説明

sPLA2の効果の失効方法

【解決手段】分泌ホスホリパーゼA2 IIA(sPLA2 IIA)またはその部分、より具体的にはヒトsPLA2 IIAに結合する構造体を少なくとも含む化合物であって、かつ構造体が、
a)細胞表面上、または、溶液中で、好ましくは血液または他の体液または組織からの溶液中で、最も好ましくはインビボで、少なくとも1つ以上のsPLA2 IIAの機能を遮断し、
b)及び/または、溶液から、好ましくは血液または他の体液または組織からの溶液から、最も好ましくはインビボで、sPLA2 IIAを除去する、化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、sPLA2の効果を失効する化合物、該化合物を産生する宿主細胞、該化合物を産生する宿主細胞、sPLA2 IIA濃度を減じるための薬学的組成物、及び該化合物の使用に関する。
【0002】
本発明は、治療用タンパク質、心臓血管生理学、及び薬物学の分野に関する。特に、本発明は、sPLA2 IIAに結合する分子を投与することによって、例えば心血管疾患、及び、分泌ホスホリパーゼA2 IIA(sPLA2 IIA)またはその部分、より好ましくはヒトsPLA2 IIAのレベルの上昇と関係し、内皮が関与する他の関連疾患の、既知のリスクファクターを減じることに関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、心血管疾患は主たる死因であり、何百万人に対する罹患率、医療費及び経済的損失の最大原因である。心血管疾患の最も一般的で破壊的な様相のうちの2つは、動脈硬化症及び血栓溶解性事象の出現である。
【0004】
近年、心血管疾患の治療において、多大な進歩が達成された。この進歩は、疾病メカニズムにおける治療の診療行為が前進したことに加えて、患者の疾病発症リスクの早期発見により可能となった。いかにも、患者のリスクの発見及び早期治療が、現代の医療の重要な特徴である。過去20年間にわたって、心血管疾患発症の現状または将来の可能性に相関する、種々の因子及び臨床パラメーターが確認されている。このような危険因子は、測定可能な生化学的または生理学的パラメーター、例えば、血清コレステロール、HDL、LDL、フィブリノーゲンレベル等、または、肥満、喫煙等の生活スタイルパターンの様式を含み得る(さらなる情報については、「高齢者における心血管の危険因子(Cardiovascular risk factors in the elderly)」、カンネル(Kannel)W.、冠動脈疾患(Coronary Artery Disease)、8:565−575、1997及びその中の引用を参照のこと)。本発明に最も適切な危険因子はsPLA2 IIAのレベルである。
【0005】
測定可能なパラメーターまたは危険因子と、疾病の状態との本質的な関係は、必ずしも明確であるとは限らない。言い換えれば、危険因子がそれ自体、その疾病の原因または一因となるか、または疾病を副次的に反映したものであるかは必ずしも明らかではない。従って、治療のモダリティは、危険因子を生ずるが、疾病の病理学的メカニズムまたはその将来の経過を直接的に変更している可能性があり、またはその疾病に関連して、一因となるプロセスに間接的にプラスになっている可能性がある。
【0006】
加えて、心血管疾患に関連した多数の危険因子が、原因または指標として、他の病理学的状態と関係する。従って、心血管疾患における特定の危険因子の低減または遮断は、その危険因子に関連する他の疾病において他の薬効を有する可能性がある。
【0007】
本発明の方法で特に重要なことは、異常に高レベルのsPLA2 IIAに関連した心血管の危険因子を減じることである。
【0008】
sPLA2 IIAは、サイトカインの産生を受けて肝臓で産生される。サイトカインは、体内の炎症反応の一部として産生される。従って、sPLA2 IIAレベルは全身性の炎症活性のマーカーである。慢性の炎症は、心血管疾患において、基礎であり継続する病理の1つであると考えられる。
【0009】
