説明

アクティブフィールド閉じ込めを有する電磁石

電磁石と、アクティブフィールド閉じ込めを含む関連のイオン注入システムを開示する。この電磁石は、最小限の歪み及び強度の劣化で、高く大きいギャップに双極子磁場を供給する。一実施形態では、イオンビームを変更する電磁石は、6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、イオンビームを通過させるべく強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤとを含み、内面は、第1の側面、第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、複数の通電ワイヤは、第1の側面及び第2の対向側面の開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にイオン注入に係り、より具体的には、イオンビームを変更するためにアクティブフィールド閉じ込めを有する電磁石に係る。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置は、一般に、半導体ウェハの製造に使用される。イオンビーム注入システムは、荷電イオンのイオンビームを生成し、イオンは、半導体ウェハの表面上に当てられると、ウェハ表面に注入、即ち、「ドープ」される。イオン注入装置において、例えば、約30cm幅より大きい幅広のビームが一般的となっている。広イオンビームは、2つの理由から有利である。つまり、低エネルギーで高電流のビームが移動する際の空間電荷を抑えることと、シングルウェハ注入に適したイオンビームを供給することに対して有利である。
【0003】
注入前に、高エネルギーの中性粒子(エネルギー汚染物質とも呼ぶ)をフィルタリングすることが必要となる場合がある。このフィルタリング工程は、一般に、静電偏向又は磁気偏向のいずれかを使用してイオンビームを曲げることによって行われる。磁気偏向では、一般に、双極子磁場を使用してエネルギー汚染物質を取り除く。双極子磁場は、フィルタリング工程の上流側でイオンビームを質量分析するためにも使用される。
【0004】
広イオンビームに関する1つの課題は、広イオンビームをリボンに対して垂直な面において曲げることができ、同時に、イオン注入システムを顕著に長くしない、イオンビーム内に収差をもたらさない、又は、大きい浮遊磁場をもたらさない、均一な双極子磁場を供給することである。浮遊磁場は、双極子磁場の前後のイオン注入装置の構成要素の動作に影響を与えるので、有害である。高電流で低エネルギーのイオンビームでは更に、マルチカスプ永久磁石を追加することでプラズマ中性化を高めることが望ましい。しかし、これらのマルチカスプ磁石は、イオンビームに近すぎる場合にはイオンビームを乱すので、高い(長い)ビームラインが望ましくなるが、高いビームラインの場合、高い磁石が必要となる。磁石がウェハに近い場合(エネルギー汚染フィルタの場合のように)、フリンジ磁場が急速にゼロになることが特に重要である。これは、磁石からのフリンジ磁場は、ウェハにおける電荷中性化に有害な影響を与える場合があるからである。
【0005】
イオンビームに大きい収差を導入することなく磁場をクランプすることは、広イオンビーム用の高い双極子磁石の設計について問題を呈する。従来では、スチールを使用して、大きいギャップを有する双極子磁石の磁場がスチール面に対して垂直となるよう磁場をパッシブにクランプしている。更に、スチールは、磁束に対して低い磁気抵抗経路を与える。不都合なことに、このアプローチは、磁石内の磁界の質及び大きさを著しく低下してしまう。特に、このアプローチは、スチール面の方向と並行であった元の双極子磁場を著しくゆがませ、また、磁束はクランプによってシャントされ、それにより、磁石内の磁場の大きさを減少してしまう。例えば、図1は、磁場のクランピングのない1つの例示的な広ギャップの双極子永久磁石Aの一部を示し、図2は、磁場をクランプするためにスチールBが追加された同じ磁石Aを示す。図2は更に、上述した磁場の歪みCと、双極子磁場の減少を示す。従来のスチールを用いるアプローチの場合のように垂直境界条件を課すことなく双極子磁場を閉じ込める方法が望まれる。
【0006】
上述に鑑みて、当該技術において、アクティブフィールド閉じ込めを有する、イオンビームを変更する電磁石が必要である。
【発明の概要】
【0007】
