X線分析装置
【課題】 X線分析装置のX線検出器としてCCDセンサ等といった半導体センサであってX線直接検出型の半導体センサを用いる場合に、半導体センサの損傷を長期間にわたって防止できるようにする。
【解決手段】 試料Sを支持する試料台19と、試料Sに照射するX線を発生するX線源24と、複数の半導体素子を並べることによって形成されていて試料Sから出たX線をそれらの半導体素子によって直接に受光する半導体センサ43と、試料SのX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域γに配置されたX線ストッパ33とを有するX線分析装置である。半導体センサ43が低角度領域γの領域内まで2θ回転移動によって運ばれたとき、X線源24からのX線のダイレクトビームがその半導体センサ43に直接に入ることをX線ストッパ33によって防止する。
【解決手段】 試料Sを支持する試料台19と、試料Sに照射するX線を発生するX線源24と、複数の半導体素子を並べることによって形成されていて試料Sから出たX線をそれらの半導体素子によって直接に受光する半導体センサ43と、試料SのX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域γに配置されたX線ストッパ33とを有するX線分析装置である。半導体センサ43が低角度領域γの領域内まで2θ回転移動によって運ばれたとき、X線源24からのX線のダイレクトビームがその半導体センサ43に直接に入ることをX線ストッパ33によって防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線及び半導体センサを用いて試料を分析するX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、一般に、試料に照射するX線を発生するX線発生装置と、試料から出たX線を検出するX線検出装置とを有する。このX線分析装置では、試料にX線を照射した場合、試料に入射するX線の入射角度がその試料に対して特定の角度になったとき、その入射X線が試料で回折する。換言すれば、試料から回折X線が出る。この回折X線は、X線検出装置によって検出される。回折とは散乱も含む意味である。
【0003】
X線検出装置としては、従来から、0(ゼロ)次元X線検出装置、1次元X線検出装置、そして2次元X線検出装置が知られている。0次元X線検出装置は、X線を点状に受光する構造のX線検出装置である。この0次元X線検出装置としては、例えば、PC(Proportional Counter/比例計数管)や、SC(Scintillation Counter/シンチレーションカウンタ)が知られている。
【0004】
また、1次元X線検出装置は、X線を線状に受光する構造のX線検出装置である。この1次元X線検出装置としては、例えば、X線を受け取った所に電気信号を発生する直線状の信号線を備えたPSPC(Position Sensitive Proportional Counter:位置感応型比例計数管)や、複数のCCD(Charge Coupled Device)素子を線状に配列させることによって形成された1次元CCDセンサが知られている。
【0005】
また、2次元X線検出装置は、X線を面状に受光する構造のX線検出装置である。この2次元X線検出装置としては、例えばイメージングプレートの名称で知られるX線検出器、すなわちX線受光面に蓄積性蛍光体を設けた検出器プレートや、複数のCCD素子を面状に配列させることによって形成された2次元CCDセンサが知られている。
【0006】
上記1次元CCDセンサや上記2次元CCDセンサとして用いられるCCDセンサは、半導体センサの1種類である。近年、CCDセンサ等といった半導体センサをX線検出装置として用いる構造のX線分析装置が種々、提案されている。この構造のX線分析装置によれば、0次元X線検出装置や1次元X線検出装置等を用いた場合に比べて高速の測定ができることが期待されている。
【0007】
また、従来、2次元CCDセンサ及び光ファイバを用いて、その2次元CCDセンサよりも広い面積の2次元回折像を取得するようにしたX線分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、2次元回折像とは、2次元的すなわち平面的な回折像のことである。上記公報に示された従来の装置では、図16に示すように、X線源101から見て試料Sの後方に蛍光体102を設け、その蛍光体102の光出射側の面(図16の右側の面)に複数のテーパ状の光ファイバ103の束を設け、それらの光ファイバ103の光出射端(図16の右端)に2次元CCDセンサ104が設けられる。
【0008】
この従来のX線分析装置では、試料Sから放射される回折X線によって蛍光体102を露光してその回折X線に対応した光像を蛍光体102の中に形成し、その光像を光ファイバ103によって2次元CCDセンサ104まで導いて、そのCCDセンサ104内の複数の受光素子内に電荷として蓄積する。この構造のX線分析装置によれば、0次元カウンタや1次元カウンタを用いた場合に比べて高速の測定ができることが期待されている。
【0009】
この従来のX線分析装置で用いられる複数の光ファイバ103の1本1本には、蛍光体102側の径が大きくCCDセンサ104側の径が小さくなるようにテーパが付けられている。このようにテーパが付けられた形状の光ファイバ103を用いる方式のCCDセンサは、テーパードCCDセンサと呼ばれることがある。この方式のCCDセンサ104は、通常、冷却されながら使用される。
【0010】
上記のCCDセンサ104は、X線を直接に検出するのではなく、可視光を検出するものである。このCCDセンサ104の受光面の前には、その受光面を形成している複数のCCD素子を埃や金属片等から保護するためにガラス製の保護板が設けられることが多い。一般にガラスは、X線を減衰させずに通すことは難しいが、可視光は減衰させることなく通すことができる。従って、図16に示すX線分析装置においてはガラス製の保護板を備えたCCDセンサ104を支障なく使用できる。
【0011】
【特許文献1】特開2002−116158号公報(第3〜6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、蛍光板を用いてX線を可視光に変換して受光する方式の上記のようなCCDセンサに代えて、X線を直接に受光してそのX線の強度に対応した信号を出力する方式のCCDセンサをX線検出装置として用いることが考えられる。このようなX線直接検出型のCCDセンサは、基本的には、従来のCCDセンサにおいて受光面の前に設けていたガラス製の保護板を取り外して、受光面を形成する複数のCCD素子を外部に露出させることによって形成できる。
【0013】
0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いたX線分析装置では、一般に、それらの検出器の前に受光スリットを配置して検出器に取り込むX線を規制するようになっている。これに対し、上記のようなX線直接検出型のCCDセンサを用いたX線分析装置では、CCDセンサの受光面の広い領域でX線を受光することを可能とするために、受光スリットは開放状態で使用される。換言すれば、受光スリットによってX線を規制すること無しにCCDセンサの受光面の全面でX線を受光する。
【0014】
このような状態で使用されるCCDセンサに関しては、そのCCDセンサに取り込まれるX線を受光スリットで規制しないが故に、X線源から出て試料に入射するX線の入射角が小さくて、それ故、試料に対するCCDセンサの配置角度が低角度領域にあるときに、X線源から放射されたダイレクトビームがCCDセンサに直接に取り込まれるおそれがある。このダイレクトビームはX線の強度が非常に強いので、これがCCD素子に直接に照射された場合にはCCD素子が損傷するおそれがある。CCDセンサは非常に高額であり、このようにCCD素子が損傷することはX線分析装置を管理する上で非常に問題であった。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、CCDセンサ等といった半導体センサであってX線直接検出型の半導体センサを用いる場合に、その半導体センサの損傷を長期間にわたって防止できるX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るX線分析装置は、試料を支持する試料支持手段と、前記試料に照射するX線を発生するX線源と、複数の半導体受光素子を並べることによって形成されていて前記試料から出たX線をそれらの半導体素子によって直接に受光する半導体センサと、前記試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域に配置されたX線ストッパとを有することを特徴とする。
【0017】
上記構成において、「半導体素子」は半導体を用いてX線を直接に検出できる素子のことであり、例えば1つのCCD素子のことである。また、「半導体センサ」は複数の半導体素子を直線的又は平面的に並べることによってX線受光面が形成されているセンサのことであり、例えばCCDセンサのことである。また、「X線ストッパ」はX線の進行を阻止できる部材のことであり、X線を通さない物質、例えば鉛等によって形成できる。
【0018】
上記の本発明に係るX線分析装置によれば、試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域にX線ストッパを配置したので、半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止でき、それ故、CCDセンサの損傷を長期間にわたって防止できる。
【0019】
本発明に係るX線分析装置において、前記半導体センサは複数の半導体素子を平面的に並べて成る2次元半導体センサであることが望ましい。半導体センサとしては、半導体素子を線状に並べて成る1次元半導体センサを用いることも考えられる。しかしながら、2次元すなわち平面的なX線画像を高速に得ることを望むならば、1次元半導体センサよりも2次元半導体センサを用いることが望ましい。
【0020】
半導体センサとして2次元半導体センサを用いる場合には、その2次元半導体センサのX線受光面を広く開放しておかなければならないので、その2次元半導体センサにX線のダイレクトビームが入る可能性が高くなる。しかしながら、このような状況にある2次元半導体センサを用いたX線分析装置に対して本発明を適用すれば、すなわち試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域にX線ストッパを配置すれば、2次元半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止できる。
【0021】
次に、本発明に係るX線分析装置は、前記試料を前記X線源に対して所定の角速度で相対的に回転させると共に前記半導体センサを前記X線源に対して前記所定の角速度の2倍の角速度で相対的に回転させる半導体センサ測角手段をさらに有することが望ましい。ここで、「半導体センサ測角手段」は、例えば、X線源、試料及びX線検出器の3つの要素の相対的な角度を制御する機構であるゴニオメータと、そのゴニオメータの動きを制御する制御装置とによって構成することができる。
【0022】
ここで、「試料をX線源に対して相対的に回転させる」とは、(1)固定状態のX線源に対して試料を試料軸線を中心として回転させること、(2)固定状態の試料に対してX線源を試料軸線を中心として回転させること、及び(3)X線源と試料の両方を回転させることの全てを含む意味である。また、「半導体センサをX線源に対して相対的に回転させる」とは、(1)固定状態のX線源に対して半導体センサを試料軸線を中心として回転させること、(2)X線源を試料軸線を中心として回転させると共に半導体センサを試料軸線を中心として回転させること、を含む意味である。
【0023】
