説明

アクティブ測温による脆弱プラークの診断

パルスレーザ等の高強度パルス光を利用して血管壁におけるプラークの脆弱性を判定するための装置の提供。 動脈硬化部位におけるプラークの脆弱性を判定するためのアクティブ測温装置であって、(1) 血管内に挿入されるバルーンカテーテル、(2) 血管の動脈硬化部位のプラーク部分に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、(3) 高強度パルス光照射によってプラーク部分で発生した熱の伝導による血管壁表面の温度変化を測定する温度測定手段、および(4) 血管壁表面の温度変化からプラークの脆弱性を解析する温度過渡応答解析手段を有するアクティブ測温装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アクティブ測温により血管壁内、例えば動脈硬化部位のプラークの脆弱性を判定するためのカテーテルを含む装置に関する。具体的には、動脈硬化部位に高強度パルス光を照射し、高強度パルス光照射によりプラーク部分で発生した熱の血管壁中の伝導を解析することによりプラークの脆弱性を判定する装置に関する。
【背景技術】
冠状動脈におけるアテローム性動脈硬化は、様々な合併症を発生させる。動脈硬化部位はプラークと線維性被膜から構成されており、線維性被膜の亀裂や破綻は血栓形成をもたらし、しばしば急性心筋梗塞等の主要器官梗塞につながる。合併症の危険性が少ない安定プラークから、破綻しやすく合併症の危険性が高い脆弱プラークへの進行には炎症が関わっていると考えられている。脆弱プラークは、通常血管壁内において薄い線維性被膜で覆われており、その形成にはマクロファージ、平滑筋細胞およびTリンパ球の浸潤が大きく関与している。炎症の進行にはプラークの温度上昇が伴うことが報告されており(VAN DER WAL,A.C.et al.,Circulation,89,36−44,1994、CASSCELLS,W.et al.,The Lancet,347,1447−1449,1996およびSTEFANADIS,G.et al.,Circulation,99,1965−1971,1999を参照)、プラークの温度を測定することにより脆弱プラークを検出することができ、心筋梗塞等の合併症の危険性を判定することが可能であることが示唆されている。
しかしながら、プラークは線維性被膜で覆われており、現在のカテーテルシステムを用いた場合、測温できるのは血管壁の内面だけであり、プラーク温度を直接測定することは困難である。またプラークで発生し伝導してきた熱による血管壁内面の温度上昇を測定することも考えられるが、通常は血流により熱の一部が奪われるため、温度上昇は0.1℃程度と低く、血管壁の温度上昇を精度よく測定することは、実際上は極めて困難である。
プラークで発生した熱は、プラークを覆う線維性被膜を伝導し血管壁内面に伝わるが、この際プラークの大きさ(幅および厚さ)および線維性被膜の厚さが熱伝導に影響を与え、プラークの大きさおよび線維性被膜の厚さにより血管壁内面の温度上昇は異なると考えられる。このことはプラークで発生した熱の伝導パターンを測定することができれば、プラークが安定したものかまたは脆弱なものであるかを判定しうることを示唆する。実際、アテローム性の動脈硬化病変を模擬したモデルを用いて、ダイオードレーザを外膜側から照射して炎症による温度上昇を模擬したプラークに相当する部分に、シャッターを用いて照射パターンを制御した連続レーザを照射して熱を発生させ、線維性被膜に相当する部分への発生した熱の伝導パターンを調べ、線維性被膜の厚さを推測する熱伝導シミュレーションモデルについての報告がなされている(Takemi Matsui et al.,IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL ENGINEERING,Vol.48,No.4,April 2001およびTakemi Matsui et al.,Journal of Medical Engineering & Technology,Volume 25,number5,181−184,September/October 2001を参照)。しかしながら、このシミュレーションモデルにおいては、in vitroにおいてブタの胸部下行大動脈血管壁内膜中にレーザ光の吸収を高めるためにインドシアニングリーン(ICG)を注入してプラークを模倣させ、該ICG吸収部位にレーザを照射し、発熱させ該熱の伝導による血管壁表面における経時的な温度変化を測定し、熱伝導をシミュレートしていた(Takemi Matsui et al.,Journal of Medical Engineering & Technology,Volume 25,number5,181−184,September/October 2001を参照)。このモデル実験は、プラークを覆う線維性被膜の厚さにより熱伝導パターンが変化することを示している。しかしながら、現実の動脈硬化部位を正確に模倣したモデルを用いたわけではなく、また熱伝導シミュレーションモデルも熱伝導による線維性被膜モデルの温度上昇と線維性被膜の厚さを関係付けた一次元モデルに過ぎず、血管系における正確な熱伝導シミュレーションとは程遠かった。さらに、該熱伝導シミュレーションモデルにおいては、経時的に血管壁の温度変化を測定しているものの、血管壁表面の温度上昇(ΔT)だけを追っており、経時的な温度変化における過渡応答を詳細には解析していない。さらに、実際にin vivoにおいてプラークに如何にしてレーザを照射し、人為的に発熱させ、そこから血管壁内面に伝導してきた熱を如何にして測定するかについても何ら示唆していなかった。
本発明は、パルスレーザ等の高強度パルス光を利用してアテローム性動脈硬化部位におけるプラークの脆弱性を判定するための装置の提供を目的とする。具体的には、動脈硬化部位に高強度パルス光を照射し、プラークでパルス光の吸収による熱を発生させ、発生した熱の血管壁内面における伝導パターンを測定することにより、プラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの炎症の進行度を算出し、プラークが安定なものか脆弱なものかを判定する装置の提供を目的とする。
【発明の開示】
本発明者等は、上記の従来技術における問題点を解決すべく鋭意検討を行った。すなわち、血管壁内、例えば動脈硬化部位に高強度パルス光を照射し、プラークで高強度パルス光の吸収により熱を発生させた場合に発生した熱がどのように血管壁内を伝導し、血管壁内面の温度がどのような経時的変化パターンを示すかを調べるために、血管壁の熱伝導シミュレーションモデルを作成した。この際、より正確な血管壁に対する熱伝導シミュレーションモデルを作成するために、二次元または三次元の非定常熱伝導有限要素解析により作成した。本発明者等は、実際にアテローム性動脈硬化部位に高強度パルス光を照射し、プラークで熱を発生させた場合の該熱の伝導による血管壁の温度変化パターンを実測し、該パターンを前記の血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した温度変化パターンと比較し、パラメータの調整によるフィッティングを行なうことにより、アテローム性動脈硬化部位におけるプラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの炎症の進行度が算出できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 血管壁内のプラークの脆弱性を判定するためのアクティブ測温装置であって、
(1) 血管内に挿入されるカテーテル、
(2) 血管壁内に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、および
(3) 照射された高強度パルス光の血管壁内のプラーク部分への吸収によりプラーク部分で発生した熱の伝導による血管壁内面の経時的温度変化を測定する温度測定手段
を有するアクティブ測温装置。
