X線及び中性子線の反射率曲線測定方法及び測定装置
【課題】試料等の機械的な回転を必要とすることなく、広い移行運動量qの範囲のX線及び中性子線の反射率曲線を短時間で測定すること。
【解決手段】湾曲結晶で構成される反射型ポリクロメータ1の湾曲面でX線(中性子線)を反射させて、試料Sの上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成する。試料表面で反射されたX線強度分布を二次元検出器2で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める。
【解決手段】湾曲結晶で構成される反射型ポリクロメータ1の湾曲面でX線(中性子線)を反射させて、試料Sの上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成する。試料表面で反射されたX線強度分布を二次元検出器2で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面にX線又は中性子線を照射して反射率曲線を測定するX線及び中性子線の反射率曲線測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、数原子層厚〜数百原子層厚の薄膜は薄膜固有の物理的、電気的、化学的性質を示すものが多く存在し、基礎、応用の両面から研究されており、その構造を評価することは重要である。薄膜構造解析手法としては、電子線を用いる方法、X線を用いる方法(表面X線回折、視斜角入射X線小角散乱、X線および中性子線反射率測定、表面X線吸収微細構造測定,光電子回折)、走査プローブなど多種の手法がそれぞれの特徴を持って利用されている。
【0003】
これらの薄膜構造解析手法の中でも、X線反射率測定法は、膜厚(〜0.1Åの精度)、表面・界面の粗さ(〜0.1År.m.s.の精度)や薄膜表面に垂直な方向の精密な電子密度を測定することができ(例えば、非特許文献1参照)、かつ気体・固体、気体・液体、固体・固体の埋もれた界面や、結晶性を持たない薄膜も研究対象とすることができるために、薄膜構造研究のための重要なプローブのひとつとして、広く認識され利用されている。中性子線反射率測定法も電子密度の代わりに原子核の分布密度を知ることができること以外はX線反射率法と同様な物質構造情報を得られ、ソフトマテリアルの研究などに広く用いられている。
【0004】
図8は、単色X線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図である。図8に示すX線反射率曲線測定法においては、結晶モノクロメータ101で単色化したX線を試料S表面に照射角αで照射し、試料Sへの照射角αをゴニオメーター102の回転により逐次変化させて反射X線強度を検出器103で検出する。そして、反射X線強度の表面垂線方向の散乱ベクトルq=4πsinα/λ(λ:X線の波長)の関数として逐次測定して計算機104で解析して膜厚等を検出する。なお、この散乱ベクトルqは、移行運動量と呼ぶこともできる。
【0005】
しかしながら、上記単色X線を用いた角度分散法においては、試料Sへの照射角αをゴニオメーター102により逐次変化させるため、反射率曲線の測定には10分〜20分程度の時間が必要とされ、試料Sの定常状態の観察にとどまっている。
【0006】
角度分散法の欠点を克服するためにゴニオメーター102による角度調節作業を排除した測定法が提案されている。図9に示すように、試料S表面に白色X線を一定のすれすれの照射角で入射させ、反射X線を、エネルギー分解能を有するエネルギー分散型固体検出器105で測定する測定法(以下、「エネルギー分散法に基づく測定法」という)が提案されている。
【0007】
しかしながら、図9に示すエネルギー分散法に基づく測定法においては、エネルギー分散型固体検出器の計数率の限界のために、当該検出器にあまり強いX線が入射することを避けねばならない。このため、反射率曲線の測定時間は、数十秒程度から数百秒かかっており、高速の構造変化を追跡することは困難であった。また、検出器のエネルギー分解能に起因して表面垂線方向散乱ベクトルqの分解能が数パーセントより小さくならないなどの限界があった。
【0008】
一方、図10(a)、(b)に示すように、入射X線が試料Sの表面に対して集束するようにし、X線の波数ベクトルと試料Sの表面の垂線を含む面(以下、適宜「散乱面」という)内で試料Sの表面に対して単色X線の入射角が連続的に変化するようにし、1次元検出器202により散乱面内の散乱X線強度分布を測定することにより、X線反射率曲線を、試料S、一次元検出器202の運動を伴わずに測定する測定方法も開発されている。図10(a)に示す測定方法においては、直線的に広がっているX線源200の異なる点からのX線ビームを結晶モノクロメータ201aで反射後試料Sの表面の一点に対して集中するように入射する場合について示し、図10(b)に示す測定方法においては、X線源200からのX線ビームを湾曲させた結晶モノクロメータ201bで試料Sの表面に対して集束する場合について示している。
【0009】
しかしながら、これらの測定方法では、測定すべき鏡面反射X線と、バックグランドとなってしまう散漫散乱X線とが1次元検出器202の同じ点に入射して重なり合うことが避けられず、正確な反射率の測定には限界がある。すなわち、試料Sの表面からの鏡面反射X線は、図11(a)に示すように、散乱面内で1次元検出器202に入射され、対応する散漫散乱X線もこの散乱面内で1次元検出器202に入射される結果、一次元検出器202における同じ点に入射され重なり合うこととなる。
【0010】
図11(b)に同図(a)に示す反射X線(X1、X2)に対応する反射X線強度及び散漫散乱X線強度分布を示す。図11(b)において、「X1a」は、反射X線X1に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X1b」は、反射X線X1に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。また、「X2a」は、反射X線X2に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X2b」は、反射X線X2に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。図11(b)に示すように、図10に示す測定方法においては、たとえば鏡面反射X線強度X2aと、散漫散乱X線強度X1bとが重なる結果、これらを分離することができない。
【0011】
また、反射率を移行運動量qの広い領域にわたって測定し、反射率のq依存性の曲線(すなわち、反射率曲線)を測定するには、集束X線の角度広がりは、1度程度あるいはそれ以上が必要である。このため、放射光のように角度発散の極めて小さいX線源に対してこれらの測定方法を利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−170236号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】A.Gibaud、S.Hazra,「X-Ray reflectivity and diffusescattering」,CURRENTSCIENCE VOL. 78, NO. 12、P1467-P1477、2000年6月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した角度分散法或いはエネルギー分散法に基づく測定法における実情に鑑み、X線又は中性子線の反射率曲線の測定時間を短縮するべく、本発明者は、図12に示す測定法(以下、「多波長同時分散X線反射率測定法」という)を提案している。図12に示す多波長同時分散X線反射率測定法においては、湾曲結晶からなる透過型ポリクロメータ301と、試料Sで反射したX線の一次元強度分布を測定する一次元検出器302と、反射X線の一次元強度分布を演算処理してX線反射率曲線を取得する分析装置303と、傾斜多層膜からなるプリポリクロメータ304とを備える。そして、白色X線を透過型ポリクロメータ301の背面側から入射して出射することで、その進行方向の関数としてX線エネルギーが8keV〜40keVと広範囲を変化するX線集束ビームを実現する。照射角は一定であるがエネルギー(波長λ)が変化するビームを試料S表面で反射させ、その反射ビーム強度分布を一次元検出器302で測定することにより、反射率曲線全体を一度に取得する。
【0015】
この多波長同時分散X線反射率測定法においては、1秒露光では反射率2x10−6程度まで測定が、露光時間10ミリ秒では反射率10−3程度までの測定が可能であることが確認されている。また、回転中の試料Sからの反射曲線の変化を逐次記録することによりサブ秒の分解能での時分割測定が可能なことが確認されている。
【0016】
しかしながら、十分に広い移行運動量qの範囲での測定にはポリクロメータ結晶で反射されたX線の波長(エネルギー)範囲が十分広い必要があるが、a=(qmax−qmini)/qminとしたとき(qmaxは測定可能なqの値の最大値、qminは測定可能なqの値の最小値)現実的に測定が実現できるaの値は10を超えることは難しかった。この多波長同時分散X線反射率測定法が、薄膜の構造変化の追跡により広く有効に利用されるためには、aの値が10よりも大幅に大きく、移行運動量qの小さいX線全反射領域から移行運動量qの大きい反射曲線の裾の領域までを同時に測定でき、かつその測定時間が短いことが求められる。
【0017】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであって、試料等の機械的な回転を必要とすることなく、広い移行運動量qの範囲(aの値として10以上)のX線及び中性子線の反射率曲線を短時間で測定することのできる測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のX線反射率曲線の測定方法においては、試料結晶の表面に対して集束するX線を入射させるが、そのとき試料上面からみて扇状に集束されたX線束の一方の辺をなすX線ビームが鉛直面内にて試料表面となす角度(視射角)は大きく、他方の辺をなすX線ビームが鉛直面内において試料表面となす角度が小さくなるようにする。すると、試料面で反射されたX線は、試料後方の二次元検出器上の二次元検出面には斜めの線となって記録される。この斜めの線に沿った方向では移行運動量qの値が連続的に変化しているので、この斜めの線上のX線強度は各々の移行運動量qの値に対応した反射率を反映したものとなる。
【0019】
一方、各々の移行運動量qに対応したX線散乱面は、上記斜めの線上の各点を通る鉛直な面になり、散漫散乱X線強度は、この鉛直面内に分布するので、特定の移行運動量qの値での鏡面X線反射強度の上に異なる入射角をもって入射したX線により励起された散漫散乱X線強度が重なり合うことなしに測定することができる。
【0020】
本発明のX線反射率曲線の測定方法は、試料上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成し、試料表面で反射されたX線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とする。