上記構成のように測角手段を用いたX線分析装置は従来から広く知られている。この従来装置では、X線検出器としてSC(Scintillation Counter)等といった0次元X線検出器やPSPC(Position Sensitive Proportional Counter)等といった1次元X線検出器が用いられることが多かった。これらの0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いる場合には、X線検出器の前に受光スリットが設けられるのが一般的であり、それ故、X線のダイレクトビームがX線検出器に直接に入るおそれは少なかった。つまり、測角手段を用いてX線検出器を移動させながら測定を行うX線分析装置においてX線検出器の前にX線ストッパを配置することは、従来は、行われていなかった。
【0024】
上記構成のように測角手段によって半導体センサを移動させる際にその半導体センサの前にX線ストッパを配置させるというのは従来に無い新規な構成である。そして、この構成を採用することにより、半導体センサが測角手段によって移動させられる場合にもその半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止できる。
【0025】
次に、本発明に係るX線分析装置は、前記半導体センサ内の前記複数の半導体受光素子に電荷転送信号を付与することにより前記半導体センサをX線の読取りのために駆動する半導体センサ駆動回路をさらに有することができる。そしてその場合、その半導体センサ駆動回路は、前記半導体センサ測角手段によって前記半導体センサがX線読取りのために回転移動させられるとき、その回転移動に同期させて前記電荷転送信号を前記複数の半導体素子の各々に付与することが望ましい。
【0026】
半導体センサは、複数の半導体素子を並べることによって形成されたセンサであり、それら複数の半導体素子の個々に電荷信号を蓄積するものである。そして、個々の半導体素子に蓄積された電荷信号は、電荷転送信号に基づいて隣の半導体素子に順次に転送されてゆき、最終的に、所定の記憶場所、例えばメモリ内の所定の記憶場所に個々の半導体素子に蓄積された電荷信号が記憶される。
【0027】
このような半導体センサをX線分析装置におけるX線検出器として用いる場合であって、特にその半導体センサが測角手段の働きによって移動させられる場合には、半導体センサに電荷転送信号を付与するタイミングを、上記のように、測角手段による半導体センサの移動速度に同期させることが望ましい。こうすれば、試料から出るX線を複数の半導体素子によって検出する際、特定の回折角度に現れた回折線を1つの半導体素子の中に重ねて蓄積させることが可能となり、その回折線を大きな強度で検出することが可能となる。このことは、試料から出る回折線が小さい場合でもその回折線を確実に検出できるということであり、あるいは、半導体センサの移動速度を速く設定した場合でも試料からの回折線を確実に検出できるということである。このようにして、迅速で正確なX線分析が可能となる。
【0028】
次に、本発明に係るX線分析装置において、前記試料支持手段は粉末試料を支持できる試料ホルダをさらに有することが望ましい。一般に、粉末試料に対するX線分析は、試料に入射するX線の入射角を変化させながら、試料に対するX線検出器の角度をそのX線入射角の変化に対応させて変化させることによって行われる。具体的には、X線入射角を所定の角速度βで変化させる場合を考えれば、試料に対するX線検出器の角度をβの2倍の角速度で変化させながら測定を行う。これにより、試料に対するX線入射角が変化するときに、個々のX線入射角における試料からの回折線をX線検出器によって確実に検出することができることになる。
【0029】
このような粉末試料に関する測定は、従来、X線検出器としてSCやPSPCを用いて行われることが多く、その粉末測定を本発明のように半導体センサを用いて行うということは実用的にはほとんど無かった。X線検出器としてSCやPSPCを用いる場合にそのX線検出器の前にX線ストッパを配設するということは考えられないので、従来の粉末測定ではX線検出器の前にX線ストッパを配設した状態で測定を行うということは考えられなかった。
【0030】
このようにX線検出器の前にX線ストッパを配設しない状態で測定を行うということを、X線検出器として半導体センサを用いる場合の測定に適用すると、半導体センサにX線のダイレクトビームが入ってしまい、その半導体センサを損傷するおそれがある。これに対し、上記構成のように、粉末試料を測定対象とする場合であって半導体センサをX線検出器として用いるときに、その半導体センサの前にX線ビームストッパを配設しておけば、その半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止できる。
【0031】
次に、本発明に係るX線分析装置おいて、X線ストッパを設けるための前記低角度領域は角度0°から角度+5°の範囲の領域であることが望ましい。角度0°以上の角度領域としたのは、角度0°未満の領域は試料を支持するための部材である試料ホルダの存在によりX線のダイレクトビームが半導体センサに入ることがほとんど無いと考えられる領域だからである。また、角度+5°以下の角度領域としたのは、低角度領域の回折線の情報を得ることが難しくなるからである。
【0032】
次に、本発明に係るX線分析装置おいて、前記X線ストッパは、前記半導体センサ測角手段によって回転移動させられる前記X線源、前記試料及び前記半導体センサから独立して固定状態に配置されることが望ましい。X線ストッパはX線源からのダイレクトビームが半導体センサに入るの防止することが主な役割であるから、X線源と一体に設けることもできる。しかしながらこの場合には、試料へのX線入射角を変化させるためにX線源を回転移動させるという構成を採ったときに、X線源の回転移動と共にX線ストッパも一体になって回転移動を行う。このとき、X線分析装置の周りに広い空間が確保されていれば問題はないが、X線分析装置の周りに付帯機器が存在する場合には回転移動するX線ストッパがその付帯機器にぶつかってしまうとうい問題が発生する。これに対し、上記構成のように、半導体センサ測角手段によって回転移動させられるX線源、試料及び半導体センサから独立してX線ストッパを固定状態で配設しておけば、X線ストッパが付帯機器にぶつかるという事態は全く発生しないので、X線分析装置の周りに広い空間を形成する必要が無くなる。
【0033】
さて、本発明で用いる半導体センサは特別の種類の半導体センサに限定されるものではないが、CCDセンサによって構成されることが望ましい。特に、蛍光体を介在させてX線を可視光に変換して検出する方式のものでなく、X線を直接に受光して電気信号に変換する構造のCCDセンサ、いわゆるX線直接検出型CCDセンサであることが望ましい。
【0034】
一般に、CCDセンサとは、複数のポテンシャルウエル(Potential well/電位の井戸)に集められた信号電荷を半導体中で転送するデバイスであるCCD(Charge Coupled Device)を用いたセンサである。1つのポテンシャルウエルに対応する領域が1つの画素、すなわち1つの受光素子を構成する。複数のポテンシャルウエルはX線の受光面に1次元的(すなわち直線的)又は2次元的(すなわち、平面的)に配置される。高速及び高感度を実現するためには、複数の画素を2次元的に配列することが望ましい。各ポテンシャルウエルはX線を受光して電子を生成する。このときに生成される電子の個数は入射するフォトンエネルギに比例する。
【0035】
上記のポテンシャルウエルは、例えば図8に示すように、金属電極1−酸化絶縁層2−半導体層3から成る複数のMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造における電極1の1つに、他とは異なる電圧を印加することにより、その電極下を部分的に異なるポテンシャルにすることによって実現される。このポテンシャルウエルに閉じ込められた信号電荷は半導体層3中を順次に転送されて出力部へ送られる。このように信号電荷を半導体層3中で転送させる際にCCDセンサに加えられる信号が電荷転送信号である。
【0036】
本発明において半導体センサとして用いるCCDセンサとしては、1次元CCDセンサ又は2次元CCDセンサが考えられる。しかしながら、望ましくは、2次元CCDセンサを用いる。この2次元CCDセンサには種々の種類のものがある。例えば、FT(Frame Transfer/フレームトランスファ)型、FFT(Full Frame Transfer/フルフレームトランスファ)型、IT(Interline Transfer/インターライントランスファ)型等といった2次元CCDセンサがある。
【0037】
以下、これらの2次元CCDセンサについて説明するが、その説明の中で使用する「水平帰線期間」及び「垂直帰線期間」の語は、読取り点を走査させることによって1フレーム分の画像データを読み取り又は書き出しする際に一般的に用いられている用語である。具体的には、図10において、1つの水平走査SHから次の水平走査SHへ移るまでの時間が水平帰線期間である。また、1回の垂直走査から次の垂直走査へ移るまでの時間、すなわち、1フレームの終点PEから始点PSへ戻るまでの時間が垂直帰線期間である。
【0038】
FT型の2次元CCDセンサは、例えば図5に示すように、垂直シフトレジスタによって構成された受光部6と、他の垂直シフトレジスタによって構成された蓄積部7と、1つの水平シフトレジスタ8と、そして出力部9とを有する。なお、垂直シフトレジスタはパラレルレジスタと呼ばれることがある。また、水平シフトレジスタは、シリアルレジスタ、読出しレジスタ等と呼ばれることがある。受光部6における金属電極1(図8参照)は、ポリシリコン等といった透明導電材料によって形成される。
【0039】
金属電極1を通って半導体層3に光が入射すると、光電変換が行われて信号電荷が発生する。この信号電荷は一定時間中に電極1の下のポテンシャルウエルに集められる。この信号電荷は、その後、垂直帰線期間中に、すなわち1回の垂直走査から次の垂直走査へ移るまでの時間中に、フレームごと蓄積部7に高速で転送される。このようにFT型CCDセンサでは、受光部6の垂直シフトレジスタは信号蓄積期間において光電変換デバイスとして機能する。受光部6で光電変換と信号の蓄積が行われる間、蓄積部7に蓄積された信号電荷は、水平帰線期間中に、すなわち1つの水平走査から次の水平走査へ移るまでの時間中に、1ラインごと水平シフトレジスタ8へ転送され、さらにその水平シフトレジスタ8によって出力部9へ転送される。
【0040】
次に、FFT型の2次元CCDセンサは、例えば図6に示すように、基本的には図5のFT型CCDセンサにおいて蓄積部7を取り除いた構成になっている。蓄積部7がないため、通常は、受光部6にシャッタ機構が付設される。このFFT型CCDセンサでは、信号蓄積期間に受光部6のポテンシャルウエル、すなわち画素、すなわち受光素子に電荷を集め、シャッタ機構の閉期間に水平シフトレジスタ8を通して信号電荷が出力部9に転送される。FFT型CCDセンサは、蓄積部を持たないので、FT型と同一サイズで多画素にすることができ、あるいは受光部6を大面積にできる。
【0041】
次に、IT型CCDセンサは、例えば図7に示すように、フォトダイオード6aによって構成された受光部6と、フォトダイオード6aを挟むように配置された垂直シフトレジスタ7と、フォトダイオード6aと垂直シフトレジスタ7との間にスイッチとして設けられた転送ゲート11と、水平シフトレジスタ8と、そして出力部9とを有する。
【0042】
フォトダイオード6aで光電変換により発生した信号電荷はフォトダイオード6a自身の接合容量等に集められる。集められた信号電荷は、垂直帰線期間中に転送ゲート11を通して垂直シフトレジスタ7へ転送される。この転送動作はFT型CCDセンサ(図5参照)と異なり、フォトダイオード6aから垂直シフトレジスタ7へ全画素について同時に行われる。その後、信号電荷は、水平帰線期間中に1ラインごと水平シフトレジスタ8へ転送され、さらに、その水平シフトレジスタ8によって出力部9へ出力される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、X線分析装置の一例であって粉末試料の分析に好適に用いられるX線回折装置に本発明を適用した場合の実施形態を例に挙げて本発明を説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0044】
図1は、本発明に係るX線分析装置の一実施形態であるX線回折装置を示している。ここに示すX線回折装置16は、垂直に立てられたテーブル17と、そのテーブル17上に設けられたゴニオメータ18とを有する。ゴニオメータ18は、テーブル17上に設けられていて紙面垂直方向に延びる円柱状の試料台19と、その試料台19から延びる線源アーム21と、同じく試料台19から延びる検出器アーム22とを有する。
