説明

アクティブマトリクス光デバイス

共通の基板に配置された複数の有機薄膜トランジスタおよび複数の画素を備えるアクティブマトリクス有機光デバイスであって、複数の窪みを画定する共通のバンク層が、有機薄膜トランジスタおよび画素のために設けられ、窪みには、有機薄膜トランジスタの有機半導体材料を収容するものと、画素の有機光学活性材料を収容するものとがあることを特徴とするアクティブマトリクス有機光デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブマトリクス光デバイスに関する。本発明の実施の形態は、アクティブマトリクス光デバイス、特にアクティブマトリクス有機発光デバイスを形成するために有機薄膜トランジスタおよび光学活性画素を共通の基板に堆積させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタは大きく2種類に分けられる。すなわち、バイポーラ接合トランジスタと電界効果トランジスタである。いずれの種類も、3つの電極を備え、それらの間のチャネル領域に半導体材料が配置される、という共通の構造を共有する。バイポーラ接合トランジスタの3つの電極はエミッタ、コレクタ、ベースとして知られ、一方、電界効果トランジスタでは、3つの電極はソース、ドレイン、ゲートとして知られる。バイポーラ接合トランジスタは電流動作型デバイスと説明され得るが、これはベースとエミッタとの間を流れる電流によってエミッタとコレクタとの間の電流が制御されるからである。これに対して、電界効果トランジスタは電圧動作型デバイスと説明され得るが、これはゲートとソースとの間の電圧によってソースとドレインとの間を流れる電流が制御されるからである。
【0003】
また、トランジスタは、正の電荷担体(正孔)を伝導する半導体材料を備えるか、あるいは負の電荷担体(電子)を伝導する半導体材料を備えるかによって、それぞれp型およびn型に分類することもできる。半導体材料は、電荷を受容し、伝え、供与する能力に応じて選択され得る。正孔または電子を受容し、伝え、供与する半導体材料の能力は、材料に不純物を添加することによって高めることができる。また、ソース電極およびドレイン電極に用いられる材料は、正孔または電子を受容し注入する能力によっても選択できる。
【0004】
例えば、p型トランジスタ素子は、効率良く正孔を受容し、伝え、供与する半導体材料を選択し、効率良く半導体材料に正孔を注入し半導体材料から正孔を受容する材料をソース電極およびドレイン電極に選択することによって形成できる。電極のフェルミ準位と半導体材料のHOMO準位とのエネルギー準位の整合をうまくとることによって、正孔の注入および受容を向上させることができる。一方、n型トランジスタ素子は、効率良く電子を受容し、伝え、供与する半導体材料を選択し、効率良く半導体材料に電子を注入し半導体材料から電子を受容する材料をソース電極およびドレイン電極に選択することによって形成できる。電極のフェルミ準位と半導体材料のLUMO準位とのエネルギー準位の整合をうまくとることによって、電子の注入および受容を向上させることができる。
【0005】
トランジスタは、これらの構成要素を薄膜の状態で堆積させて薄膜トランジスタ(thin film transistor、TFT)を形成することにより、形成することができる。このようなデバイスで半導体材料として有機材料が用いられたものは、有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor、OTFT)として知られている。OTFTは、溶液処理のような低コストかつ低温の方法によって製造され得るものである。さらに、OTFTは曲げやすいプラスチック基板と相性が良く、ロール・ツー・ロール方式によりフレキシブル基板でOTFTを量産する可能性が見込まれる。
【0006】
有機薄膜トランジスタはさまざまな構成が知られている。そのようなデバイスの1つは絶縁ゲート型電界効果トランジスタであり、このトランジスタは、間のチャネル領域に半導体材料が配置されたソース電極およびドレイン電極と、半導体材料に隣接して配置されたゲート電極と、ゲート電極とチャネル領域の半導体材料との間に配置された絶縁材料の層とを備える。
【0007】
トランジスタの用途の1つは、光検出デバイスや発光デバイスのようなアクティブマトリクス光デバイスにおけるものであり、特に有機発光デバイスおよび有機光検出器アレイにおけるものである。例えば、アクティブマトリクス有機発光ディスプレイは、ディスプレイの画素を構成するマトリクス状の有機発光デバイスを備える。各有機発光デバイスは、アノードと、カソードと、それらの間に配置された有機発光層とを備える。動作の際は、正孔がアノードからデバイスに注入され、電子がカソードからデバイスに注入される。これら正孔と電子が有機発光層で結合して励起子を形成し、励起子は放射性崩壊を起こして光を発する(光検出デバイスでは、この過程は本質的に逆に進む)。電荷の注入と輸送を向上させるために、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、および/または電子輸送層などのような他の層が電極間に設けられてもよい。また、動作を向上させるために、電荷輸送材料と電荷放出材料との混合のような混合材料を用いることも可能である。有機光応答デバイスは、これと同じ構造の、2つの電極間に位置する有機層を備えるものであり、実際、逆に動作する有機発光デバイスと見なすことができる(つまり、デバイスが光にさらされると、正孔および電子が生成、分離される)。
