説明

アクリル系樹脂の解重合装置および解重合方法

【課題】 分解生成物が滞留しにくく、高い回収率でこれを回収できるともに、分解生成物の二次反応も抑制でき、たとえアクリル系樹脂が微量構成成分を含む場合や多数の構成成分を含む場合であっても、正確な分析を可能とする解重合装置および方法の提供。
【解決手段】 解重合装置10として、無機ガラスからなり、互いに略平行に配置された第1の縦管11および第2の縦管12と、これらを連通する横管13とを備えた略H型形状の解重合管14を備えたものを使用する。その際、解重合管14内の25℃換算の圧力を絶対圧力表示で0.3kPa以下とし、温度を300〜500℃とすることが好ましい。また、前記アクリル系樹脂の試料量を0.1〜1gとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂を好適に解重合するための解重合装置および解重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂は、透明性、加工性、着色性、機械的強度等の優れた特徴を有する材料として、レンズやスクリーン、導光板等の光学用途や電気部品、看板、自動車、航空機材等に広く使用されている。また、用途によっては、これらの優れた特徴に加えて、さらに高い機能性を備えた材料が要求されるため、例えばメタクリル樹脂に耐熱性や機械的強度を付与した材料などが開発されてきた。
アクリル系樹脂に耐熱性、機械的強度などの機能性を付与する方法としては、従来、各種添加剤を添加する方法が採用されていた。ところが、添加剤のブリードアウトや環境汚染等の問題から、近年では1種以上の機能性コモノマーを共重合させる方法が採用されるようになってきている。このような方法によれば、単一のモノマーでは達成できなかった高い機能性を発現させることができ、前述したブリードアウトや環境汚染の問題も回避できる。
【0003】
こうして種々のコモノマーが共重合された高機能のアクリル系樹脂が広く使用されるようになってきたが、それにともなって、アクリル系樹脂がどのような成分から構成されているかを、正確に同定、定量する技術が求められるようになってきている。
また、最近では、家電部品や自動車部品等の分野におけるリサイクル法の施行に伴い、アクリル系樹脂、中でも優れた解重合性を備えモノマー回帰率が高いメタクリル樹脂を分解、解重合することによるモノマーリサイクルも進められている。例えば特許文献1には、(メタ)アクリル樹脂を熱分解してモノマーを回収する方法として、押出機のシリンダーの外に設置されたヒーターによってシリンダーを加熱し、シリンダー内を通過する(メタ)アクリル樹脂を加熱、分解する方法が開示されている。また、特許文献2には、粒子状の固体を媒体として利用し、間接加熱の方法により(メタ)アクリル樹脂を分解する方法が開示されている。このようなモノマーリサイクルの際にも、あらかじめアクリル系樹脂の構成成分を分析することが不可欠となってきている。
【0004】
樹脂の構成成分を分析する従来の技術としては、例えばNMR(核磁気共鳴スペクトル)、熱分解ガスクロマトグラフィー、質量分析計、元素分析等があり、これらは必要に応じて適宜組み合わせて用いられている。
また、研究の分野では、優れた解重合性を備えたアクリル系樹脂について、熱分解炉とガスクロマトグラフィーを組み合わせた熱分解ガスクロマトグラフィー(以下、熱分解GCという。)や、熱分解ガスクロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせた熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析計(以下、熱分解GC−MSという。)を用いた構成成分の分析、測定が従来より行われている。
【0005】
さらに最近では、数百度に加熱された熱分解炉内部で高分子量系試料と反応助剤(例えばメチルエステル化剤)の2成分を投入し、炉内で反応させた後、ガスクロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー質量分析計にて解析することにより、高分子量系試料の構成成分を明らかにしようとする方法が報告されている。
また、熱分解装置部に微量の反応成分を投入し、装置内部で瞬時に反応させた後、反応生成物をガスクロマトグラフィー質量分析計に導き、反応生成物の同定結果から反応成分の組成を明らかにする方法や、芳香族を有する特定の開始剤でラジカル重合したポリ(メチルメタクリレート)の末端基や重合開始剤の断片を分析する方法(非特許文献1参照。)が知られている。
【特許文献1】特許第3410343号公報
【特許文献2】特開平7−89900号公報