【0045】
試料台19には、図1の紙面垂直方向に延びる試料ホルダ23が取外し可能に装着されている。この試料ホルダ23には開口又は凹部が設けられ、その開口又は凹部の中に試料、本実施形態では粉末試料Sが詰め込まれている。試料台19は、試料SのX線照射面が水平になるように試料ホルダ23を支持している。また、試料台19に装着した試料ホルダ23を他の試料ホルダと交換することにより、測定に供する試料を変えることができる。試料ホルダ23が試料台19の所定の位置にセットされたとき、測定のための中心軸線となる試料軸線ωが試料SのX線入射面を通るようになっている。この試料軸線ωは紙面垂直方向に延びる軸線である。
【0046】
線源アーム21は試料軸線ωを中心として回転可能にテーブル17上に設けられている。この線源アーム21には、X線源であるX線焦点24を内蔵したX線発生装置26と、このX線発生装置26から出たX線の発散を規制して試料Sへ導く発散規制スリット27とが設けられる。
【0047】
また、線源アーム21には、これを回転駆動するための装置であるθ回転駆動装置28が付設されている。このθ回転駆動装置28は線源アーム21を試料軸線ωを中心として回転させることができる構成であればどのような構成であっても良いが、例えば、線源アーム21に固定されたウオームホイールと、そのウオームホイールに噛み合うウオームと、そのウオームを駆動して回転させる動力源とによって構成できる。ここで、動力源としてはサーボモータ、パルスモータ等といった電動モータを用いることができる。線源アーム21はθ回転駆動装置28によって駆動されて試料軸線ωを中心として回転する。これ以降、線源アーム21のこの回転をθ回転と呼ぶことにする。
【0048】
上記の検出器アーム22は試料軸線ωを中心として回転可能にテーブル17上に設けられている。この検出器アーム22にはX線検出装置29が設けられている。この検出器アーム22には、これを回転駆動するための装置である2θ回転駆動装置31が付設されている。この2θ回転駆動装置31は、検出器アーム22を試料軸線ωを中心として回転させることができる構成であればどのような構成であっても良いが、例えば、線源アーム22に固定されたウオームホイールと、そのウオームホイールに噛み合うウオームと、そのウオームを駆動して回転させる動力源とによって構成できる。ここで、動力源としてはサーボモータ、パルスモータ等といった電動モータを用いることができる。検出器アーム22は2θ回転駆動装置31によって駆動されて試料軸線ωを中心として回転する。これ以降、検出器アーム22のこの回転を2θ回転と呼ぶことにする。
【0049】
テーブル17の適所にはストッパ用アーム32が固定され、そのストッパ用アーム32の先端にX線ストッパ33が設けられている。このX線ストッパ33は、例えば20mm×40mm程度の大きさで厚さが約2mmの鉛によって形成される。なお、X線ストッパ33は鉛以外でX線を通さない物質によって形成しても良く、あるいは、X線をX線検出装置29にとって支障の出ない程度の大きさに減衰させる物質によって形成しても良い。
【0050】
本実施形態の場合、X線ストッパ33は、試料SのX線出射側であって回折角度0°の近傍である低角度領域γを覆うように設けられている。より具体的には、回折角度0°から回折角度+5°の角度範囲にわたって設けられている。従って、X線検出装置29が2θ回転駆動装置31によって駆動されてこの低角度領域γに入ったとき、そのX線検出装置29にX線が入ることがX線ストッパ33によって阻止される。なお、X線ストッパ33を支持するストッパ用アーム32はテーブル17に固定されているので、線源アーム21及び検出器アーム22が回転移動するときでもX線ストッパ33は決められた位置に静止している。
【0051】
X線検出装置29は、図2に示すように、筐体36と、CCDモジュール37と、冷却用要素としてのペルチェ素子38と、膜39とを有する。筐体36は図1の試料Sに向かう側に凹部41を有し、その凹部41の中にCCDモジュール37及びペルチェ素子38が収容されている。ペルチェ素子38はCCDモジュール37の裏面に接触している。膜39はX線を通すことができる材料、例えばベリリウム(Be)によって形成されている。この膜39は、凹部41の開口の所で筐体36の壁面に接着剤その他の固定手段によって固定されている。ペルチェ素子38は、周知の通り、通電によってその1面が冷却され他の面が昇温する素子であり、本実施形態では冷却される面がCCDモジュール37に接触している。
【0052】
図3はCCDモジュール37の平面構造を示している。また、図4は図3のA−A線に従ってCCDモジュール37の断面構造を示している。これらの図において、CCDモジュール37は、半導体センサとしてのCCDセンサ43と、そのCCDセンサ43をパッケージングするパッケージ40とを有する。ここで、パッケージングとは、CCDセンサ42を保護すると共に、外部の電気回路との導電接続を達成できるようにCCDセンサ42を容器によって取り囲むことである。
【0053】
上記のパッケージングを達成するため、パッケージ40は、CCDセンサ43を搭載する基板として機能するハウジング42と、方形のリング状の膜支持部材46と、その膜支持部材46によって支持されている保護膜44と、複数の配線48と、複数の外部端子49とを有する。ハウジング42は、例えばセラミック、合成樹脂等によって形成され、その内部に深い凹部47a及び浅い凹部47bから成る凹部47を有する。凹部47は図1の試料Sへ向かう開口を有している。CCDセンサ43は深い凹部47a内に収容され、配線48は浅い凹部47bを通って外部端子49に接続している。配線48の一端は所定の接合技術によってCCDセンサ43の入出力端子に接続され、配線48の他端は所定の接合技術によって外部端子49に接続されている。
【0054】
膜支持部材46は凹部47の開口の所でハウジング42に接着剤その他の固定手段によって固定されている。膜支持部材46はその中央部分が正方形又は長方形の開口50となっていて、その開口50を覆うように保護膜44の周縁が膜支持部材46の周縁に接着剤その他の固定手段によって固定されている。開口50は、CCDセンサ43のX線受光領域に相当する大きさを有し、少なくともそのX線受光領域よりも広い大きさとなっている。
【0055】
保護膜44は、例えばカプトン、マイラー(いずれもデュポン社製の商品の商標名)等によって形成されている。これらの材料を用いることにより、保護膜44は、X線の透過性の良い膜となっており、しかもゴミ、埃、金属片等といった異物の進入を阻止できる機械的強度を持っている。保護膜43は、異物の進入を阻止することにより、CCDセンサ42を保護している。また、保護膜43は、CCDセンサ42のX線受光面に近接して設けられている。膜支持部材46は、例えばガラスによって形成されている。このため、膜支持部材46は可視光を通すことができ、しかもX線を減衰させる特性を有する。つまり、本実施形態では、X線を減衰させる材料であるガラスによって保護膜44の外周縁を囲む周囲領域を形成している。なお、図3では保護膜44の外周縁を囲む周囲領域の全域をガラスによって形成しているが、必要に応じて、その周囲領域の一部分をガラスで形成するようにしても良い。
【0056】
CCDセンサ43は、本実施形態の場合、図6に示すFFT型のCCDセンサを用いるものとする。このCCDセンサ43は、図1に示すようにCCD駆動回路34によってX線の読み取りのために駆動される。CCD駆動回路34はCCDセンサ43を、いわゆるTDI(Time Delay Integration)動作するように駆動する。このTDI動作については後述する。
【0057】
図1において、X線回折装置16は制御装置51を有する。この制御装置51は、CPU(Central Processing Unit)52と、記憶媒体すなわちメモリ53と、各種信号を伝送するバス54とを有する。メモリ53は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等といった半導体メモリや、ハードディスク、CD(Compact Disc)、MO(Magnet Optical)ディスク等といった機械式メモリや、その他任意の構造のメモリによって構成される。また、X線回折装置16は表示装置56を有する。この表示装置56は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal Device) 等といった映像表示手段や、プリンタ等といった印字手段等によって構成される。
【0058】
メモリ53の中には、X線検出装置29内のCCDセンサ43から出力された画素データを記憶するためのファイル57、及びX線回折測定を実行するためのプログラムが格納されたファイル58が含まれる。
【0059】
ファイル58内に格納されたX線回折測定プログラムは、θ回転駆動装置28及び2θ回転駆動装置31の動作を制御する。具体的には、X線回折測定プログラム58は、線源アーム21を試料軸線ωを中心として図1の正時計方向へ回転させて、X線源24を所定の角速度で間欠的又は連続的に回転、いわゆるθ回転させる。このθ回転により、X線源24から放射されて試料Sへ入射するX線の入射角度を変化させる。
【0060】
また、X線回折測定プログラム58は、検出器アーム22を試料軸線ωを中心として回転させてX線検出装置29をX線源24のθ回転と反対方向、すなわち反時計方向、へ同じ角速度で回転、いわゆる2θ回転させる。この2θ回転により、試料Sで回折したX線をX線検出装置29によって検出することができる。
【0061】
なお、X線源24を試料Sに対してθ回転させることに代えて、X線源24すなわち線源アーム21を固定状態に保持しつつ、試料Sを試料軸線ωを中心としてθ回転させ、同時に、X線検出装置29を試料軸線ωを中心として、試料Sのθ回転と同じ方向へ2倍の角速度で2θ回転させることでも、同様の結果を得られる。
【0062】
本実施形態で、X線回折測定プログラム58は、CCD駆動回路34に指示を与えてX線検出装置29にTDI(Time Delay Integration)動作を行わせる。しかも、X線回折測定プログラム58はそのTDI動作を実行するに際して、X線検出装置29における電荷転送の処理を、2θ回転駆動装置31によって行われるX線検出装置29の2θ回転の角速度と同期させるようにしている。
【0063】
以下、TDI動作について説明する。図6に示すFFT型CCDセンサを用いることを前提として、CCDセンサ43は一定の移動速度「v」で、図6の矢印Aの方向に移動するとする。また、電荷転送のパルス信号は周波数「f」であり、転送電荷は、矢印Bで示すように、X線検出装置とは逆方向に移動するものとする。また、CCDセンサ43の1つの画素幅、すなわち1つの受光素子幅を「d」とする。以上の条件の下、
v=f×d
の関係を満足するように、CCDセンサ43の移動速度とCCDセンサにおける読取りのための電荷転送処理とを同期させる。
【0064】
図6において、CCDセンサ43が矢印A方向に速度vで移動すると、M列(列は上下方向)の1列目(すなわち、右端列)の入力は、1/f時間後には2列目の位置に移動する。これに合わせて1列目の電荷を2列目に転送すれば、2列目において被写体の同じ部分のデータが再び光電変換により電荷として蓄積される。このような動作を連続してM列の最後まで行えば、信号電荷としてはTDI動作を行わない通常の場合のM倍の電荷が個々の画素内に蓄積される。これらの蓄積された信号電荷はCCDセンサ43の水平シフトレジスタ8から各列ごとに連続して切れ目無く出力され、これにより、2次元画像のためのデータを求めることができる。こうしてTDI動作により、微弱な回折X線を検出することができる。
【0065】
なお、本願発明においては、「試料をX線源に対して所定の角速度で相対的に回転させると共に半導体センサをX線源に対して上記所定の角速度の2倍の角速度で相対的に回転させる半導体センサ測角手段」を用いる場合がある。本実施形態において、この半導体センサ測角手段は、図1に示すゴニオメータ18、θ回転駆動装置28、2θ回転駆動装置31、及び制御装置51の各要素の組み合わせによって実現されている。
