説明

ろ過膜破損検出器、膜ろ過装置およびろ過膜破損検出方法

【課題】ろ過膜に破損または損傷が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過膜破損検出器、膜ろ過装置およびろ過膜破損検出方法を提供する。
【解決手段】信号処理部20は、高周波の送信信号を出力し、超音波送受波器12は、送信信号を変換した超音波の送信波を、ろ過膜を含む膜式ろ過モジュール4から流出した透過水へ送信する。そして、超音波送受波器12は、透過水からの反射波を受信して反射信号へ変換し、信号処理部20は、この反射信号に基づき透過水中の粒子の存在を判定し、この粒子の判定結果に基づきろ過膜に破損または損傷が発生したことを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過膜破損検出器、膜ろ過装置、ろ過膜破損検出方法およびろ過モジュールの漏洩検出器に関し、特に、ろ過膜に破損または損傷が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過膜破損検出器、膜ろ過装置およびろ過膜破損検出方法、ならびに膜式ろ過モジュールに漏洩が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過モジュールの漏洩検出器、膜ろ過装置およびろ過モジュールの漏洩検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜ろ過は、所定の細孔を有するろ過膜により原水をろ過して不純物含有率の低いろ過水を得る水処理方法であり、比較的簡単な設備で清澄な水を得られる。膜ろ過装置の多くは、中空糸膜からなる多数のろ過膜をモジュール化した膜式ろ過モジュールを複数備え、これらの膜式ろ過モジュールを並列運転することにより、所要のろ過水量を得ている。
【0003】
原水を凝集沈殿処理または砂ろ過処理すると、比較的大きい固形物は取り除かれる。しかし、固形物、細菌、バクテリアやそれらの死骸などからなり、原水中に懸濁または浮遊している微細な粒子(不純物粒子)は、あまり除去されない。しかし、膜ろ過処理によれば、使用するろ過膜の細孔を適切に選択することにより、不純物粒子の大部分が除去され、飲用や精密洗浄など、目的に応じた清澄なろ過水が得られる。
【0004】
しかし、ろ過膜は、経時劣化や膜ろ過装置の運転ミスなどにより、破損や損傷(切断、部分的な裂傷、孔食など)を生じることがある。ろ過膜の破損や損傷を放置すると、原水がろ過水側に漏洩(リーク)して不純物粒子がろ過水中に混入し、ろ過水の水質が低下する。また、膜ろ過装置では、膜式ろ過モジュール内で、原水とろ過水とを分ける接続部などが劣化して漏洩が生じることもある。
【0005】
したがって、ろ過水質の低下を防止するには、ろ過膜の破損や損傷の発生を迅速に発見し、ろ過膜の完全性(破損や損傷による漏洩がないこと)を常に検証しておく必要がある。ろ過膜の破損や損傷が迅速に発見できれば、このろ過膜による膜ろ過処理を直ちに停止してろ過水の水質低下を抑止でき、さらに、修理や交換などの対策を速やかに行えるので、ろ過処理容量の維持にもつながる。さらに、膜式ろ過モジュールでは、ろ過膜の破損や損傷を原因による漏洩のほか、他の原因による漏洩も発見できることが好ましい。
【0006】
従来、ろ過膜モジュールの完全性試験方法には、例えば次のような方法が知られている(非特許文献1参照)。
第1の方法: ろ過水(処理水)中の微粒子の数(または、数と大きさ)を、光学的に計測する方法(「微粒子計測法」、「微粒子観測法」)。
第2の方法: ろ過水の濁度を、濁度計を用いて光学的に計測する方法(「濁度観測法」)。
第3の方法: ろ過膜の片側に圧力を印加し、その際の挙動や変化を観測する方法(「プレッシャーホールド法」、「バブルポイント法」、「音波調査法」)。
【0007】
また、従来、膜ろ過装置から流出する透過水の一部を膜モジュールに導入し、この膜モジュールから流出する濃縮水の単位体積あたりの微粒子数を、光散乱型の光学式微粒子計を用いて計数し、この計数した微粒子数によって、膜破損を検出する膜破損検出装置が知られている(特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平8−252440号公報(段落0028,0031、図1)
【非特許文献1】膜分離技術振興協会・膜浄水委員会監修/浄水膜編集委員会編「浄水膜」技報堂出版、2003年6月、pp.195-196
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記した第1の方法では、光学的に粒子を捉えるため、検出器の光源、受光センサ、光学系について、軸合わせおよび調整が難しい問題点があった。また、投光面または受光面に不純物などが付着して曇り、検出が不正確になることがある問題点があった。さらに、受光センサや光学系は一般に高価であるため、検出器も相対的に高価になる問題点があった。
【0010】
また、膜ろ過装置は、一般に、多数のろ過膜モジュールを備えているが、高価な検出器をすべてのろ過膜モジュールに設置するには、多額の費用がかかる。そこで、少数の検出器を備えることとした場合、漏洩が発生したろ過膜モジュールを特定するために、検出位置を変えて探索したり、ろ過水の採取位置を切り替えて計測したりする必要があり、手間が掛かるのみならず、迅速な検出ができない問題点があった。
【0011】
また、前記した第2の方法では、光学的方法を用いているため、前記した第1の方法と同様の問題点があった。さらに、可視光の散乱や透過によりろ過水中の単位体積あたりの粒子の量を間接的に観測しているので、検出結果を得るまでに時間がかかり、低い濁度域での感度が低い問題点があった。
【0012】
また、前記した第3の方法では、試験を行うごとに膜ろ過を中断してろ過膜に圧力差を与える必要があるため、ろ過膜の破損や損傷を継続的に監視できず、ろ過膜の破損や損傷を発見するまでに時間がかかる問題点があった。さらに、試験を行うたびに、膜ろ過処理を中断するため、ろ過装置の運転や再開を行う手間が掛かり、また、試験中はろ過水の供給が休止されるため、膜ろ過装置の利用効率が低下する問題点があった。
【0013】
また、従来の膜破損検出装置(特許文献1記載)では、検出用の濃縮水を得るために、透過水を分岐するためのラインと、透過水から濃縮水を得るための膜モジュールを設置している。このため、構成が複雑になり、管理に手間が掛かる問題点があった。また、漏洩が生じてから、漏洩を検出するのに充分な濃度に検出用の濃縮中の微粒子が濃縮されるまで、時間がかかる問題点があった。さらに、この膜破損検出装置は、光散乱型の光学式微粒子計を用いているので、前記した第1の方法と同様の問題点があった。