【0021】
このようなX線束を実現するのに、本発明では結晶表面垂線が水平面内に留まるようにし、水平面内においてX線を集光するように楕円もしくは円筒形に湾曲した結晶の一方の端をさらに結晶表面垂線が水平面内から下方に傾くように捻りを加える方法を用いる。
【0022】
特性X線を発生するX線源を円筒状に湾曲された結晶に対するローランド円上に配置できるときには、結晶面上でブラッグ反射されるX線のエネルギー(波長)は結晶面上のどこでも等しくなる。放射光源のように結晶を光源に近づけられない場合には、結晶の一方の端でブラッグ反射されるX線のエネルギー(波長)と結晶の他端でブラッグ反射されるX線のエネルギー(波長)とは異なるが、対応する移行運動量q(=4psinα/λ)への換算のときにエネルギー(波長)の違いも考慮すればよい。
【0023】
本発明のX線反射率曲線の測定方法において、前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点のX線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記X線反射率曲線を求めることが好ましい。
【0024】
本発明のX線反射率曲線の測定装置は、結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面でX線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射X線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とする。
【0025】
本発明の中性子線反射率曲線の測定方法は、試料上面から見て扇型に集束される中性子線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内で中性子線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化する中性子線ビームを作成し、試料表面で反射された中性子線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする。
【0026】
本発明の中性子線反射率曲線の測定方法において、前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点の中性子線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱中性子線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記中性子線反射率曲線を求めることが好ましい。
【0027】
本発明の中性子線反射率曲線の測定装置は、結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面で中性子線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化する中性子線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射中性子線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、試料等の機械的な回転を必要とすることなく、広い移行運動量qの範囲(aの値として10以上)のX線及び中性子線の反射率曲線を短時間で測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る反射率曲線測定装置の原理図
【図2】反射型ポリクロメータからの反射X線及び試料からの反射X線の進行方向をそれぞれ示す模式図
【図3】上記実施の形態に係る反射率曲線測定装置における試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線を説明するための模式図
【図4】二次元検出器における入射X線の検出パターンの一例を示す図
【図5】図4に示すX線反射率曲線測定法における試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線の説明図
【図6】分析装置により散乱散漫成分が除去された後の二次元検出器における検出パターンを示す図
【図7】上記実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置で測定されるX線反射率曲線の一例を示す図
【図8】単色X線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図
【図9】白色X線を用いて反射X線をエネルギー分散型固体検出器で受ける測定法の原理図
【図10】単色かつ角度発散の大きいX線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図
【図11】図10に示すX線反射率曲線測定法における試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線の説明図
【図12】白色X線を用いた多波長同時分散X線反射率測定法の原理図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施の形態では、X線反射率曲線測定の具体例について説明するが、中性子線についても同様に適用可能である。
【0031】
図1は、本発明の一実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置の原理図である。本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置は、結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面内からさらに所定角度だけ下向きに傾くような方向に捻りを加えた反射型ポリクロメータ1と、試料Sで反射したX線の二次元強度分布を測定する二次元検出器2と、二次元検出器2で測定された試料Sからの反射X線の二次元強度分布を演算処理してX線反射曲線を取得する分析装置3とを備えている。
【0032】
反射型ポリクロメータ1を構成する湾曲結晶は、例えば、長方形状を有する薄いシリコンウェファーで構成される。特性X線を発生する実験室X線源が単色X線の集束条件を満たすローランド円上に配置されたときには、X線源からのX線が結晶面となす角度は結晶表面上ですべて等しくなり、同一波長のX線が結晶で反射された後に1次元的に集光されてゆく。一方、放射光源のような白色X線源が結晶からはるかに離れてロ−ランド円の外側に配置されたときには、各入射位置の結晶格子面と入射X線とのなす角度に対応して水平面内にて各々波長が異なり同一焦点に向かうX線に変換され、1次元的に集光される。また、反射型ポリクロメータ1は、結晶の最長の辺、言い換えると、水平面と結晶表面の交線に平行な軸回りに結晶の一端において結晶表面垂線が水平面より下側に傾くように所定角度だけ捻られている。この捻りの角度を調整することにより、結晶の一端と他端で鉛直方向に異なる高さで入射したX線を丁度水平方向の集光点の位置で同じ高さを通過するようにすることができ、擬似的な2次元集光ができる。
【0033】
ここで、反射型ポリクロメータ1からの反射X線の進行方向について説明する。図2は、反射型ポリクロメータ1からの反射X線の進行方向及び試料Sからの反射X線の進行方向をそれぞれ示す模式図である。なお、図2においては、説明の便宜上、捻りを加えていない状態の反射型ポリクロメータ1の位置を破線で示している。また、図2においては、説明の便宜上、二次元検出器2及び分析装置3を省略し、二次元検出器2上のX線ビームの検出パターンのみを示している。
【0034】
なお、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、X線源から照射されるX線が、湾曲結晶で構成される反射型ポリクロメータ1の対角線上の位置又はこれに近似する位置に入射されるように構成されている。具体的には、図1及び図2に示すように、X線源から照射されるX線のうち、A0−C0上の斜めの直線をなすX線ビームが、照射方向の上流側に配置されたビーム位置A1に入射されると共に、照射方向の下方側に配置されたビーム位置C1へつらなる実線A1−C1上に入射されるように構成されている。ここで、ビーム位置A1は、ほぼ水平の位置になるように選択され、ビーム位置C1が水平より下方側の位置になるように選択されている。
【0035】
図2に示すように、本実施の形態に係る反射型ポリクロメータ1において、結晶が湾曲のみで捻りを加えられていない状態では、反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1、B1からの反射X線が、これらのビーム位置A1、B1の水平面内と同じ高さにある焦点Fuに集光される一方、ビーム位置C1、D1からの反射X線が、これらのビーム位置C1、D1の同一平面内とほぼ同じ高さにある焦点Fsに集光される。すなわち、捻られていない状態において、長方形の断面A0B0C0D0を持ち、結晶に入射するX線は反射型ポリクロメータ1により反射され、焦点Fu−Fsの線状に集束されるものとなっている。従って、結晶の上流にスリットを入れてX線をA0C0で表される線状にしても、結晶で反射された後のX線は、Fu−Fs上の線上に強度が分布することになる。
【0036】
反射型ポリクロメータ1における曲率半径と、X線ビームに対するブラッグ角度との間には(式1)の関係が成り立つ。
(式1)
1/Ls−c+1/Lc−f=2/Rsinθ0
ここで、「Ls−c」は、X線源から反射型ポリクロメータ1までの距離を示し、「Lc−f」は、反射型ポリクロメータ1から焦点Fu−Fsまでの距離を示す。また、「θ0」は、反射型ポリクロメータ1の中心に入射されるX線ビームに対するブラッグ角度を示し、「R」は、反射型ポリクロメータ1の曲率半径を示している。以下の(式4)においても同様である。
【0037】
また、本実施の形態に係る反射型ポリクロメータ1において実線にて示すように上流側の結晶表面垂線が水平面から下向きに傾くように捻りを加えると、ビーム位置A1からの反射X線が焦点Fsに向かって反射される。(この場合、ビーム位置A1に入射したX線ビームは、結晶格子面が下向きに傾いているので、水平面より下方側の方向に向かって反射されて焦点Fsに到達する。)一方、ビーム位置C1に入射したX線ビームは、結晶格子面が捻りを加えられることによる影響を受けないので、捻りを加えられる前と同様に水平より僅かに下方側に反射されて焦点Fsに到達する。したがってA1−C1の実線上に分布するX線は反射型ポリクロメータ1から反射するX線束全体でみれば、進行方向により異なる照射角(試料Sに対する照射角)を持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。言い換えると、試料Sの上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0038】
ここで、反射型ポリクロメータ1からの反射X線が鉛直方向に下方側に振られる角度は、(式2)により求められる。
