説明

窯業建材用複層塗膜形成方法

【課題】ベースクリヤー塗料組成物を塗装した後、乾燥工程を経ることなく、クリヤー塗料組成物を塗装する場合においても、良好な塗膜外観を有する塗膜を形成することができる、窯業建材用複層塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】窯業建材製造ラインにおいて、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装して水性ベース塗膜を形成する工程、
得られた水性ベース塗膜の上に、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、および
得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる工程、
を包含する、窯業建材用複層塗膜形成方法であって、
この水性ベース塗料組成物は、粘度測定開始から10分後における複素粘度増加率が300〜3,000%である、窯業建材用複層塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業建材用複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅などの建造物の外壁などに用いられる建築材料には、住宅購入者および利用者などの好みに応じた、多彩な色彩および意匠性が求められている。そして近年のユニット工法の発展に伴い、建材製造ラインにおける生産時において予め塗装され、そして塗装された建材が施工現場に移送されて組み立てられる、いわゆるプレハブ工法化が進んでいる。
【0003】
このようなプレハブ工法で仕上げる場合において、住宅の外壁などには、窯業建材(窯業系サイディング)が広く用いられている。この窯業建材は、従来のモルタル壁などと比べて工期が短くそして地震被害が少ないこと、優れた耐火性を有すること、様々な住宅外壁意匠を提供できることなど、種々の利点を有している。この窯業建材(窯業系サイディング)は、一般に、セメント、ケイ酸質原料、繊維質原料、混和材料などを用いて板状に成型し、乾燥(養生・硬化)させることによって製造される、JIS A 5422に規定された建材である。このような窯業建材は、製造時において、その表面に、耐水性、耐透水性などを向上させることを目的としたシーラー層を設けた後、所望の意匠および着色などを付与すると共に、建材の耐候性および耐湿性などを向上させることを目的とした中塗りおよび/または上塗り塗装が施されることが多い。
【0004】
窯業建材の中塗りおよび/または上塗り塗装においては、ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物が順次塗装されることが多い。この場合、ベース塗料組成物を塗装した後に、得られたベース塗膜を加熱乾燥させたのち、その上にクリヤー塗料組成物を塗装し、得られたクリヤー塗膜を加熱乾燥させ、複層塗膜を形成させることが一般的である。
【0005】
近年、上記従来の塗膜形成方法には、省エネルギー性や生産性向上が要望されている。 特に、加熱乾燥工程が削減または短縮できれば、環境負荷低減およびCO排出量削減の観点からも好ましい。しかしながら、従来のベース塗料組成物の場合、ベース塗料組成物を塗装して得られたベース塗膜を乾燥させることなく、クリヤー塗膜を設ける場合は、未乾燥のベース塗膜およびクリヤー塗膜において、各層を構成する塗料組成物が混じり合ってしまう混層の不具合が生じる。この混層は、塗膜外観不良、塗膜性能低下などの不具合をもたらすおそれがある。
【0006】
例えば、特許第4034579号明細書(特許文献1)には、(a)ガラス転移温度が−20〜70℃であるアクリル重合体水性分散体を主成分とする水性塗料組成物から形成される第一の塗膜層、および、(b)シリコーン含有アクリル重合体水性分散体を主成分とし、当該分散体の固形分中に当該固形分100質量部(固形分換算)あたり5〜60質量部の有機シリコーン単位を含有する水性塗料組成物からなり、前記第一の塗膜層上に形成された第二の塗膜層、を有する複層塗膜について記載されている(請求項1)。そしてこの複層塗膜は、住宅やビルなどの建築物の外壁、内壁または屋根、窯業用建材などの無機質建材などに適用できる高耐久性の複層塗膜であることが記載されている([0001]段落など)。この複層塗膜の形成においては、第一の塗膜層用水性塗料組成物をスプレー塗装した後、100℃で5分間乾燥させて第一の塗膜層を形成し、その後に第二の塗膜層用水性塗料組成物をスプレー塗装し、100℃で5分間乾燥させることによって、複層塗膜を形成している([0113]段落など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4034579号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、窯業建材用複層塗膜の形成において、ベースクリヤー塗料組成物を塗装した後、乾燥工程を経ることなく、クリヤー塗料組成物を塗装する場合においても、良好な塗膜外観を有する塗膜を形成することができる、複層塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
窯業建材製造ラインにおいて、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装して水性ベース塗膜を形成する工程、
得られた水性ベース塗膜の上に、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、および
得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる工程、
を包含する、窯業建材用複層塗膜形成方法であって、
この水性ベース塗料組成物は、アニオン性水性樹脂分散体(A)、水溶性または水分散性多官能アミン重合体(B)および揮発性塩基化合物(C)を含み、
この水性ベース塗料組成物は、回転軸方向の投影面積のうち40〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具を用いて複素粘度を測定した場合において、測定開始から10分後における複素粘度増加率が300〜3,000%である、
窯業建材用複層塗膜形成方法、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0010】
上記水性ベース塗料組成物がさらに粘性調整剤(D)を含むのが好ましい。
【0011】
また、上記多官能アミン重合体(B)が、重量平均分子量500〜300,000、アミン価100〜1,300mgKOH/gである、水溶性または水分散性多官能アミン重合体であり、
上記揮発性塩基化合物(C)が、アルキルアミンまたはアンモニアであり、
上記粘性調整剤(D)が、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
下記式(1)
【化1】

[式(1)中、RはHまたはCHであり、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは炭素数1〜2のアルキル基であり、Rは炭素数1〜60のアルキル基、炭素数7〜20のアルキルフェニル基、炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基、炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基、または、ジ−もしくはトリ−スチレン化フェニル基であり、nは3〜100である。]
で示される単量体を1種または2種以上 1〜60質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量100,000〜500,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)であるか、または、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量500,000〜2,000,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)であり、
上記多官能アミン重合体(B)のアミン価に対する、上記揮発性塩基化合物(C)の当量比が1〜5であるのが好ましい。
【0012】
また、上記アニオン性水性樹脂分散体(A)は、アクリル樹脂エマルション、シリコーン含有アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルションおよび塩化ビニル樹脂エマルションからなる群から選択される少なくとも1種である、酸価5〜30mgKOH/gを有するアニオン性水性樹脂分散体であるのが好ましい。
【0013】
また、上記水性ベース塗料組成物中に含まれる多官能アミン重合体(B)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.5〜8質量部であり、
上記水性ベース塗料組成物中に含まれる粘性調整剤(D)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましい。
【0014】
本発明はさらに、
アクリル樹脂エマルション、シリコーン含有アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルションおよび塩化ビニル樹脂エマルションからなる群から選択される少なくとも1種である、酸価5〜30mgKOH/gを有するアニオン性水性樹脂分散体(A)、
重量平均分子量500〜300,000、アミン価100〜1300mgKOH/gである、水溶性多官能アミン重合体(B)、
アルキルアミンまたはアンモニアである揮発性塩基化合物(C)、および、
粘性調整剤(D)、
を含む、ウェットオンウェット窯業建材塗装用水性ベース塗料組成物であって、
この粘性調整剤(D)が、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
下記式(1)
【化2】

[式(1)中、RはHまたはCHであり、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは炭素数1〜2のアルキル基であり、Rは炭素数1〜60のアルキル基、炭素数7〜20のアルキルフェニル基、炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基、炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基、または、ジ−もしくはトリ−スチレン化フェニル基であり、nは3〜100である。]
で示される単量体を1種または2種以上 1〜60質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量100,000〜500,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)であるか、または、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量500,000〜2,000,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)であり、
この多官能アミン重合体(B)の含有量は、このアニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.5〜8質量部であり、
この粘性調整剤(D)の含有量は、このアニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.1〜10質量部であり、および
この多官能アミン重合体(B)のアミン価に対する、揮発性塩基化合物(C)の当量比が1〜5である、
ウェットオンウェット窯業建材塗装用水性ベース塗料組成物、も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の窯業建材用複層塗膜形成方法は、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装し、次いで水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、そして得られた未乾燥の水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる工程を包含する方法である。このように本発明の窯業建材用複層塗膜形成方法は、水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた水性ベース塗膜を乾燥させることなく、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装できることを特徴としている。これにより、従来の塗料組成物を用いる場合において必要であった、水性ベース塗料組成物を塗装した後、水性クリヤー塗料組成物を塗装する前の乾燥工程を省略することが可能となっている。これにより、設備維持費およびエネルギーコストの削減、環境負荷低減(省エネルギー化、CO排出量削減)を達成することができ、さらに、塗装工程の短縮化を図ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明において複素粘度の測定に用いられる粘弾性測定用治具の態様を示す図であり、(a)は平面図、(b)は切断線A−Aにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の窯業建材用複層塗膜形成方法は、窯業建材製造ラインにおいて、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装して水性ベース塗膜を形成する工程、
