説明

X線撮像フイルム及び製造方法、X線撮像方法、システム

【課題】回折格子を用いることなくモアレ縞を確実に撮像することができる新たなX線撮像フイルムを提供する。
【解決手段】X線撮像ユニット11は、タルボ用回折格子から略タルボ距離L離れた位置に配置され、タルボ用回折格子によって回折されたX線を撮像するためのユニットである。X線撮像ユニット11は、X線画像(X線タルボ画像)を撮像するためのX線撮像フイルム20と、このX線撮像フイルム20の光路上直前位置に配置されるシャッタ30とを備えている。X線撮像フイルム20は、X線に対して感光性を有する材料で形成されたストライプ状の感光部21と、X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成されたストライプ状の非感光部22とが交互に配置されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を撮像する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線撮影では、X線の吸収コントラスト、すなわち、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像が得られている。X線の吸収は、一般に、原子番号が大きくなるほど、すなわち、重い元素になるほど多くなる。生体を被写体とする場合、生体を構成する元素は、主に、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)等の比較的原子番号が小さい元素、すなわち、軽い元素であるため、生体のX線画像は、コントラストがあまりつかない。そのため、生体のX線撮影では、原子番号の大きな元素を含んだ物質が造影剤として使用される。例えば、胃や結腸等の消化器に対するX線撮影では、硫酸バリウムが造影剤として使用されている。しかしながら、すべての組織に造影剤が利用できるわけではなく、また、生体の負担も大きい。
【0003】
そこで、近年では、X線を波として扱って被写体中を波が伝わる速さの違いをコントラストとした画像を得る位相コントラスト法が研究、開発されている。位相コントラスト法は、例えば、X線干渉計が利用され、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得ている。この位相コントラスト法は、X線の吸収コントラストによって被写体の透過画像を得る場合に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点もある。
【0004】
このような位相コントラスト法の一つとして例えばタルボ干渉計を利用した方法が例えば特許文献1や非特許文献1に提案されている。
【0005】
図8は、特許文献1に記載のX線撮像装置の概略的な構成を示す説明図である。図8において、特許文献1に記載のX線撮像装置1000は、X線源1001と、X線源1001から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子1002と、第1回折格子1002により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子1003と、第2回折格子1003により画像コントラストの生じたX線を検出するX線画像検出器1004とを備え、第1および第2回折格子1002、1003がタルボ干渉計を構成する条件に設定される。この条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、第1回折格子1002が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d/λ) ・・・(式2)
【0006】
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源1001の開口径であり、Lは、X線源1001から第1回折格子1002までの距離であり、Z1は、第1回折格子1002から第2回折格子1003までの距離であり、Z2は、第2回折格子1003からX線画像検出器1004までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離)である。
【0007】
このような構成のX線撮像装置1000では、X線源1001と第1回折格子1002との間に被検体1010が配置され、X線源1001から第1回折格子1002に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子1002でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子1003で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器1004で検出される。このモアレ縞は、被検体1010によって変調を受けており、この変調量が被検体1010による屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体1010およびその内部の構造を検出することができる。
【0008】
ここで、タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
【特許文献1】国際公開第WO2004/058070号パンフレット
