説明

アルミナ粒子複合体、アルミナ粒子複合体の製造方法、樹脂組成物、及び樹脂組成物の製造方法

【課題】透明性を保持しながら機械的強度の優れる、樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アルミナ粒子と、このアルミナ粒子に化学結合を介して結合した有機酸とを含むことを特徴とする、アルミナ粒子複合体を樹脂中に含有させて樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ粒子複合体、アルミナ粒子複合体の製造方法、樹脂組成物、及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラス代替に適用可能な透明樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、エポキシ系樹脂等がある。自動車用部品の中で樹脂ガラスは、無機ガラスに比べ耐衝撃性、軽量性、成形性に優れる特徴を有しているが、現在の技術を用いて無機ガラスの代替で用いる為には、線膨張係数、剛性・強度、難燃性の課題があり、乗員保護の観点から車両用部品に求められる性能を満たすことが出来ておらず、自動車に使われている透明樹脂材料はヘッドランプをはじめとする自動車用灯火カバーなど小さいものに限られているのが現状である。
【0003】
樹脂の透明性と機械強度の向上を両立させる為には、今活発に行われている無機系微粒子材料を前記樹脂中に配合する有機・無機ナノコンポジット材の研究がその課題の方策の一つとなる。たとえば代表的なもので、豊田中研の「複合材料及びその製造方法」(特許第2619046)や宇部興産他の「ポリアミド複合材料及びその製造方法」(特公平7−47644)、昭和電工の「ポリオレフイン系複合材料およびその製造方法」(特開平10-30039)などが挙げられる。
【0004】
上記のようなナノオーダーレベルの充填剤を用いたポリマーコンポジットではいずれの場合も、充填剤の樹脂中の分散が透明性の維持、物性の向上の大きなポイントであり、分散性を上げるため、微小な粒子の選択、粒子の表面処理、コンポジット合成の最適化を組み合わせた他種様々な分散方法が開示されている。たとえば前述の特公平7−47644ではモンモリロナイトの層間にナイロンの原料カプロラクタムを含浸させて重合させナイロンと充填材のコンポジットを得る方法である。しかしながら、この方法では機械的物性(強度、弾性率、表面硬度および耐熱性)の向上は認められるものの、透明性の不足をはじめとして、吸湿性の点や、表面硬度の点で用途が限られたものとなり、用途例は少ない。
【0005】
一方、剛性・強度等の物性の改良と透明性を両立するために、本出願人は「樹脂製ウィンドウ及びその製法」(特開平11−343349)なる出願を行い、透明な非結晶の有機高分子に、剛性の向上等を目的として可視光線波長以下の径を有する微細なシリカを配合した透明樹脂組成物からなる樹脂製ウィンドウを開示している。前記透明樹脂組成物を得るに際しては、透明な非結晶の有機高分子を生成する過程で溶剤に分散させた表面疎水化シリカ微粒子を添加及び混合して反応系を生成し、次いで、前記反応系に対して凝固剤溶剤を添加することにより沈降させ、シリカ微粒子と有機高分子とからなる前記透明樹脂組成物を得るものである。
【0006】
しかしながら、前記方法で得た前記透明樹脂組成物においては、ある程度の透明性を保持した状態で、強度、弾性率、耐衝撃性などの諸特性を向上させることができるが、シリカ粒子のアスペクト比が1であることから、透明性を除く前記諸特性を十分に向上させることができず、結果として、自動車部品などの実用に供することができないでいた。
【0007】
以上のように、ポリマーナノコンポジットとその製造方法については様々な検討がなされているが、未だ決定的な技術は確立できていない。
【特許文献1】特許第2519045
【特許文献2】特公平7−47644
【特許文献3】特開平10−30039
【特許文献4】特開平11−343349
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明性を保持しながら機械的強度の優れる、樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明は、
アルミナ粒子と、このアルミナ粒子に化学結合を介して結合した有機酸とを含むことを特徴とする、アルミナ粒子複合体に関する。
【0010】
上述したように、従来では、機械的な特性と透明性をはじめとする光学的特性との間にはトレードオフの関係があり、機械的特性を向上させようとすると光学的特性が劣化する傾向にあり、光学的特性を向上させようとすると機械的特性が劣化する傾向にあり、両者を同時に達成することは不可能であると考えられていた。
【0011】
しかしながら、本発明では、アルミナ粒子に対して有機酸を化学的に結合するようにしている。したがって、後に詳述する目的とする樹脂組成物の製造に際し、前記有機酸を含むアルミナ粒子、すなわち本発明のアルミナ粒子複合体を所定の有機溶媒中に極めて均一に分散することができ、均一なアルミナ粒子分散溶液を作製することができる。この均一なアルミナ粒子分散溶液を樹脂溶融混連中に配合することによって、もしくは樹脂組成物の樹脂モノマー中に配合し、重合処理を施すことによって、またはこのアルミナ分散溶液と樹脂を溶解させた有機溶媒を混ぜ、高温減圧下にて溶媒のみを留去することによって、前記アルミナ粒子が樹脂中に極めて均一に分散してなる、目的とする樹脂組成物を得ることができる。この結果、前記樹脂組成物の、強度などの機械的特性及び透明性などの光学的特性を同時に達成することができるようになった。
【0012】
なお、本発明において、前記アルミナ粒子の形状は特に限定されるものではないが、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ20〜400nm、アスペクト比が5〜80であって、
Al2O3・nH2O
なる一般式で表されるようなアルミナ粒子であることが好ましい。このようなアルミナ粒子は、アスペクト比が5〜80という高アスペクト比を有するので、その剛性、強度、寸法安定性などの機械的特性をさらに向上させることができる。
【0013】
また、前記アルミナ粒子は、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ20〜400nmという可視光以下のサイズであるため、前記アルミナ粒子を充填剤として前記樹脂中に含有させた際にも、透明性を保持できるようになる。結果として、このような好ましい形態のアルミナ粒子を充填剤として用いることにより、透明性などの光学的特性及び剛性、強度などの機械的特性をさらに向上させることができる。もちろん構造建築物の透明建築材料としても用いることもできる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、透明性を保持しながら機械的強度の優れる、樹脂組成物を提供することができるようになる。したがって、従来、強度の面から不可能であった自動車の有機ガラスとして用いることが出来る。その結果、従来の無機ガラスに比べ、大幅な軽量化に頁献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(アルミナ粒子複合体)
本発明のアルミナ粒子複合体は、アルミナ粒子に対して化学的に結合した有機酸を含む。前記有機酸とは以下に限定はされないが、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を有する化合物、もしくはホウ酸類、リン酸類、アミノ酸類に属する構造を有する化合物である。中でもアルミナ粒子と強固な結合を結ぶことができる、スルホン基を有する化合物もしくは種類の豊富で市場入手性の良いリン酸、ホウ酸を含んだ有機酸が好ましい。
【0016】
また、無機酸も用いることができるが酸性度の強い塩酸、硫酸、硝酸などは、濃度が濃いと粒子の結晶構造を破壊したり、粒子表面を溶かし、粒子形態(形)を変えてしまう為、濃度調整が難しい。酸性度の弱い無機酸である無機リン酸、炭酸は酸性度が弱く、アルミナ粒子と化学結合が不十分になる。よって有機酸が好ましく、中でもスルホン基を有する有機酸がより好ましい。
【0017】
