説明

アジマス推進器、この制御方法およびこれを備えた船舶

【課題】緊急停止の際に短時間で推進器を逆回転可能なアジマス推進器を提供することにある。
【解決手段】動力源5から駆動力が伝達される水平駆動軸8、駆動力の伝達方向を変換する船内傘歯車ユニット6、船内傘歯車ユニット6から駆動力が伝達される垂直駆動軸9、垂直駆動軸9からの駆動力の伝達方向を変換するボッド内傘歯車ユニット、ボッド内傘歯車ユニットから駆動力が伝達されるプロペラ軸11、それに接続される推進器3を備え、ボッド内傘歯車ユニットは、垂直駆動軸9の外周側と内周側が噛み合う二重筒10、二重筒10の外周側と内周側が噛み合う順回転用垂直傘歯車17aかつ逆回転用垂直傘歯車17c、どちらか一方の垂直傘歯車17a、17cの外周側と噛み合う推進軸用傘歯車17bを有し、駆動力を伝達する際には二重筒10が垂直方向に移動して垂直傘歯車17a、17cのいずれか1つと二重筒10とが噛み合うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポッド内に傘歯車ユニットが設置されたアジマス推進器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶を任意の方向に移動させたり、現在位置を正確に維持することができるアジマス推進器としては、図6に示すように、ポッド2と、プロペラ3と、舵4とが船舶Sの船尾等に取り付けられている。
【0003】
この場合の舵4は、水平断面を舵形状とし、船舶Sとの連結軸部を含む上部舵板4aと、ポッド2の下方へ延在して同様の舵断面形状を有する下部舵板4bとにより構成されている。舵4及びプロペラ3を備えたポッド2は、船舶Sに対して一体に回動可能となっている。
また、船舶Sの船内には原動機5が設置されており、原動機5の動力は、2組の傘歯車ユニット6、7を介してプロペラ3に伝達される。
【0004】
この場合、原動機5の動力は、船内に設置された傘歯車ユニット6で水平方向の駆動力が垂直方向に変換され、さらに、ポッド2の内部に設置された傘歯車ユニット7で垂直方向の駆動力が水平方向に変換されてプロペラ3に伝達される。なお、図中の符号8は船内水平駆動軸、9は垂直駆動軸、11はプロペラ軸である。
【0005】
航行している船舶を緊急停止させる際には、推進方向と逆の推進力を得るために、プロペラ3を逆回転させたりアジマス推進器を反転させる必要がある。
特許文献1には、プロペラを逆回転させる方法として、船体の下方から水中に延在する主駆動軸と、主駆動軸に直交して主駆動軸の下端に連結されており、かつ、両端にプロペラを有する副駆動軸との間に傘歯車ユニットを設け、主駆動軸から伝達される伝達力を傘歯車ユニットを構成する後進ギアに伝達してプロペラを逆回転することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−23634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、船舶を緊急停止させる際には、プロペラを逆回転させる従来のアジマス推進器の場合や特許文献1に記載の発明の場合には、一旦、全傘歯車ユニット6、7を構成している各ベベルギア6a、6b、7a、7bを停止させた後、図6(b)に示すように、各ベベルギア6a、6b、7a、7bの回転方向を逆回転させることによって、原動機5の動力をプロペラ軸11に伝達させてプロペラ3を逆回転させている。
【0008】
このように、緊急停止の際に、一旦、各ベベルギア6a、6b、7a、7bを停止させる必要があることから、緊急停止の指令が発令されてから、プロペラ3が逆回転するまで時間を要し応答性が悪いという問題があった。
【0009】
さらには、各ベベルギア6a、6b、7a、7bを停止させた後にそれらのベベルギア6a、6b、7a、7bを逆回転させることから、各ベベルギア6a、6b、7a、7bにおけるエネルギーの損失が大きくなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、緊急停止の際に、短時間で推進器の回転方向を逆回転することが可能なアジマス推進器、この制御方法およびこれを備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係るアジマス推進器は、動力源から駆動力が伝達される水平駆動軸と、該水平駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換する船内傘歯車ユニットと、該船内傘歯車ユニットを介して前記駆動力が伝達される垂直駆動軸と、該垂直駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換するボッド内傘歯車ユニットと、該ボッド内傘歯車ユニットから前記駆動力が伝達されて駆動する推進軸と、該推進軸が駆動されることによって回転駆動する推進器と、を備え、前記ボッド内傘歯車ユニットは、内周側が前記垂直駆動軸の外周側と噛み合って前記駆動力が伝達される二重筒と、内周側が前記二重筒の外周側と噛み合って駆動される順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車の外周側と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、前記駆動力を伝達する際には、前記二重筒が垂直方向に移動して、前記垂直傘歯車のいずれか1つと前記二重筒とが噛み合うことを特徴とする。
【0012】
動力源から水平駆動軸、船内傘歯車ユニット、垂直駆動軸、二重筒、ボッド内傘歯車ユニットを経て推進軸に伝達されて推進器を回転駆動する駆動力は、垂直駆動軸の外周に設けられて、垂直駆動軸の外周側と噛み合う内周側を有する二重筒が垂直方向に移動する。二重筒が垂直方向に移動することによって、二重筒とボッド内傘歯車ユニットを構成する順回転用垂直傘歯車または逆回転用垂直傘歯のいずれか1つとが噛み合い、二重筒と噛み合った垂直傘歯車は、さらに推進軸用傘歯車に噛み合うこととした。これにより、二重筒およびボッド内傘歯車ユニットを介して推進軸へと駆動力が伝達される。推進軸に伝達される駆動力は、推進器を回転駆動する。そのため、ボッド内傘歯車ユニットを構成する推進軸用傘歯車以外の歯車を停止させることなく、推進器の回転方向を変えることができる。したがって、歯車を停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、推進器の方向転換の応答性を向上させることができる。
【0013】
また、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままに維持したまま推進器の方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままの歯車同士の当たり面の加工が容易となる。
さらには、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べて歯車の劣化予想が容易になる。
