説明

X線及び中性子線の反射率曲線測定方法及び測定装置

【課題】X線又は中性子線の反射率曲線の測定時間を大幅に短縮することができ、外的刺激により物性などが時間的に変化していく様子を実時間で追跡すること。
【解決手段】白色X線または中性子線を透過型ポリクロメータ1に背面から入射させて扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線または中性子線の波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束または中性子線束を作成する。X線束または中性子線束の収束点に試料Sを配置して当該X線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射X線または中性子線の強度分布を一次元検出器2で測定し、その一次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線または中性子線反射率曲線を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面にX線又は中性子線を照射して反射率曲線を測定するX線及び中性子線の反射率曲線測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、数原子層厚〜数百原子層厚の薄膜は薄膜固有の物理的、電気的、化学的性質を示すものが多く存在し、基礎、応用の両面から研究されており、その構造を評価することは重要である。薄膜構造解析手法としては、電子線を用いる方法、X線を用いる方法(表面X線回折、視斜角入射X線小角散乱、X線および中性子線反射率測定、表面X線吸収微細構造測定,光電子回折)、走査プローブなど多種の手法がそれぞれの特徴を持って利用されている。なかでも、X線反射率測定法は、膜厚(〜0.1Åの精度)、表面・界面の粗さ(〜0.1År.m.s.の精度)や薄膜表面に垂直な方向の精密な電子密度を測定することができ(例えば、非特許文献1参照)、かつ気体・固体、気体・液体、固体・固体の埋もれた界面や、結晶性を持たない薄膜も研究対象とすることができるために、薄膜構造研究のための重要なプローブのひとつとして、広く認識され利用されている。中性子線反射率測定法も電子密度の代わりに原子核の分布密度を知ることができること以外はX線反射率法と同様な物質構造情報を得られ、ソフトマテリアルの研究などに広く用いられている。
【0003】
図5は単色X線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図である。結晶モノクロメータ101で単色化したX線を試料S表面に照射角αで照射し、試料Sへの照射角αをゴニオメーター102の回転により逐次変化させて反射X線強度を検出器103で検出する。そして、反射X線強度の表面垂線方向の散乱ベクトルq=4πsinα/λ(λ:X線の波長)の関数として逐次測定して計算機104で解析して膜厚等を検出する。
【0004】
ところが、上記単色X線を用いた角度分散法は、試料Sへの照射角αをゴニオメーター102により逐次変化させるため、反射率曲線の測定には10分〜20分程度の時間が必要とされ、試料の定常状態の観察にとどまっている。
【0005】
角度分散法の欠点を克服するためにゴニオメーター102による角度調節作業を排除した測定法が提案されている。図6に示すように、試料S表面に白色X線を一定のすれすれの照射角で入射させ、反射X線をエネルギー分解能を有するエネルギー分散型固体検出器105で測定する測定法が提案されている。
【特許文献1】特表2002−505750号公報
【特許文献2】特開平11−14570号公報
【非特許文献1】A.Gibaud、S.Hazra,「X-Ray reflectivityand diffuse scattering」,CURRENT SCIENCE VOL.78, NO. 12、P1467-P1477、2000年6月25日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図6に示す測定法は、エネルギー分散型固体検出器の計数率の限界のために、当該検出器にあまり強いX線が入射することを避けねばならないので、測定時間は10秒程度から数百秒かかっており、高速の構造変化を追跡することは難しかった。
【0007】
また、検出器のエネルギー分解能に起因して表面垂線方向散乱ベクトルqの分解能が数パーセントより小さくならないために、限られた例についてのデモンストレーション的な研究が見られる程度であった。
