説明

アルカリ電池用亜鉛合金粉末およびその製造方法

【課題】放電前および放電後の水素ガス発生量を低減して電池内の電解液の漏れを防止することができるアルカリ電池用亜鉛合金粉末を短時間の熱処理で製造することができる、アルカリ電池用亜鉛合金粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%、好ましくは0.0005重量%以下または0.005重量%以上、あるいは0.010〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%、好ましくは0.005〜0.020重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなる亜鉛合金粉末を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中において250℃より高い温度、好ましくは300℃以上の温度で熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用亜鉛合金粉末およびその製造方法に関し、特に、アルカリ乾電池などの電池の負極材として使用する亜鉛合金粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ乾電池などの電池の負極材として、水素過電圧が高く比較的安価な亜鉛粉末が使用されている。しかし、電池の負極材として亜鉛のみを使用すると、電池使用時に水素ガスが多量に発生し、そのため、電池内の電解液が漏れるという問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、電池の負極剤として使用する亜鉛を水素過電圧が高い水銀によってアマルガム化することが長年行われてきた。しかし、この方法では、廃乾電池を処分する際に水銀による公害の問題があるため、水銀を使用しない亜鉛粉末、すなわち無水銀化の亜鉛粉末を開発することが求められていた。
【0004】
このような無水銀化の亜鉛粉末として、水銀に次いで水素過電圧が高く且つインヒビター効果があるビスマス、アルミニウム、インジウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫、鉛などの元素と合金化した亜鉛合金粉末が使用されている。また、このような亜鉛合金粉末を熱処理することによって亜鉛合金粉末内の結晶粒を安定化させる方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)や、亜鉛合金粉末の表面にビスマスやインジウムを効率よくコーティングする方法(例えば、特許文献3参照)も提案されている。
【0005】
しかし、上記の特許文献1〜3に記載された方法では、インヒビターとして使用するビスマスなどの添加量を増加することによって電池の放電前のガス発生量を抑えられるものの、放電後のガス発生量が増大するという問題があった。すなわち、電池の放電前のガス発生量を低減するためには、ビスマスなどの添加量を増加することが効果的であり、一方、放電後のガス発生量を低減するためには、ビスマスなどの添加量を少なくすることが有効であるので、放電前と放電後のガス発生量の低減を両立させることができないという問題があった。
【0006】
この問題を解決するために、インヒビターとしてビスマスなどを添加した亜鉛合金粉末を、酸素濃度が100ppm未満の不活性ガス雰囲気中において150〜250℃の温度で2時間以上熱処理する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
【特許文献1】特許2932285号公報(第2頁)
【特許文献2】特公平7−123043号公報(段落番号0005−0007)
【特許文献3】特開2000−113883公報(段落番号0007−0014)
【特許文献4】特開2001−273893公報(段落番号0011−0013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献4に記載された方法では、亜鉛合金粉末を150〜250℃の温度で2時間以上熱処理する必要があるので、長時間の熱処理を必要し、また、放電前の水素ガス発生量を十分に少なくすることができない場合がある。また、高価なインジウムなどの添加量を少なくしても、放電前および放電後の水素ガス発生量を低減して電池内の電解液の漏れを防止することができるアルカリ電池用亜鉛合金粉末を短時間の熱処理で製造することができるのが望ましい。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、放電前および放電後の水素ガス発生量を低減して電池内の電解液の漏れを防止することができるアルカリ電池用亜鉛合金粉末を短時間の熱処理で製造することができる、アルカリ電池用亜鉛合金粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、高価なインジウムなどの添加量を少なくしても、放電前および放電後の水素ガス発生量を低減して電池内の電解液の漏れを防止することができるアルカリ電池用亜鉛合金粉末を短時間の熱処理で製造することができる、アルカリ電池用亜鉛合金粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、亜鉛粉末に添加するインジウムおよびビスマスの量を調整し且つ250℃より高い温度で熱処理することにより、電池の放電前および放電後のいずれにおいても水素ガス発生量が少ないアルカリ電池用亜鉛合金粉末を短時間の熱処理で製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によるアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法は、アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなる亜鉛合金粉末を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中において250℃より高い温度で熱処理することを特徴とする。このアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法において、インジウムの量が0.0005重量%以下または0.005重量%以上、あるいは0.010〜0.020重量%であるのが好ましく、熱処理の温度が300℃以上の温度であるのが好ましい。
【0013】
本発明によるアルカリ電池用亜鉛合金粉末は、アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなり、かさ密度が2.90g/cm以上であることを特徴とする。このアルカリ電池用亜鉛合金粉末において、インジウムの量が0.0005重量%以下または0.005重量%以上、あるいは0.010〜0.020重量%であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明によるアルカリ一次電池は、上記のアルカリ電池用亜鉛合金粉末または上記のアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法によって製造されたアルカリ電池用亜鉛合金粉末を負極活物質として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電池の放電前の水素ガス発生量が非常に少なく且つ放電後の水素ガス発生量も少ないアルカリ電池用亜鉛合金粉末を短時間の熱処理により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によるアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態では、インジウムやビスマスなどを亜鉛に添加して混合溶融することにより得られた亜鉛合金溶湯をガスアトマイズ法によりアトマイズ化し、篩により分級して、アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%、好ましくは0.0005重量%以下または0.005重量%以上、あるいは0.010〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%、好ましくは0.005〜0.020重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなる亜鉛合金粉末を製造し、得られた亜鉛合金粉末を不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中において250℃より高い温度、好ましくは300℃以上の温度で熱処理する。ビスマスの添加量が0.001重量%未満であると、放電前のガス発生量の抑制効果が十分でなく、一方、ビスマスの添加量が0.050重量%より多くなると、ビスマスの過剰添加により放電前のガス発生量が増大するとともに、過放電後のガス発生量も増大する。
