説明

o−二置換芳香族化合物の製造方法

【課題】o−ジハロベンゼンを原料として目的のo−二置換ベンゼン類を効率よく高収率、かつ高選択で製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも下記の工程を連続的に行うo−二置換芳香族化合物の製造方法。
(a)第1のマイクロリアクターでo−ジハロ芳香族化合物の一つのハロゲン基をモノリチオ化する工程、
(b)このモノリチオ化体を、第2のマイクロリアクターで求電子置換して、モノ置換モノハロ芳香族化合物を得る工程、
(c)第3のマイクロリアクターでもう一方のハロゲン基をリチオ化する工程、及び
(d)第4のマイクロリアクターで引き続き求電子置換させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、o−ジハロ芳香族化合物を原料として種々の置換基を導入した、所望のo−二置換芳香族化合物を効率よく高収率、かつ、高選択率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
o−ブロモフェニルリチウムは、特定の混合溶液中でオルトジブロモベンゼンを金属−ハロゲン交換反応により−110℃で反応させて合成できる。しかしこの得られたリチオ化したo−ブロモフェニルリチウムは非常に不安定で−90℃に昇温すると容易に分解しベンザインを生成し、このベンザインが一連の副生物を生成させることが知られている(非特許文献1)。そのため温度を−90℃以下に厳密に管理する必要があり、これ以上の温度で求電子化合物と反応させることは困難であるとされていた。
【0003】
本発明者らはこの点についてはマイクロリアクターを用いて、1,2−ジブロモベンゼンのモノリチオ化体を得、メタノールと反応させモノリチオ体をプロトン化して、−78℃において、ブロモベンゼンを得る方法を提案した(非特許文献2)。しかし、この文献記載の技術はオルト位の関係にある2個のハロゲン基のうち1個についての反応であり隣接位のハロゲン原子はそのままである。また、得られるのは置換ハロゲン原子の1つを水素原子にしたものに相当するものであり、導入されたのはいわゆる一般的な置換基ではない。
また本発明者らはマイクロリアクターを用いてハロゲン化合物とリチウム試薬とを反応させてモノリチオ化体を得、これに求電子化合物を反応させる方法を提案している(特許文献1)。しかし、この文献にはハロゲン化合物のハロゲン基1個の反応を開示しており、2個のハロゲン原子が隣接して芳香環上に存在するo−ジハロ芳香族化合物を対応のo−二置換芳香族化合物とすることについては記載はない。またこの特許文献記載方法では、モノリチオ化の反応温度が−10〜40℃と、従来の温度に比べて極めて高い温度で実施できることが特徴であるが、2個のハロゲン原子が隣接して芳香環上に隣接して存在するo−ジハロ芳香族化合物を対応のo−二置換芳香族化合物とすることについては記載はない。
そのためo−ジハロ芳香族化合物の2個のハロゲン原子を全て求電子置換反応させて、o−二置換芳香族化合物を効率よく、高収率で製造できる方法の開発が強く望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−241065号公報
【非特許文献1】Chen, L. S.; Chen, G. J.; Tamborski, C.J. Organometal. Chem. 1980, 193, 283−292.
【非特許文献2】臼谷弘次、野上敏材、岡本秀穂、吉田潤一、第86日本化学会春年会予稿集,3H2−45(2006). 平成18年3月13日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明はo−ジハロ芳香族化合物を原料として所望のo−二置換芳香族化合物を効率よく高収率、かつ高選択率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、o−二置換芳香族化合物について、o−二置換ベンゼン類を例として、上記の副生物であるベンザインの生成を防止して合成する方法を開発するため種々検討を重ねた結果、マイクロリアクターを用いて、ハロゲン化ベンゼン化合物のリチオ化反応を行い、このリチオ化体を求電子化合物(求電子剤)と反応させることにより、前記の非特許文献の−110℃よりもはるかに高い−78℃で反応が進行させうること、とりわけこの反応生成物中には、前記のベンザインの副生が著しく抑制されるので、ひき続いてモノ置換モノハロベンゼン化合物をマイクロリアクター中で、残ったオルト位のハロゲン原子について0℃程度の条件で、リチオ化でき、これを求電子化合物により、求電子置換反応させることにより、隣接して2個の置換基を導入でき、その結果、o−二置換ベンゼン類が効率良く、高収率、かつ高選択率で得られることを見い出した。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも下記の工程を連続的に行うことを特徴とするo−二置換芳香族化合物の製造方法、
(a)第1のマイクロリアクターでo−ジハロ芳香族化合物の一つのハロゲン基をモノリチオ化する工程(第1工程)、
(b)このモノリチオ化体を、第2のマイクロリアクターで求電子置換して、モノ置換モノハロ芳香族化合物を得る工程(第2工程)、
(c)第3のマイクロリアクターでもう一方のハロゲン基をリチオ化する工程(第3工程)、及び
(d)第4のマイクロリアクターで引き続き求電子置換させる工程(第4工程)。
(2)第1のマイクロリアクター、および第2のマイクロリアクターの流路内の反応温度が−80℃〜−50℃であることを特徴とする、(1)に記載のo−二置換芳香族化合物の製造方法、
(3)求電子置換に際し、求電子化合物として、アルデヒド化合物、ケトン化合物、クロロシラン化合物、クロロスタンナン化合物、ハロゲン化アルキル化合物、スルホン酸エステル化合物、又はボロン酸エステル化合物を用いる(1)に記載のo−二置換芳香族化合物の製造方法、及び
(4)第1のマイクロリアクターの流路断面最小長さが10μm〜500μmであり、かつ第2〜第4のマイクロリアクターの流路断面最小長さが各々独立して10μm〜2000μmである(1)に記載のo−二置換芳香族の製造方法
を提供するものである。
本発明において、上記の(a)〜(d)の工程を連続的に行うことは、各工程の反応をフローで連続的に行うことを意味し、各工程の間に適宜、精製処理等を挿入することを除外するものではない。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、o−ジハロ芳香族化合物のリチオ化反応とその求電子置換反応を従来よりも高い−78℃以上の温度で行うことができ、かつオルト位の2個のハロゲン原子を連続して効率よく置換反応させることができる。しかも、o−ジハロ芳香族化合物から出発して対応のo−二置換芳香族化合物を工程の途中でのベンザイン化合物の副生を防止できベンザイン化合物よりの副生成物の発生を防止して、高収率、高選択率で、目的化合物を得ることができる。本発明は前段のリチオ化と求電子化合物との反応と、後段のリチオ化と求電子化合物との反応を連続して行うことが可能になるばかりでなく、後段の工程を0℃で行うことができ、生産のためのエネルギーコストが節約される。しかも、反応を連続化することにより後処理に要する作業時間をなくして、製造に要する時間を著しく短縮でき、生産性向上の面からもメリットは著しく大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明方法はマイクロリアクターを用いたo−ジハロ芳香族化合物からo−二置換芳香族化合物を製造する方法に関する。
本発明において用いられるo−ジハロ芳香族化合物は下記一般式(I)で表わされる。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Aで表わされる芳香環又は芳香へテロ環を示す。X及びXは、ハロゲン原子を示し、前記環上に隣接して存在し、互いに同じでも異なっていてもよい。)
本発明においては、第1及び第2の工程で、一方のハロゲン原子Xをリチオ化後求電子基に置換し、第3及び第4の工程で隣接するハロゲン原子Xをリチオ化後求電子基と置換して、下記一般式(II)で表わされる、o−二置換芳香族化合物を得る。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、E、Eは、前記の隣接するX、X基と置換した求電子基を示し、互いに同じでも異なっていてもよい。Aは前記と同じ意味を持つ。)
【0013】
次に本発明で用いるマクロリアクターについて説明する。
