説明

ころがり軸受及び装置

【課題】ころがり軸受の潤滑剤によるミストの発生や増稠剤の飛散を防止し、真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することのできるころがり軸受を提供する。
【解決手段】機内側と機外側との間で回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受において、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業用のころがり軸受、例えば、半導体、FPD及び太陽電池などの製造装置における真空場で使用されるのに好適な磁性流体を利用したころがり軸受及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等においては、例えば、真空ポンプによって高真空状態に保持された反応室内にウェーハを配置して反応ガスを導入してCVD法等によって薄膜の形成を行なっている。反応室内でのワークの搬送は気密状態のままで行う必要があり、そのための搬送機構においては、反応室内においてワークを実際に把持するアーム部分と、反応室の外部からアーム部分に動力を伝達するための駆動機構との間が気密状態で完全に仕切られている必要がある。また、反応室の側は塵等の発生を極力抑える必要がある。このために、反応室内のアーム部分の駆動機構は摩耗粉、潤滑剤のミスト等が発生しない機構が望ましい。
【0003】
上記のような半導体製造装置等にあっては、例えば、図7に示すような磁性流体シール装置が使用されている。この磁性流体シール装置は、一対の磁極片としてのポールピース102,103と、この一対のポールピース102,103に挟まれた磁力発生手段としての磁石104と、で構成される磁気回路形成手段を用いている。そして、ハウジング112に一対のポールピース102,103が密封性を向上させるOリング105,106を介して装着され、ポールピース102,103と磁石104と磁性流体107と磁性材製である軸111とで磁気回路を形成して、磁性流体107をポールピース102,103と軸111に形成された複数の環状突起先端との間に保持して密封対象側である真空側を真空状態に保持する密封機能を備えるものである(以下、「従来技術1」という。)。
【0004】
そして、このような磁性流体シール装置101の大気側に、軸受部としてのベアリング110が配置されている。このベアリング110は、一般にベアリング110から発生するダストが嫌われて、磁性流体シール装置101の大気側に配置される。ベアリング110には、アンギュラベアリング等が用いられ、このベアリング110の潤滑には、グリースを使用することが多い。
【0005】
しかし、上記従来技術1では、グリースは、一般にベースオイルに増稠剤を混合したものであり、多少ならずとも油分離は起こしてしまう。この状況は、温度が高くなる程顕著となり、図7の構造の場合、分離したオイルがベアリング110から流れ出し、磁性流体107中に混入し、磁性流体107の劣化が生じ、耐圧性及び真空性に悪影響を及ぼし磁性流体シール装置101の寿命を短くする問題があった(以下「第1の問題」という。)。
一方、磁性流体シール装置を使用しない装置にあっては、ベアリングに塗布されたグリース中に含まれている気泡や水分が真空中に放出され真空チャンバー内の真空の質を低下させたり、圧力変動が起こること、また、大気中で使用される一般産業用のころがり軸受においても、潤滑剤としてのグリースの量が多いと、ころがり抵抗が大きくなり、また、グリースの粘度によりころがり抵抗が大きく変化し、高温時には垂れが発生することも問題視されている(以下「第2の問題」という。)。
【0006】
上記第1の問題に鑑み、大気側のポールピースの上面に、ハウジング側に下方へ凹むオイル受け部を備え、ベアリングでグリースが多少ならずとも油分離を起こし、分離したオイルがベアリングから流れ出した場合に、ベアリングの下部にあるオイル受け部に溜め、オイルが磁性流体中に混入することを防止するようにした装置が知られている(以下「従来技術2」という。例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、上記第2の問題におけるグリース中に含まれている気泡や水分が真空中に放出され真空チャンバー内の真空の質を低下させたり、圧力変動が起こることに鑑み、図8に示すように、仕切り壁120により気密状態で仕切られた真空側と大気側との間で回転力等の動力を伝達するための回転伝達装置に関して、回転出力軸121を回転自在に支持している第1および第2のボールベアリング113、114と、これら第1および第2のボールベアリング113、114の外輪の間に挟まれた円環状の第1のスペーサ115と、第1および第2のボールベアリング113、114の内輪の間に挟まれた円環状の第2のスペーサ116と、第2のボールベアリングの内輪は回転出力軸121の軸部分122の端に形成した円環状段面122aに当接し、さらに、第1のボールベアリングの内輪は回転出力軸121の軸部分122の外周に固定したナット117に当接し、第2のスペーサ116、円環状段面122a、およびナット117によって、第1および第2のボールベアリング113、114の内輪の軸線方向の位置