説明

アルキルグリニヤール試薬の異性化方法及び有機化合物の製造方法

【課題】 入手容易なアルキルグリニヤール試薬からアルキル基におけるマグネシウム原子の結合位置の異なるアルキルグリニヤール試薬を簡易に且つ効率よく得ることのできるアルキルグリニヤール試薬の異性化方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアルキルグリニヤール試薬の異性化方法は、アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて、該アルキルグリニヤール試薬を異性化することを特徴とする。遷移金属化合物として周期表7族〜12族元素化合物の中から複数の遷移金属化合物を選択して用いることができる。遷移金属化合物として鉄化合物と銅化合物とを用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルグリニヤール試薬の異性化方法と、異性化したアルキルグリニヤール試薬を用いた有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリニヤール試薬(Grignard試薬)は有機合成化学において最も広く用いられている有機金属炭素求核試薬の一つであり、ハロゲン化された周期表第13族〜第15族元素化合物、炭素-酸素二重結合を有する化合物、炭素-窒素多重結合を有する化合物、炭素-炭素二重結合を有する化合物などと反応して有用な有機化合物を与える。
【0003】
例えば、アルキルグリニヤール試薬(RMgX:Rは置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)とハロシラン化合物、ハロホスフィン化合物との反応により、それぞれアルキルシラン化合物、アルキルホスフィン化合物が得られる。また、アルキルグリニヤール試薬と二酸化炭素との反応により、グリニヤール試薬のアルキル基より炭素数が一つ多いカルボン酸(RCOOH)が得られ、アルキルグリニヤール試薬とアルデヒド又はケトンとの反応により対応するアルコールが得られ、アルキルグリニヤール試薬とカルボン酸誘導体との反応により対応するケトン又はアルコールが得られる。さらに、アルキルグリニヤール試薬とイミン又はイミニウム塩とを反応させることにより対応するアミンが得られ、アルキルグリニヤール試薬とニトリルとの反応により非対称ケトンを製造することができる。また、アルキルグリニヤール試薬はアリル位にアルコキシ基を有するアルケン類と反応して付加反応生成物を与える。
【0004】
アルキルグリニヤール試薬は、一般に、ハロゲン化アルキル(RX)とマグネシウム(Mg)とを反応させることにより調製されるが、アルキル基の種類によっては収率良くアルキルグリニヤール試薬を得ることができないことがある。例えば、第1級ハロゲン化アルキルから第1級アルキルグリニヤール試薬を収率良く得ることは困難であることが多い。また、アルキルグリニヤール試薬の原料となるハロゲン化アルキルが入手困難なこともある。そのため、グリニヤール反応により所望の有機化合物を収率良く得られない場合がある。また、ハロゲン化アルキル(RX)は一般に対応するオレフィンを水和、ハロゲン化して調製されるが、多くはハロゲンの位置異性体が副生するので、高純度のグリニヤール試薬を得るには、精製により位置異性体を除去する必要がある。
【0005】
このような問題を解決する手法としてアルキルグリニヤール試薬を異性化する方法が検討されている。例えば、チタン触媒を用いて第2級アルキルグリニヤール試薬を第1級アルキルグリニヤール試薬へ異性化する方法が報告されている(非特許文献1〜3)。この方法によれば、まず合成の容易な第2級アルキルグリニヤール試薬を製造し、次いで得られた第2級アルキルグリニヤール試薬をチタン触媒により所望する第1級アルキルグリニヤール試薬へ変換できるので、有益な反応といえる。しかし、従来の異性化方法では、異性化収率が十分満足できるものではなく、より効率的なアルキルグリニヤール試薬の製造方法、及びこの方法を利用した効率の良い有機化合物の製造方法が求められている。
【0006】
【非特許文献1】J. Org. Chem., 1961, 26, 4779
【非特許文献2】Chem. Ber. 1970, 103, 3830
【非特許文献3】J. Org. Chem., 1962, 27, 1493
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、入手容易なアルキルグリニヤール試薬からアルキル基におけるマグネシウム原子の結合位置の異なるアルキルグリニヤール試薬を簡易に且つ効率よく得ることのできるアルキルグリニヤール試薬の異性化方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、入手容易なアルキルグリニヤール試薬から異性化を経由して、グリニヤール反応により有用な有機化合物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させると、入手容易なアルキルグリニヤール試薬から所望するアルキルグリニヤール試薬に容易に異性化できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて、該アルキルグリニヤール試薬を異性化することを特徴とするアルキルグリニヤール試薬の異性化方法を提供する。
【0010】
前記遷移金属化合物として周期表7族〜12族の遷移金属化合物の中から複数の遷移金属化合物を選択して用いることが好ましい。例えば、鉄化合物と銅化合物とを組み合わせて用いることができる。リン化合物としてホスフィン化合物を用いることができる。
【0011】