【0014】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記ボッド内傘歯車ユニットは、前記垂直駆動軸の前記船内傘歯車ユニットが設けられる反対端側に設けられる順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、前記駆動力を伝達する際には、前記水平駆動軸および前記垂直駆動軸を垂直方向に移動して、前記垂直傘歯車のいずれか1つと前記推進軸用傘歯車とが噛み合うことを特徴とする。
【0015】
動力源からの駆動力を推進軸に伝達して推進器を回転駆動する際には、水平駆動軸と、垂直駆動軸とを垂直方向に移動することによって、順回転用垂直傘歯車または逆回転用垂直傘歯車のいずれか1つと推進軸用傘歯車とを噛み合わせることとした。そのため、推進軸用傘歯車以外の歯車を停止させることなく、推進器の回転方向を変えることができる。したがって、歯車を停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、推進器の方向転換の応答性を向上させることができる。
【0016】
また、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままに維持したまま推進器の方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままの歯車同士の当たり面の加工が容易となる。
さらには、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べて歯車の劣化予想が容易になる。
【0017】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記ボッド内傘歯車ユニットは、前記垂直駆動軸の前記船内傘歯車ユニットが設けられる反対端側に設けられる順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、前記垂直駆動軸の外周の一部に該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車と嵌合する動力伝達機構と、を有し、前記駆動力を伝達する際には、前記水平駆動軸および前記垂直駆動軸を垂直方向に移動して、前記垂直傘歯車のいずれか1つと前記動力伝達機構とが嵌合することを特徴とする。
【0018】
動力源からの駆動力を推進軸に伝達して推進器を回転駆動する際には、水平駆動軸と、垂直駆動軸とを垂直方向に移動することによって、順回転用垂直傘歯車または逆回転用垂直傘歯車のいずれか1つと動力伝達機構とを嵌合することとした。これにより、垂直駆動軸に伝達された駆動力は、嵌合した垂直傘歯車を回転駆動して嵌合しなかった垂直傘歯車を空転させる。動力伝達機構に嵌合した垂直傘歯車は、推進軸用傘歯車を介して推進軸に駆動力を伝達して推進器を回転駆動することができる。そのため、推進軸用傘歯車以外の歯車を停止させることなく、推進器の回転方向を変えることができる。したがって、歯車を停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、推進器の方向転換の応答性を向上させることができる。
【0019】
また、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままに維持したまま推進器の方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままの歯車同士の当たり面の加工が容易となる。
さらには、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べて歯車の劣化予想が容易になる。
【0020】
また、垂直駆動軸の外周に順回転用垂直傘歯車または逆回転用垂直傘歯車と嵌合する動力伝達機構を有せず、水平駆動軸と垂直駆動軸とを垂直方向に移動する場合に比べて、順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車を小型化することができ、かつ、垂直駆動軸のシール機構を従来と同様の構造とすることができる。
【0021】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記ボッド内傘歯車ユニットは、前記垂直駆動軸の前記船内傘歯車ユニットが設けられる反対端側に設けられる垂直傘歯車と、該垂直傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する順回転用平行傘歯車および逆回転用平行傘歯車を備える平行駆動軸と、前記平行傘歯車のうちどちらか一方の該平行傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、前記駆動力を伝達する際には、前記平行駆動軸を平行方向に移動して、前記平行傘歯車のいずれか1つと前記垂直傘歯車および前記推進軸用傘歯車とが噛み合うことを特徴とする。
【0022】
動力源からの駆動力を推進軸に伝達して推進器を回転駆動する際には、垂直傘歯車と噛み合って駆動力の伝達方向を変換する順回転用平行傘歯車と逆回転用平行傘歯車を備える平行駆動軸を平行に移動することとした。これにより、平行傘歯車のいずれかを1つを垂直傘歯車および推進軸用傘歯車に噛み合わせることができる。そのため、推進軸用傘歯車以外の歯車を停止させることなく、推進器の回転方向を変えることができる。したがって、歯車を停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、推進器の方向転換の応答性を向上させることができる。
【0023】
また、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままに維持したまま推進器の方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままの歯車同士の当たり面の加工が容易となる。
さらには、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べて歯車の劣化予想が容易になる。
【0024】
また、水平駆動軸および垂直駆動軸を垂直方向に移動させて推進器の回転方向を変える場合に比べて、推進器の方向転換指令に対する応答性が向上する。さらに、水平駆動軸に駆動力を伝達する動力源を小さくすることができる。
【0025】
