説明

SGLT阻害剤

【課題】
本発明は、高血糖を処置するために有用である新規なSGLT阻害剤、および糖尿病およびそれに関連する合併症の治療に有用である、当該SGLT阻害剤を含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明により、式(I):


[式中、m、n、R、R、XおよびQは、本明細書に定義したとおりである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含む、SGLT阻害剤;ならびに当該阻害剤を含む医薬組成物、食品および飲料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なSGLT阻害剤、および糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害および肥満の治療または予防に使用するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の糖尿病患者は平成14年度に行われた厚生労働省の実態調査によると740万人とされ、予備軍を含めると1620万人を超えると推計されている。中でもインスリン非依存型糖尿病の2型糖尿病の患者は糖尿病発症の90%以上を占めており、その改善と予防が強く望まれている。糖尿病の治療および予防は、血糖値の適切なコントロールに因るところが大きい。グルコースの吸収および再吸収には、小腸と腎臓の上皮細胞の管腔膜に発現するナトリウム依存性糖輸送体(Na−dependent glucose transporter:SGLT)が関与している。SGLTは基質に対する親和性や遺伝子配列の違いから、SGLT1、SGLT2、SGLT3、rNaGLT1の4種類に分類されている。このSGLTを標的とした医薬品の探索研究が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
日本にのみ自生するカエデ科の植物Acer nikoense Maximowicz(和名:メグスリノキ)は、古来より樹皮が生薬として使用されていた。近年、このAcer nikoense Maximowiczより環状ジアリールヘプタノイド化合物であるアセロゲニン類が単離され、当該化合物についてリポ多糖体により活性化したマクロファージにおける一酸化窒素生成の阻害活性が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
【化1】

【0005】
また、コケ植物Plagiochila acanthophylla subsp.japonica(和名:コハネゴケ)からは、ジアリールエーテル構造およびビフェニル構造を有するプラギオチン類が単離され(非特許文献2)、当該化合物についてリポ多糖体により活性化したマクロファージにおける一酸化窒素生成の阻害活性(非特許文献3)が報告されている。
【0006】
【化2】

【0007】
また、類似化合物の天然からの単離も報告されており、これらについて肝臓X受容体に対する作用(特許文献2、非特許文献4)が報告されている。
さらに、アセロゲニン類の化学合成による製造方法についても報告されている(非特許文献5)。
【特許文献1】特開2006−117651号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2005/092323A1
【非特許文献1】Journal of Natural Products,2003年、66巻、1号、86〜91頁
【非特許文献2】Tetrahedron Letters、1987年、28巻、50号、6295〜6298頁
【非特許文献3】Journal of Natural Products、2005年、68巻、12号、1779〜1781頁
【非特許文献4】FEBS Letters、2005年、579巻、5299〜5304頁
【非特許文献5】Journal of Organic Chemistry、1999年、64巻、914〜924頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高血糖を処置するために有用である新規なSGLT阻害剤、および糖尿病およびそれに関連する合併症の治療に有用である、当該SGLT阻害剤を含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、種々の化合物について試験、研究を行った結果、天然由来の環状化合物およびその類縁体にSGLT1またはSGLT2の阻害活性を見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の1つの側面によれば、式(I):
【0011】
【化3】

【0012】
[式中、nおよびmは、独立に、0〜4から選択される整数であり;
およびRは、独立に、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、(C1−6アルキル)アミノ、ジ(C1−6アルキル)アミノ、メルカプト、C1−6アルキルチオ、C1−6アルキルスルフィニル、およびC1−6アルキルスルホニルから選択され;
は、直接結合、CH、O、NH、N(C1−6アルキル)、S、SOまたはSOであり;
Qは、C2−10アルキレンであり、当該アルキレンは、1または2のフェニレンおよび/またはXが挿入されていてもよく;ここでQは置換可能な炭素原子上を1以上の置換基により置換されていてもよく、当該置換基は、独立に、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、(C1−6アルキル)アミノ、ジ(C1−6アルキル)アミノ、メルカプト、C1−6アルキルチオ、C1−6アルキルスルフィニル、C1−6アルキルスルホニルおよびオキソから選択され;
は、O、NH、N(C1−6アルキル)、S、SOまたはSOである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含む、SGLT阻害剤が提供される。
【0013】
本発明の別の側面によれば、式(II):
【0014】
【化4】

