説明

ばね組立体とその製造方法

【課題】 加工・製作が容易で、基板に対しコイルばねが強固に固定されたばね組立体を提供する。
【解決手段】 基板1上にコイルばね2の座巻部2aが固定されたばね組立体である。基板1には、コイルばね2の内周に沿って延出する内側壁11と、コイルばね2の外周に沿って延出する外側壁12とが形成されている。そして、内側壁11と外側壁12のいずれか一方が、コイルばね2の座巻部2aに対し軸方向への抜けを阻止する形状に加工されたばね固定壁を構成している。また他方は、コイルばね2の座巻部2aに対し径方向の移動を阻止する支持壁を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね手段などとして使用されるばね組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、従来のこの種のばね組立体を開示している。同文献1に開示されたばね組立体は、具体的には図示しないが、2枚の円環状プレートと、これら各円環状プレート間に介装される複数のコイルばねとを含み、各円環状プレートから延出する円筒状突起部にコイルばねの座巻部(端部)を差し込み配置した後、円筒状突起部の先端開口縁を押し広げてコイルばねの座巻部をカシメ固定する構成をしている。
かかる構成のばね組立体は、カシメ固定されたコイルばねの座巻部に過大な軸方向の引張力が作用すると、当該座巻部が拡開して円筒状突起部の先端開口縁を乗り越え、外れてしまうおそれがあった。
【0003】
また、特許文献2には、コイルばねの座巻部を拡径して2段目の外周に配置し、基板上に設けた円筒状のボスと段付きボックスとで、これら座巻部と2段目とを挟み込んで基板に固定する構成が採用されている。
同文献2のばね組立体にあっては、コイルばねの座巻部が基板から外れてしまうおそれは少ないものの、コイルばねの座巻部を2段目の外周に配置するといった複雑な特殊加工が必要であったり、基板とコイルばねの他に段付きボックスという部品を用意して、これを組付ける必要があることから、製作工程も煩雑となる欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−24003号公報
【特許文献2】実開昭61−112139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、加工・製作が容易で、基板に対しコイルばねが強固に固定されたばね組立体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、基板にコイルばねの座巻部が固定されたばね組立体であって、
前記コイルばねの内周側に設けた内側壁と、前記コイルばねの外周側に設けた外側壁とを備え、
前記内側壁と外側壁のいずれか一方は、前記コイルばねの座巻部に対し軸方向への抜けを阻止する形状に加工されたばね固定壁を構成しており、他方は前記コイルばねの座巻部に対し径方向の移動を阻止する支持壁を構成していることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の記載を前提として、前記内側壁は、前記基板から前記コイルばねの内周に沿って延出しており、
前記外側壁は、前記基板から前記コイルばねの外周に沿って延出していることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明は、請求項2の記載を前提として、前記支持壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板の半抜き加工によって形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2の記載を前提として、前記支持壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板を切り起こして形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2乃至4のいずれか一項を前提として、前記ばね固定壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板から延出する円筒壁であって、当該円筒壁の先端開口縁が拡径又は縮径されて前記コイルばねの座巻部をカシメ固定しており、前記固定壁の基板からの延出量は前記コイルばねを構成する線材の半径よりも大きく設定するとともに、前記カシメ固定された後の前記ばね固定壁先端と前記支持壁先端との間隔は前記線材の直径よりも小さくなるように調整し、且つ前記支持壁を構成する外側壁又は内側壁と前記コイルばねの座巻部との間に隙間を形成してあることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項2乃至4のいずれか一項を前提として、前記ばね固定壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板から延出する円筒壁であって、当該円筒壁の先端開口縁が拡径又は縮径されて前記コイルばねの座巻部をカシメ固定しており、且つ前記支持壁を構成する外側壁又は内側壁は、前記コイルばねの座巻部に当接していることを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6に記載したばね組立体の製造方法であって、
