説明

アシロキシ基を有するシリコーン共重合体及びその製造方法

【課題】可視光領域の波長における透過性にすぐれ、耐熱性が高く、クラック耐性や耐溶剤性に優れた膜を形成できる特性を有する新規シリコーン共重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式


(式中、A、Xは炭化水素基を示す。)で示されるアシロキシ基を含有するシルセスキオキサン単位を含むシリコーン共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品の絶縁膜材料として有用なアシロキシ基を有するシリコーン共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品に用いられる絶縁膜としては、可視光で透過性が高い高透明性や、素子を製造する際の各種処理工程に耐えられる耐熱性、耐薬品性、クラック耐性などの特性を兼ね備えた樹脂の必要性が高まっている。その中で、シルセスキオキサン骨格を有するシリコーン樹脂は、光学特性や耐熱性等に優れた性能を有し、これらの特性を利用して広く利用されてきた。
しかし、その硬化膜は特に1μm以上の膜厚で膜にクラックが入りやすく用途が限定されていた。
【0003】
重要な特性であるクラック耐性を有する材料として、エポキシ基含有シリコーン樹脂の例が開示されている(特許文献1参照)。しかし、クラック耐性は優れているが、300℃以上の熱処理工程には耐えられず、耐熱性が不十分であった。
【0004】
一方、LSI素子の高速化、高集積化が進むにつれ、層間絶縁膜としてシルセスキオキサンが使用されている例が報告されている(特許文献2参照)。しかし、ここに記載されている材料では、可視光領域での透過率にすぐれ、かつ耐熱性にすぐれた材料を提供することができるが、1μm以上の膜厚の場合クラックが入りやすく厚膜化できない、また絶縁膜を形成する工程中に使用される溶剤に対する耐性に課題があった。
【特許文献1】特開2001−040094号公報
【特許文献2】特開2000−281904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、可視光領域の波長における透過性にすぐれ、耐熱性が高く、クラック耐性や耐溶剤性に優れた膜を形成できる特性を有する新規シリコーン共重合体を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、特定の構造をもつアシロキシ基を含有するシルセスキオキサン単位と、芳香族または脂環式炭化水素基を含有するシルセスキオキサン単位を含むシリコーン共重合体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリコーン共重合体は、アシロキシ基を含有するシルセスキオキサンを含有することにより、可視光領域における透過性にすぐれ、かつ加熱により膜を形成したとき、クラック耐性と耐溶剤性が非常に優れた材料となり、また、芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を含有するシルセスキオキサン単位を導入することにより、300℃以上の耐熱性が向上した材料になる。
【0008】
また、アシロキシ基は、アルカリによって容易に脱離して水酸基となることから、水酸基を有する耐熱性材料や水酸基を拠点に反応させることにより別の置換基を有する耐熱性材料となる。よって、本発明のシリコーン共重合体は電子部品に限らず、塗料や接着剤等、幅広い分野に応用できる。
【0009】
本発明のアシロキシ基を有するシリコーン共重合体は、可視光領域の波長における透明性が良く、耐熱性、クラック耐性にすぐれ、かつ耐溶剤性にすぐれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のシリコーン共重合体は、下記一般式
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、A、Xは炭化水素基を示す。)
で示されるアシロキシ基を含有するシルセスキオキサン単位と
下記一般式
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位を含むことを特徴とするシリコーン共重合体である。
【0015】
Aとして好ましい炭化水素基として、例えば、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等の炭化水素基が挙げられる。分枝状炭化水素基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基等の炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基等の環状炭化水素基が好ましく、また、ノルボルナン骨格を有するような架橋環式炭化水素基も好ましい。これら炭化水素基の中では、メチレン基、エチレン基、プロピレン基のような炭素数1〜7の直鎖炭化水素基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基のような環状炭化水素基、ノルボルナンのような架橋環状炭化水素基が合成上特に好ましい。
【0016】
Xとして示される炭化水素基の好ましい例として、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の炭化水素基が挙げられる。分枝状炭化水素基としては、iso−プロピル基、iso−ブチル基等の炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチレン基等の環状炭化水素基が好ましく、また、ノルボルナン骨格やアダマンタン骨格を有するような架橋環式炭化水素基でも良い。これら炭化水素基の中で、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の直鎖状炭化水素基がより好ましく、原料入手の観点からメチル基が一番好ましい。
【0017】
Rとして示される置換基は、芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。好ましい例として、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基等の芳香族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基や架橋脂環式炭化水素基が好ましい。この芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基に置換基が結合していても良い。原料入手の観点から、フェニル基、ナフチル基、ノルボルネニル基、アダマンチル基がより好ましい。
【0018】
本発明のシリコーン共重合体は、好ましくは、下記一般式
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Aは炭化水素基を示す。)
で示されるアセトキシ基を含有するシルセスキオキサン単位と
下記一般式
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位を含むシリコーン共重合体であり、さらに好ましくは下記一般式
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、A、Bは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
で示されるシリコーン共重合体である。
【0025】
本発明のシリコーン共重合体は、重量平均分子量(ポリスチレン換算)が500〜20,000の範囲にあるものが好ましく、500〜8,000の範囲にあるものがさらに好ましい。本発明のシリコーン共重合体は、分散度が1.1〜2.5の範囲にあるものが好ましく、1.1〜1.8の範囲にあるものがさらに好ましい。
【0026】
本発明のシリコーン共重合体は、好ましくは、有機溶媒に可溶であり、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、シクロへキサノール等のアルコール溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系溶媒に可溶である。
【0027】
本発明のシリコーン共重合体では、下記骨格は、
【0028】
【化6】

