説明

かご型シルセスキオキサン樹脂及びその製造方法

【課題】1分子中に炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とを有しており、ポリマーを製造する際において反応や構造を容易に制御することができるかご型シルセスキオキサン樹脂及び該かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】不飽和基を含む基R含有シラン(1):RSiX・・・(1){Xは加水分解性基を示す。}で表わされるケイ素化合物(a)、下記一般式(5):RSiX・・・(5){式(5)中、Rは、エポキシ基を含む基、Xは加水分解性基を示す。}で表わされるケイ素化合物(c)を、水と有機極性溶媒と有機非極性溶媒とからなる混合溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解せしめると共に縮合せしめてかご型シルセスキオキサン樹脂を得、前記加水分解反応工程後に90℃を超えて加熱する工程を備えないことを特徴とするかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご型シルセスキオキサン樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサン樹脂については、例えば、1995年発行の「Chem.rev.」の第95巻の第1409頁(非特許文献1)に記載されているように、ラダー構造(はしご型)、完全縮合型構造(かご型)、不完全縮合型構造(ランダム型)、及び、一定の構造を有さないアモルファス型の構造を有するシルセスキオキサンが報告されている。また、1991年発行の「Organometallics」の第10巻の第2526頁(非特許文献2)においては、シクロベンチルトリクロロシラン又はシクロヘキシルトリクロロシランをアセトン中で加水分解縮合することにより、不完全縮合構造のシルセスキオキサンが得られることが記載されている。
【0003】
前記完全縮合型構造(かご型)のシルセスキオキサンとは、複数の環状構造からなり、閉じた空間を形成するものを意味し、前記不完全縮合構造(ランダム型)のシルセスキオキサンとは、完全縮合構造の少なくとも一箇所以上が塞がれておらず、空間が閉じていないものを意味する。このようなシルセスキオキサン樹脂の中でも、かご型シルセスキオキサン樹脂は、剛直な骨格を有しているため、耐熱性、耐候性、光学特性、寸法安定性等に優れた材料として特に期待されている。
【0004】
かご型シルセスキオキサン樹脂を製造する方法としては、例えば、特開2004−143449号公報(特許文献1)において、(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基のうちのいずれか一つを有するケイ素化合物を有機極性溶媒下で加水分解反応せしめ、次いで、反応生成物を再縮合せしめる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−143449号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ronald H.Baneyら、Chem.rev.、1995年、第95巻、第1409〜1430頁
【非特許文献2】Frank J.Feherら、Organometallics、1991年、第10巻、第2526〜2528頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かご型シルセスキオキサン樹脂は、分子構造を制御することにより、これをビルディングブロックとして用いたポリマーの構造を制御することができ、全く違った物性を持つポリマーを得ることが可能となる。しかしながら、上記特許文献1に記載されているかご型シルセスキオキサンの有する官能基は1分子中に1種であるため、反応方法が限定され、得られるポリマーの物性の選択性が狭いという点で未だ不十分であるということを本発明者らは見出した。
【0008】
また、上記特許文献1に記載されている製造方法において、(メタ)アクリロイル基のような炭素−炭素2重結合基及びエポキシ基の2種の官能基をかご型シルセスキオキサン樹脂に導入することを試みても、生成物が不溶解性となり、かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で得ることが困難であることを本発明者らは見出した。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、1分子中に炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とを有しており、ポリマーを製造する際において反応や構造を容易に制御することができるかご型シルセスキオキサン樹脂及び該かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、かご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法において、特定の構造を有するケイ素化合物を特定の組み合わせで混合し、水と有機極性溶媒と有機非極性溶媒とからなる混合溶媒及び塩基性触媒の存在下において反応せしめ、且つ、高温で加熱しないことにより、1分子中に炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とを有するかご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法は、
下記一般式(1):
SiX ・・・(1)
{式(1)中、Rは、下記一般式(2)〜(4):
−R−OCO−CR=CH ・・・(2)、
−R−CR=CH ・・・(3)、
−CH=CH ・・・(4)
[式(2)〜(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を示す。]
で表わされる基のうちのいずれか一種を示し、Xは加水分解性基を示す。}
で表わされるケイ素化合物(a)、下記一般式(5):
SiX ・・・(5)
{式(5)中、Rは、下記一般式(6):
【0012】
【化1】

【0013】
[式(6)中、iは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基又は下記一般式(7):
【0014】
【化2】

【0015】
[式(7)中、jは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基を示し、Xは加水分解性基を示す。}
で表わされるケイ素化合物(b)、及び下記一般式(8):
SiX ・・・(8)
[式(8)中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、水素原子、アルコキシ基及びアルキルシロキシ基からなる群より選択されるいずれか一種を示し、Xは加水分解性基を示す。]
で表わされるケイ素化合物(c)を、水と有機極性溶媒と有機非極性溶媒とからなる混合溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解せしめると共に縮合せしめてかご型シルセスキオキサン樹脂を得る加水分解反応工程を備えており、
前記ケイ素化合物(a)、前記ケイ素化合物(b)及び前記ケイ素化合物(c)の混合モル比(a:b:c)が下記式(i):
a:b:c=n:m:k ・・・(i)
{式(i)中、n、m及びkは下記式(ii)〜(iv):
n≧1 ・・・(ii)、
m≧1 ・・・(iii)、
n+m+k=h ・・・(iv)
[式(iv)中、hは8、10、12及び14からなる群より選択されるいずれかの整数を示す。]
