説明

アクティブソナー装置、及びアクティブソナー装置を搭載したATM端末装置

【課題】マイクロホンの本数を2本に抑え、かつ比較的少ない演算量で標的位置の定位を行える、製造コストの安価なアクティブソナー装置を提供すること。
【解決手段】制御・演算部1は、送波器4の探査音の放射からエコーの受波までに要した時間から、標的の距離を求める。また、マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3)の、エコー波形Aとエコー波形B間の音圧比を計算し、該計算結果から、標的の垂直方向を求める。また、エコー波形AとBとを足し合わせることで、マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3)を仮想的に1つのマイクロホンとした場合の合成のエコー波形を演算し、さらに、時間差+φを加えた場合のエコー波形A、Bの和と、時間差−φを加えた場合のエコー波形A、Bの和を求め、それぞれの結果の波形の音圧値の比を計算することで、標的の水平方向を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブソナー装置に係り、特に、2つのマイクロホン入力音の音圧差を利用して標的の座標位置(標的までの距離、標的の水平方向、標的の垂直方向)等の特定が可能なアクティブソナー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既に開発されている周知のアクティブソナー装置は、音源定位手法を実現するために、一般には複数のマイクロホンを使用している。
但し、その手法によっては多数の本数のマイクロホンや、大量の演算量を必要としている。このため、2つのマイクロホンだけを用いる音源定位手法も開発されているが、大量の演算量を必要とし、さらに、HRTFのような伝達関数を用意しておく必要がある。
このため、既に開発されている周知のアクティブソナー装置は、安価に構成することが困難であった。
【0003】
本発明に関連する周知の技術としては、例えば、特許文献1に開示されている技術を挙げることができる。特許文献1には、「音源方向を推定する方法、そのためのシステム、および複数の音源の分離方法、そのためのシステム」として、ILD(Interaural Loudness Difference:2つのマイクロホン入力間の音圧差)及び各周波数毎のIPD(Interaural Phase Difference :2つのマイクロホン入力間の位相差)を算出し、音源方向を推定する手法、若しくは、ILD及び各周波数毎のIPDとの算出結果を、予め作成したデータベースと比較して音源方向を推定する手法が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、ITD(Interaural Time Difference:2つのマイクロホン入力間の時間差)のみを使用する技術が開示されている。
また、例えば、特許文献3には、音源分離のための手法が開示されている。
さらに、例えば、特許文献4には、音源の位置を特定する方法として、この音源に指向させて少なくとも2つのマイクロホンを回転させ、この2つのマイクロホン間の両耳時間差(ITD)を測定することを、該両耳時間差(ITD)が予め定められた閾値よりも小さくなるまで繰り返す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−325284号公報
【特許文献2】特開平09−222352号公報
【特許文献3】再公表WO2007−18293号公報
【特許文献4】特開2007−322416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記背景技術で述べた従来のサブタイトルにあっては、前述のとおり、実現する手法によっては多数の本数のマイクロホンや、大量の演算量を必要とするという問題点がある。
また、既に開発されている周知のアクティブソナー装置で、2つのマイクロホンを用いる音源定位手法についても、同じく大量の演算量を必要としたり、さらには、予め、HRTFのような伝達関数を用意しておく必要があるなどの問題点があり、このため、安価に構成することが困難であった。
上記の他にも、伝達関数としてHRTFを用いる手法には、環境の変化に対する柔軟性に欠けるといった問題点がある。
【0007】
また、独立成分分析といった演算を行う手法は、該演算が複雑であり、さらに、マイク数が(n−1)個の標的しか認識できないといった問題点がある。
なお、前述の特許文献1に開示されている技術では、受波した波の音響信号について、その周波数分析をする必要がある。また、前述のとおり、音源方向を推定する2つの手法が開示されているが、標的方向定位の手がかりとして、いずれも、複数の次元(即ち、垂直方向・水平方向)の手がかりを必要としている。さらに、受波器間の音圧差に加え、時間差を用いている。これに比べて、本発明の場合は、周波数分析が不要であり、水平、垂直の両方とも最終的には音圧の情報のみで音源定位を実現できる。
【0008】