【0017】
上述した本発明によるアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態によって、アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%、好ましくは0.0005重量%以下または0.005重量%以上、あるいは0.010〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%、好ましくは0.005〜0.020重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなるアルカリ電池用亜鉛合金粉末であって、かさ密度が2.90g/cm以上、好ましくは2.92g/cm以上であるアルカリ電池用亜鉛合金粉末を製造することができる。
【0018】
なお、充填率が高ければ同体積の電池容量が大きくなるため、かさ密度が高いほど好ましいが、本発明によるアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態によれば、ビスマスの添加量が同じでもかさ密度を高くすることができるので、充填率を向上させて同体積の電池容量を大きくすることができる。このようにアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態によってかさ密度を高くすることができるのは、亜鉛合金粉末の表面が滑らかになるためであると考えられる。亜鉛合金粉末の表面が滑らかになると、亜鉛合金粉末の表面活性が低下して水素ガス発生量が低減すると考えられる。したがって、かさ密度を高くすることにより、水素ガス発生量を低減することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明によるアルカリ電池用亜鉛合金粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0020】
[実施例1]
まず、100ppmのAlと100ppmのBiを含み、それぞれ0ppm、10ppm、50ppm、100ppmおよび200ppmのInを含む亜鉛合金粉末を用意した。
【0021】
次に、それぞれの亜鉛合金粉末を熱処理炉によって窒素ガス雰囲気中において400℃で30分間熱処理した後、窒素ガス雰囲気中で室温まで徐冷した。このようにして熱処理したそれぞれの亜鉛合金粉末のかさ密度をJIS Z2504により測定した。その結果を表1および図1に示す。
【0022】
また、上記のように熱処理した亜鉛合金粉末5gを、酸化亜鉛を飽和させた40%KOH溶液10g中に混合し、60℃で3日間保持し、発生したガス量の平均速度を初期ガス量(放電前ガス量)として算出した。その結果を表1および図2に示す。
【0023】
さらに、上記のように熱処理した亜鉛合金粉末を、酸化亜鉛を飽和させた40%KOH溶液およびポリアクリル酸と混合してゲルを作製し、このゲルを負極剤とし、二酸化マンガンを正極剤として、LR6電池(単3アルカリ電池)を作製した。この電池を10Ωの抵抗で48時間放電した後、60℃で8時間保持し、電池内に発生したガス量(過放電後ガス量)を測定した。その結果を表1および図3に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
[比較例1]
実施例1と同様の組成の亜鉛合金粉末を用意し、熱処理を行わないで、実施例1と同様の方法により、かさ密度、初期ガス量および過放電後ガス量を測定した。これらの結果を表1および図1〜図3に示す。
【0026】
表1および図1〜図3からわかるように、400℃で30分間熱処理を行った実施例1では、熱処理を行わなかった比較例1と比べて、かさ密度を高くすることができ、過放電後ガス量を増大させることなく初期ガス量を低減させることができる。
【0027】
[実施例2]
Biの含有量が150ppmである以外は実施例1と同様の組成の亜鉛合金粉末を用意し、実施例1と同様の熱処理を行い、実施例1と同様の方法により、かさ密度、初期ガス量および過放電後ガス量を測定した。これらの結果を表2および図4〜図6に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
[比較例2]
実施例2と同様の組成の亜鉛合金粉末を用意し、熱処理を行わないで、実施例1と同様の方法により、かさ密度、初期ガス量および過放電後ガス量を測定した。これらの結果を表2および図4〜図6に示す。
【0030】
表2および図4〜図6からわかるように、400℃で30分間熱処理を行った実施例2では、熱処理を行わなかった比較例2と比べて、かさ密度を高くすることができ、過放電後ガス量を増大させることなく初期ガス量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1および比較例1においてIn添加量とかさ密度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例1および比較例1においてIn添加量と放電前ガス量の関係を示すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1においてIn添加量と過放電後ガス量の関係を示すグラフである。
【図4】実施例2および比較例2においてIn添加量とかさ密度の関係を示すグラフである。
【図5】実施例2および比較例2においてIn添加量と放電前ガス量の関係を示すグラフである。
【図6】実施例2および比較例2においてIn添加量と過放電後ガス量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなる亜鉛合金粉末を、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中において250℃より高い温度で熱処理することを特徴とする、アルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記インジウムの量が0.0005重量%以下または0.005重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項3】
前記インジウムの量が0.010〜0.020重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理の温度が300℃以上の温度であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末の製造方法によって製造されたアルカリ電池用亜鉛合金粉末を負極活物質として用いることを特徴とする、アルカリ一次電池。
【請求項6】
アルミニウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素を0.0001〜0.500重量%含有し、インジウムを0〜0.020重量%含有し、ビスマスを0.001〜0.050重量%含有し、残部が亜鉛および不可避不純物からなり、かさ密度が2.90g/cm以上であることを特徴とする、アルカリ電池用亜鉛合金粉末。
【請求項7】
前記インジウムの量が0.0005重量%以下または0.005重量%以上であることを特徴とする、請求項6に記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末。
【請求項8】
前記インジウムの量が0.010〜0.020重量%であることを特徴とする、請求項6に記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載のアルカリ電池用亜鉛合金粉末を負極活物質として用いることを特徴とする、アルカリ一次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−80547(P2007−80547A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263191(P2005−263191)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】