これらの有機酸は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい.本研究に用いることができるスルホン酸基を有する化合物としては、アルキルベンゼンスルホン酸が好ましく、以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。例えば、ベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、CH3(CH2)nCH2C6H4SO3H n=0〜10)であらわすことのできるエチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、などや、3置換体のp-トルエンスルホン酸ドデシル、ニトロ基を有するo-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、アリール基を有するp−フェノールスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフトールスルホン酸、さらにはo-アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、o−クレゾールスルホン酸、ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4ジニトロベンゼンスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド-2-メチル−1−プロパンスルホン酸スチレン共重合体)PCオリゴマーの末端にスルホン酸基のついた化合物などが挙げられる。
【0018】
また、本研究で用いることができるホウ酸類としては、以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。たとえばメチルホウ酸、フェニルホウ酸、ブチルホウ酸、イソプロピルホウ酸、4−クロロフェニルホウ酸、4−ヒドロフェニルホウ酸、1、4フェニレンビスホウ酸、4−カルボキシルフェニルホウ酸などが挙げられる。
【0019】
前記有機酸の、前記アルミナ粒子に対する化学結合の態様は、共有結合、配位縮合、水素結合、静電気的な結合などである。
前記有機酸の、前記アルミナ粒子に対する化学結合の態様は、共有結合、配位縮合、水素結合、静電気的な結合などである。
【0020】
また、前記アルミナ粒子複合体における前記有機酸の含有量は、後に詳述する、樹脂組成物の重合過程で使用するアルミナ粒子分散溶液の全光線透過率が30%以上となるものであれば特に制限されない。しかしながら、アルミナ粒子の1molに対し、前記有機酸の配合量が1mmol以上であることが好ましく、さらには10mmo1以上であることが好ましい。前記有機酸の配合量が1mmol以下では、有機溶剤にアルミナ粒子が均一に分散した前記アルミナ粒子分散溶液を得ることができない。なお、前記有機酸の配合量は、TG-DTA、IR、NMRなどの装置を組み合わせて定性、定量することができる。
【0021】
なお、アルミナ粒子のモル数は一般式より求める。たとえばαアルミナ粒子、γアルミナ粒子は一般式Al2O3より分子量は101.96とする。ベーマイト粒子の場合はAlO(OH)を分子量に適用して59.98を分子量とする。
【0022】
また、本発明のアルミナ粒子複合体においては、前記アルミナ粒子が下記の一般式により表されることが好ましい。
Al2O3・nH2O
【0023】
式中のnが0のときは酸化アルミニウムを示し、式中のnが0のときは酸化アルミニウムを示し、α、γアルミナまたはβ、ρ、χ、ε、γ、κ、κ’、θ、η、δ、λである。式中のnが1のときはベーマイトを表す。また式中のnが1を越えて3未満である場合はベーマイトと非結晶構造のアルミナ水和物の混合物を示す。これは一般に疑ベーマイトと呼ばれている。さらにnが3以上では非結晶構造のアルミナ水和物を示す。充填剤としてのアルミナ粒子はこれらのうちから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
特に、樹脂組成物の充填剤として好ましいアルミナ粒子は、安定性、製造の容易さからαアルミナ、γアルミナ及びベーマイトである。
【0024】
前記アルミナ粒子の形状は、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状のいずれでもよい。また、粒子サイズは短軸長さが1〜10nmであり、長軸長さが20〜400nmであり、アスペクト比が5〜80であることが好ましい。前記アルミナ粒子を含有させて高透明性の樹脂組成物を得ようとする場合は、特に粒子サイズは短軸長さが6nm以下であり、長軸長さが200nm以下であることが好ましい。
【0025】
また、前記アルミナ粒子は、粒子短軸の径の大きさに応じて0.5nm〜9.5nmの径、長さは粒子長軸径以下の5〜400nmの中空円筒を粒子内に有した中空粒子であることが好ましい。これによって、前記アルミナ粒子の比重を低減することができ、前記アルミナ粒子を充填剤として樹脂中に含有させた場合に、得られた樹脂組成物の重量を比較的低く維持したまま、その機械的強度を向上させることができ、その高透明性を達成することができる。
【0026】
(アルミナ粒子複合体の製造方法)
次に、本発明のアルミナ粒子の製造方法について説明する。最初に、前記一般式において、n=1であるベーマイト粒子の製造方法について説明する。
【0027】
前記ベーマイトを製造するに際しては、最初にアルミニウム金属塩水溶液中にアルカリ水溶液を添加し、得られた反応混合物中に水酸化アルミニウムのゲル状物質を生成する。
【0028】
前記アルミニウム金属塩水溶液を構成するアルミニウム塩としては、塩化アルミニウム無水和物、塩化アルミニウム六水和物、臭化アルミニウム、臭化アルミニウム六水和物、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、乳酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物(ナトリウムミョウバン)、過塩素酸アルミニウム九水和物、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムs-ブトキシド、アルミニウムt-ブトキシドなどから選ばれる少なくとも1種類のアルミニウム金属塩が使用される。上記に挙げた中でも市場の入手のし易さ、取り扱いの容易さ、価格が安価な、塩化アルミニウム六水和物、硝酸アルミニウム九水和物、臭化アルミニウム六水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物(ナトリウムミョウバン)、アルミニウムイソプロポキシドが好ましい。
【0029】
また、前記アルカリ水溶液は前記アルミニウム金属塩の加水分解を促進するために反応系に添加するものである。前記アルカリ水溶液を構成するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化バリウムなどから選ばれる少なくとも1種を例示することができる。特には、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0030】
なお、反応混合物中に副産物として、水に不溶な塩が生成するアルカリは適宜取り除く。
【0031】
アルカリ化合物の使用量は、アルミニウム金属塩に対し、モル比で2〜4倍であることが好ましい。2倍未満では反応原料が熱処理して反応生成物を生成するのに不十分であり、反応溶液のゲル化も起きず、収率良く粒子を得ることができない場合がある。4倍以上では逆にpHが高すぎ、アルカリがゲルを溶かしてしまい、癒着や凝集する粒子が増す場合がある。
【0032】
また、アルミニウム金属塩水溶液の濃度が1.0M−3.0Mであり、アルカリ水溶液の濃度が4.0M−10.0Mであることが好ましい。これによって、アルミニウム金属塩水溶液とアルカリ水溶液との反応混合物中のゲル状物質の生成を簡易に実現できるようになる。なお、前記アルミニウム金属塩水溶液における金属塩の濃度としては、前述したように、1.0M〜3.0Mで行なうことが好ましいが、生産性からそれぞれのアルミニウム金属塩溶解度上限の濃度がより好ましい。
【0033】
一方、前記アルミニウム金属塩水溶液と前記アルカリ水溶液との容量は等しいか、前記アルカリ水溶液が少ないことが好ましい。前記アルカリ水溶液の濃度が薄く、溶液の量が多すぎるとゲル化が難しくなる。前記アルミニウム金属塩の濃度と、前記アルミニウム金属塩及び前記アルカリ水溶液の容量を固定すれば、後の形態制御は前記アルカリ水溶液の濃度を変えれば良いだけとなるので、合成条件項目を少なくするために容量は等しいことがより好ましい。
【0034】
以上のような工程を経ることにより、前記反応混合物中に前記ゲル状物質を生成することができる。この結果、以下に示す熱処理によるベーマイト粒子の成長過程において、成長過程にあるベーマイト粒子が前記ゲル状物質中で固定され、粒子同士の癒着や凝集が抑制されて、粒度分布幅が狭小化されたナノサイズレベルのベーマイト粒子を得ることができるようになる。
【0035】
<熱処理>
次いで、本発明においては、上述したゲル状物質を含む反応混合物を生成した後、第1の熱処理から第4の熱処理を順次に行う。なお、以下の熱処理は、成長過程にあるベーマイト粒子がゲル状物質内に固定された状態で行われるため、極めて狭小化された粒度分布幅(標準偏差)を実現することができる。但し、以下に述べるように、熱処理条件を適宜変化させることにより、粒度分布(標準偏差)をある程度大きくすることができる。
