説明

アミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法

【課題】エステル基を有するアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】
式1:


(式中、XはCH、CHF、CFを示し;
YはCONHまたはCNを示す。)で表されるヒドロキシアセチルピロリジン誘導体を酸化し、アミン誘導体と反応後、還元することによる、アミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法。本発明によりクロロアセチルクロリドなどの使用を回避することができ、安全な製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)阻害活性を有し、II型糖尿病などのDPP−IVが関与する疾患の予防および/または治療に有用なアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジペプチジルペプチダーゼIV(以下、DPP−IV)阻害剤が糖尿病(特に2型糖尿病)の治療薬として注目を集め、DPP−IV阻害作用を有する数多くの誘導体が報告されている。中でもアミノアセチルピロリジン誘導体は優れた血糖低下作用を示すことから、抗糖尿病薬として有望な化合物がいくつか報告されている(非特許文献1〜2、特許文献1〜11)。本願出願人はアミノアセチルピロリジン誘導体として下記構造式(式6)で表される化合物を開示した(特許文献9)。
【0003】
式6:
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、XはCH、CHFまたはCFを示し;
は置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、置換されていてもよいC〜Cのシクロアルキル基、テトラヒドロピラニル基、置換されていてもよいアリールメチル基、置換されていてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族ヘテロ環を示し;
nは1また2を示す。)
【0006】
式6に示した誘導体は1−(2−クロロアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル誘導体あるいは1−(2−ブロモアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル誘導体と対応するアミンを塩基の存在下で反応させることにより製造されている(特許文献9)。
【0007】
1−(2−クロロアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル誘導体あるいは1−(2−ブロモアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル誘導体を使用しないアミノアセチルピロリジンカルボニトリル誘導体の合成法として、N−置換アミノ酢酸誘導体とプロリンエステル誘導体を縮合し、次いでプロリンエステル部分を加水分解してカルボン酸とし、これをアミド化してプロリンアミド誘導体に変換した後、アミドを脱水してカルボニトリル誘導体を得る方法が開示されている(特許文献10、11)。しかし、これらの方法は、製造工程にエステル基の加水分解工程を有するため、式6に示すようなエステル基を有する化合物の合成に使用することは困難である。
【非特許文献1】Journalof Medicinal Chemistry、46巻、2774頁(2003年)
【非特許文献2】Bioorganic& Medicinal Chemistry、12巻、6053頁(2004年)
【特許文献1】特表 2000-511559号公報
【特許文献2】特表 2002-531547号公報
【特許文献3】特開 2002-356471号公報
【特許文献4】特表 2004-500321号公報
【特許文献5】特表 2005-529078号公報
【特許文献6】特表 2004-503531号公報
【特許文献7】US 2002/019339
【特許文献8】WO04/099185 パンフレット
【特許文献9】WO 05/075421 パンフレット
【特許文献10】WO 06/043595 パンフレット
【特許文献11】WO 04/026822 パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、DPP−IV阻害剤として有用な式6に示したアミノアセチルピロリジン誘導体を安全かつ効率的に製造する方法および新規な製造中間体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、式6に示したアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法を鋭意検討した結果、式1に示したヒドロキシアセチルピロリジン誘導体を酸化し、式2で表される誘導体、式3で表される誘導体、またはそれらの混合物に変換し、式4で表されるビシクロアルキルアミン誘導体を反応させた後、生成するイミン誘導体を還元することにより、式5で表されるアミノアセチルピロリジン誘導体の安全かつ効率的な製造が達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、
【0011】
(1)
式1:
【化2】

【0012】
(式中、XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示す。)で表されるヒドロキシアセチルピロリジン誘導体を酸化することにより、
【0013】
式2:
【化3】

(式中、XおよびYは前記定義と同じ)で表される誘導体、
【0014】
式3:
【化4】

【0015】
(式中、Rは水素原子または置換されていてもよいC〜Cのアルキル基を示し;
XおよびYは前記定義と同じ)で表される誘導体、または式2および式3で表される化合物の混合物に変換し、
【0016】
式4:
【化5】

【0017】
(式中、Rは置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、置換されていてもよいC〜Cのシクロアルキル基、置換されていてもよいアリールメチル基、置換されていてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示し;
nは1または2を示す)で表されるビシクロアルキルアミン誘導体またはその塩を反応させた後、還元することによる、
【0018】
式5:
【化6】

