説明

アクリルエマルジョンの製造方法およびアクリルエマルジョン

【課題】 凝集力が高く、乾燥させてフィルム状に成形した際に引張強度が高いフィルムを得ることができるアクリルエマルジョンの製造方法およびその方法によって製造されたアクリルエマルジョンを提供する。
【解決手段】 エチレンと、(メタ)アクリル酸エステルを有するモノマーを、ポリビニルアルコール単独またはポリビニルアルコールを主成分とする乳化分散剤と、ホルムアミジンスルフィン酸、二酸化チオ尿素およびこれらの誘導体から選ばれた少なくとも1種以上の還元剤と、アルコキシラジカルを発生する酸化剤との存在下で、レドックス重合することを特徴とするアクリルエマルジョンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルエマルジョンの製造方法およびその製造方法によって得られたアクリルエマルジョンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリルエマルジョンは、接着剤、粘着剤、各種のテープ、紙加工、セメントやモルタルの混和剤、打ち継ぎ材、含浸紙、不織布、非塩ビ壁紙等の各種バインダー、塗料等の広範囲に渡る用途に利用されている。
このアクリルエマルジョンを得る手段としては、エチレンやエステル類を、アニオン性やノニオン性の界面活性剤の存在下で重合する手段(例えば、特許文献1参照)、アクリルモノマーの乳化分散剤として特殊な変性を施したポリビニルアルコールの存在下で重合する手段(例えば、特許文献2〜5参照)、再分散性アクリル樹脂粉末の製造を目的にポリビニルアルコール等の水溶性保護コロイドを連鎖移動剤の存在下で使用する手段(例えば、特許文献6参照)、さらに、予備乳濁液を重合の段階に供給することで安定化されたアクリルエマルジョンおよび/またはスチレンエマルジョンを得る手段(例えば、特許文献7参照)等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特許第3424266号公報(第1頁、特許請求の範囲)
【特許文献2】特公平3−24481号公報(第1頁、特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第3071253号公報(第1頁、特許請求の範囲)
【特許文献4】特許第3441233号公報(第1頁、特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2003−212910号公報(第2頁、特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平4−185607号公報(第1頁、特許請求の範囲)
【特許文献7】特開昭57−158252号公報(第1頁、特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、凝集力が高く、乾燥させてフィルム状に成形した際に引張強度が高いフィルムを得ることができるアクリルエマルジョンを製造する方法、およびこの製造方法によって得られたアクリルエマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、アクリルエマルジョンについて鋭意検討した結果、エチレンと、(メタ)アクリル酸エステルを有するモノマーを、ポリビニルアルコール単独またはポリビニルアルコールを主成分とする乳化分散剤と、ホルムアミジンスルフィン酸、二酸化チオ尿素およびこれらの誘導体から選ばれた少なくとも1種以上の還元剤と、アルコキシラジカルを発生する酸化剤との存在下で、レドックス重合することを特徴とするアクリルエマルジョンの製造方法、およびこの方法によって得られたアクリルエマルジョンによって、これらの課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0006】
本願の製造方法は、汎用的で煩雑でない方法でアクリルエマルジョンが得られ、得られたアクリルエマルジョンは凝集力が高く、乾燥させてフィルム状に成形した際に引張強度が高いフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、エチレンと、(メタ)アクリル酸エステルを有するモノマーを重合する際に、ポリビニルアルコールを主成分とする乳化分散剤と、還元剤および酸化剤の存在下でレドックス重合することを特徴とするアクリルエマルジョンの製造方法である。
【0008】
乳化分散剤は、ポリビニルアルコール単独や、ポリビニルアルコールと水溶性高分子、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、その他の界面活性剤や両性界面活性剤を併用したものが良い。
【0009】