を規定し、磁気回路を構成するために、第1のスペーサ115はフェライト系あるいはマルテンサイト系ステンレス等の強磁性体から形成し、また、軸線方向の端がN極、S極となるように着磁し、さらに、回転出力軸121の少なくとも軸部分122は磁性体から形成し、これに加えて、ボールベアリング113、114も一般的に使用されている金属製の磁性体とし、第2のスペーサ116を非磁性体とし、ボールベアリング113、114の接触部分の周囲を磁性流体で覆われた状態に形成し、潤滑剤としてグリースを用いる場合に比べて潤滑剤のミストの発生や増稠剤の飛散を防止し、当該接触部分で発生した微小な摩耗粉等の塵を磁性流体によって捕捉し、ミスト、塵等が真空側の空間に漏れ出ることを防止した装置が知られている(以下「従来技術3」という。例えば、特許文献2参照。)。 稠稠
【0008】
また、上記第2の問題における一般産業用のころがり軸受のグリースの問題に鑑み、潤滑剤として潤滑磁性流体を利用したころがり軸受として、図9に示すように、ころがり軸受の外輪131、内輪132及び転動体133を強磁性体で形成し、リング状の磁石134の一方の磁極Nを外輪131の側面に密接させ、他方の磁極Sを内輪132の側面に接近するように取り付け、磁石134の一方の磁極Nから外輪131、転動体133、内輪132を順次経て他方の磁極Sに帰る磁気回路を形成し、潤滑磁性流体を転動体の転動接触面に保持させるようにしたものが知られている(以下「従来技術4」という。例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−254446号公報
【特許文献2】特開平11−166597号公報
【特許文献3】実開平3−1212238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術2においては、オイルの混入が防止された磁性流体には劣化が生じず、耐圧性及び真空性に影響が及ばず、磁性流体シール装置の長寿命化が図れるという効果はあるが、真空中の場合、オイル受け部に溜められたオイルに含まれている気泡や水分が真空中に放出され真空チャンバー内の真空の室を低下させるという問題があった。
また、上記従来技術3においては、2つのボールベアリングの外輪の位置決めスペーサとして磁石自身を用い、内輪のスペーサとして別の専用スペーサを用いる構造であるため、材質の異なる磁石と専用スペーサとを同時加工する必要があり、少しでも両部材の長さがずれると、ころがり軸受の寸法精度上の要求から、使用することができないという問題があった。
さらに、上記従来技術4においては、リング状の磁石134を用い、磁石の一方の磁極Nを外輪の側面に密接させ、他方の磁極Sを内輪の側面に接近するように取り付ける構造であるため、リング状の磁石134を寸法精度良く形成するのが難しいとともに、寸法精度が悪い場合、円周全体に均一な磁力線が形成できないという問題があった。また、リング状の磁石134をころがり軸受のスペーサとして兼用させた場合、外輪及び内輪を寸法精度良く設置するのが困難であるという問題もあった。
【0011】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであって、第1に、ころがり軸受の潤滑剤として潤滑性磁性流体を用い、該潤滑性磁性流体を固定するための磁気を発生させる磁石をスペーサの凹部に保持する構造とすることにより、グリースの使用による抵抗の増大・変動及び高温時の垂れ及びを防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することのできるとともに既存のころがり軸受にも容易に適用でき、真空場に用いた場合には、ミストの発生や増稠剤の飛散を防止して真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を防止を図ることのできるころがり軸受を提供することを目的としている。
また、本発明は、第2に、ころがり軸受の潤滑剤として潤滑性磁性流体を用いるとともに磁性流体シール装置を併用することにより、グリースの使用による抵抗の増大・変動及び高温時の垂れを防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、磁性流体シール装置の寿命を延ばすことができ、真空場に用いた場合には、ミストの発生や増稠剤の飛散を防止して真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を完全に防止できるころがり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために本発明のころがり軸受は、第1に、機内側と機外側との間で回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受において、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受は、第2に、第1の特徴において、スペーサを外輪の側面に密接可能にリング状に形成し、該リング状のスペーサに、その外輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させてなることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受は、第3に、第2の特徴において、スペーサを内輪の側面に密接可能にリング状に形成し、該リング状のスペーサに、その内輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させてなることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受は、第4に、第1乃至第3のいずれかの特徴において、外輪、内輪及び転動体を強磁性材料から形成し、スペーサを非磁性材料から形成することを特徴としている。
