説明

ろ過膜

ろ過膜の表面上にポリマー層を形成するために、炭化水素又はフッ化炭素モノマーを含むプラズマに該ろ過膜を曝す工程を含む、再利用可能なろ過膜の細孔径を維持する方法。前記処理は、ろ過膜が洗浄手段、特に、苛性洗浄に抵抗できるようにする。したがって、このようにして処理された再利用可能なろ過膜及びこれらの使用は、本発明のさらなる態様を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過膜、特に、再利用可能なろ過膜、並びに、例えば苛性洗浄で見られるような厳しい洗浄条件に供される場合でさえも、ろ過膜が一貫した細孔径を保つようにこれらを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体又は気体からの固体のろ過が、生物科学、工業処理、実験室試験、食料及び飲料、電子及び水処理を含む多くの分野で幅広く使用される。薄膜フィルターは、これらの種類の操作を行なうために使用される多孔性又は微小孔性膜である。
【0003】
薄膜フィルター(それらは、スクリーン、ふるい、微小孔性フィルター、マイクロフィルター、ウルトラフィルター又はナノフィルターとしても知られているであろう)は、主として表面捕獲によって、それらの細孔径より大きい固形物(例えば、粒子又は微生物など)を保持する。規定された細孔径より小さい幾つかの粒子は、他のメカニズムによって保持され得る。
【0004】
しかし、一般に、薄膜フィルターの最初の選択は、細孔径及び細孔径分布を基準とする。細孔径の等級によって、薄膜フィルターを評価し得る有用性が効果的に制御されるであろうから、細孔径の明確な性質が非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの場合には、ろ過膜は、繰り返して、又は長期間に渡って使用されるであろう。幾つかの場合には頻繁に、二次汚染を避けるために、膜が適切に洗浄されるか、或いは使用ごとに消毒される必要がある。フィルターの細孔は、健康危機を含む他の危機を招くであろう微生物を含む粒子を包含できる。したがって、これらの危機を避けるために、苛性洗浄剤を含む比較的厳しい条件を使用する必要がある。
【0006】
細孔構造の比較的微小で繊細な性質のために、洗浄手段、特に、多くの洗浄及び消毒製品に見られる苛性化学薬品などの厳しい化学薬品は、膜を浸食する場合があるので、細孔が時間とともに大きくなる。したがって、薄膜フィルターが反復使用を目的とする場合に、細孔径が反復洗浄プロセスを通してその完全性及び一貫性を保つことが重要である。さもなければ、ろ過プロセスの信頼性が危うくなるであろう。
【0007】
この信頼性を達成するために、膜は、好ましい特性を有する材料(例えば、高弾性を有する、高抵抗性で硬いポリマーなど)から形成されている。例としては、PVDF及びPTFEが挙げられるが、これらの材料は、かなり費用がかかる傾向がある。
【0008】
様々な表面上へ、特に布帛表面上へポリマーコーティングを堆積させるために、プラズマ堆積技術がかなり幅広く使用されている。この技術は、従来の湿潤化学法と比較して廃棄物をほとんど生成しない清浄な乾燥法として認識されている。この方法を使用することにより、電場に曝される有機分子からプラズマが発生する。これが基板の存在下で行なわれるとき、プラズマ中の化合物のラジカルが、基板上で重合する。従来のポリマー合成は、そのモノマー種と強い類似点を持つ繰り返し単位を含む構造を形成する傾向がある。一方で、プラズマを使用して発生したポリマー網目は、極めて複雑になることがある。得られたコーティングの性質は、基板の性質並びに使用されるモノマーの性質及びそれが堆積される条件によって決まることがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、そのようなプロセスを用いてろ過膜を処理することにより、それらの性質、特に反復洗浄に対する耐性が、著しく向上し得ることを発見した。
【0010】
本発明によって、ろ過膜の表面上にポリマー層を形成するために、炭化水素又はフッ化炭素モノマーを含むプラズマに該ろ過膜を曝す工程を含む、再利用可能なろ過膜の細孔径を維持する方法が提供される。
【0011】
このような処理は、苛性洗浄に供される場合でさえも、再利用可能なろ過膜に、さらに一貫して細孔径を維持させることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】積算大型曲線としてプロットされた、E−14PO2E試料として市販されているろ過膜に関する細孔分布データを示すグラフ図であり、(a)は、苛性ソーダ中での洗浄の前(黒菱形)と後(白三角)における本発明の方法によって処理されていない膜の結果を示し、(b)は、苛性ソーダ中での洗浄の前(黒菱形)と後(黒三角)における本発明の方法によって処理された膜の結果を示す。