【0066】
本実施形態のX線分析装置は以上のように構成されているので、図1において、X線回折測定が開始されると、X線源24が試料軸線ωを中心としてθ回転し、同時にX線検出装置29が試料軸線ωを中心として2θ回転し、さらに、X線源24から放射されたX線が試料Sへ入射する。試料Sに入射するX線の入射角度がθ回転に応じて変化する間にブラッグの回折条件が満足される状態が発生すると、試料Sに回折X線が発生し、この回折X線は特定の回折角度(2θ)の方向に進行する。そして、この回折X線は、図6のCCDセンサ43の受光部6内の対応する画素によって受光され、この画素内に電荷が発生し、さらに蓄積される。
【0067】
上記のようにX線検出装置29はTDI動作によって駆動され、このTDI動作においては電荷転送処理がX線検出装置29の2θ移動速度に同期するように制御されているので、個々の画素には同一の回折角度(2θ)に関する信号電荷が蓄積されて行く。このため、X線検出装置29の移動速度を高速に設定しても常に正確な回折X線データを個々の画素内に蓄積できる。こうして各画素内に蓄積された信号電荷は受光部6から水平シフトレジスタ8へ列ごとに転送され、さらに出力部9を介して図1の画素データファイル57内へ記憶される。このようなデータ収集動作は、図1においてX線検出装置29が希望の回折角度範囲、例えば20°〜100°の角度範囲を走査した後に終了し、このとき、画素データファイル57内には回折角度20°〜100°の範囲内の各回折角度位置における回折X線強度のデータが記憶される。
【0068】
その後、CPU52は、図1のX線回折測定プログラム58に従い、測定された画素データ57に基づいて図9の回折図形Zを演算によって求める。演算された回折図形Zは、必要に応じて、図1の表示装置56の表示面に画像や印字として表示される。
【0069】
以上に説明したように、図1に示した本実施形態のX線分析装置16では、試料SのX線出射側(すなわち、図1で試料Sの右側)の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域γにX線ストッパ33を配置したので、X線源24から試料Sへ入射するX線の入射角度θが低角度であり、従ってX線検出装置29が配置される回折角度位置θが低角度である場合に、X線源24から出たX線のダイレクトビームであって、試料Sの表面を通過したものがX線検出装置29内のCCDセンサ43に直接に当ることをX線ストッパ33によって確実に防止できる。このため、CCDセンサ43の損傷を長期間にわたって防止できる。
【0070】
また、本実施形態では、複数のCCD素子を平面的に並べて成る2次元CCDセンサ43を用いてX線を検出するので、0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いてX線を検出する場合に比べて、2次元すなわち平面的なX線画像を高速に測定できる。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図1ではX線ストッパ33をテーブル17に固定状態で設けたが、この構成に代えて、検出器アーム21を試料SのX線出射側の領域まで延在させ、この検出器アーム21の延在部分にX線ストッパ33を設けるようにしても良い。但し、この場合には検出器アーム21がθ回転する際にX線ストッパ33も試料軸線ωを中心として回転することになるので、X線ストッパ33との衝突を回避するためX線ストッパ33の回転軌跡内にはどのような機器も設置できないことに留意する必要がある。
【0072】
また、図1では、CCDセンサ43として図6に示すFFT型のCCDセンサを用いたが、必要に応じて、その他の構造のCCDセンサを用いても良い。また、図1では、ゴニオメータ18としてX線源24とX線検出装置29の両方を試料軸線ωを中心として回転させる構造のゴニオメータを用いたが、これに代えて次の構造、すなわち、X線源24を一定位置に静止させ、試料Sを試料軸線ωを中心としてθ回転させ、さらにX線検出装置29を試料軸線ωを中心として2θ回転させる構造のゴニオメータを用いることもできる。なお、この場合のX線検出装置29の2θ回転は、試料Sのθ回転と同じ方向であってそのθ回転の2倍の角速度で行われることになる。
【0073】
また、図1ではCCDセンサ43のX線受光面の前にX線を通すことのできる保護膜44を設けて、埃等といった異物がCCDセンサ43に入ることを防止したが、CCDセンサ43自体が埃等といった異物の付着を問題としないものであるならば、保護膜44は取り外しても良い。
【実施例】
【0074】
CCDセンサを用いてX線回折データを取ると、図11のグラフに示すように低角領域に高強度のX線R1が観測される。これは、CCDセンサの特性上、受光側のスリットを開放で使用しているために、CCDセンサがX線のダイレクトビームを拾っているためであると考えられる。CCDセンサに使われているCCD素子は、それに高強度のX線を当てると、放射線損傷により素子が壊れてしまうおそれがある。この場合、X線回折プログラムソフトによって測角範囲を規制することによって、CCDセンサがダイレクトビームを拾わないように制御することも可能であるが、より一層の安全を確保するためにダイレクトビームがCCDセンサに入ることを物理的に禁止する工夫も必要である。この考えに基づいて、CCDセンサの前に種々の形状及び物質のX線ストッパを配置して、その有効性を実験によって検証した。
【0075】
まず、40kV−40mAの負荷で、CCDセンサの前面に厚さ0.3mmの銅(Cu)板を置き、−1°から10°までの角度範囲をスキャンした。その結果、図12(a)の結果を得た。図12(b)は図12(a)の縦軸を拡大したものである。このとき発散規制スリットのスリット幅は(2/3)°に設定した。図12(a)において、横軸は回折角度2θ表示であるので、−(2/3)°から(2/3)°までフラットなピークが観測される。しかし、このダイレクトビームのピークは(2/3)°で0(セロ)になるのではなく、角度4°付近まで、場合によっては角度5°付近まで、だらだらと裾を引いている。これは、発散規制スリットによる散乱に起因するものである。
【0076】
厚さ0.3mmの銅板に対するCuKα線(8,060eV)の透過率は、ほぼ0であるので、ここで観測されるX線は連続X線の高エネルギ側(>10keV)の成分である。20keVのエネルギのX線の0.3mm厚の銅板に対する透過率は10−30以下であるので、銅板が無い場合、極めて過剰な強度のX線がCCD素子に入射すると考えられる。
【0077】
Si標準試料を試料としてX線ストッパをCCDセンサの前に置いて測定を行った場合と、Si標準試料を試料としてX線ストッパをCCDセンサの前に置かないで測定を行った場合との結果を図13に示す。この図から、X線ストッパをCCDセンサの前に配置すれば、低角領域においてダイレクトビーム及び発散規制スリットからの散乱線の両方が確実に遮断されているのが分かる。
【0078】
ソフトウエアによるリミッタをかけて、測定の開始点を低角(例えば、3°)以下に設定できないようにすれば、X線ストッパ無しでも強い散乱を拾うことはないが、TDI動作を採用する場合には、実際の測定開始点より512ライン(すなわち、約3°)からX線が入射してしまうので、そこで強いX線を浴びると、CCDセンサの寿命が短くなるおそれがある。従って、X線ストッパは常に配置されることが望ましい。X線分析装置の発散規制スリットの設定を(2/3)°、1°と変えて測定したダイレクトビームファイルと、X線ストッパを取り付けて同じスキャンを行った結果を図14に示す。この図から、発散規制スリットが広い(1°)状態でも、散乱線をきれいに遮蔽していることが分かる。
【0079】
ところで、発散規制スリットからの散乱線がCCDセンサに入らないようにするための他の方法として、図15に示すように、ナイフエッジ61を用いる方法が考えられる。符号62は受光スリットを示している。この方式の大きな欠点は、試料Sからナイフエッジ61までの距離の調節によっては、散乱線がきれいに除去できなかったり、高角側の回折を遮ってしまったりすることにより、広範囲のデータが取れないことである。これに対し、本発明のように、CCDセンサの前面にX線ストッパを配置すれば、はるかに調整がし易く、しかも散乱線をきれいに除去できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係るX線分析装置は、X線回折測定、蛍光X線測定等といったX線分析を高速且つ正確に行いたい場合に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の装置で用いるX線検出装置を拡大して示す平面断面図である。
【図3】図2のX線検出装置で用いるCCDモジュールを示す平面図である。
【図4】図3のA−A線に従ったCCDモジュールの断面図である。
【図5】CCDセンサの一例を示す図である。
【図6】CCDセンサの他の一例を示す図である。
【図7】CCDセンサのさらに他の一例を示図である。
【図8】半導体受光素子であるCCD素子の断面構造を示す断面図である。
【図9】図1のX線分析装置を用いた測定の結果として得られた回折線図形を示す図である。
【図10】CCDセンサの機能を説明するための図である。
【図11】標準Si試料に関するCCDセンサを用いた測定とSCを用いた測定との比較を示グラフである。
【図12】ダイレクトビームプロファイルを示すグラフであり、(a)はデータ全体を示し、(b)は(a)の一部分を拡大して示している。
【図13】X線ストッパの有り無しで測ったSi標準試料の測定結果を示すグラフである。
【図14】発散規制スリットを広げたときのダイレクトビーム及び発散規制スリットからの散乱線を示すグラフである。
【図15】X線分析装置の比較例であってナイフエッジを用いたものを示す図である。
【図16】従来のX線分析装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1.金属電極、 2.酸化絶縁層、 3.半導体層、 6.受光部、
6a.フォトダイオード、 7.蓄積部、 8.水平シフトレジスタ、 9.出力部、
11.転送ゲート、 16.X線回折装置、 17.テーブル、 18.ゴニオメータ、
19.試料台、 21.線源アーム、 22.検出器アーム、 23.試料ホルダ、
24.X線焦点(X線源)、 26.X線発生装置、 27.発散規制スリット、
29.X線検出装置、 32.ストッパ用アーム、 33.X線ストッパ、
36.筐体、 37.CCDモジュール、 38.ペルチェ素子、 39.膜、
40.パッケージ、 41.凹部、 42.ハウジング、
43.CCDセンサ(半導体センサ)、 44.保護膜、 46.膜支持部材、
47.凹部、 47a.第1凹部、 47b.第2凹部、 48.配線、 49.端子、
50.開口、 51.制御装置、 d.受光素子幅、 S.試料、 v.移動速度、
Z.回折図形
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線及び半導体センサを用いて試料を分析するX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、一般に、試料に照射するX線を発生するX線発生装置と、試料から出たX線を検出するX線検出装置とを有する。このX線分析装置では、試料にX線を照射した場合、試料に入射するX線の入射角度がその試料に対して特定の角度になったとき、その入射X線が試料で回折する。換言すれば、試料から回折X線が出る。この回折X線は、X線検出装置によって検出される。回折とは散乱も含む意味である。
【0003】
X線検出装置としては、従来から、0(ゼロ)次元X線検出装置、1次元X線検出装置、そして2次元X線検出装置が知られている。0次元X線検出装置は、X線を点状に受光する構造のX線検出装置である。この0次元X線検出装置としては、例えば、PC(Proportional Counter/比例計数管)や、SC(Scintillation Counter/シンチレーションカウンタ)が知られている。
【0004】
また、1次元X線検出装置は、X線を線状に受光する構造のX線検出装置である。この1次元X線検出装置としては、例えば、X線を受け取った所に電気信号を発生する直線状の信号線を備えたPSPC(Position Sensitive Proportional Counter:位置感応型比例計数管)や、複数のCCD(Charge Coupled Device)素子を線状に配列させることによって形成された1次元CCDセンサが知られている。