また、前述の特許文献2に開示されている技術では、前述のとおり、ITDのみを使用する技術が開示されているが、この特許文献2の発明は、1平面上の方向定位を行うものであり、3次元の標的位置の定位を行う本発明とは目的(及び効果)が異なる。
また、特許文献3には、前述のとおり、音源分離のための手法が開示されているが、本発明では音源定位を行うものであるから、目的が異なる。さらに、その実現方法においても、特許文献3の技術では、時間差情報とスペクトル情報という2種類の手がかりを用いており、本発明の効果とは異なる効果となる。
【0009】
さらに、特許文献3には、前述のとおり、両耳時間差(ITD)を使用し、かつマイクを動かして音源定位を行う技術が開示されているが、本発明は、固定されたマイクで3次元の標的位置の定位を行うものであり、手段(及び効果)が異なる。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、アクティブソナー装置の構成要素であるマイクロホンの本数を2本に抑え、かつ比較的少ない演算量で標的位置の定位を行うことを可能にして、製造コストの安価なアクティブソナー装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るアクティブソナー装置は、予め設定された所定の方向に向けて超音波を発信する超音波発射手段と、前記超音波発射手段から発射された超音波が標的に反射して生じるエコーを入力する第1と第2の超音波受信手段と、前記超音波発射手段から前記超音波が発射されてから前記エコーが前記第1と第2の超音波受信手段に入力されるまでの時間に基づいて前記標的までの距離を算出する距離算出手段と、前記第1と第2の超音波受信手段で入力された前記エコーの音圧の比に基づいて前記標的の垂直方向を算出する垂直方向算出手段と、前記第1と第2の超音波受信手段で入力された前記エコーの音圧の和を所定のプラスの時間差だけずらして加算した和と、前記第1と第2の超音波受信手段で入力された前記エコーの音圧の和を所定のマイナスの時間差だけずらして加算した和との比に基づいて前記標的の水平方向を算出する垂直方向算出手段と、前記標的までの距離、前記標的の垂直方向、及び前記標的の水平方向の、前記算出結果に基づいて前記標的の3次元座標内の位置を定める位置決定手段と、を備えたことを特徴とするアクティブソナー装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明のアクティブソナー装置によれば、マイクロホンの本数を2本に抑え、かつ比較的少ない演算量で標的位置の定位を行うことができるので、製造コストの安価なアクティブソナー装置を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置が備える2つのマイクロホンの取り付け位置関係を例示する配置図であり、図2(a)は側面図を示し、図2(b)は上面図を示すものである。
【図3】本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の主要部の配置を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の1使用例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の2つのマイクロホンの指向方向を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置においてATM端末装置前方の標的を特定する処理の動作手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るアクティブソナー装置は、マイクロホンの本数を2本に抑え、かつ比較的少ない演算量で標的位置等の特定を実現する。
このため、本発明に係るアクティブソナー装置では、2本のマイクロホンの各々から得られるエコーの和や差を計算することだけで標的の方向を求め、標的位置等を特定する。
これにより、演算量が少なくすることができるので、ハードウェア構成を簡単にすることが可能となり、製造コストを削減することができる。
即ち、本発明に係るアクティブソナー装置は、基本的に垂直方向(水平方向)の角度差を設けられた2 本のマイクロホンを用いて、標的の垂直方向(水平方向)を求める方法を採用している。しかし、これをそのまま実現すると、垂直と水平の標的方向を求めるためには4本のマイクロホンが必要となってしまう。そこで、本発明に係るアクティブソナー装置では、標的の垂直方向を求めるための2本のマイクの出力から、標的の水平方向を求めるための2本のマイクロホンを仮想的に生み出している。これにより、標的の垂直・水平方向を求めるために必要なマイクロホン数を2本に削減することを可能にしている。
【0014】
但し、2本のマイクロホンで標的定位を実現する方法は他にも存在するが、それらは、例えば「IIDと周波数スペクトル情報」のように、複数の次元の手がかりを使用している。これに対し、本発明に係るアクティブソナー装置では、マイクロホンで得られたエコー音圧の比を取る方法や、若しくは波形グラフに時間差をつけて足し合わせ、さらに、音圧値の比を取る方法といった、比較的簡易な演算で標的位置等の特定を実現するので、周波数分析などは必要としない。
