説明

X線分光システムおよびX線分析装置

【課題】 連続した波長を有する白色X線から、設定した波長範囲の多波長X線を容易に選択して取り出すことができるX線分光システムを提供する。
【解決手段】 白色X線が入射されるX線導波路と、前記X線導波路から出射した回折角の異なる回折X線を分離して、前記回折X線から設定した波長範囲の多波長X線を選択して取り出すためのX線選択手段とを具備するX線分光システムであって、前記X線導波路がコアとクラッドを有し、前記コアは屈折率実部の異なる複数の物質を含む基本構造が周期的に配されている周期性構造体で形成されており、前記クラッドと前記コアとの界面における前記X線の全反射臨界角が、前記コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角よりも大きいことを特徴とするX線分光システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線の波長を選択するX線分光システムおよびX線分析装置に関し、特にコアに周期性構造体を用いたX線導波路の特徴的なX線分光性能を利用したX線分光システムおよびX線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線分析において、従来の単色波長X線を用いた分析装置に代わり、短時間で分析可能な多波長X線を用いた分析装置が提案されている。例えば、X線反射率の計測においては、入射角を走査する必要がなくなるため、短時間での測定が可能となる。
【0003】
特許文献1には、金属膜等の材料のX線透過率、及びX線反射率の波長依存性を利用したハイパスフィルタ、及びローパスフィルタが開示されている。また、両者を組み合わせた白色X線からある一定の波長幅を持った多波長X線を分光するバンドパスフィルタが開示されている。一方で、任意の多波長X線による分析を実現するためにX線分光システム(ポリクロメータ)を用いたX線分析装置が開示されている。連続波長X線(以下、白色X線)から単色波長を分光するモノクロメータに対し、ポリクロメータはX線のバンドパスフィルタとして機能することを特徴とするX線分光システムである。
【0004】
特許文献2には、X線分光システムとして、大きく分けて、場所ごとに格子間隔の異なる平板結晶から構成するもの、及び格子間隔が一定で湾曲した結晶からなるものを開示している。これらは、X線分光システムに入射する白色X線のうち、下記の(式1)で表されるブラッグ条件を満たすX線が選択的に回折(反射)されるブラッグ回折(反射)という現象を利用している。
【0005】
【数1】

【0006】
式中、λはX線波長、dは格子間隔、θはX線のX線分光システムへの入射角を示す。
【0007】
特許文献2における場所ごとに格子間隔が異なる平板結晶からなるX線分光システムは、X線分光システム上のX線の入射位置に依存して格子間隔が異なるため、各格子間隔dに対応した波長λのX線が反射し、全体として、一定の波長幅を有する多波長X線を取り出すことができる。(特許文献2の図4)。一方、格子間隔が一定で湾曲した結晶からなるX線分光システムは、X線分光システム上のX線の入射位置に依存して入射角度θが異なるため、入射角度θに対応した波長λのX線が反射し、全体として、一定の波長幅を有するX線を取り出すことを特徴としている(特許文献2の図13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−246500号公報
【特許文献2】特開2008−298674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のX線分光システムには、下記の様な改善すべき課題があった。
【0010】
特許文献1では、任意の多波長X線を分光するために、ローパスフィルタとハイパスフィルタの2つ以上の光学素子を組み合わせる必要があり、比較的な大きな光学系を必要としていた。
【0011】
また、特許文献2のX線分光システムは、X線のX線分光システム上への入射位置によって格子間隔や入射角が異なる、すなわち(式1)で表されるブラッグ条件が異なることを利用して多波長X線を白色X線から選択することを特徴としている。そのため、入射光(白色X線)に空間的な幅を持たせる必要があり、ビームの取り扱いの際に制約が大きかった。
【0012】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、連続した波長を有する白色X線から、設定した波長範囲の多波長X線を容易に選択して取り出すことができるX線分光システムおよびそれを用いたX線分析装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するX線分光システムは、白色X線が入射されるX線導波路と、前記X線導波路から出射した回折角の異なる回折X線を分離して、前記回折X線から設定した波長範囲の多波長X線を選択して取り出すためのX線選択手段とを具備するX線分光システムであって、前記X線導波路がコアとクラッドを有し、前記コアは屈折率実部の異なる複数の物質を含む基本構造が周期的に配されている周期性構造体で形成されており、前記クラッドと前記コアとの界面における前記X線の全反射臨界角が、前記コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
