説明

アルプラゾラムおよび他の薬物を経皮送達するためのパッチ、製剤および関連する方法

本発明は、経皮薬物製剤、このような製剤を取り込んだ経皮パッチ、ならびに関連の方法を目的とする。製剤は、約0.3重量%〜約5重量%のアルプラゾラム等の薬物、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコールを含みうる。他の共溶媒および/または添加物が、100重量%製剤を達成するために存在しうる。本発明の経皮薬物製剤、このような製剤を取り込んだ経皮パッチによって、不安、パニック、またはその他の精神障害を治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
Xanax(登録商標)等の経口アルプラゾラム製品は、不安障害およびパニック障害を治療するために用いられている。しかし、経口アルプラゾラムは典型的に1日1回または2回服用され、患者の血中薬物濃度は広い範囲で変動しうる。したがって、他の製剤および/または送達方法により、従来の送達アプローチを上まわる利益を提供できる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明は、経皮薬物製剤、このような製剤を取り込んだ経皮パッチ、ならびに不安、パニック、またはその他の精神障害を治療するための関連の使用方法を目的とする。一実施形態においては、アルプラゾラムまたは別の薬物の経皮送達のための製剤が提供される。製剤は、約0.3重量%〜約5重量%の薬物、例えばアルプラゾラム、ヒドロモルホン、リスペリドン等、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、および約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコール、ならびに任意に約20重量%〜約85重量%のプロピレングリコールを含みうる。別の実施形態においては、薬物の経皮送達のための製剤は、0.8重量%〜1.8重量%のアルプラゾラム、6重量%〜15重量%の水、20重量%〜35重量%のグリセロール、および2重量%〜4重量%のオレイルアルコール、および/または任意に約20重量%〜約85重量%のプロピレングリコールを含みうる。これらの各成分の他のより具体的な濃度が使用されてもよい。
【0003】
本発明の製剤は、経皮投与のためにパッチに取り込まれうる。一実施形態においては、アルプラゾラムの経皮送達のための経皮パッチは、上述の経皮薬物製剤を含みうる。
【0004】
別の実施形態においては、アルプラゾラムの経皮送達のためのパッチは、経皮薬物製剤アルプラゾラム、水、グリセロール、およびオレイン酸を含み、7〜10のpHを有しうる。アルプラゾラムは、任意の治療的に有効な濃度、例えば製剤の約0.3重量%〜約5重量%、あるいは約1.0重量%〜約1.5重量%で存在すればよく、水は製剤の約6重量%〜約15重量%を占めればよく、グリセロールは製剤の約20重量%〜約35重量%グリセロールを占めればよく、オレイルアルコールは製剤の約2重量%〜約4重量%を占めればよい。
【0005】
さらなる実施形態においては、不安障害またはパニック障害を治療する方法が提供される。方法は、経皮薬物製剤を対象の皮膚表面に塗布し、当該経皮薬物製剤を少なくとも48時間当該皮膚表面と接触させて維持するステップを含む。この方法で使用される経皮製剤は、約0.3重量%〜約5重量%のアルプラゾラム、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、および約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコールを含みうる。製剤は、一実施形態においては、経皮パッチとして適用されうる。
【0006】
別の実施態様においては、ヒドロモルホンの経皮送達のための経皮パッチは、経皮パッチに取り込まれた経皮薬物製剤を含めばよく、経皮薬物製剤には、ヒドロモルホンまたはリスペリドン、約6重量%〜約15重量%の水、約20重量%〜約35重量%のグリセロール、および約2重量%〜約4重量%のオレイルアルコール、ならびに任意に約20重量%〜約85重量%の追加的な溶媒が含まれる。
【0007】
これらおよびその他の実施形態は、本開示を考慮した上で当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例5の製剤B(pHが7.8に調節されたオレイン酸製剤)の薬物動態学的プロフィールのグラフ図である。データは、12人のヒト対象の平均に基づいた。
【図2】実施例5および10の製剤C(pHが7.8に調節されたオレイルアルコール製剤。3%アルプラゾラム)の薬物動態学的プロフィールのグラフ図である。データは、12人のヒト対象の平均に基づいた。
【図3】実施例11の製剤D(pHが7.8に調節されたオレイルアルコール製剤。1%アルプラゾラム)の薬物動態学的プロフィールのグラフ図である。データは、12人のヒト対象の平均に基づいた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の特定の実施形態を開示および説明する前に、本発明が、本明細書に開示される特定のプロセスおよび材料に限定されず、それらはある程度変動しうることが理解されねばならない。また、これも当然のことながら、本明細書において用いられる用語は特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、制限を意図するものではなく、本発明の範囲は、添付の請求の範囲およびその等価物のみにより定義される。
【0010】
本発明を説明および請求する上で、以下の用語が使用される。
【0011】
単数形「1つの(a、an)」、および「前記(the)」は、文脈から明確に別の指示がない限り、複数の指示物を含む。したがって、例えば「皮膚刺激減少剤(skin irritation reduction agent)」への言及は、一つ以上のそのような薬剤への言及を含む。
【0012】
「皮膚」は、無傷の皮膚、病気の皮膚、潰瘍の皮膚、または破損した皮膚であるかを問わない、ヒト皮膚を含むものと定義される。一実施形態においては、皮膚は、無傷の健常な皮膚であるものとして定義される。
【0013】
「薬物(単数または複数)」という用語は、皮膚に対し、皮膚内に、または皮膚を通して適用され、治療効果を達成するために適用される、任意の生物活性薬剤をいう。
【0014】
薬物の「経皮送達」という語句は、皮膚のすぐ下の皮膚組織、皮膚下の局所的組織または臓器、全身循環、および/または中枢神経系を標的としうる。
【0015】
「透過増強薬剤」または「透過促進剤」という語句は、皮膚透過性を高めることができ、薬物のフラックスを治療的に不十分なものから十分なものへと高めるために十分な濃度で使用された場合には、時に皮膚刺激の一因となる、化学物質として定義される。
【0016】
特に明記しない限り、「AUC」(血漿薬物濃度曲線下面積)は、0時間を製剤が皮膚に適用された時点として、0〜72時間までの血漿薬物濃度曲線下面積として定義される。
【0017】
本明細書で使用されるところの、複数の薬物、化合物、および/または溶媒は、便宜のために共通のリストに示されうる。しかし、これらのリストは、リストの各要素が別々かつ唯一の要素として個別に特定されているかのように解釈されねばならない。したがって、このようなリストの個々の要素はいずれも、逆の指定なくしては、それらが共通のグループに示されていることだけに基づいて同じリストの他のいずれの要素の事実上の等価物とも解釈されてはならない。
【0018】
