説明

X線検出器のシェーピング時間の動的変更

【課題】進行中の測定値に応答して検出器回路のパラメータをリアルタイムで設定し、かつ変更する蛍光X線分析方法及び装置の提供。
【解決手段】サンプルの元素組成及び/又はエネルギ分解能条件に従って、X線検出器114のシェーピング時間及び/又は他のパルス処理パラメータを適合させる方法及び装置。X線104はX線源102からサンプル110に向けられ、これに応答してサンプルから放出される放射線(例えば、元素組成の特徴を有する蛍光発光した放射線)108が、入射放射線のエネルギ及び強度を示すパルスを発生するX線検出器114により検出される。元素組成の最初の分析に基づいて、シェーピング時間及び/又は他のパルス処理パラメータが、対象とするスペクトル領域内のエネルギ分解能の拘束を受けるカウント速度を最適化すべく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年11月4日付米国仮特許出願第61/111,252号の優先権を主張する。尚、該米国仮特許出願は本願に援用する。
【0002】
本発明は、エネルギ分解能条件に基づいて検出器回路のパラメータをリアルタイムで設定しかつ変更(modifying)する方法及び装置に関し、より詳しくは、進行中の測定値に応答して検出器回路のパラメータを設定しかつ変更する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、検出した粒子(以下に説明する文脈では、一般にX線光子)のエネルギを検出器パルスの持続中に収集される電荷から推定する構成の広範囲の等級の放射線検出器に適用できる。X線シンチレーション検出器でシンチレーションエミッションを検出する光電子増倍管で作られる電子の数は、本発明が有利に適用される検出器の等級に関する一例があるに過ぎない。この等級の検出器では、パルス振幅のプロットの下の面積が時間の関数として使用され、検出した粒子のエネルギを決定するのに使用される。このような放射線検出器では、それぞれのパルスの下の積分面積を推定する目的でパルスを別々にかつ明白に処理することが重要である。後続パルスは先行パルスのテール上に積み重なり、先行パルスのテールの残留振幅は連続パルスの積分面積によるものである。
【0004】
したがって、パルステールを短縮すると同時にパルスの積分面積を維持することにより、検出器パルスを「シェーピング」することは、エネルギ分解検出器の用途で長い間実用されている。これは、一般に、記憶されたソフトウェアの命令を実行するデジタル信号プロセッサ(DSP)を備えたパルスプロセッサの作動により行われている。パルスプロセッサの出力は、計算のために用いられた種々のパルス処理パラメータの値により影響を受け、この値は、DSPのメモリ又はDSPに関連するメモリに予め記憶させておくことができる。このようなパルス処理パラメータの1つに、パルスシェーピング時間がある。パルスシェーピング時間及びパルス処理パラメータの選択に関する検討が、下記非特許文献1において述べられている。尚、この非特許文献1の開示は本願に援用する。
【0005】
サンプルの元素的かつ化学的組成を決定するのに、サンプルから蛍光発光したX線のエネルギスペクトルが長年使用されている。蛍光X線分析(X-ray fluorescence:XRF)技術の適用は極めて広範囲に亘り、例えば、合金の選別、土壌の分析、塗装壁の鉛濃度の決定、日用品中の毒性要素の量の測定及び電気めっきの厚さ及び組成の決定がある。サーモ・サイエンティフィック・ニトンXRF器械(Thermo Scientific Niton XRF)のような手持ち型XRF器械が多くのユーザによく購入されている。その上、各特定用途については、一般に、サンプルを最も有効に蛍光発光させる最適X線エネルギスペクトルがある。サンプルに入射する励起ビームの最大エネルギ及び濾過を変更することにより最適スペクトルを発生させることは標準的手法である。X線放出源は、X線管で形成するか、放射性源のような他のX線源で形成できる。例えば、金属合金は、土壌の研究に使用されるものとは全く異なるX線スペクトルパラメータを用いて分析される。また、合金又は土壌の単一試験として、サンプル中の広範囲の元素を最も有効に分析するための、高電圧及び/又は濾過の予めプログラムされた連続変化がある。また、X線ビームの強度を自動的に調節して、所与の試験時間中に収集されるX線の数を最大化するのも標準的手法である。
【0006】