上記異性化方法において、第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬若しくはこれらの混合物を第1級アルキルグリニヤール試薬に異性化してもよく、また第1級アルキルグリニヤール試薬を第2級アルキルグリニヤール試薬もしくは第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化してもよい。
【0012】
本発明は、また、第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬又はこれらの混合物に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて第1級アルキルグリニヤール試薬に異性化した後、グリニヤール試薬反応性化合物を反応させて、第1級アルキルグリニヤール試薬に対応する置換又は付加生成物を得ることを特徴とする有機化合物の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、さらに、第1級アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化した後、グリニヤール試薬反応性化合物を反応させて、第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に対応する付加又は置換生成物を得ることを特徴とする有機化合物の製造方法を提供する。
【0014】
前記グリニヤール試薬反応性化合物として、ハロゲン化された周期表第13族〜第15族元素化合物、炭素−酸素単結合を有する化合物、炭素−酸素二重結合を有する化合物、炭素−窒素多重結合を有する化合物、又は炭素−炭素多重結合を有する化合物などが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルキルグリニヤール試薬の異性化を簡易に且つ効率よく行うことができる。そのため、入手容易なアルキルグリニヤール試薬から所望するアルキルグリニヤール試薬を簡易に且つ効率よく製造できる。また、このように異性化したアルキルグリニヤール試薬によるグリニヤール反応を利用して工業上有用な有機化合物を簡易に且つ効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[アルキルグリニヤール試薬の異性化]
本発明の方法において、原料として用いるアルキルグリニヤール試薬(アルキルマグネシウムハライド)としては、特に限定されず、下記一般式(1)
RMgX (1)
(Rは置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表される化合物を使用できる。式(1)で表される化合物は分子内に2以上の−MgX基を有していてもよい。
【0017】
前記Rにおけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、1−メチルブチル、t−ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、1−メチルペンチル、1−エチルブチル、ヘプチル、イソヘプチル、1−メチルヘキシル、1−エチルペンチル、1−プロピルブチル、オクチル、イソオクチル、1−メチルヘプチル、ノニル、イソノニル、1−メチルオクチル、1−エチルヘプチル、デシル、イソデシル、1−メチルノニル、1−エチルオクチル、ドデシル、1−メチルウンデシル基等の炭素数1〜20程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。
【0018】
アルキル基が有していてもよい置換基としては、反応を損なわない置換基であれば特に限定されず、例えば、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子(フッ素原子など)、アリール基(フェニル基、ナフチル基、トリル基などの置換基を有していてもよいフェニル基又はナフチル基等)、脂環式炭化水素基(シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ノルボルニル基やアダマンチル基等の橋架け炭素環式基等)、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基(窒素原子、酸素原子及びイオウ原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を1〜3個有する3〜10員の芳香族性又は非芳香族性の複素環式基等)、−MgX基などが挙げられる。
【0019】
Rとしては、置換基を有していてもよい第2級又は第3級アルキル基、及び2位にアリール基を有するアルキル基(例えば、2−フェニルエチル基、2−ナフチルエチル基等)などが、反応性、入手容易性等の点で好ましい。
【0020】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、中でも塩素原子又は臭素原子が特に好ましい。
【0021】
原料として用いられるアルキルグリニヤール試薬の代表的な例として、例えば、2−フェニルエチルマグネシウムクロリド、2−フェニルエチルマグネシウムブロミド、2−ナフチルエチルマグネシウムクロリド、2−ナフチルエチルマグネシウムブロミド、2−トリルエチルマグネシウムクロリド、2−トリルエチルマグネシウムブロミド、6−フェニル−5−ヘキセニルマグネシウムクロリド、6−フェニル−5−ヘキセニルマグネシウムブロミド等の第1級アルキルグリニヤール試薬;イソプロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムブロミド、s−ブチルマグネシウムクロリド、s−ブチルマグネシウムブロミド、2−ペンチルマグネシウムクロリド、2−ペンチルマグネシウムブロミド、2−ヘキシルマグネシウムクロリド、2−ヘキシルマグネシウムブロミド、3−ヘキシルマグネシウムクロリド、3−ヘキシルマグネシウムブロミド、2−ヘプチルマグネシウムクロリド、2−ヘプチルマグネシウムブロミド、2−オクチルマグネシウムクロリド、2−オクチルマグネシウムブロミド、2−デシルマグネシウムクロリド、2−デシルマグネシウムブロミド、2−ドデシルマグネシウムクロリド、2−ドデシルマグネシウムブロミド、オクタン−2,7−ビス(マグネシウムブロミド)、オクタン−3,6−ビス(マグネシウムブロミド)等の第2級アルキルグリニヤール試薬;t−ブチルマグネシウムクロリド、t−ブチルマグネシウムブロミド、t−ペンチルマグネシウムクロリド、t−ペンチルマグネシウムブロミド等の第3級グリニヤール試薬などが挙げられる。また、−MgX基の結合位置の異なる位置異性体の混合物を用いることもできる。
