説明

ばね

【課題】低周波数帯域でも、対象物の振幅を小さくすることができるばねを提供する。
【解決手段】ばね1には、弾性特性を有するとともに液体103が満たされている閉空間16が形成され、閉空間16には、その内外部を連通して液体103を通過可能とする孔部15が形成されている。基台102Aから振動が伝達された場合、孔部15の形態を適宜設計することにより、孔部内の液体に共鳴周波数fでヘルムホルツ共鳴を発生させることができる。ヘルムホルツ共鳴は、対象物101とばね1からなる主振動系である振動系に対する動吸振器(ダイナミックダンパ)として機能することができるので、孔部15の形状や、流路方向長さ、個数等を設計して孔部の面積や流路長さを適宜設定して、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fを所定値に設定すると、着目する共振周波数での対象物101の振幅を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動伝達を抑制するばねに係り、特に液体中で使用されるばねの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業や、精密機器産業、家電等の各種分野では、振動伝達の抑制技術が要求されており、それら分野では、振動伝達抑制技術が適用される対象物が、液体中に設置されている形態が利用されている。対象物(マス)と支持部(ばね)から構成される系において、振動伝達の抑制技術としては以下の2つの手法がある。
【0003】
第1の手法では、ばねとして減衰の大きな材料を用いることにより、系の一次の共振時の振幅を小さくしている。しかしながら、図8(A)に示すように、減衰の大きな材料を用いた場合(実線)には、減衰の小さな材料を用いた場合(破線)と比較して、低周波数帯域では対象物の振幅を小さくすることができるが、高周波数帯域では対象物の振幅を小さくすることができない。
【0004】
そこで、系の共振周波数を小さく設定する第2の手法を用いることが考えられる。第2の手法では、系の共振周波数を小さく設定することにより、カットオフ周波数を小さくしている(すなわち、振幅が小さくなる周波数帯域を広くしている)。第2の手法は、特に高周波帯域での対象物の振幅を小さくすることを目的として採用され、系の共振周波数を小さくするために、対象物の質量を変更せずに、動的ばね定数を小さくしている。しかしながら、線形特性を有するばねを用いた場合、対象物の質量が大きいとき、撓み量が大きくなるため、ばねの大型化が必要となる。
【0005】
そこで、非線形特性を示す皿ばねを用いることが考えられる(たとえば特許文献1)。皿ばねでは、図9の荷重特性に示すように、高荷重を支えることができるとともにばね定数を小さく設定することができる略平坦領域Aを設定することができる。これにより、ばねの設置箇所の省スペース化および高発生荷重の実現を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−112533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、皿ばねでは、対象物に対する摺動による摩擦が生じ、荷重特性でヒステリシスが発生する。このため、皿ばねの使用範囲を図9の領域Aの範囲に設定した場合、実際の荷重曲線には、図10(A)に示すヒステリシスが生じる。その結果、皿ばねの使用範囲での実質的な動的ばね定数は、図10(A)の点Pと点Qを結ぶ対角線lの傾きとなる。この場合、使用範囲の振幅を小さくしたとき、図10(B)に示すように、対角線lの傾きが大きくなるため、動的ばね定数が大きくなってしまう。
【0008】
その結果、皿ばねでは、高周波帯域での対象物の振幅を小さくすることが困難であった。このような皿ばねの問題を解決するために本出願人は、皿ばねの形状と略同様な形状をなす本体部の開口部端部に突出部を設けたばねを提案している(たとえば特願2008−125398号)。
【0009】
ところが、第2の手法では、系の共振周波数を小さく設定しているだけであって、この場合(実線)には、低周波数帯域での対象物の振幅は、系の共振周波数が大きな場合(破線)と同様、大きい。このように第2の手法では、手法自体の限界から、低周波数帯域での対象物の振幅の制御を行うことができない。
【0010】
したがって、本発明は、低周波数帯域でも、対象物の振幅を小さくすることができるばねを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