【0014】
そこで、本発明は、ろ過膜に破損または損傷が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過膜破損検出器、膜ろ過装置およびろ過膜破損検出方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、膜式ろ過モジュールに漏洩が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過モジュールの漏洩検出器、膜ろ過装置およびろ過モジュールの漏洩検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のろ過膜破損検出器は、原水をろ過膜によりろ過して透過水を得る膜ろ過装置から流出した前記透過水へ超音波の送信波を送信し、当該透過水からの反射波に基づき前記透過水中の粒子の存在を判定し、当該粒子の判定結果に基づき前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを検出することを特徴とする。
【0016】
本発明の膜ろ過装置は、原水をろ過して透過水を得るろ過膜を含む複数の膜式ろ過モジュールと、複数の前記膜式ろ過モジュールの下流側にそれぞれ介挿され通信装置を備えた本発明の複数のろ過膜破損検出器と、前記ろ過膜破損検出器から前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを示す検出信号を受信する受信装置を含み、当該検出信号に基づいて制御を行う制御装置と、を具備したことを特徴とする。
【0017】
本発明のろ過膜破損検出方法は、原水をろ過膜によりろ過して透過水を得る膜ろ過装置から流出した前記透過水へ超音波の送信波を送信し、当該透過水からの反射波に基づき前記透過水中の粒子の存在を判定し、当該粒子の判定結果に基づき前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ろ過膜に破損または損傷が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過膜破損検出器、膜ろ過装置およびろ過膜破損検出方法を提供できる。
また、本発明によれば、膜式ろ過モジュールに漏洩が発生したことを迅速に検出できる安価なろ過モジュールの漏洩検出器、膜ろ過装置およびろ過モジュールの漏洩検出方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明による実施形態について、図面を参照し詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、図1を参照し、第1実施形態の膜ろ過装置100の構成および処理フローについて説明する。
【0020】
膜ろ過装置100は、河川などから取水した原水W1をろ過膜でろ過して、原水W1中の供給水として用いるためのろ過水W2を生成するものであって、原水タンク1と、送水ポンプ2と、N個のバルブ3と、N個の膜式ろ過モジュール4と、N個のろ過膜破損検出器10とを具備している。ここで、Nは、1以上の自然数である。
【0021】
バルブ3と、膜式ろ過モジュール4と、ろ過膜破損検出器10とからなる組の数(=N)を少なくするほど、膜ろ過装置100が簡素になり、設置や維持などが低費用で済む。この組の数(=N)を大きくするほど、膜ろ過装置100の処理容量が大きくなり、また、一部の膜式ろ過モジュール4について保守作業を行っているとき、処理容量の低下率が少なくて済む。
【0022】
原水タンク1は、膜ろ過装置100外の河川や湖沼などから原水W1を受け入れて貯留している。原水W1は、前記したように、不純物粒子を含んでいる。原水W1を原水タンク1に受け入れる前に、あらかじめ凝集沈殿処理または砂ろ過処理を施しておけば、比較的大きな固形物が取り除かれ、膜式ろ過モジュール4の負荷を小さくできる。
【0023】
送水ポンプ2は、動力ポンプであり、原水タンク1から原水W1を吸引し、送水管を通じて圧出する機能を有する。送水ポンプ2は、さらに、送水ポンプ2の運転を制御する制御盤(図示せず)と、この制御盤に接続された通信装置(図示せず)とを含む。
【0024】
送水ポンプ2からの送水管は、N本の配管11に分岐され、再び1本の出水管に収束されている。後記するように、送水ポンプ2の送水管から圧出された原水W1は、配管11の各々に介挿された膜式ろ過モジュール4で膜ろ過処理されてろ過水W2となり、再び合流して、供給水として、出水管を通じ膜ろ過装置100外へ送水される。
【0025】
N本の分岐された配管11には、それぞれ、送水方向順に、バルブ3と、膜式ろ過モジュール4と、ろ過膜破損検出器10とが介挿されている。バルブ3に加えて、あるいは、バルブ3の代わりに、同様のバルブ(図示せず)を、膜式ろ過モジュール4の下流側に介挿してもよい。
【0026】
バルブ3は、開閉バルブであって、配管11を開閉する機能を有する。バルブ3はさらに、開閉状態を切り替えるアクチュエータと、このアクチュエータを制御する制御盤と、この制御盤に接続された通信装置(いずれも図示せず)とを含んでいる。
【0027】
膜式ろ過モジュール4は、ろ過膜(図示せず)を含み、圧送された原水W1をこのろ過膜によってろ過して、原水W1中の不純物粒子を取り除き、ろ過水W2を生成する膜ろ過機能を有する。この膜式ろ過モジュール4は、典型的には、多数の中空糸膜を含む中空糸膜モジュールであって、中空糸膜中に原水W1を巡回させて、中空糸膜の細孔を透過したものをろ過水W2として出水し、細孔を透過できない不純物や懸濁物を多く含むものを濃縮水として処理系外へ排出する。ろ過膜は、例えば、MF膜(精密ろ過膜)またはUF膜(限外ろ過膜)であり、また、その形式は、中空糸膜のほか、平膜、スパイラル膜、プリーツ膜などのいずれでもよい。
【0028】
このろ過膜の細孔は、バクテリアなどの不純物や懸濁物のほとんどを除去するのに充分な程度に小さいため、膜式ろ過モジュール4によれば、例えば上水用として適切な水質のろ過水W2が得られる。このろ過膜は、基本的に故障が少なく信頼性が高いが、経年劣化や運転ミスなどにより、破損や損傷を生じることがある。仮に、この破損や損傷を放置しておくと、ろ過水W2中に原水W1が混入し、ろ過水W2の水質が低下することとなる。そこで、次に述べるように、ろ過膜破損検出器10を備えて、ろ過膜の破損及び損傷を迅速に検出できるようにしている。
【0029】