【0036】
第1の熱処理は、前記反応混合物を室温以上の第1の温度に加熱することによって行う。第1の熱処理は、主として、前記反応混合物内に生じた前記アルカリ金属塩の加水分解を促進し、前記反応混合物内における前記ゲル状物質の生成を促進させるためのものである。
【0037】
前記第1の温度としては、室温(25℃)〜140℃で行なうことが好ましいが、反応時間を考慮すると120℃から140℃であることが好ましい。140℃を越える温度で第1の熱処理を行なうと、長さが不揃いのベーマイト粒子が生成してしまい、以降の熱処理を施行しても前記ベーマイト粒子の粒度分布幅(標準偏差)を狭小化できない場合がある。なお、熱処理時間は24時間以上が好ましく、24時間未満では標準偏差の小さくなる効果が見られない。
【0038】
第1の熱処理の後、第2の熱処理を行う。この第2の熱処理では、前記反応混合物を前記第1の熱処理における第1の温度よりも高い第2の温度に加熱することによって行う。この第2の熱処理は、主として高アスペクト比のベーマイト粒子を得るために行う。
【0039】
前記第2の温度は前記第1の温度よりも高い温度で行う必要があり、具体的には140℃〜250℃の温度で行なうことができるが、特には170℃〜250℃であることが好ましい。140℃未満であると粒子生成に時間がかかるばかりでなく、標準偏差が大きくなる(粒度分布幅が広い)。また、250℃以上ではアスペクト比の小さな粒子を製造するには有利であるが、市販の通常グレードのオートクレーブの耐熱、耐圧容器が250℃で限界を迎えること、250℃のために大量のエネルギーを必要とすることから本製造方法では250℃以上を推奨しない。
【0040】
第2の熱処理における熱処理時間は、昇温段階を含め10〜30分以内が好ましく、前記第2の温度の値に依存して変化する。また、上記規定時間を越える加熱は著しく平均粒子径の標準偏差を悪化させるばかりか、針状粒子は紡錘形状に、板状粒子は粒状となり、アスペクト比を損失する。
【0041】
第2の熱処理の後、第3の熱処理を行う。この第3の熱処理では、前記第2の熱処理における第2の温度よりも低い第3の温度で熱処理を行う。この第3の熱処理は、主として前記ベーマイト粒子の粒度分布幅(標準偏差)を狭小化するために行う。
【0042】
前記第3の温度は、例えば130℃以下、好ましくは室温以下に設定する。そして、好ましくは前記第2の熱処理における前記第2の温度から急速に冷却して、前記第3の温度に設定する。この場合、冷却装置の費用、容器の耐温度差を考慮すると、前記熱処理を実施している容器を流水中に入れて行うことができる。なお、前記冷却に要する時間は短いほど好ましく、具体的には10分以内であることが好ましい。また、第3の熱処理時間は、前記冷却に要した時間も含め10分以上であることが好ましい。これによって、目的とするベーマイト粒子の粒度分布幅(標準偏差)をより狭小化することができるようになる。
【0043】
前記第3の熱処理の後、第4の熱処理を行う。この第4の熱処理は、主として前記高アスペクト比のベーマイト粒子の成長を行う。
【0044】
前記第4の温度は100℃〜180℃の温度範囲に設定することが必要である。前記第4の温度が180℃よりも高いと、粒度分布幅を拡大させ、標準偏差を悪化させるばかりでなく、針状粒子は紡錘形状に、板状粒子は粒状となり、アスペクト比を損失する場合がある。詳しく述べると、第4の熱処理において、180℃以上の温度で熱処理を行なうと、生成していた粒子が再溶解、再結晶化(オストワルド熟成)し、粒子の形状、粒度分布幅が制御不能になる場合があり、これによって前記粒度分布幅を劣化させてしまう場合がある。また、前記第4の温度が100℃未満であると収率が悪化する場合がある。処理時間は4時間〜1週間であり、設定温度に応じて加熱時間が相違する。
【0045】
上記の熱処理後、前記反応生成物が入った容器を放冷し、遠心分離機を用いて生成したベーマイト粒子と溶液とを分離する。その後、副生成物の塩を除くために硝酸ナトリウム水溶液(0.5M)で遠心洗浄(3回)し、遠心水洗(1回)し、水メタノール混合溶液(体積比 水:メタノール=0.5:9.5)で遠心洗浄を1回行った後、乾燥させることにより、目的とするベーマイト粒子を得る。
【0046】
以上のような4段階の熱処理を行うことにより、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ20〜400nm、アスペクト比が5〜80であるベーマイト粒子を得ることができる。また、これらの寸法特性値の標準偏差を10%以内に抑えることができる。したがって、前記ベーマイト粒子を所定の樹脂中に含有させ樹脂組成物を製造した際に、その物性のばらつきを減少させることができ、前記樹脂組成物から安定した品質の物品をつくることができる。
【0047】
但し、粒子サイズのそろっていないベーマイト粒子を製造することも当然に可能であり、この場合は、第1の熱処理の加熱温度を140℃以上とし、処理時間を3時間以上とし、さらに第2の熱処理から第4の熱処理を省略することによって実現することができる。この場合、前記寸法特性値の標準偏差は20%以上とすることができる。
【0048】
また、上述のようにして得たベーマイト粒子は、透過型電子顕微鏡で観察することにより中空の針状粒子であることを確認することができる。
【0049】
次に、前記一般式において、n=0であるαアルミナ粒子、γアルミナ粒子の製造方法について説明する。
【0050】
これらアルミナ粒子の製造に際しては、上述したベーマイト粒子の製造方法における反応混合物の生成及び熱処理を経た後、得られたベーマイト粒子に対して焼成処理を施す。前記焼成処理は、例えば450℃〜1500℃にて1〜3時間行う。例えば、上記の方法で得られたベーマイト粒子をアルミナるつぼに入れ、1000℃で4時間熱処理をおこなうことによりαアルミナを得ることができる。この際、上記のベーマイト粒子に特徴的であった中空構造が熱応力により破壊されないようにするため、昇温、降温速度は2℃/分とすることが好ましい。また、このとき原料となるベーマイト粒子は、前記水分散ベーマイトを凍結乾燥、噴霧乾燥などの手段をとり、粉末化する方法が好ましい。熱オーブン中で乾燥、もしくは自然乾燥させると、粒子同士が強固に固着し、後に得られたαアルミナ粒子が有機溶媒や水に再分散できなくなる。γアルミナ粒子の合成の際は同様に、ベーマイト粒子を出発とし、550℃〜800℃で焼成処理を行なうと良い。
【0051】
<有機酸塩の配合と有機溶剤分散>
後述する樹脂組成物を製造するに際しては、最初に、上述のようにして得たアルミナ粒子からアルミナ粒子複合体をつくり、次いでアルミナ粒子有機溶剤分散溶液を作製する。
【0052】
有機溶剤へ分散させる方法としては上述のようにして得たアルミナ粒子を超音波、マイクロビーズミル、攪拌、および高圧乳化などの少なくとも一つの手段を用いて有機溶剤へ強制的に分散させ、所定のスルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を有する有機酸、もしくはホウ酸、りん酸、アミノ酸を添加するによって、目的とするアルミナ粒子複合体を得ることができる。と同時にアルミナ粒子有機溶剤分散溶液を得ることができる。
【0053】
ただし、用いる有機酸の種類によっては有機溶媒に溶けず、アルミナ粒子と反応しないため、その場合はアルミナ粒子をいったん水へ分散させる必要がある。
【0054】
前記アルミナ粒子を水中に分散させるに際しては、同じく超音波、マイクロビーズミル、攪拌、および高圧乳化などの手段を用いて水へ分散させる。得られた水分散アルミナ溶液に有機酸塩を添加すれば目的とするアルミナ粒子複合体を得ることができる。そして遠心分離、蒸留などをすることで水から有機溶剤へ溶媒交換することでアルミナ粒子有機溶剤分散溶液を得ることができる。
【0055】
前記超音波による前記ベーマイト粒子の分散は、前記ベーマイト粒子及び前記水を所定の超音波分散装置内に入れ、この装置を通常の手順に従って駆動させることにより行なう。前記マイクロビーズミルによる前記ベーマイト粒子の分散は、前記ベーマイト粒子及び前記水を所定のマイクロビーズミル分散装置内に入れ、この装置を通常の手順に従って駆動させることにより行う。また、前記高圧乳化による前記ベーマイト粒子の分散は、前記ベーマイト粒子及び前記水を所定の高圧乳化装置内に入れ、この装置を通常の手順に従って駆動させることにより行う。
【0056】
なお、高圧乳化とは、具体的には、ベーマイト粒子などの入った水溶液をポンプで加圧し、パルプシートとバルブの狭い間隔を超音速域の流速で通過させることにより、パルプシートのエッジ部でキャビテーション(空洞化現象)を発生させ、その空洞の崩壊に伴って局部的に商い圧力差が引き起こされ、液中の凝集状態にある粒子を引き裂き(ひきはがす)、凝集を1次粒子の状態まで再分散する操作を言う。
【0057】
