとなる。この場合も、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、点a1、a2間の中点から円弧曲線側へ偏った位置となる。
【0013】
図14(c)は、振幅が一定な波状の開曲線のアンテナ素子であり、両端の点が長さ方向の両端の点a1、a2となって、波状曲線に沿った長さがアンテナ素子の長さLとなる。また、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、波状のアンテナ素子のw1は十分小さいので、点a1、a2を結ぶ直線m0と平行で、波状曲線の両側の波の頂点を通る2本の直線m1、m2間の距離w2がアンテナ素子の幅Wとなる。この場合も、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致する。
【0014】
図14(d)は、L字状の開曲線のアンテナ素子であり、L字の両端の2点が点a1、a2となって、点a1からL字に沿って点a2に至る経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。この例でも、幅方向の両端の点b1、b2間の距離、すなわち、L字状のアンテナ素子のw1は十分小さいので、点a1、a2を結ぶ直線m0と、これと平行なL字のコーナ点を通る接線m1との2直線間の距離w2がアンテナ素子の幅Wとなる。この場合も、重心Gの位置は、1つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、点a1、a2間の中点近傍からL字のコーナ点側へ偏った位置となる。
【0015】
図14(e)は、U字状の開曲線のアンテナ素子であり、U字の両端の2点が点a1、U字の底の点が点a2となって、いずれかの点a1からU字の片側に沿って点a2に至る経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、点a1、a2を結ぶ直線m0と垂直方向に平行な任意の直線のうち、U字の平行部を通る直線n1上にある2点が点b1、b2となり、これらの点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、すなわち、線分b1b2を直径とする半円弧の長さが、点b1、b2間の最短経路の長さと長さLよりも小さくなってw1となる。また、直線m0と平行で、U字状開曲線の曲線部と接する直線m1と、点b1と反対側の平行部の端の点a1を通る直線m2との距離が、長さLより小さいので、w2となる。この場合は、w2よりも大きくなるw1がアンテナ素子の幅Wとなる。重心Gの位置は、2つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、U字の中心線上で底側へ偏った位置となる。
【0016】
図14(f)は、円の閉曲線のアンテナ素子であり、180°の位相で対向する任意の2点がアンテナ素子の両端の点a1、a2となって、半円弧の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、円の中心を通る任意の直線n1上にある円周上の2点が点b1、b2となって、点b1、b2間の最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さおよび長さLが全て等しくなってw1となる。また、円の平行な接線となる2本の直線m1、m2間の距離が、長さLより小さいので、w2となり、w2よりも大きいw1がアンテナ素子の幅Wとなって長さLと等しくなる。重心Gの位置は、多数の最短経路を形成する全素線の重心と合致し、円の中心となる。
【0017】
図14(g)は、長円の閉曲線のアンテナ素子であり、長円の長軸上の2点がアンテナ素子の両端の点a1、a2となって、点a1から点a2に至る2つの等しい経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、点a1、a2を結ぶ直線m0と垂直方向に平行な任意の直線のうち、長円の平行部を通る直線n1上にある2点が点b1、b2となって、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さが、点b1、b2間の最短経路の長さと比べて等しいかまたは小さく、長さLよりも小さくなってw1となる。また、直線m0と平行で点b1、b2を通る2本の直線m1、m2間の距離が、長さLより小さいので、w2となり、w2よりも大きいw1がアンテナ素子の幅Wとなる。重心Gの位置は、2つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、長円の中心となる。
【0018】
図14(h)は、3本の同じ長さの直線を60°の交叉角で交叉させた雪の結晶状のアンテナ素子であり、各直線の両端がアンテナ素子の両端の点a1、a2となり、各直線の点a1から点a2に至る3つの等しい経路の長さがアンテナ素子の長さLとなる。幅Wについては、1組の点a1、a2を結ぶ直線m0と垂直方向に平行な任意の直線のうち、直線n1、n2上にある他の組の点a1同士および点a2同士が、それぞれ点b1、b2となって、これらの点b1、b2間の最短経路の長さと長さLが互いに等しく、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さよりも小さくなってw1となる。また、直線m0と平行で異なる他の組の点a1、a2を通る2本の直線m1、m2間の距離が、長さLより小さいので、w2となり、w2よりも大きいw1がアンテナ素子の幅Wとなって長さLと等しくなる。重心Gの位置は、3つの最短経路を形成する全素線の重心と合致し、雪の結晶状の中心となる。
【0019】
なお、上述した各例のアンテナ素子は、いずれも重心Gの位置が全素線の重心と合致するものであるが、例えば、ト字形状のように、長さLと無関係の分岐経路等を有するものでは、重心Gの位置が全素線の重心と合致しないこともある。
【0020】
前記リーダのアンテナに対して、ブースタアンテナをRFIDタグのアンテナと離間させて同じ側に配置する場合は、リーダのアンテナから直接RFIDタグのアンテナに到達する1次電波と、ブースタアンテナを経由してRFIDタグのアンテナに到達する2次電波との間には位相ずれδが生じ、この位相ずれδが電波の周期の整数倍±0.2倍、より好ましくは、整数倍±0.1倍程度の範囲であれば、1次電波と2次電波の山同士の重なり代が多くなって電波が強められ、通信距離が長くなると考えられる。位相ずれδがこの範囲を越えると、1次電波と2次電波の山と谷の重なり代が多くなって次第に電波が弱められると考えられ、位相ずれδが電波の周期の±0.5倍になると、1次電波と2次電波の山と谷が完全に重なり合う。
【0021】
前記1次電波と2次電波の間に生じる位相ずれδの要因としては、アンテナ素子の長さLによるブースタアンテナの受信波と発信波の位相ずれδ1、電波の光路差による位相ずれδ2、および、リーダのアンテナから送信される電波が円偏波や楕円偏波のように回転する成分を含む場合における、電波の放射方向と直角に対向する電波対向面におけるアンテナ素子の傾斜角度θと、RFIDタグのアンテナの傾斜角度φとの差による位相ずれδ3とが考えられる。なお、図14(f)、(h)に示したように、長さLと幅Wが等しくなるアンテナ素子では、電波の回転に伴う位相ずれδ3はほとんど問題とならない。