[2] 血管壁内のプラークの脆弱性を判定するためのアクティブ測温装置であって、
(1) 血管内に挿入されるカテーテル、
(2) 血管壁内に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、
(3) 照射された高強度パルス光の血管壁内のプラーク部分への吸収によりプラーク部分で発生した熱の伝導による血管壁内面の経時的温度変化を測定する温度測定手段、および
(4) 血管壁内面の経時的温度変化からプラークの脆弱性を解析する温度過渡応答解析手段
を有するアクティブ測温装置。
[3] 高強度パルス光がレーザである、[1]または[2]に記載のアクティブ測温装置。
[4] 高強度パルス光の波長がプラークに沈着したカロチンの吸収波長と同等である、[1]から[3]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[5] 脆弱性を判定しようとするプラークにあらかじめPhotodynamic Therapy用光感受性薬剤(PDT薬剤)が集積されており、(2)の高強度パルス光の波長が前記PDT薬剤の吸収波長に近いことを特徴とする、[1]から[3]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[6] (1)のカテーテルバルーンカテーテルであって、バルーンの拡張により(3)の温度測定手段の温度測定部が血管壁内面に接触し、温度を測定する、[1]から[5]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[7] (2)の高強度パルス光照射手段により血管壁内に高強度パルス光が照射されプラークに該高強度パルス光が吸収され熱を発生し、(3)の温度測定手段により血管壁中を伝導する該発生した熱による血管壁内面の経時的温度変化を測定し、(4)の温度過渡応答解析手段により血管壁内面の実際の経時的温度変化過渡応答曲線と温度過渡応答解析手段を含む血管壁に対する熱伝導シミュレータを用いて作成した経時的温度変化シミュレーションモデル曲線が比較され、血管壁内におけるプラークの脆弱性が判定される、[1]から[6]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[8] 血管壁内面における経時的温度変化シミュレーションモデル曲線が、血管壁の物性パラメータ、血管壁の構造に関するパラメータおよび高強度パルス光照射による発熱に関するパラメータが調整されている血管壁に対する熱伝導シミュレータを用いて作成される、[7]に記載のアクティブ測温装置。
[9] 血管壁の構造に関するパラメータが、血管内超音波イメージング(IVUS)により得られる、[8]に記載のアクティブ測温装置。
[10] (4)の解析手段が、血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した経時的な温度変化シミュレーションモデル曲線と血管への高強度パルス光照射後の血管壁内面の実際の経時的な温度変化過渡応答曲線とを比較し、血管壁内の線維性被膜の厚さに関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングしプラークを覆う線維性被膜の厚さが算出され、プラークの脆弱性を判定する、[1]から[9]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[11] さらに、プラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせプラークの炎症の進行度を推測し、プラークの脆弱性を判定する、[10]に記載のアクティブ測温装置。
[12] (2)の高強度パルス光照射手段においてビームの太さを変えることができ、太いビームを照射した場合の血管壁内面の経時的温度変化過渡応答曲線が、プラークの血流方向の大きさを反映する、[1]から[11]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[13] (3)の温度測定手段において同時に複数点の経時的な温度測定が可能である、[1]から[12]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[14] (4)の温度過渡応答解析手段において、熱伝導による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線のピーク前半部をフィッティングさせることによりプラークを覆う線維性被膜の厚さが算出される、[1]から[13]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[15] (4)の温度過渡応答解析手段において、熱伝導による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線のピーク後半部をフィッティングさせることによりプラークの厚み(体積、深さ)が算出される、[1]から[13]のいずれか一つに記載のアクティブ測温装置。
[16] 血管壁内におけるプラークの脆弱性判定システムであって、
(1) 血管壁内のプラーク部分への高強度パルス光照射により発生し血管壁内面へ伝導した熱による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線に関するデータを温度過渡応答解析手段へ転送する手段、
(2) 転送された温度変化過渡応答曲線に関するデータに基づいて、プラークを覆う線維性被膜の厚さを解析する温度過渡応答解析手段であって、
(a) 血管壁に対する熱伝導についてのパラメータに関するデータおよび熱伝導シミュレーションモデル曲線のデータを格納する記憶手段、ならびに
(b) 血管壁に対する熱伝導シミュレータにより求めた測温点における経時的温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測温点で測定した経時的温度変化過渡応答曲線を比較し、熱伝導シミュレーションにおけるパラメータを変化させて、シミュレーションの結果を実際の結果に合わせる演算手段
を有する温度過渡応答解析手段、ならびに
(3) 解析されたプラークを覆う線維性被膜の厚さに関する情報を出力する出力手段
を有するプラークの脆弱性判定システム。
[17] (6)(a)の演算手段において、さらに、プラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせプラークの炎症の進行度を推測し、(3)の出力手段においてプラークの炎症の進行度に関する情報を出力する、[16]に記載のプラークの脆弱性判定システム。
[18] 動脈硬化部位におけるプラークの脆弱性判定方法であって、
(1)温度過渡応答解析手段が、動脈硬化部位のプラーク部分への高強度パルス光照射により発生し血管壁内面へ伝導した熱による血管壁内面の温度変化過渡応答曲線に関するデータを受け取るステップ、
(2)該過渡応答解析手段に格納されている血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した経時的な温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測定した経時的な温度変化過渡応答曲線を比較し、プラークを覆う線維性被膜の厚さに関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせプラークを覆う線維性被膜の厚さを算出するステップ、ならびに
(3)算出されたプラークを覆う線維性被膜の厚さを出力するステップを
含むプラークの脆弱性判定方法。
[19] さらに、(2)のステップにおいて、プラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングしプラークの炎症の進行度を推測し、(3)のステップにおいて、算出されたプラークの炎症の進行度を出力する、[18]に記載のプラークの脆弱性判定方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の装置を示す図である。