電磁石と、アクティブフィールド閉じ込めを含む関連のイオン注入システムを開示する。この電磁石は、最小限の歪み及び強度の劣化で、高く大きいギャップに双極子磁場を供給する。一実施形態では、イオンビームを変更する電磁石は、6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、イオンビームを通過させるべく強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤとを含み、内面は、第1の側面、第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、複数の通電ワイヤは、第1の側面及び第2の対向側面の開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる。
【0008】
本発明の第1の側面では、6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、イオンビームを通過させるべく強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤとを含み、内面は、第1の側面、第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、複数の通電ワイヤは、第1の側面及び第2の対向側面の開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、イオンビームを変更する電磁石を提供する。
【0009】
本発明の第2の側面では、イオンビーム発生器と、電磁石とを含み、電磁石は、6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、イオンビームを通過させるべく強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤとを含み、内面は、第1の側面、第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、複数の通電ワイヤは、第1の側面及び第2の対向側面の開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、イオン注入システムを提供する。
【0010】
本発明の第3の側面では、6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、イオンビームを通過させるべく強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤとを含み、内面は、第1の側面、第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、複数の通電ワイヤは、第1の側面及び第2の対向側面の開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、イオン注入システム用のエネルギー汚染物質フィルタリングシステムを提供する。
【0011】
本発明の第4の側面では、6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、イオンビームを通過させるべく強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤとを含み、内面は、第1の側面、第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、複数の通電ワイヤは、第1の側面及び第2の対向側面の開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、質量分析磁石を提供する。
【0012】
本発明の第5の側面では、ウィンドウフレーム型電磁石の磁場を閉じ込める方法であって、ウィンドウフレーム型電磁石の内面に沿い、且つ、各ウィンドウの面における各ウィンドウの周りの経路を有する複数の通電ワイヤを供給する段階と、複数の通電ワイヤに沿って電流を流す段階とを含む方法を提供する。
【0013】
本発明の例示する側面は、本願に記載した問題、及び、当業者は発見可能である他の言及していない問題を解決するよう設計される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の上述の及び他の特徴は、本発明の様々な実施形態を図示する添付図面と共に本発明の様々な側面に関する以下の詳細な説明からより容易に理解されよう。
【0015】
【図1】磁場のクランピングのない広ギャップの双極子永久磁石の一例の一部を示す図である。
【0016】
【図2】磁場をクランプするためにスチールが追加された図1の磁石の一部を示す図である。
【0017】
【図3A】本発明の一実施形態による例示的なイオン注入システムを示す平面図ある。
【0018】
【図3B】本発明の一実施形態による別の例示的なイオン注入システムを示す平面図である。
【0019】
【図3C】本発明の一実施形態による例示的なイオン注入システムを示す側面図である。
【0020】
