説明

frizzled−9の発現および/または機能を抑制することを含む肝癌細胞増殖抑制方法

【課題】肝癌の有用な治療標的および肝癌の治療方法を提供すること。
【解決手段】frizzled-9(Fz9)の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌細胞増殖抑制剤並びに肝癌の治療および/または防止剤、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌細胞増殖抑制方法並びに肝癌の治療および/または防止方法、Fz9の発現および/または機能を阻害する作用を有する化合物を探索することを特徴とする肝癌治療用化合物および肝癌細胞増殖抑制用化合物の同定方法、被検組織が肝癌組織由来であるか否かを判定する方法であって、Fz9の被検組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、frizzled-9(以下、Fz9と略称することがある)の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌細胞増殖抑制剤並びに肝癌の治療および/または防止剤に関する。また本発明は、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌細胞増殖抑制方法並びに肝癌の治療および/または防止方法に関する。さらに本発明は、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を探索することを特徴とする肝癌治療用化合物および肝癌細胞増殖抑制用化合物の同定方法に関する。また本発明は、被検組織が肝癌組織由来であるか否かを判定する方法であって、Fz9の被検組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Wnt経路(Wnt patway)は、細胞の分化と増殖にきわめて重大な役割を担っている細胞内刺激伝達系である。Wnt経路の持続的活性化は異常な細胞増殖および癌を惹き起こす(非特許文献1)。細胞外のWntリガンドは、レセプターであるfrizzled(以下、Fzと略称することがある)に結合し、下流のβ−カテニンを介する経路(canonical pathway)とβ−カテニンを介さない経路(non-canonical pathway)を経由して刺激が伝達される。従来、β−カテニンの塩基配列の変異が発癌を促進すると考えられ、癌の増殖を抑制する目的でβ−カテニンの抑制が試みられてきた(非特許文献2)。しかし、β−カテニンの塩基配列の変異が認められる癌症例は調査された癌症例の50%程度であり、このような変異の無い癌に対しては、β−カテニンの抑制は有効でない。
【0003】
Fzは細胞表面受容体であり、Wntリガンドの作用を媒介する。Fzファミリー遺伝子は、構造および機能の相同性に基づいて10種類が同定されている(非特許文献3および4)。Fzは発癌および胚発生に関与することが知られている。その発現は胃癌(非特許文献5)、大腸癌(非特許文献6〜9)、乳癌(非特許文献10)、および腎細胞癌(非特許文献11)で増強しており、このことから、Fzが発癌に関連することが示唆される。
【0004】
細胞内刺激伝達系に関わるタンパク質は癌など様々な疾患の分子治療標的となり得るが、通常、細胞内刺激伝達系を抑制しようとする場合はレセプターの抑制を図る。レセプターは細胞内刺激伝達系の開始段階に関わるため、その抑制により細胞内刺激伝達を有効に抑制することができる。
【0005】
実際、WntレセプターであるFzの発現抑制により腫瘍増殖が抑制されたことが報告されている。具体的には、Fz10に対するsiRNAを用いた滑膜肉腫の治療方法が開示されている(特許文献1)。また、Fz7に対するsiRNAを大腸癌に導入することにより大腸癌の増殖を抑制する方法が報告されている(非特許文献8)。その他、Wntリガンドを過剰発現する癌細胞を、WntリガンドとFzの結合を阻害する作用物質と接触させることにより、その増殖を抑制する方法が開示されている(特許文献2)。
【0006】
一方、肝細胞癌では、その周囲の非腫瘍組織と比較して、Fz3、Fz6、Fz7の発現増強が報告されている(非特許文献12)。また、Fz7トランスジェニックマウスの肝臓では肝細胞癌が発生することが報告されている(非特許文献13)。しかしながら、Fz3、Fz6およびFz7は、周囲の非腫瘍組織で発現している(非特許文献12および14)ため、それらの抑制を臨床的に実現すれば副作用を惹き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008-509076号。
【特許文献2】特表2006-516259号。
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】カトウ(Katoh M.)ら、「WNT Signaling Pathway and Stem Cell Signaling Network」、クリニカル キャンサー リサーチ(Clinical Cancer Research)、2007年、第13巻、第14号、p.4042-4045。
【非特許文献2】ゼング(Zeng G.)ら、「siRNA-Mediated β-catenin Knockdown in Human Hepatoma Cells Results in Decreased Growth and Survival」、ネオプラジア(Neoplasia)、2007年、第9巻、第11号、p.951-959。
【非特許文献3】バノット(Bhanot P.)ら、「A new member of the frizzled family from Drosophila functions as a Wngless receptor」、ネイチャー(Nature)、1996年、第382巻、p.225-230。
【非特許文献4】ワン(Wang H.Y.)ら、「Structure-function analysis of Frizzleds」、セルラー シグナリング(Cellular Signalling)、2006年、第18巻、p.934-941。
【非特許文献5】キリコシ(Kirikoshi H.)ら、「Expression profiles of 10 members of Frizzled gene family in human gastric cancer」、インターナショナル ジャーナル オブ オンコロジー(International Journal of Oncology)、2001年、第19巻、p.767-771。
【非特許文献6】ヴィンカン(Vincan E.)ら、「Frizzled-7 receptor ectodomain expression in a colon cancer cell line induces morphological change and attenuates tumor growth」、ディファレンシエーション(Differentiation)、2005年、第73巻、p.142-153。
【非特許文献7】ヴィンカン(Vincan E.)ら、「Frizzled-7 dictates three-dimensional organization of colorectal cancer cell carcinoids」、オンコジーン(Oncogene)、2007年、第26巻、p.2340-2352。
【非特許文献8】ウエノ(Ueno K.)ら、「Frizzled-7 as a potential therapeutic target in colorectal cancer」、ネオプラジア(Neoplasia)、2008年、第10巻、p.697-705。
【非特許文献9】ナガヤマ(Nagayama S.)ら、「Inverse correlation of the up-regulation of FZD10 expression and the activation of beta-catenin in synchronous colorectal tumors」、キャンサー サイエンス(Cancer Science)、2009年、第100巻、第3号、p.405-412。
【非特許文献10】ミロヴァノヴィック(Milovanovic T.)ら、「Expression of Wnt genes and frizzled 1 and 2 receptors in normal breast epithelium and infiltrating breast carcinoma」、インターナショナル ジャーナル オブ オンコロジー(International Journal of Oncology)、2004年、第25巻、p.1337-1342。
【非特許文献11】ジャンセンズ(Janssens N.)ら、「Alteration of frizzled expression in renal cell carcinoma」、テューモア バイオロジー(Tumour Biology)、2004年、第25巻、p.161-171。
【非特許文献12】ベンゴキア(Bengochea A.)ら、「Common dysregulation of Wnt/Frizzled receptor elements in humanhepatocellular carcinoma」、ブリティッシュ ジャーナル オブ キャンサー(British Journal of Cancer)、2008年、第99巻、p.143-150。
【非特許文献13】マール(Merle P.)ら、「Functional consequences of frizzled-7 receptor overexpression in human hepatocellular carcinoma」、ガストロエンテロロジー、2004年、第127巻、p.1110-1122。
【非特許文献14】マール(Merle P.)ら、「Oncogenic role of the frizzled-7/beta-catenin pathway in hepatocellular carcinoma」、ジャーナル オブ ヘパトロジー(Journal of Hepatology)、2005年、第43巻、p.854-862。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、肝癌の有用な治療標的を提供することであり、また、肝癌の治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、肝細胞癌および肝芽腫細胞株などのヒト肝癌細胞株並びにヒト子宮頚癌細胞などの試験したすべての癌細胞株でFz3およびFz9の発現が増強していること、およびヒト正常肝組織ではこれらの発現が認められないことを明らかにした。そして、Fz3の発現を抑制する作用を有するsiRNAを細胞に導入しても肝細胞癌および肝芽腫細胞株の増殖は抑制されなかったのに対し、Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAを細胞に導入することによりこれら細胞株の増殖および細胞運動が抑制されることを見出した。これら知見から本発明者らは、Fz9の発現を抑制し、ひいてはその機能を抑制することにより、肝臓に発生する癌細胞の増殖を抑制することができ、その結果、肝癌を治療し得ると考えて、本発明を達成した。
【0011】
即ち、本発明は以下に関する:
1. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌の治療および/または防止剤、
2. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記1.の治療および/または防止剤、
3. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記1.の治療および/または防止剤、
4. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌の治療および/または防止方法、
5. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記4.の治療および/または防止方法、
6. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記4.の治療および/または防止方法、
7. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌細胞増殖抑制剤、
8. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記7.の肝癌細胞増殖抑制剤、
9. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記7.の肝癌細胞増殖抑制剤、
10. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌細胞増殖抑制方法、
11. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記10.の肝癌細胞増殖抑制方法、
12. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記10.の肝癌細胞増殖抑制方法、
13. 肝癌の治療および/または防止剤、並びに、肝癌細胞増殖抑制剤の製造における、frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物の使用、
14. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記13.の使用、
15. frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、上記13.の使用、
16. 肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物の同定方法であって、下記工程を含む方法:
(1)frizzled-9を発現する細胞とある化合物(被検化合物)とを接触させる工程、
(2)該細胞におけるfrizzled-9の発現を測定する工程、
(3)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の発現と、接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の発現とを比較する工程、および
(4)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の発現が、被検化合物と接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の発現よりも低下したときに、該被検化合物は肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物であると判定する工程、
17. 肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物の同定方法であって、下記工程を含む方法:
(1)frizzled-9を発現する細胞とある化合物(被検化合物)とを接触させる工程、
(2)該細胞におけるfrizzled-9の機能を測定する工程、
(3)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の機能と、接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の機能とを比較する工程、および
(4)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の機能が、被検化合物と接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の機能よりも低下したときに、該被検化合物は肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物であると判定する工程、
18. 被検組織が肝癌組織由来であるか否かを判定する方法であって、frizzled-9の被検組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法、
19. 下記工程を含む上記18.の判定方法:
(1)被検組織から核酸を調製する工程、
(2)前記(1)で調製した核酸から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、frizzled-9のDNA断片を増幅する工程、および
(3)前記(2)で増幅したDNA断片を定量する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌治療剤および肝癌細胞増殖抑制剤を提供できる。また本発明によれば、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌治療方法および肝癌細胞増殖抑制方法を提供できる。
【0013】
また本発明によれば、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を探索することを特徴とする肝癌治療用化合物および肝癌細胞増殖抑制用化合物の同定方法を提供できる。
【0014】
さらに本発明によれば、被検組織が肝癌組織由来であるか否かを判定する方法であって、Fz9の被検組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法を提供できる。
【0015】
Fz9は試験したすべてのヒト肝癌細胞株で発現増強が観察されたが、ヒト正常肝組織では発現が認められなかった。したがって、Fz9の発現を抑制しても、周囲の正常肝に悪影響を及ぼすとは考えられないため、それを臨床の場で適用するとき副作用はなんら予想されない。
【0016】
このようにFz9の発現および/または機能を抑制することに基づいて達成された本発明は、医薬の開発および臨床の場において有用であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】10種類のfrizzled、Fz1〜Fz10のうちFz3およびFz9が解析した全てのヒト肝癌細胞株に発現していたが、ヒト正常肝組織ではほとんど発現していなかったことを示す図である。frizzledの発現解析は逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(以下、RT-PCRと略称する)により実施した。内部コントロールとして、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を解析した。レーン(Lane)1は蒸留水を、レーン2は胎児肝組織を、レーン3は成人肝組織を、レーン4は子宮頚癌細胞株HeLaを、レーン5は肝細胞癌細胞株HLEを、レーン6は肝癌細胞株HLFを、レーン7は肝癌細胞株PLCを、レーン8は肝癌細胞株Huh-7を、レーン9は肝癌細胞株Hep3Bを、レーン10は肝芽腫細胞株Huh-6を、レーン11は肝芽腫細胞株HepG2を示す。(実施例1)
【図2−A】Fz9に対するsiRNAをトランスフェクションすることにより、肝癌細胞株PLCの細胞数が減少したことを示す図である。細胞数は、メチルテトラゾリウム塩アッセイ(methyl tetrazorium salt assay:以下、MTS assayと称する)により測定した。レーン1は培地のみを、レーン2は陰性コントロールsiRNAを、レーン3はリポフェクトアミン2000を、レーン4はFz9 siRNA 50nMを、レーン5はFz9 siRNA 100nMを、レーン6はFz9 siRNA 200nMを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が認められたことを示す。(実施例2)
【図2−B】Fz9に対するsiRNAをトランスフェクションすることにより、肝芽腫細胞株Huh-6の細胞数が減少したことを示す図である。細胞数は、MTS assayにより測定した。レーン1は培地のみを、レーン2は陰性コントロールsiRNAを、レーン3はリポフェクトアミン2000を、レーン4はFz9 siRNA 50nMを、レーン5はFz9 siRNA 100nMを、レーン6はFz9 siRNA 200nMを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が認められたことを示す。(実施例2)
【図3−A】Fz9に対するsiRNAをトランスフェクションすることにより、肝癌細胞株PLCの細胞運動が抑制されたことを示す図である。解析はウーンド(wound assay)により行った。左側の上下パネルは、シート状の増殖した細胞をヘマトキシリンエオジン染色により解析した結果を示す。左上パネルはsiRNA非導入細胞を、左下パネルはFz9 siRNA導入細胞を示す。実線は細胞に対して線状につけた傷を、破線は実線より150μmはなれた線を示す。右図は、傷の線より150μm移動した細胞数(Cell number)を示す。(実施例3)
【図3−B】Fz9に対するsiRNAをトランスフェクションすることにより、肝芽腫細胞株Huh-6の細胞運動が抑制されたことを示す図である。解析はwound assayにより行った。左側の上下パネルは、シート状の増殖した細胞をヘマトキシリンエオジン染色により解析した結果を示す。左上パネルはsiRNA非導入細胞を、左下パネルはFz9 siRNA導入細胞を示す。実線は細胞に対して線状につけた傷を、破線は実線より150μmはなれた線を示す。右図は、傷の線より150μm移動した細胞数(Cell number)を示す。(実施例3)
【図4−A】Fz9に対するsiRNAをトランスフェクションすることにより、肝癌細胞株PLCでのFz9およびサイクリンD1(Cyclin D1)の発現が低下したことを示す図である。一方、チューブリンα(Tubulin alpha)の発現に変化はなかった。レーン(Lane)1は培地のみを、レーン2は陰性コントロールsiRNAを、レーン3はリポフェクトアミン2000を、レーン4はFz9 siRNAを示す。(実施例4)
【図4−B】Fz9に対するsiRNAをトランスフェクションすることにより、肝芽腫細胞株Huh-6でのFz9およびサイクリンD1(Cyclin D1)の発現が低下したことを示す図である。一方、チューブリンα(Tubulin alpha)の発現に変化はなかった。レーン(Lane)1は培地のみを、レーン2は陰性コントロールsiRNAを、レーン3はリポフェクトアミン2000を、レーン4はFz9 siRNAを示す。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、肝癌細胞増殖抑制剤並びに肝癌の治療および/または防止剤に関する。本発明に係るこれら薬剤は、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を有効成分として含有する。また本発明は、肝癌細胞増殖抑制方法並びに肝癌の治療および/または防止方法に関する。本発明に係るこれら方法は、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする。
【0019】
Fz9として、配列番号2に記載の塩基配列で表されるヒト由来のDNAによりコードされるタンパク質を好ましく例示できる。配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNAは、公共ヌクレオチドデータベースGenBankにアクセッション番号BC026333として開示されている。Fz9は、配列番号2に記載の塩基配列で表されるヒト由来のDNAによりコードされるタンパク質に制限されず、本DNAと配列相同性を有するDNAによりコードされるタンパク質であってFz9と同様の生物学的機能を有するタンパク質である限りにおいていずれのタンパク質も包含される。塩基配列の配列相同性は通常、塩基配列の全体で少なくとも80%であることが適当である。好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが適当である。さらに、Fz9をコードするDNAは、配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列と配列相同性を有するタンパク質をコードするDNAであることが好ましい。アミノ酸配列の配列相同性は通常、アミノ酸配列の全体で80%以上であることが適当である。好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが適当である。配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNAと配列相同性を有するDNAには、該塩基配列において、1個以上、例えば1〜300個、好ましくは1〜90個、より好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜9個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるDNAが含まれる。変異の程度およびそれらの位置は、該変異を有するDNAによりコードされるタンパク質が、配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされるタンパク質と同様の配列相同性および生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされるタンパク質と配列相同性を有するタンパク質には、そのアミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜3個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表されるタンパク質が含まれる。変異を有するDNAは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。また、配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNA、本DNAと配列相同性を有するDNA、および本DNAの塩基配列において変異が存する塩基配列で表されるDNAからなる群より選ばれるいずれか1のDNAを含むDNAも、配列番号2に記載の塩基配列で表されるDNAと相同性を有するDNAの範囲に包含される。