対象物が液体中に存在する場合、一般的に液体の振動を抑制することが行われているが、本発明者は、対象物の振幅の制御について鋭意検討を重ねた結果、対象物を液体中で支持するばねにおいて、液体の振動を積極的に利用して対象物とばねからなる主振動系に対する動吸振器(ダイナミックダンパ)として機能させることに着眼し、液体の一部にヘルムホルツ共鳴を生じさせることにより、上記機能を実現することができるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のばねは、対象物を液体中で支持するばねであって、弾性特性を有するとともに、前記液体が満たされている閉空間と、前記閉空間に形成されるとともに、閉空間の内部と外部とを連通して液体を通過可能とする孔部とを備え、液体の比熱比をγ、閉空間の液体の圧力をP、孔部の面積をS、液体の密度をρ、孔部の流路長さをL、閉空間の体積をVと定義すると、数1の式(1)で表される共鳴周波数fでヘルムホルツ共鳴を孔部内の液体に発生させ、前記ヘルムホルツ共鳴を利用することにより、前記対象物の振幅を制御することを特徴としている。なお、本発明のばねでは、上記閉空間が、ばね自体により形成されている形態はもちろんのこと、その形態に加えて、上記閉空間が、たとえばばねが設置される振動源や対象物とばねにより形成される形態も含む。孔部が複数形成されている場合、孔部の面積Sは、全ての孔部の面積の合計である。
【0013】
【数1】

【0014】
本発明のばねでは、弾性特性を有するとともに液体が満たされている閉空間には、その内部と外部とを連通して液体を通過可能とする孔部が形成されているので、振動源から振動が伝達された場合、孔部の形態を適宜設計することにより、孔部内の液体に数1の式(1)で表される共鳴周波数fでヘルムホルツ共鳴を発生させることができる。ここで、孔部内の液体によるヘルムホルツ共鳴は、対象物とばねからなる主振動系に対する動吸振器(ダイナミックダンパ)として機能することができるので、孔部の形状や、流路方向長さ、個数等を設計して面積Sや流路長さLを適宜設定して、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fを所定値に設定することにより、着目する共振周波数での対象物の振幅を制御することができる。このような振幅制御を用いることにより、低周波数帯域でも、対象物の振幅を小さくすることができる。
【0015】
本発明のばねは種々の構成を用いることができる。たとえば対象物の質量をM、ばねのばね定数をKと定義すると、対象物とばねからなる系の振動の共振周波数fは、数2の式(2)で表され、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fを、系の共振周波数fと一致させる態様を用いることができる。この態様では、共振周波数fでの対象物とばねからなる系の振幅のピークは、孔部内の液体によるヘルムホルツ共鳴の振幅のピークにより相殺されるので、共振周波数fでの対象物の振幅を小さくすることができる。
【0016】
【数2】

【0017】
本発明のばねは、種々の形態を採用することができる。たとえば上記閉空間は上記のように形成可能であればよく、上記閉空間の形状は、直方体形状や、円柱形状、円筒形状、上面と下面を有する略円錐形状等が挙げられる。
【0018】
本発明のばねの性能向上のためには次のような形態を採用することが好適である。すなわち、孔部を有する本体部と、本体部の内周部および外周部の少なくとも一方に設けられた突出部と、本体部と突出部との境界部に形成された角部とを備え、本体部は、対象物からの押圧力の方向に交差する方向に延在し、突出部は、本体部の周部から対象物の側あるいはそれとは反対側に向けて突出し、角部は、その角度が押圧力に応じて変化するように弾性変形可能である形態を用いることができる。
【0019】
上記態様では、皿ばねと同様、コンパクトな構成で高荷重を支えることができることができるのはもちろんのこと、皿ばねでは得られない次のような効果を得ることができる。すなわち、荷重印加時に角部が弾性変形することができるので、突出部における角部と相手部材との間の距離を適宜設定することにより、荷重印加時に筒状部の相手部材近傍の部位の変形を防止することができる。したがって、突出部の相手部材に対する摺動を防止することができるので、筒状部と相手部材との間に摩擦が発生しなく、これによりばねの荷重特性にヒステリシスが発生しない。その結果、動的ばね定数を小さくすることができるので、高周波帯域での対象物の振幅を効果的に小さくすることができる。
【0020】
上記態様のばねでは、孔部が、本体部の中央部に形成されている形態を用いることができる。この態様では、ばねの荷重特性への影響を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のばねによれば、孔部内の液体によるヘルムホルツ共鳴を、対象物とばねからなる主振動系に対する動吸振器として利用することにより、対象物の振幅を制御することができるので、低周波数帯域でも、対象物の振幅を小さくすることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るばねが対象物に適用された系の形態を表す側断面図である。