【0022】
原料として用いるアルキルグリニヤール試薬は、慣用の方法、例えば、対応するアルキルハライド(RX)とマグネシウム(Mg)とをジエチルエーテル等のエーテル中で反応させることにより調製できる。
【0023】
[遷移金属化合物]
遷移金属化合物としては遷移金属元素(周期表3族〜12族元素)を含む化合物であれば特に限定されないが、例えば、マンガン、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛などの周期表7族〜12族元素を含む化合物が好ましい。なかでも、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛を含む化合物が好ましく、とりわけ、鉄又は銅を含む化合物が好ましい。
【0024】
遷移金属化合物としては、例えば、遷移金属の水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシなど)、アリールオキシ(フェノキシなど)、アルキルチオ(メチルチオ、エチルチオ、t−ブチルチオなど)、アリールチオ(フェニルチオなど)、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0025】
遷移金属化合物の具体例としては、例えば、鉄化合物を例にとると、塩化第一鉄、臭化第一鉄、酸化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄などの2価の鉄化合物;塩化第二鉄、臭化第二鉄、酸化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄などの3価の鉄化合物などが挙げられる。また、銅化合物を例にとると、塩化第一銅、臭化第一銅、酸化第一銅、硝酸第一銅、硫酸第一銅、シアン化第一銅などの1価の銅化合物;塩化第二銅、臭化第二銅、酸化第二銅、硝酸第二銅、硫酸第二銅などの2価の銅化合物などが挙げられる。
【0026】
遷移金属化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。例えば、鉄化合物と銅化合物のように、周期表7族〜12族元素化合物の中から複数の遷移金属化合物を選択して組み合わせて用いることにより、異性化率若しくは速度を向上させることができる。また、本発明においては、遷移金属化合物として、高原子価の遷移金属化合物(例えば3価又は2価の遷移金属化合物)と該高原子価遷移金属化合物よりも原子価の低い低原子価遷移金属化合物(例えば2価又は1価の遷移金属化合物)とを組み合わせて用いるのも好ましい。例えば、塩化第二鉄などの3価の遷移金属化合物と臭化第一銅などの1価の遷移金属化合物とを組み合わせると異性化反応が円滑に進行する場合がある。
【0027】
遷移金属化合物の使用量は、原料として用いるアルキルグリニヤール試薬に対して、例えば0.1〜20モル%、好ましくは1〜10モル%、さらに好ましくは2〜5モル%程度である。遷移金属化合物の使用量が少なすぎると異性化速度が遅くなり、逆に多すぎると副反応が生じる場合がある。
【0028】
リン化合物としては有機リン化合物が好ましい。有機リン化合物には、ホスフィン化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、ホスフィニル化合物、チオホスフィニル化合物、ホスホニル化合物、チオホスホニル化合物、ホスホニウム塩、亜ホスホン酸エステル、亜ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルなどが含まれる。これらの中でも、ホスフィン化合物が特に好ましい。
【0029】
ホスフィン化合物として、例えば、メチルホスフィン、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、ブチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1級ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジプロピルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2級ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3級ホスフィン;1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)等のビスホスフィンなどが挙げられる。これらのうち、トリアルキルホスフィン等の第3級ホスフィンが特に好ましい。
【0030】
リン化合物の使用量は、原料として用いるアルキルグリニヤール試薬に対して、例えば1〜30モル%、好ましくは2〜20モル%、さらに好ましくは5〜15モル%程度である。リン化合物の使用量が少なすぎると異性化速度が遅くなり、逆に多すぎると副反応が生じる場合がある。
【0031】
アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物及びリン化合物を作用させる反応は、通常溶媒中で行う。溶媒としては反応に不活性な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の鎖状又は環状エーテルなどが好ましく用いられる。アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物及びリン化合物を作用させる際の温度は、例えば−70℃〜30℃、好ましくは−50℃〜0℃、さらに好ましくは−40℃〜−10℃程度である。
【0032】
アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物及びリン化合物を作用させると、−MgX基のアルキル基における結合位置が移動するため、第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬若しくはこれらの混合物を第1級アルキルグリニヤール試薬に、又は第1級アルキルグリニヤール試薬を第2級アルキルグリニヤール試薬もしくは第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化することができる。すなわち、アルキル基における−MgX基の結合位置が変化した化合物を得ることができる。より具体的には、第2級アルキルグリニヤール試薬である2−ヘキシルマグネシウムハライドや3−ヘキシルマグネシウムハライドを第1級アルキルグリニヤール試薬である1−ヘキシルマグネシウムハライドに、またオクタン−2,7−ビス(マグネシウムブロミド)やオクタン−3,6−ビス(マグネシウムブロミド)を第1級アルキルグリニヤール試薬であるオクタン−1,8−ビス(マグネシウムブロミド)に高収率で異性化することができる。また、第1級アルキルグリニヤール試薬である2−フェニルエチルマグネシウムハライドを第2級アルキルグリニヤール試薬である1−フェニルエチルマグネシウムハライドに良好な収率で異性化できる。さらに、第3級アルキルグリニヤール試薬であるt−ブチルマグネシウムハライドを第1級アルキルグリニヤール試薬であるイソブチルマグネシウムハライドに異性化することも可能である。
【0033】
[有機化合物の製造]
本発明の有機化合物の製造方法では、上記のようにして第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬又はこれらの混合物に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて第1級アルキルグリニヤール試薬に異性化した後、グリニヤール試薬反応性化合物を反応させて、第1級アルキルグリニヤール試薬に対応する置換又は付加生成物を生成させるか、又は、上記のようにして第1級アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化した後、グリニヤール試薬反応性化合物を反応させて、第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に対応する付加又は置換生成物を生成させる。なお、上記第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬又はこれらの混合物を第1級アルキルグリニヤール試薬に異性化する場合、原料中に第1級アルキルグリニヤール試薬が含まれていてもよい。また、上記第1級アルキルグリニヤール試薬を第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化する場合、原料中に第2級アルキルグリニヤール試薬や第3級アルキルグリニヤール試薬が含まれていてもよい。
【0034】
前記グリニヤール試薬反応性化合物としては、グリニヤール試薬に対して反応性を有する化合物であれば特に限定されない。その代表的な化合物として、ハロゲン化された周期表第13族〜第15族元素化合物、炭素−酸素単結合を有する化合物、炭素−酸素二重結合を有する化合物、炭素−窒素多重結合を有する化合物、炭素−炭素多重結合を有する化合物などが挙げられる。
【0035】
ハロゲン化された周期表第13族〜第15族元素化合物としては、例えば、ハロボラン化合物などのハロゲン化されたホウ素化合物、ハロシラン化合物[例えば、クロロ(フェニル)シラン、クロロ(ジフェニル)シラン、ジクロロ(フェニル)シラン、ジクロロ(ジフェニル)シラン、クロロ(メチル)シラン、クロロ(ジメチル)シラン、ジクロロ(ジメチル)シラン等]などのハロゲン化されたケイ素化合物、ハロホスフィン化合物[例えば、ジクロロ(フェニル)ホスフィン、クロロ(ジフェニル)ホスフィン等]などのハロゲン化されたリン化合物などが挙げられる。
【0036】
炭素−酸素単結合を有する化合物としては、例えば、エポキシ化合物、オキシラン化合物などが挙げられ、炭素−酸素二重結合を有する化合物としては、例えば、二酸化炭素;炭酸ジエステル、ハロ炭酸エステル、イソシアナート;アルデヒド、ケトン;カルボン酸ハライド、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、カルボン酸チオエステル、カルボン酸アミド等のカルボン酸誘導体などが挙げられる。炭素−窒素多重結合を有する化合物としては、例えば、イミン、イミニウム塩、ニトリルなどが挙げられる。炭素−炭素多重結合を有する化合物としては、例えば、アリル位又はホモアリル位にアルコキシ基を有する炭素−炭素多重結合含有化合物、電子吸引性基が共役している炭素−炭素多重結合含有化合物などが挙げられる。
【0037】
異性化後のアルキルグリニヤール試薬とグリニヤール試薬反応性化合物との反応(グリニヤール反応)は、一般的なグリニヤール反応と同様の条件で行うことができる。例えば、反応溶媒として、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の鎖状又は環状エーテルなどが好ましく用いられる。反応温度は、反応成分の種類によっても異なるが、一般に−70℃〜100℃の範囲で行われる。