また、上記の課題を解決するX線分析装置は、上記のX線分光システムを用いて取り出した前記多波長X線を用いたことを特徴とするX線分析装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、連続した波長を有する白色X線から、設定した波長範囲の多波長X線を容易に選択して取り出すことができるX線分光システムおよびそれを用いたX線分析装置を提供することができる。また、本発明によれば、X線導波路への入射光の白色X線に空間的な幅を持たせる必要がないため、ビームの取り扱いに制約が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のX線分光システムの一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明で用いるX線導波路の一実施形態を示す概略図である。
【図3】コアの周期性構造体内でのX線電場強度分布を示す説明図である。
【図4】周期構造と共鳴した導波モード(共鳴モード)を示す図である。
【図5】導波モードの回折角を示す図である。
【図6】実施例1および実施例2におけるX線分光システムの分光特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の係るX線分光システムは、下記のX線導波路と、所望の多波長X線を選択するためのX線選択手段とを具備することを特徴とする。
【0019】
X線導波路は、連続した波長を有する白色X線が入射した際に、前記連続した波長を有する白色X線が回折角の異なる回折X線を出射し、かつ前記回折X線の回折角が前記回折X線の波長の増加関数となる関係を有するように構成されている。前記X線導波路から出射した回折角の異なる回折X線を分離して、前記回折X線から設定した波長範囲の多波長X線を選択して取り出すことができるように構成されている。
【0020】
本発明のX線分光システムは、例えば連続した波長を有するX線(白色X線)を入射し、それによって生じる回折X線の回折角が該X線の波長の増加関数であることを特徴とするX線導波路を用いる。この特性は、入射X線の前記X線導波路への入射位置によって依存するものではないため、入射光に空間的な幅を持たせる必要がなく、ビームを制約なく、取り扱うことができる。また、回折X線を選択するX線選択手段からなるスリットを調整することより、自在に多波長X線の波長範囲を選択することができる。
【0021】
また、本発明のX線分光システムは、前記X線導波路がコアとクラッドを有し、前記コアは屈折率実部の異なる複数の物質を含む基本構造が周期的に配されている周期性構造体で形成されている。そして、前記クラッドと前記コアとの界面における前記X線の全反射臨界角が、前記コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角よりも大きいことを特徴とする。
【0022】
前記X線導波路のコアとなる周期性構造体を、両親媒性有機物の自己集合プロセスにより作製することにより、簡単なプロセスで高度な周期構造体を作製することができるため、簡便、短時間、かつ安価に、優れたX線分光システムを製造することができる。また、この工程での作製条件を調整することにより、X線分光システムの光学特性を制御することができる。
【0023】
図1は、本発明のX線分光システムの一実施形態を示す概略図である。図1において、本発明に係るX線分光システムは、X線導波路101と多波長X線を選択するためのX線選択手段104とを具備することを特徴とする。X線導波路101に、連続した波長を有する白色X線(入射X線)102が、一定の角度で入射した際に、前記白色X線がX線の波長に依存して回折角の異なる回折X線103に回折される。白色X線102がX線導波路101の端面部から入射し、X線導波路101はX線が出射する際に回折角α方向に回折X線103を出射する。回折角αは、X線の波長に応じて異なり、波長が長いX線ほど広角側へX線が回折され、いわばX線導波路101はプリズムとして機能し、波長に応じてX線を空間的に分離する。これは、後述の本発明のX線導波路の特性に由来する。
【0024】
多波長X線を選択するためのX線選択手段104では、X線導波路101から出射された回折角の異なる回折X線103を分離して、前記回折X線から設定した波長範囲の多波長X線を選択して取り出す。回折X線103のうち、多波長X線を選択するためのX線選択手段104で不要な波長範囲のX線を除去し、必要とされる波長範囲のX線(多波長X線105)を選択的に透過させる。この際に得られる多波長X線105は、ある程度の発散角を有する。そのため、多波長X線を選択する手段で取り出された設定した波長範囲の回折X線を集光あるいは平行化するX線光学素子を具備してよい。そして必要に応じて、集光、あるいは平行化ミラー(X線光学素子106)を用いて調整し、より効率的にX線照射部107にX線を照射する。
【0025】
多波長X線105の波長範囲に0.2nm以上(6.2keV以下)の波長のX線が含まれる場合、空気によるX線の吸収等が顕著になるため、X線分光システム全体を真空チャンバーで覆い、システム内を減圧することが好ましい。
【0026】
設定した波長範囲の多波長X線とは、設定した波長範囲からなるX線を表す(図1の105)。
【0027】
(X線導波路)
図2は、本発明で用いるX線導波路の一実施形態を示す概略図である。本発明に係るX線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコア201と、前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッド202から構成されている。前記コア201は、屈折率実部が異なる複数の物質からなる複数の基本構造が周期的に配されて形成されている周期性構造体からなる。そして、前記クラッドと前記コアとの界面における前記X線の全反射臨界角θが、前記コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角θよりも大きい(θ>θ)ことを特徴とする。
