説明

X線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法

【課題】X線透過法を用いて走行状態の塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定する。
【解決手段】X線源11とX線検出器12を用いて未乾燥状態の塗工シート10の走行状態において塗工シートの乾燥後における塗工膜を測定する際、塗工シートの透過X線量を測定したデータを演算部30で処理して塗工シート10の塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みをほぼ連続的に算出する。この際、未乾燥状態における塗工膜中の溶剤の含有率が一定であれば、未乾燥状態の塗工膜の溶質と溶剤のX線吸収量の比率は一定になる。この関係から、未乾燥時のX線吸収量と乾燥時のX線吸収量との間に一定の関係式が生じる。この関係式を用いて、未乾燥時の単位面積当り重量の測定値から乾燥後の単位面積当り重量を求めることが可能になる。溶剤の含有率が変化した場合は、含有率の変化に応じて関係式を補正すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法に係り、特に塗工膜の単位面積当りの重量および/または厚みを測定する装置および方法に関するもので、例えば高分子膜、金属膜などの基材シート上に塗工膜が形成された塗工シートの走行状態においてほぼ連続的に測定する際に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
シート状の金属フォイルや鋼材を製造するラインでは、金属フォイル等の被測定部材に照射したX線等の放射線の透過量によって被測定部材の厚さを測定する放射線厚さ計が広く用いられている(特許文献1参照)。この放射線厚さ計は、所定の方向に定速度で移動する被測定部材を囲むように設けられたC型あるいはO型フレームを有し、被測定部材の移動方向と直角方向に測定装置を走査させ、被測定部材の各位置における放射線の透過量を測定することにより厚さを計るものである。
【0003】
ところで、基材シート上に塗工膜が形成された塗工シートの厚さを製造ライン中で測定する場合には、通常は、乾燥後の塗工シートを対象として連続的に測定し、測定結果を用いて塗工膜の単位面積当りの重量および/または厚みのフィードバック制御等を行い、生産管理、品質管理を行う。しかし、この場合には、塗工シートの製造ラインの途中に乾燥炉を配設する必要があり、シートの塗工後に乾燥過程を経て乾燥状態で測定するので、測定結果を得るまでに時間的な遅れが発生する。即ち、この時間的な遅れに相当する走行シートの長さ分だけ測定結果のフィードバック制御が遅れ、塗工シートの製造歩留まりが悪化するおそれがある。
【特許文献1】特開平11−142128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記した問題点を解決すべくなされたもので、未乾燥状態(乾燥前)の塗工シートを対象として測定を行いながら、塗工シートの乾燥状態(乾燥後)における単位面積当り重量および/または厚みを、素早く、かつ、精度良く簡単に測定し得るX線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置は、基材シート上に塗工膜が形成されてなる塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みをX線透過法を用いて測定する塗工シートの測定装置であって、互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、未乾燥状態の前記塗工シートが前記X線源およびX線検出器の対向間隔部に存在する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記塗工シートを透過したX線を前記X線検出器で検出した透過X線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて前記未乾燥状態の塗工シートの単位面積当り重量を算出し、この算出結果を補正することにより前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量を算出する演算部とを具備することを特徴とする。
【0006】
前記演算部は、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量の算出値を用いて、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の密度ρが一定と見做して前記塗工膜の厚みを算出する機能を持たせるようにしてもよい。
【0007】
