アシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤
【課題】紫外線吸収性、紫外線散乱性、抗酸化性等に優れ、かつ、人体にも無害であるアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有した皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物。(式中、A〜Eのうち少なくとも1つはアシル基であり、アシル基以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【解決手段】下記式(I)で表される化合物。(式中、A〜Eのうち少なくとも1つはアシル基であり、アシル基以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤に関する。更に詳しくは、皮膚に対する安全性に問題がなく、皮膚の日焼け、シミ、そばかす、肌荒れ等の防止及び改善効果に優れるアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の老化には紫外線、乾燥等の外的要因が大きく影響するということが知られており、また、皮膚の日焼け、シミ、そばかす、肌荒れ等の発生を防止するために紫外線吸収剤を配合した化粧品等の皮膚外用剤が広く用いられている。日焼けには、サンタン波長といわれる長波長紫外線(UV−A/Ultra Violet−Aの略:約320〜400nm)が影響するものと、サンバーン波長といわれる中波長紫外線(UV−B/Ultra Violet−Bの略:約280〜320nm)が影響するものが知られており、その他には短波長紫外線(UV−C/Ultra Violet−Cの略:280nm以下)が影響するものがある。
【0003】
ここで、UV−AとUV−Bが肌に与える影響はまったく異なるものである。すなわち、UV−Aによる日焼けは、皮膚が褐色に色づいた状態で痛みがほとんどない日焼けのことであり、この褐色の肌はメラニン色素によって形成される。メラニン色素は、紫外線が皮膚の奥深く浸透するのを防ぐはたらきをする一方、かかるメラニン色素により皮膚が黒化してしまい、シミ、ソバカス等の発生や増加の因子となる。
【0004】
一方、UV−Bによる日焼けは、皮膚が火傷をしたように痛みを伴う日焼けのことをいい、急に強い紫外線を浴びたために、皮膚表面の組織が炎症を起こした状態を指すものである。この日焼けは、火傷と同様に皮膚がはがれ落ちることにより治癒するが、皮膚の奥にある真皮に到達した紫外線は、この真皮の弾性繊維(肌に張りを持たせている繊維)を変質させて、肌の張りを失わせてしまうことになる。更には、結果として、シミやたるみの原因となるばかりか、UV−Bによる日焼けを何回も繰り返すことにより、皮膚ガンの原因にもなる。
【0005】
紫外線吸収剤は、このような日焼け等による問題を防止・改善すべく、UV−Aを主として吸収するUV−A吸収剤、UV−Bを主として吸収するUV−B吸収剤が開発され、市場に提供されている。なお、UV−Cについては、そのほとんどがオゾン層で吸収され地上に達しないので従来あまり注目されていなかったが、近年、UV−Cに発癌作用があることや、フロンガスによるオゾン層破壊といった問題が判明したことと相俟って、UV−C吸収剤の開発も望まれている。
【0006】
加えて、従来の紫外線吸収剤は紫外線吸収能を有する一方、紫外線エネルギーを吸収するため高エネルギー状態となり、その結果吸収剤自体として不安定となったり、生体に対して悪影響を及ぼす場合もあった。そこで、このような生体に対して悪影響を及ぼす紫外線を吸収しつつ、そのエネルギーを無害化して安全な可視光として散乱することができる、紫外線無害化効率が高い紫外線散乱剤の開発も併せて望まれている。
【0007】
ここで、配糖体は、紫外線吸収剤等としての適用が期待されているが、かかる配糖体は、グルコースを脱離したものは吸収した紫外線により励起増感され、スーパーオキサイドの生成を促進するため光酸化物にする作用があるが、化合物は紫外線を吸収して無害な蛍光として発散する作用や、糖(グルコース)による抗酸化作用があるため、光による酸化作用を抑制することが確認されている。また、配糖体を皮膚外用剤に適用した例として、ヒト水晶体の水不溶性より抽出した配糖体(2−アミノ−3−ヒドロキシ−アセトフェノン−O−β−D−グルコシド/3’−アセチル−2’−アミノフェニル−β−D−グルコピラノシド)が優れたUV−A、UV−C吸収能、加えてUV−A、UV−Cを吸収して人体に無害な蛍光(470nm)として可視域に散乱させる作用があるため、皮膚外用剤の配合成分として有用であることが報告されている(例えば、特許文献1〜特許文献3等参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−157579号公報
【特許文献2】特開平8−20524号公報
【特許文献3】特開2002−363195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記した化合物が備えるアミノ基は細胞毒性を有し人体に有害な場合もあり、皮膚外用剤として適用するには安全性が懸念されている。一方、皮膚外用剤における抗酸化能の更なる向上が期待されている。
【0010】
本発明は前記の課題に鑑みてなされたものであり、紫外線吸収性、紫外線散乱性、抗酸化性等に優れ、かつ、人体にも無害であるため、紫外線吸収剤等の皮膚外用剤の配合成分として最適なアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0012】
【化1】
(式中、A、B、C、D、及びEのうち少なくとも1つはアシル基が配置され、アシル基を配置した以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【0013】
また、本発明の化合物は、下記式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド、あるいは下記式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドであることが好ましい。
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
また、本発明の皮膚外用剤は、前記した本発明の化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
式(I)で表される本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、紫外線吸収部としてのアシルフェニル誘導体の存在により、紫外線吸収性、及び紫外線を無害化して発光する紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れ、また、アミノ基を有しないアシルフェニル誘導体の採用により、人体にも無害であり、安全性も良好である。そして、糖部としてグルコースより抗酸化作用が高いマンノースを採用しているので、吸収した紫外線により励起増感されて生成するスーパーオキサイドを好適に吸収することができ、抗酸化性にも優れる配糖体となる。
【0018】
また、アシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物として、式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド、あるいは式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドを採用すれば、前記の効果を享受するとともに、紫外線吸収スペクトルとして300nm付近に最大吸収ピークを有し、紫外線吸収性として、特にUV−B吸収性に優れる化合物となる。また、これらの化合物は、260nm付近及び325nm付近の光を吸収し励起すると、人体に無害な400nmに蛍光を発するため、紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れる。
【0019】
また、前記した本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を有効成分として含有する本発明の皮膚外用剤は、前記した当該化合物の奏する効果(紫外線吸収性、紫外線散乱性及び抗酸化性等)を好適に享受し、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤として有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物(以下、「本発明の化合物」とする場合もある。)は、下記式(I)で表される、糖部としてマンノース、紫外線吸収部としてアシルフェニル誘導体を有する配糖体である。
【0021】
【化4】
(式中、A、B、C、D、及びEのうち少なくとも1つはアシル基が配置され、アシル基を配置した以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【0022】
ここで、式(I)においてA、B、C、D及びEのうち少なくとも1つに配置されるアシル基は、一般式として−CORで表される基であるが、Rとしては、水素原子、あるいは、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシル基等、アミノ基を含まない1価の基が挙げられる。
【0023】
式(I)に示されるように、本発明の化合物は、糖部としてマンノース、紫外線吸収部としてアシルフェニル誘導体を有する配糖体であり、アシルフェニル誘導体に配置されるアシル基の位置を選択することにより、化合物における紫外線吸収スペクトルの最大吸収ピークを選択することができる。例えば、アシル基をオルト位に配置した場合、UV−A、UV−B及びUV−Cの吸収剤となり、アシル基をメタ位に配置した場合、UV−B、あるいはUV−B及びUV−Cの吸収剤となり、アシル基をパラ位に配置した場合、UV−Cの吸収剤となると考えられる。
【0024】