特に明記しない限り、全ての百分率は重量による。濃度、量、および他の数値的データは、本明細書において範囲の形式で表現または提示されうる。当然のことながら、そのような範囲の形式は便宜および簡潔のために使用されるにとどまり、したがって、その範囲の限界として明示的に挙げられる数値だけではなく、全ての個々の数値またはその範囲内に含まれる部分的範囲を、各数値および部分的範囲が明示的に挙げられているかのように含むように、柔軟に解釈されねばならない。例として、「約0.01〜2.0mm」の数値的範囲は、約0.01mm〜約2.0mmの明示的に挙げられる値だけではなく、指定の範囲内の個々の値および部分的範囲を含むように解釈されねばならない。したがって、この数値的範囲に含まれるのは、0.5、0.7、および1.5等の個々の値、ならびに0.5〜1.7、0.7〜1.5、および1.0〜1.5等の部分的範囲である。この同じ原理は、一つの数値だけを挙げる範囲にあてはまる。さらに、このような解釈は、範囲の幅または説明される特性に関係なくあてはまる。
【0019】
当然のことながら、様々な薬物が本発明の実施形態に従って使用されうる。したがって、一般的に薬物を論議しているときには、アルプラゾラム、ヒドロモルホン、リスペリドン等、多くの薬物に適用可能であるものと理解されたい。アルプラゾラムが特に目的とされ、「薬物」という用語への言及はそれぞれ、文脈から別の指定がない限り、明示的にアルプラゾラムを含む。
【0020】
これらの定義に留意して、これに従って、アルプラゾラムの経皮送達のための製剤は、アルプラゾラム等の薬物、水、グリセロール、オレイルアルコール、および任意にプロピレングリコールを含みうる。必要というわけではないが一般に、経皮製剤の粘度は約20,000センチポアズ〜約200,000センチポアズでありうる(多くの場合は適切な増粘剤の助けを借りて)。
【0021】
薬物は、約0.3重量%〜約5重量%で製剤中に存在しうる。一実施形態においては、薬物は、製剤の約0.5重量%〜約3重量%を占めうる。別の実施形態においては、薬物は、製剤の約0.8重量%〜約1.8重量%を占めうる。さらに別の実施形態においては、薬物は、製剤の約1.0重量%〜約1.5重量%を占めうる。アルプラゾラム、ヒドロモルホン、リスペリドンなどは、他の薬物とともに、これらの実施形態における薬物の適切な候補である。
【0022】
水は、全製剤の4重量%〜約30重量%を占めうる。一実施形態において、水は、製剤の5重量%〜約25重量%を占めうる。別の実施形態において、水は、製剤の6重量%〜約15重量%を占めうる。
【0023】
製剤中に存在するグリセロールは、製剤の約10重量%〜40重量%約を占めうる。一実施形態においては、グリセロールは、製剤の約15重量%〜約37重量%を占めうる。別の実施形態においては、グリセロールは、製剤の約20重量%〜約35重量%を占めうる。
【0024】
プロピレングリコールは、本発明の製剤中に存在する場合、約20重量%〜約85重量%を占めうる。一実施形態においては、プロピレングリコールは、製剤の約40重量%〜約70重量%を占めうる。
【0025】
製剤中に存在するオレイルアルコールは、全製剤の約0.5重量%〜約6重量%を占めうる。一実施形態においては、オレイルアルコールは、製剤の約1重量%〜約5重量%を占めうる。別の実施形態においては、オレイルアルコールは、製剤の約2重量%〜約4重量%を占めうる。
【0026】
いくつかの活性薬物では、製剤は、約0.5重量%〜約6重量%のイソステアリン酸を透過促進剤として含みうる。一実施形態においては、イソステアリン酸は、製剤の約1重量%〜約5重量%を占めうる。別の実施形態においては、イソステアリン酸は、製剤の約2重量%〜約4重量%を占めうる。
【0027】
いくつかの活性薬物では、製剤は、約0.5重量%〜約6重量%のオレイン酸を透過促進剤として含みうる。一実施形態においては、オレイン酸は、製剤の約1重量%〜約5重量%を占めうる。別の実施形態においては、オレイン酸は、製剤の約2重量%〜約4重量%を占めうる。
【0028】
エチレングリコール、プロピレングリコール、トロラミン、ブチル化ヒドロキシトルエン、エデンテート二ナトリウム(edentate disodium)、ポリマー、ゼラチン、シリカ等を含むがこれに限られない、追加的な溶剤または共溶媒、賦形剤、充填剤、結合剤などの他の成分が製剤中に存在しうることにも注意されたい。一実施形態においては、追加的な溶媒は、製剤の約20重量%〜約85重量%を占めうる。一実施形態においては、プロピレングリコールが追加的な溶媒であり、製剤の約20重量%〜約85重量%を構成する。別の実施形態においては、プロピレングリコールが追加的な溶媒であり、製剤の40重量%〜70重量%を構成する。別の実施形態においては、プロピレングリコールは追加的な溶媒の一部であり、追加的な溶媒全体は約20重量%〜約85重量%である。別の実施形態においては、追加的な溶媒はプロピレングリコールを含まなくてよいが、約20重量%〜85重量%のプロピレングリコール以外の追加的な溶媒を含む。
【0029】
製剤の長時間安定性を高めるために、一実施形態においては、製剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)またはエデンテート二ナトリウム(edentate disodium)(EDTA)等の安定化化合物を含みうる。理論に制限されるものではないが、薬物(例えばアルプラゾラム)の分解反応を減少または除去し、製剤中の促進剤(オレイン酸、オレイルアルコール)の反応を減少または除去することにより、製剤が安定化されうると考えられる。そのようなものとして、この結果を達成できる任意の薬理学上許容可能な化合物が使用されうる(実施例5、6、および8を参照)。製剤の安定性は、製剤を約7〜約10のpHで維持することによっても増強される(実施例5を参照)。一実施形態においては、製剤の安定性は、製剤中の薬物、例えばアルプラゾラムの分解速度が、25℃で1年あたり5%未満であるようなものである。
【0030】
一部の早期の製剤が有意な皮膚刺激を引き起こすのが認められた後、いかなる特定の理論にも制限されないが、薬物経皮透過フラックスを大幅に犠牲にせずに皮膚刺激機構および皮膚刺激を改善する方法が発見された(この機構は実施例2〜4に記載の実験により後に有効であることが示された)。より詳しくいうと、オレイルアルコールおよびオレイン酸等の透過促進剤を含む製剤は、角質層の死皮膚細胞における主な透過障壁を形成する脂質二重層ならびに生きた皮膚細胞における保護壁が促進剤により乱されるために皮膚刺激を引き起こすというのが、皮膚薬物送達における従来の見解である。角質層に入る透過促進剤は、脱脂およびタンパク質変性をもたらしうる。脱脂およびタンパク質変性は、経皮水分喪失の増加、および生きたケラチノサイトを含むより深い表皮層への促進剤浸透の増加につながり、皮膚刺激を生じさせる。しかし、この描写において見落とされているのは、製剤中の非水溶媒(単数または複数)の影響である。非水溶媒は通常、水性である皮膚中の間質液とは非常に異なる物理化学的特性を有する。例えば、プロピレングリコールの浸透圧は、間質液のものと非常に異なる。製剤が透過促進剤を含まない場合には、非水溶媒(単数または複数)と間質液とが、経皮透過に対する優れた障壁である無傷の角質層により分離される。適切な透過促進剤が使用される場合には、角質層の障壁特性が損なわれ、これにより皮膚を横断した製剤成分の透過性が高まり、非水溶媒と間質液との間の物質交換が可能になる。これにより皮膚細胞が刺激性の非水溶媒にさらされ、そのため皮膚刺激が引き起こされる。
【0031】
したがって、理論に制限されるものではないが、ある量の水が非水溶媒に加えられると、非水溶媒と間質液との間の化学物理的性質の差が減じられ、したがって刺激の可能性が減じられると考えられる。典型的には、非水溶媒への水の添加は、溶液中の薬物の溶解度に密接に関連する透過推進力を変更し、多くの場合には減少する。しかし、このような製剤における水濃度対溶解度曲線は、ある濃度の水(以下では閾値水濃度と称する)が加えられるまで溶解度がゆっくり減少するものであることが多い。この閾値濃度を越えて水を加えると、溶解度およびフラックスが激減する。したがって、製剤の皮膚刺激可能性が有意に減少されうるが経皮薬物透過性は有意に減少されない、狭い水濃度範囲が存在しうると考えられる。
【0032】