(式2)
Φ=2δsinθ
なお、「Φ」は、反射型ポリクロメータ1からの反射X線が鉛直方向に下方側に振られる角度を示し、「δ」は、反射型ポリクロメータ1に加えた捻りの角度を示し、「θ」は、反射型ポリクロメータ1上でX線が反射されるときのブラッグ角度を示している。
【0039】
ここで、X線源が放射光源のように白色X線を発生し、湾曲結晶から十分に遠い距離に位置する場合に反射型ポリクロメータ1からの反射X線の波長について説明する。光路A1Fsにおける反射X線の波長については、反射型ポリクロメータ1が湾曲し、X線ビームと結晶表面とのなす角度が小さいことから、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が短くなる。一方、光路C1Fsにおける反射X線の波長については、反射型ポリクロメータ1が湾曲し、X線ビームと結晶表面とのなす角度が大きいことから、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が長くなる。反射型ポリクロメータ1から反射するX線束全体でみれば、同一焦点Fsに向けて集束すると共に進行方向により異なる波長を持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0040】
なお、反射型ポリクロメータ1からの反射X線の波長と、反射X線のエネルギーとの間には(式3)が成り立つ。
(式3)
λ(Å)=E(keV)/12.398
ここで、「λ」は、反射X線の波長を示し、「E」は、反射X線のエネルギーを示している。
【0041】
このため、光路A1Fsにおける反射X線のエネルギーについては、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が短くなる結果、相対的に高くなる。一方、光路C1Fsにおける反射X線のエネルギーについては、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が長くなる結果、相対的に低くなる。反射型ポリクロメータ1から反射するX線束全体でみれば、進行方向により異なるエネルギーを持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0042】
ここで、反射型ポリクロメータ1の上流側で反射されるX線ビームのエネルギーと、下流側で反射されるX線ビームのエネルギーとの差は、(式4)により求められる。
(式4)
EH−EL=E0l(1/R−sinθ0/Ls−c)cotθ0
なお、「EH」は、反射型ポリクロメータ1の上流側で反射されるX線ビームのエネルギーを示し、「EL」は、反射型ポリクロメータ1の下流側で反射されるX線ビームのエネルギーを示している。また、「l」は、反射型ポリクロメータ1の長手方向の長さを示し、「E0」は、反射型ポリクロメータ1の中心で反射されるX線ビームのエネルギーを示している。
【0043】
このように反射型ポリクロメータ1から反射されたX線束の集束点Fsに試料Sが配置される。この場合、光路A1Fsにおける反射X線は、図2に示す角度αHで試料Sに入射される。そして、試料Sの表面において同一角度αHで反射される。一方、光路C1Fsにおける反射X線は、角度αHよりも小さい角度αLで試料Sに入射される。そして、試料Sの表面において同一角度αLで反射される。試料Sの表面からの反射X線のエネルギーにおいても、反射型ポリクロメータ1からの反射X線と同様に、光路A1Fsにおける反射X線は相対的に高く(図2に示すEH)、光路C1Fsにおける反射X線は、相対的に低くなっている(図2に示すEL)。
【0044】
二次元検出器2は、図1に示すように、試料Sの表面で反射して発散する反射X線が入射する位置に配置されている。二次元検出器2は、試料Sからの反射X線の強度を個別に検出するピクセル(画素)を二次元状に配列した構成を有している。各ピクセルの二次元位置は、X線反射率曲線における散乱ベクトルの値q=4πsinα/λを与えるX線波長に対応する。ここで、「α」は、入射X線が試料Sの表面となす角(すなわち、視斜角あるいは照射角という)を示し、「λ」は、入射X線の波長を示している。なお、二次元検出器2は、試料Sの表面に平行な水平軸(図3に示すX軸)と、試料Sの表面に垂直な垂直軸(図3に示すY軸)とからなる二次元検出面を有している。
【0045】
このように構成される二次元検出器2に対して、反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1、C1間の全てのビーム位置から集束され、試料Sの集束点Fsで反射されたX線ビームが同時に二次元検出器2に入射される。例えば、図2に示すように、光路A1Fsにおける反射X線は、ビーム位置A4で二次元検出器2に入射され、光路C1Fsにおける反射X線は、ビーム位置C4で二次元検出器2に入射される。これらのビーム位置A4、C4を結んだ実線A4−C4は、試料Sからの反射X線の二次元検出器2における検出パターンを示している。
【0046】
なお、図2においては、試料Sを配置しない場合に光路A1Fs、C1Fsをたどり検出器上に到達するX線が入射されるビーム位置A3、C3を示している。これらのビーム位置A3、C3を結んだ実線A3−C3は、試料Sを配置しない場合の二次元検出器2における検出パターンを示している。また、図2においては、試料Sの表面を延長した面が二次元検出器2の検出面と交差する位置を実線SDL−SDHで示している。この実線SDL−SDHは、実線A4−C4と実線A3−C3との中間位置に配置される。
【0047】
ここで、図3を参照しながら、本実施の形態に係る反射率曲線測定装置における試料Sの表面からの反射X線及び散漫散乱X線について説明する。図3は、試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線を説明するための模式図である。なお、図3においては、反射型ポリクロメータ1及び二次元検出器2を省略している。
【0048】
図3に示すように、試料Sの表面からの反射X線は、当該反射X線と試料Sの表面の垂線を含む面(散乱面)内で二次元検出器2に入射される。そして、それぞれの反射X線に対応する散漫散乱X線も同一の散乱面内で二次元検出器2に入射される。散乱面に直角な方向へ散乱される散漫散乱X線の強度は散乱面内の散乱される散漫散乱X線に比べて数桁低いので、通常は散乱面内に散乱される散漫散乱X線を考えればよい。例えば、光路A1Fsにおける試料表面からの散漫散乱X線は、散乱面1内で二次元検出器2に入射され、光路C1Fsにおける試料表面からの散漫散乱X線は、散乱面2内で二次元検出器2に入射される。
【0049】
二次元検出器2において、図3に示す実線A4−C4は、試料表面からの反射X線の強度分布を示し、その二次元検出面上で斜めの直線状に検出される。異なる位置における反射X線に対応する散漫散乱X線は、それぞれ対応する散乱面内に分布される。このため、これらの散漫散乱X線は、二次元検出面における反射X線の強度分布を示す斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出されることとなる(図4(b)参照)。
【0050】
図4は、二次元検出器2における入射X線の検出パターンの一例を示す図である。なお、図4においては、二次元検出器2が備えるセンサユニットの番号を縦軸及び横軸に示している。例えば、それぞれのピクセルは、一辺が0.172mmの角型のセンサで構成される。すなわち、図3に示すピクセルの番号に0.172mmを乗算した値が二次元検出器2における検出面の端部からの距離に相当する。
【0051】
図4(a)においては、試料Sを配置しない場合に検出される入射X線の検出パターンP1を示し、図4(b)においては、試料Sの表面から反射した入射X線の検出パターンP2を示している。検出パターンP1は、図2に示す実線A3−C3に対応する検出パターンであり、検出パターンP2は、図2に示す実線A4−C4に対応する検出パターンである。なお、これらの検出パターンP1、P2は、二次元検出器2に対する入射X線の二次元強度分布を示している。
【0052】
二次元検出器2においては、図4(b)に示すように、試料Sからの反射X線の検出パターンP2だけでなく、反射X線に基づく散乱散漫成分(散漫散乱X線)も同時に検出することができるものとなっている。散漫散乱X線は、図4(b)に示すように、二次元検出面で斜めの直線状に検出される検出パターンP2上の各点を含む鉛直線上に検出される。二次元検出器2においては、試料Sを配置する前後における、これらの検出パターンP1、P2(検出パターンP2においては散漫散乱X線を含む)を測定し、これらを二次元強度分布測定値として分析装置3に出力するものとなっている。
【0053】
図4(b)に示す点線X3、X4における反射X線強度及び散漫散乱X線強度分布を図5に示す。図5(a)において、「X3a」は、ある反射X線X3に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X3b」は、反射X線X3に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。また、図5(b)において、「X4a」は、反射X線X3と異なる反射X線X4に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X4b」は、反射X線X4に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。
【0054】
図5(a)、(b)に示すように、本実施の形態に係る反射率曲線測定装置においては、反射X線X3に対応する反射X線強度X3aと、異なる反射X線X4に対応する散漫散乱X線強度の分布X4aとは重ならない。このため、これらを分離することができ、信号対雑音比 (signal-to-noise ratio)の良好なデータを得ることが可能となる。なお、この分離処理は、例えば、後述する分析装置3で行われる。
【0055】
分析装置3は、二次元検出器2から出力される反射X線の二次元強度分布測定値に基づいてX線反射率曲線全体を求めるようにプログラムされている。具体的には、試料Sを配置する前の検出パターンP1に対応する反射X線の二次元強度分布測定値を予め保持しておき、この二次元強度分布測定値と、試料Sを配置した後の検出パターンP2に対応する反射X線の二次元強度分布測定値との比を求めることでX線反射率曲線を求める。ここで、X線反射率は、試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルq=4πsinα/λの関数として変化するので、二次元強度分布測定値からX線反射率のq依存性の曲線であるX線反射率曲線R(q)を分析装置3において求めている。なお、二次元検出器2からは、試料Sからの全ての反射X線に応じて測定された二次元強度分布測定値が出力されることから、分析装置3においては、反射型ポリクロメータ1に入射される実線A1−C1上の全てのX線ビームに対応するX線反射率曲線を一括的に求めることができる。
【0056】