ろ過膜破損検出器10は、ろ過水W2中の不純物粒子の存在を判定することにより、膜式ろ過モジュール4に破損または損傷が発生したことを検出する機能を有する。原水W1には不純物粒子が含まれ、ろ過水W2には不純物粒子がほとんど含まれていないので、ろ過水W2中に不純物粒子が有意に含まれていることは、膜式ろ過モジュール4のろ過膜に破損または損傷が生じていることを意味する。
【0030】
また、ろ過膜破損検出器10は、ろ過水W2中の不純物粒子の存在を判定することにより、膜式ろ過モジュール4に漏洩が発生したことを検出するろ過モジュールの漏洩検出器として用いてもよい。原水W1には不純物粒子が含まれ、ろ過水W2には不純物粒子がほとんど含まれていないので、ろ過水W2中に不純物粒子が有意に含まれていることは、膜式ろ過モジュール4に漏洩が生じていることを意味する
【0031】
ろ過膜破損検出器10は、膜式ろ過モジュール4から流出したろ過水W2に超音波(送信波)を送信し、その反射波を解析して不純物粒子の存在を判定し、この判定結果に基づいてろ過膜の破損ないし損傷の発生を検出する。ろ過膜破損検出器10はさらに、通信機能を有し、この検出結果を示す検出信号を制御装置6へ送信する。なお、ろ過膜破損検出器10の詳細な構成例および動作例については、図2を参照して後記する。
【0032】
制御装置6は、膜ろ過装置100の各部を制御する制御機能を有し、送水ポンプ2、N個のバルブ3、および、N個のろ過膜破損検出器10の各々と、有線または無線により、別個のチャネルで通信可能な通信装置(図示せず)を含んでいる。
【0033】
制御装置6は、ろ過膜破損検出器10のいずれかから、膜式ろ過モジュール4の破損ないし損傷を表す検出信号を受信すると、このろ過膜破損検出器10の上流側に位置するバルブ3へ、閉鎖命令を送信する。バルブ3は、閉鎖命令を受信すると、閉鎖状態となってこの配管11を通じた送水を停止させるので、この下流側に位置する膜式ろ過モジュール4での膜ろ過処理が停止される。
【0034】
こうして、破損ないし損傷を生じた膜式ろ過モジュール4での膜ろ過処理が停止されるため、ろ過水W2に原水W1が混入せず、膜ろ過装置100から流出するろ過水W2(供給水)の水質低下が防止される。また、破損ないし損傷を生じた膜式ろ過モジュール4での処理は停止されるが、他の膜式ろ過モジュール4での処理を継続できるため、処理容量の低下を最小限に留めることができる。この場合、閉鎖したもの以外のバルブ3の開度を調整し、他の膜式ろ過モジュール4へかかる圧力を調整することが好ましい。
【0035】
また、制御装置6は、所定数を超えるろ過膜破損検出器10から破損または損傷を表す検出信号を受信するなど、膜ろ過装置100における重大な障害を検知した場合は、送水ポンプ2へ、運転停止命令を示す制御信号を送信する。こうして、送水ポンプ2が停止状態となって原水W1の送水が停止するので、膜ろ過装置100における膜ろ過処理が停止される。さらに、制御装置6は、膜ろ過装置100において、前記したものを含む何らかの障害を検知した場合、その旨を、膜ろ過装置100外へ送信するようにしてもよい。
【0036】
この膜ろ過装置100によれば、次の効果が得られる。
(1)膜式ろ過モジュール4に近接してろ過膜破損検出器10を配置することにより、ろ過膜の破損または損傷が発生したことをより迅速に検出できる。
(2)ろ過膜破損検出器10は、後記するように、安価に製造できるので、低費用ですべての膜式ろ過モジュール4に付設できる。したがって、破損または損傷が発生した膜式ろ過モジュール4を迅速に特定できる膜ろ過装置100を、低費用で構築できる。
(3)破損または損傷が生じた膜式ろ過モジュール4の上流側のバルブ3を選択的に閉鎖するので、供給水となるろ過水W2の汚染を防止しつつ、処理容量の低下を局限できる。
(4)膜式ろ過モジュール4の数を増やして、処理容量を大きくすることができ、また、膜式ろ過モジュール4の数を減らして、簡易な構成とすることが容易である。
(5)ろ過水W2を定常的に監視するので、検査に伴う運転停止の必要がない。このため、ろ過膜の破損または損傷の発生およびその発生箇所が迅速に特定され、検査を省力化でき、検査や保守に伴う処理容量の欠損や水質の低下が小さくて済む。
(6)ろ過膜破損検出器10をろ過モジュールの漏洩検出器として用いることにより、膜式ろ過モジュール4に漏洩が発生したことをより迅速に検出でき、前記した(2)〜(5)の効果も同様に得られる。
【0037】
次に、図2に示すろ過膜破損検出器10を配管11(図1参照)の長手方向に沿って切断した断面を参照し、ろ過膜破損検出器10について、詳細に説明する(適宜、図1参照)。なお、図2に示す配管11において、ろ過水W2は、左手側(上流側)から流入し、右手側(下流側)へ流出するものとする。
【0038】
ろ過膜破損検出器10は、膜式ろ過モジュール4の下流側の配管11の一部と、超音波送受波器12と、この超音波送受波器12に接続された信号処理部20と、整流器13とを含んで構成されている。ろ過膜の破損または損傷の発生を迅速に検出するため、膜式ろ過モジュール4からろ過膜破損検出器10までの配管11の長さは、短いほうが好ましい。
【0039】
超音波送受波器12は、信号処理部20からの高周波電気信号(送信信号)を超音波(送信波)に変換して出力し、また、ろ過水W2中から反射された超音波(反射波)を受けて高周波電気信号(反射信号)に変換し、信号処理部20へ出力する電気音響変換素子である。超音波送受波器12には、例えば、圧電素子を含む圧電型の超音波トランスデューサを用いることができる。圧電型の超音波トランスデューサは一般に安価であり、また、ろ過水W2中に長期間浸漬しても支障がないため、保守の手間を省くことができる。さらに、超音波を利用しているため、光学式センサと異なり、受光窓などの曇りにより検出精度が落ちる障害が生じない。この超音波送受波器12は、超音波の送受波面を下流側に向けて、支持部材(図示せず)によって、配管11内に保持されている。
【0040】
また、超音波送受波器12は、収束型であって、この超音波送受波器12の送受波ビームは、超音波送受波器12の送波面に対して所定の位置(距離および方向)にある焦点Fに合焦する。したがって、焦点Fにおいて、送信波のエネルギー密度が最大となる。また、焦点Fに粒子Pが位置するとき、反射信号の利得が最大になる。具体的には、超音波送受波器12は、送受波面を凹面状とするか、超音波レンズを付加するなどして、収束型とする。
【0041】