【0020】
Fz9の生物学的機能として、Wntリガンドの受容体としての機能、すなわち、Wntリガンドと結合する機能、Wntリガンドの結合による刺激を細胞内に伝達する機能、および、その結果Wntリガンドの作用により生理機能を発現させる機能を例示できる。
【0021】
ヒトFz9は、脳、精巣、眼、骨格筋、および腎臓に発現している(ワン(Wang Y.K.)ら、「A novel human homologue of the Drosophila frizzled wnt receptor gene binds wingless protein and is in the Williams syndrome deletion at 7q11.23」、ヒューマン モレキュラー ジェネティクス(Human Molecular Genetics)、1997年、第6巻、p.465-472)。 また、Fz9の欠損はウイリアムス症候群における筋骨格の異常および神経系の問題を惹き起こすことが報告されている(ワン(Wang Y.K.)ら、「Characterization and expression pattern of the frizzled gene Fzd9, the mouse homolog of FZD9 which is deleted in Williams-Beuren syndrome」、ゲノミクス(Genomics)、1999年、第57巻、p.235-248)。さらに、ヒト星細胞腫(astocytoma)および神経膠芽腫(glioblastoma)におけるFz9の発現が、正常脳における発現より著しく高いことが報告されている(ザング(Zhang Z.)ら、「Upregulation of frizzled 9 in astrocytomas」、ニューロパソロジー アンド アプライド ニューロバイオロジー(Neuropathology and applied neurobiology)、2006年、第32巻、p.615-624;ラワル(Rawal N.)ら、「Dynamic temporal and cell type-specific expression of Wnt signaling components in the developing midbrain」、エクスペリメンタル セル リサーチ(Experimental Cell Research、2006年、第312号、p.1626-1636)。Fz9の発現レベルは腫瘍細胞の分化が低いほど増加する。このように、Fz9の発現増加は星細胞腫および神経膠芽腫の発癌に関連すること、およびFz9の発現が大腸癌において正常組織と比較して著しく高いことが報告されている(非特許文献9)が、肝癌におけるFz9の発現は報告されていない。
【0022】
「Fz9の発現」とは、Fz9をコードするDNAの遺伝子情報がFz9 mRNAに転写されること、または、mRNAに転写され、且つFz9のアミノ酸配列として翻訳されることを意味する。
【0023】
「Fz9の発現を抑制する」とは、Fz9をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写される過程、または、mRNAに転写され、且つFz9のアミノ酸配列として翻訳される過程で生じる様々な反応の少なくとも1つを妨げることにより、Fz9をコードする遺伝子の転写・翻訳によるFz9の生成を低減させることを意味する。
【0024】
Fz9の発現の抑制は、Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくはFz9の発現を特異的に抑制する作用を有する化合物、より好ましくはFz9の発現を特異的に抑制する作用を有する低分子量化合物を挙げることができる。Fz9の発現を特異的に抑制するとは、Fz9の発現を強く抑制するが、他のタンパク質の発現は抑制しないか、弱く抑制することを意味する。低分子量化合物とは、ペプチド、ペプチド様物質、ポリペプチド、核酸、有機化合物、および無機化合物が含まれ、その分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは1000以下、さらにより好ましくは500以下の化合物を意味する。Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物は、後述する化合物の同定方法を用いて取得できる。ここで、あるタンパク質の発現および/または機能に対して抑制効果を奏する化合物あるいは該化合物を含む組成物を「抑制剤」と称する。
【0025】
Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物として、例えば、Fz9の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させる作用を有するsiRNA(small interfering RNA)を例示できる(エルバシ(Elbashir S.M.)ら、「Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells」、ネイチャー(Nature)、2001年、第411巻、p.494-498)。siRNAは標的遺伝子のmRNAを分解してその発現を抑制する短鎖二重鎖RNAである。
【0026】
Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAは、Fz9遺伝子の部分配列からなるRNA(センス鎖)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンス鎖)とを、該遺伝子のmRNAの配列に基づいて設計し、自体公知の化学合成法により合成し、得られた両RNAをアニーリングさせることにより製造できる。siRNAを構成するセンスRNAおよびアンチセンスRNAは、それぞれ20個から30個程度のヌクレオチドからなることが好ましい。また、それぞれ、その3'末端に、オーバーハング配列と呼ばれる1個ないし数個の塩基配列からなるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列は、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。オーバーハング配列は、該RNAのRNA干渉効果を抑制しない限りにおいて特に制限されず、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは2個のヌクレオチドからなるものをいずれも用いることができる。具体的には、デオキシチミジル酸からなる配列(例えばTT)、ウリジル酸からなる配列(例えばUU)、デオキシチミジル酸に続いて任意のヌクレオチドが結合した配列(例えばTN)といった配列を例示できる。合成を安価に行えることおよびヌクレアーゼ耐性がより強いことから、より好ましくは、2つのデオキシチミジル酸からなる配列をオーバーハング配列として用いる。オーバーハング配列は、センスRNAおよびアンチセンスRNAのそれぞれの3'末端のリボース3'水酸基部位にジエステル結合により結合させる。
【0027】
Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAとして、該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなるsiRNAがあげられる。より好ましくは、Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAとして、配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAを例示できる。Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAは上記例示したものに制限されず、Fz9の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るものであればいずれも用いることができる。
【0028】
Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAとしてまた、shRNAを例示できる。shRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する(パディソン(Paddison P.J.)ら、「Short hairpin RNAs (shRNAs) induce sequence-specific silencing in mammalian cells」、ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)、2002年、第16巻、p.948-958)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとが例えばオリゴヌクレオチドなどにより連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を呈する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結し且つループ構造を形成するようなオリゴヌクレオチドを含むRNAを、Fz9をコードする遺伝子のmRNAの塩基配列に基づいて設計して、自体公知の方法により製造することができる。好ましくは、センスRNAの3'末端とループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの5'末端とが結合し、さらにループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの3'末端とアンチセンスRNAの5'末端とが結合したオリゴヌクレオチドであることが望ましい。ループ構造を形成するオリゴヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。このようなオリゴヌクレオチドの設計は、既報(パディソン(Paddison P.J.)ら、「Short hairpin RNAs (shRNAs) induce sequence-specific silencing in mammalian cells」、ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)、2002年、第16巻、p.948-958)の記載を参考にして実施できる。好ましくは4個ないし23個、より好ましくは4個ないし8個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドが望ましい。例えば、TTCAAGAGA(Ambion社製またはOligoengine社製)、AACGTT、TTAA、CAAGCTTCなどの配列を挙げることができる。ヘアピン構造を有する二重鎖の形成は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とを慣用の方法でアニーリングすることにより実施できる。
【0029】
Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物としてまた、Fz9をコードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを例示できる。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、ある特定の遺伝子の発現を抑制するオリゴヌクレオチドを意味し、標的とする遺伝子配列(センス鎖)に相補的な塩基配列からなる。センス鎖とは、DNAの相補的2本鎖のうち、タンパク質をコードしている鎖を意味する。ここで、ポリヌクレオチドはDNAおよびRNAのいずれであってもよい。ある特定の遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチドは、該遺伝子の塩基配列に基づいて、該遺伝子のセンス鎖とハイブリダイゼーションするような配列を設計し、自体公知の化学合成法により製造できる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いてポリヌクレオチドを製造できる。具体的には、該遺伝子のアンチセンス鎖の部分配列からなるポリヌクレオチドを製造し、これらポリヌクレオチドから、該遺伝子のセンス鎖とハイブリダイゼーションするようなポリヌクレオチドを選択することによりアンチセンスポリヌクレオチドを取得できる。ある特定の遺伝子の発現を抑制するためには、該遺伝子に選択的にハイブリダイゼーションするアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることが好ましい。ある遺伝子に選択的にハイブリダイゼーションするアンチセンスオリゴヌクレオチドの選択は、他の遺伝子との相同性を例えば配列のブラストサーチで評価することにより実施できる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは10個ないし100個、より好ましくは10個ないし50個、さらに好ましくは10個ないし30個、さらにより好ましくは10個ないし20個程度のヌクレオチドからなる。
【0030】
Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドの選択は、適当な細胞にFz9をコードする遺伝子とsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれか1つとをコトランスフェクション(共遺伝子導入)し、Fz9の発現をウェスタンブロッティングなどの自体公知のタンパク質検出法により検出し、Fz9の発現が抑制されるか否かを確認することにより実施できる。
【0031】
内在性のFz9の発現の抑制は、Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物、たとえば、アンチセンスポリヌクレオチド、siRNAおよびshRNAなどを用いて対象を処置することにより達成できる。対象を処置することは、例えば、対象がインビボ(in vivo)の細胞や組織または生体である場合は、対象にFz9の発現を抑制する作用を有する化合物を投与することにより実施できる。また、対象がインビトロ(in vitro)の細胞や組織である場合は、対象にFz9の発現を抑制する作用を有する化合物を導入することにより実施できる。化合物が核酸である場合、化合物の投与や導入は、公知の遺伝子治療方法や遺伝子工学的手法に準じて行うことができる。
【0032】
siRNAを高効率で長期に細胞中で発現させるには、siRNAを含む発現ベクターを用いて細胞内に導入する方法が推奨される。Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターは、Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物として好ましく使用できる。標的遺伝子の発現を抑制する作用を有するsiRNAを発現ベクターに担持させて対象を処置する方法はよく知られている。一般的には、U6プロモータを使用したヘアピン型RNA発現ベクターがよく用いられている。ヘアピン型RNA発現ベクターの製造は、発現ベクターのプロモータの下流に、ライゲーション用制限酵素サイト、標的センス鎖、ループ配列、標的アンチセンス鎖、ターミネータ配列、およびライゲーション用制限酵素サイトをこの順序で含む合成DNAを挿入することにより実施できる。プロモータから転写された短鎖RNAはアニーリング反応によりヘアピン型RNAの構造をとる。このヘアピン型RNAはダイサー(dicer)により認識されて切断されsiRNAとなる。これら発現ベクターは、トランスフェクションや組換えウイルス感染法で細胞に導入可能である。発現ベクターは、プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどの公知ベクターから任意に選択して用いることができる。プロモータは、siRNAを発現させ得るプロモータであれば特に制限されず、U6プロモータ、H1プロモータ、tRNAプロモータなどを例示できる。プロモータの適正は使用する細胞によって異なるが、簡単な繰り返し実験により適当なものを選択できる。
【0033】
Fz9の発現を抑制する作用を有するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターは、具体的には、発現ベクターのプロモータの下流に、少なくとも、ライゲーション用制限酵素サイト、配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに転写されるDNA塩基配列、ループ配列、配列番号1に記載の塩基配列の相補的塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに転写されるDNA塩基配列、ターミネータ配列、およびライゲーション用制限酵素サイトをこの順序で含む合成DNAが挿入された発現ベクターである。
【0034】
「Fz9の機能」とは、Fz9が備えている働きを意味する。Fz9の生物学的機能として、Wntリガンドの受容体としての機能、すなわち、Wntリガンドと結合する機能、Wntリガンドの結合による刺激を細胞内に伝達する機能、および、その結果Wntリガンドの作用により生理機能を発現させる機能を例示できる。
【0035】
「Fz9の機能を抑制する」とは、Fz9が備えている働きを低減させるまたは消失させることを意味する。具体的には、Fz9の機能を抑制するとは、例えば、Fz9とWntリガンドとの結合機能および/またはFz9の細胞内刺激伝達機能を抑制することを意味する。
【0036】
Fz9の機能の抑制は、Fz9の機能を抑制する作用を有する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくはFz9の機能を特異的に抑制する化合物、より好ましくはFz9の機能を特異的に抑制する作用を有する低分子量化合物を挙げることができる。Fz9の機能を特異的に抑制するとは、当該機能を強く抑制するが、他のタンパク質の機能は抑制しないか、弱く抑制することを意味する。Fz9の機能を抑制する作用を有する化合物は、後述する化合物の同定方法を用いて取得できる。
【0037】
Fz9の機能を抑制する作用を有する化合物として、Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物を例示できる。Fz9の発現が抑制されれば、Fz9の機能は低減する。
【0038】
Fz9の機能を抑制する作用を有する化合物としてまた、Fz9とWntリガンドとの結合を阻害する作用を有する化合物を例示できる。具体的には、Fz9とWntリガンドとが結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、Fz9とWntリガンドとの結合を競合的に阻害することができる。このようなポリペプチドは、Fz9またはWntリガンドのアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、Fz9とWntリガンドとの結合を阻害するものを選択することにより取得できる。このように特定されたポリペプチドに、1〜3個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入などの変異を導入したものであって、Fz9とWntリガンドとの結合を阻害するポリペプチドも本発明の範囲に包含される。
【0039】
Fz9とWntリガンドとの結合を阻害する作用を有する化合物としてまた、Fz9またはWntリガンドを認識する抗体であってFz9とWntリガンドとの結合を阻害する抗体および該抗体のフラグメントを例示できる。このような抗体は、Fz9またはWntリガンド自体、またはこれらの断片を抗原として自体公知の抗体作製法により取得できる。
【0040】
Fz9とWntリガンドとの結合を阻害する作用を有する化合物としてさらにまた、Fz9またはWntリガンドを特異的に認識するアプタマーであって、Fz9とWntリガンドの結合を抑制するアプタマーを例示できる。アプタマーは、核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーのいずれであってもよい。かかるアプタマーは、公知の方法を用いて取得できる(例えば、ハーマン(Hermann T.)ら、「Adaptive recognition by nucleic acid aptamers」、サイエンス(Science)、2000年、第287巻、第5454号、p.820-825;バーグスタラー(Burgstaller P.)ら、「Aptamers and aptazymes: accelerating small molecule drug discovery」、カレント オピニオン イン ドラッグ ディスカバリー アンド ディベロプメント(Current Opinion in Drug Discovery and Development)、2002年、第5巻、第5号、p.690-700;およびホップ−セイラー(Hoppe-Seyler F.)ら、「Peptide aptamers: specific inhibitors of protein function」、カレント モレキュラー メディシン(Current Molecular Medicine)2004年、第4巻、第5号、p.529-538)。
【0041】
Fz9の発現および/または機能を抑制することにより、肝癌の細胞増殖を抑制することができ、ひいては、肝癌の治療および/防止を実施できる。
【0042】
肝癌とは肝臓を原発巣とする癌を意味する。具体的には、肝細胞癌および肝芽腫を例示できる。肝癌には、これら例示に限らず、肝臓を原発巣とする癌であればいずれも含まれる。
【0043】
「細胞増殖」とは、分裂により細胞の数が増すことを意味する。Fz9の発現および/または機能を抑制することにより増殖が抑制される細胞として、Fz9の発現が亢進している細胞を挙げることができる。このような細胞として具体的には、肝臓を原発巣とする癌細胞を例示できる。具体的には、肝細胞癌細胞、および肝芽腫細胞を例示できる。
【0044】
本発明に係る薬剤は、医薬組成物として調製することができる。この場合、通常、有効成分に加えて1種または2種以上の医薬用担体を含む医薬組成物として製造することが好ましい。
【0045】
本発明に係る薬剤および医薬組成物は、Fz9の発現増加を示し、且つ、異常な細胞増殖を伴う疾患に適用できる。異常な細胞増殖を伴う疾患として、例えば良性腫瘍や悪性腫瘍などの腫瘍疾患を例示できる。悪性腫瘍として、例えば肝細胞癌や肝芽腫などの肝癌を挙げることができる。
【0046】
本発明に係る薬剤および医薬組成物中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常、約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0047】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて一般的に使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。
【0048】
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合わせて使用される。
【0049】
所望により、通常のタンパク質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤などを適宜使用することもできる。
【0050】
安定化剤は、ヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。これらは単独でまたは界面活性剤などと組合わせて使用できる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸などのいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類などおよびそれらの誘導体などのいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのいずれでもよい。
