説明

SiC単結晶の製造方法

【課題】溶液法によって大口径のSiC単結晶を連続的に成長させる方法を提供する。
【解決手段】Si融液中にCが溶け込んだSiC溶液102からSiC単結晶120を製造する方法であって、SiC溶液102を収容した黒鉛坩堝104の上部開口端112で、円板状のSiC種結晶114のa面を含む円周面をSiC溶液102に側方から接触させ、種結晶114の円周面にSiC単結晶120を成長させつつ、成長の速度に同期させて、円板状のSiC種結晶114を板面に垂直なc軸周りであるR方向に回転させると同時に回転の軸116を上部開口端112からT方向に遠ざけることにより成長するSiC結晶120を巻き取って、連続的に円板状のSiC単結晶120を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液法によってSiC単結晶を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCの結晶構造は六方晶が代表的であり、バルクのSiC単結晶を工業的に製造する方法としては、昇華法と溶液法が最も一般的である。昇華法では、縦型の装置内の上部に配置した種結晶に結晶成分を含むガスを搬送して、装置の高さ方向すなわちSiC結晶のc軸方向に単結晶を成長させる。溶液法では、縦型の装置内の上部から伸びた軸の下端に配置した種結晶を結晶成分を含む溶液(Cを含有するSi融液)に接触させて、装置の高さ方向すなわちSiC結晶のc軸方向に単結晶を成長させる。
【0003】
このようにして得られるc軸方向に長いSiC単結晶インゴットを、c軸と直角なa軸方向に輪切りにして、半導体ウェハ等として用いており、得られるウェハの口径はインゴットの直径である。半導体デバイスの製造においては、生産性および歩留まりの向上が常に求められており、そのためにはウェハの大口径化が必須である。
【0004】
そのため、上記のようにc軸方向へ成長させる方法では、インゴットの直径すなわちa軸方向の寸法を大きくする必要がある。しかし、インゴット横断面内で成長条件(温度、温度勾配、C濃度など)を常に均一に保つのは、直径が大きくなるほど困難になるため、直径増大には限界があった。
【0005】
また、貫通欠陥はc軸方向に伸びるため、c軸方向への成長では一旦発生した貫通欠陥が結晶成長と共に伸びてしまい、貫通欠陥を解消できないという問題もあった。
【0006】
そこで、c軸方向への成長させる代わりに、a軸方向へ成長させることが考えられる。
【0007】
特許文献1には、半導体材料としてのSi単結晶の融液を収容する坩堝の下部にスリットを設け、スリットから染み出る上記融液に種結晶を接触させ、種結晶を水平方向に引っ張ることにより、幅広のリボン状単結晶を連続して成長させる方法が提案されている。しかし、この方法は、得られるリボン状単結晶の幅がスリット幅に限定されてしまう、という問題があった。
【0008】
特許文献2には、上面が開放した坩堝内にSi融液を供給し、当該開放部に挿入した黒鉛製ダミープレートにSi融液を接触させ、ダミープレートを水平方向に引っ張ることにより、長尺のSi板を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では単結晶を成長させることはできない。
【0009】
特許文献3には、昇華法によるSiC単結晶を製造する際に、種結晶を配置するステージを凸形状とし、その先端に種結晶を配置し、種結晶の側面からa軸方向に単結晶を成長させる方法が開示されている。しかし、この方式は昇華法では可能であるが溶液法に適用することはできない。
【0010】
特許文献4には、種結晶から成長させた単結晶を所望の成長面で切断し、当初の種結晶よりも大口径の単結晶とし、これを種結晶として更に単結晶を成長させることを繰り返して、所望の大口径の単結晶を得る方法が開示されている。しかし、成長・切断という断続的な製造工程が煩雑であり、連続的に大口径の単結晶を成長させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭53−7310号公報
【特許文献2】特開平7−41393号公報
【特許文献3】特開2006−290685号公報
【特許文献4】特開2007−332019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、溶液法によって大口径のSiC単結晶を連続的に成長させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本願発明によれば、Si融液中にCが溶け込んだSiC溶液からSiC単結晶を製造する方法であって、