【0022】
本発明者は、種々の長さLのアンテナ素子を、電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、リーダのアンテナに対して同じ側に配置し、アンテナ素子の傾斜角度θとRFIDタグのアンテナの傾斜角度φとが等しい場合の通信実験を行い、アンテナ素子の長さLによるブースタアンテナの受信波と発信波の位相ずれδ1を調査した。この結果、位相ずれδ1は長さLに対して双曲線状に変化するが、電波の波長λとの比L/λを0.36〜0.64となる範囲に限定すれば、(2)式に示すように、長さLに対して直線近似できることを確認した。
δ1=1.2×L/λ−0.17 (0.36≦L/λ≦0.64) (2)
【0023】
また、電波の光路差による位相ずれδ2は、アンテナ素子からRFIDタグのアンテナまでの距離に対して、アンテナ素子からリーダのアンテナまでの距離は十分に長いので、RFIDタグのアンテナの重心からアンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、アンテナ素子の重心Gまでの距離をdとすると、(3)式で近似的に表すことができる。
δ2=d/λ (3)
【0024】
さらに、電波の回転に伴う位相ずれδ3は、電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したアンテナ素子の電波の回転方向への傾斜角度θ°、および同じく投影したRFIDタグのアンテナの電波の回転方向への傾斜角度φ°、ならびに、先に定義した回転パラメータrと形状パラメータsを用いて、(4)式で表すことができる。
δ3=r×s×(θ−φ)/360 (4)
なお、電波が回転しない直線偏波である場合はr=0、アンテナ素子の長さLと幅Wが等しい場合はs=0となり、いずれの場合もδ3=0となる。
【0025】
このような考え方に基づいて、前記1次電波と2次電波が強め合って、通信距離が延長されるように、位相ずれδ(=δ1+δ2+δ3)が電波の周期の整数倍±0.2倍の範囲、すなわち、0.8〜1.2の範囲に入るように、(5)式を設定した。
0.8≦δ1+δ2+δ3≦1.2 (5)
この(5)式に(2)〜(4)式を代入し、δ1とδ3を不等式の両外側へ移項して、電波の光路差による位相ずれδ2(=d/λ)の範囲を、つぎに再掲する(1)式のように設定し、電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長できるようにした。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
より好ましくは、位相ずれδが電波の周期の整数倍±0.1倍の範囲、すなわち、0.9〜1.1の範囲に入るように設定すると、(1)式は下記の(1‘ )式となる。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.07≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.27 (1‘ )
【0026】
なお、電波の波長λとの比L/λは0.36〜0.64の範囲であればよく、好ましくは0.40〜0.60、さらに好ましくは0.44〜0.56の範囲とするとよい。また、アンテナ素子の個数は特に限定せず、1個あれば通信距離が向上するが、好ましくは2個以上、さらに好ましくは4個以上とするとよい。
【0027】
前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記点a1、a2を結ぶ線分a1a2とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記線分a1a2とのなす角の余角ξを0〜60°の範囲、好ましくは0〜45°、さらに好ましくは0〜30°の範囲とすることにより、ブースタアンテナを経由してRFIDタグのアンテナに到達する2次電波の強度を高めて、通信距離をより延長することができる。
【0028】
前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有するものとし、前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記RFIDタグのアンテナの長手方向に沿ったアンテナ長手直線とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記アンテナ長手直線とのなす角の余角ηを0〜60°の範囲、好ましくは0〜45°、さらに好ましくは0〜30°の範囲とすることにより、RFIDタグのアンテナで受信される2次電波の強度を高めて、通信距離をより延長することができる。
【0029】
前記RFIDタグのアンテナの重心から、前記アンテナ素子を配置した面までの距離zと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比z/λが、0〜0.3の範囲に入るようにすることにより、上述した(3)式における位相ずれδ2の近似精度を高めて、より確実に通信距離を延長することができる。
【0030】
前記RFIDタグが電波を透過するケースに収納された物品または前記ケースに装着される場合は、前記アンテナ素子を前記ケースに装着されて配置されるものとすることができる。
【0031】
前記電波を透過するケースは段ボール箱とすることができる。
【0032】
前記アンテナ素子を、前記段ボール箱を形成する段ボールシートのフラップ部、継ぎ代部または継ぎ代の延長部の、段ボールシートとの重ね面側に装着することにより、アンテナ素子が製函後の段ボール箱の段ボールシートで挟まれる位置に配置されるようにし、物品等との接触や摩擦による剥がれを防止することができる。
【0033】
前記アンテナ素子は、前記ケースの封緘用テープ等の副資材に装着することもできる。
【0034】