【0008】
アクティブマトリクス有機発光ディスプレイの画素は、放出状態と非放出状態との間で切り替えることができるが、これは、蓄積キャパシタと、1つが駆動トランジスタである2つのトランジスタとを典型的に備える記憶素子を用いて、画素を流れる電流を変えることにより行われる。
【0009】
アクティブマトリクス有機発光ディスプレイを形成するために、薄膜トランジスタおよび有機発光デバイスに共通の基板を用いることが知られている。例えば、米国特許第6150668号明細書は、有機薄膜トランジスタ(OTFT)および有機発光デバイス(organic light-emissive device、OLED)を共通の基板に堆積させ、同じ層の材料をOTFTのゲートおよびOLEDのアノードの両方に用いることを開示している。OLEDのカソードは、シャドーマスクにより選択的に堆積させられる。さらに、米国特許第692450号明細書は、OTFTおよびOLEDを共通の基板に堆積させ、同じ層の材料をOTFTのソースおよびドレイン、ならびにOLEDのアノードに用いることを開示している。この文書は、OTFTのトップゲートおよびOLEDのカソードを1つのステップで形成することも開示しており、そこでは面全体に金属を堆積させてから層をパターン形成してトップゲートおよびカソードを形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記を見ると、従来技術の一体型OLED/OTFT構造では、OLEDおよびOTFTのいくつかの層が、堆積後の処理により選択的に堆積およびパターン形成されなければならないことは明らかである。例えば、OTFTの有機半導体材料とOLEDの有機発光材料とを収容するために、別々の構造が設けられる。さらに、従来技術の構成では、デバイスの上側でのOTFTとOLEDとの電気的な短絡を防ぐため、OLEDのカソードおよびOTFTのゲートが、堆積後の処理によって選択的に堆積されたりパターン形成されたりしてきた。
【0011】
本発明のいくつかの実施の形態の目的は、共通の基板に堆積させられた薄膜トランジスタおよび有機発光デバイスを備えるアクティブマトリクス有機発光ディスプレイを製造する方法であって、従来技術の構成よりも簡単かつ迅速でディスプレイ製造工程における時間とコストを節約する方法を提供することである。
【0012】
本発明のいくつかの実施の形態のさらなる目的は、そのような方法に関わる処理ステップを削減し、共通の基板に堆積させられた薄膜トランジスタおよび有機発光デバイスを備えるアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの新しい構造を作り出すことである。
【0013】
本発明のいくつかの実施の形態のさらなる目的は、アクティブマトリクス有機発光ディスプレイにおいて共通の基板に堆積させられた薄膜トランジスタと有機発光デバイスとを隔離して薄膜トランジスタと有機発光デバイスとの電気的な短絡を防ぐための、代替となる方法および構造を提供することである。
【0014】
本発明のいくつかの実施の形態のさらなる目的は、アクティブマトリクス有機発光ディスプレイにおいて有機発光デバイスと共通の基板に堆積させられた薄膜トランジスタを封止するための、代替となる方法および構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
共通の基板に配置された複数の有機薄膜トランジスタおよび複数の画素を備えるアクティブマトリクス有機光デバイスであって、複数の窪みを画定する共通のバンク層が、有機薄膜トランジスタおよび画素のために設けられ、窪みには、有機薄膜トランジスタの有機半導体材料を収容するものと、画素の有機光学活性材料を収容するものとがあることを特徴とするアクティブマトリクス有機光デバイスである。
【0016】
光デバイスは、有機光応答デバイス(例えば光検出器)または有機発光デバイス(例えば有機発光ディスプレイ)であってよい。デバイスは、有機光学活性材料が有機発光材料である有機発光デバイスであることが好ましい。
【0017】
画素回路は、各画素およびそれに関連する有機薄膜トランジスタと、付加的な駆動要素とで構成される。例えば、アクティブマトリクス有機発光デバイスの各画素回路は、典型的には、発光画素ダイオードと、これに関連する、駆動トランジスタとして働く有機薄膜トランジスタと、スイッチング薄膜トランジスタと、キャパシタとを備えるものである。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、複数の有機薄膜トランジスタおよび複数の画素を共通の基板に形成することを含むアクティブマトリクス有機光デバイスの製造方法であって、複数の窪みを画定する共通のバンク層が、有機薄膜トランジスタおよび画素のために設けられ、窪みには、有機薄膜トランジスタの有機半導体材料を収容するものと、画素の有機光学活性材料を収容するものとがあることを特徴とする方法が提供される。
