説明

ナビゲーション装置

【課題】装置構成が複雑化したり、装置構成に要する費用が嵩むことを防止しつつ、信号機の位置を精度良く検出する。
【解決手段】ナビゲーション装置10は、車両の加速度の周波数分析から周波数に対応するパワースペクトルを算出する周波数分析部26と、パワースペクトルに基づき渋滞予兆度を算出する渋滞予測部29と、地図データ記憶部11に記憶された信号機の位置情報および現在位置検出部23により取得された車両の現在位置に基づき、信号機が現在位置から所定範囲内に存在するか否かを判定する位置判定部24と、を備える。渋滞予測部29は、予め渋滞予兆度の大小と現在位置から信号機までの距離の長短との相関を示すデータを記憶し、信号機が現在位置から所定範囲内に存在する場合に、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばGPS(Global Positioning System)信号などの測位信号、さらには自律航法の演算処理などを組み合わせて検出される車両の現在位置と、予め信号機の位置情報を有する地図情報とに基づいて、信号機の実際の位置を把握する場合には、位置検出の精度を向上させることが困難であるという問題が生じる。
このような問題に対して、従来、例えば予め信号機の位置情報を有する地図情報と、車両の外界を撮像するカメラから出力される画像データに対する画像認識処理による信号機の検出とを組み合わせて、信号機の実際の位置を把握するナビゲーション装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、従来、例えば路側などに配置され、周辺に存在する車両に各種の情報を発信する路車間通信装置(路上機)によって、信号機の位置の情報を車両に通知する通信システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−82761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係るナビゲーション装置によれば、画像認識によって信号機を検出するための特別な機器として、車両の外界に対して所望の画質の画像データを得るためのカメラおよびカメラから出力される画像データを迅速かつ高度に処理する画像処理装置を、追加的に車両に搭載する必要が生じる虞があり、装置構成に要する費用が嵩むという問題が生じる。
また、上記従来技術に係る通信システムによれば、路車間通信を行なうための専用の機器として、路上機および路上機と通信可能な車載通信器を、追加的に備える必要が生じ、システム構成に要する費用が嵩むという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、装置構成が複雑化したり、装置構成に要する費用が嵩むことを防止しつつ、信号機の位置を精度良く検出することが可能なナビゲーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の請求項1に係るナビゲーション装置は、信号機の位置情報を有する道路情報を記憶する記憶手段(例えば、実施の形態での地図データ記憶部11)と、車両の現在位置を取得する現在位置取得手段(例えば、実施の形態での現在位置検出部23)と、前記車両の加速度を検出する加速度検出手段(例えば、実施の形態での各種センサ12および加速度算出部25)と、前記加速度検出手段により検出され前記加速度の周波数分析から周波数に対応するパワースペクトルを算出する加速度スペクトル算出手段(例えば、実施の形態での周波数分析部26)と、前記加速度スペクトル算出手段により算出された前記パワースペクトルに基づき渋滞予兆度を算出する渋滞予兆度算出手段(例えば、実施の形態での渋滞予測部29)と、を備えるナビゲーション装置であって、前記記憶手段に記憶された前記位置情報および前記現在位置取得手段により取得された前記現在位置に基づき、前記信号機が前記現在位置から所定範囲内に存在するか否かを判定する位置判定手段(例えば、実施の形態での位置判定部24)と、前記位置判定手段により前記信号機が前記現在位置から所定範囲内に存在すると判定された場合に、前記渋滞予兆度算出手段により算出された前記渋滞予兆度に応じて前記現在位置から前記信号機までの距離を推定する推定手段(例えば、実施の形態でのステップS10、S35、渋滞予測部29が兼ねる)と、を備える。
【0007】
さらに、本発明の請求項2に係るナビゲーション装置は、前記加速度スペクトル算出手段により算出された前記パワースペクトルの単回帰直線を演算し、所定周波数範囲での当該単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する極大値算出手段(例えば、実施の形態での単回帰直線算出部27および傾き極大値算出部28)と、前記極大値算出手段により算出された前記傾き極大値が周期性を有するか否かを判定する周期性判定手段(例えば、実施の形態でのステップS09、S34、渋滞予測部29が兼ねる)と、を備え、前記推定手段は、前記周期性判定手段により前記傾き極大値が周期性を有すると判定された場合に、前記渋滞予兆度と前記現在位置から前記信号機までの距離とが所定の相関を有するとして、前記渋滞予兆度に応じて前記距離を推定する。
【0008】
さらに、本発明の請求項3に係るナビゲーション装置では、前記加速度スペクトル算出手段により算出された前記パワースペクトルの単回帰直線を演算し、所定周波数範囲での当該単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する極大値算出手段(例えば、実施の形態での単回帰直線算出部27および傾き極大値算出部28)を備え、前記推定手段は、前記極大値算出手段により算出された前記傾き極大値に応じて、前記渋滞予兆度と前記信号機の点灯状態とが所定の相関を有するとして、前記渋滞予兆度に応じて前記点灯状態を推定する。
【0009】
さらに、本発明の請求項4に係るナビゲーション装置は、前記推定手段による前記信号機の点灯状態の推定結果に応じて、前記車両の加減速を抑制するように走行を支援する走行支援情報を作成し、該走行支援情報を前記車両に提供する走行支援手段(例えば、実施の形態でのステップS12、S37、渋滞予測部29が兼ねる)を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係るナビゲーション装置によれば、現在位置取得手段により取得される現在位置の精度が低い場合であっても、現在位置から所定範囲内に信号機が存在すると判定される状態において、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を精度良く推定することができる。