本発明のX線透過法を用いた塗工シートの測定方法は、互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記X線検出器で検出したX線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算を行う演算部とを有する測定装置を用いて、基材シート上に塗工膜が形成されてなる塗工シートの未乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量をX線透過法を用いて測定する第1のステップと、前記未乾燥状態における塗工膜中の溶剤の含有率が一定であって未乾燥状態の塗工膜の溶質と溶剤のX線吸収量の比率が一定であると見做した場合に未乾燥状態のX線吸収量と乾燥状態のX線吸収量との間に存在する関係式を用いて、未乾燥状態での測定値から乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量を前記演算部により算出する第2のステップとを具備することを特徴とする。
【0008】
なお、前記含有率が変化する場合には、前記含有率の変化に応じて、前記第2のステップで用いる関係式を外部からの入力操作により間欠的に、あるいは自動入力により連続的に補正することが望ましい。
【0009】
さらに、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量の算出値を用い、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の密度ρを一定と見做して前記塗工膜の厚みを前記演算部により算出する第3のステップを持たせるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法によれば、未乾燥状態(乾燥前)の塗工シートを対象として測定を行いながら、塗工シートの乾燥状態(乾燥後)における単位面積当り重量および/または厚みを、素早く、かつ、精度良く簡単に測定することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明の原理を簡単に説明する。
【0012】
未乾燥状態(乾燥前)の塗工シートの膜厚をX線透過法を用いて測定する際は、塗工膜の溶質および溶剤を同時に測定してX線吸収量を求めることになる。これに対して、乾燥状態(乾燥後)の塗工シートの膜厚の測定は、溶剤は飛散しているので溶質のみを測定してX線吸収量を求めることになる。これらの両方の測定の差は、溶剤の測定を含むか否かの違いである。ここで、溶質も溶剤も一定の素材であり、塗工時には濃度管理がなされた溶媒である。したがって、未乾燥状態における塗工膜中の溶剤の含有率が一定であれば、未乾燥状態の塗工膜の溶質と溶剤のX線吸収量の比率が一定になる。この関係から、未乾燥状態のX線吸収量と乾燥状態のX線吸収量との間に一定の関係式が生じる。この関係式を用いて、未乾燥状態での単位面積当り重量の測定値から乾燥状態での単位面積当り重量を求めることが可能になる。
【0013】
なお、前記含有率が変化する場合も、前記未乾燥状態のX線吸収量と乾燥状態のX線吸収量との間に含有率に応じて前記した一定の関係式が生じる。そこで、含有率を濃度計等により測定し、含有率の変化に応じて外部からの入力操作により間欠的に、あるいは自動入力により連続的に前記関係式を補正することにより、未乾燥状態での単位面積当り重量の測定値から乾燥状態での単位面積当り重量を求めることが可能になる。
【0014】
なお、本願出願人は、特願2004−248913号により、塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定し得るX線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法を提案した。この特願2004−248913号では、溶剤は測定せずに、乾燥後の塗工シートの溶質のみを測定してX線吸収量を求める場合を想定している。これに対して、本発明では、未乾燥状態の塗工シートの溶質および溶剤を同時に測定してX線吸収量を求め、溶剤分の測定値に対して所定の補正を施し、溶質分のみを測定するものである。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。この説明に際して、全図にわたり共通する部分には共通する参照符号を付す。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る塗工シートの測定装置の基本構成を示す側面図である。
【0017】
図1において、X線源11およびX線検出器12は互いに対向し合うように配置されている。なお、X線源は、照射エリアをコリメータ13で制限することが好ましい。X線源・X線検出器の対向間隔部に塗工シートが存在する時には、X線源から照射したX線ビームはシートを透過(X線の一部は塗工シートで吸収され、一部は直進)し、X線検出器12に入射し、透過X線強度が検出される。なお、本発明では、未乾燥状態の塗工シートを対象として透過X線強度を検出する。X線源・X線検出器の対向間隔部にシートが存在しない時には、X線源から照射したX線ビームは直接にX線検出器12に入射し、照射X線強度が検出される。
【0018】
そして、X線検出器12の検出出力を適宜増幅する増幅器(図示せず)と、この増幅器の出力を電流値データに変換するアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)23と、このADC23から入力される電流値データをデータ処理し、所定の計算式に基づいて演算する演算部30が設けられている。
【0019】