上述した光路A1Fsにおける反射X線は、そのエネルギーが相対的に高く、試料Sの表面となす角度(図2に示すαH)が大きいことから、試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルqも相対的に大きくなる。一方、光路C1Fsにおける反射X線は、そのエネルギーが相対的に低く、試料Sの表面となす角度(図2に示すαL)が小さいことから、試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルqも相対的に小さくなる。反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1−C1間の反射X線においては、ビーム位置に応じて連続的に変化する散乱ベクトルq(X線反射率曲線)が求められることとなる。
【0057】
また、分析装置3は、X線反射率曲線R(q)の演算に先立って、反射X線に基づく散乱散漫成分(散漫散乱X線)を、所望の信号成分(検出パターンP2)から分離して除去するようにプログラムされている。図6は、分析装置3により散乱散漫成分が除去された後の二次元検出器2における検出パターンを示している。なお、図6においては、分析装置3の除去処理結果を、説明の便宜上、二次元検出器2の検出パターンの態様で示したものである。分析装置3の除去処理により、図6に示すように、散乱散漫成分が除去され、検出パターンP2のみが検出された状態となる。したがって、X線反射率曲線R(q)の演算には、所望の信号成分のみを用いることが可能となる。
【0058】
分析装置3による反射X線に基づく散乱散漫成分の除去は、二次元検出器2における二次元検出面上で斜めの直線状に検出される反射X線強度の各点のX線強度から、当該斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引くことで行われる。これにより、散漫散乱成分を含んでいない反射X線強度を正確に検出でき、この反射X線強度を反映したX線反射率曲線R(q)を求めることができる。
【0059】
図7は、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置で測定されるX線反射率曲線の一例を示す図である。図7においては、縦軸の反射率(Reflectivity)を示し、横軸に散乱ベクトルqを示している。なお、図7においては、試料Sが厚みを有するシリコン単結晶板で構成される場合のX線反射率曲線の一例を示している。図7に示すX線反射率曲線においては、反射率が1から急激に低下する位置(臨界角)の位置に基づいて試料物質の密度を求めることができ、曲線の強度減衰に基づいて試料表面の粗さを求めることができる。
【0060】
次に、以上のように構成された本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置の動作について説明する。まず、X線源から出射されたX線ビームが、反射型ポリクロメータ1の上流側に設けられたスリットを介して反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1、C1に入射される。反射型ポリクロメータ1において、ビーム位置A1、C1間の全てのビーム位置からの反射X線が試料S上の集束点Fsに集束されると共に、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0061】
反射型ポリクロメータ1で作成されたX線束は、試料Sの集束点Fsに集束した後、集束角と同じ角度で拡散して二次元検出器2に入射される。二次元検出器2においては、反射X線の二次元強度分布が並列に測定される。そして、反射X線の二次元強度分布測定値が分析装置3へ出力される。分析装置3においては、二次元検出器2からの二次元強度分布測定値に基づいて図7に示すようなX線反射率曲線R(q)を求める。
【0062】
このように本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、所定角度だけ捻りを加えられた湾曲結晶からなる反射型ポリクロメータ1の湾曲面でX線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束を作成し、その集束点Fsに配置された試料表面からの反射X線の二次元強度分布に基づいてX線反射率曲線を求めることから、進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束に応じて一括的にX線反射率曲線を求めることができるので、試料等の機械的な回転を必要とすることなく、X線反射率曲線の測定時間を短縮することが可能となる。X線源がローランド円上に配置される場合にはX線波長は単一となり、ローランド円上からはるかに離れて配置される場合にはX線波長は結晶の端から端に向かうにしたがって変化する。
【0063】
特に、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、試料Sの上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成していることから、十分に広い移行運動量qの範囲でのX線反射率曲線を測定することが可能となる。
【0064】
また、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、分析装置3において、二次元検出器2の二次元検出面上で斜めの直線状に検出される各点のX線強度から、当該斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いてX線反射率曲線を求めることから、これにより、散漫散乱成分を含んでいない反射X線強度を正確に検出でき、この反射X線強度を反映したX線反射率曲線R(q)を求めることができる。
【0065】
さらに、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、X線源からのX線を反射型ポリクロメータ1で試料Sに対して反射させる構成を有することから、反射型ポリクロメータ1と試料Sの集束点Fsとの距離を適宜に選択することができる。これにより、試料Sの周囲に自由空間を確保することができるので、試料Sの環境を容易に制御することが可能となる。
【実施例】
【0066】
本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置において、反射型ポリクロメータ1上のビームA1、C1で高さの差が6mm程度で反射型ポリクロメータ1から焦点Fsまでの距離が50cm程度の場合において、反射型ポリクロメータの捻じ曲げ角度を4.5°程度にすると、光路A1Fsの反射X線と光路C1Fsの反射X線とでは0.65°程度の角度差をつけることができた。この場合、光路A1Fsの反射X線のエネルギーは、約22.3keVであり、光路C1Fsに反射X線のエネルギーは、約20.3keVであった。また、試料Sでの移行運動量(試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルq)の最小値qminiは0.01Å−1、最大値qmaxは0.25Å−1程度を実現できた。
【0067】
X線ビームは、ビーム位置A1、C1で鉛直方向での高さが約6mm異なり、X線源からの距離にも依存するが、反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1でのX線強度I0A1と、ビーム位置C1でのX線強度I0C1とでは10−6〜7:1程度の比になる。しかしながら、光路C1Fsのビームに対する反射率RC1Fsが1程度であり、光路A1Fsに対する反射率RA1Fsが10−7〜8程度であるので、二次元検出器2に入射するX線の強度は、I0A1×RA1Fs:I0C1×RC1Fs〜1:1〜0.1と見積もられ、二次元検出器2のダイナミックレンジの範囲内での測定が可能となる。
【0068】
以上の説明においては、X線反射率曲線の同時測定について説明したが、中性子線の反射率曲線の同時測定にも同様に適用できる。例えば、反射型ポリクロメータ1を用いて中性子線の進行方向に依存して中性子線波長及び照射角が連続的に変化する中性子線束を作成して試料Sに照射することで、このような中性子線の反射率曲線の同時測定にも適用することが可能となる。また、X線回折強度曲線の同時測定にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、薄膜の構造変化の実時間追跡するシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 反射型ポリクロメータ
2 二次元検出器
3 分析装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面にX線又は中性子線を照射して反射率曲線を測定するX線及び中性子線の反射率曲線測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、数原子層厚〜数百原子層厚の薄膜は薄膜固有の物理的、電気的、化学的性質を示すものが多く存在し、基礎、応用の両面から研究されており、その構造を評価することは重要である。薄膜構造解析手法としては、電子線を用いる方法、X線を用いる方法(表面X線回折、視斜角入射X線小角散乱、X線および中性子線反射率測定、表面X線吸収微細構造測定,光電子回折)、走査プローブなど多種の手法がそれぞれの特徴を持って利用されている。
【0003】
これらの薄膜構造解析手法の中でも、X線反射率測定法は、膜厚(〜0.1Åの精度)、表面・界面の粗さ(〜0.1År.m.s.の精度)や薄膜表面に垂直な方向の精密な電子密度を測定することができ(例えば、非特許文献1参照)、かつ気体・固体、気体・液体、固体・固体の埋もれた界面や、結晶性を持たない薄膜も研究対象とすることができるために、薄膜構造研究のための重要なプローブのひとつとして、広く認識され利用されている。中性子線反射率測定法も電子密度の代わりに原子核の分布密度を知ることができること以外はX線反射率法と同様な物質構造情報を得られ、ソフトマテリアルの研究などに広く用いられている。
【0004】
図8は、単色X線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図である。図8に示すX線反射率曲線測定法においては、結晶モノクロメータ101で単色化したX線を試料S表面に照射角αで照射し、試料Sへの照射角αをゴニオメーター102の回転により逐次変化させて反射X線強度を検出器103で検出する。そして、反射X線強度の表面垂線方向の散乱ベクトルq=4πsinα/λ(λ:X線の波長)の関数として逐次測定して計算機104で解析して膜厚等を検出する。なお、この散乱ベクトルqは、移行運動量と呼ぶこともできる。
【0005】
しかしながら、上記単色X線を用いた角度分散法においては、試料Sへの照射角αをゴニオメーター102により逐次変化させるため、反射率曲線の測定には10分〜20分程度の時間が必要とされ、試料Sの定常状態の観察にとどまっている。
【0006】