【0013】
本発明のころがり軸受の上記第1乃至第4の特徴によれば、グリースの使用による抵抗の増大・変動及び高温時の垂れを防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することのできるとともに既存のころがり軸受にも容易に適用でき、真空場に用いた場合には、ミストの発生や増稠剤の飛散を防止して真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を防止を図ることのできるころがり軸受を提供することができる。
【0014】
また、本発明のころがり軸受装置は、第1に、機内側と機外側との間で回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受装置において、ハウジング内に磁性流体シール及びころがり軸受を設け、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受装置は、第2に、第1の特徴において、ハウジング内の機内側に磁性流体シールを配置するとともに機外側にころがり軸受を配置し、磁性流体シールところがり軸受との間に非磁性材料からなるスペーサを設けることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受装置は、第3に、第2の特徴において、大気側に配置されたころがり軸受をアンギュラ玉軸受とし、該アンギュラ玉軸受の外輪又は内輪を大気側から押圧するように磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受装置は、第4に、第1の特徴において、ハウジング内の中央部に磁性流体シールを配置するとともに該磁性流体シールの両側に深溝玉軸受を配置し、該機内側の深溝玉軸受の外輪又は内輪と磁性流体シールとの間に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設け、機外側の深溝玉軸受と磁性流体シールとの間には非磁性材料からなるスペーサを介在させ、機外側の深溝玉軸受の外輪又は内輪の機外側に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受装置は、第5に、第1の特徴において、ハウジング内の中央部に磁性流体シールを配置するとともに該磁性流体シールの両側に深溝玉軸受を配置し、機内側の深溝玉軸受と磁性流体シールとの間に磁性材料からなるスペーサを介在させ、機外側の深溝玉軸受と磁性流体シールとの間には非磁性材料からなるスペーサを介在させ、機外側の深溝玉軸受の外輪又は内輪の機外側には磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴としている。
【0015】
本発明のころがり軸受装置の上記第1乃至第5の特徴によれば、グリースの使用による抵抗の増大・変動及び高温時の垂れを防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することのできるとともに既存のころがり軸受にも容易に適用でき、真空場に用いた場合には、ミストの発生や増稠剤の飛散を防止して真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を完全に防止できるころがり軸受装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のころがり軸受は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることにより、グリースの使用による抵抗の増大・変動及び高温時の垂れを防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することのできるとともに既存のころがり軸受にも容易に適用でき、真空場に用いた場合には、ミストの発生や増稠剤の飛散を防止して真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を防止することができる。
【0017】