【非特許文献1】百生敦、「X線位相イメージングの最近の展開」、Medical Imaging Technology,Vol.24,No.5,November 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このX線撮像装置1000に利用される第1回折格子1002は、X線のタルボ像を形成するために、X線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数がX線の波長の約20倍以上である必要がある。X線の波長は、一般に、10−12m〜10−8mくらいであるので、第1回折格子1002の格子定数は、10−11m〜10−7mくらいであり、実用的には、数μmとなる。タルボ像は、第1回折格子1002の自己像であるため、すなわち、入射X線が平行光である場合には第1回折格子1002の格子模様と同一模様の像であり、X線源1001が点光源と見なせる場合にはX線源1001から第1回折格子1002までの距離とX線源1001から第2回折格子1003までの距離との比に応じた拡大された第1回折格子1002の格子模様の像であり、タルボ像も数μmの周期の縞模様となる。このため、タルボ像が第2回折格子1003によってモアレ縞を生じるためには、第2回折格子1003の格子定数も数μmとなる。
【0010】
一方、この第2回折格子1003を振幅型(吸収型)回折格子で形成する場合、振幅型回折格子として機能するような充分なX線を吸収させるためには、第2回折格子1003の回折部材に重い元素の例えば金(Au)を用いた場合でも、数十〜数百μmの厚さが必要となる。
【0011】
したがって、図9に示すように、第2回折格子1003の回折部材は、幅が数μm(例えば4μm)に対し厚さが数十〜数百μm(例えば100μm)となる。このため、回折部材をハイアスペクト比で形成する必要があり、第2回折格子1003の製作が容易ではない。
【0012】
また、仮に第2回折格子1003が製作することができたとしても、X線源1001から放射したX線は、X線源1001が略点光源であるため、放射状に拡がる。このため、図9に示すように、第2回折格子1003の中心領域では、タルボ像のX線が回折部材と略平行に入射されるため、タルボ像と第2回折格子1003とによってモアレを生じるが、第2回折格子1003の両サイド領域では、タルボ像のX線が回折部材に対して斜めに入射されるため、タルボ像と第2回折格子1003とによるモアレ像がぼけるか、あるいは全くモアレを生じない。
【0013】
一方、この第2回折格子1003を位相型回折格子で形成する場合でも、位相型回折格子として機能するような充分な位相変化をX線に与えるためには、第2回折格子1003の回折部材に重い元素の例えば金(Au)を用いた場合でも、数十μmの厚さが必要となる。このため、位相型回折格子においても振幅型回折格子と同様の上記不都合が生じる。
【0014】
また、このような上述の第2回折格子1003による不都合を回避するために、第2回折格子1003を使用することなく、タルボ像を直接撮像する方法が考えられる。しかしながら、一般的なX線用フイルムの感光材の解像度では、数μm周期のタルボ像を撮像することが極めて困難である。さらに、胸部レントゲン用では、大きさが17インチ×14インチであって解像度が4000ドット×3000ドットであるCCDなどのディジタルの撮像素子が知られているが、その画素のサイズは、約110μmであり、このような撮像素子でも数μm周期のタルボ像を撮像することができない。
【0015】
本発明は、振幅型や位相型回折格子を介してX線を撮像する場合に生ずる各種問題を克服するために、回折格子を用いることなくモアレ縞を確実に撮像することができる新たなX線撮像フイルム及びその製造方法、X線撮像方法、システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一局面に係るX線撮像フイルムは、X線に対して感光性を有する材料で形成された第1部分と、X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成された第2部分とが周期的に配設されることで、回折格子に相当するパターンを有することを特徴とする(請求項1)。
【0017】
従来のフイルム方式の撮像手法では、振幅型や位相型回折格子を通過することで顕在化するX線のモアレ縞を、X線撮像フイルムで撮影するようにしている。これに対し、本発明の上記構成によれば、X線に対して感光性を有する材料で形成された第1部分とX線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成された第2部分とで形成された、回折格子に相当するパターンを有するX線撮像フイルムであるので、フイルムにX線の縞画像が入射した場合、当該X線の縞模様とフイルム上の第1部分のパターンとが一致した部位においてのみ、第1部分が感光される。この感光部分は、第1部分及び第2部分が回折格子に相当するパターンを構成していることから、モアレ縞を呈することとなる。従って、回折格子を用いることなく、モアレ縞を撮像することができる。
【0018】
上記構成において、前記パターンは、一次元周期の回折格子のパターンであることが望ましい(請求項2)。或いは、前記パターンは、二次元周期の回折格子のパターンであることが望ましい(請求項3)。
【0019】
