説明

すべり軸受

【課題】樹脂被覆層を設けたものにおいて、異物埋収性の向上を図ることができ、ひいては非焼付性の向上を図る。
【解決手段】基材を構成する軸受合金2の表面に設けられる樹脂被覆層3は、バインダーとなるベース樹脂4と、ベース樹脂4より軟らかい軟質高分子物質であってエラストマー及び/又はゴムからなり、平均粒径が10μm以上の塊状をなす塊状軟質物6と、ベース樹脂4に設けられた固体潤滑剤とを備える構成とする。塊状軟質物6は、すべり面となる樹脂被覆層3と相手材との間に入った異物を埋収する作用を発揮する。よって、異物埋収性を向上でき、ひいては非焼付性の向上を図ることができる。樹脂被覆層3には、さらに軟質金属5を添加すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に樹脂被覆層を設けた構成のすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車エンジン用のすべり軸受においては、鋼板製の裏金上に銅系軸受合金やアルミニウム系軸受合金を接合し、この軸受合金の表面に、合成樹脂を主体とした樹脂被覆層を設けることが行なわれている。そして、耐摩耗性や非焼付性を向上させるために、樹脂被覆層に固体潤滑剤や軟質金属粒子を設けるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2002−242933号公報
【特許文献2】特開2000−240657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、すべり軸受の使用時においては、軸受のすべり面と相手材との間に鉄粉などの異物が侵入し、これが原因で焼付が発生することがある。従来構成の軸受では、すべり面に樹脂被覆層が設けられているが、その樹脂被覆層に異物埋収性が乏しいという問題があり、このために非焼付性が低下するという問題がある。
【0004】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂被覆層を設けたものにおいて、異物埋収性の向上を図ることができ、ひいては非焼付性の向上を図ることができるすべり軸受を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、請求項1の発明は、基材の表面に樹脂被覆層を設けたすべり軸受において、前記樹脂被覆層は、バインダーとなるベース樹脂と、固体潤滑剤と、前記ベース樹脂に溶解せず、かつ前記ベース樹脂より軟らかい軟質高分子物質であってエラストマー及び/又はゴムからなり、平均粒径が10μm以上の塊状をなす塊状軟質物とを備えた構成であることを特徴とする。
【0006】
樹脂被覆層は、ベース樹脂より軟らかい軟質高分子物質であってエラストマー及び/又はゴムからなる塊状軟質物を備えているので、すべり面となる樹脂被覆層と相手材との間に異物が入り込んだ際に、塊状軟質物がその異物を埋収する作用を発揮する。よって、異物埋収性を向上でき、ひいては非焼付性の向上を図ることができる。塊状軟質物の平均粒径を10μm以上に設定することで、異物埋収性を有効に発揮できる。樹脂被覆層に塊状軟質物が存していても、その平均粒径が10μm未満であると、異物埋収効果が得られ難い。ここで、塊状軟質物の平均粒径は、個々の塊状軟質物の長手方向の寸法の平均値のことをいう。
また、樹脂被覆層は固体潤滑剤を備えている。固体潤滑剤は潤滑性を向上させる作用があり、耐摩耗性及び非焼付性を一層向上させる効果がある。
【0007】
ここで、すべり軸受の基材としては、銅系軸受合金やアルミニウム系軸受合金、鋼、或いはステンレス鋼などの公知のものを使用することができ、目的に応じて適宜選択することができる。
樹脂被覆層のベース樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のどちらか、または両方用いても良い。熱硬化性樹脂としては、ポリイミド(PI)、エポキシ(EP)、ポリアミドイミド(PAI)、フェノール(PF)樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を挙げることができる。
【0008】
塊状軟質物を構成するエラストマーとしては、スチレン系エラストマー、ポリエステルエラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、エチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができ、このなかから1種以上を選択して用いる。
また、塊状軟質物を構成するゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレンゴムを挙げることができ、このなかから1種以上を選択して用いる。
固体潤滑剤としては、MoS、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイト、WS、CF、BNを挙げることができ、このなかから1種以上を選択して用いる。
樹脂被覆層の厚さ(膜厚)としては、5〜50μmが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。
【0009】
樹脂被覆層において、塊状軟質物の占める割合は、10〜50vol%に設定することが好ましい。10vol%以上とすることで異物埋収性の効果が向上し、50vol%以下に設定することで良好な耐摩耗性を維持できる。
【0010】
樹脂被覆層に軟質金属を含ませることも好ましい。軟質金属としては、Sn、Pb、Bi、In、Ag、Cu、それらの合金を挙げることができ、これらのなかから1種以上を選択して用いる。これらの軟質金属は潤滑性を向上させる作用があり、また、熱伝導性も高いため、耐摩耗性及び非焼付性を一層向上させる効果がある。