【0015】
[式中、mは0〜3から選択される整数であり;
は、ヒドロキシまたはC1−6アルコキシであり;
n、R、R、XおよびQは、本明細書に定義したとおりである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含むSGLT阻害剤が提供される。
【0016】
本発明のさらなる側面によれば、式(III):
【0017】
【化5】

【0018】
[式中、m、n、R、R、R、XおよびQは、本明細書に定義したとおりである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含む、SGLT阻害剤が提供される。
【0019】
本発明の別の態様において、式(I)、(II)および(III)のXは、直接結合またはOである。
本発明の1つの態様において、式(I)、(II)および(III)のQは、C6−8アルキレンまたは−(C1−2アルキレン)−(フェニレン)−X−(フェニレン)−(C1−2アルキレン)−であり;ここでQは置換可能な炭素原子上を1以上の置換基により置換されていてもよく、当該置換基は、独立に、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、(C1−6アルキル)アミノ、ジ(C1−6アルキル)アミノ、メルカプト、C1−6アルキルチオ、C1−6アルキルスルフィニル、C1−6アルキルスルホニルおよびオキソから選択され;Xは、直接結合、O、NH、N(C1−6アルキル)、S、SOまたはSOである。当該態様において、Xは、特に、直接結合またはOである。
【0020】
本発明のさらなる側面によれば、本明細書に定義されるSGLT阻害剤を含む医薬組成物、特に1型糖尿病、2型糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害および肥満の治療または予防に使用するための医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明のさらなる側面によれば、本明細書に定義されるSGLT阻害剤を含む血糖低下剤、または抗糖尿病剤が提供される。
本発明のさらなる側面によれば、本明細書に定義されるSGLT阻害剤を含む食品または飲料が提供される。
【0022】
本明細書において「C1−6アルキル」とは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、3−メチルブチル、2−メチルブチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3−エチルブチル、2−エチルブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロプロピルメチルなどが含まれ、例えば、C1−4アルキルおよびC1−3アルキルなども含まれる。
【0023】
本明細書において「C1−6アルコキシ」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルオキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、3−メチルブトキシ、2−メチルブトキシ、1−メチルブトキシ、1−エチルプロポキシ、n−ヘキシルオキシ、4−メチルペントキシ、3−メチルペントキシ、2−メチルペントキシ、1−メチルペントキシ、3−エチルブトキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロプロピルメチルオキシなどが含まれ、例えば、C1−4アルコキシおよびC1−3アルコキシなども含まれる。
【0024】
本明細書において「C1−6アルキルアミノ」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルアミノ基を意味し、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、i−プロピルアミノ、n−ブチルアミノ、s−ブチルアミノ、i−ブチルアミノ、t−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、3−メチルブチルアミノ、2−メチルブチルアミノ、1−メチルブチルアミノ、1−エチルプロピルアミノ、n−ヘキシルアミノ、4−メチルペンチルアミノ、3−メチルペンチルアミノ、2−メチルペンチルアミノ、1−メチルペンチルアミノ、3−エチルブチルアミノ、2−エチルブチルアミノ、シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、およびシクロプロピルメチルアミノなどが含まれ、例えば、C1−4アルキルアミノおよびC1−3アルキルアミノなども含まれる。
【0025】
本明細書において「ジ(C1−6アルキル)アミノ」とは、同一であっても異なってもよい既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を2つのアルキル部分として有するジアルキルアミノ基を意味し、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn−プロピルアミノ、ジi−プロピルアミノ、ジn−ブチルアミノ、ジt−ブチルアミノ、エチル(メチル)アミノ、n−プロピル(メチル)アミノ、i−プロピル(メチル)アミノ、n−ブチル(メチル)アミノ、s−ブチル(メチル)アミノ、i−ブチル(メチル)アミノ、t−ブチル(メチル)アミノ、ジシクロプロピルアミノ、シクロブチル(メチル)アミノ、シクロペンチル(メチル)アミノ、シクロヘキシル(メチル)アミノ、およびシクロプロピルメチル(メチル)アミノなどが含まれ、例えば、ジ(C1−4アルキル)アミノおよびジ(C1−3アルキル)アミノなども含まれる。
【0026】
本明細書において「C1−6アルキルチオ」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルチオ基(−S(C1−6アルキル))を意味し、例えば、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、i−プロピルチオ、n−ブチルチオ、s−ブチルチオ、i−ブチルチオ、t−ブチルチオ、n−ペンチルチオ、3−メチルブチルチオ、2−メチルブチルチオ、1−メチルブチルチオ、1−エチルプロピルチオ、n−ヘキシルチオ、4−メチルペンチルチオ、3−メチルペンチルチオ、2−メチルペンチルチオ、1−メチルペンチルチオ、3−エチルブチルチオ、2−エチルブチルチオ、シクロプロピルチオ、シクロブチルチオ、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオ、およびシクロプロピルメチルチオなどが含まれ、例えば、C1−4アルキルチオおよびC1−3アルキルチオなども含まれる。
【0027】
本明細書において「C1−6アルキルスルフィニル」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルスルフィニル基(−SO(C1−6アルキル))を意味し、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、n−プロピルスルフィニル、i−プロピルスルフィニル、n−ブチルスルフィニル、s−ブチルスルフィニル、i−ブチルスルフィニル、t−ブチルスルフィニル、n−ペンチルスルフィニル、3−メチルブチルスルフィニル、2−メチルブチルスルフィニル、1−メチルブチルスルフィニル、1−エチルプロピルスルフィニル、n−ヘキシルスルフィニル、4−メチルペンチルスルフィニル、3−メチルペンチルスルフィニル、2−メチルペンチルスルフィニル、1−メチルペンチルスルフィニル、3−エチルブチルスルフィニル、2−エチルブチルスルフィニル、シクロプロピルスルフィニル、シクロブチルスルフィニル、シクロペンチルスルフィニル、シクロヘキシルスルフィニル、およびシクロプロピルメチルスルフィニルなどが含まれ、例えば、C1−4アルキルスルフィニルおよびC1−3アルキルスルフィニルなども含まれる。
【0028】
本明細書において「C1−6アルキルスルホニル」とは、アルキル部分として既に定義した炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルスルホニル基(−SO(C1−6アルキル))を意味し、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、n−プロピルスルホニル、i−プロピルスルホニル、n−ブチルスルホニル、s−ブチルスルホニル、i−ブチルスルホニル、t−ブチルスルホニル、n−ペンチルスルホニル、3−メチルブチルスルホニル、2−メチルブチルスルホニル、1−メチルブチルスルホニル、1−エチルプロピルスルホニル、n−ヘキシルスルホニル、4−メチルペンチルスルホニル、3−メチルペンチルスルホニル、2−メチルペンチルスルホニル、1−メチルペンチルスルホニル、3−エチルブチルスルホニル、2−エチルブチルスルホニル、シクロプロピルスルホニル、シクロブチルスルホニル、シクロペンチルスルホニルル、シクロヘキシルスルホニル、およびシクロプロピルメチルスルホニルなどが含まれ、例えば、C1−4アルキルスルホニルおよびC1−3アルキルスルホニルなども含まれる。
【0029】
本明細書においてハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子などが挙げられる。
本発明において、置換基として選択されるオキソ基(=O)は、メチレン(CH)上の置換基として存在しうる。
【0030】
本発明の化合物には、互変異性体、幾何異性体、光学異性体等の各種の立体異性体、およびそれらの混合物が含まれる。
本明細書における「医薬として許容な塩」とは、医薬品として使用されうる塩であれば特に限定されず、酸付加塩であっても塩基付加塩であってもよい。式(I)、(II)または(III)の化合物が塩基と形成する塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩;リシン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩およびアンモニウム塩が挙げられる。式(I)、(II)または(III)の化合物が酸と形成する塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩が挙げられる。
【0031】
本明細書における「溶媒和物」には、水和物、その他医薬として許容される各種溶媒和物が含まれる。
式(I)、(II)および(III)の化合物のうち特定のものは、植物(Acer nikoense Maximowicz、Plagiochila acanthophylla subsp. japonica、Marchantia polymorpha、Marchantia palmata、Plagiochila barteri、Marchantia pappeana、Plagiochila fruticosa、Ptychanthus striatus、Pellia endiviifolia、Radula perrottetii、Riccardia multifida、Blasia pusilla L.、Mastigophora dicladosなど)から公知の方法により単離することができる(Journal of Natural Products、2005年、68巻、12号、1779〜1781頁)。したがって、本発明のSGLT阻害剤として、上記植物を乾燥して粉末としたもの、上記植物の抽出物、当該抽出物の精製物などを使用することができ、好ましくは、Acer nikoense、Maximowicz、Myrica nagi、Myrica gale、Myrica esculenta、Myrica rubraの乾燥粉末、抽出物およびその精製物を用いることができる。
【0032】
式(I)、(II)および(III)の化合物は、例えば、以下の工程により化学合成で調製することができる:
【0033】
【化6】