演算部30は、例えばパーソナルコンピュータが用いられており、その一例は、装置全体を統括するとともに各種演算処理を実行するCPU(中央処理装置)31と、プログラム記憶用のROM32と、データメモリ用のRAM33と、パラメータ記憶部34などを有し、パラメータ設定部35、ディスプレイ等で構成された表示部36などが接続されている。前記パラメータ設定部35は、後述する計算式に関連するパラメータ(規定値)を演算部30に入力する機能を有する。前記パラメータ記憶部34は、パラメータ設定部35から入力されたパラメータ、あるいは、予め本例の測定装置を用いて実測されたパラメータを、例えばデータテーブル形式で記憶している。
【0020】
上記演算部30において、CPU31は、ADC23から入力される電流値データを測定位置データとセットにしてRAM33に格納し、ROM32に格納されているプログラムに基づいてデータ処理を行い、未乾燥状態における塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量を算出し、この算出結果を補正することにより前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出し、演算結果をRAM33に格納するとともに表示装置36で表示させる。
【0021】
さらに、X線源11およびX線検出器12を互いに同期して走行パスの幅方向(塗工シート10の走行方向と直角方向)に定速度で往復駆動させるために、モータ等を含む駆動機構を用いた走査手段24が設けられている。この走査手段24は、X線源11から照射されるX線が走行パスの幅方向外側に少しずれた位置まで突出するように走査領域の一端を設定している。ここで、塗工シートの走行方向と、測定器の走査方向と、測定位置の軌跡の一例との関係を図2に示す。
【0022】
次に、本例の測定装置および測定方法の測定原理について、図3に示すフローチャートを参照しながら詳細に説明する。一般に、X線透過法による基本式は以下のように示される。
【0023】
I=Io exp −{(μ/ρ)×ρ×t} …(1)
=Io exp −(μ/ρ)×W …(2)
=Io exp −(μ×t) …(3)
ここで、I:透過X線の強度(透過X線量)
Io :透過前X線の強度(照射X線量)
μ:測定材のX線吸収係数 [1/cm]
ρ:測定材の密度 [g/cm3 ]
(μ/ρ):測定材の質量吸収係数[cm2 /g]
t:測定材の厚み [cm]
W:測定材の単位面積当り重量 [g/cm2 ]
である。前式(2)は測定材の単位面積当り重量Wに着目したもの、前式(3)は測定材の厚みtに着目したものである。X線吸収係数μは、同一物質であっても密度ρが異なると変化する。したがって、前式(1)は、X線吸収係数μを密度ρで割った質量吸収係数(μ/ρ)を用いている。
【0024】
なお、前記測定材が、基材シート上に塗工膜が塗工された塗工シートであり、各層(基材シートと塗工膜)を区別せずに取り扱う場合には、前式(1)〜(3)中のμは基材シートと塗工膜の総厚のX線吸収係数、(μ/ρ)は基材シートと塗工膜の総厚の質量吸収係数を表わす。
【0025】
また、前記測定材が、基材シート上に塗工膜が塗工された塗工シートであり、単一のX線源とX線検出器を用いて塗工シートを各層(基材シートと塗工膜)に分離して取り扱う場合には、測定材の単位面積当り重量に着目したX線透過法による基本式は以下のように示される。なお、表記の都合上、EXP 記号に続く指数部を括弧で括ってEXP 記号と同一行に記載する。
【0026】
I=Io EXP [−{(μ/ρ)M ×WM +(μ/ρ)S ×WS }]
×Io EXP [−(μ/ρ)B ×WB
I/Io =EXP [−{(μ/ρ)M ×WM +(μ/ρ)S ×WS }]
×EXP [−(μ/ρ)B ×WB ] …(4)
但し I:透過X線の強度
Io :透過前X線の強度
(μ/ρ)M :乾燥状態の塗工材の質量吸収係数[cm2 /g]
(μ/ρ)S :溶剤の質量吸収係数[cm2 /g]
(μ/ρ)B :基材の質量吸収係数[cm2 /g]
M :乾燥状態の塗工材の単位面積当り重量[g/cm2 ]
S :溶剤の単位面積当り重量[g/cm2 ]
B :基材の単位面積当り重量[g/cm2 ]
である。未乾燥状態における塗工膜中の溶剤の含有率(重量%)Rは
R(%)=100×WS /(WM +WS
であり、
S =WM ×R/(100−R) …(5)
である。
【0027】
ここで、基材の単位面積当り重量WB および材質は一定、基材の質量吸収係数(μ/ρ)B は一定として、前式(4)中のEXP [−(μ/ρ)B ×WB ]を省略すると、前式(4)は
I/Io =EXP [−{(μ/ρ)M ×WM +(μ/ρ)S ×WS }] …(6)
で表される。前式(5)と(6)より、
I/Io
=EXP [−{(μ/ρ)M ×WM +(μ/ρ)S ×WM ×R/(100−R)}]
=EXP [−(μ/ρ)M ×WM ×
{1+{(μ/ρ)S /(μ/ρ)M }×R/(100−R)}]…(7)
と表わすことができる。実際の測定時には、乾燥状態での塗工材の質量吸収係数(μ/ρ)M を用いて測定するので、上式(7)は
I/Io =EXP [−(μ/ρ)M ×W] …(8)
