説明

ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドおよびそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドならびにそれらの利用

【課題】広い基質特異性を有し、効率よくω3位に不飽和結合を生成させるω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチド、およびそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。このポリヌクレオチドを生物体内で発現させることにより、n−3系PUFAsの大量生産を可能とする。
【解決手段】ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって特定のアミノ酸配列からなるポリペプチド、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって特定の塩基配列からなるポリヌクレオチド等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有し、n−3系の不飽和脂肪酸の合成反応を触媒するポリペプチド、およびそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドならびにそれらの代表的利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多価不飽和脂肪酸(PUFAs:Polyunsaturated fatty acids)は、細胞膜リン脂質の構成成分として、また、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン等のホルモン様生理活性物質の前駆体として、生物体内で重要な役割を果たしている。このPUFAsから合成される生理活性物質はエイコサノイドと呼ばれ、必要時に体内で合成され、炎症反応、生殖機能、免疫応答、血圧等を調節する。PUFAsはまた、乳幼児の脳の発達に必要であることが報告されている。
【0003】
係るPUFAsは、生合成の経路別に、n−3系、n−6系、n−9系などに分類される。ここで、「n−」に続く数字3、6および9は、PUFAsのメチル基から数えて最初の二重結合が何番目の炭素にあるかを示す。例えば、「n−3」系は、メチル基の炭素を1位の炭素とし、カルボキシル基側に向かって順次2位、3位・・・としたとき、メチル基から数えて最初の二重結合が3位の炭素にあるPUFAsを示し、ω3系とも表示される。図7に、動物における主要なn−3系およびn−6系のPUFAsを示す。n−3系(ω3系)には、必須脂肪酸であるα−リノレン酸および生体内でα−リノレン酸(ALA)から代謝されてできるステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)等が属する。また、n−6系(ω6系)には、必須脂肪酸であるリノール酸(LA)および生体内でリノール酸から代謝されてできるγ―リノレン酸(GLA)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、アラキドン酸(AAまたはARA)等が属する。図中例えば、「18:2Δ9,12」で示される表示中、18:2は炭素数が18で、二重結合の数が2であることを示している。また、Δ9,12は、カルボキシル基の炭素を1位の炭素とし、メチル基側に向かって順次2位、3位・・・としたときの二重結合の位置を表す。なお、動物は、Δ位を超えてメチル基側のC−C結合を不飽和化することができないため、α−リノレン酸およびリノール酸を必須脂肪酸として食物(植物性食物)から摂取しなければならず、また、n−6系をn−3系に、またはn−3系をn−6系に相互変換することもできない。
【0004】
n−6系PUFAsとn−3系PUFAsとは、それぞれ異なった働きをすることがよく知られており、何れも生物体内で重要な役割を果たしている。n−3系PUFAsについては、EPAの抗血栓作用、血清脂質改善作用、DHAの学習機能向上作用、制がん作用をはじめとする多くの生理活性が知られており、生体の恒常性を保つために必須である。上述のように、動物はn−3系PUFAsを体内で合成することができないため、n−3系PUFAsを経口摂取することが非常に重要である。
【0005】
以上のように最近重要性が指摘されているn−3系PUFAsが合成されるためには、脂肪酸のメチル基から数えて3位と4位、すなわちω3位とω4位との間に不飽和結合を形成させ、ω3不飽和脂肪酸を生成する活性を有するω3脂肪酸不飽和化酵素が必要である。このω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は、これまでに、高等植物、緑藻、線虫、卵菌類、子嚢菌類などでクローニングされている(例えば、特許文献1〜2、非特許文献1〜7参照)。
【0006】
特許文献1、非特許文献1、2では、高等植物や緑藻のω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子でコードされるタンパク質は、リノール酸(18:2)のような炭素数18のn−6系脂肪酸をn−3系のα−リノレン酸(18:3)に変換する活性を有することが報告されている。しかし、高等植物や緑藻のω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子でコードされるタンパク質は、炭素数20の脂肪酸をn−3系に変換することはできない。
【0007】
非特許文献3、4では、線虫(Caenorhabditis elegans)のω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(FAT−1)によりコードされるタンパク質が、炭素数16〜20のn−6系脂肪酸に作用し、そのω3位に不飽和結合を生成させることが報告されている。しかし、非特許文献4では、このω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を酵母で発現させた場合、n−6系のアラキドン酸(20:4)からn−3系のエイコサペンタエン酸(EPA)(20:5)への変換率は低く、1.9%にすぎないことが報告されている。
【0008】
また、特許文献2、非特許文献5では、卵菌類(Saprolegnia diclina)のω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(SDD17)によりコードされるタンパク質は、炭素数20のn−6系脂肪酸に作用し、そのω3位に不飽和結合を生成させることが報告されている。しかし、これに対して炭素数18のn−6系脂肪酸のω3位を不飽和化することはできない。
【0009】
また、非特許文献6では、子嚢菌に属するSaccharomyces kluyveriから、ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子がクローニングされたことが報告されている。この遺伝子でコードされるタンパク質は、n−6系のリノール酸(18:2)をn−3系のα−リノレン酸(18:3)に変換する活性を有する。しかしこのω3脂肪酸不飽和化酵素は、これに対して炭素数20のn−6系脂肪酸のω3位を不飽和化することはできない。
【0010】
ところで、脂質生産菌であるモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)は低温にするとエイコサペンタエン酸(EPA)を生成することが知られている。すなわちエイコサペンタエン酸は、グルコースを炭素源としてM. alpina を25℃で培養すると生成しないが11℃で培養すると生成する(例えば、非特許文献7参照)。このことから、低温下で遺伝子発現誘導もしくは活性化されるω3脂肪酸不飽和化酵素の存在が示唆されている。
【0011】
また、多くのMortierella亜属の菌株について、低温で培養した時にエイコサペンタエン酸を菌体内に蓄積することが知られている。その際、エイコサペンタエン酸(EPA)以外のn−3系脂肪酸が検出されなかったことから、低温条件下においてアラキドン酸のω3位が不飽和化されることによってエイコサペンタエン酸(EPA)が生成すると考えられた(非特許文献8参照)。このことから、炭素数20の脂肪酸を不飽和化するω3脂肪酸不飽和化酵素の存在が強く示唆されている。
【特許文献1】特開2001−95588公報(平成13年(2001)4月10日公開)
【特許文献2】国際公開第WO03/064596号のパンフレット(平成15年(2003)8月7日公開)
【非特許文献1】Science 258:1353-1355 (1992)
【非特許文献2】Biosci. Biotechnol. Biochem. 66:1314-1327 (2002)
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94:1142-1147 (1997)
【非特許文献4】Biochemistry 39:11948-11954 (2000)
【非特許文献5】Biochem. J. 378:665-671 (2004)
【非特許文献6】Microbiology 150:1983-1990 (2004)
【非特許文献7】Biochem. Biophys. Res. Commun. 150:335-341 (1988)
【非特許文献8】J Am Oil Chem Soc 65, 1455-1459 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は、これまでに、高等植物、緑藻、線虫、卵菌類、子嚢菌類などでクローニングされていることが報告されている。しかしながら、これまでに報告されているω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は、ω3位を不飽和化することができる基質が特定の炭素数の脂肪酸に限られていたり、或いは、宿主細胞に導入して発現させても不飽和化の効率が悪かったりする等の問題があった。より広い範囲の脂肪酸に作用して、しかも、効率よく、そのω3位に不飽和結合を生成させるようなω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を取得することができれば、より効率的に、多種類のn−3系脂肪酸を合成することができる。
【0013】
また、真菌類で唯一クローニングされているS. kluyveri由来のω3脂肪酸不飽和化酵素は炭素数20の脂肪酸を不飽和化することができない。これに対して、上述したように、Mortierella亜属の菌株では、炭素数20の脂肪酸を不飽和化するω3脂肪酸不飽和化酵素の存在が示唆されているが、未だそのω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の取得には至っていない。このような既知のω3脂肪酸不飽和化酵素の配列比較により設計した縮重プライマー等を用いても、M. alpina由来のω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子をクローニングすることは困難であると考えられる。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、より広い範囲の脂肪酸に作用して、しかも、効率よく、そのω3位に不飽和結合を生成させるようなω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチド、およびそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、真菌類で唯一ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子がクローニングされているS. kluyveriにおいては、(i)当該S. kluyveri由来のω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列が、S. kluyveri自身のΔ12脂肪酸不飽和化酵素と最も相同性が高い(60%)こと、(ii) S. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列は、M. alpina由来のΔ12脂肪酸不飽和化酵素とも相同性が高い(38.6%)こと(非特許文献6)から、M. alpinaにおいても、ω3脂肪酸不飽和化酵素とΔ12脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列の相同性が高い可能性があることが想定された。そこで、M. alpina のΔ12脂肪酸不飽和化酵素、S. kluyveriのΔ12脂肪酸不飽和化酵素およびS. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列を比較しプライマーを設計し、これを用いて、PCRにより、M. alpinaのω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を取得することに成功した。また、得られたω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を、実際に生物体で発現させたところ、炭素数18および20のn−6系脂肪酸のどれにも作用して、しかも、効率よく、そのω3位に不飽和結合を生成させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明に係るポリペプチドは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって、以下の(a)または(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、
