説明

アクリル樹脂フィルム

【課題】 優れた品位、光学等方性、加工特性と耐熱性を両立したアクリル樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】 グルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物からなり、アクリル樹脂(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.5より大きいアクリル樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用フィルムとして品位がよく、低複屈折であって、光学等方性に優れ、しかも靭性に優れるアクリル樹脂フィルムに関する。特に、ポリビニルアルコール系高分子を主成分とする偏光子の保護フィルムとして有用であり、保護フィルムとして用いた場合に、光学特性および保護機能に優れた偏光板を製造することができるアクリル樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂フィルムは、透明性や表面光沢性および耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内装材および外装材等、物体の表面表皮に用いられている。
【0003】
近年これらの樹脂フィルムは、例えば、自動車のナビゲーションシステム、ハンディカメラなどの普及により、使用範囲が屋外や自動車の車内など、耐候性、耐熱性が要求される過酷な使用環境条件下へ拡大してきている。このような過酷な環境条件下で使用する場合、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を基板とするシートまたはフィルムは、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が低いために変形が生じるうえに、靱性が低いために加工時に割れやすいという問題があった。
【0004】
そのため、アクリル樹脂フィルムの耐熱性を改良する目的で、下記一般式(1)で示されるグルタル酸無水物単位および芳香族ビニルを含有し、さらに靭性を付与するために二軸方向にそれぞれ1.5倍以上延伸する技術が開示されている(特許文献1)。
【0005】
【化1】

【0006】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子またはメチル基である。)
しかし、芳香族ビニルを含有し、高倍率に延伸するために特に厚み方向の光学等方性が十分でなく、偏光板保護フィルムとして使用する場合に問題があった。
【0007】
また、アクリル樹脂フィルムの耐熱性、光学等方性および靭性を同時に改良する目的で、上記記一般式(1)で示されるグルタル酸無水物単位および架橋弾性体を含有し、芳香族ビニルを含有しない未延伸フィルムまたは延伸フィルムが開示されている(特許文献2、3)。
【0008】
しかし、生産性を高めるために溶融製膜法により製膜すると、アクリル樹脂はその溶融粘度が高いことから高精度の濾過が困難であり、また、押出機や濾過工程で長時間高温となることにより架橋弾性体粒子が凝集し欠点が増加するなど、高品位の透明性が求められる光学用フィルムとしての展開が不可能であった。
【特許文献1】特公平4−3417号公報
【特許文献2】特開2006−131898号公報
【特許文献3】特開平6−256537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来のアクリル樹脂フィルムの問題を解決し、優れた品位、光学等方性、加工特性と耐熱性を両立したアクリル樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物からなり、アクリル樹脂(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.5より大きいアクリル樹脂フィルムを特徴とする。
【0011】
【化2】

【0012】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、品位、透明性、光学等方性に優れ、かつ耐熱性が高く、加工特性に優れるアクリル樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のアクリル樹脂フィルムは下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
かかる構造のグルタル酸無水物単位を含有することにより、耐熱性の向上および低複屈折であり光学等方性に優れるフィルムを得ることができる。
【0017】
当該グルタル酸無水物単位のアクリル樹脂(A)に対する含有量としては10〜40質量%とすることが好ましく、更に好ましくは25〜35質量%である。10質量%以上とすることによって、優れた耐熱性や耐薬品性、光学等方性を達成することができる。一方40質量%以下とすることで、靭性の低下を防ぐことができ、高い加工性を有するフィルムとすることができる。
【0018】
特に耐熱性の観点から、R、Rは水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましい。
【0019】
またアクリル樹脂(A)は不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の単位を含むことが好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の単位を採用することにより、熱や水に対して安定なアクリル樹脂とすることができる。
【0020】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位としては例えば、下記一般式(2)で表されるものを挙げることができる。
【0021】
【化4】

【0022】
(上記式中Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。また、Rは炭素数1〜5の脂肪族もしくは脂環式炭化水素を示す。)
