説明

アルカリ乾電池およびその製造方法

【課題】反応効率が高く、放電性能に優れたアルカリ乾電池を提供する。
【解決手段】有底円筒形の電池ケースと、電池ケース内面に接し、二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末を含む中空円筒形の正極と、正極の中空部内にセパレータを介して配された負極と、アルカリ電解液と、を具備し、正極の内部において、正極の軸方向に垂直な断面が略円弧状のクラックが正極の軸方向に延びるように形成され、正極中の二酸化マンガンの密度は2.15〜2.30g/cm3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ乾電池およびその製造方法に関し、特にアルカリ乾電池に用いられる正極に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルカリ乾電池は、正極端子を兼ねる電池ケースの中に前記電池ケースの内面に密着して中空円筒形の正極が配置され、その中空部にセパレータを介して負極が配置されたインサイドアウト型の構造を有する。そして、正極活物質には二酸化マンガン粉末が用いられる。この粉末には、天然二酸化マンガン(NMD)、化学二酸化マンガン(CMD)、または電解二酸化マンガン(EMD)のような工業的に生産された二酸化マンガン粉末が用いられる、これらの中でも、上記電解二酸化マンガンが好適に用いられるが、上記電解二酸化マンガンは、一般的に、水分や灰分および他の不可避成分を含み、その二酸化マンガン(MnO2)純度は90数%である。
【0003】
近年、アルカリ乾電池では、高性能化が要求される一方で、コストパフォーマンスを追求した廉価仕様の需要も高まっている。これに対しては、例えば、正極活物質量を減らし、正極の空隙率を増大させて、正極内に含まれる電解液量を増大させることにより、反応効率を向上させることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、アルカリ乾電池において、正極活物質である二酸化マンガン、および導電材である黒鉛の混合物に、二酸化マンガンに対して0.6〜1.5重量%の水溶性バインダー(ポリアクリル酸)を添加して得られた、コア成形密度2.9〜3.1g/ccの正極を用いることが提案されている。
また、特許文献2では、二酸化マンガンおよび導電材を含む正極ペレットを備えたアルカリ乾電池において、細孔径3nm〜400μmの細孔における細孔量が0.14cc/g以上0.24cc/g以下の正極合剤ペレットを用いることが提案されている。
【特許文献1】特開平10−144304号公報
【特許文献2】特開平09−180708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、活物質量が減少し、正極内の空隙が占める割合が増大することによる正極強度の低下を抑制するため、正極作製時に多量のバインダーが用いられる。しかし、バインダー量が多いと、正極合剤が粘着性を有するため、加圧成形により正極ペレットや正極を作製する際、正極合剤が金型や治具に付着し易く、所定の正極ペレットおよび正極を作製することが困難である。また、離型圧が上昇して、成型機が短寿命化し易い。
また、特許文献2では、正極ペレットの見かけ密度は2.6g/cc程度であり、正極ペレットの強度は非常に小さくなる。このため、製造工程(正極ペレットの搬送時や電池ケース内での再成形工程)で正極ペレットが崩れ易く、正極ペレットの取り扱いが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するために、正極中の二酸化マンガンの密度が低くとも、優れた放電性能を有するアルカリ乾電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、有底円筒形の電池ケースと、前記電池ケースの内面に接し、二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末を含む中空円筒形の正極と、前記正極の中空部内に配された負極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、アルカリ電解液と、を具備するアルカリ電池であって、
前記正極の内部において、前記正極の軸方向に垂直な断面が略円弧状のクラックが前記正極の軸方向に延びるように形成され、
前記正極中の前記二酸化マンガンの密度は2.15〜2.30g/cm3であることを特徴とする。
【0008】
前記二酸化マンガン粉末の平均粒径(D50)は、45〜75μmであるのが好ましい。