なお、受波器を稼動させることで標的位置を、簡単なアルゴリズムで求める手法も存在しているが、本発明に係るアクティブソナー装置には可動部が無い。このため、機械的構造が簡単で、故障のリスクを少なくできる他、設置・応用の幅を広げることができる。
【0015】
以下、本発明のアクティブソナー装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の全体構成を示す構成図である。
同図に示すように、本実施形態に係るアクティブソナー装置は、制御・演算部1と、マイクロホンA(2)と、マイクロホンB(3)と、送波器4と、を備えて構成される。
この他に、マイクロホンA(2)、マイクロホンB(3)、及び送波器4を纏めて収納するアクティブソナー筐体5(図3参照)も備えることができる。
マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3)の2つのマイクロホンは、同じ感度特性を有し、かつマイクロホンの指向方向に最も強い感度を有するものとする。
送波器4は、その超音波放射音圧の方向特性が、想定する標的定位の有効範囲内において均一であるか、若しくは送波器4の指向方向を中心に点対称となっているものとする。
2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3))の出力は、それぞれコードによって制御・演算部1に接続されている。
【0016】
図2は、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置が備える2つのマイクロホンの取り付け位置関係を例示する配置図であり、図2(a)は側面図を示し、図2(b)は上面図を示すものである。
同図に示すように、2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3))は、指向角度に差を設けた状態で固定されるもとする。
図2(a)では、この2つのマイクロホン間に垂直方向の指向角度差を設けているが、図2(b)に示すように、該2つのマイクロホン間に水平方向の指向角度差を設けるように設置してもよい。いずれの方向の指向角度差であっても、機能に変わりは無い。
【0017】
送波器4は、この2つのマイクロホン間の指向角度差を平均した指向方向に向けて指向されるものとする。なお、この送波器4の指向方向を、本アクティブソナー装置の正面方向とし、ここでは、この方向が地面に対して水平であるものとする。
この2つのマイクロホンの出力を足し合わせて、仮想的に一つのマイクロホンとした場合、マイクロホン感度特性は、本アクティブソナー装置の正面方向に最も強い感度特性を持つように配置されるものとする。
送波器4は、この2つのマイクロホンの近くで、送波器4の先端とマイクロホンA(2)の先端の距離、及び送波器4の先端とマイクロホンB(3)の先端の距離が同じになるように配置する。送波器4の正面方向は、この2つのマイクロホンの正面方向と同じである。
【0018】
送波器4は、標的を検知し、その位置を明らかにするための探査音を放射する。
この放射された探査音は、標的に当たると反射し、エコーとなって前記の2つのマイクロホンに捕らえられる。
送波器4から発射する探査音は、単一周波数のバースト波とする。その周波数は本アクティブソナー装置の使用目的に応じて設定することが可能である。
なお、なるべく周囲の雑音から分離したいとの要求に応えるには、使用環境で存在し難い周波数を使用することが望ましい。
【0019】
前記バースト波のバースト長は、使用目的から、標的の最短距離を想定し、その距離に標的が存在した場合には、探査音と標的からのエコーが重畳してマイクロホンに補足されない範囲を限度として、なるべく長く設定するものとする。
このように、前記バースト波のバースト長をなるべく長くする理由には、大別して2つの理由がある。即ち、理論上はバースト長が短くても支障がないが、実際の運用上では、バースト長が長い方がエコーを捕らえ易いということが第1の理由であり、共振型の超音波振動子などを送波器4として用いる場合、その放射音の振幅が安定するまで、或る程度のバースト長が必要ということが第2の理由である。
【0020】
上記の2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3))は、同一の感度特性を持つものとする。また、これら2つのマイクロホンの指向方向に最も強い感度特性を有するものとし、これら2つのマイクロホンの指向方向から離れるにつれて、音圧感度が滑らかに低下するものとする。
また、上記の2つのマイクロホンは、エコーの周波数さえ補足できればよいのであるから、マイクロホンの音圧感度の周波数特性は、エコー周波数がピークとなるようなものが望ましい。エコーの周波数以外の周波数の音は不要であるので、むしろエコー周波数のみをピックアップする特性、即ち、バンドパスフィルタのような特性の方が有利である。
なお、標的が速く動き、ドップラーシフトによりエコー周波数が変化する場合、その変化分をカバーする程度の感度幅は必要であるものとする。
【0021】
送波器4は、無指向性とする。また、前述のように、エコーは単一周波数であるので、送波器4は、エコー周波数のみを放射できればよいものとする。