であることを特徴としている:
上記構成によれば、本発明に係るポリペプチドは、ω3不飽和脂肪酸合成反応を触媒することができる。
【0017】
本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと結合することを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、本発明に係る抗体は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞を同定することができる。
【0019】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、下記の(c)、(d)、(e)または(f):
(c)配列番号2または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(d)配列番号2で示される塩基配列のうち第14番目から第1366番目までの塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(e)配列番号2または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(f)配列番号2で示される塩基配列のうち第14番目から第1366番目までの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
のいずれかであることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、形質転換体においてω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを合成するために、上記ポリヌクレオチドを使用することができる。
【0022】
本発明に係るベクターは、上記ポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、上記ポリヌクレオチドを生物または細胞に導入してω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを組換え発現させたり、無細胞タンパク質合成系を用いてω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを合成したりすることができる。
【0024】
本発明に係る形質転換体は、上記ポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。上記形質転換体は、真菌(酵母、糸状菌等)、動物、あるいは、植物もしくはその子孫、またはこれら由来の細胞あるいは組織であることが好ましく、上記植物はダイズ、ナタネ、ゴマ、オリーブ、アマニ、トウモロコシ、ヒマワリ、またはベニバナであることが好ましい。また、本発明に係る形質転換体は、脂肪酸組成が改変されていることが好ましい。
【0025】
本発明に係る上記ポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを用いることを特徴としている。また、本発明に係る上記ポリペプチドの生産方法は、上記形質転換体を用いるものであってもよい。
【0026】
上記構成によれば、ω3脂肪酸不飽和化反応を触媒するポリペプチドを低コストであり、かつ環境に低負荷な条件下で提供することが可能になる。
【0027】
本発明に係る脂肪酸の生産方法は、上記形質転換体を用いることを特徴としている。
【0028】
また、本発明に係る上記ポリペプチドの生産方法は、上記ポリヌクレオチドが導入された形質転換体を、培養開始から、または、最適培養温度で培養した後に、最適培養温度より低い温度で培養し、ポリペプチドを生産すること;あるいは、上記ポリペプチドの合成系を0℃以上、20℃以下の温度条件におき、上記ポリペプチドを生産することが可能である。また、上記最適培養温度より低い温度は、0℃以上、20℃以下とすることが可能である。
【0029】
また、本発明に係る脂肪酸の生産方法は、上記ポリヌクレオチドが導入された生物または細胞を、培養開始から、または、最適培養温度で培養した後に、最適培養温度より低い温度で培養し、脂肪酸を生産するものであることが好ましい。また、上記最適培養温度より低い温度は、0℃以上、20℃以下であることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、ω3脂肪酸不飽和化反応を触媒するポリペプチドをより効率よく機能させることができる。それゆえ、ω3位が不飽和化された脂肪酸を効率よく生産させることが可能となる。
【0031】
また、上記脂肪酸の生産方法は、上記脂肪酸が、α−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、またはエイコサペンタエン酸(EPA)であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る食品または工業製品は、上記脂肪酸生産方法により得られたα−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、またはエイコサペンタエン酸(EPA)を含むことを特徴としている。
【0033】
上記構成によれば、n−3系のPUFAsはアレルギー、炎症、血液凝固または血管収縮を抑制する作用を有するため、食品または工業製品として有効に利用することができる。
【0034】
本発明に係るω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリヌクレオチドを取得する方法は、生物から調製されたゲノムDNAまたはcDNAから、
(g)上記ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはそのフラグメントであるオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション;または
(h)上記ポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCR;
により、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得する工程を含むことを特徴としている。
【0035】
上記構成によれば、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを効率的に取得することができる。
【0036】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、上記(c)、(d)、(e)または(f)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであってもよい。
【0037】
上記構成によれば、上記ポリヌクレオチドをアンチセンスポリヌクレオチドとして使用して、上記生物体またはその組織もしくは細胞におけるω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドの発現を制御することができる。また、上記(a)・(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、上記(c)〜(f)のポリヌクレオチドを同時に同一の細胞内で発現されるようにすれば、RNAiが生じる。そのため、ポリペプチドの発現を抑制することが可能となる。
【0038】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチドのフラグメントであってもよい。
【0039】
上記構成によれば、上記オリゴヌクレオチドは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することができる。さらに、上記オリゴヌクレオチドを用いれば、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを発現する生物体またはその組織もしくは細胞を同定することができる。なお、さらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、上記生物体またはその組織もしくは細胞におけるω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドの発現を制御することができる。
【0040】
本発明に係る検出器具は、上記(c)、(d)、(e)または(f)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドおよび/または該ヌクレオチドのフラグメントである上記オリゴヌクレオチドが基板上に固定化されていることを特徴としている。
【0041】
上記構成によれば、かかるポリヌクレオチドまたはかかるオリゴヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドを検出して、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを発現する生物を容易に検出することができる。
【0042】
また、本発明に係る検出器具は、上記ポリペプチドが基板上に固定化されているものであってもよい。
【0043】
上記構成によれば、上記ポリペプチドと相互作用する物質を検出して、上記ポリペプチドのω3脂肪酸不飽和化活性を調節する物質を容易に検出することができる。
【0044】
また、本発明に係る検出器具は、上記抗体が基板上に固定化されているものであってもよい。
【0045】
上記構成によれば、上記抗体と結合する抗原を検出して、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを容易に検出することができる。
【0046】
なお、本発明には、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって、配列番号1に示されるアミノ酸配列との相同性が70%以上であるアミノ酸配列を有するポリペプチド、および、配列番号1に示されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係るポリペプチドは、真菌(酵母、糸状菌等)または植物などの生物に内在性の脂肪酸をω3不飽和化する反応を触媒することができるので、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入された形質転換体を用いれば、低コストかつ環境に対して低負荷な生産プロセスでα−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、エイコサペンタエン酸(EPA)等のn−3系脂肪酸の大量調製が可能になる。さらに本発明は、α−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、エイコサペンタエン酸(EPA)等のn−3系脂肪酸を大量調製することによって安価な食品または工業製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明に係るω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチド、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびこれらの利用について詳述する。
【0049】
(1)ポリペプチド
本発明に係るポリペプチドは、新規ω3不飽和化酵素であり、脂肪酸のω3位を不飽和化して、n−3系脂肪酸を生成させる。本発明に係るポリペプチドは、脂肪酸のω3位を不飽和化する活性を有するものであれば特に限定されるものではないが、ω3脂肪酸不飽和化の対象となる基質として、炭素数18および/または20の脂肪酸のω3位を不飽和化する活性を有するものであることが好ましい。また、炭素数18および20の脂肪酸のω3位を不飽和化する活性を有するものであることがより好ましい。基質としてω3位を不飽和化できる対象の範囲が広いことにより、多様なn−3系脂肪酸を生産することが可能となる。
【0050】
また、基質となる脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよいが、不飽和脂肪酸であることがより好ましく、n−6系脂肪酸であることがさらに好ましい。n−6系脂肪酸のω3位を不飽和化することにより、生物の体内で重要な役割を果たすPUFAsを生産させることが可能となる。
【0051】
また、本発明に係るポリペプチドは、基質となる脂肪酸としてn−6系脂肪酸のω3位を不飽和化する活性を有するものであることが好ましいが、そのような脂肪酸としては、n−6位に不飽和結合を有する脂肪酸であれば、その二重結合の数や位置は特に限定されるものではない。その中でも、本発明にかかるポリペプチドは、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸のω3位を不飽和化する活性を有するものであることが特に好ましい。これにより、ω3位を不飽和化して、リノール酸からα−リノレン酸を、γ−リノレン酸からステアリドン酸を、ジホモ−γ−リノレン酸から20:4Δ8,11,14,17を、アラキドン酸からエイコサペンタエン酸を合成することができると考えられる。得られるn−3系PUFAsは、アレルギー、炎症、血液凝固または血管収縮を抑制する作用を有するため、食品または工業製品として有効に利用することができる。