整流器13は、漏斗状の形状を有し、ろ過水W2を収束する収束機能と、その流れを安定させる整流機能を提供する。整流器13の上流側の開口部は、超音波送受波器12の直径(配管11の径方向と同じ方向における寸法)よりもやや大きい直径で開口している。この上流側の開口部に超音波送受面を含む超音波送受波器12の一部が挿入され、超音波送受波器12と整流器13との間隙によって、入口流路13iが形成されている。整流器13の下流側の開口部は、収束された超音波の強度分布に実質的に影響を与えない程度に絞られ、この開口部に出口流路13oが形成されている。整流器13は、超音波送受波器12の焦点Fが、出口流路13o内に位置するように、支持部材(図示せず)によって、配管11内に保持されている。
【0042】
ろ過膜破損検出器10では、ろ過水W2の一部は、入口流路13iへ流入し、整流器13内部で収束および整流がなされ、出口流路13oから流出する。このため、出口流路13o内では、ろ過水W2の流れおよび流速が安定化されている。したがって、ろ過水W2とともに入口流路13iから流入した粒子Pは、整流器13によって出口流路13oへ集められ、一定した移動方向および速度で、超音波送受波器12の焦点近傍を通過することとなる。
【0043】
このため、膜式ろ過モジュール4のろ過膜に破断や損傷が発生し、原水W1がろ過水W2側へ漏洩すると、原水W1に含まれる不純物粒子が超音波送受波器12の焦点F付近を通過する。超音波送受波器12からの送信波は、反復して送信されているため、不純物粒子が焦点F付近を通過するとき、この送信波が強いエネルギーで反射される。そして、この送信波の反射波が、超音波送受波器12で受波される。
【0044】
信号処理部20は、所定のタイミングで送信信号を生成して超音波送受波器12へ送出し、超音波送受波器12からの反射信号を解析して不純物粒子の存在を判定し、この判定結果に基づいて、ろ過膜の破損ないし損傷の発生を検出する機能を有し、配管11の外部に設置され、超音波送受波器12と電気的に結線されている。
【0045】
図3に示すように、信号処理部20は、タイミング信号発生器201と、送信波形メモリ211と、D−A変換器212と、増幅器213と、送受切替器221と、遅延器231と、受信増幅器241と、ミキサ232と、A−D変換器233と、A−D変換器243と、混合波形メモリ234と、反射波形メモリ244と、解析器251と、通信装置252とを含んで構成されている。
【0046】
タイミング信号発生器201は、信号処理部20内の各部の動作タイミングの基準となるタイミング信号を発生し、各部へ供給する。以下、タイミング信号が動作タイミングを与える周期を、タイミング周期という。
【0047】
送信波形メモリ211は、少なくともパルス1個分の波形のデータ(送信信号データ)を格納していて、1タイミング周期中にパルス1個分の送信信号データを、D−A変換器212へ出力する。
D−A変換器212は、この送信信号データをデジタル−アナログ変換し、送信信号を生成する。
増幅器213は、超音波送受波器12(図2参照)で充分な超音波出力が得られるレベルまでこの送信信号を増幅し、送受切替器221へ出力する。
【0048】
送受切替器221は、超音波の送受を切り替えるための回路である。送受切替器221は、送信状態のとき、増幅器213と超音波送受波器12(図2参照)とを接続し、受信状態のとき、超音波送受波器12(図2参照)と受信増幅器241とを接続する。送受切替器221は、タイミング信号を参照し、増幅器213からの送信信号の出力開始時から、送信信号のパルス幅Δt分の時間が経過するまで(実際には、これらの前後に多少の余裕を付加した期間)、送信状態となる。その他の期間、送受切替器221は、受信状態となる。こうして、送受切替器221が送信状態となって超音波送受波器12から送信波が送信された後、送受切替器221が受信状態となって超音波送受波器12によって反射波から変換された反射信号が受信される。
【0049】
受信増幅器241は、低雑音で低歪度の小信号増幅器であって、超音波送受波器12から送受切替器221を経て入力された反射信号を、後段の処理に充分なレベルに増幅し、ミキサ232および反射波形メモリ244へ送出する。
【0050】
遅延器231は、D−A変換器212からの送信信号を、所定の遅延時間分遅らせて、ミキサ232へ出力する。遅延を行うことにより、ミキサ232へ入力される送信信号(遅延送信信号)の位相と、反射信号の位相とが一致するようにする。遅延時間は、超音波送受波器12から焦点Fまで距離および水中での音速を基に超音波が往復する時間を算出し、これに回路の遅延時間を加算して求めることができるが、実際のろ過膜破損検出器10を用いて、実験的に求めてもよい。
【0051】
ミキサ232は、遅延送信信号と反射信号とを混合し、低周波分を取り出した混合信号を、A−D変換器233へ出力する。つまり、ミキサ232は、遅延送信信号を基準として反射信号を復調する復調機能を有し、混合信号は、遅延送信信号の周波数に対する反射信号の周波数差を表す。こうして、反射波の周波数変化が得られ、この周波数変化は、反射体の移動による超音波のドプラ変化を意味する。
【0052】
A−D変換器233は、混合信号をアナログ−デジタル変換して混合波形データを生成し、混合波形メモリ234へ出力する。
混合波形メモリ234は、混合波形データを少なくとも1パルス分格納する。
A−D変換器233および混合波形メモリ234は、タイミング信号を参照し、受信時間帯(送受切替器221が受信状態である時間帯)におけるデータを処理するように構成することにより、回路規模を縮小化できる。
【0053】
A−D変換器243は、反射信号をアナログ−デジタル変換して反射波形データを生成し、反射波形メモリ244へ出力する。
反射波形メモリ244は、反射波形データを少なくとも1パルス分格納する。
A−D変換器243および混合波形メモリ234は、タイミング信号を参照し、受信時間帯(送受切替器221が受信状態である時間帯)におけるデータを処理するように構成することにより、回路規模を縮小化できる。
【0054】
混合波形メモリ234および反射波形メモリ244は、タイミング信号を参照し、1タイミング周期ごとに1パルス分の混合波形データおよび反射波形データを、各々解析器251へ出力する。
【0055】
解析器251は、タイミング信号を参照し、1回の超音波の送受信ごとに、混合波形データおよび反射波形データを解析して、膜式ろ過モジュール4(図1参照)のろ過膜に破損または損傷が発生したかどうかを判定するろ過膜損傷判定処理(図7を参照して後記する)を行い、判定結果を通信装置252へ出力する。ろ過膜損傷判定処理には、ドプラ周波数の検出処理および反射強度の算出による粒子径算出処理が含まれる。
【0056】