得られた水性ベース塗膜の上に、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、および
得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる工程、
を包含する。そしてこの水性ベース塗料組成物として、以下に詳述するアニオン性水性樹脂分散体(A)、水溶性または水分散性多官能アミン重合体(B)および揮発性塩基化合物(C)を含むものを用いる。この水性ベース塗料組成物は、さらに粘性調整剤(D)を含むのが好ましい。
【0018】
この水性ベース塗料組成物は、回転軸方向の投影面積のうち40〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具を用いて複素粘度を測定した場合において、測定開始から10分後における複素粘度増加率が300〜3,000%であるという特徴がある。これにより、水性ベース塗料組成物を塗装した後、乾燥させていない状態で水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装しても、水性ベース塗膜および水性クリヤー塗膜における混層などの不具合が生じないという利点がある。上記複素粘度増加率が300%未満の場合は、ウェットオンウェットで塗装した場合に、水性ベース塗膜および水性クリヤー塗膜中における混層が生じるおそれがある。一方で増加率が3,000%を超える場合は、水性ベース塗料組成物の貯蔵安定性が損なわれるおそれがある。上記複素粘度増加率は500〜2,500%であるのがより好ましい。
【0019】
本明細書において「複素粘度増加率」とは、特定の粘弾性測定用治具を用いて水性ベース塗料組成物の複素粘度測定を行う場合において、測定開始時の複素粘度(η)および測定開始から10分後における複素粘度(η)を測定し、下記式:
複素粘度増加率=η/η×100
によって求められる率を意味する。
【0020】
水性ベース塗料組成物の複素粘度の測定は、回転型レオメータを有しており、そしてこの回転型レオメータは、台の上に試料をセットし、試料に接触させた平行円板に一定角周波数で正弦波のトルクを加え、発生する正弦波角度変位を測定すること、または試料に一定角周波数の正弦波変位を加え、発生する正弦波トルクを測定することで、試料の粘弾性を測定する、通常用いられる動的粘弾性装置を用いて測定することができる。
【0021】
より具体的には、下記機器および測定条件で、複素粘度を測定することができる。
測定機器:応力制御型粘弾性測定装置 Physica MCR 301 (Anton Paar社製)
温度条件(プレート温度):40℃(一定温度)
角周波数:6.3rad/s
粘弾性測定装置の測定セルに、塗料組成物を厚さ0.6mmとなるように入れて、この塗料組成物の上から、特定の粘弾性測定用治具を0.1mmの深さまで入れる。そして測定セルに対して、6.3rad/sの角周波数を加えてトルクを測定し、さらに正弦波角変位とトルク−角度変位間の位相差を測定することによって、塗料組成物の複素粘度を求めることができる。
【0022】
本発明における複素粘度の測定に用いられる粘弾性測定用治具は、回転軸方向の投影面積のうち40〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具を用いる。このような切り欠き部分を有していることにより、塗料組成物中の揮発成分が治具に妨害されずに揮発するようになる。これにより、塗料組成物の粘弾性を、実際の塗装工程における粘弾性挙動に則した状態で測定することが可能となる。
【0023】
この粘弾性測定用治具のより具体的な形状を図1に基づいて説明する。図1は、粘弾性測定用治具の具体的態様を示す図であり、図1(a)はその平面図、図1(b)は切断線A−Aにおける断面図である。図1に示されるように、粘弾性測定用治具1は、回転軸2と回転軸2の先端に同心的に取り付けられた円形体3とから構成されており、円形体3は、環状体4と、環状体4を回転軸2に支持する支持体5から構成されており、支持体5は、回転軸2から環状体4に向かって放射状に4つ形成されている。そして、回転軸2、環状体4および4つの支持体5により、4箇所に切り欠き部分6が形成される。
【0024】
さらに、環状体4と支持体5との接合部分および回転軸2と支持体5との接合部分は、強度確保のため、微小曲面に形成されている。そして、回転軸2の直径、環状体4の直径、幅および厚さ、支持体5の幅、厚さおよび数を適宜選定することにより、切り欠き部分6の面積の割合を40〜80%とすることができる。この切り欠き部分の面積の割合は50〜75%であるのがより好ましい。
【0025】
環状体4の直径(外径)は、10〜80mm、好ましくは20〜70mm、さらに好ましくは20〜60mmであり、例えば、従来から用いられている粘弾性測定用の治具(円板)の外形と同じにすれば、従来の粘弾性測定装置をそのまま利用することができる。また、環状体4の幅は、0.5〜20mm、好ましくは1〜10mm、さらに好ましくは1〜5mmであり、環状体4の厚さは、0.5〜5mm、好ましくは1〜3mm、さらに好ましくは1.2〜2mmである。支持体5の幅は、0.5〜20mm、好ましくは1〜10mm、さらに好ましくは1〜5mmであり、支持体5の厚さは、0.5〜5mm、好ましくは1〜3mm、さらに好ましくは1.2〜2mmであり、支持体5の数は、2〜15本、好ましくは3〜10本、さらに好ましくは3〜6本である。
【0026】
切り欠き部分6の面積の割合は、下記に従い求めることができる。例えば、図1aに示される粘弾性測定用治具1を例にすると、回転軸2の支持体5と接合される部分の直径を11.0mmとし、環状体4の直径を50.0mm、幅を5.0mmとし、支持体5の幅を5.0mmとした場合、円形体3の回転軸方向の投影面積は、約1963mmとなり、回転軸2、環状体4および支持体5の投影面積の合計は、約1091mmとなり、4箇所の切り欠き部分6の面積合計は、872mmとなる。したがって、切り欠き部分6の合計の面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約44%となり、非密着面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約56%となる。
【0027】
この粘弾性測定用治具1を構成する回転軸2、円形体3(環状体4、支持体5)の材料は、特に限定されるものではなく、粘弾性測定用治具1に使用される材料を適宜選択することができる。材料として例えば、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、銅、ステンレス等の金属や合金、セラミックス、ガラス等でもよく、同一の材料で構成しても数種類の材料を組み合わせてもよい。例えば、回転軸2、環状体4及び支持体5を同一の材料で形成しても、環状体4と支持体5とを同一の材料で構成し、回転軸2を異なる材料で構成することもできる。
【0028】
さらに、円形体3と回転軸2により構成される粘弾性測定用治具1からの熱の損出を少なくしたい場合は、円形体3と回転軸2の材料として、熱伝導性のよい金属は避け、熱伝導性の悪いセラミックやガラス等を用いるのがよい。一方、成形加工の容易性や材料の剛性の観点からは、アルミニウム、ステンレスが好ましい。
【0029】
本発明の方法において用いられる水性ベース塗料組成物は、回転軸方向の投影面積のうち40〜80%の切り欠き部分を有する円形体である上述の粘弾性測定用治具を用いて複素粘度を測定した場合において、測定開始から10分後における複素粘度増加率が300〜3,000%であることを特徴とする。本発明において、このような複素粘度増加率を有する水性ベース塗料組成物を用いることによって、水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた水性ベース塗膜を乾燥させることなく、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装する場合であっても、良好な複層塗膜を得ることが可能となっている。なお本明細書において「水性ベース塗膜の上に、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装」とは、水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた水性ベース塗膜に対して特段の乾燥手段を経ることなく、水性ベース塗膜が未乾燥の状態で水性クリヤー塗料組成物を塗装することを意味する。
【0030】
水性ベース塗料組成物
本発明の方法において用いられる水性ベース塗料組成物は、アニオン性水性樹脂分散体(A)、水溶性または水分散性多官能アミン重合体(B)および揮発性塩基化合物(C)を含む。この水性ベース塗料組成物は、さらに粘性調整剤(D)を含むのが好ましい。以下、各成分について詳述する。
【0031】
アニオン性水性樹脂分散体(A)
水性ベース塗料組成物に含まれるアニオン性水性樹脂分散体(A)は、塗膜形成樹脂成分である。アニオン性水性樹脂分散体(A)として、例えば、アクリル樹脂エマルション、シリコーン含有アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルションなどを用いることができる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アニオン性水性樹脂分散体(A)としては、アクリル樹脂エマルションまたはシリコーン含有アクリル樹脂エマルションを用いるのが好ましい。
【0032】
アニオン性水性樹脂分散体(A)は、酸価が5〜30mgKOH/gであるのが好ましく、5〜20mgKOH/gであるのがより好ましい。アニオン性水性樹脂分散体(A)の酸価が5mgKOH/g未満である場合は、水性ベース塗料組成物を塗装した後の乾燥性が低下してしまい、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。一方、アニオン性水性樹脂分散体(A)の酸価が30mgKOH/gを超える場合は、水性クリヤー塗料組成物中においてアニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能アミン重合体(B)とが一部反応してしまい増粘が生じるなど、塗料貯蔵安定性が劣ることとなるおそれがある。なお、本明細書において、酸価は固形分酸価を表し、JIS K 0070に記載される公知の方法によって測定することができる。
【0033】
アニオン性水性樹脂分散体(A)として用いられるアクリル樹脂エマルションとして、例えば、各種重合性単量体の重合によって得られるアクリル樹脂のエマルションなどが挙げられる。上記重合性単量体とは、分子中にビニル基等の不飽和結合を少なくとも1つ有するものをいい、アクリル酸やメタクリル酸の誘導体を含む。上記重合性単量体としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のシクロアルキル基含有重合性単量体;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のエチレン系不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルとεカプロラクトンとの反応物等のヒドロキシル基含有エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル単量体;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸単量体;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステル単量体;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体等を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。なお本明細書中で(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を指す。このようなアクリル樹脂エマルションを用いることによって、被塗物である建材との良好な密着性、および良好な耐候性を得ることができ、好ましい。