本発明におけるマイクロリアクター(マイクロフローリアクター)とは、複数の液体を混合する混合部(マイクロミキサー)とそれに続く反応部からなる微小流通式反応器であり、混合部および反応部の流路断面の最小長さが数μmから数千μmのものが代表的である。目的に応じて、流路断面の最小長さおよびそれ以外の長さを適宜選択することができる。
前記マイクロリアクターの流路断面の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、円形、矩形、半円形、三角形等が挙げられる。また、液体を内部で複数の流路に分けて流通させることもできる。
前記マイクロリアクターの反応部の流れ方向の長さや形状については、特に制限はなく、反応の種類や反応時間等に応じて適宜選択することができる。
前記マイクロリアクター全体あるいは一部を恒温槽内に設置する方法、及び流路付近に設置した別の流路の中を熱媒(冷媒)を流通させる方法、流路付近に冷却器あるいは加熱器を設置する方法等によって反応温度を制御することができる。
前記マイクロリアクターを複数連結して用いる方法、及び複数のマイクロリアクターを組み込んだ装置を用いる方法により多段階の反応を行うことができる。
マイクロリアクターは、通常数mm以下、好ましくは500μmより小さな等価直径の微小流路(マイクロチャンネル)を有し、その微小流路内で反応を行う装置として定義され、小型流動反応器、または静的マイクロミキサー(スタティックマイクロミキサー)を使用して定常状態で反応を実施するための反応装置である。ここで、等価直径とは流路断面を円形に換算した場合の直径である。静的マイクロミキサーとは、例えばWO96/30113号に記載されているような、混合のための微細な流路を有しているミキサーに代表される装置であり、また「“マイクロリアクターズ” 第3章、W.Ehrfeld、V.Hessel、H.Lowe著、Wiley−VCH社刊」に記載されている混合機(ミキサー)である。
【0014】
微小流路がマイクロスケールであるマイクロリアクターの世界においては、寸法及び流速の何れも小さくレイノルズ数は200以下であり、層流支配の流れとなる。反応を行う流体同士は流路内を層流状態となって流れながら、分子の自発的挙動だけで拡散しながら反応を行う。マイクロリアクターでは反応はフローで行うため、マイクロリアクター内の滞留時間により反応時間のコントロールがし易く、且つ比表面積(反応に関与する流体の単位体積当たりの表面積)が大きいことから熱収支を効率的に管理でき、反応を行う際の温度制御を精密且つ効率良く行うことができる。そのため、反応、特に高速反応の選択性を格段に向上させることができる。また、拡散理論に従うと熱交換(熱伝達)時間(t)はd/α(d:微小流路幅、α:液の熱拡散率)に比例するので、微小流路幅を小さくすればするほど熱交換効率は向上する。
【0015】
本発明で用いるマイクロリアクターは、既知のものや市販品、目的とする反応のために新規に設計し試作されたものを使用することができる。市販されているマイクロリアクターとしては、例えばインターディジタルチャンネル構造体を備えるマイクロリアクター、インスティチュート・フュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製シングルミキサーおよびキャタピラーミキサー;ミクログラス社製ミクログラスリアクター;CPCシステムス社製サイトス;山武社製YM−1、YM−2型ミキサー;島津GLC社製ミキシングティーおよびティー(T字コネクタ);マイクロ化学技研社製IMTチップリアクター;東レエンジニアリング開発品マイクロ・ハイ・ミキサー等が挙げられ、いずれも本発明で使用することができる。
【0016】
本発明で用いるマイクロリアクターの最小構成単位は、マイクロミキサーとチューブリアクターである。また、マイクロミキサー、チューブリアクターを複数個接続し、多段反応用マイクロリアクターを構築することもできる。合成反応では、マイクロリアクターを組み込んだフロー反応装置を構築する必要があり、その場合の装置構成は、マイクロミキサー、チューブリアクター、マイクロリアクターに原料薬液を供給するための供給ポンプ、恒温槽及び循環サーキュレータ、温度調整のための熱交換器、温度センサー、流量センサー、配管内圧力を測定するための圧力センサー、生成品溶液を貯蔵するための製品タンク、等である。
【0017】
本発明で用いるマイクロミキサーは、液体または溶液状の化合物を互いに混合する小さな流路を有することが好ましく、また2つのサブストリームを混合させる単純なT字型流路のティーを用いても、縮流効果や高流速での流れの乱れを利用することで十分な混合・反応性能が得られる。マイクロミキサーの内部では混合により反応が開始され、同時に反応による発熱が発生する。流路断面積が大きい従来サイズのケニック型スタティックミキサーは、流路サイズが広いために混合反応において十分な混合性能が得られず、また反応時に発生する発熱量の徐熱能力も不十分であり、本発明で用いるマイクロミキサーとは区別される。2つのサブストリームを混合させて反応を行う場合、通常、サブストリームの断面積は用いるミキサーの流路の断面積で決定される。本発明のマイクロミキサーの流路は通常は100μm〜16mm、好ましくは1000μm〜4.0mm、より好ましくは10000μm〜2.1mm、特に好ましくは190000μm〜1mmの断面積を有する。また、流路の断面形状は特に限定されるものではなく、円形でも、矩形、半円、三角でも構わない。
【0018】
マイクロミキサーの後部に接続されるチューブは、原料の拡散混合および混合反応、反応熱除去の機能を有する。チューブ内径はより小さい方が拡散距離が短くなるため反応速度は大きくなり、反応時間を短縮するには有利である。また、チューブ内径はより小さい方が熱交換能力が大きくなり、大きな発熱を伴う反応にも有効である。しかし、チューブ内径が小さい程液体を流す際の圧力損失が増加するため、使用するポンプを特別な高耐圧仕様のものにしなければならず、また送液流量が制限されるのでマイクロミキサーの構造をも制限することになり、不都合を生じる。本発明におけるチューブの内径は、通常100μm〜4mm、好ましくは250μm〜3mm、より好ましくは300μm〜2mm、特に好ましくは500μm〜1mmの等価直径を有する。
前記マイクロリアクターの材質としては、特に制限はなく、耐熱性、耐圧性、耐溶剤性、及び加工容易性等の要求に応じて、適宜選択することができる。例えば、ステンレス鋼、チタン、銅、ニッケル、アルミニウムなどの金属、ガラス、フォチュランガラス、各種セラミックス、ピーク樹脂、プラスチック、シリコン、及びPFA、TFAAなどのテフロン樹脂等を好適に使用できる。
【0019】
前記マイクロリアクターの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、マイクロリアクターは微細加工技術によって製作されるが、マイクロリアクターに適した微細加工技術としては次のようなものがある。
(a)X線リソグラフィと電気メッキを組み合わせたLIGA技術
(b)EPON SU8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法
(c)機械的マイクロ切削加工(ドリル径がマイクロオーダのドリルを高速回転させるマイクロドリル加工等)
(d)Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法
(e)Hot Emboss加工法
(f)光造形法
(g)レーザー加工法
(h)イオンビーム法
本発明で用いるマイクロリアクターは上記のどの微細加工技術を用いていても良く、特に制限されない。
【0020】
前記マイクロリアクターに送液される液体の流量(送液速度)は、反応の種類、流路の大きさや形状、長さ、温度等によって適宜選択される。例えば、ミキシングティー(内径Φ0.8mm)と内径Φ0.8mmのチューブを用いる場合、通常は0.1μl/分〜1000ml/分であり、好ましくは0.1ml/分〜100ml/分、より好ましくはlml/分〜50ml/分、特に好ましくは5ml/分〜30ml/分の範囲である。また、複数個ある原料の、マイクロリアクターに供給される流速は各々が同じ流量であっても異なる流量であっても良い。送液用のポンプは工業的に使用される送液ポンプの何れでも使用可能だが、できるだけ送液時に脈動を生じない機種が望ましい。好ましくは、プランジャーポンプ、ギアーポンプ、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ等である。
【0021】
マイクロリアクター内では、液体または溶液状の化合物が流動液体および溶液の運動エネルギーによって混合され反応するが、必要に応じてマイクロリアクター外部から振動エネルギーなどの混合促進のためのエネルギーを加えても良い。混合は、流速・流速と反応器の形状(接液部分の三次元形状や流路の屈曲などの形状、壁面の粗さ、等)によって、静的混合(層流)から動的混合(乱流)へと変化させることができ、乱流または層流の何れで混合しても良い。
