説明

アクネ菌のバイオフィルム形成阻害剤

【課題】ニキビの増悪原因であるアクネ菌のバイオフィルム形成を阻害し、効果的にニキビを予防又は治療する安全性・安定性にも優れた外用剤を提供する。
【解決手段】マラセチア属真菌の培養液は、アクネ菌のバイオフィルム形成を阻害する。また、マラセチア属真菌培養液を抗菌剤と併用することによって、抗菌剤単独の場合と比較し、アクネ菌に対する抗菌性は向上する。さらに、マラセチア属真菌培養液を含有する外用剤、並びにマラセチア属真菌培養物及び抗菌剤を含有する外用剤は、優れたニキビ予防及び症状緩和効果を示し、安全性、安定性にも優れる。これらのことから、アクネ菌バイオフィルム形成阻害剤は、ニキビ予防及び症状緩和に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニキビの増悪原因であるアクネ菌のバイオフィルム形成を阻害し、効果的にニキビを予防又は治療する外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚疾患の一つであるニキビ(尋常性ざ瘡)は、毛穴が閉塞し皮脂が貯留した脂腺性毛包内でアクネ菌が増殖することによって発症する。アクネ菌は毛包内でバイオフィルムを形成しており、このバイオフィルムの発達はニキビの発症に深く関与していると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
バイオフィルムとは、微生物が生成した細胞外多糖類と菌体等からなる集合体であり、環境中の微生物はこのバイオフィルム内で生存している。バイオフィルムが形成されていると、抗菌剤を投与しても抗菌剤が内部に浸透しないため、期待される効果が得られない。つまり、環境中の微生物の制御には、適切な抗菌剤を用いるだけでなく、バイオフィルム形成を阻害することが重要と言える。
【0004】
バイオフィルム形成阻害剤としては、アミド化合物や多価アルコールといった化学物質を用いた方法が報告されている(特許文献1及び2)。しかし、天然物、特に微生物由来のバイオフィルム形成阻害剤は知られていなかった。
【0005】
【非特許文献1】Int J Dermatol.Vol.42(12),PP.925−927(2003)
【特許文献1】特開2010−43003
【特許文献2】特開2005−225830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニキビの原因の一つであるアクネ菌のバイオフィルム形成を阻害し、安全性、安定性にも優れている外用剤が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題の解決に向け鋭意検討を行った結果、マラセチア属真菌培養液がアクネ菌のバイオフィルム形成を阻害することを見出した。さらに、マラセチア属真菌培養液を含有する外用剤、並びにマラセチア属真菌培養物及び抗菌剤を含有する外用剤は、安全性、安定性にも優れており、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明に用いられるマラセチア属真菌培養液は、Malassezia furfur、Malassezia sympodialis、Malassezia globosa、Malassezia restricta、又はMalassezia dermatisを培養して作製した。
【0009】
本発明の皮膚外用剤には、その効果を損なわない範囲内で、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0010】
本発明の皮膚外用剤は、化粧品、医薬部外品及び医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、洗口剤、液体歯磨、練歯磨等が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
マラセチア属真菌培養液は、アクネ菌のバイオフィルム形成を阻害した。また、本培養液及び抗菌剤を含有する外用剤の抗菌効果は、抗菌剤のみを含有する外用剤と比較して増強した。
【0012】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
製造例1 M.furfur培養液
Malassezia furfur NBRC0656をLeeming&Notman培地(全量1000mL中、ペプトン 10g、ウシ胆汁エキス 4g、酵母エキス 0.1g、グルコース 5g、グリセリン 1g、グリセリンモノステアレート 0.5g、Tween60 0.5g、3.25%脂肪乳 10mL)(非特許文献2)を用いて32℃にて1週間培養した後、0.45μmのフィルターにて濾過し、M.furfur培養液を作製した。
【0014】
製造例2 M.globosa培養液
Malassezia globosaを製造例1の方法にて培養した後、同様に濾過して、M.globosa培養液を作製した。
【0015】
製造例3 M.restricta培養液
Malassezia restrictaを製造例1の方法にて培養した後、同様に濾過して、M.restricta培養液を作製した。
【0016】
製造例4 M.sympodialis培養液
Malassezia sympodialisを製造例1の方法にて培養した後、同様に濾過して、M.sympodialis培養液を作製した。
【0017】
製造例5 M.dermatis培養液
Malassezia dermatisを製造例1の方法にて培養した後、同様に濾過して、M.dermatis培養液を作製した。
【0018】
処方例1 化粧水
処方 配合量(部)
1.M.furfur培養液(製造例1) 5.0
2.硫酸カリウムアルミニウム 0.3
3.1,3−ブチレングリコール 8.0
4.グリセリン 2.0
5.キサンタンガム 0.02
6.クエン酸 0.01
7.クエン酸ナトリウム 0.1
8.エタノール 5.0
9.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
10.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
11.香料 0.1
12.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜7及び12と、成分8〜11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0019】
比較例 従来の化粧水
処方例1において、成分1を精製水5.0部に置き換えたものを従来の化粧水とした。
【0020】
処方例2 クリーム
処方 配合量(部)
1.M.globosa培養液(製造例2) 3.0
2.サリチル酸 0.1
3.1,3−ブチレングリコール 8.5
4.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.水酸化ナトリウム 0.17
7.リン酸二水素カリウム 0.68
8.スクワラン 6.0
9.オリーブ油 3.0
10.ステアリン酸 2.0
11.ミツロウ 2.0
12.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
13.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
14.ベヘニルアルコール 1.5
15.モノステアリン酸グリセリン 2.5
16.香料 0.1
17.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分8〜15を加熱溶解して混合した後、70℃に保ち油相とする。成分2〜7及び17を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分1及び16を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0021】
