説明

アルミニウム合金板の温間成形用潤滑油、アルミニウム合金板及びその温間成形方法

【課題】アルミニウム合金板の温間成形において、連続加工後の脱脂性、連続加工時の低発煙性、連続加工時の耐焦げ付き性、接着性に優れる温間成形用潤滑油及びそれを塗布したアルミニウム合金板を提供することを課題とする。
【解決手段】40℃における動粘度が1〜500mm/sのヨウ素価 0〜120の多価エステル40〜90質量%と、40℃における動粘度が1〜4000mm/sの合成油1〜50質量%と、界面活性剤0.1〜10質量%を含み、40℃における動粘度が15〜400mm/sでヨウ素価が0〜20であることを特徴とするアルミニウム合金板温間成形用潤滑油。およびこの潤滑油を少なくとも片面に0.01g/m以上3.5g/m以下塗布した温間成形用アルミニウム合金板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板の温間成形に好適に使用可能な潤滑油、およびそれを塗布したアルミニウム合金板、更にはそのアルミニウム合金板を用いた温間成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車軽量化の対策として、鋼板よりも比強度の高いアルミニウム合金板の使用が検討され、実用化が進められている。しかし、アルミニウム合金板の成形性は鋼板に比べて劣るため、その適用は成形可能な部品に限定されている。
【0003】
そのため、従来、アルミニウム合金板の成形性を改善するため様々な特殊成形方法の適用が検討されている。温間成形、即ち、ダイス及びしわ押さえの金型温度を150〜300℃に加熱し、ポンチを冷却するプレス成形方法もその一例である(例えば、非特許文献1)。この成形方法では鋼板並みの成形性の確保が期待できるため、検討は進められているものの、未だ実用化には至っていない。
【0004】
温間成形の実用化に対する大きな障害の一つが潤滑剤である。通常の冷間でのプレス成形に使用される潤滑油の使用温度の上限は150℃程度であり、200℃以上、更には250〜300℃での温間成形への適用は困難である。これは、温度の上昇による潤滑油の粘度の低下や、揮発、発煙、金型への焦げ付き、更には引火などが問題になるためである。
【0005】
そのため、当初、温間成形には、固体潤滑剤、例えば、二硫化モリブデン、黒鉛粉末、窒化ホウ素粉末、四弗化エチレン樹脂、雲母などを利用した、水系又は油系の潤滑剤が使用されていた。更に、温間成形の温度域での潤滑性を向上させるため、飽和脂肪酸の石鹸の水溶液や、これに二硫化モリブデンなどを加えた潤滑剤が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
しかし、これらの固体潤滑剤は、温間成形前の塗布(及び乾燥)や、温間成形後の洗浄に時間を要するため、生産性が低い欠点を有している。
【0007】
一方、温間成形用潤滑油として脂肪酸ポリオールエステルを主成分とする潤滑油が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、この潤滑油を二硫化モリブデン等の固体潤滑剤と比較すると、なお成形性が劣り、連続加工時の多量の発煙があるなどアルミニウム合金板の温間成形用潤滑油としては充分でない。
【0008】
この他にも、多数の高温用潤滑油が提案されている。
【0009】
この様な状況を受けて、ポリアルファオレフィンを配合した潤滑油が提案され(例えば特許文献4)、二硫化モリブデン並みの成形性を得ることに成功している。しかし、このような潤滑油は脱脂性が優れない。これは、高い粘度に起因するものと推測されるが、詳細は定かではない。なお、ここでの脱脂性とは、自動車等の部品製造工程でのプレス工程後に要求される脱脂性であり、脱脂処理後に水濡れすることを意味する。灯油やミネラルシールオイル等の有機溶剤で洗浄しても潤滑油は表面から除去されるものの洗浄に用いた有機溶剤がアルミ表面に残留するため水濡れせず脱脂の目的を達しない。また、この様な有機溶剤は、人体や環境への影響のため、工業的な使用はできない。また、連続加工時の潤滑油劣化による金型への焦げ付きがあり、製品寸法への悪影響や金型への凝着物ができて、生産性が劣る欠点を有する。
【0010】
固体潤滑剤としてカルシウムスルホネートおよび不揮発性化合物の中から選ばれる1種以上を含む潤滑油が提案されている(特許文献5)。高塩基性アルカリ土類金属スルホネートを含有する潤滑油も提案されている(特許文献6)。バリウムスルホネートを含有する潤滑油も提案されている(特許文献7)。水分散金属加工油も潤滑油として提案されている(特許文献8)。固体潤滑剤を含有する水分散型温熱間鍛造用潤滑剤も提案されている(特許文献9)。多価アルコールエステルと合成油のみの潤滑油も提案されている(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−62379号公報
【特許文献2】特開平8−73883号公報
【特許文献3】特開2004−323563号公報
【特許文献4】特開2008−274256号公報
【特許文献5】特開2005−290187号公報
【特許文献6】特開2006−188719号公報(登録No.4094641)
【特許文献7】特開2007−191609号公報
【特許文献8】特開2000−290678号公報
【特許文献9】特開2005−162983号公報
【特許文献10】特開2008−75059号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】阿部佑二、吉田正勝、「5182アルミニウム合金板材のダブルシンク形温間成形」、軽金属、1994年、軽金属学会発行、第44巻、第4号、p.240−245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、連続加工後の脱脂性、連続加工時の低発煙性、連続加工時の耐焦げ付き性、接着性に優れる温間成形用潤滑油、及びその潤滑油を塗布したアルミニウム合金板、及びその合金板を用いた温間成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者等は、脱脂、発煙、金型への焦げ付き、接着の特性を同時に要求レベルまで満足する潤滑油特性の発明を、脱脂性の改善を中心に行った。すなわち、先ずは、耐熱性かつ優れた脱脂性を兼備する成分を決定し、次に、これら特性を要求レベル内で満足する中で、発煙性、金型への焦げ付き性、接着性を要求レベル内で満足する成分を決定した。このような考えの基でなされた、本発明のアルミニウム合金板温間成形用潤滑油は、多価エステル、合成油、界面活性剤をそれぞれ、40〜90質量%、1〜50質量%、0.1〜10質量%含むことを特徴とする。
【0015】
以上の知見に基づくものであり、その要旨は以下の通りである。
【0016】
(1)(a)40℃における動粘度が1〜500mm/sのヨウ素価 0〜120の脂肪酸ポリオールエステルおよびジカルボン酸ポリオールエステルから選ばれる少なくとも1種である多価エステルと、(b)ポリアルファオレフィンおよびアルキルナフタレンから選ばれる少なくとも1種からなる40℃における動粘度が1〜4000mm/sの合成油と、(c)脂肪酸アミドおよびポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルおよびポリオキシエチレンポリプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であるを含む界面活性剤を含み、成分(a)+(b)+(c)の合計量を100質量%としたとき、(a)を40〜90質量%、(b)を1〜50質量%、(c)0.1〜15質量%をとなるように配合される、40℃における動粘度が15〜400mm/sでヨウ素化が0〜20であることを特徴とするアルミニウム合金板温間成形用潤滑油。
【0017】