例えば車両の進行方向前方において渋滞が発生する可能性の大小を示す渋滞予兆度が大きい場合には、近くに信号機が存在することに起因して渋滞予兆度が増大していると看做すことができる。
【0011】
このため、例えば予め渋滞予兆度の大小と現在位置から信号機までの距離の長短との相関を把握しておくことにより、渋滞予兆度算出手段により算出された渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を精度良く推定することができる。
しかも、信号機の位置情報を有する道路情報はナビゲーション装置が通常に用いる地図データに備えられ、渋滞予兆度は車両に通常に搭載される加速度センサなどにより検出される加速度に基づいて算出されることから、現在位置から信号機までの距離を推定するための専用の機器を追加的に備える必要が無く、装置構成が複雑化したり、装置構成に要する費用が嵩むことを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の請求項2に係るナビゲーション装置によれば、渋滞予兆度は極大値算出手段により算出される傾き極大値に応じたパラメータであることに加えて、信号機が現在位置から所定範囲内に存在する場合には、信号機の周期的な点灯状態の変化に起因して傾き極大値が周期性を有すると看做すことができ、傾き極大値が周期性を有する場合に渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を推定することにより、推定結果の信頼性を向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明の請求項3に係るナビゲーション装置によれば、渋滞予兆度は極大値算出手段により算出される傾き極大値に応じたパラメータであることに加えて、信号機が現在位置から所定範囲内に存在する場合には、傾き極大値は信号機の点灯状態(例えば、青色、黄色、赤色の点灯や点滅など)に応じて変化すると看做することができ、渋滞予兆度に応じて信号機の点灯状態を精度良く推定することができる。
例えば渋滞予兆度が大きい場合には、信号機が赤色、黄色の点灯状態であると推定することができ、例えば渋滞予兆度が小さい場合には、信号機が青色の点灯状態であると推定することができる。
【0014】
さらに、本発明の請求項4に係るナビゲーション装置によれば、車両の進行方向前方に存在する信号機の点灯状態に応じて車両の不要な加減速を防止するように走行を支援する走行支援情報を作成することができ、この走行支援情報によって車両のスムースな走行および車両の燃費向上を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るナビゲーション装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る加速度スペクトルの例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るナビゲーション装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態の変形例に係るナビゲーション装置の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る確率密度分布の例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る共分散値の分布の例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る共分散最小値と傾き極大値との相間マップの例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る交通密度と交通量の関係の例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る車間距離分布についての共分散最小値の対数と加速度スペクトルについての傾き極大値の対数との相関マップの例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態の変形例に係るナビゲーション装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のナビゲーション装置の一実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
本実施の形態によるナビゲーション装置10は、例えば車両に搭載されており、図1に示すように、地図データ記憶部11と、各種センサ12と、スイッチ13と、各種アクチュエータ14と、表示器15と、スピーカー16と、処理装置17とを備えて構成されている。
【0017】
地図データ記憶部11は、地図データを記憶する。
地図データは、例えば、表示器15の表示画面に地図を表示するための地図表示用のデータと、車両の現在位置に基づくマップマッチングの処理に必要とされる道路上の位置座標(例えば、信号機の位置座標など)を示す道路座標データと、経路探索や経路誘導などの処理に必要とされる道路データ(例えば、交差点および分岐点などの道路上の所定位置の緯度および経度からなる座標点であるノードおよび各ノード間を結ぶ線であるリンクと、道路形状および道路種別となど)と、を備えている。
【0018】
各種センサ12は、例えば、車両の速度を検出する車速センサと、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサとなどであって、車両の走行状態に係る検出結果の信号を処理装置17に出力する。
【0019】
スイッチ13は、例えば車両の走行制御に係る各種の信号を処理装置17に出力する。
スイッチ13から出力される各種の信号は、例えば、運転者によるブレーキペダルやアクセルペダルの操作状態(例えば、操作位置など)に係る信号と、運転者の入力操作に応じて自動的に車両の走行状態を制御する自動走行制御に係る各種信号(例えば、制御開始や制御停止を指示する信号と、目標車速や先行車両に対する目標車間距離の増減を指示する信号となど)となどである。
【0020】
各種アクチュエータ14は、例えば、車両の駆動力を制御するスロットルアクチュエータと、車両2の制動を制御するブレーキアクチュエータと、車両の転舵を制御するステアリングアクチュエータとなどであって、処理装置17から出力される制御信号によって駆動制御される。
