説明

ろう付け構造、それを用いた気密端子、およびろう付け方法

【課題】リフロー処理に耐える耐熱性と接合強度を保証する高温はんだ代替品で、有害性を排除した鉛フリーろう付け構造およびろう付け方法を提供する。
【解決手段】金属外環11にリード12をガラスで封着した気密端子のベース15は、リード12上のろう材13を介して水晶片21の回路素子20と接合し、金属外環11上のろう材14を介して回路素子20を収容するキャップ25と接合され、ろう材13、14がそれぞれ第1および第2金属の積層めっき層からなり、金属相互間の拡散によって接合強度を強力化し耐熱性を保証する鉛フリーろう付け構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二つの金属部材を電気機械的に接合する融接あるいはろう接構造、特に、ろう材に2種以上の金属の積層めっき層を使用するろう付け構造、それを用いる気密端子およびろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ろう材としてのすず(Sn)と鉛(Pb)の共晶はんだはよく知られている。このSn−Pbはんだは、Sn62重量%とPb38重量%の組成からなり、共晶点の溶融温度が183℃でリフロー用としてエレクトロニクス機器の実装に使用されるろう材である。しかし、廃棄されたエレクトロニクス機器には人体に有害な鉛を含有したろう材が多く使用され、酸性雨などにより溶出し地下水や河川が汚染されるといった問題が生じており、地球環境の保全の観点から対策が必要となっている。こうした有害はんだに対して、法的規制が1990年代に米国で始まり、欧州ではWEEE指令のドラフトとして鉛含有はんだなどの有害物質不使用に関する規正法が提示され、日本においても廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃掃法)の改正と1998年に成立した家電リサイクル法の下で鉛に対する規制が強化されるようになった。その結果、鉛フリーはんだ実用化への動きが高まり、通信・家電メーカーなどでは鉛はんだから鉛フリーはんだへの全面切り替えを公表している。
【0003】
鉛フリーはんだとして一般に使用されるはんだは、SnをベースにSb、Cu、Ag、Zn、Bi、In等の金属を数%添加した組成であり、添加される金属によって融点が変化する。主な組成は、高融点系(Sn−Ag系)中融点系(Sn−Zn系)および低融点系(Sn−Bi系)がある。特に、Sn−Ag系とSn−Zn系は実用化の実績もあるが、現状は組成が1種類に限定される状況ではなく、使用目的に応じて組成が選択されている。たとえば、特許文献1には、リフロー温度に耐えるPbフリーの高温はんだとして、SnCu、SnZn、SnAu、Zn、Biを主材料とし、液相線温度が200℃以上のろう材を開示している。また、特許文献2は、ろう付けすべき2部材の一方にAgとSnとを積層しSn層に他方の部材を接触させて加熱し液相化し、それによりこのSn液相化されたSn層内にAg層のAgを溶け込ませて合金化させるろう付け方法が開示される。
【特許文献1】特開2001−09587号公報
【特許文献2】特開2001−62561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述する特許文献2に開示するような2部材の金属めっき層を合金化してろう付けした回路部品は、これをプリント基板にリフロー装置でろう付けする場合、リフロー温度で回路部品の内部素子が脱落し易い。これを防止するには素子のはんだ付け用ろう材が高温はんだとすることが必要となる。たとえば、水晶振動子の素子を気密端子のリードにはんだ付けしてキャップシールする回路部品をリフローでプリント基板に実装する場合に、水晶振動子を気密端子にろう付けするめっき層は、リフロー処理時のろう材とは溶融温度を異にする必要があり、リフロー処理で回路素子が脱落しないようにしなければならない。しかしながら、気密端子用リードのろう付けめっき層は、基本的特性として溶融によりはんだ可能なろう付け性とリフロー温度で溶融しない高融点性を兼ね備えると共に、後工程の加工処理が可能で基板との接合信頼性、および表面光沢など美観的観点での仕上げめっきの可能性などの全てを満足することが望まれている。
【0005】
加えて、人体に有害な鉛等の毒性の危険性がない鉛フリーのろう材であって、高温はんだと同様な温度でも不具合を生じない耐熱性と電気機械的接合を保証する強度性とを兼ね備えるろう材とろう付け方法の提示が望まれている。また、室温や低温での加工性が容易であり冷間圧入による接合可能なろう材とろう付け方法の提案が望まれていた。
【0006】
