説明

アクリル系エラストマー及びこれを用いた組成物

【課題】高温高湿下で優れた電気絶縁性を有し、かつ長期間の信頼性に優れたアクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】炭素数5〜22の脂環式炭化水素を有する置換基と、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基と、がそれぞれカルボニル結合を介して、ポリマー鎖に結合しているアクリル系エラストマーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用に好適に用いることのできるアクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、高速化に伴い、これら電子機器に搭載される半導体パッケージは高密度化が進み、また、半導体パッケージを実装する基板にも高密度化が要求されている。さらに、基板側においても配線の微細化がますます進んでいる。
【0003】
従来、半導体素子を接着する接着剤や、各種電子部品を搭載した実装基板等の電子材料には、接着性、耐熱性、電気絶縁性及び長期信頼性が要求されている。これらの要求を満たす電子材料として、アクリロニトリルブタジエン系エラストマー、アクリロニトリル含有アクリル系エラストマー等の合成ゴムにエポキシ樹脂および硬化剤を配合した組成物が幅広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、近年の急速な半導体パッケージや実装基板の高密度化、配線の微細化に伴い、電子材料にもより厳しい信頼性が求められている。ところが、アクリロニトリルブタジエン系エラストマー、アクリロニトリル含有アクリル系エラストマーを用いた組成物では、高温高湿下での電気絶縁性に劣るという欠点が明らかになってきた。この原因の1つとしてイオン性不純物が挙げられ、これを解決するためにイオン捕捉剤を添加する技術(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、微細配線の分野では十分に満足する効果は得られていない。また、アクリロニトリルを含まないアクリル系エラストマー(例えば、特許文献3参照)も提案されているが、吸湿率等について未だ課題が残っており、十分に満足する長期信頼性は得られていない。
【0005】
【特許文献1】特開平8−283535号公報
【特許文献2】特開2002−60716号公報
【特許文献3】特許第3483161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温高湿下で優れた電気絶縁性を有し、かつ長期間の信頼性に優れた電子材料用アクリル系エラストマー及びこれを用いたアクリル系エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アクリロニトリル非含有のアクリル系エラストマーの必須成分として、特定の単量体を用いることで、高温高湿下で優れた電気絶縁性を有するアクリル系エラストマーとなることを見出した。
すなわち本発明は、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を有する置換基と、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基と、がそれぞれカルボニル結合を介して、ポリマー鎖に結合しているアクリル系エラストマーに関するものである。
【0008】
また、本発明は、繰り返し単位として、少なくとも下記一般式(I)及び(II)の構造を含むアクリル系エラストマーに関するものである。
【0009】
【化1】

(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を含む置換基を示す。)
【0010】
【化2】

(Yは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基を示す。)
【0011】
本発明のアクリル系エラストマーは、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基並びに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する官能基含有単量体と、を含有する単量体混合物を重合して得られるものが好ましい。
【0012】
本発明においては、単量体混合物として、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル5〜99.5質量部と、官能基含有単量体0.5〜30質量部と、これらと共重合可能な単量体0〜90質量部とを、単量体の総質量部が100質量部となるように含有する単量体混合物が好ましく用いられる。
【0013】
また本発明においては、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基が、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、及びアダマンチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0014】
また本発明のアクリル系エラストマーは、飽和吸湿率が好ましくは0.6%以下である。
【0015】
さらに、本発明は、得られたアクリル系エラストマーと溶媒とを含有してなる電子材料用アクリル系エラストマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアクリル系エラストマーは、吸湿率が低く高温高湿下での体積抵抗値の変化がほとんどなく、また長期信頼性に優れている。したがって、このエラストマーを電子材料用に用いることによって、電気絶縁性及び長期信頼性の高い電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアクリル系エラストマーは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素を有する置換基と、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基と、がそれぞれカルボニル結合を介して、ポリマー鎖に結合していることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のアクリル系エラストマーは、繰り返し単位として、少なくとも下記一般式(I)及び(II)の構造を含むことを特徴とする。
【化3】