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであって、X線又は中性子線の反射率曲線の測定時間を大幅に短縮することができ、外的刺激により薄膜の構造が時間的に変化していく様子を実時間で追跡することのできるX線及び中性子線の反射率曲線測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のX線反射率曲線の測定方法は、白色X線を湾曲結晶に背面から入射させて扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束を作成し、前記X線束の収束点に試料を配置して当該X線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射X線の強度分布を測定し、その強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とする。湾曲結晶は、その曲率半径がかなり小さいことから、収差の小さいタイプのものが必要で、透過型の湾曲結晶を使うことは収差を小さくして大きな波長範囲を確保する上で非常に有効である。
【0010】
上記X線反射率曲線の測定方法において、前記湾曲結晶の各入射位置において白色X線のうちバックグラウンドとなるX線成分を前記湾曲結晶の前段でカットすることが望ましい。
【0011】
また本発明のX線反射率曲線の測定装置は、白色X線が背面から入射して湾曲結晶より出射して扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束を一定の照射角で試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する一次元又は二次元検出器と、前記一次元又は二次元検出器で検出された反射X線の強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置とを具備したことを特徴とする。
【0012】
上記X線反射率曲線の測定装置において、前記湾曲結晶の前段に配置され、入射する白色X線のうち前記湾曲結晶の各入射位置においてバックグラウンドとなる成分をカットするプリポリクロメータを備えることが望ましい。
【0013】
また本発明の中性子線反射率曲線の測定方法は、白色中性子線を湾曲結晶に背面から入射させて扇型に収束後発散し進行方向に依存して中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化する中性子線束を作成し、前記中性子線束の収束点に試料を配置して当該中性子線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射中性子線の強度分布を測定し、その強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする。
【0014】
上記中性子線反射率曲線の測定方法において、前記湾曲結晶の各入射位置において白色中性子線のうちバックグラウンドとなる中性子線成分を前記湾曲結晶の前段でカットすることが望ましい。
【0015】
また本発明の中性子線反射率曲線の測定装置は、白色中性子線が背面から入射し湾曲結晶より出射して扇型に収束後発散し進行方向に依存して中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化する中性子線束を一定の照射角で試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する一次元又は二次元検出器と、前記一次元又は二次元検出器で検出された反射中性子線の強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置とを具備したことを特徴とする。
【0016】
上記中性子線反射率曲線の測定装置において、前記湾曲結晶の前段に配置され、放射光源から入射する白色中性子線のうち前記湾曲結晶の各入射位置においてバックグラウンドとなる成分をカットするプリポリクロメータを備えることが望ましい。
【0017】
上記X線/中性子線反射率曲線の測定方法又は測定装置において、上記透過型の湾曲結晶に代えて結晶表面が楕円曲面に湾曲した反射型結晶を用いても良い。楕円曲面に湾曲した反射型結晶は、楕円曲面でない反射型湾曲結晶に比べて収差が少なく、X線/中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線/中性子線束を作成するのに好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、X線又は中性子線の反射率曲線の測定時間を大幅に短縮することができ、外的刺激により薄膜の構造が時間的に変化していく様子を実時間で追跡することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施の形態では、X線反射率曲線測定の具体例について説明するが、中性子線についても同様に適用可能である。
【0020】
図1は本発明の一実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置の原理図である。本実施の形態に係る反射率曲線測定装置は、湾曲結晶からなる透過型ポリクロメータ1と、試料Sで反射したX線の一次元強度分布を測定する一次元検出器2と、反射X線の一次元強度分布を演算処理してX線反射率曲線を取得する分析装置3と、傾斜多層膜からなるプリポリクロメータ4とを備えている。