処方例3 乳液
処方 配合量(部)
1.M.restricta培養液(製造例3) 3.0
2.トリクロサン 0.05
3.スクワラン 5.0
4.オリーブ油 5.0
5.ホホバ油 5.0
6.セタノール 1.5
7.モノステアリン酸グリセリン 2.0
8.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
9.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
10.香料 0.1
11.プロピレングリコール 1.0
12.グリセリン 2.0
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.ホウ酸ナトリウム十水和物 1.0
15.塩酸 0.17
16.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分11〜16を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分1及び10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0022】
処方例4 ゲル剤
処方 配合量(部)
1.M.sympodialis培養液(製造例4) 4.0
2.ピオニン 0.001
3.1,3−ブチレングリコール 5.0
4.グリセリン 5.0
5.キサンタンガム 0.1
6.カルボキシビニルポリマー 0.2
7.水酸化カリウム 0.2
8.トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.80
9.塩酸 0.12
10.エタノール 5.0
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
12.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
13.香料 0.1
14.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜9及び14と、成分10〜13をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0023】
処方例5 軟膏
処方 配合量
1.M.dermatis培養液(製造例5) 5.0
2.サリチル酸 0.05
3.トリクロサン 0.05
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
5.モノステアリン酸グリセリン 10.0
6.流動パラフィン 5.0
7.セタノール 6.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.プロピレングリコール 10.0
10.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3〜7を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分2及び8〜10を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分1を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【実施例2】
【0024】
実験例1 マラセチア属真菌培養液によるアクネ菌のバイオフィルム形成阻害効果
強化クロストリジア培地(Oxoid)80μL、アクネ菌分散液(菌数10/mL)10μL、製造例1〜5で作製したマラセチア属真菌培養液又はLeeming&Notman培地(ネガティブコントロール)10μLを96穴マイクロプレートに加え、35℃にて嫌気培養した。1週間後、上清を取り除き、リン酸緩衝液にて洗浄した後、0.5%クリスタルバイオレットを加えてバイオフィルムを染色した。さらにリン酸緩衝液にて洗浄した後、エタノールを加えて色素を溶出し、950nmにおける吸光度を測定してバイオフィルム形成量とした。
【0025】
【非特許文献2】J Clin Microbiol.Vol.25,PP.2017−2019(1987)
【0026】
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記の表1から、マラセチア属真菌培養液を含む場合、アクネ菌のバイオフィルム形成は抑制されていることが明らかである。
【0029】
他のマラセチア菌種においても、M.furfurを用いた場合と同様に、アクネ菌のバイオフィルム抑制効果を認めた。
【実施例3】
【0030】
実験例2 抗菌剤とマラセチア属真菌培養液の併用効果
実施例2の方法に準じ、マラセチア培養液又はLeeming&Notman培地の存在下でアクネ菌を培養した後、2%(W/V)の硫酸カリウムアルミニウムを添加し、6時間後のアクネ菌の生菌数を培養法にて測定した。
【0031】
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
マラセチア属真菌培養液を添加してアクネ菌を培養した場合、マラセチア属真菌培養液を含まない時よりもアクネ菌の生菌数が減少したことから、マラセチア属真菌培養液が硫酸カリウムアルミニウムのアクネ菌に対する抗菌効果を増大させたことが明らかである。
【0034】
他のマラセチア菌種においても、M.furfurを用いた場合と同様に、硫酸カリウムアルミニウムのアクネ菌に対する抗菌効果を増強した。
【0035】
抗菌剤として、ナジフロキサシン、リン酸クリンダマイシン、サリチル酸、トリクロサン又はピオニンを用いた場合においても、マラセチア属真菌培養液は、これらの抗菌剤のアクネ菌に対する抗菌性を増強した。
【実施例4】
【0036】
実験例3 使用試験
処方例1及び比較例の化粧水を用いて、顔面にニキビを有する成人20名(男性10名、女性10名)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、アンケート調査によりニキビの改善について判定した。
【0037】
結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
マラセチア属真菌培養液を含有する化粧水は、優れたニキビ症状の改善効果を示した。なお、試験期間中皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。
【0040】
処方例2〜5で得られた化粧品、医薬品についても同様に使用試験を行った結果、いずれもニキビの予防改善効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のマラセチア属真菌培養液を含有する外用剤は、ニキビの予防及び治療を目的とする化粧品、医薬部外品、医薬品に利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母様真菌の培養液を有効成分とするアクネ菌のバイオフィルム形成阻害剤。
【請求項2】
マラセチア属真菌の培養液を有効成分とするアクネ菌のバイオフィルム形成阻害剤。
【請求項3】
マラセチア属真菌の培養液を有効成分とするニキビ予防又は治療用皮膚外用剤。
【請求項4】
マラセチア属真菌の培養液及び抗菌剤を含有するアクネ菌に対する抗菌組成物。







【公開番号】特開2012−206973(P2012−206973A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72954(P2011−72954)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】