【0029】
シルセスキオキサン骨格を示し、各ケイ素原子が3個の酸素原子に結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子に結合していることを示す。
【0030】
また、本発明のシリコーン共重合体は、例えば、下記一般式
【0031】
【化7】

【0032】
(式中、A、B、Xは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
に示す構造式で表すことができる。
【0033】
また、本発明のシリコーン共重合体は、例えば、下記一般式
【0034】
【化8】

【0035】
(式中、A、B、Xは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
に示すラダー型シリコーン共重合体でも良い。
【0036】
ここで、本発明のシリコーン共重合体の好ましい形態である下記一般式
【0037】
【化9】

【0038】
(式中、A、B、Xは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
のAで示される炭化水素基は、炭素数1〜20の直鎖状、分枝状または環状の炭化水素が好ましく、架橋環状炭化水素基でも良い。
【0039】
Aとして好ましい炭化水素基として、例えば、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等の炭化水素基が挙げられる。分枝状炭化水素基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基等の炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基等の環状炭化水素基が好ましく、また、下記一般式
【0040】
【化10】

【0041】
に示すノルボルナン骨格を有するような架橋環式炭化水素基も好ましい。これら炭化水素基の中では、メチレン基、エチレン基、プロピレン基のような炭素数1〜7の直鎖炭化水素基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基のような環状炭化水素基、ノルボルナンのような架橋環状炭化水素基が合成上特に好ましい。
【0042】
Xとして示される炭化水素基の好ましい例として、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の炭化水素基が挙げられる。分枝状炭化水素基としては、iso−プロピル基、iso−ブチル基等の炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチレン基等の環状炭化水素基が好ましく、また、下記一般式
【0043】
【化11】

【0044】
に示すノルボルナン骨格やアダマンタン骨格を有するような架橋環式炭化水素基でも良い。これら炭化水素基の中で、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の直鎖状炭化水素基がより好ましく、原料入手の観点からメチル基が一番好ましい。
【0045】
Rとして示される置換基については、熱的に安定な芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。好ましい例として、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基等の芳香族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基や下記一般式
【0046】
【化12】

【0047】
に示す架橋脂環式炭化水素基が好ましい。この芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基に置換基が結合していても良い。原料入手の観点から、フェニル基、ナフチル基、ノルボルネニル基、アダマンチル基がより好ましい。
【0048】
Bとして示される炭化水素基の好ましい例として、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の炭化水素基が挙げられる。分枝状炭化水素基としては、iso−プロピル基、iso−ブチル基等の炭化水素基が好ましい。これら炭化水素基の中で、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の直鎖状炭化水素基がより好ましく、立体的に小さい置換基を導入することにより、分子内のシリコン含有率(ポリマ中のSiOが占める割合)を上げることができ、シロキサンの特性を十分生かすことができるようになる。
【0049】
本発明のシリコーン共重合体の特に好ましい例を下記一般式に示す。
【0050】
【化13】

【0051】
(式中、Aは炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
ここで、本発明のシリコーン共重合体の組成比としては、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%、ただしa+b+c=100となる。
ここで、a成分はアシロキシ基を含有する置換基を有するシリコーン部位を示し、耐熱性、耐溶剤性を満たすため、5モル%以上が好ましく、特に10モル%以上がより好ましい。
【0052】
また、b成分は芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示すが、熱的に安定なシリコーン共重合体にするには、20モル%以上が好ましく、特に40モル%以上が好ましい。
【0053】
c成分のBは炭化水素基を含む組成を示し、c成分に低級アルキルを使用することがより好ましいが、溶剤特性を向上させ、またポリマ中のシリコン含有率(ポリマ中のSiOが占める割合)を向上させることから、好ましくは10モル%以上であり、20モル%以上がさらに好ましい。
【0054】
ここで、本発明のシリコーン共重合体の好ましい形態である下記一般式
【0055】
【化14】

