説明

アクティブ除振装置

【課題】アクティブ除振装置において、位置制御を行いながらも、スカイフックスプリングの効果により、除振性能を向上させる技術を提供する。
【解決手段】除振対象物を基礎構造部3に対して支持する空気ばね21と、ベースプレート25とトッププレート27との相対変位を検出する変位センサ33と、変位センサ33からの信号に基づいてフィードバック操作量を決定してリニアモータ47を駆動する第1フィードバック制御部39aとを備えたアクティブ除振装置である。ベースプレート25の加速度を検出する第1加速度センサ35と、第1加速度センサ35からの信号から低周波数及び高周波数成分の信号を抽出するハイパスフィルタ57と、ハイパスフィルタ57から出力された信号に基づいてベースプレート25の変位を算出し、且つ、当該変位に基づいて変位センサ33からの信号を補正する信号制御部39bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば試験器機、電子顕微鏡、半導体関連の製造装置といった精密機器を床振動から概ね絶縁した状態で設置するための除振装置に関し、特に、アクチュエータを用いて、これらの機器の振動を低減するような制御力を付加するようにしたアクティブタイプの除振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体露光装置や電子顕微鏡等の精密機器を床上に設置する場合において、床からの振動を遮断するために、空気ばねを用いた所謂パッシブタイプの除振装置(以下、パッシブ除振装置ともいう)により当該精密機器を支持することが行われている。
【0003】
ところで、近年、除振装置には1Hz付近の低周波数域での除振性能に対する要求が高まっている。しかしながら、従来のパッシブ除振装置では、ばね要素を調整することにより共振点(固有振動数)を下げようとしても、1Hz弱が限界であることから、1Hz付近の低周波数域での除振性能を高めることは困難である。
【0004】
そこで、1Hz付近の低周波数域において大きな除振効果を得るために、例えば、ばね要素で支持された精密機器の加速度X′′を加速度センサで検出し、それを2回積分することで得られた変位Xに制御ゲインGを乗算して操作量G・Xを決定し、これをフィードバックして精密機器の振動を低減するような制御力を付加する、所謂スカイフックスプリング制御を行うアクティブタイプの除振装置(以下、アクティブ除振装置ともいう)が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、加速度センサにより検出した除振対象物の上下方向加速度の検出値にフィードバック制御ゲインを乗算するとともに、加速度を1回積分して得られる速度に対してフィードバック制御ゲインを乗算し、また、加速度を2回積分して得られる変位に対してフィードバック制御ゲインを乗算して、アクチュエータの制御量を決定するコントローラを備え、予め所定範囲内に設定した除振対象物の複数の質量値に対応して、それぞれ最適なフィードバック制御ゲインの値を実験により求めて設定したマップにおいて、除振対象物の実際の質量よりも小さく且つ最も近い質量値に対応して設定されている最適値を、フィードバック制御ゲインの値とするアクティブ振動制御装置が提案されている。
【0006】
このアクティブ振動制御装置によれば、変位のフィードバック制御によってスカイフックスプリングの効果が得られ、共振周波数以下の領域で振動伝達率を低下させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4355536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、除振装置では、除振機能のみならず、位置制御機能をも有するものが多い。そして、かかる位置制御においては、例えば、変位センサによって検出された、除振対象物と基礎との相対変位X−Xに、比例制御ゲインPを乗算して操作量P・(X−X)を決定し、これをフィードバックして除振対象物の基礎に対する相対位置を一定に保つような制御が通常行われている。
【0009】
このため、除振及び位置制御を行う従来のアクティブ除振装置では、除振対象物の変位Xに比例する操作量G・Xではなく、基礎の変位Xを含む操作量P・(X−X)+G・Xがフィードバックされることになる。これは、基礎が振動して変位した場合に、かかる基礎の変位に追従して除振対象物が変位することを意味する。このため、除振及び位置制御を行う従来のアクティブ除振装置では、スカイフックスプリングの効果が得られず除振性能が悪化するという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アクティブ除振装置において、位置制御を行いながらも、スカイフックスプリングの効果により、除振性能を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明では、除振対象物の加速度から算出される変位をフィードバックするのではなく、基礎の加速度から算出される変位に基づいて除振対象物と基礎との相対変位を補正し、かかる補正された変位をフィードバックするようにしている。
【0012】
具体的には、第1の発明は、除振対象物を床上に設置される基礎に対して支持するばね要素と、当該除振対象物と当該基礎との相対変位を検出するための変位センサと、当該変位センサからの信号に基づいてフィードバック操作量を決定してアクチュエータを駆動し、当該除振対象物に制御力を付加するフィードバック制御手段と、を備えたアクティブ除振装置を対象とする。
【0013】