また、この式(I)で表される化合物の具体例としては、例えば、3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシド等が挙げられ、このうち、下記式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシドのβ体)、あるいは、下記式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシドのα体)とすることが好ましい。これらの3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシドは、紫外線吸収スペクトルとして300nm付近に最大吸収ピークを有し、紫外線吸収性として、特にUV−B吸収性に優れる化合物となる。また、260nm付近及び325nm付近の光を吸収し励起すると、人体に無害な400nmに蛍光を発するため、紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れる化合物となる。
【0025】
【化5】
【0026】
【化6】
【0027】
本発明の化合物を化学的に合成するにあたり、式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドに代表されるβ体を合成するには、例えば、シクロヘキサノンジエチルアセタールにp−トルエンスルホン酸を加え、減圧加熱後、蒸留して生成した1−エトキシシクロヘキセンを、D−マンノース、p−トルエンスルホン酸、ジメチルホルムアミド(DMF)の混合物と混合し、減圧加熱して2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースを得る。そして、この2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースに、アルゴン雰囲気で、トリフェニルホスフィン、アゾジカルボン酸ジエチルトルエン溶液、3’−ヒドロキシアセトフェノンを加え、更に、酢酸及び水を加えて加熱することにより、3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドを得ることができる。
【0028】
また、式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドに代表されるα体を合成するには、例えば、ピリジンと無水酢酸の混合物にα−D−マンノースを作用して得られるペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースと3’−ヒドロキシアセトフェノンの混合物を加熱融解させた後、塩化亜鉛(II)の無水酢酸−酢酸溶液を加え、例えば130℃で1時間加熱する。加熱後の混合物を0℃まで冷却し、水−クロロホルムを加え反応を停止する。クロロホルム層を分離、乾燥後、減圧下溶媒を留出し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー等で精製し、3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドを得る。この3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドをメタノールに溶解させた後ナトリウムメトキシドメタノール溶液を加え反応を進行させ、中圧逆相カラムクロマトグラフィー等で単離精製させることにより、3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドを得ることができる。
【0029】
なお、前記の合成にあっては、アシルフェニル誘導体として3’−ヒドロキシアセトフェノンを用いることにより、3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドあるいは3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドを得ているが、このように、合成中に用いるアシルフェニル誘導体の構成により、式(I)のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物におけるアシルフェニル誘導体の構成が決定される。よって、前記の合成において、3’−ヒドロキシアセトフェノンの代わりに、合成しようとするアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を構成するアシルフェニル誘導体に対応するアシルフェニル誘導体を用いることにより、所望の構造の化合物を得ることができる。
【0030】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、紫外線吸収部としてのアシルフェニル誘導体の存在により、紫外線吸収性に優れ、アシル基をアシルフェニル誘導体における任意の位置に配置させることにより、所望の紫外線吸収スペクトルの最大吸収ピークを選択することができ、UV−A、UV−B及びUV−Cの各領域に対応できる紫外線吸収剤を提供可能な化合物となる。また、吸収した紫外線エネルギーを、安全な可視光として散乱することができるため、紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れる。更には、アシルフェニル誘導体はアミノ基を有さないため、人体にも無害な化合物であり、安全性も良好な化合物となる。そして、糖部としてグルコースより抗酸化作用が高いマンノースを備えているので、吸収した紫外線により励起増感されて生成するスーパーオキサイドを好適に吸収し、抗酸化性にも優れる化合物となる。
【0031】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、前記した優れた効果を有するので、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤に適用するほか、化粧品、医薬品、医薬部外品、洗浄料、インク、塗料、プラスチック、コーティング剤、化学繊維等の化学製品等に適宣配合して用いることもできる。
【0032】
本発明の皮膚外用剤は、前記した本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を有効成分として含有するものであり、前記した本発明の化合物を有効成分として含有するので、当該化合物の奏する効果を好適に享受し、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤として有利に使用することができる。ここで、本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を皮膚外用剤として用いる場合における当該化合物の含有量は、皮膚外用剤として求められる性能や、他の成分との関係で適宜決定すればよいが、皮膚外用剤全体に対して0.001〜50質量%とすることが好ましく、0.01〜10質量%とすることが更に好ましく、0.01〜5質量%とすることが特に好ましいが、この数値範囲には特には限定されない。
【0033】
本発明の皮膚外用剤にあって、必須成分である本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物に加えて、必要に応じて以下の水性成分、粉末成分、油成分等の成分を添加することができる。例えば、ワセリン、固体パラフィン、液状パラフィン、スクワラン、クリスタルオイル、セレシン、オゾケライト、モンランロウ等の炭化水素類、シリコン油類、オリーブ油、地ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等の植物性もしくは動物性の油脂類やロウ類、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸類、ホホバ油、カルナバワックス、合成ゲイロウ、ミツロウ等のエステル類、オリーブ油、水添ヤシ油、ヒマシ油、牛脂等のトリグリセライド類、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類、セチルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、パルミチルアルコール等の高級アルコール類、グリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ソルビトール等の多価アルコール類、ステアリン酸モノクリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸エステル等のアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩酸等のカチオン性界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤、パラベン類やグルコン酸クロルヘキシジン等の防腐剤、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、グアーガム、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー等の増粘剤、ポリエチレングリコール等の保湿剤、アルカリ、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等のpH調節剤、酸化チタン、ベンガラ、タルク、粘土鉱物、シリカゲル等の粉体類、更に、香料、色素、薬効成分、乳化安定剤、キレート剤、水溶性高分子、油溶性高分子等が挙げられる。
【0034】
更に、紫外線吸収性の増強のために、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、p−アミノ安息香酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、アラントイン、ビタミンEアセテート、グリチルリチン等のその他の紫外線吸収剤を添加することもできる。
【0035】
また、本発明の皮膚外用剤には、下記植物抽出物や薬剤も適宜配合することができる。例えば、トウガラシ、ヨウテイ、アロエ、クコ、ヨモギ、カラシ、イネ、マンケイシ、マンネンロウ、コッサイホ、エニシダ、リンドウ、タンジン、ヘチマ、キキョウ、マツ、クジン、ベニバナ、メギ、ビンロウジ、ユーカリ、カゴソウ、モクロウ、ゴジツ、サイコ、チャ、シンイ、ワザビ、ジョテイジ、オランダセンニチ、クチナシ、ウスバサイシン、ニンニク、ハッカ、ヨクイニン、キリンケツ、ヤシ、ゴボウ、カンゾウ、ホップ、キク、ラッキョウ、ニラ、ネギ、タマネギ、セネガ、アマチャヅル、マンネンタケ、ジオウ、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルレチン酸、グリチルリチン、ゴマ、センキュウ、カシュウ等が挙げられる。