【0019】
(式中、R、X、Yおよびnは前記定義と同じ)で表されるアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法、
【0020】
(2)
XがCHFである(1)に記載の製造方法、
【0021】
(3)
YがCNである、(1)または(2)に記載の製造方法、
【0022】
(4)式2:
【化7】

【0023】
(式中、XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示す)で表される誘導体、
【0024】
(5)
XがCHFである(4)に記載の誘導体、
【0025】
(6)YがCNである(4)または(5)記載の誘導体、
【0026】
(7)式3:
【化8】

【0027】
(式中、Rは水素原子または置換されていてもよいC〜Cのアルキル基を示し;
XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示す)で表される誘導体、
【0028】
(8)XがCHFである(7)に記載の誘導体、
【0029】
(9)
YがCNである(7)または(8)記載の誘導体に関するものである。

【発明の効果】
【0030】
ブロモアセチルクロリドやクロロアセチルクロリドのような腐食性がある試薬の使用を避けて、式1で示すヒドロキシアセチルピロリジン誘導体から、式5で示すアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法を確立した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本明細書中に表される「置換されていてもよいC〜Cのアルキル基」とはハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC〜Cの直鎖または分枝のアルキル基(メチル基、シクロプロピルメチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、ブチル基、t−ブチル基またはヘキシル基など)を意味する。
【0032】
本明細書中に表される「置換されていてもよいC〜Cのシクロアルキル基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC〜Cのシクロアルキル基(シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基など)を意味する。
【0033】
本明細書中に表される「置換されていてもよいアリールメチル基」とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC〜Cのアルキルアミノ基、置換されていてもよいアリールアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールメチル基(フェニルメチル基、ナフチルメチル基、ピリジルメチル基、キノリルメチル基またはインドリルメチル基など)を意味する。
【0034】
本明細書中に表される「置換されていてもよいアリールエチル基」とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC〜Cのアルキルアミノ基、置換されていてもよいアリールアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールエチル基(フェニルエチル基、ナフチルエチル基、ピリジルエチル基、キノリルエチル基またはインドリルエチル基など)を意味する。
【0035】
本明細書中に表される「置換されていてもよい芳香族炭化水素」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、C〜Cのアルキルチオ基及びC〜Cのジアルキルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素(ベンゼン環、ナフタレン環またはアントラセン環など)を意味する。
【0036】
本明細書中に表される「置換されていてもよい芳香族へテロ環」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基及び、C〜Cのアルキルチオ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい芳香族へテロ環(窒素原子、酸素原子、硫黄原子の中から任意に選ばれた1〜3個のヘテロ原子を含む5員または6員の芳香族単環式複素環、あるいは9員または10員の芳香族縮合複素環、例えばピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、アクリジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環またはベンゾオキサゾール環など)を意味する。
【0037】
本明細書中に表される「置換されていてもよい脂肪族へテロ環」とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、C〜Cのアルコキシ基及びC〜Cのアルキルチオ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい脂肪族へテロ環(窒素原子、酸素原子、および硫黄原子の中から任意に選ばれた1〜3個のヘテロ原子を含む4〜7員の脂肪族単環式複素環、あるいは9員または10員の脂肪族縮合複素環、例えばアゼチジン環、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、ピペリジン環、モルホリン環またはピペラジン環など)を意味する。
【0038】
本明細書中に表される「ハロゲン原子」とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。
【0039】
本明細書中に表される「ビシクロエステルアミン誘導体またはその塩」の「その塩」とは、アミン塩として許容されるものであればどのようなものでもよいが、好ましくは塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などのハロゲン化水素酸塩、メタンスルホン酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩、酢酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩等のカルボン酸塩が挙げられる。
【0040】
式2および式3で表される化合物はそれぞれ単一あるいは任意の比率の混合物で存在しうるが、本発明はそのいずれを使用しても実施することができる。
【0041】
式1〜3および5で表される本発明化合物には1個以上の不斉中心に基づく複数の光学異性体が存在しうるが、本発明はこれら光学異性体もしくはジアステレオ異性体のいずれをも含み、またそれらの任意の比率を示す混合物またはラセミ体を含むものである。さらには式1〜3および5で表される本発明化合物には互変異性体や回転異性体が存在しうるものがあるが、それぞれの異性体およびそれらの任意の比率を示す混合物も本発明に含まれる。
【0042】
(製造方法)
【0043】
本発明におけるアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法は以下のように示すことができる(スキーム1)。
【0044】
スキーム1
【化9】