係属中のダガス(Dugas)の米国特許出願第12/426,022号明細書(出願人Dugas、名称「自動化された蛍光X線分析(Automated X-Ray Fluorescence Analysis)」)(特許文献1)(該特許文献1の全開示は本願に援用する)には、測定されるサンプルの種類についての予備知識をユーザが必要としないで済むようにするには、目標に入射するX線エネルギスペクトルの最適形状を如何に選択するかが開示されている。しかしながら、この特許文献1に開示の方法は、目標から検出されたX線のスペクトルを処理するものではない。
【0007】
本願に援用する係属中のカミュ(Camus)等の米国特許出願第12/142,737号明細書(特許文献2)には、検出器のシェーピング時間中の多数の検出事象が暗示されている。これは、分解能条件に応答するシェーピング時間の動的変化を処理するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願第12/426,022号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/142,737号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Knoll著「放射線及び検出(Radiation and Detection)」(第3版、John Wiley and Sons社、2000年)
【非特許文献2】Niemela等著「軟X線用CdZnTe検出器の評価(Evaluation of CdZnTe detectors for soft-XRay applications)」(IEEE Transactions on Nuclear Science、vol.41、第1054〜1057頁、1994年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によれば、サンプルの元素組成を分析する方法が提供される。この方法は、下記の段階すなわち、
a.サンプルにX線を照射するステップと、
b.照射に応答してサンプルにより蛍光発光されたX線を検出し、これにより検出器信号パルスを発生するステップと、
c.検出器信号パルスを前置増幅するステップと、
d.パルス処理パラメータに従って検出器信号パルスを処理するステップと、
e.サンプル組成の分析にもとづいてエネルギ分解能条件を決定するステップと、
f.エネルギ分解能条件に基づいて、少なくとも1つのパルス処理パラメータを設定するステップとを有している。
【0011】
本発明の他の実施形態によれば、パルス処理パラメータには、検出器シェーピング時間を含めることができる。
【0012】
本発明の他の態様によれば、サンプルの元素組成を分析する蛍光X線分析器械が提供される。この蛍光X線分析器械は、サンプルを照射するX線源と、照射に応答してサンプルにより蛍光発光されたX線を検出し、これにより検出器信号パルスを発生する検出器とを有している。蛍光X線分析器械はまた、検出器信号パルスを前置増幅する前置増幅器と、検出器信号パルスを処理する信号プロセッサと、プロセシングパラメータを制御するコントローラとを有している。最後に、サンプルの組成に従ってパルス処理パラメータを変えるために、信号経路が、コントローラと、少なくとも1つの信号プロセッサと、前置増幅器との間に設けられている。
【0013】
本発明の更に別の実施形態では、信号プロセッサはデジタル信号プロセッサからなり、
X線源はX線管で形成できる。パルス処理パラメータは、検出器シェーピング時間であるのがよい。
本発明の上記特徴は、添付図面を参照して述べる以下の詳細な説明から一層容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が有利に適用される種類のXRF器械を示す概略図である。
【図2】5.9keVで測定した分解能の関数としてプロットした1keVから12keVまで変化するエネルギの関数としてのシリコンドリフト検出ダイオードの期待分解能をプロットしたグラフである。
【図3】オルテック(Ortec)によるオンラインチュートリアルからの複製であり、縦軸上に指数関数としてプロットしたスループットカウント速度と、それぞれの各曲線の下に示したパルスシェーピング時間との間の実験的関係を示すものである。
【図4】CdZnTe半導体検出器の分解能に与えるシェーピング時間及び検出器温度の効果をプロットしたグラフである。