そして、上記基礎の加速度を検出するための加速度センサと、上記加速度センサからの信号から所定の周波数以上の周波数成分の信号を抽出するためのハイパスフィルタと、上記ハイパスフィルタから出力された信号に基づいて基礎の変位を算出し、且つ、当該基礎の変位に基づいて上記変位センサからの信号を補正する信号制御手段と、をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0014】
第1の発明では、除振対象物及び基礎の振動に伴って、これらの間の距離が変化すると、変位センサが除振対象物と基礎との相対変位を検出する。この際、フィードバック制御手段は、変位センサからの信号に基づいてアクチュエータを駆動し、除振対象物に制御力を付加するように構成されているので、除振対象物の基礎に対する相対位置を一定に保つような制御力を当該除振対象物に付加しようとする。
【0015】
ここで、単に、基礎と除振対象物との距離を一定に保つように位置制御を行うと、基礎の振動(変位)に追従して除振対象物が振動(変位)するため除振性能が悪化するが、第1の発明によれば、信号制御手段によって、加速度センサの信号から算出された基礎の変位に基づいて変位センサからの信号が補正されることから、かかる除振性能の悪化を抑えることが可能となる。
【0016】
すなわち、所定の周波数を例えば0Hzと1Hzとの間に設定すれば、低周波数域(1Hz付近)から高周波数域(10Hz付近以上)においては、加速度センサからの信号がハイパスフィルタから出力され、かかる信号から算出された基礎の変位に基づいて変位センサからの信号が補正される。具体的には、変位センサによって検出された除振対象物と基礎との相対変位X−X(「除振対象物の変位X」−「基礎の変位X」)からXが消去されて、除振対象物の変位Xが残り、フィードバック制御手段が、かかる変位Xをフィードバックすることで、スカイフックスプリングの効果を得ることができる。
【0017】
一方、極低周波数域(0Hz付近)においては、加速度センサからの信号は、ハイパスフィルタによって抽出され難いので、信号制御手段による、変位センサからの信号の補正量が小さくなる。このため、フィードバック制御手段は、主として変位センサからの信号に基づいて、換言すると、除振対象物と基礎との相対変位X−Xに基づいて、除振対象物の基礎に対する相対位置を一定に保つような制御を行うことになる。
【0018】
以上により、アクティブ除振装置において、スカイフックスプリングの効果により、低周波数域から高周波数域に亘って除振性能を向上させることが可能となるとともに、極低周波数域では除振対象物の基礎に対する相対位置を一定に保つことが可能となる。
【0019】
加えて、第1の発明では、除振対象物の加速度を検出するための加速度センサを用いることなく、床の加速度から得られた変位Xと変位センサにより得られた相対変位X−Xに基づいて、除振対象物の変位Xや速度X′を求めることができる。したがって、従来、変位センサ、床の加速度センサ及び除振対象物の加速度センサを用いて、変位のフィードバック、除振対象物の振動のフィードバック及び床振動のフィードフォワードを行っていたが、第1の発明によれば、変位センサ及び床の加速度センサだけを用いて同様の制御を行うことが可能となる。
【0020】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ばね要素は気体ばねであり、上記気体ばねは、当該気体ばねの圧力状態を調整するためのサーボ弁の制御により、制御力を付加するための上記アクチュエータとしても用いられ、上記フィードバック制御手段によって決定されたフィードバック操作量と、上記サーボ弁によって発生する力とが比例関係になるように、当該フィードバック操作量を補正するための補償手段と、をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0021】
ところで、ばね要素として空気ばねを用いたシステムでは、サーボ弁を用いて空気ばねに対する空気の給排流量を調整することが多く、かかるサーボ弁は、入力と出力(制御力)との関係を一次遅れに近似でき、通常、積分域で動作する。このため、サーボ弁を用いて空気ばねを制御すると、変位をフィードバックした場合、結果的に変位を積分したものに比例する制御力が発生することになり、スカイフックスプリングの効果が得られないという問題がある。
【0022】
ここで、第2の発明では、フィードバック制御手段によって決定されたフィードバック操作量と、サーボ弁によって発生する力とが比例関係になるように、当該フィードバック操作量を補正するための(例えば、フィードバック操作量が、サーボ弁によって圧力に変換された後制御力に変換される過程で近似積分されるのを実質上無効にするような)補償手段を設けていることから、変位をフィードバックすれば変位に比例する制御力が発生することになるので、スカイフックスプリングの効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るアクティブ除振装置によれば、所定の周波数以上の周波数域(例えば、低周波数域から高周波数域)においては、加速度センサからの信号がハイパスフィルタから出力され、かかる信号から算出された基礎の変位Xに基づいて変位センサからの信号が補正される。これにより、変位センサによって検出された相対変位X−XからXが消去されて、除振対象物の変位Xが残り、フィードバック制御手段が、かかる変位Xをフィードバックすることで、スカイフックスプリングの効果を得ることができる。
【0024】
一方、所定の周波数未満の周波数域(例えば、極低周波数域)においては、加速度センサからの信号は、ハイパスフィルタによって抽出され難いので、信号制御手段による、変位センサからの信号の補正量が小さくなるため、フィードバック制御手段は、主として除振対象物と基礎との相対変位X−Xに基づいて、除振対象物の基礎に対する相対位置を一定に保つような制御を行うことになる。