【0019】
本発明の第1および第2の態様によれば、アクティブマトリクス有機光デバイスにおいて、有機薄膜トランジスタの有機半導体材料および画素の有機光学活性材料の両方のために共通のバンク構造が設けられる。共通のバンク構造により、共通の基板にOTFTと画素構造とを堆積させる時にこれらを隔離するための、迅速で簡単な方法が提供される。
【0020】
本発明の第3の態様によれば、アクティブマトリクス有機光デバイスを形成する方法であって、複数の薄膜トランジスタおよび複数の有機光学活性画素を共通の基板に堆積させることを含み、アクティブマトリクス有機光デバイスの上側において有機光学活性画素から薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁分離構造が設けられることを特徴とする方法が提供される。
【0021】
本発明の第4の態様によれば、共通の基板の複数の薄膜トランジスタおよび複数の有機光学活性画素を備えるアクティブマトリクス有機光デバイスであって、アクティブマトリクス有機光デバイスの上側において有機光学活性画素から薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁分離構造が設けられることを特徴とするアクティブマトリクス有機光デバイスが提供される。
【0022】
本発明の第3および第4の態様によれば、有機光デバイスの上側において画素から薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁分離構造が設けられる。そのような構成により、少なくとも1つの画素および薄膜トランジスタの、上部電極材料は、従来技術の構成のように堆積後の処理により選択的に堆積またはパターン形成される必要がない。これを実現するため、絶縁分離構造は上部電極層の堆積より先に設けられる。
【0023】
ある構成において、絶縁分離構造は、薄膜トランジスタの上部電極材料が画素の上部電極材料から電気的に隔離されるように、薄膜トランジスタの周囲に隆起したリングとして設けられる。リングは、フォトリソグラフィで形成されてよく、またアンダーカット構造(すなわち、リング壁の厚さが上面または上面付近で最も広くなっている)を有してよい。
【0024】
上部電極は1つ以上の層から形成されてよい。例えば、画素の上部電極は、アルミニウムの単層か、またはアルミニウムおよびバリウムの二重層を備えるカソードであってよい。有機発光デバイスの場合、有機発光画素の上部電極はカソードであることが好ましいが、画素がカソード−有機発光材料−アノードの順に作られる、いわゆる「逆さまの」デバイスではアノードであってよい。
【0025】
別の構成において、絶縁分離構造は、画素の上部電極材料から薄膜トランジスタを電気的に隔離するために、薄膜トランジスタ上に絶縁材料の層を備える。
【0026】
さらに別の構成では、薄膜トランジスタ周囲の絶縁リング分離構造と薄膜トランジスタ上の絶縁材料の層との組み合わせが設けられる。
【0027】
絶縁分離構造は、本発明の第1および第2の態様に関連して説明した共通バンク構造に加えて設けられてもよい。例えば、隆起リング構造を、バンク構造上部で薄膜トランジスタの周囲に設けることができる。
【0028】
薄膜トランジスタおよび画素の双方の上部電極は、薄膜トランジスタおよび有機発光画素の上部電極を別々に堆積およびパターン形成しなくて済むように、共通の材料を堆積させることによって形成してよい。上部電極材料は、本発明の第3および第4の態様に関連して説明したように薄膜トランジスタおよび有機発光画素の上部電極を電気的に隔離する絶縁分離構造と共に、ディスプレイの活性領域全体の上に全面的に堆積させることができる。つまり、薄膜トランジスタおよび有機発光画素の上部電極は、単一の堆積ステップで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
次に、添付の図面を参照して、単に例として、本発明をさらに詳しく説明する。
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの一部を示す図である。
【図2】図2は、本発明の別の実施の形態に係るアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの一部を示す図である。
【図3】図3は、図1に示す実施の形態に係るアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの形成に関わるステップを説明する図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る有機薄膜トランジスタと有機発光デバイスとの分離を説明する平面図を示す。