【0052】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0053】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。なお、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0054】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌、真菌(酵母、糸状菌等)、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0055】
本発明は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを提供する。一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体でありかつω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドである。
【0056】
変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、および置換を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0057】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0058】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0059】
本発明における変異体は特に限定されるものではないが、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない変異であることが好ましい。具体的には、サイレント変異や保存性置換等が挙げられる。
【0060】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。また、サイレント置換は、アミノ酸が置換、添加または欠失してもポリペプチド活性に影響の無い変異である。
【0061】
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie,J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306-1310 (1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
【0062】
本実施形態に係るポリペプチドは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0063】
上記「1個もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、上述したように、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0064】
また、本発明には、配列番号1に示されるアミノ酸配列との相同性が70%以上、好ましくは90%以上であるアミノ酸配列を有し、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドも含まれる。このようなポリペプチドにおけるアミノ酸配列の相同性は、70%以上であればよいが、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0065】
なお、本明細書における上記「相同性」とは、BLAST(Basic local alignment search tool;Altschul, S. F. et al,J. Mol. Biol., 215, 403-410, 1990)検索により得られた値を意味するものであり、アミノ酸配列の相同性は、BLAST検索アルゴリズムにより決定することができる。具体的には、BLASTパッケージ(sgi32bit版、ver. 2.0.12;NCBIより入手)のbl2seqプログラム(Tatiana A. TatusovaおよびThomas L. Madden, FEMS Microbiol. Lett., 174, 247-250, 1999)を用い、デフォルトパラメーターにしたがって算出することができる。ペアワイズ・アラインメント・パラメーターとして、プログラム名「blastp」を用い、Gap挿入Cost値を「0」とし、Gap伸長Cost値を「0」とし、Query配列のフィルターとして「SEG」を、Matrixとして「BLOSUM62」をそれぞれ用いる。
【0066】
なお、本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0067】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、HisやMyc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0068】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明に係るポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。
【0069】
本実施形態に係るポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)にN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen, Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:821-824 (1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767 (1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態に係るポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
【0070】
また、本発明に係るポリペプチドは、後述する本発明に係るポリヌクレオチド(本発明に係るポリペプチドをコードする遺伝子)を宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製された場合であってもよい。また、本発明に係るポリペプチドは、化学合成されたものであってもよい。
【0071】
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行なうことができる。
【0072】
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghten, R.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:5131-5135 (1985)(本明細書中に参考として援用される)の方法を用いることができる。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
【0073】
下記に詳細に記載するように、本発明に係るポリペプチドは、脂肪酸のω3位を不飽和化してn−3系脂肪酸を生成するための方法およびキットにおいて有用である。
【0074】
このように、本発明に係るポリペプチドは、少なくとも、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含んでいればよいといえる。すなわち、配列番号1に示されるアミノ酸配列と特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とからなるポリペプチドも本発明に含まれることに留意すべきである。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列および当該任意のアミノ酸配列は、それぞれの機能を阻害しないように適切なリンカーペプチドで連結されていてもよい。
【0075】
(2)ポリヌクレオチド
本発明は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有する本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号24に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号24の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
【0076】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化合合成されてもよい。
【0078】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、PCRやプローブ等の用途に応じて好ましいサイズを適宜選択すればよいが、少なくとも12nt(ヌクレオチド)が好ましく、少なくとも15nt以上がより好ましく、15〜25ntの範囲内がより好ましく、30nt以上であってもよく、40nt以上であってもよいが、特に限定されるものではない。少なくとも20ntの長さのフラグメントによって、例えば、配列番号2もしくは3に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号2または3に示される塩基配列が提供されるので、当業者は配列番号2または3に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0079】
また本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0080】
本発明はさらに、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0081】
このような変異体としては、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または複数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0082】
本発明はさらに、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0083】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、かつ
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
のいずれかであることが好ましい。
【0084】
他の実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、下記の(c)、(d)、(e)または(f):
(c)配列番号2若しくは3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(d)配列番号2で示される塩基配列のうち第14番目から第1366番目までの塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(e)配列番号2若しくは3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(f)配列番号2で示される塩基配列のうち第14番目から第1366番目までの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
のいずれかであることが好ましい。
【0085】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0086】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0087】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、上記(c)(d)、(e)または(f)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0088】
別の実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
【0089】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。
【0090】
アンチセンスRNA技術は、標的遺伝子に対して相補的なRNA転写体を生成するキメラ遺伝子の導入を基本原理とする。その結果として得られる表現型は、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少である。本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを導入することによって、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドの含量を低下させることにより生物中のn−3系酸含量を低下させることができる。また、同時に基質となる脂肪酸の含量の低下を防ぐことが可能となる。
【0091】