また、前記有機溶媒としては、後の重合過程において、製造されるべき樹脂を溶解することが可能で、溶解した樹脂組成物と前記アルミナ粒子複合体とが均一に混合可能なものであれば特に限定されない。具体的には、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2,テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトンなどを例示することができる。これらの有機溶媒は単独あるいは混合物で用いても良い。特に好ましいのはテトラヒドロフランとクロロホルムである。
【0058】
さらに、前記アルミナ粒子分散溶液の全光線透過率が40%以上であることが好ましい。40%未満では、前記アルミナ粒子複合体の分散性が悪く、以下に説明する重合過程において、前記アルミナ粒子分散溶液中に含まれる前記アルミナ粒子複合体を目的とする樹脂組成物中に均一に分散させることができず、本発明の本来的な目的を達成できない場合がある。
【0059】
(樹脂組成物)
上述したアルミナ粒子複合体は、充填剤として樹脂中に含有させることができ、この結果、所定の樹脂組成物を得ることができる。
【0060】
前記アルミナ粒子複合体の樹脂に対する配合量は、要求特性(例えば、剛性、耐熱性及び耐熱膨張性など)が得られるような量であれば特に制限されないが、1〜50wt%であることが好ましく、さらには1〜30wt%であることが好ましい。前記アルミナ粒子複合体の配合量が1wt%未満では、前記アルミナ粒子複合体配合の効果が少なく、得られる樹脂組成物の剛性、耐熱性及び耐熱膨張性などの物性の向上がほとんど認められない場合がある。また、前記アルミナ粒子複合体の配合量が50wt%を超えると、比重の増加が無視できなくなるばかりでなく、コスト面でも不利となり、樹脂組成物のコスト及び比重が増大してしまうという問題が生じる。また、前記アルミナ粒子複合体の含有量の増大に伴い、樹脂組成物の粘度が増大し、成形性が悪くなる。
【0061】
前記アルミナ粒子複合体を含有させる樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、非晶性オレフィン系樹脂などをあげることができる。透明性、耐熱性、剛性の観点から、ポリカーボネート系、アクリル系、メタクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましい。もちろん光学特性を目的とせず、樹脂補強剤の目的としてアルミナ粒子複合体を用いることもできその場合、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂に含有させることができる。
【0062】
そのような熱可塑性樹脂としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂や、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂などのオレフィン系変性樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド系樹脂、さらにはポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、熱可塑性ポリイミドを例示することができる。
【0063】
熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、ポリイミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂などを例示することができる。
【0064】
上述した樹脂は単独で用いることもできるが、2種以上を混合して用いることもできる。好ましくは安価な樹脂を補強するために、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である。
【0065】
前記熱可塑性樹脂における前記ポリカーボネート系樹脂組成物は、2軸混練機を用い、溶融した樹脂に前記アルミナ粒子複合体を添加する溶融混練法、樹脂モノマーからポリマーを合成する過程に前記アルミナ粒子複合体を添加する重合法、樹脂を溶解させた溶剤に前記アルミナ粒子複合体を均一分散させた溶剤を混ぜ、溶剤を留去する溶剤法などの方法で得ることができる。
【0066】
溶融混連法では前記アルミナ粒子複合体の固体、もしくは水分散溶液、有機溶剤分散液を用いる。混練機は二軸押出成形機、真空微量混練押出機、ラボプラストミル等を用いることができ、前記アルミナ粒子の種類、分散させている溶媒の種類により選択決定する。
【0067】
重合法では前記ポリカーボネート系樹脂組成物を2価以上のフェノール化合物と、ホスゲンの縮合反応、いわゆるホスゲン法、炭酸ジエステルとヒドロキシ化合物のエステル交換反応、いわゆるエステル交換法などのポリカーボネート樹脂の製造中にアルミナ粒子を同時に添加することで得ることができる。2価以上のフェノール化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンが好ましく、より好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。これらの2価フェノール等はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0068】
炭酸ジエステル化合物としては、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネートが挙げられる。ヒドロキシ化合物としてはフェノール、p−クレゾール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。
【0069】
ホスゲン法に用いる方法ではホスゲンが好ましく用いられるが、これ以外のジハロゲン化カルボニルを用いることも可能で、本発明で得られる効果を何ら阻害するものではない。
【0070】
溶剤法ではまず、ポリカーネートを有機溶剤へ分散させた前記アルミナ粒子複合体、もしくは有機溶剤へそのまま溶かし、有機溶剤へ分散させた前記アルミナ粒子複合体を混合する。有機溶剤としてはポリカーボネートをよく溶かすものが良い。例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2,テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトンなどである。ポリカーネートとアルミナ粒子複合体の混合溶液をよく攪拌した後、加熱し溶剤を留去するが、このときできるだけ減圧、加熱を行い、溶剤をすばやく留去する。溶剤減量とともに溶液の粘度が上昇するが、攪拌出来なくなるまで攪拌を継続する。こうすることで、均一に、凝集無く樹脂組成物を得ることができる。
【0071】
前記熱可塑性樹脂における前記アクリル系、メタクリル系樹脂組成物も前記ポリカーボネート系樹脂組成物と同様に溶融混練法、重合法、溶剤法などの方法で得ることができる。
【0072】
重合法に用いるメタクリル樹脂系、アクリル樹脂系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル〈メタ〉アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。これらモノマーは、1種単独または2種類以上を混合して用いてもよいが、透明性、剛性、硬度等のバランスからメチルメタクリレートが主成分であることが好ましい。より好ましくは、上記不飽和単量体と共重合しうるもう一方の単量体全量に対してメチルメタクリレートが70質量%以上である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例および比較例により本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明において採用した分析方法および分析機器は下記の通りである。
【0074】
(1)粒子形状、長さ
透過型電子顕微鏡(TEM)にて、粒子形状を観察した。
<観察方法(粒子形状)>
試料を純水(2段蒸留水)にて希釈後、超音波洗浄器にて15分間かけた。その後銅メッシュ上の親水処理済カーボン被覆コロジオン膜に試料を塗布し、乾燥させ観察試料を準備した。透過型電子顕微鏡にてその試料の電子顕微鏡像を120KV、70mA、10万倍にて撮影して、観察した。
・TEM用銅メッシュ:マイクログリット150-Bメッシュ、カーボン補強済み 応研商事株式会社
・透過型電子顕微鏡:JEOLJEM−1200EXII 日本電子株式会社
<観察方法(粒子長さ)>
透過型電子顕微鏡にて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、市販のパソコン上で長さを測るソフトを用いて粒子の長さを測定した。短軸径、長軸径、厚さ、一辺の長さ共にそれぞれ無作為に100個体選び、測定した。
ソフト名:Scion Image for Windows(登録商標) Scion corp.