【図1−2】積算大型曲線としてプロットされた、E−14PO2E試料として市販されているろ過膜に関する細孔分布データを示すグラフ図であり、(c)は、本発明の方法を用いた処理の前(白菱形)と後(黒三角)における膜の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、「苛性洗浄」という表現は、強アルカリ性成分(例えば、水酸化ナトリウムなど)を含む化学洗浄剤が利用される任意の手順を意味する。これは、漂白剤などを含む多くの洗浄及び消毒製品を含む。
【0014】
適切なろ過膜は、合成ポリマー材料から形成されるものであろう。しかし、本発明のプロセスにより与えられる強化の観点から、通常、耐洗浄性が限定要因であると判明している場合には、本ポリマー材料は、これまで使用されてきたものよりも安価又は低コストのポリマーから形成されてよい。したがって、例えば、良好な耐洗浄性を有するポリエチレンろ過膜が製造され、それ故に使用され得る。
【0015】
また、堆積したポリマー材料の性質に応じて、このようにして処理されたろ過膜は、撥水及び撥油性でもよく、そして詰まりに対する耐性を有してもよい。それらは、洗浄後の汚染の危険を減らすべく、有用な「振とう乾燥(shake dry)」性も有してよい。
【0016】
さらに、強化材料又は層は、表面と分子的に結合するので、溶出性が無く、この改質は膜の一部になる。
【0017】
膜上に堆積したコーティング層は、分子の厚さにすぎないので、本発明によって処理された膜は、それらの多孔度を保持する。それ故に、特に、液体に正圧をかけるか、又は液体を引き込むために膜の反対側に負圧をかけるとき、液体又は小粒子が、それらを通過し続けることができる。しかし、より大きな粒子は、膜を通過しないであろう。
【0018】
ろ過膜の表面上に適切なポリマーコーティング層又は表面改質部を形成するために表面のプラズマ重合又は改質を受ける任意のモノマーが、適切に使用され得る。そのようなモノマーの例としては、例えば、反応性官能基を有する炭素化合物、特に実質的に−CFが多数を占めるペルフルオロ化合物(国際公開第97/38801号パンフレットを参照)、ペルフルオロ化アルケン(Wangら、「Chem Mater」 1996年、p.2212〜2214)、所望によりハロゲン原子又は少なくとも10個の炭素原子からなる完ハロゲン化有機化合物を含む水素含有不飽和化合物(国際公開第98/58117号パンフレットを参照)、2個の二重結合を含む有機化合物(国際公開第99/64662号パンフレット)、少なくとも5個の炭素原子(所望によりヘテロ原子が介在している)からなる所望により置換されているアルキル鎖を有する飽和有機化合物(国際公開第00/05000号パンフレット)、所望により置換されているアルキン(国際公開第00/20130号パンフレット)、ポリエーテル置換アルケン(米国特許第6,482,531号明細書)並びに少なくとも1つのヘテロ原子を含む大員環(米国特許第6,329,024号明細書)(これらの全ての内容は参照により本明細書に援用される)を含む、プラズマ重合により基材上に疎水性ポリマーコーティングを形成できる、当技術分野で知られているものが挙げられる。
【0019】
ポリマー層を表面上に形成させるために十分な期間に亘って、本発明の方法に使用してよいモノマーの特定の種類としては、式(I):
【化1】

[式中、R、R及びRは、水素、アルキル、ハロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されている、アリールから独立して選択され;Rは、−X−R基{式中、Rはアルキル又はハロアルキル基であり、Xは、結合;式−C(O)O−の基;式−C(O)O(CHY−の基(式中、nは1〜10の整数であり、Yはスルホンアミド基である)、又は−(O)(O)(CH−の基(式中、Rは、所望によりハロゲンで置換されているアリールであり、pは0又は1であり、qは0又は1であり、tは0又は1〜10の整数であり、qが1である場合には、tは0以外である)である}である]
の化合物が挙げられる。
【0020】
本明細書で使用されるとき、用語「ハロ」又は「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素をいう。特に好ましいハロ基は、フルオロである。用語「アリール」とは、芳香族環状基(例えば、フェニル又はナフチル、特に、フェニル)をいう。用語「アルキル」とは、炭素原子の、適切には20個以下の炭素原子の長さの、直鎖又は分岐鎖をいう。用語「アルケニル」とは、適切には2〜20個の炭素原子を有する、直鎖又は分岐鎖の不飽和鎖をいう。「ハロアルキル」とは、少なくとも1種のハロ置換基を含む上記のようなアルキル鎖をいう。
【0021】
、R、R及びRに適したハロアルキル基は、フルオロアルキル基である。そのアルキル鎖は、直鎖又は分岐鎖でよく、環状部分を含んでよい。
【0022】
については、適切には、アルキル鎖は、2個以上の炭素原子、適切には2〜20個の炭素原子、好ましくは4〜12個の炭素原子を含む。