閉経時には、エストロゲンの損失により、女性の心血管疾患の有病率は増加する。また、心血管疾患の危険因子、特に、脂質(コレステロール及びトリグリセリド)、ホモシステイン、及びC反応性タンパク質のレベルが上がる。今日、閉経後の女性において、心血管疾患を予防する最も一般的な方法は、ホルモン補充療法(HRT)である。しかしながら、膨満感、月経再開、乳房圧痛、子宮癌及び乳癌の不安等の不快な副作用のため、多数の女性がこの療法に応じない。加えて、HRTはコレステロール及びホモシステインのレベルを低下させる一方、HRTはC反応性タンパク質のレベルを上昇させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、sPLA2 IIAを失効することによって、上述の危険因子を低下させる新規な治療薬を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、sPLA2 IIAに結合する分子、またはその薬学的塩もしくは溶媒和物を少なくとも含有する化合物の有効量を、それを必要とするヒトに投与することを含む、ヒトにおいてsPLA2 IIAのレベルを減じるツールを提供することである。
【0012】
さらに別の目的は、sPLA2 IIAに結合する分子、またはその薬学的塩もしくは溶媒和物を少なくとも含有する化合物の有効量を、それを必要とするヒトに投与することを含む、ヒトにおいてsPLA2 IIAのレベルを減じる分子及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
さらには、本発明は、sPLA2 IIAに結合する分子またはその薬学的塩もしくは溶媒和物を少なくとも含有する化合物の有効量を、それを必要とするヒトに投与することをそれぞれ含む、過剰のsPLA2 IIAまたはその部分、より好ましくはヒトsPLA2 IIAによって引き起こされる状態または有害な作用を阻害する方法に関する。
【0014】
本発明は、sPLA2 IIAに結合する分子、即ち、抗体、組み換え抗体(例として、一本鎖抗体-scAbまたはscFv;二重特異性抗体、組み換え型二重特異性抗体(diabody))、モノクローナル抗体が、sPLA2 IIAのレベルを低下させるため、及び/またはsPLA2 IIAを遮断及び/または失効するために有用であるという発見に基づく。
【0015】
本明細書において、「有効量」という用語は、sPLA2 IIAに結合する分子の化合物であって、sPLA2 IIAのレベルを減じるか、sPLA2 IIAを遮断するか、及び/または、過剰のsPLA2 IIAによって引き起こされる状態または有害な作用を阻害することができる化合物の量を意味する。
【0016】
「エストロゲン不足」という用語は、自然発生または臨床的に誘起された状態であって、女性がエストロゲンに依存する機能、例えば、月経、骨量の恒常性、神経機能、心血管系の状態等を維持するために充分な卵胞ホルモンを産生することができない状態を指す。このようなエストロゲン不足の状況は、限定されないが、閉経及び外科的または化学的卵巣摘出(ovarectomy)、及びその機能的等価物、例えば、GnRH作動薬または拮抗薬、ICI182780の投与等に起因する。
【0017】
過剰のsPLA2 IIAによって引き起こされる状態または有害な作用を阻害するという文脈における「阻害」という用語は、その一般的通義、即ち、sPLA2 IIAの増加及びその事象に起因する病理学的結果、即ち症状の、進行または重篤性が、遮断、禁止、抑制、緩和、改善、遅延、静止、または逆行されることを含む。
【0018】
本明細書において形容詞として使用される場合の「薬学的」という用語は、実質的に無毒であり、かつ服薬者に対して実質的に無害であることを意味する。
【0019】
さらに、「薬学的製剤」または「医薬品」または「薬学的組成物」は、担体、溶媒、賦形剤及び塩が製剤の有効成分(少なくとも1分子の化合物であり、sPLA2 IIAに結合する)と適合しなければならないことを意味する。
【0020】
「溶媒和物」という用語は、水、緩衝液、生理学的食塩水等の薬学的溶媒の1つ以上の分子と共に、溶質の1つ以上の分子を含む凝集体を表す。
【0021】
本発明は、分泌ホスホリパーゼA2 IIA(sPLA2 IIA)またはその部分、より好ましくはヒトsPLA2 IIAに結合する構造体を少なくとも含む化合物を特許請求するものであって、該構造体は、
a)細胞表面上、または、溶液中で、好ましくは血液または他の体液または組織からの溶液中で、最も好ましくはインビボで、少なくとも1つ以上のsPLA2 IIAの機能、好ましくはヒトsPLA2 IIAの機能を遮断し、
b)及び/または、溶液から、好ましくは血液または他の体液または組織からの溶液から、最も好ましくはインビボで、sPLA2 IIA、好ましくはヒトsPLA2 IIAを除去する。
【0022】