(2)アルミニウム合金板が、質量%で、Mg:2.0〜8.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、上記(1)の潤滑油を少なくとも片面に0.01g/m以上3.5g/m以下塗布した、温間成形用アルミニウム合金板。
【0018】
(3)アルミニウム合金板が、質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、上記(1)の潤滑油を少なくとも片面に0.01g/m以上3.5g/m以下塗布した、温間成形用アルミニウム合金板。
【0019】
(4)上記(2)または上記(3)のアルミニウム合金板が、質量%で、Cu:2.0%以下を含有することを特徴とする温間成形用アルミニウム合金板。
【0020】
(5)上記(2)または(3)または(4)に記載のアルミニウム合金板の、ダイスとしわ押さえ金型に接する部分とポンチに接する部分の温度差を50〜300℃とすることを特徴とするアルミニウム合金板を用いた温間成形方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る、温間成形用潤滑油及び、それを塗布したアルミニウム合金板及び、それを用いた温間成形方法により、加工後の脱脂が容易に行え、連続加工時の発煙を抑えることができ、更には連続加工時の耐焦げ付き性が優れる。その結果、従来の冷間プレス成形と同等の時間で済ますことができ、連続加工時の環境に悪影響を少なく抑えることができ、金型への凝着物の発生を防ぐことができることから、生産性が向上する。また、脱脂性の容易さにより、接着剤への潤滑油の吸収が容易となり、結果、接着性も良好となる。更に、本発明は、アルミニウム合金板の温間成形時の温度範囲であれば、鋼板に塗布して成形に使用することも可能である。
【0022】
本発明者等は、脱脂性の容易さと接着剤への潤滑油の吸収性との間に相関が認められ,脱脂性の良い潤滑油は接着性が良いことを見出している。本発明者らの知見によれば、脱脂性の容易さ等により,接着剤への潤滑油の吸収が容易となり,結果,接着性も良好となるものと推定されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明において好適に使用可能な温間成形方法の1態様を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(潤滑油)
本発明の潤滑油は、多価エステルと、合成油と、界面活性剤とを少なくとも含み、40℃における動粘度が15〜400mm/sでヨウ素価が0〜20であるアルミニウム合金板温間成形用潤滑油である。
【0025】
ここに、前記多価エステルは、40℃における動粘度が1〜500mm/sヨウ素価 0〜120の脂肪酸ポリオールエステルおよびジカルボン酸ポリオールエステルから選ばれる少なくとも1種である。本発明の潤滑油は、多価エステルと合成油と界面活性剤の合計量を100質量%としたとき、該多価エステルを40〜90質量%含む。
【0026】
前記合成油は、ポリアルファオレフィンおよびアルキルナフタレンから選ばれる少なくとも1種からなる40℃における動粘度が1〜4000mm/sの合成油である。本発明の潤滑油は、多価エステルと合成油と界面活性剤の合計量を100質量%としたとき、該合成油を1〜50質量%含む。
【0027】
前記界面活性剤は、脂肪酸アミドを含む界面活性剤およびポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルおよびポリオキシエチレンポリプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種である。本発明の潤滑油は、多価エステルと合成油と界面活性剤の合計量を100質量%としたとき、該界面活性剤を0.1〜15質量%含む。
【0028】
(動粘度の測定方法)
本発明において、動粘度は、以下の方法により好適に測定することが可能である。<JIS K2283に基づく測定方法>
本発明において、動粘度は、ハーゲン−ポアズイユの法則を応用した、JIS K2283に従って、以下の条件で測定することができる。
測定機器:JIS K2839に規定されるキャノン−フェンスケ粘度計(ガラス製毛管式粘度計)
測定方法:上記キャノン−フェンスケ粘度計に、測定すべき試料(潤滑油)を一定容量それぞれ注入する。試料を含む該粘度計を、予め所定測定温度(40℃、等:JIS B7410に規定される温度計)に設定されたJIS K2839に規定される粘度計用の恒温水槽中に浸し、次いで、キャノン−フェンスケ粘度計を各試料が自然流下するのに要した流出時間を測定する。これにより得られたデータ(流出時間)と該粘度計定数を、JIS K2283に従う式を用いて、動粘度を算出する。
校正方法:上記の粘度計は、JIS Z8809に規定される粘度計校正用標準液を用いて校正する。
【0029】
(ヨウ素価測定方法)
本発明において、ヨウ素価は、以下の方法により好適に測定することが可能である。<JIS K3331に基づく測定方法>
本発明において、ヨウ素価は、ウィイス法を応用した、JIS K3331に従って、以下の条件で測定することができる。
測定機器:JIS K3331に規定される共栓付三角フラスコ、ビュレット、全量ピペット
試薬:JIS K3331に規定されるシクロヘキサン、一塩化ヨウ素溶液、ヨウ化カリウム溶液(100g/l)、チオ硫酸ナトリウム溶液(0.1mol/l)、デンプン溶液(10g/l)
測定方法:JIS K3331に規定される採取量の試料を共栓付三角フラスコに1mg桁まで量り取り、シクロヘキサン約10mlを加えて試料を溶かす。
一塩化ヨウ素溶液25mlを全量ピペットで用いて加えて、振り混ぜる。
栓をして、常温で30分間暗所に置く。
ヨウ化カリウム溶液(100g/l)約20ml及び水約100mlを加えて、チオ硫酸ナトリウム溶液(0.1mol/l)溶液で滴定し、溶液が薄い黄色になったとき、でんぷん溶液(10g/l)数滴を加え、紫が消えるまで滴定する。
これにより得られたデータを、JIS K3331に従う式を用いて、ヨウ素価を算出する。
なお、ヨウ素価100以上の場合も同様の方法で測定した。
【0030】
(多価エステル)
40℃における動粘度が1〜500mm/sのヨウ素価 0〜120の脂肪酸ポリオールエステルおよびジカルボン酸ポリオールエステルから選ばれる少なくとも1種である多価エステルは、極性基としてのエステル結合を複数有していることから、アルミニウム合金表面への優れた吸着性、均一な皮膜形成性を有している。また、分子屈曲性の高い分子構造を持つことから同じ粘度でも分子量が大きくできるため、温度粘度指数、圧力粘度指数が高い性質を有する。そのために、高温・高圧条件下での過酷な潤滑条件下でも、構造油膜厚を維持することができ、具体的には、ダイス及びしわ押さえ金型の温度である150℃以上での充分な油膜厚と流動性が確保され、高絞り比であっても高い成形性能が得られる。
【0031】
また、結合エネルギーの低いβ水素が少ないリジッドヒンダード型骨格持つ分子構造を有することから、熱安定性に優れ、高温下で発煙や金型への焦げ付きを防ぐことができる。同時に、熱劣化による高分子化を防ぎ、性状として液状を維持できるので潤滑油としての脱脂性に優れる。
【0032】
上記多価エステルは、そのヨウ素価は0〜120であり、その40℃における動粘度は1〜500mm/sである。ヨウ素価が120を超えたり、動粘度が1mm/sより低い場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、500mm/sより高い場合は、脱脂が困難である。
【0033】
上記多価エステルは、多価エステルと合成油と界面活性剤の合計量を100質量%としたとき、40〜90質量%含まれる。含有量が40質量%未満の場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、90質量%を超える場合は、耐熱性が不充分となり低発煙性および耐焦げ付き性に劣る。
【0034】