本発明に係るアジマス推進器の制御方法によれば、動力源から駆動力が伝達される水平駆動軸と、該水平駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換する船内傘歯車ユニットと、該船内傘歯車ユニットを介して前記駆動力が伝達される垂直駆動軸と、該垂直駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換するボッド内傘歯車ユニットと、該ボッド内傘歯車ユニットから前記駆動力が伝達されて駆動する推進軸と、該推進軸が駆動されることによって回転駆動する推進器と、を備え、前記ボッド内傘歯車ユニットは、内周側が前記垂直駆動軸の外周側と噛み合って前記駆動力が伝達される二重筒と、内周側が前記二重筒の外周側と噛み合って駆動される順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車の外周側と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、前記推進器の回転方向を逆転する際には、前記二重筒を垂直方向に移動して、制動手段によって前記推進軸の回転駆動を停止して、前記二重筒と両前記垂直傘歯車とを非噛み合い状態にした後、前記二重筒を垂直方向に移動して前記逆回転用垂直傘歯車と前記二重筒とを噛み合い状態にすることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る船舶によれば、上記のいずれかに記載のアジマス推進器を備えたことを特徴とする。
【0027】
推進器の方向転換に対する応答性を向上させたアジマス推進器を用いることとした。そのため、船舶の緊急停止に対する応答性を向上させることができる。
また、応答性を向上させて、かつ、エネルギー損失を抑制することが可能なアジマス推進器を用いることとしたので、船舶を緊急停止させる際にアジマス推進器を反転させて船舶を停止させる場合にくらべて、緊急停止指令を発令してから船舶が停止するまでの時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0028】
上述した本発明のアジマス推進器によれば、動力源から水平駆動軸、船内傘歯車ユニット、垂直駆動軸、二重筒、ボッド内傘歯車ユニットを経て推進軸に伝達されて推進器を回転駆動する駆動力は、垂直駆動軸の外周に設けられて、垂直駆動軸の外周側と、内周側とが噛み合う二重筒が垂直方向に移動する。二重筒が垂直方向に移動することによって、二重筒とボッド内傘歯車ユニットを構成する順回転用垂直傘歯車または逆回転用垂直傘歯のいずれか1つとが噛み合い、二重筒と噛み合った垂直傘歯車は、さらに推進軸用傘歯車に噛み合うこととした。これにより、二重筒およびボッド内傘歯車ユニットを介して推進軸へと駆動力が伝達される。推進軸に伝達される駆動力は、推進器を回転駆動する。そのため、ボッド内傘歯車ユニットを構成する推進軸用傘歯車以外の歯車を停止させることなく、推進器の回転方向を変えることができる。したがって、歯車を停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、推進器の方向転換の応答性を向上させることができる。
【0029】
また、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままに維持したまま推進器の方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままの歯車同士の当たり面の加工が容易となる。
さらには、推進軸用傘歯車以外の歯車全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べて歯車の劣化予想が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示す。
【図2】図1に示したアジマス推進器のボッド内傘歯車ユニットの部分拡大図であり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示す。
【図3】本発明の第2実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示す。
【図4】本発明の第3実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示す。
【図5】本発明の第4実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示す。
【図6】従来の船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る船舶に設けられているアジマス推進器について図1および図2に基づいて説明する。
図1は、舶用推進装置の一例として、アジマス推進器の概略構成例を示している。図示のアジマス推進器1Aは、船舶Sの船尾等に取り付けて使用される舶用推進装置の一種である。このアジマス推進器1Aは、船舶Sの船内に設置した原動機(動力源)5の動力を機械的に伝達し、舵形状にした舵板4を介して船体に取り付けられたポッド2のプロペラ(推進器)3を駆動して推進力を得る装置である。さらに、このアジマス推進器1Aは、船舶Sに対して、舵として機能する舵板4と一体にポッド2が回動することにより、推進方向を変化させることができる。
【0032】
この場合の舵板4は、水平断面を舵形状とする領域を設けたことで舵を兼ねている。すなわち、舵板4は、舵形状の水平断面を有し、船舶Sとの連結軸部を含む上部舵板4aと、ポッド2の下方へ延在して同様の舵断面形状を有する下部舵板(図示せず)とにより構成されている。舵板4及びプロペラ3を備えたポッド2は、図示しない旋回装置により、船舶Sに対して一体に回動するようになっている。
【0033】
原動機5の動力は、2組の傘歯車ユニット6、17を介してプロペラ3に伝達される。この場合、船内に設置されている傘歯車ユニット(船内傘歯車ユニット)6では、原動機5に連結されている船内水平駆動軸(水平駆動軸)8の他端に固定されているベベルギア(傘歯車)6aと、垂直駆動軸9の上端部に固定されているベベルギア6bとの噛み合いにより、水平方向の駆動力が垂直方向に変換される。
【0034】
垂直駆動軸9の下方側には、垂直駆動軸9から伝達される駆動力の伝達方向を変換するボッド内傘歯車ユニット17が設けられている。垂直駆動軸9は、その外周の途中位置および下端部近傍に各々外歯車17a、17cが設けられている。
【0035】
ボッド内傘歯車ユニット17は、内周側が垂直駆動軸9の外周側と噛み合って駆動力が伝達される二重筒10と、内周側が二重筒10の外周側と噛み合って駆動されるベベルギア(順回転用垂直傘歯車)17aおよびベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)17cと、ベベルギア17a、17cのうちどちらか一方のベベルギア17a、17cの外周側と噛み合って駆動力の伝達方向を変換するベベルギア(推進軸用傘歯車)17bと、を有している。
【0036】
二重筒10は、垂直駆動軸9の外周の下端側の一部を覆っている。二重筒10は、上端部および下端部近傍の内周側に内歯車10a(図2(b)参照)、歯車10b(図2(a)参照)が形成されており、垂直駆動軸9の外歯車9a(図2(b)参照)と二重筒10の内歯車10aとが、または、垂直駆動軸9の外歯車9b(図2(a)参照)と二重筒10の内歯車10bとが噛み合うことによって垂直駆動軸9と共に回転駆動される。二重筒10の軸方向の中心部近傍の外周には、やまば歯車10cが設けられている。
【0037】