【0023】
、R及びRについては、一般に、アルキル鎖は、1〜6個の炭素原子を有することが好ましい。
【0024】
好ましくは、Rは、ハロアルキル、より好ましくはペルハロアルキル基、特に式C2m+1{式中、mは、1以上、適切には1〜20、好ましくは4〜12、例えば、4、6又は8の整数である}のペルフルオロアルキル基である。
【0025】
、R及びRに適したアルキル基は、1〜6個の炭素原子を有する。
【0026】
一実施形態では、R、R及びRの少なくとも1つは、水素である。特定の実施形態では、R、R、Rは、全て水素である。しかし、さらなる実施形態では、Rは、メチル又はプロピルなどのアルキル基である。
【0027】
Xが−C(O)O(CHY−の基である場合には、nは、適切なスペーサー基を提供する整数である。具体的には、nは、1〜5、好ましくは約2である。
【0028】
Yに適したスルホンアミド基としては、式−N(R)SO−{式中、Rは、水素又はアルキル(例えば、C1−4アルキル、特にメチル又はエチル)である}のものが挙げられる。
【0029】
一実施形態では、式(I)の化合物は、式(II):
CH=CH−R (II)
{式中、Rは、式(I)に関して上記で規定した通りである。}
の化合物である。
【0030】
式(II)の化合物では、式(I)中のX−R基内のX」は結合である。
【0031】
しかし、好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、式(III):
CH=CR7aC(O)O(CH (III)
{式中、n及びRは、式(I)に関して上記で規定された通りであり、R7aは、水素、C1−10アルキル、又はC1−10ハロアルキルである}
のアクリレートである。特に、R7aは、水素又はC1−6アルキル(例えば、メチルなど)である。式(III)の化合物の特定の例は、式(IV):
【化2】

{式中、R7aは、上記で規定した通りであり、特に水素であり、そしてxは、1〜9、例えば4〜9、好ましくは7の整数である}
の化合物である。その場合には、式(IV)の化合物は、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアシレートである。
【0032】
特定の実施形態によれば、ポリマー層を表面上に形成させるのに十分な期間に亘って、1種以上の有機モノマー化合物(その内の少なくとも1つは、2個の炭素−炭素二重結合を含む。)を含むプラズマにろ過膜を曝すことにより、ポリマーコーティングが形成される。
【0033】
適切には、1個以上の二重結合を有する化合物は、式(V):
【化3】

{式中、R、R、R10、R11、R12、及びR13は、全て独立して、水素、ハロ、アルキル、ハロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されている、アリールから選択され;Zは、架橋基である}
の化合物を含む。
【0034】
式(V)の化合物で用いるのに適した架橋基Zの例は、ポリマー分野で知られているものである。特に、それらとしては、所望により置換されているアルキル基(それには、酸素原子が介在していてよい)が挙げられる。架橋基Zに適した任意の置換基としては、ペルハロアルキル基、特に、ペルフルオロアルキル基が挙げられる。
【0035】
特に好ましい実施形態では、架橋基Zとしては、1種以上のアシルオキシ又はエステル基が挙げられる。具体的には、式Zの架橋基は、下位の式(VI):
【化4】

{式中、nは1〜10、適切には1〜3の整数であり、R14及びR15のそれぞれは、水素、アルキル又はハロアルキルから独立して選択される。}
の基である。
【0036】
適切には、R、R、R10、R11、R12、及びR13は、ハロアルキル(例えば、フルオロアルキルなど)、又は水素である。特定の場合には、それらは、全て水素である。
【0037】
適切には、式(V)の化合物は、少なくとも1種のハロアルキル基、好ましくはペルハロアルキル基を含む。
【0038】
式(V)の化合物の特定の例としては、下記式A:
【化5】

{式中、R14及びR15は、上記で規定した通りであり、R14又はR15の少なくとも1つは、水素以外である}
が挙げられる。そのような化合物の特定の例は、式B:
【化6】

の化合物である。
【0039】
さらなる実施形態では、ポリマー層を表面上に形成させるのに十分な期間に亘って、所望により置換されている少なくとも5個の炭素原子のアルキル鎖(所望により、ヘテロ原子が介在している)を含む単量体の飽和有機化合物を含むプラズマにろ過膜を曝すことにより、ポリマーコーティングが形成される。
【0040】
本明細書で使用される用語「飽和」は、モノマーが、2個の炭素原子(それらは芳香族環の一部ではない)間に多重結合(すなわち、二重又は三重結合)を含まないことを意味する。用語「ヘテロ原子」としては、酸素、硫黄、ケイ素又は窒素原子が挙げられる。アルキル鎖に窒素原子が介在している場合には、それは、二級又は三級アミンを形成するように置換され得る。同様に、ケイ素は、適切には、例えば2個のアルコキシ基によって置換され得る。