モノエステル等の上記以外化合物では、油膜厚の維持、発煙や金型への焦げ付き、脱脂性が劣るため、適当ではない。
【0035】
(合成油)
合成油とは、温度粘度指数が高く、圧力粘度指数が高く、熱安定性が高いことを特徴とした化合物である。ポリアルファオレフィンおよびアルキルナフタレンから選ばれる少なくとも1種からなる40℃における動粘度が1〜4000mm/sの合成油は、立体座位あるいは櫛型の分子構造から、同じ粘度でも分子量が大きくできるため、温度粘度指数が高く、圧力粘度指数が高い。そのために、高温・高圧条件下での過酷な潤滑条件下でも、厚い油膜を維持することができる。
【0036】
特に、多価エステルと組み合わせて用いることで、高温・高圧下での過酷な潤滑条件下でも、ダイス及びしわ押さえ金型の温度である150℃以上での充分な油膜厚と流動性が確保され、高絞り比であっても高い成形性能が得られる。
【0037】
また、同様に櫛型の立体的に嵩高い分子構造を有することと、分子量分布が非常に狭いため、熱劣化を受け易い低分子量成分が微量であることから、熱安定性が高く、発煙や金型への焦げ付きや熱劣化による高分子化を防ぐことができる。
【0038】
鉱物油等の上記以外化合物では、油膜厚の維持、発煙や金型への焦げ付き、脱脂性が劣るため、適当ではない。
【0039】
上記合成油は、1〜50質量%含まれる。含有量が1質量%未満の場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、50質量%を超える場合は、脱脂が困難である。
【0040】
上記合成油は、40℃における動粘度が1〜4000mm/sである。
【0041】
動粘度が1mm/sの場合より低い場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、4000mm/sを超えるより高い場合は、脱脂が困難である。
【0042】
(界面活性剤)
高い吸着エネルギーと高脱脂性をもつ脂肪酸アミドを含むおよび優れた脱脂性と増膜性優れたポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種である界面活性剤は、非常に強い極性基を有しているので、上記2成分を含む潤滑油への分散性や浸透性に優れる。また,優れた脱脂性と造膜性に優れたポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルを含んでも良い。脱脂工程において、通常行なわれる脱脂機構は、脱脂液成分が潤滑油に浸透してから分散するのが主であるとされているが、粘度が高く、アルミニウム合金板への吸着性に優れる潤滑油を脱脂するには時間がかかる。しかし、上記界面活性剤は、非常に強い極性基を有することから、上記潤滑油成分を効率よく脱脂液に分散することができ再付着を防ぐことができ、また、極性基に隣接した官能基が分岐していることから、特に分散性と浸透性に優れることから、潤滑油内部への脱脂液の浸透性を向上させて、アルミニウム合金板表面から潤滑油成分を効率よく剥離させることができる。
【0043】
また、同時に、上記界面活性剤は、疎水基を有することから潤滑油成分とは、充分相溶できる。極性基に隣接した官能基が分岐した構造により耐熱性に優れ、アルミニウム合金板表面への親和性が優れることから、潤滑油成分の構造油膜厚を維持や、発煙、金型への焦げ付き、熱劣化に悪影響を与えない。
【0044】
上記以外化合物では、充分な潤滑油への分散性や浸透性を得ることができず、脱脂性が劣る。
【0045】
上記界面活性剤は、0.1〜15質量%含まれる。含有量が0.1質量%未満の場合は、脱脂が困難であり、15質量%を超える場合は、温間成形性に劣る。
【0046】
(潤滑油の特性)
これら成分を含み、40℃における動粘度が15〜400mm/sでヨウ素価が0〜20である潤滑油は、これまで達成できない成形後の脱脂性を向上させることができ、自動車等部品製造工程の脱脂ラインにおいて、ライン設備や時間設定の変更なく、鋼板プレス製品とも容易に併用することができる。
【0047】
40℃における動粘度は、構造油膜厚を維持できるかどうかを示す潤滑油特性としての指標として重要であり、潤滑油としては15〜400mm/sである。
【0048】
動粘度が15mm/sより低い場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、400mm/sを超えるより高い場合は、脱脂が困難である。
【0049】
また、ヨウ素価は、熱安定性の指標として、高温時の発煙や金型への焦げ付き、熱劣化、高分子化しないかどうかを示す潤滑油特性としての指標として重要であり、潤滑油としては0〜20である。
【0050】
ヨウ素化が20より高い場合は、温間成形時に油剤は皮膜化(高分子化)して、脱脂が困難である。
【0051】
(温間成形)
温間成形は、図1に示したように、高温のダイス4及びしわ押さえ金型2でアルミニウム合金板3のフランジ部分を加熱し、ポンチ1を低温のままとする成形方法である。この成形方法は、金型の温度差によって材料間に温度差を生じさせ、この温度差に起因した材料内の強度差を利用して、高い成形性を得るものである。即ち、ダイス4としわ押さえ2に接する材料のフランジ部分は高温になるために変形し易くなり、深絞りの流入抵抗が低下する。一方、ポンチに接する材料部分はフランジ部分よりも低温であるためその強度は高温部のフランジ部分よりも高く、この様な強度差により深絞りの流入力が増大する。このような機構により、温間成形では、冷間成形よりも高い成形性が得られる。しかし、温間成形にて高い成形性を得るには、潤滑油の性能も重要である。
【0052】
(温間成形方法)
本発明は、従来の冷間プレス成形用の潤滑油と同等の作業性を有し、温間成形用の固体潤滑剤と同等の潤滑性能を有する、アルミニウム合金板温間成形用潤滑油(以下、本発明の潤滑油ともいう。)、及びそれを塗布したアルミニウム合金板(以下、本発明のアルミ合金ともいう。)、及びそれを用いたアルミニウム合金板温間成形方法(以下、本発明の成形方法ともいう。)である。本発明の潤滑油は、塗布及び洗浄(脱脂)に要する時間が冷間プレス成形と同等であるため、本発明の成形方法は生産性に優れる。
【0053】
(潤滑油の塗布方法)
本発明の潤滑油は、150〜300℃に加熱される前にアルミニウム合金板の表面と裏面の一方又は双方に塗布しても良く、加熱後に塗布しても良い。加熱前後の潤滑油の塗布は、一般的な方法、例えば、静電塗布、ロールコーター塗布、吹き付け塗布、浸漬、捌け塗りなどによって行うことが可能である。下限値は0.01g/m以上であれば、潤滑性能の確保が可能となる。
【0054】
温間プレスにより成形した部品を自動車などの輸送機器に適用する場合、成形後に塗装などの処理を行う場合が多い。そのため、塗装などの表面処理を行う前には、成形品を脱脂して、充分な水濡れ性を確保する必要がある。本発明の潤滑油は、固体潤滑剤とは異なり、一般的な脱脂方法、例えばアルカリ脱脂などの方法で脱脂することにより充分な水濡れ性を確保することができる。
【0055】
本発明者らの検討によれば、本発明の潤滑油をアルミニウム合金板に塗布して温間成形した場合も、150〜300℃に加熱した金型に塗布しても、蒸発、金型への焦げ付き、自然発火する可能性は低く、潤滑油として充分な粘性を有した形態を維持していた。なお、従来、汎用プレス油、即ち冷間プレスにて使用されているプレス油は、この温度範囲では、自然発火や金型への焦げ付きを生じ、成形に必要な潤滑性が得られず、温間成形への使用は不可能であった。
【0056】
以下、本発明の潤滑油、アルミ合金、及び成形方法について、更に詳細に説明する。
【0057】
(多価エステル)
多価エステルとは、エステル結合を2個以上有する化合物であり、熱安定性が高く、摩擦係数を下げることができることを特徴とした、ポリオールとカルボン酸の反応生成物である。
【0058】
ポリオールと脂肪酸およびジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種との反応生成物である。