以下、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の機能を説明する。
まず、制御・演算部1は、送波器4を駆動し、送波器4から想定している標的定位の有効範囲に向けて超音波の探査音を放射させる。
想定している標的定位の有効範囲内に標的がある場合、探査音は標的に当たり、エコーとなって反射してくる。このエコーは2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3))によって観測されて、2つのエコー波形(以下、「エコー波形A」、及び「エコー波形B」と呼称する)が得られる。このエコー波形Aとエコー波形Bは、制御・演算部1に伝達される。
【0022】
制御・演算部1は、探査音の放射からエコーの受波までに要した時間から、標的の距離を求める。また、2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3))には垂直方向に角度差が設けられているため、標的の存在する垂直方向によって、この2つのマイクロホン間で得られるエコー音圧には差が発生する。このことを利用して、制御・演算部1は、エコー波形Aとエコー波形B間の音圧の比を計算し、該計算で得られた音圧比の値から、予め記憶されている音圧比−垂直角度の特性を示す対応表を参照して、標的の垂直方向を求める。
【0023】
次に、標的の水平方向を求める方法であるが、ここでは、得られたエコー波形AとBとを足し合わせることで、マイクロホンA(2)及びマイクロホンB(3)を仮想的に1つのマイクロホンとした場合の合成のエコー波形を得ることができる。
この場合、この仮想のマイクロホンは、本アクティブソナー装置の正面方向に最も強い感度を有する。さらに、エコー波形Aとエコー波形Bとを足し合わせる際に、それぞれの間に時間差φを設けることで、最大感度方向を左右に変化させることができる。
制御・演算部1は、時間差+φを加えた場合のエコー波形A、Bの和と、時間差−φを加えた場合のエコー波形A、Bの和を求め、それぞれの結果の波形の音圧値の比を計算する。次に、この計算値と、音圧比−水平角度の特性を示す対応表とを参照して、標的の水平方向を求める。
【0024】
垂直方向での場合と同様に、標的の水平方向が変化すると、それに伴い前記2つのマイクロホンで観測されるエコー音圧の比が変化する。また、有効範囲内において音圧の比は標的の水平方向によって固有であり、勿論、標的の垂直方向が変化しても、この比は保たれる。この特性を利用し、垂直方向と同様に、前記2つのマイクロホンから成る前記仮想のマイクロホンで得られるエコー音圧の比から、標的の水平方向を求めることができる。 具体的には、どの音圧比の場合どの角度に相当するかの音圧比‐角度特性を予め用意しておき、得られた実際の値とを比較して標的の水平方向を求める。
【0025】
このように、音圧の比を用いることにより、標的がマイクロホンアレイの正面方向を含む水平面上、若しくは正中面上に無くとも、一定の角度内(シミュレーションでは水平・垂直共に±65°程度) であれば、同じアルゴリズムで方向判別が可能であるとの結果が得られている。
以上から得られた標的までの距離、標的の垂直方向、及び標的の水平方向の各情報に基づいて標的の座標(3次元位置)を特定する。
さらに、この標的の座標の動きから、標的のカテゴリーを認識することも可能である。
本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置は、前述のとおり、2つのマイクロホンの出力の和や差を計算するだけであるから、比較的少ない演算量で、標的の方向を定めることができる。
【0026】
図3は、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の主要部の配置を示す構成図である。
同図に示すように、本実施形態に係るアクティブソナー装置の主要部は、マイクロホンA(2)、マイクロホンB(3)、及び送波器4であり、この3者が、出力面及び観測面を外部に向けた状態でアクティブソナー筐体5の内部に取り付けられる。
なお、アクティブソナー筐体5の内部には、制御・演算部1(図1)を収納することも可能である。
【0027】
図4は、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の1使用例を示す説明図である。
本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置は、一般に、標的を定位して特定する必要がある各種の装置に取り付けることが可能であり、これにより、装置の動作を、該装置の使用者の動作に追随させることが可能となる。
図4に示す例では、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置を、ATM端末装置6(Automated Teller Machine)に実装する使用例を示しており、これにより、ATM端末装置6の運用方法を、例えば、長時間使用されない場合には、省電力状態で待機させ、使用者が接近してくることを予め検知して、自動的に省電力状態から通常状態に復帰させるような運用方法とすることができる。