角度分散法の欠点を克服するためにゴニオメーター102による角度調節作業を排除した測定法が提案されている。図9に示すように、試料S表面に白色X線を一定のすれすれの照射角で入射させ、反射X線を、エネルギー分解能を有するエネルギー分散型固体検出器105で測定する測定法(以下、「エネルギー分散法に基づく測定法」という)が提案されている。
【0007】
しかしながら、図9に示すエネルギー分散法に基づく測定法においては、エネルギー分散型固体検出器の計数率の限界のために、当該検出器にあまり強いX線が入射することを避けねばならない。このため、反射率曲線の測定時間は、数十秒程度から数百秒かかっており、高速の構造変化を追跡することは困難であった。また、検出器のエネルギー分解能に起因して表面垂線方向散乱ベクトルqの分解能が数パーセントより小さくならないなどの限界があった。
【0008】
一方、図10(a)、(b)に示すように、入射X線が試料Sの表面に対して集束するようにし、X線の波数ベクトルと試料Sの表面の垂線を含む面(以下、適宜「散乱面」という)内で試料Sの表面に対して単色X線の入射角が連続的に変化するようにし、1次元検出器202により散乱面内の散乱X線強度分布を測定することにより、X線反射率曲線を、試料S、一次元検出器202の運動を伴わずに測定する測定方法も開発されている。図10(a)に示す測定方法においては、直線的に広がっているX線源200の異なる点からのX線ビームを結晶モノクロメータ201aで反射後試料Sの表面の一点に対して集中するように入射する場合について示し、図10(b)に示す測定方法においては、X線源200からのX線ビームを湾曲させた結晶モノクロメータ201bで試料Sの表面に対して集束する場合について示している。
【0009】
しかしながら、これらの測定方法では、測定すべき鏡面反射X線と、バックグランドとなってしまう散漫散乱X線とが1次元検出器202の同じ点に入射して重なり合うことが避けられず、正確な反射率の測定には限界がある。すなわち、試料Sの表面からの鏡面反射X線は、図11(a)に示すように、散乱面内で1次元検出器202に入射され、対応する散漫散乱X線もこの散乱面内で1次元検出器202に入射される結果、一次元検出器202における同じ点に入射され重なり合うこととなる。
【0010】
図11(b)に同図(a)に示す反射X線(X1、X2)に対応する反射X線強度及び散漫散乱X線強度分布を示す。図11(b)において、「X1a」は、反射X線X1に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X1b」は、反射X線X1に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。また、「X2a」は、反射X線X2に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X2b」は、反射X線X2に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。図11(b)に示すように、図10に示す測定方法においては、たとえば鏡面反射X線強度X2aと、散漫散乱X線強度X1bとが重なる結果、これらを分離することができない。
【0011】
また、反射率を移行運動量qの広い領域にわたって測定し、反射率のq依存性の曲線(すなわち、反射率曲線)を測定するには、集束X線の角度広がりは、1度程度あるいはそれ以上が必要である。このため、放射光のように角度発散の極めて小さいX線源に対してこれらの測定方法を利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−170236号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】A.Gibaud、S.Hazra,「X-Ray reflectivity and diffusescattering」,CURRENTSCIENCE VOL. 78, NO. 12、P1467-P1477、2000年6月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した角度分散法或いはエネルギー分散法に基づく測定法における実情に鑑み、X線又は中性子線の反射率曲線の測定時間を短縮するべく、本発明者は、図12に示す測定法(以下、「多波長同時分散X線反射率測定法」という)を提案している。図12に示す多波長同時分散X線反射率測定法においては、湾曲結晶からなる透過型ポリクロメータ301と、試料Sで反射したX線の一次元強度分布を測定する一次元検出器302と、反射X線の一次元強度分布を演算処理してX線反射率曲線を取得する分析装置303と、傾斜多層膜からなるプリポリクロメータ304とを備える。そして、白色X線を透過型ポリクロメータ301の背面側から入射して出射することで、その進行方向の関数としてX線エネルギーが8keV〜40keVと広範囲を変化するX線集束ビームを実現する。照射角は一定であるがエネルギー(波長λ)が変化するビームを試料S表面で反射させ、その反射ビーム強度分布を一次元検出器302で測定することにより、反射率曲線全体を一度に取得する。
【0015】
この多波長同時分散X線反射率測定法においては、1秒露光では反射率2x10−6程度まで測定が、露光時間10ミリ秒では反射率10−3程度までの測定が可能であることが確認されている。また、回転中の試料Sからの反射曲線の変化を逐次記録することによりサブ秒の分解能での時分割測定が可能なことが確認されている。
【0016】
しかしながら、十分に広い移行運動量qの範囲での測定にはポリクロメータ結晶で反射されたX線の波長(エネルギー)範囲が十分広い必要があるが、a=(qmax−qmini)/qminとしたとき(qmaxは測定可能なqの値の最大値、qminは測定可能なqの値の最小値)現実的に測定が実現できるaの値は10を超えることは難しかった。この多波長同時分散X線反射率測定法が、薄膜の構造変化の追跡により広く有効に利用されるためには、aの値が10よりも大幅に大きく、移行運動量qの小さいX線全反射領域から移行運動量qの大きい反射曲線の裾の領域までを同時に測定でき、かつその測定時間が短いことが求められる。
【0017】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであって、試料等の機械的な回転を必要とすることなく、広い移行運動量qの範囲(aの値として10以上)のX線及び中性子線の反射率曲線を短時間で測定することのできる測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のX線反射率曲線の測定方法においては、試料結晶の表面に対して集束するX線を入射させるが、そのとき試料上面からみて扇状に集束されたX線束の一方の辺をなすX線ビームが鉛直面内にて試料表面となす角度(視射角)は大きく、他方の辺をなすX線ビームが鉛直面内において試料表面となす角度が小さくなるようにする。すると、試料面で反射されたX線は、試料後方の二次元検出器上の二次元検出面には斜めの線となって記録される。この斜めの線に沿った方向では移行運動量qの値が連続的に変化しているので、この斜めの線上のX線強度は各々の移行運動量qの値に対応した反射率を反映したものとなる。
【0019】
一方、各々の移行運動量qに対応したX線散乱面は、上記斜めの線上の各点を通る鉛直な面になり、散漫散乱X線強度は、この鉛直面内に分布するので、特定の移行運動量qの値での鏡面X線反射強度の上に異なる入射角をもって入射したX線により励起された散漫散乱X線強度が重なり合うことなしに測定することができる。
【0020】
本発明のX線反射率曲線の測定方法は、試料上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成し、試料表面で反射されたX線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とする。
【0021】
このようなX線束を実現するのに、本発明では結晶表面垂線が水平面内に留まるようにし、水平面内においてX線を集光するように楕円もしくは円筒形に湾曲した結晶の一方の端をさらに結晶表面垂線が水平面内から下方に傾くように捻りを加える方法を用いる。
【0022】
特性X線を発生するX線源を円筒状に湾曲された結晶に対するローランド円上に配置できるときには、結晶面上でブラッグ反射されるX線のエネルギー(波長)は結晶面上のどこでも等しくなる。放射光源のように結晶を光源に近づけられない場合には、結晶の一方の端でブラッグ反射されるX線のエネルギー(波長)と結晶の他端でブラッグ反射されるX線のエネルギー(波長)とは異なるが、対応する移行運動量q(=4psinα/λ)への換算のときにエネルギー(波長)の違いも考慮すればよい。
【0023】
本発明のX線反射率曲線の測定方法において、前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点のX線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記X線反射率曲線を求めることが好ましい。
【0024】
本発明のX線反射率曲線の測定装置は、結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面でX線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射X線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とする。
【0025】
本発明の中性子線反射率曲線の測定方法は、試料上面から見て扇型に集束される中性子線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内で中性子線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化する中性子線ビームを作成し、試料表面で反射された中性子線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする。
【0026】
本発明の中性子線反射率曲線の測定方法において、前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点の中性子線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱中性子線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記中性子線反射率曲線を求めることが好ましい。
【0027】
本発明の中性子線反射率曲線の測定装置は、結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面で中性子線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化する中性子線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射中性子線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、試料等の機械的な回転を必要とすることなく、広い移行運動量qの範囲(aの値として10以上)のX線及び中性子線の反射率曲線を短時間で測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る反射率曲線測定装置の原理図