【0041】
特に適切なモノマー有機化合物は、式(VII):
【化7】

[式中、R16、R17、R18、R19及びR20は、独立して、水素、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されている、アリールから選択され;そしてR21は、X−R22基{式中、R22は、アルキル又はハロアルキル基であり、Xは結合;又は式−C(O)O(CHY−の基(式中、xは1〜10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である);又は−(O)23(O)(CH−の基(式中、R23は所望によりハロゲンで置換されているアリールであり、pは0又は1であり、sは0又は1であり、tは0又は1〜10の整数であり、sが1である場合には、tは0以外である)である}である]
のものである。
【0042】
16、R17、R18、R19、及びR20に適したハロアルキル基は、フルオロアルキル基である。アルキル鎖は、直鎖又は分岐鎖でよく、環状部分を含み、例えば1〜6個の炭素原子を有してよい。
【0043】
22については、適切には、アルキル鎖は、1個以上の炭素原子、適切には1〜20個の炭素原子、好ましくは6〜12個の炭素原子を含む。
【0044】
好ましくは、R22は、ハロアルキル、より好ましくはペルハロアルキル基、特に式C2Z+1{式中、zは1以上、適切には1〜20、好ましくは6〜12、例えば8又は10の整数である}のペルフルオロアルキル基である。
【0045】
Xが−C(O)O(CHY−基である場合には、yは、適切なスペーサー基を提供する整数である。具体的には、yは、1〜5、好ましくは約2である。
【0046】
Yに適したスルホンアミド基としては、式−N(R23)SO−{式中、R23は、水素、アルキル又はハロアルキル、例えば、C1−4アルキル、特にメチル又はエチルである}のものが挙げられる。
【0047】
好ましくは、本発明の方法に使用されるモノマー化合物は、所望によりハロゲンで置換されているC6−25アルカン、詳細にはペルハロアルカン、特にペルフルオロアルカンを含む。
【0048】
別の態様によれば、ポリマー層を表面上に形成させるのに十分な期間に亘って、所望により置換されているアルキンを含むプラズマにろ過膜を曝すことにより、ポリマーコーティングが形成される。
【0049】
適切には、本発明の方法に使用されるアルキン化合物は、1つ以上の炭素−炭素三重結合を含む炭素原子の鎖を含む。その鎖は、所望によりヘテロ原子が介在してよく、環及び他の官能基を含む官能基を担持してよい。適切な鎖(それは直鎖又は分岐鎖でよい)は、2〜50個の炭素原子、より適切には6〜18個の炭素原子を有する。それらは、出発材料として使用されるモノマーに存在するか、又はプラズマの適用、例えば開環によりモノマー中で形成されてよい。
【0050】
特に適切なモノマー有機化合物は、式(VIII):
24−C≡C−X−R25 (VIII)
{式中、R24は、水素、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されている、アリールであり;Xは、結合又は架橋基であり;そしてR25はアルキル、シクロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されているアリール基である。}
のものである。
【0051】
適切な架橋基Xとしては、式−(CH−、−CO(CH−、−(CHO(CH−、−(CHN(R26)(CH−、−(CHN(R26)SO−{式中、sは0又は1〜20の整数であり、p及びqは、独立して1〜20の整数から選択され;そしてR26は、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールである}の基が挙げられる。R26の特定のアルキル基としては、C1−6アルキル、具体的にはメチル又はエチルが挙げられる。
【0052】
24がアルキル又はハロアルキルである場合には、一般に1〜6個の炭素原子を有することが好ましい
【0053】
24に適したハロアルキル基としては、フルオロアルキル基が挙げられる。アルキル鎖は、直鎖又は分岐鎖でよく、環状部分を含んでよい。しかし、好ましくは、R24は水素である。
【0054】
好ましくは、R25は、ハロアルキル、より好ましくはペルハロアルキル基、特に式C2r+1{式中、rは、1以上、適切には1〜20、好ましくは6〜12、例えば8又は10の整数である}のペルフルオロアルキル基である。
【0055】
特定の実施形態では、式(VIII)の化合物は、式(IX):
CH≡C(CH−R27 (IX)