ポリビニルアルコールは、特に制限なく通常のポリビニルアルコールを用いることができ、例えば、脂肪酸ビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られる単独重合体または共重合体、もしくは他の共重合可能なモノマーの共重合体を鹸化して得られるポリビニルアルコール、或いはこれらのポリビニルアルコールを変性して得られる変性ポリビニルアルコールがある。これらのポリビニルアルコールにおいて、共重合可能な他のモノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の重合性モノカルボン酸類、マレイン酸、イタコン酸等の重合性ジカルボン酸類、無水マレイン酸等の重合性ジカルボン酸無水物、重合性モノカルボン酸類や重合性ジカルボン酸類のエステル類、およびその塩類、アクリルアミド、メタクリルアミド等の重合性酸アミド類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、グリシジル基を有するモノマー、アルキルビニルエーテル類、スルホン基を有するモノマー等がある。また、変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、アセトアセチル変性ポリビニルアルコールやメルカプト変性ポリビニルアルコールがある。これらポリビニルアルコールの平均重合度は200〜4500、ケン化度については、完全ケン化ポリビニルアルコールやケン化度65〜95%の部分ケン化ポリビニルアルコールが用いられる。この中で経済性、汎用性のある通常の未変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0010】
水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキエチルセルロースやメチルセルロース等があり、ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル等のものがある。また、アニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩やメチルタウリン酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、リン酸エステル塩等があり、カチオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩やアミン塩類等のものがある。
【0011】
乳化分散剤として、ポリビニルアルコールと他の界面活性剤を併用する場合の配合割合は、ポリビニルアルコール100質量%に対して、他の界面活性剤を20質量%以下の範囲で用いることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下の範囲が良い。併用する界面活性剤の配合量が多すぎると得られたアクリルエマルジョンの凝集力が低下し、乾燥して得られたフィルムの引張強度が低くなる恐れがある。
【0012】
乳化分散剤の使用量は特に限定されるものではないが、好ましくは反応させる全モノマー100質量部に対して0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。これら乳化分散剤の使用量が0.5質量部よりも少ないとモノマーが凝集して重合が滞り残存モノマーが増える傾向があり、20質量部より多いと粘度が高く重合速度を制御するのが難しくなり経済的にも好ましくない。
【0013】
還元剤は、ホルムアミジンスルフィン酸、二酸化チオ尿素およびこれら誘導体から選ばれた少なくとも1種以上の化合物がよく、これらの還元剤を使用することにより重合を安定的に行うことができる。
【0014】
還元剤は、水溶液中で互換異性体として存在することが公知であるが、その誘導体としては、N,N’−ジフェニルチオ尿酸、N,N’−ジベンジルチオ尿酸やN,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素等のチオ尿素誘導体を過酸化水素で酸化させて得られたものや、特許第2808489号公報のアミノ酸と二酸化チオ尿素とを反応させて得られる水溶性の二酸化チオ尿素誘導体などがある。
【0015】
還元剤の使用量は特に限定されるものではないが、好ましくは反応させる全モノマー100質量部に対して0.01〜1.0質量部、さらに好ましくは0.08〜0.5質量部である。これら還元剤の使用量が0.01質量部よりも少ないと重合途中に枯渇し残存モノマーが増える傾向があり、1.0質量部より多いと重合性は良好であるがコストが高くなり経済性の点で好ましくない。また、使用方法も酸化剤を添加する前に反応系内に添加しても良く、酸化剤と共に反応系内に添加しても良い。また、レドックス重合を円滑に進めるため、鉄、銅、コバルト、ニッケルなどの水溶性金属化合物やピロリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩などのキレート形成化合物を併用しても良い。
【0016】