【0045】
(スキーム1中、XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示し;
は水素原子またはC〜Cのアルキル基を示し;Rは置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、置換されていてもよいC〜Cのシクロアルキル基、置換されていてもよいアリールメチル基、置換されていてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示し;
nは1または2を示す)

【0046】
第一工程は、式1で表されるヒドロキシアセチルピロリジン誘導体を酸化し、式2で表される誘導体、式3で表される誘導体、あるいはこれらの混合物に変換する工程である。
【0047】
本工程における酸化は、2−ヨードキシ安息香酸、Dess−Martinペルヨージナンなどの超原子価ヨウ素化合物による酸化、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカルなどのオキシアンモニウム塩による酸化、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカルなどのオキシアンモニウム塩を触媒とし、共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩、N−クロロコハク酸イミドなどのN−ハロイミド類、ビスアセトキシヨードベンゼンなどの超原子価ヨウ素化合物、トリクロロイソシアヌル酸、モノパーサルファート化合物、過酸化水素あるいは酸素などを用いた酸化、過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウムを触媒とし、共酸化剤として4−メチルモルホリンN−オキシドあるいは酸素などを用いる酸化、酸化クロム(VI)、二クロム酸の塩、クロム酸エステル、塩化クロミルなどのクロム酸類、あるいはコリンズ試薬、クロロクロム酸ピリジニウム、二クロム酸ピリジニウムなどのクロム酸アミン錯体による酸化、ジメチルスルホキシドとジシクロヘキシルカルボジイミド、塩化オキサリル、無水酢酸、トリフルオロ酢酸無水物、塩素、N−クロロコハク酸イミド、2,4,6−トリクロロ[1.3.5]トリアジンとの組み合わせによる酸化により実施することができ、好ましくは2−ヨードキシ安息香酸を用いることができる。
【0048】
本酸化反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えば水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルムなどを用いることができ、好ましくはジメチルスルホキシドを用いることができる。本酸化反応は−78〜150℃で円滑に進行し、好ましくは−20〜80℃で行うことができる。
【0049】
第二工程は、式2で表される誘導体、式3で表される誘導体、またはそれらの混合物と、式4で表されるビシクロアルキルアミン誘導体との縮合反応の工程である。
【0050】
本工程は、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類を溶媒に用いて実施することができ、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミドを用いることができる。本縮合反応ではベンゼンスルホン酸やトルエンスルホン酸などのスルホン酸類を触媒に使用したり、モレキュラシーブスなどを脱水剤として使用することができ、好ましくはモレキュラーシーブスを用いることができる。本縮合反応は−20〜150℃で円滑に進行し、好ましくは0〜80℃で行うことができる。
【0051】
第三工程は、式7で表されるイミン誘導体を還元することによる、ビシクロアミノアセチルカルボニトリル誘導体の製造工程である。本工程においては、第二工程で生成したイミン誘導体(式7)を単離して使用しても良いし、あるいは単離せずに使用してもよい。
式7で表されるイミン誘導体を還元する工程は、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウムなどの複合水素化合物による還元、ジボランによる還元、酸化白金(IV)と水素、パラジウム炭素と水素やパラジウム炭素とギ酸アンモニウムの組み合わせによる還元、ナトリウム、ナトリウムアマルガムによる還元、亜鉛−酸による還元などにより実施することができる。本反応はメタノール、エタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類、水を溶媒に用いて実施することができる。本反応は−78〜150℃で円滑に進行し、好ましくは−20〜80℃で行うことができる。
【0052】
なお、式5においてYがCONH(カルバモイル基)であった場合、当該カルバモイル基を脱水することにより、式6で表されるアミノアセチルピロリジン誘導体に変換することができる。
【0053】
カルバモイル基を脱水する工程の脱水剤としては、五酸化二リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、チオニルクロリド、オキサリルクロリド、p−トルエンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、イソシアン酸クロロスルホニル、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、トリフルオロ酢酸などが挙げられる。本反応に塩基を用いる場合には、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸カリウムなどのアルカリ炭酸塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンまたは1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンなどの3級アミン類が例示できる。
【0054】
上記脱水反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが用いられる。本脱水反応は−78〜150℃で円滑に進行する。
【0055】
本製造法によれば、ブロモアセチルクロリドやクロロアセチルクロリドのような腐食性の液体試薬を用いることなく、DPP−IV阻害剤として有用なアミノアセチルピロリジン誘導体を製造することができる。
【0056】
(実施例)
次に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
参考例
(2S、4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリルの合成
【0058】
第一工程:(2S,4S)−4−フルオロ−1−[2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)アセチル]ピロリジン−2−カルボキサミドの合成
【0059】
(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボキサミド(4.10g)およびイミダゾール(3.27g)を脱水N,N−ジメチルホルムアミド(100mL)に溶解し、氷水浴上で冷却しながらtert−ブチルジメチルシリルクロリド(3.62g)の脱水N,N−ジメチルホルムアミド(30mL)溶液を滴下した後、室温で1時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチル(300mL)に溶解した。この酢酸エチル溶液を水(50mL)次いで飽和食塩水(50mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:酢酸エチル/メタノール=10/1)で精製し、白色固体の(2S、4S)−4−フルオロ−1−[2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)アセチル]ピロリジン−2−カルボキサミド(6.17g)を得た。
【0060】
MS (CI+) m/z: 305 (MH+).
HRMS (CI+) for C13H26FN2O3Si:
calcd, 305.1697; found, 305.1694.
【0061】
第二工程:(2S,4S)−4−フルオロ−1−[2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリルの合成