図2は、血管壁に対する熱伝導シミュレーションモデルを示す図である。
図3は、本発明のシステムの概念図である。
図4は、本発明のシステムにより実行される処理のフローである。
図5は、血管片に対して加温を行った際の、内膜・中膜・外膜の3点の温度履歴を計測した結果を示す図である。
図6は、示差走査熱量測定計(Differential Scanning Calorimeter,DSC)でブタ新鮮摘出下行大動脈、ブタ乾燥下行大動脈の熱容量を測定した結果を示す図である。
図7は、血管壁に対する測温実験の結果と合うように行った熱伝導計算を行った結果を示す図である。
図8は、DSCによる熱容量測定の結果を利用した比熱値を用いて測温実験と合うように比熱を調整したものを示す図である。
図9は、求めた比熱値を使った熱伝導計算と該当する測温実験の比較の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の装置は、血栓形成を誘発し急性心筋梗塞の原因となる脆弱プラーク(vulnerable plaque)の存在を検出するアクティブ測温装置であり、本発明の装置により動脈硬化部位のプラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/または炎症の進行度がわかる。これらの情報によりプラークが安定なものか脆弱なものかを、すなわちプラークの脆弱性を判定することができる。プラークの脆弱性がわかると心筋梗塞に罹患する危険性を評価することができる。本発明においてアクティブ測温とは、血管壁内、例えば動脈硬化部位に高強度パルス光を照射することによりプラークで人為的に熱を発生させ、該人為的に発生した熱を血管壁内面で測定することを意味し、自然に発生した熱を血管壁内面で測定するパッシブ測温に対する語である。
本発明の装置はカテーテルを有する装置であって、高強度パルス光照射手段、血管壁内面の温度測定手段、バルーンおよび温度過渡応答解析手段を含む。
照射するパルス光を高強度で、なおかつプラークに沈着している色素に吸収されやすいものにすることで、高強度パルス光はプラークを覆う線維性被膜を通過し、プラークに達するとプラークに存在する色素により吸収されその部分で熱が発生する。発生した熱はすぐに発生箇所から周囲に伝導し、一部は線維性被膜内を通って、血管壁内面に達する。プラークの炎症の進行度によりプラーク中に沈着している高強度パルス光を吸収する色素の量が異なるのでプラークにおいて発生する熱量が変わり、またプラークを覆う線維性被膜の厚さにより血管壁に熱が伝導し内面に達するまでの時間および熱伝導により上昇する血管壁内面の温度が異なってくる。従って、高強度パルス光を照射してからの血管壁内面の温度変化を経時的にモニタすることによりプラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの炎症の進行度がわかる。この際、血管壁における熱伝導のシミュレーションモデル(血管壁に対する熱伝導シミュレータ)を作成しておき、該モデルの変化パターンを実際に測定した血管壁の温度変化パターンと比較することにより、線維性被膜の厚さおよびプラークの炎症の進行度を知ることができる。なお、プラークの炎症性は主にプラークに浸潤した炎症性細胞であるマクロファージの数で決まり、マクロファージの数が多いほどプラークの炎症が進行しているといえる。プラーク中のマクロファージはコレステロール脂質を貪食し、それに伴ってカロチンが沈着する。後述のように、本発明における一つの態様では、カロチンに吸収される波長の高強度パルス光を照射し、該高強度パルス光のエネルギーがカロチンに吸収され発熱することを利用している。また、プラークにおけるマクロファージの数とプラークの大きさは完全に対応しているのではないが、概ねプラークの大きさは集積したマクロファージの数を反映しているので、本発明においては、プラークの炎症の進行度の判定は、主にプラークの大きさ(幅および厚さ)の判定を意味する。特に、後述のように照射する高強度パルス光のビームを太くすることにより、プラークの血流方向の大きさを判定することができる。
本発明の装置のカテーテルは、通常血管内視鏡等において用いられているものを使用することができ、その径等は限定されない。カテーテルには高強度パルス光伝送手段、高強度パルス光を側射する手段、高強度パルス光照射および測温時に血流を閉止するためのバルーン、バルーンを拡張・収縮するための送吸液手段もしくは送吸気手段、温度測定手段等が配設される。
高強度パルス光発生手段は、通常の治療用高強度パルス光発生装置を用いることができる。本発明の装置において、高強度パルス光は動脈硬化部位の線維性被膜部分を透過し、プラーク部分に達するとプラークに吸収されそこで発熱する。
これは、上述のようにプラークにはカロチンが沈着しており、該カロチンが高強度パルス光エネルギーを吸収するためである。従って、カロチンの吸収波長である450nm〜500nm付近の波長を有する高強度パルス光を用いる。なお、高強度パルス光の波長が異なれば、同じ強度の高強度パルス光でも吸収される効率が異なってくるので、プラーク中で温度を発生する領域の広さが異なる。このため、得られる経時的温度変化曲線も異なってくるので、複数の波長の高強度パルス光を用いることにより多くの情報を得ることができる。また、高強度パルス光のビームの太さも限定されない。ビームの太さが拡大することによりプラーク中の熱が発生する領域が広くなり、その大きな領域全体からの熱伝導を測定することができる。その結果、ビームの太さを大きくすることにより、プラークの大きさ、特に血流方向の幅を判定することが可能である。この際、カテーテル内に異なる太さの高強度パルス光伝送用ファイバーを配設することにより、ビームの太さの異なる高強度パルス光を照射することができる。
さらに、プラークにあらかじめ光力学的治療(Photodynamic therapy;PDT)用光感受性薬剤(PDT薬剤)を集積させておいてもよい。PDTとは、ある種のポルフィリン誘導体等の光感受性薬剤とレーザ光などの光線を用いた複合治療であり、光感受性薬剤が治療を施そうとする癌組織などの病変部に選択的に集積するという性質を利用したものであり、光感受性薬剤を静脈注射等の方法により投与した後に、病変部にレーザ光等の光線を照射することにより主に光化学反応によって該組織を破壊する治療法である。PDT薬剤をプラークに選択的に集積させることにより、照射する高強度パルス光はカロチンよりも効率良くプラークに集積したPDT薬剤に吸収され、プラークにおける発熱量がカロチンの場合より大きくなる。このため、血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した計算結果と実測した結果とのフィッティングがより高い数値を利用して行えるので、より正確な結果を導き出すことが可能である。PDT薬剤としては、種々のものが知られており、例えばPhotofrinII(PHE)(630nm)(polyhematoporphyrin ether/ester)、ATX−S10(670nm)(gallium porphyrin complex)、5−ALA(630nm)(5−aminolevurinic acid hydrochloride)、NPe6(664nm)(mono−L−aspartyl chlorine6)、m−THPC(652nm)(tetra(m−hydroxyphenyl)chlorin)、SnET2(637nm)(tin ethyl etio−purpurin)、BPD−MA(690nm)(benzoporphyrin derivative monoacid ring A)、Lu−tex(732nm)(Lutetium Texaphyrin)等が挙げられる(慣用名、吸収波長を示し、さらに一般名を示してある)。これらを含む公知のPDT薬剤のいずれをも用いることができる。PDT薬剤はそれぞれ固有の吸収波長を有するので、照射する高強度パルス光はPDT薬剤の吸収波長に近いものを用いる必要がある。PDT薬剤は、静脈注射などで投与することによりプラークに集積する。これは、プラークに集積しているマクロファージに貪食されるためであると考えられる。PDT薬剤の投与タイミングは薬剤の種類により異なるが、本発明の装置による測温を行う数時間〜数日前に投与する。これは、充分時間を置くことによりPDT薬剤をプラークに充分集積させるためである。PDT薬剤は、該薬剤をリン酸緩衝塩溶液等の適当な緩衝液に溶解させ、必要に応じて医薬的に許容できる添加物を添加して投与する。添加物としては、有機溶媒等の溶解補助剤、酸、塩基等のpH調整剤、アスコルビン酸等の安定剤、グルコース等の賦形剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などが挙げられる。投与方法は、限定されず、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、経口投与等により投与すればよい。PDT薬剤の投与量も限定されず、静脈注射等により全身投与する場合は、0.01〜100mg/kg体重、好ましくは1〜5mg/kg体重である。
