説明

がん抑制遺伝子産物関連タンパク質

【課題】大腸癌抑制遺伝子APCに関与する新規タンパク質の提供。
【解決手段】 以下の(a)〜(c)からなる群から選択されるいずれかのポリペプチド。 (a) 特定の配列からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド (b) 特定の配列からなるアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつAPCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド、及び (c) 特定の配列からなるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌抑制遺伝子APC(Adenomatous Polyposis Coli)がコードするポリペプチドに対する結合能、特にAPC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有する新規なタンパク質Asef2に関するものである。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、新規タンパク質であるAsef2ポリペプチドのアミノ酸配列の全部又は一部を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、該組換えベクターで形質転換された形質転換体、該形質転換体を使ったペプチド又はポリペプチドの製造方法、該ペプチド又はポリペプチドに対する抗体、これらを利用した化合物のスクリーニング方法、これらに関係する医薬組成物、及びこれらに関係する疾病診断方法に関する。
【背景技術】
【0003】
癌抑制遺伝子APC(Adenomatous Polyposis Coli)は、家族性腺腫性ポリポーシス(familial adenomatous polyposis:FAP)の原因遺伝子として単離された遺伝子である。これまでに、APC遺伝子の変異はFAPのみにとどまらず、非遺伝性の大腸腺腫や腺癌においても観察され,一般の大腸癌の発生にも関与していることが示されている。
【0004】
APCの遺伝子産物は、2,843個のアミノ酸からなる約300 kDaの巨大なタンパク質である(非特許文献1)。APC遺伝子産物は、種々のタンパク質と相互作用することが知られており、それらのタンパク質の1つにβ−カテニンが挙げられる。β−カテニンは、カドヘリンの細胞質側ドメインに結合して細胞接着に役割を果たすと同時に、発生過程や腫瘍形成において重要な役割を担うWnt/Winglessシグナル伝達経路の主要な構成要素の1つとしても機能している(非特許文献2、3)。β−カテニンは、一種の癌遺伝子産物であり、APC遺伝子産物はβ−カテニンの機能を抑制することにより癌抑制機能を発揮していると考えられている(非特許文献4、5、6)。しかし、散発性の大腸癌の70〜80%では、APC遺伝子に変異が生じており、この変異APC遺伝子産物はβ−カテニンの機能抑制作用を失活していることが報告されている。
【0005】
その他に、APC遺伝子産物は、Wntシグナル伝達経路の構成分子であるGSK-3b、Axin又はコンダクチン/Axilと相互作用することが知られている(非特許文献7、8、9、10)。また、APC遺伝子産物はそのC末端を介して、微小管結合タンパク質EB1又はhDLGと相互作用することも報告されている(非特許文献11)。さらに、APC遺伝子産物には、タンパク質間の相互作用において重要な役割を担うアルマジロリピート部位(ドメイン)が存在することも知られている。
【0006】
本発明者は、これまでに、大腸癌で発現している変異APC遺伝子産物が、small Gタンパク質Racの活性を制御する、新規のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)と結合することを見出し、この新規分子をAsef (APC-stimulated guanine nucleotide)と命名している(非特許文献12)。そして、変異APC遺伝子産物によるAsefの恒常的な活性化が、大腸癌細胞の運動能亢進に重要な役割を担っていることを明らかにした(特許文献1、非特許文献13)。これまでの知見から、生体におけるAsefの機能や機能をより明確にすることにより、腫瘍形成や転移の機序の解明に寄与し、抗腫瘍剤の開発につながり得ると予想できるが、そのためにもAsefファミリーに属する新規メンバーの同定が望まれている。
【特許文献1】特開2001-57888号公報
【非特許文献1】Cell, 87 : 159-170, 1996
【非特許文献2】Cell, 86 : 391-399, 1996
【非特許文献3】Nature, 382 : 638-642, 1996
【非特許文献4】Science, 275 : 1784-1787, 1997
【非特許文献5】Science, 275 : 1787-1790, 1997
【非特許文献6】Science, 275 : 1790-1792, 1997
【非特許文献7】Science, 280 : 596-599, 1998
【非特許文献8】Current Biology, 8 : 573-581, 1998
【非特許文献9】J. Biol. Chem., 273 : 10823-10826, 1998
【非特許文献10】Genes Cells, 6 : 395-403, 1998
【非特許文献11】Science, 272 : 1020-1023, 1996
【非特許文献12】Science, 289 : 1194-1197, 2000
【非特許文献13】Nature Cell Biology, 5 : 211-215, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のように多様な物質との相互作用を担う癌抑制遺伝子であるAPC遺伝子に関与するAsefファミリーに属する新規タンパク質を提供し、該新規タンパク質を、癌を制御するための手段として使用することを目的とする。より具体的には、本発明は、APC遺伝子産物との結合能、特にAPC遺伝子産物由来のアルマジロリピート部位との結合能を有する新規タンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を行い、データベースサーチによりAsefと非常に相同性の高い新規タンパク質を見出し、その塩基配列及び該新規タンパク質Asef2のcDNAがコードするアミノ酸配列を決定することに成功した。そして、得られたAsef2は、細胞運動の亢進に対して重要な役割を担っていることを明らかにし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)以下の(a)〜(c)からなる群から選択されるいずれかのポリペプチド。
【0010】
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド、及び
(c) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続した5個のアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド。
(3)(1)又は(2)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその相補鎖。
(4)(3)に記載のポリヌクレオチド又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(5)以下の(a)又は(b)に示すポリヌクレオチド又はその相補鎖。
【0011】
(a) 配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b) 配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(6)配列番号1で表される塩基配列のうち、少なくとも連続した15個の塩基配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその相補鎖。
(7)(3)〜(6)のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
(8)(7)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(9)(8)に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物から(1)又は(2)に記載のポリペプチドを採取することを特徴とする、該ポリペプチドの製造方法。
(10)(1)又は(2)に記載のポリペプチドを認識する抗体。
(11)(1)又は(2)に記載のポリペプチドと、癌抑制遺伝子APC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位との結合を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法であって、(1)又は(2)に記載のポリペプチド並びに(10)に記載の抗体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることを特徴とするスクリーニング方法。