経皮製剤は、グリセロールおよび水以外の皮膚刺激減少剤も含みうる。アルプラゾラムまたは他の薬物製剤が一部の患者においていくらかの皮膚刺激を引き起こしうるため、(グリセロールおよび水以外の)追加的な皮膚刺激減少剤(単数または複数)を製剤に含むことが有益でありうる。一実施形態においては、皮膚刺激減少剤は、ヒドロコルチゾン、デキサメサゾン、またはクロベタゾール等のコルチコステロイドでありうる。別の実施形態においては、皮膚刺激減少剤は、ケトプロフェン、ジクロフェナク、またはインドメタシン等の抗炎症剤でありうる。アルプラゾラムまたは他の一次薬物を実質的に妨げず、またはその分解を引き起こさない限りにおいて、他の皮膚減少剤が使用されてもよい。ある実施形態では、製剤およびパッチ中の皮膚刺激減少剤濃度の濃度および量は非常に低いため、1)パッチを用いて生成される血中濃度が毒性レベルよりもはるかに低く;2)パッチ中のその全量が体内に送達されたとしても評価可能な有害な副作用は生じ得ず;および/または3)濃度は、店頭製品についての活性薬剤濃度閾値以下である。
【0033】
上述の通り、本発明の経皮送達製剤は、対象への投与のために経皮パッチに取り込まれうる。一実施形態においては、アルプラゾラムの経皮送達のための経皮パッチが提供される。パッチは、約0.3重量%〜約5重量%のアルプラゾラム、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコール、および約20〜85重量%のプロピレングリコールを有する経皮薬物製剤を含みうる。別の実施形態においては、パッチは、約0.8重量%〜約1.8重量%のアルプラゾラム、約6重量%〜約15重量%の水、約20重量%〜約35重量%のグリセロール、約2重量%〜約4重量%のオレイルアルコール、および約20〜85重量%のプロピレングリコールを有し、7〜10のpHを有する経皮薬物製剤を含みうる。これらの各実施形態においては、他の共溶媒、充填剤、賦形剤、ポリマー、刺激減少剤等も存在しうる。
【0034】
本発明の製剤が経皮パッチに取り込まれる場合には、パッチは、2cm〜100cmの製剤−皮膚接触面積を有しうる。一実施形態においては、72時間で少なくとも10人のヒト成人に投与されたときに、製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルが、少なくとも20ng・hr/mlの平均AUCを生じうる。別の実施形態においては、72時間で少なくとも10人のヒト成人に投与されたときに、製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルが、少なくとも34ng・hr/mlの平均AUCを生じうる。別の実施形態においては、経皮薬物製剤−皮膚接触面積1cmあたりのパッチ中のアルプラゾラムの全量は、2mg/cm未満でありうる。
【0035】
経皮製剤が経皮パッチに取り込まれる場合には、パッチは、貯留パッチまたはマトリックスパッチでありうる。一実施形態においては、経皮パッチは、シリコーンベースの接着剤、アクリルベースの接着剤、またはPIBベースの接着剤等の接着剤が取り込まれた、マトリックスパッチである。あるいは、パッチは貯留パッチでありうる。特に貯留パッチでは、経皮パッチは、多孔性膜、例えば一実施形態においては微孔性非律速膜を含みうる。経皮パッチは、少なくとも0.2mg/24時間、多くの場合には少なくとも0.4mg/24時間の治療的に有効な速度で、少なくとも48時間、アルプラゾラムまたは別の一次薬物を送達するように構成されうる。本発明のパッチは、バッキング層、剥離ライナー等を含む、公知技術の他のパッチ成分または特徴を含みうる。
【0036】
本発明の製剤は、不安およびパニック障害を治療するために用いることができる。一実施形態においては、対象の不安障害またはパニック障害を治療する方法が提供される。方法は、対象の皮膚表面に経皮薬物製剤を適用し、経皮製剤を少なくとも約48時間皮膚表面と接触させて維持する、ステップを含む。経皮製剤は、約0.3重量%〜約5重量%のアルプラゾラム、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、および約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコールを含みうる。ここでも前のように、経皮薬物製剤中に他の成分も調製されうる。
【0037】
本発明における製剤の非活性薬物部分は、容認できない皮膚刺激を伴わずに皮膚透過性改善の目標を達成するために、アルプラゾラム以外の活性薬物とともに使用されうる。それは、本発明の製剤により提供される、容認できない皮膚刺激を伴わない透過性改善の利点が、アルプラゾラムだけでなく他の多くの活性成分でも期待されるからである。例えば、容認できない皮膚刺激を伴わない疼痛管理に治療的に十分な速度での経皮送達のために、アルプラゾラムの代わりにヒドロモルホンが本発明の組成物およびパッチ設計に取り込まれうる。精神分裂症もしくは双極性障害または他の精神障害を治療するために、容認できない皮膚刺激を伴わない治療的に十分な速度での経皮送達のために、アルプラゾラムの代わりにリスペリドンが本発明の組成物およびパッチ設計に取り込まれうる。
【0038】
以下の実施例は、現在最も良く分かっている本開示の実施形態を示す。しかし、当然のことながら、以下は本開示の原理の適用の例示または例証にすぎない。多くの修正および代替的組成物、方法、およびシステムが、本開示の精神および範囲から逸脱することなく当業者により考案されうる。添付の請求の範囲は、このような修正および改変を包含することを意図する。したがって、以上に本開示を具体的に説明しているが、以下の実施例では、現在本開示の最も実際的で好ましい実施形態であると考えられるものと関連して、さらなる詳細を提供する。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
経皮透過方法論
本明細書に記載するin vitroフラックス研究のためのモデル膜として、ヒト表皮膜(HEM)を用いる。様々な皮膚バンクから皮膚分節の皮膚を入手し、冷凍庫に−20℃で保存する。実験を始める前に、皮膚を周囲温度に達するまで室温で解凍する。皮膚膜の小さな長方形の断片を切断し、Franz型拡散セルのドナーおよびレシーバチャンバの間に慎重にマウントした。レシーバチャンバは、pH7.4リン酸緩衝食塩水(PBS)で満たされる。皮膚試料の角質層(SC)にテスト製剤を配置することにより、実験を開始する。Franzセルを37℃で維持される加熱ブロック中に配置し、HMS温度を35℃で維持する。所定の時間的間隔で、5mLのアリコートを回収し、新しいPBS溶液と交換する。皮膚に透過した薬物の累積量対時間のプロットの定常傾斜から、皮膚フラックス(μg/cm/h)を決定する。
【0040】
(実施例2)
刺激減少剤を伴って、および伴わずにアルプラゾラム製剤を用いた経皮フラックス
グリセロールは、ある経皮薬物送達製剤において皮膚刺激の可能性を減じうる。ある経皮薬物送達製剤に水を加えることにより、皮膚刺激を減じうること、および、皮膚薬物透過性を減ずることなく皮膚刺激の減少を提供するための、狭い範囲の製剤中の水濃度がありうることが決定された。in vitro透過性を評価するために、グリセロールおよび水を含むアルプラゾラム製剤を調製する。表1は、調製される製剤の成分(重量%)を挙げる。製剤1は、透過促進剤(オレイン酸)およびアルプラゾラムだけを含む陽性コントロールである。製剤2は刺激減少賦形剤として30%w/wのグリセロールが加えられ、製剤3および4はグリセロールおよび水を有する。製剤3は10重量%の水を有し、製剤4は30重量%の水を有する。全ての製剤が、3%のオレイン酸および過剰アルプラゾラムを有する。表2は、製剤1〜4からのヒト表皮膜を横断したアルプラゾラム透過フラックスデータを提示する。データを生成するために用いる実験の段取りは、実施例1に記載のとおりである。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