用いる高強度パルス光としてはパルスレーザ、チタンサファイアレーザの第二高調波、波長可変のオプティカルパラメトリックオッシレーター(OPO;Optical Parametric Oscillator)により発生する光線が挙げられる。レーザとしては、フラッシュランプ励起、XeClエキシマーレーザ励起等のパルス色素レーザ、GaAlAs等の半導体レーザが挙げられ、このなかでも波長可変性能が高いOPOが望ましい。OPOの例としては、Coherent社のMira−OPOなどが挙げられる。
PDT薬剤を用いない場合は、用いる高強度パルス光の波長はカロチンの吸収波長である、450〜500nm、好ましくは450〜480nmであり、PDT薬剤をあらかじめプラークに集積させる場合は、PDT薬剤の吸収波長に近い波長の高強度パルス光を用いる。
照射する高強度パルス光の強度は、限定されないがプラークを覆う線維性被膜を破壊しない程度の強度である必要があり、また血管壁の熱による温度変性を防ぐために血管壁の温度上昇が30℃以下となる強度であることが必要である。
高強度パルス光の照射時間も限定がないが、1ミリ秒程度が好ましい。
高強度パルス光を動脈の血管壁へ伝送する手段には、カテーテルの遠位端部付近に位置する、高強度パルス光を側射する手段および高強度パルス光を高強度パルス光発生装置から該高強度パルス光側射手段に伝送する石英ファイバー(光ファイバー)が含まれる。本明細書において「遠位端部付近」とは、高強度パルス光発生装置と連結された端部(近位端部)の反対側の端部に近い部分を意味し、遠位端部および遠位端部から数十cm程度の部分を指す。
石英ファイバーはカテーテルの中に含まれ、その一端で高強度パルス光発生装置と連結し、もう一端で高強度パルス光側射手段と連結している。本発明で用いられる石英ファイバーは、直径0.05〜0.3mm程度のきわめて細いものから、可視的な太さのものまで、カテーテルの中に収まり高強度パルス光エネルギーを伝送できる限り、広く種々の径のものを用いることができる。
高強度パルス光側射手段は、動脈血管壁に高強度パルス光を照射するための手段であり、石英ファイバー内を血管に沿って伝送されてきた高強度パルス光が血管壁内に入射し動脈硬化病変部のプラークに達するように側方照射する必要がある。高強度パルス光の側方照射は、高強度パルス光を屈折させるかまたは散乱させることなどにより達成することができ、該側射手段として、プリズム、散乱物質等が挙げられる。例えば、石英ファイバーの遠位端部付近に高強度パルス光が側方照射されるようにプリズムを備えていてもよいし、石英ファイバーの遠位端部付近を高強度パルス光が側方照射されるように粗面加工してもよい。また、石英ファイバーの遠位端部付近に高強度パルス光を散乱させるアルミナやシリカ等の散乱物質を塗付しておいてもよいし、またバルーン中にこれらの散乱物質を含有させておいてもよい。石英ファイバーの遠位端部付近から側方に射出された高強度パルス光が動脈を照射する面積範囲は、0.5cm〜3cmが好ましい。照射の面積範囲は、高強度パルス光のビームの太さを変えることにより適宜設定することができ、高強度パルス光のビームの太さは、高強度パルス光を伝送するファイバーの太さを変えればよい。
また、高強度パルス光照射の箇所は1箇所に限らず、複数箇所を同時に照射してもよい。複数箇所を同時に照射することにより、プラーク中の複数の箇所で熱が発生し、それらの箇所からの熱の伝導を測定できるため、プラークの状態や線維性被膜の状態についてより多彩な情報を得ることができる。この場合、カテーテル内に複数本の高強度パルス光伝送用ファイバーを配設し、カテーテル遠位端に複数の高強度パルス光を照射する手段を配設すればよい。
バルーンは、通常のバルーン付きカテーテルに用いられている冠状動脈用バルーンを用いることができる。バルーンはカテーテルの遠位末端部付近に取り付けられる。バルーンには後述の温度測定手段が配設される。バルーンを拡張させることにより、温度測定手段の温度測定部(温度測定プローブ)と血管壁が接触し、血管壁内面の温度測定が可能になる。バルーンを拡張させる手段は特に限定されないが、適当な液体や気体をバルーン内に供給することにより達成できる。この場合、カテーテルの中に液体、気体の給排出管も備えられる。拡張時のバルーンが血管壁を押さえる際の圧力は、0.2〜1kg/cmの間が望ましい。前述のようにバルーンは高強度パルス光側射手段を備えていてもよい。
本発明の装置の温度測定手段は、血管壁内面の温度を測定し得る手段である。
温度測定手段の温度測定部として接触式温度計、熱電対等の温度測定用プローブを用いることができる。接触式温度計または熱電対を温度測定用プローブとして用いる場合は、前述のように、これらが血管壁と接触する必要があるため、バルーンの外側に設置するかまたはバルーンに埋め込むようにして設置し、バルーンが拡張したときに温度測定用プローブが血管壁に接触するようにする。温度測定用プローブと温度表示手段はカテーテル内に配設される線により結ばれ、温度情報が温度表示手段に伝送される。温度表示手段はプロセッサも備え該プロセッサにより、伝送された温度情報が処理され、温度過渡応答解析手段に処理データが転送される。
図1に本発明のアクティブ測温装置の構成図を示す。
温度過渡応答解析手段
本発明の装置を用いてプラーク1を覆う線維性被膜2の厚さおよび/またはプラーク1の炎症の進行度を判定する場合、最初に血管壁3に対する熱伝導シミュレータを構築する。血管壁に対する熱伝導シミュレータは、二次元または三次元の非定常熱伝導有限要素解析により構築することができる。有限要素法による熱伝導計算は、熱伝導を計算しようとする対象を細かい要素に分割して、隣接する要素間でのみ熱の受け渡しが起こると仮定し、分割した要素の節点における熱輸送方程式により熱伝導を計算する方法である。この際、市販の熱伝導計算プログラムを用いて血管壁3に特有なパラメータを導き出すことにより、血管壁3に対する熱伝導シミュレータを構築することができる。このようなプログラムとして、例えば心筋に対する熱伝導に基づいて作成されたQuick Therm BIO(計算力学研究所)が挙げられ、該プログラムに血管壁3の物性パラメータを入力することにより、血管壁3に対する熱伝導シミュレータを構築することができる。
具体的には、例えばブタの大動脈に対して加温を行い、熱電対を用いて大動脈の内膜、中膜、外膜の温度履歴(経時的な温度変化)を測定し、前記プログラムを用いて実験系を模擬した熱伝導計算を行い、測温実験の結果と合うように各種パラメータを調整すればよい。パラメータは種々選択することができるが、例えば比熱の値を変化させて計算すればよい。この場合は、細かく血管壁の比熱変化を観察するために示差走査熱量計を用いて熱量測定を行う。最終的に、計算結果に基づいてパラメータを血管壁3の物性に適合するように調整することにより血管壁3の物性を反映した熱伝導シミュレータを構築することができる。