したがって、この発明は上記欠点に鑑みて提案されたものであリ、気密端子の金属外環やリードの金属部材に設けるめっき層によるろう材として有害性がなく、後処理工程のリフロー温度に耐えるとともに電気機械的接合強度が満足に発揮される信頼性の高い新規かつ改良された融接またはろう接による金属部材間の接合構造とそれを用いた気密端子の提供、およびろう付け方法の提示を目的とする。
【0007】
本発明の他の目的は、融接またはろう接として新規なろう付け方法によりキャップまたはリッドとベースとの接合する気密金属パッケージあるいは水晶振動子用気密端子としての回路部品を提供することである。後者の水晶振動子では金属外環にリードをガラスで気密封着したベースに回路素子を搭載して金属キャップを装着する場合に、積層めっき層のろう材を利用してリフロー処理に対応する耐熱性と接合強度を保証するろう付け構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、一方の金属部材上に形成した融点の異なる第1および第2金属の積層めっき層の介在により二つの金属部材を接合するろう付け構造において、積層めっき層は第1および2金属の融点以下の温度で加熱、あるいはアニール処理され、固相状態で第1および第2金属を相互拡散させ、それにより二つの金属部材を電気機械的に接合させたろう付け構造が提供される。ここで、第1金属は相対的に融点が高くて硬い金属、たとえば、Au、Cu、Zn、Bi、InおよびAgからなる群から選択される金属材であり、第2金属は相対的に融点が低くて軟らかい金属、たとえば、Snである。
【0009】
上述するろう付け構造を利用して金属パッケージが提供される。これは二つの金属部材であるベースとリッドまたはキャップとをろう付けする金属パッケージや水晶振動子を構成するものである。いずれも表面実装でのリフロー処理に耐え、回路素子の脱落もなく電気機械的強度を保つことができる。
【0010】
本発明の別の観点によれば、二つの金属部材をろう材を用いて電気機械的に接合する方法において、少なくとも一方の金属部材に互いに融点の異なる第1金属と第2金属との積層めっき層を形成する工程および積層めっき層が形成された一方の金属部材に他方の金属部材を当接して加熱処理する工程からなり、加熱処理は積層めっき層のいずれの金属に対してもその融点温度以下で実施し、第1および第2金属を固相状態で相互拡散させることを特徴とする二つの金属部材のろう付け方法が提案される。
【発明の効果】
【0011】
本発明による二つの金属部材のろう付け構造は、異なる融点を有する二つの金属を積層めっき層として一方の金属部材に形成し、他方の金属部材と当接して、両めっき層の金属融点以下の温度範囲で熱処理するもので、二つの金属を固相状態で相互拡散させている。したがって、従来の高温はんだとは異なり、硬ろう材と同様の耐熱性および接合強度を有する融接またはろう接構造を呈する。また、使用する金属材の毒性の心配がなく、かつ室温や低温での加工を可能にし、冷間圧入等通常の温度でのろう付け処理ができる等の利点を有する。更には、金やパラジウムなどのコスト高の金属の使用を避けることでフロー処理のできる安定した接合強度を有する二つの金属部材のろう付け構造を得る。
【0012】
本発明の上述する効果は、二つの金属の一方は融点が高くて硬い金属であり、他方は融点が低くて軟らかい金属から選ばれることによる。すなわち、融点の異なる金属の積層めっき層は、初期の加熱処理により、合金めっきではなく、金属間化合物を形成するが、継続する加熱処理により融点が低くて軟らかい金属がその組織を消失させ、界面に層状に生じた金属間化合物を分散させることが判明した。本発明者等の知見によれば、界面に層状に生じた金属間化合物を分散させることで一般的な実用合金と同じような組織状態になることが判明し、それゆえに、加熱処理は積層めっき層の両金属を融点以下の温度で加熱またはアニール処理し、それにより2つのめっき層の金属は固相状態での相互拡散が実現されるためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明はろう材となる積層めっき層を合金めっきとして利用するのではなく、所定温度で加熱処理して両金属境界面に金属間化合物を形成し、形成した金属間化合物を引き続く加熱処理によって分散・消失させて固相での相互拡散を行なうものである。それには、融点が高く硬い第1金属の上に、融点が低く軟らかい第2金属のめっき層を積層形成する。そして、第2金属のみでフローや圧入などで二つの金属部材を当接状態で配置しておき、次いで本発明の特徴とする両金属の融点以下の温度で加熱処理し、第2金属の組織を消失させ、界面に層状に生ずる金属間化合物を分散してこれら二つの金属を固相で相互拡散させ融接またはろう接を実現する。したがって、加熱処理は固相状態での相互拡散を完了させるまで継続されなければならない。相互拡散の完了は、選択金属によって異なるが、Au−Snめっき層の場合は、Sn−Cuめっき層に比べてより早い。なお、後者Sn−Cuの組み合わせは一般的な錫青銅と同様になるものと考えられる。