【0059】
ポリオールとしては、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、トリメチロールヘキサン、トリメチロールヘプタン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、テトラトリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、ペンタペンタエリスリトールなどが挙げられ、
【0060】
脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、イソペラルゴン酸、カプリン酸、イソカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ラウロレン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデジル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ヘプタデセン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リシノレン酸、リノレン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸などが挙げられ、
【0061】
ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、などが挙げられる。
【0062】
多価エステルは、ヨウ素価が0〜120、40℃における動粘度が1〜500mm/sである。
【0063】
ヨウ素価が120を超える場合は、脱脂が困難である。好ましくは、ヨウ素価が0〜100である、より好ましくは、0〜70、更に好ましくは0〜35、最適範囲は、0〜20。
【0064】
動粘度が1mm/sより低い場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、500mm/sより高い場合は、脱脂が困難である。好ましくは、40℃における動粘度が1〜400mm/s、より好ましくは、10〜250mm/s更に好ましくは、20〜100mm/s、最適範囲は、20〜50mm/sである。
【0065】
多価エステルは、多価エステルと合成油と界面活性剤の和を100質量%としたとき、40〜90質量%含まれる。
【0066】
含有量が40質量%未満の場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、90質量%を超える場合は、耐熱性が不充分となり低発煙性および耐焦げ付き性に劣る。好ましくは、50〜70質量%、より好ましくは、52〜69質量%、更に好ましくは、53〜69質量%、最適範囲は65〜69質量%である。
【0067】
(合成油)
合成油とは、温度粘度指数が高く、圧力粘度指数が高く、熱安定性が高いことを特徴とした化合物である。
【0068】
ポリアルファオレフィンおよびアルキルナフタレンから選ばれる少なくとも1種である。
【0069】
ポリアルファオレフィンとしては、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンから選ばれる少なくとも1種の反応生成物である。
【0070】
アルキルナフタレンとしては、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンから選ばれる少なくとも1種とナフタレンとの反応生成物である。
【0071】
合成油は、40℃における動粘度が1〜4000mm/sである。
【0072】
動粘度が1mm/sより低い場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、4000mm/sを超えるより高い場合は、脱脂が困難である。
【0073】
好ましくは、40℃における動粘度が10〜3500mm/s、より好ましくは、10〜1500mm/s、更に好ましくは、15〜500mm/s、最適範囲は、20〜100mm/s、である。
【0074】
合成油は、多価エステルと合成油と界面活性剤の合計量を100質量%としたとき、1〜50質量%含まれる。
【0075】
含有量が1質量%少ない場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、50質量%を超えるより多い場合は、脱脂が困難である。
【0076】
好ましくは、20〜40質量%、より好ましくは、22〜36質量%、更に好ましくは、25〜33質量%、最適範囲は、28〜32質量%である。
【0077】
(界面活性剤)
界面活性剤は、潤滑油および脱脂剤への浸透性や分散性に優れる化合物である。
【0078】
ポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルと脂肪酸アミドおよびポリオキシエチレンポリプロピレングリコールを含む界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である。
【0079】
ポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルとしては、アルキル基が炭素数8〜14の分岐型でありエチレンオキサイド付加数が2〜20の化合物などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。好ましくは、アルキル基が炭素数10〜14の分岐型でありエチレンオキサイド付加数が2〜20の化合物、より好ましくは、アルキル基が炭素数12〜14の分岐型でありエチレンオキサイド付加数が2〜20の化合物、更に好ましくは、アルキル基が炭素数12〜14の分岐型でありエチレンオキサイド付加数が4〜16の化合物、最適範囲は、アルキル基が炭素数12〜14の分岐型でありエチレンオキサイド付加数が5〜15の化合物である。
【0080】
脂肪酸アミドとしては、脂肪酸とアルカノールアミンが反応生成物である。
【0081】
脂肪酸としては、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデジル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ヘプタデセン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リシノレン酸、リノレン酸などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。好ましくは、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデジル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ヘプタデセン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ヘプタデセン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸から選ばれる少なくとも1種であり、最適範囲は、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸から選ばれる少なくとも1種である。
【0082】