通信装置252は、ろ過膜に破損または損傷が発生した旨の判定結果が入力されたとき、制御装置6または他の外部装置へ検出信号を送信する。通信装置252はさらに、制御装置6または他の外部装置から信号を受信し、解析器251に各処理に用いるパラメータを設定する機能を有してもよい。
【0057】
次に、図4を参照し、信号処理部20内の各信号についてと、不純物粒子の移動速度を求める概念について説明する。各信号のタイミングは、横軸方向に一致させて示す。
【0058】
図4(a)に示す送信信号は、タイミング信号によって供給される動作タイミングとほとんど一致する送信開始時刻t1,t3,t5,…から、パルス幅Δtを経過するまで送信される。送信開始時刻t1,t3,t5,…の間隔は、タイミング周期と同一である。
【0059】
図4(b)に示す反射信号は、超音波送受波器12から焦点Fまで超音波がろ過水W2を往復する時間と回路遅延分とを加算した時間分、前記した送信開始時刻t1,t3,t5,…から遅れた受信時刻t2,t4,t6,…から、パルス幅Δtを経過するまで受信される。
【0060】
図4(c)に示す遅延送信信号は、図4(a)に示す送信信号を、図4(b)に示す反射信号に対応する遅延時間分、遅延させた信号である。
【0061】
図4(d)に示す混合信号は、ミキサ232(図3参照)からの出力であり、反射信号と遅延送信信号とを混合し、低周波成分を抽出したものである。ミキサ232からは、反射信号があるときにレベルが高くなり、反射体である不純物粒子の移動に伴って出力が変化する。各々の出力値は反射信号の振幅に応じて若干変動するが、複数の送受信パルスに対応する反射信号を混合波形メモリ234(図3参照)および反射波形メモリ244(図3参照)に記憶して同様に処理すると、その基本周波数はドプラ周波数となる。
【0062】
なお、本実施形態では、超音波送受波器12(図2参照)の焦点F付近でろ過水W2の流れが一定になるように整流器13を設けているので、焦点F付近を移動する不純物粒子の移動速度および移動方向が安定し、不純物粒子からの反射波のドプラ周波数を正確に検出できる。
【0063】
解析器251(図3参照)は、出口流路13o(図2参照)での流速とほぼ同じ移動速度の反射体に関するデータを、不純物粒子の検出データとして用い、この流速からかけ離れた移動速度の反射体に関するデータを検出対象としないことにより、不純物粒子の誤検出を減少させることができる。
【0064】
図5を参照し、不純物粒子の粒径を算出する概念について説明する。図5(a)〜図5(c)はいずれも、1パルス分の波形の一例であり、図4と同様に、横軸方向にタイミングを一致させて示す。
【0065】
図5(a)に示すように、遅延送信信号は、パルス幅Δtの間、振幅は一定であるが、その周波数が経時変化し、パルス開始時は周波数が低く、パルス終了前は周波数が高くなる。
【0066】
図5(b)に示すように反射信号の振幅が変化したとき、図5(c)に示す混合信号が得られる。図5(c)に示すグラフでは、信号強度が急激に上昇する点(変曲点)が確認できる。遅延送信信号の周波数変化は既知であるので、変曲点における反射波の周波数が求められる。この変曲点における周波数から、不純物粒子の大きさを求めることができる。
【0067】
所定の大きさ(周囲の長さ)を有する粒子の反射強度は、送信波の周波数に依存し、不純物粒子の周囲の長さと、送信波の波長とが等しいとき、反射強度が最大となる。送信波(送信信号)の周波数は、初めは周波数を低く(波長を長く)し、次第に周波数を高く(波長を短く)変化させているので、送信波の波長が粒子の周囲の長さと同程度になったとき、反射強度が急激に増大する箇所(変曲点)が現れる。解析器251(図3参照)は、この変曲点を基に、不純物粒子の大きさを算出し、所定範囲の大きさを示すデータを不純物粒子のものと判定して選択的に用いることにより、ノイズであるデータを排除して、不純物粒子の誤検出を減少させている。
【0068】
図6を参照し、超音波の波長と、球状粒子の反射断面積、すなわち反射強度との関係について説明する。球状粒子とは、原水W1に含まれている不純物粒子を模した真球状の物質を想定したものである。
【0069】
このグラフの縦軸方向は、球状粒子の反射断面積を幾何学的断面積で除した値(以下、規格化された反射断面積という)の大きさを示す。すなわち、この規格化された反射断面積とは、球状粒子の投影面積である幾何学断面積を1としたときの反射強度を基準にし、検出される反射強度が幾何学断面積の何倍の値であるかを意味する。
このグラフの横軸方向は、球状粒子の円周長を、超音波の波長で除した値(以下、規格化された円周長という)の大きさを示す。
【0070】
水中の音速v、使用する超音波の周波数fから、この超音波の水中での波長λは、 λ=v/f により求めることができる。ここで、規格化された円周長が1.0であるとき、球状粒子の(規格化されていない)円周長をLとすると、λ=L の関係がある。したがって、規格化された円周長が1.0のとき、球状粒子の半径r、円周率πから、λ=2πr の関係が導かれる。
【0071】
例えば、使用する超音波の周波数fが100[MHz]である場合、水中の音速vは1500[m/秒]であることから、この超音波の波長λは、15[μm]となる。そして、この波長λと等しい円周長を有する球状粒子の直径2rは、約4.8[μm]となる。このとき、規格化された円周長は、1.0である。
【0072】
図6のグラフを参照すると、球状粒子の規格化された断面積が1のとき(例えば、使用する超音波の周波数fが100[MHz]、球状粒子の直径2rが4.8[μm]のとき)、この球状粒子の反射断面積(反射強度を示す)は、幾何学的断面積の約3.5倍であることが分かる。なお、縦軸は、幾何学断面積で正規化した相対的な値を示し、反射断面積の絶対値を示すものではない。
【0073】
実際の断面積を考慮すると、次のような特性であることが分かる。いま、図6のグラフにおいて、横軸および縦軸の両方が1である場合を基準とする。そして、使用する周波数fは変えず(つまり、波長は変わらず)、球状粒子の直径2rを変えると、縦軸の値は、幾何学的断面積で規格化されているので、ほとんど変化しない。しかし、規格化しない反射断面積は、幾何学的断面積に応じて変化する。幾何学的断面積は、球状粒子の直径2rの二乗に比例するから、規格化しない反射断面積も、球状粒子の直径2rの二乗に比例して変化する。
【0074】
例えば、球状粒子の直径2rが基準の10倍になった場合を考える。縦軸の値は、幾何学的断面積で規格化した値であるので、ほぼ1のままである。しかし、この場合、球状粒子の直径2rが基準の10倍であるから、規格化しない反射断面積は基準の100倍となる。つまり、(球状粒子の円周長/波長)の値が、1以上の領域では、粒子直径が10倍になると断面積は100倍になる。