【0025】
以上により、アクティブ除振装置において、位置制御を行いながらも、スカイフックスプリングの効果により、除振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る精密除振台の概略構成を示し斜視図である。
【図2】実施形態1に係るアクティブ振動制御装置の概略構成を示す図である。
【図3】リニアモータ制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【図4】周波数と振動伝達率との関係を示すグラフ図である。
【図5】実施形態2に係るアクティブ振動制御装置の概略構成を示す図である。
【図6】空圧制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【図7】周波数と振動伝達率との関係を示すグラフ図である。
【図8】実施形態3に係るアクティブ振動制御装置の概略構成を示す図である。
【図9】空圧制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【図10】周波数と振動伝達率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態1に係る精密除振台の一例を示し、この精密除振台1は、例えば、半導体関連の製造装置、試験機器、原子間力顕微鏡(AFM)、レーザ顕微鏡等の精密計測機器のように、振動の影響を受けやすい精密な装置を搭載して、それらを床の振動からできるだけ絶縁した状態で設置するためのものである。より詳しくは、図示の精密除振台1は、高さ調整用のレベラー19,19,19,19を介して図示しない床上、より詳しくは専用のテーブル上や台上等に設置される基礎構造部(基礎)3と、その上面の4隅にそれぞれ配設された空気ばねユニット5,5,5,5とを備え、これら4つの空気ばねユニット5,5,…により支持された定盤7の上に精密装置(図示せず)などが搭載されるようになっている。
【0029】
基礎構造部3は、鋼製角パイプの構造部材を概ね直方体形状となるように櫓組みしたものであり、符号9は脚部を、符号11,13はそれぞれ梁部を示している。また、符号15は、空気ばねユニット5の配設される水平板であり、符号17は、キャスターである。なお、この図では、空気ばねユニット5のコントローラ39は示していない。
【0030】
空気ばねユニット5は、図2に模式的に示すように、ベースプレート25の上に配設された空気ばね(気体ばね(ばね要素))21と、リニアモータ(アクチュエータ)47とを有していて、当該空気ばね21によって、定盤7及び搭載機器(精密装置)の荷重を受けるトッププレート27を弾性的に支持するとともに、当該トッププレート27に対しその振動を低減するような制御振動(制御力)をリニアモータ47によって付加するようにしたものである。そして、定盤7、トッププレート27及びこれに搭載される精密装置が、本実施形態に係る精密除振台1における除振対象物になる。このように、除振対象物を空気ばね21により支持することで、ばね特性を非常に柔らかなものとして、制御力を付加しない状態での基本的な除振性能を向上させることができる。
【0031】
空気ばね21は、例えば、内部に空気が充填された空気室21aと、この空気室21aの上壁の開口部にダイヤフラム29を介して気密状に内挿されたピストン31とを備えたダイヤフラム形のものが好適であり、さらに、当該ピストン31にジンバル機構を組み込んで、水平方向に非常に柔らかなばね特性が得られるようにすることもできる。なお、空気ばね21としてベローズ形のものを用いることもできる。
【0032】
また、空気ばねユニット5には、基礎構造部3に対する除振対象物の相対変位を、具体的には、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−Xを検出するための変位センサ33と、基礎構造部3の振動状態、具体的には、ベースプレート25の上下方向の加速度X′′を検出するための第1加速度センサ(加速度センサ)35とが設けられている。変位センサ33からの出力信号は、直接コントローラ39に入力される一方、第1加速度センサ35からの出力信号は、当該第1加速度センサ35からの信号から所定の周波数以上の周波数成分の信号を抽出するためのハイパスフィルタ57(本実施形態では、カットオフ周波数0.033Hzの2次のハイパスフィルタ)を介してコントローラ39に入力されるようになっている。
【0033】
コントローラ39は、除振対象物と基礎構造部3との間に配設されたリニアモータ47を駆動して除振対象物の振動を能動的に制御するように構成されている。より具体的には、コントローラ39は、各空気ばねユニット5毎のリニアモータ47に対し制御信号(電流)を出力して、トッププレート27に対しその振動を低減するような制御力を付加する、すなわち、定盤7及びその上の搭載機器の振動を低減するアクティブ振動制御を行うようになっている。なお、リニアモータ47は、不図示のコイル及び磁石を備え、コイルに電流を供給することで生じた磁力と、磁石の磁力との間で吸引力または反発力を発生させるものである。コイルはトッププレート27に、また、磁石はベースプレート25にそれぞれ取り付けられているが、両者の間には間隙があり非接触になっているため、基礎構造部3の振動がリニアモータ47を介して除振対象物に伝わらないようになっている。
【0034】
このコントローラ39は、詳細は図示しないが、マイクロコンピュータ、I/Oインタフェース、データバスの他、RAM、ROM、或いはHDD等のメモリを備えた従来周知構造のデジタルコントローラであり、各センサ33,35から出力される信号を受け入れて、これに応じて各空気ばねユニット5毎のリニアモータ47に制御信号を出力し、これにより、除振対象物の振動を低減し、且つ、その高さ位置を維持するようになっている。