次いで、物性パラメータを調整して構築した血管壁3に対する熱伝導シミュレータに、実際の血管壁の構造と発生する熱に関するパラメータを入力する。
まず、プラークの脆弱性の判定を行おうとする被験血管について、血管造影や血管内超音波イメージング(IVUS)により、血管の構造を解析し、血管の太さ、血管壁3の厚さ等の情報を取得する。血管造影やIVUSは市販のシステムを用いればよい。これらの情報を、構築した上記血管壁3に対する熱伝導シミュレータに入力する。しかしながら、IVUSや血管造影では、プラーク1の存在は推測できるものの、プラーク1の熱伝導係数やプラーク1の大きさ等により反映されるプラーク1の炎症の進行度(プラーク1の状態)やプラーク1を覆う線維性被膜2の厚さ等の血管壁3の内部構造についての正確な情報は得ることができない。そこで、血管造影やIVUSにより得られた実際の血管壁3の構造情報にさらにプラークの熱伝導係数やプラーク1の大きさ等のプラーク1の炎症の進行度およびプラーク1を覆う線維性被膜2の厚さに関するパラメータを入力する。これらの血管壁3の構造に関する情報を入力することにより、プラーク1の状態を含む被験血管の血管壁3の構造に関するパラメータが調整された有限要素法のモデルが作成され、血管壁の構造だけではなく物性値をも反映した血管壁に対する熱伝導シミュレータを構築することができる。血管壁3の構造に関するパラメータのうち上記のプラーク1の熱伝導係数やプラーク1の大きさ等のプラーク1の炎症の進行度およびプラーク1を覆う線維性被膜2の厚さに関するパラメータは、血管壁内面の実際の経時的温度変化過渡応答曲線と温度過渡応答解析手段を含む血管壁に対する熱伝導シミュレータを用いて作成した経時的温度変化シミュレーションモデル曲線を比較する際に、調整されフィッティングが行われる。
さらに、血管の高強度パルス4光照射による加熱項をシミュレータに入力する。血管の高強度パルス光照射による加熱項とは、高強度パルス光照射等により発生し得る熱に関するパラメータをいう。この際、加熱項は実際の高強度パルス光の照射の仕方に対応して設定することができる。例えば実際にアクティブ測温を行う際に高強度パルス光ビームが細いときは、プラークにおいて熱が発生する範囲が狭く、狭い発熱部位から血管壁に熱が伝導する。一方、高強度パルス光のビームが太いとプラークにおいて熱が発生する範囲が広くなり、広い発熱部位から血管壁に伝導する。このように高強度パルス光のビームの太さを変える場合は、それぞれの太さのビームに対応して加熱項を変化させる。高強度パルス光のビームが太い場合の温度変化は、特にプラークの血流方向の大きさを反映する。ここで、プラークの血流方向の大きさとは、血液の流れと平行という意味であり、血液の正逆両方の方向の大きさを意味する。また、実際のアクティブ測温においては、側温点は1点だけとは限らず複数点設定することもある。この場合は、シミュレータにおいて測温点の位置に関するパラメータを変化させればよい。
以上により、血管壁の物性、血管の構造およびアクティブ測温において発生させる熱についてのパラメータを含む血管壁熱伝導シミュレーションモデルが完成する。
このようなパラメータが調整されたシミュレータを用いて、血管壁内面の測温点における経時的な温度変化を計算することができる。この場合、シミュレータは前記構造情報を得た血管の有限要素法モデルにより熱伝導をシミュレートし測温点における経時的な温度変化を計算する。
本発明の血管壁熱伝導シミュレータは複数次元の有限要素法を用いて熱伝導計算を行うため、伝導する熱の発生部位の大きさ、発生する熱量、測温点等も任意に設定することができ、どのようなパラメータを設定しても測温点における経時的な温度変化を計算して温度変化シミュレーションモデル曲線として得ることができる。図2に血管壁に対する熱伝導シミュレータの計算により得られたある測温点における温度変化シミュレーションモデル曲線の概略図を示す。
次いで、実際に血管壁においてアクティブ測温を行い、測温点での経時的な温度変化を実測する。この際、測温点での経時的な温度変化は過渡応答であり、本発明の温度過渡応答解析手段により、この温度過渡応答を解析することができる。過渡応答とは、制御系Sに伝達関数H(f)が与えられているとき、入力信号u(t)を与えた場合に、それが原因とならて出力x(t)を生じ、このx(t)が新しい定常状態に達するまでに示す過渡的な経過をいう。本発明においては、測温点における温度変化(x(t))が過渡応答を示し、最終的に定常状態に達する。本発明においては、単に温度上昇を問題にするのではなく、温度変化を過渡応答として解析し得るので、単に測温点における温度上昇値(ΔT)を測定するよりは、はるかに正確にプラークの状態を知ることができる。
血管壁に対する熱伝導シミュレータに入力した血管壁の物性パラメータは、アクティブ測温の対象が血管壁である限り変わらない。また加熱項に関するパラメータも実際のアクティブ測温の条件に合わせて調整している。プラークが存在しない血管で測定した場合、上記IVUSで血管の構造が正確に解析されているので、実測した温度変化過渡応答曲線とシミュレータが計算した温度変化シミュレーションモデル曲線はほぼ同一になる。しかし、血管壁にプラークが存在している場合、上記IVUSではプラークを覆う線維性被膜の厚さを正確に測定できないため、線維性被膜の厚さに応じて、シミュレータが計算した経時的な温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測定した温度過渡応答曲線の間にずれが生じる。そこで、線維性被膜の厚さをパラメータとして変化させることにより、両曲線をフィッティングさせる。両曲線がフィットしたときの線維性被膜の厚さが実際の厚さを表す。また、プラークの炎症の進行度によって、熱が発生する領域の大きさおよび発生する熱量が異なるので、IVUSでは測定できないプラークの炎症の進行度もずれの原因となる。さらに、プラーク中の熱伝導係数は正常血管壁とは異なるので、この相違によってもずれが生じる。ずれは、主に線維性被膜の厚さを反映し、さらにプラークの熱伝導係数や大きさ(幅および厚さ)等により示されるプラークの炎症の進行度をも反映している。
解析により、線維性被膜の厚さに関する情報を得ようとする場合、血管壁に対する熱伝導シミュレータにおいて、血管構造のパラメータとして、線維性被膜の厚さを設定する。このパラメータを変えつつ測温点における温度変化をシミュレート計算し、その都度実測した温度変化過渡応答曲線とシミュレータが計算した温度変化シミュレーションモデル曲線を比較する。この作業を繰り返すことにより、2つの曲線をフィッティングさせる。この場合、2つの曲線が重なるように、パラメータをフィッティングさせるともいえる。なお、曲線の比較・フィッティングは、両曲線の近似方程式を求め該方程式に基づいて計算により行ってもよいし、曲線の各点の座標(時間、温度)データの全部または一部をデータセットとして比較してもよい。フィッティングが完了したときのパラメータとしての線維性被膜の厚さ値が実際の線維性被膜の厚さとなる。上述のように、測温点における温度変化は線維性被膜の厚さだけではなく、プラークの炎症の進行度も反映するので、血管壁の構造パラメータとして、プラークの炎症の進行度を示す項目も採用することにより、フィッティングによりプラークの炎症の進行度も推測し判定することができる。なお、既述のように、プラークの熱伝導係数やプラークの大きさはプラークの炎症の進行度を反映しているので、プラークの熱伝導係数やプラークの大きさをパラメータとして採用すればよい。