【0034】
[式中、m、n、R、R、XおよびQは、本明細書に定義したとおりであり;
は、ヒドロキシ、メルカプト、−NH−Yまたは−CH−Yであり;
は、水素原子、またはアミノ基の保護基(例えば、ハロゲンで置換されていてもよいC1−6アルキルカルボニル、ハロゲンで置換されていてもよいC1−6アルコキシカルボニル、ハロゲンで置換されていてもよいC1−6アルキルスルホニル、置換されていてもよいアリールカルボニル、置換されていてもよいアリールスルホニルなど)であり;
は、置換されていてもよいC1−6アルコキシカルボニル、またはシアノであり;
Lは、脱離基(例えば、ハロゲン原子(特にフッ素原子)、ハロゲンで置換されていてもよいC1−6アルキルスルホニルオキシ、置換されていてもよいアリールスルホニルオキシなど)である]。
【0035】
スキーム1の環化反応は、塩基(例えば、ブチルリチウムなどの有機金属試薬、水素化ナトリウムなどの水素化物、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、炭酸カリウムなどの炭酸塩、フッ化セシウムなどのフッ化物塩など)の存在下、例えば、室温〜150℃の反応温度で、適当な溶媒(例えば、DMF、THF、DMSOなど)を使用して行うことができ、必要であれば、適当な触媒(例えば、銅、ヨウ化銅(I)、臭化銅(I)など)を使用してもよい。
【0036】
化合物がY(アミノ基の保護基)またはYを含む場合は、環化反応後に当該基を除去する工程を行うことにより、式(I)の化合物を得ることができる。
例えば、Journal of Organic Chemistry、1999年、64巻、914〜924頁に開示された方法(下記のスキーム2)により、アセロゲニンCおよびアセロゲニンAを良好な収率で調製することができる。
【0037】
【化7】