(12)(3)〜(6)のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドと相互作用して該ポリヌクレオチドからの発現を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法であって、(3)〜(6)に記載のポリヌクレオチド、(7)に記載のベクター、(8)に記載の形質転換体及び(10)に記載の抗体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることを特徴とするスクリーニング方法。
(13)(1)又は(2)に記載のポリペプチドのGEF活性を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法であって、(1)及び(2)に記載のポリペプチド並びに(10)に記載の抗体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることを特徴とするスクリーニング方法。
(14)(1)及び(2)に記載のポリペプチド、(3)〜(6)に記載のポリヌクレオチド、(7)に記載のベクター、(8)に記載の形質転換体、並びに(10)に記載の抗体からなる群から選択される、少なくとも1つを含有することを特徴とする、医薬組成物。
(15)腫瘍の治療薬である、(14)記載の医薬組成物。
(16)(1)又は(2)に記載のポリペプチドの発現又は活性に関連した疾病の診断方法であって、試料中の
(a)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び/又は
(b)該ポリペプチド、
をマーカーとして分析することを含む診断方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のAsef2ポリペプチドは新規タンパク質であって、APC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位との結合性に特徴を有し、GEF(グアニンヌクレオチド交換因子:Guanine nucleotide Exchange Factor)活性を有するものである。この特性を利用した新規医薬組成物、診療方法の提供は、APC遺伝子産物関連の臨床及び基礎の医用領域において大きな有用性をもたらすものである。
【0013】
本発明のAsef2は、すでに本発明者により見出されたAsefとは様々な上皮由来細胞においてかなり多くmRNAが発現している点で差違を有する。そのため、大腸癌細胞で発現する変異APCが引き起こす異常な細胞運動能は、Asefだけではなく主に本発明のAsef2を介した結果である可能性があり、本発明のAsef2とAPC遺伝子産物との結合を阻害する化合物は、大腸癌の治療薬として有用であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
1.本発明の概要
本発明は、新規タンパク質であるAsef2ポリペプチド、及び当該Asef2とAPC遺伝子産物との結合を阻害する転移抑制剤又は癌発生抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【0015】
Asef2(APC-stimulated guanine nucleotide exchange factor 2)とは、APC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位(ドメイン)との結合を介して活性化されるRac特異的なグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)である。APC(大腸腺腫性ポリポーシス遺伝子;adenomatous polyposisu coli)は、家族性腺腫性ポリポーシスや突発性結腸直腸腫瘍において高い頻度で変異を生じており、これら腫瘍の原因遺伝子であることが知られている。
【0016】
このAsef2は、腫瘍細胞において変異APC遺伝子産物により活性化されると、大腸癌細胞の運動能を亢進し、細胞接着能を減弱する機能を有する。そのため、変異APC遺伝子産物によるAsef2の恒常的な活性化は、ポリープの形成やがんの転移浸潤に大きく関与していると考えられる。すなわち、Asef2とAPC遺伝子産物との結合を阻害する化合物は、転移抑制剤又は癌発生抑制剤等の医薬組成物として用いることができる。本発明は、当該化合物や医薬組成物を提供し、さらにAsef2とAPCとの結合阻害活性を指標とした転移抑制剤又は癌発生抑制剤のスクリーニング方法を提供するものである。

2.Asef2
(1)Asefの機能
Asefファミリーには、これまでに619個のアミノ酸からなるAsefが見出されており、本発明により652個のアミノ酸からなるAsef2が提供される。
【0017】
本発明のAsef2は、由来する種はいずれでもよいが、好ましくはヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ウシ、ウマなどの哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0018】
Asefは、ヒトの胎児脳cDNAライブラリーから、APC遺伝子産物のアルマジロリピートドメインを使い、2ハイブリッドスクリーニング法により、そのcDNAが取得されたものである。ここで「アルマジロリピート部位(ドメイン)」とは、β―カテニンにも存在し、タンパク質−タンパク質相互作用を担うと考えられているモチーフである。
【0019】
Asefの1次構造または2次構造には、さまざまな領域が存在することが明らかとなっている。例えば、Asefは、低分子量Gタンパク質Rhoファミリーに作用するGDP解離促進タンパク質の1つである既知のDblファミリー(Current Opinion in Cell Biology, 8:216-222, 1996)に類似のドメイン構造を有している。
【0020】
また、遺伝子データベース(NCBI;The National Center for Biotechnology Information)における検索により、AsefのcDNAは、Dblファミリーの1つである既知タンパク質KIAA0424をコードするcDNAと約73%の相同性を有することが知られている。AsefとKIAA0424は、Dbl相同(DH)ドメイン、プレックストリン(Pleckstrin)相同(PH)ドメイン、Src相同3(SH3)ドメインを担持する点において同一である。しかし、KIAA0424は、AsefのN末端領域に相当する領域を欠如しており、この点がAsefとKIAA0424との最も大きな差異となる。
【0021】
本発明のAsef2は、Asefと同様に上記のDblファミリーに類似のドメイン構造を有する。
【0022】
また、これまでに、マウスを用いたAsefの組織分布研究において、AsefのmRNAが脳に高レベルで発現しており、他の臓器でも低レベルで発現していることが確認されている。一方、Asef2の組織分布研究によって、Asef2のmRNAは肝臓、腎臓、肺、心臓、胎盤において高レベルで発現しており、他の臓器でも低レベルで発現していることが確認されている。また、Asef2は、様々な上皮由来細胞において、mRNAを大量に発現していることが確認されている。
【0023】
ところで、Asefのペプチド断片(GenBank accession number AB042199の73〜126番目のアミノ酸)を使用して作製した抗体は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として得たAsefに対し強い反応性を示した。また、該作製した抗体を用いた抗原抗体反応により、脳に存在するAsefが、約85 kDaのタンパク質であることを確認できた。
【0024】
そして、AsefとAPC遺伝子産物との直接的な相互作用を確認するための実験において、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として得たAPC遺伝子産物のアルマジロリピートドメイン(APC−arm)は、GST融合Asef断片(GST−Asef−M)と相互作用したが、GST単独とは反応せず、同様に、Asef断片(Asef−M)は、GST融合APC−arm(GST−APC−arm)とは反応したが、GST融合β−カテニンのアルマジロリピートドメイン又はGST単独とは反応しないことを確認した。すなわち、Asefは、APC遺伝子産物のアルマジロリピートドメインを介してAPC遺伝子産物と結合していることが推定できた。また、ラット胎児脳の溶解物(lysate)を抗APC抗体で免疫沈降し、次いで抗Asef抗体でイムノブロットすることにより、APC遺伝子産物とAsefとが共沈殿することが判明した。この反応において、抗Asef抗体を、抗原性を保持するAsef断片で前処理すると、AsefとAPC遺伝子産物の共沈殿が阻害された。すなわち、AsefとAPC遺伝子産物とは生体内で結合していると考えられる。また、AsefとAPC遺伝子産物の結合部位を2-ハイブリッド法を用いて確認したところ、少なくともAsefのアミノ酸73〜126で示される領域に結合部位が存在することが推定された。このことは、AsefのSH3ドメインの上流域に、APC遺伝子産物のアルマジロリピートドメインとの結合部位が存在することを意味する。