【図5】図5は、図4に示す種類の電極分離構造を複数備えるアクティブマトリクス有機発光ディスプレイを説明する平面図を示す。
【図6】図6は、別の実施の形態に係る複数の電極分離構造を備えるアクティブマトリクス有機発光ディスプレイを説明する平面図を示す。
【図7】図7は、トップゲート型薄膜トランジスタを備える、本発明の別の実施の形態に係るアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの一部を示す図である。
【図8】図8は、共通のカソードおよびゲートを、ゲートを接続するバイアと共に備える、本発明の別の実施の形態に係るアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係るアクティブマトリクス有機発光ディスプレイの一部を示す。本図は、基板の右側に堆積させられた有機発光デバイス(OLED)と、OLEDを駆動するために基板の左側に堆積させられた有機薄膜トランジスタ(OTFT)とを説明する図である。
【0031】
OTFTはボトムゲート型であり、ゲート2と、ゲート誘電体層4と、ソース電極6およびドレイン電極8と、有機半導体材料の層10とを備える。
【0032】
OLEDは、アノード20と、正孔注入層22と、正孔輸送層24と、有機発光層26と、カソード28とを備える。
【0033】
共通バンク構造30には、OLEDおよびOTFTの少なくともいくつかの層が堆積させられる窪みが設けられる。
【0034】
バンク構造30上部でOTFTの周囲には分離リング32が設けられる。分離リング32は、OLEDとOTFTとをデバイス上部で短絡させずにOLEDのカソード材料をディスプレイの活性領域上に全面的に堆積させることができるように、OTFTをOLEDから隔離する。つまり、分離リングは、OLED上に堆積させられたカソード材料をOTFT上に堆積させられたカソード材料から分離する。分離リングは、OLEDとOTFTとの電気的な隔離を向上するアンダーカット構造を有すると有利である。
【0035】
前述の構成は有利である。なぜなら、アクティブマトリクス有機発光ディスプレイでは、OLED(PLED(polymer light-emissive device、ポリマー発光デバイス)またはSMOLED(small molecule organic light-emissive device、小分子有機発光デバイス)であってよい)のカソードがディスプレイの活性表面全体の上に堆積させられるのが通例だからである。これは、アクティブマトリクスOLEDディスプレイでは、各OLEDサブ画素が、共通のカソード接続を有し、アノード接続の制御によって選択されるためである。
【0036】
ボトムエミッション型アクティブマトリクスOLEDディスプレイの問題点の1つは、OTFTとOLEDとが同じ基板に並んで堆積させられるということである。ボトムゲート型ディスプレイでは、OTFTの有機半導体は、表面に露出しているので、カソードと接触することになる。本明細書に開示された技術を用いることによって、OTFTの周囲のカソード分離リングが、OTFTを覆うカソード金属をOLEDのカソードから電気的に隔離する。同時に、OTFTを覆う金属は、主要な封止材として働く。
【0037】
前述のカソード分離リング構造の代替として、OLEDのカソード金属の堆積より先に絶縁材料の層をOTFTの上に設けることもできる。そのような絶縁層を用いてOTFTをカソードから保護/不動態化することは、不完全な有機半導体被覆の結果として露出金属領域が生じた場合にカソードがソース電極およびドレイン電極と短絡するのを防ぐために、また短チャネル効果を防ぐために、必要となる場合がある。これは、カソードの堆積より先に有機絶縁膜をOTFTの上部に堆積させることによって実現され得る。
【0038】
図2に示すある構成では、上で論じた2つの代替手法が組み合わされる。すなわち、カソードの電気的、物理的、および化学的な特性からOTFTをさらに保護および隔離するために、リング分離部および絶縁層34(有機不動態化材料)の両方が設けられる。例えば、有機半導体材料が溶液から堆積させられる場合、溶媒蒸発に伴う効果によって、結果として生じる膜10が中央部より周辺部で薄くなることがある。この場合、絶縁層34は、有機薄膜トランジスタを覆うカソード金属の層がソース電極6および/またはドレイン電極8と接触するのを防ぐ働きをする。なお、TFTの有機半導体材料の上への絶縁層の付加以外、図2の他の要素は図1に示したものと同じなので、明確にするため、あらためてラベルを付すことはしていない。
【0039】