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位としては、上述した具体例のうち1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上併存してもよいが、(メタ)アクリル酸メチル単位を含むことが、耐熱性の高いアクリル樹脂が得られやすいため好ましい。
【0023】
アクリル樹脂(A)に対する不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の単位の含有量としては、60〜90質量%が好ましく、より好ましくは65〜75質量%である。60質量%以上とすることにより、アクリル樹脂としての透明性を得ることができる。一方、上限値は、前述のグルタル酸無水物単位の好ましい添加量の下限値に対応する。
【0024】
また、アクリル樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲でビニル系単位を含んでいてもよいが、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単位の含有濃度を1質量%以下、すなわち0〜1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜0.1質量%である。スチレン系単位の含有濃度を1質量%以下とすることで、厚み方向の位相差Rthを小さくすることができ、厚み方向においても光学等方性の高いフィルムを得ることができる。
【0025】
また、アクリル樹脂(A)は、不飽和カルボン酸単位の含有量を5質量%以下、すなわち0〜5質量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜3質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。10質量%以下とすることによって、無色透明性、滞留安定性、耐湿性および耐熱性を維持することができる。
【0026】
また、アクリル樹脂(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.5より大きいことが好ましい。分子量分布が2.5より大きいことによって、濾過を容易にし欠点を低減することができる。分子量分布は3.0より大きいことがより好ましく、5.0より大きいことがさらに好ましい。分子量分布(Mw/Mn)を2.5より大きくするためには、異なる2つ以上の重量平均分子量のアクリル樹脂(A)をブレンドすることによって得ることができる。本発明でいう分子量分布(Mw/Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて、標準ポリメチルメタクリレートで作成した検量線に基づき重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を測定し、重量平均分子量(Mn)÷数平均分子量(Mn)で算出した値である。
また、アクリル樹脂(A)のGPC測定して得られる分子量分布が2つ以上のピークを有し、少なくとも1つのピークの標準ポリメチルメタクリレート換算の分子量が6万以下であり、さらに少なくとも1つのピークの標準ポリメチルメタクリレート換算の分子量が10万以上であることが好ましい。分子量分布が2つ以上のピークを持ち、少なくとも1つが分子量が6万以下のピークを持つことによって、濾過が容易になり欠点を低減できる。また、少なくとも1つが分子量が10万以上のピークを持つことにより、靭性が優れ、取り扱い性の良いフィルムが得られるために好ましい。上記の好ましい分子量分布に制御する方法としては、重量平均分子量が6万以下のアクリル樹脂(A)および重量平均分子量が10万以上のアクリル樹脂(A)をブレンドし、その質量比を1:9〜9:1の範囲で調整することによって達成することができる。
また、本発明のアクリル樹脂フィルムの重量平均分子量(Mw)としては、6万以上12万以下が好ましい。6万以上とすることで、アクリル樹脂フィルムの靭性および機械的強度を維持することができる。また12万以下とすることで、製膜時の樹脂の着色を防ぐことができる。
【0027】
本発明のアクリル樹脂フィルムはアクリル樹脂(A)のみから構成されていることが異物欠点を抑制する観点から、また表面硬度を向上させる観点からもっとも好ましいが、靭性を向上させるために後述するアクリル弾性体粒子(B)を含んでいてもよい。アクリル弾性体粒子(B)の含有量は0〜30質量%が好ましく、より好ましくは0〜10質量%である。30質量%以内であることによって、表面硬度の大幅な減少や、溶融製膜時に凝集による異物欠点を抑制することができる。
【0028】
アクリル弾性体粒子(B)としては、1以上のゴム質重合体を含む内層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の外層から構成され、かつ、これらの各層が隣接し合った構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体が好ましく使用できる。
アクリル弾性体粒子(B)を構成するゴム質重合体は、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分を必須成分とし、その他に好ましく含まれる成分として、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分、ブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを挙げることができる。これらのなかでも、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分から構成されるものが好ましい。
【0029】
