説明

アダプティブアンテナ

【課題】窓位置ずれ量dに対応した位相回転が存在する場合にも、安定した動作を可能とするアダプティブアンテナを得る。
【解決手段】アレーアンテナ10と、それぞれの受信信号をサブキャリア信号に分離するサブキャリア抽出手段20と、分離されたそれぞれのサブキャリア信号に対して、複数のアンテナ素子ごとに一定の重み付けを行って振幅位相を調整した後に、同一周波数を有するサブキャリア信号同士を合成して合成サブキャリア信号を生成する合成手段30と、分離されたサブキャリア信号および合成サブキャリア信号に基づいて、合成手段により振幅位相を調整するための重み付けを決定する重み係数算出手段40とを備え、重み係数算出手段40は、合成サブキャリア信号に基づいて隣接するサブキャリア間の位相回転量を推定する位相推定器42をさらに備え、位相回転量をさらに考慮して重み付けを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダプティブアンテナに関し、特に、マルチキャリア伝送方式に適用するアダプティブアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
高速データ伝送方式として、マルチキャリア伝送がある。特に、各サブキャリアが直交する周波数間隔に配置されたOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)は、無線LAN(Local Area Network)や地上ディジタル放送など多くの無線システムに採用されている。
【0003】
このOFDMでは、ガードインターバル(以下、GIと称する)の挿入により、遅延波による波形歪みを低減できることがよく知られている。しかしながら、ガードインターバルを越えるような遅延波に対しては、特性が著しく劣化する。
【0004】
そこで、アレーアンテナを用いて、このようなガードインターバルを越えるような遅延波を空間的に除去するアダプティブアンテナの適用が検討されており、OFDM向けのアダプティブアンテナの実現方法も検討されている(例えば、非特許文献1、特許文献1、あるいは特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】今井、小川、大鐘、“OFDM通信系におけるアダプティブアレーに関する検討、”信学技報AP2001-115、2001
【特許文献1】特開平11−289213号公報
【特許文献2】特開平10−210099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
上述した従来の技術において、非特許文献1の方法は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)により分離したサブキャリア毎の合成処理により、GI内の遅延波をうまく取り込めるものの、サブキャリア数の増加に比例して演算量が増加するという課題があった。
【0007】
一方、特許文献1あるいは特許文献2は、FFT後のサブキャリアを利用するものの、各サブキャリアに同一の重み係数(振幅位相調整)を与える構成となっている。これは、各サブキャリアに周期的に挿入された参照信号を利用して、いわば、周波数方向に制御を行うことにより演算量を削減するものである。
【0008】
しかしながら、このような演算量の削減手法は、次のような問題に対する対策がなされていないため、実際の環境では動作することが困難であるといえる。この理由を以下に述べる。
【0009】
マルチキャリア伝送では、各サブキャリアを分離する分波器が必要であり、OFDMの場合は、FFT演算がこれに該当する。図5は、従来のマルチキャリア伝送におけるOFDMシンボルの構成例を示した図である。この構成においては、FFT処理を施す前にガードインターバル(GI)101を事前に取り除く必要がある。
【0010】
GIとは、送信側でデータシンボル102の後半の一部分をコピーして先頭に付加したものであり、これにより、遅延を伴うマルチパスに対して耐性を有するという特徴をもつ。受信側では、GI部分を取り除いたデータシンボル102に対してFFTを施すのが理想である。しかしながら、実際は、マルチパスフェージングにより、その位置を完全に特定することは困難であり、図5のように、FFTに入力するデータ列を切り出すFFT窓位置103は、GI101の部分を含む状態となる。
【0011】
このため、FFT後の信号は、窓位置ずれ量dに対応した位相回転をサブキャリア間で生じる。通常、復調の際には、伝送路での振幅位相変動を含めて補正されるため、この位相回転は、問題にならない。しかしながら、アダプティブアンテナの重み係数を決定する場合には、この位相回転が性能に大きな影響を与えることになる。
【0012】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、窓位置ずれ量dに対応した位相回転が存在する場合にも、安定した動作を可能とするアダプティブアンテナを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明におけるアダプティブアンテナは、マルチキャリア伝送システムに適用されるアダプティブアンテナであって、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナと、複数のアンテナ素子で受信されたそれぞれの受信信号をサブキャリア信号に分離するサブキャリア抽出手段と、複数のアンテナ素子ごとに分離されたそれぞれのサブキャリア信号に対して、複数のアンテナ素子ごとに一定の重み付けを行って振幅位相を調整した後に、同一周波数を有するサブキャリア信号同士を合成して合成サブキャリア信号を生成する合成手段と、サブキャリア抽出手段により分離されたサブキャリア信号と、合成手段により生成された合成サブキャリア信号とに基づいて、合成手段により振幅位相を調整するための重み付けを決定する重み係数算出手段とを備え、重み係数算出手段は、合成サブキャリア信号に基づいて隣接するサブキャリア間の位相回転量を推定する位相推定器をさらに備え、位相回転量をさらに考慮して重み付けを決定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合成サブキャリア信号に基づいてサブキャリア間の位相回転量を推定し、推定された位相回転量を補正するように重み係数を決定して振幅位相をフィードバック調整することにより、窓位置ずれ量dに対応した位相回転が存在する場合にも、安定した動作を可能とするアダプティブアンテナを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のアダプティブアンテナの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるアダプティブアンテナの構成図である。