【0022】
本発明の反応は、次式で表される。
【0023】
【化3】

【0024】
(上記式においてAとX、X2、及びEは前記と同じ意味を持つ。また環上のLiはリチオ化によりX又はXに対してリチウム置換したものである。)
【0025】
本発明の工程1において、第1のマイクロリアクターでのXをリチオ化反応させてリチオ化体を生成させる温度は好ましくは−85℃〜−35℃、より好ましくは−80℃〜−50℃である。この温度が低すぎると一つのハロゲン基のモノリチオ化を進行させうるための反応時間が長くなり、この温度が高すぎるとハロゲン基のモノリチオ化の反応後のベンザインへの分解を抑えることが困難である。また、工程3の第3のマイクロリアクターにおけるXをリチオ化反応させてリチオ化体を生成させる温度は、好ましくは−78℃〜26℃、より好ましくは−24℃〜0℃である。この反応温度が低すぎるとハロゲン基のリチオ化反応を進行させうるための反応時間を長くする必要があり、この温度が高すぎるとハロゲン基のリチオ化体の分解を抑えることが困難である。
【0026】
本発明の各工程における反応時間は、原料液体がマイクロミキサーで混合開始し、マイクロミキサー後部に接続されたチューブを通って出口から外へ出るまでの滞留時間で表わされる。また、本発明の反応時間は、第1の工程のマイクロミキサーで原料液体が混合を開始し、工程2、3を経たのち、工程4のマイクロミキサーで求電子化合物と混合が開始され、マイクロミキサー後部に接続されたチューブを通って出口から外へ出るまでの滞留時間の総和で表わされる。本発明では、供給する原料の流量を変えて反応時間を調節することもできるが、マイクロミキサーは混合に適した流量範囲が予め設定されていることが多いので、マイクロリアクターに供給する原料溶液液の流量に応じて、適切な滞留時間が得られるようにチューブの長さと等価直径を変える方法で反応時間を設定した方が好ましい。マイクロリアクター内での滞留時間は、ハロゲン化合物や有機リチウム試薬の反応性、試薬濃度、反応温度、リチウム化合物の安定性等のパラメーターによって異なる。
【0027】
ハロゲン−リチウム交換反応は極めて速い反応であり、且つ生成するリチウム中間体は熱安定性が低いことから、第1及び第3のマイクロリアクターの流路内におけるリチオ化の反応時間は、好ましくは0.10秒以上、より好ましくは0.40秒以上で十分である。あまり短いと当然反応は十分進まず、長くてもリチオ化体の分解を抑えることが困難であるため、通常1.65秒内とする。
工程1又は3における有機リチウム試薬の使用量は、用いるo−ジハロ芳香族化合物の種類によって異なるが、基質(o−ジハロ芳香族化合物又はモノ置換モノハロ芳香族化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜2.0モル、より好ましくは0.5〜1.3モル、更に好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0028】
本発明の工程2において第2のマイクロリアクターにおける、リチオ化体の求電子置換反応の反応温度は、好ましくは−85℃〜−35℃、より好ましくは−80℃〜−50℃である。この温度が低すぎるとリチオ化体と求電子剤との反応を行うための反応時間が長く必要であり、高すぎるとリチオ化体のベンザインへの分解が起こる前に求電子剤との反応を行うことが困難である。また、工程4におけるリチオ化体の求電子置換の反応温度は、好ましくは−78℃〜26℃、より好ましくは−24℃〜0℃である。この反応温度が低すぎるとリチオ化体と求電子化合物との反応を行うための反応時間が長く必要であり、高すぎるとリチオ化体の分解が起こる前に求電子化合物との反応を行うことが困難である。
【0029】
工程2、4のマイクロリアクターにおける求電子置換反応の反応時間は、好ましくは0.06秒以上、より好ましくは1.15秒以上で十分である。あまり短いと当然反応が十分進まず、長くしても生成物からの副反応を抑えることが困難であるため、通常9.25秒以内とする。
これら求電子化合物の使用量は、リチオ化芳香族化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜2.0モル、より好ましくは0.5〜1.3モル、更に好ましくは0.9〜1.1モルである。
本発明においては、マイクロリアクターの流路内で反応を行うと、マイクロ流路がマイクロ反応場として働き、高速かつ効率的な拡散と混合が起こる。したがって、本発明によれば目的のo−二置換芳香族化合物を高収率、高選択的に製造できる。このマイクロリアクターの流路断面最小長さは、第1のマイクロリアクターでは、好ましくは10〜800μm、より好ましくは10〜500μmであり、第2〜第4のマイクロリアクターでは、それぞれ独立して、好ましくは10〜5000μm、より好ましくは10〜2000μmである。
なお、本発明において工程4は、リチオ化体が分解しないような条件であれば、生成したリチウム化体をフラスコや反応槽等へ送り、そこで求電子化合物を添加するバッチ反応でも良いが、好ましくはマイクロリアクターを用いる連続反応である。
【0030】
本発明において、工程1のマイクロリアクターの流路断面最小長さを、工程2〜4のマイクロリアクターよりも小さくするのが好ましい。
工程2〜4のマイクロリアクターの間では流路断面最小長さの大小関係は圧力損失の増大が問題とならない範囲で出来るだけ小さなものとするのが好ましい。
マイクロリアクターの流路長は、第1及び第3のリチオ化反応の場合では、好ましくは30〜1000mm、第2及び第4の求電子置換反応の場合は、好ましくは、30〜2000mm、より好ましくは500〜2000mmである。
上記マイクロリアクター中の反応液の反応時間(滞留時間)は流路長および流速の調整により行われる。
【0031】
本発明では、反応の経過は公知の種々の分析機器を使用してモニターすることができる。反応率は、例えば高速液体クロマトグラフィー、キャピラリーガスクロマトグラフィー等で確認することができる。また、オンラインFT−IR分光分析計やオンラインNIR分光分析計を用いて吸光度の変化を追跡することにより、反応をオンラインでモニタリングすることが可能である。
【0032】
次に本発明で使用する化合物について説明する。本発明に用いられるo−ジハロ芳香族化合物の置換ハロゲン原子は塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられるが、その中でも臭素、ヨウ素が反応性が高く好ましい。また2個のハロゲン原子は互いに同じでも異なっていてもよく、したがってクロロブロモ体、ヨードブロモ体、クロロヨード体でもよい。
本発明の一般式(I)で表される化合物はo−ジハロ芳香族化合物であり、これは前記のように芳香族へテロ環化合物を含む意味である。Aで表される環は具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の単環式または多環式の6〜10員の芳香環;チオフェン、フラン、ピラン、ピリジン、ピロール、ピラジン、アゼピン、アゾシン、アゾニン、アゼシン、オキサゾール、チアゾール、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、イミダゾール、ピラゾール、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、イソキノリン、インドール、イソインドール、キノキサリン、フタラジン、キノリジン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、クロメン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン等の5〜10員の単環式または多環式の窒素、酸素および硫黄から選択される1〜4個の原子を含有する芳香族ヘテロ環を表す。好ましくは単環式、多環式の芳香族であり、より好ましくはベンゼンである。
【0033】