【0025】
以上により明らかにされたAsefの特徴は、本発明のAsef2にも当てはまることが実験により確かめられている。すなわち、FLAGタグを付加したAsef2を強制発現させたHeLa細胞から得られた溶解液(lysate)を抗FLAG抗体で免疫沈降し、次いでAPC抗体でイムノブロットすることによりAPC遺伝子産物とAsef2とが共沈殿することが判明した。また、抗APC抗体で免疫沈降し、次いで抗FLAG抗体でイムノブロットした場合でもやはり両者が共沈殿することが確認できた。また、強制発現したFLAGタグを付加したAsef2タンパク質を抗FLAG抗体でイムノブロットすることによりAsef2は85kDaであることが確認できた。
【0026】
さらに、本発明者はこれまでにAsefは、Rhoファミリーの1つであるsmall Gタンパク質Racに特異的なGEF活性をもつことを確認している。「GEF」活性とは、低分子量(small)Gタンパク質に対するGDP/GTP交換反応を促進する性質を意味する。つまり、Asefは、Racに結合しGDP/GTP交換反応を促進してRacを活性化し、Racの関与する細胞情報伝達の下流に位置するNFκB、c-jun、SRE等に作用することが示されている。また、Racの生理機能である、細胞のラメリポディア(葉状仮足)や細胞膜のラッフリング機能を誘導する可能性もあり、Asefの細胞接着への関与が推定される。このRac特異的なGEF活性は、Asefだけでなく本発明のAsef2も有していることから、本発明のAsef2がRac情報伝達系や細胞接着に関与することが予測される。
【0027】
APC遺伝子産物の細胞内局在については、細胞が大腸絨突起先端へクリプトから移動する際に、移動する細胞の微小管先端部位に集積していることが報告されている(J. Cell Biol., 134 : 165-179, 1996)が、Asefも同様の部位に集積していることが見出された。本発明のAsef2がAsefと同様の細胞内局在を示すならば、本発明のAsef2が、大腸絨突起における細胞移動制御の鍵を握っている可能性がある。
【0028】
Asefの遺伝子配列、アミノ酸配列はGenBankにaccession number AB042199として登録されている。本発明のAsef2とAsefとのアミノ酸配列上の相同性は61%である。上述のように、本発明のAsef2は、すでに本発明者により見出されたAsefとは様々な上皮由来細胞において多量のmRNAが発現している点で差違を有する。そのため、大腸癌細胞で発現する変異APCが引き起こす異常な細胞運動能は、Asefだけではなく主に本発明のAsef2を介した結果である可能性が高い。したがって、本発明のAsef2とAPC遺伝子産物との結合を阻害する化合物は、大腸癌の治療薬として有用であるといえる。
(2)Asef2ポリペプチド
本発明のAsef2ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むものである。
【0029】
以下、本発明のAsef2ポリペプチドについて詳細に説明する。
【0030】
本発明のAsef2ポリペプチドには、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドの他、配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドが含まれる。
【0031】
特に、本発明のAsef2ポリペプチドには、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドが含まれる。
【0032】
配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列は、例えば、(i) 配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii) 配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列、(iii) 配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iv) 配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(v) 上記(i)〜(iv)を組合せたアミノ酸配列などが挙げられる。
【0033】
ここで、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含む変異型のポリペプチドであって、元のポリペプチドと同一の生物学的活性、例えばAPC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能が維持されるポリペプチドも本発明の範囲に含まれる。
【0034】
「APC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能」とは、APC遺伝子産物に存在するアルマジロリピート部位に結合し得る能力を意味し、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、RIA(radioimmuno assay)、ウェスタンブロット、Biacoreなどの方法を用いることにより、当該部位に対する結合能を測定することができる。
【0035】
さらに、本発明のAsef2ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列の部分配列を有するポリペプチドから選択されるもの(以下、「本発明のAsef2部分ポリペプチド」とも呼称する)も含まれる。本発明のAsef2部分ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列中の部分配列の対応領域と、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の相同性を有するものであって、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドである。この相同性を有する部分ポリペプチドは、例えばAPC遺伝子産物中のアルマジロリピートドメインとの結合性を指標にして選択することができる。
【0036】
アミノ酸配列の相同性を決定するには、例えばアミノ酸配列を直接決定する方法、推定されるポリヌクレオチドの塩基配列を決定後これにコードされるアミノ酸配列を推定する方法等を使用することができる。
【0037】
本発明のAsef2部分ポリペプチドは、試薬、標準物質あるいは免疫原として利用することができる。本発明のAsef2部分ポリペプチドの最小単位としては、配列暗号2で表されるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続した5個以上、好ましくは少なくとも約8〜10個以上、さらに好ましくは少なくとも約11〜15個以上のアミノ酸で構成されるアミノ酸配列からなる。
【0038】
特に、本発明のAsef2部分ポリペプチドは、APC遺伝子産物中のアルマジロリピートドメインとの結合性を指標とすることにより、免疫学的にスクリーニングし得る。したがって、本発明のAsef2部分ポリペプチドは、APC遺伝子産物中のアルマジロリピートドメインに対する結合能を有する。また、本発明のAsef2部分ポリペプチドには、配列番号2で表されるアミノ酸配列中の対応部分において、1個又は数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドも含まれる。
【0039】
上記の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列の作製方法は公知であり、例えばUlmerの方法(Science, 219 : 666, 1983)を利用することができる。また、前記アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press (1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection8.1-8.5)、Hashimoto-Goto et al. (1995) Gene 152: 271-5、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kramer and Fritz (1987) Method. Enzymol. 154: 350-67、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。
【0040】
また、ポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
【0041】