ベベルギア17aおよびベベルギア17cは、その内周側に二重筒10に設けられているやまば歯車10cと噛み合い可能とされている内歯車部(図示せず)を有している。やまば歯車10cと内歯車部が噛み合って駆動されるベベルギア17a、17cのうち、垂直駆動軸9の上方側(いずれか一方)に設けられているベベルギア(順回転用垂直傘歯車)17aが順回転用であり、垂直駆動軸9の下方側(他方)に設けられているベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)17cが逆回転用となっている。
【0038】
さらに、これらの2つのベベルギア17a、17cは、それらの外周側が外歯車部(図示せず)になっている。ベベルギア17a、17cのどちらか一方の外歯車部と、ベベルギア(推進軸用傘歯車)17bとが噛み合うようになっている。
【0039】
ベベルギア17bは、ベベルギア17a、17cのうちどちらか一方のベベルギア17a、17cの外歯車部と噛み合って垂直駆動軸9を伝達した駆動力の伝達方向を変換するものである。ベベルギア17bは、プロペラ軸(推進軸)11の一端部に設けられており、ベベルギア17bに伝達された駆動力は、プロペラ軸11を回転駆動する。
【0040】
このように、垂直駆動軸9から二重筒10に伝達された駆動力は、二重筒10からベベルギア17a、17cに伝達されたのち、ベベルギア17a、17cを中間歯車として、プロペラ軸11に固定されているベベルギア17bを回転駆動する。これによって、垂直方向の駆動力が水平方向に変換されてプロペラ軸11に伝達される。プロペラ軸11に伝達され駆動力は、プロペラ3を回転することとなる。
【0041】
上述したように、本実施形態のアジマス推進器1Aは、駆動力を伝達する駆動軸の動力伝達方向を変換する傘歯車ユニット6、17を用い、船舶Sの内部に設置された原動機5からポッド2のプロペラ3まで駆動力を伝達する駆動力伝達機構を備えている。この駆動力伝達機構は、原動機5に連結されている船内水平駆動軸8から船内傘歯車ユニット6を介して垂直駆動軸9に駆動力を伝達し、さらに、垂直駆動軸9からポッド内傘歯車ユニット17を介してプロペラ軸11に駆動力を伝達してプロペラ3を駆動させるように構成されている。なお、ポッド2の内部には、ポッド内傘歯車ユニット17等の摺動部を潤滑するため潤滑油が充填されている。
【0042】
このようなアジマス推進器1Aのプロペラ3が順回転する場合には、図1(a)および図2(a)に示すように、原動機5から駆動力が船内水平駆動軸8に伝達されて、船内水平駆動軸8の端部に設けられているベベルギア6aを回転駆動する。ベベルギア6aは、ベベルギア6bと噛み合って垂直駆動軸9へと伝達方向を変えて駆動力を伝達する。
【0043】
ここで、プロペラ3を順回転する場合には、二重筒10を垂直方向上方へと移動させる。これによって、二重筒10に設けられている内歯車10aと、垂直駆動軸9の上方側の外周側に設けられている外歯車9aとが噛み合う。そのため、垂直駆動軸9と共に、二重筒10が回動する。
【0044】
回動している二重筒10の外周側に設けられている上方側のやまば歯車10cは、順回転用のベベルギア17aを中間歯車として間に介することによってベベルギア17bを回転駆動する。ベベルギア17bが回転駆動することによって、原動機5から伝達された駆動力は、プロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図1(a)の左方向)から見て、時計回りに回転することとなる。
【0045】
次に、このようなアジマス推進器1Aを備えた船舶Sが緊急停止させるために逆回転する際について図1(b)および図2(b)を用いて説明する。
アジマス推進器1Aのプロペラ3を順回転させて航行していた船舶Sを緊急停止させる際には、アジマス推進器1Aのプロペラ3を逆回転させて逆方向の推力を得る必要がある。
【0046】
そこで、船舶Sから緊急停止指令が発令された際には、垂直駆動軸9と噛み合っていた二重筒10を垂直方向下方に移動させて、垂直駆動軸9と二重筒10とを非噛み合い状態にする。また、プロペラ軸11に設けられているブレーキ(制動手段)11aを作動させて、プロペラ軸11の回転を停止する。
なお、この際、原動機5の運転状態、原動機5に連結されている船内水平駆動軸8および垂直駆動軸9の回転および回転方向は、順回転時の状態が維持されたままである。
【0047】
その後、二重筒10を鉛直方向下方へと更に移動させて、二重筒10の内周側の下方部に設けられている内歯車10bと、垂直駆動軸9の下方側の外周側に設けられている外歯車9bとを噛み合わせる。
【0048】
二重筒10の内歯車10bと垂直駆動軸9の外歯車9bとが噛み合ことによって、原動機5から伝達された駆動力は、垂直駆動軸9と共に二重筒10を回動する。回動している二重筒10の外周側に設けられている下方側のやまば歯車10cは、逆回転用のベベルギア17cを中間歯車として間に介することによってベベルギア17bを回転駆動する。ベベルギア17bが回転駆動することによって、原動機5から伝達された駆動力は、プロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。これにより、プロペラ3は、船尾側(図1(b)の左方向)から見て、反時計回りに回転することとなる。
【0049】
このように、プロペラ3を逆回転させた際には、図1(b)の白抜きの矢印で示すように、プロペラ軸11に固定されているベベルギア17b、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア17a、17cの回転方向は、プロペラ3を順回転させた場合と反対方向に回転する。しかし、ベベルギア6a、6bは、プロペラ3を順回転させた場合と同じ方向に回転する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進器1A、およびこの制御方法およびこれを備えた船舶Sによれば、以下の作用効果を奏する。
原動機(動力源)5から船内水平駆動軸(水平駆動軸)8、傘歯車ユニット(船内傘歯車ユニット)6、垂直駆動軸9、二重筒10、ボッド内傘歯車ユニット17、ベベルギア(推進軸用傘歯車)17bを経てプロペラ軸(推進軸)11に伝達されてプロペラ(推進器)3を回転駆動する駆動力は、垂直駆動軸9の外周に設けられて、垂直駆動軸9の外周側に設けた外歯車9aまたは外歯車9bと噛み合う内歯車10aまたは内歯車10bを内周側に有する二重筒10が垂直方向に移動する。このように、垂直方向に移動した二重筒10は、二重筒10に設けられているやまば歯車10cがボッド内傘歯車ユニット17を構成しているベベルギア(順回転用垂直傘歯車)17aまたはベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)17cのいずれか1つと噛み合うこととした。これにより、二重筒10のやまば歯車10cと噛み合ったベベルギア17aまたはベベルギア17cを介してベベルギア17bへと駆動力が伝達される。ベベルギア17bに伝達された駆動力は、プロペラ軸11を駆動されてプロペラ3を回転駆動する。そのため、ベベルギア(歯車)6a、6bを停止させることなく、プロペラ3の回転方向を変えることができる。したがって、ベベルギア6a、6bを停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、プロペラ3の回転方向転換の際の応答性を向上させることができる。