【0075】
(2)粒子断面
粒透過型電子顕微鏡(TEM)にて、粒子断面を測定した。
<観察方法(粒子断面)>
凍結乾燥して得られた固体アルミナ粒子をエポキシ樹脂に入れ、粒子を樹脂に包理した。
硬化した樹脂を常温にてウルトラミクロトームを用いて厚さ約60〜100nmに薄片化した。
その後,TEM用グリッドに薄片をつけ、観察試料を準備した。透過型電子顕微鏡にてその試料の電子顕徹鏡像を300KV、40万倍にて撮影し、観察した。
・エポキシ樹脂:EPON812応研商事株式会社
・ウルトラミクロトーム:FC−S型ミクロトームREICHERT社
・透過型電子顕微鏡:H−9000株式会社日立製作所
【0076】
(3)アルミナの同定
粉末X線回折装置を用いて観察した。
<観察方法>
試料を測定用無反射板に圧粉することにより、これを観察試料とし、X線解析装置にて測定し、アルミナのJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)と比較することにより同定した。
・X線解析装置:RINT−2000理学電機
【0077】
(4)有機酸の定量
TG−DTA,IR,NMRを用いて観察した。
・TG-DTA:TG−DTA320セイコーインスツルメンツ
<観察条件>
測定温度:室温〜900℃、昇温速度10℃。
・NMR:JNMLA-400 日本電子1H、13Cを測定した。測定溶媒CDC13
【0078】
(5)機械的物性、光学的物性測定
得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、加熱プレス成形して厚さ2mmの試験片フィルムを得る。得られたシートについて全光線透過率、曲げ強度、曲げ弾性率、線膨張係数を測定した。
・全光線透過率は、ヘイズメーター(村上色彩研究所製HM−65)で計測した。
・曲げ強度・弾性率は、オートグラフ(島津製作所(株)製DSC−10T)で計測した。
・線形膨張係数は、熱機械測定装置〈セイコー電子工業(株)製TMA120C〉で計測した。
【0079】
(6)アルミナ粒子分散溶液の作製(実施例1〜4)
(実施例1)
機械攪拌機を備えたテフロン(登録商標)製ビーカーに塩化アルミニウム六水和物(2.0M,20ml,25℃)を入れ、攪拌(700rpm)しながら水酸化ナトリウム(5.10M,20ml,25℃)を約6分かけて滴下した。滴下終了後さらに10分間攪拌を続け、攪拌終了後、溶液のpHを測定した(pH=7.18)。次いで、前記溶液を10mlずつテフロン(登録商標)ライナーを備えたオートクレーブに分け、オーブンで120℃、24時間経時させた(第1の熱処理)。次いで、前記オートクレーブをオイルバスヘ移し、180℃、20分間加熱した(第2の熱処理)。次いで、40秒以内に流水へ入れ、急速冷却(約10℃)をした(第3の熱処理)。この第3の熱処理は1時間続けた。
【0080】
次いで、前記オートクレーブを再びオーブンヘ入れ、140℃で、1週間加熱を続けた(第4の熱処理)。次いで、前記オートクレーブを流水で冷やし、遠心分離(18000rpm,30min)で前記オートクレーブ内の溶液の上澄み除去後、硝酸ナトリウム水溶液(0.5M)で遠心洗浄3回、遠心水洗1回、水メタノール混合溶液(体積比 水:メタノール、0.5:9.5)遠心洗浄を1回行った。その後凍結乾燥機を用いて乾燥させることにより無色結晶を得た。X線回折の結果ベーマイトであることを確認した。
【0081】
得られたベーマイト粒子のサイズを調べたところ、長軸径が115±10nm、短軸径が4.6±0.6nm、アスペクト比が約20〜30の針状結晶だった。このベーマイト粒子の外観電子顕微鏡写真を図1に示す。また、短軸断面を観察すると中空を呈していた。この様子を図2において断面TEM写真で示す。
【0082】
次いで、上記の操作を数回繰り返しベーマイト粒子3.32gを得て、その粒子を約100gの水に入れよく攪拌した後、超音波分散機で超音波分散を20分間実施した。その後、前記ベーマイト粒子を含む水溶液を高圧乳化装置にいれ、50MPaの圧力で処理した。このときの全光線透過率を測ると20%だった。
【0083】
次いで、高圧乳化処理終了後、パラトルエンスルホン酸1水和物を3.32g入れ、よく攪拌した後、超音波分散機で20分間超音波分散を実施した。その後、前記水溶液を遠心分離機にかけ18000回転で30分間遠心分離を行なった。上澄みを捨て、沈殿物を室温下風乾した。次いで、乾燥して得られた粉末をTHFに溶かし、さらに水をビュレットを用いて適量加えた。その溶液に超音波分散機で30分超音波分散を行い、高圧乳化装置で50Mpaの圧力処理を行うことにより、ほぼ定量的にTHFに分散した有機酸を含むベーマイト粒子の複合体を得ることができた。
【0084】
なお、前記ベーマイト粒子THF分散溶液の全光線透過率は72%に向上した。水分散状態と、THF分散状態のTEM画像を比べると凝集が線和されたのが確認できた(図3)。また分散液を濃縮・乾燥し、TG−DTAを用いて粒子上のパラトルエンスルホン酸の量を確認するとベーマイト粒子1molに対し、バラトルエンスルホン酸が12mmolついていることが確認できた。なお、IR測定、GC−MASS測定、NMR測定でもバラトルエンスルホン酸のシグナルを確認できた。
【0085】
(実施例2)
水酸化ナトリウムの濃度を5.10Mから4.80Mに変えた以外は、実施例1と同様にしてベーマイト粒子を得た。なお、製造過程で得た溶液pHは4.54であり、得られたベーマイト粒子は、長軸径が350±37nm、短軸径が5.5±0.5nm、アスペクト比が約45〜80の針状結晶であった。また、短軸断面を観察すると中空構造を同じく有していた。
【0086】
次いで、前記ベーマイト粒子に対して実施例1と同様の超音波処理及び高圧乳化処理を実施して、パラトルエンスルホン酸を含むベーマイト粒子の複合体を作製し、次いで、実施例1同様の超音波処理及び高圧乳化処理を実施して、ベーマイト粒子THF分散溶液を作製した。なお、前記複合体を含む水溶液の全光線透過率は12%であり、前記分散溶液の全光線透過率は65%であった。また、水分散状態と、THF分散状態のTEM画像を比べると凝集が緩和されたのが確認できた(図4)。
【0087】
さらに、分散液を濃縮・乾燥し、TG−DTAを用いて粒子上のパラトルエンスルホン酸の量を確認するとベーマイト粒子1molに対し、バラトルエンスルホン酸が12mmolついていることが確認できた。なお、IR測定、GC−MASS測定、NMR測定でもパラトルエンスルホン酸のシグナルを確認できた。
【0088】
(実施例3)
実施例1の方法で得られたベーマイト粒子の無色固体をアルミナるつぼに入れ、1000℃で4時間熱処理(焼成処理)をおこなうことにより白色の粉末を得た。この際、上記のベーマイト粒子に特徴的であった中空構造が熱応力により破壊されないようにするため、昇温、降温速度は2℃/分とした。
【0089】
X線回折を用いて前記白色粉末の結晶相の同定を行ったところ、この粉末はα−アルミナであることが判明した。また、熱処理時における粉末の重量減少を調べた結果、この反応における収率は、ほぼ100%であった。さらに、熱処理後の粉末のTEM観察を行った結果、粒子は熱処理前の形態をほぼそのまま保持しており、中空の針状粒子であることが判明した。また、前記粉末のサイズを調べたところ、長軸径が110±10nm、短軸径が4.7±0.5nm、アスペクト比が約20〜30の針状結晶だった。
【0090】
次いで、前記粉末(αアルミナ粒子)3.00gを約100gの水に入れよく攪拌した後、超音波分散機で超音波分散を20分間実施した。その後、前記αアルミナ粒子を含む水溶液を高圧乳化装置にいれ、50MPaの圧力で処理した。このときの全光線透過率を測ると18%だった。
【0091】
次いで、高圧乳化処理終了後、パラトルエンスルホン酸1水和物を5.98g入れ、よく攪拌した後、超音波分散機で20分間超音波分散を実施した。その後、前記水溶液を遠心分離機にかけ18000回転で30分間遠心分離を行なった。上澄みを捨て、沈殿物を室温下風乾した。次いで、乾燥して得られた粉末をTHFに溶かし、さらに水をビュレットを用いて適量加えた。その溶液に超音波分散機で30分超音波分散を行い、高圧乳化装置で50Mpaの圧力処理を行うことにより、ほぼ定量的にTHFに分散した有機酸を含むαアルミナ粒子の複合体を得ることができた。なお、前記ベーマイト粒子THF分散溶液の全光線透過率は65%に向上した。
【0092】
また分散液を濃縮・乾燥し、TG−DTAを用いて粒子上のパラトルエンスルホン酸の量を確認するとαアルミナ粒子1molに対し、バラトルエンスルホン酸が6mmolついていることが確認できた。なお、IR測定、GC−MASS測定、NMR測定でもパラトルエンスルホン酸のシグナルを確認できた。
【0093】
(実施例4)