前記アンテナ素子は、導電インクまたは導電ペーストを塗工して形成したものとすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のRFIDタグ用ブースタアンテナは、質問器であるリーダのアンテナからの電波を受けて応答する電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、リーダのアンテナに対してRFIDタグのアンテナと同じ側に配置される少なくとも1個の直線、開曲線、閉曲線またはこれらの直線もしくは曲線が交叉したものとした線状のアンテナ素子からなり、この線状のアンテナ素子の長さL、幅Wおよび重心G、ならびに電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、およびアンテナ素子の形状を表す形状パラメータsを下記のように定義し、このように定義したアンテナ素子の長さLとリーダのアンテナからの電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにして、下記の長さLの定義におけるアンテナ素子の長さ方向の両端の点a1、a2が1組だけ存在する場合には、これらの点a1、a2を結ぶ直線をリーダのアンテナからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したときの、投影された直線の電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をアンテナ素子の傾斜角度θ°とし、RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有する場合には、このアンテナを電波対向面に投影したときの、投影されたアンテナの長手方向の向きの電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をRFIDタグのアンテナの傾斜角度φ°として、RFIDタグのアンテナの重心からアンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、下記のように定義したアンテナ素子の重心Gまでの距離dと、リーダのアンテナからの電波の波長λとの比d/λが、下記の(1)式を満足するようにしたので、電波方式のRFIDタグシステムにおける通信距離を大幅に延長することができる。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
(定義)
・長さL:線状のアンテナ素子上に任意の2点i、jを選び、点iから点jに向かうベクトルVijに対して、アンテナ素子に沿う点iから点jへの経路の進行方向の向きとベクトルVijの向きのなす角度が経路内の全ての点で±90°以内であるときに、点iと点jは戻らずに繋がっているとし、このように戻らずに繋がっている任意の2点i、jの組み合わせのうち、2点i、j間の直線距離が最も長くなる2点を長さ方向の両端の点a1、a2として、これらの点a1、a2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さをアンテナ素子の長さLとする。
・幅W:長さLの定義における両端の点a1、a2を結ぶ直線と垂直方向(幅方向)に平行な任意の直線上にアンテナ素子の複数の点があるときに、これらの複数の点のうちの幅方向の距離が最も長くなる2点を幅方向の両端の点b1、b2として、これらの点b1、b2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、および長さLのうちの最小値をw1とし、両端の点a1、a2を結ぶ直線と平行で、アンテナ素子と交わる任意の2本の直線について、これらの2直線間の距離の最大値と長さLのうちの小さい方の値をw2としたときに、w1とw2のうちの大きい方の値をアンテナ素子の幅Wとする。
・重心G:長さLの定義における両端の点a1、a2間の全ての最短経路に存在する素線の重心をアンテナ素子の重心Gとする。
・回転パラメータr:リーダのアンテナからの電波における回転する円偏波の割合を回転パラメータrとする。電波が円偏波のときはr=1、直線偏波のときはr=0、楕円偏波のときは0<r<1となる。
・形状パラメータs:上記のように定義したアンテナ素子の長さLと幅Wとの比L/W(≧1)によって決まる形状に関するパラメータで、L≧2Wのときはs=1、L=Wのときはs=0、W<L<2Wのときはs=(L−W)/Wとする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の実施形態のRFIDタグ用ブースタアンテナを配置したRFIDタグシステムの概略図
【図2】図1のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図3】図1のアンテナの重心からアンテナ素子を配置したケースの前面までの距離zを示す模式図
【図4】第2の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図5】a〜cは、それぞれ図4のアンテナ素子の傾斜角度θを0°として、アンテナとの相対配置位置を変えたときの余角ξ、ηを示す模式図
【図6】a〜eは、それぞれ図4のアンテナ素子の傾斜角度θを45°として、アンテナとの相対配置位置を変えたときの余角ξ、ηを示す模式図
【図7】第3の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図8】第4の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図9】第5の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図10】第6の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図11】a、bは、それぞれ第7の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図12】第8の実施形態のブースタアンテナを拡大して示す平面図
【図13】a〜dは、それぞれ図1の段ボール箱のケースへのブースタアンテナの装着位置の変形例を示す模式図
【図14】a〜hは、それぞれ線状のアンテナ素子の例を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図3は、第1の実施形態を示す。図1は、RFIDタグ1が装着された物品11を収納したケース12に、本発明に係るRFIDタグ用ブースタアンテナ2を配置した電波方式のRFIDタグシステムの概略図である。この概略図は、説明を分かりやすくするために、ケース12の中に1つの物品11のみを表示し、RFIDタグ1のアンテナ1aは、リーダ3のアンテナ3aからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面としての物品11の前面11aに装着され、ブースタアンテナ2は、同じく電波の放射方向と直角に対向する電波対向面としてのケース12の前面12aに配置されている。リーダ3のアンテナ3aからは、周波数が2.4GHzのマイクロ波の電波が、反時計回りに回転する円偏波または回転しない直線偏波としてRFIDタグ1に向けて送信される。
【0038】
前記ケース12は電波を透過する段ボール箱とされ、ブースタアンテナ2は、その前面12aの内面または外面に導電インクまたは導電ペーストの塗工で形成された線状のアンテナ素子2aで形成されている。アンテナ素子2aは、アルミニウム等の導電性の金属線で形成してもよく、後述するように、段ボール箱のフラップ部、継ぎ代部、継ぎ代の延長部等に装着して配置してもよい。
【0039】