樹脂被覆層において、塊状軟質物と軟質金属を合わせたものの占める割合も10〜50vol%に設定することが好ましい。それらの占める割合を10vol%以上とすることで異物埋収性の効果が向上し、50vol%以下に設定することで良好な耐摩耗性を維持できる。
【0011】
塊状軟質物の硬さは、デュロメータAが98以下であることが好ましく、より好ましくは40以下である。デュロメータAの値が低いほど軟らかくなる。塊状軟質物が軟らかいほど、異物埋収効果を期待できる。
樹脂被覆層における固体潤滑剤の占める割合は、5〜60vol%に設定することが好ましい。5vol%以上に設定することで、固体潤滑剤の効果を期待できる。60vol%以下に設定することで、良好な耐摩耗性を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明する。まず、試験片は次のようにして作成した。裏金層になる鋼板の上に、軸受合金層となる板状のアルミニウム合金板を載せ、それらをローラ間に挟んで接合することによりバイメタルを得た。得られたバイメタルの総板厚は1.5mmであった。このようにして得られたバイメタルから試験片を作製した。軸受合金層としては、上記したようにアルミニウム合金を用いたが、銅合金でもよい。なお、表1において、軸受合金層の欄に記載しているAlはアルミニウム合金を示している。
【0013】
このようして作製した試験片に対して、ブラスト加工、脱脂の前処理を施した後、軸受合金層の表面に、下記の樹脂液をスプレーコーティングすることによって樹脂被覆層を設けた。このときのコーティング厚さ(膜厚)は25μmとした。コーティング用の樹脂液のベース樹脂としては、熱硬化性樹脂であるPAIと熱可塑性樹脂であるPBIを選択した。また、コーティング用の樹脂液には、固体潤滑剤と、軟質金属と、塊状軟質物を形成するためのエラストマー及び/又はゴムを混合した。混合する際には、エラストマー及びゴムは液状である。
【0014】
ここで、固体潤滑剤としては、MoSとPTFEを選択した。軟質金属としては、Sn系合金とPb系合金を選択した。エラストマーとしては、フッ素エラストマーとポリエステルエラストマーとを選択した。フッ素エラストマーは、硬化状態での硬さを表わすデュロメータAが48のものを用いた。ポリエステルエラストマーは、デュロメータAが98のものを用いた。ゴムとしてはシリコーンゴムを選択した。そのシリコーンゴムは、デュロメータAが88のものを用いた。表1には、使用したベース樹脂と、固体潤滑剤と、軟質金属と、エラストマーと、ゴムの配合割合が示されている。なお、表1において、実施例4のエラストマーは、ポリエステルエラストマーを用い、実施例4以外の実施例のエラストマーは、フッ素エラストマーを用いた。
【0015】
【表1】

【0016】
上記樹脂液をコーティングしたものを100℃で乾燥した後、180〜250℃にて焼成を行なった。これにより、軸受合金層表面に、エラストマー及び/又はゴムからなる塊状軟質物を備えた樹脂被覆層が形成される。このとき、乾燥及び焼成の温度や時間を制御することにより、エラストマー及びゴムの凝集体(塊状軟質物)の平均粒径をコントロールすることができる。
【0017】
図1には、このようにして作成した本発明の軸受の一例が模式図で示されている。図1において、1は裏金層、2は基材となる軸受合金層、3は樹脂被覆層、4は固体潤滑剤(図示省略)を含むベース樹脂、5は軟質金属、6はエラストマー及び/又はゴムの凝集体からなる塊状軟質物である。
なお、比較例1〜5のうち、比較例1〜3については、コーティングする樹脂液に、軟質金属も、塊状軟質物を形成するためのエラストマーやゴムも混合していない。また、比較例4,5については、コーティングする樹脂液にエラストマー(フッ素エラストマー)は混合しているが、凝集体(塊状軟質物)となった際の平均粒径が5μmとなっている。
【0018】
得られた試験片の各実施例及び比較例について、焼付試験及び摩耗試験を行なった。焼付試験については、表2に示す試験条件により行なった。この場合、供給するオイルに異物を混入した。異物は、JIS Z 8901の第2種に該当するもので、中位径の範囲が27〜31μmである。そして、面圧を10分ごとに1MPaずつアップし、軸受背面温度が180℃以上となった時を焼付と判断した。その結果を表1に示す。また、摩耗試験については、表3に示す試験条件により行ない、摩耗量を測定した。その結果も表1に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
表1に示す試験結果から次のようなことがわかる。
まず、比較例2,3と実施例2〜7とを比較する。樹脂被覆層に塊状軟質物(エラストマー、ゴム)を備えていない比較例2,3では、焼付荷重が9MPa以下であった。これに対し、樹脂被覆層に塊状軟質物(エラストマー、ゴム)を備えている実施例2〜7では、焼付荷重が13MPa以上あり、比較例2,3に比べて非焼付性が優れていることがわかる。これは、比較例2,3のように樹脂被覆層がベース樹脂と固体潤滑剤のみであると、軸受と相手材との間に異物が侵入した場合、その異物を樹脂被覆層で埋収することが難しく、この結果、焼付荷重が低くなると考えられる。これに対して、実施例2〜7のように樹脂被覆層にエラストマーやゴムからなる塊状軟質物を有していると、その塊状軟質物によって異物が埋収され易くなり、この結果、焼付荷重が高くなると考えられる。比較例1と実施例15とを比較した場合も、上記と同様なことがわかる。
【0022】