【0036】
本発明の皮膚外用剤の剤型には、特に限定されないが、例えば、化粧水等の水溶液、乳液状、クリーム状、スティック状等の任意の剤型とすることができ、アイカラー、チークカラー、ファンデーション等のメークアップ化粧品に配合してもよい。また、サンオイル、サンタンローション、サンスクリーン、日焼け止めリップクリーム、サンジェリー、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、ファンデーションローション、メイクアップベース、ヘアートニック等にも使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0038】
[実施例1]
3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドの合成:
式(II)で表される、本発明の3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(以下、「化合物A」とすることもある。)を下記(1)〜(4)の操作を行って合成した。
【0039】
(1)シクロヘキサノンジエチルアセタールの合成:
シクロヘキサノン50.0g(510mmol)とオルトギ酸トリエチル75.0g(510mmol)を混合し、濃塩酸0.2mlエタノール溶液30mlを滴下して混合物とした。この混合物を室温で10時間撹拌後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液で中和し、ジクロロメタンで抽出した。抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去し、更に減圧下で蒸留精製して65.9gのシクロヘキサノンジエチルアセタール(75℃/17mmHg)を得た(収率:75%)。得られたシクロヘキサノンジエチルアセタールにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図1に示す。
【0040】
(2)1−エトキシシクロヘキセンの合成:
(1)で得たシクロヘキサノンジエチルアセタール65.4g(380mmol)にp−トルエンスルホン酸250mg(2.35mmol)を加え100mmHg減圧下150℃で2時間加熱した。減圧下蒸留精製し、38.0gの1−エトキシシクロヘキセン(55℃/17mmHg)を得た(収率:79.2%)。得られた1−エトキシシクロヘキセンにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図2に示す。
【0041】
(3)2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースの合成:
D−マンノース800mg(4.4mmol)、p−トルエンスルホン酸24mg(0.23mmol)、ジメチルホルムアミド(DMF)12mlの混合物を40℃で加熱し、(1)で得た1−エトキシシクロヘキセン2.3g(18.2mmol)を1時間かけて滴下した後、同温、17mmHg減圧下、更に1時間加熱した。加熱後の混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、エーテル15mlで抽出し、硫酸ナトリウム乾燥後、減圧下溶媒を除去して、ジクロロメタン−ヘキサンで2回再結晶を行い、662mgの2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースを得た(収率;44.2%)。得られた2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図3に示す。
【0042】
(4)3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドの合成:
(3)で得られた2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノース512mg(1.50mmol)に、トリフェニルホスフィン784mg(2.99mmol)、3’−ヒドロキシアセトフェノン406mg(2.98mmol)のトルエン(2.0ml)溶液を加え、アルゴン雰囲気下でアゾジカルボン酸ジエチルトルエン溶液(1.05×10−3M)2.92mlを15分かけて滴下した。滴下後、混合物を1時間撹拌し、減圧下溶媒を除去した。更に、酢酸4.0ml、水1.0mlを加え100℃で2時間加熱し、加熱後減圧下で酢酸を除去し、水で抽出した。そして、抽出物を減圧下で溶媒を除去し、エタノールで再結晶して、249mgの3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(化合物A)を得た(収率:55.7%)。得られた化合物Aにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図4に、13C−NMRスペクトルの測定結果を図5に、また、それぞれの帰属を図6に示す。
【0043】
また、得られた本発明の化合物Aについて、FAB−MS(JOEL JMS−AX505HA)を使用して質量分析を行った。ここで、positive−MSのマトリックスとしては、Glycerol及びm−nitrobenzyl alcoholを混合させて用い、また、negative−MSのマトリックスとしては、2−hydroxyethyl disulfideを用いてそれぞれ測定を行った。なお、補正にはperfluoroalkyl phosphazlneを使用した。positive−MSスペクトルの測定結果を図7に、negative−MSスペクトルの測定結果を図8に示す。
【0044】
図7及び図8の結果より、合成した化合物Aの分子量は298であり、positive−MSの結果(図7)では分子量299.16にピークが見られ、またnegative−MSの結果(図8)では分子量297.0にピークが見られた。このように、positive−MSでは分子量プラス1のピークが、negative−MSでは分子量マイナス1のピークが検出されることが確認できた。以上より、図4〜図6の1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルの測定結果と併せて、合成されたものは3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドであることが確認できた。
【0045】
[実施例2]
3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドの合成:
式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(以下、「化合物B」とすることもある。)を下記(1)〜(3)の操作を行って合成した。
【0046】
(1)ペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースの合成:
ピリジン16mlと無水酢酸12.5ml(132mmol)の混合物を0℃に冷却し、更にα−D−マンノース2.50g(13.9mmol)を加えて、同温で48時間撹拌した。次に、この溶液状の混合物を氷水に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出し、ピリジンを除去するため0.1M塩酸で洗浄し、続いて飽和炭酸水素ナトリウム、水の順で洗浄した。洗浄後の抽出物について硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後、減圧下で溶媒を除去して1.03gのペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースを得た(収率:19.2%)。得られたペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図9に示す。
【0047】
(2)3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドの合成:
3’−ヒドロキシアセトフェノン716mg(5.26mmol)と、(1)で得たペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノース513mg(1.32mmol)の混合物を100℃で加熱融解し、これに塩化亜鉛(II)の無水酢酸−酢酸(95/5=v/v)溶液(0.929M、1.5ml)を加えて130℃に昇温して加熱した。同温で1時間撹拌した後、室温に冷却し、クロロホルム20mlを加えた。この混合物を0.1M塩酸、1M冷水酸化ナトリウム、水で順次洗浄し、洗浄後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下溶媒を除去した。そして、溶媒を除去した混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、252mgの3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドを得た(収率:40.8%)。得られた3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図10に示す。
【0048】
(3)3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドの合成:
(2)で得た3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシド637mg(1.37mmol)をメタノール6mlに溶解させ、その後ナトリウムメトキシドメタノール溶液(0.1M、0.010ml)を加えて40分間撹拌した。反応を終了させるためDowe−X(50W−X8、100−200H)を3g加えて1時間激しく撹拌して、濾別し、その後、減圧下で溶媒を除去した。溶媒を除去した混合物を中圧逆相カラムクロマトグラフィー(水:メタノール=2:3)で単離精製し、123gの3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(化合物B)を得た(収率:30.1%)。化合物Bにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図11に、13C−NMRスペクトルの測定結果を図12に、また、それぞれの帰属を図13に示した。図11〜図13の結果からも、合成されたものは、3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドであることが確認できた。
【0049】
なお、3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドの合成において、前記(2)におけるフラッシュカラムクロマトグラフィーでは、シリカゲル60N(球状、中性)(関東化学(株)製)を、前記(3)における中圧逆相カラムクロマトグラフィーでは、コスモシール140C18−OPN(ナカライテスク(株)製)をそれぞれ用いた。
【0050】
[試験例1]
紫外可視吸光分光光度計(UV−vis)による紫外線吸収測定:
実施例1で得られた化合物A及び実施例2で得られた化合物Bを1000μMとして、
1cmの石英セルを用いて、紫外可視吸光分光光度計(JASCO V−570:日本分光(株)製)により紫外線吸収測定を行った。なお、開始波長は700nm、終了波長は200nmとした。化合物A及び化合物BについてのUV−visスペクトルの測定結果を図14に示す。
【0051】
図14の結果からわかるように、化合物A及び化合物Bはいずれも300nm付近(UV−Bの領域)に吸収ピークを有し、その強度も略同様なものであった。したがって、β体(化合物A)とα体(化合物B)という構造の違いは吸収ピークに特段影響を与えず、これらの化合物はともに紫外線吸収剤、特にUV−Bの吸収剤として有用であることが確認できた。
【0052】
[試験例2]
円偏光二色性による3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドの構造の確認:
1000μMの化合物A、アセトフェノン及びマンノースについて、厚さが1mmの石英セルを用いて、円二色性分散計(J−725:日本分光(株)製)により下記の条件で測定し、構造を確認した。化合物A、アセトフェノン及びマンノースの円偏光二色性スペクトルの測定結果を順に図15、図16及び図17に示す。
【0053】
(測定条件)
開始波長 : 700nm
終了波長 : 200nm
データ間隔 : 0.5nm
走査速度 : 50nm/分
積算 : 10回
レスポンス : 2秒
バンド幅 : 1.0nm
感度 : 50mdeg
【0054】
図15、図16及び図17の結果より、アセトフェノン、マンノースはほとんどCDスペクトルが見られなかったのに対し、化合物Aでは試験例のUV−vis吸収スペクトルと類似した300nm、250nm及び200nm付近に誘起CDスペクトルを確認することができた。この結果からも、化合物AがUV−Bの吸収剤として有用であることが確認できた。
【0055】
[試験例3]
蛍光測定による紫外線無害化効率の評価:
1000μMの化合物Aについての蛍光測定を、分光蛍光光度計(F4500:(株)日立製作所製)より、励起波長325nm、蛍光波長を400nmとして実施した。結果として、化合物Aの励起スペクトル及び蛍光スペクトルを図18に示す。
【0056】
図18の結果より、化合物Aは260nm及び325nmに最大吸収が得られ、また、325nmの光で励起すると400nmに蛍光を生じることが確認できた。この結果より、化合物Aは260nm及び325nm付近の光を吸収し励起すると、人体に無害な400nmに蛍光を発することができるため、紫外線無害化効率が高く、紫外線散乱剤として有用であることが分かった。
【0057】
[試験例4]
トリプトファン残基の光酸化反応測定:
280nmで励起し、340nmで蛍光を発するというトリプトファンの特性を利用して、被検対象(化合物Aとアセトフェノン)に近紫外光を照射して、340nmにおける蛍光強度の減少を測定することにより蛋白質中のトリプトファン残基の光酸化反応の進行度を確認し、比較・評価した。
【0058】
具体的な操作としては、化合物A及びアセトフェノンそれぞれに対して2mg/mlの
牛血清アルブミン(SIGMA社製)を加えて撹拌し、310nmの近紫外光を、強度を
0. 4mW/cm2として3時間照射し続け反応液とした。そして、0時間後(試験開始直後)、1時間後、2時間後、3時間後に採取した反応液100μMにバッファー(10μMトリス−塩酸:pH7.6、0.1M塩化カリウム)2900μlを加え、分光蛍光光度計(F4500:(株)日立製作所製)により、励起波長280nm及び340nmで蛍光度を測定した。
【0059】
そして、この確認される蛍光度がトリプトファンの存在量となるので、試験開始直後の値に対する蛍光強度の減少を求め、光酸化反応の進行の程度を確認した。試験開始直後の値を100%とした場合における、残存するトリプトファンの経時的変化を、ブランクとして水を測定した結果と併せて図19に示す。
【0060】
図19の結果からわかるように、トリプトファンの光酸化は、化合物A、アセトフェノ
ンの順で時間の経過に沿って進行していったが、アセトフェノンにおけるトリプトファン
の存在量が時間の経過に沿って減少していったことに対して、化合物Aはトリプトファン
存在量の変化がほとんど見られなかった。
【0061】
この結果は、アセトフェノンには吸収した紫外線により励起増感されスーパーオキサイド(O2)の生成を促進するためトリプトファン残基を光酸化産物にする作用がある一方、本発明の化合物A(3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド)にあっては、配糖体として紫外線を吸収し無害な蛍光として発する作用を有し、発生したスーパーオキサイドが化合物が備える糖部の抗酸化能によって、光によるトリプトファン残基の酸化反応を抑制するためであると考えられる。以上より、本発明の化合物Aは、吸収した紫外線によって励起増感されて生成するスーパーオキサイドを好適に吸収するはたらきがあることがわかり、抗酸化性に優れる化合物であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、皮膚に対して安全性が高く、皮膚の日焼け、シミ、そばかす、肌荒れ等の防止及び改善効果に優れるため、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤にとして有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】シクロヘキサノンジエチルアセタールの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図2】1−エトキシシクロへキセンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図3】2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図4】3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(化合物A)の1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図5】化合物Aの13C−NMRスペクトルを示した図である。
【図6】化合物Aの1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルの帰属を示した図である。
【図7】化合物Aのpositive−MSスペクトルを示した図である。
【図8】化合物Aのnegative−MSスペクトルを示した図である。
【図9】ペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図10】3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図11】3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(化合物B)の1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図12】化合物Bの13C−NMRスペクトルを示した図である。
【図13】化合物Bの1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルの帰属を示した図である。
【図14】試験例1における、化合物A及び化合物BのUV−visスペクトルを示した図である。
【図15】試験例2における、化合物Aの円偏光二色性スペクトルを示した図である。
【図16】試験例2における、アセトフェノンの円偏光二色性スペクトルを示した図である。
【図17】試験例2における、マンノースの円偏光二色性スペクトルを示した図である。
【図18】試験例3における、化合物Aの励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示した図である。
【図19】試験例4における、残存するトリプトファン経時的変化を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤に関する。更に詳しくは、皮膚に対する安全性に問題がなく、皮膚の日焼け、シミ、そばかす、肌荒れ等の防止及び改善効果に優れるアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の老化には紫外線、乾燥等の外的要因が大きく影響するということが知られており、また、皮膚の日焼け、シミ、そばかす、肌荒れ等の発生を防止するために紫外線吸収剤を配合した化粧品等の皮膚外用剤が広く用いられている。日焼けには、サンタン波長といわれる長波長紫外線(UV−A/Ultra Violet−Aの略:約320〜400nm)が影響するものと、サンバーン波長といわれる中波長紫外線(UV−B/Ultra Violet−Bの略:約280〜320nm)が影響するものが知られており、その他には短波長紫外線(UV−C/Ultra Violet−Cの略:280nm以下)が影響するものがある。