また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴム弾性体も好ましく、例えば、アクリル成分およびシリコーン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分およびスチレン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分および共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分、シリコーン成分およびスチレン成分から構成されるゴム弾性体などが挙げられる。
【0030】
また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位、ブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分を含むものも好ましい。
【0031】
なかでも、アクリル酸アルキルエステル単位と芳香族ビニル系単位との組み合わせが好ましい。アクリル酸アルキルエステル単位、中でもアクリル酸ブチルは靱性向上に極めて効果的であり、これに芳香族ビニル系単位、例えばスチレンを共重合させることによってアクリル弾性体粒子(B)の屈折率を調節することができる。
【0032】
アクリル弾性体粒子(B)の外層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位およびその他のビニル系単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位を含有する重合体から選ばれた少なくとも1種が好ましく、さらには不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体がより好ましい。
【0033】
さらに、本発明では、上記のアクリル弾性体粒子(B)の外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明のアクリル樹脂(A)の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位が生成する。従って、外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体を有するアクリル弾性体粒子(B)をアクリル樹脂(A)に配合し、適当な条件で、加熱溶融混練することにより、実質的には、連続相(マトリックス相)となるアクリル樹脂(A)中に、外層に上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有してなる重合体を有するアクリル弾性体粒子(B)が分散することにより、凝集することなく、良好な分散状態が可能となり、耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0034】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらには(メタ)アクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0035】
また、不飽和カルボン酸系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0036】
本発明のアクリル弾性体粒子(B)の好ましい例としては、内層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるもの、内層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、内層がブタンジエン/スチレン重合体で外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、および内層がアクリル酸ブチル重合体で外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる(“/”は共重合を示す)。さらに、内層または外層のいずれか一つの層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、内層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、外層がメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)であるアクリル樹脂(A)との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0037】
本発明のアクリル弾性体粒子(B)において、内層と外層の重量比は、特に限定されるものではないが、アクリル弾性体粒子(B)全体100質量部に対して、内層が50質量部以上、90質量部以下であることが好ましく、さらに、60質量部以上、80質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明のアクリル弾性体粒子(B)としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよく、また公知の方法により作製して用いることもできる。
【0039】
アクリル弾性体粒子(B)の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製”メタブレン”、鐘淵化学工業社製”カネエース”、呉羽化学工業社製”パラロイド”、ロームアンドハース社製”アクリロイド”、ガンツ化成工業社製”スタフィロイド”およびクラレ社製”パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0040】
アクリル弾性体粒子(B)の平均粒子径としては、70〜300nmとすることが好ましく、より好ましくは100〜200nmである。70nm以上とすることで靱性向上の実効を得ることができ、300nm以下とすることで、耐熱性の低下を抑えることができる。