【図5】本発明の一実施形態による検出器の電子装置のシェーピング時間の動的変更を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ニトンXRF検出器のサーモ・サイエンティフィックラインのようなポータブルXRF器械が、周期律表の殆どに亘る元素を含有する物質の元素組成の測定を必要とする広範囲の用途に使用されている。種々の目標物質から蛍光発光されたX線スペクトルは、複雑さ及び強度が変化する。或る用途は、適正な分析を行うのに最高のエネルギ分解能を必要とし、一方、他の用途は適度のエネルギ分解能を許容できるが、最短の測定時間すなわち最高のカウント速度を必要とする。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、蛍光発光された信号のパルスプロセッサのパラメータは、好ましくは測定中に有利に変更され、これによりエネルギ分解能及びカウント速度に関する各用途の分析が最適化される。パルスプロセッサパラメータ(検出器パラメータとも呼ぶ)は、制限なく、検出した放射線に応答して、時宜を得てパルスプロセッサの信号出力の形状に寄与するあらゆるパラメータを含む。このようなパラメータとして、シェーピング時間又は有効減衰時間があるが、より複雑な濾過パラメータを含めることもでき、例えば検出器の回路内で実施して、前置増幅器及びパルスプロセッサを含めることができる。
【0017】
本発明の実施形態は、信号のシェーピング時間に関し、検出器のエネルギ分解能及び検出器の最大カウント速度の両方に強く依存するという長所を有している。最小エネルギ分解能は長いシェーピング時間で到達され、一方、最大カウント速度は短いシェーピング時間で到達される。
【0018】
本願で使用される用語「エネルギ分解能」とは、器械制限型スペクトル特徴(instrument-limited spectral feature)の半波高全幅値(full width at half maximum:FWHM)のような達成可能な分解能の測定値、又は「スパローの基準(Sparrow criterion)」を満たすのに必要な2つの特徴(2つの特徴は充分に分離され、2つの特徴の間に第1及び第2のゼロ派生物のサドルが2つの特徴の間に現れる)の分離 をいう。上記いずれのエネルギ分解能基準も一例として機能するが、本願で使用されるとき、ラインの区別する目的では小さいエネルギ分解能の方がよい。蛍光X線分光学では、検出器の測定値として5.9keVでのFWHM(マンガンのKαライン)が慣用的に受入れられており、したがって本願の説明で使用される。
【0019】
パルスシェーピング時間は、一般にソフトウェアアルゴリズムにより制御される。パルスシェーピング時間は、ユーザが遭遇する各用途及び各種の物質についてプログラムされる。未知のサンプルが分析される場合には、分析に使用される後のデータの最適パルスシェーピング時間を決定するのに、分析サイクルの早期に獲得されたデータのリアルタイム分析が使用される。本発明の方法は、シリコンドリフト検出器を用いる手持ち型XRF器械の範疇で制限なく説明するが、本発明の範囲は他の多くの形式のパルスカウント器械での使用にも及ぶことを理解されたい。
【0020】
図1において全体を参照番号100で示す手持ち型XRF器械に関連して、本発明の好ましい方法を一般性を損なうことなく説明する。XRF器械100は、蛍光放射線104のX線管源102と、蛍光X線108を検出するためのシリコンドリフト検出ダイオード(silicon drift detector diode:SDD)とを有している。蛍光X線108を発生させる元素の原子は、参照番号110で概略的に示されている。SDDは、そのスループットを、長パルスシェーピング時間の場合の1秒間につき25,000の信号から、短パルスシェーピング時間の場合の1秒間につき100、000より多くの信号まで変えることができるため、本発明の適用にとって好ましい検出器である。パルスシェーピング時間を短縮する代償、したがって1秒間当たりの検出回数を増大する代償は、検出器のスペクトル分解能の低下である。多くの用途にとってこの取引(trade)は量的に正当化されるものである。改善された検出器の分解能から得られる信号/ノイズ比が低いピークカウント速度による信号強度の損失を相殺する或る用途では、逆の取引も正当化される。
【0021】