前記黒鉛粉末の平均粒径(D50)は、20〜50μmであるのが好ましい。
前記正極中の水含有量は、二酸化マンガン粉末100重量部あたり10〜12重量部であるのが好ましい。
【0009】
また、本発明のアルカリ乾電池の製造方法は、二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、およびアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程(1)と、
前記正極合剤を加圧成形して、二酸化マンガン密度が2.4〜2.5g/cm3である中空円筒形の正極ペレットを得る工程(2)と、
有底円筒形の電池ケース内に前記正極ペレットを複数個挿入した後、
前記複数の正極ペレットの中空部に、前記正極ペレットの内径より0.2〜0.5mm小さい径を有する円柱形の挿入ピンを配し、
さらに、前記複数の正極ペレットに、上方より正極ペレット単位断面積あたり40〜130MPaの圧力を加えて、前記電池ケースに密着する中空円筒形の正極を得る工程(3)と、
前記正極の中空部にセパレータを配置した後、電池ケース内に電解液を注入する工程(4)と、
前記正極の中空部内に前記セパレータを介して負極を充填する工程(5)と、
前記電池ケースを封口部材で密閉する工程(6)と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
前記正極合剤中の前記黒鉛粉末含有量は、前記二酸化マンガン粉末および前記黒鉛粉末の合計100重量部あたり10〜15重量部であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応効率が高く、放電性能に優れたアルカリ乾電池を提供することができる。活物質量が少ない場合でも、良好な放電性能が得られるため、アルカリ乾電池の低コスト化が可能である。また、上記アルカリ乾電池が容易かつ確実に得られるアルカリ乾電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、有底円筒形の電池ケースと、前記電池ケース内面に接し、二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末を含む中空円筒形の正極と、前記正極の中空部内に配された負極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、アルカリ電解液と、を具備するアルカリ電池に関する。そして、前記正極の内部において、前記正極の軸方向に垂直な断面が略円弧状のクラックが前記正極の軸方向に延びるように形成され、前記正極中の前記二酸化マンガンの密度は2.15〜2.30g/cm3である点に特徴を有する。
【0013】
一般に、アルカリ乾電池における中空円筒形の正極では、セパレータ近傍の反応効率が高く、中空部に面する内側から外側に向かうにつれて反応効率が低下する。
これに対して、本発明における正極は、その内部の反応効率が低い部分において、正極の軸方向に垂直な断面が略円弧状の複数のクラックが正極の軸方向に沿って延びるように形成されている。これらのクラックは、正極の軸方向に垂直な断面において、負極を囲むように正極内部を一周して形成されない。すなわち、正極の周方向に連続して形成されない。このため、正極の内部に空間が存在しても、正極の導電性は十分に確保されるとともに、反応効率が低い部分の一部を失うに留まることとなる。このため、正極中の二酸化マンガンの密度が低くとも、優れた放電性能を有し、活物質量を減らすことが可能となり、コスト低減できる。
【0014】
上記クラックの存在により、正極中に含まれる電解液量が増大し、正極の反応効率(正極活物質利用率)が向上する。また、正極中の二酸化マンガンの密度は2.15〜2.30g/cm3であり、従来の正極中の二酸化マンガンの密度(2.5g/cm3程度)よりも小さく、二酸化マンガン量を減らすことによるコスト低減が可能である。また、正極の反応効率の損失を抑えることができるため、優れた放電性能を有するアルカリ乾電池が得られる。
【0015】
なお、本発明におけるクラックとは、正極の軸方向に垂直な断面において、幅が二酸化マンガン粉末の粒子径よりも実質的に大きく、0.5mm程度よりも小さな線形状の空隙部を意味する。
また、正極中の二酸化マンガンの密度は、電池構成後の正極体積と二酸化マンガン量とから算出される。
【0016】
以下、本発明のアルカリ乾電池の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明のアルカリ乾電池の一部を断面とする正面図である。