【0021】
透過型ポリクロメータ1を構成する湾曲結晶は、湾曲方向の結晶位置に応じて結晶格子面と入射X線とのなす角度が連続的に変化するようになっている。したがって、白色X線を湾曲結晶の背面側から入射して湾曲面側から出射することで、各入射位置の結晶格子面と入射X線とのなす角度に対応して各々波長が異なり同一焦点に向かうX線に変換される。透過型ポリクロメータ1から出射するX線束全体でみれば、湾曲結晶から焦点に向けて水平方向に扇型に収束すると共に進行方向により異なる波長を持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。本実施の形態で実現可能なX線束の波長範囲については後述する。透過型ポリクロメータ1から出射した水平方向に扇型に収束するX線束の収束点に試料Sが配置される。
【0022】
図2は、試料Sに入射するX線束の照射角α、入射X線と反射X線の進行方向をそれぞれ示す模式図である。同図に示すように、試料表面で全反射を起こすように表面が平坦な試料Sの表面すれすれの照射角αでX線を照射している。また、試料表面の1点に扇型に収束する入射X線は収束角に応じてX線波長がλSからλLまで連続的に異なっている。試料表面に結んだ焦点で反射した反射X線は焦点通過後に発散するが、反射X線の進行方向によりX線波長が異なる反射X線(λSからλL)となって一次元検出器2へ入射する。
【0023】
一次元検出器2は、試料表面で反射して水平方向に扇状に発散する反射X線が入射する位置に配置されている。一次元検出器2は、反射X線強度を個別に検出するセンサユニットを一次元状に配置した構成を有しており、各センサユニットの一次元位置がX線反射率曲線における散乱ベクトルの値q=4πsinα/λを与えるX線波長に対応する。
【0024】
分析装置3は、一次元検出器2から出力される反射X線の一次元強度分布測定値に基づいてX線反射率曲線全体を求めるようにプログラムされている。X線反射率は試料表面に垂直な方向での散乱ベクトルq=4πsinα/λ(α:入射X線が試料表面となす角、λ:X線の波長)の関数として変化するので、一次元強度分布測定値からX線反射率のq依存性の曲線であるX線反射率曲線R(q)を分析装置3において求めている。
【0025】
図3はX線反射率曲線の一例を示す図である。X線反射率曲線の振動周期から膜厚を求めることができ、振動の振幅から各層の密度差を求めることができる。また、X線反射率曲線の強度減衰からは界面粗さを求めることができる。このようにX線反射率曲線の全体が測定できなければ、X線反射率曲線のプロファイルから試料の膜厚等のデータを正確に計算できないので、X線反射率曲線全体をいかに迅速に測定するかといったことが、全体の測定時間を短縮する上で重要である。
【0026】
図3に示すように、X線束(入射X線)の波長範囲(λSからλL)をその下限値から当該下限値の3〜4倍以上確保できなければ、X線反射率曲線の振動周期、振動の振幅、強度減衰特性を評価することは難しい。したがって、X線反射率曲線を高速に同時測定するためには、X線束(入射X線)の波長範囲(λSからλL)をできるだけ広い範囲に設定することが望まれる。
【0027】
本発明者等は、ローランド円の外側に放射光源を置いて反射型の湾曲結晶にほぼ平行な白色放射光を入射させ、湾曲結晶の湾曲面で反射させてX線の進行方向とエネルギーが1:1に対応した約1keVのエネルギー範囲をカバーする収束X線束を作成し、収束点に試料を置いて当該試料を通過した発散する吸収X線を試料後方に配置した検出器で検出してX線吸収曲線を測定する方法を提案した(T. Matsushita and R. P. Phizackerley,
"A Fast X-Ray Absorption Spectrometer for Use with Synchrotron
Radiation", Japanese Journal of Applied Physics, vol. 20, No.11, p2223-p2228, November
1981)。X線波長λとX線エネルギーEとは、λ=12.4/Eの関係があるので、上記文献においてすべてエネルギーのスケールで記述されている事柄はこの波長とエネルギーの関係を表す式を適用することにより本明細書における記述と比較できる。
【0028】
ところが、X線反射率曲線を高速に同時測定しようとした場合、上記論文のように中心波長(エネルギー)の10〜20%の波長(エネルギー)範囲をカバーする収束X線束では、波長(エネルギー)範囲が不十分であることが判明した。反射型の湾曲結晶を用いて中心波長(エネルギー)の10〜20%の波長(エネルギー)範囲をカバーする収束X線束を作成する場合、曲率半径が1m程度の湾曲結晶を用いることができたが、より広い波長(エネルギー)範囲をカバーする収束X線束を作成するために、より曲率半径の小さい湾曲結晶を用いなければならない。しかし、その下限値から当該下限値の3〜4倍程度から10倍程度の広い波長(エネルギー)範囲をカバーする収束X線束を作成可能な曲率半径の円筒型湾曲結晶では、収差が生じてX線が1点に収束しないため良好な測定データを得ることができない。
