説明

RNA結合ペプチド

本発明は、RNA結合ペプチドを提供し、具体的には、次式I:R−Q−R−X(I) (XはR以外のアミノ酸残基を表す。)で示されるアミノ酸配列を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、RNA結合ペプチドとその検出方法又はスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスである。このウイルスにはトランス活性化領域(TAR)及びRev応答性エレメント(RRE)が存在し、これらの領域又はエレメントは、スプライスされていない、又は部分的にスプライスされたHIV mRNAイントロンに見出される。
RRE及びTARをコードするRNAは、HIVが複製する間、特定のHIVタンパク質と相互作用する。すなわち、HIVタンパク質RevはRREを認識するとRREに結合し、Rev/RRE複合体が形成される。Rev/RRE複合体の形成は、HIVタンパク質Revが当該複合体を介してmRNAを刺激するプロセスに関与し、また、Revの往復(Shuttling)に必須である核外輸送シグナル伝達に関与する。
このように、Rev/RRE複合体の相互作用はウイルスが増殖する場合に必須であるため、この過程の機能を抑制することは、後天性免疫不全症(AIDS)の進行の抑制に大きく寄与する。
Revを標的にした治療は、アンチセンスやリボザイムを用いて試みられていた。更にRREデコイRNAを用いた遺伝子治療も行なわれている。
発明者らは、以前よりcDNAライブラリー又はペプチドライブラリーからRNA結合タンパク質をスクリーニングする方法を開発し(特表平11−511653号公報、Hadas Peled−Zehavi,et al.,RNA 9,252−261,2003)、新規物質の同定を可能としてきた。これらの方法において、11残基以上のランダムペプチドをコードするコンビナトリアルオリゴヌクレオチドライブラリーを使用することにより得られたポリペプチドは、標的のRNAとの結合活性を有することから、特に、HIVのRREに結合することによってHIVの増殖を阻害するペプチドを開発することが可能となる。
【発明の開示】
本発明は、RNA結合ペプチドとその検出方法又はスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、アルギニンモチーフを有するペプチドがRNA結合活性を有し、HIVの増殖を阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(2)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(a)次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含む12〜23残基の長さのアミノ酸配列を含むペプチド
(b)次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含む12〜23残基の長さのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、RNA結合活性を有するペプチド
(3)Rが少なくとも9〜11残基含まれることを特徴とする(1)又は(2)記載のペプチド、誘導体又はこれらの塩。
(4)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(a)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、RNA結合活性を有するペプチド
(4)前記ペプチド又はその誘導体を構成するアミノ酸配列の65%以上を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(5)アミノ酸配列の一部に化学修飾が施された、前記ペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
上記ペプチド、その誘導体又はこれらの塩において、RNA結合活性とは、RNA(HIVのゲノムRNA)のRRE配列部位に特異的に結合する活性を意味する。
(6)以下の(a)若しくは(b)のペプチド又はその誘導体をコードするポリヌクレオチド。
(a)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列を含むペプチド
(b)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、RNA結合活性を有するペプチド
RNA結合活性は前記と同様である。また、上記ポリヌクレオチドはDNAであることが好ましい。
(7)前記ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
(8)前記組換えベクターを含む形質転換体。
(9)前記ペプチド、その誘導体又はこれらの塩を含有してなる医薬組成物。
本発明の医薬組成物は、例えばHIVの増殖抑制剤及び/又はHIVの感染予防剤として使用することができる。
(10)前記ペプチド、その誘導体又はこれらの塩を含有してなるHIVの検出用試薬。
(11)(VVK)(nは11〜35の整数を表す)で示されるヌクレオチド配列を少なくとも一部に含むオリゴヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチドライブラリー。
(12)前記ライブラリーに含まれるオリゴヌクレオチドによりコードされるペプチドに標的RNAを接触させ、シグナルを検出することを特徴とする、RNA結合ペプチドの検出方法又はRNA結合ペプチドのスクリーニング方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、Peptide1及び2の抗HIV−1活性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、アルギニンに富む15個のアミノ酸配列を骨格としつつ23個のアミノ酸配列を含み、かつHIVのRev応答エレメント(RRE)に結合する活性を有するペプチドであり、当該ペプチドによってHIVの増殖を抑制させようとするものである。
