説明

アピゲニン高濃度含有エキスの製造方法

【課題】アピゲニン含有植物の抽出物からアピゲニン高濃度含有エキスを製造する方法の提供。
【解決手段】アピゲニン含有植物の抽出物を吸着担体に吸着させ、これを水又は20容量%以下のエタノール水溶液で洗浄し、次いで、40〜99.5容量%のエタノール水溶液を用いて吸着物からアピゲニンを溶出させる、アピゲニン高濃度含有エキスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アピゲニンを高濃度含有するエキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アピゲニンは、カミツレ(Matricaria recutita L.)、ローマカミツレ(Anthemis nobilis L.)、ダリア(Dahlia pinnata)、フジモドキ(Daphne genkwa)、コウリョウ(Sorghum nervosum Bess)等の植物に含まれているフラボノイドであり、ウレアーゼ活性阻害作用(特許文献1)、抗酸化作用(特許文献2)及びメラニン生成促進作用(特許文献3)等を有するため、化粧品、医薬品及び医薬部外品の成分として有用である。
【0003】
ところで、医薬部外品原料規格(外原規)には、ローマカミツレのブチレングリコール溶液及びプロピレングリコール溶液が記載されているが(非特許文献1)、当該外原規相当の市販のアピゲニン含有エキスのアピゲニン含有量は50ppm程度であり、エキス蒸発残分中の純度は高々1%程度にすぎない。従って、アピゲニンの薬理作用をより有効に発揮し得るアピゲニン高濃度含有エキスが求められていた。
【0004】
一方、アピゲニンに代表されるフラボノイドを含有するエキスの製造方法としては、柑橘類の果皮をアセトン中に液浸し、粗フラボノイド抽出液を得た後、オクタデシルシリカゲルを担体とする逆相系カラムで精製する方法(特許文献4)、柑橘類の果皮を90(v/v)%エタノールで抽出した後、酢酸エチル−水で分液し、酢酸エチル層を減圧濃縮する方法(特許文献5)、多孔性吸着樹脂により濃縮する方法(特許文献6)が知られている。しかしながら、これらの製造方法では、アピゲニン高濃度含有エキスを製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−91338号公報
【特許文献2】特開2005−289880号公報
【特許文献3】特開平9−263534号公報
【特許文献4】特開2000−80035号公報
【特許文献5】特開2002−60340号公報
【特許文献6】特開2005−145824号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】医薬部外品原料規格p.1834
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アピゲニン含有植物の抽出物からアピゲニン高濃度含有エキスを製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アピゲニン含有エキスの製造方法について検討を行った結果、アピゲニン含有植物の抽出物を吸着担体に吸着させ、これを水又は20容量%以下のエタノール水溶液で洗浄した後、吸着物からアピゲニンを溶出させることにより、アピゲニンを高濃度含有するエキスを製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、アピゲニン含有植物の抽出物を吸着担体に吸着させ、これを水又は20容量%以下のエタノール水溶液で洗浄し、次いで、40〜99.5容量%のエタノール水溶液を用いて吸着物からアピゲニンを溶出させる、アピゲニン高濃度含有エキスの製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、選択的にアピゲニンのみを担体に保持させたまま、その他のものを洗浄できる。従って、簡便かつ効率よくアピゲニン高濃度含有エキスを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「アピゲニン含有植物」としては、アピゲニンを含有する植物であれば良く、例えば、カミツレ、ローマカミツレ、ダリア、フジモドキ、コウリョウ等が挙げられる。
【0012】
ここで、カミツレとは、キク科のMatricaria recutita L.を意味し、ジャーマン・カモミール、ジャーマン・カミツレとも称される。また、ローマカミツレとは、キク科のAnthemis nobilis L.を意味し、ダリアとは、キク科のDahlia pinnataを意味する。
また、フジモドキとは、ジンチョウゲ科のDaphne genkwaを意味し、コウリョウとは、イネ科のSorghum nervosum Bessを意味する。
これらアピゲニン含有植物のうち、キク科植物が好ましく、高濃度のアピゲニン含有エキスを得る点で、カミツレ及びローマカミツレがより好ましく、ローマカミツレがさらに好ましい。
【0013】