ここで好ましい手法は、有機半導体材料の上部へのインクジェット印刷によって絶縁層34の不動態化材料を堆積させることであろう。そのようなインクジェット可能な不動態化材料は、有機体であることが好ましい。不動態化インクによる有機半導体材料の再溶解を防ぐには、2つの手法のうちの1つを利用してよい。すなわち、(1)広範囲の不動態化溶媒を用いることができるようにするための有機半導体材料の架橋か、または(2)直交する溶媒でのインクジェット印刷かのいずれかである。後者の手法について見ると、有機半導体材料は一般に非極性溶媒に溶けるのに対して、不動態化材料は一般に極性溶媒(メタノール、エタノール、水、PGMEA(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート))に溶ける。有機不動態化材料として用いられる典型的な材料としては、PVA(ポリビニルアセテート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PVP(ポリビニルフェノール)などがある。
【0040】
図3に、本発明をOTFT−PLEDディスプレイにおいて実装する1つの方法を示す。このバックプレーンは、以下のステップ(模式的断面図を示す)で作り上げられる。
1.ゲート2およびPLEDアノード20の堆積およびパターン形成(例えば、ITO被覆基板のパターン形成)
2.誘電体の堆積およびパターン形成4(例えば、架橋可能かつ光パターン形成可能な誘電体)
3.ソース−ドレイン材料の堆積およびパターン形成6、8(例えば金、フォトリソグラフィ)
4.バンクの堆積およびパターン形成30
5.カソード分離部の堆積およびパターン形成32
6.例えばインクジェット印刷による、有機層の堆積(OTFTでは有機半導体10、OLEDでは正孔注入層22と、正孔輸送層24と、発光ポリマー26)
7.カソードの堆積28
【0041】
図3の有機層は、窪みの中に完全に収容されている。これが好ましいが、不可欠でないことは認められるであろう。例えば、層26が窪みの縁を超えて延びてはいるが画素の発光領域は依然として窪みの境界で画定される、となるように発光ポリマーが堆積させられてよい。同様に、画素の他の層も、窪みの境界を越えて延びるが(実際、これは発光画素のカソードにとって好ましい)、画素の発光領域または光検出領域は依然として窪みの境界で画定される、となるようにしてよい。
【0042】
カソード分離部は、OTFTを覆うカソード金属とOLEDを覆う金属の領域との電気的導通を断つものである。
【0043】
図4は、有機薄膜トランジスタと有機発光デバイスとの分離を説明する平面図を示す。この平面図は、分離部(先に論じた図では断面で示された)が、OTFTを覆う金属を隔離するために実際はリング形状になっていることを示す。カソード分離リングは、OTFTの有機半導体材料10が位置する領域を取り囲む。図4の実施の形態の有機半導体材料は2つの窪みに収容されており、これら2つの窪みにある材料が共に単一のOTFTの一部を構成する。図4に示すように複数の窪みを使うことは、有機半導体材料を窪みへ印刷する際に確実に窪みを満たすように窪みの寸法を選択し得る、という点で有利であるが、その結果、窪みどうしの間のバンク材料の不活性領域のために実際にOTFTの面積が増大し、結局、発光画素のために使用できる基板の面積の割合が減ってしまう。ゆえに、代替となる構成では、OTFTの面積を最小化するため、有機半導体材料が単一の大きな窪みに収容される。
【0044】
図5は、図4に示す種類の電極分離構造を複数備えるアクティブマトリクス有機発光ディスプレイを説明する平面図を示す。カソードの個々の領域だけがカソード面から「切り取られ」ており、パネル全体の電気的導通は保たれている。
【0045】
図6は、別の実施の形態に係る複数の電極分離構造を備えるアクティブマトリクス有機発光ディスプレイを説明する平面図を示す。この構成では、カソード分離リングがディスプレイの端から端にわたるラインへと結合されている。このような構成により、パッシブマトリクスディスプレイのようにカソードが列へと分離される。この場合、ラインどうしをディスプレイ端部において接続する必要がある。図6では、ディスプレイ全体にわたって共通のカソードを形成するためにカソード列がディスプレイの底部領域に沿って接続されている様子が描かれているのが分かる。
【0046】
図7は、トップゲート型薄膜トランジスタを備える別の実施の形態を示す図である。図1に示すボトムゲート型TFTにおけるものと同様の部品には同一の番号を用いている。このトップゲート型構成では、OLEDは図1に示す構造と同じ構造を有するが、TFTの構造は、ソース6およびドレイン8が基板に堆積させられるように、事実上逆向きにされる。共通バンク構造30が堆積させられて窪みを形成し、有機半導体材料10が、窪みの中の、ソースおよびドレインの上に堆積させられる。続いてゲート誘電体4およびゲート電極2が堆積させられてTFTが完成する。
【0047】
図7に示す実施の形態では、OLEDを覆うカソード材料28からゲート電極2を絶縁するために、ゲート電極2の上に絶縁材料の層44が堆積させられる。絶縁材料44は、図2の有機不動態化層34に用いられるものと同じ材料であってよい。あるいは、異なる材料が選択されてもよいが、これは、この構成ではゲート誘電体およびゲート電極が下にある有機半導体材料をある程度保護し、その結果、図2の層34よりも広範囲の材料が層44用に選択され得るからである。
【0048】