したがって例えば、アラキドン酸のようなn−6脂肪酸を生産させたい場合に、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドの含量を低下させることにより、ω3不飽和化によるアラキドン酸含量の低下を防ぐことができる。DNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0092】
また、RNA干渉(RNAi)によりポリペプチドの発現を抑制することも可能である。RNAiは、2本鎖RNAを細胞内に導入することで、細胞内において、当該2本鎖RNAの配列に相同なmRNAが分解され、遺伝子発現が抑制される現象である。この方法を用いることでも、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドの含量を低下させることにより生物中のn−3系酸含量を低下させることができる。また、同時に基質となる脂肪酸の含量の低下を防ぐことが可能となる。具体的には、上記(a)・(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、上記(c)〜(f)のポリヌクレオチドを同時に同一の細胞内で発現されるようにすれば、RNAiが生じる。そのため、ポリペプチドの発現を抑制することが可能となる。
【0093】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0094】
あるいは、本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0095】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、炭素数18および20のn−6位に不飽和結合を持つ脂肪酸に加えて、これらの脂肪酸のω3位が不飽和化された脂肪酸を含む生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図される。例えば、α−リノレン酸はリノール酸からω3不飽和化反応によって生成されると考えられ、ステアリドン酸はγ−リノレン酸からω3不飽和化反応によって生成されると考えられ、20:4Δ8,11,14,17はジホモ−γ−リノレン酸からω3不飽和化反応によって生成されると考えられ、エイコサペンタエン酸はアラキドン酸からω3不飽和化反応によって生成されると考えられるので、例えばこれらの基質−生成物ペアのすべてまたは一部を含む生物材料であれば、n−3系脂肪酸の合成反応を触媒するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得することができる。後述する実施例においては、上記供給源としてMortierella alpinaを用いているが、これに限定されるものではない。
【0096】
なお、本発明の目的は、炭素数18および/または20の脂肪酸のω3位を不飽和化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドの作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される炭素数18および/または20の脂肪酸のω3位を不飽和化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0097】
(3)抗体
本発明は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。本発明に係る抗体は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを発現する生物材料を選択するに有用であり得る。
【0098】
「抗体」は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。
【0099】
ペプチド抗体は、当該分野に周知の方法によって作製される。例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910-914 およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347-2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。一般には、動物は遊離ペプチドで免疫化され得る。しかし、抗ペプチド抗体力価はペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含有するペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得、一方、他のペプチドは、グルタルアルデヒドのようなより一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。ウサギ、ラット、およびマウスのような動物は、遊離またはキャリア−カップリングペプチドのいずれかで、例えば、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質およびFreundのアジュバントを含むエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により免疫化される。いくつかの追加免疫注射が、例えば、固体表面に吸着された遊離ペプチドを使用してELISAアッセイにより検出され得る有用な力価の抗ペプチド抗体を提供するために、例えば、約2週間の間隔で必要とされ得る。免疫化動物からの血清における抗ペプチド抗体の力価は、抗ペプチド抗体の選択により、例えば、当該分野で周知の方法による固体支持体上のペプチドへの吸着および選択された抗体の溶出により増加され得る。
【0100】
本明細書中で使用される場合、用語「ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体」は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチド抗原に特異的に結合し得る完全な抗体分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)フラグメント)を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ない(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316-325(1983)(本明細書中に参考として援用される))。従って、これらのフラグメントが好ましい。
【0101】
さらに、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドのペプチド抗原に結合し得るさらなる抗体が、抗イディオタイプ抗体の使用を通じて二工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原であるという事実を使用し、従って、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従って、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体は、動物(好ましくは、マウス)を免疫するために使用される。次いで、このような動物の脾細胞はハイブリドーマ細胞を産生するために使用され、そしてハイブリドーマ細胞は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体に結合する能力がω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチド抗原によってブロックされ得る抗体を産生するクローンを同定するためにスクリーニングされる。このような抗体は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、そしてさらなるω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体の形成を誘導するために動物を免疫するために使用され得る。
【0102】
FabおよびF(ab’)ならびに本発明に係る抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることが、明らかである。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生される。あるいは、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチド結合フラグメントは、組換えDNA技術の適用または合成化学によって産生され得る。
【0103】
このように、本発明に係る抗体は、少なくとも、本発明に係るω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを認識する抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)フラグメント)を備えていればよいといえる。すなわち、本発明に係るω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを認識する抗体フラグメントと、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0104】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを認識する抗体を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0105】
(4)本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドの利用
(4−1)ベクター
本発明は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドを生成するために使用されるベクターを提供する。本発明に係るベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
【0106】
本発明に係るベクターは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されない。例えば、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0107】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0108】
発現ベクターは、好ましくは少なくとも1つの選択マーカーを含む。このようなマーカーとしては、抗生物質耐性遺伝子や、栄養要求性株を補完するマーカー遺伝子(すなわち栄養要求性マーカー)等を用いることができる。具体的には、例えば、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性等を挙げられ、大腸菌(Escherichia coli)および他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0109】
上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否かを確認することができる。あるいは、本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。これにより導入発現を確認することができる。
【0110】
また、植物で発現させる際には、組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター、または外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
【0111】
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0112】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および生物種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得したベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0113】
(4−2)宿主および形質転換方法
上記の宿主は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種生物を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(E. coli)等の細菌;酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schzosaccharomyces pombe)、糸状菌等の真菌;線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、ブタ、ラット、マウス等の哺乳類、その他動物等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
【0114】
また、本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱または双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