【0038】
異性化後のグリニヤール試薬は適宜な分離精製手段により単離して次のグリニヤール反応に用いてもよいが、単離することなく、異性化反応後の反応混合液をそのまま又は必要に応じて該反応混合液に適宜な物理的処理を施した後の混合液を次のグリニヤール反応に用いることもできる。
【0039】
上記グリニヤール反応により、異性化後のグリニヤール試薬に対応する置換又は付加反応生成物が生成する。例えば、グリニヤール試薬反応性化合物がハロゲン化された周期表第13族〜第15族元素化合物の場合には、アルキル化された周期表第13族〜第15族元素化合物が置換反応生成物として得られる。また、グリニヤール試薬反応性化合物がエポキシ化合物の場合にはエポキシが開環して対応するアルコールが置換反応生成物として得られる。また、グリニヤール試薬反応性化合物が炭素−酸素二重結合を有する化合物、炭素−窒素多重結合を有する化合物又は炭素−炭素多重結合を有する化合物の場合には付加反応生成物が得られる。より具体的には、異性化後のグリニヤール試薬を一般式R′MgX(R′は置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表すと、グリニヤール試薬反応性化合物が二酸化炭素の場合には炭素数の1つ多いカルボン酸(R′COOH)が生成し、グリニヤール試薬反応性化合物が炭酸ジエステルやハロ炭酸エステルの場合には対応するカルボン酸エステルが生成し、グリニヤール試薬反応性化合物がイソシアナートの場合には対応するカルボン酸アミドが生成し、グリニヤール試薬反応性化合物がホルムアルデヒドの場合には炭素数が1つ多い第1級アルコール(R′CH2OH)、グリニヤール試薬反応性化合物が炭素数2以上のアルデヒド(R1CHO)の場合には対応する第2級アルコール(R′R1CHOH)、グリニヤール試薬反応性化合物がケトン(R23C=O)の場合には対応する第3級アルコール(R′R23COH)が生成する。また、グリニヤール試薬反応性化合物がカルボン酸ハライド(R4COY)、カルボン酸無水物(R4COOCOR4)、カルボン酸エステル(R4COOR5)、カルボン酸チオエステル(R4COSR6)の場合には対応する第3級アルコール(R′R′R4CHOH)(但し、グリニヤール試薬反応性化合物がギ酸誘導体の場合には第2級アルコール)が生成する。さらに、グリニヤール試薬反応性化合物がイミンやイミニウム塩の場合は対応するアミンが生成する。また、グリニヤール試薬反応性化合物としてニトリルを用いると非対称ケトンが得られる。上記式におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6は置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。なお、分子内に2以上の−MgX基を有するグリニヤール試薬では、−MgX基の数に応じてグリニヤール試薬反応性化合物が反応しうる。
【0040】
反応生成物は、例えば、一般的なグリニヤール反応生成物の場合と同様の方法で分離精製できる。例えば、反応混合液を、水処理、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどに付すことにより、純度の高い目的化合物を得ることができる。得られた有機化合物は、例えば、医薬、農薬等の精密化学品の中間原料などとして使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、原料として用いたグリニヤール試薬は、対応するアルキルハライドとマグネシウムの切り屑とをジエチルエーテル中で反応させることにより調製した。反応生成物はNMRスペクトル(JEOL JNM LA500 spectrometer、1H,500MHz;13C,125MHz)及びGC−MSスペクトル(Shimazu GCMS−QP5050A)により同定した。
【0042】
実施例1
塩化第二鉄(FeCl3;2.8mg、17.5μmol)、臭化第一銅(CuBr;5.0mg、35μmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;17.4μL、14.1mg、70μmol)をテトラヒドロフラン(THF;2.0mL)に溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミド(0.66mL、1.06M、0.70mmol)のジエチルエーテル溶液を−25℃の温度で加えた。−25℃で10分撹拌後、クロロ(フェニル)シラン(ClSiH2Ph;186μL、1.4mmol)を加え、30℃で2時間撹拌した。その後、水2.0mLとジエチルエーテル1.0mLを加え、有機層をガスクロマトグラフィー(GC分析;内部標準物質:ノナン)に供した。ジエチルエーテル5mLで2回抽出した後、有機層を合わせ、食塩水(5mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸発させ、PTLC(SiO2;ヘキサン)にて精製を行ったところ、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて121mg(収率78%)得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、1:>99であった。
[1−ヘキシル(フェニル)シランのスペクトルデータ]
1H-NMR(500MHz, CDCl3)δ:0.87(t, J=7.0Hz, 3H), 0.90-0.98(m, 2H), 1.21-1.40(m, 6H), 1.41-1.49(m, 2H), 4.28(t, J=3.7Hz, 2H), 7.32-7.42(m, 3H), 7.53-7.59(m, 2H)