【0038】
本発明の医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができ、非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0039】
当該医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、例えば、1種以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を含みうる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0040】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができ、本発明の医薬組成物は、治療有効量および/または予防有効量の上記式(I)、(II)または(III)の化合物を含むことができる。本発明において上記式(I)または(Ia)の化合物は、一般に0.1〜2000mg/日/成人、例えば10〜2000mg/日/成人、好ましくは10〜1000mg/日/成人の用量で使用されうる。当該医薬組成物の投与は、単回投与または複数回投与であってもよく、例えば他の薬剤(グリベンクラミドなどのスルホニルウレア、メトホルミンなどのビグアニド剤、インスリン(合成インスリン類縁体を含む)、プラバスタチンなどのHMG−CoA阻害剤、ピオグリタゾンなどのインスリン抵抗性改善剤、α―グルコシダーゼ阻害剤、グルカゴン様ペプチドー1(GLP−1)様製剤など)と組み合わせて使用することもできる。
【0041】
本発明に係る食品および飲料には、固形および半固形の食品ならびに液体飲料が含まれる。本発明のSGLT阻害剤は、食品添加物などとして使用してもよい。また本発明に係る食品および飲料は、機能性食品として使用できるほか、医薬品、医薬部外品、飲食物として使用することができる。当該使用により、本発明のSGLT阻害剤を含む食品または飲料の日常的および継続的な摂取が可能となり、糖分の吸収および再吸収または高血糖の効果的な予防または改善、および生活習慣病(例えば、肥満、糖尿病など)の効果的な予防が可能となる。
【0042】
本発明のSGLT阻害剤を含む食品または飲料の例としては、血糖値抑制効果を有する機能性食品、健康食品、健康補助食品、栄養補助食品(栄養ドリンク等)、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、一般食品(ジュース、菓子、加工食品等)などが含まれる。本明細書における食品または飲料は、任意の添加物として、鉄およびカルシウムなどの無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖およびキトサンなどの食物繊維、大豆抽出物などのタンパク質、および甘味料・矯味料を含むことができる。
【0043】
本発明のSGLT阻害剤は、特に、SGLT1および/またはSGLT2に対して高い阻害活性を有し、良好な血糖値低下作用を発揮する。さらに、本発明のSGLT阻害剤は、高い安全性を有し、天然成分として食品や飲料に添加することもできる。
【0044】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
試験方法
1)プラスミドの構築
ヒト由来のSGLT1およびSGLT2遺伝子をPCRにより増幅させた。ヒトの小腸および肝臓のcDNAライブラリーから作成したテンプレートを使用した。用いたプライマーは、センス側をNH末端、アンチセンス側をCOOH末端の相同な配列とし、hSGLT1およびhSGLT2の双方について、サブクローンを行うためにプライマーのコード配列がEcoR Iサイトを含むように設計した。
【0046】
PCR増幅により得られた核酸をEcoR Iを用いて1995bp(hSGLT1)および2019bp(hSGLT2)の断片に切断し、EcoR Iで処理したプラスミドpBluescript SK+(Stratagene製)の該制限酵素部位にサブクローンを行った。得られた配列を確認した後に、EcoR Iで処理したpcDNA3(Invitrogen製)に再度サブクローンを行い、トランスポータープラスミド(pCMV−hSGLT−1およびpCMV−hSGLT−2)を得た。
【0047】
2)SGLT1およびSGLT2を発現させた細胞におけるメチル α−D−グルコピラノシドの取り込み試験
COS−1細胞を、ダルベッコの改良したEagle/Ham F12培地にウシ胎仔血清を10%添加した培地を用いて37℃で培養した。得られた培養細胞を24ウェルプレートに播き(1×10/ウェル)、サブコンフルーエントになったところで、トランスポータープラスミド(1μg)およびリポフェクタミン2000(Invitrogen製)を加えてトランスフェクションさせた。その後COS−1細胞を2〜3日間培養した後に、前処理用緩衝液[NaCl(140mM)、KCl(2mM)、CaCl(1mM)、MgCl(1mM)およびHepes/Tris(pH7.5、10mM)]を用いて、37℃で30分間インキュベートした。この培養細胞にグルコピラノシド溶液[メチル α−D−グルコピラノシド(80mM)およびメチル α−D−[U−14C]グルコピラノシド(4μCi/mL)]を各ウェルに加えて、37℃で30分間インキュベートした後、ウェルプレートをphlorizin(300mM)を含む冷却したストップバッファー[NaCl(140mM)、KCl(2mM)、CaCl(1mM)、MgCl(1mM)およびHepes/Tris(pH7.5、10mM)]で3回洗浄した。洗浄後、細胞を0.1M水酸化ナトリウム水溶液で溶解させ、放射線量を液体シンチレーションカウンター(3100TR、Parkin−Elmer製)で測定した。なお、被験物質は、DMSOで溶解し、前処理用緩衝液に最終濃度50μMとなるように添加した。コントロール群には、前処理用緩衝液にDMSOを最終濃度0.5%となるように添加した。