この実施形態では、図2に拡大して示すように、前記アンテナ素子2aは、2個の同じ長さLと幅Wの直線状のアンテナ素子2aで形成され、その後方のRFIDタグ1の直線状のアンテナ1aに対して両側に近接して、互いに平行に配置されている。前述したようにアンテナ素子2aの両端の点a1、a2間の最短経路の長さとして定義される長さLは、リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波の波長λ(=125mm)に対する比L/λが0.36〜0.64の範囲に設定され、前述したように定義される幅Wは、素線の幅として0.5mmとされている。各アンテナ素子2aのケース12の前面12a内での電波の回転方向への傾斜角度θは、図中に実線で示す0°と、一点鎖線で示す±45°に設定され、アンテナ1aの物品11の前面11a内での電波の回転方向への傾斜角度φは0°に設定されている。
【0040】
図3は、前記アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aまでの距離zを説明する模式図である。この実施形態では、距離zは0mm、すなわち、アンテナ1aが装着された物品11の前面11aがケース12の前面12aに重ね合わされている。このように距離zを0mmとしたときは、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなる。
【実施例1】
【0041】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)とし、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第1通信試験を行った。2個のアンテナ素子2aの長さL(≧2W、形状パラメータs=1)は、マイクロ波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64となる範囲で4段階に変化させ、アンテナ素子2aの傾斜角度θは、−45°、0°、45°の3段階に変化させた。通信距離は、ブースタアンテナがない場合に対する向上率で評価した。
【0042】
【表1(a)】
【0043】
【表1(b)】
【0044】
【表1(c)】
【0045】
【表1(d)】
【0046】
表1(a)、(b)、(c)、(d)に、上記第1通信試験の結果を示す。表1(a)はL/λ=0.40、表1(b)はL/λ=0.48、表1(c)はL/λ=0.56、表1(d)はL/λ=0.64の場合であり、いずれの表にも、前記(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を○×で表示した。比d/λの下限値と上限値は、前記(1‘ )式で求められる値もカッコ内に併記した。
【0047】
この試験結果より、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は、通信距離が顕著に延長されている。比d/λが(1‘ )式も満足するものは、より顕著に通信距離が延長されている。また、比L/λが0.44〜0.56の範囲に入る表1(b)、(c)に示した実施例のものは、通信距離の向上率がより大きい。これに対して、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が延長されず、ほとんどのものが却って短くなっている。これにより、前記位相ずれδが電波の周期の±0.2倍の範囲に入るように規定した(1)式を満足させることにより、通信距離を延長できることが確認された。なお、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zについては、0〜0.3λの範囲で変化させたが、表1(a)〜(d)の結果と同様の傾向が認められた。
【実施例2】
【0048】
つぎに、前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を回転しない直線偏波(回転パラメータr=0)として、アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λを0.48一定とし、前記距離dを変化させた第2通信試験を行った。第2通信試験では、前記RFIDタグ1のアンテナ1aの代わりに、スペクトラムアナライザのアンテナを配置して、このアンテナが受信する電波の強さを測定し、ブースタアンテナがない場合に対する電波の強さの向上率を調査した。その他の試験条件は第1通信試験と同じである。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に、上記第2通信試験の結果を示す。表2にも、(1)式で求められる比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、電波を回転しない直線偏波とした場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は、電波の強さが顕著に強くなり、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、電波の強さが却って弱くなることが確認された。この場合も、距離zを0〜0.3λの範囲で変化させたが、表2の結果と同様の傾向が認められた。
【0051】
図4乃至図6は、第2の実施形態を示す。この実施形態では、図4に示すように、前記前面12aに、1個の直線状のアンテナ素子2aが配置されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、重心G1からアンテナ素子2aを配置した前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。また、アンテナ素子2aの前面12a内での傾斜角度θは、図中に実線で示す0°と、一点鎖線で示す±45°に設定され、アンテナ1aの前面11a内での傾斜角度φは0°に設定されている。
【0052】
図5および図6は、前記前面11a内でのアンテナ1aと前面12a内でのアンテナ素子2aの相対配置位置を変えたときの、アンテナ1aの重心G1とアンテナ素子2aの重心G2とを結ぶアンテナ重心線gと、アンテナ素子2aの両端の点a1、a2を結ぶ線分a1a2とを含む平面内における、アンテナ重心線gと線分a1a2とのなす角αの余角ξ、および、アンテナ重心線gとアンテナ1aの長手方向に沿ったアンテナ長手直線とを含む平面内における、アンテナ重心線gとアンテナ長手直線とのなす角βの余角ηを説明する模式図である。なお、距離zが0mmでない場合は、各余角ξ、ηはz方向の成分を含むものとなるが、図5および図6は、説明を分かりやすくするために、距離zが0mmの場合について示す。
【0053】
図5(a)〜(c)は、アンテナ素子2aの傾斜角度θとアンテナ1aの傾斜角度φを0°とした場合について、アンテナ1aとアンテナ素子2aの相対配置位置を変化させた例を示す。図5(a)は、重心G1、G2を結ぶアンテナ重心線gと、アンテナ1aおよびアンテナ素子2aが角α(=β)で交叉する一般的な例であり、各余角ξ、ηは、いずれも(90−α)°となる。図5(b)は、アンテナ素子2aをアンテナ1aの真横に平行に配置した例であり、角α、βが90°となって各余角ξ、ηは0°となる。図5(c)は、アンテナ素子2aがアンテナ1aと同一直線状に載るように配置した例であり、角α、βが0°となって各余角ξ、ηは90°となる。
【0054】