【図4】本発明によるアクティブフィールド閉じ込めを含む電磁石の一実施形態を示す斜視図である。
【0021】
【図5】図4の電磁石を示す分解図である。
【0022】
【図6】図4の電磁石の代替実施形態を示す側断面図である。
【0023】
【図7】図4の電磁石の別の代替実施形態を示す側断面図である。
【0024】
【図8】図4の電磁石の別の代替実施形態を示す平面断面図である。
【0025】
【図9A−9B】図4の電磁石の別の代替実施形態をそれぞれ示す側面図及び平面図である。
【0026】
【図10】横方向に曲げられたイオンビームを示す図である。
【0027】
【図11】図4の電磁石の別の代替実施形態を示す側面図である。
【0028】
【図12】図4の電磁石の別の代替実施形態を示す端面図である。
【0029】
【図13】図4の電磁石の別の代替実施形態を示す端面図である。
【0030】
なお、本発明の図面は縮尺が取られているわけではない。図面は、本発明の一般的な側面のみを示すことを意図するので、発明の範囲を限定すると考えるべきではない。図面中、同様の参照符号は、様々な図面での同様の構成要素を表す。
【詳細な説明】
【0031】
詳細な説明には、体系化することのみを目的として以下の見出しが含まれる。即ち、I.序文、II.例示的なイオン注入システム、III.アクティブフィールド閉じ込めを有する電磁石、IV.応用、及びV.結論。
I.序論
【0032】
上述したように、一実施形態において、本発明は、イオン注入システムにおいてイオンビームを変更するために使用可能である、アクティブフィールド閉じ込めを有する電磁石を提供する。例えば、曲げる、集中する、質量分析する目的でイオンビームを変更するのに使用される電磁石において、従来のスチールを用いる磁場クランプにおいて生じるような垂直境界条件を課すことなく、双極子磁場を閉じ込める方法があることが望ましい。このアクティブフィールド閉じ込めを提供する1つの理論上のアプローチは、スチールの高い透磁率ではなく、ゼロの透磁率(μ=0)を有する領域を導入することである。この領域は、表面に対して接線方向に境界条件を課し、また、透磁率がゼロの領域の内側には磁場がないようにする。しかし、透磁率がゼロの領域の外側では、磁場はゼロではなく、その結果、この領域だけアクティブフィールド閉じ込め特性を有さないことになる。この状況に対処する1つのアプローチは、透磁率がゼロの領域を、透磁率の高い(例えば、スチール)領域で支持して、電磁石内に双極子磁場を閉じ込める所望の効果を得、同時にその方向を境界と並行に維持し、更に、外側にゼロの磁場を有するようにすることである。しかし、このアプローチにおける課題は、透磁率がゼロの材料は超電導状態においてしか存在しないので(マイスナー効果)、そのような条件をどのように実施するのかということである。更に、低温度においても、このアプローチでは、約100G未満の磁場しか対処できないので、有用な解決策を提供しない。本願に記載する本発明の一実施形態では、表面電流を使用することで超電導スラブを模倣する領域が用いられ、それにより、イオンビームを変更するためのアクティブフィールド閉じ込めを供給する。
II.例示的なイオン注入システム
【0033】
図3Aを参照するに、例示的なイオン注入システム10の平面図を示す。イオン注入システム10は、イオンビーム4を生成して、イオンビームフィルタリングサブシステム5、イオンビーム走査サブシステム6を介して、ターゲットサブシステム8に向けて送信するイオンビーム生成サブシステム2を含む。イオンビーム生成サブシステム2は、Varian Semiconductor Equipment Associates社から販売されるような任意の既知又はこれから開発されるイオンビーム発生器を含みうる。一般的に、ターゲットサブシステム8は、プラテン14に取り付けられる1つ以上の半導体ターゲット12(例えば、ウェハ)を含む。プラテン14、従って、ターゲット12の特徴は、ターゲット12、即ち、ウェハを回転させるプラテン駆動組立体(図示せず)と、ターゲット12の垂直位置を制御するターゲット垂直走査位置コントローラ18とによって制御されうる。イオン注入システム10は、当業者には既知である追加の構成要素を含んでもよい。例えば、ターゲットサブシステム8は、一般に、ウェハをイオン注入システム10内に運び、注入後にウェハを取り除く自動ウェハ取扱い機器、線量測定装置、電子フラッドガン等を含む。なお、イオンビーム4が通過する経路全体は、イオン注入時には真空にされることは理解されよう。
【0034】