【0021】
表示器15は、例えば、液晶表示画面などの表示画面を備える各種のディスプレイや、フロントウィンドウ上を表示画面とした投影により表示を行なうヘッドアップディスプレイや、各種の灯体などであり、処理装置17から出力される制御信号に応じた表示や点灯または消灯をおこなう。
スピーカー16は、処理装置17から出力される制御信号に応じて、警報音や音声などを出力する。
【0022】
処理装置17は、例えば、測位信号受信部21と、自律航法処理部22と、現在位置検出部23と、位置判定部24と、加速度算出部25と、周波数分析部26と、単回帰直線算出部27と、傾き極大値算出部28と、渋滞予測部29と、走行制御部30と、報知制御部31とを備えて構成されている。
【0023】
測位信号受信部21は、例えば人工衛星を利用して車両の位置を測定するためのGPS(Global Positioning System)信号などの測位信号をアンテナ21aにより受信する。
自律航法処理部22は、各種センサ12から出力される車両の速度およびヨーレートなどに基づく自律航法の演算処理を実行する。
現在位置検出部23は、測位信号受信部21により取得された測位信号および自律航法処理部22により実行された自律航法の演算処理の処理結果に基づき、車両の現在位置を検出する。
【0024】
位置判定部24は、地図データ記憶部11に記憶された信号機の位置座標の情報と、現在位置検出部23により検出された車両の現在位置とに基づき、信号機が現在位置から所定範囲内に存在するか否かを判定し、この判定結果を出力する。
【0025】
また、加速度算出部25は、例えば、各種センサ12から出力された車両の速度の情報または現在位置検出部23により検出された現在位置の情報に基づき、速度の経時的な変化または現在位置の経時的な変化から車両の加速度を算出する。
【0026】
周波数分析部26は、加速度算出部25により算出された車両の加速度に対して周波数分析を行ない、周波数に対応するパワースペクトルを算出する。
例えば、2つの異なる適宜の走行状態において加速度算出部25により検出された代表車両の加速度に対して周波数分析が行なわれることで、図2(A),(B)に示すようなパワースペクトルとして周波数に対応した加速度スペクトル51,53が算出される。
【0027】
単回帰直線算出部27は、周波数分析部26により算出されたパワースペクトルにおいて単回帰直線を算出する。
例えば、図2(A),(B)に示す加速度スペクトル51,53に対して、単回帰直線52,54が算出される。
【0028】
傾き極大値算出部28は、単回帰直線算出部27により算出された単回帰直線に対して、所定周波数範囲での単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する。
【0029】
例えば、傾き極大値算出部28は、図2(A),(B)に示す単回帰直線52,54に対して、所定周波数範囲Y(例えば、数秒から数分の時間範囲に対応する周波数範囲であって、0〜0.5Hzなど)でのスペクトル値の変化Xに基づき、傾きα1,α2(=Y/X)を算出する。
【0030】
渋滞予測部29は、傾き極大値算出部28により算出された傾き極大値に応じて、渋滞が発生する可能性あるいは既に渋滞が発生している可能性を示す渋滞予兆度を算出する。
渋滞予兆度は、例えば傾き極大値に応じたパラメータであって、車両の進行方向前方において渋滞となる可能性が高い場合に大きくなり、可能性が低い場合に小さくなる。
また、渋滞予兆度の大小を判定する所定の閾値については、任意の値を定めることができるが、一般的に(1/f)ゆらぎ特性として知られている「−45度」を所定の閾値とすることができる。
【0031】
例えば、単回帰直線算出部27により算出された単回帰直線に対して、傾きαが小さい場合は、先行車両から受ける衝撃波(振動、ゆらぎ)が小さい場合に相当し、先行車両に対する反応遅れが小さく、車間距離が長くなって車群が形成され難い、すなわち渋滞に至る可能性が小さい場合に相当する。この場合、渋滞予兆度は小さな値をとる。
逆に、傾きαが大きい場合は、先行車両から受ける衝撃波(振動、ゆらぎ)が大きい場合に相当し、先行車両に対する反応遅れが大きく、車群が密になりやすく、すなわち渋滞に至る可能性が大きい場合に相当する。この場合、渋滞予兆度は大きな値をとる。
なお、ここで言う衝撃波(振動、ゆらぎ)とは、車両が加速および減速の動作を繰り返すことにより、この動作(前後の動き)を後方の車両に一種の振動として伝播させることを意味する。
【0032】
したがって、渋滞予測部29は、単回帰直線算出部27により算出された単回帰直線の傾きαの大きさ、より具体的には、傾き極大値算出部28によって算出された傾き極大値に応じて渋滞予兆度を算出する。
例えば、渋滞予測部29は、傾き極大値(x)と渋滞予兆度(y)との関係を示す関数(例えば、y=ax+bなど)を予め求めておき、傾き極大値算出部28によって算出された傾き極大値(x)に対する渋滞予兆度(y)を算出する。
なお、渋滞予測部29は、傾き極大値と対応する渋滞予兆度の値との関係を予め作成してテーブルとしてメモリに格納しておき、算出された傾き極大値に対する渋滞予兆度をそのテーブルを参照して求めることもできる。
【0033】
さらに、渋滞予測部29は、算出した渋滞予兆度および地図データ記憶部34に記憶されている地図データに基づき、車両において渋滞回避さらには渋滞解消に必要とされる走行の支援を示す走行支援情報を作成する。
走行支援情報は、例えば、渋滞の発生を未然に阻止することを可能とするために車両の走行制御に用いられたり、車両の表示器15やスピーカー16から運転者に報知される情報である。より詳細には、例えば、車両において渋滞回避さらには渋滞解消に必要とされる自動走行制御での目標車速や目標車間距離の情報や、先行車両に対する車間距離の増大や加速動作の抑制などの所定の運転操作の情報や、車両に対する経路探索や経路誘導の情報などである。
【0034】
また、渋滞予測部29は、位置判定部24から出力された判定結果において、信号機が現在位置から所定範囲内に存在すると判定されている場合には、渋滞予兆度と現在位置から信号機までの距離とが所定の相関を有するとして、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を推定する。
【0035】