また、Aで表される環は更に置換基を有していても良く、置換基の数や種類は特に制限されない。置換基は具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等の直鎖、分岐または環状の炭素数1〜20のアルキル基(シクロアルキルによって置換されたアルキルも含む);ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、イコセニル、ヘキサジエニル、ドデカトリエニル等の直鎖、分岐、または環状の炭素数2〜20のアルケニル基;エチニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、シクロオクチニル、シクロノニニル、シクロデシニル等の直鎖、分岐または環状の炭素数2〜20のアルキニル基;フェニル、ナフチル、アントラニル等の5〜10員の単環式または複環式アリール基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ等の炭素数1〜20のアルコキシ基;フェノキシ、ナフチルオキシ等のアリールオキシ基;メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、オクチルチオ、ノニルチオ、デシルチオ、ドデシルチオ、ヘキサデシルチオ、オクタデシルチオ等の炭素数1〜20のアルキルチオ基;フェニルチオ、ナフチルチオ等のアリールチオ基;アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル等の炭素数2〜20のアシル、およびベンゾイル、ナフトイル等の置換カルボニル基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−デシルオキシカルボニル、フェノキシカルボニル等の置換オキシカルボニル基;アセチルオキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、ペンタノイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ等の炭素数2〜20のアシルオキシ、およびベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ等の置換カルボニルオキシ基;メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等の置換スルホニル基;N−メチルカルバモイル、N,N−ジフェニルカルバモイル等のアルキル、アルケニルおよびアリールから選択される1または2個の基によって置換されたカルバモイル基;N−フェニルスルファモイル、N,N−ジエチルカルバモイル等のアルキル、アルケニルおよびアリールから選択される1または2個の基によって置換されたスルファモイル基;アセチルアミノ、tert−ブチルカルボニルアミノ、n−ヘキシルカルボニルアミノ等の炭素数2〜20のアシルアミノ、およびベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等の置換カルボニルアミノ基;N−メチルウレイド、N,N−ジエチルウレイド等のアルキル、アルケニルおよびアリールから選択される1または2個の基によって置換されたウレイド基;メチルスルホニルアミノ、tert−ブチルスルホニルアミノ、n−オクチルスルホニルアミノ等の炭素数1〜20のスルホニルアミノ、およびフェニルスルホニルアミノ、ナフチルスルホニルアミノ等の置換スルホニルアミノ基;メチルアミノ、フェニルアミノ、tert−ブトキシカルボニルアミノ、ピバロイルアミノ、ベンジルアミノ、フタロイルアミノ、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基等のモノ置換またはジ置換アミノ基;ニトロ基;シアノ基;トリメチルシリル、トリエチルシリル等の置換シリル基;フッ素、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン原子;チオフェン、フラン、ピラン、ピリジン、ピロール、ピラジン、アゼピン、アゾシン、アゾニン、アゼシン、オキサゾール、チアゾール、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、イミダゾール、ピラゾール、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、イソキノリン、インドール、イソインドール、キノキサリン、フタラジン、キノリジン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、クロメン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン等の5〜10員の単環式または多環式の窒素、酸素および硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環残基等が挙げられる。
【0034】
好ましくは、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数2〜16のアルキニル基、アリール基、炭素数2〜16のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜16のアルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数2〜17の置換カルボニル基、炭素数2〜17の置換オキシカルボニル基、炭素数2〜17の置換カルボニルオキシ基、炭素数1〜16の置換スルホニル基、炭素数2〜17のモノ置換またはジ置換カルバモイル基、炭素数1〜16のモノ置換またはジ置換スルファモイル基、炭素数2〜17の置換カルボニルアミノ基;炭素数2〜17のモノ置換またはジ置換ウレイド基;炭素数1〜16の置換スルホニルアミノ基;炭素数1〜16のモノ置換またはジ置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜16の置換シリル基、ハロゲン原子、ヘテロ環残基が挙げられる。
【0035】
より好ましくは、炭素数2〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基、アリール基、炭素数2〜8のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜8のアルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数2〜9の置換カルボニル基、炭素数2〜9の置換オキシカルボニル基、炭素数2〜9の置換カルボニルオキシ基、炭素数1〜8の置換スルホニル基;炭素数2〜9のモノ置換またはジ置換カルバモイル基、炭素数1〜8のモノ置換またはジ置換スルファモイル基、炭素数2〜9の置換カルボニルアミノ基、炭素数2〜9のモノ置換またはジ置換ウレイド基、炭素数1〜8の置換スルホニルアミノ基、炭素数1〜8のモノ置換またはジ置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜8の置換シリル基、ハロゲン原子、ヘテロ環残基等が挙げられる。
【0036】
特に好ましくは、炭素数2〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基、アリール基、炭素数2〜8のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜8のアルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数5〜9の置換カルボニル基、炭素数5〜9の置換オキシカルボニル基、炭素数5〜9の置換カルボニルオキシ基、炭素数4〜8の置換スルホニル基、炭素数5〜9のモノ置換またはジ置換カルバモイル基、炭素数4〜8のモノ置換またはジ置換スルファモイル基、炭素数5〜9の置換カルボニルアミノ基;炭素数5〜9のモノ置換またはジ置換ウレイド基、炭素数4〜8の置換スルホニルアミノ基、炭素数4〜8のモノ置換またはジ置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜8の置換シリル基、ハロゲン原子、ヘテロ環残基である。
【0037】
また、Aで表される環の置換基がカルボニル基の場合、有機リチウム試薬との反応の際に副反応の進行を防止できることから、tert−ブチル基の如き炭素数4以上の嵩高い、立体障害が大きい基が置換していることが好ましい。
【0038】
これらの置換基は更に置換基を有していてもよく、反応に関与しないものであれば特に制限されない。更なる置換基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の低級アルキル基やフェニル、ナフチル等のアリール基、塩素、フッ素等のハロゲン原子が挙げられる。
【0039】