ニッケルめっき鋼板からなる有底円筒形の電池ケース1内に、中空円筒形の正極2が挿入されている。正極2は、例えば、正極活物質として二酸化マンガンと、導電材として黒鉛粉末と、アルカリ電解液との混合物からなる。電池ケース1の平滑な内面には、黒鉛塗装膜(図示しない)が形成されている。
【0017】
正極2の中空部には、セパレ−タ4を介して、ゲル状の負極6が充填されている。負極6は、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のゲル化剤、アルカリ電解液、および負極活物質の混合物からなる。負極活物質には、例えば、亜鉛粉末または亜鉛合金粉末が用いられる。亜鉛合金は、例えばBi、In、またはAlを含む。セパレータには、例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布が用いられる。電解液には、例えば、水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液が用いられる。
【0018】
電池ケース1の開口部は、組立封口体9により封口されている。組立封口体9は、ガスケット5、負極端子を兼ねる底板7、および負極集電体6からなる。負極集電体6はゲル状負極3内に挿入されている。負極集電体6の胴部はガスケット5の中央部に設けられた貫通孔に挿入され、負極集電体6の頭部は底板7に溶接されている。電池ケース1の開口端部は、封口体5の外周端部を介して底板7の周縁部にかしめつけられている。電池ケース1の外表面には外装ラベル8が被覆されている。
【0019】
ここで、図2に、図1の円筒形アルカリ乾電池の横断面の状態を示す一例として、円筒形アルカリ乾電池の断面写真(円筒形アルカリ乾電池の軸方向に垂直な断面)を示す。
図2に示すように、正極2の内部において、正極2の軸方向に垂直な断面が略円弧状の複数のクラックが正極の軸方向に沿って延びるように形成されている。これらのクラック、正極2の軸方向に垂直な断面において、負極3を囲むように正極内部を一周して形成されない。すなわち、正極2の周方向に連続して形成されない。このため、正極2の導電性は十分に確保される。
正極2の軸方向に垂直な断面のクラックの長さ(略円弧の長さ)は、例えば、円周長さの4分の1〜2分の1に相当する。上記クラックの正極2の軸方向の長さは、例えば、正極高さの50〜90%の寸法に相当する。
【0020】
上記クラックを有する正極中の二酸化マンガンの密度は2.15〜2.30g/cm3である。このように、正極中の二酸化マンガン密度は低く、正極内に形成される上記クラックを有することにより、反応効率が低い部分を空間に置き換えることにより放電性能の大幅な低下を招くことなく、活物質量を減らすことができ、コスト低減できる。
正極が水分を含んで膨張することにより上記クラックが形成され易いため、正極中の水含有量は、二酸化マンガン100重量部あたり10〜12重量部であるのが好ましい。正極中の水含有量が二酸化マンガン100重量部あたり10重量部未満であると、正極が十分に膨張せず、上記クラックが形成され難い。正極中の水含有量が二酸化マンガン100重量部あたり12重量部を超えると、水分量(電解液量)が過剰となり、漏液に至る可能性が高まる。
【0021】
上記本発明のアルカリ乾電池の製造方法は、二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、およびアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程(1)と、
前記正極合剤を加圧成形して、二酸化マンガン密度が2.4〜2.5g/cm3である中空円筒形の正極ペレットを得る工程(2)と、
有底円筒形の電池ケース内に前記正極ペレットを複数個挿入した後、
前記複数の正極ペレットの中空部に、前記正極ペレットの内径より0.2〜0.5mm小さい径を有する円柱形の挿入ピンを配し、
さらに、前記複数の正極ペレットに、上方より正極ペレット単位断面積あたり40〜130MPaの圧力を加えて、前記電池ケースに密着する中空円筒形の正極を得る工程(3)と、
前記正極の中空部にセパレータを配置した後、電池ケース内に電解液を注入する工程(4)と、
前記正極の中空部内に前記セパレータを介して負極を充填する工程(5)と、
前記電池ケースを封口部材で密閉する工程(6)と、
を含む。
上記製造方法により、容易かつ確実に、上記クラックを内部に有する、二酸化マンガン密度が2.15〜2.30g/cm3である正極を備えたアルカリ乾電池が得られる。
【0022】