で表わされる条件を満たす整数を示す。}
で表わされ、且つ、
前記加水分解反応工程後に90℃を超えて加熱する工程を備えないこと
を特徴とするものである。
【0016】
本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法としては、前記加水分解反応工程の後に、前記加水分解反応後の溶液に50〜90℃において再縮合処理を施す工程を更に備えることが好ましい。
【0017】
また、本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂は、下記一般式(9):
[RSiO3/2[RSiO3/2[RSiO3/2 ・・(9)
[式(9)中、Rは、上記一般式(2)〜(4)で表わされる基のうちのいずれか一種を示し、Rは、上記一般式(6)で表わされる基又は上記一般式(7)で表わされる基を示し、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、水素原子、アルコキシ基及びアルキルシロキシ基からなる群より選択されるいずれか一種を示し、n、m及びkは上記式(ii)〜(iv)で表わされる条件を満たす整数を示し、前記n、前記m及び前記kがそれぞれ2以上の場合には前記R前記R、及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
で表されることを特徴とするものである。
【0018】
なお、本発明の構成によって前記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、炭素−炭素2重結合基を有する特定のケイ素化合物、エポキシ基を有する特定のケイ素化合物、及びアルキル基等を有するケイ素化合物をかご型シルセスキオキサン骨格を形成できる混合比で混合し、混合溶媒中で加水分解せしめると共に縮合せしめることにより、1分子中に炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とが導入されたかご型シルセスキオキサン樹脂を得ることができる。また、加水分解反応後に90℃を超えて加熱する工程を含まないことにより、加水分解反応により生成したシラノール基とエポキシ基とが重合して不溶解性となることを抑制でき、かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で得ることが可能になると本発明者らは推察する。
【0019】
このような1分子中に異種官能基を有する本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂は、異なる官能基を段階的に重合させ、架橋密度を減少させることなく緻密な三次元網目構造を形成させることができるため、得られた硬化物は交互貫入ポリマーを形成し、単独重合よりも優れた剛性及び靭性を有することができる。このような硬化物の製造方法としては、例えば、先ず、目的の構造を有するジオール化合物等を用いて、本発明により得られるかご型シルセスキオキサン樹脂のエポキシ基と該ジオール化合物の水酸基とを選択的に反応せしめ、目的の構造が導入された共重合体を形成させる。次いで、前記かご型シルセスキオキサン樹脂における炭素−炭素2重結合基同士をラジカル共重合反応せしめ、前記共重合体内及び/又は共重合体間を架橋させることにより、簡易に、より確実に、緻密な三次元網目構造を形成させることができると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1分子中に炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とを有しており、ポリマーを製造する際において反応や構造を容易に制御することができるかご型シルセスキオキサン樹脂及び該かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で製造する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1で得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムである。
【図2】実施例2で得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムである。
【図3】実施例3で得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムである。
【図4】実施例4で得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムである。
【図5】実施例5で得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムである。
【図6】比較例2で得られた組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法は、ケイ素化合物(a)、ケイ素化合物(b)、及びケイ素化合物(c)を、水と有機極性溶媒と有機非極性溶媒とからなる混合溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解せしめると共に縮合せしめてかご型シルセスキオキサン樹脂を得る加水分解反応工程を備えており、前記加水分解反応工程後に90℃を超えて加熱する工程がないことを特徴とするものである。
【0024】
本発明に係るケイ素化合物(a)は、下記一般式(1):
SiX ・・・(1)
で表わされる。前記式(1)中、Rは、下記一般式(2)〜(4):
−R−OCO−CR=CH ・・・(2)、
−R−CR=CH ・・・(3)、
−CH=CH ・・・(4)
で表わされる基のうちのいずれか一種の炭素−炭素2重結合基を有する基を示す。本発明の製造方法においては、このような炭素−炭素2重結合基を有するケイ素化合物(a)を用いることにより、炭素−炭素2重結合基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を得ることができ、優れた耐熱性、耐候性、光学特性、及び成形性を有する硬化体をラジカル重合によって得ることが可能となる。
【0025】
前記式(2)〜(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキレン基又はフェニレン基を示す。前記アルキレン基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、かご型シルセスキオキサン樹脂を用いて硬化物を製造した場合に結合距離が短く熱的に安定となるという観点から、炭素数が1〜3であることが好ましい。これらの中でも、前記Rとしては、原料の入手が容易であるという観点から、プロピレン基がより好ましい。
【0026】
また、前記式(2)〜(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、ラジカル重合の反応性がより優れるという観点から、炭素数が1〜3であることが好ましい。このようなRとしては、ラジカル重合の反応性がさらに優れるという観点から、メチル基がより好ましい。
【0027】
前記式(1)中、Xは加水分解性基を示す。前記加水分解性基としては、アルコキシ基、アセトキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基等が挙げられる。中でも、加水分解反応において安定性及び簡易性に優れるという観点から、アルコキシ基であることが好ましい。前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。中でも、反応性が高いという観点から、メトキシ基であることが好ましい。