前記ばね固定壁を構成する円筒壁に沿って同軸状に前記コイルばねの座巻部を配置した状態において、前記円筒壁の先端開口縁を拡径又は縮径して前記コイルばねの座巻部をカシメ固定する過程で、前記支持壁を構成する外側壁又は内側壁に前記座巻部を当接させることを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1の記載を前提として、前記コイルばねを内側コイルばねとし、この内側コイルばねの外周を囲むように外側コイルばねを配置し、当該外側コイルばねの座巻部を縮径させて前記固定壁又は支持壁としたことを特徴とする。
【0014】
請求項9の発明は、請求項8の記載を前提として、前記内側コイルばねの座巻部も縮径させて、前記外側コイルばねの座巻部の内径が前記内側コイルばねの2段目の外径よりも小さくなるように設定したことを特徴とする。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9の記載を前提として、前記外側コイルばねの座巻部の外周側に、前記基板から突き出した凸部を形成したことを特徴とする。
【0016】
請求項11の発明は、請求項1の記載を前提として、前記コイルばねを外側コイルばねとし、この外側コイルばねの内周側に内側コイルばねを配置し、当該内側コイルばねの座巻部を拡径させて前記固定壁又は支持壁としたことを特徴とする。
【0017】
請求項12の発明は、請求項11の記載を前提として、前記外側コイルばねの座巻部も拡径させて、前記内側コイルばねの座巻部の外径が前記外側コイルばねの2段目の内径よりも大きくなるように設定したことを特徴とする。
【0018】
上述した構成の請求項1の発明によれば、内側壁と外側壁とで、コイルばねの座巻部に対する軸方向の抜け防止と径方向の移動阻止を簡単に実現でき、コイルばねを基板へ強固に固定することができる。
【0019】
さらに、上述した構成の請求項2の発明によれば、コイルばねの特殊加工や部品の追加が必要ないため加工・製作が容易であり、基板から延出させた内側壁と外側壁とで、コイルばねの座巻部に対する軸方向の抜け防止と径方向の移動阻止を実現できる。
【0020】
請求項3の発明によれば、半抜き加工によって形成された支持壁を構成する内側壁又は外側壁が、基板を補強するリブとしても機能するため、基板の強度を向上させることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね等、コイルばねの配設箇所に潤滑オイルが供給される用途に適用される場合において、基板を切り起こして支持壁を形成したとき基板に開いた切欠孔が、油抜き孔として機能するため、潤滑オイルの流動性を向上させることができる。また、用途によっては水抜き孔として機能することもある。
【0022】
請求項5の発明によれば、カシメ固定後にも支持壁を構成する外側壁又は内側壁とコイルばねの座巻部との間に隙間を形成してあるので、コイルばねの2段目に支持壁が緩衝しにくくなり、支持壁の存在によりコイルばねの特性が変動するおそれが少ない。また、隙間を形成したとしても、カシメ後の支持壁先端とばね固定壁先端との間隔は、コイルばねを構成する線材の直径よりも小さいので、ばね固定壁からのコイルばねの抜けを確実に防止できる。
【0023】
一方、請求項6の発明によれば、支持壁を構成する外側壁又は内側壁をコイルばねの座巻部に当接させることで、コイルばねの座巻部をがたつきなく強固に支持することができる。
特に、請求項7の方法をもって請求項5のばね組立体を製造すれば、カシメ固定の動作過程にあるコイルばねの座巻部を支持壁が支えて径方向への逃げを規制するので、カシメ固定の均一化と強度向上を図ることができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、内側コイルばねの外周を囲むように外側コイルばねを配置した構成において、外側コイルばねの座巻部を縮径させるだけで、当該座巻部によって簡単に固定壁を形成し、内側コイルばねの抜け防止を図ることができる。あるいは、当該座巻部によって簡単に支持壁を形成し、内側コイルばねの径方向への移動阻止を実現できる。
【0025】
請求項9の発明によれば、内側コイルばねの2段目によって、外側コイルばねの軸方向への抜けを阻止することができる。