【0028】
このような運用方法のケースにおいて、従来は距離センサを用いるのが通常であるが、この従来方法では、ATM端末装置6の前方を横切るだけの通行人と、ATM端末装置6の使用者との判別ができないので、誤動作をしてしまうといった問題点がある。
図4に示す例では、ATM端末装置6の上部に、本発明の主要な構成要素である、マイクロホンA(2)、マイクロホンB(3)、及び送波器4の3者が図3に示すように取り付けられたアクティブソナー筐体5を搭載している。
【0029】
図4に示す例では、制御・演算部1(図1)を、アクティブソナー筐体5の内部に収納し、即ち、1つのモジュールとして纏めているが、制御・演算部1(図1)は、ATM端末装置6に内蔵してもよい。いずれの場合であっても、アクティブソナー筐体5に収納されたアクティブソナー(マイクロホンA(2)、マイクロホンB(3)、及び送波器4)は、制御・演算部1の制御部と信号伝達が可能であるように電気的に接続される。
【0030】
図5は、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置の2つのマイクロホンの指向方向を示す説明図である。
同図では、ATM端末装置6の上部に取り付けられたアクティブソナー筐体5の上面図を示している。
図5に示すように、2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)とマイクロホンB(3))は、送波器4の指向方向、即ち、本アクティブソナー装置の正面方向を基準方向として、その左右方向に指向角度の差が設けて設置されている。
なお、送波器4は、ATM端末装置6の正面方向に志向されている。
【0031】
図6は、本発明の実施形態に係るアクティブソナー装置においてATM端末装置前方の標的を特定する処理の動作手順を示すフローチャート図である。
以下、図1〜5図を参照しながら、図6に示すフローチャートを使用して、本実施形態に係るアクティブソナー装置においてATM端末装置前方の標的を特定する処理の動作手順を説明する。
(ステップS1)
まず、ステップS1では、制御・演算部1の制御部が、送波器4に探査音指令信号を送出して、送波器4から探査音を発射させる。
【0032】
(ステップS2)
ステップS2では、2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)とマイクロホンB(3))が、標的からのエコー波形A,Bを受波し、エコー波形A,Bを伝達する信号を、制御・演算部1の演算部に送出する。
(ステップS3)
ステップS3では、制御・演算部1の演算部が、探査音の発射からエコー波形A,Bを受波するまでの時間に基づき、標的までの距離を計算する。
(ステップS4)
ステップS4では、制御・演算部1の演算部が、(エコー波形A)/(エコー波形B)に基づいて、標的の垂直方向を算出する。ここで、(エコー波形A)/(エコー波形B)とは、例えば、エコー波形Aのと、エコー波形Bとの、全波形区間に渡る音圧比とする。
【0033】
(ステップS5)
ステップS5では、制御・演算部1の演算部が、((エコー波形A)+(エコー波形B)+時間差φ))/((エコー波形A)+(エコー波形B)−時間差φ))に基づいて、標的の水平方向を算出する。ここで、(エコー波形A)+(エコー波形B)とは、例えば、エコー波形Aと、エコー波形Bとの、全波形区間に渡る和とし、時間差φは、前述のとおり、エコー波形Aとエコー波形Bとを足し合わせる際に、それぞれの間に設けた時間差である。
(ステップS6)
ステップS6では、制御・演算部1の演算部が、上記算出した標的までの距離、標的の水平方向、及び標的の垂直方向に基づいて、標的の三次元座標(即ち位置)を特定する。
【0034】
(ステップS7)
ステップS7では、制御・演算部1の演算部が、ステップS1〜S6を繰り返すことにより、標的の動きを認識し、標的のカテゴリー(例えば、標的が使用者か通行人か)を判別する。
(ステップS8)
ステップS8では、制御・演算部1の演算部が、上位の外部装置(例えばATM端末装置6)に、上記の判別結果を送出する。これにより、上位の外部装置は、この判別結果に基づいて、自己の動作を標的に適合させることができる。
【0035】
この実施形態に係るアクティブソナー装置によれば、マイクロホンとしては2つのマイクロホン(マイクロホンA(2)とマイクロホンB(3))だけを用いて標的を特定することが可能であり、このマイクロホンの本数の少なさに加えて、使用するマイクロホンの性能は、探査音に用いる周波数のみに対して必要な感度特性を有してさえいればよいため、比較的安価な狭帯域のマイクロホンを使用できるので、製造コストを削減することができる効果が有る。
【0036】
また、標的を特定する際の演算処理が基本的には加減算だけであり、既製品や周知の方法と比べると、比較的演算量が少なくできるので、演算装置を安価に構成することが可能となり、ひいては、アクティブソナー装置全体を安価かつ小型に構成することができる効果が有り、これにより、これまでコスト的・スペース的に搭載が困難であった装置・器具などにも本アクティブソナー装置の搭載が可能になる効果がある。