【0048】
阻害率は、コントロール群の糖取り込み量(SGLT発現プラスミドを導入した群)からベースとなる糖取り込み量(SGLT発現プラスミドの代わりにpcDNA3プラスミドのみを導入した群)を差し引いた値を100%とし、被験物質を加えた群の糖取り込み量からベースとなる糖取り込み量を差し引いた値を上記のコントロール群の値で割った値より算出した。
【0049】
化合物
以下の化合物を使用して試験を行った。
【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
化合物1〜10は以下の方法により入手した。アセロゲニンA(化合物1)およびアセロゲニンB(化合物2)は、非特許文献1に記載の方法に従い、Acer. nikoenseの樹皮のメタノール抽出物から単離精製した。化合物3は、Chemical and Pharmaceutical Bulletin 31, 1917-1922 (1983) に記載の方法に従い調製した。化合物4および5は、Chemical and Pharmaceutical Bulletin 26, 2805-2810 (1978) に記載の方法で、アセロゲニンAをメチル化および酸化することにより調製した。化合物6および7は、Chemical and Pharmaceutical Bulletin 28, 1300-1303 (1980) に記載の方法で、アセロゲニンBをメチル化および酸化することにより調製した。ミリカノン(化合物8)は、Bioorganic & Medical Chemistry 10, 3361-3365 (2002) に記載の方法により調製した。ミリカノール(化合物9)は、Chemical and Pharmaceutical Bulletin 50 (2), 208-215 (2002) に記載の方法により、Myrica rubra のメタノール抽出物から単離精製した。
【0053】
化合物10〜17は以下の方法により入手した。マルカンチンD(化合物10)、マルカンチンE(化合物11)およびマルカンチンC(化合物15)は、Phytochemistry 26, 1811-1816 (1987) に記載の方法によりMarchantia polymorphaのメタノール抽出物から単離精製した。プラギオチンB(化合物12)は、Plagiochila acanthophylla subsp. japonica のメタノール抽出物から単離精製した(Tetrahedron Letter 28, 6295-6298 (1987)を参照)。リカルジンC(化合物13)およびリカルジンF(化合物14)は、Tetrahedron 52, 14487-14500 (1996) に記載の方法によりBlasia pusilla L.のメタノール抽出物から単離精製した。マルカンチンB(化合物16)は、Chem. Pharm. Bull. 42 (6), 1376-1378 (1994) に記載の方法によりMarchantia paleacea のメタノール抽出物から単離精製した。イソプラギオチンD(化合物17)は、Plagiochila fruticosa のメタノール抽出物から単離精製した(Chemistry Letter 26, 741-742 (1996)を参照)。
【0054】
各化合物のSGLT−1またはSGLT−2の阻害活性の測定結果を表1および表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
植物抽出物
メグスリノキ(Acer nikoense)のメタノール抽出物および酢酸エチル抽出物を以下のように調製した。Acer nikoenseの乾燥樹皮(5kg)を細断し、還流下のメタノールで7回抽出し、溶媒を留去してメタノール抽出物(709g)を得た。メタノール抽出物を熱水(1.5L)に加え、撹拌した。冷却後に、分液漏斗を使用して、エーテル、酢酸エチル、ブタノールの順に抽出し、エーテル抽出物(94g)、酢酸エチル抽出物(220g)、およびブタノール抽出物(290g)を得た(Chemical and Pharmaceutical Bulletin 31, 1917-1922(1983)を参照)。
【0058】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、nおよびmは、独立に、0〜4から選択される整数であり;
およびRは、独立に、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、(C1−6アルキル)アミノ、ジ(C1−6アルキル)アミノ、メルカプト、C1−6アルキルチオ、C1−6アルキルスルフィニル、およびC1−6アルキルスルホニルから選択され;
は、直接結合、CH、O、NH、N(C1−6アルキル)、S、SOまたはSOであり;
Qは、C2−10アルキレンであり、当該アルキレンは、1または2のフェニレンおよび/またはXが挿入されていてもよく;ここでQは置換可能な炭素原子上を1以上の置換基により置換されていてもよく、当該置換基は、独立に、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、(C1−6アルキル)アミノ、ジ(C1−6アルキル)アミノ、メルカプト、C1−6アルキルチオ、C1−6アルキルスルフィニル、C1−6アルキルスルホニルおよびオキソから選択され;
は、O、NH、N(C1−6アルキル)、S、SOまたはSOである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含む、SGLT阻害剤。
【請求項2】
が直接結合またはOである、請求項1に記載のSGLT阻害剤。
【請求項3】
式(II):
【化2】