【0115】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、酢酸リチウム法、パーティクルデリバリー法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明に係るポリペプチドを昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0116】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著,植物遺伝子操作マニュアル,1990,27−31pp,講談社サイエンティフィック,東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.,67,325(1990)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlant Molecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行なう場合には、バイナリーベクター(pBI121またはpPZP202など)を使用することができる。
【0117】
また、遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000(BIO−RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行なう。
【0118】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行なうことが可能である。
【0119】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0120】
(4−3)形質転換体
本発明は、上述したω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体を提供する。ここで「形質転換体」とは、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体を含むことを意味する。
【0121】
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主で例示した各種微生物、植物または動物を挙げることができる。
【0122】
本発明に係る形質転換体は、天然に有する脂肪酸とはその組成が改変されている。本発明に係る形質転換体は、真菌(酵母、糸状菌等)、植物もしくはその子孫、動物またはこれら由来の細胞あるいは組織であることが好ましく、かかる植物はダイズ、ナタネ、ゴマ、オリーブ、アマニ、トウモロコシ、ヒマワリ、またはベニバナであることが特に好ましい。すなわち、本発明で形質転換に用いられる植物としては、油脂製造用に栽培される植物を好ましく用いることができる。
【0123】
本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む形質転換体は、当該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該遺伝子が発現し得るように植物中に導入することにより得ることができる。
【0124】
遺伝子が導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行なうことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行なう。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行なうことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0125】
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換体がいったん得られれば、当該生物体の有性生殖または無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該生物体またはその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、植物の場合、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。したがって、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された生物体、もしくは、当該生物体と同一の性質を有する当該生物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
【0126】
このように、本発明に係る形質転換体は、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されていればよいといえる。すなわち、組換え発現ベクター以外の手段によって生成された形質転換体も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0127】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種および生物種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法を用いて取得した形質転換体も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0128】
(4−4)ポリペプチドの生産方法
本発明は、本発明に係るポリペプチドを生産する方法を提供する。
【0129】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴とする。
【0130】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを無細胞タンパク質合成系に用いることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットを用いればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0131】
本実施形態の他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、組換え発現系を用いることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明に係るポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能に宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られる上記ポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0132】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0133】
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0134】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することを特徴とする。本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上述した抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上述したポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0135】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを化学合成することを特徴とする。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。
【0136】
以上のように、本発明に係るポリペプチドを生産する方法によって取得されるポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0137】
変異ポリペプチドを作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、Hashimoto-Gotoh,Gene 152:271-275(1995)参照)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異ポリペプチドを作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異ポリペプチド作製法を用いることによって、変異ポリペプチドを作製することができる。変異ポリペプチドの作製には市販のキットを利用してもよい。
【0138】
このように、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、少なくとも、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列、またはω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。
【0139】
つまり、本発明の目的は、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドの生産方法を提供することにあるのであって、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0140】
(4−5)脂肪酸生産方法
本発明は、本発明に係るポリペプチドを発現する生物体または細胞を用いて脂肪酸を生産する方法を提供する。上記生物体は、天然の未改変生物体であっても組換え発現系を用いた形質転換体であってもよい。
【0141】
一実施形態において、本発明に係る脂肪酸生産方法は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換された生物体またはその組織を用いて脂肪酸を生産する。好ましくは、上記生物体は、真菌(酵母、糸状菌等)、植物または動物である。
【0142】
本実施形態の好ましい局面において、本発明に係る脂肪酸生産方法は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを上記生物体に導入する工程を包含する。ポリヌクレオチドを上記生物体に導入する工程としては、上述した種々の遺伝子導入方法を用いればよい。本実施形態のこの局面において、上記生物体は形質転換される前に産生した脂肪酸と形質転換後に産生する脂肪酸との間でその組成が異なる。具体的には、上記生物体から得られる脂肪酸は、例えば、α−リノレン酸、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、エイコサペンタエン酸等のn−3系脂肪酸の含有率が増加する。本実施形態のこの局面に係る脂肪酸生産方法は、上記生物体から脂肪酸を抽出する工程をさらに包含することが好ましい。
【0143】
例えば、上述のようにα−リノレン酸、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、または/およびエイコサペンタエン酸の含量が増加した本発明に係る形質転換体から抽出した脂肪酸を含む油は、α−リノレン酸、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、または/およびエイコサペンタエン酸の含量が高い食品として提供される。また、形質転換植物体の場合、抽出した脂肪酸に限らず、上記形質転換植物体の種子、果実、切穂、塊茎、および/または塊根等もまた、α−リノレン酸、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、または/およびエイコサペンタエン酸を多く含む食品として提供される。脂肪酸組成を改変する対象は特に限定されるものではなく、植物以外にも動物、細菌、または真菌(酵母、糸状菌等)等のあらゆる生物を対象とすることが可能である。
【0144】
他の実施形態において、本発明に係る脂肪酸生産方法は、本発明に係るポリペプチドを天然に発現する上記生物体に、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドをアンチセンスヌクレオチドとして導入する工程を包含する。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを上記生物体に導入する工程としては、上述したアンチセンスRNA技術を用いればよい。また、前述したRNAiの技術も利用することができる。
【0145】
本実施形態に係る脂肪酸生産方法は、上述した抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する上記生物体を同定する工程をさらに包含することが好ましい。本実施形態のこの局面に係る脂肪酸生産方法は、上記生物体ら脂肪酸を抽出する工程をさらに包含することが好ましい。
【0146】
本実施形態において、上記生物体は上記ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを導入される前に産生した脂肪酸と導入後に産生する脂肪酸との間でその組成が異なる。具体的には、上記生物体から得られる脂肪酸は、天然に産生するα−リノレン酸、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17、エイコサペンタエン酸等のn−3系脂肪酸の含有率が減少する。また、これらの基質であるリノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸等の含有率の減少の程度は小さくなる。