【0051】
また、プロペラ3の回転方向転換の際には、ベベルギア6a、6bの回転方向を同じままにすることができるので、回転方向が同じままのベベルギア6a、6b同士の当たり面の加工が容易となる。
【0052】
さらには、ベベルギア6a、6bの回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べてベベルギア6a、6bの劣化予想が容易になる。
【0053】
プロペラ3の方向転換に対する応答性を向上させたアジマス推進器1Aを用いることとした。そのため、船舶Sの緊急停止に対する応答性を向上させることができる。
【0054】
また、応答性を向上させて、かつ、エネルギー損失を抑制することが可能なアジマス推進器1Aを用いることとしたので、船舶Sを緊急停止させる際にアジマス推進器1Aを反転させて船舶Sを停止させる場合にくらべて、緊急停止指令を発令してから船舶Sが停止するまでの時間を短縮することができる。
【0055】
[第2実施形態]
本実施形態のアジマス推進器、この制御方法およびこれを備えた船舶は、原動機が連結されている船内水平駆動軸および垂直駆動軸が垂直方向に上下に移動する点で、第1実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図3には、本実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図を示しり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示している。
本実施形態のアジマス推進器1Bの傘歯車ユニット(ボッド内傘歯車ユニット)27は、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア(垂直傘歯車)6bとは反対端側(図3において下方側)に設けられているベベルギア(順回転用垂直傘歯車)27aおよびベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)27cと、ベベルギア(垂直傘歯車)27a、27cのうちどちらか一方のベベルギア27a、27cと噛み合って駆動力の伝達方向を変換するベベルギア(推進軸用傘歯車)27bと、を有している。
【0057】
ここで、ベベルギア27aとベベルギア27cとは、ベベルギア27aの方が垂直駆動軸9の上方側に設けられており、ベベルギア27cは、垂直駆動軸9の下方端に設けられている。
また、垂直駆動軸9上にベベルギア27aとベベルギア27cとが設けられる間隔は、ベベルギア27bの直径よりも大きいものとされている。
【0058】
このようなアジマス推進器1Bのプロペラ(推進器)3が順回転する場合には、図3(a)に示すように、原動機5から駆動力が船内水平駆動軸(水平駆動軸)8に伝達されて、船内水平駆動軸8の端部に設けられているベベルギア6aを回転駆動する。ベベルギア6aは、ベベルギア6bと噛み合って垂直駆動軸9へと伝達方向を変えて駆動力を伝達する。
【0059】
ここで、プロペラ3を順回転する場合には、原動機5、原動機5が連結されている船内水平駆動軸8および垂直駆動軸9を垂直方向下方へと移動させる。これによって、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア27aと、プロペラ軸(推進軸)11に設けられているベベルギア27bとが噛み合う。
なお、この際、ベベルギア27cは、空転することとなる。
【0060】
ベベルギア27aとベベルギア27cとが噛み合うことによって、原動機5から伝達された駆動力は、プロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図2(a)の左方向)から見て、時計回りに回転することとなる。
【0061】
次に、このようなアジマス推進器1Bを備えた船舶Sが緊急停止をする際について図3(b)を用いて説明する。
船舶Sから緊急停止指令が発令された際には、垂直駆動軸9を垂直方向上方に移動させて、垂直駆動軸9の上方に設けられているベベルギア27aとベベルギア27bとを非噛み合い状態にして、ベベルギア27aおよびベベルギア27cを空転状態にする。また、プロペラ軸11に設けられている図示しないブレーキ(制動手段)を作動させて、プロペラ軸11の回転を停止する。
【0062】
その後、垂直駆動軸9を垂直方向上方へと更に移動させて、垂直駆動軸9の下端部に設けられているベベルギア27cと、プロペラ軸11に設けられているベベルギア27bとを噛み合わせる。
なお、この際、ベベルギア27aは、空転することとなる。
【0063】
ベベルギア27cとベベルギア27bとが噛み合うことによって、原動機5から伝達された駆動力は、プロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図3(b)の左方向)から見て、反時計回りに回転することとなる。
【0064】
このように、プロペラ3を逆回転させた際には、プロペラ軸11に固定されているベベルギア27bの回転方向は、プロペラ3を順回転させた場合と反対方向に回転する。しかし、ベベルギア27b以外のベベルギア6a、6b、27a、27cは、図3(b)中の白抜きの矢印で示すように、プロペラ3を順回転させた場合と同じ方向に回転する。
【0065】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進器1B、およびこの制御方法およびこれを備えた船舶Sによれば、以下の作用効果を奏する。
原動機(動力源)5からの駆動力をプロペラ軸(推進軸)11に伝達してプロペラ(推進器)3を回転駆動する際には、船内水平駆動軸(水平駆動軸)8と、船内水平駆動軸8に連結させている原動機5と、垂直駆動軸9とを垂直方向に移動することによって、ベベルギア(順回転用垂直傘歯車)27aまたはベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)27cのいずれか1つとベベルギア(推進軸用傘歯車)27bとを噛み合わせることとした。そのため、ベベルギア27b以外のベベルギア(歯車)6a、6b、27a、27cを停止させることなく、プロペラ3の回転方向を変えることができる。したがって、ベベルギア6a、6b、27a、27cを停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、プロペラ3の回転方向転換の際の応答性を向上させることができる。
【0066】
また、ベベルギア27b以外のベベルギア6a、6b、27a、27c全ての回転方向を同じままに維持したままプロペラ3の回転方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままのベベルギア6aとベベルギア6b同士の当たり面の加工が容易となる。