本発明のAsef2ポリペプチドを構成するアミノ酸残基は、天然に存在するものでも、その構成アミノ酸残基のアミノ基又はカルボキシル基などを修飾されたものであっても良く、Asef2ポリペプチドの機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。
【0042】
本発明のポリペプチドは、他のペプチド配列が付加した融合タンパク質が含まれる。前記付加するペプチド配列としては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ヒスチジンタグ(6×His、10×Hisなど)、マルトース結合タンパク質(MBP)、免疫グロブリン定常領域(Fc)断片、β-ガラクトシダーゼ、c-myc断片、FLAG(Hopp et al. (1988) Bio/Tehcnol. 6: 1204-10)、インフルエンザ凝集素(HA)等のタンパク質の識別を容易にする配列や遺伝子工学技法によるタンパク質発現の際に安定性を付与する配列等を選択することができる。
【0043】
本発明のAsef2ポリペプチドは、Asef2の機能を調節するための医薬組成物として使用することができる。また、本発明のポリペプチドは、Asef2の機能を調節しうる化合物、例えば、阻害剤、拮抗剤、賦活剤等を得るためのスクリーニングや、Asef2に対する抗体の取得に使用することができる。さらに、本発明のポリペプチドは、試薬や標準品としても使用可能である。
【0044】
(3)Asef2ポリヌクレオチド
本発明のAsef2ポリヌクレオチド及びその相補鎖は、本発明のAsef2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの他、配列番号1(図1)で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド又はその相補鎖、これらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、及びこれらのポリヌクレオチドのうち少なくとも15個の連続した塩基配列を有するポリヌクレオチドであって、かつAPC遺伝子産物のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含まれる。
【0045】
以下、本発明のAsef2ポリヌクレオチドについて詳細に説明する。
【0046】
本発明おいて「ポリヌクレオチド」は、塩基又は塩基対の重合体を意味し、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ゲノムDNA、cDNA(相補DNA)等を含むものである。
【0047】
本発明のAsef2ポリヌクレオチドは、本発明のAsef2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはその相補鎖を含むが、当該本発明のAsef2ポリペプチドは、上記2.(2)で示したように、(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド、および(c) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドを含有する。さらに、当該本発明のAsef2ポリペプチドは、Asef2部分ポリペプチド(例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続した5個のアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド)も含有する。上記本発明のAsef2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列には、配列番号1(図1)で表される塩基配列の他、遺伝子暗号の縮重により配列番号1(図1)で表される塩基配列とは異なる塩基配列を有するものが含まれる。ここで、本発明において、配列番号1(図1)で表される塩基配列とは、非コード領域を除いたCDS領域のみであってもよい。あるいは、本発明のAsef2ポリヌクレオチドは、コードするポリペプチドを遺伝子工学的に発現させる場合において、用いる宿主のコドン使用頻度を参考にして設計することもできる(Grantham et al. (1981) Nucleic Acids Res. 9: 43-74)。
【0048】
また、本発明のAsef2ポリヌクレオチドは、本発明のAsef2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び配列番号1(図1)で表される塩基配列(配列番号1の408番〜2366番のコーディング領域が好ましい)を含むポリヌクレオチド並びにそれらの相補鎖を含み、さらに、それらに対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリヌクレオチドを含む。
【0049】
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」は、本発明のAsef2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び配列番号1(図1)で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド並びにそれらの相補鎖またはそれらの断片をプローブとして、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により得ることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.)(Cold Spring Harbor Press (1989)。ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリタイズする」とは、例えば、6×SSC、0.5%SDS及び50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件でも依然として陽性のハイブリタイズのシグナルが観察されることを意味する。ハイブリダイズするポリヌクレオチドとしては、本発明のAsef2ポリペプチドをコードする塩基配列、配列番号1(図1)で表される塩基配列又はそれらの相補鎖に対して、少なくとも50%以上、好ましくは60%、さらに好ましくは80%(例えば、90%以上、95%以上)の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1(図1)で表される塩基配列の部分配列を有する少なくとも連続した15塩基以上、好ましくは20塩基以上のポリヌクレオチドから選択されるもの及びそれらの相補鎖を意味する。この選択される部分ポリヌクレオチド(以下、「本発明のAsef2部分ポリヌクレオチド」とも呼称する)は、配列番号(図1)で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであり、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するものである。本発明のAsef2部分ポリヌクレオチドの配列の決定は、公知のタンパク質発現系、例えば無細胞タンパク質発現系を利用して簡易にコードするタンパク質を発現させ、その生理活性、特にAPC遺伝子産物のアルマジロリピートドメインとの結合性を指標にして選別することにより行うことができる。
【0051】
ここで、無細胞タンパク質発現系としては、例えば胚芽、家兎網状赤血球等由来のリボソーム系の技術を利用できる(Nature、179、160〜161、1957)。また、本発明において無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。
【0052】
本発明のAsef2部分ポリヌクレオチドは、いずれも本発明のAsef2ポリペプチドの製造に有用な遺伝子情報を提供するものであり、これらをコードする遺伝子等やmRNAの作製、検出のためのプローブ及びプライマーとして、あるいは遺伝子発現を調節するためのアンチセンスオリゴマーとして使用することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドをアンチセンスオリゴマーとして使用する場合、他の既知タンパク質、例えばDblファミリーの1つであるKIAA0424等とのコンセンサス配列領域以外の配列であって、Asef2ポリヌクレオチドに固有な領域のヌクレオチド配列を用いることにより、Asef2ポリペプチドの発現を特異的に阻害することができる。さらに、本発明のAsef2部分ポリヌクレオチドは、ヌクレオチドに関する試薬や標準品としても利用することができる。
【0053】
本発明のAsef2ポリヌクレオチドは、配列番号1(図1)に示される塩基配列を基にプライマーを設計し、あるいは本発明のAsef2部分ポリヌクレオチドを使用して、例えばPCR法によりヒト、マウス、ラットなどのcDNAライブラリーなどから調製することができる。
【0054】