【0028】
本発明のX線導波路は、コア201に周期性構造体を用いることにより、その周期構造の周期性と共鳴する導波モードを選択的に利用することができるX線導波路である。
【0029】
(X線)
本発明において、X線とは、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域の電磁波である。具体的には、本発明におけるX線とは、極端紫外光(Extreme Ultra Violet(EUV)光)を含む100nm以下の波長の電磁波を指す。このような短波長の電磁波の周波数が非常に高く物質の最外殻電子が応答できないため、紫外光の波長以上の波長をもつ電磁波(可視光や赤外線)の周波数帯域と異なる。そして、X線に対しては物質の屈折率の実部が1より小さくなることが知られている。このようなX線に対する物質の屈折率nは一般的に、下記の式(2)
【0030】
【数2】

【0031】
で表されるように、実数部の1からのずれ量δ、吸収に関係する虚数部の
【0032】
【数3】

【0033】
を用いて表される。
【0034】
原子固有のエネルギー吸収端が寄与する場合を除き、一般に、δは物質の電子密度ρに比例するため電子密度の大きい物質ほど屈折率実部が小さくなる。屈折率実部は、
【0035】
【数4】

【0036】
となる。さらに、電子密度ρは原子密度ρと原子番号Zに比例する。このようにX線に対する物質の屈折率は複素数で表されるが、その実部を本明細書中では屈折率実部または屈折率の実部と称し、虚部を屈折率虚部または屈折率の虚部と称する。
【0037】
本明細書中では、真空も物質の一つとすると、屈折率実部が最大となる物質は真空であるが、一般的な環境下では気体でないほぼすべての物質に対して空気の屈折率実部が最大となる。本発明において屈折率実部が異なる2種以上の物質とは、多くの場合電子密度が異なる二種以上の物質であるということもできる。
【0038】
本発明における、白色X線とは、本発明のX線分光システムが分光対象とするX線であり、多波長X線105よりも広い波長範囲からなるX線を表す(図1の102)。
【0039】
(コアとクラッドの関係)
本発明のX線導波路は、コアとクラッドの界面における全反射によりX線をコアに閉じ込めてX線を導波させる。この全反射を実現するために、本発明のX線導波路は、クラッドとの界面に位置するコア材料の屈折率実部がクラッド材料の屈折率実部より大きいものである。
【0040】
本発明において、コアとクラッドの界面の全反射臨界角は、図2に示す様に、コアとクラッドとの界面からの角度として、θと表す。
【0041】
(コア)
本発明のX線導波路は、コアに屈折率実部の異なる複数の物質からなる周期性構造体を用いることを特徴とする。コアが周期構造を有していることにより、導波路中に形成される導波モードが周期構造に共鳴したものとなる。このような異なる屈折率実部の周期構造は、周期数が無限の場合、伝搬定数とX線の角周波数との間でフォトニックバンドを形成し、周期性と共鳴する特定のモードのX線しかこの構造中には存在できないことになる。
【0042】
前記周期性構造体は、基本構造が周期的に配列した構造体であり、1次元周期構造乃至3次元周期構造を例示することができる。具体的には、層状構造を基本構造としてそれらが積層した1次元周期構造、シリンダー状構造を基本構造としてそれらが配列した2次元周期構造、ケージ構造を基本構造としてそれらが配列した3次元周期構造である。
【0043】
本発明のX線導波路内に形成される周期構造に共鳴した導波モードは、前記周期性構造体の周期構造の各次元に対応した多重反射に起因する。このような導波モードは周期性により形成され、X線の電場強度分布の腹と節の位置は、基本構造を構成しているそれぞれの物質領域内の位置に一致する。その際、前記周期性構造体の電子密度の小さい物質の領域が腹となる。すなわち、X線の電場強度が透過損失の小さい物質に集中するため、この導波モードの伝搬損失が他の導波モードに比べて著しく小さくなり、その導波モードを選択的に取り出すことが可能となる。以下、この導波モードを共鳴モードと称する。
【0044】
図3は、コアの周期性構造体内でのX線電場強度分布を示す説明図である。図3は、シリカ302中で、一方向に伸びるシリンダー状の空気の孔301が、孔の長さ方向(図中z方向)に垂直な方向(x−y面内方向)で3次元三角格子構造を形成している周期性構造体中でのX線の電場強度分布の例を示す。X線の伝搬方向は紙面に垂直な方向(z方向)である。図3では、破線により構造周期dを表し、シリンダー状の空気の孔301中の白黒の濃淡はX線の電場強度を表し、この材料中に形成される導波モードのうちの一つについての電場強度分布である。黒、白がそれぞれ電場強度の大、小に相当する。電場強度を、白黒の濃淡の変わりに多数の円の間隔により説明する。シリンダー状の空気の孔301中の多数の円の間隔の大小はX線の電場強度305を表し、この材料中に形成される導波モードのうちの一つについての電場強度分布である。多数の円の間隔の小が電場強度の大、間隔の大が電場強度の小に相当する。空気の孔301の中心部分は円の間隔が小で電場強度305が強く、中心部分から孔の周囲の方向に円の間隔が傾斜して大きくなるように変化し、孔の周辺部分は円の間隔が大で電場強度が弱く表れている。電場強度の極大、極小となる領域が、x方向及びy方向で周期的に繰り返されており、電場が周期性構造体の孔(周期性構造体の基本構造305)に集中する。空気の孔301は、周期性構造体の基本構造を表す。304は周期方向を表す。