実施例2の方法で得られたベーマイト粒子の無色固体をアルミナるつぼに入れ、1000℃で4時間熱処理(焼成処理)をおこなうことにより白色の粉末を得た。この際、上記のベーマイト粒子に特徴的であった中空構造が熱応力により破壊されないようにするため、昇温、降温速度は2℃/分とした。
【0094】
X線回折を用いて前記白色粉末の結晶相の同定を行ったところ、この粉末はα−アルミナであることが判明した。また、熱処理時における粉末の重量減少を調べた結果、この反応における収率は、ほぼ100%であった。さらに、熱処理後の粉末のTEM観察を行った結果、粒子は熱処理前の形態をほぼそのまま保持しており、中空の針状粒子であることが判明した。また、前記粉末のサイズを調べたところ、長軸径が353±33nm、短軸径が5.4±0.6nm、アスペクト比が約45〜80の針状結晶だった。
【0095】
次いで、前記粉末(αアルミナ粒子)3.13gを約100gの水に入れよく攪拌した後、超音波分散機で超音波分散を20分間実施した。その後、前記αアルミナ粒子を含む水溶液を高圧乳化装置にいれ、50MPaの圧力で処理した。このときの全光線透過率を測ると16%だった。
【0096】
次いで、高圧乳化処理終了後、パラトルエンスルホン酸1水和物を6.02g入れ、よく攪拌した後、超音波分散機で20分間超音波分散を実施した。その後、前記水溶液を遠心分離機にかけ18000回転で30分間遠心分離を行なった。上澄みを捨て、沈殿物を室温下風乾した。次いで、乾燥して得られた粉末をTHFに溶かし、さらに水をビュレットを用いて適量加えた。その溶液に超音波分散機で30分超音波分散を行い、高圧乳化装置で50Mpaの圧力処理を行うことにより、ほぼ定量的にTHFに分散した有機酸を含むαアルミナ粒子の複合体を得ることができた。なお、前記ベーマイト粒子THF分散溶液の全光線透過率は58%に向上した。
【0097】
また分散液を濃縮・乾燥し、TG−DTAを用いて粒子上のパラトルエンスルホン酸の量を確認するとαアルミナ粒子1molに対し、パラトルエンスルホン酸が6mmolついていることが確認できた。なお、IR測定でもパラトルエンスルホン酸のシグナルを確認できた。
【0098】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で得られたベーマイト粒子3.02gに約60gのTHFを入れ、超音波洗浄機と攪拌機を使いながら均一に溶液中に分散させた。このとき溶液は懸濁しているが、構わずフェニルホウ酸をよく攪拌しながら1.5g加えた。よく攪拌した後、超音波分散機で20分間超音波分散を実施した。その後、溶液を遠心分離機にかけ18000回転で30分間遠心分離を行なった。上澄みを捨て、THFを約60g加え、その溶液に超音波分散機で30分超音波分散を行い、高圧乳化装置で50Mpaの圧力処理を行うことにより、ほぼ定量的にTHFに分散したフェニルホウ酸を含むベーマイト粒子の複合体を得ることができた。溶液の全光線透過率は45%になった。
【0099】
(実施例6)
実施例1の方法で得られたパラトルエンスルホン酸を含むベーマイト粒子のTHF分散溶液100g、及びベーマイト固形分濃度4.5wt%の溶液に酢酸工チルを適量入れ、次いで遠心分離機にかけ18000回転で30分間遠心分離を行なった。上澄みを捨て、THFを約100g、フェニルホウ酸2.3gを加え、超音波洗浄機と攪拌機を使いながら均一に溶液中に分散させた。それの後溶液を遠心分離機にかけ18000回転で30分間遠心分離を行なった。上澄みを捨て、THFを約100g加え、その溶液に超音波分散機で30分超音波分散を行い、高圧乳化装置で50Mpaの圧力処理を行うことにより、ほぼ定量的にTHFに分散したフェニルホウ酸を含むベーマイト粒子の複合体を得ることができた。溶液の全光線透過率は40%になった。
【0100】
(実施例7)
実施例1と同様にして得られたベーマイト粒子に対しパラトルエンスルホン酸に代り,
n-ドデシルベンゼンスルホン酸を添加することによってTHFに分散したベーマイト粒子の複合体を得た。溶液の全光線透過率は65%になった。
【0101】
(7)ポリカーボネート樹脂組成物の製造(実施例8〜14、比較例1〜4)
(実施例8)
減圧装置、機械攪拌機、及び還流器を備えた反応容器に、実施例1で得られたベーマイト粒子分散溶液(濃度4.39wt%)の262g、ビスフェノールAの50.4g(221mmol)、ジフェニルカーボネートの49.6g(232mmol)、及び溶媒であるTHFを適量加え、1時間攪拌した。減圧ラインを用いて、系内を徐々に減圧にすることにより溶媒であるTHFを留去し、この後さらに温度を上げ、160℃前後で20分予備加熱を行い、ジアリールカーボネート化合物とビスフェノール類の縮合反応を開始した。次いで、反応系を230℃まで30分かけて昇湿し、この温度にて、約160分間、15mmHg以下の減圧度で攪拌しながら縮合を進行させた。
【0102】
次いで、前記反応系を260℃まで30分かけて昇温し、この温度にて、約30分間、10mmHg以下の減圧度にて攪拌することにより、未反応のオリゴマー成分を低減させ、最後に、減圧度を保持したまま260℃〜290℃の範囲で20分間熟成を行ってポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0103】
得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、160℃で加熱プレス成形して厚さ2mmの板を得た。得られた試験板の物性を調べると、光線透過率は82%、曲げ強度120MPa、曲げ弾性率4.5GPa、繰膨張係数5.8×10-5/℃、粒子配合量は8.7wt%だった。これらの特性値を表1に示すとともに、図5に得られた透明樹脂片の外観を示す。
【0104】
(実施例9〜14)
実施例1で得たベーマイト粒子分散溶液に代えて、実施例2で得たベーマイト粒子分散溶液、並びに実施例3及び4で得たαアルミナ粒子分散溶液、実施例5〜7で得たベーマイト粒子分散液を用い、実施例8と同様の手順でポリカーボネート樹脂組成物を得た。これらのポリカーボネート樹脂組成物を乾燥して粒状にし、160℃で加熱プレス成形して厚さ2mmの板を得、実施例1同様に光線透過率及び曲げ強度などを調べた。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例1)
減圧装置、機械攪拌機、還流器を備えた反応容器に、日産化学製アルミナゾル520の粉末11.8gとビスフェノールA50.2g(221mol),ジフェニルカーボネート49.6g(232mmol)、及び溶媒であるTHFを適量加え、1時間攪拌した。減圧ラインを用いて、系内を徐々に減庄にすることにより溶媒であるTHFを留去し、この後さらに温度を上げ、160℃前後で20分予備加熱を行い、ジアリールカーボネート化合物とビスフェノール類の縮合反応を始めさせた。
【0106】
なお、前記アルミナゾル520は20wt%の水分敬溶液として市販されているが、凍結乾燥して乾燥固体として用いた。また、粒子はベーマイト構造であり、粒子径10〜20nm、棒状、粒状の混合物である。
【0107】
次いで、反応系を230℃まで30分かけて昇温し、この温度にて、約150分間、5mmHg以下の減圧度で攪拌しながら縮合を進行させた。更に反応系を260℃まで30分かけて昇温し、この温度にて、約30分間、10mmHg以下の減圧度にて攪拌することにより、未反応のオリゴマー成分を低減させ、最後に、減圧度を保持したまま260℃〜290℃の範囲で20分間熱成を行ってポリカーボネート樹脂組成物を得た.得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、過熱プレス成形して厚さ2mmの板を得た。得られた試験板の物性を調べると、光線透過率は0%、曲げ強度104MPa、曲げ弾性率3.3GPa、線膨張係数6.3×10-5℃、粒子配合量は9.4wt%だった。結果を表2に示す。
【0108】
(比較例2〜4)
日産化学製アルミナゾル520に代えて、日本アエロジル社製の酸化アルミニウムC、サンゴバン・セラミック・マデリアル製CAM9010のアルミナ粒子、及び日産化学工業株式会社製、スノーテックスMEK-STなるシリカ粒子を用いた以外は、比較例1と同様にしてポリカーボネート樹脂を製造した。これらのポリカーボネート樹脂から比較例1同様に試験板を作製し、光線透過率などを調べた。結果を表2に示す。
【0109】
なお、日本アエロジル社製の酸化アルミニウムCは、粒子径約13 nmの球状をとっている。また、サンゴバン・セラミック・マデリアル製CAM9010のアルミナ粒子は、長軸径約90nm、短軸径10〜15nmのサイズでちょうどラグビーボール形状を呈している。粒子は単独で存在するのではなく、4、5個の数珠繋ぎになっている。さらに、日産化学工業株式会社製、スノーテックスMEK-STは、30wt%のMEK分散溶液として市販されているが、本比較例では、スプレードライ法で乾燥して固体として用いた。粒子径は約10〜20nmである。