【0029】
そこで、曲率半径を小さくしても(例えば、10cm)収差が小さくX線を1点に収束することのできる透過型の湾曲結晶からなる透過型ポリクロメータ1を用いることとした。曲率半径が10cm程度の透過型ポリクロメータ1を用いることにより、その下限値から当該下限値の5倍以上の広い波長範囲をカバーする収束X線束を作成できることが確認された。
【0030】
本実施の形態では、透過型ポリクロメータ1を用いることで白色X線束を、X線波長が0.1Åから6Åの間でその下限値から当該下限値の3倍以上の範囲で波長λ(エネルギー)が連続的に変化する収束X線束を作成する。望ましくは、10倍程度のエネルギー範囲をカバーする収束X線束を作成する。収束X線束のX線波長又はエネルギーの範囲がその下限値から当該下限値の10倍程度あれば、迅速性と高い測定精度を確実に実現できるが、3倍以上を実現できればX線反射率曲線全体から薄膜の構造情報を引き出すのに最小限必要な解析が可能である。そしてこの測定法ではX線反射率曲線全体を高計数率で測定可能であるために、従来に比べて十分に迅速化が図られる。
【0031】
また、表面に垂直な波数ベクトルqの大きい領域での反射率は極めて低くなるのでその領域での測定を可能とするためには、外乱となるバックグラウンド成分をできる限り下げることが望ましい。透過型ポリクロメータ1の湾曲結晶への入射位置によって必要とされるX線の波長は異なりその他の波長成分はバックグラウンドとして寄与するので、プリポリクロメータ4を用いて各結晶位置へ入射する白色X線からバックグラウンド成分をカットするように構成した。
【0032】
図4(a)(b)に示すように、プリポリクロメータ4は、特定波長のX線を反射する(バックグラウンド波長のX線をカットする)傾斜多層膜11が形成されている。傾斜多層膜11は、放射光源からの白色X線の入射方向に対して直交する横方向に構成する各層の間隔が連続的に変化している。本実施の形態では、平行性の高い白色X線をプリポリクロメータ4に入射して、各X線入射位置における傾斜多層膜11の層間距離に応じたX線波長をそれぞれ選択して透過型ポリクロメータ1へ出射させる。傾斜多層膜11の層間距離を調整して、透過型ポリクロメータ1における各X線入射位置においてポリクロメータの各点で反射される波長を中心として中心波長の数〜10%程度の波長幅を持つようなX線がポリクロメータ各点に入射するようにすることにより外乱(バックグラウンド成分)となるX線波長をプリポリクロメータ4において除去するようにしている。
【0033】
次に、以上のように構成された本実施の形態の動作について説明する。
X線源から白色X線が出射してプリポリクロメータ4に入射する。プリポリクロメータ4では傾斜多層膜11の層間距離に応じて透過型ポリクロメータ1の各結晶位置において外乱(バックグラウンド)となるX線波長がカットされて所要波長のX線束が透過型ポリクロメータ1へ入射される。
【0034】
プリポリクロメータ4でバックグラウンド成分が低減されたX線が透過型ポリクロメータ1に入射する。透過型ポリクロメータ1において、湾曲結晶の背面から入射したX線は水平方向に扇型に収束するX線束であってX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍程度の範囲で連続的に変化する収束X線束が作成される。
【0035】
透過型ポリクロメータ1で作成された収束X線束は試料S表面で1点に収束した後、収束角と同じ角度で水平方向に扇型に拡散して一次元検出器2に入射する。一次元検出器2では反射X線の一次元強度分布が並列に測定される。反射X線の一次元強度分布測定値は分析装置3へ出力される。分析装置3では、図3に示すように一次元強度分布測定値からX線反射率曲線R(q)を求める。
【0036】
透過型ポリクロメータ1を用いて0.3Å〜1.7Åの波長範囲をカバーする収束X線束を作成して試料Sに照射し、入射X線が試料表面となす角αを固定してX線反射率曲線R(q)を測定したところ、1秒以下の短い時間でX線反射率曲線全体の測定を完了することができた。
【0037】
このように本実施の形態によれば、透過型ポリクロメータ1を用いて平行性の高い白色X線を波長(エネルギー)が連続的に変化する収束X線束を作成したので、その下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲となる広い波長範囲をカバーする収束X線束を作成でき、かかる収束X線束を利用して反射X線強度の1次元的空間分布測定を行うことでX線反射率曲線R(q)を迅速に同時測定することができる。
【0038】