【0035】
より詳しくは、コントローラ39は、変位センサ33からの信号、換言すると、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−X(除振対象物と基礎との相対変位)に基づいて、フィードバック操作量を決定し、当該決定されたフィードバック操作量に基づいてリニアモータ47を駆動することにより、除振対象物に制御力を付加する第1フィードバック制御部(フィードバック制御手段)39aを有している。
【0036】
さらに、コントローラ39は、ハイパスフィルタ57から出力された信号に基づいてベースプレート25の変位を算出し、且つ、当該ベースプレート25の変位に基づいて変位センサ33からの信号を補正する信号制御部(信号制御手段)39bを有している。
【0037】
換言すると、本発明のフィードバック制御手段及び信号制御手段は、リニアモータ47に電気信号を送るためのコントローラ39で構成されている。これにより、空気ばねユニット5,5,…の空気ばね21と、リニアモータ47と、変位センサ33と、第1加速度センサ35と、コントローラ39と、ハイパスフィルタ57とによって、精密除振台1のアクティブ除振装置が構成されている。なお、図2には、空気ばねユニット5の上下方向の変位センサ33、第1加速度センサ35及びリニアモータ47のみが示されているが、これ以外に水平方向の変位センサ、加速度センサ及びリニアモータも配設されており、下記の上下方向の制御と同様にして水平方向の制御も行われるようになっている。
【0038】
次いで、第1フィードバック制御部39aによるリニアモータ47の基本的な制御について、以下、説明の便宜のために上下方向の振動を低減する制御についてのみ、図3を参照して詳細に説明する。なお、図3においては、上下方向のリニアモータ47の制御についてのみ示しているが、これと同様の制御は水平方向のリニアモータについても行われる。
【0039】
図3は、第1フィードバック制御部39a、ハイパスフィルタ57及び信号制御部39bによる上下方向のリニアモータ制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。より詳しくは、このブロック図における符号Aの部分は、ばね上重量Mの除振対象物が、減衰定数C且つばね定数Kの空気ばね21によって支持されていることを表している。なお、空気ばね21の減衰定数C及びばね定数Kは予め設定したり、測定により求めておくことができる値であり、また、ばね上重量Mは実際に精密装置を定盤7に搭載すれば決まる値である。
【0040】
そして、ばね上重量Mの除振対象物を、減衰定数C且つばね定数Kの空気ばね21によって支持した場合の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K)/(M・s+C・s+K) …(式1)
と表される。
【0041】
また、図3における符号FB1の部分は、第1フィードバック制御部39aによる上下方向のフィードバック制御(PID制御)を表している。なお、フィードバック操作量を決定する際に用いられる相対変位は、ベースプレート25に対するトッププレート27の距離ではなく、X及びXの初期値からの変動分の差であり、実際には、変位センサ33から直接出力された値や、出力された信号に一定のずれであるDC成分が含まれる場合には、そのDC成分を差し引いた値を用いるが、以下便宜上(X−X)で表す。
【0042】
そして、第1フィードバック制御部39aには、変位センサ33から相対変位(X−X)が直接入力されるのではなく、信号制御部39bによって、変位センサ33により検出された相対変位(X−X)に、第1加速度センサ35により検出されたベースプレート25の加速度x′′を2回積分して算出されたベースプレート25の変位xを加えた(X−X+x)が入力される。
【0043】
このため、符号FB1の部分と符号47とは、(X−X+x)に、比例制御ゲインPを乗算し、また、(X−X+x)を1回積分して得られた値に積分制御ゲインIを乗算し、また、(X−X+x)を1回微分して得られる値に微分制御ゲインDを乗算して、フィードバック操作量P・(X−X+x),I・(X/s−X/s+x/s),D・(X′−X′+x′)を決定し、かかるフィードバック操作量をリニアモータ47を介して制御力として除振対象物に作用させることを表している。
【0044】
ここで、第1フィードバック制御部39aによって決定されたフィードバック操作量は電流であり、リニアモータ47は上述の如く電流を流せば力を発生することから、リニアモータ47によって除振対象物に付加される制御力はフィードバック操作量P・(X−X+x),I・(X/s−X/s+x/s),D・(X′−X′+x′)に比例することになる。そして、この比例定数をKとし、PID制御則に従って得られたフィードバック操作量を、リニアモータ47を介して作用させることにより、除振対象物に対して付加される制御力Fは、以下のように表される。
=K・(D・s+P+I/s)・(X−X+x)…(式2)
よって、第1フィードバック制御部39aによる上下方向のフィードバック制御を行った場合の除振対象物の運動方程式は、
(M・s+C・s+K)・X−(C・s+K)・X+F=0 …(式3)
と表される。
【0045】