製剤2および製剤3のin vitroアルプラゾラム経皮透過の値を比較すると、製剤2への10%の水の添加がアルプラゾラム透過を減少させないことが観察された。しかし、水の量を30%w/wに増やすと(製剤4)、アルプラゾラム透過が16.8±3.5mcg/cm/hrから5.3±0.6mcg/cm/hrに減少した。結果は、フラックスが大幅に減少しない水濃度範囲があることを示す。この範囲を超えて(すなわち30%w/w付近またはこれを超えて)水濃度を増加させると、アルプラゾラム透過の減少が生じる。本実施形態における水濃度範囲は2%〜30%であり、範囲は4%〜20%であることが多く、最も典型的には6%〜15%である。
【0043】
(実施例3)
刺激減少賦形剤を伴う、および伴わない皮膚刺激
先の実施例からのアルプラゾラム製剤2および3の皮膚刺激可能性を、標準的なウサギ皮膚刺激法を用いてテストする。結果が、下表3にまとめられる。
【0044】
【表3】

上記の結果は、製剤中の10%の水の添加により動物の落屑が有意に減少することを示す。アルプラゾラム自体が皮膚刺激を引き起こすとは知られていないため、これらの結果が薬物特異的であるとは考えられないことに留意されたい。上記の実験データに基づいて、この水濃度範囲が2%〜30%、4%〜20%、多くの場合には6%〜15%あたりであると考えられる。
【0045】
(実施例4)
製剤Aの皮膚刺激結果
12人の個体からの刺激スコアを、下記の製剤Aを含む32cmパッチの除去後に評価した。除去後24時間にわたり個体を評価した。パッチ除去直後に12人のボランティア中10人の刺激スコアはスコア2を有し、残りの2人のボランティアはスコア1を有した。スコア2は容易に目に見えるはっきりした紅斑を有するボランティアをさし、スコア1はかろうじて目に見えるわずかな紅斑の皮膚反応をさす。除去の24時間後、刺激スコア2のボランティアが10人から4人に減った。対して、水およびグリセロールなしで製剤Aの構成成分を含むプラセボ製剤を、社内研究において6人のボランティアが着用した。研究参加者全員が、過度の刺激により着用の6〜12時間後にパッチを除去した。このデータは、先の実施例における動物研究の結果と合わせて、本製剤の刺激可能性を減少させる上での水およびグリセロールの価値を際立たせる。
【0046】
【表4】