【0045】
(閉じ込め関係)
本発明のX線導波路においては、共鳴モード以外にも、コア全体を平均的な屈折率をもつ均一な媒質とした場合の導波モードが存在し、以下、これを一様モードと称する。
【0046】
一方、この一様モードに対し、本発明のX線導波路中で用いられる共鳴モードは、近接するモードに比べて損失が少なく、位相がそろったものとなる。本発明のX線導波路は、クラッドとコアの界面における全反射により、一様モード以外に、上記の共鳴モードを形成するために、構造周期303(d)が、下記の式(3)を満たすように設計されている。
【0047】
構造周期303(d)は、図3のように、導波方向(伝搬方向、z方向)に垂直な方向(x−y平面)で周期的に配されて形成される周期構造の周期(図3の破線の間隔)として定義し、その大きさはその周期構造によって異なる。また、前記周期構造の方向(図3におけるx−y平面上で破線に垂直な方向)を、本明細書中では周期方向304と定義する。図3のように2次元以上の周期構造の場合には、構造周期303及び周期方向304は複数存在することになる。構造周期303と周期方向304はX線回折によって測定することができる。特に、図3の様に、二つのクラッドによりコアが挟まれた配置となっている場合、図3の周期方向は、導波方向に垂直な方向かつクラッドに垂直な方向と一致させる。
【0048】
【数5】

【0049】
θ(°)はクラッドとコアの界面の全反射臨界角、θB−y(°)は周期方向での構造周期dによるブラッグ角、λはX線の波長、
【0050】
【数6】

【0051】
はコアの平均屈折率の実部である。
【0052】
この条件においては、本発明のX線導波路中には、一様モードだけでなく、共鳴モードが存在することになる。共鳴モードは、周期性構造体が無限であると仮定した際に周期性構造体の中に形成されるモードがクラッドとコアにおける界面の全反射で閉じ込める導波路構造により変調を受けたモードである。そのために、伝搬方向に垂直な面内における共鳴モードの電場強度分布の電場強度が極大である腹の部分と節の部分は、それぞれ周期構造の基本構造に一致したものとなる。このような共鳴モードは、近接する一様モードよりも損失が著しく小さくなるので、モード選択されたX線の導波が可能となる。
【0053】
図4は、周期構造と共鳴した導波モード(共鳴モード)を示す図である。図4(a)は、後述のメソポーラスシリカをコアし、クラッドをタングステンとした導波路中の共鳴モードの電場強度のプロファイルを示し、電場強度の極大部分がメソポーラスシリカの空孔部分に一致している。共鳴モードでは電場強度がコア中心付近に集中し、クラッドへの染み出しが少なく、位相プロファイルが制御された導波モードが実現される。図4(b)は、X線伝搬損失の伝搬角度依存性を示す図であり、約0.3°の伝搬角度の導波モードが共鳴モードに対応し、その伝搬損失が他の導波モードの伝搬損失に比べて、著しく小さくなっていることがわかる。共鳴モードの伝搬角度は周期性構造体のブラッグ角よりわずかに小さいものとなる。これらは、導波路中に存在しうる導波モードを有限要素法によって理論的に算出した結果である。図中の|E|はX線の電場強度を、yは導波路断面の空間座標を、Nは基本構造の周期数を表す。
【0054】
図4(b)に示す様に、共鳴モードの利点は、周期数Nが増えるほどその効果が顕著になって伝搬損失が低下するという点にある。これは、周期構造体による多重反射の寄与がより大きくなるためであり、対象とするX線波長域や構造周期303の大きさにもよるが、本発明のX線導波路のコアの周期構造の周期数は20以上、好ましくは50以上が望ましい。
【0055】
本発明のX線導波路のX線を閉じ込める次元は、膜状のコアをクラッドで挟み込んだ1次元のものであっても、導波方向に垂直な断面が円や方形等の形状のコアをクラッドで取り囲んだ2次元であってもよい。2次元閉じ込め型導波路では、X線が2次元的に導波路内に閉じ込められることから、1次元閉じ込め型より発散性が抑制され、かつ小さなビームサイズのX線ビームを取り出すことができる。その結果、2次元閉じ込め導波路の場合、回折X線103は2次元的に回折し、多波長X線105として選択する空間的な範囲を広げることができる。また、周期性構造体が2次元構造(基本構造:シリンダー状構造)や3次元構造(基本構造:ケージ構造)である場合には、複数存在する周期方向の周期構造と共鳴する電場強度分布を、コア内により効率的に形成させることができる。すなわち、導波路断面で2次元的に位相プロファイルが制御されたX線ビームを提供することができる。
【0056】
(クラッド材料)
クラッドとコアの界面におけるクラッド側の物質の屈折率実部をncladding、コアの屈折率実部をncoreとする。この場合における、膜の面に平行な方向からの全反射臨界角θ(°)は、ncladding<ncoreとして、下記の式(4)で表される。
【0057】
【数7】

【0058】
本発明のX線導波路のクラッド材料は、導波路のその他の構造パラメータ、物性パラメータが、式(4)を満たすもので構成することができる。例えば、コアに三角格子状に空孔が閉じ込め方向における周期10nmで配列した二次元周期構造であるメソポーラスシリカを用いた場合、Au、W、Taなどでクラッドを構成することができる。
【0059】
ただし、クラッドの材料には、本発明のX線分光システムが分光対象とする波長域(エネルギー域)のX線の吸収率が小さい材料を用いることが好ましい。特に、X線の分光対象波長域にX線の吸収端がない材料をクラッドに用いることが好ましい。