血管の動脈硬化部位に高強度パルス光を照射するとビームの太さに応じてプラーク内の一定の領域において熱が発生し、熱が発生した領域全体から周囲へ熱が伝導する。この際、測温点に近い部分で発生した熱の測温点への到着が先行し、測温点における温度は高強度パルス光照射後急速に上昇する。次いで、測温点に達した熱が血流に奪われたり、あるいは測温点から他の部分に伝導拡散するので、測温点の温度はピークを示した後に、低下していく。このとき、測温点から遠い部分から伝導した熱が遅れて測温点に到達するので、ピークの後の温度低下はその後から伝導してきた熱の影響を受ける。図2に示す温度変化パターンはこのような温度変化を示している。この際、プラークを覆う線維性被膜が薄ければ薄いほど、発生した熱が早く減衰を伴わずに測温点に到達するので、ピーク温度に早く達し、なおかつピーク温度値も高い。また、プラーク内の熱発生領域が広ければ広いほど、測温点におけるピーク温度後も熱が長時間にわたって測温点へ伝導してくるので、ピーク後の温度低下は緩慢になる。すなわち、測温点における温度がピークに達する前の温度変化のパターンは線維性被膜の厚さを反映し、測温点における温度がピークに達した後の温度変化のパターンは熱伝導係数や大きさ(幅および厚さ)等により示されるプラークの炎症の進行度、特にプラークの厚さを反映する。ここで、プラークの厚さとは血流方向と鉛直方向のプラークの大きさを意味し、プラークの深さともいう。また、ビームの太さを変えた場合、プラーク内の熱発生領域が広くなるので、特に測温点における温度がピークに達した後の温度変化のパターンがプラークの状態、特にプラークの血流方向の大きさとプラークの厚さ(プラークの体積)を反映する。
従って、線維性被膜の厚さのみによるプラークの脆弱性を判定しようとする場合は、経時的な温度変化曲線をピークより前でフィッティングさせればよく、プラークの炎症の進行度を推測判定しようとする場合、経時的な温度変化曲線をピークより後でフィッティングすればよい。現実的には、プラークの脆弱性は主にプラークを覆う線維性被膜の厚さによって決まるので、前半部を比較するだけで相当の精度でプラークの脆弱性を判定することが可能である。
また、実際のアクティブ測温において、あらかじめプラークにPDT薬剤を集積させておき、照射する高強度パルス光として該PDT薬剤の吸収波長に近いものを用いると、高強度パルス光のエネルギーが効率良くPDT薬剤に吸収される。従って、プラークにおける発熱が大きくなり、大きな熱が伝導するので測温点における温度も高くなる。このため、より大きい測温値を用いてフィッティングを行うことができる。よって、PDT薬剤を用いることにより、より高精度で過渡応答解析ができ、より正確な判定が可能になる。
本発明の過渡応答解析手段は、血管壁に対する熱伝導シミュレータ、実際に測定した温度変化を入力する手段を含む。
血管壁に対する熱伝導シミュレータは、前述のように血管壁に対する熱伝導についてのパラメータに関するデータおよび熱伝導シミュレーションモデル曲線のデータを格納している記憶手段、ならびに血管壁に対する熱伝導シミュレーションにより求めた測温点における経時的温度変化シミュレーションモデル曲線を計算により求め、該モデル曲線と実際に測温点で測定した経時的温度変化過渡応答曲線を比較し、パラメータを変化させて二つの温度変化曲線をフィッティングさせる演算手段を含む。ここで、熱伝導シミュレーションモデル曲線のデータとは、該曲線の近似方程式に関するデータ、該曲線上の点の座標を表すデータセット等をいう。
温度変化入力部は、実測値をキーボード等により手動で入力する装置であってもよいし、温度測定手段と過渡応答解析手段が電子的に連結され、測温と同時に温度変化に関するデータが過渡応答解析手段に転送されるものであってもよい。
動脈硬化部位におけるプラークの脆弱性判定システム
本発明は、血管壁内、例えば動脈硬化部位におけるプラークの脆弱性判定システムをも包含する。該システムは、
(1) 血管壁内への高強度パルス光照射によりプラークで発生し血管壁内面へ伝導した熱による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線に関するデータを温度過渡応答解析手段へ転送する手段、
(2) 転送された温度変化過渡応答曲線に関するデータに基づいて、プラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの炎症の進行度を解析する温度過渡応答解析手段であって、
(a) 血管壁に対する熱伝導についてのパラメータに関するデータおよび熱伝導シミュレーションモデル曲線のデータを格納する記憶手段、ならびに
(b) 血管壁に対する熱伝導シミュレータにより求めた測温点における経時的温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測温点で測定した経時的温度変化過渡応答曲線を比較し、熱伝導シミュレーションにおけるパラメータを変化させて二つの温度変化曲線をフィッティングさせ、シミュレーションの結果を実際の結果に合わせる演算手段
を有する温度過渡応答解析手段、ならびに
(3) 解析されたプラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの炎症の進行度に関する情報を出力する出力手段を有するプラークの脆弱性判定システムである。ここで、経時的な温度変化過渡応答曲線に関するデータを温度過渡応答解析手段へ転送する手段は、本発明のアクティブ測温装置の温度測定手段から電子的に直接データを転送する手段であってもよいし、一旦印刷またはディスプレイへの表示等により出力されたデータを、例えばキーボード等の入力手段により入力する手段であってもよい。温度過渡応答解析手段が有する血管壁に対する熱伝導シミュレータは、上述のようにして構築されたシミュレータである。出力手段は、印刷手段やディスプレイへの表示手段等を含む。該出力手段により出力される場合は、線維性被膜の厚さ等を示す具体的な数値であってもよいし、等級付けられたプラークの脆弱性に関する判定であってもよい。図3に本発明のシステムの概略図を示す。
さらに、本発明は該システムを用いた、血管壁内、例えば動脈硬化部位におけるプラークの脆弱性判定方法をも包含する。該方法は、温度過渡応答解析手段が、動脈硬化部位への高強度パルス光照射によりプラークで発生し血管壁内面へ伝導した熱による血管壁内面の温度変化過渡応答曲線に関するデータを受け取るステップ、該過渡応答解析手段に格納されている血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した経時的な温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測定した経時的な温度変化過渡応答曲線を比較し、プラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせ、シミュレーションの結果を実際の結果に合わせる、プラークを覆う線維性被膜の厚さを算出し、および/またはプラークの炎症の進行度を推測するステップ、ならびに算出されたプラークを覆う線維性被膜の厚さ、および/または推測されたプラークの炎症の進行度を出力するステップ等を含む。図4に本発明のシステムにより実行される、前記方法の処理のフローを示す。
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。もっとも本発明は下記実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 血管壁に対する熱伝導シミュレータの構築
ブタ腹部大動脈を用いたステップ状内膜表面温度変化に対する血管壁測温実験と、有限要素法を用いた熱伝導計算ソフト「Quick Therm BIO」(計算力学研究センター)を用いた熱伝導シミュレーションを併せて行い比較した。上記ソフトは心筋伝導に関して検討して開発されたものであるが、本実施例においては血管壁測温実験と適合するように、熱物性変化の最も大きい比熱値を唯一のパラメータとして調整した。
実験試料にブタ新鮮摘出胸部下行大動脈を用いた。ブタ下行大動脈はヒト冠状動脈とコラーゲン等の組成が類似しており、冠状動脈よりも壁厚が大きいため実験試料に適している。これを長さ(血流方向)25mm、幅20mmに切って血管片とした。後で中膜の温度変化測定用の熱電対を設置するために中膜を裂いた。血管壁全層の厚みは1.4〜2.5mmであり、内膜面から裂いた面までの厚みは0.6〜1.2mmであった。