(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を含む置換基を示す。)
【0019】
【化4】

(Yは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基を示す。)
【0020】
上記のアクリル系エラストマーは、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基並びに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する官能基含有単量体と、を含有する単量体混合物を重合することで得られる。
【0021】
アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分として、エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル(以下、「脂環式単量体」ともいう。)を用いる。炭素数が5未満であると、単量体の化学的安定性に欠けてしまう上、得られるエラストマーの吸湿率の低減効果が十分でない傾向にある。炭素数が22を超えると、得られるエラストマーのTgが高くなってしまう傾向にある。これら脂環式単量体の炭素数は、6〜15であるとより好ましく、6〜10であることが最も好ましい。脂環式単量体の構造としては、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、及びアダマンチル基からなる群より選ばれる脂環式炭化水素基を少なくとも1種を含む単量体が好ましい。
アクリル系エラストマーの単量体成分として、上記脂環式単量体を用いると、吸湿率を効率良く低減でき、耐電食性の点から好ましい。
【0022】
脂環式単量体として具体的には、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸フェニルノルボルニル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ジメチルアダマンチル、アクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、脂環式単量体として、上記のメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルを混合して用いることも可能である。
【0023】
これらの中でも低吸湿性の点から、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸アダマンチル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル、メタクリル酸フェニルノルボルニル等が好ましい。
【0024】
さらに低吸湿性及び接着性の点からアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸アダマンチル等が特に好ましい。
【0025】
また、アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分として、分子内に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と、少なくとも1つの重合性の炭素−炭素二重結合と、を有する官能基含有単量体を用いる。
官能基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー、無水マレイン酸等の酸無水物基含有モノマー、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有モノマー、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、アクリル酸−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、メタクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、アクリル酸−β−メチルグリシジル、メタクリル酸−β−メチルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル等のエポキシ基含有モノマー等を使用することができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
これらのうち、保存安定性の点でエポキシ基含有モノマーが好ましく、メタクリル酸グリシジルがより好ましい。
【0027】
本発明においては、アクリル系エラストマーを得るために重合に使用する単量体成分として、上記脂環式単量体及び官能基含有単量体の他に、これらの単量体と共重合可能な、その他の単量体を用いることができる。共重合可能な単量体は、基本的に重合体の低吸湿性、耐熱性及び安定性を損なわないものであれば、特に限定されず、具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ナフチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル等のメタクリル酸エステル類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、(o−、m−、p−)ヒドロキシスチレン、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類等が挙げられ、その中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルがより好ましい。これらは1種又は2種以上で使用してもよい。
【0028】
なお、本発明においては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物(ニトリル系単量体)は、高温高湿下での電気絶縁性が保持されず、耐電食性に劣るようになるため、使用しない方が好ましい。
【0029】
本発明において、各単量体の混合割合としては、脂環式単量体5〜99.5質量部、官能基含有単量体0.5〜30質量部、及びこれらと共重合可能な単量体0〜90質量部を、単量体の総質量部が100質量部となるように混合した割合が好ましい。
【0030】
本発明における脂環式単量体の配合量は、5〜99.5質量部であることが好ましいが、10〜80質量部であることが吸湿性の点でより好ましい。脂環式単量体の配合量が5質量部未満であると、吸湿性が高くなる傾向があり、99.5質量部を超えると、機械的強度が低下する傾向がある。
【0031】
本発明における官能基含有単量体の配合量は0.5〜30質量部であることが好ましいが、1〜20質量部であることがより好ましい。この配合量が0.5質量部未満であると接着性が低くなる、また強度が低下する傾向があり、30質量部を超えると共重合する際に架橋反応を起こしてしまう、また保存安定性が悪くなる傾向がある。
【0032】
本発明において、エラストマーを製造するための重合方法としては塊状重合、懸濁重合、溶液重合、沈殿重合、乳化重合等の既存の方法を適用できる。中でもコストの面で懸濁重合法がもっとも好ましい。
【0033】
懸濁重合は、水性媒体中で行われ、懸濁剤を添加して行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質等があり、中でもポリビニルアルコール等の非イオン性の水溶性高分子が好ましい。イオン性の水溶性高分子や難溶性無機物質を用いた場合には、得られたエラストマー内にイオン性不純物が多く残留する傾向がある。この水溶性高分子は、単量体の総量100質量部に対して0.01〜1質量部使用することが好ましい。
【0034】
本発明において重合を行う際には、ラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン−1−カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性触媒;及び過酸化物あるいは過硫酸塩と還元剤の組み合わせによるレドックス触媒;等、通常のラジカル重合に使用できるものはいずれも使用することができる。重合開始剤は、単量体の総量100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲で使用されることが好ましい。
【0035】
本発明において、「単量体混合物」とは、脂環式単量体、官能基含有単量体、必要によりこれらと共重合可能な単量体を含んだものをいう。
【0036】
また、連鎖移動剤として、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α−メチルスチレンダイマー等を必要に応じて添加することができる。
【0037】
熱重合による場合、重合温度は、0〜200℃の間で適宜選択することができ、40〜120℃が好ましい。
【0038】
上記のようにして製造されるエラストマーは、その分子量について特に限定するものではないが、重量平均分子量(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによるポリスチレン換算)が10,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、100,000〜1,500,000の範囲であることが特に好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると接着性や強度が低くなる傾向があり、2,000,000を超えると、溶剤への溶解性が低下し加工性が悪化する傾向がある。
【0039】
本発明のアクリル系エラストマーは、飽和吸湿率が0.6%以下であることが好ましい。飽和吸湿率が0.6%以下であると、高温高湿下における電気絶縁性の低下を抑制できる。飽和吸湿率を0.6%以下とするには、各単量体成分を適宜選択し、配合量を調整することで達成できる。
本発明において飽和吸湿率は、アクリル系エラストマーの質量を測定し、室温(20〜30℃)にて質量が一定になるまで吸湿させ、次式により算出される値とする。
【0040】
【数1】