図6(a)〜(e)は、アンテナ素子2aの傾斜角度θを±45°、アンテナ1aの傾斜角度φを0°とした場合について、アンテナ1aとアンテナ素子2aの相対配置位置を変化させた例を示す。図6(a)は、重心G1、G2を結ぶアンテナ重心線gが、アンテナ素子2aと角α、アンテナ1aと角βで交叉する一般的な例であり、角αの余角ξは(90−α)°、角βの余角ηは(90−β)°となる。図6(b)は、アンテナ1aの重心G1での法線上にアンテナ素子2aの重心G2を配置した例であり、角αの余角ξは45°、角βの余角ηは0°となる。図6(c)は、アンテナ素子2aの重心G2での法線上にアンテナ1aの重心G1を配置した例であり、角αの余角ξは0°、角βの余角ηは45°となる。図6(d)は、アンテナ1aの延長線上にアンテナ素子2aの重心G2を配置した例であり、角αの余角ξは45°、角βの余角ηは90°となる。図6(e)は、アンテナ素子2aの延長線上にアンテナ1aの重心G1を配置した例であり、角αの余角ξは90°、角βの余角ηは45°となる。なお、これらの各図は、傾斜角度θが45°の場合を示すが、傾斜角度θが−45°の場合も、相対配置位置の分類パターンは図6(a)〜(e)のいずれかに該当するので、図示を省略する。
【実施例3】
【0055】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λを0.48一定とし、前記比d/λが(1)式を満足する範囲で、図5および図6に示したように、アンテナ1aとアンテナ素子2aの相対配置位置を変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第3通信試験を行った。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に、上記第3通信試験の結果を示す。表3には、図5および図6における相対配置位置と、各余角ξ、ηが0〜60°の範囲にあるか否かの判定を併記した。傾斜角度θが−45°の場合は、図6(a)〜(e)に示した傾斜角度θが45°の場合の該当する分類パターンで表記した。この試験結果より、各余角ξ、ηが0〜60°の範囲にある判定が○のものは、通信距離を顕著に延長できることが分かる。また、各余角ξ、ηが0〜30°の範囲にあるものは、より顕著に通信距離が延長されている。これに対して、いずれかの余角ξ、ηがこの範囲を外れる判定が×のものは、通信距離が延長されていない。この理由は、余角ξ、ηが60°を越えると、アンテナ素子2aからの2次電波の発信方向からアンテナ1aの位置がずれ、アンテナ1aに到達する2次電波の強度が弱くなるためと考えられる。
【0058】
図7は、第3の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、2個のL字状の開曲線のアンテナ素子2aが、アンテナ1aの重心G1に点対称にL字のコーナを外向きにして、長さ方向、すなわちアンテナ素子2a両端の点a1、a2を結ぶ直線の向きが、アンテナ1aと9°の角度をなすように配置されており、アンテナ素子2a両端の点a1、a2を結ぶ直線の傾斜角度θは9°、アンテナ1aの傾斜角度φは0°に設定されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置した前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例4】
【0059】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させ、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第4通信試験を行った。アンテナ素子2aのL字状の経路に沿った長さL(≧2W、形状パラメータs=1)とマイクロ波の波長λとの比L/λを0.48一定とした。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【表4】
【0060】
表4に、上記第4通信試験の結果を示す。表4には、前記(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aがL字状の開曲線の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は、通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が却って短くなっている。この場合も、距離zを0〜0.3λの範囲で変化させたが、表4の結果と同様の傾向が認められた。
【0061】
図8は、第4の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、2個の円の閉曲線のアンテナ素子2aがアンテナ1aの両側に近接して配置されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例5】
【0062】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第5通信試験を行った。アンテナ素子2aの長さL(=W、形状パラメータs=0)とマイクロ波の波長λとの比L/λは、0.36と0.50の2段階に変化させた。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0063】
【表5】
【0064】
表5に、上記第5通信試験の結果を示す。表5にも、前記(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aが円の閉曲線の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が却って短くなっている。この場合も、距離zを0〜0.3λの範囲で変化させたが、表5の結果と同様の傾向が認められた。
【0065】
図9は、第5の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、2個の雪の結晶状のアンテナ素子2aがアンテナ1aの両側に近接して配置されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例6】
【0066】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第6通信試験を行った。アンテナ素子2aの長さL(=W、形状パラメータs=0)とマイクロ波の波長λとの比L/λは0.48一定とした。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0067】
【表6】
【0068】
表6に、上記第6通信試験の結果を示す。表6にも、(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aが雪の結晶状の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が却って短くなっている。
【0069】