【0014】
本発明の別の実施態様は、円筒型気密端子として知られる水晶振動子用気密端子におけるろう付け構造であり、金属外環内にガラスを貫通して一対のリード部材を気密封着した気密端子のベースに、水晶片をベースのリードにろう材で接合してマウントした後、キャップを冷間圧入で封止するものであって、前述するろう付け構造により確実な電気機械的接合を得る。このようなろう付け構造を利用した水晶振動子用気密端子は回路部品としてプリント基板上に搭載して表面実装のリフロー炉によるはんだ付けが行われるが、水晶片などの回路素子の脱落や損傷などの不具合が生じない。このリフロー処理では最高260℃のリフロー温度に曝されるが、本発明のろう付け構造により耐熱性および接合強度を確実に保証する。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の実施例であるろう付け構造を利用した水晶振動子用気密端子とその表面実装について図を参照しつつ詳述する。図1は回路部品10の製造過程とこれを表面実装したプリント配線体30の処理状態を示している。すなわち、図1(a)は気密端子に対する本発明の適用状態を示し、図1(b)は気密端子をベース15としてそのリード12を回路素子20に接合した状態を示し、図1(c)はベース15とキャップ25の接合により構成する金属パッケージの回路部品10を示している。更に、図1(d)はプリント配線体30の表面実装状態を示す。このような主要工程において、本発明のろう付け構造は図1(b)および(c)に示すろう材13および14として実用され強固な接合を達成する。円筒形水晶振動子である回路部品10は、金属外環11にリード12をガラスで封着した気密端子のベース15と、このリード12にろう材13を介して接合した水晶片21を有する回路素子20と、この回路素子20を収容するようにベース15の金属外環11とろう材14を介して取付けた金属キャップ25とからなる。完成後の回路部品10はプリント基板31上でリフロー処理され、プリント基板31の導電ランド32に高温はんだ33で電気機械的に接合されプリント配線体30となる。通常、リフローはんだ処理による表面実装では最高260℃のリフロー温度に曝されので、このような温度でろう材13あるいは14は溶融脱落したり亀裂や破壊してはならず、電気機械的に確実な接合強度を確保しなければならない。ここで、金属外環11とリード12の外表面には本発明の特徴である特定金属のめっき層が積層して形成される。金属外環11およびリード12は、例えば低炭素鋼(Fe)や鉄ニッケル合金(Fe−Ni)または鉄ニッケルコバルト合金(Fe−Ni―Co)等からなり、外形寸法は金属外環が1〜3mm、リード部材が0.15〜0.3mmであり、封着用ガラスにはソーダライムやソーダバリウムあるいはほう珪酸等のガラスからなる。また、回路部品10をプリント配線体30として表面実装するにはリフロー処理により他の回路部品(図示せず)と同時にはんだ処理される。
【実施例2】
【0016】
次に、図2(a)〜(d)を参照しつつ、図1(b)に示すベース15のリード12と水晶片21を有する回路素子20とをろう材13により電気機械的に接合するフローマウントにおける本発明のろう付け構造について詳述する。この場合のろう材にはAgとSnの二つの金属を用い、リード12にAgめっき層41を厚く(5〜6μm)形成し、その上にSnめっき層42を薄く(1〜2μm)形成して用意される。次いで、リード12のSnめっき層42を回路素子20の電極22と当接させ(図1参照)、各めっき金属の融点以下の温度、例えば、Sn融点近傍の約220℃でフロー処理により両者を仮接合し、図2(a)の拡大断面状態に示すような金属間化合物の層が生成される。ここではSn−Agの両めっき層41、42間に金属間化合物の層ε相およびζ相が形成されている。この状態で更に加熱を継続することで、リード12および回路素子の電極22との間に介在するSn−Agめっき層41、42は、図2(b)〜(d)に示すように徐々に変化し、Sn組織の消失、ε相の消失、およびζ相の分散へと進行してSnめっき層とAgめっき層とは固相による相互拡散状態を呈する。これによって、リード12と電極22の両者は極めて強力な電気機械的接合構造を得る。したがって、図1(d)に示すような表面実装用リフロー工程での接合欠陥を生じさせない。なお、図2(e)にはAg−Snの含有割合と温度との変化に伴う金属間化合物についての状態図を示している。
【実施例3】
【0017】