上記植物は、アピゲニン含有植物の全草、葉、茎、芽、花、蕾、木質部、樹皮、地衣体、根、根茎、仮球茎、球茎、塊茎、種子、果実、菌核及び樹脂等をそのまま、粉砕して、切断して又は乾燥して使用できるが、カミツレ及びローマカミツレについては花又は蕾を使用するのが好ましい。
【0014】
本発明において「アピゲニン含有植物の抽出物」とは、常法により得られる各種溶剤抽出液、又はその希釈液、その濃縮液、その乾燥末若しくはその活性炭処理したものを意味し、このうち各種溶媒抽出液が好ましい。当該抽出方法の具体例としては、抽出原料の5〜40倍量(質量比)の抽出溶媒に植物を浸漬し、常温又は還流加熱下で1日から1ヶ月抽出した後、濾過して残渣を除去する方法が挙げられる。
【0015】
また、上記抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。当該抽出溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられ、これらは混合物として用いることができる。これらのうち、好適な具体例としては、エタノール水溶液、ブタンジオール水溶液、プロピレングリコール水溶液が挙げられ、エタノール水溶液、ブタンジオール水溶液がより好ましく、エタノール水溶液がさらに好ましい。当該エタノール水溶液としては、5〜99.5容量%のエタノール水溶液が好ましく、10〜80容量%のエタノール水溶液がより好ましい。カミツレを使用するときは5〜55容量%のエタノール水溶液が好ましく、10〜50容量%のエタノール水溶液がより好ましい。ローマカミツレを使用するときは30〜99.5容量%のエタノール水溶液が好ましく、40〜80容量%のエタノール水溶液がより好ましい。当該溶媒の使用量は、10〜40倍程度である。抽出時間としては、1日〜1ヶ月が好ましく、抽出温度としては、5〜80℃が好ましい。
【0016】
本発明のアピゲニン高濃度含有エキスの製造方法は、1)吸着工程、2)洗浄工程、3)溶出工程の3工程によって行われる。
1)吸着工程
上記アピゲニン含有植物の抽出物の吸着担体への吸着は、例えば、上記抽出物に吸着担体を接触又は接触混合することにより吸着物を得る工程である。
【0017】
本発明において「吸着担体」としては、アピゲニンを吸着するものであればよいが、吸着担体をろ過する際の操作性の点で、ろ過助剤として用いられているものが好ましい。ろ過助剤の好適な具体例としては、粉末セルロース、ラジオライト、セライト等が挙げられ、粉末セルロース及びラジオライトがより好ましい。これらのうち1種類又は2種類以上を使用することができる。
また、吸着担体は、アピゲニン回収率の点で、抽出液200mLあたり、2.5g〜10g程度用いるのが好ましい。
【0018】
また、アピゲニンの吸着担体への吸着を強化する点で、上記添加等させた後に、アピゲニン含有植物の抽出物を濃縮するのが好ましい。当該濃縮は常法に従い行えばよいが、具体的手段としては減圧濃縮等が挙げられる。
【0019】
2)洗浄工程
洗浄は、前工程で得られた吸着物に水又は20容量%以下のエタノール水溶液を接触させることにより行われる。
洗浄の具体的手段としては、例えば、ろ過、デカンテーションが挙げられるが、ろ過が好ましい。当該ろ過としては、ろ紙やろ布等を使用した常圧ろ過;フィルタープレス、加圧ろ紙ろ過機、リーフフィルター、ロータリープレス等を使用した加圧式ろ過;回転ドラム式連続ろ過機、真空フィルター等を使用した減圧ろ過等が挙げられるが、簡便性の点で、常圧ろ過が好ましい。
ろ過により洗浄する場合、アピゲニンは吸着担体中に保持され、その他のものはろ液として分離される。
【0020】
20容量%以下のエタノール水溶液としては、10容量%以下のエタノール水溶液が好ましく、3容量%以下のエタノール水溶液がより好ましく、0.001〜3容量%のエタノール水溶液がさらに好ましい。
【0021】
水には、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、滅菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。
水又は20容量%以下のエタノール水溶液としては、水が好ましい。
【0022】
洗浄は、例えば、吸着物に対して2〜10倍容量の水又は20容量%以下のエタノール水溶液を用いて行えばよい。洗浄温度は5℃〜40℃程度であり、洗浄時間は10分〜3時間程度である。
【0023】
3)溶出工程
溶出は、洗浄された吸着物に、40〜99.5容量%のエタノール水溶液を接触させることにより行われる。溶出の具体的手段としては、上記洗浄と同様のものが挙げられる。
ろ過により溶出する場合、アピゲニンはろ液として吸着担体から分離される。
【0024】
40〜99.5容量%のエタノール水溶液としては、50〜99.5容量%のエタノール水溶液が好ましく、75〜99.5容量%のエタノール水溶液がより好ましい。
溶出は、例えば、吸着物に対して2〜10倍容量の50〜99.5容量%のエタノール水溶液を用いて行えばよい。溶出温度は5〜40程度であり、溶出時間は10分〜1日程度である。
【0025】
上記のアピゲニンを高濃度含有するエキスは、そのまま用いることもできるが、当該エキスを希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。