RRE配列特異的に結合するペプチドの一部は既に知られており、作製もされている。本発明においては、そのように作製されたペプチドの一つをプロトタイプとし、これに基づいて新規ペプチドの分子設計を行う。そして、設計されたペプチドについてRRE領域への結合試験を行い、次にHIVの増殖抑制試験を行う。
1.RNA結合ペプチド又はその塩
本発明のペプチドは、少なくとも次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩である。
上記式において、R及びQはアミノ酸の1文字表記をしたものであり、それぞれアルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)を表す(他のアミノ酸についても同様)。Xは、アルギニンを除く他のアミノ酸残基を表す。
本発明のペプチドは、上記式のアミノ酸配列を含み、好ましくは12〜23個のアミノ酸配列を有する。そして、その中のいくつかのアミノ酸はアルギニンに富むドメイン(「アルギニンリッチドメイン」という)を形成する。例えば、23アミノ酸残基を有するペプチドは、その中の5番目から19番目がアルギニンリッチドメインを形成する。いくつかのRNA結合タンパク質のアルギニンリッチドメインは、それらの類似のRNAと高親和性及び特異性をもって結合することが示されている。そして、配列がシンプルであること、及び構造が多様であることから、アルギニンリッチドメインは新規RNA結合ペプチドを同定するために有効なツールとして利用することができる。本発明は、極めて多数の組合せをもつペプチドライブラリーから、カナマイシン・アンチターミネーション・システム(「KANシステム」という)と呼ばれる手法により、本発明のペプチドをスクリーニングすることに成功した。
KANシステムとは、細胞内でカナマイシン耐性遺伝子の機能を用いて、RNAとペプチドの相互作用を検出するアッセイを意味する(Hadas Peled−Zehavi,et al.,RNA 9,252−261,2003)。
具体的には、標的RNAに対応するオリゴDNA(ここで、「対応するオリゴDNA」とは、標的配列と同一の配列を有するように設計されたオリゴDNAを意味する)と、レポーター遺伝子としてカナマイシン耐性遺伝子とを組み込んだNレポータープラスミド、及びペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを組み込んだN発現プラスミドを細胞に導入する。細胞内でRNAとペプチドが相互作用するとカナマイシン耐性遺伝子が転写翻訳され、標的RNAとペプチドとが接触したシグナルとして、細胞はカナマイシン耐性を獲得する。細胞には、酵母や大腸菌などを用いることができる。大腸菌を用いた場合、カナマイシンを含んだ培地で生存した大腸菌には、RNAと相互作用するペプチドが発現していることになる。
また、上記KANシステムにより得られた本発明のペプチドのアミノ酸配列を以下の配列番号1〜27に例示するが、本発明のペプチドがRNA結合活性(HIVのRREに結合する活性)、しかも、公知のKAN3(配列番号28)よりも高い結合活性を有する限り、当該アミノ酸配列の1個又は数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい(これらを本発明において「変異体」という)。例えば、配列番号1〜27で表わされるアミノ酸配列の1個又は数個、好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号1〜27で表わされるアミノ酸配列に1個又は数個、好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号1〜27で表わされるアミノ酸配列の1個又は数個、好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよい。


本発明のペプチドとRNAとの結合活性は、KANシステムにおけるレポーター遺伝子の発現量を基に、既知のペプチドとの相対的定量化を行い評価することにより測定することができる。このときの解離定数は100pM〜10pMである。
本発明は、上記ペプチドのほかにその誘導体も含まれる。「誘導体」とは、本発明のペプチドを起源とし、3以上のアミノ酸にまでアミノ酸の数を減らしたり、一部のアミノ酸を非天然の物を含んだ他のアミノ酸に置換したものをいう。また、上記誘導体は、天然物の一部を修飾したものであっても、化学合成により合成された修飾残基を含むペプチドであってもよい。
本発明のペプチドは、アミノ酸配列の一部に化学修飾が施されたものも含む。「化学修飾」とは、化学試薬をタンパク質に反応させ、主にアミノ酸残基側鎖の化学構造を変えることをいう。例えば、本発明のペプチドの活性部位又は活性部位近傍に存在すると予想されるアミノ酸を特異的に修飾する試薬(例えばポリエチレングリコール)を反応させる方法などが採用される。アフィニティラベルを行ってもよい。また、化学修飾にはアミノ酸のα炭素をメチル化したものも含む。化学修飾法は、当分野において周知である(大野素徳・金岡祐一・崎山文夫・前田浩 著、生物化学実験法 12、蛋白質の化学修飾(上)、学会出版センター)。
なお、化学修飾されたアミノ酸配列を含むペプチドの修飾部分は、ペプチド本来の活性には影響せず、他の効果として作用する(Yamaguchi,H.et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,67(10),2269−2272,2003)。