なお、渋滞予測部29は、位置判定部24から出力された判定結果において、信号機が現在位置から所定範囲内に存在すると判定されている場合には、さらに、傾き極大値算出部28によって算出された傾き極大値が周期性を有しているか否かを判定して、傾き極大値が周期性を有すると判定した場合に、渋滞予兆度と現在位置から信号機までの距離とが所定の相関を有するとして、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を推定してもよい。
この場合には、予め信号機の点灯状態が変化する際の周期性を記憶しておき、算出した傾き極大値の周期性が、信号機の点灯状態の周期性に関連するものであるか否かを判定してもよい。
【0036】
渋滞予測部29は、例えば、車両の進行方向前方において渋滞が発生する可能性の大小を示す渋滞予兆度が大きい場合には、近くに信号機が存在することに起因して渋滞予兆度が増大している、との判断に基づいて、また、傾き極大値が有する周期性は信号機の周期的な点灯状態の変化に起因する、との判断に基づいて、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を推定する。
このため、渋滞予測部29は、予め渋滞予兆度の大小と現在位置から信号機までの距離の長短との相関を示すマップなどのデータを記憶しており、このデータを参照して、現在位置から信号機までの距離を取得する。
【0037】
さらに、渋滞予測部29は、傾き極大値算出部28によって算出された傾き極大値は、信号機の点灯状態(例えば、青色、黄色、赤色の点灯や点滅など)に応じて変化する、との判断に基づいて、渋滞予兆度に応じて信号機の点灯状態を推定する。
このため、渋滞予測部29は、予め渋滞予兆度の大小と信号機の点灯状態との相関を示すマップなどのデータを記憶しており、このデータを参照して、信号機の点灯状態を取得する。
このデータにおいては、例えば渋滞予兆度が大きい場合には、信号機が赤色、黄色の点灯状態が対応付けられ、例えば渋滞予兆度が小さい場合には、信号機が青色の点灯状態が対応付けられている。
【0038】
そして、渋滞予測部29は、取得した現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報と、地図データ記憶部34に記憶されている地図データとに基づき、車両において不要な加減速を抑制するために必要とされる走行の支援を示す走行支援情報を作成する。
この走行支援情報は、例えば、信号機をスムースに通過あるいは迂回することを可能とするために車両の走行制御に用いられたり、車両の表示器15やスピーカー16から運転者に報知される情報である。より詳細には、例えば、車両において信号機のスムースな通過に必要とされる自動走行制御での目標車速や目標車間距離の情報や、先行車両に対する車間距離の増大や加速動作の抑制などの所定の運転操作の情報や、車両に対する経路探索や経路誘導の情報などである。
【0039】
走行制御部30は、渋滞予測部29によって算出された渋滞予兆度および走行支援情報と、スイッチ13から出力される各種の信号と、各種センサ12から出力される車両の走行状態に係る検出結果の信号とに基づき、例えばスロットルアクチュエータとブレーキアクチュエータとステアリングアクチュエータとを駆動制御することによって、車両の走行を制御する。
【0040】
例えば、走行制御部30は、スイッチ13から出力される信号に応じて、自動走行制御の実行を開始または停止したり、自動走行制御での目標車速や目標車間距離の設定や変更を行なう。
【0041】
また、例えば、走行制御部30は、渋滞予測部29によって算出された渋滞予兆度において車両の進行方向前方に渋滞が発生する可能性が高いこと(あるいは、既に渋滞が発生している可能性が高いことなど)が示されている場合には、車両が渋滞を回避するようにして、さらには車両の後続車両が渋滞を起こし難いようにして、あるいは、車両の周辺の渋滞を解消するようにして、必要とされる目標車速や目標車間距離を設定したり、車両の走行状態を変更する。
そして、これらの目標車速や目標車間距離を維持するような自動走行制御(例えば、実際の車速を目標車速に一致させる定速走行制御や、他車両(例えば、先行車両など)に対する実際の車間距離を目標車間距離に一致させる車間距離制御(例えば、追従走行制御など)を行なう。
【0042】
また、例えば、走行制御部30は、渋滞予測部29によって作成された走行支援情報に応じて、車両が渋滞を回避するようにして、さらには車両の後続車両が渋滞を起こし難いようにして、あるいは、車両の周辺の渋滞を解消するようにして、必要とされる目標車速や目標車間距離を設定したり、車両の走行状態を変更する。
【0043】
また、例えば、走行制御部30は、渋滞予測部29によって作成された走行支援情報が、渋滞予兆度に応じた現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報に基づくものである場合には、この走行支援情報に応じて、不要な加減速を抑制するようにして、必要とされる目標車速や目標車間距離を設定したり、車両の走行状態を変更する。
【0044】
報知制御部31は、渋滞予測部29によって算出された渋滞予兆度および走行支援情報に基づき、表示器15とスピーカー16とを制御することによって、各種の報知動作を制御する。
【0045】
例えば、報知制御部31は、渋滞予測部29によって算出された渋滞予兆度において車両の進行方向前方に渋滞が発生する可能性が高いこと(あるいは、既に渋滞が発生している可能性が高いことなど)が示されている場合には、例えば、表示器15の表示画面での表示や灯体の点灯または消灯などを制御して、また、スピーカー16からの警報音や音声などの出力を制御して、これらの渋滞に係る情報を車両の乗員に報知する。
【0046】
また、例えば、報知制御部31は、渋滞予測部29によって算出された渋滞予兆度または走行支援情報に応じて、車両が渋滞を回避するようにして、さらには車両の後続車両が渋滞を起こし難いようにして、あるいは、車両の周辺の渋滞を解消するようにして、必要とされる運転操作の指示(例えば、先行車両に対する車間距離の増大や加速動作の抑制など)を報知する。
【0047】
例えば表示器15では、渋滞発生の有無を示す2色信号(青色と赤色など)の表示が切り替えられたり、渋滞発生を示す単色の灯体の点灯や点滅が行なわれたり、渋滞発生を示す警報メッセージの出力が行なわれる。
例えばスピーカー16では、渋滞発生を示す警報音や警報音声の出力が行なわれる。
また、例えば、走行支援情報の内容が表示器15やスピーカー16から運転者に報知される。
【0048】