ここで、第1加速度センサ35により検出されたベースプレート25の加速度x′′を積分する場合、センサ出力から重力加速度(0Hzで1G)を取り除いて大幅に増幅する必要がある。また、この時電気回路にはDCオフセット成分が生じ、小さいDCオフセット成分が生じた場合にも、積分するとセンサ出力が無限大に大きくなり、制御用の数値として成り立たない。そこで、本発明のアクティブ除振装置では、ハイパスフィルタ57は、第1加速度センサ35からの信号から低周波数から高周波数に亘る周波数成分の信号を抽出するように設定されている。
【0046】
これにより、例えば1Hz付近の低周波数域から10Hz以上の高周波数域においては、第1加速度センサ35からの信号は、ハイパスフィルタ57によって抽出され、かかる信号から算出されたベースプレート25の変位xに基づいて変位センサ33からの信号が補正される。具体的には、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−XにおけるXと、ベースプレート25の変位xとは、X=xという関係にあるので、変位センサ33によって検出された相対変位X−Xに、第1加速度センサ35によって検出された加速度x′′を2回積分して得られた変位xを加えると、Xが消去されて、除振対象物の変位Xだけが残ることになる。
【0047】
この場合の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K)/{M・s+(C+K・D)・s+(K+K・P)+K・I/s} …(式4)
と表される。
【0048】
この(式4)と(式1)を比べれば明らかなように、低周波数域から高周波数域に亘っては、除振対象物の変位Xに比例制御ゲインPと比例定数Kの積K・Pを乗じたものだけがフィードバックされて、スカイフックスプリングの効果を得ることができる。また、この場合には、スカイフックスプリングの効果により固有振動数が高くなるので、空気ばね21の剛性が高くなる。また、変位を微分した速度X・sに微分制御ゲインDと比例定数Kとの積K・Dを乗じたものがフィードバックされるので、スカイフックダンパの効果も得ることができる。
【0049】
一方、例えば0Hz付近の極低周波数域においては、第1加速度センサ35からの信号は、ハイパスフィルタ57によって抽出され難いので、信号制御部39bによる、変位センサ33からの信号の補正量が小さくなり、(式2)でXが残ることになる。このため、主として相対変位X−Xに基づいて、第1フィードバック制御部39aによる、トッププレート27のベースプレート25に対する相対位置を一定に保つような制御が行われる。
【0050】
これらにより、本実施形態の精密除振台1においては、スカイフックスプリングの効果により、低周波数域から高周波数域に亘って除振性能を向上させることが可能となるとともに、極低周波数域では除振対象物の基礎構造部3に対する相対位置を一定に保つことが可能となる。
【0051】
加えて、本実施形態では、除振対象物の加速度を検出するための加速度センサを用いることなく、第1加速度センサ35により得られた床の変位Xと変位センサ33により得られた相対変位X−Xに基づいて、除振対象物の変位Xや速度X′を求めることができる。したがって、従来、変位センサ、床の加速度センサ及び除振対象物の加速度センサを用いて、変位のフィードバック、除振対象物の振動のフィードバック及び床振動のフィードフォワードを行っていたが、変位センサ33及び床の第1加速度センサ35だけを用いて同様の制御を行うことが可能となる。
【0052】
ここで、本実施形態におけるスカイフックスプリングによる効果を確認するために行ったシミュレーションの結果を、図4に示す。図4は、周波数と振動伝達率との関係を対数目盛で表した、シミュレーション結果を示すグラフ図であり、図中の実線は本実施形態に係るアクティブ除振装置の振動伝達率を、破線はパッシブ除振装置の振動伝達率を、一点鎖線は位置制御のみを行う(P・(X−X)をフィードバックする)アクティブ除振装置の振動伝達率を、二点鎖線は位置制御及び変位のフィードバック制御を行う(P・(X−X)+G・Xをフィードバックする)アクティブ除振装置の振動伝達率をそれぞれ示すものである。
【0053】
同図より、位置制御のみを行うアクティブ除振装置では、パッシブ除振装置と比較して、固有振動数が高くなり、10Hz付近の高周波数域において除振性能が極めて悪化することが分かる。また、位置制御に加えてスカイフックスプリングの効果を狙って変位のフィードバック制御を行うアクティブ除振装置では、固有振動数がさらに高くなり、1Hz付近の低周波数域においては振動伝達率が1未満となるものの、10Hz付近の高周波数域における除振性能が極めて悪化することが分かる。
【0054】
これに対し、本実施形態に係るアクティブ除振装置では、固有振動数よりも低い1Hz付近の低周波数域において、スカイフックスプリングの効果により振動伝達率が概ね−10dBよりも小さくなっているのみならず、10Hz付近の高周波数域においてもパッシブ除振装置と同等の除振性能が得られることが分かる。さらに、図示していないが、微分制御ゲインDのフィードバックを加えれば、スカイフックダンパの効果により、固有振動数付近の除振性能が向上する。
【0055】
なお、0.1Hzにおいて、振動伝達率が1(0dB)に近づいているのは、第1加速度センサ35のDC成分をカットする際に用いるハイパスフィルタ57の影響のためである。すなわち、本実施形態のハイパスフィルタ57は、第1加速度センサ35からの信号から低周波数から高周波数に亘る周波数成分の信号を抽出することから、極低周波数である0Hzに向かうほど除振対象物と基礎との相対変位を一定に保つ制御を意図し、その結果、振動伝達率が0dBに近づくためである。
【0056】
以上により、本実施形態のアクティブ除振装置によれば、位置制御を行いながらも、スカイフックスプリングの効果により、除振性能が向上することが確認できた。
【0057】
(実施形態2)