二次元周期を採用する場合、その周期構造が、正方格子配列又は三角格子配列であることが望ましい(請求項4)。
【0020】
本発明の他の局面に係るX線撮像フイルムの製造方法は、フイルム基材の片面に、X線に対して感光性を有する材料からなる感光層を形成する工程と、前記感光層の上に、回折格子を積重する工程と、前記回折格子を介して感光層に向けて、感光用の光を照射する工程と、を含むことを特徴とする(請求項5)。
【0021】
この構成によれば、実際の回折格子をマスク材として、そのパターンに相当する未感光の部分と感光済の部分とを作成することができ、回折格子に相当する感光層パターンを有するX線撮像フイルムを容易に製造することができる。
【0022】
この場合、前記回折格子として、X線用振幅型回折格子が用いられ、前記感光用の光として、X線が用いられるようにすること(請求項6)、あるいは前記感光層として、X線及び可視光の双方に対して感光性を有する材料が用いられ、前記回折格子として、可視光用振幅型回折格子が用いられ、前記感光用の光として、可視光が用いられるようにすること(請求項7)が望ましい。
【0023】
本発明の他のX線撮像フイルムの製造方法は、X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成されたフイルム基材の片面に、X線に対して感光性を有する材料を、インクジェット方式で回折格子に相当するパターンに塗布することを特徴とする(請求項8)。
【0024】
この構成によれば、インクジェット式のヘッド等を用いて、回折格子に相当する感光層パターンを有するX線撮像フイルムを容易に製造することができる。
【0025】
本発明のさらに他の局面に係るX線撮像方法は、請求項1〜4のいずれかに記載のX線撮像フイルムを結像面に配置し、前記結像面にX線タルボ像を結像させることを特徴とする(請求項9)。
【0026】
本発明のさらに他の局面に係るX線撮像システムは、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線によってタルボ効果を生じるタルボ用回折格子と、請求項1〜4のいずれかに記載のX線撮像フイルムと、を備え、前記X線撮像フイルムは、前記タルボ用回折格子から実質的にタルボ距離離れた位置に配置されることを特徴とする(請求項10)。
【0027】
これらの構成によれば、X線撮像フイルムには、タルボ用回折格子により生成されたタルボ画像が入射される。そして、回折格子に相当する感光層パターンを有するX線撮像フイルムにより、モアレ縞が撮像される。従って、振幅型や位相型回折格子を用いることなく、モアレ縞を撮像することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るX線撮像フイルム及び製造方法、X線撮像方法、システムによれば、振幅型回折格子でモアレ縞を発生させるのではなく、フイルム自体に回折格子に相当する感光層パターンを形成し、X線の縞模様と前記パターンとが一致した部位にモアレ縞を感光させる構成である。従って、回折格子を用いることなく、モアレ縞を確実に撮像することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るX線撮像システム1の構成を示す説明図である。図2は、X線撮像ユニット11の構成を示す説明図である。
【0030】
X線撮像システム1は、X線撮像ユニット11と、回折格子12(タルボ用回折格子)と、X線源13とを備え、さらに、本実施形態では、X線源13に電源を供給するX線電源部14と、X線撮像ユニット11のシャッタ動作を制御するシャッタ制御部15と、本X線撮像装置Xの全体動作を制御するシステム制御部16と、X線電源部14の動作を制御することによってX線源13におけるX線の放射動作を制御するX線制御部17とを備えて構成される。
【0031】
X線源13は、X線を放射し、回折格子12へ向けてX線を照射する装置である。X線源13は、例えば、X線電源部14から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
【0032】
回折格子12は、X線源13から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。回折格子12は、X線を透過する材料から構成された平板状の基板と、基板の一方面に形成された複数の回折部材とを備えて構成される。この複数の回折部材は、それぞれ、一方向(図1では紙面の法線方向)に延びる線状であり、該一方向と直交する方向に所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。この所定の間隔は、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の回折部材は、前記一方向と直交する方向に等間隔でそれぞれ配設されている。回折格子12の基板には、例えばガラスが用いられ、その回折部材には、例えば金(Au)が用いられる。回折格子12は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源13から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20倍以上である位相型回折格子である。なお、第1回折格子12は、同様な作用を果たす振幅型(吸収型)回折格子であってもよい。
【0033】