【0026】
請求項10の発明によれば、基板から突き出した凸部が外側コイルばねの移動を阻止して構造物としての剛性を高めることができ、外側コイルばねを座屈しにくくなる。
【0027】
請求項11の発明によれば、外側コイルばねの内周側に内側コイルばねを配置した構成において、内側コイルばねの座巻部を拡径させるだけで、当該座巻部によって簡単に固定壁を形成し、外側コイルばねの抜け防止を図ることができる。あるいは、当該座巻部によって簡単に支持壁を形成し、外側コイルばねの径方向への移動阻止を実現できる。
【0028】
請求項12の発明によれば、外側コイルばねの2段目によって、内側コイルばねの軸方向への抜けを阻止することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、加工・製作が容易であり、内側壁と外側壁とで、コイルばねの座巻部に対する軸方向の抜け防止と径方向の移動阻止を実現でき、基板に対してコイルばねを強固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るばね組立体を、自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね構造に適用したときの外観を示す分解斜視図である。
【図2】ばね組立体における基板に対するコイルばねの一般的なカシメ固定手段を示す要部断面正面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るばね組立体における基板に対するコイルばねのカシメ固定手段を示す要部断面正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るばね組立体における基板に対するコイルばねの他のカシメ固定手段を示す要部断面正面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るばね組立体の構成を示しており、(a)(c)はそれぞれ別の構成例を示す断面正面図、(b)は(a)の要部拡大断面図、(d)は(c)の要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るばね組立体の変形例を示す正面断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るばね組立体の他の変形例を示す正面断面図である。
【図8】(a)は本発明の第3実施形態に係るばね組立体を示す正面断面図であり、(b)はその変形例を示す正面断面図である。
【図9】(a)(b)はそれぞれ基板に固定されていないコイルばねの軸方向への抜けを阻止する構成例を示す正面断面図である。
【図10】(a)(b)はそれぞれ基板に固定されていないコイルばねの軸方向への抜けを阻止する他の構成例を示す正面断面図である。
【図11】(a)は、図9(b)のばね組立体の自由端部を相手部品に当接させた状態を示す正面断面図であり、(b)は、図10(b)のばね組立体の自由端部を相手部品1’に当接させた状態を示す正面断面図である。
【図12】コイルばねの座巻部を基板に固定するための他の構成例を示す図である。
【図13】コイルばねの座巻部を基板に固定するための更に別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るばね組立体を、自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね構造に適用した実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明に係るばね組立体の用途がこれに限定されるものではないことは勿論である。
【0032】
図1は、本発明に係るばね組立体を、自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね構造に適用したときの外観を示す分解斜視図である。
自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね構造に適用されるばね組立体は、円環状をした一対の基板1と、複数本のコイルばね2とを部品として、各コイルばね2の両端にある座巻部2aが各基板1に一定の間隔を保って固定された構造となっている。本実施形態では、コイルばね2の座巻部2aを、基板1にカシメ固定している。なお、基板1は、複数に分割された基板片を円環状に連結して構成されることもある。
【0033】
図2は、ばね組立体における基板に対するコイルばねの一般的なカシメ固定手段を示す要部断面正面図である。
一般には、基板1の表面に円筒壁11を延出して形成し、この円筒壁11に嵌め合わせるようにしてコイルばね2の座巻部2aを基板1上に配置した後(図2(a))、円筒壁11の先端開口縁を押し広げることで、当該座巻部2aをカシメ固定している(同図(b)。