【0005】
また、2次元X線検出装置は、X線を面状に受光する構造のX線検出装置である。この2次元X線検出装置としては、例えばイメージングプレートの名称で知られるX線検出器、すなわちX線受光面に蓄積性蛍光体を設けた検出器プレートや、複数のCCD素子を面状に配列させることによって形成された2次元CCDセンサが知られている。
【0006】
上記1次元CCDセンサや上記2次元CCDセンサとして用いられるCCDセンサは、半導体センサの1種類である。近年、CCDセンサ等といった半導体センサをX線検出装置として用いる構造のX線分析装置が種々、提案されている。この構造のX線分析装置によれば、0次元X線検出装置や1次元X線検出装置等を用いた場合に比べて高速の測定ができることが期待されている。
【0007】
また、従来、2次元CCDセンサ及び光ファイバを用いて、その2次元CCDセンサよりも広い面積の2次元回折像を取得するようにしたX線分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、2次元回折像とは、2次元的すなわち平面的な回折像のことである。上記公報に示された従来の装置では、図16に示すように、X線源101から見て試料Sの後方に蛍光体102を設け、その蛍光体102の光出射側の面(図16の右側の面)に複数のテーパ状の光ファイバ103の束を設け、それらの光ファイバ103の光出射端(図16の右端)に2次元CCDセンサ104が設けられる。
【0008】
この従来のX線分析装置では、試料Sから放射される回折X線によって蛍光体102を露光してその回折X線に対応した光像を蛍光体102の中に形成し、その光像を光ファイバ103によって2次元CCDセンサ104まで導いて、そのCCDセンサ104内の複数の受光素子内に電荷として蓄積する。この構造のX線分析装置によれば、0次元カウンタや1次元カウンタを用いた場合に比べて高速の測定ができることが期待されている。
【0009】
この従来のX線分析装置で用いられる複数の光ファイバ103の1本1本には、蛍光体102側の径が大きくCCDセンサ104側の径が小さくなるようにテーパが付けられている。このようにテーパが付けられた形状の光ファイバ103を用いる方式のCCDセンサは、テーパードCCDセンサと呼ばれることがある。この方式のCCDセンサ104は、通常、冷却されながら使用される。
【0010】
上記のCCDセンサ104は、X線を直接に検出するのではなく、可視光を検出するものである。このCCDセンサ104の受光面の前には、その受光面を形成している複数のCCD素子を埃や金属片等から保護するためにガラス製の保護板が設けられることが多い。一般にガラスは、X線を減衰させずに通すことは難しいが、可視光は減衰させることなく通すことができる。従って、図16に示すX線分析装置においてはガラス製の保護板を備えたCCDセンサ104を支障なく使用できる。
【0011】
【特許文献1】特開2002−116158号公報(第3〜6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、蛍光板を用いてX線を可視光に変換して受光する方式の上記のようなCCDセンサに代えて、X線を直接に受光してそのX線の強度に対応した信号を出力する方式のCCDセンサをX線検出装置として用いることが考えられる。このようなX線直接検出型のCCDセンサは、基本的には、従来のCCDセンサにおいて受光面の前に設けていたガラス製の保護板を取り外して、受光面を形成する複数のCCD素子を外部に露出させることによって形成できる。
【0013】
0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いたX線分析装置では、一般に、それらの検出器の前に受光スリットを配置して検出器に取り込むX線を規制するようになっている。これに対し、上記のようなX線直接検出型のCCDセンサを用いたX線分析装置では、CCDセンサの受光面の広い領域でX線を受光することを可能とするために、受光スリットは開放状態で使用される。換言すれば、受光スリットによってX線を規制すること無しにCCDセンサの受光面の全面でX線を受光する。
【0014】
このような状態で使用されるCCDセンサに関しては、そのCCDセンサに取り込まれるX線を受光スリットで規制しないが故に、X線源から出て試料に入射するX線の入射角が小さくて、それ故、試料に対するCCDセンサの配置角度が低角度領域にあるときに、X線源から放射されたダイレクトビームがCCDセンサに直接に取り込まれるおそれがある。このダイレクトビームはX線の強度が非常に強いので、これがCCD素子に直接に照射された場合にはCCD素子が損傷するおそれがある。CCDセンサは非常に高額であり、このようにCCD素子が損傷することはX線分析装置を管理する上で非常に問題であった。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、CCDセンサ等といった半導体センサであってX線直接検出型の半導体センサを用いる場合に、その半導体センサの損傷を長期間にわたって防止できるX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るX線分析装置は、試料を支持する試料支持手段と、前記試料に照射するX線を発生するX線源と、複数の半導体受光素子を並べることによって形成されていて前記試料から出たX線をそれらの半導体素子によって直接に受光する半導体センサと、前記試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域に配置されたX線ストッパとを有することを特徴とする。
【0017】
上記構成において、「半導体素子」は半導体を用いてX線を直接に検出できる素子のことであり、例えば1つのCCD素子のことである。また、「半導体センサ」は複数の半導体素子を直線的又は平面的に並べることによってX線受光面が形成されているセンサのことであり、例えばCCDセンサのことである。また、「X線ストッパ」はX線の進行を阻止できる部材のことであり、X線を通さない物質、例えば鉛等によって形成できる。
【0018】
上記の本発明に係るX線分析装置によれば、試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域にX線ストッパを配置したので、半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止でき、それ故、CCDセンサの損傷を長期間にわたって防止できる。
【0019】
本発明に係るX線分析装置において、前記半導体センサは複数の半導体素子を平面的に並べて成る2次元半導体センサであることが望ましい。半導体センサとしては、半導体素子を線状に並べて成る1次元半導体センサを用いることも考えられる。しかしながら、2次元すなわち平面的なX線画像を高速に得ることを望むならば、1次元半導体センサよりも2次元半導体センサを用いることが望ましい。
【0020】
半導体センサとして2次元半導体センサを用いる場合には、その2次元半導体センサのX線受光面を広く開放しておかなければならないので、その2次元半導体センサにX線のダイレクトビームが入る可能性が高くなる。しかしながら、このような状況にある2次元半導体センサを用いたX線分析装置に対して本発明を適用すれば、すなわち試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域にX線ストッパを配置すれば、2次元半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止できる。
【0021】
次に、本発明に係るX線分析装置は、前記試料を前記X線源に対して所定の角速度で相対的に回転させると共に前記半導体センサを前記X線源に対して前記所定の角速度の2倍の角速度で相対的に回転させる半導体センサ測角手段をさらに有することが望ましい。ここで、「半導体センサ測角手段」は、例えば、X線源、試料及びX線検出器の3つの要素の相対的な角度を制御する機構であるゴニオメータと、そのゴニオメータの動きを制御する制御装置とによって構成することができる。
【0022】
ここで、「試料をX線源に対して相対的に回転させる」とは、(1)固定状態のX線源に対して試料を試料軸線を中心として回転させること、(2)固定状態の試料に対してX線源を試料軸線を中心として回転させること、及び(3)X線源と試料の両方を回転させることの全てを含む意味である。また、「半導体センサをX線源に対して相対的に回転させる」とは、(1)固定状態のX線源に対して半導体センサを試料軸線を中心として回転させること、(2)X線源を試料軸線を中心として回転させると共に半導体センサを試料軸線を中心として回転させること、を含む意味である。
【0023】
上記構成のように測角手段を用いたX線分析装置は従来から広く知られている。この従来装置では、X線検出器としてSC(Scintillation Counter)等といった0次元X線検出器やPSPC(Position Sensitive Proportional Counter)等といった1次元X線検出器が用いられることが多かった。これらの0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いる場合には、X線検出器の前に受光スリットが設けられるのが一般的であり、それ故、X線のダイレクトビームがX線検出器に直接に入るおそれは少なかった。つまり、測角手段を用いてX線検出器を移動させながら測定を行うX線分析装置においてX線検出器の前にX線ストッパを配置することは、従来は、行われていなかった。
【0024】
上記構成のように測角手段によって半導体センサを移動させる際にその半導体センサの前にX線ストッパを配置させるというのは従来に無い新規な構成である。そして、この構成を採用することにより、半導体センサが測角手段によって移動させられる場合にもその半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止できる。
【0025】
次に、本発明に係るX線分析装置は、前記半導体センサ内の前記複数の半導体受光素子に電荷転送信号を付与することにより前記半導体センサをX線の読取りのために駆動する半導体センサ駆動回路をさらに有することができる。そしてその場合、その半導体センサ駆動回路は、前記半導体センサ測角手段によって前記半導体センサがX線読取りのために回転移動させられるとき、その回転移動に同期させて前記電荷転送信号を前記複数の半導体素子の各々に付与することが望ましい。
【0026】
半導体センサは、複数の半導体素子を並べることによって形成されたセンサであり、それら複数の半導体素子の個々に電荷信号を蓄積するものである。そして、個々の半導体素子に蓄積された電荷信号は、電荷転送信号に基づいて隣の半導体素子に順次に転送されてゆき、最終的に、所定の記憶場所、例えばメモリ内の所定の記憶場所に個々の半導体素子に蓄積された電荷信号が記憶される。
【0027】
このような半導体センサをX線分析装置におけるX線検出器として用いる場合であって、特にその半導体センサが測角手段の働きによって移動させられる場合には、半導体センサに電荷転送信号を付与するタイミングを、上記のように、測角手段による半導体センサの移動速度に同期させることが望ましい。こうすれば、試料から出るX線を複数の半導体素子によって検出する際、特定の回折角度に現れた回折線を1つの半導体素子の中に重ねて蓄積させることが可能となり、その回折線を大きな強度で検出することが可能となる。このことは、試料から出る回折線が小さい場合でもその回折線を確実に検出できるということであり、あるいは、半導体センサの移動速度を速く設定した場合でも試料からの回折線を確実に検出できるということである。このようにして、迅速で正確なX線分析が可能となる。
【0028】