X線撮像ユニット11は、回折格子12から略タルボ距離L離れた位置に配置され、回折格子12によって回折されたX線をフイルム撮像するためのユニットである。図2に示すように、X線撮像ユニット11は、X線画像(X線タルボ画像)を撮像するためのX線撮像フイルム20と、このX線撮像フイルム20の光路上直前位置に配置されるシャッタ30とを備えている。
【0034】
X線撮像フイルム20は、図3に平面図を示しているように、X線に対して感光性を有する材料で形成されたストライプ状の感光部21(第1部分)と、X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成されたストライプ状の非感光部22(第2部分)とが交互に配置されてなる。この感光部21及び非感光部22は、振幅型の回折格子に相当する一次元周期構造(縞模様構造)のパターンで形成されている。すなわち、振幅型回折格子のスリット及び遮光部に相当する幅及び間隔で、各感光部21及び非感光部22が設けられている。例えば、数μm〜数十μm幅の感光部21と数μm〜数十μm幅の非感光部22とが交互に配置された周期構造で、X線撮像フイルム20が構成される。
【0035】
感光部21は、例えばハロゲン化銀のような、X線撮像用として従来公知の各種感光体材料を用いることができる。非感光部22については特に制限はなく、X線に対して感光性を実質的に有さない適宜な材料で構成することができる。このようなX線撮像フイルム20の製法例については、後記で説明する。
【0036】
シャッタ30は、X線撮像フイルム20を適正な露光時間だけX線に露光させるためのものであり、例えばフォーカルプレーンシャッタを採用することができる。シャッタ30は、シャッタ制御部15により所定の露光時間だけ「開」とされるよう制御される。
【0037】
このようなX線撮像ユニット11と回折格子12とは、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に配置位置が設定されている。
【0038】
システム制御部16は、X線撮像システム1の各部を制御することによってX線撮像システム1全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成される。システム制御部16は、X線制御部17との間で制御信号を送受信することによってX線電源部14を介してX線源13におけるX線の放射動作を制御すると共に、シャッタ制御部15との間で制御信号を送受信することによってX線撮像ユニット11のシャッタ30の開閉動作を制御する。システム制御部16の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像ユニット11のX線撮像フイルム20によって撮像される。
【0039】
続いて、回折格子に相当する感光パターンを有するX線撮像フイルム20の製造方法の例を示す。図4(A)〜(D)は、第1実施形態に係るX線撮像フイルム20の製造方法を示す模式図である。
【0040】
図4(A)に示すように、先ずフイルム基材23の片面に、X線及び可視光に対して感光性を有する感光剤210を、スクリーン印刷法などにより所定厚さに塗布する。その後、乾燥処理などを与えて、フイルム基材23の片面全体に、感光剤210の層が形成されたフイルム母材を作成する。
【0041】
次に、図4(B)に示すように、ストライプ状の遮光部241と透光部242とが交互配置された可視光用の振幅型回折格子24を準備し、該回折格子24を前記フイルム母材の感光剤210の層の上に重ね合わせる。そして、図4(C)に示すように、感光剤210を感光させることが可能な光源25を準備し、回折格子24を介して光源25から感光用の光を照射する。光源25としては、感光剤210がX線及び可視光に対して感光性を有するものであるので、取り扱いが容易な可視光を発する光源を用いることができる。
【0042】
このような光照射を行うと、ベタ塗りされた感光剤210のうち、透光部242に相当する部分は感光されるが、遮光部241に相当する部分は未感光のまま残存することになる。従って、図4(D)に示すように、回折格子24のパターンに応じて、未感光部分が感光部21として、感光部分が非感光部22として周期的に形成されたX線撮像フイルム20が製造される。
【0043】
上記の製造方法において、回折格子24としてX線用振幅型回折格子を用い、光源25としてX線を発生する光源を用いるようにしても良い。
【0044】
これらの製造方法によれば、可視光用振幅型回折格子若しくはX線用振幅型回折格子を1個乃至数個し、上記のような感光プロセスを実行することで、感光部21と非感光部22とが周期的に配設された回折格子に相当するパターンを有するX線撮像フイルム20を簡単に量産することができる。
【0045】
図5は、第2実施形態に係るX線撮像フイルム20の製造方法を示す模式図である。この製造方法は、感光部21をインクジェット方式で直接塗布する方法である。図5に示すように、X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成されたフイルム基材26の片面に、X線に対して感光性を有する材料をインクジェットノズルから噴射する。図中の符号Jで示す矢印は、ノズルから噴射されている感光剤を模式的に示している。
【0046】