【0028】
このようなケイ素化合物(a)としては、例えば、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。中でも、原料の入手が容易であるという観点から、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。本発明に係るケイ素化合物(a)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の製造方法においては、このような(メタ)アクリロイル基やビニル基のような炭素−炭素2重結合基を有するケイ素化合物(a)を用いることにより、前記炭素−炭素2重結合基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を得ることができる。
【0029】
本発明に係るケイ素化合物(b)は、下記一般式(5):
SiX ・・・(5)
で表わされる。前記式(5)中、Rは、下記一般式(6):
【0030】
【化3】

【0031】
[式(6)中、iは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基又は下記一般式(7):
【0032】
【化4】

【0033】
[式(7)中、jは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基を示す。本発明の製造方法においては、このようなエポキシ基(OCC−C−)を有するケイ素化合物(b)を用いることにより、エポキシ基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂を得ることができる。
【0034】
前記式(5)中、Xは加水分解性基である。前記加水分解性基としては、前記ケイ素化合物(a)において挙げたものと同様のものが挙げられ、中でも、反応性が高いという観点から、メトキシ基であることが好ましい。
【0035】
このようなケイ素化合物(b)としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロへキシルエチル)トリメトキシシランが好ましい。本発明に係るケイ素化合物(b)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本発明に係るケイ素化合物(c)は、下記一般式(8):
SiX ・・・(8)
で表わされる。前記式(8)中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、水素原子、アルコキシ基及びアルキルシロキシ基からなる群より選択されるいずれか一種を示す。前記アルキル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、かご型シルセスキオキサン骨格がより効率的に形成されるという観点から、炭素数が2〜10であることが好ましい。前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシルエチル基等が挙げられ、中でも、入手が容易であるという観点から、シクロヘキシル基が好ましい。前記シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、中でも、入手が容易であるという観点から、シクロペンテニル基が好ましい。また、前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基等が挙げられ、中でも、好ましい前記加水分解性基と同様の基にするという観点から、メトキシ基が好ましい。さらに、前記アルキルシロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基、ジメチルシロキシ基、t-ブチルジメチルシロキシ基等が挙げられる。これらの中でも、前記Rとしては、入手が容易でかご型シルセスキオキサン骨格がより効率的に形成される傾向にあるという観点から、炭素数が2〜10のアルキル基、フェニル基がより好ましい。
【0037】
前記式(8)中、Xは加水分解性基である。前記加水分解性基としては、前記ケイ素化合物(a)において挙げたものと同様のものが挙げられ、中でも、反応性が高いという観点から、メトキシ基であることが好ましい。
【0038】
このようなケイ素化合物(c)としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。本発明に係るケイ素化合物(c)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本発明の製造方法において、前記ケイ素化合物(a)、前記ケイ素化合物(b)、及び前記ケイ素化合物(c)の混合モル比(a:b:c)が下記式(i):
a:b:c=n:m:k ・・・(i)
{式(i)中、n、m及びkは下記式(ii)〜(iv):
n≧1 ・・・(ii)、
m≧1 ・・・(iii)、
n+m+k=h ・・・(iv)
[式(iv)中、hは8、10、12及び14からなる群より選択されるいずれかの整数を示す。]
で表わされる条件を満たす整数を示す。}
で表わされることが必要である。前記n、m及びkが前記式(ii)〜(iv)で表わされる条件を満たすことにより、1つ以上の炭素−炭素2重結合基及び1つ以上のエポキシ基を有し、且つ、ほぼ完全に縮合したかご型構造の骨格を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が得られるため、このかご型シルセスキオキサン樹脂を用いて簡易に、より確実に、緻密な三次元網目構造を形成させることができる。
【0040】
また、本発明の製造方法においては、かご型シルセスキオキサン樹脂における炭素−炭素2重結合基の数とエポキシ基の数との比(全硬化性官能基数:全エポキシ基数)が好ましい範囲(13:1〜1:13(より好ましくは12:2〜2:12))になる傾向にあるという観点から、前記nと前記mとの比(n:m)が13:1〜1:13であることがさらに好ましく、12:2〜2:12であることが特に好ましい。前記nの数が前記下限未満の場合にはかご型シルセスキオキサン樹脂を用いて硬化物を製造した場合に優れた成形性は得られるものの強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、かご型シルセスキオキサン樹脂を用いて硬化物を製造した場合に優れた剛性は得られるものの成形性が低下する傾向にある。
【0041】
本発明の製造方法における加水分解反応においては水の存在が必要である。前記水の量としては、前記ケイ素化合物(a)〜(c)における加水分解性基を加水分解するのに十分な質量以上であればよく、前記ケイ素化合物(a)〜(c)の質量から算出される加水分解性基の数の理論量(モル)の1.0〜1.5倍モルに相当する質量であることが好ましい。なお、前記水としては、後述する塩基性触媒の水溶液に含有される水を本発明に係る水として用いてもよい。
【0042】
本発明に係る有機極性溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;アセトン;テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、縮合反応がより効率的に進行するという観点から、水と溶解性のある炭素数1〜6の低級アルコール類を用いることが好ましく、2−プロパノールを用いることがより好ましい。
【0043】