【0062】
(2S,4S)−4−フルオロ−1−[2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)アセチル]ピロリジン−2−カルボキサミド(6.05g)を脱水テトラヒドロフラン(130mL)に溶解し、氷水浴上で冷却しながらトリエチルアミン(9.70mL)加え、トリフルオロ酢酸無水物(4.30mL)を滴下した後、室温で1時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチル(400mL)に溶解した。この酢酸エチル溶液を水(50mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)、飽和食塩水(50mL)の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/2)で精製し、白色固体の(2S,4S)−4−フルオロ−1−[2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル(5.63g)を得た。
【0063】
MS (CI+) m/z: 287 (MH+).
HRMS (CI+) for C13H24FN2O2Si:
calcd, 287.1591; found, 287.1633.
【0064】
第三工程:(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル
【0065】
(2S,4S)−4−フルオロ−1−[2−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル(5.50g)をテトラヒドロフラン(37mL)に溶解し、水(37mL)次いで酢酸(115mL)を加え、50℃で7.5時間、さらに70℃で9時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣の淡褐色タール状物質をジエチルエーテルを加えて固体化した。析出した固体を濾取し、減圧乾燥して淡褐色固体の(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル(3.19g)を得た。
【0066】
MS (CI+) m/z: 173 (MH+).
HRMS (CI+) for C7H10FN2O2:
calcd, 173.0726; found, 173.0698.
【実施例1】
【0067】
(2S、4S)−4−フルオロ−1−グリオキシルピロリジン−2−カルボニトリル及び(2S、4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシ−2−メトキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル
【0068】
(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル(100mg)をジメチルスルホキシド(2.5mL)に溶解し、2−ヨードキシ安息香酸(309mg)を加え、室温で4.5時間撹拌した後、反応混合物にメタノール(2mL)を加え、減圧濃縮した。残渣にジクロロメタンを加えて不溶物を濾去し、濾液を減圧濃縮し、(2S,4S)−4−フルオロ−1−グリオキシルピロリジン−2−カルボニトリル及び(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシ−2−メトキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリルの混合物(83.0mg)を得た。
【0069】
MS (CI+) m/z: 171 (M++H),
203(M++H).
1H−NMR (in CDCl3):δ2.27-2.56 (m, 1H), 2.68-2.82 (m, 1H),
3.43-3.54 (m, 2.4H) 3.68-4.28 (m, 2H), 4.55 (br, 0.7H), 9.46 (s, 0.2H).
【実施例2】
【0070】
(2S,4S)−1−[[N−(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル]−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリルの合成
【0071】
A法: 実施例1の方法で(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル(100mg)から得られた(2S,4S)−4−フルオロ−1−グリオキシルピロリジン−2−カルボニトリル及び(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシ−2−メトキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリルの混合物をN,N−ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解し、モレキュラシーブス4A(200mg)、4−アミノビシクロ[2.2.2]オクタンカルボン酸エチル(172mg)のN,N−ジメチルホルムアミド(1mL)溶液を加え、室温で一夜撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にメタノール(2mL)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(36.5mg)を加え、室温で2.5時間撹拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5mL)を加え、ジクロロメタン(2×30mL、20mL)で抽出した。ジクロロメタン抽出液を合わせ、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:クロロホルム/メタノール=5/1)で精製し、(2S,4S)−1−[[N−(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル]−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル(71.6mg)を得た。
【0072】
B法:実施例1の方法で(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリル(100mg)から得られた(2S,4S)−4−フルオロ−1−グリオキシルピロリジン−2−カルボニトリル及び(2S,4S)−4−フルオロ−1−(2−ヒドロキシ−2−メトキシアセチル)ピロリジン−2−カルボニトリルの混合物をN,N−ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解し、モレキュラシーブス4A(200mg)、および4−アミノビシクロ[2.2.2]オクタンカルボン酸エチル(172mg)のN,N−ジメチルホルムアミド(1mL)溶液を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をメタノール(2mL)に溶解し、酸化白金(IV)(20.0mg)を加え、水素雰囲気下、室温で5.5時間撹拌した。反応混合物中の触媒を濾去し、濾液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:クロロホルム/メタノール=5/1)で精製し、(2S,4S)−1−[[N−(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル]−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル(69.2mg)を得た。
【0073】
MS (ESI+) m/z: 352 (M++H).
HRMS (ESI+) for C18H27FN3O3
(M++H): calcd, 352.20364; found, 352.20480.
1H−NMR (in CDCl3):δ 1.23 (t, J=7.3Hz, 3H), 1.52-1.59 (m, 6H),
1.85-1.89 (m, 6H), 2.22−2.50 (m, 1H),
2.64-2.78 (m, 1H), 3.29-4.03 (m, 4H), 4.09 (q, J=7.3Hz, 2H), 4.94 (d, J=9.2Hz,
0.7H), 5.15 (d, J=9.2Hz, 0.3H), 5.27-5.50 (m, 1H).