図8は、共通のカソードおよびゲート材料28を備える別の実施の形態を示す図である。この構成では、OLEDのカソード材料28がTFTのゲート電極としても機能するため、絶縁層は不要である。ここでもまた、共通の部品については先に論じた図と共通の参照番号を用いている。
【0049】
図8に示す構成には、ゲート電極を導電性の接続ライン52へ接続するための付加的なバイア接点50が示されている。
【0050】
このように、本発明の実施の形態は、トップゲート型またはボトムゲート型の薄膜トランジスタを備えてよい。上部電極材料は、TFTとOLEDとの短絡を防ぐ絶縁分離構造と共に、ディスプレイの活性領域全体の上に堆積させられてよい。本発明の実施の形態により、ディスプレイの表面全体を覆う共通の自己マスク化カソードでボトムエミッション型アクティブマトリクスディスプレイを製造することができる。分離されたカソードにより、OTFT構造に主要な封止が施される。カソード分離部と共に有機不動態化材料を用いることにより、カソードからのOTFTの隔離がさらに向上し、短絡効果が抑えられる。また、共通バンク構造を用いることにより、共通基板上のTFTおよびOLED双方の製造が簡単になる。
【0051】
以下、本発明に係るデバイスの製造に好適な材料および工程についてさらに詳しく説明する。
【0052】
(基板)
基板はリジッドでもフレキシブルでもよい。リジッド基板は、ガラスまたはシリコンから選択されてよく、また、フレキシブル基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリイミドなどのような薄いガラスまたはプラスチックで構成されてよい。
【0053】
有機半導体材料は、好適な溶媒の使用によって溶液処理可能としてよい。代表的な溶媒としては、トルエンやキシレンのようなモノアルキルベンゼンまたはポリアルキルベンゼン、テトラリン、クロロホルムなどがある。好ましい溶液堆積技術としては、スピンコーティング、インクジェット印刷などがある。その他の溶液堆積技術には、浸漬コーティング、ロール印刷、スクリーン印刷などがある。
【0054】
(有機半導体材料)
好ましい有機半導体材料としては、随意に置換されたペンタセンのような小分子、ポリアリーレンのような、特にポリフルオレンおよびポリチオフェンのような随意に置換されたポリマー、オリゴマーなどがある。異なる種類の材料の混合物(例えばポリマーと小分子との混合物)といった材料の混合物を用いてもよい。
【0055】
(ソース電極およびドレイン電極)
pチャネル型OTFTでは、ソース電極およびドレイン電極が、例えば金、プラチナ、パラジウム、モリブデン、タングステン、またはクロムなどのような、3.5eVより大きな仕事関数をもつ高仕事関数材料、好ましくは金属で構成されることが好ましい。その金属が4.5eVから5.5eVの範囲の仕事関数を有するとさらに好ましい。また、三酸化モリブデンや酸化インジウムスズなどのような他の好適な化合物、合金、および酸化物を用いてもよい。当技術分野で周知のように、ソース電極およびドレイン電極は、熱蒸着によって堆積させられてよく、また標準的なフォトリソグラフィおよびリフトオフ技術を用いてパターン形成されてよい。
【0056】
あるいは、ソース電極およびドレイン電極として導電性ポリマーを堆積させてもよい。そのような導電性ポリマーの例はポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)であるが、当技術分野では他の導電性ポリマーも知られている。そのような導電性ポリマーは、例えばスピンコーティング技術またはインクジェット印刷技術などの上で論じた溶液堆積技術を用いて、溶液から堆積させられてよい。
【0057】
nチャネル型OTFTでは、ソース電極およびドレイン電極が、例えば、カルシウムまたはバリウムのような3.5eVより小さな仕事関数を有する金属や、または金属化合物の薄層、特に、例えばフッ化リチウム、フッ化バリウム、酸化バリウムなどといったアルカリまたはアルカリ土類金属の酸化物またはフッ化物の薄層などの材料で構成されることが好ましい。あるいは、ソース電極およびドレイン電極として導電性ポリマーを堆積させてもよい。
【0058】
ソース電極およびドレイン電極は、製造を簡単にするために同じ材料から形成されることが好ましい。しかしながら、ソース電極およびドレイン電極が、それぞれ電荷の注入および取り出しの最適化のために異なる材料で形成されてもよいことは認められるであろう。
【0059】
ソース電極とドレイン電極との間で定まるチャネルの長さは最大で500マイクロメートルまで可能であるが、この長さは、200マイクロメートル未満であることが好ましく、100マイクロメートル未満がさらに好ましく、20マイクロメートル未満が最も好ましい。
【0060】
(ゲート電極)
ゲート電極2は、例えば金属(例えば金)または金属化合物(例えば酸化インジウムスズ)などの、広範囲の導電性材料から選択することができる。あるいは、導電性ポリマーをゲート電極2として堆積させてもよい。そのような導電性ポリマーは、例えばスピンコーティングまたはインクジェット印刷技術などの上で論じた溶液堆積技術を用いて、溶液から堆積させられてよい。