【0043】
比較例1
トリブチルホスフィン(PBu3)を用いなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの合計収率は91%であり、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、>99:1であった。
【0044】
実施例2
塩化第二鉄(FeCl3;2.8mg、17.5μmol)、臭化第一銅(CuBr;5.0mg、35μmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;17.4μL、14.1mg、70μmol)をテトラヒドロフラン(THF;2.0mL)に溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミド(0.66mL、1.06M、0.70mmol)のジエチルエーテル溶液を−25℃の温度で加えた。−25℃で10分撹拌後、ベンズアルデヒド(PhCHO;0.47mmol)を加え、−25℃で10分撹拌した。その後、水2.0mLとジエチルエーテル1.0mLを加え、有機層をガスクロマトグラフィー(GC分析;内部標準物質:ノナン)に供した。ジエチルエーテル5mLで2回抽出した後、有機層を合わせ、食塩水(5mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸発させ、PTLC(SiO2;ヘキサン)にて精製を行ったところ、2−メチル−1−フェニルヘキサノール及び1−フェニルヘプタノールが合わせて84%の収率(ベンズアルデヒド基準)で得られた。GC分析の結果、2−メチル−1−フェニルヘキサノールと1−フェニルヘプタノールの生成比率は、2:98であった。
[1−フェニルヘプタノール(=1−フェニル−1−ヘプタノール)のスペクトルデータ]
1H-NMR(500MHz, CDCl3)δ:0.87(t, J=6.9Hz, 3H), 1.20-1.35(m, 7H), 1.26-1.47(m, 1H), 1.66-1.75(m, 1H), 1.76-1.85(m, 1H),4.67(dd, J=7.6, 5.8Hz, 1H), 7.24-7.30(m, 1H), 7.33-7.36(m, 4H)
【0045】
実施例3
塩化第二鉄(FeCl3;2.8mg、17.5μmol)、臭化第一銅(CuBr;5.0mg、35μmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;17.4μL、14.1mg、70μmol)をテトラヒドロフラン(THF;2.0mL)に溶解させた溶液に、2−フェニルエチルマグネシウムクロリド(0.66mL、1.06M、0.70mmol)のジエチルエーテル溶液を−25℃の温度で加えた。−25℃で3時間撹拌後、クロロ(フェニル)シラン(ClSiH2Ph;186μL、1.4mmol)を加え、60℃で3時間撹拌した。その後、水2.0mLとジエチルエーテル1.0mLを加え、有機層をガスクロマトグラフィー(GC分析;内部標準物質:ノナン)に供した。ジエチルエーテル5mLで2回抽出した後、有機層を合わせ、食塩水(5mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸発させ、PTLC(SiO2;ヘキサン)にて精製を行ったところ、フェニル(2−フェニルエチル)シラン及びフェニル(1−フェニルエチル)シランが合わせて59%の収率で得られた。GC分析の結果、フェニル(2−フェニルエチル)シランとフェニル(1−フェニルエチル)シランとの生成比率は、17:83であった。
[フェニル(1−フェニルエチル)シランのスペクトルデータ]
1H-NMR(500MHz, CDCl3)δ:1.45(d, J=7.7Hz, 3H), 2.57-2.66(m, 1H), 4.32(d, J=3.1Hz, 2H), 7.06-7.15(m, 3H), 7.21-7.27(m, 2H), 7.28-7.33(m, 2H), 7.35-7.43(m, 3H)
[フェニル(2−フェニルエチル)シランのスペクトルデータ]
1H-NMR(500MHz, CDCl3)δ:1.27-1.34(m, 2H), 2.74-2.80(m, 2H), 4.32(t, J=3.7Hz, 2H), 7.14-7.21(m, 3H), 7.24-7.30(m, 2H), 7.33-7.42(m, 3H), 7.54-7.59(m, 2H)
【0046】
実施例4
塩化第二鉄(FeCl3;2.8mg、17.5μmol)、臭化第一銅(CuBr;5.0mg、35μmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;17.4μL、14.1mg、70μmol)をテトラヒドロフラン(THF;2.0mL)に溶解させた溶液に、t−ブチルマグネシウムクロリド(0.66mL、1.06M、0.70mmol)のジエチルエーテル溶液を−25℃の温度で加えた。−25℃で2時間撹拌後、クロロ(フェニル)シラン(ClSiH2Ph;186μL、1.4mmol)を加え、30℃で2時間撹拌した。その後、水2.0mLとジエチルエーテル1.0mLを加え、有機層をガスクロマトグラフィー(GC分析;内部標準物質:ノナン)に供した。その結果、t−ブチル(フェニル)シランとイソブチル(フェニル)シランとイソブタンが、生成比率85.9:1.2:12.9で生成していた。
【0047】
実施例5
塩化第二鉄、臭化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を−40℃、24時間としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて78%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、1:>99であった。