この図1のアダプティブアンテナは、アレーアンテナ10、サブキャリア抽出手段20、合成手段30、重み係数算出手段40、復調器50、および並直列変換器60で構成される。
【0017】
ここで、サブキャリア抽出手段20は、直並列変換器21およびFFT変換器22を備えている。また、合成手段30は、乗算器31および合成器32を備えている。さらに、重み係数算出手段40は、重み係数演算器41および位相推定器42を備えている。
【0018】
本実施の形態1における図1のアレーアンテナ10は、#1から#4の4つのアンテナ素子から構成される場合を示している。なお、素子数については、4つの場合に限定されるものではなく、任意の素子数に対しても、同様に適用可能である。
【0019】
マルチキャリア伝送であるOFDMでは、周波数の異なるサブキャリア毎に異なるデータを割り当てることで、高速伝送を可能にしている。したがって、受信機では、サブキャリア毎に分離する分波器の機能が必要である。図1においては、サブキャリア抽出手段20内の直並列変換器21およびFFT変換器22により、分波器の機能を実現している。
【0020】
直並列変換器21は、一定の長さのデータを切り出す機能を有しており、FFTの窓位置制御も行う。次に、各FFT変換器22は、切り出されたデータに対してFFTを施すことで周波数変換を行い、直交する周波数配置にある各サブキャリア信号に切り分ける。なお、各FFT変換器22の出力は、実際のシステムでは数十から数千のサイズの出力となる。
【0021】
次に、合成手段30は、これら各サブキャリアに対して、振幅位相の調整をした後に合成を行う。より具体的には、合成手段30内の乗算器31により、振幅位相調整のための重み係数が各サブキャリアに対して乗算され、合成手段30内の合成器32により、各アンテナ素子の信号における、同一周波数を有するサブキャリア信号同士が合成される。
【0022】
そして、合成された後の各合成サブキャリア信号は、復調器50によりそれぞれ復調され、並直列変換器60により元の情報列に並び替えられる。
【0023】
乗算器31における振幅位相調整のための重み係数は、重み係数算出手段40内の重み係数演算器41により算出される。具体的には、重み係数演算器41は、以下で述べるサブキャリア間の位相差を推定する位相推定器42からの情報も利用して、重み付け演算を行う。この位相推定器42により推定される位相差も加味して重み付け演算を行う点が、本発明の技術的特徴である。
【0024】
なお、位相推定器42で推定されるサブキャリア間の位相差とは、単に合成サブキャリア信号間そのものの位相差ではなく、その信号内に含まれる所望信号の位相回転量に相当し、先の図5における窓位置ずれ量dに対応する量である。
【0025】
次に、本実施の形態1におけるアダプティブアンテナの一連の動作について、より具体的に説明する。アレーアンテナ10により受信されるRF(Radio Frequency)帯の信号X(t)は、低雑音増幅器、フィルタ、周波数変換器あるいはA/D変換器などの各種受信デバイスによりベースバンドのディジタル信号に変換される。ただし、これらの受信デバイスは、説明を簡単化するため、図1では省略されている。
【0026】
変換されたディジタル信号は、その後、直並列変換器21により、FFTサイズ分のデータとして抽出され、FFT変換器22により、各サブキャリアに分離される。サブキャリアに分離された信号は、さらに、乗算器31によって素子毎に一定の重み係数を乗算することにより振幅位相が調整される。
【0027】
すなわち、アレーアンテナ10の同一素子のサブキャリアに対しては、素子ごとに同一の重み係数を乗算することにより振幅位相が調整され、その後、合成器32によって同一周波数を有するサブキャリア信号同士が合成され、合成サブキャリア信号が生成される。このようにして生成された合成サブキャリア信号は、その後、復調器50および並直列変換器60により元のデータ列に復元される。
【0028】
乗算器31で調整する振幅位相値(以下、重み係数と称する)を演算するのが、重み係数算出手段40である。重み係数算出手段40内の位相推定器42は、合成器32により生成された合成サブキャリア信号に基づいて、サブキャリア間の位相回転量を推定する。
【0029】
さらに、重み係数算出手段40内の重み係数演算器41は、FFT後の各サブキャリア信号、合成器32の出力である合成サブキャリア信号、および位相推定器42により推定された位相回転量に基づいて、乗算器31により振幅位相を調整するために用いられる重み係数を算出する。
【0030】
ここで、本発明の技術的特徴である位相推定器42の有効性を説明するために、直並列変換器21におけるデータの切り出し位置の性能への影響を、数式を用いて説明する。送信信号s(t)を下式(1)のように表す。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、Nは、FFTサイズ、c(n)は、n番目のサブキャリア信号を表す。有効シンボル区間で伝送路変動が一定であると考え、伝搬係数をgとすると、受信信号x(t)は、下式(2)となる。
【0033】
【数2】