本発明に係る有機非極性溶媒としては、水と溶解性が無いか、又はほとんど無いものであればよいが、炭化水素系溶媒であることが好ましい。前記炭化水素系溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の沸点の低い非極性溶媒が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、沸点が低いために作業が容易になるという観点から、トルエンを用いることがより好ましい。
【0044】
前記水と前記有機極性溶媒と前記有機非極性溶媒とからなる混合溶媒において、前記有機極性溶媒と前記有機非極性溶媒との混合比(有機極性溶媒:有機非極性溶媒(質量比))としては、1:0.1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:3であることがより好ましい。前記有機極性溶媒の含有量が前記下限未満である場合には、反応系が均一にならず、加水分解反応が十分に進行せずに未反応の加水分解性基が残存する傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、かご型シルセスキオキサン骨格形成の効率が低下し、得られる生成物が高分子量化する傾向にある。
【0045】
前記水と前記有機極性溶媒と前記有機非極性溶媒とからなる混合溶媒の使用量としては、前記ケイ素化合物(a)〜(c)のモル濃度(モル/リットル:M)が0.01〜10Mの範囲であることが好ましい。
【0046】
本発明に係る塩基性触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシド等の水酸化アンモニウム塩が挙げられる。本発明に係る塩基性触媒としては、これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、触媒活性が高いという観点からテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましい。このような塩基性触媒の使用量としては、前記ケイ素化合物(a)〜(c)の合計質量に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。なお、前記塩基性触媒は、通常水溶液として使用されるため、この塩基性触媒の水溶液に含有される水を本発明に係る前記水として用いてもよい。
【0047】
本発明の製造方法においては、加水分解反応工程において、前記ケイ素化合物(a)、前記ケイ素化合物(b)、及び前記ケイ素化合物(c)を、前記水と有機極性溶媒と有機非極性溶媒とからなる混合溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解せしめると共に縮合せしめることにより目的のかご型シルセスキオキサン樹脂を得る。
【0048】
前記加水分解の反応条件としては、反応温度が0〜50℃であることが好ましく、20〜40℃であることがより好ましい。反応温度が前記下限未満の場合には、反応速度が遅くなるため加水分解性基が未反応の状態で残存してしまい、反応時間が長くなる傾向にある。他方、反応温度が前記上限を超える場合には、反応速度が速すぎるために複雑な縮合反応が進行し、結果として加水分解生成物の高分子量化が促進される傾向にある。また、前記加水分解の反応条件としては、反応時間が2時間以上であることが好ましい。反応時間が前記下限未満の場合には、加水分解反応が十分に進行せず加水分解性基が未反応の状態で残存してしまう傾向にある。
【0049】
本発明に係る加水分解反応工程においては、前記加水分解と共に加水分解物の縮合が起きる。したがって、前記加水分解により前記ケイ素化合物(a)〜(c)における加水分解性基の大部分、好ましくはほぼ全部がOH基に置換され、前記縮合によりそのOH基の大部分、好ましくは95%以上が縮合されるため、前記加水分解反応工程において得られる生成物中にかご型シルセスキオキサン樹脂を得ることができる。
【0050】
このようなかご型シルセスキオキサン樹脂の含有量としては、加水分解反応工程において得られる生成物全体に対して50質量%以上であることが好ましい。また、前記生成物において、かご型シルセスキオキサン樹脂の含有量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したピーク面積の割合が50面積%以上であることが好ましい。
【0051】
また、前記生成物は、反応条件により異なるが、数平均分子量が500〜8000の範囲にある無色の粘性液体となる。また、反応条件により異なるが、前記数平均分子量としては、500〜7000であることが好ましく、500〜3000であることがより好ましい。また、前記生成物の分子量分布は、1.00〜2.00であることが好ましい。化合物の分子量分布は通常、1.00〜1.01の範囲にあることが好ましいが、分子量分布が前記範囲内にあれば、前記生成物をかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する樹脂としてそのまま重合反応等に用いることができる傾向にある。
【0052】
なお、このような生成物においては、本発明に係るかご型シルセスキオキサン樹脂の他に、反応の副生成物として、複数種の不完全なかご型のシルセスキオキサン樹脂、はしご型シルセスキオキサン樹脂、ランダム型シルセスキオキサン樹脂等が含有される。
【0053】
また、本発明において、前記ピーク面積の割合、前記分子量分布及び前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)(装置名:HLC−8320GPC(東ソー株式会社製)、溶媒:テトラヒドロフラン、カラム:TSKgel SuperH―RC(東ソー株式会社製)、温度:40℃、速度:0.6ml/min)を用いて測定され、標準ポリスチレン(商品名:TSKstandardPOLYSTYRENE、東ソー株式会社製)により換算することにより求められる。
【0054】
本発明の製造方法においては、前記加水分解反応工程で得られたかご型シルセスキオキサン樹脂を回収する回収工程を備えることが好ましい。前記回収方法としては、先ず、弱酸性溶液を用いて反応溶液を中性若しくは酸性よりに調整し、次いで、水を含有する前記混合溶媒を分離する方法が挙げられる。前記弱酸性溶液としては、硫酸希釈溶液、塩酸希釈溶液、クエン酸溶液、酢酸、塩化アンモニウム水溶液、リンゴ酸溶液、リン酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。また、前記混合溶媒を分離する方法としては、反応溶液を食塩水等で洗浄して水分やその他の不純物を十分に除去した後、無水硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥させる等の方法を用いることができる。
【0055】
本発明の製造方法としては、前記加水分解反応終了後に、前記かご型シルセスキオキサン樹脂を含有する前記生成物を、有機非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で加熱し、シロキサン結合を再縮合させる工程を更に備えることが好ましい。このような再縮合処理を施す工程を更に備えることにより、かご型シルセスキオキサン樹脂をより高収率で得ることができる。
【0056】
前記有機非極性溶媒としては、前記加水分解反応工程において記載した有機非極性溶媒と同様のものを挙げることができ、再縮合処理を施す工程の前に前記回収工程を行わない場合には、前記加水分解工程において用いたものをそのまま用いてもよい。このような有機非極性溶媒としては、トルエンを用いることが好ましい。前記有機非極性溶媒の使用量としては、前記生成物を溶解できる量であればよく、前記生成物の合計質量に対して0.1〜20倍の質量であることが好ましい。