このように基板1にカシメ固定されたコイルばね2に軸方向の引張力が作用すると、同図(c)に示すごとく、座巻部2aが径方向に拡開して円筒壁11の先端開口縁を乗り越え、外れてしまうおそれがあった。
【0034】
〔第1実施形態〕
図3は、本発明の第1実施形態に係るばね組立体における基板に対するコイルばねのカシメ固定手段を示す要部断面正面図である。
本実施形態のばね組立体は、次のように構成して座巻部2aの外れを防止している。
すなわち、基板1の表面には、コイルばね2の内周に沿って延出する内側壁11と、コイルばね2の外周に沿って延出する外側壁12とが形成してある。このうち、内側壁11は、コイルばね2の座巻部2aに対し軸方向への抜けを阻止するばね固定壁11を構成し、外側壁12は、コイルばね2の座巻部2aに対し径方向の移動を阻止する支持壁12を構成する。
【0035】
ばね固定壁11は、基板1の表面からほぼ垂直に延出する円筒壁11となっている。このばね固定壁11は、例えばバーリング加工をもって形成することができる。また、支持壁12は、基板1の半抜き加工によって形成されている。半抜き加工によって支持壁12を成形することで、基板1に切欠きが形成されず強度低下を回避することができる。さらに、半抜き加工によって突き出した支持壁12は、基板1を補強するリブとしても機能するため、基板1の強度を向上させることができる。
【0036】
基板1へのコイルばね2の固定は、次の手順で行われる。すなわち、円筒壁11に嵌め合わせるようにしてコイルばね2の座巻部2aを基板1上に配置する(図3(a))。このとき、座巻部2aの外周に沿って、支持壁12が形成されている。この状態で、円筒壁11の先端開口縁を拡径してコイルばね2の座巻部2aをカシメ固定する(同図(b))。このとき、コイルばね2の座巻部2aと支持壁12との間は、隙間Dを形成してもよく(同図(c))、また当接させてもよい(同図(d))。
【0037】
図3(c)に示すように、コイルばね2の座巻部2aと支持壁12との間に隙間Dを形成した場合は、コイルばね2の2段目に支持壁12が緩衝しにくくなり、支持壁12の存在によりコイルばね2の特性が変動するおそれが少ない。ここで、ばね固定壁11の基板1からの延出量Hは、コイルばね2を構成する線材の半径Rよりも大きく設定し(H>R)、さらに、カシメ固定された後のばね固定壁11の先端と支持壁12の先端との間隔Lは、上記線材の直径2Rよりも小さくなるように調整することが好ましい(L<2R)。このように構成することで、隙間Dを形成したとしても、コイルばね2のばね固定壁11からの抜けを確実に防止できる。
【0038】
一方、図3(d)に示すように、コイルばね2の座巻部2aと支持壁12との間を当接させる場合は、カシメ固定の開始前には、座巻部2aと支持壁12との間に隙間を形成しておき、カシメ固定する過程でコイルばね2の座巻部2aが押し拡げられて支持壁12に当接するよう調整することが好ましい。このようにすれば、カシメ固定の動作過程にあるコイルばね2の座巻部2aを支持壁12が支えて径方向への逃げを規制するので、カシメ固定の均一化と強度向上を図ることができる。しかも、コイルばね2の座巻部2aに支持壁12が当接することで、座巻部2aをがたつきなく強固に支持することができる。
【0039】
また、支持壁12は、図4に示すように基板1を切り起こして形成することもできる。基板1を切り起こして支持壁12を形成すると、基板1に切欠孔12aが開く。この切欠孔12aは、油抜きや水抜きの孔として利用することができる。既述したように、例えば、自動車の自動変速機のクラッチ機構における多板クラッチピストンの戻しばね等に本実施形態のばね組立体を適用した場合、コイルばね2の配設箇所に供給される潤滑オイルを切欠孔12aから排出して潤滑オイルの流動性を向上させることができる。
なお、図4(a)は円筒壁11の先端開口縁を拡径する前の状態、同図(b)は同先端開口縁を拡径してコイルばね2の座巻部2aをカシメ固定した後の状態を示している。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、基板に形成した外側壁と内側壁の機能を逆にして、外側壁をばね固定壁とし、内側壁を支持壁とすることもできる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。
本実施形態では、複数のコイルばねを同軸状に配置して基板に対するばね力を増強した構成のばね組立体に、本発明を適用した構成例を示す。
図5は、本発明の第2実施形態に係るばね組立体の構成を示しており、(a)(c)はそれぞれ別の構成例を示す断面正面図、(b)は(a)の要部拡大断面図、(d)は(c)の要部拡大断面図である。