【0034】
ここで、Δtは、遅延量であり、n(t)は、熱雑音を表す。熱雑音については、FFT処理の前後で性質は変わらないので、この後の解析では、無視して進める。
【0035】
遅延量Δtは、GI長内であればサブキャリアの分離自体には影響がないので、ここでは無視し、先の図5で示したように、窓位置ずれ量dとして解析する。FFT後のサブキャリア信号X(f)は、下式(3)となる。
【0036】
【数3】

【0037】
つまり、上式(3)に示されたように、サブキャリア信号間で、ずれ量dに比例した位相回転が生じることがわかる。OFDM伝送では、送信データに周期的に挿入された参照信号があるので、受信信号に含まれている参照信号と受信側であらかじめ用意した参照信号との差分を検出することで、FFT後の各サブキャリア信号の振幅位相を補正することができる。このため、一般には、このような位相回転があっても問題はない。しかしながら、アダプティブアンテナのように複数のアンテナ素子を合成する場合には、問題となる場合がある。
【0038】
アダプティブアンテナの動作原理として最も一般的である最小2乗誤差法(MMSE:Minimum Mean square Error)は、アレー出力信号と参照信号との差、つまり誤差信号を最小化するものである。そこで、本発明の実施の形態1のように、素子ごとのサブキャリアに同一の重み係数を与える場合には、サブキャリア方向、すなわち、周波数軸のデータサンプルを利用して重み係数を演算できる。
【0039】
このとき、アレー出力信号をy(f)、参照信号をr(f)とすると、下式(4)の評価関数Qを最小化することになる。
【0040】
【数4】

【0041】
また、MMSEの最適解(ウイナー解)Wは、下式(5)となる。ただし、E[]は、期待値操作を表す。また、添字Hは、複素共役転置、*は、複素共役を表している。さらに、下式(6)は、相関行列Rxxであり、下式(7)は、入力信号X(f)と参照信号r(f)との相関ベクトルPxrである。
【0042】
【数5】

【0043】
ここで、上式(2)の受信信号モデルを考え、遅延量Δtを窓位置ずれ量dとすると、下式(8)の関係が得られる
【0044】
【数6】

【0045】
ここで、gは、複素伝搬係数、Vは、信号の方向ベクトル、nは、雑音ベクトルとする。方向ベクトルVは、FFT後も保存されるので、FFT後のサブキャリア信号ベクトルX(f)は、下式(9)となる。
【0046】
【数7】