【0003】
ここで、UV−AとUV−Bが肌に与える影響はまったく異なるものである。すなわち、UV−Aによる日焼けは、皮膚が褐色に色づいた状態で痛みがほとんどない日焼けのことであり、この褐色の肌はメラニン色素によって形成される。メラニン色素は、紫外線が皮膚の奥深く浸透するのを防ぐはたらきをする一方、かかるメラニン色素により皮膚が黒化してしまい、シミ、ソバカス等の発生や増加の因子となる。
【0004】
一方、UV−Bによる日焼けは、皮膚が火傷をしたように痛みを伴う日焼けのことをいい、急に強い紫外線を浴びたために、皮膚表面の組織が炎症を起こした状態を指すものである。この日焼けは、火傷と同様に皮膚がはがれ落ちることにより治癒するが、皮膚の奥にある真皮に到達した紫外線は、この真皮の弾性繊維(肌に張りを持たせている繊維)を変質させて、肌の張りを失わせてしまうことになる。更には、結果として、シミやたるみの原因となるばかりか、UV−Bによる日焼けを何回も繰り返すことにより、皮膚ガンの原因にもなる。
【0005】
紫外線吸収剤は、このような日焼け等による問題を防止・改善すべく、UV−Aを主として吸収するUV−A吸収剤、UV−Bを主として吸収するUV−B吸収剤が開発され、市場に提供されている。なお、UV−Cについては、そのほとんどがオゾン層で吸収され地上に達しないので従来あまり注目されていなかったが、近年、UV−Cに発癌作用があることや、フロンガスによるオゾン層破壊といった問題が判明したことと相俟って、UV−C吸収剤の開発も望まれている。
【0006】
加えて、従来の紫外線吸収剤は紫外線吸収能を有する一方、紫外線エネルギーを吸収するため高エネルギー状態となり、その結果吸収剤自体として不安定となったり、生体に対して悪影響を及ぼす場合もあった。そこで、このような生体に対して悪影響を及ぼす紫外線を吸収しつつ、そのエネルギーを無害化して安全な可視光として散乱することができる、紫外線無害化効率が高い紫外線散乱剤の開発も併せて望まれている。
【0007】
ここで、配糖体は、紫外線吸収剤等としての適用が期待されているが、かかる配糖体は、グルコースを脱離したものは吸収した紫外線により励起増感され、スーパーオキサイドの生成を促進するため光酸化物にする作用があるが、化合物は紫外線を吸収して無害な蛍光として発散する作用や、糖(グルコース)による抗酸化作用があるため、光による酸化作用を抑制することが確認されている。また、配糖体を皮膚外用剤に適用した例として、ヒト水晶体の水不溶性より抽出した配糖体(2−アミノ−3−ヒドロキシ−アセトフェノン−O−β−D−グルコシド/3’−アセチル−2’−アミノフェニル−β−D−グルコピラノシド)が優れたUV−A、UV−C吸収能、加えてUV−A、UV−Cを吸収して人体に無害な蛍光(470nm)として可視域に散乱させる作用があるため、皮膚外用剤の配合成分として有用であることが報告されている(例えば、特許文献1〜特許文献3等参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−157579号公報
【特許文献2】特開平8−20524号公報
【特許文献3】特開2002−363195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記した化合物が備えるアミノ基は細胞毒性を有し人体に有害な場合もあり、皮膚外用剤として適用するには安全性が懸念されている。一方、皮膚外用剤における抗酸化能の更なる向上が期待されている。
【0010】
本発明は前記の課題に鑑みてなされたものであり、紫外線吸収性、紫外線散乱性、抗酸化性等に優れ、かつ、人体にも無害であるため、紫外線吸収剤等の皮膚外用剤の配合成分として最適なアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物及び当該化合物を含有する皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0012】
【化1】
(式中、A、B、C、D、及びEのうち少なくとも1つはアシル基が配置され、アシル基を配置した以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【0013】
また、本発明の化合物は、下記式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド、あるいは下記式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドであることが好ましい。
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
また、本発明の皮膚外用剤は、前記した本発明の化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
式(I)で表される本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、紫外線吸収部としてのアシルフェニル誘導体の存在により、紫外線吸収性、及び紫外線を無害化して発光する紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れ、また、アミノ基を有しないアシルフェニル誘導体の採用により、人体にも無害であり、安全性も良好である。そして、糖部としてグルコースより抗酸化作用が高いマンノースを採用しているので、吸収した紫外線により励起増感されて生成するスーパーオキサイドを好適に吸収することができ、抗酸化性にも優れる配糖体となる。
【0018】
また、アシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物として、式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド、あるいは式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドを採用すれば、前記の効果を享受するとともに、紫外線吸収スペクトルとして300nm付近に最大吸収ピークを有し、紫外線吸収性として、特にUV−B吸収性に優れる化合物となる。また、これらの化合物は、260nm付近及び325nm付近の光を吸収し励起すると、人体に無害な400nmに蛍光を発するため、紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れる。
【0019】
また、前記した本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を有効成分として含有する本発明の皮膚外用剤は、前記した当該化合物の奏する効果(紫外線吸収性、紫外線散乱性及び抗酸化性等)を好適に享受し、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤として有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物(以下、「本発明の化合物」とする場合もある。)は、下記式(I)で表される、糖部としてマンノース、紫外線吸収部としてアシルフェニル誘導体を有する配糖体である。
【0021】
【化4】
(式中、A、B、C、D、及びEのうち少なくとも1つはアシル基が配置され、アシル基を配置した以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【0022】
ここで、式(I)においてA、B、C、D及びEのうち少なくとも1つに配置されるアシル基は、一般式として−CORで表される基であるが、Rとしては、水素原子、あるいは、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシル基等、アミノ基を含まない1価の基が挙げられる。
【0023】
式(I)に示されるように、本発明の化合物は、糖部としてマンノース、紫外線吸収部としてアシルフェニル誘導体を有する配糖体であり、アシルフェニル誘導体に配置されるアシル基の位置を選択することにより、化合物における紫外線吸収スペクトルの最大吸収ピークを選択することができる。例えば、アシル基をオルト位に配置した場合、UV−A、UV−B及びUV−Cの吸収剤となり、アシル基をメタ位に配置した場合、UV−B、あるいはUV−B及びUV−Cの吸収剤となり、アシル基をパラ位に配置した場合、UV−Cの吸収剤となると考えられる。
【0024】
また、この式(I)で表される化合物の具体例としては、例えば、3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシド等が挙げられ、このうち、下記式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシドのβ体)、あるいは、下記式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシドのα体)とすることが好ましい。これらの3’−アセチルフェニル−D−マンノピラノシドは、紫外線吸収スペクトルとして300nm付近に最大吸収ピークを有し、紫外線吸収性として、特にUV−B吸収性に優れる化合物となる。また、260nm付近及び325nm付近の光を吸収し励起すると、人体に無害な400nmに蛍光を発するため、紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れる化合物となる。
【0025】
【化5】
【0026】
【化6】
【0027】
本発明の化合物を化学的に合成するにあたり、式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドに代表されるβ体を合成するには、例えば、シクロヘキサノンジエチルアセタールにp−トルエンスルホン酸を加え、減圧加熱後、蒸留して生成した1−エトキシシクロヘキセンを、D−マンノース、p−トルエンスルホン酸、ジメチルホルムアミド(DMF)の混合物と混合し、減圧加熱して2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースを得る。そして、この2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースに、アルゴン雰囲気で、トリフェニルホスフィン、アゾジカルボン酸ジエチルトルエン溶液、3’−ヒドロキシアセトフェノンを加え、更に、酢酸及び水を加えて加熱することにより、3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドを得ることができる。