また、例えば、報知制御部31は、渋滞予測部29によって渋滞予兆度に応じた現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報が取得された場合には、例えば、表示器15の表示画面での表示や灯体の点灯または消灯などを制御して、また、スピーカー16からの警報音や音声などの出力を制御して、これらの信号機に係る情報を車両の乗員に報知する。
【0049】
また、例えば、報知制御部31は、渋滞予測部29によって作成された走行支援情報が、渋滞予兆度に応じた現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報に基づくものである場合には、この走行支援情報に応じて、信号機をスムースに通過あるいは迂回することを可能とし、不要な加減速を抑制するようにして、必要とされる運転操作の指示(例えば、先行車両に対する車間距離や速度の増減や経路誘導など)を報知する。
【0050】
本実施の形態によるナビゲーション装置10は上記構成を備えており、次に、このナビゲーション装置10の動作について説明する。
【0051】
先ず、例えば図3に示すステップS01においては、各種センサ12の車速センサにより車両の速度を検出し、現在位置検出部23により車両の現在位置を検出する。
次に、ステップS02においては、車両の速度または現在位置に基づき、速度の経時的な変化または現在位置の経時的な変化から、車両の加速度を算出する。
【0052】
次に、ステップS03においては、車両の加速度に対して周波数分析を行ない、周波数に対応するパワースペクトルを算出する。
次に、ステップS04においては、パワースペクトルにおいて単回帰直線を算出し、所定周波数範囲での単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する。
【0053】
次に、ステップS05においては、傾き極大値(例えば、所定値以上の傾き極大値など)が算出されたか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS01に戻る。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS06に進む。
そして、ステップS06においては、傾き極大値に応じて、渋滞が発生する可能性あるいは既に渋滞が発生している可能性を示す渋滞予兆度を算出する。
【0054】
次に、ステップS07においては、地図データ記憶部11に記憶された信号機の位置座標の情報を取得する。
次に、ステップS08においては、信号機が車両の現在位置から所定範囲内に存在するか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS12に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS09に進む。
【0055】
次に、ステップS09においては、傾き極大値が周期性を有しているか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS12に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS10に進む。
次に、ステップS10においては、予め記憶している渋滞予兆度の大小と現在位置から信号機までの距離の長短との相関を示すマップなどのデータを参照して、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を取得する。
次に、ステップS11においては、予め記憶している渋滞予兆度の大小と信号機の点灯状態との相関を示すマップなどのデータを参照して、渋滞予兆度に応じて信号機の点灯状態を取得する。
【0056】
そして、ステップS12においては、算出した渋滞予兆度および地図データに基づき、車両において渋滞回避さらには渋滞解消に必要とされる走行の支援を示す走行支援情報を作成する。
なお、ステップS12において、算出した渋滞予兆度および地図データに加えて、さらに車両の現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報を取得している場合には、例えば信号機をスムースに通過あるいは迂回することを可能とし、車両において不要な加減速を抑制するために必要とされる走行の支援を示す走行支援情報を作成する。
【0057】
そして、ステップS13においては、渋滞予兆度および走行支援情報に応じて、さらに車両の現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報を取得している場合には、これらの情報にも応じて、報知制御および走行制御を実行し、エンドに進む。
【0058】
上述したように、本実施の形態によるナビゲーション装置10によれば、現在位置検出部23により検出される現在位置の精度が低い場合であっても、現在位置から所定範囲内に信号機が存在すると判定される状態において、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を精度良く推定することができる。
例えば車両の進行方向前方において渋滞が発生する可能性の大小を示す渋滞予兆度が大きい場合には、近くに信号機が存在することに起因して渋滞予兆度が増大していると看做すことができる。
【0059】
このため、例えば予め渋滞予兆度の大小と現在位置から信号機までの距離の長短との相関を把握しておくことにより、渋滞予測部29により算出された渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を精度良く推定することができる。
しかも、信号機の座標位置の情報はナビゲーション装置が通常に用いる地図データに備えられ、渋滞予兆度は車両に通常に搭載される加速度センサなどにより検出される加速度に基づいて算出されることから、現在位置から信号機までの距離を推定するための専用の機器を追加的に備える必要が無く、装置構成が複雑化したり、装置構成に要する費用が嵩むことを防止することができる。
【0060】
さらに、渋滞予兆度は傾き極大値算出部28により算出される傾き極大値に応じたパラメータであることに加えて、信号機が現在位置から所定範囲内に存在する場合には、信号機の周期的な点灯状態の変化に起因して傾き極大値が周期性を有すると看做すことができ、傾き極大値が周期性を有する場合に渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を推定することにより、推定結果の信頼性を向上させることができる。
【0061】