【0147】
このように、本発明に係る脂肪酸の生産方法は、少なくとも、本発明に係るポリペプチドを発現する生物体を用いればよいといえる。
【0148】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドによって脂肪酸の組成が改変された生物体に基づく脂肪酸生産方法を提供することにあるのであって、上記生物体として動物、植物または種々の微生物を用いる生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0149】
(4−6)食品および工業製品
本発明は、上述の脂肪酸生産方法により得られた脂肪酸を用いて製造される食品および工業製品を提供する。本項で記載する食品は、例えば、上述した形質転換体が植物の場合、その種子、果実、切穂、塊茎、および/または塊根であっても、上述した形質転換体から抽出された脂肪酸を用いて製造された食品であってもよい。また、上述した形質転換体が微生物の場合は、当該微生物そのものであってもよいし、抽出物等の加工物であってもよい。さらに、本発明の食品は、上述した形質転換体である動物の肉または乳であってもよい。
【0150】
また、工業製品には、上述した形質転換体から抽出された脂肪酸を用いて製造された食物補充剤や動物用食餌補充剤が含まれる。上述したように、n−3系PUFAsについては、EPAの抗血栓作用、血清脂質改善作用、DHAの学習機能向上作用、制がん作用をはじめとする多くの生理活性が知られており、生体の恒常性を保つために必須である。しかしながら、ヒトをはじめとする動物は、n−3系PUFAsを体内で合成することができないため、n−3系PUFAsを経口摂取することが非常に重要である。このため、食物からのn−3系PUFAs摂取が不足する場合には、食物補充剤や動物用食餌補充剤で補うことが望まれる。上述した形質転換体から抽出された脂肪酸をPUFAsは、上記のような目的で用いることができる。
【0151】
なお、上述した形質転換体から抽出されたn−3系PUFAを補うと、補ったPUFAsの含有率のみでなく、その下流代謝産物の含有率も増加しうる。例えば、α−リノレン酸を補うと、α−リノレン酸だけでなく、ドコサヘキサエン酸(DHA)やプロスタグランジンなどの下流産物の含有率を増加させうる。ドコサヘキサエン酸は乳幼児の脳の発達に必要であることから、上述した形質転換体から抽出された脂肪酸は、育児用粉乳や育児用の食物補充剤としても有用である。
【0152】
(4−7)検出器具
本発明は、種々の検出器具を提供する。本発明に係る検出器具は、本発明に係るポリヌクレオチドもしくはフラグメントが基板上に固定化されたもの、または、本発明に係るポリペプチドもしくは抗体が基板上に固定化されたものであり、種々の条件下において、本発明に係るポリヌクレオチドおよびポリペプチドの発現パターンの検出・測定などに利用することができる。
【0153】
本明細書中で使用される場合、用語「基板」は、目的物(例えば、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質)を担持することのできる物質が意図され、用語「支持体」と交換可能に使用される。好ましい基板(支持体)としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。目的物をこれらの基板に固定化する方法は、当業者に周知であり、例えば、Nature 357:519-520(1992)(本明細書中に参考として援用される)に記載される。
【0154】
一実施形態において、本発明に係る検出器具は、本発明に係るポリヌクレオチドおよび/またはオリゴヌクレオチドが基板上に固定化されていることを特徴とする。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態に係る検出器具は、いわゆるDNAチップである。本明細書中で使用される場合、用語「DNAチップ」とは、合成したオリゴヌクレオチドを基板上に固定化した合成型DNAチップを意味するが、これに限定されず、PCR産物などのcDNAを基板上に固定化した貼付け型DNAマイクロアレイもまた包含する。DNAチップとしては、例えば、本発明の遺伝子と特異的にハイブリダイズするプローブ(すなわち、本発明に係るオリゴヌクレオチド)を基板(担体)上に固定化したDNAチップが挙げられる。
【0155】
プローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する公知の方法(例えば、SAGE法(Serial Analysis of Gene Expression法)(Science 276:1268,1997;Cell 88:243,1997;Science 270:484,1995;Nature 389:300,1997;米国特許第5,695,937号)等が挙げられるがこれらに限定されない)によって決定することができる。
【0156】
なお、DNAチップの製造には、公知の方法を採用すればよい。例えば、オリゴヌクレオチドとして、合成オリゴヌクレオチドを使用する場合には、フィトリオグラフィー技術と固相法DNA合成技術との組合わせにより、基板上でオリゴヌクレオチドを合成すればよい。一方、オリゴヌクレオチドとしてcDNAを用いる場合は、アレイ機を用いて基板上に張り付ければよい。
【0157】
また、例えば、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置してポリヌクレオチドの検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なるポリヌクレオチドを並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基板上に固定化してDNAチップを構成してもよい。
【0158】
本実施形態に係る検出器具に用いる基板の材質としては、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態に係る検出器具は、種々の生物またはその組織もしくは細胞から作製したcDNAライブラリーを標的サンプルとする検出に用いられる。
【0159】
他の実施形態において、本発明に係る検出器具は、本発明に係るポリペプチドまたは抗体が基板上に固定化されていることを特徴とする。本実施形態の好ましい局面において、本実施形態に係る検出器具は、いわゆるプロテインチップである。
【0160】
本実施形態に係る検出器具に用いる基板の材質としては、ポリペプチドまたは抗体を安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
【0161】
上記の方法以外のポリペプチドまたは抗体を基板上に固定化する方法としては、例えば、ニトロセルロース膜やPDVF膜にポリペプチドや抗体をドットブロットの要領でスポットする物理吸着法、または、ポリペプチドや抗体の変性を軽減するために、スライドガラス上にポリアクリルアミドのパッドを接合して、これにポリペプチドや抗体をスポットする方法が挙げられる。さらに、ポリペプチドや抗体を基板表面に吸着させるだけでなく、強固に結合させるため、アルデヒド修飾ガラスを利用した方法(G.MacBeath, S.L.Schreiber,Science,289,1760(2000))を用いることもできる。また、基板上でのポリペプチドの配向を揃えて固定化する方法としては、オリゴヒスチジンタグを介して、ニッケル錯体で表面修飾した基板へ固定化する方法(H.Zhu, M.Bilgin, R.Bangham, D.Hall, A.Casamayor, P.Bertone, N.Lan, R.Jansen, S.Bidlingmaier, T.Houfek, T.Mitchell, P.Miller, R.A.Dean, M.Gerstein, M.Snyder, Science,293,2101(2001))を用いることができる。
【0162】
本実施形態の好ましい局面において、本実施形態に係る検出器具は、種々の生物またはその組織もしくは細胞からの抽出液を標的サンプルとする検出に用いられる。
【0163】
このように、本発明に係る検出器具は、少なくとも、本発明に係るポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、または本発明に係るポリペプチドもしくは当該ポリペプチドと結合する抗体が支持体上に固定化されていればよいといえる。また、本発明に係る検出器具は、本発明に係るポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、または本発明に係るポリペプチドもしくは当該ポリペプチドと結合する抗体が固定化されている基板を備えていればよいといえる。すなわち、これらの支持体(基板を含む)以外の構成部材を備える場合も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0164】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係るポリヌクレオチド、あるいは本発明に係る抗体に結合するポリペプチドを検出する器具を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の支持体の種類、固定化方法に存するのではない。したがって、上記支持体以外の構成部材を包含する検出器具も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【実施例】
【0165】
〔実施例1:PCRによるω3脂肪酸不飽和化酵素の部分配列のクローニング〕
Mortierella alpinaおよびSaccharomyces kluyveriのΔ12脂肪酸不飽和化酵素ならびにS. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列を比較し相同性の高いアミノ酸配列に対応するプライマーを設計した。図1に、M. alpinaおよびS. kluyveriのΔ12脂肪酸不飽和化酵素ならびにS. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列を示す。図中、上段がM. alpinaのΔ12脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列(配列番号10)を、中段がS. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列を(配列番号11)、下段がS. kluyveriのΔ12脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列(配列番号12)を示す。図中の下線で示す相同性の高いアミノ酸配列に対応する縮重オリゴヌクレオチドからなるプライマーω3−F1およびω3−R1を設計した。
ω3−F1(対応するアミノ酸配列:WVLAHECGH、プライマーは順方向)
5’-TGGGTIYTBGCICAYGARTGYGGHCA- 3'(配列番号4)
ω3−R1(対応するアミノ酸配列:TFLQHTDPK、プライマーは逆方向)
5’-TTIGGRTCIGTRTGYTGVARRAAIGT -3'(配列番号5)
なお、上記プライマーの塩基配列において、「I」はイノシンを示し、「Y」はT(チミン)またはC(シトシン)を示し、「B」はG(グアニン)、CまたはTを示し、「R」はGまたはA(アデニン)を示し、「H」はA、CまたはTを示し、「V」はA、GまたはCを示す。なお上記「I」は配列番号4では「n」で表されている。
【0166】
M. alpina(1S−4株)のゲノムDNAは、Sakuradani et al.1999a,Δ-Fatty acid desaturase from arachidonic acid-producing fungus. Unique gene sequence and its heterologous expression in a fungus,Aspergillus. Eur J Biochem 260:208-216 の方法に従って調製した。
【0167】
得られたM. alpinaのゲノムDNAを鋳型として、上記プライマーω3−F1およびω3−R1を用いてPCRを行った。PCRは、ExTaq(タカラバイオ)を用いて、94℃ 3分、(94℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 1分)を30サイクル、72℃ 10分の反応を行った。PCR反応は、1μgのゲノムDNA、0.25μlのTakara Ex Taq ポリメラーゼ(タカラバイオ)、5μlの10×Ex Taq buffer、各200μMのdNTP、各200pmolのプライマーを含む全容積50μlの反応混合液を用いて行なった。また、PCR産物をアガロースゲル電気泳動したところ、約600bpの断片が1本確認できた。このPCR条件では、Δ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を鋳型として増幅されたDNA断片も約600bpとなることから、このDNA断片にはω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子由来の配列とΔ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子由来の断片が混在していると考えられた。そこで、塩基配列が明らかになっているΔ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子中を1箇所切断する制限酵素KpnIでこのDNA断片を消化し、再度アガロースゲル電気泳動した。その結果、元のサイズのDNA断片およびそれよりも短い2本の断片が得られ、PCR産物にはΔ12脂肪酸不飽和化酵素由来のDNA断片とそれとは異なるDNA断片が混在することが示された。