【0041】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する基材は、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系、高分子系および無機系の紫外線吸収剤あるいは酸化防止剤、高級脂肪酸、酸エステル系、酸アミド系および高級アルコールなどの滑剤あるいは可塑剤、モンタン酸、その塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系あるいはリン系やシリコーン系の非ハロゲン系の難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤などの添加剤を含有していてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色がアクリル樹脂に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加するのが好ましい。具体的には、アクリル樹脂(A)およびアクリル弾性体粒子(B)以外の樹脂や添加剤の、アクリル樹脂フィルムに対する総含有量としては10質量%以下とするのが好ましい。特に、紫外線吸収剤の場合、含有量としてはアクリル樹脂フィルム100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。0.1質量部未満では、所望の効果が得られないことがある。また、5質量部を超えると均一に分散しない、全光線透過率が低下する、ヘイズが上昇する等の問題が起こることがある。さらに好ましくは1質量部以上2質量部以下である。
【0042】
本発明においては、紫外線吸収剤を添加することで、アクリル樹脂フィルムの、波長380nmの光の光線透過率を10%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは5%以下である。380nmの光の光線透過率は紫外線吸収剤の量を増やすことで低減でき、減らすことで増加できる。紫外線(波長380nm以下の光)を十分にカットすることで、紫外線を嫌う素材を保護することができる。
【0043】
なお、波長380nmの光線透過率は下記装置を用いて測定する。
【0044】
透過率(%)=T/T×100
ただしTは試料を通過した光の強度、Tは試料を通過しない以外は同一の距離の空気中を通過した光の強度である。
【0045】
装置:UV測定器U−3410(日立計測社製)
波長:380nm
測定速度:120nm/分
測定モード:透過
また、本発明のアクリル樹脂フィルムは長径5μm以上の欠点の存在密度が1個/100cm以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.5個/100cm以下であり、より好ましくは0.1個/100cm以下である。
【0046】
ここで欠点の長径とは、欠点が円形の場合はその直径を示し、円形でない場合は欠点の範囲を次に述べる方法により顕微鏡で観察して決定し、その最大径(外接円の直径)とする。
【0047】
ここで、欠点とは製膜前の原料中の異物や製膜中に混入する異物、ならびに溶融製膜中のポリマーの熱劣化に起因するフィルム中の異物(異物欠点)をいう。欠点の範囲は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影の大きさである。かかる欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、溶融製膜において高精度濾過することや、重合設備および製膜設備周辺のクリーン度を高くすることが有効である。欠点の存在密度が1個/100cmより多い場合、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を基点としてフィルムが破断して生産性が著しく低下する場合がある。また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。また、目視で確認できない場合でも、該フィルム上にハードコート層などを形成したときに、塗剤が均一に形成できず欠点(塗布抜け)となる場合がある。
【0048】
欠点の存在密度を1個/100cm以下とする方法としては、溶融押出機によりアクリル樹脂(A)を溶融させた後に濾過する方法が好ましく用いられる。濾過する装置としてはリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設け濾過することが好ましい。このとき、濾過精度は3〜25μmが好ましく、さらに好ましくは3〜15μmである。濾過精度が25μmより大きいと濾過精度が十分でなく、欠点の存在密度を1個/100cm以下にできない場合がある。また、3μmより小さいと濾材の耐圧許容量を超えてしまったり、目詰まりによりフィルターライフが短くなったりする場合がある。
【0049】
本発明のアクリル樹脂フィルムは二軸に配向されていてもよい。二軸に配向することによって、靭性が良くなり、スリットやポリビニルアルコール系高分子を主成分とする偏光子などのフィルムと貼り合せる場合にフィルム破れが少なく加工性、取り扱い性が向上する。
【0050】
本発明のアクリル樹脂フィルムはアクリル樹脂のガラス転移温度Tg以上(Tg+30℃)の範囲において、二軸方向にそれぞれ1.1倍〜1.9倍の範囲で延伸してなることが好ましい。延伸するには一般に知られている逐次二軸延伸法または同時二軸延伸法を用いることができる。延伸倍率は二軸方向にそれぞれ1.2倍以上1.8倍以下が好ましく、1.3倍以上1.5倍以下がより好ましい。延伸倍率が1.1倍以下であると、フィルムの靭性が向上しないことがあり、1.9倍より大きいと厚み方向の位相差が大きくなると同時に厚み方向の位相差の耐久性が著しく低下することがある。
【0051】
また、長手方向、幅方向の延伸倍率はバランスすることが面内位相差の耐久性の観点から好ましく、長手方向(MD)と幅方向(TD)の延伸倍率の比(MD倍率/TD倍率)が0.8〜1.2であることが好ましい。より好ましくは0.9〜1.1である。
【0052】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その表面にハードコート層および/または反射防止膜を有していることが好ましい。ハードコート層と反射防止膜とを両方形成する場合には、ハードコート層の上にさらに反射防止膜を積層することが好ましい。
【0053】