さらに、渋滞予兆度は傾き極大値算出部28により算出される傾き極大値に応じたパラメータであることに加えて、信号機が現在位置から所定範囲内に存在する場合には、傾き極大値は信号機の点灯状態(例えば、青色、黄色、赤色の点灯や点滅など)に応じて変化すると看做することができ、渋滞予兆度に応じて信号機の点灯状態を精度良く推定することができる。
例えば渋滞予兆度が大きい場合には、信号機が赤色、黄色の点灯状態であると推定することができ、例えば渋滞予兆度が小さい場合には、信号機が青色の点灯状態であると推定することができる。
【0062】
さらに、車両の進行方向前方に存在する信号機の点灯状態に応じて車両の不要な加減速を防止するように走行を支援する走行支援情報を作成することができ、この走行支援情報によって車両のスムースな走行および車両の燃費向上を促すことができる。
【0063】
なお、上述した実施の形態においては、例えば図4に示す変形例に係るナビゲーション装置10のように、車両の加速度に加えて、車両と先行車両との車間距離の情報に基づいて、渋滞予測の演算を行なってもよい。
この変形例に係るナビゲーション装置10の構成において、上述した実施の形態のナビゲーション装置10の構成と異なる点は、例えば、レーダ装置41と、先行車両検知部42と、車間距離算出部43と、車間距離分布推定部44と、共分散最小値算出部45と、相関演算部46と、が追加されている点である。
【0064】
つまり、変形例のナビゲーション装置10は、地図データ記憶部11と、各種センサ12と、スイッチ13と、各種アクチュエータ14と、表示器15と、スピーカー16と、処理装置17と、レーダ装置41とを備えて構成されている。
そして、処理装置17は、例えば、測位信号受信部21と、自律航法処理部22と、現在位置検出部23と、位置判定部24と、加速度算出部25と、周波数分析部26と、単回帰直線算出部27と、傾き極大値算出部28と、渋滞予測部29と、走行制御部30と、報知制御部31と、先行車両検知部42と、車間距離算出部43と、車間距離分布推定部44と、共分散最小値算出部45と、相関演算部46とを備えて構成されている。
【0065】
レーダ装置41は、例えば、車両の進行方向の前方に設定された検出対象領域を複数の角度領域に分割し、各角度領域を走査するようにして、赤外光レーザやミリ波などの電磁波の発信信号を発信する。そして、各発信信号が車両の外部の物体(例えば、先行車両など)や歩行者などによって反射されることで生じた反射波の反射信号を受信する。そして、発信信号および反射信号に応じた信号を処理装置17に出力する。
【0066】
先行車両検知部42は、レーダ装置41から出力された信号に基づき、車両の進行方向の前方に存在する先行車両を検知する。
車間距離算出部43は、先行車両検知部42により検知された車両の各先行車両に対して車間距離を検出する。
【0067】
車間距離分布推定部44は、車間距離算出部43により検出された車両の各先行車両に対する車間距離と、先行車両の検知台数とに基づき、車間距離分布を推定する。
【0068】
例えば、車間距離分布推定部44は、車間距離と車両台数の情報から車両の前方での車群(すなわち、車間距離が比較的緻密な先行車両の集合)が検知される場合、変分ベイズなどの分布推定法を用いて各車群に対してガウス分布(確率密度分布)を適用する。
例えば2つの車群が検知される場合は、2つの車群を2つのガウス分布を線形結合した分布として捉えることができ、例えば図5に示すように、2つのガウス分布を表わす確率関数P1(X)、P2(X)の和(重ね合わせ)として全体の分布を表す確率関数P(X)を得る。
【0069】
ここで、ガウス分布(確率関数)をN(x|μ,Σ)で表すと、図5に例示されるような複数のガウス分布の重ね合わせは、下記数式(1)に示すように記述される。
【0070】
【数1】

【0071】
なお、上記数式(1)において、例えば任意の自然数kに対して、期待値(平均値)μは密度が最も高い位置を表す。共分散値(行列)Σは、分布のゆがみ、すなわち期待値μからどの方向に離れると密度がどのように減るかを表す。ガウス分布の混合係数(混合比)π(0≦π≦1)は、各ガウス分布がどれだけ寄与しているかの割合を表し、いわゆる確率とされている。
【0072】
共分散最小値算出部45は、例えば上記した確率関数P(X)から得られる尤度関数が最大となるパラメータ(共分散)を求めるために変分ベイズなどを用いて算出処理をおこなう。
例えば、共分散最小値算出部45は、図5で例示されるような複数のガウス分布の重ね合わせとして得られる確率関数P(X)に対しては、各ガウス分布に対して共分散値Σを算出する。そして、各ガウス分布に対して得られた複数の共分散値Σの最小値を算出する。
【0073】
例えば図6(A)に示すような共分散値Σの分布のグラフ56は、共分散値Σに係る変数δ(例えば、共分散値Σそのものなど)に対して、変数δ=0においてシャープなグラフとなっており、車群の変動が無い、すなわち車間距離がほぼ一定の走行状態にあることを示唆している。
一方、図6(B)に示すような共分散値Σの分布は、共分散値Σに係る変数δの負の領域の値δ1でピークを持つグラフ57と正の領域の値δ2でピークを持つグラフ58の2つのグラフにより構成されている。各グラフ57、58は共分散値Σに係る変数δに対して所定の変動幅を有しており、車群の変動が有る、言い換えれば車間距離が異なる車両2の集合が複数存在することを示唆している。
そして、例えば図6(A)において、共分散値Σの最小値(共分散最小値)はほぼゼロとなり、例えば図6(B)において、共分散値Σの最小値は2つの値δ1,δ2のうち小さいほうの値δ1となる。
【0074】
相関演算部46は、傾き極大値算出部28により算出された傾き極大値と、共分散最小値算出部45によって算出された共分散最小値との相関マップを作成する。
例えば図7に示す傾き極大値と共分散最小値との相関マップのイメージ(概念)図では、横(X)軸を共分散最小値Xとし、縦(Y)軸を傾き極大値Yとして、変数(X、Y)の相関をマッピングしている。
【0075】
例えば図7に示す相関マップでは、2つの領域59,60が示されており、2つの領域59,60が重なっている境界領域61が存在している。領域59は比較的共分散最小値が小さく、車群の変動が小さい状態、言い換えれば車間距離が比較的一定しているような状態に相当する。逆に領域60は比較的共分散最小値が大きく、車群の変動が大きい状態、言い換えれば車間距離が異なる車の集合が複数存在する状態に相当する。
境界領域61は、車群の変動が小さい状態から大きい状態へ遷移する領域であり、この境界領域61に相当する車群の状態を定量的に見出すことによって、渋滞予測をおこなうことができる。