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエタノール、3−アミノ−1−プロパノール、N−エチルアミノエタノール、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−2,2−ジメチル−1−プロパノール、ジプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モルホリン、などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジプロパノールアミンから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミンから選ばれる少なくとも1種であり、最適範囲は、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種である。ポリオキシエチレンポリプロピレングリコールとしては、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体(プルロニック型ブロックタイプ)、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体(プルロニック型リバースタイプ)、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体(プルロニック型ランダムタイプ)などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。好ましくは、疎水基分子量が2000〜7000でありエチレンオキシド%が1〜60の化合物、より好ましくは、疎水基分子量が3000〜6000でありエチレンオキシド%が5〜40の化合物、更に好ましくは、疎水基分子量が3000〜5000でありエチレンオキシド%が5〜30の化合物、最適範囲は、疎水基分子量が3000〜4500でありエチレンオキシド%が5〜15の化合物である。
【0083】
本発明の潤滑油において、脂肪酸アミドを含む界面活性剤およびポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種である界面活性剤は、多価エステルと合成油と界面活性剤の合計量を100質量%としたとき、0.1〜15質量%含まれる。含有量が0.1質量%未満の場合は、脱脂が困難であり、15質量%を超える場合は、温間成形性に劣る。界面活性剤の含有量は、好ましくは、0.1〜10質量%、より好ましくは、0.5〜5.5%、更に好ましくは、1.0〜4.5%、最適範囲は、1.5〜3.5%である。
【0084】
(添加剤)
本発明の潤滑油には、その他必要に応じて各種添加剤を加えても良い。
【0085】
特に限定はされないが、酸化防止剤、変色防止剤、過酸化物分解剤、紫外線吸収剤、極圧添加剤、防錆剤、無機塩類、有機溶剤、消泡剤、防腐剤、防食剤、香料、染料、鉱物油、多価エステル、合成油、界面活性剤など、通常の潤滑油に配合されているものを状況に応じてそれらから選ばれる少なくとも1種を添加することができる。
【0086】
好ましくは、酸化防止剤としては、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)、ブチルヒドロキシアニソール、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N、N−ジフェニル−p−フェニレンジアミンジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾールトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイトペンタエリスリトールテトラキス(3−(3.5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、N−フェニルベンゼンとアミン−2.4.4−トリメチルペンテン反応物などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。
【0087】
変色防止剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。
【0088】
極圧添加剤としては、ポリオキシエチレンオレイルリン酸エステル、ポリオキシエチレンイソステアリルリン酸エステル、サンフリックFM−2(三洋化成)、ジオチリン酸亜鉛(ZDTP)、ホウ酸アルキルアミン、トリクレジルホスフェート、2エチルヘキシルアシッドホスフェートのアミン塩、トリオレイルホスフェート、トリラウリルトリチオホスフェート、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化ラード、ポリサルファイドなどが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。
【0089】
鉱物油としては、ナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油、などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。多価エステルとしては、ポリオールとカルボン酸の反応生成物である。カルボン酸は、特に限定されないが、具体的には、芳香族カルボン酸、オキソカルボン酸、トリカルボン酸、アミノ酸などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。
【0090】
合成油としては、特に限定されないが、具体的には、ポリメタクリレート、エチレンプロピレン共重合体、スチレンブタジエン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンブタジエン共重合体水素化物、スチレンイソプレン共重合体水素化物、ジビニルベンゼンイソプレン共重合体、スチレン無水マレイン酸共重合体、ポリアルキルスチレン、アルキルベンゼン、ポリイソブチレン、ポリブテンなどが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。
【0091】
界面活性剤としては、特に限定されないが、具体的には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である。アニオン界面活性剤としては、カルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アミドアルキルスルホン酸塩(イゲポンT型)、ジアルキルスルホコハク酸塩(エアロゾルOT型)、リン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ジチオリン酸エステル塩、などが挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ソロミンA型、サパミンA型、アーコベルA型、イミダゾリン型、アルキルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、などが挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アミノ酸型、ベタイン型、などが挙げられ、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体(プルロニック型ブロックタイプ)、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体(プルロニック型リバースタイプ)、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体(プルロニック型ランダムタイプ)、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリット脂肪酸エステル、ソルビット脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アルキレンアルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール、などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。なお、ここで「ポリオキシアルキレン」とは、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシイソプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシ1,2−ブチレン、ポリオキシ2,3−ブチレン、ポリオキシペンチレン、ポリオキシオクチレンなどが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種である。なお、ここで「塩」とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機アミン類などが挙げられ、それらから選ばれる少なくとも1種を言う。