【0061】
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の厚さは、5〜200nmほどの範囲にあってよい。ただ、例えば原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy、AFM)によって測定すると、典型的には50nmである。
【0062】
(絶縁層)
絶縁層は、高い抵抗率を有する絶縁材料から選択された誘電体材料で構成される。本誘電体の誘電率kは、典型的には2〜3あたりであるが、kの値の高い材料が望ましい。なぜなら、OTFTで達成可能な静電容量はkに正比例し、ドレイン電流Iは静電容量に正比例するからである。従って、低い動作電圧で高いドレイン電流を達成するためには、チャネル領域の誘電体層が薄いOTFTが好ましい。
【0063】
誘電体材料は、有機であっても無機であってもよい。好ましい無機材料としては、SiO、SiN、スピンオンガラス(SOG)などがある。好ましい有機材料は概してポリマーであり、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリジン(polyvinylpyrrolidine、PVP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなアクリレート、ダウコーニング社から入手できるベンゾシクロブテン(benzocyclobutene、BCB)といった絶縁ポリマーなどがある。絶縁層は、材料の混合物から形成されてもよいし、多層構造で構成されてもよい。
【0064】
誘電体材料は、当技術分野で周知のように、熱蒸着、真空処理、または積層法によって堆積させられてよい。あるいは、誘電体材料は、例えばスピンコーティングまたはインクジェット印刷技術などの上で論じた溶液堆積技術を用いて、溶液から堆積させられてよい。
【0065】
誘電体材料が溶液から有機半導体に堆積させられる場合は、有機半導体の溶解を引き起こしてはならない。同様に、有機半導体が溶液から誘電体材料に堆積させられる場合は、誘電体材料が溶解してはならない。そのような溶解を回避するための技術としては、直交する溶媒の使用、すなわち最上層の堆積に下の層を溶解しない溶媒を使用することや、下の層を架橋することなどがある。
【0066】
絶縁層の厚さは、好ましくは2マイクロメートル未満であり、さらに好ましくは500nm未満である。
【0067】
(さらなる層)
本デバイス構成には他の層が含まれてもよい。例えば、自己組織化単分子層(self- assembled monolayer、SAM)をゲート、ソース電極またはドレイン電極、基板、絶縁層、および有機半導体材料に堆積させることで、必要に応じて、結晶性を高め、接触抵抗を減らし、表面特性を修復し、付着性を高めてよい。特に、チャネル領域の誘電体表面に結合領域と有機領域とを備える単分子層を設けることで、例えば有機半導体の形態(特にポリマーの配列および結晶性)を改善し電荷トラップを覆うことによってデバイス性能を向上させ、特に、高いkをもつ誘電体表面を実現してよい。そのような単分子層の代表的な材料としては、長いアルキル鎖をもつクロロシランまたはアルコキシシラン、例えばオクタデシルトリクロロシランなどがある。
【0068】
以上、本発明について、その好ましい実施の形態を参照して詳しく示し説明したが、添付の請求の範囲により定められた本発明の範囲から離れることなく本実施の形態において構成および細部に多様な変形が可能であることは、当業者に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の基板に配置された複数の有機薄膜トランジスタおよび複数の画素を備えるアクティブマトリクス有機光デバイスであって、複数の窪みを画定する共通のバンク層が、前記有機薄膜トランジスタおよび前記画素のために設けられ、前記窪みには、前記有機薄膜トランジスタの有機半導体材料を収容するものと、前記画素の有機光学活性材料を収容するものとがあることを特徴とするアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項2】
前記共通基板に電極層が配置され、前記共通バンク層は、前記電極層上に配置され、前記有機薄膜トランジスタの有機半導体材料および前記画素の有機光学活性材料は、前記共通バンク層の前記窪み内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項3】
前記有機薄膜トランジスタは、ボトムゲート型薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項2に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項4】