【0057】
前記塩基性触媒としては、前記加水分解反応工程において記載した塩基性触媒と同様のものを挙げることができ、再縮合処理を施す工程の前に前記回収工程を行わない場合には、前記加水分解工程において用いたものをそのまま用いてもよい。このような塩基性触媒としては、テトラアルキルアンモニウム等の非極性溶媒に可溶性の触媒を用いることが好ましい。このような塩基性触媒の量としては、前記生成物の0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0058】
前記再縮合の反応条件としては、反応温度が50〜90℃であることが必要である。本発明の製造方法においては、前記加水反応工程後に、90℃を超えて加熱する工程を備えないことを特徴とする。反応温度が前記下限未満の場合には、再縮合反応をさせるために十分なドライビングフォースが得られず反応が進行しない。他方、反応温度が前記上限を超える場合には、加水分解により置換されたOH基とエポキシ基とが重合反応するため、かご型シルセスキオキサン樹脂を得ることが困難になる。また、前記反応温度としては、60〜80℃であることが特に好ましい。反応温度が前記下限未満の場合には、再縮合反応をさせるために十分なドライビングフォースが得られず反応が進行しない傾向にあり、他方、反応温度が前記上限を超える場合には、前記OH基とエポキシ基とが重合反応する可能性があるので、重合禁止剤等を添加する必要が生じる傾向にある。また、前記再縮合の反応条件としては、反応時間が1〜10時間であることが好ましい。
【0059】
また、再縮合処理を施す前記生成物は前記回収工程により洗浄及び乾燥され、更に濃縮されたものを用いることが好ましいが、これらの処理が施されていなくともよい。また、前記再縮合反応において、水は存在してもよいが積極的に加える必要はなく、塩基性触媒溶液から供給される水分程度に留めることが好ましい。但し、前記加水分解が十分に行われていない場合は、残存する加水分解性基を加水分解するに必要な量(前記ケイ素化合物(a)〜(c)の質量から算出される加水分解性基の数の理論量(モル)の1.0〜1.5倍モルに相当する質量)以上の水を添加することが好ましい。
【0060】
本発明の製造方法においては、前記再縮合処理を施す工程に次いで、更に前記回収工程を備えることにより、かご型シルセスキオキサン樹脂をより選択的に得ることができる。このようなかご型シルセスキオキサン樹脂の含有量としては、再縮合処理後の生成物全体に対して60質量%以上であることが好ましい。また、前記再縮合処理後の生成物において、かご型シルセスキオキサン樹脂の含有量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したピーク面積の割合が60面積%以上であることが好ましい。
【0061】
さらに、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する再縮合生成物としては、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.50以下であることが好ましく、1.03〜1.50の範囲にあることがより好ましい。また、このような分子量分布であるとき、再縮合生成物の数平均分子量としては、600〜2500であることが好ましく、1000〜2000であることがより好ましい。
【0062】
なお、前記ピーク面積の割合、前記分子量分布及び前記数平均分子量は、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定され、前記標準ポリスチレンにより換算することにより求められる。
【0063】
本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法によれば、炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とを有しており、ポリマーを製造する際において反応や構造を容易に制御することができるかご型シルセスキオキサン樹脂を得ることができる。
【0064】
本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂は、下記一般式(9):
[RSiO3/2[RSiO3/2[RSiO3/2 ・・(9)
で表わされることを特徴とするものである。本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂は、前記本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法により得ることができる。
【0065】
前記式(9)中、Rは、上記式(1)中のRと同義であり、Rは、上記式(5)中のRと同義であり、Rは、上記式(8)中のRと同義であり、n、m及びkは上記式(ii)〜(iv)で表わされる条件を満たす整数を示し、前記n、前記m及び前記kがそれぞれ2以上の場合には前記R前記R、及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0066】
また、本発明に係るかご型シルセスキオキサン樹脂において、前記n、m及びkとしては、優れた機械強度を有する硬化物が得られるという観点から、下記式:
(n+m)/k≧1
で表わされる条件を満たすことがより好ましい。さらに、前記nと前記mとの比(n:m)が13:1〜1:13であることがさらに好ましく、12:2〜2:12であることが特に好ましい。前記nの数が前記下限未満の場合にはかご型シルセスキオキサン樹脂を用いて硬化物を製造した場合に強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、かご型シルセスキオキサン樹脂を用いて硬化物を製造した場合に成形性が低下する傾向にある。
【0067】
このような本発明に係るかご型シルセスキオキサン樹脂としては、例えば、上記一般式(9)中、n、m及びkの和(以下hとする)が8であり、下記一般式(10):
【0068】
【化5】

【0069】
[式(10)中、R、R及びRは、上記式(9)中のR、R及びRとそれぞれ同義である。]
で表わされる化合物、上記一般式(9)中、hが10であり、下記一般式(11):
【0070】
【化6】

【0071】
[式(11)中、R、R及びRは、上記式(9)中のR、R及びRとそれぞれ同義である。]
で表わされる化合物、上記一般式(9)中、hが12であり、下記一般式(12):
【0072】
【化7】

【0073】
[式(12)中、R、R及びRは、上記式(9)中のR、R及びRとそれぞれ同義である。]
で表わされる化合物、上記一般式(9)中、hが14であり、下記一般式(13):
【0074】
【化8】

【0075】
[式(13)中、R、R及びRは、上記式(9)中のR、R及びRとそれぞれ同義である。]
で表わされる化合物が挙げられる。
【0076】
本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂は、1分子中に炭素−炭素2重結合基及びエポキシ基を有するため、架橋密度を減少させることなく段階的な重合が可能であり、アクリレート樹脂及びエポキシ樹脂の両特性を有するため、硬化樹脂の耐熱性、熱安定性、耐薬品性、機械物性、成形性の向上に有効である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、GPC、H−NMRの測定は以下に示す方法により行った。
【0078】
(GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)(装置名:HLC−8320GPC(東ソー株式会社製)、溶媒:テトラヒドロフラン、カラム:TSKgel SuperH―RC(東ソー株式会社製)、温度:40℃、速度:0.6ml/min)を用いて行った。各ピーク面積の割合、数平均分子量及び分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))は標準ポリスチレン(商品名:TSKstandardPOLYSTYRENE、東ソー株式会社製)による換算値として求めた。
【0079】
H−NMRの測定)
H−NMR測定器(装置名:JNM−ECA400(日本電子株式会社製)、溶媒:クロロホルム−d、温度:22.7℃、400MHz)を用いて測定した。得られた各構成単位のピークの積分値を求め、これらの比から各官能基に由来するピーク同士の積分比を決定した。
【0080】
(実施例1)
先ず、撹拌機、滴下漏斗、温度計を備えた反応容器に、溶媒として2−プロパノール(IPA)180ml、トルエン360ml、塩基性触媒として5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)34.1gを入れた。次いで、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)(SZ6030、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)111.76g(0.45モル)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)(KBM403、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)35.48g(0.15モル)を混合して滴下漏斗に入れ、前記反応容器内に、撹拌しながら室温(約25℃)で2時間かけて滴下した。滴下終了後、加熱することなくさらに2時間撹拌した。攪拌後の反応容器内の溶液(反応溶液)に5%クエン酸水溶液11.4gを添加して10分攪拌した後、飽和食塩水及び純水で中性になるまで水洗した。次いで、無水硫酸マグネシウム20gを添加して脱水し、前記無水硫酸マグネシウムを濾別した後にロータリーエバポレーターにより濃縮することでシルセスキオキサン樹脂組成物を100.44g得た。この反応において、回収率は96%であり、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物は種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。
【0081】
得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムを図1に示す。図1中、ピーク1はランダム・はしご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク2はかご型シルセスキオキサン樹脂を示す。また、GPCの結果より求められたシルセスキオキサン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び、シルセスキオキサン樹脂組成物に含まれる各化合物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。これらの結果から、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物中に、次式(I):
[CH=C(CH)COOCSiO3/2[CHOCH−O−(CHSiO3/2・・・(I)
で表わされるかご型シルセスキオキサン樹脂(但し、nが6であり、mが2である。)が得られたことが確認された。
【0082】
(実施例2)
先ず、撹拌機、滴下漏斗、温度計を備えた反応容器に、溶媒として2−プロパノール(IPA)180ml、トルエン360ml、塩基性触媒として5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)34.1gを入れた。次いで、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)(SZ6030、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)111.76g(0.45モル)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)(KBM403、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)35.48g(0.15モル)を混合して滴下漏斗に入れ、前記反応容器内に、撹拌しながら室温(約25℃)で2時間かけて滴下した。滴下終了後、加熱することなくさらに2時間撹拌した。
【0083】
撹拌後、反応容器から滴下漏斗を取り外して、新たに冷却管を備えた。反応容器内の溶液を70℃において3時間攪拌し、再縮合反応を行った。再縮合反応後の溶液(反応溶液)に中和剤として5%クエン酸水溶液11.4gを添加して10分攪拌した後、飽和食塩水及び純水で中性になるまで水洗した。次いで、無水硫酸マグネシウム20gを添加して脱水し、前記無水硫酸マグネシウムを濾別した後にロータリーエバポレーターにより濃縮することでシルセスキオキサン樹脂組成物を96.26g得た。この反応において、回収率は92%であり、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物は種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。
【0084】
得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムを図2に示す。図2中、ピーク1はランダム・はしご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク2はかご型シルセスキオキサン樹脂を示す。また、GPCの結果より求められたシルセスキオキサン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び、シルセスキオキサン樹脂組成物に含まれる各化合物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。これらの結果から、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物中に、上記式(I)で表わされるかご型シルセスキオキサン樹脂(但し、nが6であり、mが2である。)が得られたことが確認された。
【0085】
また、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のH−NMR測定を行ったところ、メタクリロキシプロピル基に由来するピーク(5.54ppm、6.09ppm)及びグリシジル基に由来するピーク(2.59ppm、2.78ppm)がそれぞれ検出された。これらのピーク積分比(メタクリロキシプロピル基:グリシジル基)は3.00:1.05であり、仕込み時のメタクリロキシプロピル基とグリシジル基とのモル比と同比率の官能基を有する縮合物が得られていることから、グリシジル基とシラノール基との反応が起こっていないことが確認された。
【0086】
(実施例3)