【0092】
上記した各種の添加剤の合計量は、(成分(a)多価エステル+(b)合成油+(c)界面活性剤の合計量を100%として)0〜20質量%(すなわち、各種の添加剤の合計量が20質量%以下)であることが好ましい、より好ましくは、15質量%以下、更に好ましくは、10質量%以下、最適範囲は、5質量%以下である。
【0093】
各種の添加剤の含有量が20質量%を超えるより多い場合は、温間成形性に劣る可能性がある。
【0094】
(潤滑油の特性)
これら成分を含み、40℃における動粘度が15〜400mm/sでヨウ素価が0〜20である潤滑油は、これまで達成できない成形後の脱脂性を向上させることができ、自動車等部品製造工程の脱脂ラインにおいて、ライン設備や時間設定の変更なく、鋼板プレス製品とも容易に併用することができる。
【0095】
40℃における動粘度は、構造油膜厚を維持できるかどうかを示す潤滑油特性としての指標として重要であり、潤滑油としては15〜400mm/sである。好ましくは、15〜200mm/s、より好ましくは、20〜150mm/s、更に好ましくは、25〜100mm/s、最適範囲は、25〜50mm/sである。
動粘度が15mm/sより低い場合は、充分な油膜を確保することができず温間成形性が劣り、400mm/sを超えるより高い場合は、脱脂が困難である。
また、ヨウ素価は、熱安定性の指標として、高温時の発煙や金型への焦げ付き、熱劣化、高分子化しないかどうかを示す潤滑油特性としての指標として重要であり、潤滑油としては0〜20である。好ましくは、18以下、より好ましくは、10以下、更に好ましくは、5以下、最適範囲は、3以下である。
【0096】
ヨウ素化が20より高い場合は、温間成形時に油剤は皮膜化(高分子化)して、脱脂が困難である。
【0097】
(アルミ合金板)
次に、本発明のアルミ合金板について説明する。
【0098】
本発明のアルミ合金板の素材にはAl−Mg系合金とAl−Mg−Si系合金が適している。
【0099】
Al−Mg系合金では、Mgの添加量は2.0%以上が好ましい。2.0%以上であると高強度が得られる。一方、Mgが8%を超えて添加されると熱間加工性が劣化することがあり、製造コストが高くなる。なおAl−Mg系合金の場合、Siは0.1%未満である必要がある。0.1%を超えると、Al−Mg−Si系合金としての特性を有する。
【0100】
Al−Mg−Si系合金では、MgとSiの析出物およびクラスタ形成により高い強度が得られる。必要な強度を得るためには、下限量として、MgとSiでそれぞれ、0.2%と0.1%となる。一方、過剰な添加は延性の劣化を引き起こし、かつ製造コスト増となる。そのため、Mg、Siともに添加量の上限値を2.0%にすべきである。
【0101】
なお上述の合金において、必要に応じてCuを添加してもよい。Cuは強度上昇に寄与するが、過剰な添加は、破壊の起点の形成を介して、成形性を劣化させる。したがって、Cuは2.0%以下に添加量を制限する。一方下限値は、成形性向上効果の発現する量できまり、0.3%以上とする。
【0102】
これらAl−Mg系合金とAl−Mg−Si合金にFeを添加しても良い。Feは溶解原料から混入し、不純物として含まれるFeは晶出物を生成する。これは、再結晶の核となる一方、0.9%を超えて添加すると、破壊の起点となり、成形性や曲げ加工性を劣化させる。したがって、添加量は0.9%以下とする。
【0103】
その他、Mn、Cr、Zr、Vを添加しても良い。これら遷移元素は均質化熱処理時に分散粒子を生成し再結晶後の粒界移動を抑制する効果がある。ただし、多量の添加は金属間化合部を生成し、これが温間成形や曲げ加工においての破壊の起点となり、これら特性を劣化させる。したがって、添加する場合、Mnでは0.9%以下、Crでは0.25%以下、Zrでは0.25%以下、Tiでは0.9%以下の添加量とする。
【0104】
(アルミニウム合金の製造方法)
次に、上記アルミニウム合金の製造方法について説明する。温間成形用のアルミニウム合金には、充分な強度と延性が必要である。
【0105】
上記した成分組成のAl−Mg−Si系合金およびAl−Mg系合金の鋳塊を、均質化熱処理、熱間圧延、冷間圧延を施した後、溶体化熱処理および焼入れ処理を行う。これら工程は常法と同じである。なお、冷間圧延の間に1回以上の熱処理を行っても、また、熱間圧延後に熱延板の熱処理を行っても良い。また、成形品に充分な強度、延性、再結晶粒が要求されない場合は冷間圧延材料を使用しても良い。
【0106】
先ず、溶解、鋳造工程では、上記合金の溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の常法の溶解鋳造法を選択実施する。
【0107】
次に行う均質化熱処理では材質の均質化を狙う。均質化熱処理は添加元素の偏析をなくすことが主目的である。そのためには、充分な熱処理として、460℃以上融点以下の温度での熱処理が必要となる。熱処理時間は、添加元素量にもよるが、上記温度範囲内にて20分以上8時間以下であれば充分である。20分より短いと偏析をなくすことは困難となり、一方8時間以上であれば工程コストが高くなる。
【0108】
続く熱間圧延では、開始温度の設定が必要であり、その温度は450℃以上にすべきである。450℃未満の温度では、熱間圧延中での再結晶の頻度が急激に低下し、これが最終製品での未再結晶化の可能性を高くする。好ましくは開始温度が500℃以上であれば未再結晶の懸念はほとんどなくなる。最終板厚は特に制限は設けず、5mm以下であることが、続く冷間圧延工程の容易さの点から好ましい。
【0109】
なお、確実な再結晶を得るために、冷間圧延前に熱延板を焼鈍しても良い。その場合には400℃以上の温度にて20分以上であれば充分であるが、長時間の焼鈍は製造コストを高める欠点となる。また、全体の製造コストを考慮して、この熱延板焼鈍を省略しても良い。
【0110】
続く冷間圧延は所望の板厚まで冷間まで常法で圧延してよい。
【0111】
また、熱延板焼鈍と同様、確実な再結晶を得るために、冷間圧延の途中に1回以上の熱処理を実施しても良い。この時の条件は、熱間圧延により板厚が薄くなっているので、コイルとしても板材としても、500℃以上融点以下の温度にて30秒以上の保持で充分である。同様に、これ以上の長時間焼鈍は製造コスト増となるので好ましくない。
【0112】
冷間圧延終了後は、溶体化熱処理を行う。Al−Mg−Si系合金の場合、強度と延性を得るためにはMgとSiの析出物とクラスタの形成が必要であり、これらを形成させるためには溶体化熱処理にて過飽和の固溶Mgと固溶Siを形成させなくてはならない。そのためには、先ず、冷間圧延板を500℃以上融点以下の温度に30秒以上に保持することが必要である。500℃未満であれば、また500℃以上であっても保持温度が30秒未満であれば、過飽和の固溶Mgと固溶Siを確実に得ることは出来ない。保持時間の上限は特に制限は設けず、製造コストが高くならない時間以内であればよい。また、所定温度までの昇温速度も特に設定する必要はない。昇温速度が変わっても、過飽和の固溶Mg量と固溶Si量を決定するのは保持温度と保持時間であることがその理由である。次に、保持後は、50℃/分以上の冷却速度にて80℃以下まで冷却することが必要である。過飽和の固溶Mgと固溶Siを確保した後に80℃を超えた温度での保持時間長ければ、所望以外の析出物の形成に過飽和の固溶Mgを固溶Siが消費される。それを回避するため、80℃以下まで50℃/分以上の冷却速度にて冷却する必要がある。