【0041】
本発明のアクリル系エラストマーは、Tgが15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが更に好ましい。Tgが高くなると、柔軟性、接着性が低下してしまう傾向にある。得られるエラストマーのTgは、単量体の組成を適宜調整することによって設計することができる。
【0042】
本発明のアクリル系エラストマーは、溶媒に溶解して、溶液状のアクリル系エラストマー組成物として、半導体装置用、配線基板用等の電子材料用として提供することもできる。
【0043】
溶媒としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン等、一般的な有機溶媒を用いることができる。その使用量は、アクリル系エラストマーとの合計量に対し、アクリル系エラストマーの含有割合(固形分濃度)が、5〜40質量%となる量が好ましく、10〜30質量%となる量がより好ましい。
【0044】
本発明の電子材料用アクリル系エラストマーは、必要に応じてエポキシ樹脂、さらにエポキシ樹脂硬化剤と混合し、ポリマーアロイとし、電子材料として使用することができる。これらエポキシ樹脂、及びエポキシ樹脂硬化剤は特に制限されることはなく市販の材料を用いることができる。また、反応性、接着性、強度を向上させるために充填剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、各種フィラー等の材料を併用することができる。電子材料の形態はフィルム状でもペースト状でも溶液状でもよい。
【0045】
エラストマーとエポキシ樹脂の混合割合には特に制限はなく、例えば前者/後者(質量比)で10/90〜90/10の割合で使用することが可能である。
【0046】
前記エポキシ樹脂としては、硬化して接着作用を呈するものであればよく、一般に二官能以上(1分子中にエポキシ基を2個以上含有)のエポキシ樹脂が使用できる。二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂等が例示される。また、三官能以上(1分子中にエポキシ基を3個以上含有)の多官能エポキシ樹脂を用いてもよく、三官能以上の多官能エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が例示される。
【0047】
エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として通常用いられているものを使用でき、アミン、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三弗化硼素、及びフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有する化合物であるビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSや、フェノール樹脂等が使用できる。吸湿時の耐電食性に優れる点からはフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等を用いることが好ましい。
【0048】
硬化剤は、一般に、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、硬化剤のエポキシ基と反応する基が0.6〜1.4当量となるように使用することが好ましく、0.8〜1.2当量となるように使用することがより好ましい。硬化剤が少なすぎたり多すぎたりすると耐熱性が低下する傾向がある。
【0049】
さらに硬化剤とともに硬化促進剤を用いることもでき、硬化促進剤としては、各種イミダゾール類等が挙げられる。硬化促進剤を使用する場合の配合量は好ましくは、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計100質量部に対して0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。0.1質量部未満であると硬化速度が遅くなる傾向にあり、また20質量部を超えると可使期間が短くなる傾向がある。
【0050】
フィルム状にする場合の手法には特に制限はなく、例えば基材フィルム上に各種塗工装置を用いて上記半導体装置接着剤のワニスを塗工し乾燥して製造することができる。
【0051】
本発明の電子材料用アクリル系エラストマーは、フィルム状接着剤等の半導体用接着剤、フレキシブル配線板用基板材料及びそれに用いられる接着剤、回路接続用接着フィルム等の電子材料に好ましく用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
(実施例1)
アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製、FA−513A)295g、アクリル酸エチル(EA)288g、アクリル酸ブチル(BA)387g、メタクリル酸グリシジル(GMA)30gを混合し、得られた単量体混合物にさらに過酸化ラウロイル2g、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.16g(0.016%)を溶解させて、混合液とした。
【0054】
撹拌機及びコンデンサを備えた5Lのオートクレーブに懸濁剤としてポリビニルアルコールを0.04g、イオン交換水を2000g加えて撹拌しながら上記混合液を加え、撹拌回転数250rpm、窒素雰囲気下において60℃で2時間、次いで100℃で1時間重合させ、樹脂粒子を得た(重合率は、重量法で99%であった)。この樹脂粒子を水洗、脱水、乾燥し、メチルイソブチルケトンに加熱残分が25質量%となるように溶解し、樹脂ワニスを作製した。次いで樹脂ワニス200質量部、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828)40質量部、フェノール樹脂(大日本インキ化学(株)製、LF2882)40質量部、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(四国化成工業(株)製、キュアゾール2PZ−CN)0.5質量部からなる混合溶液を、厚さ500μmのアルミニウム板上に塗布し、160℃で1時間乾燥して膜厚が50μmのフィルムを作製した。
【0055】
(実施例2)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用い、連鎖移動剤を0.54g(0.054%)とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0056】
(実施例3)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用い、連鎖移動剤を0.90g(0.090%)とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0057】
(実施例4)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0058】
(実施例5)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0059】
(実施例6)
表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0060】
(実施例7)
脂環式単量体としてシクロヘキシルアクリレートを用い、表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0061】
(実施例8)
脂環式単量体としてイソボルニルアクリレートを用い、表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0062】
(実施例9)
官能基含有単量体としてアクリル酸を用い、表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0063】
(実施例10)
官能基含有単量体としてヒドロキシエチルアクリレートを用い、表1に示す組成比率の単量体混合物を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製した。
【0064】
(比較例1)
市販のアクリロニトリルを使用し、表1に示す組成比率とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0065】
実施例1〜10、比較例1の樹脂、及びフィルムについて、分子量、ガラス転移温度(Tg)、吸湿率、体積抵抗値等を測定し、表1に示した。なお、各評価は下記に示す方法を用いて行った。
【0066】
(1)重量平均分子量
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:THF、カラム:Gelpack GL−A100M、ポリスチレン換算)を用いて測定した。
【0067】
(2)ガラス転移温度(Tg)
DSC(SII・ナノテクノロジー(株)製、DSC−6200型)を用いて、窒素雰囲気下で−60〜20℃の範囲(昇温速度:10℃/min)で測定を行った。
【0068】
(3)吸湿率
樹脂の乾燥後の質量を測定し、室温にて質量が一定になるまで吸湿させ、次式により吸湿率を算出した。
【0069】
【数2】