(式中、sは上記で規定した通りであり、R27は、ハロアルキル、特にペルハロアルキル、例えば、C13のようなC6−12ペルフルオロ基である}
の化合物である。
【0056】
別の実施形態では、式(VIII)の化合物は、式(X):
CH≡C(O)O(CH27 (X)
{式中、pは1〜20の整数であり、R27は式(IX)に関して上記で規定した通りであり、具体的にはC17基である}
の化合物である。好ましくは、この場合に、pは、1〜6、最も好ましくは約2の整数である。
【0057】
式(I)の化合物の他の例は、式(XI):
CH≡C(CHO(CH27 (XI)
(式中、pは上記で規定した通りであるが、特に1であり、qは上記で規定した通りであるが、特に1であり、そしてR27は式(IX)に関して規定した通りであり、特にC13基である}
の化合物;
又は式(XII):
CH≡C(CHN(R26)(CH27 (XII)
{式中、pは上記で規定した通りであるが、特に1であり、qは上記で規定した通りであるが、特に1であり、R26は上記で規定した通りであるが、特に水素であり、そしてR27は式(IX)に関して規定した通りであるが、特にC15基である}
の化合物;
又は式(XIII):
CH≡C(CHN(R26)SO27 (XIII)
(式中、pは上記で規定した通りであるが、特に1であり、R26上記で規定した通りであるが、特にエチルであり、そしてR27は式(IX)に関して規定した通りであるが、特にC17基である}
の化合物である。
【0058】
代替的な実施形態では、本プロセスに使用されるアルキンモノマーは、式(XIV):
28C≡C(CHSiR293031 (XIV)
{式中、R28は、水素、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されている、アリールであり、R29、R30及びR31は、独立してアルキル又はアルコキシ、特にC1−6アルキル若しくはアルコキシから選択される。}
の化合物である。
【0059】
好ましいR28基は、水素又はアルキル、特にC1−6アルキルである。
【0060】
好ましいR29基、R30基及びR31基は、C1−6アルコキシ、特にエトキシである。
【0061】
一般に、被処理ろ過膜は、気体状態で堆積させられる材料と共に、プラズマチャンバ内に置かれ、該チャンバ内でグロー放電が点火され、適切な電圧(それはパルス化され得る)がかけられる。
【0062】
本ポリマーコーティングは、パルス及び連続波プラズマ堆積の両条件下で製造してよいが、パルスプラズマがコーティングの更に近距離の制御と、それによる更に均質なポリマー構造の形成を可能にするので、パルスプラズマが好ましいであろう。
【0063】
本明細書では、「気体状態」という表現は、単独又は混合物のいずれかの気体又は蒸気、並びにエアロゾルを意味する。
【0064】
プラズマ重合が有効な態様で行なわれる正確な条件は、例えば、ポリマーの性質、それが形成される材料及び細孔径の両方を含む処理されたろ過膜などの要因によって変わり、そして所定の方法及び/又は技術を用いて決定されるであろう。
【0065】
本発明の方法で用いる適切なプラズマとしては、非平衡プラズマ(例えば、無線周波(RF)、マイクロ波又は直流(DC)によって発生したもの)が挙げられる。それらは、当技術分野で知られているように、大気圧又は低大気圧で作用してよい。しかし、特に、それらは無線周波(RF)により発生する。
【0066】
装置の様々な形態が、ガス状プラズマを発生させるために使用され得る。一般に、これらは、容器又はプラズマチャンバ(それらの中でプラズマを発生させてよい)を含む。そのような装置の特定の例は、例えば、国際公開第2005/089961号パンフレット及び国際公開第02/28548号パンフレットに記述されているが、多くの他の従来型プラズマ発生装置も利用できる。
【0067】
プラズマチャンバ内に存在するガスは、モノマー単独の蒸気を含んでよいが、必要に応じて、それをキャリアガス、具体的には不活性ガス(例えば、ヘリウム又はアルゴン)と混ぜてよい。特に、ヘリウムがモノマーの分解を最小限にできるので、これが好ましいキャリアガスである。
【0068】
混合物として使用されるとき、キャリアガスに対するモノマー蒸気の相対量は、本技術分野において標準的な手順に従って適切に決定される。加えられるモノマーの量は、使用されている特定のモノマーの性質、処理されている基板の性質、プラズマチャンバの寸法などの程度に左右されるであろう。一般に、従来型チャンバの場合には、モノマーは、50〜250mg/分の量で、例えば100〜150mg/分の速度で送達される。しかし、その速度が、選択される反応器の寸法及び早急に加工されるのに必要な基材の数に応じて変わり;これは、順々に、例えば、必要とされる年間処理量及び資本支出などの判断に左右されることが明らかであろう。
【0069】