インクジェットノズルは、振幅型回折格子の格子定数に応じたピッチで複数が一次元配列され、このノズルアレイとフイルム基材26とが相対的に移動されることで、感光剤がフイルム基材26の表面にストライプ状に塗布される。その結果、感光部21が一次元周期で形成され、感光部21の間にはフイルム基材26の表面が露出してなる非感光部22が形成されるものである。
【0047】
なお、上記のようなノズルアレイに代えて単一のインクジェットノズルを採用し、該単一ノズルを、形成すべき感光部21の形成パターンに応じて順次移動させ、フイルム基材26上に感光部21のパターンを描画するようにしても良い。
【0048】
次に、本実施形態に係るX線撮像システム1の動作について説明する。被写体SがX線源13と回折格子12との間に配置され、X線撮像システム1のユーザによって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、システム制御部16は、被写体Sに向けてX線を照射すべくX線制御部17に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部17は、X線電源部14にX線源13へ給電させ、X線源13は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
【0049】
照射されたX線は、回折格子12を通過し、回折格子12によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に回折格子12の自己像であるタルボ像Tが形成される。このX線タルボ像Tの結像位置に、X線撮像ユニット11が配置されている。
【0050】
この状態でシステム制御部16は、シャッタ制御部15にX線撮像ユニット11のシャッタ30を「開」とする制御信号を与える。これを受けてシャッタ制御部15は、シャッタ30を開口させる。これにより、X線撮像フイルム20がX線タルボ像Tの光線に曝される。所定の露光時間が経過したら、シャッタ30は閉じられる。
【0051】
このような露光動作により、タルボ像の縞模様とX線撮像フイルム20の感光部21の縞パターンとが一致した部位においてのみ、当該感光部21がX線で感光される。その結果、X線撮像フイルム20には、タルボ像T(モアレ縞)が現像されるようになる。
【0052】
ここで、被写体SがX線源13と回折格子12との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、回折格子12に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像には、それに応じた変形が生じている。このため、X線撮像フイルム20に入射されたX線タルボ像と、感光部21の一次元周期構造との重ね合わせによって生じる可視のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けている。この変調量は、被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。
【0053】
このように、実施形態に係るX線撮像システム1によれば、回折格子でモアレ縞を発生させるのではなく、X線撮像フイルム20自体に回折格子に相当する感光部21の一次元周期構造を形成し、X線の縞模様と感光部21のパターンとが一致した部位にモアレ縞を現像させる構成である。従って、回折格子を用いることなく、モアレ縞を確実に撮像することができる。
【0054】
すなわち、上記構成によれば、X線タルボ像の縞模様と感光部21の縞模様との重ね合わせにより実質的にモアレ縞が発生される。X線タルボ像の縞は非常に細かい縞模様であり、一般的なX線用フイルムの感光材の解像度では、数μm周期のタルボ像を撮像することが極めて困難であるが、上述のように細かいピッチで配列された感光部21をX線撮像フイルム20が有しているので、モアレを利用してX線タルボ像の縞模様を拡大することができる。このため、通常では縞模様を解像できない一般的なX線用フイルムの感光材を用いたとしても、X線タルボ像を実質的に撮像することができる。
【0055】
上記実施形態において、X線撮像フイルム20の感光部21及び回折格子12の格子定数は同一であることが望ましいが、異なっていてもよい。回折格子12の格子定数をd1、感光部21の周期構造の格子定数をd2とすると、d1×d2/(d2−d1)のモアレ縞が現れ、上述と同様に、このモアレ縞を解析することによっても被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。
【0056】
また、上述の実施形態では、X線源13と回折格子12との間に被写体が配置されたが、回折格子12とX線撮像ユニット11との間に被写体が配置されてもよい。
【0057】
さらに、上述の実施形態では、X線撮像フイルム20は、一次元周期の回折格子のパターンに感光部21が形成されている例を示したが、これに限定されるものではない。図6は、正方格子配列の二次元周期の回折格子のパターンを示す説明図である。図7は、図6に示すパターンによってタルボ像から生じるモアレを説明するための図である。図7(A)は、タルボ像を示し、図7(B)は、モアレ像を示す。X線撮像フイルム20の感光部21のパターンは、このように二次元周期の回折格子のパターンであってもよく、その周期構造は、正方格子配列や三角格子配列であってもよい。要は、感光部21のパターンは、タルボ像を撮像することによってモアレを生じさせる構造のパターンであればよい。