上記工程(3)では、各正極ペレットは同軸上に積み重ねられ、各中空部が連通するように電池ケース内に挿入される。挿入ピンと正極ペレットとの間には0.2〜0.5mmの隙間が存在するため、正極成形時に正極ペレットは、挿入ピン側に隙間を埋めるように変形して内部に疎部が形成される。そして、上記工程(4)の電解液の注液時の正極の膨張に伴い、疎部に基づいて上記クラックが形成される。
【0023】
以下、本発明のアルカリ乾電池の製造方法の一実施形態を説明する。
(A)工程(1)
正極活物質として二酸化マンガンの粉末、導電材として黒鉛粉末、およびアルカリ電解液を、所定の重量比で混合する。この混合物をミキサー等で均一に撹拌・混合し、一定粒度に整粒し、顆粒状の正極合剤(以下、粒状合剤とする。)を得る。粒状合剤の平均粒径(D50)は、例えば0.4〜0.7mmである。アルカリ電解液には、例えば水酸化カリウム水溶液が用いられる。
正極の強度および反応効率の観点から、正極合剤中の黒鉛粉末含有量は、二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末の合計100重量部あたり10〜15重量部であるのが好ましい。なお、二酸化マンガン粉末には、例えば工業的に生産された電解二酸化マンガン粉末が用いられるが、電解二酸化マンガンは微量の不純物(灰分等)を含み、その二酸化マンガン純度は90数%である。
【0024】
正極合剤に結着剤を二酸化マンガン100重量部あたり0.35重量部以下添加するのが好ましい。
正極合剤中の結着剤含有量が二酸化マンガン100重量部あたり0.35重量部を超えると、正極合剤の強度が高くなりすぎて、上記空隙が形成され難くなる。
後述する工程(2)では、二酸化マンガン密度が2.40〜2.50と比較的高い正極ペレットが得られ、正極ペレットは十分な強度を有するため、従来よりも少量の結着剤量でよく、コスト面で有利である。正極合剤への結着剤添加量は少ないほどより好ましく、正極合剤に結着剤を添加しないのが特に好ましい。
【0025】
正極中の二酸化マンガン粒子が密になり過ぎず、正極が電解液(水)を含浸しやすく、上記クラックを形成し易いため、二酸化マンガン粉末の平均粒径(D50)(メジアン径)は45〜75μmであるのが好ましい。この範囲の平均粒径は従来よりも比較的大きく、粉砕の手間を削減できるためコスト面でも有利である。
二酸化マンガン粉末の平均粒径(D50)は45μm未満であると、正極は電解液(水)が含浸し難い。二酸化マンガン粉末の平均粒径(D50)は75μm超であると、クラックが大きくなりすぎて、正極が崩壊する場合がある。
【0026】
正極中の黒鉛粒子が密になり過ぎず、正極に電解液(水)が含浸しやすく、上記クラックを形成し易いため、黒鉛粉末の平均粒径(D50)(メジアン径)は20〜50μmであるのが好ましい。この範囲の平均粒径は従来よりも比較的大きく、粉砕の手間を削減できるためコスト面でも有利である。
黒鉛粉末の平均粒径(D50)は20μm未満であると、正極は電解液(水)を含浸し難い。黒鉛粉末の平均粒径(D50)は50μm超であると、クラックが大きくなりすぎて、正極が崩壊する場合がある。
【0027】
(B)工程(2)
工程(2)の一例を、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明のアルカリ乾電池の製造方法における工程(2)の一例を示す概略縦断面図である。
図3に示すように、中空円筒形の金型(ダイス2)を用いて、上記工程(1)で得られた顆粒状の正極合剤(以下、粒状合剤とする。)を以下のように加圧成形し、正極ペレット15を得る。
具体的には、ダイス11およびセンターピン13を用い、ダイス11の中空部の中央にセンターピン13が位置するように配置し、これらの隙間である粒状合剤12を充填する部分に、下成形パンチ4を挿入する。このとき、下成形パンチ14aの穴にセンターピン13を通す。次に、所定位置より下成形パンチ14aを下方に移動させながら、粒状合剤12をダイス11とセンターピン13との隙間に充填する。このとき、粒状合剤12を確実に充填するために、下成形パンチ14aを所定位置よりも若干下方に降ろした後、所定位置まで上昇させる。充填した後、へら等を用いてダイス11の上面に沿うよう粒状合剤12を整える。そして、上成形パンチ14bの凹部にセンターピン13の上端部を配置した後、粒状合剤12を上成形パンチ14bで上方より押しつけて、充填された粒状合剤12を加圧成形する。このようにして、中空円筒状の正極ペレット15が得られる。
【0028】