次に、本発明に係るX線分析装置において、前記試料支持手段は粉末試料を支持できる試料ホルダをさらに有することが望ましい。一般に、粉末試料に対するX線分析は、試料に入射するX線の入射角を変化させながら、試料に対するX線検出器の角度をそのX線入射角の変化に対応させて変化させることによって行われる。具体的には、X線入射角を所定の角速度βで変化させる場合を考えれば、試料に対するX線検出器の角度をβの2倍の角速度で変化させながら測定を行う。これにより、試料に対するX線入射角が変化するときに、個々のX線入射角における試料からの回折線をX線検出器によって確実に検出することができることになる。
【0029】
このような粉末試料に関する測定は、従来、X線検出器としてSCやPSPCを用いて行われることが多く、その粉末測定を本発明のように半導体センサを用いて行うということは実用的にはほとんど無かった。X線検出器としてSCやPSPCを用いる場合にそのX線検出器の前にX線ストッパを配設するということは考えられないので、従来の粉末測定ではX線検出器の前にX線ストッパを配設した状態で測定を行うということは考えられなかった。
【0030】
このようにX線検出器の前にX線ストッパを配設しない状態で測定を行うということを、X線検出器として半導体センサを用いる場合の測定に適用すると、半導体センサにX線のダイレクトビームが入ってしまい、その半導体センサを損傷するおそれがある。これに対し、上記構成のように、粉末試料を測定対象とする場合であって半導体センサをX線検出器として用いるときに、その半導体センサの前にX線ビームストッパを配設しておけば、その半導体センサにX線のダイレクトビームが入ることを確実に防止できる。
【0031】
次に、本発明に係るX線分析装置おいて、X線ストッパを設けるための前記低角度領域は角度0°から角度+5°の範囲の領域であることが望ましい。角度0°以上の角度領域としたのは、角度0°未満の領域は試料を支持するための部材である試料ホルダの存在によりX線のダイレクトビームが半導体センサに入ることがほとんど無いと考えられる領域だからである。また、角度+5°以下の角度領域としたのは、低角度領域の回折線の情報を得ることが難しくなるからである。
【0032】
次に、本発明に係るX線分析装置おいて、前記X線ストッパは、前記半導体センサ測角手段によって回転移動させられる前記X線源、前記試料及び前記半導体センサから独立して固定状態に配置されることが望ましい。X線ストッパはX線源からのダイレクトビームが半導体センサに入るの防止することが主な役割であるから、X線源と一体に設けることもできる。しかしながらこの場合には、試料へのX線入射角を変化させるためにX線源を回転移動させるという構成を採ったときに、X線源の回転移動と共にX線ストッパも一体になって回転移動を行う。このとき、X線分析装置の周りに広い空間が確保されていれば問題はないが、X線分析装置の周りに付帯機器が存在する場合には回転移動するX線ストッパがその付帯機器にぶつかってしまうとうい問題が発生する。これに対し、上記構成のように、半導体センサ測角手段によって回転移動させられるX線源、試料及び半導体センサから独立してX線ストッパを固定状態で配設しておけば、X線ストッパが付帯機器にぶつかるという事態は全く発生しないので、X線分析装置の周りに広い空間を形成する必要が無くなる。
【0033】
さて、本発明で用いる半導体センサは特別の種類の半導体センサに限定されるものではないが、CCDセンサによって構成されることが望ましい。特に、蛍光体を介在させてX線を可視光に変換して検出する方式のものでなく、X線を直接に受光して電気信号に変換する構造のCCDセンサ、いわゆるX線直接検出型CCDセンサであることが望ましい。
【0034】
一般に、CCDセンサとは、複数のポテンシャルウエル(Potential well/電位の井戸)に集められた信号電荷を半導体中で転送するデバイスであるCCD(Charge Coupled Device)を用いたセンサである。1つのポテンシャルウエルに対応する領域が1つの画素、すなわち1つの受光素子を構成する。複数のポテンシャルウエルはX線の受光面に1次元的(すなわち直線的)又は2次元的(すなわち、平面的)に配置される。高速及び高感度を実現するためには、複数の画素を2次元的に配列することが望ましい。各ポテンシャルウエルはX線を受光して電子を生成する。このときに生成される電子の個数は入射するフォトンエネルギに比例する。
【0035】
上記のポテンシャルウエルは、例えば図8に示すように、金属電極1−酸化絶縁層2−半導体層3から成る複数のMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造における電極1の1つに、他とは異なる電圧を印加することにより、その電極下を部分的に異なるポテンシャルにすることによって実現される。このポテンシャルウエルに閉じ込められた信号電荷は半導体層3中を順次に転送されて出力部へ送られる。このように信号電荷を半導体層3中で転送させる際にCCDセンサに加えられる信号が電荷転送信号である。
【0036】
本発明において半導体センサとして用いるCCDセンサとしては、1次元CCDセンサ又は2次元CCDセンサが考えられる。しかしながら、望ましくは、2次元CCDセンサを用いる。この2次元CCDセンサには種々の種類のものがある。例えば、FT(Frame Transfer/フレームトランスファ)型、FFT(Full Frame Transfer/フルフレームトランスファ)型、IT(Interline Transfer/インターライントランスファ)型等といった2次元CCDセンサがある。
【0037】
以下、これらの2次元CCDセンサについて説明するが、その説明の中で使用する「水平帰線期間」及び「垂直帰線期間」の語は、読取り点を走査させることによって1フレーム分の画像データを読み取り又は書き出しする際に一般的に用いられている用語である。具体的には、図10において、1つの水平走査SHから次の水平走査SHへ移るまでの時間が水平帰線期間である。また、1回の垂直走査から次の垂直走査へ移るまでの時間、すなわち、1フレームの終点PEから始点PSへ戻るまでの時間が垂直帰線期間である。
【0038】
FT型の2次元CCDセンサは、例えば図5に示すように、垂直シフトレジスタによって構成された受光部6と、他の垂直シフトレジスタによって構成された蓄積部7と、1つの水平シフトレジスタ8と、そして出力部9とを有する。なお、垂直シフトレジスタはパラレルレジスタと呼ばれることがある。また、水平シフトレジスタは、シリアルレジスタ、読出しレジスタ等と呼ばれることがある。受光部6における金属電極1(図8参照)は、ポリシリコン等といった透明導電材料によって形成される。
【0039】
金属電極1を通って半導体層3に光が入射すると、光電変換が行われて信号電荷が発生する。この信号電荷は一定時間中に電極1の下のポテンシャルウエルに集められる。この信号電荷は、その後、垂直帰線期間中に、すなわち1回の垂直走査から次の垂直走査へ移るまでの時間中に、フレームごと蓄積部7に高速で転送される。このようにFT型CCDセンサでは、受光部6の垂直シフトレジスタは信号蓄積期間において光電変換デバイスとして機能する。受光部6で光電変換と信号の蓄積が行われる間、蓄積部7に蓄積された信号電荷は、水平帰線期間中に、すなわち1つの水平走査から次の水平走査へ移るまでの時間中に、1ラインごと水平シフトレジスタ8へ転送され、さらにその水平シフトレジスタ8によって出力部9へ転送される。
【0040】
次に、FFT型の2次元CCDセンサは、例えば図6に示すように、基本的には図5のFT型CCDセンサにおいて蓄積部7を取り除いた構成になっている。蓄積部7がないため、通常は、受光部6にシャッタ機構が付設される。このFFT型CCDセンサでは、信号蓄積期間に受光部6のポテンシャルウエル、すなわち画素、すなわち受光素子に電荷を集め、シャッタ機構の閉期間に水平シフトレジスタ8を通して信号電荷が出力部9に転送される。FFT型CCDセンサは、蓄積部を持たないので、FT型と同一サイズで多画素にすることができ、あるいは受光部6を大面積にできる。
【0041】
次に、IT型CCDセンサは、例えば図7に示すように、フォトダイオード6aによって構成された受光部6と、フォトダイオード6aを挟むように配置された垂直シフトレジスタ7と、フォトダイオード6aと垂直シフトレジスタ7との間にスイッチとして設けられた転送ゲート11と、水平シフトレジスタ8と、そして出力部9とを有する。
【0042】
フォトダイオード6aで光電変換により発生した信号電荷はフォトダイオード6a自身の接合容量等に集められる。集められた信号電荷は、垂直帰線期間中に転送ゲート11を通して垂直シフトレジスタ7へ転送される。この転送動作はFT型CCDセンサ(図5参照)と異なり、フォトダイオード6aから垂直シフトレジスタ7へ全画素について同時に行われる。その後、信号電荷は、水平帰線期間中に1ラインごと水平シフトレジスタ8へ転送され、さらに、その水平シフトレジスタ8によって出力部9へ出力される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、X線分析装置の一例であって粉末試料の分析に好適に用いられるX線回折装置に本発明を適用した場合の実施形態を例に挙げて本発明を説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0044】
図1は、本発明に係るX線分析装置の一実施形態であるX線回折装置を示している。ここに示すX線回折装置16は、垂直に立てられたテーブル17と、そのテーブル17上に設けられたゴニオメータ18とを有する。ゴニオメータ18は、テーブル17上に設けられていて紙面垂直方向に延びる円柱状の試料台19と、その試料台19から延びる線源アーム21と、同じく試料台19から延びる検出器アーム22とを有する。
【0045】
試料台19には、図1の紙面垂直方向に延びる試料ホルダ23が取外し可能に装着されている。この試料ホルダ23には開口又は凹部が設けられ、その開口又は凹部の中に試料、本実施形態では粉末試料Sが詰め込まれている。試料台19は、試料SのX線照射面が水平になるように試料ホルダ23を支持している。また、試料台19に装着した試料ホルダ23を他の試料ホルダと交換することにより、測定に供する試料を変えることができる。試料ホルダ23が試料台19の所定の位置にセットされたとき、測定のための中心軸線となる試料軸線ωが試料SのX線入射面を通るようになっている。この試料軸線ωは紙面垂直方向に延びる軸線である。
【0046】
線源アーム21は試料軸線ωを中心として回転可能にテーブル17上に設けられている。この線源アーム21には、X線源であるX線焦点24を内蔵したX線発生装置26と、このX線発生装置26から出たX線の発散を規制して試料Sへ導く発散規制スリット27とが設けられる。
【0047】
また、線源アーム21には、これを回転駆動するための装置であるθ回転駆動装置28が付設されている。このθ回転駆動装置28は線源アーム21を試料軸線ωを中心として回転させることができる構成であればどのような構成であっても良いが、例えば、線源アーム21に固定されたウオームホイールと、そのウオームホイールに噛み合うウオームと、そのウオームを駆動して回転させる動力源とによって構成できる。ここで、動力源としてはサーボモータ、パルスモータ等といった電動モータを用いることができる。線源アーム21はθ回転駆動装置28によって駆動されて試料軸線ωを中心として回転する。これ以降、線源アーム21のこの回転をθ回転と呼ぶことにする。
【0048】
上記の検出器アーム22は試料軸線ωを中心として回転可能にテーブル17上に設けられている。この検出器アーム22にはX線検出装置29が設けられている。この検出器アーム22には、これを回転駆動するための装置である2θ回転駆動装置31が付設されている。この2θ回転駆動装置31は、検出器アーム22を試料軸線ωを中心として回転させることができる構成であればどのような構成であっても良いが、例えば、線源アーム22に固定されたウオームホイールと、そのウオームホイールに噛み合うウオームと、そのウオームを駆動して回転させる動力源とによって構成できる。ここで、動力源としてはサーボモータ、パルスモータ等といった電動モータを用いることができる。検出器アーム22は2θ回転駆動装置31によって駆動されて試料軸線ωを中心として回転する。これ以降、検出器アーム22のこの回転を2θ回転と呼ぶことにする。
【0049】