【0075】
これに対し、(球状粒子の円周長/波長)の値が、1以下の領域では断面積は急激に下がる。例えば、(球状粒子の円周長/波長)の値が0.1になったとすると、幾何学的断面積で規格化した反射断面積は0.001であるが、規格化しないと、さらにその1/100になる。以上の考察から、(球状粒子の円周長/波長)の値が、1付近を境にして、実際の反射断面積は急激な変化を生じることがわかる。
【0076】
このように、使用する超音波の周波数fを適切に選ぶことにより、ある大きさ以上の不純物粒子から所定以上の振幅の反射波を得ることにより、このような不純物粒子を選択的に検出対象とすることができる。さらに、使用する超音波の周波数が連続的に変化するパルス状の超音波(チャープパルス)を用いれば、反射強度の変曲点と、そのときの超音波の波長から、不純物粒子の大きさを推定できる。
【0077】
次に、図7を参照し、解析器251によるろ過膜損傷判定処理について、詳細に説明する。
まず、解析器251は、この処理で用いる各パラメータを設定し、処理変数を初期化する(ステップS1)。このパラメータは、使用する超音波の周波数f(または周波数範囲)と、ドプラ周波数の設定範囲と、粒子径の設定範囲とを含む。
【0078】
そして、タイミング信号発生器201からタイミング信号が入力されない場合は、入力されるまで待つ(ステップS2のNo)。タイミング信号が入力されたら(ステップS2のYes)、混合波形メモリ234および反射波形メモリ244から、各々波形データを得る(ステップS3)。
【0079】
そして、反射波形データおよび混合波形データを基に、反射信号のドプラ周波数を算出する(ステップS4)。
さらに、混合波形データを基に、反射振幅の増加点(変曲点)を検出し、そのときの超音波の周波数から反射体の直径を算出する(ステップS5)。
【0080】
検出したドプラ周波数が設定範囲内であれば(つまり、反射体の移動速度が所定範囲内であれば)、次の処理へ進み(ステップS6のYes)、設定範囲内でなければ、ステップS2に戻る。
そして、ステップS5で算出した反射体の粒子径が設定範囲内であれば、次の処理へ進み(ステップS7のYes)、設定範囲内でなければ(ステップS7のNo)、ステップS2へ戻る。あるいは、算出した反射体の粒子径が所定値(設定範囲の下限値)を超えているとき、次の処理(ステップS8)へ進み(すなわち、検出すべき不純物粒子であると判断し)、算出した反射体の粒子径が所定値以下であるとき、ステップS2に戻るようにしてもよい。
【0081】
こうして、検出したドプラ周波数および粒子径のいずれもが設定範囲内であると判断されると、この反射体は、不純物粒子であると判定できる。そこで、漏洩累算値に粒子数の1を加算して、この値を更新する。あるいは、検出された不純物粒子の量(体積)を求めて、漏洩累算値に加算し、この値を更新するようにしてもよい(ステップS8)。
【0082】
そして、漏洩累算値が、ステップS1で設定した漏洩許容値以下である場合は(ステップS9のNo)、ステップS2へ戻る。漏洩累算値は、時間あたりの増加数(増加量)が、漏洩許容以下か否かを判断するようにしてもよい。
【0083】
しかし、漏洩累算値が、ステップS1で設定した漏洩許容値を超えている場合は(ステップS9のNo)、膜式ろ過モジュール4のろ過膜に破損または損傷が生じたと判定し(ステップS10)、通信装置252へ判定結果を出力する(ステップS11)。
【0084】
そして、ろ過膜破損検出器10を終了操作したなど、何らかの終了要因が存在している場合は(ステップS12)、処理を終了し、そうでない場合には、ステップS2に戻って、前記した処理を繰り返す。
【0085】
なお、ステップ11で、通信装置252へろ過膜の破断または損傷が発生したとの判定結果が出力された場合、通信装置252から、制御装置6(図1参照)へ検出信号が送信され、制御装置6は、この上流にあるバルブ3を閉鎖させ、漏洩が生じた膜式ろ過モジュール4におけるろ過を停止させる。

【0086】
第1実施形態のろ過膜破損検出器10によれば、次の効果が得られる。
(1)粒子Pの検出に超音波を用いているため、光学式センサのように、投光窓や受光窓が曇るなどの障害が発生せず、メンテナンスフリーであり、検出精度の低下を抑制できる。
(2)ろ過水W2に対し、常に検出動作を行っているため、膜式ろ過モジュール4のろ過膜の破断または損傷の発生を遅滞なく検出できる。このため、ろ過水W2の水質を実質的に低下させずに、迅速に対策をとることができる。
(3)超音波送受波器12は、配管11内に設置してもメンテナンスは不要であり、管理手数を削減できる。
(4)圧電素子を含む超音波送受波器12を用いた場合、安価でメンテナンスを不要にできる。
(5)超音波送受波器12は、超音波の送受信ビームを収束させているため、低濁度のろ過水W2であったり、検出対象の不純物粒子の粒径が小さかったりしても、ろ過膜から漏洩した不純物粒子を高感度に検出できる。
(6)ろ過膜破損検出器10は安価に製造できるので、すべての膜式ろ過モジュール4に付設しても、低費用で済む。このため、破断や損傷が発生した膜式ろ過モジュール4を迅速に特定できる膜ろ過装置100を、低費用で構築できる。
(7)信号処理部20は、汎用のICによって構成できるので、ろ過膜破損検出器10を極めて安価に製造できる。
(8)あらかじめ設定した粒径の反射体を、不純物粒子として判定するため、検出精度を向上できる。
(9)ドプラ効果を利用して、所定の速度範囲の反射体を不純物粒子として判定しているので、雑音が分離されて、検出にかかる信号対雑音比が向上し、誤検出や検出漏れを減少できる。
(10)周波数が連続的に変化する送信波を使用しているので、反射体の大きさを算出でき、不純物粒子の誤検出を減少できる。
(11)整流器13の入口流路13iに流入したろ過水W2の水流が収束され、これに伴って不純物粒子も収束されて出口流路13oを通過するため、不純物粒子を高確度で検出できる。
(12)整流器13の出口流路13oでは、ろ過水W2の水流が整流されているため、不純物粒子の移動速度と移動方向が一定となり、検出精度を向上できる。
【0087】
(第2実施形態)
図8に示すように、第2実施形態のろ過膜破損検出器10Bは、第1実施形態のろ過膜破損検出器10に加えて、超音波送受波器12bと、整流器13bとを具備し、信号処理部20の代わりに、信号処理部20Bを具備している。
【0088】