また、配列番号2(図2)に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチド配列に相補的な配列は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press (1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection8.1-8.5)、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。また、変異の誘発は前記の通り市販のキットを用いることもできる。
【0055】
本発明のAsef2ポリヌクレオチド又はAsef2部分ポリヌクレオチドの塩基配列の確認は、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463) 等の慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
(4)組換えベクターおよび形質転換体
上記2.(3)に記載したAsef2ポリペプチドをコードするAsef2ポリヌクレオチドをベクターに挿入することで、本発明の組換えベクターを得ることができる。そして、組換えベクターを宿主に導入して、本発明の形質転換体を得ることができる。
【0056】
本発明の組換えベクターは、目的遺伝子を発現できるものであれば特に限定されないが、目的の遺伝子配列と複製及び制御に関する情報を担持した遺伝子配列とを構成要素とする。前記構成要素は宿主が原核細胞か、あるいは真核細胞かによって選択することができ、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等を公知の方法によって組合せて使用すればよい。目的遺伝子配列を挿入するベクターは、当業者であれば適宜宿主の種類を考慮して選択することができ、複製及び制御に関する情報を担持した遺伝子配列を遺伝子工学的に導入したものを用いてもよいし、予め前記遺伝子配列が導入された市販品(例えばpcDNA3.1)を用いても良い。目的遺伝子配列をベクターに挿入して組換えベクターを作製する方法は、目的遺伝子配列の5'側と3'側に制限酵素認識配列をPCR法により付加し、目的遺伝子とベクターとを当該制限酵素で処理した後ライゲーションする方法やトポイソメラーゼを利用した方法などを挙げることができるが、これらに限定されず、当業者であれば公知技術に基づいて容易に選択し、実行することができる。
【0057】
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを含むものである。形質転換は、公知の手段を応用することができ、例えばレプリコンとして、プラスミド、染色体、ウイルス等を利用して宿主の形質転換を行うことができる。より好ましい系としては、遺伝子の安定性を考慮するならば、染色体内へのインテグレート法があげられるが、簡便には核外遺伝子を用いた自律複製系を利用すればよい。本発明の組換えベクターを宿主に導入するには、エレクトロポレーション法、塩化カルシウム法、カチオン性脂質法、酢酸リチウム法等を用いることができ、当業者であれば公知の技術から組換えベクターと宿主の組合せを考慮して適宜選択することができる。本発明で用いられる宿主は、目的遺伝子を発現できるものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌、細菌、枯草菌、酵母、哺乳動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。本発明の具体例においては、HeLa細胞を利用した遺伝子組み換え技術によってAsef2提供したが、これに限定されるものではない。
(5)Asef2の製造方法
本発明の形質転換体は、Asef2ポリペプチド(本発明のAsef2部分ポリペプチドを含む)の製造に用いることができる。すなわち、本発明のAsef2ポリペプチドは、本発明の形質転換体を公知の各々の宿主の培養条件に最適な条件を選択して培養し、得られる培養物から採取することができる。そして、培養は、発現産生されるAsef2ポリペプチドの生理活性、特にAPC遺伝子産物中のアルマジロリピートドメインとの結合性を指標にして行うことができ、あるいは培地中の形質転換体量を指標にして継代培養又はバッチによって行うこともできる。
【0058】
ここで、「培養物」とは、本発明の形質転換体を培養することにより得られるものを意味し、特に限定されるわけではないが、細胞、破砕後の細胞、培養上清、培養液、細胞溶解液を意味する。
【0059】
本発明のAsef2ポリペプチドが宿主を培養した培養液に分泌される場合は、培養液から目的のポリペプチドを得ることができる。あるいは、当該ポリペプチドが宿主中や宿主の膜に産生される場合は、宿主を低張液、溶解液等の化学的手法により、または超音波やホモジナイザー等の物理的手法により破砕し、細胞溶解液や破砕後の細胞から目的のポリペプチドを得ることができる。その際、ポリペプチドの分解を抑制するために、プロテアーゼ阻害剤を用いても良い。
【0060】
培地、細胞溶解液あるいは細胞からの本発明のAsef2ポリペプチドの回収、精製は、APC遺伝子産物のアルマジロリピートドメインとの結合性を指標に用いることもでき、分子篩、イオンカラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を組合せるか、溶解度差にもとづく硫安、アルコール等の分画手段によっても回収し、精製することができる。より好ましくは、本発明のAsef2ポリペプチドのアミノ酸配列の情報に基づいて該アミノ酸配列に対する抗体を作製し、得られたポリクローナル抗体又はモノクロ−ナル抗体によって、特異的に本発明のAsef2ポリペプチドを吸着回収する方法を選択することができる。
【0061】
また、上記2.(3)の無細胞タンパク質発現系によっても、本発明のAsef2ポリペプチドを提供することが可能である。無細胞タンパク質合成によって得られる本発明のAsef2ポリペプチドは、上記のように適宜クロマトグラフィーを用いて精製することもできる。
【0062】
前述のように、本発明のAsef2ポリペプチドの製造の際は、APC遺伝子産物中のアルマジロリピートドメインとの結合性を指標に用いてAsef2ポリペプチドの産生量と活性を確認することができる。APC遺伝子産物中のアルマジロリピートドメインとの結合性は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、RIA(radioimmuno assay)などの公知の方法を用いることができる。

3.Asef2を認識する抗体
本発明は、本発明のAsef2ポリペプチド(本発明のAsef2部分ポリペプチドを含む)を認識する抗体を提供するものである。本発明の抗体は、本発明のAsef2ポリペプチドの抗原決定基を選別し、作製することができる。抗原決定基は、少なくとも5個、より好ましくは少なくとも8〜10個のアミノ酸で構成される。このアミノ酸配列は、必ずしも配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一である必要はなく、タンパク質の立体構造上の外部への露出部位であればよく、露出部位が不連続部位であれば、該露出部位についての連続的なアミノ酸配列であることも有効である。本発明の抗体は、Asef2ポリペプチドを認識する限り、特に限定されない。当該認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応によって決定することができる。
【0063】
本発明のAsef2ポリペプチドまたは本発明のAsef2部分ポリペプチドを認識する抗体(以下「本発明の抗体」とも称呼する)を産生するためには、本発明のAsef2ポリペプチドを、アジュバントの存在又は非存在下で、単独又は担体に結合させて、動物に対して体液性応答及び/又は細胞性応答等の免疫誘導を行えばよい。
【0064】
ここで、本発明の抗体は、抗原である本発明のAsef2ポリペプチドに結合する抗体分子全体の他、Fab、F(ab')2、Fv、ScFv(一本鎖Fv)等の抗体断片でもよく、さらに、ヒト化抗体、及びヒト抗体であってもよい。
【0065】
抗原に用いる本発明のAsef2ポリペプチドは生理的な修飾がされていても良く、あるいは人工的に標識されていてもよい。また、抗体の検出時には、抗原分子そのものだけでなく、それらの断片やそれらの融合タンパク質も抗原として用いることができる。
【0066】
本発明において使用する担体は、自身が宿主に対して有害作用をおこさなければ特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミン等が例示される。抗原を免疫する動物としては、マウス、ラット、ウサギ、やぎ、馬等が好適に用いられる。免疫は、腹腔内、静脈内、皮下などに抗原を投与することにより行うことができる。免疫は、数日から数週間の間隔で1〜10回行うことができる。抗体価は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、RIA(radioimmuno assay)などの公知の方法で測定することができ、抗体価の十分な上昇が確認をした後、採血して血清を得ることができる。
【0067】
本発明のポリクローナル抗体は、公知の血清からの抗体回収法によって取得することができる。好ましい手段としては、免疫アフィニティークロマトグラフィー法である。
【0068】