【0067】
さらには、ベベルギア27b以外のベベルギア6a、6b、27a、27c全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べてベベルギア6a、6b、27a、27cの劣化予想が容易になる。
【0068】
[第3実施形態]
本実施形態のアジマス推進器、この制御方法およびこれを備えた船舶は、ボッド内傘歯車ユニットが順回転用のベベルギアおよび逆回転用のベベルギアを有している平行駆動軸を備えている点で、第1実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
図4には、本実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図を示しり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示している。
本実施形態のアジマス推進器1Cのボッド内傘歯車ユニット37は、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア(垂直傘歯車)6bとは反対端側である下端に設けられているベベルギア(垂直傘歯車)37dと、ベベルギア37dと噛み合って駆動力の伝達方向を変換するベベルギア(順回転用平行傘歯車)37aおよびベベルギア(逆回転用平行傘歯車)37cを備えている平行駆動軸37eと、ベベルギア37a、37cのうちどちらか一方のベベルギア37a、37cと噛み合って駆動力の伝達方向を変換するやまば歯車(推進軸用傘歯車)37bと、を有している。
【0070】
ここで、ベベルギア37aとベベルギア37cとは、ベベルギア37aの方がプロペラ軸(推進軸)11側(図4(a)において右側)に設けられており、ベベルギア37cは、反プロペラ軸11側(図4(a)において左側)に設けられている。
また、平行駆動軸37e上にベベルギア37aとベベルギア37cとが設けられる間隔は、やまば歯車37bの厚みよりも大きいものとされている。
【0071】
やまば歯車37bは、ベベルギア37a、37cのうちどちらか一方と噛み合って垂直駆動軸9を伝達した駆動力の伝達方向を変換するものである。やまば歯車37bは、プロペラ軸11の端部に設けられており、やまば歯車37bに伝達された駆動力は、プロペラ軸11を回転駆動する。やまば歯車37bは、ベベルギアを2つ組み合わせた形をしており、本実施形態では、反プロペラ軸11側が逆回転用でありプロペラ軸11側が順回転用となっている。
【0072】
このようなアジマス推進器1Cのプロペラ(推進器)3が順回転する場合には、図4(a)に示すように、原動機5から駆動力が船内水平駆動軸(水平駆動軸)8に伝達されて、船内水平駆動軸8の端部に設けられているベベルギア6aを回転駆動する。ベベルギア6aは、ベベルギア6bと噛み合って垂直駆動軸9へと伝達方向を変えて駆動力を伝達する。
【0073】
ここで、プロペラ3を順回転する場合には、ボッド内傘歯車ユニット37を構成している平行駆動軸37eを反プロペラ軸11側である船尾側(図4(a)において左側)へと移動させる。これによって、反プロペラ軸11側に設けられているベベルギア37aと、垂直駆動軸9の下端部に設けられているベベルギア37dおよびプロペラ軸11に設けられている順回転用のやまば歯車37bとが噛み合う。
なお、この際、ベベルギア37cは、空転することとなる。
【0074】
ベベルギア37aが中間歯車として、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア37dおよびプロペラ軸11に設けられている順回転用のやまば歯車37bに噛み合うことによって、原動機5から伝達された駆動力は、プロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図4(a)の左方向)から見て、時計回りに回転することとなる。
【0075】
次に、このようなアジマス推進器1Cを備えた船舶Sが緊急停止をする際について図4(b)を用いて説明する。
船舶Sから緊急停止指令が発令された際には、平行駆動軸37eをプロペラ軸11側(図4(b)において右側)に移動させて、垂直駆動軸9の下端部に設けられているベベルギア37dと、平行駆動軸37eに設けられているベベルギア37aとを非噛み合い状態にして、ベベルギア37aおよびベベルギア37cを空転状態にする。また、プロペラ軸11に設けられている図示しないブレーキ(制動手段)を作動させて、プロペラ軸11の回転を停止する。
【0076】
その後、平行駆動軸37eをプロペラ軸11側へと更に移動させて、平行駆動軸37eの反プロペラ軸11側端部に設けられているベベルギア37cと、垂直駆動軸9の下端部に設けられているベベルギア37dおよびプロペラ軸11に設けられている逆回転用のやまば歯車37bとを噛み合わせる。
なお、この際、ベベルギア37aは、空転することとなる。
【0077】
ベベルギア37cが中間歯車として、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア37dおよびプロペラ軸11に設けられている逆回転用のやまば歯車37bに噛み合うことによって、原動機5から伝達された駆動力は、プロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図4(b)の左方向)から見て、反時計回りに回転することとなる。
【0078】
このように、プロペラ3を逆回転させた際には、プロペラ軸11に固定されているやまば歯車37bの回転方向は、プロペラ3を順回転させた場合と反対方向に回転する。しかし、ベベルギア6a、6b、37dは、図4(b)中の白抜きの矢印で示すように、プロペラ3を順回転させた場合と同じ方向に回転する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進器1C、およびこの制御方法およびこれを備えた船舶Sによれば、以下の作用効果を奏する。
原動機(動力源)5からの駆動力をプロペラ軸(推進軸)11に伝達してプロペラ(推進器)3を回転駆動する際には、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア(垂直傘歯車)37dと噛み合って駆動力の伝達方向を変換するベベルギア(順回転用平行傘歯車)37aおよびベベルギア(逆回転用平行傘歯車)37cを備えている平行駆動軸37eを平行に移動することとした。これにより、ベベルギア37a、37cのいずれかを1つをベベルギア37dおよびやまば歯車(推進軸用傘歯車)37bに噛み合わせることができる。そのため、ベベルギア(歯車)6a、6b、37dを停止させることなく、プロペラ3の回転方向を変えることができる。したがって、ベベルギア6a、6b、37dを停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、プロペラ3の回転方向転換の際の応答性を向上させることができる。