超音波送受波器12bは、超音波送受波器12と同一の構成を有し、超音波送受波器12に送受波面が対向し、相互に焦点Fが一致するように、配管11内に設置され、信号処理部20Bと電気的に結線されている。
【0089】
整流器13bは、整流器13と同一の形状であり、整流器13と逆向きに、出口流路13oが接続されるように、配管11内に設置されている。整流器13および整流器13bは、この接続部の狭窄した流路内に、超音波送受波器12および超音波送受波器12bの焦点Fが位置するように設置される。
【0090】
信号処理部20Bは、基本的に、第1実施形態の信号処理部20(図3参照)と同一の構成である。信号処理部20Bは、まず、(1)超音波送受波器12によって、超音波の送受信を行い、次に、(2)超音波送受波器12bによって超音波の送受信を行い、(3)これらの(1)(2)の手順を繰り返す。信号処理部20の送受切替器(図示せず)は、第1実施形態の送受切替器221の構成に加えて、超音波送受波器12と超音波送受波器12bとを切り替える回路が追加されている。
【0091】
このように、超音波送受波器12と超音波送受波器12bとを交互に繰り返し使用することにより、ドプラ周波数のずれ量は超音波送受波器12と超音波送受波器12bとで逆になる。そこで、信号処理部20Bの解析器251は、第1実施形態と同様に処理を行うが、さらに、ドプラ周波数の極性とその絶対値を比較して、不純物粒子の判定をより厳格に行う。
【0092】
第2実施形態のろ過膜破損検出器10Bによれば、不純物粒子の移動方向に対して、順方向と逆方向の超音波を使用し、検出結果を比較しているので、さらに検出精度が高まり、測定に対する信頼性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
不純物粒子は、ろ過前の原水に含まれ、これがろ過水中に存在することは、ろ過膜の破断または損傷によるリークが発生したと見なせる。本発明によるろ過膜破損検出器は、高精度にリークを検出でき、低費用である。各膜式ろ過モジュールに本発明によるろ過膜破損検出器を設置すれば、リークした膜式ろ過モジュールの迅速な同定が低費用で可能である。このため、ろ過水の水質確保、ならびに設置および保守費用の低減の観点から産業上極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明にかかる第1実施形態の膜式ろ過モジュールを示す処理フロー図である。
【図2】第1実施形態のろ過膜破損検出器について配管の長軸方向に切断した断面を示す断面図である。
【図3】信号処理部を詳細に示すブロック図である。
【図4】信号処理部における各信号のタイミングと波形を示すタイミングチャートである。
【図5】ミキサに入出力される信号の1パルス分について、その波形とタイミングとを示すグラフである。
【図6】超音波の波長に対する球状粒子の反射断面積を示すグラフである。
【図7】解析器によるろ過膜損傷判定処理を示すフローチャートである。
【図8】第2実施形態のろ過膜破損検出器について配管の長軸方向に切断した断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0095】
1 原水タンク
2 送水ポンプ
3 バルブ
4 膜式ろ過モジュール
6 制御装置
10,10B ろ過膜破損検出器(ろ過モジュールの漏洩検出器)
11 配管
12,12b 超音波送受波器
13,13b 整流器
13i 入口流路
13o 出口流路
20,20B 信号処理部
100 膜ろ過装置
201 タイミング信号発生器
211 送信波形メモリ
212 D−A変換器
213 増幅器
221 送受切替器
231 遅延器
232 ミキサ
233,243 A−D変換器
234 混合波形メモリ
241 受信増幅器
244 反射波形メモリ
251 解析器
252 通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過膜によりろ過して透過水を得る膜ろ過装置から流出した前記透過水へ超音波の送信波を送信し、当該透過水からの反射波に基づき前記透過水中の粒子の存在を判定し、当該粒子の判定結果に基づき前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを検出することを特徴とするろ過膜破損検出器。
【請求項2】
高周波の送信信号を出力する信号処理部と、
前記送信信号を前記送信波に変換して前記透過水中へ送信する超音波送受波器と、
を具備し、
前記超音波送受波器はさらに、前記反射波を受信して反射信号に変換し、
前記信号処理部はさらに、前記反射信号を基に前記反射波を解析して前記粒子の存在を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のろ過膜破損検出器。
【請求項3】
前記超音波送受波器は、前記送信波および前記反射波のビームを前記透過水中に位置する焦点に収束させることを特徴とする請求項2に記載のろ過膜破損検出器。
【請求項4】
前記焦点の近傍の前記ろ過水を整流する整流器
を具備したことを特徴とする請求項3に記載のろ過膜破損検出器。
【請求項5】
前記送信波および前記反射波を基にドプラ周波数を算出し当該ドプラ周波数が所定の周波数帯内であるとき前記粒子の存在を判定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のろ過膜破損検出器。
【請求項6】
前記送信波は、その周波数が所定の経時変化をし、
前記反射波の強度が急変する変曲点における当該反射波の周波数に基づき当該反射波の波源である反射体の大きさを算出し、算出した前記反射体の大きさが所定の範囲内であるとき前記粒子の存在を判定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のろ過膜破損検出器。
【請求項7】
前記超音波送受波器と同じ構成を有し前記送信波の送信方向が対向するように前記焦点の位置を一致させて配置した対向超音波送受波器を具備し、
前記信号処理部は、前記超音波送受波器と前記対向超音波送受波器とを交互に切り替え、
前記超音波送受波器による前記送信波および前記反射波の送受信と、前記対向超音波送受波器による前記送信波および前記反射波の送受信とを、交互に行うことを特徴とする請求項3から請求項6のいずれかに記載のろ過膜破損検出器。
【請求項8】
前記信号処理部は、前記超音波送受波器からの前記反射信号と、前記対向超音波送受波器からの前記反射信号との両方を参照して前記粒子の存在を判定する、
ことを特徴とする請求項7に記載のろ過膜破損検出器。
【請求項9】