【図2】図1に示すばねの構成を表し、(A)は斜視図、(B)は、ばねの右側部分の側断面図である。
【図3】図1に示すばねの右側部分の動作状態を表し、(A)は、ばねの動作前(点線)と動作時(実線)の側断面図であり、(B)は、ばねの動作時の第1角部および第2角部の拡大側断面図である。
【図4】(A)は、実施形態のばねの具体例の荷重特性を表すグラフ、(B)は(A)で用いたばねの具体例のサイズを説明するための側断面図である。
【図5】図1のばねの適用形態の部分拡大図である。
【図6】図1の対象物およびばねからなる系と、閉空間内および孔部内に存在する液体からなる系との振動モデルを表す概念図である。
【図7】図4(A)に示す荷重特性を示すばねを図1に示す形態に適用した実施例の周波数応答特性を表すグラフである。
【図8】対象物とばねからなる系の振動の周波数特性を表し、(A)は振幅の減衰の大きな材料を用いた場合、(B)は系の減衰の周波数特性を小さくした場合のグラフである。
【図9】皿ばねの荷重特性を表すグラフである。
【図10】ヒステリシスが生じる実際の皿ばねの荷重特性を表すグラフであり、(A)は使用範囲の振幅が所定の大きさの場合、(B)は使用範囲の振幅が(A)の場合よりも小さい場合のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)実施形態の構成
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るばね1が対象物101に適用された形態を表す側断面図である。ばね1は、容器102から対象物101への振動伝達を抑制する部材である。ばね1および対象物101は、容器102の液体103中に設置されている。容器102は基台102Aを備え、基台102Aは振動源である。
【0024】
ばね1上面側の開口部10Aは、対象物101の下面により閉塞され、ばね1下面側の開口部10Bは、容器102の基台102Aの上面により閉塞され、ばね1には閉空間16が形成されている。この場合、開口部10A,10Bを閉塞する部分が固定されていることが好適である。閉空間16の内部には液体103が満たされ、液体103は、ばね1の孔部15を通過可能となっている。
【0025】
なお、図1に示すばね1の適用形態は、一具体例であって、その具体例に限定されるものではなく、本発明範囲内で種々の変形が可能であることは言うまでもない。すなわち、対象物をばねが液体中で支持し、ばねに形成された閉空間内部に液体が満たされ、孔部を通じて閉空間の内外部を液体が通過可能となっている形態であればよい。この場合、少なくともばねが液体中に存在すればよい。
【0026】
図2は、ばね1の構成を表し、(A)はばね1の斜視図、(B)は、対象物101と基台102Aとの間に配置されたばね1の右側部分の側断面図である。
【0027】
ばね1は、たとえば、ばね鋼や強化材プラスチックからなる。ばね1は、たとえば中心部に開口部10Aが形成された本体部10を備えている。本体部10は、たとえば対象物101と基台102Aからの押圧力の方向に対して交差する方向に延在し、皿ばねとしての機能を有する。本体部10は、たとえば下方に向かうに従って傾斜する略円錐形状をなしている。これにより、ばね1は、その荷重特性が、皿ばねの特性と同様に、略平坦領域を有するように非線形となる。
【0028】
開口部10Aは、たとえば円形状をなしている。本体部10の内周部には、対象物101に向けて突出する第1突出部11(突出部)が設けられている。第1突出部11の上端部は、対象物101に当接する当接部である。本体部10の外周部には、基台102Aの上面に向けて突出する第2突出部12(突出部)が設けられている。第2突出部12の下端部は、基台102Aに当接する当接部である。突出部11,12は、たとえば円筒状をなす円筒部である。
【0029】
本体部10と第1突出部11との境界部には第1角部13が形成され、本体部10と第2突出部12との境界部には第2角部14が形成されている。第1角部13および第2角部14は、対象物101と基台102Aからの押圧力に応じて、その角度を変化させるように弾性変形可能である。
【0030】
第1角部13および第2角部14は、種々の手法により形成することができる。第1角部13および第2角部14は、たとえば第1角部13および第2角部14は、本体部10と第1突出部11の境界部および本体部10と第2突出部12の境界部を折り曲げて形成することができる。また、たとえば、本体部10と第1突出部11の溶接および本体部10と第2突出部12の溶接により形成することができる。
【0031】