として取り扱われるので、前式(7)と(8)より、
W=WM {1+{(μ/ρ)S /(μ/ρ)M }×R/(100−R)} …(9)
となる。
【0028】
したがって、溶剤(揮発分)の含有率がR(%)の塗工膜の未乾燥状態における単位面積当り重量Wを、乾燥状態での塗工材の質量吸収係数(μ/ρ)M を用いて測定する(ステップS1)と、次式(10)で示される係数倍だけ増加した単位面積当り重量として測定される。
【0029】
{1+(μ/ρ)S /(μ/ρ)M }×R/(100−R)} …(10)
そこで、前式(10)にしたがって、未乾燥状態での塗工材を乾燥状態での質量吸収係数(μ/ρ)M を用いて測定した塗工膜の単位面積当り重量Wから乾燥状態での塗工材の単位面積当り重量WM を算出する(ステップS2)ことが可能になる。即ち、
M =W/{1+{(μ/ρ)S /(μ/ρ)M }×R/(100−R)}
となる。
【0030】
さらに、塗工シートの乾燥状態における塗工膜の密度ρを一定と見做した場合の塗工膜の厚みtは、塗工シートの乾燥状態における単位面積当り重量の算出値WM を用いて、前式(2)と(3)の関係に基づいて求める(ステップS3)ことが可能である。即ち、
−(μ/ρ)×WM =−(μ×t)
t=WM /ρ
となる。
【0031】
なお、X線源およびX線検出器は、塗工シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されており、さらに、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、X線源およびX線検出器を前記走行パスの幅方向に走査させ、かつ、前記走行パスの幅方向に往復走査させる走査手段を具備している。これにより、演算部は、塗工シートの走行状態において塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを繰り返し測定することが可能になる。
【0032】
本実施形態のX線透過法を用いた測定装置は、ポリエステルフィルム等の合成樹脂フィルム、紙、非鉄金属箔等のベースに、セラミック材、磁気を帯びた磁性体やフィラー、チタン、鉛等の粉体が塗布された帯状の各種の塗工シートを測定することが可能である。
【0033】
具体例として、塗工膜として酸化鉄が用いられている磁気カード用の塗工シートとか、二次電池であるリチュームイオン電池の陽極用の塗工シート(例えばアルミ基板にコバルト酸リチューム膜が塗工されている)とか、リチュームイオン電池の負極用の塗工シート(例えば銅基板にカーボン膜が塗工されている)とか、セラミックコンデンサのチタン酸バリューム膜などを測定することが可能である。コバルト酸リチューム膜やチタン酸バリューム膜などでは、溶剤はC、H、Oなどの元素が用いられており、溶質はCo、Ti、Baなどの金属であり、溶剤の質量吸収係数(μ/ρ)S に比べて溶質の質量吸収係数(μ/ρ)M が大きく、(μ/ρ)S /(μ/ρ)M は1より小さな値になる。このことは、溶剤の含有率の変化量に比べて塗工重量の変化率は小さな値となる。
【0034】
溶剤の質量吸収係数(μ/ρ)S が溶質の質量吸収係数(μ/ρ)M より小さく、溶剤(揮発分)の含有率の変化量が少ない場合は、溶剤の含有率を一定であると見做しても、塗工重量の変化(誤差)を許容できる場合がある。この場合は、溶剤の含有率を一定(固定値)と見做して計算式に基いて塗工重量を求めることができる。また、溶剤と溶質の質量吸収係数に大きな差がない場合、および、溶剤の含有率が大きく変化する場合は、含有率を測定する濃度計等の測定値を逐次入手するか、もしくは、濃度計とX線測定器とのデータを結合することにより、計算式に基いて塗工重量を求めると、塗工膜の重量を正確に測定することが可能になる。
【0035】
以上述べたような本実施形態の測定装置および測定方法を、基材上に塗工材を塗工する製造ライン中の塗工シートの搬送ラインの一部にインライン方式で適用することにより、未乾燥状態(乾燥前)の塗工シートを対象として測定を行い、測定結果を補正することにより、等価的に塗工シートの乾燥状態(乾燥後)における塗工膜の単位面積当り重量を、素早く、かつ、精度良く簡単に測定することが可能になった。そして、補正後の測定結果を用いて必要に応じて塗工膜の厚みを算出する。これらの補正後の測定結果あるいは塗工膜の厚みの情報を用いて生産ラインにおける塗工膜の厚さなどをフィードバック制御し、塗工シートの生産管理、品質管理を行うことが可能になる。
【0036】
したがって、高分子膜、金属膜などの基材シート上に塗工膜を有する塗工シートを連続的に製造する設備などに適用して、インラインで塗工シートの塗工膜の厚みを精度良く簡単に測定することができる。
【0037】
図4は、図1の測定装置の一具体例を概略的に示す斜視図である。
【0038】
図4において、例えばO型フレーム中の左右一対のフレーム41、41の間に、上下一対のレール42,43が隙間をあけて水平に取付けられている。上下一対のレール42,43間は、帯状の細長い塗工シート10が図示矢印方向に走行する走行パスの一部となっている。
【0039】