置換、欠失等の変異が導入されているかどうかは、アミノ酸配列の配列決定、分子進化的工学やX線やNMRなどによる構造解析を用いて確認することができる。
また、本発明のペプチドの誘導体には、そのレトロエナンチオマーも含む。「レトロエナンチオマー」とは、上記ペプチドのアミノ酸配列の向きが左右逆になること(鏡像体を形成すること)を意味する。すなわち、ペプチドのN末端がC末端となり、C末端がN末端となり、かつ各アミノ酸がDアミノ酸によって構成されている配列となることを意味する。このようなレトロエナンチオマーも、RNA結合活性を有する限り本発明に含まれる。例えば、配列番号15に示すアミノ酸配列のレトロエナンチオマーは、RRR ARQRL RRRD(配列番号29)となる。他のペプチドのアミノ酸配列についても同様である。
さらに、本発明は、上記ペプチド(配列番号1〜14)、その変異体、又はその誘導体を構成するアミノ酸配列の65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩を提供する。上記65%の領域としては、例えば配列番号1〜14に示す配列のうち、5番目〜19番目(アルギニンリッチドメイン)の領域などが挙げられる。また、配列番号1〜14に示すアミノ酸配列のうち、70%以上、80%以上、90%以上の領域としてそれぞれ3番目〜19番目、1番目〜19番目、3番目〜23番目の領域を例示することができ、95%以上の領域として連続する22個のアミノ酸の領域を例示することができる。
さらに、配列番号15〜27に示すアミノ酸配列のほか、これらのアミノ酸配列のN末端側に2個のアルギニン(R)が付加されたアミノ酸配列(14個のアミノ酸残基を有するアミノ酸配列)も、本発明のペプチドに含まれる。
上記のとおり本発明のペプチドのアミノ酸配列が決定されると、その後は、当該アミノ酸配列をコードするDNAを構築し、これを発現させることにより、あるいは上記ペプチドを化学合成することにより、得ることができる。
本発明のペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、あるいは水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製し得る。
2.コンビナトリアルオリゴヌクレオチドライブラリー
本発明は、(VVK)(nは11〜35の整数を表す)で示されるヌクレオチド配列を少なくとも一部に含むオリゴヌクレオチドが多数集合したライブラリーを提供する。
VVKの連続数(n)は限定するものではないが、例えば11〜35(33〜105ヌクレオチド)、好ましくは11〜30(33〜90ヌクレオチド)、より好ましくは11〜20(33〜60ヌクレオチド)、さらに好ましくは15〜20(45〜60ヌクレオチド)である。そして、(VVK)を含むヌクレオチドの長さ(全長)は、特に限定されるものではなく、任意の長さを設計することが可能である。(VVK)に他の配列が付加されていてもよい。ヌクレオチドの合成効率を考慮すると、(VVK)と他の配列で構成されるオリゴヌクレオチドは、全長で300塩基以内、好ましくは200塩基以内、更に好ましくは100塩基以内に収まるようにVVK及び他の配列を調節することが好ましい。
オリゴヌクレオチドは、化学合成によって得ることができる。ヌクレオチドとしてはDNA、RNAなどが挙げられるが、DNAであることが好ましい。オリゴヌクレオチドの化学合成法は、当業者にとって周知であり、市販の合成機を使用することもできる。
ここで、VVKのコドンにおいて、VはA、G又はCを表し、KはG又はTを表わす。従って、VVKにより規定されるコドンは全部で18通り(3×3×2)存在する。VVKコドンは、荷電性及び極性アミノ酸であって大きな疎水性側鎖ではなく小さい側鎖を持つアミノ酸を主にコードする。アルギニンのコドンはCGN又はAGR(NはA、G、C又はTを表し、RはA又はGを表す)であるから、上記VVKにより規定されるコドンのうち、アルギニンのコドンはCGG、CGT及びAGGである。従って、VVKにより規定される1コドンにおいてアルギニンがコードされる確率(コドン頻度は考慮しない)は、3/18=約16.7%である。コドン全体の組合せは64通りであるから、ランダムにコドンを作製した場合は、アルギニンをコードする確率は6/64=約9.4%となる。従って、(VVK)の領域はアルギニンが選択される確率が高くなり、ライブラリー(通常、10個以上であるが、この数に限定されない)にはアルギニン含有率の高いペプチドをコードするヌクレオチドが含まれる。但し、アルギニンをコードする確率を高くするために、アルギニンのコドン(プロトタイプ)とVVKコドン(ランダムタイプ)との比が例えば1:1(但し、この比に限定されない)となるように両コドン配列を混合して合成してもよい。
本発明においては、標的RNAにRREを用いたNレポータープラスミドと、(VVK)で示されるヌクレオチド配列を少なくとも一部に含むオリゴヌクレオチドとを組み込んだN発現プラスミドを作製することもできる。作製したNレポータープラスミドと、オリゴヌクレオチドライブラリーとして機能するN発現プラスミドとを用いてKANシステムを行うと、RRE結合活性を有するペプチドであって、(VVK)に対応するn残基のアミノ酸配列を含むペプチドを得ることができる。
従って、KANシステムによってシグナルを検出することにより、RRE結合活性を有する目的のペプチドを検出し、あるいは目的のペプチドをスクリーニングすることができる。シグナルの検出は前記と同様である。
また、合成したオリゴヌクレオチドを上記KANシステムに用いるN発現プラスミドに組み込むことで、コンビナトリアルオリゴヌクレオチドライブラリーを得ることができる。ヌクレオチドをプラスミドに組み込む方法は、当業者に周知である(Sambrook J and Russel D.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd edition,CSHL Press,2001)。