【0028】
また、式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドに代表されるα体を合成するには、例えば、ピリジンと無水酢酸の混合物にα−D−マンノースを作用して得られるペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースと3’−ヒドロキシアセトフェノンの混合物を加熱融解させた後、塩化亜鉛(II)の無水酢酸−酢酸溶液を加え、例えば130℃で1時間加熱する。加熱後の混合物を0℃まで冷却し、水−クロロホルムを加え反応を停止する。クロロホルム層を分離、乾燥後、減圧下溶媒を留出し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー等で精製し、3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドを得る。この3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドをメタノールに溶解させた後ナトリウムメトキシドメタノール溶液を加え反応を進行させ、中圧逆相カラムクロマトグラフィー等で単離精製させることにより、3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドを得ることができる。
【0029】
なお、前記の合成にあっては、アシルフェニル誘導体として3’−ヒドロキシアセトフェノンを用いることにより、3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドあるいは3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドを得ているが、このように、合成中に用いるアシルフェニル誘導体の構成により、式(I)のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物におけるアシルフェニル誘導体の構成が決定される。よって、前記の合成において、3’−ヒドロキシアセトフェノンの代わりに、合成しようとするアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を構成するアシルフェニル誘導体に対応するアシルフェニル誘導体を用いることにより、所望の構造の化合物を得ることができる。
【0030】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、紫外線吸収部としてのアシルフェニル誘導体の存在により、紫外線吸収性に優れ、アシル基をアシルフェニル誘導体における任意の位置に配置させることにより、所望の紫外線吸収スペクトルの最大吸収ピークを選択することができ、UV−A、UV−B及びUV−Cの各領域に対応できる紫外線吸収剤を提供可能な化合物となる。また、吸収した紫外線エネルギーを、安全な可視光として散乱することができるため、紫外線無害化効率が高く紫外線散乱性にも優れる。更には、アシルフェニル誘導体はアミノ基を有さないため、人体にも無害な化合物であり、安全性も良好な化合物となる。そして、糖部としてグルコースより抗酸化作用が高いマンノースを備えているので、吸収した紫外線により励起増感されて生成するスーパーオキサイドを好適に吸収し、抗酸化性にも優れる化合物となる。
【0031】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、前記した優れた効果を有するので、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤に適用するほか、化粧品、医薬品、医薬部外品、洗浄料、インク、塗料、プラスチック、コーティング剤、化学繊維等の化学製品等に適宣配合して用いることもできる。
【0032】
本発明の皮膚外用剤は、前記した本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を有効成分として含有するものであり、前記した本発明の化合物を有効成分として含有するので、当該化合物の奏する効果を好適に享受し、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤として有利に使用することができる。ここで、本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物を皮膚外用剤として用いる場合における当該化合物の含有量は、皮膚外用剤として求められる性能や、他の成分との関係で適宜決定すればよいが、皮膚外用剤全体に対して0.001〜50質量%とすることが好ましく、0.01〜10質量%とすることが更に好ましく、0.01〜5質量%とすることが特に好ましいが、この数値範囲には特には限定されない。
【0033】
本発明の皮膚外用剤にあって、必須成分である本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物に加えて、必要に応じて以下の水性成分、粉末成分、油成分等の成分を添加することができる。例えば、ワセリン、固体パラフィン、液状パラフィン、スクワラン、クリスタルオイル、セレシン、オゾケライト、モンランロウ等の炭化水素類、シリコン油類、オリーブ油、地ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等の植物性もしくは動物性の油脂類やロウ類、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸類、ホホバ油、カルナバワックス、合成ゲイロウ、ミツロウ等のエステル類、オリーブ油、水添ヤシ油、ヒマシ油、牛脂等のトリグリセライド類、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類、セチルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、パルミチルアルコール等の高級アルコール類、グリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ソルビトール等の多価アルコール類、ステアリン酸モノクリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸エステル等のアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩酸等のカチオン性界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤、パラベン類やグルコン酸クロルヘキシジン等の防腐剤、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、グアーガム、アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー等の増粘剤、ポリエチレングリコール等の保湿剤、アルカリ、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等のpH調節剤、酸化チタン、ベンガラ、タルク、粘土鉱物、シリカゲル等の粉体類、更に、香料、色素、薬効成分、乳化安定剤、キレート剤、水溶性高分子、油溶性高分子等が挙げられる。
【0034】
更に、紫外線吸収性の増強のために、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、p−アミノ安息香酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、アラントイン、ビタミンEアセテート、グリチルリチン等のその他の紫外線吸収剤を添加することもできる。
【0035】
また、本発明の皮膚外用剤には、下記植物抽出物や薬剤も適宜配合することができる。例えば、トウガラシ、ヨウテイ、アロエ、クコ、ヨモギ、カラシ、イネ、マンケイシ、マンネンロウ、コッサイホ、エニシダ、リンドウ、タンジン、ヘチマ、キキョウ、マツ、クジン、ベニバナ、メギ、ビンロウジ、ユーカリ、カゴソウ、モクロウ、ゴジツ、サイコ、チャ、シンイ、ワザビ、ジョテイジ、オランダセンニチ、クチナシ、ウスバサイシン、ニンニク、ハッカ、ヨクイニン、キリンケツ、ヤシ、ゴボウ、カンゾウ、ホップ、キク、ラッキョウ、ニラ、ネギ、タマネギ、セネガ、アマチャヅル、マンネンタケ、ジオウ、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルレチン酸、グリチルリチン、ゴマ、センキュウ、カシュウ等が挙げられる。
【0036】
本発明の皮膚外用剤の剤型には、特に限定されないが、例えば、化粧水等の水溶液、乳液状、クリーム状、スティック状等の任意の剤型とすることができ、アイカラー、チークカラー、ファンデーション等のメークアップ化粧品に配合してもよい。また、サンオイル、サンタンローション、サンスクリーン、日焼け止めリップクリーム、サンジェリー、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、ファンデーションローション、メイクアップベース、ヘアートニック等にも使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0038】
[実施例1]
3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドの合成:
式(II)で表される、本発明の3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(以下、「化合物A」とすることもある。)を下記(1)〜(4)の操作を行って合成した。
【0039】
(1)シクロヘキサノンジエチルアセタールの合成:
シクロヘキサノン50.0g(510mmol)とオルトギ酸トリエチル75.0g(510mmol)を混合し、濃塩酸0.2mlエタノール溶液30mlを滴下して混合物とした。この混合物を室温で10時間撹拌後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液で中和し、ジクロロメタンで抽出した。抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去し、更に減圧下で蒸留精製して65.9gのシクロヘキサノンジエチルアセタール(75℃/17mmHg)を得た(収率:75%)。得られたシクロヘキサノンジエチルアセタールにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図1に示す。
【0040】
(2)1−エトキシシクロヘキセンの合成:
(1)で得たシクロヘキサノンジエチルアセタール65.4g(380mmol)にp−トルエンスルホン酸250mg(2.35mmol)を加え100mmHg減圧下150℃で2時間加熱した。減圧下蒸留精製し、38.0gの1−エトキシシクロヘキセン(55℃/17mmHg)を得た(収率:79.2%)。得られた1−エトキシシクロヘキセンにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図2に示す。
【0041】
(3)2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースの合成:
D−マンノース800mg(4.4mmol)、p−トルエンスルホン酸24mg(0.23mmol)、ジメチルホルムアミド(DMF)12mlの混合物を40℃で加熱し、(1)で得た1−エトキシシクロヘキセン2.3g(18.2mmol)を1時間かけて滴下した後、同温、17mmHg減圧下、更に1時間加熱した。加熱後の混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、エーテル15mlで抽出し、硫酸ナトリウム乾燥後、減圧下溶媒を除去して、ジクロロメタン−ヘキサンで2回再結晶を行い、662mgの2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースを得た(収率;44.2%)。得られた2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図3に示す。
【0042】
(4)3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドの合成:
(3)で得られた2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノース512mg(1.50mmol)に、トリフェニルホスフィン784mg(2.99mmol)、3’−ヒドロキシアセトフェノン406mg(2.98mmol)のトルエン(2.0ml)溶液を加え、アルゴン雰囲気下でアゾジカルボン酸ジエチルトルエン溶液(1.05×10−3M)2.92mlを15分かけて滴下した。滴下後、混合物を1時間撹拌し、減圧下溶媒を除去した。更に、酢酸4.0ml、水1.0mlを加え100℃で2時間加熱し、加熱後減圧下で酢酸を除去し、水で抽出した。そして、抽出物を減圧下で溶媒を除去し、エタノールで再結晶して、249mgの3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(化合物A)を得た(収率:55.7%)。得られた化合物Aにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図4に、13C−NMRスペクトルの測定結果を図5に、また、それぞれの帰属を図6に示す。
【0043】
また、得られた本発明の化合物Aについて、FAB−MS(JOEL JMS−AX505HA)を使用して質量分析を行った。ここで、positive−MSのマトリックスとしては、Glycerol及びm−nitrobenzyl alcoholを混合させて用い、また、negative−MSのマトリックスとしては、2−hydroxyethyl disulfideを用いてそれぞれ測定を行った。なお、補正にはperfluoroalkyl phosphazlneを使用した。positive−MSスペクトルの測定結果を図7に、negative−MSスペクトルの測定結果を図8に示す。
【0044】
図7及び図8の結果より、合成した化合物Aの分子量は298であり、positive−MSの結果(図7)では分子量299.16にピークが見られ、またnegative−MSの結果(図8)では分子量297.0にピークが見られた。このように、positive−MSでは分子量プラス1のピークが、negative−MSでは分子量マイナス1のピークが検出されることが確認できた。以上より、図4〜図6の1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルの測定結果と併せて、合成されたものは3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドであることが確認できた。
【0045】
[実施例2]
3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドの合成:
式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(以下、「化合物B」とすることもある。)を下記(1)〜(3)の操作を行って合成した。
【0046】
(1)ペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースの合成:
ピリジン16mlと無水酢酸12.5ml(132mmol)の混合物を0℃に冷却し、更にα−D−マンノース2.50g(13.9mmol)を加えて、同温で48時間撹拌した。次に、この溶液状の混合物を氷水に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出し、ピリジンを除去するため0.1M塩酸で洗浄し、続いて飽和炭酸水素ナトリウム、水の順で洗浄した。洗浄後の抽出物について硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後、減圧下で溶媒を除去して1.03gのペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースを得た(収率:19.2%)。得られたペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図9に示す。
【0047】
(2)3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドの合成:
3’−ヒドロキシアセトフェノン716mg(5.26mmol)と、(1)で得たペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノース513mg(1.32mmol)の混合物を100℃で加熱融解し、これに塩化亜鉛(II)の無水酢酸−酢酸(95/5=v/v)溶液(0.929M、1.5ml)を加えて130℃に昇温して加熱した。同温で1時間撹拌した後、室温に冷却し、クロロホルム20mlを加えた。この混合物を0.1M塩酸、1M冷水酸化ナトリウム、水で順次洗浄し、洗浄後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下溶媒を除去した。そして、溶媒を除去した混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、252mgの3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドを得た(収率:40.8%)。得られた3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図10に示す。
【0048】
(3)3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドの合成:
(2)で得た3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシド637mg(1.37mmol)をメタノール6mlに溶解させ、その後ナトリウムメトキシドメタノール溶液(0.1M、0.010ml)を加えて40分間撹拌した。反応を終了させるためDowe−X(50W−X8、100−200H)を3g加えて1時間激しく撹拌して、濾別し、その後、減圧下で溶媒を除去した。溶媒を除去した混合物を中圧逆相カラムクロマトグラフィー(水:メタノール=2:3)で単離精製し、123gの3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(化合物B)を得た(収率:30.1%)。化合物Bにおける1H−NMRスペクトルの測定結果を図11に、13C−NMRスペクトルの測定結果を図12に、また、それぞれの帰属を図13に示した。図11〜図13の結果からも、合成されたものは、3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドであることが確認できた。
【0049】
なお、3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドの合成において、前記(2)におけるフラッシュカラムクロマトグラフィーでは、シリカゲル60N(球状、中性)(関東化学(株)製)を、前記(3)における中圧逆相カラムクロマトグラフィーでは、コスモシール140C18−OPN(ナカライテスク(株)製)をそれぞれ用いた。
【0050】
[試験例1]
紫外可視吸光分光光度計(UV−vis)による紫外線吸収測定:
実施例1で得られた化合物A及び実施例2で得られた化合物Bを1000μMとして、
1cmの石英セルを用いて、紫外可視吸光分光光度計(JASCO V−570:日本分光(株)製)により紫外線吸収測定を行った。なお、開始波長は700nm、終了波長は200nmとした。化合物A及び化合物BについてのUV−visスペクトルの測定結果を図14に示す。
【0051】