適切には、ヘリウムなどのキャリアガスは、一定速度で、例えば5〜90標準立方センチメートル/分(sccm)、例えば15〜30sccmの速度で投入される。場合によって、モノマー:キャリアガスの比は、100:0〜1:100の範囲、例えば10:0〜1:100の範囲、特に、約1:0〜1:10の範囲であろう。選択される明確な比は、本プロセスに必要とされる流速が達成されることを確実にするためであろう。
【0070】
幾つかの場合には、チャンバ内において、予備的な連続出力プラズマを、例えば15秒〜10分間、例えば2〜10分当ててよい。これは、表面前処理工程として機能し、モノマーがそれ自体で表面に容易に付着することを確実にするので、重合が起こるとき、本コーティングが表面上で「成長する」。不活性ガスのみの存在下で、モノマーがチャンバ中に導入される前に、前処理工程を行なってよい。
【0071】
次に、少なくともモノマーが存在するときに、重合を進めさせるために、プラズマは、パルスプラズマに適切に切り替えられる。
【0072】
全ての場合には、例えば13.56MHzの高周波電圧をかけることにより、グロー放電が適切に点火される。これは、電極(それは、チャンバの内部又は外部でよいが、より大きいチャンバの場合には一般に内部である。)を用いて適用される。
【0073】
適切には、ガス、蒸気、ガス混合物は、少なくとも1標準立方センチメートル/分(sccm)の速度で、そして好ましくは1〜100sccmの範囲で供給される。
【0074】
モノマー蒸気の場合には、これは、パルス電圧がかけられている特定の運転中に、モノマーの性質、チャンバの寸法及び製品の表面積に応じて、80〜300mg/分の速度、例えば約120mg/分で適切に供給される。しかし、工業規模の使用では、規定プロセス時間に応じて変わり、かつモノマーの性質及び必要とされる技術的効果にも左右され得る固定総モノマー送達を有することがより適切であろう。
【0075】
ガス又は蒸気が、任意の従来法を用いてプラズマチャンバ中に送達され得る。例えば、それらは、プラズマ領域中に引き込まれるか、注入されるか、又はポンプで送達され得る。具体的には、プラズマチャンバが使用される場合には、排出ポンプの使用に起因して、チャンバ内の圧力の減少の結果として、ガス又は蒸気をチャンバ中に引き入れてよいし、或いは液体の取り扱いにおいて一般的であるように、それらをチャンバ中にポンプで送達するか、噴霧するか、滴下するか、静電的にイオン化するか、又は注入してよい。
【0076】
適切には、例えば、0.1〜400mtorr、適切には約10〜100mtorrの圧力に保たれている式(I)の化合物の蒸気を用いて、重合が達成される。
【0077】
適切には、印加場は、5〜500Wの電力、例えば20〜500Wの電力、適切には約100Wのピーク電力であり、連続又はパルス場として適用される。使用されるとき、パルスは、極めて低い平均電力を得る順序で、例えばタイムオン(time on):タイムオフ(time off)の比が1:500〜1:1500の範囲である順序で、適切にかけられる。そのような順序の特定の例は、電力が、20〜50μs、例えば約30μsに亘って入っており、そして1000μs〜30000μs、特に約20000μsに亘って切られている順序である。このようにして得られた典型的な平均電力は0.01Wである。
【0078】
適切には、それらの電場は、式(I)の化合物及びろ過膜の性質に応じて、30秒〜90分間、好ましくは5〜60分間かけられる。
【0079】
適切には、使用されるプラズマチャンバは、多数の膜を受け入れるのに十分な体積である。
【0080】
本発明によってろ過膜を製造するために特に適した装置及び方法が、国際公開第2005/089961号パンフレット(その内容は参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0081】
具体的には、この種類の高体積チャンバを用いるとき、プラズマは、0.001〜500W/m、例えば0.001〜100W/m、適切に0.005〜0.5W/mの平均電力で、パルス場の電圧によって形成される。
【0082】
これらの条件は、大型チャンバ内で、例えば、プラズマ区域が500cmを超える体積、例えば0.1m以上、例えば0.5m〜10m、適切には約1mの体積を有するチャンバ内で、良質で均一なコーティングを堆積させるのに特に適している。このようにして形成された層は、良好な機械的強度を有する。
【0083】
チャンバの寸法は、特定のろ過膜又は処理されている膜の回分を収容できるように、選択されるであろう。例えば、一般に立法形のチャンバが、幅広い用途に適しているが、必要に応じて、細長い形状又は長方形のチャンバが構成されるか、又は明確に円筒状、又は任意の他の適切な形状でもよい。
【0084】