【0076】
例えば図8に示すような交通密度と交通量の関係を示す図において、グラフの横(X)軸は、適宜の車両から所定距離内に存在する他の車両の台数を意味する交通密度であり、この交通密度の逆数が車間距離に相当する。縦(Y)軸は所定位置を通過する車両数を意味する交通量である。
例えば図8に示すような交通密度と交通量の関係を示す図は、いわば車両の流れを意味する交通流を表わしていると捉える事ができる。
【0077】
図8で例示される交通流は、大きく4つの状態(領域)に区分けすることができる。
第1の状態は、渋滞が発生する可能性が低い自由流の状態であって、ここでは一定以上の加速度および車間距離が確保可能である。
第2の状態は、車両の制動状態と加速状態が混合する混合流の状態である。この混合流の状態は、渋滞流に移行する前の状態であって、運転者による運転の自由度が低下して、交通密度の増大(車間距離の縮小)によって渋滞流へと移行する確率が高い状態である。
第3の状態は、渋滞を示す渋滞流の状態である。
第4の状態は、自由流の状態から混合流の状態へ移行する間に存在する遷移状態である臨界領域である。この臨界領域は、自由流に比べて交通量および交通密度が高い状態であって、交通量の低下と交通密度の増大(車間距離の縮小)によって混合流へと移行する状態である。なお、臨界領域は、準安定流、メタ安定流と呼ばれることもある。
【0078】
そして、例えば図7に示される領域59は、例えば図6に示される自由流および臨界領域を含むことになり、例えば図7に示される領域60は、例えば図8に示される混合流および渋滞流の状態を含むことになる。
したがって、例えば図7に示される境界領域は、例えば図8に示される臨界領域と混合流の状態との双方を含む境界状態であり、例えば図8に示される臨界領域の境界とされる。
この臨界領域の境界を含む臨界領域を定量的に把握することによって、混合流の状態への移行を抑制して渋滞の発生を防ぐことが可能である。
【0079】
以下に、例えば車間距離分布についての共分散最小値の対数と加速度スペクトルについての傾き極大値の対数との相関マップを示す図9(A),(B)を参照しながら臨界領域の定量化について説明する。
図9(A)は図8に示される交通流のマップを簡略化して描いた図であり、図9(B)は共分散最小値の対数と傾き極大値の対数との相関マップを示す。
図9(B)に示される共分散最小値の対数と傾き極大値の対数は、傾き極大値算出部28により算出された傾き極大値と共分散最小値算出部45によって算出された共分散最小値との対数値として算出され、臨界領域における相転移状態のパラメータ化を描写したものである。
【0080】
例えば図9(B)において、領域62は図9(A)に示される臨界領域を含み、領域63は図9(A)に示される混合流の状態を含む。臨界線64は、これを越えて混合流の状態へ移行すると渋滞に至ってしまう可能性が高い臨界点を意味する。各領域62,63の境界領域65は臨界線64直前の臨界領域の境界に相当する。
なお、図9(B)に例示される相関マップは処理装置17内のメモリに格納される。
【0081】
この変形例の渋滞予測部29は、相関演算部46によって作成された相関マップにおいて、臨界領域の境界の状態が存在するか否かを判定し、この判定結果に応じて渋滞予兆度を算出する。さらに、相関マップにおいて、臨界領域の境界の状態が存在する場合には、渋滞への移行を阻止すべく、地図データ記憶部11に記憶されている地図データを参照して、走行支援情報を作成する。
【0082】
なお、この変形例での渋滞予兆度は、例えば、相関マップにおいて臨界領域の境界の状態が存在する場合に対応して、所定の閾値よりも高くなり、相関マップにおいて臨界領域の境界の状態が存在しない場合に対応して、所定の閾値よりも低くなる。
【0083】
この変形例によるナビゲーション装置10は上記構成を備えており、次に、このナビゲーション装置10の動作について説明する。
【0084】
先ず、例えば図10に示すステップS21においては、各種センサ12の車速センサにより車両の速度を検出し、現在位置検出部23により車両の現在位置を検出する。
次に、ステップS22においては、車両の速度または現在位置に基づき、速度の経時的な変化または現在位置の経時的な変化から、車両の加速度を算出する。
【0085】
次に、ステップS23においては、車両の加速度に対して周波数分析を行ない、周波数に対応するパワースペクトルを算出する。
次に、ステップS24においては、パワースペクトルにおいて単回帰直線を算出し、所定周波数範囲での単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する。
【0086】
次に、ステップS25においては、傾き極大値(例えば、所定値以上の傾き極大値など)が算出されたか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS21に戻る。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS26に進む。
【0087】
次に、ステップS26においては、車両の進行方向前方に存在する先行車両を検知し、車両の各先行車両に対する車間距離を算出する。
次に、ステップS27においては、車両の各先行車両に対する車間距離と、複数の先行車両の検出台数とに基づき、車間距離分布を推定する。
次に、ステップS28においては、車間距離分布から共分散の最小値を算出する。
次に、ステップS29においては、共分散の最小値と傾き極大値との相関関係から車両の進行方向前方の車群分布を推定する。
【0088】
次に、ステップS30においては、共分散最小値と加速度スペクトルの傾き極大値との相関マップにおいて臨界領域の境界の状態が存在するか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS21に戻る。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS31に進む。
次に、ステップS31においては、傾き極大値に応じて、渋滞が発生する可能性あるいは既に渋滞が発生している可能性を示す渋滞予兆度を算出する。
【0089】
次に、ステップS32においては、地図データ記憶部11に記憶された信号機の位置座標の情報を取得する。
次に、ステップS33においては、信号機が車両の現在位置から所定範囲内に存在するか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS37に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS34に進む。