正極ペレット中の二酸化マンガンの密度は2.4〜2.5g/cm3と比較的高いため、正極ペレットは十分な強度を有する。このため、後述する工程(3)に至る途中の正極ペレットの搬送時や工程(3)における電池ケース内の再成形時に正極ペレットが崩壊することがない。正極ペレット15の成形時に加えられる圧力(上成形パンチ14bの押圧力)を調整することにより、正極ペレット15中の二酸化マンガンの密度を制御することができる。
【0029】
(C)工程(3)
工程(3)の一例を、図4を参照しながら説明する。図4は、本発明のアルカリ乾電池の製造方法における工程(3)の一例を示す概略縦断面図である。
図4に示すように、中空円筒形のカートリッ21の中空部に、下成形パンチ24aを挿入する。カートリッジ21の中空部における下成形パンチ24a上に、正極端子を兼ねる有底円筒形の電池ケース1を配置する。電池ケース1内に正極ペレット15の2個を電池ケース1内に挿入する。このとき、2つの正極ペレット15は同軸上に積み重ねられ、2つの中空部が連通する。正極ペレット15の中空部に、正極ペレット15の内径より0.2〜0.5mm小さい径を有する円柱形の挿入ピン23を配置する。中空円筒形の上成形パンチ24bの中空部に挿入ピン23を挿入した状態で、上成形パンチ24bにて上方より正極ペレット15を正極ペレット15の単位断面積あたり40〜130MPaの圧力で押しつけて、正極ペレット15を加圧成形する。なお、ここでいう断面積は、正極ペレット15の軸方向に垂直な断面の面積である。このようにして、電池ケース1に密着する中空円筒形の正極2を得る。
【0030】
挿入ピン23と正極ペレット15との間に0.2〜0.5mmの隙間を有するため、正極成形時に正極ペレット15は挿入ピン23側に隙間を埋めるように変形する。このとき、正極内部において、疎部が形成される。
上記成形時に正極ペレットに加える圧力(上成形パンチの押圧力)、および正極ペレットと挿入ピンとの隙間の寸法を上記範囲内で変えることにより、工程(3)で形成されるクラックの状態および正極中の二酸化マンガン密度を容易に制御することができる。
【0031】
(D)工程(4)
正極の中空部にセパレータを配置した後、電池ケース内に電解液を注入する。電解液には、例えば、水酸化カリウム水溶液が用いられる。正極が電解液を含むことにより膨張し、この膨張に伴いクラックが形成される。
【0032】
(E)工程(5)
正極の中空部内にセパレータを介して負極を充填する。負極には、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のゲル化剤と、アルカリ電解液、負極活物質の混合物からなるゲル状負極が用いられる。負極活物質には、例えば、亜鉛粉末または亜鉛合金粉末が用いられる。亜鉛合金は、例えば、Bi、In、またはAlを含む。セパレータには、例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布が用いられる。
【0033】
(F)工程(6)
電池ケースの開口部を、樹脂製封口体、負極端子を兼ねる底板、および負極集電体からなる組立封口体を用いて封口する。このとき、負極集電体はゲル状負極内に挿入される。組立封口体において、負極集電体の胴部は封口体の中央部に設けられた貫通孔に挿入され、負極集電体の頭部は底板に溶接されている。電池ケースの開口端部を、封口体を介して底板の周縁部にかしめつける。このようにして、電池ケースを密閉する。
これにより、上記クラックを内部に有する、二酸化マンガン密度が2.15〜2.30g/cm3である正極を備えたアルカリ乾電池が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
《実施例1〜12および比較例1〜5》
(1)正極ペレットの作製
正極活物質として電解二酸化マンガンの粉末(純度92%、平均粒径(D50):45μm)、導電材として黒鉛粉末(平均粒径(D50):40μm)、およびアルカリ電解液として濃度35重量%の水酸化カリウム水溶液(酸化亜鉛2重量%含む)を重量比90:10:5の割合で混合した。この混合物をミキサーで均一に撹拌・混合した後、一定粒度に整粒した。得られた粒状物を上記の図3と同じ金型を用いて加圧成形し、中空円筒形の正極ペレット(外径:13.23mm、内径:9.17mm、高さ:22.10mm、重量:4.92g、体積:1.58cm3)を得た。正極ペレット中の二酸化マンガンの重量は、上記電解二酸化マンガンの純度と混合重量比から3.88gであり、正極ペレット中の二酸化マンガンの密度は、2.46g/cm3であった。
【0035】
(2)アルカリ乾電池の作製