イオンビーム生成サブシステム2は更に、ガスフロー40、イオンビーム源42、抽出マニピュレータ44、フィルタ磁石46、及び加速/減速カラム48を含みうる。フィルタ磁石46は、イオンビーム源42に近接して位置付けられることが好適である。抽出マニピュレータ44は、フィルタ磁石46とイオンビーム源42との間に位置付けられる。加速/減速カラム48は、ソースフィルタ46と質量分析器50との間に位置付けられる。イオンビームフィルタリングサブシステム5は、例えば、半円形の半径部53を有する双極子の原子質量単位(AMU)分析磁石52と、分解アパーチャ56を有する質量分解スリット54とを含みうる質量分析器50を含みうる。
【0035】
走査サブシステム6は、例えば、走査器60及び角度補正器62を含みうる。静電走査器でありうる走査器60は、フィルタリングされたイオンビームを偏向して、走査起点64から発散する複数のイオン軌道を有する走査イオンビームを生成する。走査器60は、離間された走査板66及び68を含みうる。イオンビーム4は、走査板66と走査板68との間の電界に従って偏向されうる。角度補正器62は、走査イオンビーム4内のイオンを、並行のイオン軌道を有するべく、即ち、走査イオンビーム4を集中させるべく偏向するよう設計される。一実施形態では、角度補正器62は、ギャップを画成するよう離間される複数の磁極片72と、磁気コイル74とを含みうる。走査イオンビーム4は、磁極片72間のギャップを通過し、ギャップ内の磁場に従って偏向される。この磁場は、磁気コイル74を流れる電流を変更することにより調節されうる。
【0036】
本発明の様々な実施形態による電磁石110(図4)は、幾つかの方法で、イオン注入システム10内に実装されうる。例えば、電磁石110(図4)は、角度補正器62の磁石として使用されうる。
【0037】
イオン注入システム10は、システムの様々な構成要素を制御すべく使用されるコンピュータシステム100に取り付けられうる。
【0038】
ここでは、リボンイオンビームのイオン注入システムの形である、本発明の一実施形態による別の例示的なイオン注入システム300の平面図である図3Bを参照する。イオン注入システム300は、例えば、イオン源306、質量分析磁石308、及び質量分解アパーチャ310を含みうるリボンイオンビーム発生器304を含む。イオン注入システム300は、例えば、10ミリアンプ(mA)より大きいイオンビームを供給する高電流システムでありうる。図示するように、初期イオンビームは、従来の狭いスリットの抽出ポイントツーポイント(extraction-point-to-point)光学部品(発散する実線により示すビーム)、又は、長いスリットの抽出パラレルツーポイント(extraction-parallel-to-point)光学部品(並行の破線により示すビーム)を使用して生成されうる。いずれの場合でも、質量分析磁石308が、その初期イオンビームを精製する。なお、上述したようなリボンイオンビーム発生器304は、例示に過ぎず、他のシステムも、本発明の範囲内で用いうることは認識すべきである。イオン注入システム300は更に、加速/減速並行化レンズシステム320と、エネルギーフィルタシステム322とを含みうる。加速/減速並行化レンズシステム320(以下、「レンズシステム320」と呼ぶ)は、リボンイオンビーム発生器304、より具体的には、質量分解アパーチャ310からファン状のリボンイオンビーム324を受取る。ファン状のリボンイオンビーム324は、例えば、約35cmまで広がりうる。用語「リボン」は、イオンビームが、横方向において実質的に細長いことを示す。レンズシステム320は、ファン状のリボンイオンビーム324を、実質的に並行なリボンイオンビーム312に少なくとも平行化し、また、リボンイオンビーム324を加速又は減速しうる。レンズシステム320は、ファン状のリボンイオンビーム324の平行化、及び、場合によっては加速又は減速のための複数の湾曲静電板326からなるセットと、実質的に並行なリボンイオンビーム312を加速又は減速する複数の加速/減速レンズ330からなるセットとを含みうる。なお、質量分解アパーチャ310は、湾曲静電板326のセットにおいて高さが均一のファン状のリボンビーム324を供給するので、これらの板(レンズ)326のスロットは、均一な幅を有することが必要である。レンズシステム320の下流側にあるエネルギーフィルタシステム322は、実質的に並行なリボンイオンビーム312によりワークピース328が注入される前にエネルギー汚染物質を除去する。本発明の様々な実施形態による電磁石110は、エネルギーフィルタシステム322内に実装されうる。
【0039】
図3Cは、電磁石110を質量分析磁石408の一部及びエネルギーフィルタシステム422として使用すること以外は図3Bに示すリボンイオン注入システムと同様の別のリボンイオン注入システム402の側面図を示す。このシステム402も、上述したように、イオン源406、質量分解アパーチャ410、及び加速/減速並行化レンズシステム420を含む。質量分析磁石408は、例えば、以下に、図11に示す及び図11について説明するように電磁石110を含みうる。