【0110】
(8)アクリル樹脂組成物の製造(実施例15〜20、比較例5〜8)
(実施例15)
不活性ガス気流下、フラスコ内に、メタクリル酸メチル78g、アクリル酸25g、溶媒のTHFを適量入れ、重合開始剤AIBINを0.5mol%添加した。80℃に加熱、攪拌しながら実施例1で得られたベーマイト粒子分散溶液(濃度4.40wt%)の258gを加え、24時間そのまま攪拌しながら80℃に保ち続けた。反応終了後、室温に戻し、過剰のn-ヘキサンを加えてポリマーを沈殿させ、濾別してメタクリル酸系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、加熱プレス成形して厚さ2mmの板を得た。得られた試験板の物性を調べると、光線透過率は84%、曲げ強度118MPa、曲げ弾性率4.3GPa、線膨張係数5.5×10-5℃、粒子配合量は9.2wt%だった。これらの特性値を表1に示した。
【0111】
(実施例16〜20)
実施例1で得たベーマイト粒子分散溶液に代えて、実施例2で得たベーマイト粒子分散溶液、並びに実施例3及び4で得たαアルミナ粒子分散溶液を用い、実施例15と同様の手順でメタクリル酸系樹脂組成物を得た。これらのメタクリル酸系樹脂組成物を乾燥して粒状にし、加熱プレス成形して厚さ2mmの板を得、実施例15同様に光線透過率及び曲げ強度などを調べた。結果を表1に示す。
【0112】
(比較例5)
不活性ガス気流下、フラスコにメタクリル酸メチル76g、アクリル酸26g、溶媒のTHFを適量入れ、重合開始剤AIBINを0.5mol%添加した。80℃に加熱、攪拌しながら日産化学製アルミナゾル620の粉末10.0gを加え、24時間そのまま攪拌しながら80℃を保ち続けた。反応終了後、室温に戻し、過剰のn-ヘキサンを加えてポリマーを沈殿させ、濾別してメタクリル酸系樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を乾燥して粒状にし、過熱プレス成形して厚さ2mmの板を得た。得られた試験板の物性を調べると、光線透過率は0%、曲げ強度106MPa、曲げ弾性率3.8GPa、線膨張係数5.8×10-5℃、粒子配合量は9.8wt%だった。結果を表1に示す。
【0113】
(比較例6〜8)
日産化学製アルミナノル520に代えて、日本アエロジル社製の酸化アルミニウムC、サンゴバン・セラミック・マデリアル製CAM9010のアルミナ粒子、及び日産化学工業株式会社製、スノーテックスMEK-STなるシリカ粒子を用いた以外は、比較例5と同様にしてメタクリル酸系樹脂組成物を製造した。これらの樹脂組成物から比較例5同様に試験板を作製し、光線透過率などを調べた。結果を表2に示す。
【0114】
なお、表1には、参考例1として、充填剤を含まないポリカーボネート樹脂の特性値を示し、参考例2として、充填剤を含まないメタクリル酸系樹脂の特性値を示した。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
表1及び表2の結果から明らかなように、本発明のアルミナ粒子複合体を含有した樹脂組成物は、光線透過率、並びに曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、透明性及び機械的強度共に優れていることが分かる。また、線膨張係数も低く、熱的安定性にも優れることが分かる。
【0118】
以上、具体例を挙げながら本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0119】
例えば、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤及び熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、チオエーテル、ホスファイト類及びこれらの置換体及びその組み合わせを含む)、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等)、滑剤、離型剤(例えばシリコン樹脂、モンタン酸及びその塩、ステアリン酸及びその塩、ステアリルアルコール、ステアリルアミド等)、染料(例えばニトロシン等)、顔科(例えば硫化カドミウム、フタロシアニン等)を含む着色剤、添加剤添着液(例えばシリコンオイル等)、及び結晶核剤(例えばタルク、カオリン等)などを単独又は適宜組み合わせて添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施例1により製造されたベーマイト粒子複合体の電子顕徹鏡写真である。
【図2】実施例1により製造されたベーマイト粒子複合体の断面電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1により製造されたベーマイト粒子分散溶液の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2により製造されたベーマイト粒子分散溶液の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5で得た透明樹脂片の外観写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子と、このアルミナ粒子に化学結合を介して結合した有機酸とを含むことを特徴とする、アルミナ粒子複合体。
【請求項2】
前記有機酸は、スルホン酸基を有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項3】
前記有機酸はアルキルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする請求項2記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項4】
前記有機酸は、ホウ酸であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項5】
前記アルミナ粒子複合体における前記有機酸の含有量が、前記アルミナ粒子の1molに対して1mmol以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項6】
前記アルミナ粒子は、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ20〜400nm、アスペクト比が5〜80であって、
Al2O3・nH2O
なる一般式で表されることを特徴とする、請求項1〜5の「いずれか一に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項7】
前記アルミナ粒子は、内部に中空部を有することを特徴とする、請求項6に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項8】
前記一般式においてn=0であり、前記アルミナ粒子がαアルミナ粒子、γアルミナであることを特徴とする、請求項6又は7に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項9】
前記一般式においてn=1であり、前記アルミナ粒子がベーマイト粒子であることを特徴とする、請求項6又は7に記載のアルミナ粒子複合体。
【請求項10】
請求項9に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法であって、
アルミニウム金属塩水溶液中にアルカリ水溶液を添加し、得られた反応混合物中に水酸化アルミニウムのゲル状物質を生成する工程と、
前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を室温以上の第1の温度で第1の熱処理を施す工程と、
前記第1の熱処理の後、前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を前記第1の熱処理における前記第1の温度よりも高い第2の温度で第2の熱処理を施す工程と、
前記第2の熱処理の後、前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を前記第2の熱処理における前記第2の温度よりも低い第3の温度で第3の熱処理を施す工程と、
前記第3の熱処理の後、前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を室温以上の第4の温度で第4の熱処理を施して、前記ベーマイト粒子を製造する工程と、
前記ベーマイト粒子を水中に分散させるとともに、前記有機酸を加え、前記ベーマイト粒子を含む前記アルミナ粒子複合体を製造する工程と、
を具えることを特徴とする、アルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項11】