本体部10には、ばね1の内外部を連通する孔部15が形成されている。図5は、図1のばねの適用形態の部分拡大図である。図5では、符号103Aは、閉空間16外部に存在する液体、符号103Bは、閉空間16内部に存在する液体、符号103Cは、孔部15内に存在する液体を示している。図1,5に示す形態でばね1が配置された場合、閉空間16内の液体103Bがばねとして機能し、そのばねの作用を受ける孔部15内の液体103C(黒塗部分)が錘として機能する。この場合、たとえば孔部15の形状や、長さ(ばね1の板厚)、個数を適宜設計することにより、孔部15内の液体103Cにヘルムホルツ共鳴を生じさせることができる。
【0032】
孔部15の形成位置は、ばね1への荷重印加時に発生する応力が小さな部位である本体部10の中央部であることが好適である。この態様では、下記のようなばね1の荷重特性への影響を小さくすることができる。
【0033】
荷重印加時における突出部11,12の機能について、おもに図3を参照して説明する。図3は、対象物101と容器102との間に設置された1個のばね1の動作状態を表し、(A)は、ばね1の動作前(点線)と動作時(実線)の断面図であり、(B)は、ばね1の動作時の第1角部13および第2角部14の拡大断面図である。なお、図3では、図2(B)と同様に、1個のばね1の右側部分のみを表しており、孔部15の図示は図示上の便宜のため省略している。
【0034】
図3(A)の点線で示すように、対象物101と基台102Aとの間に配置されたばね1に対して、対象物101から下側方向の荷重を加える。すると、図3(B)の実線で示すように、ばね1は撓んで対象物101が下方に移動する。図中の符号dは、ばね1の撓みの大きさを示している。
【0035】
本体部10は、対象物101からの押圧力の方向に対して交差する方向に延在し、ばね1の上側において、第1突出部11は、本体部10の内周部から対象物101に向けて突出してそこに当接している。そのような本体部10と第1突出部11の境界部に形成した第1角部13は、荷重印加時に対象物101からの押圧力に応じて角度αが変化するように弾性変形することができる。この場合、第1角部13は、上記のような位置関係にある本体部10と第1突出部11の境界部に形成された部位であるから、そのような第1角部13は、荷重印加時に角度αを変化させながら、本体部10の内周部の内側(図の左側)に移動することができる。
【0036】
このように荷重印加時に第1角部13は弾性変形することができるので、第1突出部11が荷重印加時に対象物101側の不変形部分(図3(B)中の点Sより上側)を有するように第1突出部11の長さを適宜設定することにより、第1突出部11の対象物101側部分の変形を防止することができる。
【0037】
一方、ばね1の下側において、第2突出部11は、本体部10の内周部から基台102Aに向けて突出してそこに当接している。この場合、第1角部13と同様な機能を有する第2角部14は、荷重印加による弾性変形時に、基台102Aからの押圧力に応じて、角度βを変化させながら、本体部10の外周部の外部側(図の右側)に移動することができる。
【0038】
このように荷重印加時に第2角部14は弾性変形することができるので、第2突出部12が荷重印加時に容器102の底面側の不変形部分(図3(B)中の点Tより下側)を有するように第2突出部12の長さを適宜設定することにより、第2突出部12の基台102A側部分の変形を防止することができる。
【0039】
以上のようにばね1は、突出部11,12に不変形部分を有するので、ばね1と相手部材101,102Aとの摺動を防止することができる。その結果、ばね1の荷重特性では、図4(A)に示すように、皿ばねで問題となっていたヒステリシスが発生しなく、これにより速度に依存しない非線形の荷重特性が得られる(すなわち、初期荷重が高く、動的ばね定数が小さくなる)。この場合、突出部11,12が相手部材101,102Aに固定されている場合、上記効果を効果的に得ることができる。なお、図4(A)は、ばね1の荷重特性の一具体例であって、そのばねでは、図4(B)に示すように、ばねの上側開口部の内径R1を4.5mm、下側開口部の外径R2を22mm、第1突出部の上端面から第2突出部12の下端面までの高さH1を2.8mm、第2突出部の高さH2を1.2mmとした。ばねの板厚は0.15mmとした。
【0040】
(2)実施形態の動作
図1に示す形態で配置されたばね1の動作について、おもに図5,6を参照して説明する。図6は、図1の対象物101およびばね1からなる系と、閉空間16内および孔部15内に存在する液体103B,103Cからなる系との振動モデルを表す概念図である。
【0041】
ばね1が対象物101を液体103中で支持する形態では、振動源である基台102Aが振動した場合、振動は、ばね1および液体103Bを通じて対象物101に伝達される。この場合、閉空間16の内外へ通過可能となっている孔部15内の液体103Cは運動する。