モノクロ−ナル抗体を生産するためには、上記の免疫手段が施された動物から脾臓細胞などの抗体産生細胞を回収し、公知の永久増殖性細胞(例えばミエローマ細胞)への形質転換手段を導入することによって行われる。例えば、得られた抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウイルスを用いて公知手法により行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
形質転換手段により得られたハイブリドーマは、例えばHAT培地等の選択培地中で、限界希釈法などによりクローン化することができる。クローン化したハイブリドーマが産生する抗体の抗体価は、前述の方法で評価することができ、抗体価の高い抗体を産生するハイブリドーマのクローンを選択することができる。
【0070】
本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマの培養上清から精製することができる。あるいは、本発明のモノクローナル抗体は、当該抗体を産生するハイブリドーマを動物(例えばヌードマウス)の腹腔に投与し、当該細胞の腹水から得ることもできる。得られた培養上清や腹水は、当業者であれば、場合により硫酸アンモニウムによる塩析沈殿や前述のクロマトグラフィーの手法を組み合わせて分離精製することができる。
【0071】
本発明のポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体は、本発明のAsef2ポリペプチドと直接結合し、その活性を制御することが可能であるため、APC遺伝子産物とAsef2との相互作用系の制御を容易に行うことができる。そのため、APC遺伝子産物とAsef2が関連する疾患の治療及び予防のために有用である。

4.スクリーニング
前述のように調製された本発明のAsef2ポリペプチド、これらをコードするポリヌクレオチド及びその相補鎖、これらのアミノ酸配列及び塩基配列の情報に基づき形質転換された形質転換体、並びにAsef2ポリペプチドを免疫学的に認識する抗体は、単独又は複数手段を組合せることによって、本発明のAsef2ポリペプチドとAPC遺伝子産物との結合性、本発明のAsef2ポリペプチドのGEF活性等の機能又は本発明のAsef2ポリペプチドの発現に対する阻害剤もしくは賦活剤のスクリーニングに有効な手段を提供する。
【0072】
すなわち、本発明のAsef2ポリペプチド、本発明の形質転換体及び本発明の抗体の少なくともいずれか1つを用いることで、本発明のAsef2ポリペプチドと癌抑制遺伝子APC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位との結合を阻害又は増強する化合物を得るためのスクリーニング方法が提供可能である。
【0073】
ここで、本発明のAsef2ポリペプチドとAPC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位との結合の強さは、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、RIA(radioimmuno assay)、ウェスタンブロット、Biacoreなどの方法により解析することができる。
【0074】
また、本発明のAsef2ポリヌクレオチド、本発明の組換えベクター、本発明の形質転換体、及び本発明の抗体の少なくともいずれか1つを用いることで、本発明のAsef2ポリヌクレオチドと相互作用し該ポリヌクレオチドからの発現を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法が提供可能である。
【0075】
本発明において、Asef2ポリヌクレオチドからの発現量は、定量的PCR法等によりmRNA量を定量することによって、あるいはウェスタンブロット、ELISA等により発現タンパク質量を定量することによって求めることができる。
【0076】
本発明のAsef2ポリペプチド、本発明の形質転換体及び本発明の抗体の少なくともいずれか1つを用いることで本発明のAsef2ポリペプチドのGEF活性等の機能を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法が提供可能である。
【0077】
本発明において、Asef2ポリペプチドのGEF活性は、例えば、[3H]GDP結合型のsmall Gタンパク質Racからの[3H]GDPの解離レベルを調べることにより(解離試験)、あるいは、[35S]GTPγSのGDP結合型small Gタンパク質への結合レベルを調べることにより(結合試験)、求めることができる(Science, 289 : 1194-1197, 2000)。
【0078】
例えば、ポリペプチドの立体構造に基づくドラッグデザインによる拮抗剤の選別、タンパク質発現系を利用した遺伝子レベルでの発現調整剤の選別、抗体を利用した抗体認識物質の選別等が、公知の医薬品スクリーニングシステムにおいて利用可能である。

5.化合物、医薬組成物
(1)化合物
上記の4.のスクリーニング方法で得られた化合物は、本発明のAsef2ポリペプチドとAPC遺伝子産物との相互作用、又は本発明のAsef2ポリペプチドにおけるGEF活性等の機能を調節する阻害剤、拮抗剤、賦活剤等の候補化合物として利用可能である。また、遺伝子レベルでの本発明のAsef2ポリペプチドの発現に対する阻害剤、拮抗剤、賦活剤等の候補化合物としても利用可能である。上記の阻害剤、拮抗剤、賦活剤等の候補化合物(以下「本発明の化合物」とも呼称する)としては、タンパク質、ポリペプチド、抗原性を有さないポリペプチド、低分子化合物等が挙げられ、限定されるわけではないが、好ましくは低分子化合物である。
【0079】
本発明の化合物は薬学的に許容される塩を形成していても良い。薬学的に許容される塩とは、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、若しくは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との酸性塩、又は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、若しくはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩基性塩が挙げられる。
(2)医薬組成物
本発明の化合物は、腫瘍の治療に用いる医薬組成物の有効成分として用いることができる。また、本発明のAsef2ポリペプチド、これをコードするポリヌクレオチド及びその相補鎖(本発明のAsef2ポリヌクレオチド)、これらのポリヌクレオチドを含む本発明の組換えベクター、本発明の形質転換体並びに本発明のAsef2を免疫学的に認識する抗体(本発明の抗体)は、Asef2ポリペプチドとAPC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位との相互作用に対する阻害、拮抗又は賦活等の機能を有する、腫瘍の治療に用いる医薬組成物の有効成分として、あるいは医薬手段として使用することができる。
【0080】
本発明において、腫瘍は、大腸腫瘍、肝臓癌、脳腫瘍、舌癌、咽頭癌、食道癌、リンパ腫、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、子宮癌、前立腺癌、白血病などを挙げることができるが、好ましくは大腸腫瘍及び肝臓癌である。ここで、大腸腫瘍とは、良性腫瘍ならびに悪性腫瘍を含み、具体的には、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)及び大腸癌が挙げられる。
【0081】
本発明の医薬組成物は、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤、注射剤(静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、皮内注射など)、座剤等の非経口剤として用いることができ、限定はされないが好ましくは注射剤である。
【0082】
なお、製剤化にあたっては、公知の化合物、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体等の各対象に応じた製剤化手段を用いればよい。これらの各種製剤は、当業者であれば、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0083】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与経路、投与回数により異なり、投与対象の疾患症状、年齢、性別を考慮して設定することができる。
【0084】
本発明の医薬組成物を経口投与するときの患者(成人60Kg)あたりの投与量は、有効成分に本発明の化合物を用いたとき、本発明のポリペプチドを用いたとき、本発明のポリヌクレオチドを用いたとき、本発明の組換えベクターを用いたとき、本発明の形質転換体を用いたとき、及び本発明の抗体を用いたときに応じて変動することが予想されるが、当業者であれば、患者の症状、投与形態などを考慮して、適宜設定することができる。
【0085】