チャンバは、回分プロセスを可能にするために、封止可能な容器であるか、又は、それが直列系のような連続プロセスにおいて利用されるようにするために、ろ過膜のための入口及び出口を含んでよい。特に、後者の場合には、チャンバ内でプラズマ放電を形成するために必要な圧力条件は、例えば「笛音漏れ(whistling leak)」を備えた装置において常用されているように、高圧ポンプを用いて維持される。しかし、「笛音漏れ」の必要性をなくすために、大気圧で、又はその付近で、ろ過膜を加工することも可能であろう。
【0085】
本発明のさらなる態様は、上述の方法により処理されている再利用可能なろ過膜を含む。具体的には、膜は、ポリエチレンなどの合成ポリマー材料から形成される。
【0086】
さらなる態様では、本発明は、上述のろ過膜に液体の試料を通し、そして使用後に、再利用に備えて苛性溶液又は他の洗浄溶液中で該ろ過膜を洗浄する工程を含む、液体をろ過する方法を提供する。
【0087】
さらなる態様では、本発明は、化学攻撃(例えば、ろ過膜が洗浄中に被るものなど)に耐性を持つろ過膜を形成するための、プラズマ重合プロセスにより堆積された、重合されたフッ化炭素又は炭化水素のコーティングの使用を提供する。適切なフッ化炭素及び炭化水素のコーティングは、上記の通りに得ることができる。
【実施例】
【0088】
本発明は、ここでは添付の図面を参照して、一例として詳述されるであろう。
【0089】
実施例1
洗浄試験
E−14P02Eとして市販されているポリエチレンろ過膜をプラズマ手段に供することにより、一連の膜を調製した。約300Lの処理体積を有するプラズマチャンバ中にE−14P02Eの試料を置いた。必要に応じて、質量流量コントローラー及び/又は液体質量流量メーター、並びに混合注入器又はモノマー容器を介して、必要な気体及び/又は蒸気の供給器にそのチャンバを接続した。
【0090】
80mtorrの圧力に達するまでヘリウムを20sccmでチャンバ中に入れる前に、チャンバを3〜10mtorrの基準圧まで脱気した。次に、13.56MHzで300WのRFを用いて、連続出力プラズマを4分間当てた。
【0091】
その後、下記式:
【化8】

の1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアシレート(CAS番号27905−45−9)を120mg/分の速度でチャンバ中に入れ、プラズマを、100Wのピーク電力において、30マイクロ秒オンタイム及び20ミリ秒オフタイムでパルスプラズマに40分間切り替えた。40分の完了時に、加工ガス及び蒸気とともにプラズマ電力を切って、チャンバを脱気して基準圧に戻した。次に、チャンバを大気圧まで通気して、膜試料を取り出した。
【0092】
苛性ソーダ(NaOH)溶液に浸す前後で、処理及び未処理膜の両方の細孔径分布を測定した。苛性ソーダ(NaOH)は、膜のための多くの洗浄及び消毒化学薬品の成分であるため、本試験に使用した。例えば、フロクリーン(Floclean)MC11が、膜から有機物、沈泥、又は生物材料からなる汚染物質を除去するために使われ、それは1%NaOHを含んでおり;加水分解及び酸化により膜から脂質及び油、タンパク質、多糖類、及び細菌を除去するために、0.5NのNaOHを含む溶液が推奨される(C. Munir、Ultrafiltration and Microfiltration Handbook、第2版、CRC Press)。
【0093】
未処理及び処理膜の細孔分布データをそれぞれ図1(a)及び(b)に示す。
【0094】
その結果は、未処理膜では、NaOHによって細孔径がかなり増加していることを示す。これは、細孔構造に対する損傷によるものであり、本試料がNaOHに対する化学的耐性を持たないという事実を示している。しかし、高度のNaOH耐性を示す処理膜では、細孔径の大部分が一定のままである。それ故に、本処理によって、NaOH攻撃から試料を保護した。その細孔径分布は、NaOH浸漬でも変化しなかった。
【0095】
実施例2
処理の細孔径における効果
また、実施例1に記述されているような処理の前後におけるE−14P02E膜試料の細孔径分布も測定した。細孔径分布は狭いものであることが分かった。それはろ過用途に有利である。そして「最良の」膜は、細孔径の単一径分布を有するであろう。測定技術の誤差を考慮すると、2つの膜の細孔径分布間には顕著な差が見られず、これが処理の影響を受けていないままであることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜の表面上にポリマー層を形成するために、炭化水素又はフッ化炭素モノマーを含むプラズマに該ろ過膜を曝す工程を含む、再利用可能なろ過膜の細孔径を維持する方法。
【請求項2】
再利用可能なろ過膜を苛性洗浄に供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
再利用可能なろ過膜が、合成ポリマー材料から形成されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
合成ポリマー材料がポリエチレンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