【0058】
例えば、二次元周期の回折格子パターンは、回折部材となるドットが線形独立な2方向に所定の間隔を空けて等間隔に配設されて構成される。正方格子配列では、図3に示すように、単位格子が正方形になるように、直交する2方向に等間隔に回折部材となるドットが配設されて構成される。三角格子配列では、図示しないが、単位格子が正三角形になるように、互いに60度の方向をなす2方向に等間隔に回折部材となるドットが配設されて構成される。このようなドット部分を、感光部21若しくは非感光部22で構成すれば良い。
【0059】
このような二次元周期のX線撮像フイルム20では、例えば、図7(A)に示すように、一方向に線状に延びた複数の影が該一方向と直交する方向に等間隔で形成されている縞模様のタルボ像に、例えば、図6に示すように、その周期構造が正方格子配列の感光部21を有するX線撮像フイルム20を該一方向から少し傾けて感光させると、図7(B)に示すモアレ縞をX線撮像フイルム20に現像させることができる。
【0060】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。従って、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係るX線撮像システムの構成を示す説明図である。
【図2】実施形態におけるX線撮像ユニットの構成を示す説明図である。
【図3】実施形態におけるX線撮像フイルムの平面図である。
【図4】第1実施形態に係るX線撮像フイルムの製造方法を示す模式図である。
【図5】第2実施形態に係るX線撮像フイルムの製造方法を示す模式図である。
【図6】正方格子配列の二次元周期の回折格子を示す説明図である。
【図7】図6に示す回折格子によってタルボ像から生じるモアレを説明するための図である。
【図8】特許文献1に記載のX線撮像装置の概略的な構成を示す説明図である。
【図9】背景技術に係るX線撮像装置における第2回折格子とモアレ像とを説明するための上面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 X線撮像システム
11 X線撮像ユニット
12 回折格子(タルボ用回折格子)
13 X線源
20 X線撮像フイルム
21 感光部(第1部分)
22 非感光部(第2部分)
23 フイルム基材
30 シャッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線に対して感光性を有する材料で形成された第1部分と、X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成された第2部分とが周期的に配設されることで、回折格子に相当するパターンを有することを特徴とするX線撮像フイルム。
【請求項2】
前記パターンは、一次元周期の回折格子のパターンであることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像フイルム。
【請求項3】
前記パターンは、二次元周期の回折格子のパターンであることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像フイルム。
【請求項4】
前記二次元周期の周期構造が、正方格子配列又は三角格子配列であることを特徴とする請求項3に記載のX線撮像フイルム。
【請求項5】
フイルム基材の片面に、X線に対して感光性を有する材料からなる感光層を形成する工程と、
前記感光層の上に、回折格子を積重する工程と、
前記回折格子を介して感光層に向けて、感光用の光を照射する工程と、を含むことを特徴とするX線撮像フイルムの製造方法。
【請求項6】
前記回折格子として、X線用振幅型回折格子が用いられ、
前記感光用の光として、X線が用いられることを特徴とする請求項5に記載のX線撮像フイルムの製造方法。
【請求項7】
前記感光層として、X線及び可視光の双方に対して感光性を有する材料が用いられ、
前記回折格子として、可視光用振幅型回折格子が用いられ、
前記感光用の光として、可視光が用いられることを特徴とする請求項5に記載のX線撮像フイルムの製造方法。
【請求項8】
X線に対して感光性を実質的に有さない材料で形成されたフイルム基材の片面に、
X線に対して感光性を有する材料を、インクジェット方式で回折格子に相当するパターンに塗布することを特徴とするX線撮像フイルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のX線撮像フイルムを結像面に配置し、
前記結像面にX線タルボ像を結像させることを特徴とするX線撮像方法。
【請求項10】
X線を放射するX線源と、
前記X線源から放射されたX線によってタルボ効果を生じるタルボ用回折格子と、
請求項1〜4のいずれかに記載のX線撮像フイルムと、を備え、
前記X線撮像フイルムは、前記タルボ用回折格子から実質的にタルボ距離離れた位置に配置されることを特徴とするX線撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−197495(P2008−197495A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34057(P2007−34057)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】