上記で得られた正極ペレットを用いて図1に示す単3形アルカリ乾電池を以下のように作製した。図1は本発明の実施例である単3形アルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。
内面に黒鉛塗装膜が形成された、ニッケルめっき鋼板からなる有底円筒形の電池ケース1(外径:13.8mm、内径:13.45mm、高さ:51.5mm)内に、正極ペレット2を2個挿入した後、電池ケース1内において上記図4と同じ治具を用いて加圧成形し、電池ケース1の内面に密着する正極2を得た。
正極2の内側に、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した、厚さ0.25mmのセパレ−タ4(厚さ0.125mmの不織布を円筒状に2重に巻いて構成)を配した後、電池ケース1内に、アルカリ電解液を注液した。
【0036】
注液した後、セパレータ4の内側にゲル状の負極3を充填した。ゲル状の負極3には、負極活物質として亜鉛粉末(平均粒径:150μm)と、電解液として35重量%の水酸化カリウム水溶液(酸化亜鉛2重量%含む)と、ゲル化剤としてポリアクリル酸ナトリウムと、を重量比182:100:2の割合で混合したものを用いた。
ガスケット5の中央部に設けられた貫通孔に負極集電体6の胴部を挿入し、負極集電体6の頭部を底板7に溶接し、組立封口体9を得た。電池ケース1の開口部を組立封口体9で封口した。このとき、負極集電体6をゲル状負極3に差し込み、電池ケース1の開口端部を、ガスケット5の外周部を介して底板7の周縁部にかしめつけた。次いで、電池ケース1の外表面に外装ラベル8を被覆した。このようにして、アルカリ乾電池を作製した。
上記アルカリ乾電池の作製時において、表1および2に示すように、挿入ピンの径(挿入ピンと正極ペレットの内径との差)および電池ケース内での再成形時に正極ペレットに加える圧力を変えて、正極中の二酸化マンガン密度を変えた。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
《比較例6》
工程(2)において、正極ペレットの高さ21.00mmおよび体積1.50cm3に変更し、正極ペレット中の二酸化マンガン密度2.59g/cm3に変更した。工程(3)における成形条件を表2に示す条件とした。上記以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0040】
《比較例7》
工程(2)において、正極ペレット重量5.18g、電解二酸化マンガン量4.08g、正極ペレット体積1.58cm3、および正極ペレット中の二酸化マンガン密度2.59g/cm3に変更した。工程(3)における成形条件を表2に示す条件とした。上記以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0041】
《比較例8》
工程(2)において、正極ペレット高さ23.20mm、正極ペレット体積1.66cm3、および正極ペレット中の二酸化マンガン密度2.34g/cm3に変更した。しかし、この条件で作製した正極ペレットは十分な強度を有しないため、崩壊した。したがって、電池を作製することができなかった。
【0042】
[評価]
(1)電池内の正極調査
各電池をX線透視して正極の外径、内径、および高さの寸法を計測することにより正極体積を算出した。また、各電池を分解した後、電解液を含む正極を電池内から取り出し、正極を粉砕して粒子径1mm以下の粉末を得た後、それを105℃で2時間乾燥させた。そして、その乾燥前後の重量差より正極中の水分量を算出した。さらに、正極を酸溶解させた水溶液を準備し、ICP発光分析法によりその水溶液中のマンガン(Mn)の含有量を調べ、その含有量をMnO2量に換算して正極中の二酸化マンガン量を求めた。
【0043】
(2)電池の放電試験
上記で作製した各電池について、20℃±2℃の恒温環境の中で、1日毎に250mAで1時間放電するサイクルを繰り返す間欠放電を、閉路電圧が0.9Vに達するまで実施した。そして、各電池の放電時間を、比較例6の電池の放電時間を100とした指数(放電性能指数)で表し、放電性能指数が110を超えた電池を高容量の電池であると判定した。
上記測定結果を表3および4に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
実施例1〜12の電池では、正極内部に略円弧状のクラックが形成されたため、正極活物質量が同じである比較例6の電池と比べて大きな正極体積を得ることができ、その結果、正極の反応効率が向上し、高容量が得られた。実施例1〜12の電池では、高容量化およびコスト低減の両立が可能であることが確かめられた。