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明はエステル基を有するアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法に関する。本発明によりクロロアセチルクロリドなどを用いることを回避でき、安全な製造方法を提供することができ、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
【化1】

(式中、XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示す。)で表されるヒドロキシアセチルピロリジン誘導体を酸化することにより、
式2:
【化2】

(式中、XおよびYは前記定義と同じ)で表される誘導体、
式3:
【化3】

(式中、Rは水素原子または置換されていてもよいC〜Cのアルキル基を示し;
XおよびYは前記定義と同じ)で表される誘導体、または式2および式3で表される化合物の混合物に変換し、
式4:
【化4】

(式中、Rは置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、置換されていてもよいC〜Cのシクロアルキル基、置換されていてもよいアリールメチル基、置換されていてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示し;
nは1または2を示す)で表されるビシクロアルキルアミン誘導体またはその塩を反応させた後、還元することによる、
式5:
【化5】

(式中、R、X、Yおよびnは前記定義と同じ)で表されるアミノアセチルピロリジン誘導体の製造方法。
【請求項2】
XがCHFである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
YがCNである、請求項1または請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
式2:
【化6】

(式中、XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示す)で表される誘導体。
【請求項5】
XがCHFである、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
YがCNである請求項4または請求項5記載の誘導体。
【請求項7】
式3:
【化7】

(式中、Rは水素原子または置換されていてもよいC〜Cのアルキル基を示し;
XはCH、CHFまたはCFを示し;
YはCONHまたはCNを示す)で表される誘導体。
【請求項8】
XがCHFである、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
YがCNである請求項7または請求項8記載の誘導体。

【公開番号】特開2008−290969(P2008−290969A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138042(P2007−138042)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】