【0051】
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などが包含される。
【0052】
緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。
【0053】
等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。
【0054】
キレート剤は、エデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0055】
本発明に係る薬剤および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
【0056】
薬剤および医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断などに応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0057】
本発明に係る薬剤および医薬組成物を投与するときは、該薬剤および医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは目的の疾患の防止および/または治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。例えば、他の抗腫瘍用医薬の有効成分などを配合してもよい。
【0058】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。あるいは経口経路で投与することもできる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。腫瘍疾患に用いる場合は、腫瘍に注射などにより直接投与することも可能である。
【0059】
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものには、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリンなどの包接体、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
【0060】
Fz9の発現を抑制する作用を有する化合物が核酸や発現ベクターである場合、これらのうち少なくとも1を有効成分として含む遺伝子治療剤を調製することができる。遺伝子治療剤は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態などに調製することもできる。遺伝子治療剤は、また、プロタミンなどの遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。遺伝子治療剤は、1日に1回または数回に分けて投与することができ、1日から数週間の間隔で間歇的に投与することもできる。所望の遺伝子を含有するウイルスベクターの投与量は、一般的には例えばレトロウイルスベクターであれば1日あたり体重1kgあたりレトロウイルスの力価として約1×103pfuから1×1015pfu程度とするのがよい。遺伝子治療剤を用いる治療法は、上記遺伝子を直接体内に導入するインビボ法と、患者の体内より標的とする細胞を一旦取り出して体外で遺伝子を導入して、その後、該細胞を体内に戻すエクスビボ法の両方の方法を包含する。インビボ法がより好ましい。遺伝子の体内または細胞内への導入法として、非ウイルス性のトランスフェクション法、あるいはウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法をいずれも適用できる。非ウイルス性のトランスフェクション法は、ウイルスベクターを利用した方法と比較して、安全性および簡便性の点で優れており且つ安価であるためより好ましい。非ウイルス性のトランスフェクション法として、次のような方法が例示できる:リン酸カルシウム共沈法;プラスミドDNAを直接インビボで標的組織に注入するネイキッドDNA法;多重膜正電荷リポソームに封入した遺伝子を細胞に導入するカチオニックリポソーム法;プラスミドDNAを金でコートして高圧放電によって物理的に細胞内にDNAを導入する所謂遺伝子銃と呼ばれる方法;DNAを封入したリポソームと不活化センダイウイルスを融合させて作成した膜融合リポソームを用いる膜融合リポソーム法;標的組織または標的細胞に発現する受容体に結合するリガンドとDNAとの結合体を用いるリガンド−DNA複合体法;およびDNAを封入したリポソームの表面に標的組織または標的細胞表面に結合する抗体を結合させたイムノリポソームを用いるイムノリポソーム法。その他、ポリマーやペプチドなどを用いるトランスフェクション法が知られている。非ウイルス性のトランスフェクション法は上記例示に限定されず、ウイルスベクターを用いずに標的組織または標的細胞に遺伝子をトランスフェクションできる限りにおいていずれの方法も使用できる。ウイルスベクターを使用するトランスフェクション法において、トランスフェクションに使用するベクターとして、好ましくはレトロウイルスベクターを例示できる。レトロウイルスベクター以外のRNAウイルスベクターやDNAウイルスベクター、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどを使用することもできる。これらウイルスベクターを用いることにより効率良い投与を実施できる。さらに、ウイルスベクターを用いるトランスフェクション法においても、該ベクターをリポソームに封入して、そのリポソームを投与する方法が推奨される。リポソームを用いることにより目的物質を標的細胞または標的組織に効率的に送達できるため、ウイルスベクターとリポソームとの複合治療は高い効果を奏すると考える。また、リポソームを用いた治療においてリポソームが比較的安定で主要な免疫応答を生じることがないことが知られていることからも、このような複合治療の有用性が示唆される。リポソームとして、カチオン性脂質から製造されるリポソームを好ましく例示できる。
【0061】
本発明は、肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物の同定方法を提供する。本発明においては、Fz9の発現および/または機能を抑制することにより、肝癌細胞の増殖抑制を抑制でき、ひいては肝癌の治療および/または防止を達成できることを見出した。したがって、肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物の同定は、Fz9の発現および/または機能を抑制する作用を指標にして実施できる。
【0062】
本発明に係る化合物の同定方法は、タンパク質の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物のスクリーニングにおいて一般的に用いられている同定方法を参考にして実施できる。例えば、Fz9を発現する細胞にある化合物(被検化合物)を作用させ、Fz9の発現および/または機能に対する化合物の作用を測定し、Fz9の発現および/または機能を低下させる化合物を選択することにより実施できる。
【0063】
具体的には、下記工程を含む化合物の同定方法を例示できる:
(1)frizzled-9を発現する細胞とある化合物(被検化合物)とを接触させる工程、
(2)該細胞におけるfrizzled-9の発現を測定する工程、
(3)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の発現と、接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の発現とを比較する工程、および
(4)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の発現が、被検化合物と接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の発現よりも低下したときに、該被検化合物は肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物であると判定する工程。
【0064】
また、下記工程を含む化合物の同定方法を例示できる:
(1)frizzled-9を発現する細胞とある化合物(被検化合物)とを接触させる工程、
(2)該細胞におけるfrizzled-9の機能を測定する工程、
(3)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の機能と、接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の機能とを比較する工程、および
(4)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の機能が、被検化合物と接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の機能よりも低下したときに、該被検化合物は肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物であると判定する工程。
【0065】
Fz9を発現する細胞として、癌細胞株、例えば、肝細胞癌細胞株や肝芽腫細胞株などの肝癌細胞株や子宮頚癌細胞株などを挙げることができる。具体的には、肝細胞癌細胞株HLE、HLF、PLC、Huh-7、およびHep3B、並びに肝芽腫細胞株Huh-6およびHepG2、並びに子宮頚癌細胞株HeLaを例示できる。
【0066】
Fz9の発現の抑制を指標にして化合物を選択する場合は、Fz9を発現する細胞として、Fz9をコードする遺伝子を含む発現ベクターをトランスフェクションした細胞を使用できる。細胞におけるFz9の発現は、Fz9をコードするDNAを含む適当なベクターを用いて慣用の遺伝子工学的手法で該ベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。細胞は、真核細胞が好ましく用いられる。真核細胞は、真核生物から調製した細胞、初代培養細胞、および培養細胞株のいずれでもあり得る。好ましくは哺乳動物由来の培養細胞株、より好ましくはヒト由来の培養細胞株を用いる。
【0067】
Fz9の発現の測定は、自体公知のタンパク質の検出方法、例えばウェスタンブロッティングなどの方法により、Fz9を直接的に検出することにより実施できる。また、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより、Fz9の測定を容易に実施できる。発現の指標となるシグナルとして、例えば、標識物質を例示できる。標識物質でFz9を標識し、該標識物質を測定することにより、Fz9の発現の測定を容易に実施できる。標識物質として、FLAG-tag、Myc-tagおよびHA-tagなどのタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(以下、HRPと略称する)やアルカリホスファターゼ(以下、ALPと略称する)などの酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチンなどで標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、HRPやALPなどの酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチンなどで標識した二次抗体を用いてもよい。
【0068】
Fz9の発現の抑制を指標にして化合物を選択する場合はまた、Fz9をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、該遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞などを用いた細胞を使用することもできる。このような細胞において、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物はFz9の発現を抑制すると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼなどの酵素をコードする遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0069】