1つの具体例において、本発明の化合物は、sPLA2 IIAへの結合部位を含むポリペプチドであり、好ましくはsPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有する抗体である。本発明の化合物は、特に、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含むポリまたはモノクローナル抗体である。
【0023】
該モノクローナル抗体は、特に、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含み、脊椎動物、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ブタ、ヤギ、ニワトリ、ウシ、ウマ及びウサギ等の哺乳動物を免疫した後に得られる。sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含む該ポリまたはモノクローナル抗体は、好ましくは、当業者に周知の技術に従ってヒト化する。本発明の化合物は、ヒト化マウス及び/または生体免疫細胞(例えば、ヒト起源のもの;例として、SCID−huマウス)で再導入された免疫不全マウス(例として、SCIDまたはヌードマウス)を免疫することによって製造することもできる。
【0024】
さらなる具体例において、本発明の抗体は、特にsPLA2 IIAと交差反応性の抗体の抗原結合部位を含有することによって、sPLA2 IIAに結合する能力がある組み換え抗体(例として、1本鎖抗体−scAbまたはscFv;二重特異性抗体、組み換え型二重特異性抗体等)である。本発明の抗体分子は、ヒト化抗体またはヒト抗体である。本発明の主題は、本発明の化合物を産生する、宿主細胞、好ましくは安定な宿主細胞でもある。
【0025】
さらに、本発明の主題は、宿主細胞において抗体分子を、好ましくは分泌タンパク質として発現させる能力がある調節配列に可動的に結合し、本発明の結合分子断片をコードするヌクレオチド配列を含む、少なくとも1つの組み換えベクターである。
【0026】
また、本発明の主題は、好ましくは安定的に遺伝子組み換えした、本発明のベクター、本発明の組み換え抗体を産生する原核生物または真核生物の細胞系、及び本発明の組み換え抗体を産生する真核生物、最も好ましくは動物、植物または菌類を含む、宿主である。
【0027】
また、本発明の主題は、sPLA2 IIA抗原に結合する能力がある本発明の組み換え分子の製造方法であって、宿主細胞を培養すること、及び、培地及び/または産生細胞から結合分子を単離することを含む方法である。
【0028】
別の具体例において、本発明は、本発明のsPLA2 IIA結合分子を用いて、sPLA2 IIAレベルが上昇した患者を治療することによる、免疫反応、炎症反応及び/または病態生理学的反応を阻害する方法に関する。
【0029】
本発明の別の主題は、治療的有効量の本発明の結合分子、及び薬学的に許容される担体を含有する、sPLA2 IIA濃度を減じるための医薬組成物である。
【0030】
本発明のさらに別の具体例は、sPLA2 IIA濃度を減じることによる、炎症性免疫反応及び/または病態生理学的反応を減じる方法;sPLA2 IIA濃度を減じることによる、内皮の損傷及び/または破壊を減じる方法;急性の内皮の損傷及び/または破壊の場合における急性期治療の方法であって、好ましくは、脳卒中、心筋梗塞、突然心臓死の回避のため、火傷のため、重篤な外科処置または重傷領域を有する他の損傷のため、糖尿病性機能障害のため、急性肝不全のため、膵炎、神経変性疾患のため、X線照射後の白血病患者のための方法;長期の内皮の損傷及び/または破壊の場合における、継続的治療の方法であって、好ましくは、中程度のCRP量、アテローム性動脈硬化、不安定狭心症、1型もしくは2型糖尿病、過体重及び/または肥満を伴う患者のため、アルコール中毒のため、ホルモン補充療法(HRT)下、高齢者のため、喫煙者のための方法;同種移植拒絶または異種移植拒絶の予防方法;同種移植もしくは異種移植耐性の誘導方法またはT細胞活性化の阻害方法;及び、自己免疫性疾患の予防または治療方法;そのような治療を必要とする患者に、治療的有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む方法である。
【0031】
本発明の化合物は、他の分子と、好ましくは、各疾患のための治療剤、または、例えば抗IL−6分子、抗IL−1β分子、抗CRP分子、IL−6遮断分子、CRP、IL−1β、及び/または補体遮断剤のような他の抗炎症性分子と組み合わせることができる。