【図2】反射型ポリクロメータからの反射X線及び試料からの反射X線の進行方向をそれぞれ示す模式図
【図3】上記実施の形態に係る反射率曲線測定装置における試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線を説明するための模式図
【図4】二次元検出器における入射X線の検出パターンの一例を示す図
【図5】図4に示すX線反射率曲線測定法における試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線の説明図
【図6】分析装置により散乱散漫成分が除去された後の二次元検出器における検出パターンを示す図
【図7】上記実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置で測定されるX線反射率曲線の一例を示す図
【図8】単色X線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図
【図9】白色X線を用いて反射X線をエネルギー分散型固体検出器で受ける測定法の原理図
【図10】単色かつ角度発散の大きいX線を用いた角度分散法によるX線反射率曲線測定法の原理図
【図11】図10に示すX線反射率曲線測定法における試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線の説明図
【図12】白色X線を用いた多波長同時分散X線反射率測定法の原理図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施の形態では、X線反射率曲線測定の具体例について説明するが、中性子線についても同様に適用可能である。
【0031】
図1は、本発明の一実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置の原理図である。本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置は、結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面内からさらに所定角度だけ下向きに傾くような方向に捻りを加えた反射型ポリクロメータ1と、試料Sで反射したX線の二次元強度分布を測定する二次元検出器2と、二次元検出器2で測定された試料Sからの反射X線の二次元強度分布を演算処理してX線反射曲線を取得する分析装置3とを備えている。
【0032】
反射型ポリクロメータ1を構成する湾曲結晶は、例えば、長方形状を有する薄いシリコンウェファーで構成される。特性X線を発生する実験室X線源が単色X線の集束条件を満たすローランド円上に配置されたときには、X線源からのX線が結晶面となす角度は結晶表面上ですべて等しくなり、同一波長のX線が結晶で反射された後に1次元的に集光されてゆく。一方、放射光源のような白色X線源が結晶からはるかに離れてロ−ランド円の外側に配置されたときには、各入射位置の結晶格子面と入射X線とのなす角度に対応して水平面内にて各々波長が異なり同一焦点に向かうX線に変換され、1次元的に集光される。また、反射型ポリクロメータ1は、結晶の最長の辺、言い換えると、水平面と結晶表面の交線に平行な軸回りに結晶の一端において結晶表面垂線が水平面より下側に傾くように所定角度だけ捻られている。この捻りの角度を調整することにより、結晶の一端と他端で鉛直方向に異なる高さで入射したX線を丁度水平方向の集光点の位置で同じ高さを通過するようにすることができ、擬似的な2次元集光ができる。
【0033】
ここで、反射型ポリクロメータ1からの反射X線の進行方向について説明する。図2は、反射型ポリクロメータ1からの反射X線の進行方向及び試料Sからの反射X線の進行方向をそれぞれ示す模式図である。なお、図2においては、説明の便宜上、捻りを加えていない状態の反射型ポリクロメータ1の位置を破線で示している。また、図2においては、説明の便宜上、二次元検出器2及び分析装置3を省略し、二次元検出器2上のX線ビームの検出パターンのみを示している。
【0034】
なお、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、X線源から照射されるX線が、湾曲結晶で構成される反射型ポリクロメータ1の対角線上の位置又はこれに近似する位置に入射されるように構成されている。具体的には、図1及び図2に示すように、X線源から照射されるX線のうち、A0−C0上の斜めの直線をなすX線ビームが、照射方向の上流側に配置されたビーム位置A1に入射されると共に、照射方向の下方側に配置されたビーム位置C1へつらなる実線A1−C1上に入射されるように構成されている。ここで、ビーム位置A1は、ほぼ水平の位置になるように選択され、ビーム位置C1が水平より下方側の位置になるように選択されている。
【0035】
図2に示すように、本実施の形態に係る反射型ポリクロメータ1において、結晶が湾曲のみで捻りを加えられていない状態では、反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1、B1からの反射X線が、これらのビーム位置A1、B1の水平面内と同じ高さにある焦点Fuに集光される一方、ビーム位置C1、D1からの反射X線が、これらのビーム位置C1、D1の同一平面内とほぼ同じ高さにある焦点Fsに集光される。すなわち、捻られていない状態において、長方形の断面A0B0C0D0を持ち、結晶に入射するX線は反射型ポリクロメータ1により反射され、焦点Fu−Fsの線状に集束されるものとなっている。従って、結晶の上流にスリットを入れてX線をA0C0で表される線状にしても、結晶で反射された後のX線は、Fu−Fs上の線上に強度が分布することになる。
【0036】
反射型ポリクロメータ1における曲率半径と、X線ビームに対するブラッグ角度との間には(式1)の関係が成り立つ。
(式1)
1/Ls−c+1/Lc−f=2/Rsinθ0
ここで、「Ls−c」は、X線源から反射型ポリクロメータ1までの距離を示し、「Lc−f」は、反射型ポリクロメータ1から焦点Fu−Fsまでの距離を示す。また、「θ0」は、反射型ポリクロメータ1の中心に入射されるX線ビームに対するブラッグ角度を示し、「R」は、反射型ポリクロメータ1の曲率半径を示している。以下の(式4)においても同様である。
【0037】
また、本実施の形態に係る反射型ポリクロメータ1において実線にて示すように上流側の結晶表面垂線が水平面から下向きに傾くように捻りを加えると、ビーム位置A1からの反射X線が焦点Fsに向かって反射される。(この場合、ビーム位置A1に入射したX線ビームは、結晶格子面が下向きに傾いているので、水平面より下方側の方向に向かって反射されて焦点Fsに到達する。)一方、ビーム位置C1に入射したX線ビームは、結晶格子面が捻りを加えられることによる影響を受けないので、捻りを加えられる前と同様に水平より僅かに下方側に反射されて焦点Fsに到達する。したがってA1−C1の実線上に分布するX線は反射型ポリクロメータ1から反射するX線束全体でみれば、進行方向により異なる照射角(試料Sに対する照射角)を持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。言い換えると、試料Sの上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0038】
ここで、反射型ポリクロメータ1からの反射X線が鉛直方向に下方側に振られる角度は、(式2)により求められる。
(式2)
Φ=2δsinθ
なお、「Φ」は、反射型ポリクロメータ1からの反射X線が鉛直方向に下方側に振られる角度を示し、「δ」は、反射型ポリクロメータ1に加えた捻りの角度を示し、「θ」は、反射型ポリクロメータ1上でX線が反射されるときのブラッグ角度を示している。
【0039】
ここで、X線源が放射光源のように白色X線を発生し、湾曲結晶から十分に遠い距離に位置する場合に反射型ポリクロメータ1からの反射X線の波長について説明する。光路A1Fsにおける反射X線の波長については、反射型ポリクロメータ1が湾曲し、X線ビームと結晶表面とのなす角度が小さいことから、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が短くなる。一方、光路C1Fsにおける反射X線の波長については、反射型ポリクロメータ1が湾曲し、X線ビームと結晶表面とのなす角度が大きいことから、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が長くなる。反射型ポリクロメータ1から反射するX線束全体でみれば、同一焦点Fsに向けて集束すると共に進行方向により異なる波長を持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0040】
なお、反射型ポリクロメータ1からの反射X線の波長と、反射X線のエネルギーとの間には(式3)が成り立つ。
(式3)
λ(Å)=E(keV)/12.398
ここで、「λ」は、反射X線の波長を示し、「E」は、反射X線のエネルギーを示している。
【0041】
このため、光路A1Fsにおける反射X線のエネルギーについては、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が短くなる結果、相対的に高くなる。一方、光路C1Fsにおける反射X線のエネルギーについては、ブラッグ反射されるX線ビームの波長が長くなる結果、相対的に低くなる。反射型ポリクロメータ1から反射するX線束全体でみれば、進行方向により異なるエネルギーを持ち連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0042】
ここで、反射型ポリクロメータ1の上流側で反射されるX線ビームのエネルギーと、下流側で反射されるX線ビームのエネルギーとの差は、(式4)により求められる。
(式4)
EH−EL=E0l(1/R−sinθ0/Ls−c)cotθ0
なお、「EH」は、反射型ポリクロメータ1の上流側で反射されるX線ビームのエネルギーを示し、「EL」は、反射型ポリクロメータ1の下流側で反射されるX線ビームのエネルギーを示している。また、「l」は、反射型ポリクロメータ1の長手方向の長さを示し、「E0」は、反射型ポリクロメータ1の中心で反射されるX線ビームのエネルギーを示している。
【0043】
このように反射型ポリクロメータ1から反射されたX線束の集束点Fsに試料Sが配置される。この場合、光路A1Fsにおける反射X線は、図2に示す角度αHで試料Sに入射される。そして、試料Sの表面において同一角度αHで反射される。一方、光路C1Fsにおける反射X線は、角度αHよりも小さい角度αLで試料Sに入射される。そして、試料Sの表面において同一角度αLで反射される。試料Sの表面からの反射X線のエネルギーにおいても、反射型ポリクロメータ1からの反射X線と同様に、光路A1Fsにおける反射X線は相対的に高く(図2に示すEH)、光路C1Fsにおける反射X線は、相対的に低くなっている(図2に示すEL)。