【0056】
(式中、A、B、Xは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
で示されるシリコーン共重合体を製造する場合、例えば、下記で示される水を用いた加水分解反応、重縮合反応で合成することができる。
【0057】
【化15】

【0058】
(式中、A、B、Xは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。Yは加水分解性基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
ここで、Yは加水分解性基を示すが、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、もしくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が好ましく、特に塩素原子、メトキシ基、エトキシ基が原料入手と反応性が高いことから特に好ましい。
【0059】
この加水分解、重縮合反応は水を用いて行うが、通常触媒を加えて行うことが好ましい。アシロキシ基は塩基性条件に弱いことから、酸性条件で行うことが好ましく、塩酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の触媒を使用することが特に好ましい。この触媒使用量は原料モノマーのモル数に対して0.01〜1.0当量が好ましく、0.05〜0.5当量がさらに好ましい。
【0060】
加水分解、重縮合条件として、反応温度0〜100℃が好ましく、触媒を使用することにより反応が容易に進行することから、10〜40℃がより好ましい。
【0061】
この加水分解、重縮合反応には水が必要であるが、原料モノマーのモル数に対して3〜100当量使用することが好ましく、5〜50当量使用することが特に好ましい。
【0062】
この反応では、有機溶媒を使用することが好ましく、有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、等の溶媒を使用することができる。
【0063】
反応終了後は、非極性溶媒を添加して反応生成物と水とを分離して、有機溶媒に溶解した反応生成物を回収し、水で洗浄後に溶媒を留去することにより目的の生成物を得ることができる。
【0064】
このようにしてアシロキシ基をもつシリコーン共重合体を合成することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0066】
以下の実施例において、測定には下記装置を使用し、原料は試薬メーカー(東京化成品、和光純薬品、ナカライテスク品、アズマックス品、信越化学品)から購入した一般的な試薬を用いた。
【0067】
測定装置
NMR測定・・・日本電子製400MHz NMR測定器
IR測定・・・島津製IR Prestige-21。KBr板に合成品を少量塗布し、別のKBr板に挟んで赤外を透過させて測定した。
【0068】
GPC測定・・・東ソー製HLC-8220
GC測定・・・島津製GC-2010シリーズ 。
【0069】
合成例1
3−アセトキシプロピルトリメトキシシランの合成例
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた1L4つ口フラスコに、トルエン500g、3−クロロプロピルトリメトキシシラン250.0g(1.258モル)と酢酸カリウム129.6g(1.321モル)を加えて撹拌し、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド5.84g(0.0181モル)を加えて90〜100℃で2時間反応させた。次に、冷却後生成した塩を吸引ろ過し黄色溶液を得た。得られた溶液をエバポレーターでトルエンを減圧留去し、さらに減圧蒸留を行い0.4kPaの減圧度で留出温度80〜81℃の無色透明の留分を162.8g(0.732モル)得た。得られた留分のGC分析の結果、GC純度99.0%、NMRとIR分析の結果、3−アセトキシプロピルトリメトキシシランであった。
【0070】
得られた化合物のスペクトルデータを下記に示す。
【0071】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
2841,2945cm-1 (-CH3)、1740cm-1 (-CO-)、1086 cm-1(Si-O)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3)
0.644-0.686(dd、2H、-CH2-)、1.703-1.779(m、2H、-CH2-)、2.045(s、3H、CH3CO-)、3.575(s、9H、CH3O-)、4.019-4.052(t、2H、-COO-CH2-) 。
【0072】
合成例2
(5−アセトキシノルボルナン−2(または3)−イル)トリエトキシシランの合成例
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた1L4つ口フラスコに、5−ノルボルネン−2−イルアセテート400.0g(2.63モル)に0.1mol/L塩化白金酸のイソプロピルアルコール溶液を6mL加え、80〜90℃の反応温度でトリエトキシラン453.3g(2.76モル)を滴下し、滴下終了後同温度で2時間熟成した。次に冷却後減圧蒸留を行い0.2kPaの減圧度で留出温度110〜115℃の無色透明の留分を507.4g(1.60モル)得た。得られた留分のGC分析とGCMS分析の結果、GC純度は96.3%、NMRとIR分析の結果、(5−アセトキシノルボルナン−2(または3)−イル)トリエトキシシランであった。
【0073】
得られた化合物のスペクトルデータを下記に示す。
【0074】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
2880-3060cm-1 (-CH2-,-CH3)、1730cm-1 (-CO-)、1080-1170 cm-1(Si-O)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3)
0.787-0.828(m、1H)、1.016-1.049(m、1H)、1.165-1.206(m、9H)、1.267-1.744(m、4H)、1.852-2.030(m、1H)、1.997(s、3H)、2.278-2.489(m、2H)、3.760-3.821(m、6H)、4.540-4.944(m、1H) 。
【0075】
実施例1
下記構造式(3−アセトキシプロピルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体)の合成
【0076】
【化16】