【0040】
例示的なイオン注入システムを上述したが、当業者は、本発明に任意の既知の又はこれから開発される、イオンビームを発生及び走査するシステムを用いうることは理解すべきである。上述した各イオン注入システムの動作は、当該技術において周知であるので、これらの処理の説明は、本発明の理解には必要ではない。しかし、本発明は、イオン注入の任意の既知の又はこれから開発される処理及び方法を用いうることは理解すべきである。簡潔にすることを目的として、必要である場合を除き、以下において図3Aの実施形態だけを参照することにする。
III.アクティブフィールド閉じ込めを有する電磁石
【0041】
図4及び5を参照して、イオンビームを変更すべくアクティブフィールド閉じ込めを有する電磁石110の一実施形態を説明する。図4は、明瞭にすることを目的として1つの側面が取り除かれた電磁石110の一実施形態の斜視図を示し、図5は、電磁石110の分解図を示す。電磁石110は、例えば、スチールである強磁性体から形成される6つの側面を含むボックス構造120を含む。従って、ボックス構造120は、第1の側面122、第2の対向側面124、第3の側面126、第4の対向側面128、第5の側面130(図5のみ)、及び第6の対向側面132(図5のみ)を含む。本願に使用する「対向側面」とは、概して反対側であることを意味し、平行といったように必ずしも特定の角度位置にある必要はない。第2、第4、及び第6の側面124、128、及び132は、参照することのみを目的として「対向側面」と呼ぶのであって、各側面は、対応する側面に対向するとして論理的に参照できると認識すべきである。第1の側面120及び第2の対向側面122には、それぞれ、イオンビーム4が通過するためのウィンドウをボックス構造120に形成するような開口134を含む。従って、電磁石110は、「ウィンドウフレーム型電磁石」とも呼ばれる場合がある。
【0042】
図5に最も明瞭に示すように、複数の通電ワイヤ140(以下「ワイヤ」)は、ボックス構造120の内面142に沿った経路を有するべくボックス構造120内に位置付けられる。内面142は、電流ループ144(図4)を形成すべく第1の側面122、第2の対向側面124、第3の側面126、及び第4の対向側面128を含む。図面には、個別のワイヤとして示しているが、当業者は、複数のワイヤ140は、実際には、単一の巻きワイヤであってもよいことは認識されよう。一実施形態では、複数のワイヤ140は、内面142に沿って実質的に均一に分布される。しかし、所望する場合には、特別なイオンビーム4の変更に対応するよう他の配置を用いてもよい。一実施形態では、複数のワイヤ140は、0.25インチの中空コア銅線からなる5つの層といったように層状にされてもよい。図5に示すように、複数のワイヤ140は、第1の側面122及び第2の対向側面124の各開口134をよけるよう位置付けられる。図4は、矢印によって電流の流れを示す。
【0043】
動作時、(図4における矢印により示すように)電流がワイヤ140の中を流れると、第5の側面130及び第6の対向側面132が磁極として機能する電磁場が形成される。磁束146は、図4における矢印に示す方向に流れる。複数のワイヤ140の中を流れる電流は、スチールの側面により引き起こされる垂直磁場(図2における歪みCを参照)を相殺し、また、イオンビーム4用の広い開口134(図4)を依然として可能にしつつ、電流を第3の側面126から第4の対向側面128に戻す。これは、スチールの側面がなく、戻り電流をイオンビーム4からできるだけ遠くに維持すべく電流がボックスの外側に戻される従来のシステムとは対照的である。従来の場合では、スチールのクランプは、フリンジ磁場をクランプすべく磁石端部の外側に使用する必要がり、これは双極子磁場をシャントし歪ませる。しかし、電磁石110の電流は、エネルギー又は磁場閉じ込め壁として機能する側面122、124に対してボックス構造120内に戻される。理想的な限界では、これらの電流は、第1の側面122及び第2の対向側面124を均一に覆い、それにより、ボックス構造120内に完全な双極子磁場が、また、外側にゼロの磁場がもたらされる。しかし、側面122、124にイオンビーム4用の開口134を作成することを目的として、複数のワイヤ140は、開口134をよけて通されるので、開口134の側面への電流を倍加する必要がある(図5において、開口134の付近に集まる線を参照)。これは理想的な状況を乱すが、高い双極子磁場は依然として内側において維持され、磁極の距離間隔ではなく開口134の高さのオーダーの長さ内で外側においてゼロとなる。つまり、電磁石110は、アクティブフィールドを閉じ込め、また、イオンビーム4が見る磁場を劣化することなく要望通りに高い双極子ボックスを可能にする。図4の例示的な電磁石110では、高さは、約40cmでありうる。電磁石110は更に、第1、第2の、第3、及び第4の側面122、124、126、128に亘って磁束を均一に戻す。その結果、従来のシステムでは磁場クランプに戻される大きい磁束を回避することで、スチールの飽和の問題も良好に管理することができる。