【0113】
最後に、80℃以下に冷却後は、冷却後24時間以内に、60℃以上180℃以下の温度範囲内に2時間以上10時間以下に保持する熱処理を実施しても良い。合金に塗装焼付け熱処理後の強度が必要な場合はこの熱処理が必要となる。この熱処理では、塗装焼付け後の強度に必要な、析出物、析出物核、クラスタを形成させる。これら形成に必要な熱処理温度範囲と保持時間が上記であり、溶体化熱処理後に60℃未満まで冷却した場合は、24時間以内に上記温度範囲内まで合金を昇温させ、上記保持時間に保持する必要がある。なお、保持後の冷却速度は特に指定する必要はなく、また、上記熱処理はコイルであっても、板であっても構わない。
【0114】
(潤滑油の塗布方法)
このように製造された合金に対して、上述の潤滑油を少なくとも片面に3.5g/m以下塗布する。この塗布したアルミニウム合金により、高い成形性を発現する温間成形が可能となる。ただし、塗布量が3.5g/m超えると重ねた板材同士が吸着することで取扱いの困難さが生じる。それゆえ塗布量の上限は3.5g/mとなる。一方、塗布量の下限は0.01g/mであり、これ未満であると充分な高温での潤滑性能が発現しない。したがって、0.01g/m以上の塗布が必要となる。その塗布方法は特に限定せず、静電塗付であっても、ロールコーターであっても問題なく、塗布量が板材の平均として0.01g/m以上3.5g/m以下であれば、充分な温間成形における潤滑性能が発現する。
【0115】
(成形方法)
次に、本発明の成形方法について説明する。
【0116】
上述のアルミニウム合金板を用いた温間成形は、ダイスおよびしわ押さえの温度よりもポンチの温度を低くして行う。これらの温度差が大きいほど、材料中の強度差が大きくなり、これにより深絞り成形性が向上する。必要なダイスとしわ押さえとポンチとの温度差は50〜300℃である。50℃未満であれば充分な強度差は材料内に発現しない。また、300℃を超えた温度差を得るためには大幅な設備コストがかかるために工業的には不利となる。なお、加熱方法は電熱ヒーターを用いても、他の熱媒体による方法でも良く、特に限定はしない。
【0117】
なお、ダイス及びしわ押さえ金型の加熱温度が150℃未満では、フランジ部の変形抵抗の低下が不充分であるため、これら温度の下限を150℃以上とする。フランジ部の変形抵抗は、ダイス及びしわ押さえ金型の加熱温度の上昇によって低下するため、200℃以上とすることが好ましく、250〜300℃の範囲が最適な範囲である。
【0118】
更に、ポンチに接する材料の温度とダイス及びしわ押さえ金型に接する材料の温度差を大きくするためには、ポンチ内に配管を設け、水冷により冷却することが好ましい。なお、ポンチの冷却水は30℃以下で良く、通常の水道水の温度で冷却は可能である。なお、ポンチの温度は低いほど好ましく、10℃以下とすれば成形性が極めて良好になる。
【0119】
ここで、ポンチを冷却するためには、ポンチ内に設けた配管を冷却装置に接続し、温度管理された冷媒を循環させることが好ましい。冷媒及び冷却装置を用いる際には、配管等を考慮すると−50℃以上が実用的な範囲であり、−30〜0℃の範囲が最適である。ポンチを効率良く冷却するには、冷媒をエチレングリコール水溶液とすることが好ましい。また冷媒には、メタノール、エタノール等のアルコール類又は塩化メチレン等の有機ハロゲン化合物を使用しても良い。冷媒を冷却する水冷装置は特に制限されるものではなく、汎用の装置を用いれば良い。ポンチ肩部の冷却を促進するためには、ポンチと対向するカウンターポンチを設けても良く、その際には、カウンターポンチにも水冷手段を設け、ポンチと同じ温度に冷却することが好ましい。
【0120】
また、ポンチに接する材料の温度とダイス及びしわ押さえ金型に接する材料の温度差は、材料の熱伝導があるために、ダイス及びしわ押さえ金型とポンチの温度差よりも小さくなる。良好な成形性を得るには、上述したように、ダイス及びしわ押さえ金型に接する材料部分とポンチに接する材料部分との温度差を50℃以上とする必要がある。そのためには、ダイス及びしわ押さえ金型とポンチとの金型自体の温度差を90℃以上とすることが好ましい。これにより、アルミニウム合金板のフランジ部とポンチ肩部に相当する部分の強度差を適正な範囲とすることが可能になり、プレス成形性を更に向上させることができる。
【0121】
(潤滑油の好適な特性)
本発明の潤滑油は、以下の特性を与えるものであることが好ましい。
(1)LDR値:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「合金A」を使用)において、LDR値が2.4以上であることが好ましく、更には2.5以上、特に2.6以上であることが好ましい。
(2)脱脂性:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「合金A」を使用)において、脱脂性が70%以上であることが好ましく、更には80%以上、特に90%以上であることが好ましい。
(3)発煙性:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「合金A」を使用)において、発煙性が目視で確認できないことが好ましい。
【0122】
(合金板の好適な特性)
本発明の合金板は、以下の特性を与えるものであることが好ましい。
(1)LDR値:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「実施例19〜60」の潤滑油を使用)において、LDR値が2.4以上であることが好ましく、更には2.5以上、特に2.6以上であることが好ましい。
(2)脱脂性:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「実施例19〜60」の潤滑油を使用)において、脱脂性が70%以上であることが好ましく、更には 80%以上、特に90%以上であることが好ましい。
(3)発煙性:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「実施例19〜60」の潤滑油を使用)において、発煙性が目視で確認できないことが好ましい。
【0123】
(温間成形方法の好適な特性)
本発明の温間成形方法は、以下の特性を与えるものであることが好ましい。
(1)LDR値:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「合金A」および「実施例19〜60」の潤滑油を使用)において、LDR値が2.4以上であることが好ましく、更には2.5以上、特に2.6以上であることが好ましい。
(2)脱脂性:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「合金A」および「実施例19〜60」の潤滑油を使用)において、脱脂性が70%以上であることが好ましく、更には80%以上、特に90%以上であることが好ましい。
(3)発煙性:後述する実施例において用いる測定方法(実施例における「合金A」および「実施例19〜60」の潤滑油を使用)において、発煙性が目視で確認できないことが好ましい。
【実施例】
【0124】
表1は各種潤滑油の特性と合金A(表2記載)を用いた時の脱脂性と温間成形試験により得られたLDR値を示す。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
<各物性の評価方法>
本発明の実施例においては、以下の各評価方法を用いた。
【0131】
<脱脂性評価試験>
脱脂性評価試験は、市販のアルカリ性脱脂剤(日本パーカライジング(株)製FC−E2082)を用いて、攪拌機で攪拌しながら2%濃度に建浴して、ヒーターでアルカリ脱脂液の温度を40℃に昇温した後、炭酸ガスでpH=11.0に調整した。更に防錆潤滑油(油研工業製RP−75N)を5000ppmアルカリ脱脂液中に溶解させて劣化脱脂液とする。この脱脂液に静電塗布で0.005〜4g/m潤滑油を塗布したアルミ板を2min浸漬させて、その後水道水で30secスプレー洗浄し、更に垂直保持30sec経過でのアルミ板表面の水濡れ面積でアルカリ脱脂性を評価した。目視にて、70%以上で水濡れ性が確認されれば問題ないと判断する。