本実施形態は、リニアモータ47ではなく空気ばね21を制御力を付加するためのアクチュエータとして用いる点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0058】
図5は、本発明の実施形態2に係る精密除振台1における空気ばねユニット5を示す。
【0059】
図5に示すように、各空気ばね21は配管43を介してそれぞれサーボ弁41に接続されており、当該サーボ弁41がコントローラ39からの制御信号を受けて開閉作動することにより、各空気ばねユニット5毎の空気ばね21に対する空気の給排流量が調整されて、当該空気ばね21の空気圧が速やかに変更されるようになっている。換言すると、空気ばね21は、当該空気ばね21の圧力状態を調整するためのサーボ弁41の制御により、除振対象物に対して制御振動(制御力)を付加するためのアクチュエータとして用いられている。このように、空気ばね21をアクチュエータとして利用することで、上記実施形態1のようにリニアモータ47を別途設ける必要がなくなり、しかも、空気ばね21の特性として比較的大きな力を容易に得ることができる。
【0060】
なお、サーボ弁41は、圧搾空気を貯留するリザーバタンク45に接続され、このリザーバタンク45には図示しない電動ポンプが接続されていて、この電動ポンプの作動によりリザーバタンク45内の空気圧が所定値に維持されるようになっている。また、図5には、空気ばねユニット5の上下方向の変位センサ33及び第1加速度センサ35のみが示されているが、これ以外に水平方向の変位センサ及び加速度センサ、並びに、水平方向のアクチュエータである水平方向の空気ばね及びこれを制御するためにサーボ弁も配設されており、以下に述べる上下方向の制御と同様にして水平方向の制御も行われるようになっている。
【0061】
コントローラ39は、ベースプレート25に対するトッププレート27の相対変位X−Xに基づいて、フィードバック操作量を決定し、当該決定されたフィードバック操作量に基づいてサーボ弁41を作動させることにより、空気ばね21の空気室21aの空気圧を調整する第1フィードバック制御部39aを有している。この第1フィードバック制御部39aによる空気ばね21の基本的な制御について、以下、説明の便宜のために上下方向の振動を低減する制御についてのみ、図6を参照して詳細に説明する。
【0062】
図6は、第1フィードバック制御部39a、ハイパスフィルタ57及び信号制御部39bによる上下方向の空圧制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。上述の如く、符号Aの部分は、除振対象物が空気ばね21によって支持されていることを表している。
【0063】
また、符号FB1’の部分と符号41とは、除振対象物に対して、第1フィードバック制御部39aで決定されたフィードバック操作量に(1+T・s)/(K・A)を乗算して得られた値を、その特性がK・A/(1+T・s)で表されるサーボ弁41を介して作用させていることを示している。ここで、Kはサーボ弁41のゲインであり、Tは時定数であり、Aは空気ばね21の受圧面積である。
【0064】
これについて詳述すると、フィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)は上記実施形態1と同様電流であるが、制御力がフィードバック操作量に比例するリニアモータ47と異なり、空気ばね21の場合には、フィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)によってサーボ弁41を制御することで、空気ばね21の空気室21aに対し空気の出し入れを行い、圧力を変更することで除振対象物に対して制御力を付加するようになっている。このため、本実施形態のようにアクチュエータとして空気ばね21を利用する場合、フィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)に比例するのはサーボ弁41の開度であり、空気ばね21の内圧はフィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)の近似積分に比例することになるから、フィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)と制御力とは、比例関係になく一次遅れの関係にある。
【0065】
そうして、かかるフィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)をそのまま用いると、一次遅れ要素であるK・A/(1+T・s)によって近似積分されることから、たとえ信号制御部によってXとxとが打ち消されたとしても、結果的にXを積分したものに比例する制御力が発生することになり、スカイフックスプリングの効果が得られないという問題がある。
【0066】
これを避けるために、本実施形態の精密除振台1では、第1フィードバック制御部39aによって決定されたフィードバック操作量と、サーボ弁41によって発生する力とが比例関係になるように、当該フィードバック操作量を補正するための補償器(補償手段)59を備えている。この補償器59は、具体的には、サーボ弁41の特性の逆数をフィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)に乗算して、サーボ弁41による近似積分の効果を打ち消すような補償を行う。これにより、空気ばね21によって除振対象物に付加される制御力は、一次遅れの関係になることなく、フィードバック操作量(D・s+P+I/s)・(X−X+x)に比例することになる。
【0067】
これらにより、第1フィードバック制御部39aによる上下方向のフィードバック制御を行った場合のアクティブ除振装置の振動伝達率は、