また、透過型ポリクロメータ1で作成する波長が連続して変化する収束X線束に対するバックグラウンド成分を、プリポリクロメータ4でその前段においてカットするようにすることで、収束X線束に対する外乱を排除して高い測定精度を実現することができる。
【0039】
以上の説明ではX線反射率曲線の同時測定について説明したが、中性子線の反射率曲線の同時測定にも同様に適用できる。例えば、透過型ポリクロメータ1を用いて中性子線の進行方向に依存して中性子線波長が0.5Å〜15.0Åの範囲で、その下限値から下限値の3倍から10倍程度連続的に変化する中性子線束を作成して試料Sに照射する。
【0040】
以上の説明ではX線/中性子線反射率曲線の同時測定に透過型の湾曲結晶を用いているが、透過型ポリクロメータ1の代わりに表面が楕円形に湾曲した楕円湾曲反射型結晶のポリクロメータを用いることもできる。
【0041】
楕円湾曲反射型結晶で構成されるポリクロメータは、透過型ポリクロメータ1と同様に収差による焦点の肥大化を避けることができる。したがって、白色X線又はプリポリクロメータ4でバックグラウンド成分を除去したX線を楕円湾曲反射型結晶へ入射し、楕円湾曲反射型結晶で反射して、X線波長(エネルギー)が連続的に変化する収束X線束を作成すれば、その下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲となる広い波長範囲をカバーする収束X線束を作成でき、かかる収束X線束を利用して反射X線強度の1次元的空間分布測定を行うことでX線反射率曲線R(q)を迅速に同時測定することができる。
【0042】
また、白色中性子線又はプリポリクロメータ4でバックグラウンド成分を除去した中性子線を楕円湾曲反射型結晶で構成されるポリクロメータに入射し、楕円湾曲反射型結晶で反射して、中性子線波長(エネルギー)が連続的に変化する収束中性子線束を作成すれば、その下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲となる広い波長範囲をカバーする収束中性子線束を作成でき、かかる収束中性子線束を利用して反射中性子線強度の1次元的空間分布測定を行うことで中性子線反射率曲線R(q)を迅速に同時測定することができる。
【0043】
また、上記実施の形態では一次元検出器2を用いているが、二次元検出器を用いて反射X線強度又は反射中性子線強度の空間分布測定を行うように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、薄膜の構造変化の実時間追跡するシステムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態に係る反射率曲線測定装置の原理図
【図2】X線束の照射角、入射X線と反射X線の進行方向をそれぞれ示す模式図
【図3】X線反射率曲線の一例を示す図
【図4】(a)プリポリクロメータの傾斜多層膜の膜厚傾斜と選択波長の関係図、(b)傾斜多層膜の断面構造の模式図
【図5】単色X線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図
【図6】白色X線を用いて反射X線をエネルギー分散型固体検出器で受ける測定法の原理図
【符号の説明】
【0046】
1…透過型ポリクロメータ
2…一次元検出器
3…分析装置
4…プリポリクロメータ
11…傾斜多層膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色X線を湾曲結晶に背面から入射させて扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束を作成し、前記X線束の収束点に試料を配置して当該X線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射X線の強度分布を測定し、その強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とするX線反射率曲線の測定方法。
【請求項2】
前記湾曲結晶の各入射位置において白色X線のうちバックグラウンドとなるX線成分を前記湾曲結晶の前段でカットすることを特徴とする請求項1記載のX線反射率曲線の測定方法。
【請求項3】
白色X線が背面から入射して湾曲結晶より出射して扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束を一定の照射角で試料表面に照射する湾曲結晶と、
前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する一次元又は二次元検出器と、
前記一次元又は二次元検出器で検出された反射X線の強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置と、
を具備したことを特徴とするX線反射率曲線の測定装置。
【請求項4】
前記湾曲結晶の前段に配置され、入射する白色X線のうち前記湾曲結晶の各入射位置においてバックグラウンドとなる成分をカットするプリポリクロメータを備えたことを特徴とする請求項3記載のX線反射率曲線の測定装置。