比較例4と実施例2とを比較する。比較例4と実施例2は、共に樹脂被覆層にエラストマーからなる塊状軟質物を10vol%有しているが、比較例4の焼付荷重は9MPaであり、実施例2は13MPaであった。比較例4の場合、塊状軟質物の平均粒径が5μmと小さいために、異物埋収効果が低く、焼付荷重も低いと考えられる。これに対して、実施例2の場合、塊状軟質物の平均粒径が10μmとなっていて、比較例4の場合よりも大きくなっている。このために、塊状軟質物による異物埋収効果が上がり、ひいては焼付荷重が高くなったと考えられる。比較例5と実施例15,16とを比較した場合も、上記と同様なことがわかる。
【0023】
実施例1〜16をさらに詳しく検討してみる。実施例2〜7と実施例8〜13,16とを比較すると、軟質金属を含んだ実施例8〜13,16の方が、軟質金属を含まない実施例2〜7に比べて、焼付荷重が比較的高くなっており、軟質金属を含んだ方が非焼付性を向上させる傾向がある。
【0024】
実施例2〜7,15は軟質金属を含まない例である。これらを見ると、塊状軟質物の占める割合は10〜50vol%が好ましいと考えられる。また、実施例1,8〜14,16は軟質金属と塊状軟質物の両方を含む例である。これらを見ると、これら軟質金属と塊状軟質物とを合わせた割合が10〜50vol%が好ましいと考えられる。軟質金属や塊状軟質物の割合が50vol%を越えるようになると、摩耗量が増え、逆に焼付荷重が低下する傾向がある。
【0025】
また、実施例1〜16において、塊状軟質物の占める割合が増えると、また、塊状軟質物と軟質金属を合わせた割合が増えると、摩耗量が増える傾向にある。この摩耗量と焼付荷重を考慮すると、軟質金属を含まない場合には、塊状軟質物の占める割合は、10〜50vol%が好ましく、また、軟質金属を含む場合には、軟質金属と塊状軟質物を合わせた割合が、10〜50vol%が好ましい。
【0026】
本発明は、上記した実施例にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張できる。
樹脂被覆層の形成方法としては、スプレーコーティング以外に、パッド印刷やスクリーン印刷、ロールコート、ディスペンサなどでも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例を模式的に示した断面図
【符号の説明】
【0028】
図面中、1は裏金層、2は軸受合金層(基材)、3は樹脂被覆層、4はベース樹脂(固体潤滑剤を含む)、5は軟質金属、6は塊状軟質物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に樹脂被覆層を設けたすべり軸受において、
前記樹脂被覆層は、
バインダーとなるベース樹脂と、
このベース樹脂に溶解せず、かつ前記ベース樹脂より軟らかい軟質高分子物質であってエラストマー及び/又はゴムからなり、平均粒径が10μm以上の塊状をなす塊状軟質物と、
固体潤滑剤とを備えた構成であることを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記樹脂被覆層における前記塊状軟質物の占める割合が10〜50vol%であることを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記樹脂被覆層は軟質金属を含んでいて、その軟質金属がSn、Pb、Bi、In、Ag、Cu、それらの合金のなかから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1または2記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記樹脂被覆層における前記塊状軟質物と前記軟質金属の占める割合が10〜50vol%であることを特徴とする請求項3記載のすべり軸受。
【請求項5】
前記塊状軟質物の硬さは、デュロメータAが98以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のすべり軸受。
【請求項6】
前記樹脂被覆層における前記固体潤滑剤の占める割合が5〜60vol%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のすべり軸受。
【請求項7】
前記ベース樹脂は、ポリイミド、エポキシ、ポリアミドイミド、フェノール、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトンのなかから選ばれた1種以上からなり、前記エラストマーは、スチレン系エラストマー、ポリエステルエラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、エチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーのなかから選ばれた1種以上からなり、前記ゴムは、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレンゴムのなかから選ばれた1種以上からなり、前記固体潤滑剤は、MoS、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイト、WS、CF、BNのなかから選ばれた1種以上からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のすべり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2007−239867(P2007−239867A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62702(P2006−62702)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】