一方のレール(本例では上側のレール42)には、図1中に示したようなX線源11がレール長手方向に摺動可能に取付けられており、X線源11はレール長手方向に往復移動が可能である。ここで、X線源11は、例えばX線管カバーの内部に、X線管のX線照射口を下向きにして内蔵しており、X線管カバーの下部にはX線が通り抜ける通光孔が形成されている。上記X線源11は、X線管の陰極からの電子ビームを陽極ターゲットに照射させてX線を生成する。このX線としては、X線透過法による測定に適したエネルギーのX線を用いており、X線のエネルギー分布は連続X線であっても特定X線であってもよい。 他方のレール(本例では下側のレール43)には、図1中に示したようなX線検出器12がレール長手方向に摺動可能に取付けられており、X線検出器12はレール長手方向に往復移動が可能である。ここで、X線検出器12は、入射したX線を例えばイオンチャンバーで受けて入射したX線信号に比例した電流信号に変換するか、または、シンチレータで受けて光に変換し、例えばフォトマルチプライアやフォトダイオードによって入射したX線信号に比例した電流信号に変換する(シンチレーション検出器)。
【0040】
さらに、図1中に示したようにX線源11およびX線検出器12を互いに同期して(相対位置を維持したまま)走行パスの幅方向(レール長手方向)に定速度で往復駆動させるために、モータ等を含む駆動機構を用いた走査手段(図示せず)が測定装置に内蔵されている。この走査手段は、走査領域の一端が、X線源11から照射されるX線が走行パスの幅方向外側に少しずれた位置になるように走査駆動する。また、例えばフレーム41の前面には、装置の操作部44が設けられている。
【0041】
上記構成により、X線源11およびX線検出器12がレール長手方向のどの位置に移動しても、X線源11から照射されたX線はX線検出器12で検出される。X線検出器12で検出されたX線量は電流値に変換され、図1を参照して前述したようにA/Dコンバータ23により電流値データに変換された後に演算部30に入力される。
【0042】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、前述した第1の実施形態と比べて、停止状態の塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを測定する点が異なり、測定原理は同様である。第2の実施形態によれば、走査手段24を省略することができる、あるいは、走査手段24を省略しない場合でもその動作を停止させることができる。
【実施例】
【0043】
本発明のX線透過法を用いた測定装置は、ポリエステルフィルム等の合成樹脂フィルム、紙、非鉄金属箔等のベースに、セラミック材(BaTiO2 等)、磁気を帯びた磁性体やフィラー、チタン、鉛等の粉体が塗布された帯状の各種の塗工シートを測定することが可能である。具体例として、塗工膜として酸化鉄が用いられている磁気カード用の塗工シートとか、リチュームイオン電池の陽極用の塗工シート(例えばアルミ基板にコバルト酸リチュームが塗工されている)とか、リチュームイオン電池の負極用の塗工シート(例えば銅基板にカーボンが塗工されている)を測定することが可能である。
【0044】
[実施例1]
リチュームイオン電池の陽極用の塗工シートは、例えばコバルト酸リチューム膜を溶剤で溶かした塗工材がアルミ基板上に塗工され、乾燥されたものが用いられている。通常、15μmの厚さのアルミ箔(40g/m2 )上に片面当り100〜200g/m2 程度の塗工膜が形成されている。この場合、塗工液の溶剤濃度(含有率R)は30〜34%程度である。この時、塗工材と溶剤の吸収係数の比率(μ/ρ)S /(μ/ρ)M =0.15程度となり、換算係数(補正係数)は、溶剤の含有率Rが32%とすると、
1/{1+{(μ/ρ)S /(μ/ρ)M }×R/(100−R)}
=1/{1+0.15×32/(100−32)}
=1/{1+0.15×32/68}=0.934
となる。未乾燥塗工膜と乾燥塗工膜との塗工膜換算の重量比率は、93%程度であり、濃度変化(±2%)に対して塗工重量で約±0.5%の変化(誤差)となった。
【0045】
また、溶剤の濃度が同一の条件で、未乾燥塗工膜と乾燥塗工膜に対する測定値の比率は、10個の試料の測定値で重量変化として平均93.4%、標準偏差で0.6%の相関が得られた。
【0046】
以上述べたように、本発明の測定装置をインラインで塗工を行う設備に設置して、未塗工状態で乾燥後の塗工重量および/または塗工厚さを測定できることにより、乾燥炉での試料の通過長さ5〜20m程度(生産ラインにより異なる)に対応する測定時間遅れがなくなり、生産ラインに対するフィードバック制御遅れを1m程度に抑えることが可能になり、生産ラインのフィードバック制御、塗工シートの生産管理、品質管理を正確かつ容易に行うことができ、製造の歩留まりの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る塗工シートの測定装置の基本構成を示す側面図。
【図2】図1の測定装置において塗工シートの走行方向と測定器の走査方向と測定位置の軌跡の一例との関係を示す平面図。
【図3】図1の測定装置を用いた測定方法の一例を示すフローチャート。
【図4】図1の測定装置の一具体例を概略的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0048】