【0047】
したがって、上式(7)の相関ベクトルPxrは、下式(10)となる。
【0048】
【数8】

【0049】
本来は、相関ベクトルの演算により所望信号の方向ベクトルVを抽出することで、良好な受信特性を得る。しかしながら、窓位置ずれによる位相回転がある場合には、この位相回転項の影響により、解が求まらない。
【0050】
上述の説明は、期待値という統計的なパラメータにより記述したが、この問題は、LMS(Least Mean Square)、RLS(Recursive Least Square)、SMI(Sample Matrix Inversion)などの最適化アルゴリズムを適用して、実際に重み係数を逐次的に制御する際にも当てはまる。
【0051】
そこで、サブキャリア間の位相回転量を推定して、これを補正することで常に良好な収束特性を得ることが、本実施の形態1の特徴である。つまり、下式(11)のような評価関数Q(W)に基づいて、重み係数を求める。
【0052】
【数9】

【0053】
ここで、推定したαは、隣接サブキャリア間の位相回転量を表す。このような基準に基づいて重み係数を制御することにより、上述の問題を克服することができる。なお、位相補正について、上式(11)では、参照信号r(f)にαの位相回転量を与えているが、アレー出力y(f)の項に−αの位相回転量を施しても等価である。
【0054】
位相補正量αについては、参照信号r(f)の挿入されたアレー出力y(f)を使って、隣接サブキャリア間の位相差を求めることが可能である。また、複数の位相差を平均化して精度を向上させることも可能である。
【0055】
たとえば、アレー出力y(f)に含まれる変調信号成分を参照信号r(f)により除去し、伝搬係数や位相回転項のみをb(f)として下式(12)のように抽出する。
【0056】
【数10】

【0057】
次に、隣接サブキャリア信号間で積の平均値cを下式(13)にしたがって演算し、その平均値cの位相差を下式(14)にしたがって求めることで、近似的にサブキャリア間の位相回転量αを得ることができる。
【0058】
【数11】

【0059】
ここで、Mは、平均化サンプル数、Re{}は、実数部を表し、Im{}は、虚数部を表す。なお、式(12)、(13)の乗算は、除算に置き換えてもよい。また、平均化については、式(13)ではなく、位相回転量αを求めた後の式(14)にて行ってもよい。
【0060】
以上のように、実施の形態1によれば、アンテナ素子ごとに一定の重み付けを行って振幅位相を調整した後に、同一周波数を有するサブキャリア信号同士を合成して合成サブキャリア信号を生成し、合成サブキャリア信号に基づいてサブキャリア間の位相回転量を推定し、推定された位相回転量を補正するように重み係数を決定して振幅位相をフィードバック調整することができる。この結果、受信環境によって変動するFFTの窓位置ずれに対しても、常にアダプティブアンテナを正常に収束させることができ、従来の方法に比べて大幅な性能の向上が期待できる。
【0061】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、位相回転量の推定と重み係数の演算は、基本的に独立に行っていた。本実施の形態2では、計算効率を考えて、位相回転量の推定と重み係数の演算を同時に行う場合について説明する。
【0062】
図2は、本発明の実施の形態2におけるアダプティブアンテナの構成図であり、繰返し演算により重み係数を逐次更新するLMSアルゴリズムを用いた場合の構成の一例である。先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態2における図2の構成は、重み係数算出手段40内の構成要素が異なっている。
【0063】
本実施の形態2における重み係数算出手段40は、位相推定器42、誤差信号生成器43、更新ベクトル生成器44、乗算器45、遅延器46、および合成器47で構成される。本実施の形態2のアダプティブアンテナにおける更新手順は、下式(15)〜(18)に従って同時に行われる。
【0064】
【数12】