本発明のころがり軸受装置は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)ハウジング内に磁性流体シール及びころがり軸受を設け、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることにより、グリースの使用による抵抗の増大・変動及び高温時の垂れを防止し、また、長期間に亘って良好な潤滑を維持することのでき、さらに、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することのできるとともに既存のころがり軸受にも容易に適用でき、真空場に用いた場合には、及びミストの発生や増稠剤の飛散して真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を完全に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係るころがり軸受及び装置を示す正面断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るころがり軸受に設けられるところの磁石を凹部に保持してなるスペーサの一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るころがり軸受に設けられるところの磁石を凹部に保持してなるスペーサの他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態2に係るに係るころがり軸受及び装置を示す正面断面図である。
【図5】本発明の実施形態3に係るに係るころがり軸受及び装置を示す正面断面図である。
【図6】本発明の実施形態2及び3に係るころがり軸受に設けられるところの磁石を凹部に保持してなるスペーサの一例を示す斜視図である。
【図7】従来技術1を示す正面断面図である。
【図8】従来技術3を示す正面断面図である。
【図9】従来技術4を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のころがり軸受及び装置を実施するための形態を、真空場に使用された例を用いて説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、大気中で使用される一般の産業用ころがり軸受に適用できることはいうまでもないことである。
【0020】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係るころがり軸受及び装置を示す正面断面図、図2及び3は、実施形態1に係るころがり軸受に設けられるところの磁石を凹部に保持してなるスペーサの例を示した斜視図である。
図1において、参照符号1は、真空側(機内側)と大気側(機外側)との間で回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受装置のハウジング、参照符号2は動力伝達用の回転軸である。また、図中左側が真空側(機内側)、図中右側が大気側(機外側)である。
【0021】
この実施の形態1に係るころがり軸受び装置は、ハウジング1と回転軸2との間に装着されて、ハウジング1と回転軸2との間をシールするととも回転軸2を回転自在に支持するものである。
図1に示すように、ハウジング1と回転軸2との間には、真空側に磁性流体シール10が配置され、大気側にころがり軸受20が配置されている。
【0022】
磁性流体シール10は、一対の磁極片としてのポールピース12、13と、この一対のポールピース12、13に挟まれた磁力発生手段としての磁石11と、で構成される磁気回路形成手段を備えている。
一対のポールピース12、13は、ハウジング1に密封性を向上させるためのOリング14、15を介して装着され、磁石11とポールピース12、13と磁性材料からなる回転軸2とで磁気回路を形成して、磁性流体16をポールピース12、13と回転軸2に形成された複数の環状突起4の先端との間に保持して密封対象側である真空側を真空状態に保持する密封機能を果たすものである。
【0023】
磁性流体シールに用いられる磁性流体としては、大別して、水ベース磁性流体、炭化水素油ベース磁性流体及びふっ素油ベース磁性流体の3種類あるが、本発明の磁性流体シール10では、蒸気圧が低く、高温・高真空中において蒸発しにくい炭化水素油ベース磁性流体及びふっ素油ベース磁性流体を用いている。また、後述するように、本発明のころがり軸受20も同様の磁性流体を用いている。
そのため、本発明においては、軸受に使用する炭化水素油ベース磁性流体及びふっ素油ベース磁性流体を、特に、潤滑性磁性流体と呼ぶこととする。
また、磁石としては、例えば、金属又は磁石粉を充填した有機材料等からなる永久磁石が用いられる。
【0024】
ころがり軸受20は、玉軸受あるいはローラ軸受等の転動体のころがりを利用した軸受であり、外輪21がハウジング1に固定され、内輪22が回転軸2に固定されるようになっている。図1では、2個の単列アンギュラ玉軸受を背面組合せした形式のものが示されており、真空側の外輪21と磁性流体シール10の大気側のポールピース13との間には非磁性材料からなるスペーサ5が設けられ、また、真空側の内輪22の真空側側面は回転軸2の段部3に当接して位置決めされる。
【0025】
ころがり軸受20の潤滑剤としては、グリースの代わりに、潤滑性磁性流体17が用いられ、被潤滑部分に対する潤滑が行われる。被潤滑部分の潤滑を長期間に亘って適切に行うために、潤滑性磁性流体を被潤滑部分に保持するための磁気回路を形成する必要がある。
磁気回路の形成のため、ころがり軸受20の大気側の外輪23及び内輪24の大気側側面には、外輪23及び内輪24を真空側にを押圧するようにして、後述する磁石28を凹部に保持してなるスペーサ26、27が設けられている。