【0060】
(周期性構造体の材料)
本発明のX線導波路のコアに用いられる周期性構造体の材料は、特に限定されることなく、従来のトップダウンプロセスや自己集合プロセスによって作製される周期性構造体等を用いることができる。例えば、スパッタや蒸着法によって作製される多層膜や、フォトリソグラフィーや電子ビームリソグラフィー、エッチングプロセス、積層や貼り合わせ、などによって作製される周期性構造体等を用いることができる。特に、周期性構造体を構成する物質に酸化物を用いることによって、酸化劣化を防ぐことができる。
【0061】
本発明のX線導波路のコアとしては、特に、その製造工程の簡便性や規則性の高い周期構造の要請から、コアが有機物質と無機物質からなるメソ構造体膜であることが好ましく、さらに、X線の透過率の観点から、メソポーラス膜であることが好ましい。これについて以下に説明する。
【0062】
本発明におけるメソ構造体膜とは、有機成分と無機成分がナノメートルオーダーのスケールで交互に配置された複合材料膜であり、有機成分は界面活性剤に代表される両親媒性物質が自己集合したものである。両親媒性物質の自己集合を利用することにより、高い構造規則性を有するメソ構造体膜を形成することができる。その構造には、層状構造を基本構造としてそれらが積層した1次元周期構造、シリンダー状構造を基本構造としてそれらが配列した2次元周期構造、ケージ構造を基本構造としてそれらが配列した3次元周期構造がある。メソポーラス膜は、このメソ構造体膜から有機成分を除去したもので、空孔が高い秩序をもって配列した多孔質材料の膜である。ただし、本発明においては、必要とする性能を有する限りにおいて、メソポーラス膜の空孔内に有機成分が残存していいても構わない。
【0063】
多孔質材料は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)によって、その孔径により分類されている。孔径が2から50nmの多孔質材料は、メソポーラス材料に分類される。これらの材料は、主に酸化物の前駆体である反応液を基板上に塗布等のプロセスによって付与することによって、自己集合的に周期構造が形成される。そのため、従来の半導体プロセスの多数のプロセスを要せず、極めて簡便かつ高いスループットで作製することが可能である。また、数十nmの周期性構造体を形成することは、従来のトップダウンプロセスでは極めて困難であり、特に2次元以上の周期性構造体を作製することはほぼ不可能であると言ってよい。
【0064】
本発明のメソ構造体膜は、無機成分と有機成分によって周期構造を形成している。無機成分には、無機酸化物が用いられることが好ましく、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等を例示することができる。有機成分には、例えば界面活性剤に代表される両親媒性分子、ブロックポリマー、シロキサンオリゴマーのアルキル鎖部分、あるいはシランカップリング剤のアルキル鎖部分等を挙げることができる。界面活性剤としては、C1225(OCHCHOH、C1635(OCHCH10OH、C1837(OCHCH10OH、Tween 60(東京化成工業)、Pluronic L121(BASF社)、Pluronic P123(BASF社)、Pluronic P65(BASF社)、Pluronic P85(BASF社)等を例示することができる。それらの無機成分および有機成分の種類、分子量、親水部と疎水部の分子量比等を適切に選択することにより周期性構造体の周期構造の次元や構造周期(ブラッグ回折から得られる面間隔)を調整することができる。表1に用いられる有機物に対する周期性構造体の構造を例示する。
【0065】
【表1】

【0066】
本発明のメソ構造体膜は、コアを、有機物を含む反応液を用いた自己集合プロセスにより作製することが好ましい。具体的には、その有機成分と無機成分の前駆体を含む反応液を基板等に付与して自己集合プロセスによって形成される。反応液の付与の方法は、従来公知の方法を用いることができ、基板にスピンコートやディップコートによって塗布する方法や基板に反応液を接触保持して加熱する水熱合成法等を例示することができる。メソ構造体膜からメソポーラス膜を作製するためには、焼成、有機溶媒による抽出、オゾン酸化処理等の従来公知の方法によって有機成分を除去することができる。
【0067】
周期性構造体を形成する無機材料には、本発明のX線分光システムが分光対象とする波長域(エネルギー域)のX線の吸収率が小さい材料を用いることが好ましい。特に、X線の分光対象波長域にX線の吸収端がない材料を周期性構造体に用いることが好ましい。
【0068】
(白色X線の入射)
図1において、連続した波長を有する白色X線102は、放射光X線、金属ターゲットに電子が衝突した際に発生するX線、材料からの蛍光X線等を本発明のX線分光システムで用いることができる。白色X線102は、例えばX線導波路101の端面部から入射される。端面部分から白色X線102が入射されることにより、伝搬角の異なる複数の導波モードに同時に結合され、その中から伝搬損失の小さい共鳴モードが選択的に透過する。また、白色X線102は、分光対象の最短波長の周期性構造体の周期構造と共鳴したブラッグ角より大きい集光角でX線導波路101の端面から入射されることがさらに好ましい。この条件により、共鳴モードに十分に結合することが可能であり、より強い強度の多波長X線105を取り出すことができる。
【0069】
(回折方向のX線波長依存性)