本発明で用いる有機リチウム試薬は、従来公知の有機リチウム化合物を使用することができる。例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトキシメチルリチウム等のアルキルリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウム等のアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウム等のアルキニルリチウム;ベンジルリチウム、フェニルエチルリチウム等のアラルキルリチウム等が挙げられる。この中で好ましくはアルキルリチウム、アルケニルリチウム、アルキニルリチウムであり、その中でもメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、n−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、ビニルリチウム、アリルリチウム、メトキシメチルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、2−チエニルリチウム、トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウムが好ましく、更にはn−ブチルリチウムが好ましい。
【0040】
本発明で使用することができる求電子化合物は、電子受容能を有する官能基をもつ化合物(即ち、求電子剤として作用し得る化合物)であれば特に制限されないが、電子密度の大きい官能基や非共有電子対と反応する化合物が好ましい。また当該化合物には既知の有機リチウム試薬を使用したハロゲン−金属交換反応で使用される求電子化合物が全て含まれる。
本発明で用いる求電子化合物は、具体的には、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン;固体状硫黄、二酸化硫黄、酸素等の無機物類;二酸化炭素;トリフルオロメチルスルホン酸メチルエステル、トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸類;ジメチル硫酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ベンゾフェノンイミン、アセトフェノンイミン等のイミン類;クロロトリメチルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、ブロモトリメチルシラン等のハロゲン化シリコン類;クロロジアルキルヒドロシラン等のクロロシラン化合物;トリクロロボラン、トリブロモボラン等のハロゲン化ホウ素類;ピナコールボロン酸エステル、トリメチルボロン酸エステル、トリイソプロピルボロン酸エステル等のボロン酸エステル類;メトキシジエチルボラン、トリス(ジメチルアミノ)ボラン、ビス(ピナコレート)ジボラン等のホウ素化合物;二塩化ジブチルスズ、二臭化ジフェニルスズ等のスズ化合物類;パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ニコチンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、2−ブタノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、DMF、tert−ブチル−4−オキソ−1−ピペリジンカルボキシレート等のケトン類;クロロ蟻酸エチル、クロロ蟻酸フェニル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸オクチル、酢酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル等のエステル類;無水酢酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等の酸無水物類;アセチルクロライド、ベンゾイルクロライド、2−ピリジンカルボニル クロライド等のハロゲン化アシル類;オキシラン、2−メチル−オキシラン等のオキシラン類;6−アザビシクロ[3,1,0]ヘキサン、7−アザビシクロ[4,1,0]ヘプタン等のアジリジン類;3−オキソ−1,3−ジフェニル−1−プロペン、2−メチル−3−オキソ−3−ジフェニル−1−プロペン等のα、β−不飽和ケトン類;ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、臭化ヘキシル、臭化オクチル、1,2−ジヨードエタン、1,2−ジブロモエタン、1,6−ジヨードヘキサン、1,8−ジブロモオクタン、1,2−ジブロモシクロペンテン等のハロゲン化アルキル類;N−ブロモコハク酸イミド、N−ヨードコハク酸イミド、N−クロロコハク酸イミド、N−ブロモフタル酸イミド等の酸イミド類;ジメチルジスルフィド、ジフェニルジスルフィド等のジスルフィド類;クロロジフェニルホスフィン、クロロジメチルホスフィン等のホスフィン類;クロロジフェニルホスフィンオキシド、クロロジメチルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類が挙げられる。これらの中で好ましくは、クロロトリメチルシラン、ベンズアルデヒド、DMFである。
【0041】
以下に、本発明の方法により得られる一般式(II)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
下記化合物中の略号は次のとおりである(以下、同様)。
Me:メチル Ph:フェニル Bu:ブチル
Et:エチル Pr:プロピル
【0042】
【化4】

【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

【0045】
本発明の製造方法では、使用するo−ジハロ芳香族化合物、有機リチウム試薬および求電子化合物は液体又は溶液状態であることが必要である。従って、これらの化合物が液体でない場合には、事前に反応に不活性な溶媒に溶解させる必要がある。使用する溶媒としては、公知のハロゲン−金属交換反応に用いられる溶媒はいずれも使用できる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、ジフェニルメタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素化合物類;ピリジン、アセトニトリル、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、デカン、パラフィン等のアルカン類、及びパーフルオロアルカン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、石油エーテル、テトラヒドロフラン(THFと略記する)、ジオキサン、トリオキサン、ジグリム等のエーテル類;N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のウレア類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N,N‘,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の3級アミン類;塩化メチレン、ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類等、極性、非極性溶媒を問わずいずれも利用し得る。好ましくは、THF、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、トルエン、キシレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンであり、より好ましくはTHF、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、トルエンである。これらの溶媒は単独または2種以上の溶媒を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。溶媒の使用量は基質である各々の化合物1モルに対し、通常1〜10000mlの範囲で用いられ、好ましくは300〜6000ml、より好ましくは600〜3000mlである。
【0046】
本発明の製造方法では、有機リチウム試薬(工程1、3で使用のもの)および有機リチウム化合物(前記の化合物(III)及び(V))を活性化するために3級アミン等のキレート化剤を添加することが可能である。キレート化剤の使用量は有機リチウム試薬および有機リチウム化合物1モルに対し、通常0.01〜10モルの範囲で用いられ、好ましくは0.1〜2.0モル、より好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0047】
本発明の方法で得られる、一般式(II)で表される化合物は、公知の方法で単離することができる。例えば、有機溶剤を用いた抽出法、蒸留法、有機溶媒や水または有機溶媒と水の混合物を用いた再沈殿法、またはカラムクロマトグラフィーを、必要に応じて単独または適宜組み合わせて用いて単離精製することが可能である。
なお、本発明の変換法は公知のハロゲン−金属交換反応の改良方法であることから、本発明の該工程に用いられる製造条件は、有機リチウム試薬などのハロゲン−金属交換反応および求電子試薬との反応に使用されている反応生成物の精製法を含め、反応温度以外の製造条件を全て採用することができる。