【0090】
次に、ステップS34においては、傾き極大値が周期性を有しているか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS37に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS35に進む。
次に、ステップS35においては、予め記憶している渋滞予兆度の大小と現在位置から信号機までの距離の長短との相関を示すマップなどのデータを参照して、渋滞予兆度に応じて現在位置から信号機までの距離を取得する。
次に、ステップS36においては、予め記憶している渋滞予兆度の大小と信号機の点灯状態との相関を示すマップなどのデータを参照して、渋滞予兆度に応じて信号機の点灯状態を取得する。
【0091】
そして、ステップS37においては、算出した渋滞予兆度および地図データに基づき、車両において渋滞回避さらには渋滞解消に必要とされる走行の支援を示す走行支援情報を作成する。
なお、ステップS37において、算出した渋滞予兆度および地図データに加えて、さらに車両の現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報を取得している場合には、例えば信号機をスムースに通過あるいは迂回することを可能とし、車両において不要な加減速を抑制するために必要とされる走行の支援を示す走行支援情報を作成する。
【0092】
そして、ステップS38においては、渋滞予兆度および走行支援情報に応じて、さらに車両の現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の情報を取得している場合には、これらの情報にも応じて、報知制御および走行制御を実行し、エンドに進む。
【0093】
この変形例に係るナビゲーション装置10によれば、車両の加速度に加えて、車両と先行車両との車間距離という容易に取得可能な情報を組み合わせて渋滞予兆度を算出することにより、渋滞予兆度の算出精度および信頼性を向上させることができ、現在位置から信号機までの距離および信号機の点灯状態の推定精度を向上させることができる。
【0094】
なお、上述した実施の形態の変形例においては、例えばレーダ装置41の代わりに、他車両と通信可能な車載通信装置を備え、この車載通信装置によって他車両の現在位置の情報を取得して、車両と先行車両との車間距離を算出してもよい。
【符号の説明】
【0095】
10 ナビゲーション装置
11 地図データ記憶部(記憶手段)
12 各種センサ(加速度検出手段)
23 現在位置検出部(現在位置取得手段)
24 位置判定部(位置判定手段)
25 加速度算出部(加速度検出手段)
26 周波数分析部(加速度スペクトル算出手段)
27 単回帰直線算出部(極大値算出手段)
28 傾き極大値算出部(極大値算出手段)
29 渋滞予測部(渋滞予兆度算出手段、推定手段、周期性判定手段、走行支援手段)
42 先行車両検知部
43 車間距離算出部
44 車間距離分布推定部
45 共分散最小値算出部
46 相間演算部
ステップS09、S34 周期性判定手段
ステップS10、S35 推定手段
ステップS12、S37 走行支援手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号機の位置情報を有する道路情報を記憶する記憶手段と、
車両の現在位置を取得する現在位置取得手段と、
前記車両の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記加速度検出手段により検出され前記加速度の周波数分析から周波数に対応するパワースペクトルを算出する加速度スペクトル算出手段と、
前記加速度スペクトル算出手段により算出された前記パワースペクトルに基づき渋滞予兆度を算出する渋滞予兆度算出手段と、を備えるナビゲーション装置であって、
前記記憶手段に記憶された前記位置情報および前記現在位置取得手段により取得された前記現在位置に基づき、前記信号機が前記現在位置から所定範囲内に存在するか否かを判定する位置判定手段と、
前記位置判定手段により前記信号機が前記現在位置から所定範囲内に存在すると判定された場合に、前記渋滞予兆度算出手段により算出された前記渋滞予兆度に応じて前記現在位置から前記信号機までの距離を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記加速度スペクトル算出手段により算出された前記パワースペクトルの単回帰直線を演算し、所定周波数範囲での当該単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する極大値算出手段と、
前記極大値算出手段により算出された前記傾き極大値が周期性を有するか否かを判定する周期性判定手段と、を備え、
前記推定手段は、前記周期性判定手段により前記傾き極大値が周期性を有すると判定された場合に、前記渋滞予兆度と前記現在位置から前記信号機までの距離とが所定の相関を有するとして、前記渋滞予兆度に応じて前記距離を推定することを特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
前記加速度スペクトル算出手段により算出された前記パワースペクトルの単回帰直線を演算し、所定周波数範囲での当該単回帰直線の傾きの変化量の極大値を傾き極大値として算出する極大値算出手段を備え、
前記推定手段は、前記極大値算出手段により算出された前記傾き極大値に応じて、前記渋滞予兆度と前記信号機の点灯状態とが所定の相関を有するとして、前記渋滞予兆度に応じて前記点灯状態を推定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
前記推定手段による前記信号機の点灯状態の推定結果に応じて、前記車両の加減速を抑制するように走行を支援する走行支援情報を作成し、該走行支援情報を前記車両に提供する走行支援手段を備えることを特徴とする請求項3に記載のナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−104815(P2013−104815A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249738(P2011−249738)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】