製剤中の水、グリセロール、およびオレイルアルコールの濃度は、適切な範囲内にあるときに最も有効である。水および/またはグリセロールの低すぎる濃度は、許容可能程度を超える皮膚刺激を引き起こしうる一方、水および/またはグリセロールの高すぎる濃度は、許容可能程度より低いアルプラゾラムの経皮フラックスを引き起こしうる。オレイルアルコールの高すぎる濃度および低すぎる濃度は、それぞれ過度の皮膚刺激または経皮アルプラゾラムフラックスの不足を引き起こしうる。
【0047】
(実施例5)
アルプラゾラム貯留製剤の安定性評価
下表5にまとめられるように一定の成分で製剤A〜Cを調製した。各製剤で、25℃および40℃で6ヶ月間アルプラゾラム安定性を研究した。安定性の結果が、下表6にまとめられる。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

25℃および40℃で保存した製剤A試料には、製剤BおよびCに対して、アルプラゾラム不純物(製剤中のアルプラゾラムと他の成分(単数または複数)との間の化学反応生成物)の有意な増加がみられた。これらの結果は、製剤のpHを増加させることにより、形成される不純物の割合に実質的減少が生じたことを示唆する。
【0050】
理論に制限されるものではないが、より低いpHでの最高速度での不純物の形成は、pH、温度、および製剤賦形剤に依存すると考えられるベンゾジアゼピン環の分子内転位の結果であると思われる。次の実施例で述べるように、研究されるpH範囲内の製剤における促進剤オレイン酸の分解速度は参考になり、製剤はヒト薬物動態学的研究において非常に遅く望ましくない血漿中薬物濃度対時間曲線を生成した。促進剤を、オレイン酸からオレイルアルコールに切替えた(製剤C)。促進剤としてオレイルアルコールを用いたこの研究において形成されるアルプラゾラムの不純物が検知不可能なレベルであることから、評価可能な不純物の増加はみられなかった。このことから、pHおよび/またはオレイン酸がアルプラゾラムの分解に寄与すると考えられる。
【0051】
(実施例6)
透過促進剤としてのオレイルアルコール。
【0052】
透過促進剤をオレイン酸(製剤A、B)からオレイルアルコールに切替えることにより、製剤安定性がさらに改善されることが予想された。実施例5の製剤BおよびCを、その安定性を研究するために、6ヶ月間25℃および40℃の安定性チャンバに配置した。40℃で6ヶ月後に、オレイルアルコール濃度およびオレイン酸濃度はそれぞれ、ラベル表示の100%および95%であった。
【0053】
【表7】

製剤Cのオレイルアルコール濃度は、25℃および40℃での本研究の6ヶ月間を通じて不変だった。このデータは、6ヶ月の安定の後に最も低い全アルプラゾラム不純物を有する製剤Cの対応するアルプラゾラム分解速度(実施例5)とあわせると、この製剤が最も安定することを示唆する。これに対して、製剤Bは、40℃で6ヶ月後にオレイン酸濃度の比較的有意な減少と、やや高いアルプラゾラム不純物(実施例5)を有した。表7の結果は、オレイルアルコールベースの製剤(製剤C)が、オレイン酸ベースの製剤(製剤B)よりも安定した製剤であることを示唆する。
【0054】
(実施例7)
透過促進剤としてのオレイルアルコールの有効性。
【0055】
12人を対象とした第I相ヒト臨床研究において、製剤BおよびCを研究した。0.86グラムの製剤BまたはCを含み、6.23cmの製剤−皮膚接触面積を有する貯留パッチが、各研究対象の上腕に72時間着用された。72時間の着用期間およびパッチ除去後のもう72時間の間に、所定の時間的間隔で血液試料をとった。製剤BおよびCについての、時間の関数としての平均アルプラゾラム血漿中濃度が、それぞれ図1および2にまとめられる。
【0056】
製剤B適用後72時間のアルプラゾラム血漿中濃度は増加し続け、72時間の着用期間中に定常状態に達しなかった。これに対して、製剤Cではアルプラゾラム血漿中濃度が約24時間で定常状態に達した。
【0057】
製剤Bのほうが同じ72時間の間により多くの薬物を送達することが可能でありうるものの、製剤Cにより生成されるアルプラゾラム血漿中濃度対時間のプロフィール(薬物動態学的プロフィール)のほうが望ましい。これは、製剤Cパッチ(毎72時間)の連続適用により、より小さな血漿中アルプラゾラム濃度におけるピーク−トラフ差が生成される(より速く定常状態の血漿中濃度に達することができるため)と期待され、それは患者に重要であると考えられるからである。
【0058】
(実施例8)
BHTおよびEDTAの添加
実施例5の製剤Aの安定性促進の間に、製剤の変色の観察を記録した。理論に制限されるものではないが、製剤の変色は主に製剤中のオレイン酸の酸化反応の結果であると考えられる。この変色を減少または除去する試みにおいて、BHTおよびEDTAを製剤に加えた。下表1は、BHTおよびEDTAの添加を伴う、または伴わない、製剤BおよびCの結果をまとめる。
【0059】
【表8】

BHTおよびEDTAを伴わない製剤Bの呈色を、1ヶ月後に40℃で、および4ヶ月後に室温で観察した。40℃での色の変化は、1ヶ月の評価後観察ごとにより顕著になった(より濃い黄色になった)。製剤BへのBHTおよびEDTAの添加は、室温の試料の変色を6ヶ月まで解消し、40℃で2ヶ月後に黄色が観察された。製剤CへのBHTおよびEDTAの添加は、室温および40Cで保存して6ヶ月後に試料の変色がみられなかった。
【0060】
(実施例9)
薬物濃度の関数としてのアルプラゾラムin vitro透過性
下表9に示すように、異なるアルプラゾラム濃度を伴う(が他の点では非常に類似の)アルプラゾラム製剤を調製した(製剤DおよびE)。
【0061】
【表9】