【0044】
図6乃至13を参照するに、電磁石110の様々な代替実施形態を説明する。図6を参照するに、電磁石は更に、スチールを飽和させることなく高い電流密度を利用することを可能にし、それにより、高温超電導体(HTS)電磁石210を製作する可能性をより現実的なものにする。従って、1つの代替実施形態では、複数の通電ワイヤ240(破線)は、高温超電導(HTS)体を含みうる。この場合、クリオスタット260が、複数のワイヤ240に結合される。クリオスタット260は、HTSワイヤ240だけを囲み(ボックス構造120の強磁性体は囲まない)、電磁石210の内部に位置付けられうる。
【0045】
図7及び8を参照するに、上述した電磁石構造は、電磁石110内に幾つかの追加の構造を設けることを可能にする。例えば、図7の側面図に示すように、高いビームガイドボックス270を、電磁石110のボックス構造120内に配置しうる。ビームガイドボックス270は、例えば、アルミニウムといった磁束により影響を受けない材料から形成されうる。ビームガイドボックス270は、イオンビーム4から距離の置かれたビームガイドボックス270の各側面に配置された複数のカスプ磁石272といったビームプラズマエンハンスメント特徴を収容しうる。コイル274が、ボックス構造120内でビームガイドボックス270を囲む。ビームガイドボックス270内は真空276でありうる。別の例では、図8の平面図に示すように、少なくとも1つのプラズマ源280を更に、例えば、各磁極(第5の側面130及び第6の側面132(図5))に隣接して1つずつ電磁石110内に配置してもよく、それにより、プラズマ284を中性化する。プラズマ源280は、一実施形態ではホットフィラメントDC放電、又は、別の実施形態ではRF誘導放電として実施されうる。1つ以上のプラズマ源280は、磁束146を使用して、イオンビーム4の中を、電子を運ぶことを可能にする。ビームガイドボックス270も、この実施形態内に設けてもよい。
【0046】
図9A及び9Bに示すように、別の代替実施形態では、第1の側面122及び第2の対向側面124はそれぞれ、各開口134に隣接する実質的に凸状の外面290を有しうる。開口134によって双極子磁場が乱されることにより、イオンビーム4の端におけるイオンは、中心におけるイオンよりも多く曲がり、それにより、イオンビーム4の断面は、図10における湾曲292によって示されるような形となる。凸状の外面290は、イオンビーム4における湾曲を取り除くことによってこの歪みを補償する。外面290は、直線面として示すが、階段状であっても曲線状であっても各開口134の中心に向かって材料が徐々に増加することを可能にする任意の他の形状であってよい。
【0047】
図11の側面図を参照するに、別の代替実施形態において、第1の側面122及び第2の対向側面124は、イオンビーム4における曲げに対応すべく互いに対して非平行となるよう角度付けられる。図11に更に示すように、第3及び第4の側面126、128は、電磁石110を通るイオンビーム4の経路に実質的に対応するよう形付けられうる。例えば、第3及び第4の側面126、128は、イオンビーム4の経路に依存して角度が付けられても湾曲されてもよい。
【0048】
図12の端面図を参照するに、別の代替実施形態では、第5の側面130及び第6の対向側面132は、イオンビーム4に異なる効果を与えるよう変更されうる。例えば、第5の側面130及び第6の対向側面132は、有効インデキシング(effective indexing)としても知られる垂直フォーカシングを可能にすべく互いに対し非平行となるよう角度付けられうる。この場合、第5の側面130及び第6の対向側面132は、磁極シムとして機能する。このように、角度付けは、フォーカシング効果を与えるべく傾斜磁場を形成する。更に、又は、或いは、図13の端面図に示すように、第5の側面130及び第6の対向側面132のうち少なくとも1つは、第1の側面122及び第2の対向側面124における開口134によって引き起こされる磁場の異常を補償又は補正すべく湾曲された少なくとも一部分を含みうる。
【0049】
上述した複数の代替実施形態は、別個に又は任意の所望の組み合わせで用いうる。
IV.応用
【0050】