【0034】
上記アクリル樹脂エマルションは、コア部とシェル部とからなる多層構造粒子が分散されてなる重合体水性分散体を形成するものであってもよい。上記多層構造粒子は、コア部を形成する樹脂がガラス転移温度−70〜35℃であるアクリル重合体であり、シェル部を形成する樹脂がガラス転移温度25〜80℃であるアクリル重合体であることが好ましい。このような多層構造粒子が分散されてなる重合体水性分散体は、特開2002−12816号公報に記載された公知の製造方法によって調製することができる。
【0035】
上記アクリル重合体のガラス転移温度は、構成する単量体またはホモポリマーの既知のガラス転移温度および組成比に基づいて算出することができる。
【0036】
上記アクリル樹脂エマルションは、粒子径が20〜500nmであるのが好ましく、50〜200nmであるのがより好ましい。上記粒子径が20nm未満の場合は、塗料粘度が増大し、塗装作業性確保のためにより多くの希釈剤が必要となり、塗料固形分濃度の著しい低下が生じるおそれがあり、500nmを超える場合には、アクリル樹脂エマルションの安定性が低下するおそれがある。なお、本明細書中において、粒子径とは、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELS−800(大塚電子社製)などを使用して測定することができる。
【0037】
シリコーン含有アクリル樹脂エマルションは、例えば、上記重合性単量体に加えて、アルコキシシリル基含有重合性単量体を更に含有する単量体組成物の重合によって得られる重合体などを挙げることができる。
【0038】
上記アルコキシシリル基含有重合性単量体は、炭素数1〜14のアルコキシシリル基を含有する重合性単量体であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリブトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメトキシメチルシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシジメチルシリルプロピル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルメトキシジメチルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどを挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これらのうち、特に、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0039】
さらに、シリコーン含有アクリル樹脂エマルションは、有機シリコーン単位を導入してもよい。有機シリコーン単位を導入する方法としては、有機シリコーン化合物およびアクリル重合性単量体の混合物を乳化重合し加水分解、縮合反応およびラジカル重合を行う方法、シリコーン官能基を有する単量体を共重合する方法、アクリル重合体に対して有機シリコーン化合物を反応させることにより、アクリル重合体粒子表面に有機シリコーン化合物を結合させる方法等が挙げられる。上記の2以上の方法を組み合わせるものであってもよい。
【0040】
上記方法で使用する有機シリコーン化合物としては、特に限定されず、例えば、オルガノシラン、オルガノシランの加水分解物、オルガノシランの縮合物を挙げることができる。
【0041】
上記オルガノシランは、一般に、下記一般式(2)
(RnSi(OR4-n ・・・(2)

[式中、Rは、2個存在するときは同一または異なり、炭素数1〜8の1価の有機基を示す。Rは、同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。は0〜2の整数である。]
で表される。
【0042】
上記オルガノシランの加水分解物は、上記一般式(2)で表されるオルガノシランの、OR基が加水分解されている化合物である。上記オルガノシランに2〜4個含まれるOR基がすべて加水分解されている必要はなく、例えば、1個だけが加水分解されているもの、2個以上が加水分解されているもの、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0043】
上記オルガノシランの縮合物は、オルガノシランの加水分解物のシラノール基が縮合してSi−O−Si結合を形成したものである。上記有機シリコーン化合物は、シラノール基がすべて縮合しているものの他、僅かな一部のシラノール基が縮合したもの、縮合の程度が異なっているものの混合物等であってもよい。
【0044】
一般式(2)において、Rの炭素数1〜8の1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基等のアシル基;ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基等のほか、これらの基の置換誘導体等を挙げることができる。
【0045】
の置換誘導体における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基等を挙げることができる。ただし、これらの置換誘導体からなるRの炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8以下である。一般式(2)中に、Rが2個存在するときは、相互に同一でも異なってもよい。
【0046】
また、Rの炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができ、炭素数1〜6のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基等を挙げることができる。一般式(2)中に複数個存在するRは、相互に同一でも異なってもよい。
【0047】
上記オルガノシランとしては、特に限定されず、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類のほか、メチルトリアセチルオキシシラン、ジメチルジアセチルオキシシラン等を挙げることができる。
【0048】
これらのうち、好ましく用いられるのは、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類であり、又、トリアルコキシシラン類としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが好ましく、更に、ジアルコキシシラン類としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0049】
アニオン性水性樹脂分散体(A)としては、当業者において通常用いられる、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルションなどを挙げることができる。
【0050】
多官能アミン重合体(B)
本発明で用いられる多官能アミン重合体(B)は、水溶性または水分散性であるアミン重合体が用いられる。この多官能アミン重合体の重量平均分子量は500〜300,000であるのが好ましく、3,000〜200,000であるのがより好ましい。また、多官能アミン重合体のアミン価は、100〜1,300mgKOH/gであるのが好ましく、300〜1,000mgKOH/gであるのがより好ましい。なお、水溶性とは、重合体が水に完全に溶解性であるものを意味し、水分散性とは、重合体の一部が水に可溶性であり、分子のミセルまたは凝集体の形で溶解している状態を意味する。
【0051】
多官能アミン重合体(B)の重量平均分子量が500未満である場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中における、アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、未乾燥のクリヤー塗膜との間における混層が生じるおそれがある。また多官能アミン重合体(B)の重量平均分子量が300,000を超える場合は、上記アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が過剰に生じ、被塗物との密着性が低下したり、塗膜が脆くなったりするおそれがある。
【0052】
なお本明細書において、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができ、ポリスチレン標準による換算値によって算出することができる。
【0053】
多官能アミン重合体(B)のアミン価が100mgKOH/g未満である場合は、上記アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、未乾燥のクリヤー塗膜との間における混層が生じるおそれがある。また多官能アミン重合体(B)のアミン価が1,300mgKOH/gを超える場合は、水性ベース塗料組成物の貯蔵安定性が損なわれ、増粘、ゲル化するおそれがあり、さらに得られる塗膜の耐水性、耐久性、耐候性が劣るおそれがある。
【0054】
なお多官能アミン重合体(B)のアミン価は、JIS K 7237に記載される公知の方法によって測定することができる。
【0055】
多官能アミン重合体(B)としては、カチオン性の官能基を有する樹脂であれば特に限定されず、例えば、カチオン性の官能基としてアミノ基を有する、ポリアルキレンイミン類、ポリビニルアミン類、ポリアミドアミン類、アミノスルホポリエステル類、ポリアリルアミン類、およびこれらの変性ポリマー等の塩基性含窒素樹脂が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
ポリアルキレンイミン類は、一般に、エチレンイミン、1,2−プロピレンイミン、1,2−ドデシレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン、フェニルエチレンイミン、ベンジルエチレンイミン、ヒドロキシエチルエチレンイミン、アミノエチルエチレンイミン、2−メチルプロピレンイミン、3−クロロプロピルエチレンイミン、メトキシエチルエチレンイミン、ドデシルアジリジニルフォルメート、N−エチルエチレンイミン、N−(2−アミノエチル)エチレンイミン、N−フェネチルエチレンイミン、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンイミン、N−(シアノエチル)エチレンイミン、N−(p−クロロフェニル)エチレンイミン等のアルキレンイミンをイオン重合させる方法、あるいは、アルキルオキサゾリンを重合させた後、該重合体を部分加水分解または完全加水分解させる方法等で製造することができるが、特に限定はされない。
【0057】
ポリビニルアミン類の調整方法の手段の1つとして、アミン官能基含有単量体の1種または2種以上を重合する方法が挙げられる。ポリビニルアミン類の調整方法の他の手段として、アミン官能基含有単量体の1種または2種以上と、アミン官能基含有単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合する方法が挙げられる。アミン官能基含有単量体としては、例えば、β−アミノエチルビニルエーテル、N−モノメチル−β−アミノエチルビニルエーテル、N−モノエチル−β−アミノエチルビニルエーテル、N−モノブチル−β−アミノエチルビニルエーテルなどのアミノアルキルビニルエーテル;β−アミノエチルビニルスルフィド、N−モノメチル−β−アミノエチルビニルスルフィド、N−モノエチル−β−アミノエチルビニルスルフィド、N−モノブチル−β−アミノエチルビニルスルフィドなどのアミノアルキルビニルスルフィド;ジメチルアミノエチルアクリレート、β−アミノエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル;ジメチルアミノエチルメタクリレート、β−アミノエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;N−β−アミノエチルアクリルアミド、N−(モノメチルアミノエチル)−アクリルアミドなどのアクリルアミド;N−β−アミノエチルメタクリルアミド、N−(モノメチルアミノエチル)−メタクリルアミドなどのメタクリルアミド;オキサゾリジニルエチルアクリレート、オキサゾリジニルエチルメタクリレートなどのオキサゾリジン化合物;モノアリルアミン、ジアリルアミン、メチルジアリルアミン、エチルジアリルアミン、プロビルジアリルアミン、ブチルジアリルアミン、ベンジルジアリルアミン、シクロヘキシルジアリルアミンなどのアリルアミン;N−ビニルジメチルアミン、N−ビニルジエチルアミン、N−ビニルジフェニルアミンなどのビニルアミンなどが挙げられる。