【0042】
ここで、対象物101(質量M)およびばね1(ばね定数K)からなる系を振動系X、液体103B,103Cからなる系を振動系Yとすると、上記形態は、基台102Aに接続された振動系Xに振動系Yが追加されたモデルとして表されると考えられる。振動系Yでは、閉空間16内の液体103Bがばね作用を示し、そのばね作用を受ける孔部15内の液体103Cが錘として機能する。この場合、孔部15の形態を適宜設計することにより、液体103Cの運動はヘルムホルツ共鳴となる。この場合、共鳴周波数fは数1の式(1)で表される。なお、液体103(103A〜103C)の比熱比はγ、閉空間16の圧力はP、孔部15の面積はS、液体103の密度はρ、孔部15での流路長さはL、閉空間16の体積はVである。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、孔部15内の液体103Cによるヘルムホルツ共鳴は、対象物101とばね1からなる主振動系に対する動吸振器(ダイナミックダンパ)として機能することができるので、孔部15の形状や、流路方向長さ、個数等を設計して面積Sや流路長さLを適宜設定して、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fを所定値に設定することにより、着目する共振周波数での対象物の振幅を制御することができる。
【0045】
このような対象物101の振幅制御について実施例を用いて説明する。図7は、図4(A)に示す荷重特性を示すばねを、図1に示す形態に適用した実施例の周波数応答特性を表すグラフである。実施例では、対象物とばねからなる振動系Xの共振周波数f(数2の式(2))での対象物の振幅を制御対象とした。
【0046】
【数2】

【0047】
実施例では、液体として水を用い、対象物の質量を60gとし、対象物の上面から加える荷重を17Nに設定し、孔部の形状を円形状とした。容器内に水を入れなかった態様、容器内に水を入れるとともに孔部の径を1.0mmとした態様、容器内に水を入れるとともに孔部の径を0.5mmとした態様について、対象物の周波数応答特性を得た。
【0048】
図7から判るように、容器内に水を入れなかった場合、点Qで示される周波数において、対象物の振幅のピークが観察された(Gain 30dB以上)。この場合、容器内に水を入れなかったことから、点Qで示される周波数(約130Hz)は、対象物とばねからなる振動系Xの共振周波数fと考えられる。共振周波数fは、式(2)から判るように、MとKで決定されるから、容器内に水を入れたときでも、一定である。
【0049】
容器内に水を入れた場合、周波数特性は、振動系Xの特性に振動系Yによる影響が加えられたものとなる。たとえば容器内に水を入れるとともに孔部の径を1.0mmとした場合、共振周波数f(約130Hz)での対象物の振幅は、容器内に水を入れなかった場合と比較して、小さくなった(Gain 20dB程度)。なお、点Pで示される周波数(約220Hz)において観察された振幅のピークは、孔部内の液体によるヘルムホルツ共鳴によるものであり、点Pで示される周波数(約220Hz)は、孔部の径を1.0mmとした場合での共鳴周波数fであると考えられる。このように共鳴周波数fでの振幅のピークが観察されたのは、共鳴周波数fと共振周波数fと大きく異なり、ヘルムホルツ共鳴による振幅が打ち消されなかったためであると考えられる。
【0050】
容器内に水を入れるとともに孔部の径を1.0mmよりも小さく設定すると、式(1)から判るように、孔部の面積Sが小さくなるので、共鳴周波数fは、共振周波数f(位置Q)に近づく(すなわち、共鳴周波数fはグラフの左側に移動する)と考えられる。実際、孔部の径を0.5mmに設定した場合、共振周波数fにおいて振幅のピークが観察されなかった(Gain 10dB以下)。この場合、共鳴周波数fが共振周波数f(約130Hz)と略一致したから、振動系Yの振幅のピークが振動系Xの振幅ピークと重なり、振動系Xの振幅のピークが打ち消されたためであると考えられる。
【0051】
以上のように本実施形態では、孔部15内の液体103Cによるヘルムホルツ共鳴は、対象物101とばね1からなる主振動系である振動系Xに対する動吸振器(ダイナミックダンパ)として機能することができるので、孔部15の形状や、流路方向長さ、個数等を設計して面積Sや流路長さLを適宜設定して、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fを所定値に設定することにより、着目する共振周波数での対象物101の振幅を制御することができる。このような振幅制御を用いることにより、低周波数帯域でも、対象物101の振幅を小さくすることができる。