【0042】
図5(a)に示すように、基板1上に内側コイルばね2と外側コイルばね20とが同軸状に配置してある。内側コイルばね2の外周を囲むように配置した外側コイルばね20は、座巻部20aを縮径させてあり、この座巻部20aが内側コイルばね2に対して支持壁として機能している。すなわち、外側コイルばね20の座巻部20aを縮径させることで、当該座巻部20aが内側コイルばね2の座巻部2aに対して、外側から近接又は当接する位置へ配置される。これにより内側コイルばね2の座巻部2aが径方向へ移動しようとしても、外側コイルばね20の座巻部20aによって阻止される。
なお、内側コイルばね2の内周側には、既述した第1実施形態と同様に、円筒壁11(ばね固定壁)が基板1から延出して形成してある。
【0043】
また、図5(b)に示すように、外側コイルばね20を構成する線材の半径R1が、内側コイルばね2を構成する線材の半径R2よりも大きい場合は(R1>R2)、内側コイルばね2の座巻部2aが軸方向へ抜けようとすると、外側コイルばね20の座巻部20aに当接して当該抜けが阻止される。すなわち、外側コイルばね20をばね固定壁として機能させることもできる。その場合は、内側コイルばね2の内周側に延出する基板1の円筒壁11をカシメ加工する必要はなくなる。円筒壁11は、内側コイルばね2の径方向の移動を阻止する支持壁として機能させればよい。
【0044】
図5(c)に示すように、内側コイルばね2の座巻部2aを縮径させるとともに、当該座巻部2aに対して、外側コイルばね20の座巻部20aを縮径させて外側から近接又は当接させる。ここで、外側コイルばね20の座巻部20aの内径R3が、内側コイルばね2の2段目2cの外径R4よりも小さくなるように調整しておく(R3<R4)。このように構成すれば、内側コイルばね2の2段目2cにより外側コイルばね20の軸方向の抜けを阻止することができる(図5(d)参照)。
【0045】
図1に示したように、コイルばね2の両端に基板1が配置される構成のばね組立体では、図5に示した外側コイルばね20が軸方向へ抜けてしまうおそれは少ないが、図5(c)に示すように、内側コイルばね2の一端のみに基板1が装着され、他端は開口されているばね組立体では、当該内側コイルばね2の外周に配置しただけの外側コイルばね20は簡単に抜けてしまう。したがって、工場出荷時等において、外側コイルばね20の軸方向への抜け防止策を講じる必要がある。
そこで、上述した構成とすれば、抜け防止用の別部品を必要とせず、外側コイルばね20の軸方向への抜けを防止することが可能となる。
【0046】
図6に示すばね組立体では、外側コイルばね20における座巻部20aの外周側に、基板1から突き出した凸部30が形成してある。この凸部30は外側コイルばね20の剛性を高める効果がある。すなわち、基板1に軸と垂直な方向(横方向)の外力が作用すると、外側コイルばね20は基板1の表面をすべって変形しようとする。このとき、外側コイルばね20の座巻部20aの外周側に凸部30が形成してあれば、座巻部20aのすべりが凸部30によって阻止され、変形が抑制される。その結果、外力に対する抵抗力が高まり、外側コイルばね20が座屈しにくくなる。
凸部30の形状や形成方法は任意であり、図6に示したような押出し成形に限らず、基板の半抜き、切り起こし、あるいは別部品の接着など、種々の方法で形成することができる。
【0047】
図7に示すばね組立体では、外側コイルばね20の座巻部を20a、20bの二巻きで形成してある。これらの座巻部20a、20bは、内側コイルばね2に対して支持壁として機能している。すなわち、外側コイルばね20の座巻部20aを縮径させることで、当該座巻部20aが内側コイルばね2の座巻部2aに対して、外側から近接又は当接する位置へ配置される。さらに、外側コイルばね20の座巻部20bを座巻部20aの外側に配置することで、これら座巻部20a、20bによって内側コイルばね2の座巻部2aをいっそう強固に支持し、座巻部2aの径方向への移動を阻止することができる。
なお、図5(b)に示したように、外側コイルばね20を構成する線材の半径R1を、内側コイルばね2を構成する線材の半径R2よりも大きくして(R1>R2)、外側コイルばね20の座巻部20bを、内側コイルばね2の座巻部2aの軸方向への抜けを阻止するばね固定壁として機能させることもできる。
その場合は、内側コイルばね2の内周側に延出する基板1の円筒壁11をカシメ加工する必要はなくなる。円筒壁11は、内側コイルばね2の径方向の移動を阻止する支持壁として機能させればよい。
【0048】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について詳細に説明する。
本実施形態も第2実施形態と同じく、複数のコイルばねを同軸状に配置して基板に対するばね力を増強した構成のばね組立体に、本発明を適用した構成例を示す。