【0168】
そこで、PCR産物のうち、KpnIで消化されなかった断片を精製し、これをpT7Blue T-vecter(Novagen社製)に、ligation high(東洋紡社製)により連結した(以降のTA cloningもすべて同様に行った)。塩基配列の解析はABI3100(アプライドバイオシステムズ社製)で行った。相同性検索はblastxで、GenBankに登録されているアミノ酸配列に対して行った。その結果、M. alpina(1S−4株)由来のΔ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子と最も高い相同性を示し、その領域の塩基配列のアイデンティティは57%であった。
【0169】
〔実施例2:ω3脂肪酸不飽和化酵素のゲノムDNA配列の決定〕
得られた約600bpの塩基配列をもとに以下のプライマーを設計し、Inverse PCR(逆PCR)を行った。
ω3−IPCRR2
5' -GACCCATCCAAAGATGGTGTTGATC -3'(配列番号6)
ω3−IPCRF2
5' -GACTGTCTTCATGTACTATGGCATC -3'(配列番号7)
まず、Mortierella alpinaより調製したゲノムDNAをEcoRIで完全に消化し、ligation high(東洋紡社製)により15℃で一晩反応させ、セルフライゲーションによって閉環させた。それを鋳型として、上記プライマーω3−IPCRF2およびω3−IPCRR2を用いてPCRを行った。PCRの反応混合物は、鋳型の濃度が50ng/μlであった以外は実施例1と同じであった。PCRは、ExTaq(タカラバイオ)を使用して、94℃ 3分、(94℃ 1分、60℃2分、72℃ 3分)を35サイクル、72℃ 15分の反応を行った。
【0170】
得られた3−4kbのDNA断片は、実施例1と同様の方法でベクターpT7Blue T-vector(Novagen社製)にTAクローニングし、挿入された約4kbの断片の両端からそれぞれ数百bpの塩基配列を決定し、先に得られた部分配列と連結した。この塩基配列を配列番号2に示す。相同配列との比較および、開始コドンや終止コドンの出現などからω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子のコード領域を推定した。コード領域は14〜1366であり、イントロンが1ヶ所存在すると考えられた。
【0171】
〔実施例3:ω3脂肪酸不飽和化酵素cDNAのクローニング〕
ω3脂肪酸不飽和化酵素は、低温培養により活性が発現することが明らかになっていた。そこで、まず、M. alpina(1S−4株)をGY液体培地で28℃ 7日間培養後、12℃ 2日間培養し菌体を回収した。Sakuradani et al.1999a,Δ-Fatty acid desaturase from arachidonic acid-producing fungus. Unique gene sequence and its heterologous expression in a fungus,Aspergillus. Eur J Biochem 260:208-216 の方法に従って全RNAを抽出した。1μgの全RNAを1st-Strand cDNA Synthesis Kit for RT-PCR(AMV)(Roche Diagnostics Corporation社)を用いて、ランダムヘキサマーをプライマーとして逆転写反応を行い、cDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型として、以下のプライマーω3-ExF3およびω3-ExR3を用いてPCRを行った。PCR反応は、1μgの鋳型cDNA、0.25μlのTakara LA Taq ポリメラーゼ(タカラバイオ)、5μlの10×LA Taq buffer、2mMのMgCl、各200μMのdNTP、各100pmolのプライマーを含む全容積50μlの反応混合液を用いて行なった。また、PCRの反応条件としては、94℃ 3分、(94℃ 1分、60℃ 2分、72℃ 3分)を35サイクル、72℃ 15分を用いた。
ω3-ExF3:5' -CAGAGTCATAaagcttAAatgGCCCCCCCT -3'(配列番号8)
ω3-ExR3:5' -GACgcatgcCGTATTCAAATTGttaTTAATGC -3'(配列番号9)
なお、プライマーω3-ExF3は、ATG開始部位(配列中小文字で示す。)と、HindIIIクローニング部位aagctt(配列中小文字で示す。)とを含んでいる。また、プライマーω3-ExR3は、TAA終止部位(配列中小文字で示す。)と、SphIクローニング部位gcatgc(配列中小文字で示す。)とを含んでいる。
【0172】
得られたDNA断片を、実施例1に記載された方法と同様な方法によって、ベクターpT7Blue T-vector(Novagen社製)にTAクローニングし、塩基配列を決定した。決定されたcDNAの塩基配列を配列番号3に示す。cDNAの塩基配列は、上記実施例2で決定したゲノムDNAの塩基配列(配列番号2)の14番目の塩基から343番目の塩基までの330bpおよび485番目の塩基から1366番目の塩基までの882bpからなる1212bpと一致した。このことから、配列番号2に示される塩基配列の14番目の塩基から1366番目の塩基までの1353bpがω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子であり、またこの遺伝子は、配列番号2に示される塩基配列の345番目の塩基から485番目の塩基までの141bpからなるイントロンを含み、403アミノ酸をコードしていることがわかった。
【0173】
このcDNAによりコードされるアミノ酸配列を、これまでに知られている他の生物種のω3脂肪酸不飽和化酵素および、M. alpinaのΔ12脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列と比較した。図2に上段から順に、M. alpinaのω3脂肪酸不飽和化酵素(図中「MAW3」と表示、配列番号1)、M. alpinaのΔ12脂肪酸不飽和化酵素(図中「Mor−Δ12」と表示、配列番号10)、S. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素(図中「Sacω3」と表示、配列番号11)、ダイズの小胞体局在ω3脂肪酸不飽和化酵素(図中「Soybeanω3(ER)」と表示、配列番号13)、ダイズのクロロプラスト局在ω3脂肪酸不飽和化酵素(図中「Soybeanω3(Chl)」と表示、配列番号14)のアミノ酸配列を示す。M. alpinaのω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列は、M. alpinaのΔ12脂肪酸不飽和化酵素、S. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素、ダイズの小胞体局在ω3脂肪酸不飽和化酵素、ダイズのクロロプラスト局在ω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列と、それぞれ51%、36%、34%、32%のアイデンティティを有していた。図2に示されるように、M. alpinaのω3脂肪酸不飽和化酵素は、ω3脂肪酸不飽和化酵素の中で最もアミノ酸配列が類似しているS. kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素とでも、36%という低いアイデンティティしか示していないことがわかった。このことから、M. alpinaのω3脂肪酸不飽和化酵素は、これまでに知られている他の生物種のω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列より、むしろM. alpina自身のΔ12脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列と類似していることがわかった。
【0174】
〔実施例4:ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子発現ベクターの構築〕
得られたM. alpina(1S−4株)由来のω3脂肪酸不飽和化酵素のcDNAを酵母で発現させるための発現ベクターを構築した。
【0175】
実施例3で得られたDNA断片をHindIII-SphIで処理し、酵母発現ベクターpYES2(Invitrogen社製)のHindIII-SphIサイトに連結し、プラスミドpYMAW3を構築した。このpYMAW3は、pYES2のHindIII-SphIサイトに、ω3脂肪酸不飽和化酵素のcDNA全長である1212bpが組み込まれている。
【0176】
〔実施例5:発現ベクターを用いた酵母の形質転換〕
このプラスミドpYMAW3で、酵母 Saccharomyces cerevisiae INVSc1(Invitrogen社)を形質転換し、形質転換体ω3−1およびω3−2を得た。形質転換は、Ausubel FM, Brent R, Kingston RE, Moore DD, Seidman JG, Smith JA, Struht k.,(1994) Transformation by electroporation. In Current protocols in Molecular Biology. pp.13.7.5.-13.7.7., Green Publishing Associates and Wiley-Interscience, New Yorkの方法に従ってエレクトロポレーション法を用いて行なった。形質転換体の選択はトリプトファン栄養要求性を指標として、YNBD(−Trp)培地を用いて行なった。
【0177】
〔実施例6:ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の発現と機能解析〕
まず、ラフィノース2%(Difco)、ポリペプトン2%(Daigo)、酵母エキス1%(Difco)を含むYPD培地をオートクレーブ後、ω3脂肪酸不飽和化活性の検出を可能にする基質として、n−6系脂肪酸であるリノール酸(LA;18:2Δ9,12)、n−6系脂肪酸であるγ−リノレン酸(GLA;18:3Δ6,9,12)、n−6系脂肪酸であるジホモ−γ−リノレン酸(DGLA;20:3Δ8,11,14)、または、n−6系脂肪酸であるアラキドン酸(AAまたはARA;20:4Δ5,8,11,14)のメチルエステルをそれぞれ0.1%(v/w)添加したものを用意した。それぞれの培地に形質転換株を1白金耳植菌し、28℃、300rpm、24時間振とう培養した。なお、対照としては、変更していないpYES2ベクターを含む酵母INVSC1を用いた。
【0178】
続いて、ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を発現させるために、培地にガラクトースを終濃度2%となるように添加し、さらに28℃、309rpm、48時間振とう培養した。
【0179】
〔実施例7:ω3脂肪酸不飽和化活性の検出〕
ω3脂肪酸不飽和化活性を検出するために、細胞全体の脂肪酸分析を行った。脂肪酸分析は、Sakuradani et al.1999a,Δ-Fatty acid desaturase from arachidonic acid-producing fungus. Unique gene sequence and its heterologous expression in a fungus,Aspergillus. Eur J Biochem 260:208-216 の方法に従った。
【0180】
遠心により酵母細胞を回収し、蒸留水で洗浄後100℃で乾燥した。乾燥された細胞は、10%塩化水素含有メタノールを加えて50℃で3時間放置し、直接メチル基転移させた。このようにして塩酸メタノール法により菌体細胞内の脂肪酸残基をメチルエステルに誘導した後、ヘキサンで抽出し、ヘキサンを留去したのち得られる脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。
【0181】
結果を下表1に示す。なお、表中「pYES2」で表されている株は、変更していないpYES2ベクターを含む対照株を示し、「ω3−1」、「ω3−2」は、異なる形質転換株を用いて行なった2回の独立した実験を示す。「基質(%)」は、検出された全脂肪酸中における、基質(例えば、n−6系脂肪酸であるリノール酸(LA;18:2Δ9,12))のモル組成を示す。「生成物(%)」は、検出された全脂肪酸中における、ω3不飽和化生成物(例えば、基質がLAの場合はn−3系脂肪酸であるα−リノレン酸(ALA;18:3Δ9,12,15)のモル組成を示す。また、「変換率(%)」は、{(生成物(%)/(基質(%)+生成物(%))}×100を用いて算出された。なお、変更していないpYES2ベクターを含む対照株では、基質として添加した脂肪酸は全く変換されていなかった。
【0182】
【表1】

【0183】