図10は、第6の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、1個の波状の開曲線のアンテナ素子2aがアンテナ1aと並列に配置されており、アンテナ素子2aの傾斜角度θは、図中に実線で示す0°と、一点鎖線で示す−45°に設定され、アンテナ1aの傾斜角度φは0°に設定されている。その他は第1の実施形態と同じであり、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zは0mmとされ、アンテナ1aの重心G1からアンテナ素子2aを配置したケース12の前面12aに下ろした垂線の足からアンテナ素子2aの重心G2までの距離dは、重心G1、G2間の距離と等しくなっている。
【実施例7】
【0070】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、前記距離dを変化させて、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第7通信試験を行った。アンテナ素子2aの波状の経路に沿った長さL(≧2W、形状パラメータs=1)とマイクロ波の波長λとの比L/λは0.48一定とした。その他の試験条件と通信距離向上率の評価方法は第1通信試験と同じである。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に、上記第7通信試験の結果を示す。表7にも、(1)式で求められる距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λの下限値と上限値、および比d/λの試験値が、(1)式を満足するか否かの判定を併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aが波状の開曲線の場合も、比d/λが(1)式を満足する判定が○の実施例は通信距離が顕著に延長され、(1)式を満足しない判定が×の比較例は、通信距離が延長されていない。
【0073】
図11(a)、(b)は、第7の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、6個または10個の円の閉曲線のアンテナ素子2aが、アンテナ1aの重心G1の周りの同心円上に配置されている。
【実施例8】
【0074】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λを0.50一定とし、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離z=0mmのときの距離dと波長λとの比d/λが前記(1)式を満足するように0.68一定として、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第8通信試験を行った。なお、距離zを0〜5mmまたは0〜37.5mm(=0.3λ)の範囲で変化させたり、アンテナ1aの傾斜角度φも0〜90°の範囲で変化させた通信試験も行い、これらの距離zや傾斜角度φを変化させたときは、通信距離の平均値で通信距離向上率の評価をした。
【0075】
【表8】
【0076】
表8に、上記第8通信試験の結果を示す。表8には、図11に示した配置パターンと、距離zおよび傾斜角度φの変化範囲も併記した。この試験結果より、アンテナ素子2aの個数を6個としたものは、第5通信試験で2個のアンテナ素子2aを配置し、表5に示した比d/λが0.68に近いものと比較すると通信距離が向上し、アンテナ素子2aの個数を10個としたものは、通信距離がさらに向上している。
【0077】
図12は、第8の実施形態を示す。この実施形態では、前記前面12aに、傾斜角度φが0°とされたアンテナ1aの両側に、それぞれ傾斜角度θが45°と−45°とされた2個ずつの同じ長さLと幅Wの直線状のアンテナ素子2a(L≧2W、形状パラメータs=1)が配置されている。
【実施例9】
【0078】
前記リーダ3のアンテナ3aからのマイクロ波を反時計回りに回転する円偏波(回転パラメータr=1)として、アンテナ1aの重心G1から前面12aまでの距離zを0〜37.5mm(=0.3λ)の範囲で変化させ、リーダ3とRFIDタグ1間の通信距離を調査する第9通信試験を行った。参考例として、傾斜角度θが45°の2個のみのアンテナ素子2aを配置したもの、傾斜角度θが−45°の2個のみのアンテナ素子2aを配置したものについても通信試験を行った。なお、各アンテナ素子2aの長さLとマイクロ波の波長λとの比L/λは0.48一定とした。また、距離z=0mmのときに、傾斜角度θが45°のアンテナ素子2aは、距離dとマイクロ波の波長λとの比d/λを0.54として、前記(1)式の範囲(0.30〜0.67)を満足するようにし、前記余角ξは18°、余角ηは27°とした。傾斜角度θが−45°のアンテナ素子2aは、比d/λを0.84として、(1)式の範囲(0.52〜0.92)を満足するようにし、余角ξは28°、余角ηは17°とした。
【表9】
【0079】
表9に、上記第9通信試験の結果を示す。表9には、前記距離zを0〜37.5mmの範囲で変化させたときの通信距離向上率の平均値のほかに、距離zを0mmとしたときの通信距離向上率も表示した。傾斜角度θが45°と−45°の2個ずつ、合計4個のアンテナ素子2aを配置した実施例は、通信距離が大幅に延長されており、傾斜角度θが45°または−45°の2個のみのアンテナ素子2aを配置した参考例の各通信距離向上率を加算した通信距離向上率と近くなっている。
【0080】
図13(a)〜(d)は、それぞれ前記段ボール箱のケース12へのブースタアンテナ2の装着位置の変形例を示す。図13(a)は、ブースタアンテナ2を段ボール箱を形成する段ボールシート13のフラップ部13aに装着した例、図13(b)は、段ボールシート13の継ぎ代部13bに装着した例、図13(c)は、段ボールシート13の継ぎ代の延長部13cに装着した例であり、いずれも段ボール箱が形成されたときの重ね面側に装着されている。図13(b)、(c)の段ボールシート13に点線で示したように、継ぎ代部13や継ぎ代の延長部13cが重ね合わされる部分にブースタアンテナ2を装着することもできる。また、図13(d)は、段ボール箱のケース12の副資材としての封緘テープ12bの裏面または表面側に装着した例である。
【0081】
上述した各実施形態では、リーダのアンテナからの電波をマイクロ波としたが、この電波は周波数が数百MHz以上の極超短波とすることもできる。また、電波を反時計回りに回転する円偏波または回転しない直線偏波としたが、時計回りに回転する円偏波や、円偏波と直線偏波を合成した楕円偏波とすることもできる。
【符号の説明】
【0082】
1 RFIDタグ
1a アンテナ
2 ブースタアンテナ
2a アンテナ素子
3 リーダ
3a アンテナ
11 物品
11a 前面
12 ケース
12a 前面
12b 封緘テープ
13 段ボールシート
13a フラップ部
13b 継ぎ代部