加温および冷却を行うために、高温または37℃に熱したアルミニウム塊(40mm立方)を交互に接触させる方法を採用した。アルミニウムは熱伝導率が237W/mK、熱容量が0.901J/Kgと大きいため血管片に接触後も接触面の温度変化が小さく、加温・冷却に適している。血管片は、発泡スチロールの上に設置した。熱伝導率が0.05W/mKと十分小さいため、外膜との熱の出入りが小さく抑えることができるためである。温度履歴は、内膜・中膜・外膜の3点にT型熱電対(T/TT−30−1、石川産業、東京)を設置し、デジタルレコーダ(DL708E、横河電機、東京)を用いて記録した。
血管片に対して加温を行った際の、内膜・中膜・外膜の3点の温度履歴を計測した結果を図5に示す。中膜、外膜の温度履歴より、熱がやや遅れて伝わってきており、ピーク温度も内膜側から順に低くなっている様子から、妥当な計測結果が得られた。
次いで、血管壁に対する物性パラメータを決定するために、示差走査熱量測定計(differential scanning calorimeter;DSC)による熱容量測定を行った。
試料にはブタ新鮮摘出下行大動脈、ブタ摘出下行大動脈を24時間湿度が20%以下の環境に留置して乾燥させたもの、の2種類を用いた。血管を切り開いた後、アルミ製の容器に入れることができるよう小さく切り刻んだ。質量を測定してから、アルミ製の容器に封入した。新鮮なものは質量3.3〜5.8mg、乾燥させたものは2.4〜6.7mgであった。
用いたDSCは、DSC20(セイコー電子工業、東京)、SSC/580サーマルコントローラ(セイコー電子工業、東京)である。DSC20にアルミの容器に封入した試料を入れて測定を開始した。測定開始温度は22℃、測定終了温度は100℃、昇温速度は10℃/min、サンプリング間隔は0.4sで行った。温度が0〜200℃、DSCが−0.5〜9.5mJ/sの範囲で0〜2Vの電圧信号となって出力されるように設定した。
DSCでブタ新鮮摘出下行大動脈、ブタ乾燥下行大動脈の熱容量を測定した結果を図6に示す。乾燥させたものではほぼ直線的に比熱が大きくなりつづけるのに対して、新鮮なものは100℃に近づくにつれて指数関数的に熱容量が増加している。よって両者の間に生じた熱容量の差は水の蒸発に伴う吸熱によって生じたと考えられる。血管壁の熱容量の温度変化は、タンパクの熱変性に伴う吸熱よりも水分の蒸発に伴う吸熱の方が大きな割合を占めていることが示唆される。
次いで、有限要素法による熱伝導計算を行った。
熱伝導計算プログラム、Quick Therm bio(登録商標)(計算力学研究所、東京)を用いて実験系を模擬した熱伝導計算を行った。血管壁に対する有限要素の区切りは厚さ右向に32等分に区切ったものを採用した。血管壁の厚さが1.4〜2.5mmであったので、厚さ方向に約50μmのメッシュを切って計算を行ったことになり、十分小さいといえる。血管壁に対する各パラメータは過去に検討された報告は無く、心筋に関して調整された値では実験結果との差が大きい。この値では、蛋白の熱変性による吸熱の影響を考慮した結果、45℃を境にして比熱がステップ状に増加するように設定されている。比熱の値のみを変化パラメータとして変化させて実験結果との誤差が概ね±2℃以下になるように調整した。厳密には物性値の変化は比熱だけでなく、熱伝導率や密度にも現れると思われるが、ここでは最も変化が大きいと思われる比熱のみを変化させ、他のパラメータの変化もすべて比熱値の変化に含めて調整した。表1に熱伝導計算で用いた主な物性値を示す。

(A)T>45℃の場合の比熱値は12J/gKで固定して、T<45℃の比熱値のみを変化させて血管片に対する測温実験の結果と合わせるように熱伝導計算を行った。
(B)DSCによる熱容量測定の結果を元に比熱の値を入力した熱伝導計算を行った。
比熱以外のパラメータは上記と同じものを使った。DSCによる熱容量測定の結果をそのまま用いた場合では計算結果があわせるべき測温実験の結果とかけ離れたため、DSCで測定した熱容量の値を定数倍した値を入力した後に微調整を行い、測温実験の結果と合わせるようにした。
以下の結果が得られた。
(A)血管壁に対する測温実験の結果と合うように行った熱伝導計算を行った結果の一例を図7に示す。この場合は、比熱を5.8J/gK(T<45℃)、12J/gK(T>45℃)、熱伝導率を0.42Wm−1K−1とすることで精度の高い熱伝導計算を行うことができた。同様の検討を繰り返すと、45℃以下の比熱値を5〜8J/gKと設定した時に測温実験と熱伝導シミュレーションの結果が合うことが判明した。
(B)DSCによる熱容量測定の結果を利用した比熱値を用いて測温実験と合うように比熱を調整したものを図8に示す。この比熱値を使った熱伝導計算と該当する測温実験の比較を図9に示す。外膜側で約3℃ほどの誤差があるものの、ほぼ正確に熱伝導計算を行えている。
その他20サンプルについて測温実験結果についてもこの比熱値1を用いた熱伝導計算を行ったが、ほぼ全ての場合で±5℃以内での熱伝導計算を行うことができている。
このように、熱伝導計算で用いた比熱値(T>45℃)は、心筋に関して調整された値が0.42Jg−1K−1であるのと比較すると数割大きい値である。心筋のコラーゲンの含有量は乾燥重量で5.0〜7.0(g/100g)であるのに対して、下行大動脈では18.7(g/100g)と多い。一般に、タンパク質の方が水よりも比熱が大きいことが知られているので、比熱値の違いはこの組成の違いにより生じたと考えられる。あくまでも熱伝導計算に用いた比熱の値は見かけの比熱値であるが、概ね真値に近いのではないかと考えられた。また、DSCによる熱容量の測定値を2倍にした後、微調整した比熱値を用いた場合には大きい誤差の無い熱伝導計算が行えた。ただし、DSCによる熱容量測定の結果から得られたように、タンパクの熱変性による吸熱よりも水分の蒸発に伴う吸熱の寄与の方が比熱の温度変化に与える影響の割合が大きいとすると、この比熱値を用いた方法は妥当であるといえる。
このような検討により、血管壁に対する熱伝導シミュレータを構築した。
【産業上の利用可能性】
本発明の装置を用いることにより、動脈硬化部位のプラークを高強度パルス光照射により強制的に熱し、発生した熱の伝導パターンを解析することができる。
該熱の伝導パターンは、プラークを覆う線維性被膜の厚さやプラークの炎症の進行度を反映している。従って、あらかじめ構築しておいた血管壁に対する熱伝導シミュレータを用いて、プラークを覆う線維性被膜の厚さおよび/またはプラークの状態をパラメータにしてシミュレータが計算した熱伝導パターンと実際に測定した熱伝導パターンをフィッティングさせることにより、プラークを覆う線維性被膜やプラークの状態がわかる。その結果、プラークの脆弱性が判定でき、心筋梗塞に罹患する危険性を評価することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁内のプラークの脆弱性を判定するためのアクティブ測温装置であって、
(1) 血管内に挿入されるカテーテル、
(2) 血管壁内に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、および
(3) 照射された高強度パルス光の血管壁内のプラークへの吸収によりプラークで発生した熱の伝導による血管壁内面の経時的温度変化を測定する温度測定手段
を有するアクティブ測温装置。
【請求項2】
血管壁内のプラークの脆弱性を判定するためのアクティブ測温装置であって、
(1) 血管内に挿入されるカテーテル、
(2) 血管壁内に高強度パルス光を照射する高強度パルス光照射手段、
(3) 照射された高強度パルス光の血管壁内ののプラークへの吸収によりプラークで発生した熱の伝導による血管壁内面の経時的温度変化を測定する温度測定手段、および
(4) 血管壁内面の経時的温度変化からプラークの脆弱性を解析する温度過渡応答解析手段
を有するアクティブ測温装置。
【請求項3】
高強度パルス光がレーザである、請求の範囲第1項または第2項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項4】