【0058】
上記アミン官能基含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などの酸基を有する不飽和カルボン酸単量体、水酸基を有する炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル単量体、炭素数1〜20の(メタ)アクリル酸エステル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド基含有単量体、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、置換ブタジエン、エチレンなどが挙げられる。これらを重合する方法としては、溶液重合法、乳化重合法など、公知の方法を用いることができる。
【0059】
前記ポリアリルアミン類は、一般に、アリルアミンモノマーの塩酸塩を重合させた後、塩酸を除去することにより得られるが、特に限定はされない。例えば、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルエチルアミン塩酸塩、ポリアリルジメチルエチルアンモニウム塩酸塩、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルメチルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩重合体、これらの二酸化硫黄共重合体、アクリルアミド共重合体、ジアリルアミン塩酸塩誘導体共重合体、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。
【0060】
前記ポリアミドアミン類は、一般に、ヘキサメチレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジプロピレンペンタアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、ジヘキサメチレントリアミン等のポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、琥珀酸、マレイン酸、グルタル酸、コルク酸、セバシン酸等のジカルボン酸またはこれらの酸塩化物等の誘導体とを加熱し、生成する水を減圧下除去する、重縮合、界面重縮合、低温溶液重縮合、ポリリン酸溶液重縮合、固相重縮合等により得られる重縮合物;ジイソシアネートとジカルボン酸との重付加物;ラクタムの開環重合物;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
前記アミノスルホポリエステル類は、例えば、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のポリアルカノールアミン類と、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のジオール類と、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、琥珀酸、マレイン酸、グルタル酸、コルク酸、セバシン酸等のジカルボン酸と、および5−ソジオスルホイソフタル酸とを加熱し、生成する水を減圧下除去し、脱水縮合することにより得られるが、これらに限定はされない。
【0062】
このような多官能アミン重合体(B)を用いることによって、水性ベース塗料組成物および水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェット塗装する場合において、より良好な外観を有する塗膜を形成することができるという利点がある。
【0063】
本発明における水性ベース塗料組成物中に含まれる多官能アミン重合体(B)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.5〜8質量部であるのが好ましい。多官能アミン重合体(B)の含有量が0.5質量部未満である場合は、水性ベース塗料組成物の塗装後における上記アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、クリヤー層との混層が発生するおそれがある。一方、多官能アミン重合体(B)の含有量が8質量部を超える場合は、水性ベース塗料組成物の貯蔵安定性が劣ることとなり、増粘またはゲル化が生じるおそれがある。また、得られる塗膜の耐水性、耐久性、耐候性が劣るおそれがある。多官能アミン重合体(B)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して1〜6.5質量部であるのがより好ましい。
【0064】
揮発性塩基化合物(C)
本発明における水性ベース塗料組成物には揮発性塩基化合物(C)が含まれる。本発明における水性ベース塗料組成物において、揮発性塩基化合物(C)以外の塩基、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのような不揮発性塩基を用いる場合は、水性ベース塗料組成物を塗装した後、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装した場合に、形成された水性ベース塗膜とクリヤー塗膜との混層が生じることとなる。
【0065】
揮発性塩基化合物(C)として、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミンなどのアルキルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのアルキレンポリアミン、アンモニア、エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリンなどが挙げられる。この中でも、揮発性塩基化合物(C)として、後述する塗装時における揮発のしやすさの観点から、アルキルアミンまたはアンモニアを用いるのが好ましく、アンモニアを用いるのが特に好ましい。
【0066】
揮発性塩基化合物(C)の含有量は、多官能アミン重合体(B)のアミン価に対する、前記揮発性塩基化合物(C)の当量比が1〜5となる量で用いるのが好ましく、1.5〜3がより好ましい。当量比が1未満である場合は、水性ベース塗料組成物の貯蔵安定性が損なわれ、増粘、ゲル化するおそれがある。また当量比が5を超える場合は、上記アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、未乾燥のクリヤー塗膜との間における混層が生じるおそれがある。
【0067】
粘性調整剤(D)
本発明における水性ベース塗料組成物は、上記成分(A)〜(C)に加えて、特定の粘性調整剤(D)が含まれるのが好ましい。本発明においては、特定の粘性調整剤(D)を用いることによって、多官能アミン重合体(B)との相互作用により、水性ベース塗料組成物の複素粘度増加率を300〜3,000%に良好に調整することが可能となるという利点がある。
【0068】
好ましい粘性調整剤の一例として、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
下記式(1)
【0069】
【化3】

【0070】
[式(1)中、RはHまたはCHであり、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは炭素数1〜2のアルキル基であり、Rは炭素数1〜60のアルキル基、炭素数7〜20のアルキルフェニル基、炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基、炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基、または、ジ−もしくはトリ−スチレン化フェニル基であり、nは3〜100である。]
で示される単量体を1種または2種以上 1〜60質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量100,000〜500,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)が挙げられる。
【0071】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製に用いられるアクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)における塩基としては、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウム塩など)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム塩など)、アンモニウム塩およびアミン塩(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アルキル(C1〜C4)アミン塩など)などが挙げられる。特にナトリウム塩およびカリウム塩が好ましい。
【0072】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製に用いられる、上記式(1)で示される単量体において、RおよびRの何れか一方はHであり、他の一方はHまたは炭素数1〜2のアルキル基であるのが好ましい。また、nは3〜50であるのが好ましい。
【0073】
が炭素数1〜60のアルキル基である場合の好ましい基の一例として、炭素数1〜20のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、テトラデシル基、セチル基、ステアリル基などが挙げられる。ここで炭素数1〜4のアルキル基であるか、または炭素数5〜20のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であるのがさらに好ましい。
また、Rが炭素数1〜60のアルキル基である場合の好ましい基の他の一例として、炭素数25〜60の直鎖状または分枝状アルキル基、例えば、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、テトラコンチル、ペンタコンチル、ヘキサコンチルなどが挙げられる。
が炭素数7〜20のアルキルフェニル基である場合の好ましい基として、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、2−エチルへキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基、セチルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ラウリルフェニル基などが挙げられる。
が炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基である場合の好ましい基として、例えば、フェニルメチルフェニル基、フェニルエチルフェニル基、フェニルプロピルフェニル基、フェニルブチルフェニル基、フェニルペンチルフェニル基、フェニルヘキシルフェニル基、フェニルヘプチルフェニル基、フェニルオクチルフェニル基、クミルフェニル基などが挙げられる。
が炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基である場合の好ましい基として、例えば、インデニル基、ナフタリニル基、テトラリニル基、アントラセニル基、フェナントレニル基などが挙げられる。
【0074】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製において、上記式(1)で示される単量体は、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製において、例えば、上記式(1)で示される単量体として2種またはそれ以上を併用して用いる場合においては、下記組み合わせが好ましい:
(1)上記式(1)で示される単量体の1種が、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、上記式(1)で示される単量体の他の1種または2種以上が、Rは炭素数5〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアルキルフェニル基および/または炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基である組み合わせ、
(2)上記式(1)で示される単量体の1種が、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、上記式(1)で示される単量体の他の1種が、Rは炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基である組み合わせ、