【0077】
(構造式中の20:50:30は使用原料のモル比)
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン55.8gと水35.7gを仕込み、35%塩酸を3.12g(0.03モル)を加えた。次に3−アセトキシプロピルトリメトキシシラン13.5g(0.0605モル)、フェニルトリメトキシシラン30.0g(0.151モル)とメチルトリメトキシシラン12.4g(0.0908モル)のトルエン27.9gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の粘性液体状の化合物34.6gを得た。
【0078】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0079】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1030-1134cm-1(Si-O)、1271 cm-1(-O-)、1713 cm-1(-CO-)、2970-3073 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
0.17(bs)、0.51-0.81(m)、1.50-2.10(m)、3.60-4.20(m)、6.90-7.47(m)、7.47-7.70(m)
GPC分析データ:Mw=1,020、Mw/Mn=1.22(ポリスチレン換算)。
【0080】
実施例2
下記構造式(3−アセトキシプロピルシルセスキオキサン・2−ノルボルネニルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体)の合成
【0081】
【化17】

【0082】
(構造式中の20:50:30は使用原料のモル比)
実施例1に記載の原料であるフェニルトリメトキシシランを2−ノルボルネニルトリエトキシシラン39.0g(0.151モル)に変更した以外は実施例1と同様の操作で目的の化合物38.7gを得た。
【0083】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1047-1123cm-1(Si-O)、1269 cm-1(-O-)、1713 cm-1(-CO-)、2866-2965 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
0.16(bs)、0.60-1.79(m)、1.79-2.62(m)、6.95-7.49(m)、7.49-7.70(m)
GPC分析データ:Mw=2,140、Mw/Mn=1.33(ポリスチレン換算)。
【0084】
実施例3
下記構造式(5−アセトキシノルボルナン−2(または3)−イル)シルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体)の合成
【0085】
【化18】

【0086】
(構造式中の20:50:30は使用原料のモル比)
実施例1に記載の原料である3−アセトキシプロピルトリメトキシシランを(5−アセトキシノルボルナン−2(または3)−イル)トリエトキシシラン39.0g(0.151モル)に変更した以外は実施例1と同様の操作で目的の化合物38.7gを得た。
【0087】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1030-1134cm-1(Si-O)、1271 cm-1(-O-)、1713 cm-1(-CO-)、2872-3073 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
0.16(bs)、0.60-1.79(m)、1.79-2.62(m)、4.70-5.00(m)、6.90-7.47(m)、7.47-7.80(m)
GPC分析データ:Mw=1,230、Mw/Mn=1.31(ポリスチレン換算)。
【0088】
実施例4
下記構造式(3−アセトキシプロピルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合体)の合成
【0089】
【化19】

【0090】
(構造式中の20:80は使用原料のモル比)
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、メタノール38.4gと水21.0gを仕込み、酢酸を1.13g(0.0189モル)を加えた。次に3−アセトキシプロピルトリメトキシシラン8.41g(0.0378モル)、フェニルトリメトキシシラン30.0g(0.151モル)のメタノール19.2gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンを加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の粘性液体状の化合物24.6gを得た。
【0091】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0092】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1030-1134cm-1(Si-O)、1274cm-1(-O-)、1713 cm-1(-CO-)、2893-3073 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
0.10-0.78(m)、1.33-2.10(m)、3.20-4.20(m)、6.80-7.47(m)、7.47-7.70(m)
GPC分析データ:Mw=1,430、Mw/Mn=1.36(ポリスチレン換算)。
【0093】
比較例1
下記構造式(フェニルシルセスキオキサン)の合成
【0094】
【化20】