【0032】
本発明によって提供される方法は、sPLA2 IIAのレベルの上昇に関連する有害な後遺症の治療及び予防の両者に有用である。sPLA2 IIA血清濃度が、特に炎症過程で産生されるサイトカインのレベル及び産生に関連することから、本発明の方法は、炎症性疾患及びその後遺症の治療または予防に有用である。このような炎症性疾患は、限定されないが、動脈及び静脈の慢性炎症、自己免疫性疾患、例えば、関節炎(骨関節炎及び関節リウマチ)、SLE、多発性硬化症、重症筋無力症、グレーブス病、尋常性乾癬、拡張型心筋症、糖尿病、ベヒテレフ病、炎症性胆汁疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、再生不良性貧血、特発性拡張型心筋症(IDM)、自己免疫性甲状腺炎、グッドパスチュア病等を含む。
【0033】
本発明の方法は、アテローム性動脈硬化性または血栓性疾患の病理学的後遺症の治療または予防に有用である。このような病理は、限定されないが、脳卒中、循環不全、虚血性疾患、心筋梗塞、肺血栓性塞栓症、安定または不安定狭心症、冠動脈疾患、突然死症候群等を含む。
【0034】
本発明は、さらに、sPLA2 IIAに結合する少なくとも1つの分子の化合物と組み合わせにおいて、本発明において具体化された病理学的状態を治療するために投与される、他の現在知られている臨床的に適切な薬剤の使用を意図する。
【0035】
さらに、本発明は、sPLA2 IIAに結合する少なくとも1つの分子の化合物が、治療または予防方法のいずれかに使用されることを意図する。
【0036】
本発明の好ましい具体例は、本発明の化合物を投与されるヒトが女性である場合であり、より好ましくは、その女性がエストロゲン不足の場合である。
【0037】
本発明の別の好ましい具体例は、異常に高いレベルのsPLA2 IIAによって引き起こされる状態が、心血管疾患、特に、動脈硬化症及び血栓症、または、脳卒中、心筋梗塞、突然心臓死、火傷、重篤な外科処置または重傷領域を有する他の損傷、糖尿病性機能障害、急性肝不全、膵炎、X線照射後の白血病患者等の急性の内皮の損傷及び/または破壊の場合における他の急性治療、あるいは、アテローム性動脈硬化、1型もしくは2型糖尿病、過体重及び/または肥満、アルコール中毒、ホルモン補充療法(HRT)、高齢者、喫煙者等の、長期の内皮の障害及び/または破壊の場合である。
【0038】
本発明の特に好ましい具体例は、エストロゲン不足の女性であって、全身性または局所性炎症を減じるために、エストロゲンまたはHRTを受けている女性において、sPLA2 IIAに結合する少なくとも1つの分子の化合物の使用である。
【0039】
リンパ節線維症は末梢CD4+T細胞数を阻害する

線維症はHAART後の回復能力のより良い予兆であり得る
HIVはCD4+T細胞を選択的に標的にすることから、その数は、HIV RNAレベル等の他の測定基準と同様に、感染の重症度を表すために従来から使用されている。さらに、医師はこれらの数値を、抗レトロウイルス療法を受けている初診の患者において、将来の免疫学的再構築治療の有効性を予測するために使用する。
【0040】
しかしながら、最近の発見では、高活性の抗レトロウイルス療法(HAART)は、時に血中のHIV RNAを検出不能のレベルに低下させることが可能であるにもかかわらず、25%の患者で、末梢CD4+数を著しく増加させられなかったことを示す。この発見から、これらのファクターを回復の予兆として用いることが問題となっている。ウイルス複製の抑制では及ばないファクターが存在する。
【0041】
HAARTの発症以前のリンパ節線維症の量は、おそらく、患者のHAART後の末梢CD4+T細胞の回復能力のより良い予兆である。ほとんど全てのHIV複製がリンパ節に存在する活性化CD4+細胞中で起こるが、リンパ節の損傷は療法の開始以前に既に発症している。
【0042】
拡張する一連の作用は、リンパ節構造が、免疫のプロセスに好適な微環境の提供において重要であることを示している。ここで、T細胞は、サイトカイン及び他の成長因子によって解決可能なメッセージを受け取るのと同様に、B細胞、抗原発現細胞、基質と、及び互いに相互作用する。従って、構造が危ういと、リンパ節の生体免疫系を支援する能力も同様に、重篤に危うくなる可能性がある。
【0043】
永続的炎症