10…塗工シート、10a…塗工シートの塗工膜、10b…塗工シートの基材シート、11…X線源、12…X線検出器、13…コリメータ、23…A/Dコンバータ、24…走査手段、30…演算部、31…CPU、32…プログラム記憶部用ROM、33…データメモリ用RAM、34…パラメータ記憶部、35…パラメータ設定部、36…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に塗工膜が形成されてなる塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みをX線透過法を用いて測定する塗工シートの測定装置であって、
互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、
未乾燥状態の前記塗工シートが前記X線源およびX線検出器の対向間隔部に存在する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記塗工シートを透過したX線を前記X線検出器で検出した透過X線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて前記未乾燥状態の塗工シートの単位面積当り重量を算出し、この算出結果を補正することにより前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量を算出する演算部とを具備することを特徴とするX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、以下の関係式にしたがって計算を行うことを特徴とする請求項1記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
M =W/{1+{(μ/ρ)S /(μ/ρ)M }×R/(100−R)}
W:溶剤の含有率がR(%)の未乾燥状態の塗工材を乾燥状態の塗工材の質量
吸収係数で測定した場合の単位面積当り重量[g/cm2 ]
M :乾燥状態の塗工材の単位面積当り重量[g/cm2 ]
(μ/ρ)M :乾燥状態の塗工材の質量吸収係数[cm2 /g]
(μ/ρ)S :溶剤の質量吸収係数[cm2 /g]
R:未乾燥状態における塗工膜中の溶剤の含有率(重量%)
【請求項3】
前記演算部は、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量の算出値を用い、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の密度ρを一定と見做して前記塗工膜の厚みを算出する機能を有することを特徴とする請求項2記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
【請求項4】
互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記X線検出器で検出したX線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算を行う演算部とを有する測定装置を用いて、基材シート上に塗工膜が形成されてなる塗工シートの未乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量をX線透過法を用いて測定する第1のステップと、
前記未乾燥状態における塗工膜中の溶剤の含有率が一定であって未乾燥状態の塗工膜の溶質と溶剤のX線吸収量の比率が一定であると見做した場合に未乾燥状態のX線吸収量と乾燥状態のX線吸収量との間に存在する関係式を用いて、未乾燥状態での測定値から乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量を前記演算部により算出する第2のステップ
とを具備することを特徴とするX線透過法を用いた塗工シートの測定方法。
【請求項5】
前記含有率が変化する場合には、前記含有率の変化に応じて、前記第2のステップで用いる関係式を外部からの入力操作により間欠的に、あるいは自動入力により連続的に補正することを特徴とする請求項4記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定方法。
【請求項6】
前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の単位面積当り重量の算出値を用い、前記塗工シートの乾燥状態における塗工膜の密度ρを一定と見做して前記塗工膜の厚みを前記演算部により算出する第3のステップをさらに具備することを特徴とする請求項4または5記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−51978(P2007−51978A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238879(P2005−238879)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(591114641)株式会社ヒューテック (19)
【Fターム(参考)】