(3)上記式(1)で示される2種またはそれ以上の単量体が、共に、Rは炭素数1〜4のアルキル基であるものの、異なる基を有する単量体である組み合わせ、
(4)上記式(1)で示される2種またはそれ以上の単量体が、共に、Rは炭素数25〜60の直鎖状または分枝状アルキル基であるものの、異なる基を有する単量体である組み合わせ、
(5)上記式(1)で示される単量体の1種が、Rは炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基であり、上記式(1)で示される単量体の他の1種が、Rはジ−またはトリ−スチレン化フェニル基である組み合わせ、
(6)上記式(1)で示される単量体の1種が、Rは炭素数5〜20のアルキル基であり、上記式(1)で示される単量体の他の1種が、Rは炭素数7〜20のアルキルフェニル基である組み合わせ。
【0075】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製に用いられる、炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例として、(メタ)アクリル酸メチルおよび(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチルおよび(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0076】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製において、必要に応じて用いることができる、共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体の具体例として、アクリルアミド、スチレン、クロトン酸(塩)のような不飽和モノカルボン酸(塩)、およびマレイン酸(塩)、フマル酸(塩)のような不飽和ジカルボン酸(塩)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0077】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製において、アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)、上記式(1)で示される単量体、炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびこれらの単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体の割合は、単量体合計100質量部中、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部、好ましくは27〜85質量部、さらに好ましくは30〜80質量部、
上記式(1)で示される単量体1〜60質量部、好ましくは5〜55質量部、さらに好ましくは5〜50質量部、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部、好ましくは0〜20質量部、さらに好ましくは0〜15質量部、
これらの単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部、好ましくは1〜25質量部、さらに好ましくは1〜15質量部、
である。
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)が90質量部を超える場合は、水性ベース塗料中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が過剰となり、塗料の保存安定性が低下するおそれがある。
上記(1)で示される単量体が1質量未満の場合には、未乾燥状態の水性ベース塗膜中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が十分に発現せず、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。一方で、60質量部を超える場合は、水性ベース塗料中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が過剰となり、塗料の保存安定性が低下するおそれがある。
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが60質量部を超える場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が十分に発現せず、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。
その他のエチレン性不飽和単量体が30質量部を超える場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が十分に発現せず、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。
【0078】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の調製は、上記単量体を共重合することによって調製することができる。共重合において、通常の公知の溶液重合、乳化重合、懸濁重合および塊状重合などの方法を用いることができる。好ましくは、溶液重合および乳化重合の方法を用いることであり、さらに好ましくは、乳化重合の方法を用いることである。
【0079】
例えば溶液重合においては、上記単量体を、通常用いられる重合開始剤の存在下で、水または/およびアルコール系(メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールなど)の溶媒中で40〜130℃で、1〜15時間重合させた後、必要に応じて塩基により中和することにより容易に得ることができる。また、メタクリル酸およびその他のエチレン性不飽和単量体が有する不飽和モノカルボン酸および不飽和ジカルボン酸などの酸性基については、必要に応じて重合前、重合中および重合後に塩基により中和する方法も可能である。重合の方法としては、上記単量体の混合物の全量を重合槽に仕込んで重合してもよく、また滴下しながら仕込んで重合してもよい。さらに一部の単量体を重合槽に仕込み、他の一部の単量体を滴下しながら重合してもよい。重合開始剤は全量を重合槽に仕込んで重合してもよく、また滴下しながら仕込んで重合してもよい。
【0080】
重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−アルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]および1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)などのアゾ系触媒、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、過硼酸塩、過酸化水素などの無機過酸化物、アスコルビン酸−過酸化水素のようなレドックス触媒、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物などが挙げられる。これらの群から選ばれる1種または2種以上の併用でもよい。
【0081】
例えば乳化重合においては、上記単量体の混合物を、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、必要に応じた重合度調整のための公知の連鎖移動剤、アセトアルデヒド、イソプロピルアルコール、ドデシルメルカプタンあるいはヘキサデシルメルカプタンなどの添加剤を水に投入して分散乳化させて、通常の重合開始剤の存在下において40〜130℃で1〜15時間重合させた後、必要に応じて塩基により中和することにより調製することができる。
アニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤の全体の使用量は、単量体合計100質量部に対して5〜15質量部となる量で用いるのが好ましい。
【0082】
こうして調製されるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)は、必要に応じて、任意の塩基を用いてpH6〜13の範囲に調整してもよい。用いることができる塩基として、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム、カルシウム塩など)、アンモニウム塩およびアミン塩(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミン塩など)が挙げられる。
【0083】
粘性調整剤(D)として上記アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)を用いることによって、水性ベース塗料組成物を塗装した後、プレヒートを行うことなく、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装する場合であっても、混層などの不具合が生じることなく、良好な性能および外観を有する塗膜を形成することができることとなる。このアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)は、水性ベース塗料組成物を塗装した水性ベース塗膜中において、特に多官能アミン重合体(B)との相互作用により、水性ベース塗料組成物の複素粘度増加率を300〜3,000%に調整することができる。これにより、ウェットオンウェット塗装性が向上すると考えられる。さらに、粘性調整剤(D)としてアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)を用いる場合においては、アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)が上記式(1)で示される単量体に基づいた構造を有していることに由来する特異的な効果が存在すると考えられる。すなわち、上記式(1)中のR基が、水性ベース塗料組成物の塗装によって得られる未乾燥状態の水性ベース塗膜中において、疎水性を発揮し、そしてこれにより未乾燥状態のクリヤー塗膜との混層防止効果が生じると考えられる。
【0084】
上記アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)の重量平均分子量は100,000〜500,000であるのが好ましく、150,000〜400,000であるのがより好ましい。重量平均分子量が100,000未満である場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中における、アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。また、重量平均分子量が500,000を超える場合は、擬似的高分子量化が過剰に生じ、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0085】
本発明における水性ベース塗料組成物で用いることができる、好ましい粘性調整剤の他の一例として、例えば、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量500,000〜2,000,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)が挙げられる。
【0086】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)の調製は、アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部と、これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部を用いて、アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)と同様にして調製することができる。
【0087】
アルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)の調製において、アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)、炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体の割合は、単量体合計100質量部中、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部、好ましくは27〜85質量部、さらに好ましくは30〜80質量部、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部、好ましくは0〜20質量部、さらに好ましくは0〜15質量部、