図14の結果からわかるように、化合物A及び化合物Bはいずれも300nm付近(UV−Bの領域)に吸収ピークを有し、その強度も略同様なものであった。したがって、β体(化合物A)とα体(化合物B)という構造の違いは吸収ピークに特段影響を与えず、これらの化合物はともに紫外線吸収剤、特にUV−Bの吸収剤として有用であることが確認できた。
【0052】
[試験例2]
円偏光二色性による3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドの構造の確認:
1000μMの化合物A、アセトフェノン及びマンノースについて、厚さが1mmの石英セルを用いて、円二色性分散計(J−725:日本分光(株)製)により下記の条件で測定し、構造を確認した。化合物A、アセトフェノン及びマンノースの円偏光二色性スペクトルの測定結果を順に図15、図16及び図17に示す。
【0053】
(測定条件)
開始波長 : 700nm
終了波長 : 200nm
データ間隔 : 0.5nm
走査速度 : 50nm/分
積算 : 10回
レスポンス : 2秒
バンド幅 : 1.0nm
感度 : 50mdeg
【0054】
図15、図16及び図17の結果より、アセトフェノン、マンノースはほとんどCDスペクトルが見られなかったのに対し、化合物Aでは試験例のUV−vis吸収スペクトルと類似した300nm、250nm及び200nm付近に誘起CDスペクトルを確認することができた。この結果からも、化合物AがUV−Bの吸収剤として有用であることが確認できた。
【0055】
[試験例3]
蛍光測定による紫外線無害化効率の評価:
1000μMの化合物Aについての蛍光測定を、分光蛍光光度計(F4500:(株)日立製作所製)より、励起波長325nm、蛍光波長を400nmとして実施した。結果として、化合物Aの励起スペクトル及び蛍光スペクトルを図18に示す。
【0056】
図18の結果より、化合物Aは260nm及び325nmに最大吸収が得られ、また、325nmの光で励起すると400nmに蛍光を生じることが確認できた。この結果より、化合物Aは260nm及び325nm付近の光を吸収し励起すると、人体に無害な400nmに蛍光を発することができるため、紫外線無害化効率が高く、紫外線散乱剤として有用であることが分かった。
【0057】
[試験例4]
トリプトファン残基の光酸化反応測定:
280nmで励起し、340nmで蛍光を発するというトリプトファンの特性を利用して、被検対象(化合物Aとアセトフェノン)に近紫外光を照射して、340nmにおける蛍光強度の減少を測定することにより蛋白質中のトリプトファン残基の光酸化反応の進行度を確認し、比較・評価した。
【0058】
具体的な操作としては、化合物A及びアセトフェノンそれぞれに対して2mg/mlの
牛血清アルブミン(SIGMA社製)を加えて撹拌し、310nmの近紫外光を、強度を
0. 4mW/cm2として3時間照射し続け反応液とした。そして、0時間後(試験開始直後)、1時間後、2時間後、3時間後に採取した反応液100μMにバッファー(10μMトリス−塩酸:pH7.6、0.1M塩化カリウム)2900μlを加え、分光蛍光光度計(F4500:(株)日立製作所製)により、励起波長280nm及び340nmで蛍光度を測定した。
【0059】
そして、この確認される蛍光度がトリプトファンの存在量となるので、試験開始直後の値に対する蛍光強度の減少を求め、光酸化反応の進行の程度を確認した。試験開始直後の値を100%とした場合における、残存するトリプトファンの経時的変化を、ブランクとして水を測定した結果と併せて図19に示す。
【0060】
図19の結果からわかるように、トリプトファンの光酸化は、化合物A、アセトフェノ
ンの順で時間の経過に沿って進行していったが、アセトフェノンにおけるトリプトファン
の存在量が時間の経過に沿って減少していったことに対して、化合物Aはトリプトファン
存在量の変化がほとんど見られなかった。
【0061】
この結果は、アセトフェノンには吸収した紫外線により励起増感されスーパーオキサイド(O2)の生成を促進するためトリプトファン残基を光酸化産物にする作用がある一方、本発明の化合物A(3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド)にあっては、配糖体として紫外線を吸収し無害な蛍光として発する作用を有し、発生したスーパーオキサイドが化合物が備える糖部の抗酸化能によって、光によるトリプトファン残基の酸化反応を抑制するためであると考えられる。以上より、本発明の化合物Aは、吸収した紫外線によって励起増感されて生成するスーパーオキサイドを好適に吸収するはたらきがあることがわかり、抗酸化性に優れる化合物であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物は、皮膚に対して安全性が高く、皮膚の日焼け、シミ、そばかす、肌荒れ等の防止及び改善効果に優れるため、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤及び抗酸化剤等の皮膚外用剤にとして有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】シクロヘキサノンジエチルアセタールの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図2】1−エトキシシクロへキセンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図3】2,3:4,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−β−D−マンノピラノースの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図4】3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシド(化合物A)の1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図5】化合物Aの13C−NMRスペクトルを示した図である。
【図6】化合物Aの1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルの帰属を示した図である。
【図7】化合物Aのpositive−MSスペクトルを示した図である。
【図8】化合物Aのnegative−MSスペクトルを示した図である。
【図9】ペンタ−O−アセチル−α−D−マンノピラノースの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図10】3’−アセチルフェニル−テトラ−O−アセチル−α−D−マンノピラノシドの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図11】3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシド(化合物B)の1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図12】化合物Bの13C−NMRスペクトルを示した図である。
【図13】化合物Bの1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルの帰属を示した図である。
【図14】試験例1における、化合物A及び化合物BのUV−visスペクトルを示した図である。
【図15】試験例2における、化合物Aの円偏光二色性スペクトルを示した図である。
【図16】試験例2における、アセトフェノンの円偏光二色性スペクトルを示した図である。
【図17】試験例2における、マンノースの円偏光二色性スペクトルを示した図である。
【図18】試験例3における、化合物Aの励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示した図である。
【図19】試験例4における、残存するトリプトファン経時的変化を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されることを特徴とするアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物。
【化1】
(式中、A、B、C、D、及びEのうち少なくとも1つはアシル基が配置され、アシル基を配置した以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【請求項2】
下記式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】
【請求項3】
下記式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化3】
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項1】
下記式(I)で表されることを特徴とするアシルフェニル−D−マンノピラノシド化合物。
【化1】
(式中、A、B、C、D、及びEのうち少なくとも1つはアシル基が配置され、アシル基を配置した以外の位置には、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシル基が配置される。)
【請求項2】
下記式(II)で表される3’−アセチルフェニル−β−D−マンノピラノシドであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】
【請求項3】
下記式(III)で表される3’−アセチルフェニル−α−D−マンノピラノシドであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化3】
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−230879(P2007−230879A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51214(P2006−51214)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
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