説明

アルミニウム溶解炉

【課題】切粉・スクラップを含むアルミニウム原材料をより小さなエネルギーコストと、より少ないCO排出量の下で急速に溶解するとともに、酸化物の生成を抑制してアルミニウム歩留まりを向上させ、エネルギー消費量を飛躍的に低減することができる高熱効率アルミニウム急速溶解炉を提供する。
【解決手段】ガスバーナー式浸漬型ヒーター2が配備されているアルミニウム溶湯加熱室3と、アルミニウム材料をアルミニウム溶湯に投入するアルミニウム材料投入室5と、前記アルミニウム溶湯が前記アルミニウム溶湯加熱室3と前記アルミニウム材料投入室5との間を循環流動するように前記アルミニウム溶湯に対して流動力を付与する流動力付与室13とを備えているアルミニウム溶解炉1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム溶解炉に関し、特に、アルミニウム原材料を急速に溶解するとともに、酸化物の生成を抑制してアルミニウム歩留まりを向上させ、エネルギー消費量を飛躍的に低減することができるアルミニウム溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめ、家電、建材等で使われている数多くのアルミニウム部品はアルミニウム鋳造で作られている。鋳造装置にアルミニウム溶湯を供給するのがアルミニウム溶解炉である。
【0003】
自動車をはじめ、家電、その他の産業において使用される各種部品には数多くのアルミニウム鋳造品が用いられている。
【0004】
アルミニウム鋳造品を製造する際、鋳造装置にアルミニウム溶湯を供給するアルミニウム溶解炉や、アルミニウム溶解保持炉については、従来その大半がガス燃焼バーナーを用いた坩堝炉または反射炉であった(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
従来のガス燃焼バーナーを用いた坩堝炉または反射炉の場合、熱効率が約25%と低いため燃料消費量が多く、環境負荷(CO排出量)も大きい。また、これらは一般的にガス燃焼バーナーによる直接加熱と局部過熱を行うもので、酸化物が発生し、アルミロスが増加せざるをえなかった。酸化物が発生した場合、その混入により溶湯品質が低下し、鋳造製品の品質低下、不良率増加の要因となっている、等々、従来のガス燃焼バーナーを用いた坩堝炉または反射炉によるアルミニウム溶解炉や、アルミニウム溶解保持炉には解決しなければならない多くの問題があった。
【0006】
近年では一部に浸漬型電気ヒーターまたはリジェネレーティブガスバーナーを用いた高品質のアルミニウムを供給する溶解炉も開発されつつあるが、熱効率は何れも30〜35%程度である。
【0007】
また、リジェネレーティブガスバーナーでは、局部加熱により溶湯温度ムラがあるため、酸化物が発生しやすく、また、極めて高価である、等の課題があった。
【0008】
このため、現状においては、溶湯品質及び設備熱効率・省エネルギーが高次元で両立し、コスト面からも工業的に普及が期待できるアルミニウム溶解保持炉は見当たらない状況である。
【0009】
また、アルミニウム廃棄物のリサイクルについては、塊状の材料については、従来の溶解炉で溶解できるが、加工によって生じた切粉はガスバーナー加熱あるいはアルミ溶湯に投入しても融けにくく、酸化物が多く生成してアルミ得率が低いため、その多くはリサイクルされずに廃棄されていた。
【0010】
本願出願人は、これまで、アルミニウム溶湯を保持し、鋳造機へ供給する装置およびそれに用いる特殊耐火物についての研究開発を行ってきた。そして、耐火物をセラミック繊維で強化した耐熱衝撃性に優れ、クラックが発生しにくい特殊耐火物「ニカセラコ(商標)」(特許文献3および4参照)を開発した。
【0011】
また前記の特殊耐火物「ニカセラコ(商標)」を用いてアルミ溶湯浸漬式電気ヒーター「セラコヒーター(商標)」とともに、外気に触れることなしにアルミ溶湯を給送するポンプ「アイメル(商標)」(特許文献5参照)を開発製品化し、アルミ溶湯の酸化抑制に寄与している。
【0012】
さらには、「ニカセラコ(商標)」を用いた一体成形のアルミ溶湯バス、アルミ溶湯バルブおよび「セラコヒーター(商標)」を組み込んだ溶融アルミニウム保持炉(特許文献6、7)を開発商品化して、アルミ溶湯の高品質化、省エネルギー化を図ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−357386号公報
【特許文献2】特開2010−230237号公報
【特許文献3】特開2001−80970号公報
【特許文献4】特開2009−256132号公報
【特許文献5】特開平9−327762号公報
【特許文献6】特開平10−5982号公報
【特許文献7】特開平10−5983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来のガス燃焼バーナーを用いた坩堝炉または反射炉によるアルミニウム溶解炉や、アルミニウム溶解保持炉の前述した現状に鑑みてアルミニウム溶解炉を改善、改良することを目的にしている。
【0015】