SiC溶液を収容した黒鉛坩堝の上部開口端で、円板状のSiC種結晶のa面が並んで成る円周面を該SiC溶液に側方から接触させ、該種結晶の円周面にSiC単結晶を成長させつつ、該成長の速度に同期させて、該円板状のSiC種結晶を板面に垂直なc軸周りに回転させると同時に該回転の軸を上記上部開口端から遠ざけることにより成長するSiC結晶を巻き取って、連続的に円板状のSiC単結晶を成長させることを特徴とするSiC単結晶の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、従来のc軸方向への成長では不可能であった大口径のSiC単単結晶を連続的に成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、従来のc軸方向への結晶成長を行なうのに用いられているチョクラルスキー型の縦型成長装置の断面図である。
【図2】図2は、SiCの六方晶の基面とc軸およびa軸との関係を示す図である。
【図3】図3は、本発明の方法を行なうための装置を示す(1)断面図および(2)斜視図である。
【図4】図4は、本発明の方法により大口径のSiC単結晶を連続的に成長させる過程を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明によるa軸方向への結晶成長の可能性を示すために、従来の縦型成長装置を用いてa軸方向への優先成長させたSiC単結晶の(1)c面および(2)断面(a軸方向)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、比較のために、従来一般に行なわれていた縦型の成長方法を説明する。
【0017】
縦型の成長装置としては、図1に示すチョクラルスキー型の装置10が主流である。黒鉛坩堝12内のSiC溶液14を誘導コイル16で加熱し上方に向けて温度低下する縦方向の温度勾配を付与し、上下方向(両矢印)に可動な黒鉛支持棒18の下端に固定した種結晶20をSiC溶液14の液面に接触させ、種結晶20の下面にSiC単結晶を成長させる。種結晶20は下面がSiCの六方晶のc面となるようにセットされていて、この面に垂直すなわちc軸方向に成長した結晶を上方へ引き上げる、いわゆる縦型の成長を行なう。
【0018】
溶液法に限らず、昇華法等においても、成長手法は大きく異なるが、種結晶のc軸方向に成長させる点は同様であり、いずれも大口径化は上記のとおり限界がある。
【0019】
これに対して本発明は、c軸方向へ成長させる従来の成長方法とは異なり、c軸とは直角のa軸方向へ成長させる成長方法である。
【0020】
図2に、六方晶のSiCの結晶構造の基面を模式的に示す。図示したように、正六角形の基面に垂直なc軸に対して、a軸は基面の辺に垂直である。6個の辺に対応する6個のa軸が等価であるが、図を簡潔にするために2個のa軸のみを示した。
【0021】
図3(1)に、本発明の方法を行なうための装置の基本的な構成例を示す。SiC単結晶連続成長装置100は、SiC溶液部100Aと結晶回転引き出し部100Bとから成る。SiC溶液部100Aは、SiC溶液102を収容した黒鉛坩堝104と誘導コイル106とを有する。黒鉛坩堝104は上部とそれ以外の周囲とをそれぞれ断熱材108、110で覆われていて、上端開口部112のみにおいてSiC溶湯102が露出している。
【0022】
結晶回転引き出し部100Bは、図3(2)に示すように、円板状の種結晶114が中心で回転移動軸116に保持されている。種結晶114は、板面がSiCのc面であり回転移動軸116がc軸に対応しており、円板の円周面がSiCのa面に、円板の半径方向がSiCのa軸にそれぞれ対応している。
【0023】
種結晶114の円周面は一部が、上記露出したSiC溶湯102に接触しており、この接触部にSiC結晶が成長し、成長速度と同期させて回転移動軸116を回転Rおよび横移動Tさせることにより、円板が半径方向に成長する形でSiC単結晶を連続的に成長させる。
【0024】
図4を参照して、この装置により本発明の方法を行なう手順を説明する。
【0025】
図4(1)は、図3(1)に示した装置構成と基本的に同一であるが、原料供給棒118を更に備える点が異なる。結晶成長を継続的に行なうためには、坩堝104内のSiC溶液の液面高さを維持する必要がある。原料供給棒118を適宜SiC溶液102中に降下させることにより、結晶成長による結晶原料の減少に伴う液面の低下を補って一定レベルに維持することができる。