酸化剤は、アルコキシラジカルを発生させるものでなければならない。さらにこのアルコキシラジカルはt−ブトキシラジカルであることが望ましい。このアルコキシラジカルを発生させる酸化剤としては、例えば、1,1,3,3,−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、t−ヘキシルヒドロパーオキサイド、キュメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド等のヒドロパーオキサイド類、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、ジ−t−ブチルパーオキシド等のパーオキシエーテル類を挙げることが出来る。このなかで好ましくはt−ブチルヒドロパーオキサイドやt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のt−ブトキシラジカルを発生させる酸化剤が挙げられ、特に好ましくは、t−ブチルヒドロパーオキサイドを用いたときに優れた効果を有する。また、これらは単独でもあるいは2種類以上を併用して使用することもできる。これらアルコキシラジカルは特にポリビニルアルコールをグラフトさせ易いと推測される。
【0017】
酸化剤の使用量は特に限定されるものではないが、好ましくは反応させる全モノマー100質量部に対して0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部である。これら還元剤の使用量が0.01質量部よりも少ないと重合が滞り残存モノマーが増える傾向があり、1質量部より多いと重合速度を制御するのが難しくなり経済的にも好ましくない。
【0018】
レドックス重合は、ビニル重合において、重合開始剤として用いる酸化剤の他に更に還元剤を存在させ、これら酸化剤と還元剤との間における酸化還元反応によって発生するラジカルによって重合を開始する重合方法である。
【0019】
レドックス重合における重合温度は、使用するラジカル開始剤の種類により異なるが40〜80℃とすることが出来る。重合は、アクリルエマルジョンに含有される未反応モノマーが3質量%以下になるまで行うことが好ましい。
【0020】
レドックス重合における重合時間は、エチレン以外のモノマー基準による重合率が90%になるまでの時間が5時間以上であることが好ましい。重合時間が短いと、アクリルエマルジョンの粘度が高くなって不揮発分を高く設定できなくなり、得られるアクリルエマルジョンの乾燥時間が長くなる恐れがある。
【0021】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどがあり、好ましくは、ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが良い。
【0022】
本発明によって得られるアクリルエマルジョンは、その構造中に、酢酸ビニルまたはそれ以外のビニルエステルや官能基を有するモノマーを共重合させても良い。これらのモノマーを共重合させる場合は、エチレンと、(メタ)アクリル酸エステルおよび他のモノマーを質量比で2〜35:98〜20:0〜70、好ましくは5〜30:90〜30:0〜40が良い。共重合可能なモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、N−ビニルピロリドン、スチレン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドがある。また、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートを併用することもできる。さらに官能基としてグリシジル基、カルボキシル基、水酸基、アセトアセチル基、アミノ基、アミド基等を有するモノマーを共重合しても良い。
【0023】
本発明の製造方法で得られるアクリルエマルジョンは、そのままで各種用途に用いることが出来るが、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤や他のエマルジョン、ラテックスを添加することが出来る。各種の添加剤としては例えば、消泡剤や防腐剤、防黴剤、防錆剤、浸透性調整剤、粘度粘性調整剤、増粘剤、難燃剤、分散剤、無機フィラー、珪砂等の骨材、顔料等がある。他のエマルジョン、ラテックスとしてはスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−アクリル共重合体エマルジョン、アクリルエマルジョン等がある。さらに必要に応じてヒドロキシエチルセルロースやメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースといった水溶性高分子、従来既知のアニオン性、カチオン性またはノニオン性界面活性剤を使用しても良い。
【実施例】
【0024】
以下、さらに詳細に実施例をもって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明記載の部および%は特に記載がなければ、いずれも質量基準で示したものである。
【0025】
(実施例1)