【0062】
【表10】

皮膚フラックスは通常、高い薬剤濃度でより高いか、少なくとも同じであるため、製剤D(1%アルプラゾラム)およびE(1.5%アルプラゾラム)が製剤C(3%アルプラゾラム)より高い透過フラックスを生成したことは意外だった。
【0063】
(実施例10)
3%アルプラゾラムを含む製剤のヒト薬物動態。
【0064】
実施例9のように0.86グラムの製剤C(3%アルプラゾラム)を含む貯留パッチを、12人のヒト対象で試験した。貯留パッチは、6.23cmの皮膚−製剤接触面積を有した。パッチを、除去の前に72時間対象の皮膚に適用する。パッチ適用後のアルプラゾラムの平均血漿中濃度が、図2に示される。0〜72時間、0〜144時間、および0〜無限時間の平均血漿中薬物濃度曲線下面積(AUC)の値は、それぞれ172.80、238.57、および271.11ng・hr/mLであった。したがって、パッチの製剤−皮膚接触表面積の各平方センチメートルが、0〜72時間、0〜144時間、および0〜無限時間の時間的間隔において、それぞれ27.7、38.3、および43.5ng.hr/mL/cmの平均AUCを生じた。
【0065】
(実施例11)
1%アルプラゾラムを含む製剤のヒト薬物動態
実施例9の製剤D(1%アルプラゾラム)を0.86グラム含む貯留パッチを、12人のヒト対象で試験した。貯留パッチは、6.23cmの皮膚−製剤接触面積を有した。パッチを、除去の前に72時間対象の皮膚に適用する。各パッチ適用後のアルプラゾラムの平均血漿中濃度が、図3に示される。0〜72時間、0〜144時間、および0〜無限時間の平均血漿中薬物濃度曲線下面積(AUC)の値は、それぞれ302.15、429.21、および470.22ng.hr/mLであった。したがって、パッチの製剤−皮膚接触表面積の各平方センチメートルが、0〜72時間、0〜144時間、および0〜無限時間の時間的間隔において、それぞれ48.5、68.9、および75.5ng.hr/mL/cmの平均AUCを生じた。
【0066】
実施例10の製剤が3%のアルプラゾラムを含み、実施例11の製剤が1%のアルプラゾラムを含むことを除き、実施例9および10の製剤はほぼ同一である。驚くべきことに、より低い活性薬物濃度(1%)から、高い活性薬物濃度(3%)よりも有意に高い(70〜80%高い)AUCがヒト被験者において生じた。
【0067】
アルプラゾラムを送達する製剤の能力は、ヒト被験者において製剤−皮膚接触表面積の各平方センチメートルにより生じる、ある時間にわたる血漿中薬物濃度対時間曲線下面積(AUC)により特徴付けられうる。不安障害またはパニック障害を治療するためのアルプラゾラムの経皮送達では、72時間にわたり製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルにより約20ng・hr/mlの最少平均AUCが生じるのが望ましい。72時間にわたり製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルにより約34ng・hr/mlの平均AUCが生じるのが、より典型的である。ランダムに選択された少なくとも10人の健常成人ボランティアの群におけるAUCの平均としてここに定義される平均AUC。
【0068】
製剤−皮膚接触表面積単位によってより高いAUCが生じることは、治療的量の活性薬物がより患者に優しく費用効果的であると思われるより小さなパッチで経皮送達されるのを可能にするため、非常に有益である。低濃度のアルプラゾラムを用いて治療レベルの血液中薬物濃度を生成できることによる別の利益は、濫用可能性の最小化である。アルプラゾラムは、濫用可能性のある物質である。新しいパッチおよび使用済みパッチにおけるアルプラゾラムの量を最小限にすることにより、濫用可能性が最小限になる。上の製剤CおよびDにおいては、全製剤−皮膚接触面積により分割されるアルプラゾラムの全量は、それぞれ4.1および1.4mg/cmである。実施例11の製剤Dは、より低い濫用可能性を有する。
【0069】
(実施例12)
アルプラゾラム製剤のヒト薬物動態
パッチが20cmの製剤−皮膚接触面積を有し、2.76グラムの製剤を含むことをのぞき、実施例11において使用したものと類似のパッチおよび製剤を調製する。パッチは、0〜72時間、0〜144時間、および0〜無限時間の期間で、12人のヒト対象において、それぞれ970、1378、および1510ng.hr/mLの平均AUC値を生じる。
【0070】
(実施例13)
アルプラゾラム製剤のヒト薬物動態
パッチが10cmの製剤−皮膚接触面積を有し、1.38グラムの製剤を含むことをのぞき、実施例11において使用したものと類似のパッチおよび製剤を調製する。パッチは、0〜72時間、0〜144時間、および0〜無限時間の期間で、12人のヒト対象において、それぞれ485、689、および755ng.hr/mLの平均AUC値を生じる。
【0071】
(実施例14)
コルチコステロイドを含むアルプラゾラム製剤
製剤が皮膚刺激を最小限にするための0.2%(重量)のヒドロコルチゾンをさらに含むことを除き、実施例12のものと類似の貯留パッチを調製する。パッチ中のヒドロコルチゾンの全量は、6mg未満である。パッチ中のヒドロコルチゾンが72時間のパッチ適用時間で全て患者の体内に吸収されても、このヒドロコルチゾンの量から評価可能な有害な全身性副作用が引き起こされることは期待されない。0.2%のヒドロコルチゾンを含むヒドロコルチゾンゲルも、US FDAによる他の条件を満たせば米国における店頭製品として適格であろう。
【0072】
(実施例15)
抗炎症剤を含むアルプラゾラム製剤
製剤が皮膚刺激減少剤としてヒドロコルチゾンの代わりに1%のケトプロフェンを含むことを除き、実施例14のものと類似のパッチを調製する。
【0073】
(実施例16)
Solupor膜を横断したアルプラゾラム放出。
【0074】
上記実施例のものと類似の製剤を保つために、(バッキング層および皮膚接触膜を伴う、業界で使用されるものと類似の)貯留パッチ構造を用いた。パッチの貯留部内に薬物製剤を保つが、パッチからの薬物の放出を制限しないように、適切な膜を用いた。製剤からのこのような膜を横断したアルプラゾラム透過が、パッチ開発における検討事項であった。連続EVA(エチレンビニルアセテート)フィルムおよび微孔性フィルム膜を、評価した。EVAフィルムは、薬物放出およびその後のHEMを横断した透過を妨げたため、パッチ構築において使用されなかった。83%の多孔率、10g/mの基本重量、および0.05〜5ミクロンのCoulter孔サイズ分布(バブルポイント測定およびポロシメトリにより測定)の微孔性ポリエチレン膜(Solupor膜)から良好な結果が得られた。これは、バルク製剤に対しては透過可能でないとともに、貯留パッチ内の製剤から皮膚へのアルプラゾラム透過に対して律速的でない(すなわち膜を横断した透過が皮膚を横断した透過よりもはるかに速い)、微孔性膜である。換言すればそれは、アルプラゾラム製剤が容易に流出することを可能にし、製剤の経皮透過に負の影響を与えないとともに、薬物製剤を貯留部内に漏らさずに保つことが可能な、厚みと多孔率のバランスを有する。
【0075】
より具体的には、HEMと製剤の間にSolupor膜を配置するステップを含む段取りにおいて、HEMを横断したアルプラゾラム透過を研究した。SoluporおよびHEMを横断したアルプラゾラム透過は、製剤が直接HEM上に配置されたときのアルプラゾラムの透過と統計学的に異ならず、膜が皮膚を横断した薬物透過を制限しないことを示した。膜を横断した透過を最適にするためには、製剤の粘度が高すぎても低すぎてもならない。粘度が高すぎる場合には、Solupor膜を横断した製剤透過性が、吸収プロセス全体において律速的であるほど低くなりうる。粘度が低すぎる場合には、バルク製剤液体がSolupor膜を横断して貯留部から漏出しうる。許容可能な粘度範囲は、ある実施形態においては7,000〜700,000センチポアズ、より多くの場合には20,000〜200,000センチポアズでありうる。ブルックフィールド粘度計を用いて粘度測定を行った。小試料アダプタにおいて25℃でスピンドルS−14を4rpmで用いて、製剤を測定した。
【0076】
(実施例17)
薬物濃度の関数としてのアルプラゾラムin vitro透過性
アルプラゾラム濃度が異なる(しかしそれ以外の点では非常に類似した)アルプラゾラム製剤を、下表11に示すように調製した。
【0077】
【表11】