X/X=(C・s+K)/{M・s+(C+D)・s+(K+P)+I/s} …(式5)
と表される。
【0068】
(式5)と(式4)とを比べれば明らかなように、空圧制御の場合の振動伝達率と、リニアモータ制御の場合の振動伝達率との違いは、各制御ゲインに比例定数Kが乗算されているか否かだけであるから、空圧制御の場合にも、各制御ゲインを調整することで、上記実施形態1と同様、高い除振性能を得ることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、サーボ弁41の特性の逆数を含む補償器59を用いたが、ラプラス変換領域では微分と積分とは逆数の関係にあるところ、一次遅れの逆数はその分子にラプラス演算子を含み(微分となり)不安定となるので、これを回避するために、高いカットオフ周波数を有する一次遅れ要素(二次遅れ要素でもよい)等、例えば、ローパスフィルタを補償器59に加えてもよい。
【0070】
ここで、本実施形態におけるスカイフックスプリングによる効果を確認するために行ったシミュレーションの結果を、図7に示す。図7は、周波数と振動伝達率との関係を対数目盛で表した、シミュレーション結果を示すグラフ図であり、図中の実線は本実施形態に係るアクティブ除振装置の振動伝達率を、破線はパッシブ除振装置の振動伝達率を、一点鎖線は本実施形態から補償器59を取り除いたアクティブ除振装置の振動伝達率をそれぞれ示すものである。
【0071】
同図より、本実施形態から補償器を取り除いたアクティブ除振装置では、スカイフックスプリングの効果が得られるXに比例する制御力ではなく、Xを積分したものに比例する制御力が付加されることから、パッシブ除振装置の場合とほとんど変わらない結果しか得られず、スカイフックスプリングの効果による振動伝達率の低下は見られない。なお、0.1Hzにおいて、振動伝達率が低下しているのは、サーボ弁41への操作量と空気による制御力とを一次遅れとおき、低い周波数では両者が比例することから、スカイフックスプリングの効果が現れたためである。
【0072】
これに対し、本実施形態に係るアクティブ除振装置では、実施形態1と同様、固有振動数よりも低い1Hz付近の低周波数域において、スカイフックスプリングの効果により振動伝達率が概ね−10dBよりも小さくなっているのみならず、10Hz付近の高周波数域においてもパッシブ除振装置と同等の除振性能が得られることが分かる。さらに、図示していないが、微分制御ゲインDのフィードバックを加えれば、スカイフックダンパの効果により、固有振動数付近の除振性能が向上する。
【0073】
以上により、本実施形態の精密除振台1によれば、サーボ弁41を用いた場合にも、スカイフックスプリングの効果により、除振性能が向上することが確認できた。
【0074】
(実施形態3)
本実施形態は、第2加速度センサ37を備えている点、並びに、変位のフィードバック制御のみならず、フィードフォワード制御及び速度のフィードバック制御を行う点が実施形態2と異なるものである。以下、実施形態2と異なる点について説明する。
【0075】
図8は、本発明の実施形態3に係る精密除振台1における空気ばねユニット5を示す。図8に模式的に示すように、空気ばねユニット5には、除振対象物の振動状態、具体的には、トッププレート27の振動状態を検出する第2加速度センサ37が設けられている。そうして、変位センサ33、第1加速度センサ35及び第2加速度センサ37からの出力信号がそれぞれコントローラ39に入力されるようになっている。なお、図8においては、空気ばねユニット5の上下方向の第2加速度センサ37のみが示されているが、これ以外に水平方向の第2加速度センサも配設されており、以下に述べる上下方向の制御と同様にして水平方向の制御も行われる。
【0076】
コントローラ39は、第2加速度センサ37によって検出された除振対象物の加速度に基づいて、フィードバック操作量を決定し、当該決定されたフィードバック操作量に基づいてサーボ弁41を作動させることにより、空気ばね21の空気室21aの空気圧を調整する第2フィードバック制御部39cと、第1加速度センサ35によって検出されたベースプレート25の加速度(基礎構造部3の振動状態)に基づいてフィードフォワード操作量を決定し、基礎構造部3から空気ばね21を通して除振対象物に伝わる振動を低減するような制御力を付加するフィードフォワード制御部39dとを有している。これら第2フィードバック制御部39c及びフィードフォワード制御部39dによるサーボ弁41の基本的な制御について、以下、説明の便宜のために上下方向の振動を低減する制御についてのみ、図9を参照して詳細に説明する。
【0077】
図9は、図6に加え、第2フィードバック制御部39c及びフィードフォワード制御部39dによる上下方向の空圧制御における物理的な現象を模式的に表したブロック図である。
【0078】
図9における符号FB2の部分は、除振対象物の上下方向加速度X′′を1回微分して得られるX′′′にフィードバック制御ゲインGを乗算し、また、加速度X′′にフィードバック制御ゲインGを乗算して得られたフィードバック操作量G・X′′′、G・X′′を、サーボ弁41を介して、かかる除振対象物に制御力として作用させることを表している。そうして、制御力が付加された後の除振対象物の振動状態(加速度X′′)は、当該除振対象物及び空気ばね21などからなる制御対象から再びフィードバックされる。
【0079】
一方、図9における符号FFの部分は、フィードフォワード制御部39dによる上下方向のフィードフォワード制御を、具体的には、第1加速度センサ35からの信号に基づいて、基礎構造部3から除振対象物へ伝達する振動を推定し、この振動と略同じ振幅で略逆位相の制御力を除振対象物に作用させることを表している。なお、フィードフォワード制御部39dにおいても、フィードフォワード操作量がサーボ弁41の特性である一次遅れ要素K・A/(1+T・s)によって近似積分されるのを避けるために、サーボ弁41の特性の逆数をフィードフォワード操作量に乗算している。