本発明のX線導波路から出射したX線は、出射部分で回折現象を生じる。そのため、導波モードに対応した干渉パターン(回折パターン)を導波路後方部に形成する。図5は、本発明のX線導波路から出射したX線が形成する回折パターン(フラウンホーファー回折)の一例を示す(d=10nm、周期数100)。X線の伝搬角度が大きくなるにつれて、回折X線の回折角αが大きくなることがわかる。また、矢印で示した伝搬角度の導波モードが共鳴モードであり、その伝搬角度及び回折角αがX線波長の増加関数であることも確認できる。前述のとおり、本発明のX線導波路は、共鳴モードの損失が他の導波モードと比べて著しく小さく、選択的に透過すため、X線導波路から出射する回折X線の回折角は、主として共鳴モードに対応する回折角となる。そのため、本発明のX線導波路からの出射した回折X線の回折角αはX線波長の増加関数となる。
【0070】
周期性構造体の材料によるが、一般に、回折X線の回折角αは周期性構造体の構造周期dの増大とともに減少する。そのため、本発明のX線分光システムの分光特性を周期性構造体の構造周期を変えることで、適宜調整することができる。
【0071】
(多波長X線を選択するX線選択手段)
図1における多波長X線を選択するためのX線選択手段104としては、特定の空間範囲のX線を透過させる開口部108を有する遮蔽部材等を用いることができ、スリットやピンホール等の光学部材を例示することができる。これらは不要な回折X線を吸収等によって除去する限り、いかなる材料で構成されていてもかまわない。X線の除去は、主に遮蔽部材による吸収によって起きるため、スリットの厚みは、不要な回折X線を十分に吸収できるだけの長さが必要となり、適宜設計すればよい。
【0072】
1次元周期構造体をコアに用いた場合を例にとって以下に説明する。
【0073】
スリット(多波長X線を選択するためのX線選択手段104を表す。)及びその配置位置は、図1における回折X線の回折X線の回折角αと入射X線102の周期性構造体101への入射位置からのスリットの距離Lから計算され、決定することができる。図1において、回折角がαである波長のX線を選択したい場合、スリットは下記の式(5)を満たす位置に配置される。回折角αが広角である場合には、スリットに対して回折X線103が垂直に当たるように、その向きを適宜調整して配置することができる。
【0074】
【数8】

【0075】
(LはX線導波路101の出射位置とスリット面との間の法線距離、Hは入射X線102とスリットの開口部の中心位置のスリット面の法線との間の距離を表す。)
【0076】
図1のスリットの距離Lは、以下の式(6)の条件を満たしていることによって、フラウンホーファー回折に基づく良好な回折パターン形成され、回折X線103を好ましく分離(分光)することができる。
【0077】
【数9】

【0078】
ここで、DはコアのX線導波方向の断面の大きさ、λminは本発明のX線分光システムが対象とする最短波長である。
【0079】
また、本発明では、スリットは不要な波長範囲のX線を除去することが目的であるため、回折X線103のうち、回折角αが低角の比較的短波長のX線のみを除去する、あるいは回折角αが広角の比較的長波長のX線のみを除去するX線の遮蔽板も含まれる。
【0080】
スリットに可動式のものを適用することにより、自在に多波長X線105の波長範囲を自在に変更することができる。可動式スリットでは、スリットの幅、位置、及び回折X線103に対する向きに関して可動性があるので好ましい。前記開口部を有する遮蔽部材が可動式であることが好ましい。
【0081】
本発明では、波長に応じて回折角αが異なる回折X線103のうち、必要となる波長範囲の回折X線103を選択的に取り出し、多波長X線105を得る。そのため、多波長X線105の波長範囲が広いほど多波長X線の105の発散角が大きくなる。そのため、X線照射部107に効率的にX線を照射するために、X線光学素子106を配置してもよい。
【0082】
X線光学素子106には、ミラーやポリキャピラリー等を例示することができ、それらは、形状を適宜選択することにより、多波長X線105の集光あるいは平行化に利用することができる。例えば、集光用のミラーの表面形状は、ミラー(X線光学素子106)、X線導波路101の出射位置、及びX線照射部107が同時に円周上にある円(ローランド円)の直径を曲率半径として湾曲していることにより、好ましく多波長X線105を集光し、X線照射部107に照射することができる。また、平行化用のミラーは、X線導波路101の出射位置を焦点とする放物面であることにより、多波長X線105を平行化してX線照射部107へ照射することができる。
【0083】
X線光学素子106は、主に、X線の反射現象を利用するため、その表面の材料は反射率が比較的大きい重元素を用いることが好ましく、例えば、タングステン、金、白金等を例示することができる。
【0084】
本発明に係るX線分析装置は、上記のX線分光システムを用いて取り出した前記多波長X線を用いることを特徴とする。具体的には、本発明に係るX線分析装置は、本発明のX線分光システム、白色X線源、及びX線検出器等で構成される。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0086】
(実施例1)
本実施例では、クラッドをタングステン、コアをBCとAlからなる多層膜とするX線導波路を用いたX線分光システムの分光特性等の光学特性を評価する本発明のX線分光システムの例である。
【0087】
本実施例のX線導波路の作製方法は、スパッタ法による以下のような工程が挙げられる。
(a)クラッド層の形成
Si基板上にマグネトロンスパッタリングによってタングステンを20nmの厚さで形成する。
(b)多層膜の形成