攪拌機付の高圧重合缶に、デンカポバールB−05(鹸化度88モル%、平均重合度600電気化学工業株式会社製)3.7部、デンカポバールB−17(鹸化度88モル%、平均重合度1700電気化学工業株式会社製)1.2部、ホルムアミジンスルフィン酸(和光純薬工業株式会社製)0.24部、酢酸ソーダ0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.005部、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム0.01部を122部の純水に溶解してから仕込み、さらに攪拌下酢酸ビニルモノマー66部を仕込み、窒素で重合缶内部を置換した後、エチレン25部を充填した。温度を55℃とした後、t−ブチルヒドロパーオキサイドの2%の水溶液を添加し重合を開始した。このt−ブチルヒドロパーオキサイドの添加と同時に酢酸ビニルモノマー4部とn−ブチルアクリレート30部の混合液を5時間かけて等速で重合缶に添加した。重合の途中、t−ブチルヒドロパーオキサイドを5%に変更して重合を継続した。重合速度は重合缶の冷却水温とt−ブチルヒドロパーオキサイドの添加速度で調整した。重合開始5時間後でエチレン以外のモノマー基準による重合率は94%であった。そのままt−ブチルヒドロパーオキサイドの添加を継続し重合による発熱が無くなった段階でt−ブチルヒドロパーオキサイドの添加を止め重合を終了した。残存するエチレンをパージし、未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧除去し、未反応の酢酸ビニルモノマーが0.5質量%以下のエチレン−酢酸ビニル−n−ブチルアクリレート共重合体エマルジョンを得た。得られたエマルジョンは不揮発分47.3%、粘度530mPa・sの凝集物がない安定なエマルジョンであった。結果を表1に示す。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様に重合を開始し、t−ブチルヒドロパーオキサイドの添加速度を実施例1より遅く調整したこと以外は実施例1と同様とした。重合開始5時間後のエチレン以外のモノマー基準による重合率は80%であった。得られたエチレン−酢酸ビニル−n−ブチルアクリレート共重合体エマルジョンは不揮発分54.0%、粘度670mPa・sであった。NMRで測定された組成はエチレンが21.4%、酢酸ビニルが51.2%、n−ブチルアクリレートが27.4%、DSCで測定されたTgは−24.0℃であった。さらに次の方法により評価した結果を含め表1に示す。
【0027】
本発明に於いて実施した各種の評価方法を以下に説明する。
[エチレン以外のモノマー基準による重合率]
エマルジョンを精秤し、赤外ランプでエマルジョン表面が150℃になるように調整・乾燥して不揮発分を求め一般式(数1)により重合率(%)を求めた。
【数1】

[不揮発分]
JIS K 6828に準じた方法で乾燥時間を3時間として測定した。
[粘度]
JIS K 6828に準じた方法で回転数は30rpmとして測定した。
[機械安定性]
JIS K 6828に準じた方法で金網は目開き150μm(100メッシュ)、台ばかりの目盛りは10kg、時間は5分間として測定した。この数値が低い程機械安定性に優れている。
[フィルム強度]
エマルジョンを不揮発分濃度30%に希釈して、水平に調整した4フッ化エチレン樹脂製の型枠に乾燥後のフィルムの厚みが0.3〜0.5mmになるように流した。そのまま23±2℃、65±5RH%の恒温恒湿室で1週間乾燥させフィルムを得た。次いで、得られたフィルムをJIS3号ダンベル形状に打ち抜き厚みを測定し、恒温恒湿室内で引張試験機を使用して200mm/分の速度で最大降伏点を測定した。この数値が高い程凝集力が高いことを意味する。
[OPP接着強度]
市販のOPPフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)上に自動塗工機を用いてエマルジョンを約90g/m塗布し直ちに市販のMDFと貼り合わせた。2kgのゴムロールを1往復させ、23±2℃、65±5RH%の恒温高湿室で4日間養生後、25mm幅の試験体を調整し恒温恒湿内で引張試験機を使用して200mm/分の引張速度で180°剥離方向の強度を測定した。この数値が高い程接着力が優れている。
常態;上記の乾燥状態での強度。
耐水;試験体を23℃の水に1日浸漬後、塗れたままで常態と同様に測定した強度。
【0028】
(実施例3〜実施例7)
実施例2のエチレン、酢酸ビニル、n−ブチルアクリレートの仕込量、2−エチルヘキシルアクリレート、ネオデカン酸ビニルエステル(ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名ベオバ10)、グリシジルメタクリレートを表1記載の通りに変更した以外は実施例2と同様にしてエマルジョンを得た。評価結果を表1に示す。なお、実施例4のNMRによる組成はエチレンが6.4%、n−ブチルアクリレートが93.6%であった。
【0029】
(比較例1)