発症前から末期のエイズまで、HIV感染の種々の段階で、処置を受けたことのない患者のリンパ節のT細胞領域の実験を実施した。ここで検出されたCD4+T細胞数は、末梢CD4+細胞または血漿中のウイルスRNAの検出可能な量のいずれかと相関しなかった。しかしながら、このリンパ節は、HIV陰性対照より、コラーゲンの沈着がかなり多かった。コラーゲンは、リンパ節のCD4+T細胞個体群に逆相関を示したが、一方、CD4+細胞数は、線維症数の増加とともに減少した。同様に、療法後の末梢CD4+T細胞数によって測定される免疫学的再構築の能力は、リンパ節コラーゲン沈着量と逆相関を示した。
【0044】
リンパ節は永続的な炎症によって損傷を受けることが推測される。免疫防御と、複製を部分的に制御するHIV−1とが長期に争う間、免疫系は慢性的に活性化された状態が維持される。
【0045】
このモデルは先例がないわけではない。この状況は、慢性肝炎に感染した肝臓で起こることと類似している。このような場合、ウイルスの複製が進行して、慢性炎症及び線維症となり、次第に機能的な肝臓組織がコラーゲンに置換され、最終的には肝硬変となる。
【0046】
どのメカニズムがここで働いているかは正確には判らないが、リンパ節構造への損害によって、物理的にT細胞を収容する多量のコラーゲンによるリンパ節の不能、または適切な活性化、成長または走化性のシグナルが受けられないようなT細胞の位置の変化などの、免疫反応のいくつかの結果を得る。T領域内のコラーゲンの過剰な蓄積及び他の細胞外基質成分は、T細胞との、樹状細胞またはIL−7[T細胞生存因子インターロイキン7]の局所産生との相互作用を妨害することが予測され得る。
【0047】
リンパ組織の微環境の損害及び崩壊によって、CD4+細胞の動員、保持及び増殖が損なわれる。最も重要な影響は、処置を受けていないCD4+T細胞に対して及ぶと思われるが、増殖し生育可能を保つためには、活性化細胞または記憶細胞より大きな外部シグナル伝達を必要とすることが知られている。
【0048】
慢性の炎症はリンパ節構造の損傷の原因であると推定されるが、例としてsPLA2 IIAの低減などの抗炎症療法は、ある線維症を減じ、予防し、または逆転することも考えられ、おそらく免疫学的回復の改善につながる。
【0049】
薬学的製剤は、例えば、sPLA2 IIAに結合する少なくとも1つの分子の化合物が、通常の賦形剤、希釈剤、または担体を用いて製剤化し、錠剤、カプセル剤、注入剤等を形成することができる等、当業者に公知の方法によって製造することができる。
【0050】
製剤化に好適な賦形剤、希釈剤、及び担体の例としては、以下のものが含まれる:でん粉、糖類、マンニトール、及びケイ酸誘導体等の充填剤及び増量剤;カルボキシメチルセルロース及び他のセルロース誘導体、アルギネート、ゼラチン、及びポリビニルピロリドン等の結合剤;グリセロール等の保湿剤;寒天、炭酸カルシウム、及び重炭酸ナトリウム等の崩壊剤;パラフィン等の溶解遅延剤;第四級アンモニウム化合物等の吸収促進剤;セチルアルコール、グリセロールモノステアレート等の界面活性剤;カオリン及びベントナイト等の吸着担体;及び、タルク、カルシウム及びステアリン酸マグネシウム及び固体ポリエチルグリコール類等の潤滑剤。最終的な薬学的形態は、使用する賦形剤のタイプによって、丸剤、錠剤、粉剤、トローチ剤、シロップ剤、エアロゾル、サッチ(saches)、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、座剤、滅菌注射用液剤、または滅菌封入散剤であってもよい。
【0051】
加えて、sPLA2 IIAに結合する少なくとも1つの分子の化合物は、徐放性投与形態としての製剤化に非常に好適である。製剤は、有効成分を、腸管の特定の部分でのみ、または、好ましくは腸管の特定の部分で、場合によりある期間にわたって、放出するように構成することもできる。このような製剤は、ポリマー物質またはろう状物質でできた、被覆、外皮、または保護マトリクスを含むであろう。
【0052】