【0080】
また、ベベルギア6a、6b、37dの回転方向を同じままに維持したままプロペラ3の回転方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままのベベルギア6aとベベルギア6b同士の当たり面の加工が容易となる。
さらには、ベベルギア6a、6b、37dの回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べてベベルギア6a、6b、37dの劣化予想が容易になる。
【0081】
また、第2実施形態で説明したように、原動機5、船内水平駆動軸(水平駆動軸)8および垂直駆動軸9を垂直方向に移動させてプロペラ3の回転方向を変える場合に比べて、プロペラ3の回転方向転換指令に対する応答性が向上する。さらに、船内水平駆動軸8に駆動力を伝達する原動機5を小さくすることができる。
【0082】
[第4実施形態]
本実施形態のアジマス推進器、この制御方法およびこれを備えた船舶は、垂直駆動軸の外周に動力伝達機構を有している点で、第2実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0083】
図5には、本実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図を示しり、(a)は、順回転時を示し、(b)は、逆回転時を示している。
本実施形態のアジマス推進器1Dのボッド内傘歯車ユニット47は、垂直駆動軸9に設けられているベベルギア6bの反対端側(図5(a)において下方側)に設けられているベベルギア(順回転用垂直傘歯車)47aおよびベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)47cと、ベベルギア(垂直傘歯車)47a、47cのうちどちらか一方のベベルギア47a、47cと噛み合って駆動力の伝達方向を変換するベベルギア(推進軸用傘歯車)47bと、垂直駆動軸9の外周の一部にベベルギア47a、47cのうちどちらか一方のベベルギア47a、47cと嵌合するスプライン(動力伝達機構)47dと、を有している。
【0084】
スプライン47dは、垂直駆動軸9の外周の下方側の一部に設けられている。
ベベルギア47aとベベルギア47cとは、それらの外周側にプロペラ軸(推進軸)11に設けられているベベルギア47bと噛み合う外歯車部(図示せず)を備え、内周側はスプライン47dと嵌合可能な構造となっている。垂直駆動軸9上にベベルギア47aとベベルギア47cとが設けられる間隔は、ベベルギア47bの直径と略同等とされており、ベベルギア47a、47cとプロペラ軸11に設けられているベベルギア47bとは常に噛み合っている状態とされている。
【0085】
このようなアジマス推進器1Dのプロペラ(推進器)3が順回転する場合には、図5(a)に示すように、原動機5から駆動力が船内水平駆動軸(水平駆動軸)8に伝達されて、船内水平駆動軸8の端部に設けられているベベルギア6aを回転駆動する。ベベルギア6aは、ベベルギア6bと噛み合って垂直駆動軸9へと伝達方向を変えて駆動力を伝達する。
【0086】
ここで、プロペラ3を順回転する場合には、原動機5、原動機5が連結されている船内水平駆動軸8および垂直駆動軸9を垂直方向上方へと移動させる。これによって、垂直駆動軸9に設けられているスプライン47dと、ベベルギア47aの内周側とが嵌合する。
なお、この際、ベベルギア47cの内周側を垂直駆動軸9が空転することとなる。
【0087】
ここで、ベベルギア47aとプロペラ軸11に設けられているベベルギア47bとは常に噛み合い状態とされている。そのため、ベベルギア47aとスプライン47dの内周側とが嵌合することによって、原動機5から伝達された駆動力がプロペラ軸11に伝達されてプロペラ(推進器)3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図5(a)の左方向)から見て、時計回りに回転することとなる。
【0088】
次に、このようなアジマス推進器1Dを備えた船舶Sが緊急停止をする際について図5(b)を用いて説明する。
船舶Sから緊急停止指令が発令された際には、原動機5、原動機5が連結されている船内水平駆動軸8および垂直駆動軸9を垂直方向下方に移動させて、垂直駆動軸9に設けられているスプライン47dとベベルギア47aとの嵌合を解除する。
【0089】
その後、原動機5、原動機5が連結されている船内水平駆動軸8および垂直駆動軸9を垂直方向下方へと更に移動させて、垂直駆動軸9の下端部側に設けられているベベルギア47cの内周側と、垂直駆動軸9に設けられているスプライン47dとを嵌合させる。
なお、この際、ベベルギア47aの内周側を垂直駆動軸9が空転することとなる。
【0090】
ここで、ベベルギア47cとプロペラ軸11に設けられているベベルギア47bとは常に噛み合い状態とされている。そのため、ベベルギア47cの内周側とスプライン47dとが嵌合することによって、原動機5から伝達された駆動力がプロペラ軸11に伝達されてプロペラ3を回転駆動する。プロペラ3は、船尾側(図5(b)の左方向)から見て、反時計回りに回転することとなる。
【0091】
このように、プロペラ3を逆回転させた際には、プロペラ軸11に固定されているベベルギア47bの回転方向は、プロペラ3を順回転させた場合と反対方向に回転する。しかし、ベベルギア47b以外のベベルギア6a、6b、47a、47cは、図5(b)中の白抜きの矢印で示すように、プロペラ3を順回転させた場合と同じ方向に回転する。
【0092】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進器1D、およびこの制御方法およびこれを備えた船舶Sによれば、以下の作用効果を奏する。
原動機(動力源)5からの駆動力をプロペラ軸(推進軸)11に伝達してプロペラ(推進器)3を回転駆動する際には、船内水平駆動軸(水平駆動軸)8と、船内水平駆動軸8に連結させている原動機5と、垂直駆動軸9とを垂直方向に移動することによって、ベベルギア(順回転用垂直傘歯車)47aまたはベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)47cのいずれか1つと垂直駆動軸9の外周に設けられているスプライン(動力伝達機構)47dとを嵌合することとした。これにより、垂直駆動軸9に伝達された駆動力は、スプライン47dと嵌合したベベルギア(垂直傘歯車)47aまたはベベルギア47cを回転駆動して、スプライン47dと嵌合しなかったベベルギア47cまたはベベルギア47aを空転させる。スプライン47dに嵌合したベベルギア47aまたはベベルギア47cは、ベベルギア(推進軸用傘歯車)47bを介してプロペラ軸11に駆動力を伝達して、プロペラ(推進器)3を回転駆動することができる。そのため、ベベルギア47b以外のベベルギア(歯車)6a、6b、47a、47cを停止させることなく、プロペラ3の回転方向を変えることができる。したがって、ベベルギア6a、6b、47a、47cを停止することによるエネルギー損失を抑制することができ、プロペラ3の回転方向転換の際の応答性を向上させることができる。