すなわち、本発明は、切粉・スクラップを含むアルミニウム原材料をより小さなエネルギーコストと、より少ないCO排出量の下で急速に溶解するとともに、酸化物の生成を抑制してアルミニウム歩留まりを向上させ、エネルギー消費量を飛躍的に低減することができるアルミニウム溶解炉を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するため、本願が提案するものは以下の通りである。
【0017】
請求項1記載の発明は、
ガスバーナー式浸漬型ヒーターが配備されているアルミニウム溶湯加熱室と、
アルミニウム材料をアルミニウム溶湯に投入するアルミニウム材料投入室と、
前記アルミニウム溶湯が前記アルミニウム溶湯加熱室と前記アルミニウム材料投入室との間を循環流動するように前記アルミニウム溶湯に対して流動力を付与する流動力付与室と
を備えていることを特徴とするアルミニウム溶解炉
えある。
【0018】
請求項2記載の発明は、
前記ガスバーナー式浸漬型ヒーターは、前記アルミニウム溶湯加熱室内の前記アルミニウム溶湯に浸漬されている耐熱性チューブと、当該耐熱性チューブ内に燃焼炎を吹き込むガス燃焼バーナーとを備えており、
前記アルミニウム材料投入室において前記アルミニウム溶湯に投入される前記アルミニウム材料はアルミニウム材料供給装置に収容されていて、前記耐熱性チューブ内を通過してきた排ガスが当該アルミニウム材料供給装置の内部に供給されて、前記アルミニウム材料が予熱される
ことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム溶解炉
である。
【0019】
請求項3記載の発明は、
前記アルミニウム材料は、耐熱性の固定床と移動床とを備えている縦型ウォーキングビームによって前記アルミニウム材料供給装置を上側から下側に向けて移送され、前記アルミニウム溶湯に投入される
ことを特徴とする請求項2記載のアルミニウム溶解炉
である。
【0020】
請求項4記載の発明は、
前記流動力付与室は、
前記アルミニウム溶湯が流入している流入通路に連通していて前記流動力付与室の上側に配置されている渦流発生室と吸引孔を介して連通していると共に、
前記流動力付与室内において流動力が付与されたアルミニウム溶湯が前記流動力付与室から流出していく流出通路に連通しており、
前記流動力付与室の下側に、前記流動力付与室内の前記アルミニウム溶湯に流動力を与える永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーターが配備されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のアルミニウム溶解炉
である。
【0021】
請求項5記載の発明は、
前記アルミニウム溶湯加熱室と前記アルミニウム材料投入室との間を循環流動する前記アルミニウム溶湯が、前記アルミニウム材料投入室において前記アルミニウム材料が投入される際に、0.5m/秒乃至3m/秒の流速で流動するように、前記永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーターによって、前記流動力付与室内の前記アルミニウム溶湯に流動力が付与される
ことを特徴とする請求項4記載のアルミニウム溶解炉
である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、切粉・スクラップを含むアルミニウム原材料をより小さなエネルギーコストと、より少ないCO排出量の下で急速に溶解するとともに、酸化物の生成を抑制してアルミニウム歩留まりを向上させ、エネルギー消費量を飛躍的に低減することができるアルミニウム溶解炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のアルミニウム溶解炉の概略構成を表す一部を省略した平面図。
【図2】アルミニウム溶湯加熱室とアルミニウム材料投入室との連設状態を表す一部を省略した断面図。
【図3】図1におけるA−A線部の一部を省略した端面図。
【図4】図1におけるB−B線部の一部を省略した端面図。
【図5】本発明のアルミニウム溶解炉において流動力付与室が形成されている部分の構造の一例を説明する図であって、(a)は図1におけるA−A線部の一部を省略した断面図、(b)は渦流発生室の横端面図、(c)は吸引孔が形成されている部分の横断面図、(d)は流動力付与室の横断面図。
【図6】従来のガスバーナー加熱反射炉型アルミニウム溶解炉の概略構成を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明のアルミニウム溶解炉1の概略構成を表す一部を省略した平面図である。
【0026】
本願発明のアルミニウム溶解炉1は、アルミニウム溶湯加熱室3と、アルミニウム材料投入室5と、流動力付与室13とを備えている(図1)。
【0027】
アルミニウム溶湯加熱室3にはガスバーナー式浸漬型ヒーター2が配備されている。アルミニウム溶湯101に浸漬されているガスバーナー式浸漬型ヒーター2によってアルミニウム溶湯加熱室3においてアルミニウム溶湯101が加熱される。
【0028】
アルミニウム材料投入室5では、アルミニウム材料(例えば、アルミニウムインゴット103)がアルミニウム溶湯101に投入される。
【0029】