比較例7の電池は、比較例6の電池と比べて、正極活物質量を増量することで正極体積を得たため、高容量が得られるが、コストが高い。比較例1、4および5の電池では、正極内に略円弧状のクラックが十分に形成されなかったため、十分な電池容量は得られなかった。比較例2および3の電池では、クラックが大きくなりすぎ、正極内部に周方向に連続して形成された略円形状のクラックが存在するため、正極の導電性が低下し、電池容量が大幅に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のアルカリ乾電池は、携帯機器等の電子機器の電源として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における一実施形態の円筒形アルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。
【図2】図1の円筒形アルカリ乾電池の横断面図である。
【図3】本発明のアルカリ乾電池の製造方法における工程(2)の一例を示す概略縦断面図である。
【図4】本発明のアルカリ乾電池の製造方法における工程(3)の一例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
6 負極集電体
7 底板
8 外装ラベル
9 組立封口体
11 ダイス
12 粒状合剤
13 センターピン
14a 下成形パンチ
14b 上成形パンチ
15 正極ペレット
21 カートリッジ
23 挿入ピン
24a 下成形パンチ
24b 上成形パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒形の電池ケースと、
前記電池ケースの内面に接し、二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末を含む中空円筒形の正極と、
前記正極の中空部内に配された負極と、
前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、
アルカリ電解液と、を具備するアルカリ電池であって、
前記正極の内部において、前記正極の軸方向に垂直な断面が略円弧状のクラックが前記正極の軸方向に延びるように形成され、
前記正極中の前記二酸化マンガンの密度は2.15〜2.30g/cm3であることを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項2】
前記二酸化マンガン粉末の平均粒径(D50)は、45〜75μmである請求項1記載のアルカリ乾電池。
【請求項3】
前記黒鉛粉末の平均粒径(D50)は、20〜50μmである請求項1記載のアルカリ乾電池である。
【請求項4】
前記正極は、前記二酸化マンガン粉末、前記黒鉛粉末、および前記アルカリ電解液の混合物からなる請求項1記載のアルカリ乾電池。
【請求項5】
前記正極中の水含有量は、二酸化マンガン100重量部あたり10〜12重量部である請求項4記載のアルカリ乾電池。
【請求項6】
二酸化マンガン粉末、黒鉛粉末、およびアルカリ電解液を混合して正極合剤を得る工程(1)と、
前記正極合剤を加圧成形して、前記二酸化マンガンの密度が2.4〜2.5g/cm3である中空円筒形の正極ペレットを得る工程(2)と、
有底円筒形の電池ケース内に前記正極ペレットを複数個挿入した後、
前記複数の正極ペレットの中空部に、前記正極ペレットの内径より0.2〜0.5mm小さい径を有する円柱形の挿入ピンを配し、
さらに、前記複数の正極ペレットに、上方より正極ペレット単位断面積あたり40〜130MPaの圧力を加えて、前記電池ケースに密着する中空円筒形の正極を得る工程(3)と、
前記正極の中空部にセパレータを配置した後、電池ケース内に電解液を注入する工程(4)と、
前記正極の中空部内に前記セパレータを介して負極を充填する工程(5)と、
前記電池ケースを封口部材で密閉する工程(6)と、
を含むことを特徴とするアルカリ乾電池の製造方法。
【請求項7】
前記正極合剤中の前記黒鉛粉末含有量は、前記二酸化マンガン粉末および前記黒鉛粉末の合計100重量部あたり10〜15重量部である請求項6記載のアルカリ乾電池の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−252595(P2009−252595A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100647(P2008−100647)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】