【0044】
二次元検出器2は、図1に示すように、試料Sの表面で反射して発散する反射X線が入射する位置に配置されている。二次元検出器2は、試料Sからの反射X線の強度を個別に検出するピクセル(画素)を二次元状に配列した構成を有している。各ピクセルの二次元位置は、X線反射率曲線における散乱ベクトルの値q=4πsinα/λを与えるX線波長に対応する。ここで、「α」は、入射X線が試料Sの表面となす角(すなわち、視斜角あるいは照射角という)を示し、「λ」は、入射X線の波長を示している。なお、二次元検出器2は、試料Sの表面に平行な水平軸(図3に示すX軸)と、試料Sの表面に垂直な垂直軸(図3に示すY軸)とからなる二次元検出面を有している。
【0045】
このように構成される二次元検出器2に対して、反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1、C1間の全てのビーム位置から集束され、試料Sの集束点Fsで反射されたX線ビームが同時に二次元検出器2に入射される。例えば、図2に示すように、光路A1Fsにおける反射X線は、ビーム位置A4で二次元検出器2に入射され、光路C1Fsにおける反射X線は、ビーム位置C4で二次元検出器2に入射される。これらのビーム位置A4、C4を結んだ実線A4−C4は、試料Sからの反射X線の二次元検出器2における検出パターンを示している。
【0046】
なお、図2においては、試料Sを配置しない場合に光路A1Fs、C1Fsをたどり検出器上に到達するX線が入射されるビーム位置A3、C3を示している。これらのビーム位置A3、C3を結んだ実線A3−C3は、試料Sを配置しない場合の二次元検出器2における検出パターンを示している。また、図2においては、試料Sの表面を延長した面が二次元検出器2の検出面と交差する位置を実線SDL−SDHで示している。この実線SDL−SDHは、実線A4−C4と実線A3−C3との中間位置に配置される。
【0047】
ここで、図3を参照しながら、本実施の形態に係る反射率曲線測定装置における試料Sの表面からの反射X線及び散漫散乱X線について説明する。図3は、試料表面からの反射X線及び散漫散乱X線を説明するための模式図である。なお、図3においては、反射型ポリクロメータ1及び二次元検出器2を省略している。
【0048】
図3に示すように、試料Sの表面からの反射X線は、当該反射X線と試料Sの表面の垂線を含む面(散乱面)内で二次元検出器2に入射される。そして、それぞれの反射X線に対応する散漫散乱X線も同一の散乱面内で二次元検出器2に入射される。散乱面に直角な方向へ散乱される散漫散乱X線の強度は散乱面内の散乱される散漫散乱X線に比べて数桁低いので、通常は散乱面内に散乱される散漫散乱X線を考えればよい。例えば、光路A1Fsにおける試料表面からの散漫散乱X線は、散乱面1内で二次元検出器2に入射され、光路C1Fsにおける試料表面からの散漫散乱X線は、散乱面2内で二次元検出器2に入射される。
【0049】
二次元検出器2において、図3に示す実線A4−C4は、試料表面からの反射X線の強度分布を示し、その二次元検出面上で斜めの直線状に検出される。異なる位置における反射X線に対応する散漫散乱X線は、それぞれ対応する散乱面内に分布される。このため、これらの散漫散乱X線は、二次元検出面における反射X線の強度分布を示す斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出されることとなる(図4(b)参照)。
【0050】
図4は、二次元検出器2における入射X線の検出パターンの一例を示す図である。なお、図4においては、二次元検出器2が備えるセンサユニットの番号を縦軸及び横軸に示している。例えば、それぞれのピクセルは、一辺が0.172mmの角型のセンサで構成される。すなわち、図3に示すピクセルの番号に0.172mmを乗算した値が二次元検出器2における検出面の端部からの距離に相当する。
【0051】
図4(a)においては、試料Sを配置しない場合に検出される入射X線の検出パターンP1を示し、図4(b)においては、試料Sの表面から反射した入射X線の検出パターンP2を示している。検出パターンP1は、図2に示す実線A3−C3に対応する検出パターンであり、検出パターンP2は、図2に示す実線A4−C4に対応する検出パターンである。なお、これらの検出パターンP1、P2は、二次元検出器2に対する入射X線の二次元強度分布を示している。
【0052】
二次元検出器2においては、図4(b)に示すように、試料Sからの反射X線の検出パターンP2だけでなく、反射X線に基づく散乱散漫成分(散漫散乱X線)も同時に検出することができるものとなっている。散漫散乱X線は、図4(b)に示すように、二次元検出面で斜めの直線状に検出される検出パターンP2上の各点を含む鉛直線上に検出される。二次元検出器2においては、試料Sを配置する前後における、これらの検出パターンP1、P2(検出パターンP2においては散漫散乱X線を含む)を測定し、これらを二次元強度分布測定値として分析装置3に出力するものとなっている。
【0053】
図4(b)に示す点線X3、X4における反射X線強度及び散漫散乱X線強度分布を図5に示す。図5(a)において、「X3a」は、ある反射X線X3に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X3b」は、反射X線X3に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。また、図5(b)において、「X4a」は、反射X線X3と異なる反射X線X4に対応する鏡面反射X線強度を示し、「X4b」は、反射X線X4に対応する散漫散乱X線強度の分布を示している。
【0054】
図5(a)、(b)に示すように、本実施の形態に係る反射率曲線測定装置においては、反射X線X3に対応する反射X線強度X3aと、異なる反射X線X4に対応する散漫散乱X線強度の分布X4aとは重ならない。このため、これらを分離することができ、信号対雑音比 (signal-to-noise ratio)の良好なデータを得ることが可能となる。なお、この分離処理は、例えば、後述する分析装置3で行われる。
【0055】
分析装置3は、二次元検出器2から出力される反射X線の二次元強度分布測定値に基づいてX線反射率曲線全体を求めるようにプログラムされている。具体的には、試料Sを配置する前の検出パターンP1に対応する反射X線の二次元強度分布測定値を予め保持しておき、この二次元強度分布測定値と、試料Sを配置した後の検出パターンP2に対応する反射X線の二次元強度分布測定値との比を求めることでX線反射率曲線を求める。ここで、X線反射率は、試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルq=4πsinα/λの関数として変化するので、二次元強度分布測定値からX線反射率のq依存性の曲線であるX線反射率曲線R(q)を分析装置3において求めている。なお、二次元検出器2からは、試料Sからの全ての反射X線に応じて測定された二次元強度分布測定値が出力されることから、分析装置3においては、反射型ポリクロメータ1に入射される実線A1−C1上の全てのX線ビームに対応するX線反射率曲線を一括的に求めることができる。
【0056】
上述した光路A1Fsにおける反射X線は、そのエネルギーが相対的に高く、試料Sの表面となす角度(図2に示すαH)が大きいことから、試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルqも相対的に大きくなる。一方、光路C1Fsにおける反射X線は、そのエネルギーが相対的に低く、試料Sの表面となす角度(図2に示すαL)が小さいことから、試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルqも相対的に小さくなる。反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1−C1間の反射X線においては、ビーム位置に応じて連続的に変化する散乱ベクトルq(X線反射率曲線)が求められることとなる。
【0057】
また、分析装置3は、X線反射率曲線R(q)の演算に先立って、反射X線に基づく散乱散漫成分(散漫散乱X線)を、所望の信号成分(検出パターンP2)から分離して除去するようにプログラムされている。図6は、分析装置3により散乱散漫成分が除去された後の二次元検出器2における検出パターンを示している。なお、図6においては、分析装置3の除去処理結果を、説明の便宜上、二次元検出器2の検出パターンの態様で示したものである。分析装置3の除去処理により、図6に示すように、散乱散漫成分が除去され、検出パターンP2のみが検出された状態となる。したがって、X線反射率曲線R(q)の演算には、所望の信号成分のみを用いることが可能となる。
【0058】
分析装置3による反射X線に基づく散乱散漫成分の除去は、二次元検出器2における二次元検出面上で斜めの直線状に検出される反射X線強度の各点のX線強度から、当該斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引くことで行われる。これにより、散漫散乱成分を含んでいない反射X線強度を正確に検出でき、この反射X線強度を反映したX線反射率曲線R(q)を求めることができる。
【0059】
図7は、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置で測定されるX線反射率曲線の一例を示す図である。図7においては、縦軸の反射率(Reflectivity)を示し、横軸に散乱ベクトルqを示している。なお、図7においては、試料Sが厚みを有するシリコン単結晶板で構成される場合のX線反射率曲線の一例を示している。図7に示すX線反射率曲線においては、反射率が1から急激に低下する位置(臨界角)の位置に基づいて試料物質の密度を求めることができ、曲線の強度減衰に基づいて試料表面の粗さを求めることができる。
【0060】
次に、以上のように構成された本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置の動作について説明する。まず、X線源から出射されたX線ビームが、反射型ポリクロメータ1の上流側に設けられたスリットを介して反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1、C1に入射される。反射型ポリクロメータ1において、ビーム位置A1、C1間の全てのビーム位置からの反射X線が試料S上の集束点Fsに集束されると共に、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束全体が作成される。
【0061】
反射型ポリクロメータ1で作成されたX線束は、試料Sの集束点Fsに集束した後、集束角と同じ角度で拡散して二次元検出器2に入射される。二次元検出器2においては、反射X線の二次元強度分布が並列に測定される。そして、反射X線の二次元強度分布測定値が分析装置3へ出力される。分析装置3においては、二次元検出器2からの二次元強度分布測定値に基づいて図7に示すようなX線反射率曲線R(q)を求める。
【0062】