高強度パルス光の波長がプラークに沈着したカロチンの吸収波長と同等である、請求の範囲第1項から第3項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項5】
脆弱性を判定しようとするプラークにあらかじめPhotodynamic Therapy用光感受性薬剤(PDT薬剤)が集積されており、(2)の高強度パルス光の波長が前記PDT薬剤の吸収波長に近いことを特徴とする、請求の範囲第1項から第3項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項6】
(1)のカテーテルバルーンカテーテルであってバルーンの拡張により(3)の温度測定手段の温度測定部が血管壁内面に接触し、温度を測定する、請求の範囲第1項から第5項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項7】
(2)の高強度パルス光照射手段により血管壁に高強度パルス光が照射されプラークに該高強度パルス光が吸収され熱を発生し、(3)の温度測定手段により血管壁中を伝導する該発生した熱による血管壁内面の経時的温度変化を測定し、(4)の温度過渡応答解析手段により血管壁内面の実際の経時的温度変化過渡応答曲線と温度過渡応答解析手段を含む血管壁に対する熱伝導シミュレータを用いて計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線が比較され、血管壁におけるプラークの脆弱性が判定される、請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項8】
血管壁内面における経時的温度変化シミュレーションモデル曲線が、血管壁の物性パラメータ、血管壁の構造に関するパラメータおよび高強度パルス光照射による発熱に関するパラメータが調整されている血管壁に対する熱伝導シミュレータを用いて計算される、請求の範囲第7項記載のアクティブ測温装置。
【請求項9】
血管壁の構造に関するパラメータが、血管内超音波イメージング(IVUS)により得られる、請求の範囲第8項記載のアクティブ測温装置。
【請求項10】
(4)の解析手段が、血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した経時的な温度変化シミュレーションモデル曲線と血管への高強度パルス光照射後の血管壁内面の実際の経時的な温度変化過渡応答曲線とを比較し、血管壁の線維性被膜の厚さに関するパラメータを変化させて経時的温度変化シミュレーションモデル曲線を実際の経時的温度変化過渡応答曲線にフィッティングすることでプラークを覆う線維性被膜の厚さが算出され、プラークの脆弱性を判定する、請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項11】
さらに、プラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせプラークの炎症の進行度を推測し、プラークの脆弱性を判定する、請求の範囲第10項記載のアクティブ測温装置。
【請求項12】
(2)の高強度パルス光照射手段においてビームの太さを変えることができ、太いビームを照射した場合の血管壁内面の経時的温度変化過渡応答曲線が、プラークの血流方向の大きさを反映する、請求の範囲第1項から第11項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項13】
(3)の温度測定手段において同時に複数点の経時的な温度測定が可能である、請求の範囲第1項から第12項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項14】
(4)の温度過渡応答解析手段において、熱伝導による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線のピーク前半部をフィッティングさせることによりプラークを覆う線維性被膜の厚さが算出される、請求の範囲第1項から第13項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項15】
(4)の温度過渡応答解析手段において、熱伝導による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線のピーク後半部をフィッティングさせることによりプラークの厚み(体積、深さ)が算出される、請求の範囲第1項から第13項のいずれか1項に記載のアクティブ測温装置。
【請求項16】
血管壁におけるプラークの脆弱性判定システムであって、
(1) 血管壁のプラーク部分への高強度パルス光照射により発生し血管壁内面へ伝導した熱による血管壁内面の経時的な温度変化過渡応答曲線に関するデータを温度過渡応答解析手段へ転送する手段、
(2) 転送された温度変化過渡応答曲線に関するデータに基づいて、プラークを覆う線維性被膜の厚さを解析する温度過渡応答解析手段であって、
(a) 血管壁に対する熱伝導についてのパラメータに関するデータおよび熱伝導シミュレーションモデル曲線のデータを格納する記憶手段、ならびに
(b) 血管壁に対する熱伝導シミュレータにより計算した測温点における経時的温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測温点で測定した経時的温度変化過渡応答曲線を比較し、熱伝導シミュレーションにおけるパラメータを変化させて、シミュレーションの結果を実際の結果にフィッティングさせる演算手段
を有する温度過渡応答解析手段、ならびに
(3) 解析されたプラークを覆う線維性被膜の厚さに関する情報を出力する出力手段
を有するプラークの脆弱性判定システム。
【請求項17】
(6)(a)の演算手段において、さらに、プラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせプラークの炎症の進行度を推測し、(3)の出力手段においてプラークの炎症の進行度に関する情報を出力する、請求の範囲第16項記載のプラークの脆弱性判定システム。
【請求項18】
血管壁におけるプラークの脆弱性判定方法であって、
(1)温度過渡応答解析手段が、血管壁のプラークへの高強度パルス光照射により発生し血管壁内面へ伝導した熱による血管壁内面の温度変化過渡応答曲線に関するデータを受け取るステップ、
(2)該過渡応答解析手段に格納されている血管壁に対する熱伝導シミュレータが計算した経時的な温度変化シミュレーションモデル曲線と実際に測定した経時的な温度変化過渡応答曲線を比較し、プラークを覆う線維性被膜の厚さに関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングさせプラークを覆う線維性被膜の厚さを算出するステップ、ならびに
(3)算出されたプラークを覆う線維性被膜の厚さを出力するステップを
含むプラークの脆弱性判定方法。
【請求項19】
さらに、(2)のステップにおいて、プラークの炎症の進行度に関するパラメータを変化させることにより実際の経時的温度変化過渡応答曲線と計算された経時的温度変化シミュレーションモデル曲線をフィッティングしプラークの炎症の進行度を推測し、(3)のステップにおいて、算出されたプラークの炎症の進行度を出力する、請求の範囲第18項記載のプラークの脆弱性判定方法。

【国際公開番号】WO2004/105597
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500247(P2005−500247)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015224
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年1月31日慶應義塾大学理工学部物理情報学科14年度卒業論文発表会において「レーザ熱バルーンを用いた再狭窄抑制型血管形成術」を発表
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】