ホモシステイン及び/またはsPLA2 IIAのレベルを減じるために必要とされる、本発明のsPLA2 IIAに結合する分子を含有する化合物の、詳細な投与量は、処置される状態に固有の環境による。投与量、投与経路、及び投与頻度等の検討事項は、主治医が決定するのが最適である。一般に、sPLA2 IIAに結合する分子の化合物の経口または非経口投与における有効最低投与量は、約1〜20,000mgである。典型的には、有効最大投与量は、約20,000、6,000、または3,000mgである。このような投与量は、sPLA2 IIAのレベルを効果的に減じること、及び/または、過剰のsPLA2 IIAによって引き起こされる状態または不利益な効果を阻害することが必要とされる度毎に、処置が必要な患者に投与される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌ホスホリパーゼA2 IIA(sPLA2 IIA)またはその部分、より具体的にはヒトsPLA2 IIAに結合するかまたはそれらを阻害する構造体を少なくとも含む化合物であって、かつ構造体が、
a)細胞表面上、または、溶液中で、好ましくは血液または他の体液または組織からの溶液中で、最も好ましくはインビボで、少なくとも1つ以上のsPLA2 IIAの機能、より好ましくはヒトsPLA2 IIAの機能を遮断及び/または失効し、
b)及び/または、溶液から、好ましくは血液または他の体液または組織からの溶液から、最も好ましくはインビボで、sPLA2 IIA、より好ましくはヒトsPLA2 IIAを除去する
化合物。
【請求項2】
前記化合物が、sPLA2 IIAへの結合部位を含むポリペプチド、好ましくはsPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有する抗体を含むポリペプチドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有するモノクローナル抗体である、請求項1及び2に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有するモノクローナル抗体であり、かつ該化合物が脊椎動物、最も好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ブタ、ヤギ、ニワトリ、ウシ、ウマ及びウサギを免疫した後に産生される、請求項1及び2に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有するモノクローナル抗体であり、かつ該化合物が遺伝子導入された脊椎動物、最も好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ブタ、ヤギ、ニワトリ、ウシ、ウマ及びウサギを免疫することによって得られる、請求項1及び2に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有するモノクローナル抗体であり、かつ該化合物が(ヒト化免疫系によって)ヒト化した脊椎動物、最も好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ブタ、ヤギ、ニワトリ、ウシ、ウマ及びウサギを免疫した後に産生される、請求項1及び2に記載の化合物。
【請求項7】
前記化合物が、sPLA2 IIAへの抗原結合部位を含有するモノクローナル抗体であり、かつ該化合物が生体免疫細胞(例えば、ヒト由来のもの;例としてSCID−huマウス)で再導入された免疫不全マウス(例として、SCIDまたはヌードマウス)を免疫することによって製造されたものである、請求項1及び2に記載の化合物。
【請求項8】
特に、sPLA2 IIAと交差反応性の抗体の抗原結合部位を含有することによって、sPLA2 IIAに結合する能力がある組み換え抗体(例として、1本鎖抗体−scAbまたはscFv;二重特異性抗体、組み換え型二重特異性抗体等)である、請求項2に記載の抗体。
【請求項9】
ヒト化またはヒト抗体である、請求項2〜8に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の化合物を産生する宿主細胞。
【請求項11】
宿主細胞において抗体分子を、好ましくは分泌タンパク質として、発現させる能力がある調節配列に可動的に結合し、請求項1〜9のいずれか1項に記載の結合分子断片をコードするヌクレオチド配列を含む、組み換えベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターを含む宿主。
【請求項13】
請求項1〜9及び11に記載の組み換え抗体を産生する、原核生物または真核生物の細胞系。
【請求項14】
請求項1〜9及び11に記載の組み換え抗体を産生する、ヒト以外の真核生物。
【請求項15】
sPLA2 IIA抗原に結合する能力がある請求項1〜9に記載の組み換え分子の製造方法であって、宿主細胞を培養する工程、及び、培地及び/または産生細胞から結合分子を単離する工程を含む方法。