前記ベーマイト粒子は、前記水中に対して超音波及び高圧乳化の少なくとも一方の手段を用いて分散させることを特徴とする、請求項10に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項12】
前記アルミニウム金属塩水溶液濃度と前記アルカリ水溶液濃度との比が、モル比において、1:2〜4であることを特徴とする、請求項10又は11に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウム金属塩水溶液の濃度が1.0M〜3.0Mであって、前記アルカリ水溶液の濃度が4.0M〜10.0Mであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項14】
前記反応混合物のpHを変化させることにより、前記アルミナ粒子の形態を変化させることを特徴とする、請求項13に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項15】
前記第1の熱処理における前記第1の温度が、室温から140℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項10〜14のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項16】
前記第2の熱処理における前記第2の温度が、140℃〜250℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項10〜15のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項17】
前記第3の熱処理における前記第3の温度が、130℃以下の温度範囲であることを特徴とする、請求項10〜16のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項18】
前記第2の熱処理における前記第2の温度から、前記第3の熱処理における前記第3の温度までの冷却時間が10分以内であることを特徴とする、請求項10〜17のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項19】
前記第4の熱処理における前記第4の温度が、100℃〜180℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項10〜18のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜8のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法であって、
アルミニウム金属塩水溶液中にアルカリ水溶液を添加し、得られた反応混合物中に水酸化アルミニウムのゲル状物質を生成する工程と、
前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を室温以上の第1の温度で第1の熱処理を施す工程と、
前記第1の熱処理の後、前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を前記第1の熱処理における前記第1の温度よりも高い第2の温度で第2の熱処理を施す工程と、
前記第2の熱処理の後、前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を前記第2の熱処理における前記第2の温度よりも低い第3の温度で第3の熱処理を施す工程と、
前記第3の熱処理の後、前記ゲル状物質を含む前記反応混合物を室温以上の第4の温度で第4の熱処理を施す工程と、
前記第4の熱処理を経て得たベーマイト粒子に対して焼成処理を施し、前記アルミナ粒子を製造する工程と、
前記アルミナ粒子を水中に分散させるとともに、前記有機酸を加え、前記アルミナ粒子を含む前記アルミナ粒子複合体を製造する工程と、
を具えることを特徴とする、アルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項21】
前記アルミナ粒子は、前記水中に対して超音波及び高圧乳化の少なくとも一方の手段を用いて分散させることを特徴とする、請求項20に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項22】
前記アルミニウム金属塩水溶液濃度と前記アルカリ水溶液濃度との比が、モル比において、1:2〜4であることを特徴とする、請求項20又は21に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項23】
前記アルミニウム金属塩水溶液の濃度が1.0M〜3.0Mであって、前記アルカリ水溶液の濃度が4.0M〜10.0Mであることを特徴とする、請求項20〜22のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項24】
前記反応混合物のpHを変化させることにより、前記アルミナ粒子の形態を変化させることを特徴とする、請求項23に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項25】
前記第1の熱処理における前記第1の温度が、室温から140℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項20〜24のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項26】
前記第2の熱処理における前記第2の温度が、140℃〜250℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項20〜25のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項27】
前記第3の熱処理における前記第3の温度が、130℃以下の温度範囲であることを特徴とする、請求項20〜26のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項28】
前記第2の熱処理における前記第2の温度から、前記第3の熱処理における前記第3の温度までの冷却時間が10分以内であることを特徴とする、請求項20〜27のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項29】
前記第4の熱処理における前記第4の温度が、100℃〜180℃の温度範囲であることを特徴とする、請求項20〜28のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体の製造方法。
【請求項30】
請求項1〜9のいずれか一に記載のアルミナ粒子複合体を含むことを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項31】
前記アルミナ粒子複合体の配合量が1〜50wt%であることを特徴とする、請求項30に記載の樹脂組成物。
【請求項32】
前記樹脂組成物は、ポリカーボネート系、アクリル系、及びメタクリル系樹脂から選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする、請求項30又は31に記載の樹脂組成物。
【請求項33】
請求項30〜32のいずれか一に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
前記アルミナ粒子複合体を水及び有機溶媒中に分散させて、アルミナ粒子分散溶液を作製する工程と、
前記樹脂組成物の樹脂モノマーに、前記アルミナ粒子分散溶液を添加し、重合する工程と、
を具えることを特徴とする、樹脂組成物の製造方法。
【請求項34】
前記アルミナ粒子分散溶液は、超音波及び高圧乳化の少なくとも一方の手段を用いて作製することを特徴とする、請求項33に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項35】
前記アルミナ粒子分散溶液の全光線透過率が40%以上であることを特徴とする、請求項33又は34に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項36】
前記アルミナ粒子分散溶液の作製において、前記アルミナ粒子複合体1molに対して前記水を0.1mmol以上の割合で配合することを特徴とする、請求項33〜35のいずれか一に記載の樹脂組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−193400(P2006−193400A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29168(P2005−29168)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】