次に、図1(c)に示すベース15とキャップ25をろう材14により電気機械的に接合する本発明のろう付け構造について、図3(a)〜(f)を参照しつつ詳述する。この場合のろう材にはCuとSnの二つの金属を用い、予めろう材14としてベース15の金属外環11にCuとSnの積層めっき層43、44が形成される。すなわち、Cuめっき層43を厚く(5〜6μm)形成し、その上にSnめっき層44を薄く(1〜2μm)形成する。次いで、金属外環11のSnめっき層44を金属キャップ25の内壁面と当接させるように冷間圧入して図3(a)に示すように仮接合する。次に、各めっき金属の融点以下の温度、例えば、Sn融点近傍の約220℃で加熱処理を始めると、両者間の拡大断面状態を図3(b)に示すように金属間化合物が生成され、引き続いての加熱により、図3(c)乃至(f)に示すように、Sn−Cuの積層めっき層43、44は変化する。すなわち、金属間化合物の各層ε相CuSnおよびη相CuSnは更に加熱を継続することで、金属外環11およびキャップ25との間に介在するSn−Cuめっき層41、42は徐々に変化し、図3(c)のSn組織の消失から図3(e)のη相CuSnの消失、および図3(f)のε相CuSnの分散へと進行し完了時点には両金属が相互拡散した状態となり実用青銅と同様な金属組織を形成する。かくして、Snめっき層とCuめっき層とは固相による相互拡散状態を呈し、それによって、両者の電気機械的接合強度は極めて強大となり、その後の表面実装等のリフロー工程等での接合欠陥を生じさせない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明による融点の異なる二つの金属めっき層による二部材間のろう付け構造およびろう付け方法は、気密端子のみならず広く金属間接合に利用される。特に、有害金属を回避する鉛フリーろう材として、従来品の耐熱性と接合強度を向上する点でその活用性が期待でき、金属部材間の接合技術として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のろう付け構造を用いた気密端子の説明図である。(実施例1)
【図2】同じく実施例2のベースリードと回路素子の接合状態の模式図である。(実施例2)
【図3】同じく実施例3のベース金属外環とキャップの接合状態の模式図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0020】
10;回路部品、 11;金属外環、 12;リード、 13、14;ろう材、
15;ベース、 20;回路素子、 21;水晶振動子、 22;電極、
25;キャップ、 30;プリント基板、
41、42、43、44;めっき層




【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの金属部材をそのいずれかの金属部材に形成した融点の異なる第1および第2金属の積層めっき層を利用して接合するろう付けにおいて、前記二つの金属部材は前記積層めっき層を介在して当接し、前記第1および2金属の融点以下の温度で加熱し、前記第1および第2金属を固相状態で相互拡散して前記二つの金属部材を電気機械的に接合させることを特徴とするろう付け構造。
【請求項2】
前記第1金属は相対的に高い融点の硬い金属であり、前記第2金属は相対的に低い融点の軟らかい金属であることを特徴とする請求項1に記載のろう付け構造。
【請求項3】
前記第1金属がAu、Cu、Zn、Bi、InおよびAgからなる群から選択される金属材であり、前記第2金属がSnであることを特徴とする請求項2に記載のろう付け構造。
【請求項4】
前記二つの金属部材はリードをガラスで金属外環に気密封着したベースとこのベースの主要部を覆うキャップとからなり、前記第1および第2金属の相互拡散による接合で金属パッケージとしたことを特徴とする請求項1ないし3に記載のろう付け構造を用いた気密端子。
【請求項5】
前記二つの金属部材はリードをガラス封着したベースおよびこのベースに装着した円筒形金属キャップであり、それにより水晶振動子を含む回路部品としたことを特徴とする請求項1ないし3に記載のろう付け構造を用いた気密端子。
【請求項6】
二つの金属部材をろう材を用いて電気機械的に接合する方法において、少なくとも一方の前記金属部材に互いに融点の異なる第1金属および第2金属のめっき層を積層形成する工程、および前記一方の金属部材の積層形成しためっき層に他方の金属部材を当接して加熱処理する工程からなり、前記加熱処理は前記めっき層の金属の融点温度以下で実施され前記第1および第2金属を固相状態で相互拡散させて前記二つの金属部材を接合するろう付け方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−82119(P2006−82119A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270784(P2004−270784)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【Fターム(参考)】