さらに、構成上、可動部を有していないので、機械的な構造が簡単となり、故障のリスクを軽減できると共に、設置・応用の幅を広げることができる効果がある。
【0037】
(他の使用例)
本発明に係るアクティブソナー装置は、自動車等の移動体、自転車、電動車椅子、車椅子、及びボートなどに搭載して、簡易的な衝突防止システムなどに応用することが考えられる。
また、陸上・水中問わず、侵入者検知などの防犯システムへの応用も考えられる。
さらに、対話型ロボットなどでは、ロボットが話者の方向を特定する必要があるが、そのための機構として利用することも考えられる。例えば、本発明に係るアクティブソナー装置を使用することにより、より単純なアルゴリズムで標的方向を追尾するロボットのような装置の構築に適用できる。この場合、本発明に係るアクティブソナー装置には、自律的に回転等の動きをさせることによって、動く標的を常にソナー正面に保持することができる。
【0038】
本発明は、小型・安価にアクティブソナー機能を実現できるため、以上の他にも、広範な分野への応用が期待できる。
なお、本発明では単一の標的の存在を想定しているが、複数標的を扱う場合は距離による分離が考えられる。即ち、探査音の発射からエコーが観測されるまでの時間によって、同じ距離にない複数の標的の情報を別個に扱うことができる。
【0039】
なお、本発明に係るアクティブソナー装置の各構成要素の処理の少なくとも一部をコンピュータ制御により実行するものとし、かつ、上記処理を、図6のフローチャートで示した手順によりコンピュータに実行せしめるプログラムは、半導体メモリを始め、CD−ROMや磁気テープなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配付してもよい。そして、少なくともマイクロコンピュータ、パーソナルコンピュータ、汎用コンピュータを範疇に含むコンピュータが、上記の記録媒体から上記プログラムを読み出して、実行するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係るアクティブソナー装置は、コストダウンさせたアクティブソナー装置を提供する場合に採用可能であり、特に、マイクロホンとしては2つだけを使用して、簡単な演算で標的の位置や方向の特定を行うことができるアクティブソナー装置の提供に好適である。
【符号の説明】
【0041】
1 制御・演算部
2 マイクロホンA
3 マイクロホンB
4 送波器
5 アクティブソナー筐体
6 ATM端末装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された所定の方向に向けて超音波を発信する超音波発射手段と、
前記超音波発射手段から発射された超音波が標的に反射して生じるエコーを入力する第1と第2の超音波受信手段と、
前記超音波発射手段から前記超音波が発射されてから前記エコーが前記第1と第2の超音波受信手段に入力されるまでの時間に基づいて前記標的までの距離を算出する距離算出手段と、
前記第1と第2の超音波受信手段で入力された前記エコーの音圧の比に基づいて前記標的の垂直方向を算出する垂直方向算出手段と、
前記第1と第2の超音波受信手段で入力された前記エコーの音圧の和を所定のプラスの時間差だけずらして加算した和と、前記第1と第2の超音波受信手段で入力された前記エコーの音圧の和を所定のマイナスの時間差だけずらして加算した和との比に基づいて前記標的の水平方向を算出する垂直方向算出手段と、
前記標的までの距離、前記標的の垂直方向、及び前記標的の水平方向の、前記算出結果に基づいて前記標的の3次元座標内の位置を定める位置決定手段と、
を備えたことを特徴とするアクティブソナー装置。
【請求項2】
前記位置決定手段が定める前記標的の前記3次元座標内の位置の動きを認識することにより、前記標的のカテゴリーを認識すると共に、該カテゴリーの認識結果を外部装置に送出することを特徴とする請求項1記載のアクティブソナー装置。
【請求項3】
前記外部装置はATM端末装置であることを特徴とする請求項2記載のアクティブソナー装置。
【請求項4】
前記第1と第2の超音波受信手段は、垂直方向と水平方向に互いに所定の角度差を有して設置されており、かつ前記超音波発射手段と共に少なくともその1部分が1つの筐体内に収納されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアクティブソナー装置。
【請求項5】
前記筐体内には、前記距離算出手段、前記水平方向算出手段、及び前記垂直方向算出手段の、各演算を実行する制御・演算装置が、さらに収納されていることを請求項4記載のアクティブソナー装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアクティブソナー装置を搭載したATM端末装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−17646(P2011−17646A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163140(P2009−163140)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】