ハードコート層の形成方法は特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。たとえば、多官能アクリレートを用いる方法を例示できる。多官能アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトレエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコーリジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ポリ(ブタンジオール)ジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリイソプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート及びビスフェノールAジメタクリレートに例示されるジアクリレート類や、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリアクリレート及びトリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレートに例示されるトリアクリレート類や、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジ‐トリメチロールプロパンテトラアクリレートに例示されるテトラアクリレート類、並びにペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタアクリレートに例示されるペンタアクリレート類を挙げることができる。
【0054】
反射防止膜についても限定はなく、種々の方法で形成することができる。すなわち、反射防止膜は無機化合物を用いた乾式によるものでも有機化合物を用いた湿式によるものでも好ましく、低屈折率層を1層だけ形成しても、また、高屈折率層、低屈折率層、中屈折率層の任意の層を複数層積層してもよい。
【0055】
本発明のアクリル樹脂フィルムは接着層を介して他の光学等方性フィルムや偏光子、位相差フィルム等の光学機能フィルム、ガラス基板などと積層した形で用いることができる。
【0056】
次に、本発明のアクリル樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
【0057】
前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)は、特開2006−131896号公報に記載されているような方法により製造することができる。
【0058】
本発明のアクリル樹脂フィルムは分子量の異なるアクリル樹脂(A)をフレンドし製膜することによって得ることが好ましい。ブレンドの方法としては、チップ状の樹脂を2台以上の計量フィーダを用いて任意の配合比で単軸あるいは二軸の押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置機のホッパーに投入し、混練し押し出す方法が挙げられる。
【0059】
そのスクリューのL/Dとしては、25〜120とすることが着色を防ぐために好ましい。溶融押出温度としては、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜260℃である。溶融剪断速度としては、1,000s−1以上5,000s−1以下が好ましい。
【0060】
また着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下で、あるいは窒素気流下で溶融混練を行うことが好ましい。
【0061】
使用する原料は乾燥していることが好ましく、具体的に水分率が200ppm(質量基準、以下同じ)以下、更には150ppm以下であることが好ましい。原料の水分率を200ppm以下にする方法としては100℃の真空乾燥機の中で3時間以上乾燥する方法などが挙げられる。
【0062】
ポリマー中の異物を精度高く異物濾過をするために、いわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、濾過部を1カ所設けて行うことができ、また複数カ所設けて行う多段濾過でもよい。フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は3〜25μmが好ましく、さらに好ましくは3〜15μmである。特に最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合では品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧、フィルターライフの適性を確保するために装填枚数にて調整することが可能である。
【0063】
濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0064】
キャスト方法は、単膜あるいは二軸の押出機により溶融したポリマーをギアーポンプで計量した後にTダイ口金を用いて吐出する方法が好ましく用いられる。さらに溶融した樹脂を口金から冷却されたドラム上に吐出し、ガラス転移温度(Tg)以下まで急冷し、未延伸のフィルムを得ることが好ましい。なお、冷却ドラム上に吐出された樹脂をガラス転移温度(Tg)以下まで急冷するに際しては、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などで、樹脂を冷却媒体であるドラムに密着させることが好ましい。特に厚みムラが少なく、透明なフィルムを得るには、プレスロール法が好ましい。
【0065】
以上のようにして得られる未延伸のアクリルフィルムの厚みは、好ましくは10〜130μm、より好ましくは、20〜80μmである。10μm未満の厚みの場合、機械的強度不足などにより延伸加工などの後加工する場合に難があることがあり、一方、130μmを超える厚みの場合、厚みや表面性などが均一なフィルムを製造することが難しく、また近年の光学フィルムの薄膜化の要求を満たさないことがある。
【0066】