実施例2のt−ブチルヒドロパーオキサイドのかわりに5%の過硫酸アンモニウムを使用した以外は実施例2と同様にしてエマルジョンを得た。不揮発分47.9%、粘度3380mPa・sであったがエマルジョン中に凝集物が有り、またエマルジョンが糸引きする様に状態が悪かったため評価しなかった。なお、重合開始5時間後のエチレン以外のモノマー基準による重合率は87%であった。
【0030】
(比較例2、比較例3)
実施例2と実施例5のポリビニルアルコールのかわりにアニオン性界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製の商品名ネオペレックスG−15)を純分で7.3部とした以外は実施例2と実施例5と同様にしてエマルジョンを得た。評価結果を表1に示す。なお、OPP接着強度(耐水)は測定する前にOPPフィルムが試験体より剥がれて強度は測定出来なかった。
【0031】
(比較例4)
表1には記載しなかったが、実施例2のホルムアミジンスルフィン酸のかわりにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(住友精化株式会社製の商品名SFS)を使用した以外は実施例2と同様にして得たものである。エマルジョンは安定であったが、ASTM D−5910に準じた方法で測定したホルムアルデヒド含有量が80ppmあり、環境的に問題があるため採用できなかった。
【0032】
【表1】

表1中、n−BAはn−ブチルアクリレート、2−EHAは2−エチルヘキシルアクリレート、VV−10はネオデカン酸ビニルエステル、GMAはグリシジルメタクリレートをそれぞれ表し、PVAはポリビニルアルコール、FASはホルムアミジンスルフィン酸、t−BHPはt−ブチルヒドロパーオキサイド、APSは過硫酸アンモニウム、活性剤はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをそれぞれ表す。
【0033】
表1から、本発明の製造方法で得られるアクリルエマルジョンは機械安定性に優れフィルム強度が高くさらに接着性に優れていることがわかる。
【0034】
一方、比較例1の願請求以外の酸化剤を使用したエマルジョンは安定性に劣る。本願請求のPVAを使用していない比較例2と比較例3は同じ仕込組成の実施例2と実施例5と比較するとフィルム強度が低く且つ接着性も劣る。本願請求以外の還元剤を使用した比較例4は環境的に好ましくないホルムアルデヒドを高濃度に含有している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法で得られるアクリルエマルジョンは、壁紙用バインダー、建材特に内装用接着剤、粘着剤、塗料などとして好ましく用いられ、また紙管、製袋、合紙、段ボール用等の紙、パルプなどの紙加工用接着剤、一般木工等の木工用接着剤および各種プラスチック用の接着剤、含浸紙用、不織製品用のバインダー、セメントモルタル用混和剤、セメントモルタル用打継ぎ材、紙加工および繊維加工などとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンと、(メタ)アクリル酸エステルを有するモノマーを、ポリビニルアルコール単独またはポリビニルアルコールを主成分とする乳化分散剤と、ホルムアミジンスルフィン酸、二酸化チオ尿素およびこれらの誘導体から選ばれた少なくとも1種以上の還元剤と、アルコキシラジカルを発生する酸化剤との存在下で、レドックス重合することを特徴とするアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項2】
アルコキシラジカルが、t−ブトキシラジカルであることを特徴とする請求項1に記載したアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項3】
酸化剤が、t−ブチルヒドロパーオキイドであることを特徴とする請求項1または2に記載したアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項4】
乳化分散剤が、鹸化度65モル%以上のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載したアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項5】
エチレン以外のモノマー基準による重合率が90%になるまでの時間が、5時間以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載したアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載した製造方法によって得られたアクリルエマルジョン。

【公開番号】特開2006−28381(P2006−28381A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211080(P2004−211080)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】