前記電極層は、上部にゲート誘電体層を備える各有機薄膜トランジスタのゲート電極と、前記ゲート誘電体層上に配置されたソース電極およびドレイン電極とを備え、前記ゲート誘電体層は、前記ゲート電極上に配置されており、前記共通バンク層は、ソース電極およびドレイン電極の上に配置され、前記有機半導体材料は、ソース電極とドレイン電極との間のチャネル領域に配置されることを特徴とする請求項3に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項5】
前記有機薄膜トランジスタは、トップゲート型薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項2に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項6】
前記電極層は、各有機薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極を備え、前記共通バンク層は、前記ソース電極および前記ドレイン電極の上に配置され、各有機薄膜トランジスタは、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のチャネル領域に配置された有機半導体材料と、前記有機半導体材料上に配置されたゲート誘電体層と、前記ゲート誘電体層上に配置されたゲート電極とを備えることを特徴とする請求項5に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項7】
各薄膜トランジスタ上に配置された絶縁層をさらに備えることを特徴とする上記請求項のいずれかに記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項8】
前記アクティブマトリクス有機光デバイスの活性表面全体の上に上部電極層が配置され、前記アクティブマトリクス有機光デバイスの上側において前記画素から前記薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁分離構造が設けられることを特徴とする上記請求項のいずれかに記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項9】
前記絶縁分離構造は、前記バンク層上で前記薄膜トランジスタの周囲に、隆起したリングとして設けられることを特徴とする請求項8に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項10】
前記隆起リングは、アンダーカット壁構造を有することを特徴とする請求項9に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項11】
前記上部電極層は、各有機薄膜トランジスタの上部電極と、各画素の上部電極との両方を形成することを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載のアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項12】
複数の有機薄膜トランジスタおよび複数の画素を共通の基板に形成することを含むアクティブマトリクス有機光デバイスの製造方法であって、複数の窪みを画定する共通のバンク層が、前記有機薄膜トランジスタおよび前記画素のために設けられ、前記窪みには、前記有機薄膜トランジスタの有機半導体材料を収容するものと、前記画素の有機光学活性材料を収容するものとがあることを特徴とする方法。
【請求項13】
共通の基板の複数の薄膜トランジスタおよび複数の有機光学活性画素を備えるアクティブマトリクス有機光デバイスであって、前記アクティブマトリクス有機光デバイスの上側において前記有機光学活性画素から前記薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁分離構造が設けられることを特徴とするアクティブマトリクス有機光デバイス。
【請求項14】
アクティブマトリクス有機光デバイスを形成する方法であって、複数の薄膜トランジスタおよび複数の有機光学活性画素を共通の基板に堆積させることを含み、前記アクティブマトリクス有機光デバイスの上側において前記有機光学活性画素から前記薄膜トランジスタを電気的に隔離するために絶縁分離構造が設けられることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記薄膜トランジスタおよび前記有機光学活性画素は、単一の堆積ステップで共通の材料により形成される上部電極を有することを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−524026(P2010−524026A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501590(P2010−501590)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001190
【国際公開番号】WO2008/122780
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】