電磁石の上述した実施形態は、イオン注入システム内の様々な異なるロケーションに、また、荷電粒子ビームを発生及び集中させる任意の他のシステムにおいて用いることができる。一実施形態では、電磁石は、イオン注入システムの最後の加速/減速カラム114(図3A)、320(図3B)、420(図3C)の後のエネルギー汚染物質フィルタリングシステム112(図3A)、322(図3B)、422(図3C)として使用しうる。別の実施形態では、電磁石は、質量分析器50(図3A)、308(図3B)、408(図3C)において使用されるような質量分析磁石として使用しうる。
V.結論
【0051】
本発明の様々な側面についての上述の説明は、例示及び説明することを目的として提示した。この説明は、本発明を網羅する又は開示した形式に発明を限定することを意図せず、また、明らかに多くの変更及び変形が可能である。当業者には明らかでありうるこのような変更及び変形は、特許請求の範囲により定義される発明の範囲に含まれることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを変更する電磁石であって、
6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、
前記イオンビームを通過させるべく前記強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、
前記強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤと、
を含み、
前記内面は、前記第1の側面、前記第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、
前記複数の通電ワイヤは、前記第1の側面及び前記第2の対向側面の前記開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、電磁石。
【請求項2】
前記強磁性ボックス構造は、スチールを含む材料から形成される、請求項1に記載の電磁石。
【請求項3】
前記複数のワイヤは、前記内面に沿って実質的に均一に分布される、請求項1に記載の電磁石。
【請求項4】
前記内面は、電流ループを形成し、
第5の側面及び第6の対向側面は、前記電磁石の磁極を形成する、請求項1に記載の電磁石。
【請求項5】
前記第5の側面及び前記第6の対向側面は、互いに対し非平行に角度付けられる、請求項4に記載の電磁石。
【請求項6】
前記第5の側面及び前記第6の対向側面のうちの少なくとも一方は、少なくとも湾曲部分を含む、請求項4に記載の電磁石。
【請求項7】
前記強磁性ボックス構造内に位置付けられるビームガイドボックスを更に含み、
前記ビームガイドボックスの各側面は、マルチプルカスプ磁石を含む、請求項1に記載の電磁石。
【請求項8】
前記複数のワイヤは、高温超電導(HTS)材料を含み、
前記複数のワイヤに結合されるクリオスタットを更に含む、請求項1に記載の電磁石。
【請求項9】
前記第1の側面及び前記第2の対向側面はそれぞれ、それぞれの開口に隣接する実質的に凸状の外面を有する、請求項1に記載の電磁石。
【請求項10】
前記第1の側面及び前記第2の対向側面は、互いに対し非平行に角度付けられる、請求項1に記載の電磁石。
【請求項11】
第5の側面及び第6の対向側面は、前記電磁石を通る前記イオンビームの経路に実質的に対応する形状を有する、請求項1に記載の電磁石。
【請求項12】
前記強磁性ボックス構造内に少なくとも1つのプラズマ源を更に含む、請求項1に記載の電磁石。
【請求項13】
前記複数のワイヤは、層状にされる、請求項1に記載の電磁石。
【請求項14】
イオンビーム発生器と、
電磁石と、
を含み、
前記電磁石は、
6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、
イオンビームを通過させるべく前記強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、
前記強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤと、
を含み、
前記内面は、前記第1の側面、前記第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、
前記複数の通電ワイヤは、前記第1の側面及び前記第2の対向側面の前記開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、イオン注入システム。
【請求項15】
前記強磁性ボックス構造は、スチールを含む材料から形成される、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項16】
前記複数のワイヤは、前記内面に沿って実質的に均一に分布される、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項17】
前記内面は、電流ループを形成し、