図8(a)(b)は、それぞれ本発明の第3実施形態に係るばね組立体の構成を示す正面断面図である。
【0049】
図8(a)に示すように、基板1上に内側コイルばね2と外側コイルばね20とが同軸状に配置してある。外側コイルばね20の内周側に配置した内側コイルばね2は、座巻部2aを拡径させてあり、この座巻部2aが外側コイルばね20に対して支持壁として機能している。すなわち、内側コイルばね2の座巻部2aを拡径させることで、当該座巻部2aが外側コイルばね20の座巻部20aに対して、内側から近接又は当接する位置へ配置される。これにより外側コイルばね20の座巻部20aが径方向へ移動しようとしても、内側コイルばね2の座巻部2aによって阻止される。
なお、本実施形態では、基板1の外側壁12がばね固定壁として機能しており、外側コイルばね20における座巻部20aを外周側から係止して、軸方向への抜けを阻止している。
【0050】
また、図では外側コイルばね20の方が内側コイルばね2よりも直径が大きくなっているが、当該内側コイルばね2を構成する線材の半径を、外側コイルばね20を構成する線材の半径よりも大きくすれば、外側コイルばね20の座巻部20aが軸方向へ抜けようとすると、内側コイルばね2の座巻部2aに当接して当該抜けを阻止することができる。すなわち、内側コイルばね2の座巻部2aをばね固定壁として機能させることもできる。その場合は、外側コイルばね20の外周側に延出する基板1の外側壁12をカシメ加工する必要はなくなる。外側壁12は、外側コイルばね20の径方向の移動を阻止する支持壁として機能させればよい。
【0051】
また、図8(a)に示すように、拡径した内側コイルばね2の座巻部2aの外径が、外側コイルばね20の2段目20cの内径よりも大きくなるように調整しておけば、外側コイルばね20の2巻目20cにより、内側コイルばね2の軸方向への抜けを阻止することができる。
すなわち、図8(a)に示すように、外側コイルばね20の一端のみに基板1が装着され、他端は開口されているばね組立体では、当該外側コイルばね20の内周側に配置しただけの内側コイルばね2は簡単に抜けてしまう。したがって、工場出荷時等において、内側コイルばね2の軸方向への抜け防止策を講じる必要がある。
そこで、上述した構成とすれば、抜け防止用の別部品を必要とせず、内側コイルばね2の軸方向への抜けを防止することが可能となる。
【0052】
図8(b)に示すばね組立体では、内側コイルばね2の座巻部を2a、2bの二巻きで形成してある。これらの座巻部2a、2bは、外側コイルばね20に対して支持壁として機能している。すなわち、内側コイルばね2の座巻部2aを拡径させることで、当該座巻部2aが外側コイルばね20の座巻部20aに対して、内側から近接又は当接する位置へ配置される。さらに、内側コイルばね2の座巻部2bを座巻部2aの外側に配置することで、これら座巻部2a、2bによって外側コイルばね20の座巻部20aをいっそう強固に支持し、座巻部20aの径方向への移動を阻止することができる。
〔他の構成例〕
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない範囲で種々変形実施又は応用実施が可能なことは勿論である。
例えば、図5及び図6に示した第2実施形態の構成は、2本以上の外側コイルばねを、内側コイルばね2の周囲に同軸状に配置した構成とすることもできる。この場合、内側コイルばね2の座巻部2aを縮径されるとともに、各外側コイルばねの座巻部もそれぞれ縮径させて、内側に位置するコイルばねの2段目と干渉するように構成すれば、すべての外側コイルばねについて軸方向の抜けを阻止することが可能となる。
【0053】
また、本発明の技術的範囲からは逸脱するものの、複数のコイルばねを同軸状に配置して基板に対するばね力を増強した構成のばね組立体において、基板に固定されていないコイルばねの軸方向への抜けを阻止するために、座巻部が基板に固定されているコイルばねの自由端部(座巻部と反対側の端部)を拡径又は縮径するとともに、基板に固定されていないコイルばねの座巻部を逆に縮径又は拡径することで、座巻部が基板に固定されているコイルばねの自由端部に、基板に固定されていないコイルばねの座巻部が干渉する構成とすることもできる。
【0054】
例えば、図9(a)に示すように、内側コイルばね2の一端のみが基板1に固定され、他端は開口されているばね組立体では、当該内側コイルばね2の外周側に配置しただけの外側コイルばね20は簡単に抜けてしまう。したがって、工場出荷時等において、外側コイルばね20の軸方向への抜け防止策を講じる必要がある。