【0026】
また、上記のアピゲニンを高濃度含有するエキスは、クロマトグラフィー、液々分配等の分離技術により、上記エキスから不活性な夾雑物を除去して用いることもできる。
【0027】
本発明によれば、蒸発残分あたりアピゲニンを10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%含有するアピゲニン高濃度含有エキスが得られる。
【実施例】
【0028】
以下、参考例、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。なお、以下の比較例及び実施例において、「%」は容量%を表す。
【0029】
参考例1
【0030】
カミツレ(Matricaria recutita L.)の花20gをエタノール水溶液200mLで室温にて、7日間抽出した後、ろ過し、抽出液を得た。また、ローマカミツレ(Anthemis nobilis L.)についても、花を用いて同様に抽出を行った。結果を下表に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
カミツレに関しては、10〜50容量%のエタノール水溶液を用いたときに、高濃度のアピゲニン抽出液が得られ、ローマカミツレに関しては、40〜80容量%のエタノール水溶液を用いたときに、高濃度のアピゲニン抽出液が得られた。
【0033】
参考例2
ローマカミツレ80gを60%ブタンジオール1.6Lで、40度、24時間抽出した後、ろ過し、抽出液1520mLを得た。抽出液1mL当りの蒸発残分は12.5mg、アピゲニン量は460ppmであった。蒸発残分中のアピゲニン純度は3.7%であった。
【0034】
実施例1
カミツレ(Matricaria recutita L.)の、花400gを50%エタノール8Lで、室温にて、20日間抽出した後、ろ過し、抽出液6.3Lを得た。抽出液1mL当りの蒸発残分は14.9mg、アピゲニン量は280ppmであった。蒸発残分中のアピゲニン純度は1.9%であった。
得られた抽出液200mLに下記表2に示すろ過助剤を添加し、吸着させ、溶媒を濃縮した。これに下記表2の溶媒Aを200mL添加し、ろ過し、ろ液Aを得た。得られたろ液A中のアピゲニン量及び蒸発残分を測定し、アピゲニンの回収率及び純度を算出した。
そして、得られた残渣に溶出溶媒Bを200mL添加し、ろ過し、ろ液Bを得た。得られたろ液B中のアピゲニン量、蒸発残分を測定し、アピゲニンの回収率及び純度を算出した。結果を下表に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
上記より、上記吸着、洗浄及び溶出を経て得られたアピゲニンエキスは、アピゲニン純度が20%程度に向上することがわかる。
【0037】
比較例1 外原規の方法
ローマカミツレ20gを40%ブタンジオール400mLで、室温、7時間抽出した後、ろ過し、抽出液340mLを得た。抽出液1mL当りの蒸発残分は10.0mg、アピゲニン量は90ppmであった。蒸発残分中のアピゲニン純度は0.9%であった。
【0038】
比較例2 市販品の分析
一丸ファルコス社一丸ファルコレックス ローマカミツレBを分析した結果、エキス1mL当りの蒸発残分は5.0mg、アピゲニン量は50ppmであった。蒸発残分中のアピゲニン純度は1.0%であった。
【0039】
比較例3 市販品の分析
一丸ファルコス社カミツレリキッド(原料生薬:ジャーマンカミツレ)を分析した結果、エキス1mL当りの蒸発残分は10.5mg、アピゲニン量は17ppmであった。蒸発残分中のアピゲニン純度は0.16%であった。
【0040】
上記実施例1及び比較例1〜3より、実施例1の操作によれば、高濃度のアピゲニン含有エキスが得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アピゲニン含有植物の抽出物を吸着担体に吸着させ、これを水又は20容量%以下のエタノール水溶液で洗浄し、次いで、40〜99.5容量%のエタノール水溶液を用いて吸着物からアピゲニンを溶出させる、アピゲニン高濃度含有エキスの製造方法。
【請求項2】
アピゲニン含有植物の抽出物がアピゲニン含有植物を5〜99.5容量%のエタノール水溶液で抽出したものである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アピゲニン含有植物がカミツレ及びローマカミツレから選ばれる植物である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
吸着担体が粉末セルロース、ラジオライト及びセライトから選ばれる担体である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−163363(P2010−163363A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4378(P2009−4378)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】