【請求項16】
IL−6、CRP及び/またはsPLA2レベルが上昇した患者の、免疫反応、炎症反応及び/または病態生理学的反応を阻害する医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用。
【請求項17】
sPLA2 IIA濃度を減じるため、及び/またはsPLA2 IIAを遮断、失効するための医薬組成物であって、請求項1〜9のいずれか1項に記載の結合分子の治療的有効量、及び薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。
【請求項18】
sPLA2 IIA濃度を減じること、及び/またはsPLA2 IIAを失効することによって炎症免疫及び/または病態生理学的反応を減じる医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項19】
sPLA2 IIA濃度を減じること、及び/またはsPLA2 IIAを失効することによって細胞及び/または内皮の損傷及び/または破壊を減じる医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項20】
急性の内皮の損傷及び/または破壊の場合における急性期治療用の、好ましくは、脳卒中、心筋梗塞、突然心臓死の回避のため、火傷のため、重篤な外科処置または重傷領域を有する他の損傷のため、糖尿病性機能障害のため、急性肝不全のため、膵炎、神経変性疾患のため、X線照射後の白血病患者のための、医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項21】
長期の内皮の損傷及び/または破壊の場合における継続的治療用の、好ましくは、中程度のCRP量、アテローム性動脈硬化、不安定狭心症、1型もしくは2型糖尿病、過体重及び/または肥満を伴う患者のため、アルコール中毒のため、ホルモン補充療法(HRT)下、高齢者のため、喫煙者のための、医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項22】
同種移植拒絶または異種移植拒絶の予防用の医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項23】
同種移植もしくは異種移植耐性の誘導用またはT細胞活性化の阻害用の医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項24】
自己免疫性疾患、例えばSLE、骨関節炎、関節リウマチ、多発性硬化症、重症筋無力症、グレーブス病、尋常性乾癬、拡張型心筋症、糖尿病、ベヒテレフ病、炎症性胆汁疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、再生不良性貧血、特発性拡張型心筋症(IDM)、自己免疫性甲状腺炎、グッドパスチュア病、動脈及び静脈の慢性炎症の予防または治療用の医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項25】
HIV感染患者の治療用の医薬を製造するための、請求項1〜9に記載の化合物の使用であって、該方法が、そのような治療を必要とする患者に治療的有効量の請求項17に記載の医薬組成物を投与することを含む、使用。
【請求項26】
請求項16、18〜25のうちの1項に記載の少なくとも1つの方法における使用のための、請求項1〜14及び17のいずれか1項に記載の物質の、少なくとも1つの組成物を含む医薬であって、各疾患用の治療薬または、例えば、抗IL−6分子、抗IL−1β分子、抗CPR分子及び/または補体遮断剤等の他の抗炎症物質を追加的に含む、医薬。

【公表番号】特表2007−505862(P2007−505862A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526610(P2006−526610)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010604
【国際公開番号】WO2005/028653
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506094541)バイオスペシフィク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】