【0093】
また、ベベルギア47b以外のベベルギア6a、6b、47a、47c全ての回転方向を同じままに維持したままプロペラ3の方向転換を行うことができるので、回転方向が同じままのベベルギア6aとベベルギア6b同士の当たり面の加工が容易となる。
【0094】
さらには、ベベルギア47b以外のベベルギア6a、6b、47a、47c全ての回転方向を同じままにすることができるので、従来に比べてベベルギア6a、6b、47a、47cの劣化予想が容易になる。
【0095】
また、垂直駆動軸9の外周にベベルギア47aまたはベベルギア47cと嵌合するスプライン47dを有せず、第2実施形態のように船内水平駆動軸8、船内水平駆動軸8に連結されている原動機5と、垂直駆動軸9とを垂直方向に移動する場合に比べて、ベベルギア47aおよびベベルギア47cを小型化することができ、かつ、垂直駆動軸9のシール機構(図示せず)を従来と同様の構造とすることができる。
【0096】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0097】
1A〜1D アジマス推進器
2 ポッド
3 プロペラ(推進器)
4 舵板
5 原動機(動力源)
6 傘歯車ユニット(船内傘歯車ユニット)
7 傘歯車ユニット(ボッド内傘歯車ユニット)
8 船内水平駆動軸(水平駆動軸)
9 垂直駆動軸
10 二重筒
11 プロペラ軸(推進軸)
17a ベベルギア(順回転用垂直傘歯車、垂直傘歯車)
17b ベベルギア(推進軸用傘歯車、垂直傘歯車)
17c ベベルギア(逆回転用垂直傘歯車)
S 船舶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から駆動力が伝達される水平駆動軸と、
該水平駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換する船内傘歯車ユニットと、
該船内傘歯車ユニットを介して前記駆動力が伝達される垂直駆動軸と、
該垂直駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換するボッド内傘歯車ユニットと、
該ボッド内傘歯車ユニットから前記駆動力が伝達されて駆動する推進軸と、
該推進軸が駆動されることによって回転駆動する推進器と、を備え、
前記ボッド内傘歯車ユニットは、内周側が前記垂直駆動軸の外周側と噛み合って前記駆動力が伝達される二重筒と、内周側が前記二重筒の外周側と噛み合って駆動される順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車の外周側と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、
前記駆動力を伝達する際には、前記二重筒が垂直方向に移動して、前記垂直傘歯車のいずれか1つと前記二重筒とが噛み合うことを特徴とするアジマス推進器。
【請求項2】
前記ボッド内傘歯車ユニットは、前記垂直駆動軸の前記船内傘歯車ユニットが設けられる反対端側に設けられる順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、
前記駆動力を伝達する際には、前記水平駆動軸および前記垂直駆動軸を垂直方向に移動して、前記垂直傘歯車のいずれか1つと前記推進軸用傘歯車とが噛み合うことを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項3】
前記ボッド内傘歯車ユニットは、前記垂直駆動軸の前記船内傘歯車ユニットが設けられる反対端側に設けられる順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、前記垂直駆動軸の外周の一部に該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車と嵌合する動力伝達機構と、を有し、
前記駆動力を伝達する際には、前記水平駆動軸および前記垂直駆動軸を垂直方向に移動して、前記垂直傘歯車のいずれか1つと前記動力伝達機構とが嵌合することを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項4】
前記ボッド内傘歯車ユニットは、前記垂直駆動軸の前記船内傘歯車ユニットが設けられる反対端側に設けられる垂直傘歯車と、該垂直傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する順回転用平行傘歯車および逆回転用平行傘歯車を備える平行駆動軸と、前記平行傘歯車のうちどちらか一方の該平行傘歯車と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、
前記駆動力を伝達する際には、前記平行駆動軸を平行方向に移動して、前記平行傘歯車のいずれか1つと前記垂直傘歯車および前記推進軸用傘歯車とが噛み合うことを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項5】
動力源から駆動力が伝達される水平駆動軸と、
該水平駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換する船内傘歯車ユニットと、
該船内傘歯車ユニットを介して前記駆動力が伝達される垂直駆動軸と、
該垂直駆動軸から伝達される前記駆動力の伝達方向を変換するボッド内傘歯車ユニットと、
該ボッド内傘歯車ユニットから前記駆動力が伝達されて駆動する推進軸と、
該推進軸が駆動されることによって回転駆動する推進器と、を備え、
前記ボッド内傘歯車ユニットは、内周側が前記垂直駆動軸の外周側と噛み合って前記駆動力が伝達される二重筒と、内周側が前記二重筒の外周側と噛み合って駆動される順回転用垂直傘歯車および逆回転用垂直傘歯車と、該垂直傘歯車のうちどちらか一方の該垂直傘歯車の外周側と噛み合って前記駆動力の伝達方向を変換する推進軸用傘歯車と、を有し、
前記推進器の回転方向を逆転する際には、前記二重筒を垂直方向に移動して、制動手段によって前記推進軸の回転駆動を停止して、前記二重筒と両前記垂直傘歯車とを非噛み合い状態にした後、前記二重筒を垂直方向に移動して前記逆回転用垂直傘歯車と前記二重筒とを噛み合い状態にすることを特徴とするアジマス推進器の制御方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のアジマス推進器を備えた船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−116248(P2012−116248A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265678(P2010−265678)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】