前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを検出したとき、その旨を示す検出信号を送信する通信装置、
を具備したことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載のろ過膜破損検出器。
【請求項10】
原水をろ過して透過水を得るろ過膜を含む複数の膜式ろ過モジュールと、
複数の前記膜式ろ過モジュールの下流側にそれぞれ介挿された請求項9に記載の複数のろ過膜破損検出器と、
前記ろ過膜破損検出器から前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを示す検出信号を受信する通信装置を含み、当該検出信号に基づいて制御を行う制御装置と、
を具備したことを特徴とする膜ろ過装置。
【請求項11】
複数の前記膜式ろ過モジュールの上流側または下流側にそれぞれ介挿され前記原水の流路を閉鎖可能な複数のバルブを具備し、
前記制御装置は、前記検出信号に基づき、破損または損傷が生じた前記膜式ろ過モジュールの上流側または下流側の前記バルブを閉鎖させる、
ことを特徴とする請求項10に記載の膜ろ過装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記検出信号に基づき、複数の前記膜式ろ過モジュールの各々に前記原水を送水する送水ポンプの運転を停止させる、
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の膜ろ過装置。
【請求項13】
原水をろ過膜によりろ過して透過水を得る膜ろ過装置から流出した前記透過水へ超音波の送信波を送信し、当該透過水からの反射波に基づき前記透過水中の粒子の存在を判定し、当該粒子の判定結果に基づき前記ろ過膜に破損または損傷が発生したことを検出することを特徴とするろ過膜破損検出方法。
【請求項14】
前記送信波および前記反射波のビームは、前記透過水中に位置する焦点に収束されることを特徴とする請求項13に記載のろ過膜破損検出方法。
【請求項15】
前記送信波および前記反射波を基にドプラ周波数を算出し当該ドプラ周波数が所定の周波数帯内であるとき前記粒子の存在を判定することを特徴とする請求項13または請求項14に記載のろ過膜破損検出方法。
【請求項16】
前記送信波は、その周波数が所定の経時変化をし、
前記反射波の強度が急変する変曲点における当該反射波の周波数に基づき当該反射波の波源である反射体の大きさを算出し、算出した前記反射体の大きさが所定の範囲内であるとき前記粒子の存在を判定することを特徴とする請求項13から請求項15のいずれかに記載のろ過膜破損検出方法。
【請求項17】
対向する送信方向で交互に前記送信波を送信し、対向する前記反射波の両方を参照して前記粒子の存在を判定する、
ことを特徴とする請求項13から請求項16のいずれかに記載のろ過膜破損検出方法。
【請求項18】
原水をろ過して透過水を得るろ過膜を含む複数の膜式ろ過モジュールから流出した前記透過水へ超音波の送信波を送信し、当該透過水からの反射波に基づき前記透過水中の粒子の存在を判定し、当該粒子の判定結果に基づき前記膜式ろ過モジュールに漏洩が発生したことを検出することを特徴とするろ過モジュールの漏洩検出器。
【請求項19】
高周波の送信信号を出力する信号処理部と、
前記送信信号を前記送信波に変換して前記透過水中へ送信する超音波送受波器と、
を具備し、
前記超音波送受波器はさらに、前記反射波を受信して反射信号に変換し、
前記信号処理部はさらに、前記反射信号を基に前記反射波を解析して前記粒子の存在を判定する、
ことを特徴とする請求項18に記載のろ過モジュールの漏洩検出器。
【請求項20】
前記ろ過水を整流する整流器を具備し、
前記超音波送受波器は、前記送信波および前記反射波のビームを、前記整流器によって整流された前記透過水中に位置する焦点に収束させることを特徴とする請求項19に記載のろ過モジュールの漏洩検出器。
【請求項21】
前記送信波は、その周波数が所定の経時変化をし、
前記反射波の強度が急変する変曲点における当該反射波の周波数に基づき当該反射波の波源である反射体の大きさを算出し、算出した前記反射体の大きさが所定の範囲内であるとき、または、
前記送信波および前記反射波を基にドプラ周波数を算出し当該ドプラ周波数が所定の周波数帯内であるとき前記粒子の存在を判定することを特徴とする請求項18から請求項20のいずれかに記載のろ過モジュールの漏洩検出器。
【請求項22】
前記超音波送受波器と同じ構成を有し前記送信波の送信方向が対向するように前記焦点の位置を一致させて配置した対向超音波送受波器を具備し、
前記信号処理部は、前記超音波送受波器と前記対向超音波送受波器とを交互に切り替え、前記超音波送受波器による前記送信波および前記反射波の送受信と、前記対向超音波送受波器による前記送信波および前記反射波の送受信とを交互に行い、前記超音波送受波器からの前記反射信号と、前記対向超音波送受波器からの前記反射信号との両方を参照して前記粒子の存在を判定することを特徴とする請求項19から請求項21のいずれかに記載のろ過モジュールの漏洩検出器。
【請求項23】
前記漏洩が発生したことを検出したとき、その旨を示す検出信号を送信する通信装置、
を具備したことを特徴とする請求項18から請求項22のいずれかに記載のろ過モジュールの漏洩検出器。
【請求項24】
原水をろ過して透過水を得るろ過膜を含む複数の膜式ろ過モジュールと、
複数の前記膜式ろ過モジュールの下流側にそれぞれ介挿された請求項23に記載の複数のろ過モジュールの漏洩検出器と、
前記ろ過モジュールの漏洩検出器から前記膜式ろ過モジュールに漏洩が発生したことを示す検出信号を受信する通信装置を含み、当該検出信号に基づいて制御を行う制御装置と、
を具備したことを特徴とする膜ろ過装置。
【請求項25】
原水をろ過して透過水を得るろ過膜を含む膜式ろ過モジュールから流出した前記透過水へ超音波の送信波を送信し、当該透過水からの反射波に基づき前記透過水中の粒子の存在を判定し、当該粒子の判定結果に基づき前記膜式ろ過モジュールに漏洩が発生したことを検出することを特徴とするろ過モジュールの漏洩検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−155458(P2007−155458A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349856(P2005−349856)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】