プラズマがパルス化されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
モノマーが、式(I):
【化1】

[式中、R、R及びRは、独立して水素、アルキル、ハロアルキル又は、所望によりハロゲンで置換されている、アリールから選択され;Rは、X−R基{式中、Rは、アルキル又はハロアルキル基であり、Xは、結合;式−C(O)O(CHY−の基(式中、nは1〜10の整数であり、Yは結合又はスルホンアミド基である);又は−(0)(O)(CH−の基(式中、Rは、所望によりハロゲンで置換されているアリールであり、pは0又は1であり、qは0又は1であり、tは0又は1〜10の整数であり、qが1である場合には、tは0以外である)である}である]
の化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
式(I)の化合物が、式(II):
CH=CH−R (II)
{式中、Rは、請求項1で規定した通りである}、
の化合物、又は式(III):
CH=CR7aC(O)O(CH (III)
{式中、n及びRは、請求項1で規定した通りであり、R7aは、水素、C1−10アルキル、又はC1−10ハロアルキルである}
の化合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物が、式(III)の化合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式(III)の化合物が、式(IV):
【化2】

{式中、R7aは、請求項4で規定した通りであり、xは、1〜9の整数である}
の化合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
式(IV)の化合物が、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアシレートである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ろ過膜をプラズマ堆積チャンバに置き、前記チャンバ内でグロー放電を点火し、そして電圧をパルス場としてかける、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
印加電圧が、40〜500Wの電力である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電圧が、タイムオン:タイムオフの比が1:500〜1:1500の範囲である順序でパルス化されている、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
予備的工程において、連続出力プラズマをろ過膜にかける、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記予備的工程を不活性ガスの存在下で行なう、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法によって処理された再利用可能なろ過膜。
【請求項17】
合成ポリマー材料から形成されている、請求項16に記載の再利用可能なろ過膜。
【請求項18】
ポリエチレンから形成されている、請求項17に記載の再利用可能なろ過膜。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか1項に記載のろ過膜に液体の試料を通し、そして使用後に、再利用に備えて苛性溶液中で該ろ過膜を洗浄する工程を含む、液体をろ過する方法。
【請求項20】
化学攻撃に耐性を持つろ過膜を形成するための、プラズマ重合プロセスにより堆積された、重合されたフッ化炭素又は炭化水素のコーティングの使用。
【請求項21】
化学攻撃が洗浄中に起きる、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
ろ過膜が、合成ポリマー材料から形成されている、請求項20又は21に記載の使用。
【請求項23】
合成ポリマー材料がポリエチレンである、請求項22に記載の使用。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate


【公表番号】特表2011−502745(P2011−502745A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531571(P2010−531571)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003644
【国際公開番号】WO2009/056812
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(508216699)ピーツーアイ リミティド (12)
【Fターム(参考)】