フィルムの厚み分布は、通常、平均値に対して±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内である。厚み分布が±5%を超えると、延伸処理を行った場合に延伸ムラが発生しやすくなることがある。
【0067】
本発明のアクリル樹脂フィルムは上記未延伸フィルムをさらに延伸加工してもよい。具体的には、二軸延伸法などを適用することにより製造してもよい。すなわち、周方向の速度の異なるロールを利用する縦延伸法等およびテンター法による横延伸法を組み合わせた逐次二軸延伸法や、テンター内で同時に2方向に延伸する同時二軸延伸方を用いることができる。
【0068】
逐次二軸延伸法の場合、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、好ましくは1〜5,000%/分であり、より好ましくは100〜2,000%/分である。また、同時二軸延伸法の場合、延伸速度を大きくすると破れが発生しやすく生産性が著しく低下するため、その延伸速度は1〜2,000%/分が好ましく、より好ましくは50〜1,000%/分である。
【0069】
延伸温度は、特に限定されるものではないが、本発明で用いられるアクリル樹脂(A)のガラス転移温度Tgを基準として、逐次二軸延伸法の場合、好ましくはTg以上(Tg+30℃)以下、より好ましくは(Tg+5℃)以上(Tg+15℃)以下であり、同時二軸延伸法の場合、好ましくは(Tg+5℃)以上(Tg+35℃)以下、より好ましくは(Tg+10℃)以上(Tg+20℃)以下である。前記範囲内とすることで、厚みムラの発生を抑えることが可能となる。
【0070】
延伸倍率はフィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ1.1倍〜1.9倍の範囲で延伸することが好ましい。延伸倍率は二軸方向にそれぞれ1.2倍以上1.8倍以下がより好ましく、1.3倍以上1.5倍以下がさらに好ましい。延伸倍率が1.1倍以下であると、フィルムの靭性が向上しないことがあり、1.9倍より大きいと厚み方向の位相差が大きくなると同時に厚み方向の位相差の耐久性が著しく低下する傾向にある。また、長手方向、幅方向の延伸倍率はバランスすることが面内位相差の耐久性の観点から好ましく、長手方向(MD)と幅方向(TD)の延伸倍率の比(MD倍率/TD倍率)が0.8〜1.2であることが好ましい。より好ましくは0.9〜1.1である。
【0071】
本発明のアクリル樹脂フィルムは使用の目的によって表面にコーティングによって帯電防止層や易接着層を設けたり、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を設けたり、金属や酸化金属の蒸着層や、スパッタによる透明導電層を設けたり、接着層を介して他の光学等方性フィルムや偏光子、位相差フィルム等の光学機能フィルム、ガラス基板などと積層した形で用いることができる。
【実施例】
【0072】
[測定方法]
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用い、標準ポリメチルメタクリレートで作成した検量線に基づき重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を測定した。測定は各水準の異なる部分について5回測定を行い、平均値を用いた。分子量分布(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mn)÷数平均分子量(Mn)で算出した。
【0073】
(2)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。ガラス転移温度の求め方は、JIS−K7121(1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。測定は各水準の異なる部分について5回測定を行い、平均値を用いた。
【0074】
(3)全光線透過率
JIS K 7361−1(1997)に準じ、東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、23℃での全光線透過率(%)を測定した。測定は各水準の異なる部分についてそれぞれ10回行い、平均値を用いた。
【0075】
(4)靭性テスト
一辺50mmの正方形のサンプルを作成し、各延伸方向に5回ずつ、合計10回折り曲げ、10回ともフィルムが割れなかった場合を合格(○)、1回でも割れた場合を不合格(×)とした。
【0076】
(5)欠点検査
アクリル樹脂フィルムにおいて、10cm×10cmのフィルムを10枚サンプリングし、これを透過光にて角度を変えて検査し、または投影機を用いて膜中欠点を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で欠点大きさを確認して評価した。長径が5μm以上の異物数をカウントし、100cm2あたりの欠点合計平均数とした。
【0077】
(6)面内位相差および厚み方向位相差
エトー(株)社製の複屈折位相差測定装置(AD−175SI)を用い、波長590nmの光線に対する面内位相差Reおよび厚み方向の位相差Rthを測定した。測定回数は5回測定しその平均値を用いた。
【0078】
(7)溶融粘度溶融粘度
JIS−K7210(1976)(参考試験)に準処して測定した。測定には、下記測定器、および条件にて行った。
【0079】
装置:フローテスター CFT−500(島津製作所製)
ダイの長さ:10mm
ダイの内径:1.0mm
予熱時間:5分
温度:260℃
荷重:10kgf、50kgfおよび100kgf
測定結果:各荷重、3回測定を行った。せん断速度をx、溶融粘度をyとする。Y=lny、X=lnxとし、最小二乗法を用いて近似直線Y=aX+bとなるaおよびbを求めた。さらに、求めたa、bを用いてせん断速度が100s−1の際の溶融粘度yを算出した。
【0080】
[実施例1〜2、比較例1〜3]
<参考例1>
アクリル樹脂(A1)