本発明の医薬組成物を非経口投与するとき、例えば注射用製剤の場合は、投与量毎のアンプル又は多投与量容器として提供することができる。また、使用時に滅菌した水や生理食塩水などの溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の形態とすることができる。
【0086】
本発明の医薬組成物を注射用製剤として投与するときの患者(成人60Kg)あたりの投与量は、有効成分に本発明の化合物を用いたとき、本発明のポリペプチドを用いたとき、本発明のポリヌクレオチドを用いたとき、本発明の組換えベクターを用いたとき、本発明の形質転換体を用いたとき、及び本発明の抗体を用いたときに応じて変動することが予想されるが、当業者であれば、患者の症状などを考慮して、適宜設定することができる。
(3)診断手段
本発明のAsef2ポリペプチド、これらをコードするポリヌクレオチド及びその相補鎖、これらの塩基配列を含む組換えベクター、本発明の形質転換体、並びにAsef2ポリペプチドを免疫学的に認識する抗体は、本発明のAsef2ポリペプチドの発現又はその活性が関連する疾病、例えば、本発明のAsef2ポリペプチドの発現又はAPC遺伝子産物との相互作用に関連した疾患等の診断方法に使用することができる。特に、これらは腫瘍(好ましくは大腸腫瘍)の診断マーカー及び/又は試薬等の診断手段として有用である。診断は、本発明のAsef2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとの相互作用又は反応性を利用して、相応するポリヌクレオチドの存在量を決定すること、及び/又は本発明のAsef2ポリペプチドについて生体内分布を決定すること、及び/又は試料中における本発明のAsef2ポリペプチド若しくは本発明のAsef2ポリヌクレオチドの存在量を決定することによって行うことができる。すなわち、本発明のAsef2ポリペプチド又は本発明のAsef2ポリヌクレオチドを診断マーカーとして疾病の検定をすることは、本発明の範囲である。その測定法は、公知の抗原抗体反応系、酵素反応系、PCR反応系等を利用すればよい。本発明のAsef2ポリペプチド量、又は本発明のAsef2ポリヌクレオチド量が多く存在する患者を、腫瘍の疑いの高い患者とすることができる。なお、ここで言う手段とは、目的達成のために使用する方法及び/又は媒体を意味する。すなわち、例えば、診断手段には、診断するための方法、診断に用いる試薬キットなどが含まれる。

以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0087】
(1)cDNAのクローニング
データベースサーチによりAsefと非常に相同性の高い新規タンパク質を見出し、へリックス研究所より全長のAsef2cDNAを入手した(図1)。
(2)アミノ酸配列
上記方法で得られた、図1に示すcDNAは新規な塩基配列を有していた。該cDNAをもとに、その塩基配列の翻訳によって、新規タンパク質である本発明のAsef2ポリペプチドの推定アミノ酸配列、すなわち図2に示すアミノ酸残基652の配列が得られた(図2)。
(3)既存タンパク質との相同性
本発明のAsef2ポリペプチドの推定アミノ酸配列を用いて、既存のデータベース(Genbank)に対してBLAST(The National Center for Biotechnology Information)を用いた相同性検索を行ったところ、Asefと54%の相同性を認めた(図3)。両者は、APC結合領域(図3中、枠部分)、Dbl相同(DH)ドメイン(図3中、細線部分)、プレックストリン相同(PH)ドメイン(図3中、破線部分)、Src相同3(SH3)ドメイン(図3中、太線部分)を保持する点においてタンパク質の構造は類似している。この結果、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有する本発明のAsef2ポリペプチドは新規タンパク質であることが確認された。AsefおよびAsef2とDblファミリータンパク質との構造比較を図4に示す。図4において、「ABR」はAPC結合ドメインを意味する。
【実施例2】
【0088】
発現組織の確認
次に配列番号2(図2)の推定アミノ酸配列で示される本発明のAsef2の、ヒト組織における発現を、ノザンブロット解析により確認した。多種のヒト組織(心臓、全脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓)から得たpoly(A)+RNAをブロットしたフィルターをClontech社より入手し、
プライマー1: 5'−GACCTGGGGGATGGGCGCGACAAG−3'(配列番号3)、及び
プライマー2:5'−TCATTTCCGGAAGGGGGTG−3'(配列番号4)
を用いて得られたPCR産物をプローブとしてハイブリダイゼーションした。その結果、Asef2は様々な組織において普遍的に発現していることを確認した(図5)。さらに、RT-PCR法により様々な大腸癌由来細胞でも発現を確認した。
【実施例3】
【0089】
Asef2の発現とAPCとのin vivoにおける結合
本発明のAsef2ポリペプチドを発現させるために、発現プラスミドpcDNA3.1(+)のBamHI/SalI部位にFLAG−タグで標識したAsef2のcDNAを組み込んだ。本発明のAsef2ポリペプチドの発現確認のため、コントロールベクター、FLAG−タグで標識したAsef2cDNAを組み込んだベクター、FLAG−タグで標識したAsefcDNAを組み込んだベクターを、HeLa細胞にトランスフェクションした。培養した各形質転換体の溶解物ついて、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降(IP)し、SDS-PAGEにより分画し、次いで抗FLAG抗体を用いてイムノブロットを行った(図6、レーン1〜3)。その結果、FLAG−タグで標識したAsef2cDNAを組み込んだベクターで形質転換したHeLa細胞では明らかに本発明のAsef2ポリペプチドの発現が認められ、その分子量は約85kDaであることが判明した(図6、レーン2)。一方、コントロールベクターをトランスフェクションしたHeLa細胞から本発明のAsef2ポリペプチドは検出されなかった(図6、レーン1)。すなわち、抗FLAG抗体で認識される本発明のAsef2ポリペプチドが発現されたことが確認された。
【0090】
さらに、APCとAsef2が細胞内でも複合体を形成しているかどうかを明らかにするために、各形質転換体の溶解物から抗FLAG抗体を用いて免疫沈降し沈降物中にAPCが存在するかどうかを抗APC-N末端抗体を用いたウエスタン-ブロッティング法により検討した(図6、レーン1〜3)。その結果、本発明者らが既に明らかにしているAsef(図6、レーン3)だけでなく本発明のAsef2(図6、レーン2)とも、APCは共沈殿することが分かった。また、抗APC抗体を用いて得られた沈降物中にもやはりAsef2が存在することが確認できた(図6、レーン5)。これらの結果から、新規タンパク質である本発明のAsef2ポリペプチドはin vivoにおいてAPCと複合体を形成していることが明らかとなった。
【実施例4】
【0091】
Asef2の細胞内局在と形態変化の誘導
次に、本発明のAsef2ポリペプチドの細胞内局在について検討した。まず、Madin−Darby canine kidney(MDCK)上皮細胞株を10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)中で培養した。全長のAsef2、APC結合領域欠失変異体Asef2ΔAPC(アミノ酸151−652)及びDHドメイン欠失変異体Asef2ΔDH(アミノ酸1−245+448−652)の各cDNAは、CMVプロモーターを有する哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1(+)中にサブクローン化した。発現プラスミドは、リポフェクトアミン(LipofectAMINE;Invitrogen社)を用いて、使用者マニュアルにしたがって、MDCK細胞にトランスフェクトした。また、一般にDHドメインを含むDblファミリーはアミノ末端領域の欠失により活性化されることが知られているので、APC結合領域を含むアミノ末端領域の欠失変異体(Asef2-ΔAPC)を作製し活性化型とした。
【0092】
MDCK細胞は、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline;PBS)中で3.7%ホルムアルデヒドを用いて4℃で1時間、固定した。固定した細胞は室温で10分間、0.2%トリトンX−100を含むトリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline;TBS)で処理し、TBSで3回洗浄した。細胞を透過化した(permeabilize)後、1%BSA、3%FBS、0.2%トリトンX−100を含むTBS中で一次抗体と室温で1時間、インキュベートした。一次抗体を除去し、細胞をTBSで3回洗浄した。結合した一次抗体は、FITC(Fluorescein isothiocyanate)又はローダミンを結合したヤギ二次抗体(Cappel社)を用いて、検出した。染色したサンプルは、カールツァイスLSM510レーザー走査顕微鏡(Carl Zeiss LSM510 Laser scanning microscope)下で、観察した。