【非特許文献1】「ポリマージャーナル(Polymer Journal)」,Vol.21,1989年,p.41−48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱分解GCや熱分解GC−MSを使用した方法では、熱分解炉に投入する試料量は1mg以下とごく少なく、微量成分の定量や定性分析が困難であるうえ、特に解重合液中の構成成分を複数回定量する場合、採取量の少ないこれらの方法では何回も熱分解をして十分な量の解重合液を確保しなければならず、必ずしも繰り返し測定に向いていない。
また、分析の精度を高めようとして投入する試料量を多くすると、熱分解炉の内部や、ガスクロマトグラフィー本体の注入口にタール状の高沸点成分が滞留し、解析をより困難にするという問題がある。
また、メチルエステル化剤などの助剤を使用した方法は、高分子の構成成分がテレフタール酸等の酸成分を有する場合に限定され、アクリル系樹脂には不向きである。また、この方法においても、未反応物や反応助剤などの滞留による問題は回避できない。
さらに、反応生成物の同定結果から反応成分の組成を明らかにする方法や非特許文献1に記載の方法も、構成成分が芳香族である場合にのみ使用可能であり、アクリル系樹脂への適用は困難である。
【0007】
そこで、例えば図3に示すように、略水平に配置した直管型ガラス管31とその一端に接続したU字型ガラス管32とからなる解重合管33を備えた解重合装置30を使用して、アクリル系樹脂を分解、解重合し、得られた分解生成物37を分析する方法が検討されている。具体的には、直管型ガラス管31の中央部分にアクリル系樹脂の試料34を配置し、窒素流通下において加熱炉35で加熱してこれを分解、解重合し、冷却槽36により冷却されたU字型部分に溜まった分解生成物37を回収し、分析する。このような方法によれば、得られた分解生成物37をガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー質量分析計の他、液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーなどの種々の装置でも分析することができる。よって、これらの分析結果から総合的、多面的にアクリル系樹脂の構成成分を判断でき、分析の信頼性も高まると考えられる。
【0008】
ところが、このような解重合装置30を使用した場合には、分解生成物37が直管型ガラス管31、U字型ガラス管32の内壁や直管型ガラス管31とU字型ガラス管32との継ぎ手部分に滞留しやすく、分解生成物37を高い回収率で回収することは困難であった。また、このような滞留により分解生成物37が二次反応を起こしやすいという傾向もあった。そのため、このような解重合管33を使用した場合には正確な分析が行えない場合が多かった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、分解生成物が滞留しにくく、高い回収率でこれを回収できるともに、分解生成物の二次反応も抑制でき、たとえアクリル系樹脂が微量構成成分を含む場合や多数の構成成分を含む場合であっても、アクリル系樹脂の正確な分析を可能とする解重合装置および解重合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のアクリル系樹脂の解重合装置は、無機ガラスからなり、互いに略平行に配置された第1の縦管および第2の縦管と、これらを連通する横管とを備えた略H型形状の解重合管を備えたことを特徴とする。
本発明のアクリル系樹脂の解重合方法は、前記解重合装置を使用して、アクリル系樹脂を解重合することを特徴とする。
前記解重合管内の25℃換算の圧力を絶対圧力表示で0.3kPa以下とし、温度を300〜500℃とすることが好ましい。
また、前記アクリル系樹脂の試料量を0.1〜1gとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分解生成物が滞留しにくく、これを高い回収率で回収できるとともに、分解生成物の二次反応も抑制でき、たとえアクリル系樹脂が微量構成成分を含む場合や多数の構成成分を含む場合であっても、アクリル系樹脂の正確な分析を可能とする解重合装置および解重合方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の解重合装置10の一例を示す概略構成図であって、無機ガラスからなり、互いに略平行に配置された第1の縦管11および第2の縦管12と、これらを連通する横管13とを備えた略H型形状の解重合管14を備えて構成されている。
【0013】