これらの単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部、好ましくは5〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部、
である。
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)が90質量部を超える場合は、水性ベース塗料中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が過剰となり、塗料の貯蔵安定性が低下するおそれがある。
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが60質量部を超える場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が十分に発現せず、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。
その他のエチレン性不飽和単量体が30質量部を超える場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中において、アニオン性水性樹脂分散体(A)と多官能性アミン重合体(B)との相互作用が十分に発現せず、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。
【0088】
粘性調整剤(D)として上記アルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)を用いることによって、水性ベース塗料組成物を塗装した後、プレヒートを行うことなく、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装する場合であっても、混層などの不具合が生じることなく、良好な性能および外観を有する塗膜を形成することができることとなる。このアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)は、水性ベース塗料組成物を塗装した水性ベース塗膜中において、特に多官能アミン重合体(B)との相互作用により、水性ベース塗料組成物の複素粘度増加率を300〜3,000%に調整することができる。これにより、ウェットオンウェット塗装性が向上すると考えられる。さらに、粘性調整剤(D)としてアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)を用いる場合においては、アルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)が重量平均分子量500,000〜2,000,000と大きな分子量を有していること由来する特異的な効果が存在すると考えられる。すなわち、アルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)が高分子量であることによって、水性ベース塗料組成物の塗装によって得られる未乾燥状態の水性ベース塗膜中において疎水性が発揮され、そしてこれにより未乾燥状態のクリヤー塗膜との混層防止効果が生じると考えられる。重量平均分子量が500,000未満である場合は、未乾燥状態の水性ベース塗膜中における、アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、次いで設けられるクリヤー塗膜との混層が生じやすくなるおそれがある。また、重量平均分子量が2,000,000を超える場合は、擬似的高分子量化が過剰に生じ、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するおそれがある。なお上記重量平均分子量は、750,000〜1,500,000であるのがより好ましい。
【0089】
本発明における水性ベース塗料組成物中に含まれる粘性調整剤(D)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましい。粘性調整剤(D)の含有量が0.1質量部未満である場合は、粘性調整剤(D)添加による好ましい効果が得られないおそれがある。また粘性調整剤(D)の含有量が10質量部を超える場合は、水性ベース塗料組成物において過剰の増粘が生じたり、得られた塗膜の耐水性が低下したりするおそれがある。粘性調整剤(D)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.5〜5質量部であるのがより好ましく、1〜5質量部であるのがさらに好ましい。
【0090】
本発明における水性ベース塗料組成物は、上記成分(A)〜(D)に加えて、必要に応じた他の成分を含んでもよい。他の成分として、例えば、顔料、意匠材料(砂、硅砂、カラーサンド、ビーズ、カラーチップ、鉱物チップ、ガラスチップ、木質チップおよびカラービーズなど)、造膜助剤、表面調整剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0091】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、モノアゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ナフトール系顔料、ピラゾロン系顔料、アントラキノン系顔料、アンソラピリミジン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、酸化クロム、モリブデートオレンジ、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛華、カーボンブラック、二酸化チタン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、コバルトバイオレットなどの無機系着色顔料;マイカ顔料(二酸化チタン被覆マイカ、着色マイカ、金属メッキマイカ);グラファイト顔料、アルミナフレーク顔料、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、板状酸化鉄、フタロシアニンフレーク、金属メッキガラスフレーク、その他の着色、有色偏平顔料;酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪酸マグネシウム、クレー、タルク、シリカ、焼成カオリンの体質顔料などを挙げることができる。
【0092】
水性ベース塗料組成物が顔料を含む場合は、水性ベース塗料組成物の固形分に対する顔料質量濃度(PWC)が5〜70質量%の範囲内であることが好ましい。上記PWCが5質量%未満であると、下地隠蔽性が劣り、上記PWCが70質量%を超えると、耐侯性が低下するおそれがある。顔料質量濃度(PWC)は20〜45質量%であることがより好ましい。
【0093】
水性ベース塗料組成物の調製法としては特に限定されず、上述した各成分を、攪拌機などにより攪拌することによって調製することができる。水性ベース塗料組成物中に顔料または意匠材料が含まれる場合は、分散性のよいものは攪拌機により混合することができ、他の方法として、水、界面活性剤または分散剤などを含むビヒクルにサンドグラインドミルなどを用いて予め分散させたものを加えることもできる。
【0094】
本発明における水性ベース塗料組成物は、pHが8〜11の範囲内であるのが好ましい。水性ベース塗料組成物のpHが8未満である場合は、塗料組成物の貯蔵安定性が劣り、経時で増粘またはゲル化するおそれがある。また、pHが11を超える場合は、上記アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用による凝集が不十分となり、未乾燥のクリヤー塗膜との間における混層が生じるおそれがある。水性ベース塗料組成物のpHは9〜10の範囲内であるのがより好ましい。
【0095】
本発明の水性ベース塗料組成物は、窯業建材の塗装の他にも、様々な建築材料の塗装にも用いることができる。例えば、住宅およびビルなどの建築物の内壁また外壁などの壁面または屋根、コンクリート、ALC、その他の無機質建材の塗装などにも用いることができる。
【0096】
水性クリヤー塗料組成物
水性クリヤー塗料組成物としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂成分を含有するクリヤー塗料組成物を挙げることができる。
【0097】
水性クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、架橋剤、粘性調整剤、充填剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、凍結防止剤、防藻剤、消泡剤、造膜助剤、表面調整剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤、顔料、ツヤ消し剤(光沢調整剤)、着色骨材、着色マイカなどを含んでもよい。
【0098】
水性クリヤー塗料組成物の調製法としては特に限定されず、上述した各配合物を攪拌機などにより攪拌することにより行うことができる。
【0099】
窯業建材用複層塗膜形成方法
本発明は、窯業建材に複層塗膜を形成する方法を提供する。そして本発明の方法は、下記工程:
窯業建材製造ラインにおいて、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装して水性ベース塗膜を形成する工程、
得られた水性ベース塗膜の上に、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、および
得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる工程、
を包含する。
この複層塗膜形成方法において、上述した水性ベース塗料組成物および水性クリヤー塗料組成物が用いられる。
【0100】
本発明の方法において用いられる被塗物は、外壁仕上げ材として用いられる窯業建材(窯業系サイディング)である。ここで窯業建材(窯業系サイディング)は、セメント、ケイ酸質原料、繊維質原料、混和材料などを用いて板状に成型し、乾燥(養生・硬化)させることによって製造される、JIS A 5422に規定された建材が挙げられる。
【0101】
上記建材は、密着性向上や防水性付与を目的とした下塗り塗料(シーラー)などを予め塗装するのが好ましい。また、建材の裏面には、裏面用塗料組成物が塗装されてもよい。これらは、通常用いられる塗料組成物を、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0102】
本発明の方法においては、窯業建材製造ラインにおいて、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装して、水性ベース塗膜を形成する。水性ベース塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーターなどの一般に用いられている塗装方法など用いることができる。水性ベース塗料組成物は、水性ベース塗膜の乾燥膜厚として5〜350μmとなるように塗装することが好ましい。この水性ベース塗膜の乾燥膜厚は20〜300μmとなるのがより好ましい。
【0103】
本発明の方法においては、水性ベース塗料組成物を塗装して得られた水性ベース塗膜を、特段の手段を用いて乾燥させることなく、水性クリヤー塗料組成物を塗装することを特徴とする。
本発明における水性ベース塗料組成物は、アニオン性水性樹脂分散体(A)、多官能アミン重合体(B)、揮発性塩基化合物(C)および必要に応じた粘性調整剤(D)を含む。そしてこれらの成分が含まれている状態においては、特に、多官能アミン重合体(B)に対する揮発性塩基化合物(C)の当量比が1〜5であることにより、アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)が相互作用を及ぼすことなく、安定した分散状態が維持される。一方で、窯業建材製造ラインにおいて、水性ベース塗料組成物を窯業建材に塗装すると、塗料組成物中に含まれる揮発性塩基化合物(C)が揮発する。これは、窯業建材製造ラインにおいては、一般に、0.5〜10cm程の厚みのある、セメント、ケイ酸質原料、繊維質原料、混和材料などより形成された蓄熱性の高い非金属材料に、あらかじめシーラーを塗装し、例えば、30〜80℃で1〜5分程度の条件で加熱、乾燥させシーラー塗膜を形成させる工程、もしくは、被塗物として、建材表面に、あらかじめシーラー塗膜が形成された建材を用いる場合も、30〜80℃で1〜5分程度の条件でプレヒートをする工程に由来する。このため、水性ベース塗料組成物を塗装する時点においては、被塗物は、一般に40℃以上、より具体的には40〜60℃程度の温度を有する。そのため、塗料組成物中に含まれる揮発性塩基化合物(C)が、建材への塗装後に極めて容易に揮発することとなる。そして揮発性塩基化合物(C)が揮発することによって、アニオン性水性樹脂分散体(A)および多官能アミン重合体(B)の相互作用が発生して、これらの成分がマトリックス(擬似凝集)を形成し、擬似的高分子量化が生じる。これにより、塗料組成物の粘度が急激に上昇することとなる。こうして、水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた水性ベース塗膜を乾燥させることなく、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装する場合であっても、未乾燥のクリヤー塗膜との間における混層を有効に防止することができ、良好な複層塗膜を得ることが可能となる。また、粘性調整剤(D)は、上記の相互作用を補助し、より良好な複層塗膜を得ることができる。