【0065】
ここで、W(m)は、m回更新後の重み係数を表し、μは、ステップサイズと呼ばれる定数である。以降の説明は、m回目の重み係数を求める手順を述べるもので、各変数の添字は、mで統一している。実際の処理では、複数のサブキャリア信号X(f)、y(f)を用いて平均化処理を施してもよいし、1つのサブキャリア信号毎に逐次更新してもよい。
【0066】
上式(15)は、合成器32の出力である合成サブキャリア信号y(m)を表し、位相推定器42では、上式(16)に基づき位相量αを求める。なお、式(16)は、下式(19)のように、r(m)の乗算ではなく、r(m)の除算を行うことにより求めても同様の効果が得られる。
【0067】
【数13】

【0068】
次に、誤差信号生成器43では、上式(17)に基づき位相回転を考慮した誤差信号e(m)を生成する。その後、更新ベクトル生成器44にて、LMSの更新ベクトル成分x(m)e(m)を求め、乗算器45によりステップサイズμが掛け算される。これを合成器47においてm回更新時の重み係数W(m)に加算することで、上式(18)のようにして、m+1回目の重み係数W(m+1)が算出される。
【0069】
このW(m+1)に基づき、乗算器31の値が制御される。また、遅延器46により、一定の時間遅延を与え、次の重み係数算出の際に加算する成分として利用される。
【0070】
次に、本発明の有効性を明らかにするための計算例を示す。アンテナ配置は、4素子等間隔リニアアレーとし、到来する信号は、先行波とGIを越える遅延波の2波とする。さらに、素子当りのSNR(信号対雑音電力比)は、20dBである。
【0071】
図3は、本発明の実施の形態2におけるシミュレーション結果を示すグラフである。横軸は、FFTの際の窓位置ずれdを示し、縦軸は、アレー合成後の出力SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)を示す。出力SINRが高いほど、良好な特性であることを意味する。
【0072】
図中の71は、従来のLMSアルゴリズムで重み係数を更新した場合の結果であり、72は、本発明による新しいアルゴリズムで重み係数を更新した場合の結果である。先に述べたように、FFTの窓位置ずれがある場合には、サブキャリア間の位相回転が生じ、従来のLMSがこの位相変化に追従しきれなくなって、特性が劣化していく様子が確認できる。
【0073】
一方、本発明によるアルゴリズムでは、受信側で用意した参照信号から推定される位相差によって補正し、逐次重み係数を更新することでこの問題を克服した結果、非常に優れた特性が得られていることがわかる。
【0074】
以上のように、実施の形態2によれば、先の実施の形態1の効果に加え、位相差推定をLMSアルゴリズムに融合させ、逐次更新することで、優れた追従性をさらに得ることができる。
【0075】
なお、上述の説明においては、LMSを例にとったが、他の最適化アルゴリズム、たとえばRLSアルゴリズムやSMIアルゴリズムを用いてもよく、同様の効果を得ることができる。
【0076】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3におけるアダプティブアンテナの構成図である。本実施の形態3では、安定かつ高速な収束を目的として、重み係数の初期値の設定および更新を行っている。先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態3における図4の構成は、電力推定部70をさらに備えている点が異なっている。
【0077】
先の実施の形態1、2に限らず、アダプティブアンテナにおいては、重み係数を更新する際に、初期値の与え方が、その収束特性の安定性や高速性に大きく影響することが知られている。本実施の形態3における電力推定部70は、FFT変換器22の出力後の各アンテナ素子のサブキャリア信号を用いて、信号対雑音電力比を求める。さらに、電力推定部70は、信号対雑音電力比が最も大きなアンテナ素子の重み係数を1、その他を0とした初期値を乗算器31に与え、重み係数の更新を開始する。
【0078】
なお、ここでの雑音電力とは、干渉信号の電力も含んでおり、この信号対雑音電力比は、上述のSINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)に対応する。
【0079】
このように、電力推定部70を用いて重み係数の初期値を設定することで、最も受信状態のよいアンテナ素子を初期段階で選択できる。この結果、その後の重み係数の更新において、確実かつ高速な収束特性が得られる。SINRの測定については、受信信号中の既知の参照信号を用いることで容易に実現できる。
【0080】
以上のように、実施の形態3によれば、サブキャリア信号に基づいて信号対雑音電力比を求めることにより、受信状態に応じて、アンテナ素子の重み係数の初期設定を行うことができる。これにより、その後の重み係数の更新において、確実かつ高速な収束特性を得ることができる。
【0081】