外輪23側のスペーサ26は、ボルト29によりハウジング1に締め込み固定され、また、内輪24側のスペーサ27は回転軸2の螺子部6への螺合により締め込み固定される。
【0026】
磁石28としては、サマリウムコバルト磁石あるいはネオジウム磁石などの永久磁石が用いられ、また、外輪23側のスペーサ26の磁石と、内輪27側のスペーサ27の磁石とは、図1に示すようなN極、S極となるように着磁されている。
さらに、回転軸2は磁性体から形成され、ころがり軸受20も一般的に使用されている金属製であり、磁性体である。
したがって、図1の例では、磁束が矢印で示す方向の磁気回路が形成される。すなわち、スペーサ26の永久磁石である磁石28から、外輪23、ボール25内輪24、スペーサ27の永久磁石である磁石28を経由して再びスペーサ26の磁石28に戻る磁気回路と、スペーサ26の永久磁石である磁石28から、外輪23及び21、ボール25、内輪22及び24、スペーサ27の永久磁石である磁石28を経由して再びスペーサ26の磁石28に戻る磁気回路とが形成される。
【0027】
図2は、図1の実施形態1に係るころがり軸受に設けられるところの磁石を凹部に保持してなるスペーサの一例を示す斜視図である。
外輪側のスペーサ26及び内輪側のスペーサ27は、それぞれ独立しており、全体としてリング状をしており、断面は矩形形状で、オーステナイト系ステンレス、アルミニウム等の非磁性材から形成されている。
また、これらのスペーサ26、27には、外輪又は内輪に接する側に開口する円筒状の凹部31が円周方向に等間隔に複数設けられている。図1の例では、スペーサ26に12個、スペーサ27に8個の円筒状の凹部31が形成されているが、個数については、適宜、設計的に決められるものである。これらの円筒状凹部31には、凹部31の径より若干小径の円筒状の磁石28が嵌入され、保持される。円筒状の磁石28の長さは円筒状凹部31の深さとほぼ同じであり、嵌入保持された場合、磁石28の露出面が外輪23又は内輪24と接するようになっている。
【0028】
外輪側のスペーサ26の外周側には、ボルト29の嵌入するボルト穴32が円周方向に等間隔に複数設けられ、ボルト29によりハウジング1に固定される。
また、内輪側のスペーサ27の内周面には、回転軸の螺子部6に螺合するための螺子部33が形成され、回転軸2に螺合して固定される。
外輪側のスペーサ26の固定により外輪21及び23は真空側に押圧されてスペーサ4との間で挟着され、また、内輪側のスペーサ27の固定により内輪22及び24も真空側に押圧されて突起3との間で挟着される。
【0029】
図3は、図1の実施形態1に係るころがり軸受に設けられるところの磁石を凹部に保持してなるスペーサの他の例を示す斜視図である。
図3に示すスペーサは、磁石28を嵌入保持するところの外輪側のスペーサ26の凹部34の形状が、図2の凹部31と異なるが他の構成は図2に示すものと同じである。
すなわち、外輪側のスペーサ26の凹部34は、スペーサ26の内周側に面して切り欠き形成された矩形状をしている。外輪側のスペーサ26の矩形状の凹部34及び内輪側のスペーサ27の円筒状の凹部31内に円筒状の磁石28が嵌入・保持されるものである。なお、凹部34の断面形状は矩形状に限らず半円筒状でもよい。
【0030】
上記のように構成された実施の形態1によれば、ころがり軸受の潤滑剤として潤滑性磁性流体が使用されることから、潤滑剤からのミストの発生や増稠剤の飛散が防止され、真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を防止でき、また、長期間に亘ってころがり軸受の良好な潤滑を維持することのできる。さらに、磁石を凹部に保持してなるスペーサを用いることにより、磁石の寸法を精度良く仕上げる必要はなく、スペーサを精度良く仕上げることにより、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することができる。
さらにまた、ハウジング内に磁性流体シール及びころがり軸受を併設することにより、万一、ころがり軸受側から潤滑性磁性流体が真空側に溶け出したり移動するようなことがあっても、真空側に配置された磁性流体シールにより潤滑性磁性流体が捕捉されるため、真空側の真空の質の低下及び圧力変動の問題を完全に防止することができる。
また、ころがり軸受からミストの発生や増稠剤の飛散が防止されることから、磁性流体シール側の磁性流体に不純物が混入することがないため、磁性流体シール装置の寿命を延ばすことができるという効果もある。
【0031】
図4は、本発明の実施形態2に係るに係るころがり軸受及び装置を示す正面断面図である。
この実施の形態2に係るころがり軸受び装置は、ハウジング1と回転軸2との間に装着されて、ハウジング1と回転軸2との間をシールするととも回転軸2を回転自在に支持するものにであるが、図4に示すように、ハウジング1内の中央部に磁性流体シール10を配置するとともに該磁性流体シール10の両側に深溝玉軸受35、35を配置し、該真空側の深溝玉軸受35の外輪36又は内輪37と磁性流体シール10との間に、磁石を凹部に保持してなるスペーサ38、39を設け、大気側の深溝玉軸受35と磁性流体シール10との間には非磁性材料からなるスペーサ40を介在させ、大気側の深溝玉軸受35の外輪41又は内輪42の大気側に、磁石28を凹部に保持してなるスペーサ43、44を設けるものである。