[式中、mは0〜3から選択される整数であり;
は、ヒドロキシまたはC1−6アルコキシであり;
n、R、R、XおよびQは、請求項1に定義したとおりである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含む、請求項1または2に記載のSGLT阻害剤。
【請求項4】
式(III):
【化3】

[式中、m、n、R、R、R、XおよびQは、請求項3に定義したとおりである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩もしくは溶媒和物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のSGLT阻害剤。
【請求項5】
Qが、C6−8アルキレンまたは−(C1−2アルキレン)−(フェニレン)−X−(フェニレン)−(C1−2アルキレン)−であり;ここでQは置換可能な炭素原子上を1以上の置換基により置換されていてもよく、当該置換基は、独立に、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、(C1−6アルキル)アミノ、ジ(C1−6アルキル)アミノ、メルカプト、C1−6アルキルチオ、C1−6アルキルスルフィニル、C1−6アルキルスルホニルおよびオキソから選択され;
は、直接結合、O、NH、N(C1−6アルキル)、S、SOまたはSOである、請求項1〜4のいずれか1項の記載のSGLT阻害剤。
【請求項6】
が直接結合またはOである、請求項5に記載のSLGT阻害剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のSGLT阻害剤を含む医薬組成物。
【請求項8】
1型糖尿病、2型糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害および肥満の治療または予防に使用するための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のSGLT阻害剤を含む血糖低下剤。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のSGLT阻害剤を含む抗糖尿病剤。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のSGLT阻害剤を含む食品または飲料。

【公開番号】特開2010−90086(P2010−90086A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264282(P2008−264282)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】