所与の時間内に検出できる元素の最低濃度は、当該元素からの信号の強度及び該信号下での信号/ノイズ比により大部分が決定される。本発明の実施形態は、これらの2つの量が、上記特許文献1に開示されている蛍光X線スペクトルの機能をするだけでなく、検出した信号を変更しかつ制御する電子的に調節できるパラメータとしても機能するという事実を使用するものである。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、デジタル信号プロセッサ(DSP)112のパラメータ、より詳しくはパルスシェーピング時間が変更される。ここで、DSPパラメータは、検出器の分解能及び検出器のカウント速度を少なくとも部分的に決定し、所与の試験時間内でサンプルの最も正確な分析を得る。XRF器械が試験することを期待している各種サンプルについて、最適パルスシェーピングパラメータを予めプログラムしておくことができる。サンプルの種類が未知であるか、オペレータが数種のサンプルの混合物を検査しているときは、特許文献1に開示された分析方法を用いて、試験の最初の数秒中に収集したデータから決定できる。パルスシェーピング時間は、好ましい実施形態ではDSP112のパラメータにより決定されるが、検出器の前置増幅器114内の回路コンポーネンツの値をプログラムすることにより、パルスシェーピング時間又は他のパルスシェーピングパラメータの変更を達成できることは理解されよう。また、本発明の範囲にしたがって、パルスシェーピングパラメータはRC時間に制限されるものではなく、実際に、パルスの上昇縁及び下降縁に適用される時定数は必ずしも同じではないこと、及びパルスのシェーピングにより高い及びオーダの有効フィルタを適用できることも理解されよう。
【0023】
本発明の実施形態によれば、検出したパルスのパルスシェーピング時間は、試験下のサンプルの種類に基づいて変更でき、かつこの変更まで蓄積されるデータのオンライン分析に基づいて測定中に変更することもできる。パルスシェーピングの調節は、一般に、入射する蛍光X線ビームの形状の調節に加えて行われる。オペレータがサンプルの種類を知っているときは、サンプルの種類はメニュースクリーン上に表示されたオプションのリストから選択され、これにより、X線スペクトル及びパルス形状に対して予めプログラムされた変化が実施される。サンプルが知られていないとき又は種々のサンプルを迅速に試験しかつ類別する必要があるときは、蓄積されたスペクトルを使用して、適当なパラメータを自動的に選択して最も正確な結果を得る。
【0024】
半導体検出器は熱ノイズを無視できるようにする低温で作動されるのが好ましいが、この理想は手持ち型XRF器械では実際的でない。ポータブルXRF器械は、熱電ペルチェ冷却器を用いて検出器及び第1前置増幅器のコンポーネンツを冷却する。しかしながら、ペルチェ冷却器の有利なサイズ、重量及びプログラミングの容易性は、冷却器の効率が低いことで相殺されてしまう。
【0025】
ここで図1に戻って説明すると、X線源102はX線管が好ましくかつ検出器106はSDDが好ましいが、本発明の範囲内で他のX線源及び検出器に置換できる。X線管102は管電圧HV及び電子ビーム電流Iで作動しかつX線ビーム104を発生する。このX線ビーム104は、元素の原子110により概略的に示す目標に衝突する前にフィルタを通る。蛍光X線108はSDD106で検出される。検出器からの個々の信号は、SDD内に堆積した電荷にしたがって類別される。検出した元素の特性ラインは、平均エネルギ及び半波高全幅値(FWHM)により特定されたガウス形状を有している。5.9keVでのFWHMは、検出器自体の分解能の測定値として一般に受入れられている。低エネルギ及び高エネルギでの検出器の分解能は、5.9keV(マンガンのKαライン)での分解能の測定値、及び特定形式の検出器の固有分解能の知識から計算できる。SDD検出器のノイズのない(固有)分解能は約110eVである。これは、5.9keVのX線の検出から収集された電子及び孔の数の統計的変化のみによる分解能である。実際の分解能は、5.9keVでの固有分解能及びノイズ寄与の求積法(in quadrature)による合計により決定される。
【0026】
図2は、5.9keVで測定した分解能の関数として1keVから12keVまで変化するエネルギでのX線についてのSDDの期待分解能を示すグラフである。この範疇では2つの様相に注目すべきである。
【0027】
第1に、図2にプロットされたグラフは、5.9keVでの分解能を改善することにより、低エネルギX線(ここでは、3keV以下のエネルギでのX線をいう)の分解能が改善されることを示している。例えば、SDDが5.9keVで180eVの分解能を有する場合には、1keVでの分解能(マグネシウムのKαライン)は約150eVになると期待され、これは17%の改善である。しかしながら、SDDが155eVの分解能を達成できるならば、1keVでの分解能が120eVに改善され、これは33%の改善である。この改善された分解能は、しばしば軽量元素の特性KX線ライン、中量元素からのLライン及び重量元素からのMラインで混み合うX線スペクトルの低エネルギ領域で特に重要であることに留意すべきである。かくして、低エネルギ領域が対象とするスペクトル領域である場合には、長いシェーピング時間、したがって大きいスペクトル分解能がコントローラ116により設定される。