流動力付与室13では、アルミニウム溶湯101に対して流動力が付与される。ここで付与された流動力により、アルミニウム溶湯101が、アルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間を、矢印111、112、113、114、115、116で示すように、循環流動する。
【0030】
なお、図示の実施形態では、アルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5とを連通する流路4の底面の高さを、図2に符号9で示すように、アルミニウム溶湯加熱室3の底面31、アルミニウム材料投入室5の底面51よりも高い位置にしている。
【0031】
アルミニウム材料投入室5内で、液面が符号102で示されているアルミニウム溶湯101中に投入、浸漬されたアルミニウムインゴット103が溶解する際に生じた酸化物などが、アルミニウム材料投入室5からアルミニウム溶湯加熱室3に逆流しないようにする上で、図2図示のように、流路4の底面9の高さを、アルミニウム溶湯加熱室3の底面31、アルミニウム材料投入室5の底面51よりも高くしておくことが望ましい。
【0032】
アルミニウム溶湯加熱室3と、アルミニウム材料投入室5と、流動力付与室13とを備えていて、図1に符号100で示されている構造体からなるアルミニウム溶解炉1は、耐火物をセラミック繊維で強化した耐熱衝撃性に優れ、クラックが発生しにくい特殊耐火物「ニカセラコ(商標)」を用いて成形し、組み立てた構造物である。
【0033】
ガスバーナー式浸漬型ヒーター2は、耐熱性チューブ22と、耐熱性チューブ22内に燃焼炎を吹き込むガス燃焼バーナー21とを備えている。
【0034】
耐熱性チューブ22はアルミニウム溶湯加熱室3内のアルミニウム溶湯101に浸漬されており、耐熱性チューブ22内にガス燃焼バーナー21から吹き込まれる燃焼炎によりアルミニウム溶湯加熱室3内のアルミニウム溶湯101は700℃程度に加熱される。このように、内部に吹き込まれた燃焼炎により加熱された耐熱性チューブ22の周壁を介してアルミニウム溶湯加熱室3内のアルミニウム溶湯101を加熱するので、加熱によるアルミニウム溶湯の酸化が生じるおそれはない。
【0035】
これまで、アルミニウム溶湯中に浸漬した電気加熱式セラミックチューブヒーターは使われているが、ガスバーナー加熱式浸漬型セラミックチューブヒーターは実用化されていない。これは、ガスバーナー加熱の場合、燃焼炎の温度変動、あるいは局部加熱による熱歪みにより、セラミックチューブに亀裂が入ってしまうためである。
【0036】
本発明において、耐熱性チューブ22は、耐火物をセラミック繊維で強化した耐熱衝撃性に優れ、クラックが発生しにくい特殊耐火物「ニカセラコ(商標)」を用いて成形したガスバーナー加熱式の浸漬型セラミックチューブヒーターである。本発明の耐熱性チューブ22に使われている「ニカセラコ(商標)」は、一般のセラミックスに比べ、耐熱衝撃性に優れ、クラックが発生し難いため、ガスバーナーの炎の変動による局部的な急激な温度変化に対しても異状なく、優れた耐久性を有している。さらに「ニカセラコ(商標)」は熱伝導性が良く、1300℃の耐熱性とアルミニウム溶湯に対して優れた耐食性を有しているため、アルミニウム溶湯加熱チューブとして最適である。
【0037】
アルミニウム材料投入室5の上側にはアルミニウム材料供給装置15が配備されている。流動しているアルミニウム溶湯101に投入されるアルミニウムインゴット103はアルミニウム材料供給装置15に収容されている。
【0038】
本発明においては、耐熱性チューブ22は耐熱性の接続パイプ23を介してアルミニウム材料供給装置15に接続されている。そこで、耐熱性チューブ22、耐熱性の接続パイプ23の内部を通過してきた高温の排ガスがアルミニウム材料供給装置15の内部に供給され、アルミニウムインゴット103は予熱された状態で、矢印117で示すように、流動しているアルミニウム溶湯101内に投入される。
【0039】
前述したようにアルミニウム溶湯101に浸漬される耐熱性チューブ22は熱伝導性、耐熱性、アルミニウム溶湯に対する耐食性の観点から「ニカセラコ(商標)」を用いて成形している。アルミニウム溶湯101に浸漬されない接続パイプ23は耐熱性を有すれば十分であるので、例えば、鉄製にすることができる。
【0040】
アルミニウム材料供給装置15の内部には、不図示の縦型ウォーキングビームが配備されており、この縦型ウォーキングビームによって、アルミニウムインゴット103はアルミニウム材料供給装置15内を上側から下側に向けて移送され、アルミニウム溶湯101内に投入される。
【0041】
前記の縦型ウォーキングビームは従来公知のように不図示の固定床と移動床とを備えており、移動床によって、固定床の一段ずつ下の段にアルミニウムインゴット103が移動され、最終的に、流動しているアルミニウム溶湯101内に浸漬する形式で、アルミニウムインゴット103が投入される。そこで、縦型ウォーキングビームが備えている固定床と移動床も、耐火物をセラミック繊維で強化した耐熱衝撃性に優れ、クラックが発生しにくい特殊耐火物「ニカセラコ(商標)」を用いて成形されている。
【0042】
図示の実施形態では、流動力付与室13はその上側に配置されている渦流発生室11と吸引孔12を介して連通している。そして、渦流発生室11は、アルミニウム材料投入室5と流入流路6を介して連通している。
【0043】