【0104】
本発明の複層塗膜形成方法においては、水性ベース塗料組成物を塗装して得られたベース塗膜を加熱乾燥させることなく、次の水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、クリヤー塗膜を形成する。例えば、水性ベース塗料組成物を室温(例えば、10〜30℃)で塗装した後、0〜10分以内、好ましくは1〜5分以内で、水性クリヤー塗料組成物を塗装する態様が挙げられる。
【0105】
水性クリヤー塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーターなどの一般に用いられている塗装方法など用いることができる。水性クリヤー塗料組成物は、クリヤー塗膜の乾燥膜厚として5〜350μmとなるように塗装することが好ましい。このクリヤー塗膜の乾燥膜厚は20〜300μmとなるのがより好ましい。
【0106】
次に、得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる。この乾燥は、例えば60〜150℃、好ましくは80℃〜130℃で、30秒〜10分間加熱することによって行うことができる。こうして、窯業建材製造ラインにおいて、水性ベース塗料組成物を塗装した後、特段の乾燥工程を行うことなく水性クリヤー塗料組成物を塗装しても、混層などの不具合を伴うことなく良好な塗膜外観を有する複層塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0107】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0108】
製造例B−1 多官能性アミン重合体(B−1)の製造
滴下ロート、還流冷却器、撹拌装置、温度計および窒素導入管を取り付けたガラス製反応容器に、脱イオン水550部および99.8%酢酸0.5部を入れ、内容物温度を85℃とした。その中にアクリル酸メチル20部、アクリルアミド30部、アクリル酸5部、アミン官能基含有単量体としてモノアリルアミン45部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2−エチルヘキシル 2部、99.8%酢酸0.5部からなる単量体混合液と、重合開始剤としてV−50(2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride、薬理純薬社製)0.5部および脱イオン水20部からなる重合開始剤水溶液を3時間かけて一定速度で滴下し、反応させた。
反応温度は85℃を保った。滴下終了後、3時間同温度に保った後、30℃に冷却し、25%アンモニア水溶液を添加してpHを9.0とし、不揮発分14.8%、アミン価415mgKOH/g、重量平均分子量9,200の多官能アミン重合体(水溶液)B−1を得た。
【0109】
製造例B−2 多官能性アミン重合体(B−2)の製造
滴下ロート、還流冷却器、撹拌装置、温度計および窒素導入菅を取り付けたガラス製反応容器に、脱イオン水400部および反応性乳化剤としてアクアロンHS10(第一工業製薬社製)0.5重量部を入れ、内容物温度を85℃とした。その中にメタクリル酸メチル15部、アクリル酸nブチル10部、アクリルアミド30部、アクリル酸5部、アミン官能基含有単量体としてジメチルアミノエチルメタクリレート40部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル 1部、99.8%酢酸0.5部からなる単量体混合液と、重合開始剤としてV−50 0.5部および脱イオン水20部からなる重合開始剤水溶液を3時間かけて一定速度で滴下し、反応させた。
反応温度は85℃を保った。滴下終了後、3時間同温度に保った後、30℃に冷却し、25%アンモニア水溶液を添加してpHを9.0とし、不揮発分19.1%、アミン価143mgKOH/g、重量平均分子量156,000の多官能アミン重合体(水分散体)B−2を得た。
【0110】
多官能アミン重合体(B−3)および(B−4)
多官能アミン重合体(B−3)および(B−4)として、以下のものを使用した。

多官能性アミン重合体(B−3)
SP−018(日本触媒社製のポリエチレンイミン、アミン価1,280mgKOH/g、重量平均分子量2,150)を、多官能性アミン重合体(水溶液)B−3として用いた。

多官能性アミン重合体(B−4)
PAS−92(日東紡績社製のジアリルアミン、二酸化硫黄との共重合物の塩酸塩(濃度20%)、アミン価552mgKOH/g、重量平均分子量4,800)を、多官能性アミン重合体(水溶液)B−4として用いた。
【0111】
比較製造例B−5 多官能性アミン重合体(B−5)の製造
滴下ロート、還流冷却器、撹拌装置、温度計、窒素導入管および滴下漏斗を取り付けたガラス製反応容器に、脱イオン水550部および99.8%酢酸0.5部を入れ、内容物温度を85℃とした。その中にアクリル酸メチル20部、メタクリル酸メチル20部、アクリルアミド50部、アクリル酸5部、モノアリルアミン5部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル 2部、99.8%酢酸0.5部からなる単量体混合液と、重合開始剤としてV−50(薬理純薬社製)0.5部および脱イオン水20部からなる重合開始剤水溶液を3時間かけて一定速度で滴下し、反応させた。
反応温度は85℃を保った。滴下終了後3時間同温度に保った後30℃に冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを9.0とし、不揮発分14.8%、アミン価43mgKOH/g、重量平均分子量11,300の多官能アミン重合体(水溶液)B−5を得た。
【0112】
比較製造例B−6 多官能性アミン重合体(B−6)の製造
滴下ロート、還流冷却器、撹拌装置、温度計および窒素導入菅を取り付けたガラス製反応容器に、脱イオン水400部および反応性乳化剤としてアクアロンHS10(第一工業製薬社製)0.5重量部を入れ、内容物温度を85℃とした。その中にメタクリル酸メチル15部、アクリル酸nブチル10部、アクリルアミド10部、アクリル酸5部、アミン官能基含有単量体としてジメチルアミノエチルメタクリレート60部、99.8%酢酸0.5部からなる単量体混合液と、重合開始剤としてV−50(薬理純薬社製)0.5部および脱イオン水20部からなる重合開始剤水溶液を3時間かけて一定速度で滴下し、反応させた。
反応温度は85℃を保った。滴下終了後3時間同温度に保った後30℃に冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを9.0とし、不揮発分19.2%、アミン価237mgKOH/g、重量平均分子量314,600の多官能アミン重合体(水分散体)B−6を得た。
【0113】
製造例D−1 アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1(イ))の製造
滴下ロート、還流冷却器、撹拌装置、温度計および窒素導入菅を取り付けたガラス製反応容器に、脱イオン水100重量部および反応性乳化剤として乳化剤A1.5部および乳化剤C1.5部を添加し、内容物温度を85℃とした。その中に、メタクリル酸40部、下記表2に示される成分I−(1) 32部、I−(2) 13部、メタクリル酸エチル10部、メタクリル酸ブチルエステル5部、チオカルコール20 0.2部、乳化剤A 4部、乳化剤C 4部および脱イオン水122部からなるプレ乳化液と、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部および脱イオン水10部からなる重合開始剤水溶液を2時間かけて一定速度で滴下し、反応させた。反応温度は85℃を保った。
滴下終了後、3時間同温度に保った後、30℃に冷却し、不揮発分30%、重量平均分子量254,000のアルカリ可溶型粘性調整剤d−1(イ)を得た。
乳化剤A〜Dは下記表3に示されるものを用いた。
【0114】
製造例D−2〜D−12 アルカリ可溶型粘性調整剤(d−1(ロ)〜(へ)、d−2(ト)〜(リ)、d−3(ヌ)〜(ヲ))の調製
製造例D−2〜12においては、反応性乳化剤、プレ乳化液および重合開始剤水溶液を、下記表1の配合に変更したこと以外は、製造例D−1と同様の手順で、アルカリ可溶型粘性調整剤を製造した。
なお、成分I−(1)〜(14)は下記表2に示されるものを、乳化剤A〜Dは下記表3に示されるものを用いた。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
実施例1
水性ベース塗料組成物の製造
顔料分散剤としてBYK190(ビックケミー社製)3部、白色塗料用の顔料として酸化チタン(チタンCR−95、石原産業社製)50部、沈降性硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム#100、堺化学社製)40部および脱イオン水20部からなるチタン白分散ペーストに、アニオン性水性樹脂分散体(A)としてリカボンドES−85(アクリル樹脂、中央理化工業社製、酸価8mgKOH/g、固形分濃度51.0%)を196部、多官能性アミン重合体(B)としてB−1を20.3部、揮発性塩基化合物(C)として25%アンモニア水溶液を3部順次混合した。さらに、ヒンダードアミン系光安定剤としてサノールLS292(三共社製)1部、造膜助剤としてテキサノール(イーストマン社製)10部および脱イオン水222.4部を混合した。最後に、NK2カップで30秒となるよう増粘剤としてASE−60(ローム&ハース社製)を添加して、水性ベース塗料組成物1を得た。
【0119】
水性クリヤー塗料組成物の製造
アニオン性水性樹脂分散体としてリカボンドES−85(アクリル樹脂エマルション、中央理化工業社製、酸価8mgKOH/g、固形分濃度51.0%)を196部、造膜助剤としてテキサノール(イーストマン社製)10部、紫外線吸収剤としてチヌビン1130(チバスぺシャリティケミカルズ社製)2部、ヒンダードアミン系光安定剤としてサノールLS292(三共社製)2部および脱イオン水104部を混合し、さらに、NK2カップで30秒となるよう増粘剤としてASE−60(ローム&ハース社製)を添加して、水性クリヤー塗料組成物を得た。
【0120】
実施例2〜21、比較例1〜4
表4、表5および表6の記載に従って、実施例1と同様の方法で、水性ベース塗料組成物2〜25を製造した。なお、表4、表5および表6の配合量は、全て固形分質量部を表す。
【0121】
比較例5
表6の記載に従って、揮発性塩基化合物(C)の代わりにNaOHを使用する以外は実施例1と同様の方法で、水性ベース塗料組成物26を製造した。
【0122】
比較例6
表6の記載に従って、多官能性アミン重合体(B)の代わりにアミン化合物であるトリエチルアミン(分子量101、アミン価555)を使用する以外は実施例1と同様の方法で、水性ベース塗料組成物27を製造した。
【0123】
上記より得られた水性ベース塗料組成物について、下記項目に従い評価試験を行った。
【0124】
塗装作業性(耐混層性)
各実施例および比較例における水性ベース塗料組成物を、ガラス板に、ドクターブレード(6mil)で塗装し、40℃のホットプレート上で2分間セッティングし、ベース塗膜を形成した。その後、水道水を張った水槽に塗膜を30秒間水没させ、引き上げた後、垂直状態で10分間放置後の塗膜状態を目視評価した。なお、この塗装作業性の評価は、23℃/60%の恒温恒湿下で行った。
5 全く異常なし
4 塗膜水没部分のごく一部(1〜5%程度)が部分的に溶解
3 塗膜水没部分が部分的に溶解
2 塗膜水没部分が全体的に溶解
1 塗膜水没部分が完全に溶解
【0125】
貯蔵安定性
各実施例および比較例の水性ベース塗料組成物を、JIS K 5600−2−7に規定される加温安定性試験に従い、60日後の容器の中の状態を、下記基準に従い評価した。
5 全く異常なし