【0028】
第2に、図2は、5.9keVでの検出器の分解能がそれぞれ減少又は拡大されると、これとともにスペクトルの全てのピークの幅が幅狭又は幅広になることを示している。これらの変化は、元素の濃度の量的結果を作る分析プログラムを考慮に入れなくてはならない。一方、アカウンティングは些細なことではないが迅速に行われる。なぜならば、特徴のあるX線のエネルギ分解能はそのエネルギの予め決定された機能だからである。
【0029】
図3は、オルテック(Ortec)によるオンラインチュートリアルからの複製であり、縦軸上に指数関数としてプロットしたスループットカウント速度と、それぞれの各曲線の下に示したパルスシェーピング時間との間の実験的関係を示すものである。パルス増幅器からのカウント速度は、0.5μsから10μsの範囲のシェーピング時間について増幅器へのパルスのカウント速度の関数としてプロットされている。このグラフはSDDではなくゲルマニウム検出器に特有のものであるが、パルスの電子的に発生した形状が分析可能な最大カウント速度を決定する点(位置)を良く示している。シェーピング時間が10μsであるとき、最大スループットは、約10,000カウント/秒の入力カウント速度で達成される約5,000カウント/秒に過ぎない。シェーピング時間が1μsに短縮されるときは、スループットは50,000カウント/秒に増大される。
【0030】
本発明は、下記の仕様を有するSDD検出器を用いて実施される。すなわち、4μsのパルスシェーピング時間で、最大スループットが約50,000カウント/秒でありかつ検出器の分解能が155eVである。パルスシェーピング時間が1μsに短縮されると、短縮されるシェーピング時間にともなってノイズレベルが増大する結果として、最大速度は160,000カウント/秒に上昇しかつ検出器の分解能は175eVに悪化する。シェーピング時間の短縮により、各特性ラインにおけるカウントが4倍増大される。隔絶された高エネルギピークの信号対ノイズの比は殆ど不変に維持され、これにより元素の最小検出レベルが約2倍改善される。
【0031】
図4は、本願に援用する上記非特許文献2の開示からの複製であり、X線のCdZnTe半導体検出器の分解能に与えるシェーピング時間及び検出器温度の効果を示すグラフである。SDD検出器のデータは図4のデータとは異なっているが、全体的現象は同じである。検出器の温度が非常に低く、このため熱ノイズが些細(図4の-40℃曲線)であるときは、5.9keVのX線の分解能が改善され、シェーピング時間が増大するので、約6μsのシェーピング時間で250eVの最小値に到達する。検出器の温度が上昇すると最高分解能が悪化し、-30℃で290eV及び20℃で320eVとなる。-35℃で作動する本発明のSDD検出器では、1μsのシェーピング時間で〜175eV、4μsのシェーピング時間で160eVである。検出器を-45℃に冷却すると、両分解能時間が約10eVだけ低下する。
【0032】
本発明の実施形態は、特定サンプルのパルスシェーピング時間を最適化することにより、XRF分析器の改善された性能を提供する。ここで図5のフローチャートを参照すると、サンプルマトリックスの先験的知識を利用できる場合には、オペレータは、候補サンプルの種類のリストからサンプル種類を選択(例えば、タッチスクリーンインターフェースを用いて選択)し、次にサンプルは、ステップ51に示すように、選択したサンプル種類に対応するパルスシェーピング時間情報のような1つ以上の予め記憶されたプロセシングパラメータにしたがって分析される。サンプルの先験的知識を利用できない場合には、最初に欠如値(ステップ52)に設定されたパルスシェーピング時間は、分析サイクルにおいて早期に獲得されかつ処理されたデータに基づいて、分析サイクル中に適応可能に調節される。より詳しくは、例えば図1のX線源102により発生されたX線のビームをサンプルに照射して、サンプル中の原子により、特徴のある蛍光X線を放出させる(ステップ53)。検出器は蛍光X線を受け、これに応答してX線のエネルギ及び強度を表わすパルスを作る(ステップ54)。検出器により作られるパルスは、ステップ51又は52で設定されたパルス処理パラメータ(パルスプロセシングパラメータ)にしたがってシェーピングされる。処理されたパルスはコントローラに搬送され、該コントローラは、蓄積されたパルスを分析して検出したX線のエネルギスペクトルを発生させる。処理されたパルスの分析及びエネルギスペクトルの発生はリアルタイムで生じる。