マグネトロンスパッタリングによってAl、BCの順に交互に成膜して多層膜を作製する。AlとBCの厚さは、それぞれ3.0nmと12.0nmとし、多層膜の最下部、及び最上部の層はAlとする。AlとBCは、それぞれ101層と100層形成する。
(c)クラッド層の形成
マグネトロンスパッタリングによってタングステンを20nmの厚さで形成する。
(d)導波路長の決定
導波路長が2mmになるように、ダイシング装置を用いてX線導波路を切断する。
【0088】
得られるX線導波路は、コアがクラッドにより挟まれた形となっており、コアとクラッドの界面での全反射によりX線をコアに閉じ込めるものである。この構成によれば、コアである多層膜の周期と、それをなす物質の屈折率実部の関係が式(3)を満たしている。例えば、8keVのX線に対して、X線はクラッドおよびとコアとの界面における全反射によりコア中に閉じ込められ、閉じ込められたX線が多層膜のもつ周期性の影響を受けた導波モードを形成することができる。コアとクラッドの界面における全反射臨界角は0.474°である。コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角は0.296°である。
【0089】
前記X線導波路に白色X線を端面から入射し、導波路出射端面から生じる回折X線の波長スペクトルをエネルギー分散型X線検出器(SDD)を用いて測定する。その際、回折角αの方向にSDDを走査し、回折角αに対応した回折X線の波長スペクトルを測定する。分光性能を明確化するため、回折X線の波長スペクトルは、入射する白色X線の波長スペクトルによって規格化する。
【0090】
図6(a)は、実施例1におけるX線分光システムの分光特性を示す図である。図6(a)ではX線導波路に端面から白色X線を入射した際の回折X線の波長スペクトルを示す。回折角αに応じて、検出される回折X線の波長λが異なることがわかり、波長λは回折角αの増加関数となっていることがわかる。
【0091】
以上のX線導波路の光学特性を用いて、X線分光システムを提供することができる。例えば、このX線導波路101に白色X線(波長範囲0.125nmから0.155nm)102をX線導波路101の端面から入射し、回折角αが0.250°から0.280°の範囲の回折X線103を選択的に取り出すことのできるスリット104を配置する。すると、0.131から0.148nmの波長範囲の多波長X線105を選択的に取り出すことができる。また、このスリットを並進ステージ上に固定し、その開口部の中心を0.24°から0.29°の間を移動させると取り出す多波長X線の波長範囲を、波長幅0.017nmで中心波長を0.125nmから0.153nmまで変えることができる。
【0092】
ここで得られる多波長X線105は発散角を有するため、スリット104の後方にポリキャピラリー、あるいは全反射ミラーからなるX線平行化素子106を配置し、シリコンウェハ上に金属薄膜が積層した試料からなるX線照射部へ多波長X線を平行化して0.5°の入射角で照射し、SDDで反射率を測定する。多波長X線の試料での反射率の波長依存性から金属薄膜がタングステンであると分析される。
【0093】
(実施例2)
本実施例では、クラッドをタングステン、コアをメソポーラスシリカ膜とするX線導波路を用いたX線分光システムの分光特性等の光学特性を評価する本発明のX線分光システムの例である。
【0094】
このメソポーラス材料は、X線の導波方向に垂直な方向(xy面内方向)で空孔が3次元周期構造を形成している。孔以外の部分の材料はシリカである、メソポーラスシリカである。このメソポーラスシリカを含む本実施例のX線導波路の作製方法を、以下に示す。
【0095】
(a)クラッド層の形成
Si基板上にマグネトロンスパッタリングによってタングステンを20nmの厚さで形成する。
【0096】
(b)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
メソポーラスシリカ膜は、スピンコート法で調製される。メソ構造体の前駆体溶液は、ブロックポリマーをテトラヒドロフランで撹拌して分散させたのち、エタノール、水、0.1M塩酸、テトラエトキシシランの順に加え1時間攪拌することで調製される。
ブロックポリマーは、Poly(isobutylene−b−ethylene oxide)を用いる。Isobutyleneとethylene oxideの分子量は、それぞれ7000と5300である。
混合比(モル比)は、ブロックポリマー:0.0025、テトラヒドロフラン:9、エタノール:10、水:4、塩酸:0.006、テトラエトキシシラン:1.2とする。
【0097】
(c)メソ構造体膜の成膜
タングステンをスパッタした基板に、スピンコート装置を用いて1000rpmの回転数で前記前駆体溶液をスピンコートする。このときの温度は、25℃、相対湿度は、5%以下である。成膜後、膜は25℃、相対湿度40%の恒温恒湿槽で18時間以上保持される。その後、エタノール、テトラヒドロフラン、水等を用いた溶媒抽出や焼成工程によって、ブロックポリマーを除去する。
【0098】
(d)メソポーラスシリカ膜の評価
調製されたメソ構造体膜をBragg−Brentano配置のθ−2θスキャニングX線回折を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に秩序性をもち、その面間隔つまり閉じ込め方向における構造周期が、18nmであることが確認される。その膜厚はおよそ500nmである。
【0099】
(e)クラッド層の形成
マグネトロンスパッタリングによってタングステンを20nmの厚さで形成する。
【0100】
(f)導波路長の決定