【0026】
原料はSiC溶液の溶媒Siと溶質Cであるが、Cの供給は基本的に黒鉛坩堝104から行なわれるので、原料供給棒118は一般的にはSi棒である。黒鉛坩堝104からのC供給を補うために、第2の原料棒としてC棒を用いることもできる。このように原料供給棒118等の原料供給機構を備えることにより、連続的に長時間の結晶成長が可能になる。ただし、1バッチでの成長には、SiC溶液の液面高さ維持のみ管理すればよいので、結晶成長に合わせて耐火物等をSiC溶液中に浸漬させる等の方法も可能である。
【0027】
本発明による成長を行なうには、図4(1)に示すように、結晶成長装置100のSiC溶液部100Aで、SiC溶液の原料を坩堝104内で加熱溶解し所定温度に保持する。一般には、坩堝104内にSi原料を装入して加熱溶解してSi融液とする。このSi融液に黒鉛坩堝104からCが溶け込んでSiC溶液が形成される。以降のSiおよびCの原料供給は前記のようにして行なうことができる。
【0028】
SiC溶液部100Aの坩堝104の上端開口部112では、SiC溶液102が露出し表面張力で盛り上がった状態になる。このSiC溶液露出部に、円板状の種結晶114の円周面を接触させ、円周面すなわちa面にSiC結晶の析出・成長を開始させる。
【0029】
次に、図4(2)に示すように、結晶成長速度に同期して、結晶回転引き出し部100Bの回転移動軸116を水平回転Rおよび水平移動Tさせる。円板状の種結晶の半径を増加させる形で結晶120が連続的に成長する。原料供給棒118を矢印Sのように溶液102内に下降させ、成長に伴う溶液の原料消耗分を補う。
【0030】
更に、図4(3)に示すように、結晶回転引き出し部100Bの水平回転Rおよび水平移動Tを継続させて長時間連続的に成長を維持することにより、種結晶114は外周への結晶成長120により大口径のSiC単結晶(114+120)となる。
【実施例】
【0031】
本発明によるa軸方向への結晶成長の可能性を確認するために実験を行なった。ただし、装置は図1に示した従来の縦型成長用の装置を用いて、横方向の成長を調べた。
【0032】
図5に、約10mmφの種結晶から横方向(a軸方向)に成長したSiC単結晶の写真を示す。図5(1)は種結晶のc面、図5(2)は種結晶の断面(a軸方向)を示す。温度勾配および液面温度分布を中心から外周方向に低下するよう(約0.8K/mm)に維持した。成長に要した時間は約1.5時間である。c軸方向にも約0.45mm成長しているが、a軸方向には5mm以上成長して結晶の円板面積が拡大した。この結果、温度勾配等を横向き(a軸方向)に設定すれば、a軸方向への優先成長が可能であることが分かった。実験に際しては、c軸方向に温度勾配が小さくなるように加熱条件を設定し、同時に、種結晶の設置には中空の黒鉛棒を用いて、黒鉛棒による抜熱量を極力少なくした。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、溶液法によって大口径のSiC単結晶を連続的に成長させる方法が提供される。
【符号の説明】
【0034】
100 SiC単結晶連続成長装置
100A SiC溶液部
100B 結晶回転引き出し部
102 SiC溶液
104 黒鉛坩堝
106 誘導コイル
108、110 断熱材
112 上端開口部
114 円板状種結晶
116 回転移動軸
118 原料供給棒
120 成長した結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si融液中にCが溶け込んだSiC溶液からSiC単結晶を製造する方法であって、
SiC溶液を収容した黒鉛坩堝の上部開口端で、円板状のSiC種結晶のa面を含む円周面を該SiC溶液に側方から接触させ、該種結晶の円周面にSiC単結晶を成長させつつ、該成長の速度に同期させて、該円板状のSiC種結晶を板面に垂直なc軸周りに回転させると同時に該回転の軸を上記上部開口端から遠ざけることにより成長するSiC結晶を巻き取って、連続的に円板状のSiC単結晶を成長させることを特徴とするSiC単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248003(P2010−248003A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96409(P2009−96409)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】