すなわち、照射ステップ及び検出ステップと実質的に同時に生じる。エネルギスペクトルデータが蓄積されると、コントローラはデータを分析して、スペクトルの成分が、目標とする性能基準、例えばエネルギ分解能又はカウント速度を満たすか否かを決定する(ステップ55)。目標とする性能基準が満たされないことをコントローラが決定した場合には、満足できる性能を達成すべくパルス処理パラメータが調節される。例えば、エネルギ分解能を改善すべく、検出器パルスに適用されるパルスシェーピング時間を増大できる(ステップ56)。次に、照射、検出及びスペクトルの獲得からなる分析サイクルが、記憶された命令にしたがって、調節されたパルス処理パラメータで連続される(ステップ57)。調節されたパルス処理パラメータから生じる検出器の変化されたエネルギ分解能及び検出器のエネルギキャリブレーションは、データのリアルタイム分析の要因とならなくてはならない。調節アルゴリズムはDSP内にプログラムされる。なぜならば、所与の検出器モデルに対し、パルス処理システムのエネルギ分解能及びエネルギキャリブレーションは、パルス処理パラメータの固定関数だからである。分析サイクルは、一般に、特定時間の経過後、又は或るスペクトル特性(例えば信号対ノイズ比)が達成されたとき、又は元素濃度の統計学的不確実性が所定レベルに到達したときに終了する。
【0033】
上記本発明の実施形態は単なる例示を意図したものであり、当業者には多くの変更が明らかであろう。このような変更は特許請求の範囲の記載において定められた本発明の範囲内に包含されるものである。
【符号の説明】
【0034】
100 XRF器械
102 X線源
104 蛍光放射線(X線ビーム)
106 シリコンドリフト検出ダイオード
108 蛍光X線
110 元素の原子
116 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.サンプルにX線を照射するステップと、
b.照射に応答してサンプルにより蛍光発光されたX線を検出し、これにより検出器信号パルスを発生するステップと、
c.前記検出器信号パルスを前置増幅するステップと、
d.パルス処理パラメータに従って前記検出器信号パルスを処理するステップと、
e.サンプル組成の分析に基づいてエネルギ分解能条件を決定するステップと、
f.エネルギ分解能条件に基づいて、少なくとも1つの前記パルス処理パラメータを設定するステップと、
を有することを特徴とするサンプルの元素組成を分析する方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのパルス処理パラメータは、検出器のシェーピング時間を有していることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
a.サンプルを照射するX線源と、
b. 照射に応答してサンプルにより蛍光発光されたX線を検出し、これにより検出器信号パルスを発生する検出器と、
c.前記検出器信号パルスを前置増幅する前置増幅器と、
d.前記検出器信号パルスを処理する信号プロセッサと、
e.処理パラメータを制御するコントローラと、
f.前記サンプルの組成に従ってパルス処理パラメータを変えるために、前記コントローラと少なくとも1つの前記信号プロセッサと前記前置増幅器との間の信号経路と、
を有することを特徴とするサンプルの元素組成を分析する蛍光X線分析器械。
【請求項4】
前記信号プロセッサは、デジタル信号プロセッサを含むことを特徴とする請求項3記載の蛍光X線分析器械。
【請求項5】
前記X線源はX線管であることを特徴とする請求項3記載の蛍光X線分析器械。
【請求項6】
前記パルス処理パラメータは、検出器シェーピング時間であることを特徴とする請求項3記載の蛍光X線分析器械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−508379(P2012−508379A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535654(P2011−535654)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/063311
【国際公開番号】WO2010/054018
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(508019894)サーモ ニトン アナライザーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (12)
【Fターム(参考)】