13c 継ぎ代の延長部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質問器であるリーダのアンテナからの回転する円偏波、回転しない直線偏波またはこれらを合成した楕円偏波の電波を受けて応答する電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、前記リーダのアンテナに対してRFIDタグのアンテナと同じ側に配置される少なくとも1個の直線、開曲線、閉曲線またはこれらの直線もしくは曲線が交叉したものとした線状のアンテナ素子からなり、この線状のアンテナ素子の長さL、幅Wおよび重心G、ならびに前記電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、および前記アンテナ素子の形状を表す形状パラメータsを下記のように定義し、このように定義したアンテナ素子の長さLと前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにして、下記の長さLの定義におけるアンテナ素子の長さ方向の両端の点a1、a2が1組だけ存在する場合には、これらの点a1、a2を結ぶ直線を前記リーダのアンテナからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したときの、投影された直線の電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をアンテナ素子の傾斜角度θ°とし、前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有する場合には、このアンテナを前記電波対向面に投影したときの、投影されたアンテナの長手方向の向きの電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度を前記RFIDタグのアンテナの傾斜角度φ°として、前記RFIDタグのアンテナの重心から前記アンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、下記のように定義したアンテナ素子の重心Gまでの距離dと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比d/λが、下記の(1)式を満足するようにしたRFIDタグ用ブースタアンテナ。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
(定義)
・長さL:線状のアンテナ素子上に任意の2点i、jを選び、点iから点jに向かうベクトルVijに対して、アンテナ素子に沿う点iから点jへの経路の進行方向の向きとベクトルVijの向きのなす角度が経路内の全ての点で±90°以内であるときに、点iと点jは戻らずに繋がっているとし、このように戻らずに繋がっている任意の2点i、jの組み合わせのうち、2点i、j間の直線距離が最も長くなる2点を長さ方向の両端の点a1、a2として、これらの点a1、a2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さをアンテナ素子の長さLとする。
・幅W:長さLの定義における両端の点a1、a2を結ぶ直線と垂直方向(幅方向)に平行な任意の直線上にアンテナ素子の複数の点があるときに、これらの複数の点のうちの幅方向の距離が最も長くなる2点を幅方向の両端の点b1、b2として、これらの点b1、b2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、および長さLのうちの最小値をw1とし、両端の点a1、a2を結ぶ直線と平行で、アンテナ素子と交わる任意の2本の直線について、これらの2直線間の距離の最大値と長さLのうちの小さい方の値をw2としたときに、w1とw2のうちの大きい方の値をアンテナ素子の幅Wとする。
・重心G:長さLの定義における両端の点a1、a2間の全ての最短経路に存在する素線の重心をアンテナ素子の重心Gとする。
・回転パラメータr:リーダのアンテナからの電波における回転する円偏波の割合を回転パラメータrとする。電波が円偏波のときはr=1、直線偏波のときはr=0、楕円偏波のときは0<r<1となる。
・形状パラメータs:上記のように定義したアンテナ素子の長さLと幅Wとの比L/W(≧1)によって決まる形状に関するパラメータで、L≧2Wのときはs=1、L=Wのときはs=0、W<L<2Wのときはs=(L−W)/Wとする。
【請求項2】
前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記点a1、a2を結ぶ線分a1a2とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記線分a1a2とのなす角の余角ξを0〜60°の範囲とした請求項1に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項3】
前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有するものとし、前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記RFIDタグのアンテナの長手方向に沿ったアンテナ長手直線とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記アンテナ長手直線とのなす角の余角ηを0〜60°の範囲とした請求項1または2に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項4】
前記RFIDタグのアンテナの重心から、前記アンテナ素子を配置した面までの距離zと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比z/λが、0〜0.3の範囲に入るようにした請求項1乃至3のいずれかに記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項5】
前記RFIDタグが電波を透過するケースに収納された物品または前記ケースに装着され、前記アンテナ素子が前記ケースに装着されて配置されるものである請求項1乃至4のいずれかに記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項6】
前記電波を透過するケースを段ボール箱とした請求項5に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナ素子を、前記段ボール箱を形成する段ボールシートのフラップ部、継ぎ代部または継ぎ代の延長部の、段ボールシートとの重ね面側に装着した請求項6に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項8】
前記アンテナ素子を、前記ケースの副資材に装着した請求項5または6に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項9】
前記アンテナ素子を、導電インクまたは導電ペーストを塗工して形成したものとした請求項5乃至8のいずれかに記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項1】