3.ペプチドの化学合成
本発明のペプチドの化学合成を行う場合は、ペプチドの合成の周知方法によって合成できる。例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置(島津製作所製PSSM−8など)を使用してもよい。
反応後は、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などの通常の精製法を組み合わせて本発明のペプチドを精製することができる。
4.ペプチドをコードするポリヌクレオチド
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本発明のペプチドを遺伝子工学的に設計し、得ることができる。例えば、本発明のペプチドのアミノ酸配列をもとに塩基配列を設計し、合成すればよい。ポリヌクレオチドとしてはDNA、RNAなどが挙げられるが、DNAであることが好ましい。
変異体のペプチドを遺伝子工学的に得るには、配列番号1〜27のアミノ酸配列をコードするポリペプチドを、当分野において周知の部位特異的突然変異誘発法によって変異体を作製することができる。市販の部位特異的突然変異誘発用キットを用いてもよい(例えばTaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Mutan−K、Mutan−Super Express Km等:タカラバイオ社製))。
5.組換えベクター、形質転換体及びペプチド
タンパク質発現用組換えベクターは、上記ポリヌクレオチドを適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる(Sambrook J and Russel D.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd edition,CSHL Press,2001)。
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。プラスミドDNAとしては、大腸菌、枯草菌又は酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージが挙げられる。さらに、動物ウイルス、昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
組換えベクターの作製は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位等に挿入してベクターに連結すればよい。
形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
宿主への組換えベクターの導入方法は公知であり、任意の方法(例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等)が挙げられる。
本発明において、本発明のペプチドは、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることもできる。「培養物」とは、(a)培養上清、(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
培養法は、当分野において周知である(前記Sambrookら、Molecular Cloningを参照)。
培養後、目的ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。また、目的タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
本発明においては、in vitro翻訳によるペプチド合成を採用することができる。この場合は、RNAを鋳型にする方法とDNAを鋳型にする方法(転写/翻訳)の2通りの方法を用いることができる。鋳型RNAとしては、前記4に記載のポリヌクレオチドが挙げられ、鋳型DNAとしては、翻訳開始点の上流にプロモーターとリボゾーム結合部位を有している上記ポリヌクレオチド、あるいは翻訳開始点の上流に転写に必要なプロモーター等が組み込まれたポリヌクレオチドが挙げられる。in vitro翻訳システムは、市販のシステム、例えばExpresswayTMシステム(Invitrogen社)、PURESYSTEM(登録商標;ポストゲノム研究所)、TNTシステム(登録商標;Promega社)などを用いることができる。in vitro翻訳システムによるペプチド合成後は、上記の一般的な生化学的方法を単独又は組み合わせることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
6.RREペプチド又はその塩を含む医薬組成物
さらに、本発明のペプチドは、HIVの増殖抑制剤又は感染予防剤などの医薬組成物として使用することができる。
本発明のペプチドをHIVの増殖抑制剤又は感染予防剤として使用する場合は、AIDS患者、HIVウイルス陽性の健常者に対して治療又は予防を特異目的として用いることができる。また、健常者に対して、感染予防の目的で使用することができる。これらの疾患は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよく、いずれも本発明のペプチドを使用する対象とすることができる。
また、本発明の医薬組成物は、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。本発明の医薬組成物を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬組成物を非経口投与する場合は、静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐剤などの製剤形態を選択することができ、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、本発明の剤型に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