【0095】
(構造式中の20:80は使用原料のモル比)
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン55.8gと水35.7gを仕込み、35%塩酸を3.12g(0.03モル)を加えた。次にフェニルトリメトキシシラン48.0g(0.242モル)のトルエン27.9gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の粘性液体状の化合物34.6gを得た。
【0096】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0097】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1047-1123cm-1(Si-O)、2978-3073 cm-1(C-H)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
6.70-7.80(m)
GPC分析データ:Mw=1,410、Mw/Mn=1.31(ポリスチレン換算)。
【0098】
<絶縁被膜の製造>
実施例1〜4、及び比較例1に従って製造されたシリコーン化合物を、それぞれ酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解し、固形分濃度が30重量%になるように調整した溶液を得た。その後、当該溶液をPTFE製のフィルタで濾過し、シリコンウエハまたはガラス基板上に、溶媒除去した後の膜厚が3.0μmになるような回転数で30秒回転塗布した。その後150℃/2分かけて溶媒除去し、次いで、O2濃度が1000ppm未満にコントロールされている石英チューブ炉で350℃/30分間かけて被膜を最終硬化し絶縁被膜とした。
【0099】
<被膜評価>
上記成膜方法により成膜された被膜に対して、以下の方法で膜評価を行った。
【0100】
〔透過率の測定〕
可視光領域に吸収がないガラス基板上に塗布された被膜について、日立製UV3310を用いて300nm〜800nmの透過率を測定した。
【0101】
〔耐熱性の評価〕
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜について、溶媒除去した後の膜厚と最終硬化後の膜厚が、膜厚減少率として10%未満の場合○、10%以上の場合×と判定した。なお、膜厚測定は、ガートナー製のエリプソメータL116Bで測定された膜厚であり、具体的には被膜上にHe−Neレーザー照射し、照射により生じた位相差から求められる膜厚を用いた。
【0102】
〔クラック耐性の評価〕
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜について、金属顕微鏡により10倍〜100倍の倍率による面内のクラックの有無を確認した。クラックの発生がない場合は○、クラックが見られた場合を×と判定した。
【0103】
〔耐溶剤性の評価〕
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜について、90℃の温度に加温されたジメチルスルホキシドの溶剤中に120分間浸漬して膜表面の荒れ、膜のハガレ、溶解の有無を試験した。膜表面の荒れ、膜のハガレ、溶解のない場合を○、膜表面の荒れ、膜のハガレ、溶解のいずれかが確認された場合を×と判定した
<評価結果>
絶縁皮膜の評価結果を下記の表1に示した。
【0104】
【表1】

【0105】
このように、アシロキシ基を導入することにより、耐熱性、クラック耐性、耐溶剤性すべてを満足する材料となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
【化1】

(式中、A、Xは炭化水素基を示す。)
で示されるアシロキシ基を含有するシルセスキオキサン単位と
下記一般式
【化2】

(式中、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位を含むシリコーン共重合体
【請求項2】
下記一般式
【化3】

(式中、Aは炭化水素基を示す。)
で示されるアセトキシ基を含有するシルセスキオキサン単位と
下記一般式
【化4】

(式中、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位を含む請求項1に記載のシリコーン共重合体
【請求項3】
下記一般式
【化6】

(式中、Aは炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位と
下記一般式
【化7】

(式中、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位と
下記一般式
【化8】

(式中、Bは炭化水素基を示す。)
で示されるシルセスキオキサン単位を含む請求項1又は2記載のシリコーン共重合体
【請求項4】
下記一般式
【化9】

(式中、A、Bは炭化水素基を示し、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示す。a、b、cはそれぞれモル%を示し、aは1〜99モル%、bは1〜99モル%、cは1〜99モル%を示す。ただしa+b+c=100である。)
で示される請求項1から3に記載のシリコーン共重合体
【請求項5】
重量平均分子量が500〜20,000、分散度が1.1〜2.5であり、有機溶媒に可溶である請求項1から4に記載のシリコーン共重合体
【請求項6】
下記一般式
【化10】

(式中、A、Xは炭化水素基を示し、Yは加水分解性基を示す。)
と下記一般式
【化11】

(式中、Rは芳香族炭化水素基または脂環式炭化水素基を示し、Yは加水分解性基を示す。)
と下記一般式
【化12】

(式中、Bは炭化水素基を示し、Yは加水分解性基を示す。)
で示されるモノマーを酸性条件で加水分解して製造する請求項1から5記載のシリコーン共重合体の製造方法

【公開番号】特開2008−88415(P2008−88415A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219847(P2007−219847)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】