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら、400rpmで攪拌した。なお、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤には、以下の方法で調整したものを用いた。すなわち、メタクリル酸メチル20質量部、アクリルアミド80質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、イオン交換水1,500質量部を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保ち、単量体が完全に重合体に転化するまで反応させ、得られたアクリル酸メチルとアクリルアミドとの共重合体の水溶液を懸濁剤として使用した。
【0081】
次に、反応系を撹拌しながら下記混合物質を添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a1)を得た。この共重合体(a1)の重合率は98%であり、重量平均分子量は13万であった。
【0082】
メタクリル酸 :27質量部
メタクリル酸メチル :73質量部
t−ドデシルメルカプタン :1.2質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量部
これに添加剤(NaOCH)を0.2質量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパーを10L/分の量の窒素でパージしながら、スクリュー回転数150rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂(A1)を得た。このアクリル樹脂(A1)100質量部中のグルタル酸無水物単位の組成比は33質量部、重量平均分子量(Mw)は13万、分子量分布(Mw/Mn)は2.3、溶融粘度は24,000poiseであった。
【0083】
<参考例2>
アクリル樹脂(A2)
懸濁重合に用いる混合物質を下記組成とした以外はアクリル樹脂(A1)と同様にしてアクリル樹脂(A2)を得た。
【0084】
メタクリル酸 :33質量部
メタクリル酸メチル :67質量部
t−ドデシルメルカプタン :1.6質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量部
このアクリル樹脂(A2)100質量部中のグルタル酸無水物単位の組成比は35質量部、重量平均分子量(Mw)は5万、分子量分布(Mw/Mn)は2.1、溶融粘度は7,000poiseであった。
【0085】
<参考例3>
アクリル樹脂(A3)
懸濁重合に用いる混合物質を下記組成とした以外はアクリル樹脂(A1)と同様にしてアクリル樹脂(A3)を得た。
【0086】
メタクリル酸 :33質量部
メタクリル酸メチル :67質量部
t−ドデシルメルカプタン :1.4質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量部
このアクリル樹脂(A3)100質量部中のグルタル酸無水物単位の組成比は35質量部、重量平均分子量(Mw)は11万、分子量分布(Mw/Mn)は2.2、溶融粘度は20,000poiseであった。
【0087】
<参考例4>
アクリル弾性体粒子(B)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に、初期調整溶液として、脱イオン水120質量部、炭酸カリウム0.5質量部、スルホコハク酸ジオクチル0.5質量部、過硫酸カリウム0.005質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル53質量部、スチレン17質量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)1質量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。
【0088】
次いで、メタクリル酸メチル21質量部、メタクリル酸9質量部、過硫酸カリウム0.005質量部の混合物を引き続き70℃で90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させた。この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、コア・シェル型のアクリル弾性体粒子(B)を得た。電子顕微鏡で測定したアクリル弾性体粒子のゴム質重合体部分の平均粒子径は140nmであった。
【0089】
<参考例5>
アクリル樹脂(A4)
参考例1のアクリル樹脂(A1)を50質量部と参考例2のアクリル樹脂(A2)を50質量部を配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=30))を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数250rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度230℃で混練し、ペレット状のアクリル樹脂(A4)を得た。このアクリル樹脂(A4)の重量平均分子量(Mw)は11万、分子量分布(Mw/Mn)は3.5、溶融粘度は12,000poiseであった。
【0090】
<参考例6>
アクリル樹脂(A5)
参考例3のアクリル樹脂(A3)を80質量部と参考例3のアクリル弾性体粒子(B)を20質量部を配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5))を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で混練し、ペレット状のアクリル樹脂(A5)を得た。このアクリル樹脂(A5)の溶融粘度は24,000poiseであった。
【0091】
<参考例7>
アクリル樹脂(A6)
参考例5のアクリル樹脂(A4)を80質量部と参考例3のアクリル弾性体粒子(B)を20質量部を配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5))を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で混練し、ペレット状のアクリル樹脂(A6)を得た。このアクリル樹脂(A6)の溶融粘度は16,000poiseであった。