【0078】
【表12】

表12に示されるin vitroアルプラゾラム経皮透過データは、定常状態フラックスが、1.2%〜1.5%の間のアルプラゾラム濃度範囲で比較的不変にとどまり、この濃度範囲において、1%アルプラゾラム製剤よりもフラックスが高かったことを示す。
【0079】
実験の段取りおよび使用される皮膚試料に内在する変動性により、本実施例からのフラックス値が、実施例9のアルプラゾラムのフラックス結果と異なることは意外ではない。したがって、in vitro透過データを報告する実施例は、独立して評価されねばならない。
【0080】
(実施例18)
薬物濃度の関数としてのアルプラゾラムin vitro透過性
実施例9からのアルプラゾラム製剤DおよびE、ならびに実施例17からの製剤Gを、各実施例に示すように調製した。それぞれが異なる濃度のアルプラゾラムを含んだが、他の点では非常に類似する。便宜のために、製剤を表13に再掲している。表14は、製剤D、E、およびGからの、ヒト表皮膜を横断したアルプラゾラム透過フラックスのデータを示す。データを生成するために用いた実験の段取りは、実施例1に記載の通りである。
【0081】
【表13】

【0082】
【表14】

本実施例で生成されたアルプラゾラムのフラックスデータは、製剤Gが製剤DおよびEよりも高いフラックスを生成することを示す。
【0083】
実験の段取りに内在する変動性および使用される皮膚試料の違いにより、本実施例からのフラックス値が先の実施例(すなわち実施例9および17)のアルプラゾラムのフラックスの結果と異なることは意外ではない。したがって、これらの実施例において報告されるin vitro透過の値は、独立して評価されねばならない。これを念頭に、本実施例および先の実施例9および17から、いくつかの興味深い傾向を読み取ることができる。物質移動式は、律速膜を横断した溶質(薬物)の透過が膜の「ドナー」または試料側の薬物濃度に比例することを予測する。この濃度依存性は、薬物がその平衡溶解度で存在するまで保たれ、その場合にはこの溶解度値を上回るいかなる量の製剤も(過飽和状態はないと仮定して)律速膜を横断した薬物透過の増加をそれ以上もたらすことはない。実施例9、17、および18は、アルプラゾラム濃度が、約1.0〜1.5重量%1.3〜1.4%アルプラゾラムと推計される、製剤中における溶解度値に近づくとともに、アルプラゾラム透過が減少するという、予想外の結果を示す(実施例9を参照)。その透過が最大である、1〜1.5%の間のアルプラゾラム濃度の領域があることが決定された。実施例17および18は、最大経皮透過のアルプラゾラム濃度値が約1.3%であることを示す。上記のように活性薬物濃度を増加させると(例えば1.0〜1.3〜1.5〜3.0%へ)フラックスは増加するか、または比較的一定にとどまるが減少はしないと予想されるため、この所見は意外である。
【0084】
(実施例19)
ヒドロモルホンHCl製剤
in vitro透過性を評価するために、プロピレングリコール、水、およびISAを含むヒドロモルホンHCl製剤を調製した。表15は、調製した製剤の成分(重量%)をリストする。表16は、製剤XおよびYからの、ヒト表皮膜を横断したアルプラゾラム透過フラックスデータを提示する。データを生成するために用いた実験の段取りは、実施例1に記載の通りである。
【0085】
【表15】