【0093】
Racが活性化するとアクチン細胞骨格系の制御を通してラッフリングやラメリポディアの形成を誘導し形態変化や細胞運動を引き起こすことは良く知られている。そこで、この種の実験によく使われるイヌの腎尿細管上皮由来のMDCK細胞を用いて、Asef2の細胞形態に及ぼす作用について調べた。
【0094】
まず、MDCK細胞にHA−タグで標識した全長のAsef2(Asef2-full)を強制発現するとわずかな細胞膜のラッフリングやラメリポディアの形成が観察された(図7)。さらに活性化型のAsef2(Asef2-ΔAPC)を強制発現した時は、より顕著にかつ巨大なラッフリングやラメリポディアの形成がみられた(図7)。この場合の形態変化の度合は、活性化型のAsef(Asef-ΔAPC)を強制発現した時(図7)とほぼ同じレベルであった。一方、GEF活性部位を欠失している不活性化型のAsef2(Asef2-ΔDH)を強制発現した場合、形態変化は認められなかった。これらの結果から、MDCK細胞においてAsef2は細胞膜のラッフリングやラメリポディアの形成を誘導することが明らかになった。また、図中の矢印頭で示すように、Asef2は上皮細胞中で細胞の辺縁やラッフリング部位に局在していることが判明した。
【実施例5】
【0095】
Asef2が細胞運動に与える影響
Asef2が細胞運動に与える影響を調べる為にTranswell (Costar)を用いてCell migration assayを行った。コントロールベクターを遺伝子導入したMDCK細胞(mock)を基準として全長のAsef2(Asef2-full)、活性化型のAsef2(Asef2-ΔAPC)及び不活性化型のAsef2(Asef2-ΔDH)を強制発現した細胞の運動能を検討した。結果を図8に示す。その結果、活性化型Asef2(Asef2-ΔAPC)を発現する細胞の運動能はコントロールと比較して約2.2倍活性化し、Asef2は細胞運動を顕著に活性化する働きがあることが明らかになった(図8)。一方、不活性化型のAsef2(Asef2-ΔDH)を強制発現した時はコントロールと比べて細胞運動能の顕著な変化は認められなかった(図8)。これらの結果から、Asef2は低分子量GTP結合タンパク質のシグナル伝達経路を活性化することにより、細胞運動の制御に重要な働きをしている可能性があると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明のヒトAsef2ポリペプチドの塩基配列を示す図である。
【図2】ヒトAsef2の推定アミノ酸配列を示す図である。
【図3】ヒトAsef2とヒトAsefのアミノ酸配列を比較した図である。
【図4】ヒトAsef2及びヒトAsef とDblファミリータンパク質との構造を比較した図である。
【図5】様々なヒト組織におけるAsef2の発現を検討した図である。
【図6】FLAGタグを付加したAsef2cDNAを組み込んだ発現プラスミドをトランスフェクトしたHeLa細胞でFLAG-Asef2の発現を確認し、更にAPCとの複合体形成を確認した図面である。図中、レーン1、4はコントロールベクター、レーン2、5はFLAGタグを付加した全長Asef2cDNA、レーン3、6はFLAGタグを付加した全長AsefcDNAで形質転換したHeLa細胞の溶解液を用いた結果である。また、レーン1、2,3は抗FLAG抗体、レーン4,5,6は抗APC抗体で免疫沈降した結果である。
【図7】本発明のAsef2ポリペプチドを発現した上皮細胞株の形態変化を示す図面である。MDCK細胞にHA−タグで標識した全長Asef2 (Asef2-full)、活性化型のAsef2(Asef2-ΔAPC)、不活性化型のAsef2(Asef2-ΔDH)及び活性化型Asef(Asef-ΔAPC)を発現させた細胞である。それぞれ、抗HA抗体を用いて染色した。図中の矢印頭は、強制発現したタンパク質が細胞の辺縁やラッフリング部位に局在していることを示す。
【図8】Asef2が細胞運動に与える影響を検討した図である。MDCK細胞にHA−タグで標識した全長Asef2 (Asef2-full)、活性化型のAsef2(Asef2-ΔAPC)、不活性化型のAsef2(Asef2-ΔDH)及び活性化型Asef(Asef-ΔAPC)を発現させ、Transwellを用いて細胞運動能を検討した。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)からなる群から選択されるいずれかのポリペプチド。
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド、及び
(c) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド
【請求項2】
配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続した5個のアミノ酸配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその相補鎖。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチド又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
以下の(a)又は(b)に示すポリヌクレオチド又はその相補鎖。
(a) 配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b) 配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【請求項6】
配列番号1で表される塩基配列のうち、少なくとも連続した15個の塩基配列を含み、かつ癌抑制遺伝子APCの遺伝子産物中のアルマジロリピート部位に対する結合能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその相補鎖。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物から請求項1又は2に記載のポリペプチドを採取することを特徴とする、該ポリペプチドの製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリペプチドを認識する抗体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のポリペプチドと、癌抑制遺伝子APC遺伝子産物中のアルマジロリピート部位との結合を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法であって、請求項1及び2に記載のポリペプチド並びに請求項10に記載の抗体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドと相互作用して該ポリヌクレオチドからの発現を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法であって、請求項3〜6に記載のポリヌクレオチド、請求項7に記載のベクター、請求項8に記載の形質転換体及び請求項10に記載の抗体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のポリペプチドのGEF活性を阻害又は増強する化合物のスクリーニング方法であって、請求項1及び2に記載のポリペプチド並びに請求項10に記載の抗体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項14】
請求項1及び2に記載のポリペプチド、請求項3〜6に記載のポリヌクレオチド、請求項7に記載のベクター、請求項8に記載の形質転換体、並びに請求項10に記載の抗体からなる群から選択される、少なくとも1つを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍の治療薬である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1又は2に記載のポリペプチドの発現又は活性に関連した疾病の診断方法であって、試料中の
(a)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び/又は
(b)該ポリペプチド、
をマーカーとして分析することを含む診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−212003(P2006−212003A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30952(P2005−30952)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 日本癌学会発行の「第63回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】