テーブル17の適所にはストッパ用アーム32が固定され、そのストッパ用アーム32の先端にX線ストッパ33が設けられている。このX線ストッパ33は、例えば20mm×40mm程度の大きさで厚さが約2mmの鉛によって形成される。なお、X線ストッパ33は鉛以外でX線を通さない物質によって形成しても良く、あるいは、X線をX線検出装置29にとって支障の出ない程度の大きさに減衰させる物質によって形成しても良い。
【0050】
本実施形態の場合、X線ストッパ33は、試料SのX線出射側であって回折角度0°の近傍である低角度領域γを覆うように設けられている。より具体的には、回折角度0°から回折角度+5°の角度範囲にわたって設けられている。従って、X線検出装置29が2θ回転駆動装置31によって駆動されてこの低角度領域γに入ったとき、そのX線検出装置29にX線が入ることがX線ストッパ33によって阻止される。なお、X線ストッパ33を支持するストッパ用アーム32はテーブル17に固定されているので、線源アーム21及び検出器アーム22が回転移動するときでもX線ストッパ33は決められた位置に静止している。
【0051】
X線検出装置29は、図2に示すように、筐体36と、CCDモジュール37と、冷却用要素としてのペルチェ素子38と、膜39とを有する。筐体36は図1の試料Sに向かう側に凹部41を有し、その凹部41の中にCCDモジュール37及びペルチェ素子38が収容されている。ペルチェ素子38はCCDモジュール37の裏面に接触している。膜39はX線を通すことができる材料、例えばベリリウム(Be)によって形成されている。この膜39は、凹部41の開口の所で筐体36の壁面に接着剤その他の固定手段によって固定されている。ペルチェ素子38は、周知の通り、通電によってその1面が冷却され他の面が昇温する素子であり、本実施形態では冷却される面がCCDモジュール37に接触している。
【0052】
図3はCCDモジュール37の平面構造を示している。また、図4は図3のA−A線に従ってCCDモジュール37の断面構造を示している。これらの図において、CCDモジュール37は、半導体センサとしてのCCDセンサ43と、そのCCDセンサ43をパッケージングするパッケージ40とを有する。ここで、パッケージングとは、CCDセンサ42を保護すると共に、外部の電気回路との導電接続を達成できるようにCCDセンサ42を容器によって取り囲むことである。
【0053】
上記のパッケージングを達成するため、パッケージ40は、CCDセンサ43を搭載する基板として機能するハウジング42と、方形のリング状の膜支持部材46と、その膜支持部材46によって支持されている保護膜44と、複数の配線48と、複数の外部端子49とを有する。ハウジング42は、例えばセラミック、合成樹脂等によって形成され、その内部に深い凹部47a及び浅い凹部47bから成る凹部47を有する。凹部47は図1の試料Sへ向かう開口を有している。CCDセンサ43は深い凹部47a内に収容され、配線48は浅い凹部47bを通って外部端子49に接続している。配線48の一端は所定の接合技術によってCCDセンサ43の入出力端子に接続され、配線48の他端は所定の接合技術によって外部端子49に接続されている。
【0054】
膜支持部材46は凹部47の開口の所でハウジング42に接着剤その他の固定手段によって固定されている。膜支持部材46はその中央部分が正方形又は長方形の開口50となっていて、その開口50を覆うように保護膜44の周縁が膜支持部材46の周縁に接着剤その他の固定手段によって固定されている。開口50は、CCDセンサ43のX線受光領域に相当する大きさを有し、少なくともそのX線受光領域よりも広い大きさとなっている。
【0055】
保護膜44は、例えばカプトン、マイラー(いずれもデュポン社製の商品の商標名)等によって形成されている。これらの材料を用いることにより、保護膜44は、X線の透過性の良い膜となっており、しかもゴミ、埃、金属片等といった異物の進入を阻止できる機械的強度を持っている。保護膜43は、異物の進入を阻止することにより、CCDセンサ42を保護している。また、保護膜43は、CCDセンサ42のX線受光面に近接して設けられている。膜支持部材46は、例えばガラスによって形成されている。このため、膜支持部材46は可視光を通すことができ、しかもX線を減衰させる特性を有する。つまり、本実施形態では、X線を減衰させる材料であるガラスによって保護膜44の外周縁を囲む周囲領域を形成している。なお、図3では保護膜44の外周縁を囲む周囲領域の全域をガラスによって形成しているが、必要に応じて、その周囲領域の一部分をガラスで形成するようにしても良い。
【0056】
CCDセンサ43は、本実施形態の場合、図6に示すFFT型のCCDセンサを用いるものとする。このCCDセンサ43は、図1に示すようにCCD駆動回路34によってX線の読み取りのために駆動される。CCD駆動回路34はCCDセンサ43を、いわゆるTDI(Time Delay Integration)動作するように駆動する。このTDI動作については後述する。
【0057】
図1において、X線回折装置16は制御装置51を有する。この制御装置51は、CPU(Central Processing Unit)52と、記憶媒体すなわちメモリ53と、各種信号を伝送するバス54とを有する。メモリ53は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等といった半導体メモリや、ハードディスク、CD(Compact Disc)、MO(Magnet Optical)ディスク等といった機械式メモリや、その他任意の構造のメモリによって構成される。また、X線回折装置16は表示装置56を有する。この表示装置56は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal Device) 等といった映像表示手段や、プリンタ等といった印字手段等によって構成される。
【0058】
メモリ53の中には、X線検出装置29内のCCDセンサ43から出力された画素データを記憶するためのファイル57、及びX線回折測定を実行するためのプログラムが格納されたファイル58が含まれる。
【0059】
ファイル58内に格納されたX線回折測定プログラムは、θ回転駆動装置28及び2θ回転駆動装置31の動作を制御する。具体的には、X線回折測定プログラム58は、線源アーム21を試料軸線ωを中心として図1の正時計方向へ回転させて、X線源24を所定の角速度で間欠的又は連続的に回転、いわゆるθ回転させる。このθ回転により、X線源24から放射されて試料Sへ入射するX線の入射角度を変化させる。
【0060】
また、X線回折測定プログラム58は、検出器アーム22を試料軸線ωを中心として回転させてX線検出装置29をX線源24のθ回転と反対方向、すなわち反時計方向、へ同じ角速度で回転、いわゆる2θ回転させる。この2θ回転により、試料Sで回折したX線をX線検出装置29によって検出することができる。
【0061】
なお、X線源24を試料Sに対してθ回転させることに代えて、X線源24すなわち線源アーム21を固定状態に保持しつつ、試料Sを試料軸線ωを中心としてθ回転させ、同時に、X線検出装置29を試料軸線ωを中心として、試料Sのθ回転と同じ方向へ2倍の角速度で2θ回転させることでも、同様の結果を得られる。
【0062】
本実施形態で、X線回折測定プログラム58は、CCD駆動回路34に指示を与えてX線検出装置29にTDI(Time Delay Integration)動作を行わせる。しかも、X線回折測定プログラム58はそのTDI動作を実行するに際して、X線検出装置29における電荷転送の処理を、2θ回転駆動装置31によって行われるX線検出装置29の2θ回転の角速度と同期させるようにしている。
【0063】
以下、TDI動作について説明する。図6に示すFFT型CCDセンサを用いることを前提として、CCDセンサ43は一定の移動速度「v」で、図6の矢印Aの方向に移動するとする。また、電荷転送のパルス信号は周波数「f」であり、転送電荷は、矢印Bで示すように、X線検出装置とは逆方向に移動するものとする。また、CCDセンサ43の1つの画素幅、すなわち1つの受光素子幅を「d」とする。以上の条件の下、
v=f×d
の関係を満足するように、CCDセンサ43の移動速度とCCDセンサにおける読取りのための電荷転送処理とを同期させる。
【0064】
図6において、CCDセンサ43が矢印A方向に速度vで移動すると、M列(列は上下方向)の1列目(すなわち、右端列)の入力は、1/f時間後には2列目の位置に移動する。これに合わせて1列目の電荷を2列目に転送すれば、2列目において被写体の同じ部分のデータが再び光電変換により電荷として蓄積される。このような動作を連続してM列の最後まで行えば、信号電荷としてはTDI動作を行わない通常の場合のM倍の電荷が個々の画素内に蓄積される。これらの蓄積された信号電荷はCCDセンサ43の水平シフトレジスタ8から各列ごとに連続して切れ目無く出力され、これにより、2次元画像のためのデータを求めることができる。こうしてTDI動作により、微弱な回折X線を検出することができる。
【0065】
なお、本願発明においては、「試料をX線源に対して所定の角速度で相対的に回転させると共に半導体センサをX線源に対して上記所定の角速度の2倍の角速度で相対的に回転させる半導体センサ測角手段」を用いる場合がある。本実施形態において、この半導体センサ測角手段は、図1に示すゴニオメータ18、θ回転駆動装置28、2θ回転駆動装置31、及び制御装置51の各要素の組み合わせによって実現されている。
【0066】
本実施形態のX線分析装置は以上のように構成されているので、図1において、X線回折測定が開始されると、X線源24が試料軸線ωを中心としてθ回転し、同時にX線検出装置29が試料軸線ωを中心として2θ回転し、さらに、X線源24から放射されたX線が試料Sへ入射する。試料Sに入射するX線の入射角度がθ回転に応じて変化する間にブラッグの回折条件が満足される状態が発生すると、試料Sに回折X線が発生し、この回折X線は特定の回折角度(2θ)の方向に進行する。そして、この回折X線は、図6のCCDセンサ43の受光部6内の対応する画素によって受光され、この画素内に電荷が発生し、さらに蓄積される。
【0067】
上記のようにX線検出装置29はTDI動作によって駆動され、このTDI動作においては電荷転送処理がX線検出装置29の2θ移動速度に同期するように制御されているので、個々の画素には同一の回折角度(2θ)に関する信号電荷が蓄積されて行く。このため、X線検出装置29の移動速度を高速に設定しても常に正確な回折X線データを個々の画素内に蓄積できる。こうして各画素内に蓄積された信号電荷は受光部6から水平シフトレジスタ8へ列ごとに転送され、さらに出力部9を介して図1の画素データファイル57内へ記憶される。このようなデータ収集動作は、図1においてX線検出装置29が希望の回折角度範囲、例えば20°〜100°の角度範囲を走査した後に終了し、このとき、画素データファイル57内には回折角度20°〜100°の範囲内の各回折角度位置における回折X線強度のデータが記憶される。
【0068】
その後、CPU52は、図1のX線回折測定プログラム58に従い、測定された画素データ57に基づいて図9の回折図形Zを演算によって求める。演算された回折図形Zは、必要に応じて、図1の表示装置56の表示面に画像や印字として表示される。
【0069】
以上に説明したように、図1に示した本実施形態のX線分析装置16では、試料SのX線出射側(すなわち、図1で試料Sの右側)の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域γにX線ストッパ33を配置したので、X線源24から試料Sへ入射するX線の入射角度θが低角度であり、従ってX線検出装置29が配置される回折角度位置θが低角度である場合に、X線源24から出たX線のダイレクトビームであって、試料Sの表面を通過したものがX線検出装置29内のCCDセンサ43に直接に当ることをX線ストッパ33によって確実に防止できる。このため、CCDセンサ43の損傷を長期間にわたって防止できる。
【0070】