第1の縦管11と第2の縦管12はいずれも上端部が開口し下端部が閉塞していて、第1の縦管11の下端部は試料部15であり、解重合の対象であるアクリル系樹脂試料(以下、試料という。)が配置されるようになっている。一方、第2の縦管12の下端部は凝集液溜まり16であり、試料部15の試料が分解、解重合して生成した分解生成物を主成分とする凝縮液が溜まるようになっている。横管13は、試料が加熱され生成した分解生成物や水分などが、試料部15から凝集液溜まり16へと流通するために設けられたものであって、第1の縦管11と第2の縦管12の長さ方向におけるほぼ中央部に掛け渡され、これらを連通している。
【0014】
また、試料部15の外周には、試料部15に投入された試料を加熱する加熱手段として筒型炉18が設置され、凝集液溜まり16の外周には、冷媒が投入された冷却手段として冷却槽19が設置されている。また、第2の縦管12の上部は、解重合管14内を減圧する真空ポンプなどの図示略の真空手段が接続される接続部20になっていて、この部分が図示のように下部よりも縮径して形成されていると解重合管14内の容積が小さくなり、より迅速に減圧されるようになり好ましい。
【0015】
このような解重合管14の各部分のサイズには特に制限はないが、この例では図2に示す各部分のサイズが以下の通りになっている。
第1の縦管の長さL=150〜170mm
第1の縦管における上端部から横管までの距離L=60〜70mm
第2の縦管の長さL=210〜230mm
第2の縦管における接続部の長さL=60〜70mm
第2の縦管における上端部から横管までの距離L=90〜110mm
第1の縦管と第2の縦管との距離L=180〜230mm
第1の縦管の内径D=10〜18mm
第2の縦管における接続部の内径D=4〜7mm
第2の縦管における接続部以外の部分の内径D=10〜18mm
横管の内径D=8〜12mm
各ガラス管の肉厚T=2〜3mm
【0016】
各部分の肉厚は、接続、溶着などの加工面から2〜3mmが好ましい。また、特に横管13の長さを180〜230mmとすると、解重合管14の取扱性に優れるとともに、他の部分のサイズや試料部15に投入される試料量にもよるが、試料の分解時にガスが発生しても解重合管14の内圧が過度に上昇しにくいため好ましい。また、特に第1の縦管11および第2の縦管12の内径DおよびDは、好ましくは20mm以下、より好ましくは10〜18mmであり、横管13の内径Dは好ましくは8〜12mmである。
【0017】
次に図1の解重合装置10を使用してアクリル系樹脂を分解して、モノマー単位にまで解重合する具体的方法について説明する。
まず、所定量の試料を第1の縦管11の上端部から試料部15に投入する。ここで投入する試料量が多いと、解重合管14のサイズにもよるが解重合管14の内圧が高くなりやすく、一方、試料量が少ないと、凝集液が解重合管14の内壁に付着、滞留し、回収しにくくなる。よって、これらの観点から試料量は1g以下が好ましく、より好ましくは、0.1〜1gである。
【0018】
ついで、第1の縦管11の上端部をガスバーナーなどで加熱、溶着して閉塞する。
ついで、第2の縦管12の上端部、すなわち接続部20の上端部に図示略の真空ポンプを接続し、解重合管14内を所定の圧力まで減圧する。ここで、管内の25℃換算の圧力を絶対圧力表示で0.3kPa以下とすることが好ましい。圧力を0.3kPa以下として解重合管14内の酸素量を低減することにより、分解生成物が酸化するなどの副反応や、凝集液の着色を抑制できる。このように管内を減圧した状態で、第2の縦管12の上端部近傍をガスバーナーなどで加熱、溶着して確実に閉塞するとともに、真空ポンプと切り離す。ここで確実に閉塞されていないと、加熱による解重合管14の内圧上昇により分解生成物の外部への漏洩や、空気中の酸素の混入による上述の副反応や着色などが生じる可能性がある。
【0019】
ついで、試料が封緘された解重合管14の凝集液溜まり16を冷却槽19内に浸漬して予め冷却しておき、その後、試料部15を所定温度に保持されている筒型炉18内に入れて加熱し、試料を分解させる。すると、凝集液溜まり16が予め冷却されているため、試料が分解すると白煙状のガスが発生するとともに凝集液が凝集液溜まり16に溜まり始める。このようにして試料の加熱分解が終了した後、解重合管14を筒型炉18および冷却槽19から抜き取り、試料部15を空冷する。その後、解重合管14から凝集液溜まり16をヤスリなどで切断、分離することにより凝集液を取り出す。
【0020】
アクリル系樹脂の分解温度はその構成成分や樹脂構造などにより異なり、一概には言えないが、概ね500℃前後である。よって、ここでの加熱温度は、好ましくは300〜500℃、より好ましくは400〜500℃である。加熱温度が低すぎると、アクリル系樹脂の種類によっては分解しないことがあるとともに、分解に長時間を要する場合もある。一方、加熱温度が高すぎると、モノマー単位を超えた分解や、それにより発生したガスによる解重合管14の内圧上昇が起こる場合がある。加熱温度を好ましくは300〜500℃とすることにより、より効率的かつ確実に、目的の分解生成物を含む凝集液を得ることができる。