質問器であるリーダのアンテナからの回転する円偏波、回転しない直線偏波またはこれらを合成した楕円偏波の電波を受けて応答する電波方式のRFIDタグのアンテナと離間させて、前記リーダのアンテナに対してRFIDタグのアンテナと同じ側に配置される少なくとも1個の直線、開曲線、閉曲線またはこれらの直線もしくは曲線が交叉したものとした線状のアンテナ素子からなり、この線状のアンテナ素子の長さL、幅Wおよび重心G、ならびに前記電波の回転成分の割合を表す回転パラメータr、および前記アンテナ素子の形状を表す形状パラメータsを下記のように定義し、このように定義したアンテナ素子の長さLと前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比L/λが0.36〜0.64の範囲に入るようにして、下記の長さLの定義におけるアンテナ素子の長さ方向の両端の点a1、a2が1組だけ存在する場合には、これらの点a1、a2を結ぶ直線を前記リーダのアンテナからの電波の放射方向と直角に対向する電波対向面に投影したときの、投影された直線の電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度をアンテナ素子の傾斜角度θ°とし、前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有する場合には、このアンテナを前記電波対向面に投影したときの、投影されたアンテナの長手方向の向きの電波対向面内での電波の回転方向への傾斜角度を前記RFIDタグのアンテナの傾斜角度φ°として、前記RFIDタグのアンテナの重心から前記アンテナ素子を配置した面に下ろした垂線の足から、下記のように定義したアンテナ素子の重心Gまでの距離dと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比d/λが、下記の(1)式を満足するようにしたRFIDタグ用ブースタアンテナ。
r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+0.97≦d/λ
≦r×s×(φ−θ)/360−1.2×(L/λ)+1.37 (1)
(定義)
・長さL:線状のアンテナ素子上に任意の2点i、jを選び、点iから点jに向かうベクトルVijに対して、アンテナ素子に沿う点iから点jへの経路の進行方向の向きとベクトルVijの向きのなす角度が経路内の全ての点で±90°以内であるときに、点iと点jは戻らずに繋がっているとし、このように戻らずに繋がっている任意の2点i、jの組み合わせのうち、2点i、j間の直線距離が最も長くなる2点を長さ方向の両端の点a1、a2として、これらの点a1、a2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さをアンテナ素子の長さLとする。
・幅W:長さLの定義における両端の点a1、a2を結ぶ直線と垂直方向(幅方向)に平行な任意の直線上にアンテナ素子の複数の点があるときに、これらの複数の点のうちの幅方向の距離が最も長くなる2点を幅方向の両端の点b1、b2として、これらの点b1、b2間のアンテナ素子に沿う最短経路の長さ、点b1、b2間の直線距離のπ/2倍の長さ、および長さLのうちの最小値をw1とし、両端の点a1、a2を結ぶ直線と平行で、アンテナ素子と交わる任意の2本の直線について、これらの2直線間の距離の最大値と長さLのうちの小さい方の値をw2としたときに、w1とw2のうちの大きい方の値をアンテナ素子の幅Wとする。
・重心G:長さLの定義における両端の点a1、a2間の全ての最短経路に存在する素線の重心をアンテナ素子の重心Gとする。
・回転パラメータr:リーダのアンテナからの電波における回転する円偏波の割合を回転パラメータrとする。電波が円偏波のときはr=1、直線偏波のときはr=0、楕円偏波のときは0<r<1となる。
・形状パラメータs:上記のように定義したアンテナ素子の長さLと幅Wとの比L/W(≧1)によって決まる形状に関するパラメータで、L≧2Wのときはs=1、L=Wのときはs=0、W<L<2Wのときはs=(L−W)/Wとする。
【請求項2】
前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記点a1、a2を結ぶ線分a1a2とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記線分a1a2とのなす角の余角ξを0〜60°の範囲とした請求項1に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項3】
前記RFIDタグのアンテナが長手方向の向きを有するものとし、前記RFIDタグのアンテナの重心と前記アンテナ素子の重心Gとを結ぶアンテナ重心線と、前記RFIDタグのアンテナの長手方向に沿ったアンテナ長手直線とを含む平面内における、前記アンテナ重心線と前記アンテナ長手直線とのなす角の余角ηを0〜60°の範囲とした請求項1または2に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項4】
前記RFIDタグのアンテナの重心から、前記アンテナ素子を配置した面までの距離zと、前記リーダのアンテナからの電波の波長λとの比z/λが、0〜0.3の範囲に入るようにした請求項1乃至3のいずれかに記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項5】
前記RFIDタグが電波を透過するケースに収納された物品または前記ケースに装着され、前記アンテナ素子が前記ケースに装着されて配置されるものである請求項1乃至4のいずれかに記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項6】
前記電波を透過するケースを段ボール箱とした請求項5に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナ素子を、前記段ボール箱を形成する段ボールシートのフラップ部、継ぎ代部または継ぎ代の延長部の、段ボールシートとの重ね面側に装着した請求項6に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項8】
前記アンテナ素子を、前記ケースの副資材に装着した請求項5または6に記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【請求項9】
前記アンテナ素子を、導電インクまたは導電ペーストを塗工して形成したものとした請求項5乃至8のいずれかに記載のRFIDタグ用ブースタアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−263404(P2010−263404A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112576(P2009−112576)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】
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