【0048】
本発明方法により得られるo−二置換芳香族化合物は種々の農薬、医薬品の合成用中間体として用いられる。例えば下記の実施例1で得られた化合物は殺菌剤として用いられるジアリールヨードニウム塩製造の合成中間体である(米国特許第4348525号明細書)。また実施例2で得られた化合物は、比較的安定な有機金属化合物であり炭素アニオン等価体としてC−Cカップリング反応を行うために用いられ、医薬品開発や電子材料開発分野で非常に有用である。また実施例4で得られたようなジフェニルカルビノール類は農薬や医薬品の合成中間体として有用である。さらに実施例3で得られた化合物は坑うつ薬、筋肉弛緩薬の合成原料として有用である。しかしこれらの用途は本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
本発明を図1に示すマイクロリアクター装置を用いて実施した。
4つのT字型マイクロミキサー(M1,M2,M3,M4)と4つのマイクロチューブリアクター(R1,R2,R3,R4)から構成されるマイクロリアクターの内,M1からR1,M2,R2までをクーリングバス(−78℃)に浸し,またM3からR3,M4,R4までをクーリングバス(0℃)に浸した。R4から流出する反応液を0℃に冷却したフラスコに採った。第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には,オルトジブロモベンゼンのTHF溶液(0.27M)と,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を,それぞれ6mL/min(1.62mmol/min),1.2mL/min(1.8mmol/min)の流速でシリンジポンプを用いて送液した。第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には,トリフルオロメタンスルホン酸メチル(MeOTf)のTHF溶液(0.65M)を,3mL/min(1.95mmol/min)の流速で送液した。第3のT字型ミキサーM3(内径500μm)には,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を1.8mL/min(2.7mmol/min)の流速で送液した。第4のT字型ミキサーM4(内径500μm)には,クロロトリメチルシランのTHF溶液(1.62M)を,3mL/min(4.86mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(内径500μm,長さ50cm)における滞留時間は0.82秒,チューブリアクターR2(内径1000μm,長さ150cm)における滞留時間は6.93秒,チューブリアクターR3(内径1000μm,長さ12.5cm)における滞留時間は0.49秒,チューブリアクターR4(内径1000μm、長さ150cm)における滞留時間は1.57秒である。R4通過後,反応液を15秒間サンプリングして,アイスバスで0℃で1時間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBP1カラム;0.25mm×25m,開始温度50℃,昇温速度10℃/分)を用いて分析した結果,トリメチル(o−トリル)シラン(GC保持時間13.5分)が67%の収率で得られた。1H NMR (400 MHz, CDCl3) ・ 0.32 (s, 9H), 2.45 (s, 3H), 7.14 (tt, J = 7.6, 0.4 Hz, 2H), 7.25 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.44 (d, J = 6.8 Hz, 1H); 13C NMR (100 MHz) ・ 0.0, 23.1, 124.7, 129.0, 129.6, 134.1, 138.2, 143.3. スペクトルデータは文献値と一致した。この実施例の反応成分と結果を後記の表1に示した。
【0051】
実施例2
図1と同様のマイクロリアクター装置を用いた。
4つのT字型マイクロミキサー(M1,M2,M3,M4)と4つのマイクロチューブリアクター(R1,R2,R3,R4)から構成されるマイクロリアクターの内,M1からR1,M2,R2までをクーリングバス(−78℃)に浸し,またM3からR3,M4,R4までをクーリングバス(0℃)に浸した。R4から流出する反応液を0℃に冷却したフラスコに採った。第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には,オルトジブロモベンゼンのTHF溶液(0.27M)と,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を,それぞれ6mL/min(1.62mmol/min),1.2mL/min(1.8mmol/min)の流速でシリンジポンプを用いて送液した。第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には,トリフルオロメタンスルホン酸メチルのTHF溶液(0.65M)を,3mL/min(1.95mmol/min)の流速で送液した。第3のT字型ミキサーM3(内径500μm)には,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を1.8mL/min(2.7mmol/min)の流速で送液した。第4のT字型ミキサーM4(内径500μm)には,トリブチルクロロスタナンTHF溶液(1.62M)を,3mL/min(4.86mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(内径500μm,長さ50cm)における滞留時間は0.82秒,チューブリアクターR2(内径1000μm,長さ150cm)における滞留時間は6.93秒,チューブリアクターR3(内径1000μm,長さ12.5cm)における滞留時間は0.49秒,チューブリアクターR4(内径1000μm、長さ150cm)における滞留時間は1.57秒である。R4通過後,反応液を15秒間サンプリングして,アイスバスで0℃で1時間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBP1カラム;0.25mm×25m,開始温度50℃,昇温速度10℃/分)を用いて分析した結果,トリブチル(o−トリル)スタナン(GC保持時間25.3分)が62%の収率で得られた。 1H NMR (400 MHz, CDCl3) ・ 0.89 (t, J = 7.2 Hz, 9H), 1.04-1.09 (m, 6H), 1.26-1.38 (m, 6H), 1.44-1.56 (m, 6H), 2.38 (s, 3H), 7.08-7.39 (m, 4H); 13C NMR (100 MHz) ・ 10.2, 13.8, 25.1, 27.5, 29.3, 124.7, 128.1, 128.7, 136.4, 141.8, 144.4. HRMS (EI) m/z 計算値C15H25Sn (M+-C4H9)として: 325.0978, 実測値: 325.0979. スペクトルデータは文献値と一致した。この実施例の反応成分と結果を後記の表1に示した。
【0052】
実施例3
図1と同様のマイクロリアクター装置を用いた。
4つのT字型マイクロミキサー(M1,M2,M3,M4)と4つのマイクロチューブリアクター(R1,R2,R3,R4)から構成されるマイクロリアクターの内,M1からR1,M2,R2までをクーリングバス(−78℃)に浸し,またM3からR3,M4,R4までをクーリングバス(0℃)に浸した。R4から流出する反応液を0℃に冷却したフラスコに採った。第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には,オルトジブロモベンゼンのTHF溶液(0.27M)と,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を,それぞれ6mL/min(1.62mmol/min),1.2mL/min(1.8mmol/min)の流速でシリンジポンプを用いて送液した。第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には,トリフルオロメタンスルホン酸メチルのTHF溶液(0.65M)を,3mL/min(1.95mmol/min)の流速で送液した。第3のT字型ミキサーM3(内径500μm)には,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を1.8mL/min(2.7mmol/min)の流速で送液した。