【0021】
また、分解に要する時間もアクリル系樹脂の構成成分や樹脂構造などにより異なり、一概には言えないが、例えば試料量が1g以下であるとともに加熱温度が400〜500℃である場合には、5分間程度が目安となる。よって、加熱時間も同等程度の4〜5分間とすることが好ましい。但し、分解を途中で止める場合、あるいは分解時間を追加する場合は目視にて分解状態を確認し、適宜加熱温度を判断する。ここで加熱時間が長すぎると、分解生成物に過度の熱履歴が加わり、モノマー単位を超えた分解や、それにより生成した分解生成物同士の二次反応が懸念されるとともに、凝集液が長時間高温下に晒されて着色する可能性もある。一方、加熱時間が短すぎると、分解が十分に進行せず、目的とする凝集液が回収できない場合がある。
【0022】
このようにして得られた凝集液を、必要に応じて遮光や冷凍保存等、適宜処理して、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー質量分析計の他、液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーなどの種々の分析や測定に供する。また、アクリル系樹脂は、原料であるモノマーが種々の官能基を有している場合が多く、そのようなモノマーを種々の方法で高分子量化したものであるため、得られた分解生成物は再重合する可能性が極めて高い。よって、再重合を抑制する目的で、凝集液に適量の酸化防止剤を添加しておくことが好ましい。酸化防止剤としては、2,4−ジメチル−6−tertブチルフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(メトキノン)、ヒドロキノン等のフェノール系酸化防止剤が挙げられ、これらを一種類以上添加することができる。これら酸化防止剤の添加量は特に限定されないが、通常凝集液に対して1〜100ppmとなる量を添加するのが好ましい。
【0023】
以上説明した解重合装置10および解重合方法においては、解重合管14として、互いに略平行に配置された第1の縦管11および第2の縦管12と、これらを連通する横管13とを備えた略H型形状のものを使用しているので、試料を投入する試料部15と、凝集液が溜まる凝集液溜まり16とを明確に分離して設けることができる。よって、試料部15と凝集液溜まり16とをそれぞれ独立に適温に温度制御しやすく、これらの間に明らかな温度差を設けることができる。そのため、分解生成物の滞留や二次反応を抑制できるとともに、試料が少量であって生成する凝集液が少量である場合でも、高い回収率で凝集液を回収でき、たとえアクリル系樹脂が微量構成成分を含む場合や多数の構成成分を含む場合であっても、アクリル系樹脂の正確な分析が可能となる。また、解重合管14が略H型形状であると、試料の投入や封緘が容易であるうえ、管内を効率的に減圧しやすい。
【0024】
さらに解重合管14が無機ガラスから形成されていると、分解生成物と解重合管14との反応性が低く好適であり、試料投入後の封緘処理や凝集液溜まり16の切断、分離などの加工もしやすい。具体的には、パイレックス(登録商標)などの耐熱ガラスが好ましい。ここで仮に解重合管が金属から形成されていると、分解生成物との反応が懸念され、試料投入後の封緘処理や凝集液溜まりの簡便な切断、分離も困難となる。また、無機ガラスは透明性を備えていて、分解の進行の様子を目視確認できる点からも好ましい。
【0025】
また、解重合管14内の25℃換算の圧力を絶対圧力表示で0.3kPa以下とし、温度を300〜500℃とすることで、分解生成物が酸化するなどの副反応や、凝集液の着色などを抑制できるうえ、より効率的かつ確実に、目的の分解生成物を含む凝集液を得ることができる。
さらに、アクリル系樹脂の試料量を0.1〜1gとすることによって、解重合管14の内圧を過度に高めることなく、確実に凝集液を回収することができる。
【0026】
なお、以上の例では加熱手段として筒型炉18が使用され、筒型炉18の具体的形態としては電熱ヒーターを板状セラミックスにコイル状に巻き、さらに周辺部をセラミック等で保護して電圧を制御可能としたものが好ましく例示できるが、これに限定されず、公知の小型ヒーターを代用するなどしてもよい。
また、冷却槽19に投入される冷媒としては、ドライアイスとメタノールの混合物、氷と塩の混合物、液体窒素などが例示できる。
【0027】