表1に、示されているように、M. alpina(1S−4株)由来のω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を酵母で発現させると、添加した全ての種類の炭素数18および20のn−6系脂肪酸のω3位を不飽和化して、n−3系脂肪酸を生成できることが確認された。すなわちn−6系脂肪酸であるリノール酸(LA;18:2Δ9,12)はn−3系脂肪酸であるα−リノレン酸(ALA;18:3Δ9,12,15)に変換され、n−6系脂肪酸であるγ−リノレン酸(GLA;18:3Δ6,9,12)はn−3系脂肪酸であるステアリドン酸(18:4Δ6,9,12,15)に変換され、n−6系脂肪酸であるジホモ−γ−リノレン酸(DGLA;20:3Δ8,11,14はn−3系脂肪酸である20:4Δ8,11,14,17に変換され、n−6系脂肪酸であるアラキドン酸(AAまたはARA;20:4Δ5,8,11,14)はn−3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA;20:5Δ5,8,11,14,17)に変換された。他の新規な脂肪酸は検出されなかったことから、このω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は、Δ12脂肪酸不飽和化活性、Δ脂肪酸不飽和化活性、および/またはΔ脂肪酸不飽和化活性を有さないことが判った。
【0184】
また、表1より、M. alpina(1S−4株)由来のω3脂肪酸不飽和化酵素は炭素数18および20のn−6系脂肪酸のω3位を不飽和化することができるが、炭素数20のn−6系脂肪酸に比べて炭素数18のn−6系脂肪酸のω3位をより効率的に不飽和化することができることが示された。
【0185】
図3〜図6に、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析の結果を示す。図3は、リノール酸を添加した場合の分析結果を、図4はγ−リノレン酸を添加した場合の分析結果を、図5はジホモ−γ−リノレン酸を添加した場合の分析結果を、図6はアラキドン酸を添加した場合の分析結果を示す。これらの図では、ω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子が発現した酵母細胞において、添加されたn−6系脂肪酸のω3位が不飽和化されて生成したn−3系脂肪酸の新規なピークが認められる。また、これらのピークは、同一の図中に示されている対照株の分析結果では見られない。新規のピークとして認められる脂肪酸エステルは、標準物質の保持時間との比較、およびGLC−MS分析により得られた分子イオンピークおよびフラグメントパターンから同定した。
【0186】
〔実施例8:酵母における低温条件下でのω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の発現と機能解析〕
実施例4で得られたプラスミドpYMAW3で酵母INVSC1(Invitrogen社)を形質転換した、形質転換体ω3−1を用いて、低温条件下でω3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を発現させた。
【0187】
ラフィノース2%(Difco)、ポリペプトン2%(Daigo)、酵母エキス1%(Difco)の液体培地をオートクレーブ後、実施例6と同一の基質を0.05%(v/w)添加した。それぞれの培地に形質転換株を1白金耳植菌し、28℃、300rpm、24時間振とう培養した。続いて、ガラクトースを終濃度2%となるように培地に添加し、さらに20℃または12℃にて300rpm、48時間振とう培養した。
【0188】
対照、脂肪酸メチルエステルの分析については実施例5と同様である。結果を下表2に示す。なお、表には示されていないが、変更されていないpYES2ベクターで形質転換した対照株では、いずれの温度においても基質として添加した脂肪酸は変換されていなかった。「基質(%)」、「生成物(%)」、「変換率(%)」については実施例7で説明したとおりである。
【0189】
【表2】

【0190】
表2に示されているように、いずれの基質を加えた場合でも、20℃あるいは12℃低温条件においては、28℃のときと比べて変換率が数倍高いことが確認された。このことから、M. alpina(1S−4株)由来のω3脂肪酸不飽和化酵素は、低温でより効率よく機能する酵素であることが判った。
【0191】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0192】
以上のように、本発明に係るポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、n−3系脂肪酸の生産に有用である。また、本発明に係るポリヌクレオチドを発現可能に導入した形質転換体または細胞は、食品分野、各種工業分野において、n−3系脂肪酸、あるいはこれらを用いる製品を生産する上で、極めて有用である。また、特に、上記形質転換体が植物体である場合、植物体自体を食品として用いることができるので農業分野等において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】Mortierella alpinaおよびSaccharomyces kluyveriのΔ12脂肪酸不飽和化酵素ならびにSaccharomyces kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素の推定アミノ酸配列と、これらの間で相同性の高いアミノ酸配列とを示す図である。
【図2】Mortierella alpinaのω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列を、Mortierella alpinaのΔ12脂肪酸不飽和化酵素、Saccharomyces kluyveriのω3脂肪酸不飽和化酵素、ダイズの小胞体局在ω3脂肪酸不飽和化酵素、ダイズのクロロプラスト局在ω3脂肪酸不飽和化酵素のアミノ酸配列と比較した図である。
【図3】基質としてリノール酸を添加した場合の、pYMAW3を導入した酵母Saccharomyces cerevisiaeにおける、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析の結果を示す図である。
【図4】基質としてγ−リノレン酸を添加した場合の、pYMAW3を導入した酵母 Saccharomyces cerevisiaeにおける、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析の結果を示す図である。
【図5】基質としてジホモ−γ−リノレン酸を添加した場合の、pYMAW3を導入した酵母 Saccharomyces cerevisiaeにおける、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析の結果を示す図である。
【図6】基質としてアラキドン酸を添加した場合の、pYMAW3を導入した酵母Saccharomyces cerevisiaeにおける、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析の結果を示す図である。
【図7】図7は、動物において主要なn−3系およびn−6系PUFAsを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって、以下の(a)または(b)であることを特徴とするポリペプチド:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドと結合することを特徴とする抗体。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、下記の(c)、(d)、(e)または(f)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド:
(c)配列番号2または3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(d)配列番号2で示される塩基配列のうち第14番目から第1366番目までの塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(e)配列番号2または3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(f)配列番号2で示される塩基配列のうち第14番目から第1366番目までの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのフラグメントであることを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項8】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項9】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項10】
真菌、動物、あるいは、植物もしくはその子孫、またはこれら由来の細胞あるいは組織であることを特徴とする請求項9に記載の形質転換体。
【請求項11】
上記植物がダイズ、ナタネ、ゴマ、オリーブ、アマニ、トウモロコシ、ヒマワリ、またはベニバナであることを特徴とする請求項10に記載の形質転換体。
【請求項12】
脂肪酸組成が改変されていることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項13】
請求項8に記載のベクターを用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法。
【請求項14】
請求項9から12のいずれか1項に記載の形質転換体を用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法。
【請求項15】
請求項9から12のいずれか1項に記載の形質転換体、または請求項7に記載のベクターを用いることを特徴とする脂肪酸の生産方法。
【請求項16】
上記ポリヌクレオチドが導入された生物または細胞を、培養開始から、または、最適培養温度で培養した後に、最適培養温度より低い温度で培養し、脂肪酸を生産することを特徴とする請求項15に記載の脂肪酸の生産方法。
【請求項17】
上記最適培養温度より低い温度は、0℃以上、20℃以下であることを特徴とする請求項16に記載の脂肪酸の生産方法。
【請求項18】
上記脂肪酸は、α−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17またはエイコサペンタエン酸(EPA)であることを特徴とする請求項15、16または17に記載の脂肪酸の生産方法。
【請求項19】
請求項15、16または17に記載の脂肪酸生産方法により得られたα−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、20:4Δ8,11,14,17またはエイコサペンタエン酸(EPA)を含むことを特徴とする食品または工業製品。
【請求項20】
生物から調整されたゲノムDNAまたはcDNAから、
(g)請求項5に記載のポリヌクレオチドまたは請求項5に記載のポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション;または
(h)請求項3または4に記載のポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCR;
により、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得する工程を含むことを特徴とする、ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの取得方法。
【請求項21】
請求項5に記載のポリヌクレオチドおよび/または請求項5に記載のポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドが基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具。
【請求項22】
請求項1に記載のポリペプチドが基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具。
【請求項23】
請求項2に記載の抗体が基板上に固定化されていることを特徴とする検出器具。
【請求項24】
ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって、配列番号1に示されるアミノ酸配列との相同性が70%以上であるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項25】
ω3脂肪酸不飽和化活性を有するポリペプチドであって、配列番号1に示されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を有するポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−55104(P2006−55104A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241671(P2004−241671)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】