【0032】
実施の形態2に係るころがり軸受び装置では、磁性流体シール10は実施の形態1と同じものであるが、ころがり軸受として深溝玉軸受35、35を用いていることから、それらの外輪36、41又は内輪37、42を軸方向に押圧する必要がなく、スペーサ38、39、43及び44は、外輪36、41又は内輪37、42に磁力により密接する状態で取り付けられれば良い。このため、真空側の深溝玉軸受35の外輪36又は内輪37に密接するスペーサ38、39は磁性流体シール10のポールピース12との間に挟着により固定されるようになっている。また、大気側の深溝玉軸受35の外輪41の大気側に密接するスペーサ43はハウジング1に螺子止めされたカバーリング45で係止され、また、同じく内輪42の大気側に密接するスペーサ44は回転軸2に固定されたスナップリング49により係止されるようになっている。
【0033】
したがって、図4の例では、真空側の深溝玉軸受35においては、スペーサ38の永久磁石である磁石28から、外輪36、ボール46、内輪37、スペーサ39の永久磁石である磁石28を経由して再びスペーサ38の磁石28に戻る磁気回路が形成され、また、大気側の深溝玉軸受35においては、スペーサ43の永久磁石である磁石28から、外輪41、ボール46、内輪42、スペーサ44の永久磁石である磁石28を経由して再びスペーサ43の磁石28に戻る磁気回路とが形成される。
【0034】
図5は、本発明の実施形態3に係るに係るころがり軸受及び装置を示す正面断面図である。
この実施の形態3に係るころがり軸受び装置は、ハウジング1内の中央部に磁性流体シール10を配置するとともに該磁性流体シール10の両側に深溝玉軸受35、35を配置し、真空側の深溝玉軸受35と磁性流体シール10との間に磁性材料からなるスペーサ47を介在させ、大気側の深溝玉軸受35と磁性流体シール10との間には非磁性材料からなるスペーサ48を介在させ、大気側の深溝玉軸受35の外輪41又は内輪42の大気側には磁石を凹部に保持してなるスペーサ43、44を設けるものである。
【0035】
実施の形態3に係るころがり軸受び装置では、磁性流体シール10及びころがり軸受35は実施の形態2と同じものであるが、真空側の深溝玉軸受35には磁石を凹部に保持してなるスペーサではなく単に磁性材料からなるスペーサ47を設け、磁性流体シール10の磁石11の磁力利用して磁気回路を形成するようにしている点が異なっている。
【0036】
すなわち、真空側の深溝玉軸受35においては、磁性流体シール10の永久磁石である磁石11から、ポールピース13、磁性体である回転軸2、内輪37、ボール46、外輪36、磁性材料からなるスペーサ47、ポールピース12を経由して再び磁性流体シール10の磁石11に戻る磁気回路が形成され、また、大気側の深溝玉軸受35においては、スペーサ43の永久磁石である磁石28から、外輪41、ボール46、内輪42、スペーサ44の永久磁石である磁石28を経由して再びスペーサ43の磁石28に戻る磁気回路とが形成される。
【0037】
図6は、実施の形態2に用いられる図4の真空側の深溝玉軸受35に用いられる磁石28を凹部に保持してなるスペーサ38、39と、実施の形態2及び3に用いられる図4及び図5の大気側の深溝玉軸受35に用いられる磁石28を凹部に保持してなるスペーサ43、44を示す斜視図である。
スペーサ38、39、及び、スペーサ43、44は、同じものであり、外輪側のスペーサ38、43及び内輪側のスペーサ39、44は、それぞれ独立しており、全体としてリング状をしており、断面は矩形形状で、オーステナイト系ステンレス、アルミニウム等の非磁性材から形成されている。
図6(a)では、これらの外輪側のスペーサ38、43及び内輪側のスペーサ39、44には、外輪又は内輪に接する側に開口する円筒状の凹部31が円周方向に等間隔に複数設けられている。図6(a)の例では、外輪側のスペーサ38、43に12個、内輪側のスペーサ39、44に8個の円筒状の凹部31が形成され、これらの円筒状凹部31には、凹部31の径より若干小径の円筒状の磁石28が嵌入され、保持される。円筒状の磁石28の長さは円筒状凹部31の深さとほぼ同じであり、嵌入保持された場合、磁石28の露出面が外輪36又は内輪37と接するようになっている。
【0038】
図6(b)では、磁石28を嵌入保持するところの凹部34の形状が、図6(a)の凹部31と異なっているが他の構成は同じである。
すなわち、外輪側のスペーサ38、43の凹部34は、外周側に面して切り欠き形成された矩形状をしている。また、内輪側スペーサ39、44の凹部34は、内周側に面して切り欠き形成された矩形状をしている。この矩形状の凹部34内に円筒状の磁石28が嵌入・保持される。
なお、凹部34の断面形状は、矩形状に限らず半円筒状でもよい。
【0039】
上記の図1乃至6に示した実施の形態1乃至3は、本発明のころがり軸受装置の好適な例を示したに過ぎず、流体シール及びころがり軸受の配置並びに流体シール及びころがり軸受の形式において、図1乃至図6に示したものに限定されるものではなく、その他種々の形態が採用できることはいうまでもない。