また、本発明によれば、公知の方法で重合されたアクリル系樹脂を分解、解重合できるが、塩素、フッ素などのハロゲンや、リンなどを5質量%以上含有するアクリル系樹脂の場合は、分解時の異常な内圧の上昇、遊離したハロゲンの付加反応、凝集液取り出し時における高濃度のハロゲンによる作業環境の汚染などの可能性がある。よって、アクリル系樹脂を解重合するにあたっては、赤外吸収スペクトル(FT−IR)、蛍光X線分析装置などを用いてあらかじめアクリル系樹脂中のハロゲン、リンなどの有無を確認し、樹脂の大まかな特徴を把握しておくことが重要である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、例中「部」とあるのは「質量部」を示す。
[実施例1]
(アクリル系樹脂の製造)
メタクリル酸メチル80質量%、スチレン10質量%、無水マレイン酸10質量%からなる単量体混合物100部に、アゾビスイソブチロニトリル0.05部、n−オクチルメルカプタン0.25部を加え、重合反応機に供給し、重合温度100℃で予備重合させシラップ状重合物を得た。ついで、このシラップ状重合物を取り出し、追加の重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.05部を加え、ガラスセルキャストに流し込み90℃の温水浴に浸漬し約2時間重合し、アクリル系樹脂を得た。重合率は98質量%であった。
(解重合)
このアクリル系樹脂約0.9gを試料とし、図1に示す解重合装置10の試料部15に入れ、ガスバーナーで第1の縦管11の上端部を閉じた。ついで、第2のガラス管12における接続部20の上端部に真空ポンプを接続し、約20分間減圧し、解重合管14内の圧力を25℃換算の絶対圧力表示で0.2kPaとした。その状態を維持したまま、接続部20をガスバーナーにて溶着切断し、真空ポンプを分離した。
ついで、凝集液溜まり16を、氷水と食塩が入った約−2℃の冷却槽19に漬けて冷却した。一方、試料部15を490℃±10℃に保持された筒型炉18に投入し、投入から5分間加熱し、試料を分解した。
分解終了を目視で確認し、それと同時に筒型炉18および冷却槽19から解重合管14を抜き取り、試料部15を空冷した。冷却後、凝集液溜まり16の上部をヤスリにて切断し、凝集液約0.8mlを取り出した。
凝集液には酸化防止剤として2,4−ジメチル−6−tertブチルフェノールを10ppm程度となるように添加した。
ここで使用した解重合管14の各部分のサイズは以下の通りである。
=150mm、L=60mm、L=210mm、L=60mm、L=100mm、L=180mm、D=15mm、D=5mm、D=15mm、D=10mm、T=2〜3mm
(分析)
得られた凝集液をガスクロマトグラフィー分析したところ、メタクリル酸メチルとスチレンが検出され、その組成比は、88質量%と12質量%であった。
さらに液体クロマトグラフィーを用いてこれを分析したところ、メタクリル酸メチル、スチレンの他、テーリングピーク成分が検出された。そこで、テーリング成分の同定を目的に、分解液0.2mlに対してメタノールと硫酸を添加してメチルエステル化を行った後、ガスクロマトグラフィー質量分析計にて分析した結果、マレイン酸モノメチルエステルが検出された。
ついで、分解液0.5mlを正確に秤量し、これをエタノール10mlで希釈し、0.01mol/Lの水酸化カリウム(エタノール溶液)でフェノールフタレインを指示薬として中和滴定したところ、マレイン酸として10質量%が算出された。
したがって、アクリル系樹脂の構成成分は、上述の分析で得られた組成比よりメタクリル酸メチル79質量%、スチレン11質量%、無水マレイン酸10質量%であると分析できた。
【0029】
実施例1で製造したアクリル系樹脂は、NMRや熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて正確な組成を求める事は困難である。すなわち、NMRは、メタクリル酸メチルと無水マレイン酸に特有の帰属が重複し正確な組成比が得られない。また、熱分解ガスクロマトグラフィーでは、無水マレイン酸が難揮発成分のため、検出できない。
しかしながら、実施例1の方法によれば、アクリル系樹脂の構成成分を正確に分析することができた。
【0030】
[実施例2]
(アクリル系樹脂の製造)
メタクリル酸メチル90質量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル7質量%、ジメタクリル酸エチレングリコール3質量%の単量体混合物100部に、アゾビスイソブチロニトリル0.05部を加え、ガラスセルキャストに流し込み80℃の温水浴に浸漬し約3時間で重合し、アクリル系樹脂を得た。重合率は97質量%であった。
(解重合)
このアクリル系樹脂約0.9gを試料とし、実施例1と同様にして分解、解重合を行い、凝集液約0.7mlを取り出した。また、凝集液には実施例1と同様に酸化防止剤を添加した。
(分析)