Fz9の機能の測定は、Wntリガンドと結合する機能の測定、Wntリガンドの結合による刺激を細胞内に伝達する機能の測定、またはWntリガンドの作用により生理機能を発現させる機能の測定により実施できる。簡便には、Wntリガンドと結合する機能の測定、または、WntリガンドのFz9への結合により生じる生理機能、例えば細胞増殖機能の測定によりFz9の機能を測定できる。
【0070】
Wntリガンドと結合する機能の測定は、自体公知のタンパク質間結合の測定により達成できる。自体公知のタンパク質間結合の測定方法として、例えば免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法、ウェスタンブロッティングおよび蛍光共鳴エネルギー転移法などの方法またはこれらの方法を組合わせて、タンパク質間結合により形成される複合体を検出する方法が挙げられる。タンパク質間結合により形成される複合体の検出を容易にするために、結合するタンパク質はいずれも、適当な標識物質により標識されていることが好ましい。標識物質として、FLAG-tag、Myc-tagおよびHA-tagなどのタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRPやALPなどの酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチンなどで標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、HRPやALPなどの酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチンなどで標識した二次抗体を用いてもよい。
【0071】
Wntリガンド結合により細胞内にシグナルを伝達する機能の測定は、簡便には、WntリガンドとFz9の結合による細胞増殖を測定することにより実施できる。細胞増殖の測定は、例えば、生細胞数または細胞のDNA合成の測定により実施できる。生細胞数の測定は、一般的に行われている生細胞数測定方法により実施できる。生細胞数測定方法として、MTS assay、色素を用いた計数方法、セルカウンターによる計数方法、[3H]チミジンなどの放射性同位体を用いる方法などにより実施できる。細胞のDNA合成の測定は、例えばブロモデオキシウリジン(BrdU)のDNAへの取り込みを、抗BrdU抗体を用いて測定することにより実施できる。
【0072】
被検化合物は、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、またはFz9やWntリガンドの一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物などを挙げることができる。あるいは、Fz9とWntリガンドの結合部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物なども被検化合物として好適である。
【0073】
本発明はまた、被検組織におけるFz9の発現および/または機能測定することにより被検組織が腫瘍組織由来であるか否かを検査する方法を提供する。
【0074】
Fz9の発現は、肝細胞癌や肝芽腫細胞株などの肝癌細胞株において強く発現していたが、正常肝組織では発現がほとんど検出されなかった。したがって、被検組織におけるFz9の発現量を測定することにより、被検組織が肝癌組織由来であるか否かを判定することができる。
【0075】
本発明に係る検査方法は、調べようとする試料(被検試料)について、Fz9の発現および/または機能を測定し、該発現および/または該機能を検出することを特徴とする。好ましくは、正常な対照試料におけるFz9の発現および/または機能と比較することが好ましい。Fz9の発現および/または機能が検出されたとき、該試料は肝癌組織または肝癌細胞由来であると判定できる。あるいは、ヒト肝臓組織由来の被検組織におけるFz9の発現強度が、正常な対照組織との比較において、例えば、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは3.0倍以上である場合、該被検組織は肝癌由来であると判定できる。
【0076】
Fz9の発現の測定は、Fz9遺伝子由来のRNAおよび/またはcDNA、あるいはFz9の存在量を決定することにより実施できる。正常な対照試料との比較において、Fz9遺伝子由来のRNAおよび/またはcDNA、あるいはFz9の存在の変化およびその量的変化を検出できる。Fz9遺伝子由来のRNAおよび/またはcDNAの検出および定量は、自体公知の遺伝子検出法により実施できる。具体的には、ノザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)法およびドットブロット法などを例示できる。PCR法が感度の点から好ましい。PCR法は、本遺伝子を特異的に増幅できるプライマーを使用する方法である限り、従来公知の方法のいずれも使用できる。例えばRT-PCR法を挙げることができるが、その他、当該分野で使用される種々のPCR法の変法を適応できる。また、イン サイチュー(in situ) ハイブリダイゼーションやin situ RT-PCRやなどを利用した細胞レベルでの測定により検出できる。
【0077】
このような遺伝子検出法において、Fz9をコードする遺伝子の部分配列からなるオリゴヌクレオチドであってプローブとしての性質を有するものまたはプライマーとしての性質を有するものが有用である。プローブとしての性質を有するオリゴヌクレオチドとは、Fz9をコードする遺伝子のみに特異的にハイブリダイゼーションできる該遺伝子特有の配列からなるものを意味する。プライマーとしての性質を有するものとはFz9をコードする遺伝子のみを特異的に増幅できる該遺伝子特有の配列からなるものを意味する。Fz9をコードする遺伝子またはその断片を増幅するためのプライマーとして、具体的には、配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを好ましく例示できる。プローブまたはプライマーとして、塩基配列長が一般的に5〜50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10〜35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、15〜30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。プローブは、通常は標識したプローブを使用するが、非標識であってもよい。また、直接的または間接的に標識したリガンドとの特異的結合により検出してもよい。プローブおよびリガンドを標識する方法は、種々の方法が知られており、ニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法などを例示できる。適当な標識物質として、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、抗体などを例示できる。
【0078】
Fz9をコードする遺伝子の発現量の測定は、具体的には、以下に例示する方法で実施できる。まず、被検組織からFz9をコードする遺伝子のcDNAを調製し、PCRにより該cDNAを増幅し、次いで、増幅された該cDNAを定量する。被検組織からFz9をコードする遺伝子のcDNAを調製する方法は、公知の遺伝子工学的手法をいずれも使用できる。例えば、被検組織から、全RNAを抽出し、得られた全RNAを使用して逆転写反応によりcDNAを取得できる。PCRにより該cDNAを増幅する方法は、該cDNAに特異的なプライマーを使用して実施できる。Fz9をコードする遺伝子特異的なプライマーとして、配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの組み合わせを例示できる。増幅された該cDNAを定量する方法として、アガロースゲルを使用した電気泳動により増幅された該cDNAを、他のcDNAと分離し、次いでエチジウムブロマイドといった色素によりcDNAを染色することにより検出する方法を例示できる。その他、一般的に使用されているcDNAの検出方法をいずれも利用できる。
【0079】
Fz9の検出および定量は、一般的なタンパク質検出法あるいは定量法により実施できる。例えば、抗体(ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)を使用して、Fz9の検出および定量を実施できる。タンパク質検出法あるいは定量法の好ましい具体例として、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を使用するサンドイッチ法を含む、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、および免疫酵素法(IEMA)などを挙げることができる。その他、競争結合アッセイなどを利用することもできる。具体的には、被検組織から常法により調製した試料について、Fz9に対する特異抗体を使用して免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法でFz9の解析を行うことにより、Fz9の検出および定量を実施できる。また、Fz9の検出および定量に対する特異抗体を使用して免疫組織化学的技術によりパラフィンまたは凍結組織切片中のFz9の検出および定量を検出できる。抗体は、Fz9またはその断片を使用して自体公知の抗体作成法により取得できる。
【0080】
Fz9の機能の測定は、例えば、Wntリガンドを被検試料に作用させて、Fz9に結合するWntリガンドの量を測定することにより実施できる。Fz9に結合するWntリガンド量の測定は、例えば、予め標識物質で標識しておいたWntリガンドを用いて当該標識物質を検出することにより実施できる。標識物質として、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、抗体などを例示できる。
【0081】
被検試料は組織生検または剖検材料などの生体由来の肝臓組織試料を例示できる。所望により被検試料から核酸を抽出して核酸試料を調製して使用することもできる。核酸は、PCRまたはその他の増幅法により酵素的に増幅してもよい。核酸試料は、また、標的配列の検出を容易にする数々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティングなどにより調製してもよい。
【0082】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
ヒト正常肝組織およびヒト肝癌細胞株よりRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを作成し、10種類のfrizzled、Fz1〜10の発現をPCRにて解析した
【0084】
(材料および方法)
理研細胞バンクより購入した子宮頚癌細胞株HeLa、肝細胞癌細胞株HLE、HLF、PLC、Huh-7、およびHep3B、並びに肝芽腫細胞株Huh-6およびHepG2を、10%仔牛血清(Trace Scientific社製)添加DMEM(Sigma社製)に浮遊させ10cm培養皿(Iwaki社製)に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。80%コンフルエントに到達時、Isogen(ニッポンジーン社製)を用いてIsogenの添付文書にて推奨された抽出法に従いRNAを抽出し1×TE緩衝液(Tris-HCl(pH7.5) 10mM, EDTA 1mM)に溶解し、吸光度計(Ultraspec 3000, Pharmacia Biotech社製)を用いて濃度を測定した。これらRNAと、ヒト胎児肝(Premium total RNA human fetal liver, Clontech社製、ヒト成人肝(Premium total RNA human liver, Clontech社製)よりそれぞれ抽出されたRNA1μgより、逆転写酵素(Superscript3 first-strand synthesis system for PCR, Invitrogen社製)を用いてcDNAを作成した。50pgのcDNAを用いて、以下の塩基配列を有するプライマーを用いて、denature temperature:94℃、extensioin temperature:72℃、annealing temperatureは以下に示す各プライマーに応じた温度に基づいて、GeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems社製)を用い、DNAポリメラーゼ(AmpliTaq DNA polymerase, Applied Biosystems)を用いて30サイクルのPCR法にて遺伝子を増幅した。増幅された産物を、1×TAEにアガロース(Lonza社製)を2%の濃度で溶解し、1×TAEバッファーにて電気泳動した。内部コントロールとして、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を解析した。