【0070】
(4)体積抵抗値
ハイレジスタンスメータ(ヒューレット・パッカード社製、4329A)を用いてフィルムの体積抵抗値を測定した。
(5)耐電食性
作製したフィルムを85℃、湿度85%下に24時間放置し、体積抵抗値を測定した。
【0071】
【表1】

【0072】
表中に示される単量体の詳細は、以下の通りである。
FA−513A:アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル(日立化成工業(株)製、)、
CHA:シクロヘキシルアクリレート
IBOA:イソボニルアクリレート
EA:アクリル酸エチル、
BA:アクリル酸ブチル、
GMA:メタクリル酸グリシジル
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
【0073】
脂環式単量体及び官能基含有単量体を用いた実施例1〜10では、吸湿率が小さいエラストマーが得られ、それらのエラストマーを用いることにより、体積抵抗値及び耐電食性が共に高いフィルムが得られた。これに対し、脂環式単量体を用いていない比較例1のエラストマーは、吸湿率が大きく、また得られたフィルムは耐電食性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数5〜22の脂環式炭化水素を有する置換基と、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する置換基と、がそれぞれカルボニル結合を介して、ポリマー鎖に結合しているアクリル系エラストマー。
【請求項2】
繰り返し単位として、少なくとも下記一般式(I)及び(II)の構造を含むアクリル系エラストマー。
【化1】

(Xは、炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を含む置換基を示す。)
【化2】

(Yは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含む置換基を示す。)
【請求項3】
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、
カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基並びに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する官能基含有単量体と、を含有する単量体混合物を重合して得られる請求項1又は2記載のアクリル系エラストマー。
【請求項4】
エステル部分に炭素数5〜22の脂環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル5〜99.5質量部と、官能基含有単量体0.5〜30質量部と、これらと共重合可能な単量体0〜90質量部とを、単量体の総質量部が100質量部となるように含有する単量体混合物を重合して得られる請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリル系エラストマー。
【請求項5】
炭素数5〜22の脂環式炭化水素基が、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、及びアダマンチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリル系エラストマー。
【請求項6】
飽和吸湿率が0.6%以下である請求項1乃至5のいずれかに記載のアクリル系エラストマー。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のアクリル系エラストマーと溶媒とを含有してなるアクリル系エラストマー組成物。

【公開番号】特開2009−132888(P2009−132888A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275712(P2008−275712)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】