本発明の医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。本発明のペプチドの有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組合せとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり10〜1000mg/body、好ましくは50〜500mg/bodyの範囲の投与量を選ぶことができ、1日1回から数回に分けて1日以上投与される。
7.HIVの検出用試薬
本発明のペプチドは、HIVのRRE領域に結合することができるため、HIVの検出用試薬として使用することができる。
例えば、被験者から採取した血液を血漿にした後、本発明のペプチドと反応させる。本発明のペプチドに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミン等)又は放射標識等(32P、35S)をしておくと、標識によりシグナルが得られた被検試料はHIV陽性であると判定することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
ペプチドのスクリーニング
Hadas Peled−Zehavi et al.,RNA,9,252−261,2003に記載のKANシステムを用いて、ペプチドをスクリーニングした。
その結果、配列番号1〜6に示すアミノ酸配列を有するペプチドを得た。これらのペプチドについてRREとの結合活性を測定した。結合活性の測定は、レポーター遺伝子の発現量を基に既知のペプチドとの相対評価により行った。活性の対照ペプチドとして、公知のKAN3を用いた。
結果を表1に示す。

表1より、本発明のペプチドは、公知のKAN3よりも高いRRE結合活性を有するペプチドであることが分かった。
【実施例2】
コンビナトリアルライブラリーのデザイン
コンビナトリアルペプチドライブラリーを、Nタンパク質(1−19残基)のRNA結合ドメインを置換しているλNタンパク質との融合タンパク質として発現した。オリゴヌクレオチドライブラリーをコドンに基づく突然変異誘発法を用いて以下の配列で合成した(Harada,K.et al.,(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94,11887−11892)。
15残基のアルギニンをコードするプロトタイプ配列:


ランダム配列:

上記VはA、C、及びGを等モル含む混合物であり、KはG及びTを等モル含む混合物である。ライブラリーは、アルギニンコドン:VVKコドンを1:1の割合で混合して合成した。従って、ライブラリーには、ペプチドあたり平均5個以下の非アルギニン残基を含むことが予想される。ポアソン分布に従うと仮定すると、10クローンをスクリーニングすることによって、3つの非アルギニンコドンを有する配列のほぼ全て、4つの非アルギニンコドンを持つ配列の10%以下、及び5つの非アルギニンコドンを持つ配列の1%以下をサンプリングすることができる。
【実施例3】
抗HIV−1アッセイ
(1)方法
細胞及びウイルスは、ヒトT細胞株MT−4及びHIV−1 IIIB株を使用した。培地は、10%FCS含有RPMI1640培地を用いた。
被験物質には、配列番号1および配列番号2で表されるペプチドであるPeptide1及びPeptide2を用いた。
本実施例の抗HIV−1アッセイは、Pauwelsらの方法に則って行った(Pauwels,R et al.J.Virol.Methods(1988),20,309−321)。1×10cells/mLのMT−4細胞に、HIV−1 IIIB株を1000TCID50/mLの濃度で感染させ、被験物質と共に37℃で、5%CO存在下で5日間培養を実施した。培養終了2時間前にMTT反応を行い、ウイルス由来の細胞変性効果(ウイルス感染進行による細胞死)を比色法により検出した。被験物質の細胞毒性は、ウイルス非感染細胞を用いて同様のMTT反応により測定した。被験物質の抗HIV−1活性及び細胞毒性を、それぞれ50%有効濃度値EC50で表した。対照として、ウイルスを用いない感染操作を施した(擬似(mock)感染)細胞を用いた。
(2)結果
HIV−1で感染させたMT−4細胞を図1の黒色カラムで、擬似感染させた細胞を図1の白色カラムで示す。データは3回の実験の平均値を表し、エラーバーは平均値の標準偏差を示す。図1に示すように、MT−4細胞は、被験ペプチド非存在下ではウイルスの感染によって全て死滅した(濃度0μg/mLにおける黒色カラム)。しかし、Peptide1(ペプチド1)又はPeptide2(ペプチド2)を添加すると、ペプチド濃度依存的な細胞生存率の上昇が示された(黒色カラム)。
表2に被験物質の抗HIV−1活性のEC50値を示す。Peptide1及びPeptide2は、それぞれ57.9μg/mL及び85.6μg/mLのEC50値を示した。

【実施例4】
Hadas Peled−Zehavi et al.,RNA,9,252−261,2003に記載の方法を用いて、Xgalを塗布した寒天培地上における大腸菌のコロニーを青色の強さによって相対的に評価をした。
結果を表3に示す。

表3において、「+」の数は、のコロニーカラー(X−gal)アッセイ(βガラクトシダーゼ発現)を行ったときの青色の強さを意味する。
表3より、ほとんどのペプチドにおいて「+」の数が6個以上となったことから、本発明のペプチドは高いRNA結合活性を有することが示された。
産業上の利用の可能性