【0092】
<実施例1>
参考例5で得られたアクリル樹脂(A4)を100℃で3時間減圧乾燥し、45mmφの一軸押出機(S1)(設定温度260℃)を用いてTダイ(設定温度260℃)を介してシート状に押出した。このとき、濾過精度10μm、直径が8インチのリーフ型ディスクフィルターを18枚使用し濾過を行った。
【0093】
このフィルムを130℃の冷却ロールに片面を完全に密着させながら冷却して、厚み80μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=13となるよう、冷却ロールの速度を調整した。
【0094】
この未延伸のアクリル樹脂フィルムを延伸機において長手方向に1.40倍、幅方向に1.45倍、延伸速度300%/分、延伸温度145℃の条件で逐次に二軸延伸することにより、厚み40μmの二軸延伸アクリルフィルムを得た。
【0095】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは品位、耐熱性、透明性、光学等方性、靱性ともに優れていた。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0096】
<実施例2>
参考例7で得られたアクリル樹脂(A6)を100℃で3時間減圧乾燥し、45mmφの一軸押出機(S1)(設定温度260℃)を用いてTダイ(設定温度260℃)を介してシート状に押出した。このとき、濾過精度20μm、直径が8インチのリーフ型ディスクフィルターを18枚使用し濾過を行った。
【0097】
このフィルムを130℃の冷却ロールに片面を完全に密着させながら冷却して、厚み40μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=25となるよう、冷却ロールの速度を調整した。
【0098】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは品位、耐熱性、透明性、光学等方性、靱性ともに優れていた。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0099】
<比較例1>
参考例3で得られたアクリル樹脂(A1)を用いた以外は実施例1と同様にして押出したが、フィルター部分の樹脂圧力がリーフ型ディスクフィルターの耐圧限界を超えてしまい濾過できなかった。そこで、濾過精度30μmとし、実施例1と同様にして厚さ40μmの二軸延伸アクリルフィルムを得た。
【0100】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐熱性、透明性、光学等方性、靱性ともに優れていたが、品位に劣り光学用フィルムとして適さないものであった。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0101】
<比較例2>
参考例2で得られたアクリル樹脂(A2)を用いた以外は実施例1と同様にして厚さ40μmの二軸延伸アクリルフィルムを得た。
【0102】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは靭性が悪く、成形性に劣るフィルムであった。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0103】
<比較例3>
参考例6で得られたアクリル樹脂(A5)を用いた以外は実施例1と同様にして押出したが、フィルター部分の樹脂圧力がリーフ型ディスクフィルターの耐圧限界を超えてしまい濾過できなかった。そこで、濾過精度50μmとし、実施例1と同様にして厚さ40μmの二軸延伸アクリルフィルムを得た。
【0104】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐熱性、透明性、光学等方性、靱性ともに優れていたが、品位に劣り光学用フィルムとして適さないものであった。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0105】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物からなり、アクリル樹脂(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.5より大きいことを特徴とするアクリル樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項2】
アクリル樹脂(A)のGPC測定にて得られる分子量分布が2つ以上のピークを有し、少なくとも1つのピークの示す分子量が6万以下であり、さらに少なくとも1つのピークの示す分子量が10万以上である、請求項1に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
アクリル樹脂(A)の重量平均分子量Mwが6万〜12万である、請求項1または2に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
内層がアクリル酸アルキルエステル単位および/または芳香族ビニルを含有するゴム弾性体であり、外層が上記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂を含む重合体である弾性体粒子(B)を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
長径5μm以上の欠点の存在密度が1個/100cm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。

【公開番号】特開2009−235160(P2009−235160A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80166(P2008−80166)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】