2−プロパノール(IPA)を30ml、トルエンを60ml、5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)を5.72gとし、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)を12.418g(0.05モル)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)を11.817g(0.05モル)とし、更に、5%クエン酸水溶液を1.907gとしたこと以外は実施例2と同様にしてシルセスキオキサン樹脂組成物を15.51g得た。この反応において、回収率は90%であり、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物は種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。
【0087】
得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムを図3に示す。図3中、ピーク1はランダム・はしご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク2はかご型シルセスキオキサン樹脂を示す。また、GPCの結果より求められたシルセスキオキサン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び、シルセスキオキサン樹脂組成物に含まれる各化合物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。これらの結果から、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物中に、上記式(I)で表わされるかご型シルセスキオキサン樹脂(但し、nが4であり、mが4である。)が得られたことが確認された。
【0088】
(実施例4)
2−プロパノール(IPA)を30ml、トルエンを60ml、5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)を5.702gとし、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)を6.209g(0.025モル)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)を17.726g(0.075モル)とし、更に、5%クエン酸水溶液を1.901gとしたこと以外は実施例2と同様にしてシルセスキオキサン樹脂組成物を15.16g得た。この反応において、回収率は90%であり、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物は種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。
【0089】
得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムを図4に示す。図4中、ピーク1はランダム・はしご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク2はかご型シルセスキオキサン樹脂を示す。また、GPCの結果より求められたシルセスキオキサン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び、シルセスキオキサン樹脂組成物に含まれる各化合物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。これらの結果から、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物中に、上記式(I)で表わされるかご型シルセスキオキサン樹脂(但し、nが2であり、mが6である。)が得られたことが確認された。
【0090】
(実施例5)
2−プロパノール(IPA)を30ml、トルエンを60ml、5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)を5.702gとし、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)を24.836g(0.1モル)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)を11.817g(0.05モル)とし、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)(LS2750、信越化学株式会社製)9.916g(0.05モル)を更に滴下漏斗に入れ、また、5%クエン酸水溶液を1.907gとしたこと以外は実施例2と同様にしてシルセスキオキサン樹脂組成物を30.128g得た。この反応において、回収率は92%であり、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物は種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。
【0091】
得られたシルセスキオキサン樹脂組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムを図5に示す。図5中、ピーク1はランダム・はしご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク2はかご型シルセスキオキサン樹脂を示す。また、GPCの結果より求められたシルセスキオキサン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び、シルセスキオキサン樹脂組成物に含まれる各化合物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。これらの結果から、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物中に、次式(II):
[CH=C(CH)COOCSiO3/2[CHOCH−O−(CHSiO3/2[CSiO3/2・・・(II)
で表わされるかご型シルセスキオキサン樹脂(但し、nが4であり、mが2であり、kが2である。)が得られたことが確認された。
【0092】
(比較例1)
先ず、撹拌機、滴下漏斗、温度計を備えた反応容器に、溶媒として2−プロパノール(IPA)30ml、トルエン60ml、塩基性触媒として5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)5.702gを入れた。次いで、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)18.627g(0.075モル)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)5.913g(0.025モル)を混合して滴下漏斗に入れ、前記反応容器内に、撹拌しながら室温(約25℃)で2時間かけて滴下した。滴下終了後、加熱することなくさらに2時間撹拌してシルセスキオキサン樹脂組成物を得た。
【0093】
次いで、撹拌機、ディンスターク、冷却管を備えた反応容器に、得られたシルセスキオキサン樹脂組成物16.74g、トルエン70ml、10%TMAH水溶液2.851gを入れ、徐々に加熱して水を除去した。更に130℃まで加熱してトルエンの還流温度で再縮合反応を行った。なお、このときの温度は108℃であった。トルエンの還流後、更に2時間攪拌した後、反応を終了とした。得られた反応溶液はゲル状であり、GPCの測定はできなかった。
【0094】
(比較例2)