本発明により、RNA結合ペプチドが提供される。本発明のペプチドは、RNAに対して高い結合活性を有し、さらにHIVなどの増殖を抑制することができるため、RNAウイルス性疾患等に対する医薬組成物として有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:合成ペプチド
配列番号2:合成ペプチド
配列番号3:合成ペプチド
配列番号4:合成ペプチド
配列番号5:合成ペプチド
配列番号6:合成ペプチド
配列番号7:合成ペプチド
配列番号8:合成ペプチド
配列番号9:合成ペプチド
配列番号10:合成ペプチド
配列番号11:合成ペプチド
配列番号12:合成ペプチド
配列番号13:合成ペプチド
配列番号14:合成ペプチド
配列番号15:合成ペプチド
配列番号16:合成ペプチド
配列番号17:合成ペプチド
配列番号18:合成ペプチド
配列番号19:合成ペプチド
配列番号20:合成ペプチド
配列番号21:合成ペプチド
配列番号22:合成ペプチド
配列番号23:合成ペプチド
配列番号24:合成ペプチド
配列番号25:合成ペプチド
配列番号26:合成ペプチド
配列番号27:合成ペプチド
配列番号28:合成ペプチド
配列番号29:合成ペプチド
配列番号30:合成オリゴヌクレオチド
配列番号31:合成オリゴヌクレオチド
配列番号32:合成ペプチド
配列番号33:合成ペプチド
配列番号34:合成ペプチド
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(a)次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含む12〜23残基の長さのアミノ酸配列を有するペプチド
(b)次式I:
R−Q−R−X (I)
(XはR以外のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含む12〜23残基の長さのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、RNA結合活性を有するペプチド
【請求項3】
Rが少なくとも9〜11残基含まれることを特徴とする請求項1又は2記載のペプチド、誘導体又はこれらの塩。
【請求項4】
以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(a)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、RNA結合活性を有するペプチド
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチド又はその誘導体を構成するアミノ酸配列の65%以上を含むペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
【請求項6】
アミノ酸配列の一部に化学修飾が施された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
【請求項7】
RNA結合活性が、RNAのRRE配列部位に特異的に結合する活性である請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
【請求項8】
以下の(a)若しくは(b)のペプチド又はその誘導体をコードするポリヌクレオチド。
(a)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列を含むペプチド
(b)配列番号1〜27で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、RNA結合活性を有するペプチド
【請求項9】
DNAである請求項8記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項8又は9記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項11】
請求項10記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のペプチド、その誘導体又はこれらの塩を含有してなる医薬組成物。
【請求項13】
HIVの増殖抑制剤である請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
HIVの感染予防剤である請求項12記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のペプチド、その誘導体又はこれらの塩を含有してなるHIVの検出用試薬。
【請求項16】
(VVK)(nは11〜35の整数を表す)で示されるヌクレオチド配列を少なくとも一部に含むオリゴヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチドライブラリー。
【請求項17】
請求項16記載のライブラリーに含まれるオリゴヌクレオチドによりコードされるペプチドに標的RNAを接触させ、シグナルを検出することを特徴とする、RNA結合ペプチドの検出方法。
【請求項18】
請求項16記載のライブラリーに含まれる合成オリゴヌクレオチドによりコードされるペプチドに標的RNAを接触させ、シグナルを検出することを特徴とする、RNA結合ペプチドのスクリーニング方法。

【国際公開番号】WO2005/007686
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511905(P2005−511905)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010439
【国際出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(507232135)
【Fターム(参考)】