このように本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、所定角度だけ捻りを加えられた湾曲結晶からなる反射型ポリクロメータ1の湾曲面でX線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束を作成し、その集束点Fsに配置された試料表面からの反射X線の二次元強度分布に基づいてX線反射率曲線を求めることから、進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束に応じて一括的にX線反射率曲線を求めることができるので、試料等の機械的な回転を必要とすることなく、X線反射率曲線の測定時間を短縮することが可能となる。X線源がローランド円上に配置される場合にはX線波長は単一となり、ローランド円上からはるかに離れて配置される場合にはX線波長は結晶の端から端に向かうにしたがって変化する。
【0063】
特に、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、試料Sの上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成していることから、十分に広い移行運動量qの範囲でのX線反射率曲線を測定することが可能となる。
【0064】
また、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、分析装置3において、二次元検出器2の二次元検出面上で斜めの直線状に検出される各点のX線強度から、当該斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いてX線反射率曲線を求めることから、これにより、散漫散乱成分を含んでいない反射X線強度を正確に検出でき、この反射X線強度を反映したX線反射率曲線R(q)を求めることができる。
【0065】
さらに、本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置においては、X線源からのX線を反射型ポリクロメータ1で試料Sに対して反射させる構成を有することから、反射型ポリクロメータ1と試料Sの集束点Fsとの距離を適宜に選択することができる。これにより、試料Sの周囲に自由空間を確保することができるので、試料Sの環境を容易に制御することが可能となる。
【実施例】
【0066】
本実施の形態に係るX線反射率曲線測定装置において、反射型ポリクロメータ1上のビームA1、C1で高さの差が6mm程度で反射型ポリクロメータ1から焦点Fsまでの距離が50cm程度の場合において、反射型ポリクロメータの捻じ曲げ角度を4.5°程度にすると、光路A1Fsの反射X線と光路C1Fsの反射X線とでは0.65°程度の角度差をつけることができた。この場合、光路A1Fsの反射X線のエネルギーは、約22.3keVであり、光路C1Fsに反射X線のエネルギーは、約20.3keVであった。また、試料Sでの移行運動量(試料Sの表面に垂直な方向での散乱ベクトルq)の最小値qminiは0.01Å−1、最大値qmaxは0.25Å−1程度を実現できた。
【0067】
X線ビームは、ビーム位置A1、C1で鉛直方向での高さが約6mm異なり、X線源からの距離にも依存するが、反射型ポリクロメータ1上のビーム位置A1でのX線強度I0A1と、ビーム位置C1でのX線強度I0C1とでは10−6〜7:1程度の比になる。しかしながら、光路C1Fsのビームに対する反射率RC1Fsが1程度であり、光路A1Fsに対する反射率RA1Fsが10−7〜8程度であるので、二次元検出器2に入射するX線の強度は、I0A1×RA1Fs:I0C1×RC1Fs〜1:1〜0.1と見積もられ、二次元検出器2のダイナミックレンジの範囲内での測定が可能となる。
【0068】
以上の説明においては、X線反射率曲線の同時測定について説明したが、中性子線の反射率曲線の同時測定にも同様に適用できる。例えば、反射型ポリクロメータ1を用いて中性子線の進行方向に依存して中性子線波長及び照射角が連続的に変化する中性子線束を作成して試料Sに照射することで、このような中性子線の反射率曲線の同時測定にも適用することが可能となる。また、X線回折強度曲線の同時測定にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、薄膜の構造変化の実時間追跡するシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 反射型ポリクロメータ
2 二次元検出器
3 分析装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成し、試料表面で反射されたX線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とするX線反射率曲線の測定方法。
【請求項2】
前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点のX線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記X線反射率曲線を求めることを特徴とする請求項1記載のX線反射率曲線の測定方法。
【請求項3】
結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面でX線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射X線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とするX線反射率曲線の測定装置。
【請求項4】
試料上面から見て扇型に集束される中性子線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内で中性子線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化する中性子線ビームを作成し、試料表面で反射された中性子線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項5】
前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点の中性子線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱中性子線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする請求項4記載の中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項6】
結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面で中性子線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化する中性子線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射中性子線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とする中性子線反射率曲線の測定装置。
【請求項1】
試料上面から見て扇型に集束されるX線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内でX線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化するX線束を作成し、試料表面で反射されたX線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求めることを特徴とするX線反射率曲線の測定方法。
【請求項2】
前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点のX線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱X線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記X線反射率曲線を求めることを特徴とする請求項1記載のX線反射率曲線の測定方法。
【請求項3】
結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面でX線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化するX線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射X線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射X線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化するX線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とするX線反射率曲線の測定装置。
【請求項4】
試料上面から見て扇型に集束される中性子線束であって、水平方向の集束角に応じて鉛直面内で中性子線ビームと試料表面となす角度が連続的に変化する中性子線ビームを作成し、試料表面で反射された中性子線強度分布を二次元検出器で測定し、その二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項5】
前記二次元検出器は、試料表面に平行な水平軸と試料表面に垂直な垂直軸とからなる二次元検出面を有し、前記二次元検出面上で前記水平軸に対して斜めの直線状に検出される各点の中性子線強度から、前記斜めの直線上の各点を含む鉛直線上に検出される散漫散乱中性子線強度分布から求められるバックグラウンド強度を差し引いて前記中性子線反射率曲線を求めることを特徴とする請求項4記載の中性子線反射率曲線の測定方法。
【請求項6】
結晶表面垂線が水平面内に留まるように湾曲させた結晶の一端の結晶表面垂線が水平面から所定角度だけ下を向くように捻りが加えられ、湾曲面で中性子線を反射させて集束後発散し進行方向に依存して照射角が連続的に変化する中性子線束を試料表面に照射する湾曲結晶と、前記試料の後方に配置され、前記試料表面で反射した反射中性子線が入射する二次元検出器と、前記二次元検出器で検出された反射中性子線の二次元強度分布から試料表面に垂直な方向の散乱ベクトルの関数として変化する中性子線反射率曲線を求める分析装置とを具備することを特徴とする中性子線反射率曲線の測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−13659(P2012−13659A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153310(P2010−153310)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】
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