3 軽微な増粘が見られた
3 増粘が見られ、皮バリが生じた
2 著しい増粘が見られ、皮バリが生じた
1 著しい増粘が見られ、ゲル化が生じた
【0126】
複素粘度の測定
複素粘度増加率は、各実施例および比較例の水性ベース塗料組成物の、測定開始時の複素粘度(η)および測定開始から10分後における複素粘度(η)を測定し、下記式 :
複素粘度増加率=η/η×100
で求めた。
複素粘度は、以下の様にして測定した。粘弾性測定装置の測定セルに、水性ベース塗料組成物を厚さ0.6mmとなるように入れ、その上に、幅2mm、環状体の厚さ4mm、高さ3mm、支持体の厚さ1mm、円形体の直径内径46mm、外径50mmである、粘弾性測定用治具を、試料に0.1mmの深さまで入れた。そして、プレート温度を40℃として、試料に対して6.3rad/sの角周波数を加え、トルク測定し、さらに正弦波角変位とトルク−角度変位間の位相差を測定することにより試料の複素粘度を求めた。なお、粘弾性測定装置として、応力制御型の粘弾性測定装置であるPhysica MCR 301(Anton Paar社製)を用い、粘弾性測定用治具は、図1に示される態様のもので、そのうち切り欠き部分6の面積が73%のもの(ステンレスSUS304製)を用いた。
【0127】
【表4】

【0128】
【表5】

【0129】
【表6】

【0130】
実施例1〜21において用いた水性ベース塗料組成物は、何れも、粘度測定開始から10分後における複素粘度増加率が300〜3,000%の範囲内にあった。そしてこのような水性ベース塗料組成物を用いて、窯業建材製造ラインにおいて塗装することによって、水性ベース塗料組成物を塗装後、得られた水性ベース塗膜を乾燥させることなく、水性クリヤー塗料組成物を塗装しても、混層などの不具合が発生することなく、良好な外観を有する複層塗膜を形成することができた。
比較例1は、多官能アミン重合体(B)を含まず、複素粘度増加率が300%未満である水性ベース塗料組成物を用いた実験例である。この場合は耐混層性が劣っていた。
比較例2は、多官能アミン重合体(B)のアミン価が低く、複素粘度増加率が300%未満である水性ベース塗料組成物を用いた実験例である。この場合も耐混層性が劣っていた。
比較例3は、多官能アミン重合体(B)のアミン価が高く、複素粘度増加率が3,000%を超える水性ベース塗料組成物を用いた実験例である。この場合は、塗料組成物の貯蔵安定性が著しく劣っていた。
比較例4は、揮発性塩基化合物(C)の含有量が少なく、複素粘度増加率が3,000%を超える水性ベース塗料組成物を用いた実験例である。この場合もまた、塗料組成物の貯蔵安定性が著しく劣っていた。
比較例5は、揮発性塩基化合物(C)の代わりにNaOHを含み、300%未満である水性ベース塗料組成物を用いた実験例である。この場合も耐混層性が劣っていた。
比較例6は、多官能性アミン重合体(B)の代わりにアミン化合物であるトリエチルアミンを含む水性ベース塗料組成物を用いた実験例である。この場合も耐混層性が劣っていた。
【0131】
複層塗膜形成方法
シーラーとしてオーデタイト128シーラー(日本ペイント社製)を乾燥膜厚50μmとなるように予め塗装したフラット板(宇部ボード社製窯業建材)を被塗物とし、被塗物の表面温度が50℃となるように加熱した後、実施例1で得られた水性ベース塗料組成物1を乾燥膜厚40μmとなるようにスプレーにより塗装し、水性ベース塗膜を形成させた。次いで、実施例1〜21において用いた水性クリヤー塗料組成物を上記で得られた未乾燥の水性ベース塗膜上に乾燥膜厚50μmとなるようにスプレーにより塗装し、得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を100℃で10分間乾燥させて、複層塗膜を形成した。得られた複層塗膜は、水性ベース塗膜とクリヤー塗膜の混層の無い、良好な外観であった。
【0132】
一方、比較例1、2、5、6で得られた水性ベース塗料組成物を用いて上記と同様に複層塗膜を形成したところ、得られた複層塗膜は、水性ベース塗膜とクリヤー塗膜との混層が認められた。なお、比較例3、4は、水性ベース塗料組成物の貯蔵安定性が劣ったため、このような評価を行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の窯業建材用複層塗膜形成方法は、水性ベース塗料組成物を塗装した後、得られた水性ベース塗膜を乾燥させることなく、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装できる。これにより、従来の塗料組成物を用いる場合において必要であった、水性ベース塗料組成物を塗装した後、水性クリヤー塗料組成物を塗装する前の乾燥工程を省略することが可能となる。本発明の複層塗膜形成方法は、設備維持費およびエネルギーコストの削減、環境負荷低減(省エネルギー化、CO排出量削減)を達成することができ、さらに、塗装工程の短縮化を図ることができるという産業上の利点がある。
【符号の説明】
【0134】
1:粘弾性測定用治具、2:回転軸、3:円形体、4:環状体、5:支持体、6:切り欠き部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯業建材製造ラインにおいて、被塗物に、水性ベース塗料組成物を塗装して水性ベース塗膜を形成する工程、
得られた水性ベース塗膜の上に、水性クリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、および
得られた水性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に乾燥させる工程、
を包含する、窯業建材用複層塗膜形成方法であって、
該水性ベース塗料組成物は、アニオン性水性樹脂分散体(A)、水溶性または水分散性多官能アミン重合体(B)および揮発性塩基化合物(C)を含み、
該水性ベース塗料組成物は、回転軸方向の投影面積のうち40〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具を用いて複素粘度を測定した場合において、測定開始から10分後における複素粘度増加率が300〜3,000%である、
窯業建材用複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記水性ベース塗料組成物がさらに粘性調整剤(D)を含む、請求項1記載の窯業建材用複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記多官能アミン重合体(B)が、重量平均分子量500〜300,000、アミン価100〜1,300mgKOH/gである、水溶性または水分散性多官能アミン重合体であり、
前記揮発性塩基化合物(C)が、アルキルアミンまたはアンモニアであり、
前記粘性調整剤(D)が、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
下記式(1)
【化1】

[式(1)中、RはHまたはCHであり、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは炭素数1〜2のアルキル基であり、Rは炭素数1〜60のアルキル基、炭素数7〜20のアルキルフェニル基、炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基、炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基、または、ジ−もしくはトリ−スチレン化フェニル基であり、nは3〜100である。]
で示される単量体を1種または2種以上 1〜60質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量100,000〜500,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)であるか、または、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量500,000〜2,000,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)であり、
前記多官能アミン重合体(B)のアミン価に対する、前記揮発性塩基化合物(C)の当量比が1〜5である、
請求項1または2記載の窯業建材用複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記アニオン性水性樹脂分散体(A)は、アクリル樹脂エマルション、シリコーン含有アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルションおよび塩化ビニル樹脂エマルションからなる群から選択される少なくとも1種である、酸価5〜30mgKOH/gを有するアニオン性水性樹脂分散体である、
請求項1〜3いずれかに記載の窯業建材用複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記水性ベース塗料組成物中に含まれる多官能アミン重合体(B)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.5〜8質量部であり、
前記水性ベース塗料組成物中に含まれる粘性調整剤(D)の含有量は、アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.1〜10質量部である、
請求項1〜4いずれかに記載の窯業建材用複層塗膜形成方法。
【請求項6】
アクリル樹脂エマルション、シリコーン含有アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルションおよび塩化ビニル樹脂エマルションからなる群から選択される少なくとも1種である、酸価5〜30mgKOH/gを有するアニオン性水性樹脂分散体(A)、
重量平均分子量500〜300,000、アミン価100〜1300mgKOH/gである、水溶性多官能アミン重合体(B)、
アルキルアミンまたはアンモニアである揮発性塩基化合物(C)、および、
粘性調整剤(D)、
を含む、ウェットオンウェット窯業建材塗装用水性ベース塗料組成物であって、
該粘性調整剤(D)が、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
下記式(1)
【化2】

[式(1)中、RはHまたはCHであり、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは炭素数1〜2のアルキル基であり、Rは炭素数1〜60のアルキル基、炭素数7〜20のアルキルフェニル基、炭素数13〜20のフェニルアルキルフェニル基、炭素数9〜14の縮合環式構造を有する芳香族化合物の残基、または、ジ−もしくはトリ−スチレン化フェニル基であり、nは3〜100である。]
で示される単量体を1種または2種以上 1〜60質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量100,000〜500,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−1)であるか、または、
アクリル酸(塩)および/またはメタクリル酸(塩)25〜90質量部と、
炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル0〜60質量部
と、
これらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜30質量部と、
を共重合して得られる、重量平均分子量500,000〜2,000,000であるアルカリ可溶型粘性調整剤(d−2)であり、
該多官能アミン重合体(B)の含有量は、該アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.5〜8質量部であり、
該粘性調整剤(D)の含有量は、該アニオン性水性樹脂分散体(A)の固形分質量100質量部に対して0.1〜10質量部であり、および
該多官能アミン重合体(B)のアミン価に対する、揮発性塩基化合物(C)の当量比が1〜5である、
ウェットオンウェット窯業建材塗装用水性ベース塗料組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−240032(P2012−240032A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115985(P2011−115985)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【特許番号】特許第4917679号(P4917679)
【特許公報発行日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】