【0132】
<温間成形試験>
温間成形試験では、直径75mmの円筒ポンチと直径80mmのダイスを用いた。ダイスは金型に埋め込んだヒーターによる電熱加熱により加熱し、ポンチは冷却したエチレングリコール水の循環により加熱した。表1記載の試験では、ポンチ温度を25℃に、ダイスとしわ押さえの温度を250℃に設定した。
【0133】
<LDR値(限界絞り比)>
LDRは深絞り成形性の評価値であり、破断することなく絞り抜けるまで成形できた最大の円形アルミ合金板の直径をポンチ径(ここでは75mm)で除した値である。この値が大きければ成形性は優れており、温間成形による成形性向上効果としてはLDR2.4以上が必要となる。なお、温間成形試験での潤滑油塗布量は静電塗付にて0.005〜4g/mに調整し、BHF(しわ押さえ荷重)は1tに設定した。
【0134】
<発煙性>発煙性は、合金Aの両面に0.005〜4g/mの潤滑油をとした状態で、250℃に加熱した金型に2分間保持し、その間での目視評価にて判定を行った。目視にて充分な発煙量が確認できた場合は“×”、確認できない場合を“○”とした。上記試験を10回実施した後、金型表面に付着した油を布で素早く拭き取り、金型を室温まで冷却した。冷却後、金型表面に目視、触診にて確認できる潤滑油起因の固形物が確認された場合、金型への焦げ付き性“×”として、確認されない場合は“○”とした。
【0135】
表中、No.1では界面活性剤脱脂剤が添加されておらず、No.1とNo.2とNo.4とNo.15とNo.16とNo.17ではヨウ素価が規定範囲外であり、No.3とNo.7とNo.9とNo.10とNo.18ではエステルまたは合成油含有量が範囲外の成分であり、No.3とNo.11は界面活性剤含有量が範囲外であり,No.6は範囲外の動粘度の合成油が使われており,No.5ではモノエステルが多価エステルの代わりに使用されている。また,No.12と13は塗油量が範囲外である。さらにNo.8とNo.14は潤滑油の動粘度が範囲外となっている。No.3とNo.5とNo.9とNo.12とNo.14を除きNo.1からNo.15までの10種類については、高温での潤滑性能は確保されている。しかし,No.1からNo.8とNo.10からNo.11とNo.13とNo.15とNo.16とNo.17とNo.20は脱脂性,発煙性,焦げ付き性のいずれか1つ以上が劣っている。一方、No.9とNo.12とNo.14は脱脂性,発煙性,焦げ付き性は優れているものの、高温での潤滑性能に劣る。
【0136】
表2は本実施例にて使用した合金の成分を示す。
【0137】
【表6】

【0138】
AからFまでの合金は次に示す方法にて製造した。これら合金は、DC鋳造にて鋳造後、先ずは均熱化処理として、480℃にて2時間保持した。熱延開始温度は500℃として、仕上げの板厚は4mmである。その後冷間圧延にて1mmまで冷延後、550℃にて1分間の大気熱処理にて熱処理を実施し、ミスト噴霧により100℃/分以上の冷却速度にて室温まで冷却した。GからKまでの合金は、冷間圧延までは上記方法にて製造し、その後の溶体化熱処理にて、大気炉にて530℃にて1分間保持した後、ミスト噴霧により50℃以下まで冷却を行った。その直後、大気炉にて100℃にて4時間保持を実施した。この熱処理後、合金は室温まで放置冷却した。
【0139】
表3は表2の合金を表1の潤滑油No.1,2,29,30を使用した場合の脱脂性評価と温間成形により得られたLDRを示す。
【0140】
【表7】

【0141】
この時の温間成形条件は表1と同じであり、ポンチ温度は25℃、ダイスとしわ押さえの温度は250℃である。また、潤滑油塗布量も1g/mである。比較例の潤滑油では脱脂性は優れず、また比較合金であるE,F,J,Kでは温間成形を実施しても充分な成形性が得られない。合金EではMg量が少なく、合金FではCu添加量が多く、合金JではMg量が少なく、合金KではSi量が多過ぎる。規定に満たない成分の合金では、温間成形にて、温度差起因の大きな強度差が材料内に発現しなくなる。また、規定以上の成分を有する合金では、金属間化合物などの形成により、成形時の曲げ変形箇所などでの破断が発生しやすくなり、結果、成形性は低下する。
【0142】
表4は、表1のNo.29の潤滑油にて、表2の合金Aを使用した場合、温間成形時のポンチとダイスの温度を変えた場合に得られたLDRを示す。
【0143】
【表8】

上記表において、潤滑油はNo.3、合金はAを使用
【0144】
なお、潤滑油塗布量は1g/mである。規定以外の温度条件であれば、材料内に充分な、温度差起因の強度差が得られず、成形性は2.4を超えることはない。
【符号の説明】
【0145】
1 ポンチ
2 しわ押さえ
3 アルミニウム合金板
4 ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)40℃における動粘度が1〜500mm/sの脂肪酸ポリオールエステルおよびジカルボン酸ポリオールエステルから選ばれる少なくとも1種で,ヨウ素価 0〜120である多価エステルと、
(b)ポリアルファオレフィンおよびアルキルナフタレンから選ばれる少なくとも1種からなる40℃における動粘度が1〜4000mm/sの合成油と、
(c)脂肪酸アミドおよびポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルおよびポリオキシエチレンポリプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であるを含む界面活性剤を少なくとも含む潤滑油(ただし、上記量比は、成分(a)+(b)+(c)の合計量を100質量%としたとき、(a)を40〜90質量%、(b)を1〜50質量%、(c)を0.1〜15質量%となるように配合する)であって;且つ、
40℃における動粘度が15〜400mm/sでヨウ素価が0〜20であることを特徴とするアルミニウム合金板温間成形用潤滑油。
【請求項2】
アルミニウム合金板が、質量%で、Mg:2.0〜8.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、請求項1記載の潤滑油を少なくとも片面に0.01g/m以上3.5g/m以下塗布した、温間成形用アルミニウム合金板。
【請求項3】
アルミニウム合金板が、質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、請求項1記載の潤滑油を少なくとも片面に0.01g/m以上3.5g/m以下塗布した、温間成形用アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載のアルミニウム合金板が、質量%で、Cu:2.0%以下を含有することを特徴とする温間成形用アルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項2また3または4に記載のアルミニウム合金板の、ダイスとしわ押さえ金型に接する部分とポンチに接する部分の温度差を50〜300℃とすることを特徴とするアルミニウム合金板を用いた温間成形方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−52108(P2012−52108A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171359(P2011−171359)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(390002152)日本クエーカー・ケミカル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】