なお、本実施の形態3の特徴である電力推定部70による初期値の設定については、先の実施の形態1と同様に、先の実施の形態2へも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアダプティブアンテナの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2におけるアダプティブアンテナの構成図である。
【図3】本発明の実施の形態2におけるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態3におけるアダプティブアンテナの構成図である。
【図5】従来のマルチキャリア伝送におけるOFDMシンボルの構成例を示した図である。
【符号の説明】
【0083】
10 アレーアンテナ、20 サブキャリア抽出手段、21 直並列変換器、22 FFT変換器、30 合成手段、31 乗算器、32 合成器、40 重み係数算出手段、41 重み係数演算器、42 位相推定器、43 誤差信号生成器、44 更新ベクトル生成器、45 乗算器、46 遅延器、47 合成器、50 復調器、60 並直列変換器、70 電力推定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャリア伝送システムに適用されるアダプティブアンテナであって、
複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナと、
前記複数のアンテナ素子で受信されたそれぞれの受信信号をサブキャリア信号に分離するサブキャリア抽出手段と、
前記複数のアンテナ素子ごとに分離されたそれぞれのサブキャリア信号に対して、前記複数のアンテナ素子ごとに一定の重み付けを行って振幅位相を調整した後に、同一周波数を有するサブキャリア信号同士を合成して合成サブキャリア信号を生成する合成手段と、
前記サブキャリア抽出手段により分離された前記サブキャリア信号と、前記合成手段により生成された前記合成サブキャリア信号とに基づいて、前記合成手段により振幅位相を調整するための重み付けを決定する重み係数算出手段と
を備え、
前記重み係数算出手段は、前記合成サブキャリア信号に基づいて隣接するサブキャリア間の位相回転量を推定する位相推定器をさらに備え、前記位相回転量をさらに考慮して前記重み付けを決定する
ことを特徴とするアダプティブアンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のアダプティブアンテナにおいて、
前記重み係数算出手段は、
前記サブキャリア抽出手段により分離された前記サブキャリア信号、前記合成手段により生成された前記合成サブキャリア信号、および前記位相推定器により推定された前記位相回転量に基づいて、前記合成手段により振幅位相を調整するための重み付けを決定する重み係数演算器を備えることを特徴とするアダプティブアンテナ。
【請求項3】
請求項2に記載のアダプティブアンテナにおいて、
前記重み係数演算器は、送信データに周期的に挿入される参照信号とあらかじめ受信側で用意する参照信号との差を最小化する際に、前記位相回転量に基づき前記参照信号に対して位相補正を施すことで、前記重み付けの値を決定することを特徴とするアダプティブアンテナ。
【請求項4】
請求項3に記載のアダプティブアンテナにおいて、
前記位相推定器は、前記参照信号を利用して前記位相回転量を推定することを特徴とするアダプティブアンテナ。
【請求項5】
請求項1に記載のアダプティブアンテナにおいて、
前記重み係数算出手段は、
前記合成手段により生成された前記合成サブキャリア信号、および前記位相推定器により推定された位相回転量に基づいて誤差信号を生成する誤差信号生成器と、
前記サブキャリア抽出手段により分離された前記サブキャリア信号、および前記誤差信号生成器で生成された前記誤差信号に基づいて、前記合成手段により振幅位相を調整するための重み付けを決定する重み係数演算器と
を備えることを特徴とするアダプティブアンテナ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアダプティブアンテナにおいて、
前記重み係数算出手段は、最適化アルゴリズムを用いて前記重み付けを逐次更新することを特徴とするアダプティブアンテナ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアダプティブアンテナにおいて、
前記サブキャリア抽出手段により分離された前記サブキャリア信号に基づいて前記複数のアンテナ素子のそれぞれについて信号対雑音電力比を算出し、算出した前記信号対雑音電力比の大きさに応じて前記合成手段における重み付けを初期設定する電力推定部をさらに備え、
前記重み係数算出手段は、前記電力推定部により初期設定された重み付けを逐次更新する
ことを特徴とするアダプティブアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−167387(P2008−167387A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113261(P2007−113261)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】