【0048】
実施例6
塩化第二鉄、臭化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を−10℃、10分としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて90%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、15:85であった。
【0049】
実施例7
塩化第二鉄、臭化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を−10℃、24時間としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて87%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、12:88であった。
【0050】
実施例8
トリブチルホスフィンの使用量を35μmolにするとともに、塩化第二鉄、臭化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を−10℃、10分としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて76%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、6:94であった。
【0051】
実施例9
トリブチルホスフィンの使用量を140μmolにするとともに、塩化第二鉄、臭化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を−10℃、10分としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて39%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、7:93であった。
なお、撹拌時間を1時間とした点以外は上記と同様の操作を行ったところ、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて56%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、2:98であった。
【0052】
実施例10
塩化第二鉄、臭化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を0℃、1時間としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて87%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、12:88であった。
【0053】
実施例11
臭化第一銅の代わりにシアン化第一銅(CuCN)を35μmol用いるとともに、塩化第二鉄、シアン化第一銅及びトリブチルホスフィンをテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、2−ヘキシルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液を加えて撹拌する際の温度及び撹拌時間を0℃、10分としたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて69%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、76:24であった。
なお、撹拌時間を1時間とした点以外は上記と同様の操作を行ったところ、2−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて88%の収率で得られた。GC分析の結果、2−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、76:24であった。
【0054】
実施例12
塩化第二鉄(FeCl3;2.8mg、17.5μmol)、臭化第一銅(CuBr;5.0mg、35μmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;17.4μL、14.1mg、70μmol)をテトラヒドロフラン(THF;2.0mL)に溶解させた溶液に、3−ヘキシルマグネシウムブロミド(0.66mL、1.06M、0.70mmol)のジエチルエーテル溶液を−25℃の温度で加えた。−10℃で10分撹拌後、クロロ(フェニル)シラン(ClSiH2Ph;186μL、1.4mmol)を加え、30℃で2時間撹拌した。その後、水2.0mLとジエチルエーテル1.0mLを加え、有機層をガスクロマトグラフィー(GC分析;内部標準物質:ノナン)に供した。ジエチルエーテル5mLで2回抽出した後、有機層を合わせ、食塩水(5mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸発させ、PTLC(SiO2;ヘキサン)にて精製を行ったところ、3−ヘキシル(フェニル)シラン及び1−ヘキシル(フェニル)シランが合わせて84%の収率で得られた。GC分析の結果、3−ヘキシル(フェニル)シランと1−ヘキシル(フェニル)シランの生成比率は、97:3であった。
【0055】
製造例1
【化1】

オクタジエン[式(2)]110mg(1mmol)をn−ヘキサンに溶解して、そこにHBr(4mmol)の酢酸溶液を添加し、室温にて14時間撹拌した。適当な後処理後に得られた粗ジブロモオクタン[式(3)]を1H−NMRで分析したところ、1,8−ジブロモオクタン:2,7−ジブロモオクタン:3,6−ジブロモオクタンを72:24:4の比率で得た。得られた粗生成物は精製を行うことなく次工程に用いた。