【0052】
特に、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fを、振動系Xの共振周波数fと一致させているので、共振周波数fでの対象物とばねからなる振動系Xの振幅のピークを孔部15内の液体103Cによるヘルムホルツ共鳴の振幅のピークにより相殺することができるので、共振周波数fでの対象物101の振幅を小さくすることができる。
【0053】
また、図2に示す形態を有するばね1を用いることにより、皿ばねと同様、コンパクトな構成で高荷重を支えることができることができるのはもちろんのこと、動的ばね定数を小さくすることができるので、高周波帯域での対象物の振幅を効果的に小さくすることができる。
【0054】
(3)変形例
以上のように上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明範囲内で種々の変形が可能である。
【0055】
たとえば本体部10は、外周部から内周部に向かって下方に傾斜する円錐状、S字状や、階段状、平坦状をなすことができる。突出部は、筒状であればよく、その側断面形状は、曲線状でもよい。また、上記実施形態では、第1突出部11を対象物101に向けて突出させてそこに当接させ、かつ第2突出部12を基台102Aに当接させたが、第1突出部11を基台102A向けて突出させてそこに当接させ、第2突出部12を対象物101に向けて突出させてそこに当接させてもよい。
【0056】
さらに、第1突出部11および第2突出部12を本体部10の内周部および外周部に形成したが、第1突出部11および第2突出部12のいずれか一方のみに形成してもよい。 加えて、第1角部13および第2角部14の形状は、図示の形状に限定されるものではなく、曲面形状等の種々の形状に変更可能である。以上のような各種変形例は適宜組み合わせることができるのは言うまでもない。また、たとえば本発明のばねは、ばね1の形態に限定されるものではなく、閉空間が形成可能であるような形状を有するばねであればよい。この場合、閉空間の形状としては、たとえば直方体形状や、円柱形状、円筒形状、上面と下面を有する略円錐形状等が挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
1…ばね、10…本体部、10A,10B…開口部、11…第1突出部(突出部)、12…第2突出部(突出部)、13…第1角部(角部)、14…第2角部(角部)、15…孔部、16…閉空間、101…対象物、102…容器、102A…基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を液体中で支持するばねにおいて、
弾性特性を有するとともに、前記液体が満たされている閉空間と、
前記閉空間に形成されるとともに、前記閉空間の内部と外部とを連通して前記液体を通過可能とする孔部とを備え、
前記液体の比熱比をγ、前記閉空間の前記液体の圧力をP、前記孔部の面積をS、前記液体の密度をρ、前記孔部の流路長さをL、前記閉空間の体積をVと定義すると、
数1の式(1)で表される共鳴周波数fでヘルムホルツ共鳴を、前記孔部内の液体に発生させ、
前記ヘルムホルツ共鳴を利用することにより、前記対象物の振幅を制御することを特徴とするばね。
【数1】

【請求項2】
前記対象物の質量をM、前記ばねのばね定数をKと定義すると、
前記対象物と前記ばねからなる系の振動の共振周波数fは、数2の式(2)で表され、
前記ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fdを、前記系の共振周波数fと一致させていることを特徴とする請求項1または2に記載のばね。
【数2】

【請求項3】
孔部を有する本体部と、
前記本体部の内周部および外周部の少なくとも一方に設けられた突出部と、
前記本体部と前記突出部との境界部に形成された角部とを備え、
前記本体部は、前記対象物からの押圧力の方向に交差する方向に延在し、
前記突出部は、前記本体部の前記周部から前記対象物の側あるいはそれとは反対側に向けて突出し、
前記角部は、その角度が前記押圧力に応じて変化するように弾性変形可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のばね。
【請求項4】
前記孔部は、前記本体部の中央部に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−117555(P2011−117555A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276528(P2009−276528)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】