第4のT字型ミキサーM4(内径500μm)には,ベンズアルデヒドのTHF溶液(1.62M)を,3mL/min(4.86mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(内径500μm,長さ50cm)における滞留時間は0.82秒,チューブリアクターR2(内径1000μm,長さ150cm)における滞留時間は6.93秒,チューブリアクターR3(内径1000μm,長さ12.5cm)における滞留時間は0.49秒,チューブリアクターR4(内径1000μm、長さ150cm)における滞留時間は1.57秒である。R4通過後,反応液を15秒間サンプリングして,アイスバスで0℃で1時間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBP1カラム;0.25mm×25m,開始温度50℃,昇温速度10℃/分)を用いて分析した結果,フェニル−o−トリルメタノール(GC保持時間21.8分)が61%の収率で得られた。 1H NMR (400 MHz, CDCl3) ・ 2.27 (s, 3H), 6.02 (s, 1H), 7.12-7.36 (m, 8H), 7.52 (dd, J = 5.6, 1.6 Hz, 1H); 13C NMR (100 MHz) ・ 19.5, 73.4, 126.0, 126.2, 127.0, 127.40, 127.43, 128.3, 130.4, 135.2, 141.3, 142.7. スペクトルデータは文献値と一致した。この実施例の反応成分と結果を後記の表1に示した。
【0053】
実施例4
図1と同様のマイクロリアクター装置を用いた。
4つのT字型マイクロミキサー(M1,M2,M3,M4)と4つのマイクロチューブリアクター(R1,R2,R3,R4)から構成されるマイクロリアクターの内,M1からR1,M2,R2までをクーリングバス(−78℃)に浸し,またM3からR3,M4,R4までをクーリングバス(0℃)に浸した。R4から流出する反応液を0℃に冷却したフラスコに採った。第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には,オルトジブロモベンゼンのTHF溶液(0.27M)と,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を,それぞれ6mL/min(1.62mmol/min),1.2mL/min(1.8mmol/min)の流速でシリンジポンプを用いて送液した。第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には,トリフルオロメタンスルホン酸メチルのTHF溶液(0.65M)を,3mL/min(1.95mmol/min)の流速で送液した。第3のT字型ミキサーM3(内径500μm)には,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を1.8mL/min(2.7mmol/min)の流速で送液した。第4のT字型ミキサーM4(内径500μm)には,アセトフェノンのTHF溶液(1.62M)を,3mL/min(4.86mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(内径500μm,長さ50cm)における滞留時間は0.82秒,チューブリアクターR2(内径1000μm,長さ150cm)における滞留時間は6.93秒,チューブリアクターR3(内径1000μm,長さ12.5cm)における滞留時間は0.49秒,チューブリアクターR4(内径1000μm、長さ150cm)における滞留時間は1.57秒である。R4通過後,反応液を15秒間サンプリングして,アイスバスで0℃で1時間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBP1カラム;0.25mm×25m,開始温度50℃,昇温速度10℃/分)を用いて分析した結果,1−フェニル−1−(o−トリル)エタノール(GC保持時間21.7分)が53%の収率で得られた。 1H NMR (400 MHz, CDCl3) ・ 1.85 (s, 3H), 1.94 (s, 3H), 2.29 (br s, 1H), 7.04 (dd, J = 6.8, 1.6 Hz, 1H), 7.10-7.28 (m, 7H), 7.61 (dd, J = 7.2, 2.0 Hz, 1H); 13C NMR (100 MHz) ・ 21.4, 32.1, 76.6, 125.08, 125.12, 125.7, 126.3, 127.4, 127.8, 132.2, 136.9, 144.3, 147.7. スペクトルデータは文献値と一致した。この実施例の反応成分と結果を後記の表1に示した。
【0054】
実施例5
図1と同様のマイクロリアクター装置を用いた。
4つのT字型マイクロミキサー(M1,M2,M3,M4)と4つのマイクロチューブリアクター(R1,R2,R3,R4)から構成されるマイクロリアクターの内,M1からR1,M2,R2までをクーリングバス(−78℃)に浸し,またM3からR3,M4,R4までをクーリングバス(0℃)に浸した。R4から流出する反応液を0℃に冷却したフラスコに採った。第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には,オルトジブロモベンゼンのTHF溶液(0.27M)と,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を,それぞれ6mL/min(1.62mmol/min),1.2mL/min(1.8mmol/min)の流速でシリンジポンプを用いて送液した。第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には,ベンズアルデヒドのTHF溶液(0.65M)を,3mL/min(1.95mmol/min)の流速で送液した。第3のT字型ミキサーM3(内径500μm)には,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を1.8mL/min(2.7mmol/min)の流速で送液した。第4のT字型ミキサーM4(内径500μm)には,クロロトリメチルシランのTHF溶液(1.62M)を,3mL/min(4.86mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(内径500μm,長さ50cm)における滞留時間は0.82秒,チューブリアクターR2(内径1000μm,長さ150cm)における滞留時間は6.93秒,チューブリアクターR3(内径1000μm,長さ12.5cm)における滞留時間は0.49秒,チューブリアクターR4(内径1000μm、長さ150cm)における滞留時間は1.57秒である。R4通過後,反応液を15秒間サンプリングして,アイスバスで0℃で1時間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBP1カラム;0.25mm×25m,開始温度50℃,昇温速度10℃/分)を用いて分析した結果,フェニル(2−(トリメチルシリル)フェニル)メタノール(GC保持時間23.9分)が74%の収率で得られた。 1H NMR (400 MHz, CDCl3) ・ 0.56 (s, 9H), 2.67 (br s, 1H), 6.28 (s, 1H), 7.35-7.49 (m, 8H), 7.71-7.74 (m, 1H); 13C NMR (100 MHz) ・ 0.9, 74.5, 126.4, 126.8, 127.0, 127.8, 127.9, 129.6, 134.2, 138.4, 143.5, 149.0. HRMS (EI) m/z 計算値 C15H17OSi (M+-CH3)として: 241.1049, 実測値: 241.1049. この実施例の反応成分と結果を後記の表1に示した。
【0055】
実施例6
図1と同様のマイクロリアクター装置を用いた。