また、本実施形態では、複数のCCD素子を平面的に並べて成る2次元CCDセンサ43を用いてX線を検出するので、0次元X線検出器や1次元X線検出器を用いてX線を検出する場合に比べて、2次元すなわち平面的なX線画像を高速に測定できる。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図1ではX線ストッパ33をテーブル17に固定状態で設けたが、この構成に代えて、検出器アーム21を試料SのX線出射側の領域まで延在させ、この検出器アーム21の延在部分にX線ストッパ33を設けるようにしても良い。但し、この場合には検出器アーム21がθ回転する際にX線ストッパ33も試料軸線ωを中心として回転することになるので、X線ストッパ33との衝突を回避するためX線ストッパ33の回転軌跡内にはどのような機器も設置できないことに留意する必要がある。
【0072】
また、図1では、CCDセンサ43として図6に示すFFT型のCCDセンサを用いたが、必要に応じて、その他の構造のCCDセンサを用いても良い。また、図1では、ゴニオメータ18としてX線源24とX線検出装置29の両方を試料軸線ωを中心として回転させる構造のゴニオメータを用いたが、これに代えて次の構造、すなわち、X線源24を一定位置に静止させ、試料Sを試料軸線ωを中心としてθ回転させ、さらにX線検出装置29を試料軸線ωを中心として2θ回転させる構造のゴニオメータを用いることもできる。なお、この場合のX線検出装置29の2θ回転は、試料Sのθ回転と同じ方向であってそのθ回転の2倍の角速度で行われることになる。
【0073】
また、図1ではCCDセンサ43のX線受光面の前にX線を通すことのできる保護膜44を設けて、埃等といった異物がCCDセンサ43に入ることを防止したが、CCDセンサ43自体が埃等といった異物の付着を問題としないものであるならば、保護膜44は取り外しても良い。
【実施例】
【0074】
CCDセンサを用いてX線回折データを取ると、図11のグラフに示すように低角領域に高強度のX線R1が観測される。これは、CCDセンサの特性上、受光側のスリットを開放で使用しているために、CCDセンサがX線のダイレクトビームを拾っているためであると考えられる。CCDセンサに使われているCCD素子は、それに高強度のX線を当てると、放射線損傷により素子が壊れてしまうおそれがある。この場合、X線回折プログラムソフトによって測角範囲を規制することによって、CCDセンサがダイレクトビームを拾わないように制御することも可能であるが、より一層の安全を確保するためにダイレクトビームがCCDセンサに入ることを物理的に禁止する工夫も必要である。この考えに基づいて、CCDセンサの前に種々の形状及び物質のX線ストッパを配置して、その有効性を実験によって検証した。
【0075】
まず、40kV−40mAの負荷で、CCDセンサの前面に厚さ0.3mmの銅(Cu)板を置き、−1°から10°までの角度範囲をスキャンした。その結果、図12(a)の結果を得た。図12(b)は図12(a)の縦軸を拡大したものである。このとき発散規制スリットのスリット幅は(2/3)°に設定した。図12(a)において、横軸は回折角度2θ表示であるので、−(2/3)°から(2/3)°までフラットなピークが観測される。しかし、このダイレクトビームのピークは(2/3)°で0(セロ)になるのではなく、角度4°付近まで、場合によっては角度5°付近まで、だらだらと裾を引いている。これは、発散規制スリットによる散乱に起因するものである。
【0076】
厚さ0.3mmの銅板に対するCuKα線(8,060eV)の透過率は、ほぼ0であるので、ここで観測されるX線は連続X線の高エネルギ側(>10keV)の成分である。20keVのエネルギのX線の0.3mm厚の銅板に対する透過率は10−30以下であるので、銅板が無い場合、極めて過剰な強度のX線がCCD素子に入射すると考えられる。
【0077】
Si標準試料を試料としてX線ストッパをCCDセンサの前に置いて測定を行った場合と、Si標準試料を試料としてX線ストッパをCCDセンサの前に置かないで測定を行った場合との結果を図13に示す。この図から、X線ストッパをCCDセンサの前に配置すれば、低角領域においてダイレクトビーム及び発散規制スリットからの散乱線の両方が確実に遮断されているのが分かる。
【0078】
ソフトウエアによるリミッタをかけて、測定の開始点を低角(例えば、3°)以下に設定できないようにすれば、X線ストッパ無しでも強い散乱を拾うことはないが、TDI動作を採用する場合には、実際の測定開始点より512ライン(すなわち、約3°)からX線が入射してしまうので、そこで強いX線を浴びると、CCDセンサの寿命が短くなるおそれがある。従って、X線ストッパは常に配置されることが望ましい。X線分析装置の発散規制スリットの設定を(2/3)°、1°と変えて測定したダイレクトビームファイルと、X線ストッパを取り付けて同じスキャンを行った結果を図14に示す。この図から、発散規制スリットが広い(1°)状態でも、散乱線をきれいに遮蔽していることが分かる。
【0079】
ところで、発散規制スリットからの散乱線がCCDセンサに入らないようにするための他の方法として、図15に示すように、ナイフエッジ61を用いる方法が考えられる。符号62は受光スリットを示している。この方式の大きな欠点は、試料Sからナイフエッジ61までの距離の調節によっては、散乱線がきれいに除去できなかったり、高角側の回折を遮ってしまったりすることにより、広範囲のデータが取れないことである。これに対し、本発明のように、CCDセンサの前面にX線ストッパを配置すれば、はるかに調整がし易く、しかも散乱線をきれいに除去できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係るX線分析装置は、X線回折測定、蛍光X線測定等といったX線分析を高速且つ正確に行いたい場合に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の装置で用いるX線検出装置を拡大して示す平面断面図である。
【図3】図2のX線検出装置で用いるCCDモジュールを示す平面図である。
【図4】図3のA−A線に従ったCCDモジュールの断面図である。
【図5】CCDセンサの一例を示す図である。
【図6】CCDセンサの他の一例を示す図である。
【図7】CCDセンサのさらに他の一例を示図である。
【図8】半導体受光素子であるCCD素子の断面構造を示す断面図である。
【図9】図1のX線分析装置を用いた測定の結果として得られた回折線図形を示す図である。
【図10】CCDセンサの機能を説明するための図である。
【図11】標準Si試料に関するCCDセンサを用いた測定とSCを用いた測定との比較を示グラフである。
【図12】ダイレクトビームプロファイルを示すグラフであり、(a)はデータ全体を示し、(b)は(a)の一部分を拡大して示している。
【図13】X線ストッパの有り無しで測ったSi標準試料の測定結果を示すグラフである。
【図14】発散規制スリットを広げたときのダイレクトビーム及び発散規制スリットからの散乱線を示すグラフである。
【図15】X線分析装置の比較例であってナイフエッジを用いたものを示す図である。
【図16】従来のX線分析装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1.金属電極、 2.酸化絶縁層、 3.半導体層、 6.受光部、
6a.フォトダイオード、 7.蓄積部、 8.水平シフトレジスタ、 9.出力部、
11.転送ゲート、 16.X線回折装置、 17.テーブル、 18.ゴニオメータ、
19.試料台、 21.線源アーム、 22.検出器アーム、 23.試料ホルダ、
24.X線焦点(X線源)、 26.X線発生装置、 27.発散規制スリット、
29.X線検出装置、 32.ストッパ用アーム、 33.X線ストッパ、
36.筐体、 37.CCDモジュール、 38.ペルチェ素子、 39.膜、
40.パッケージ、 41.凹部、 42.ハウジング、
43.CCDセンサ(半導体センサ)、 44.保護膜、 46.膜支持部材、
47.凹部、 47a.第1凹部、 47b.第2凹部、 48.配線、 49.端子、
50.開口、 51.制御装置、 d.受光素子幅、 S.試料、 v.移動速度、
Z.回折図形
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を支持する試料支持手段と、
前記試料に照射するX線を発生するX線源と、
複数の半導体素子を並べることによって形成されていて前記試料から出たX線をそれらの半導体素子によって直接に受光する半導体センサと、
前記試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域に配置されたX線ストッパと
を有することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線分析装置おいて、
前記試料を前記X線源に対して所定の角速度で相対的に回転させると共に前記半導体センサを前記X線源に対して前記所定の角速度の2倍の角速度で相対的に回転させる半導体センサ測角手段と、
前記半導体センサ内の前記複数の半導体受光素子に電荷転送信号を付与することにより前記半導体センサをX線の読取りのために駆動する半導体センサ駆動回路とをさらに有し、
該半導体センサ駆動回路は、前記半導体センサ測角手段によって前記半導体センサがX線読取りのために回転移動させられるとき、その回転移動に同期させて前記電荷転送信号を前記複数の半導体素子の各々に付与する
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のX線分析装置おいて、
前記低角度領域をαとするとき、
0°≦ α ≦ +5°
であることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のX線分析装置おいて、
前記X線ストッパは、前記半導体センサ測角手段によって回転移動させられる次の3つの要素、すなわち前記X線源、前記試料及び前記半導体センサから独立して固定状態に配置される
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線分析装置において、前記複数の半導体素子はCCD素子であることを特徴とするX線分析装置。
【請求項1】
試料を支持する試料支持手段と、
前記試料に照射するX線を発生するX線源と、
複数の半導体素子を並べることによって形成されていて前記試料から出たX線をそれらの半導体素子によって直接に受光する半導体センサと、
前記試料のX線出射側の領域であって回折角度0°の近傍である低角度領域に配置されたX線ストッパと
を有することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線分析装置おいて、
前記試料を前記X線源に対して所定の角速度で相対的に回転させると共に前記半導体センサを前記X線源に対して前記所定の角速度の2倍の角速度で相対的に回転させる半導体センサ測角手段と、
前記半導体センサ内の前記複数の半導体受光素子に電荷転送信号を付与することにより前記半導体センサをX線の読取りのために駆動する半導体センサ駆動回路とをさらに有し、
該半導体センサ駆動回路は、前記半導体センサ測角手段によって前記半導体センサがX線読取りのために回転移動させられるとき、その回転移動に同期させて前記電荷転送信号を前記複数の半導体素子の各々に付与する
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のX線分析装置おいて、
前記低角度領域をαとするとき、
0°≦ α ≦ +5°
であることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のX線分析装置おいて、
前記X線ストッパは、前記半導体センサ測角手段によって回転移動させられる次の3つの要素、すなわち前記X線源、前記試料及び前記半導体センサから独立して固定状態に配置される
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線分析装置において、前記複数の半導体素子はCCD素子であることを特徴とするX線分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−71320(P2006−71320A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252035(P2004−252035)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
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