導波路長が2mmになるように、ダイシング装置を用いてX線導波路を切断する。
【0101】
得られたX線導波路は、周期は18nmという値であるために、式(3)を満たしている。例えば、8keVのX線に対して、X線はクラッドおよびとコアとの界面における全反射によりコア中に閉じ込められ、閉じ込められたX線がメソポーラスシリカのもつ周期性の影響を受けた導波モード(共鳴モード)を形成することができる。コアとクラッドの界面における全反射臨界角は0.517°である。コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角は0.247°である。
【0102】
前記X線導波路に白色X線を端面から入射し、導波路出射端面から生じる回折X線の波長スペクトルをエネルギー分散型X線検出器(SDD)を用いて測定する。その際、回折角αの方向にSDDを走査し、回折角αに対応した回折X線の波長スペクトルを測定する。回折X線の波長スペクトルは、入射する白色X線の波長スペクトルによって規格化する。
【0103】
図6(b)は、実施例2におけるX線分光システムの分光特性を示す図である。図6(b)ではX線導波路に端面から白色X線を入射する際の回折X線の波長スペクトルを示す。回折角αに応じて、検出される回折X線の波長λが異なることがわかり、波長λは回折角αの増加関数となっていることがわかる。
【0104】
以上のX線導波路の光学特性を用いて、X線分光システムを提供することができる。例えば、このX線導波路101に白色X線(波長範囲0.125nmから0.155nm)102をX線導波路101の端面から入射し、回折角αが0.223°から0.235°の範囲の回折X線103を選択的に取り出すことのできるスリット104を配置する。すると、0.140から0.150nmの波長範囲の多波長X線105を選択的に取り出すことができる。また、このスリットを並進ステージ上に固定し、その開口部の中心を0.200°から0.240°の間を移動させると取り出す多波長X線の波長範囲を、波長幅0.010nmで中心波長を0.126nmから0.153nmまで変えることができる。
【0105】
実施例1のX線分光システムの分光特性(図6(a))と、実施例2のX線分光システムの分光特性(図6(b))を比較すると、実施例2の分光システムの方が強い多波長X線105を取り出すことができることがわかる。これは、コアである周期性構造体がX線吸収率の小さいメソポーラスシリカであり、特にその空孔のX線吸収率が小さいためである。また、構造周期の大きさが異なるため、実施例1とは異なる回折角αと波長λの関係になる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のX線分光システムは、連続した波長を有する白色X線から、設定した波長範囲の多波長X線を容易に選択して取り出すことができるので、X線分析装置、X線イメージング装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
101 周期性構造体
102 白色X線(入射X線)
103 回折X線
104 X線選択手段(スリット)
105 多波長X線
106 X線光学素子
107 X線照射部
108 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色X線が入射されるX線導波路と、前記X線導波路から出射した回折角の異なる回折X線を分離して、前記回折X線から設定した波長範囲の多波長X線を選択して取り出すためのX線選択手段とを具備するX線分光システムであって、前記X線導波路がコアとクラッドを有し、前記コアは屈折率実部の異なる複数の物質を含む基本構造が周期的に配されている周期性構造体で形成されており、前記クラッドと前記コアとの界面における前記X線の全反射臨界角が、前記コアの周期性構造体の基本構造の周期性に対応するブラッグ角よりも大きいことを特徴とするX線分光システム。
【請求項2】
前記多波長X線を選択するX線選択手段が開口部を有する遮蔽部材かなることを特徴とする請求項1に記載のX線分光システム。
【請求項3】
前記開口部を有する遮蔽部材が可動式であることを特徴とする請求項2に記載のX線分光システム。
【請求項4】
前記多波長X線を集光あるいは平行化するX線光学素子を具備することを特徴とする請求項請求項1乃至3のいずれかの項に記載のX線分光システム。
【請求項5】
前記コアが多層膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のX線分光システム。
【請求項6】
前記コアがメソポーラス膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のX線分光システム。
【請求項7】
前記コアを、有機物を含む反応液を用いた自己集合プロセスにより作製することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のX線分光システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のX線分光システムを用いて取り出した前記多波長X線を用いたことを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29454(P2013−29454A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166802(P2011−166802)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】