そこで、外側コイルばね20の座巻部20aを縮径するとともに、内側コイルばね2の自由端部2dを拡径して、図示矢印で示すように外側コイルばね20が軸方向へ抜けようとしたとき、内側コイルばね2の自由端部2dに外側コイルばね20の座巻部20aが干渉するように構成しておく。これにより、抜け防止用の別部品を必要とせず、外側コイルばね20の軸方向への抜けを防止することが可能となる。
【0055】
図9(b)に示す構成では、内側コイルばね2の自由端部を2d、2eの二巻きで形成し、外側コイルばね20の自由端部20dに近接又は接触するように配置してある。このように構成すれば、基板1に固定されていない外側コイルばね20の中間巻部が径方向に移動して、内側コイルばね2の中間巻部と接触したり、絡み合ったりしてばね特性が変動してしまう不都合を回避することが可能となる。
【0056】
また、図10(a)に示すように、外側コイルばね20の一端のみが基板1に固定され、他端は開口されているばね組立体では、当該外側コイルばね20の内周側に配置しただけの内側コイルばね2は簡単に抜けてしまう。したがって、工場出荷時等において、内側コイルばね2の軸方向への抜け防止策を講じる必要がある。
そこでこの場合には、内側コイルばね2の座巻部2aを拡径するとともに、外側コイルばね20の自由端部20dを縮径して、図示矢印で示すように内側コイルばね2が軸方向へ抜けようとしたとき、外側コイルばね20の自由端部20dに内側コイルばね2の座巻部2aが干渉するように構成しておく。これにより、抜け防止用の別部品を必要とせず、内側コイルばね2の軸方向への抜けを防止することが可能となる。
【0057】
図10(b)に示す構成では、外側コイルばね20の自由端部を20d、20eの二巻きで形成し、内側コイルばね2の自由端部2dに近接又は接触するように配置してある。このように構成すれば、基板1に固定されていない内側コイルばね2の中間巻部が径方向に移動して、外側コイルばね20の中間巻部と接触したり、絡み合ったりしてばね特性が変動してしまう不都合を回避することが可能となる。
【0058】
図11(a)は、図9(b)のばね組立体の自由端部を相手部品に当接させた状態を示しており、図11(b)は、図10(b)のばね組立体の自由端部を相手部品1’に当接させた状態を示している。なお、図11(a)の構成では、内側コイルばね2に加え、外側コイルばね20の自由端部(20d,20e)も二巻きとしてあり、図11(b)の構成では、外側コイルばね20に加え、内側コイルばね2の自由端部(2d,2e)も二巻きとしてある。
このように二巻きとした自由端部が相手部品1’に当接することで、安定したばね力を相手部品1’に伝達することができる。
【0059】
また、本発明の技術的範囲からは逸脱するものの、コイルばねの座巻部を基板に強固に固定する構成として、次のような構成も有効である。
図7及び図8は、コイルばねの座巻部を基板に固定するための各種構成例を示している。 図7に示す構成は、基板1からばね固定軸100を突き出して配置し、当該ばね固定軸100に基板表面に向かって径方向に拡がる外形を有する保持突起101を設けてある。この保持突起101は、同図(a)に示すように、丸棒状のばね固定軸100の周面に一本のみ傘状に形成し、コイルばね2の座巻部2aを係止する構成の他、同図(b)に示すように螺旋状に形成して、コイルばね2の複数巻部を係止する構成とすることもできる。また、同図(c)や同図(d)に示すように、板状のばね固定軸200に保持突起201を形成してもよい。
さらに、同図(e)に示すように、コイルばね2を囲むように円筒状のばね固定軸300を配置し、当該ばね固定軸300の内周面から内側へ保持突起301を突き出し、コイルばね2に係止する構成とすることもできる。
【0060】
また、図8(a)に示す構成は、ばね固定軸100をコイルばね2の内周に摩擦接触させる構成となっている。そして、コイルばね2をばね固定軸100の基端方向へねじ込むときはコイルばね2が拡径するように設定しておけば、逆にコイルばね2がばね固定軸100の先端方向へ螺旋移動するように回転したときは、縮径してばね固定軸100に圧接し、ばね固定軸100とコイルばね2との間の摩擦力(保持力)が増大して、コイルばね2が抜けにくくなる。
【0061】
なお、ばね固定軸100の基端部にコイルばね2の掛止部を設け、コイルばね2の端部が引掛かる構成とすることが好ましい。例えば、図8(b)(c)に示すように、ばね固定軸100の基端部をDカットやIカット形状の断面として平坦な掛止部100aを形成し、コイルばね2の端部に形成した引掛部2fをこの掛止部100aに掛止する構成とする。また、ばね固定軸100を板状とすれば、その平坦面によって掛止部100aが構成される。
【0062】
ここで、ばね固定軸100の材料は限定されないものの、ばね固定軸100を合成樹脂で製作すれば、高温の使用環境でばね固定軸100が膨張したり、潤滑油等の付着で吸湿、膨潤が生じ、コイルばね2とのラップ代が増えて更に保持力が増加することが期待できる。