2−プロパノール(IPA)を用いなかったこと以外は実施例2と同様にして組成物を100.20g得た。得られた組成物のGPCの結果を示すクロマトグラムを図6に示す。図6中、ピーク1はランダム・はしご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク2はかご型シルセスキオキサン樹脂、ピーク3は3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを示し、ピーク4は3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを示す。GPCの結果から、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MTMS)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)のピークが検出され、かご型シルセスキオキサンの収率が低いことが確認された。また、GPCの結果より求められたシルセスキオキサン樹脂組成物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び、シルセスキオキサン樹脂組成物に含まれる各化合物の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜5の製造方法により、かご型シルセスキオキサン樹脂が高収率で得られることが確認された。また、比較例1の製造方法においては、かご型シルセスキオキサン樹脂が得られないことが確認された。比較例1の製造方法においては、加水分解反応工程後に高温に加熱したことによりシラノール基とグリシジル基とが反応したため、かご型シルセスキオキサン樹脂の縮合が困難であったと推察される。さらに、比較例2の製造方法においては、かご型シルセスキオキサン樹脂のピークの面積割合が小さく、かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で得ることができないことが確認された。比較例2の製造方法においては、有機極性溶媒を用いなかったことにより反応系が均一にならず、加水分解反応が十分に進行しなかったため、かご型シルセスキオキサン樹脂の縮合が困難であったと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明によれば、1分子中に炭素−炭素2重結合基とエポキシ基とを有しており、ポリマーを製造する際において反応や構造を容易に制御することができるかご型シルセスキオキサン樹脂及び該かご型シルセスキオキサン樹脂を高収率で製造する方法を提供することが可能となる。
【0098】
また、本発明のかご型シルセスキオキサン樹脂は、1分子中に炭素−炭素2重結合基及びエポキシ基を有するため、架橋密度を減少させることなく段階的な重合が可能であり、アクリレート樹脂及びエポキシ樹脂の両特性を有するため、硬化樹脂の耐熱性、熱安定性、耐薬品性、機械物性、成形性の向上に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
SiX ・・・(1)
{式(1)中、Rは、下記一般式(2)〜(4):
−R−OCO−CR=CH ・・・(2)、
−R−CR=CH ・・・(3)、
−CH=CH ・・・(4)
[式(2)〜(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を示す。]
で表わされる基のうちのいずれか一種を示し、Xは加水分解性基を示す。}
で表わされるケイ素化合物(a)、下記一般式(5):
SiX ・・・(5)
{式(5)中、Rは、下記一般式(6):
【化1】

[式(6)中、iは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基又は下記一般式(7):
【化2】

[式(7)中、jは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基を示し、Xは加水分解性基を示す。}
で表わされるケイ素化合物(b)、及び下記一般式(8):
SiX ・・・(8)
[式(8)中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、水素原子、アルコキシ基及びアルキルシロキシ基からなる群より選択されるいずれか一種を示し、Xは加水分解性基を示す。]
で表わされるケイ素化合物(c)を、水と有機極性溶媒と有機非極性溶媒とからなる混合溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解せしめると共に縮合せしめてかご型シルセスキオキサン樹脂を得る加水分解反応工程を備えており、
前記ケイ素化合物(a)、前記ケイ素化合物(b)及び前記ケイ素化合物(c)の混合モル比(a:b:c)が下記式(i):
a:b:c=n:m:k ・・・(i)
{式(i)中、n、m及びkは、下記式(ii)〜(iv):
n≧1 ・・・(ii)、
m≧1 ・・・(iii)、
n+m+k=h ・・・(iv)
[式(iv)中、hは8、10、12及び14からなる群より選択されるいずれかの整数を示す。]
で表わされる条件を満たす整数を示す。}
で表わされ、且つ、
前記加水分解反応工程後に90℃を超えて加熱する工程を備えないこと
を特徴とするかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記加水分解反応工程の後に、前記加水分解反応後の溶液に50〜90℃において再縮合処理を施す工程を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のかご型シルセスキオキサン樹脂の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(9):
[RSiO3/2[RSiO3/2[RSiO3/2 ・・(9)
{式(9)中、Rは、下記一般式(2)〜(4):
−R−OCO−CR=CH ・・・(2)、
−R−CR=CH ・・・(3)、
−CH=CH ・・・(4)
[式(2)〜(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキレン基又はフェニレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を示す。]
で表わされる基のうちのいずれか一種を示し、Rは、下記一般式(6):
【化3】

[式(6)中、iは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基又は下記一般式(7):
【化4】

[式(7)中、jは1〜3の整数を示す。]
で表わされる基を示し、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、水素原子、アルコキシ基及びアルキルシロキシ基からなる群より選択されるいずれか一種を示し、n、m及びkは、下記式(ii)〜(iv):
n≧1 ・・・(ii)、
m≧1 ・・・(iii)、
n+m+k=h ・・・(iv)
[式(iv)中、hは8、10、12及び14からなる群より選択されるいずれかの整数を示す。]
で表わされる条件を満たす整数を示し、前記n、前記m及び前記kがそれぞれ2以上の場合には前記R前記R、及び前記Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。}
で表されることを特徴とするかご型シルセスキオキサン樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214564(P2012−214564A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79492(P2011−79492)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】