第5の側面及び第6の対向側面は、前記電磁石の磁極を形成する、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項18】
前記第5の側面及び前記第6の対向側面は、互いに対し非平行に角度付けられる、請求項17に記載のイオン注入システム。
【請求項19】
前記第5の側面及び前記第6の対向側面のうちの少なくとも一方は、少なくとも湾曲部分を含む、請求項17に記載のイオン注入システム。
【請求項20】
前記強磁性ボックス構造内に位置付けられるビームガイドボックスを更に含み、
前記ビームガイドボックスの各側面は、マルチプルカスプ磁石を含む、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項21】
前記複数のワイヤは、高温超電導(HTS)材料を含み、
前記複数のワイヤに結合されるクリオスタットを更に含む、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項22】
前記第1の側面及び前記第2の対向側面はそれぞれ、それぞれの開口に隣接する実質的に凸状の外面を有する、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項23】
前記第1の側面及び前記第2の対向側面は、互いに対し非平行に角度付けられる、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項24】
前記第1の側面及び前記第2の対向側面は、前記電磁石を通る前記イオンビームの経路に実質的に対応する形状を有する、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項25】
前記強磁性ボックス構造内に少なくとも1つのプラズマ源を更に含む、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項26】
前記複数のワイヤは、層状にされる、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項27】
6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、
イオンビームを通過させるべく前記強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、
前記強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤと、
を含み、
前記内面は、前記第1の側面、前記第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、
前記複数の通電ワイヤは、前記第1の側面及び前記第2の対向側面の前記開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、イオン注入システム用のエネルギー汚染物質フィルタリングシステム。
【請求項28】
6つの側面を含む強磁性ボックス構造と、
イオンビームを通過させるべく前記強磁性ボックス構造の第1の側面及び第2の対向側面のそれぞれにある開口と、
前記強磁性ボックス構造の内面に沿った経路を有する複数の通電ワイヤと、
を含み、
前記内面は、前記第1の側面、前記第2の対向側面、第3の側面、及び第4の対向側面を含み、
前記複数の通電ワイヤは、前記第1の側面及び前記第2の対向側面の前記開口のそれぞれの周りを通過するよう位置付けられる、質量分析磁石。
【請求項29】
ウィンドウフレーム型電磁石の磁場を閉じ込める方法であって、
前記ウィンドウフレーム型電磁石の内面に沿い、且つ、各ウィンドウの面における各ウィンドウの周りの経路を有する複数の通電ワイヤを供給する段階と、
前記複数の通電ワイヤに沿って電流を流す段階と、
を含む方法。
【請求項30】
前記供給する段階は、前記ウィンドウフレーム型電磁石の各ウィンドウに隣接する外面を、実質的に凸状の面として供給する段階を含む、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−527100(P2009−527100A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555300(P2008−555300)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/003700
【国際公開番号】WO2007/095189
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(500324750)バリアン・セミコンダクター・エクイップメント・アソシエイツ・インコーポレイテッド (88)
【Fターム(参考)】