【0080】
このアクティブ振動制御装置によれば、第2フィードバック制御部39cによる速度のフィードバックによって所謂スカイフックダンパの効果が得られ、高周波数域での除振性能を損なうことなく共振倍率を低下させることができるとともに、フィードフォワード制御部39dによって除振性能をさらに向上させることができる。
【0081】
ここで、本実施形態のアクティブ除振装置による効果を確認するために行ったシミュレーションの結果を、図10に示す。図10は、周波数と振動伝達率との関係を対数目盛で表した、シミュレーション結果を示すグラフ図であり、図中の実線は本実施形態の(フィードフォワード制御及び速度のフィードバック制御を付加した)アクティブ除振装置の振動伝達率を、破線はパッシブ除振装置の振動伝達率を、一点鎖線は実施形態2のアクティブ除振装置の振動伝達率を、二点鎖線は実施形態2のアクティブ除振装置に速度のフィードバック制御を付加したものの振動伝達率をそれぞれ示すものである。
【0082】
なお、本実施形態のアクティブ除振装置の効果と、実施形態2のアクティブ除振装置に速度のフィードバック制御を付加したものの効果との差を明確にするために、本シミュレーションにおける本実施形態のアクティブ除振装置では、加速度のフィードバック制御を付加していない(フィードバック操作量G・X′′′を、制御力として作用させていない)。
【0083】
同図より、実施形態2のものに速度のフィードバック制御を付加したアクティブ除振装置では、スカイフックダンパの効果により、高周波数域での除振性能を損なうことなく共振倍率を低下することが分かる。また、速度のフィードバック制御及びフィードフォワード制御を付加した本実施形態に係るアクティブ除振装置では、全周波数域で極めて高い除振性能が得られることが分かる。
【0084】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0085】
上記実施形態1では、ばね要素として、空気ばね21を用いたが、これに限らず、例えば、コイルばねを用いてもよい。
【0086】
また、上記実施形態3では、コントローラ39により振動低減のためにフィードフォワード制御及びフィードバック制御の両方を行うようにしているが、これに限らず、例えばフィードフォワード制御は行わないようにしてもよい。この場合でも、図10に示したように、高周波数域での除振性能を損なうことなく共振倍率を低下することができる。
【0087】
さらに、アクチュエータとして、上記実施形態1ではリニアモータ47を、また上記実施形態2では空気ばね21をそれぞれ用いたが、これに限らず、例えば圧電素子などのアクチュエータを用いてもよい。
【0088】
また、上記各実施形態では、位置制御にPID制御を用いたが、本発明の構成は、PID制御に限らず、位置制御として相対変位をフィードバックする場合には有効である。
【0089】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本発明は、精密機器を床振動から概ね絶縁した状態で設置するためのアクティブ除振装置等について有用である。
【符号の説明】
【0091】
3 基礎構造部(基礎)
21 空気ばね(気体ばね(ばね要素)(アクチュエータ))
33 変位センサ
35 第1加速度センサ(加速度センサ)
39a 第1フィードバック制御部(フィードバック制御手段)
39b 信号制御部(信号制御手段)
41 サーボ弁
47 リニアモータ(アクチュエータ)
57 ハイパスフィルタ
59 補償器(補償手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除振対象物を床上に設置される基礎に対して支持するばね要素と、当該除振対象物と当該基礎との相対変位を検出するための変位センサと、当該変位センサからの信号に基づいてフィードバック操作量を決定してアクチュエータを駆動し、当該除振対象物に制御力を付加するフィードバック制御手段と、を備えたアクティブ除振装置であって、
上記基礎の加速度を検出するための加速度センサと、
上記加速度センサからの信号から所定の周波数以上の周波数成分の信号を抽出するためのハイパスフィルタと、
上記ハイパスフィルタから出力された信号に基づいて基礎の変位を算出し、且つ、当該基礎の変位に基づいて上記変位センサからの信号を補正する信号制御手段と、をさらに備えていることを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項2】
請求項1記載のアクティブ除振装置において、
上記ばね要素は気体ばねであり、
上記気体ばねは、当該気体ばねの圧力状態を調整するためのサーボ弁の制御により、制御力を付加するための上記アクチュエータとしても用いられ、
上記フィードバック制御手段によって決定されたフィードバック操作量と、上記サーボ弁によって発生する力とが比例関係になるように、当該フィードバック操作量を補正するための補償手段と、をさらに備えていることを特徴とするアクティブ除振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−41983(P2012−41983A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183855(P2010−183855)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】