【0086】
【表16】

製剤Xおよび製剤Yの皮膚フラックスを比較して、ヒドロモルホンのフラックスを増加させる上で製剤中のイソステアリン酸の存在が重要であることが観察される。
【0087】
(実施例20)
リスペリドンの経皮送達
精神分裂症または双極性障害あるいはその他の精神障害を治療するための、リスペリドンの経皮送達のための製剤およびパッチを作製する。製剤は、アルプラゾラムを有さず、3重量%リスペリドンを含む点を除き、実施例19のものと類似である。
【0088】
本発明が一定の好ましい実施形態に関して記載されているが、当業者には当然のことながら、様々な修正、変更、省略、および置換が本発明の精神から逸脱することなく行われうる。したがって、本発明は添付の請求の範囲のみにより制限されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の経皮送達のための製剤であり、
約0.3重量%〜約5重量%の薬物と、
約4重量%〜約30重量%の水と、
約10重量%〜約40重量%のグリセロールと、
約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコールと
を含む、製剤。
【請求項2】
約20重量%〜約85重量%の追加的溶媒をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記薬物が、ヒドロモルホンまたはリスペリドンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記薬物が、アルプラゾラムである、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
アルプラゾラムが、前記製剤の約0.5重量%〜約3重量%を構成する、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
アルプラゾラムが、前記製剤の約0.8重量%〜約1.8重量%を構成する、請求項4に記載の製剤。
【請求項7】
アルプラゾラムが、前記製剤の約1.0重量%〜約1.5重量%を構成する、請求項4に記載の製剤。
【請求項8】
水が、前記製剤の約5重量%〜約25重量%を構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
水が、前記製剤の約6重量%〜約15重量%を構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
グリセロールが、前記製剤の約15重量%〜約37重量%を構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
グリセロールが、前記製剤の約20重量%〜約35重量%を構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記オレイルアルコールが、前記製剤の約1重量%〜約5重量%を構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
前記オレイルアルコールが、前記製剤の約2重量%〜約4重量%を構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記追加的溶媒が、プロピレングリコールを含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記製剤が、7.0〜10のpHを有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
前記製剤が、BHTおよびEDTAからなる群より選択される化合物を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
前記製剤が、コルチコステロイドおよび抗炎症剤からなる群より選択される皮膚刺激減少剤を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項18】
前記製剤中の前記アルプラゾラムが、25℃で1年あたり5%未満の分解速度を有する、請求項4に記載の製剤。
【請求項19】
前記製剤が、約20,000センチポアズ〜約200,000センチポアズの粘度を有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項20】
経皮パッチに取り込まれる、請求項1に記載の製剤。
【請求項21】
アルプラゾラムの経皮送達のための経皮パッチであり、
経皮パッチに取り込まれた経皮薬物製剤を含み、該経皮薬物製剤が、約0.3重量%〜約5重量%のアルプラゾラム、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコール、および任意に約20重量%〜約85重量%の追加的溶媒を含む、経皮パッチ。
【請求項22】
前記パッチが、2cm〜100cmの製剤−皮膚接触面積を有する、請求項21に記載の経皮パッチ。
【請求項23】
前記パッチが、5cm〜60cmの製剤−皮膚接触面積を有する、請求項21に記載の経皮パッチ。
【請求項24】
前記製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルが、少なくとも10人のヒト成人に72時間の期間投与されたときに少なくとも20ng・hr/mlの平均AUCを生成する、請求項23に記載の経皮パッチ。
【請求項25】
前記製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルが、少なくとも10人のヒト成人に72時間の期間投与されたときに少なくとも34ng・hr/mlの平均AUCを生成する、請求項23に記載の経皮パッチ。
【請求項26】
前記製剤−皮膚接触面積の各平方センチメートルが、少なくとも10人のヒト成人に72時間の期間投与されたときに少なくとも50ng・hr/mlの平均AUCを生成する、請求項23に記載の経皮パッチ。
【請求項27】
前記経皮薬物製剤−皮膚接触面積1cmあたりの前記パッチ中のアルプラゾラムの全量が、2mg/cm未満である、請求項23に記載の経皮パッチ。
【請求項28】
前記パッチが、微孔性非律速膜を含む、請求項21に記載の経皮パッチ。
【請求項29】
前記パッチが、少なくとも48時間の期間、治療的に有効な速度でアルプラゾラムを送達するように構成される、請求項21に記載の経皮パッチ。
【請求項30】
対象の不安障害またはパニック障害を治療する方法であり、
経皮薬物製剤を対象の皮膚表面に塗布するステップであり、該経皮製剤が、約0.3重量%〜約5重量%のアルプラゾラム、約4重量%〜約30重量%の水、約10重量%〜約40重量%のグリセロール、および約0.5重量%〜約6重量%のオレイルアルコール、ならびに任意に約20重量%〜約85重量%の追加的溶媒を含む、ステップと、
該経皮薬物製剤を、少なくとも48時間の期間、該皮膚表面と接触させて維持するステップと
を含む、方法。
【請求項31】
前記塗布するステップが、前記経皮薬物製剤を含む経皮パッチとして、該経皮薬物製剤を前記皮膚表面に塗布することによる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
アルプラゾラムの経皮送達のための製剤であり、
アルプラゾラムと、
約6重量%〜約15重量%の水と、
約20重量%〜約35重量%のグリセロールと、
約40重量%〜約70重量%のプロピレングリコールと、
約2重量%〜約4重量%のオレイルアルコールと
を含む、製剤。
【請求項33】
経皮パッチに取り込まれる、請求項32に記載の製剤。
【請求項34】
前記製剤が7〜10のpHを有する、請求項32に記載の製剤。
【請求項35】
前記アルプラゾラムが、約1.0重量%〜約1.5重量%で存在する、請求項32に記載の製剤。
【請求項36】
アルプラゾラムの経皮送達のための経皮パッチであり、
経皮パッチに取り込まれた経皮薬物製剤を含み、該経皮薬物製剤が、約1.0重量%〜約1.5重量%のアルプラゾラム、約6重量%〜約15重量%の水、約20重量%〜約35重量%のグリセロール、約40%〜約70%のプロピレングリコール、約2重量%〜約4重量%のオレイルアルコールを含み、7〜10のpHを有し;該製剤と該皮膚との間の接触面積の各平方センチメートルが、少なくとも10人のヒト成人に72時間の期間投与されたときに少なくとも50ng.hr/mlの平均AUCを生成できる、経皮パッチ。
【請求項37】
ヒドロモルホンの経皮送達のための経皮パッチであり、
経皮パッチに取り込まれた経皮薬物製剤を含み、前記経皮薬物製剤が、ヒドロモルホン、約6重量%〜約15重量%の水、約20重量%〜約35重量%のグリセロール、および約2重量%〜約4重量%のオレイルアルコール、ならびに任意に約20重量%〜約85重量%の追加的溶媒を含む、経皮パッチ。
【請求項38】
リスペリドンの経皮送達のための経皮パッチであり、
経皮パッチに取り込まれた経皮薬物製剤を含み、前記経皮薬物製剤が、リスペリドン、約6重量%〜約15重量%の水、約20重量%〜約35重量%のグリセロール、約2重量%〜約4重量%のオレイルアルコール、および任意に約20重量%〜約85重量%の追加的溶媒を含む、経皮パッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−507904(P2011−507904A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539885(P2010−539885)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/087734
【国際公開番号】WO2009/086137
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(510169826)ザーズ ファーマ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】