粗ジブロモオクタン[式(3)]をテトラヒドロフラン(THF)に希釈し、金属マグネシウム(3mmol)を添加した。反応混合物を室温にて2時間撹拌して、粗オクタンジマグネシウムブロミド[式(4)]を得た。得られた粗生成物は精製することなく次工程に用いた。
【0056】
実施例13
【化2】

塩化第二鉄(FeCl3;0.1mmol)、臭化第一銅(CuBr;0.2mmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;0.4mmol)をテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、製造例1で得られた粗オクタンジマグネシウムブロミド[式(4)]を−25℃で加えた。−25℃で2時間撹拌後、ドライアイスを加え、−5℃で1時間撹拌した。その後適当な後処理を行い、粗生成物を取得し、さらに水から再結晶を行い、セバシン酸(Cebacic acid)[式(5)]を89mg[0.44mmol;収率44%(オクタジエンから)]を得た。
【0057】
製造例2
【化3】

1−ヘキセン[式(6a)]、2−ヘキセン[式(6b)]及び3−ヘキセン[式(6c)]の1:1:1の混合物(1.4mmol)をn−ヘキサン中に溶解し、そこにHBr(1mmol)の酢酸溶液を添加し、室温にて2時間撹拌した。適当な後処理後、1−ブロモへキサン[式(7a)]:2−ブロモヘキサン[式(7b)]:3−ブロモヘキサン[式(7c)]を15:14:35の比率で得た。この粗生物中には未反応の1−ヘキセン[式(6a)]、2−ヘキセン[式(6b)]及び3−ヘキセン[式(6c)]が含まれていた。粗生成物は精製することなくそのまま次工程に用いた。
ブロモヘキサン混合物[式(7a)+(7b)+(7c)]をエーテルに希釈し、金属マグネシウム(1.1mmol)を添加し、室温にて2時間撹拌し、粗ヘキサンマグネシウムブロミド混合物[式(8a)+(8b)+(8c)]を得た。得られた粗生成物は精製することなく次工程に用いた。
【0058】
実施例14
【化4】

塩化第二鉄(FeCl3;0.05mmol)、臭化第一銅(CuBr;0.1mmol)及びトリブチルホスフィン(PBu3;0.2mmol)をテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、製造例2で得られた粗ヘキサンマグネシウムブロミド混合物[式(8a)+(8b)+(8c)]を−25℃で加えた。−25℃で2時間撹拌後、クロロフェニルシラン(2.0mmol)を加え、30℃で2時間撹拌した。その後適当な後処理を行い、1−ヘキシル(フェニル)シラン[式(9)]114mg[0.59mmol;収率59%(対HBr)]を取得した。2−ヘキシル(フェニル)シラン及び3−ヘキシル(フェニル)シランの生成は確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて、該アルキルグリニヤール試薬を異性化することを特徴とするアルキルグリニヤール試薬の異性化方法。
【請求項2】
遷移金属化合物として周期表7族〜12族の遷移金属化合物の中から複数の遷移金属化合物を選択して用いる請求項1記載のアルキルグリニヤール試薬の異性化方法。
【請求項3】
遷移金属化合物として鉄化合物と銅化合物とを用いる請求項2記載のアルキルグリニヤール試薬の異性化方法。
【請求項4】
リン化合物としてホスフィン化合物を用いる請求項1記載のアルキルグリニヤール試薬の異性化方法。
【請求項5】
第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬若しくはこれらの混合物を第1級アルキルグリニヤール試薬に、又は第1級アルキルグリニヤール試薬を第2級アルキルグリニヤール試薬もしくは第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化する請求項1〜4の何れかの項に記載のアルキルグリニヤール試薬の異性化方法。
【請求項6】
第2級アルキルグリニヤール試薬、第3級アルキルグリニヤール試薬又はこれらの混合物に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて第1級アルキルグリニヤール試薬に異性化した後、グリニヤール試薬反応性化合物を反応させて、第1級アルキルグリニヤール試薬に対応する置換又は付加生成物を得ることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項7】
第1級アルキルグリニヤール試薬に遷移金属化合物とリン化合物とを作用させて第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に異性化した後、グリニヤール試薬反応性化合物を反応させて、第2級アルキルグリニヤール試薬又は第3級アルキルグリニヤール試薬に対応する付加又は置換生成物を得ることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項8】
グリニヤール試薬反応性化合物が、ハロゲン化された周期表第13族〜第15族元素化合物、炭素−酸素単結合を有する化合物、炭素−酸素二重結合を有する化合物、炭素−窒素多重結合を有する化合物、又は炭素−炭素多重結合を有する化合物である請求項6又は7記載の有機化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−74828(P2008−74828A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61122(P2007−61122)
【出願日】平成19年3月10日(2007.3.10)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】