【0085】
各プライマーの塩基配列、アニーリング温度(annealing temperature)、およびPCR産物の予想される大きさ(expected product size)を以下に示す。
Human Fz1 annealing temperature: 58℃, expected product size: 206bp, upper primer: 5'-AAT GAC AAG TTC GCC GAG GAC(配列番号4), lower primer: 5'-GCC AGG TGA AAA TAC TGT GAG TTG G(配列番号5)
Human Fz2 annealing temperature: 58℃, expected product size: 247bp, upper primer: 5'-CAA GGT GCC ATC CTA TCT CAG C(配列番号6), lower primer: 5'-GTA GCA GCC CGA CAG AAA AAT G(配列番号7)
Human Fz3 annealing temperature: 53℃, expected product size: 255bp, upper primer: 5'-AGA GAA GAA CTG CAT TTT GCT CGC(配列番号8), lower primer: 5'-TCC TTG TGT CAC TGT GGA AGC C(配列番号9)
Human Fz4 annealing temperature: 57℃, expected product size: 270bp, upper primer: 5'-CAA GTG ATT CTC CTG CCA CAG C(配列番号10), lower primer: 5-CAA CTC TCT CCA GTG TCC TCC ATC(配列番号11)
Human Fz5 annealing temperature: 55℃, expected product size: 230bp, upper primer: 5'-CCC TCA TCC CCT AAG AGA GAC AAA G(配列番号12), lower primer: 5'-GCT GGC TGT GAA GAA GTT GCT G(配列番号13)
Human Fz6 annealing temperature: 57℃, expected product size: 251bp, upper primer: 5'-AGC AGC ATC CAT CTC CAG ACT CTC(配列番号14), lower primer: 5'-CTG AAT GAC AAC CAC CTC CCT G(配列番号15)
Human Fz7 annealing temperature: 57℃, expected product size: 287bp, upper primer: 5'-AGA CTT AGC CAC AGC AGC AAG G(配列番号16), lower primer: 5'-CGC CGT TAT CAT CAT CTT CCT G(配列番号17)
Human Fz8 annealing temperature: 58℃, expected product size: 137bp, upper primer: 5'-ATC CAA AGC AGA TGC CAT TGT C(配列番号18), lower primer: 5'-AAC ACT GTG AAG GGG TGG GAA C(配列番号19)
Human Fz9 annealing temperature 57℃, expected product size: 146bp, upper: 5'-TAC CTG GTG CTG GGC AGT AGT TTC(配列番号20), lower primer: 5'-ACC GTG TAG AGG ATG GAG AAG ACC(配列番号21)
Human Fz10 annealing temperature: 58℃, expected product size:217 bp, upper: 5'-AAA CGC TGG ACT GCC TGA TG(配列番号22), lower primer: 5'-GCT TTT TTG TAA ATC CCA CCG C(配列番号23)
Human GAPDH annealing temperature: 63℃, expected product size: 246bp, upper primer: 5'-ACC TGA CCT GCC GTC TAG AA(配列番号24), lower primer: 5'-TCC ACC ACC CTG TTG CTG TA(配列番号25)
(結果)
10種類のfrizzled、Fz1〜10の発現を、ヒト正常肝組織およびヒト肝癌細胞株について、RT-PCRにより解析した結果(図1)、Fz3とFz9は、胎児肝臓試料および成人肝臓試料では陰性であるが、解析した細胞株全てで陽性であった。正常肝組織では発現が見られず、解析した肝癌細胞株全てで発現が認められたことから、Fz3とFz9は発癌に関与していることが示唆された。
【実施例2】
【0086】
Fz3およびFz9の発癌への関与を明らかにするために、ヒト癌細胞株を用いてFz3に対するsiRNA(以下、Fz3 siRNAと称する)およびFz9に対するsiRNA(以下、Fz9 siRNAと称する)をトランスフェクションし、細胞増殖への効果を検討した。
【0087】
(材料および方法)
Fz9の細胞増殖への関与を検討するために、Fz9 siRNAをヒト肝細胞癌細胞株PLCまたはヒト肝芽腫細胞株Huh-6にリポフェクトアミン2000(Lipofectamine 2000)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション5日後に、生細胞をMTS assayで測定した。また、Fz3の細胞増殖への関与を検討するために、Fz3 siRNAをヒト癌細胞株PLC/PRF/5、HLE、 Huh-6およびHeLaに同様にトランスフェクションし、生細胞を測定した。さらに、Fz9 siRNAによるFz9の発現抑制を確認するために、ウエスタンブロッティングを実施した。
【0088】
より具体的には、各細胞株を10%仔牛血清(Trace Scientific社)添加DMEM(Sigma社製)に浮遊させ10cm 培養皿(Iwaki社製)に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。トランスフェクション前日、0.25% Trypsin-0.53M EDTA(Invitrogen社製)を用いて細胞を培養皿からはがし、10%仔牛血清(Trace Scientific社製)添加DMEMに浮遊させ、Neubauer血球計算板(ミナトメディカル社製)を用いて細胞数を計測し、96孔プレート(Iwaki社製)に、1孔あたり1000個の細胞を100μlに浮遊して播種した。24時間後、siRNAをトランスフェクションした。即ち、siRNAをOpti-MEM(Invitrogen社製)に各濃度で溶解したもの100μlと、Lipofectamine2000(Invitrogen社製)をOpti-MEMに50倍希釈したもの100μlとを混合し、30分室温で静置し、培地に添加した。5時間後、培地を100μlの10%仔牛血清添加DMEMに交換した。5日後、生細胞数をMTS assayにより測定した。すなわち、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルフォフェニル)-2H-テトラゾリウム インナー ソルト(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium inner salt :以下、MTSと称する)を各孔に10μlずつ添加し、さらに2時間培養した。490nmの波長を用いた吸光度測定を行った(BIO-RAD Model 550, Bio-Rad社製)。また、統計解析は一元配置分散分析法(one factor ANOVA)により行った。
【0089】
用いたsiRNAの塩基配列を以下に示す。
ヒトFz9 siRNA :AUG AUC UUG CGG AUG UGG AAG AGG G(配列番号1)
陰性コントロールとしてのsiRNAは、インビトロージェン社製のステルス性RNAiネガティブコントロールキット メディウムGCを用いた。
【0090】
(結果)
Fz9 siRNAを導入した細胞群では非導入細胞群と比較して有意に細胞数の減少を認めた(それぞれ図2-Aおよび図2-B)。一方、Fz3 siRNAは試験した癌細胞株の細胞増殖を抑制しなかった(データ未記載)。また、Fz9-siRNA導入細胞群におけるFz9発現レベルは非導入細胞群と比較して有意に減少することが、全ての細胞株で観察された(データ未記載)。なお、トランスフェクションの有効性は、このトランスフェクション条件下でフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識オリゴデオキシヌクレオチド(Invitrogen社製)で解析したところ、PLCおよびHeLaで約80%、並びにHuh-6およびHLEで約90%であった。
【0091】
本結果から、Fz9が肝癌細胞の増殖に関与すること、および、Fz9の発現を抑制することにより肝癌細胞の増殖を抑制し得ることが明らかになった。
【実施例3】
【0092】
細胞運動におけるFz9の役割を明らかにするために、Wound assayを行った。
【0093】
(材料および方法)
ヒト肝癌細胞株PLCおよびヒト肝芽腫細胞株Huh-6を、10%仔牛血清(Trace Scientific社製)添加DMEM(Sigma社製)に浮遊させ4孔チャンバースライド(BD Falcon社製)に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。70%コンフルエントに到達した際、siRNAをトランスフェクションした。即ち、siRNAをOpti-MEM(Invitrogen社製)に各濃度で溶解したもの100μlと、Lipofectamine2000(Invitrogen社製)をOpti-MEMに50倍希釈したもの100μlとを混合し、30分室温で静置し、培地に添加した。培養5時間後、培地を10%仔牛血清添加DMEMで交換した。siRNAをトランスフェクションしない群を対照とした。トランスフェクション後3日後、滅菌したカミソリ刃を用いてシート状に増殖した細胞群を傷つけてさらに培養2日後、100%メタノールにて固定し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。光学顕微鏡下、100倍の倍率にて観察し、写真を撮影した。傷の線より150μm移動した細胞数を計測した。異なる5視野で計測し、対照の細胞数に対する比を計算した。
【0094】
(結果)
Fz9-siRNA導入細胞群のうち傷の線より50μm以上遊走する細胞は、非導入細胞群と比較して、PLCではほとんど無く、また、Huh-6では全くなかった(それぞれ図3-Aおよび図3-B)。HLEおよびHeLaを用いた検討でも同様の結果が得られた(データ未記載)。また、いずれのsiRNA導入細胞群でもアポトーシスを示す細胞形態などの細胞形態変化は観察されなかった。
【0095】
本結果から、Fz9-siRNA は細胞運動を著しく抑制することが示唆された。
【実施例4】
【0096】
Fz9-siRNAによる細胞増殖抑制効果のメカニズムを検討するために、細胞周期調節タンパク質であるサイクリンD1(cyclin D1)の発現をウエスタンブロッティングにより検討した。また、アポトーシスに関連するカスパーゼ−3の17kDaおよび19kDa断片の発現を検討した。内部標準として、チューブリン−αの発現を測定した。
【0097】
(材料および方法)