【符号の説明】
【0063】
1:基板、2:コイルばね(内側コイルばね)、2a,2b:座巻部、2c:2段目、2d,2e:自由端部、2f:引掛部、
11:内側壁(円筒壁)、
12:外側壁、12a:切欠孔、
20:外側コイルばね、20a,20b:座巻部、20c:2段目、20d,20e:自由端部、30:凸部、
D:隙間
100、200、300:ばね固定軸、100a:掛止部、101、201、301:保持突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にコイルばねの座巻部が固定されたばね組立体であって、
前記コイルばねの内周側に設けた内側壁と、前記コイルばねの外周側に設けた外側壁とを備え、
前記内側壁と外側壁のいずれか一方は、前記コイルばねの座巻部に対し軸方向への抜けを阻止する形状に加工されたばね固定壁を構成しており、他方は前記コイルばねの座巻部に対し径方向の移動を阻止する支持壁を構成していることを特徴とするばね組立体。
【請求項2】
前記内側壁は、前記基板から前記コイルばねの内周に沿って延出しており、
前記外側壁は、前記基板から前記コイルばねの外周に沿って延出していることを特徴とする請求項1のばね組立体。
【請求項3】
前記支持壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板の半抜き加工によって形成されていることを特徴とする請求項2のばね組立体。
【請求項4】
前記支持壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板を切り起こして形成されていることを特徴とする請求項2のばね組立体。
【請求項5】
前記ばね固定壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板から延出する円筒壁であって、当該円筒壁の先端開口縁が拡径又は縮径されて前記コイルばねの座巻部をカシメ固定しており、前記固定壁の基板からの延出量は前記コイルばねを構成する線材の半径よりも大きく設定するとともに、前記カシメ固定された後の前記ばね固定壁先端と前記支持壁先端との間隔は前記線材の直径よりも小さくなるように調整し、且つ前記支持壁を構成する外側壁又は内側壁と前記コイルばねの座巻部との間に隙間を形成してあることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載したばね組立体。
【請求項6】
前記ばね固定壁を構成する内側壁又は外側壁は、前記基板から延出する円筒壁であって、当該円筒壁の先端開口縁が拡径又は縮径されて前記コイルばねの座巻部をカシメ固定しており、且つ前記支持壁を構成する外側壁又は内側壁は、前記コイルばねの座巻部に当接していることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載したばね組立体。
【請求項7】
請求項6に記載したばね組立体の製造方法であって、
前記ばね固定壁を構成する円筒壁に沿って同軸状に前記コイルばねの座巻部を配置した状態において、前記円筒壁の先端開口縁を拡径又は縮径して前記コイルばねの座巻部をカシメ固定する過程で、前記支持壁を構成する外側壁又は内側壁に前記座巻部を当接させることを特徴とするばね組立体の製造方法。
【請求項8】
前記コイルばねを内側コイルばねとし、この内側コイルばねの外周を囲むように外側コイルばねを配置し、当該外側コイルばねの座巻部を縮径させて前記固定壁又は支持壁としたことを特徴とする請求項1のばね組立体。
【請求項9】
前記内側コイルばねの座巻部も縮径させて、前記外側コイルばねの座巻部の内径が前記内側コイルばねの2段目の外径よりも小さくなるように設定したことを特徴とする請求項8のばね組立体。
【請求項10】
前記外側コイルばねの座巻部の外周側に、前記基板から突き出した凸部を形成したことを特徴とする請求項9のばね組立体。
【請求項11】
前記コイルばねを外側コイルばねとし、この外側コイルばねの内周側に内側コイルばねを配置し、当該内側コイルばねの座巻部を拡径させて前記固定壁又は支持壁としたことを特徴とする請求項1のばね組立体。
【請求項12】
前記外側コイルばねの座巻部も拡径させて、前記内側コイルばねの座巻部の外径が前記外側コイルばねの2段目の内径よりも大きくなるように設定したことを特徴とする請求項11のばね組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−137536(P2011−137536A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117137(P2010−117137)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】