【請求項5】
白色中性子線を湾曲結晶に背面から入射させて扇型に収束後発散し進行方向に依存して中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化する中性子線束を作成し、前記中性子線束の収束点に試料を配置して当該中性子線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射中性子線の強度分布を測定し、その強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項6】
前記湾曲結晶の各入射位置において白色中性子線のうちバックグラウンドとなる中性子線成分を前記湾曲結晶の前段でカットすることを特徴とする請求項5記載の中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項7】
白色中性子線が背面から入射して湾曲結晶より出射して扇型に収束後発散し進行方向に依存して中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化する中性子線束を一定の照射角で試料表面に照射する湾曲結晶と、
前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する一次元又は二次元検出器と、
前記一次元又は二次元検出器で検出された反射中性子線の強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置と、
を具備したことを特徴とする中性子線反射率曲線の測定装置。
【請求項8】
前記湾曲結晶の前段に配置され、入射する白色中性子線のうち前記湾曲結晶の各入射位置においてバックグラウンドとなる成分をカットするプリポリクロメータを備えたことを特徴とする請求項7記載の中性子線反射率曲線の測定装置。
【請求項9】
白色X線を楕円曲面に湾曲した反射型結晶に入射して扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束を作成し、前記X線束の収束点に試料を配置して当該X線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射X線の強度分布を測定し、その強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とするX線反射率曲線の測定方法。
【請求項10】
楕円曲面に入射した白色X線を反射して扇型に収束後発散し進行方向に依存してX線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化するX線束を作成し一定の照射角で試料表面に照射する楕円曲面に湾曲した反射型結晶と、
前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する一次元又は二次元検出器と、
前記一次元又は二次元検出器で検出された反射X線の強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置と、
を具備したことを特徴とするX線反射率曲線の測定装置。
【請求項11】
白色中性子線を楕円曲面に湾曲した反射型結晶に入射して扇型に収束後発散し進行方向に依存して中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化する中性子線束を作成し、前記中性子線束の収束点に試料を配置して当該中性子線束を一定の照射角で試料表面に照射し、前記試料表面で反射した反射中性子線の強度分布を測定し、その強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項12】
楕円曲面に入射した白色中性子線を反射して扇型に収束後発散し進行方向に依存して中性子線波長がその下限値から当該下限値の3倍から10倍の範囲で連続的に変化する中性子線束を作成し一定の照射角で試料表面に照射する楕円曲面に湾曲した反射型結晶と、
前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する一次元又は二次元検出器と、
前記一次元又は二次元検出器で検出された反射中性子線の強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置と、
を具備したことを特徴とする中性子線反射率曲線の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−170236(P2008−170236A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2813(P2007−2813)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】