得られた凝集液0.2mlを正確に秤量し、これをアセトン10mlで希釈し、ガスクロマトグラフィーを用いた内部標準法により各モノマー成分を定量したところ、メタクリル酸メチル92質量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル6質量%、ジメタクリル酸エチレングリコール2.5質量%と算出された。
【0031】
実施例2で製造したアクリル系樹脂は、多官能モノマー成分であるジメタクリル酸エチレングリコールが使用されているため架橋構造となり、組成を正確に求めることは通常困難である。
しかしながら、実施例2の方法によれば、アクリル系樹脂の構成成分をほぼ正確に分析することができた。
【0032】
[比較例1]
実施例1で得られたアクリル系樹脂約0.9gを試料とし、図3に示す解重合装置30を用いて分解、解重合した。まず、直管型ガラス管31の中央部分に試料34を入れ、ここを加熱するように配置された加熱炉35の炉温を490℃±10℃とした。ついで、直管型ガラス管31の一端から窒素を約20ml/分の流量で流しながら分解を行い、氷水と食塩が投入された約−2℃の冷却槽36に漬けてU字型ガラス管32を冷却し、凝集液約0.5mlを回収した。凝集液には酸化防止剤として2,4−ジメチル−6−tertブチルフェノールを10ppm程度となるように添加した。
得られた凝集液を実施例1と同様の方法でガスクロマトグラフィー分析したところ、メタクリル酸メチルとスチレンが検出されたが、その組成比は、80質量%と20質量%であった。
また、凝集液0.2mlを正確に秤量し、これをエタノール10mlで希釈し、0.01mol/Lの水酸化カリウム(エタノール溶液)でフェノールフタレインを指示薬として中和滴定したところ、マレイン酸として5質量%が算出された。
したがって、アクリル系樹脂の構成成分は、メタクリル酸メチル76質量%、スチレン19質量%、無水マレイン酸5質量%であると分析でき、本来の組成比であるメタクリル酸メチル80質量%、スチレン10質量%、無水マレイン酸10質量%とはかけ離れた数値となり、誤差が大きいことが明らかとなった。
ここで使用した解重合管の各部分のサイズは以下の通りである。
直管型ガラス管 長さ300mm、内径15mm
U字型ガラス管 縦長さ60mm、横幅50mm、内径15mm
各ガラス管の肉厚 2〜3mm
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、アクリル系樹脂を構成する成分の詳細を定量的に明らかにできるので、高機能アクリル系樹脂の研究開発に寄与できるとともに、アクリル系樹脂のリサイクルも推進できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】解重合装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1の解重合装置の解重合管における各部分のサイズを説明する説明図である。
【図3】解重合装置の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0035】
10 解重合装置
11 第1の縦管
12 第2の縦管
13 横管
14 解重合管
15 試料部
16 凝集液溜まり
18 筒型炉
19 冷却槽
20 接続部
30 解重合装置
31 直管型ガラス管
32 U字型ガラス管
33 解重合管
34 試料
35 加熱炉
36 冷却槽
37 分解生成物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラスからなり、互いに略平行に配置された第1の縦管および第2の縦管と、これらを連通する横管とを備えた略H型形状の解重合管を備えたアクリル系樹脂の解重合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の解重合装置を使用して、アクリル系樹脂を解重合するアクリル系樹脂の解重合方法。
【請求項3】
前記解重合管内の25℃換算の圧力を絶対圧力表示で0.3kPa以下とし、温度を300〜500℃とする請求項2に記載のアクリル系樹脂の解重合方法。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂の試料量を0.1〜1gとする請求項2または3に記載のアクリル系樹脂の解重合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−193479(P2006−193479A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7330(P2005−7330)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】