4つのT字型マイクロミキサー(M1,M2,M3,M4)と4つのマイクロチューブリアクター(R1,R2,R3,R4)から構成されるマイクロリアクターの内,M1からR1,M2,R2までをクーリングバス(−78℃)に浸し,またM3からR3,M4,R4までをクーリングバス(0℃)に浸した。R4から流出する反応液を0℃に冷却したフラスコに採った。第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には,オルトジブロモベンゼンのTHF溶液(0.27M)と,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を,それぞれ6mL/min(1.62mmol/min),1.2mL/min(1.8mmol/min)の流速でシリンジポンプを用いて送液した。第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には,ベンズアルデヒドのTHF溶液(0.65M)を,3mL/min(1.95mmol/min)の流速で送液した。第3のT字型ミキサーM3(内径500μm)には,n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.5M)を1.8mL/min(2.7mmol/min)の流速で送液した。第4のT字型ミキサーM4(内径500μm)には,クロロトリブチルスタナンのTHF溶液(1.62M)を,3mL/min(4.86mmol/min)の流速で送液した。チューブリアクターR1(内径500μm,長さ50cm)における滞留時間は0.82秒,チューブリアクターR2(内径1000μm,長さ150cm)における滞留時間は6.93秒,チューブリアクターR3(内径1000μm,長さ12.5cm)における滞留時間は0.49秒,チューブリアクターR4(内径1000μm、長さ150cm)における滞留時間は1.57秒である。R4通過後,反応液を15秒間サンプリングして,アイスバスで0℃で1時間攪拌した。反応終了後,濃縮した後,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン)により精製し,フェニル(2−(トリブチルスタニル)フェニル)メタノールが無色の油状物として,111.0mg,58%の収率で得られた。 1H NMR (400 MHz, CDCl3) ・ 0.86 (t, J = 7.6 Hz, 9H), 1.01-1.05 (m, 6H), 1.25-1.35 (m, 6H), 1.45-1.53 (m, 6H), 2.11 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 5.73 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.16-7.34 (m, 8H), 7.47-7.51 (m, 1H); 13C NMR (100MHz, CDCl3) ・ 11.0, 13.8, 27.5, 29.3, 78.0, 126.9, 127.0, 127.26, 127.32, 128.2, 128.3, 136.7, 141.8, 143.4, 149.6. HRMS (EI) m/z 計算値 C21H29OSn (M+-C4H9)として: 417.1240, 実測値: 417.1239. この実施例の反応成分と結果を後記の表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
比較例1及び比較例2
工程3及び工程4を下記式に従い、かつ以下に詳述したようにバッチ式で行った以外は実施例1と全く同様にしてトリメチル(o−トリル)シランの合成を試みた。その結果を下記表2に示した。
【0058】
【化7】

【0059】
【表2】

【0060】
比較例1においては次のように行った。
アルゴンガスで置換した10mL容二口フラスコに実施例1の工程2より得られたo−ブロモトルエンの0.32ミリモル/LTHF溶液を2ml仕込み、アルゴンガス下で0℃に冷却した。磁気攪拌機を用いて攪拌しながら、n−ブチルリチウムの1.58モル/Ln−ヘキサン溶液をゆっくり0.34ml滴下し0℃で30分間攪拌した。次に、クロロトリメチルシランの0.96ミリモル/LTHF溶液をゆっくり0.59ml滴下し0℃で60分間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBPカラム1; 0.25mm×25m; 開始温度,50℃; 昇温速度,10℃/分)を用いて分析した結果、o−トリメチルシリルトルエンが4%の収率で得られるとともに、副生成物としてo−ブチルトルエンが91%の収率で得られた。
【0061】
比較例2においては次のように行った。
アルゴンガスで置換した10mL容二口フラスコに実施例1の工程2より得られたo−ブロモトルエンの0.32ミリモル/LTHF溶液を2ml仕込み、アルゴンガス下で−78℃条件下とした。磁気攪拌機を用いて攪拌しながら、n−ブチルリチウムの1.58モル/Ln−ヘキサン溶液をゆっくり0.34ml滴下し−78℃で30分間攪拌した。次に、クロロトリメチルシランの0.96ミリモル/LTHF溶液をゆっくり0.59ml滴下し−78℃で60分間攪拌した。反応後の溶液をGC(CBPカラム1; 0.25mm×25m; 開始温度,50℃; 昇温速度,10℃/分)を用いて分析した結果、o−トリメチルシリルトルエンが定量的な収率で得られた。
【0062】
表2に示した比較例1,2の結果及び上記の実施例の結果から、以下のことが明らかである。
連結された工程1〜4の4段の反応の内、第1段の生成物であるo−ブロモリチウム化合物は極めて熱に不安定であり、従来の合成技術であるバッチ法では、−110℃という極めて超低温で反応を行うことが必要であるが、第3段のリチオ化反応、第4段のリチオ化体の求電子置換反応も−78℃の冷却条件が必要である。さらにバッチ法では、第3段のリチオ化反応に30分間、第4段の求電子置換反応に60分間、合計、反応に90分間を必要とし、実施例1の秒単位の反応時間に対し、比較にならない程反応時間が長期化した。
また、バッチ法では製品を取り出すためには室温まで加熱昇温を行い、分液などの後処理を行うことが必要であり、全体としてエネルギーの無駄が大きい。
これに対して、本発明の各実施例では前段のリチオ化と求電子化合物との反応と、後段のリチオ化と求電子化合物との反応を連続して行うことが可能になるばかりでなく、工程3、4を0℃で行うことができ、生産のためのエネルギーコストが節約される。しかも、反応を連続化することにより後処理に要する作業時間をなくして、製造に要する時間を著しく短縮でき、生産性向上の面からもメリットは著しく大きい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1で用いたマイクロリアクター反応装置の模式図を反応条件とともに示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の工程を連続的に行うことを特徴とするo−二置換芳香族化合物の製造方法。
(a)第1のマイクロリアクターでo−ジハロ芳香族化合物の一つのハロゲン基をモノリチオ化する工程、
(b)このモノリチオ化体を、第2のマイクロリアクターで求電子置換して、モノ置換モノハロ芳香族化合物を得る工程、
(c)第3のマイクロリアクターでもう一方のハロゲン基をリチオ化する工程、及び
(d)第4のマイクロリアクターで引き続き求電子置換させる工程。
【請求項2】
第1のマイクロリアクター、および第2のマイクロリアクターの流路内の反応温度が−80℃〜−50℃であることを特徴とする、請求項1に記載のo−二置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
求電子置換に際し、求電子化合物として、アルデヒド化合物、ケトン化合物、クロロシラン化合物、クロロスタンナン化合物、ハロゲン化アルキル化合物、スルホン酸エステル化合物、又はボロン酸エステル化合物を用いる請求項1に記載のo−二置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
第1のマイクロリアクターの流路断面最小長さが10μm〜800μmであり、かつ第2〜第4のマイクロリアクターの流路断面最小長さが各々独立して10μm〜5000μmである請求項1に記載のo−二置換芳香族の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195639(P2008−195639A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31346(P2007−31346)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度・19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム)/「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000175607)富士フイルムファインケミカルズ株式会社 (34)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【出願人】(000179306)山田化学工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】