ヒト肝癌細胞株PLCおよびヒト肝芽腫細胞株Huh-6を10%仔牛血清(Trace Scientific社製)添加DMEM(Sigma社製)に浮遊させ10cm培養皿(Iwaki社製)に播種し、37℃、5%炭酸ガス緩衝下にてインキュベーター内で培養した。70%コンフルエントに到達時、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて、siRNAをトランスフェクションした。即ち、siRNAをOpti-MEM(Invitrogen社製)に各濃度で溶解したもの100μlと、Lipofectamine2000 (Invitrogen社製)をOpti-MEMに50倍希釈したもの100μlとを混合し、30分室温で静置し、培地に添加した。5時間後、培地を10%仔牛血清添加DMEM(Sigma社製)で交換した。さらに培養5日後、定法に基づいてタンパク質を抽出した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法にて一サンプルあたり20μg電気泳動し、セミドライ法(日本エイドー社製)にてナイロンフィルター(Millipore社製)に転写した。ナイロンフィルターを5%スキムミルク(森永乳業社製)4℃で30分間インキュベーションした。15分室温で振とうを2回行った。一次抗体を500倍希釈して4℃一晩インキュベーションした。15分室温で振とうを2回行った。二次抗体を500倍希釈して4℃一時間インキュベーションした。15分室温で振とうを2回行った。ECL plus Western Blotting Detection System(Amersham Biosciences社製)を用いて、可視化し、X-MATフィルムに曝射し、現像した。一次抗体は、抗Fz9抗体(Lifespan社製)、抗cyclin D1抗体(Cell Signaling社製)、抗カスパーゼ−3(Cell Signalling Technology社製)、抗チューブリン−α抗体(Lab Vision社製)を用いた。二次抗体は、ホースラディシュ パーオキシダーゼでラベルされた抗ウサギ抗体(Amersham Biosciences社製)を用いた。スキムミルク、一次抗体、二次抗体、15分間室温振とうでは、TBS-T(2M Tris-HCl(pH7.5)を50ml、5M NaClを30ml、Tween-20を0.5ml混合し、蒸留水を添加して1000mlに調整した)を用いた。
【0098】
(結果)
Fz9 siRNAを導入した細胞群では、陰性コントロールsiRNAを導入した細胞群と比較して、Fz9およびサイクリンD1の発現が低下することが、ヒト肝癌細胞株PLCおよびヒト肝芽腫細胞株Huh-6で観察された(それぞれ図4-Aおよび図4-B)。具体的には、Fz9 siRNAを導入した細胞群のF9の発現は、陰性コントロールsiRNAを導入した細胞群における発現に対する比で表すと、PLCで0.21およびHuh-6で0.43であった。また、Fz9 siRNAを導入した細胞群のサイクリンD1の発現は、陰性コントロールsiRNAを導入した細胞群における発現に対する比で表すと、PLCで0.60およびHuh-6で0.78であった。他方、アポトーシスの必須要素であるカスパーゼ−3の17kDaおよび19kDa断片の発現は検出されなかった。非切断型の35kDaカスパーゼ−3の発現レベルは変化なかった。また、Fz9-siRNAをトランスフェクションしたいずれの細胞株でもアポトーシスの特徴であるpyknotic cellは認められなった。同様の結果が、HLEおよびHeLaを用いた検討においても観察された。
【0099】
本結果から、Fz9 siRNAがFz9の発現を抑制することが明らかになり、さらに、Fz9 siRNAによる細胞増殖の抑制は、アポトーシスの惹起によるものではなく、サイクリンD1を介する細胞周期の抑制が関与することが想定された。
【0100】
実施例1から4に示した結果から、Fz9遺伝子は細胞、特に肝細胞の発癌に必須であることが明らかであり、Fz9-siRNAは肝癌の治療に有用であることが判明した。
【配列表フリーテキスト】
【0101】
配列番号1:siRNA用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号2:frizzled-9をコードするDNA。
配列番号4:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号5:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号6:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号7:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号8:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号9:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号10:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号11:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号12:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号13:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号14:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号15:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号16:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号17:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号18:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号19:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号20:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号21:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号22:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号23:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号24:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号25:プライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌の治療および/または防止剤。
【請求項2】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項1に記載の治療および/または防止剤。
【請求項3】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項1に記載の治療および/または防止剤。
【請求項4】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌の治療および/または防止方法。
【請求項5】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項4に記載の治療および/または防止方法。
【請求項6】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項4に記載の治療および/または防止方法。
【請求項7】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物を含有する肝癌細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項7に記載の肝癌細胞増殖抑制剤。
【請求項9】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項7に記載の肝癌細胞増殖抑制剤。
【請求項10】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物で対象を処置することを特徴とする肝癌細胞増殖抑制方法。
【請求項11】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項10に記載の肝癌細胞増殖抑制方法。
【請求項12】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項10に記載の肝癌細胞増殖抑制方法。
【請求項13】
肝癌の治療および/または防止剤、並びに、肝癌細胞増殖抑制剤の製造における、frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物の使用。
【請求項14】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
frizzled-9の発現および/または機能を抑制する作用を有する化合物が、frizzled-9に対するsiRNAを処置対象内で発現可能な発現ベクターであり、ここで該siRNAの二重鎖RNA部分が配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物の同定方法であって、下記工程を含む方法:
(1)frizzled-9を発現する細胞とある化合物(被検化合物)とを接触させる工程、
(2)該細胞におけるfrizzled-9の発現を測定する工程、
(3)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の発現と、接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の発現とを比較する工程、および
(4)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の発現が、被検化合物と接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の発現よりも低下したときに、該被検化合物は肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物であると判定する工程。
【請求項17】
肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物の同定方法であって、下記工程を含む方法:
(1)frizzled-9を発現する細胞とある化合物(被検化合物)とを接触させる工程、
(2)該細胞におけるfrizzled-9の機能を測定する工程、
(3)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の機能と、接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の機能とを比較する工程、および
(4)被検化合物と接触させた細胞におけるfrizzled-9の機能が、被検化合物と接触させなかった細胞におけるfrizzled-9の機能よりも低下したときに、該被検化合物は肝癌の治療および/または防止、並びに、肝癌細胞増殖抑制に用い得る化合物であると判定する工程。
【請求項18】
被検組織が肝癌組織由来であるか否かを判定する方法であって、frizzled-9の被検組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法。
【請求項19】
下記工程を含む請求項18に記載の判定方法:
(1)被検組織から核酸を調製する工程、
(2)前記(1)で調製した核酸から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、frizzled-9のDNA断片を増幅する工程、および
(3)前記(2)で増幅したDNA断片を定量する工程。

【図1】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【公開番号】特開2010−235519(P2010−235519A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85639(P2009−85639)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】