また、上記の図1乃至6に示した実施の形態1乃至3は、真空場に使用された例を示したものであるが、本発明はこれに限定されることなく、大気中で使用される一般の産業用ころがり軸受に適用できることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0040】
1 ハウジング
2 回転軸
3 回転軸の段部
4 回転軸の環状突起
5 スペーサ
6 回転軸の螺子部
10 磁性流体シール
11 磁石
12 ポールピース
13 ポールピース
14 Oリング
15 Oリング
16 磁性流体
17 潤滑性磁性流体
20 ころがり軸受(アンギュラ玉軸受)
21 外輪
22 内輪
23 外輪
24 内輪
25 ボール
26 外輪側のスペーサ
27 内輪側のスペーサ
28 磁石
29 ボルト
31 円筒状の凹部
32 ボルト穴
33 螺子部
34 矩形状の凹部
35 ころがり軸受(深溝玉軸受)
36 外輪
37 内輪
38 スペーサ
39 スペーサ
40 スペーサ
41 外輪
42 内輪
43 スペーサ
44 スペーサ
45 カバーリング
46 ボール
47 スペーサ
48 スペーサ
49 スナップリング







【特許請求の範囲】
【請求項1】
機内側と機外側との間で回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受において、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴とするころがり軸受。
【請求項2】
スペーサを外輪の側面に密接可能にリング状に形成し、該リング状のスペーサに、その外輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させてなることを特徴とする請求項1記載のころがり軸受。
【請求項3】
スペーサを内輪の側面に密接可能にリング状に形成し、該リング状のスペーサに、その内輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させてなることを特徴とする請求項2記載のころがり軸受。
【請求項4】
外輪、内輪及び転動体を強磁性材料から形成し、スペーサを非磁性材料から形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のころがり軸受。
【請求項5】
機内側と機外側との間で回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受装置において、ハウジング内に磁性流体シール及びころがり軸受を設け、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑するための潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するところの磁気回路に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴とするころがり軸受装置。
【請求項6】
ハウジング内の機内側に磁性流体シールを配置するとともに機外側にころがり軸受を配置し、磁性流体シールところがり軸受との間に非磁性材料からなるスペーサを設けることを特徴とする請求項5記載のころがり軸受装置。
【請求項7】
機外側に配置されたころがり軸受をアンギュラ玉軸受とし、該アンギュラ玉軸受の外輪又は内輪を機外側から押圧するように磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴とする請求項6記載のころがり軸受装置。
【請求項8】
ハウジング内の中央部に磁性流体シールを配置するとともに該磁性流体シールの両側に深溝玉軸受を配置し、該機内側の深溝玉軸受の外輪又は内輪と磁性流体シールとの間に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設け、機外側の深溝玉軸受と磁性流体シールとの間には非磁性材料からなるスペーサを介在させ、機外側の深溝玉軸受の外輪又は内輪の機外側に磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴とする請求項5記載のころがり軸受装置。
【請求項9】
ハウジング内の中央部に磁性流体シールを配置するとともに該磁性流体シールの両側に深溝玉軸受を配置し、機内側の深溝玉軸受と磁性流体シールとの間に磁性材料からなるスペーサを介在させ、機外側の深溝玉軸受と磁性流体シールとの間には非磁性材料からなるスペーサを介在させ、機外側の深溝玉軸受の外輪又は内輪の機外側には磁石を凹部に保持してなるスペーサを設けることを特徴とする請求項5記載のころがり軸受装置。














【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−174547(P2011−174547A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39458(P2010−39458)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000101879)イーグル工業株式会社 (119)
【Fターム(参考)】