また、流動力付与室13は、流動力付与室13内において流動力が付与されたアルミニウム溶湯101が流動力付与室13から流出していく流出流路8に連通している。
【0044】
流動力付与室13の下側には、流動力付与室13内のアルミニウム溶湯101に流動力を与える永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14が配備されており、永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14によってアルミニウム溶湯101に対して流動力が与えられる。
【0045】
永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14は、流動力付与室13の下側に配備されていて、流動力付与室13内のアルミニウム溶湯101に、矢印114で示す方向に向かう流動力を付与するものである。本発明においては、永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14は、流動力付与室13の下側、例えば、符号100で示すように成形されているアルミニウム溶解炉1の下側に配置される(図3)。
【0046】
永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14は、高温金属溶湯の溶解炉などにおいて、金属溶湯を攪拌するために従来から使用されているものである。永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14からの磁力線により、流動力付与室13内のアルミニウム溶湯101内に渦電流が発生し、それによってできる磁極NSが、永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14の磁極と反発し、その反力によりアルミニウム溶湯101には矢印114で示す方向の流動力が付与される。こうして流動力付与室13内において流動力が付与されたアルミニウム溶湯101は、流出流路8を介して流動力付与室13から流出し、アルミニウム溶湯加熱室3内に流動していく。
【0047】
このようにして流動力付与室13から流出流路8へとアルミニウム溶湯101が流出していくと、吸引孔12を介して渦流発生室11からアルミニウム溶湯101が吸引される。このため、渦流発生室11内のアルミニウム溶湯101は矢印118で示す渦となって吸引孔12に吸い込まれ、これに応じて、アルミニウム材料投入室5から流入流路6を介してアルミニウム溶湯101が矢印113で示すように渦流発生室11内に流入してくる。
【0048】
こうして、アルミニウム溶湯101は、アルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間を、矢印111、112、113、114、115、116で示すように、循環流動する。
【0049】
なお、渦流発生室11とアルミニウム材料投入室5とは、仕切り壁によって区画され、流入流路6のみによって両者の間が連通するような構造にすることが望ましい。このような構造にすれば、図5(b)図示のように、渦流発生室11はアルミニウム材料投入室5と流入流路6を介して連通している以外は、構造物100の壁面によって囲まれている構造になる。
【0050】
前述したように、流動力付与室13から流出通路8へとアルミニウム溶湯101が流出していくことにより、吸引孔12を介して渦流発生室11からアルミニウム溶湯101が流動力付与室13内に吸引され、これによって、渦流発生室11内のアルミニウム溶湯101に矢印118で示す渦流が形成される。前記のように、渦流発生室11はアルミニウム材料投入室5と流入流路6を介して連通している以外は、構造物100の壁面によって囲まれている構造にすることによって、矢印118で示す渦流の形成がより効率よく行われるようになる。
【0051】
なお図示の実施形態では、図3、図4に図示されているように、アルミニウム材料投入室5と渦流発生室11とを連通する流路10の底面の高さを、アルミニウム材料投入室5の底面51及び、吸引孔12の上端開口の位置よりも高くしている。渦流発生室11において、矢印118で示す渦流の形成がより効率よく行われるようになることを考慮したものである。
【0052】
本発明においては、永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14の出力を制御することによって、流動力付与室13内で発生する矢印114で示す方向の流動力の強さを調整し、前述したように循環流動するアルミニウム溶湯101の流速を制御することができる。
【0053】
アルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間を循環流動するアルミニウム溶湯101は、アルミニウム材料投入室5においてアルミニウム材料(アルミニウムインゴット103)が投入される際に、0.5m/秒乃至3m/秒の流速で流動するように、永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14によって、流動力付与室13内のアルミニウム溶湯101に流動力を付与することが望ましい。
【0054】
流速が0.5m/秒より小さい場合、アルミニウム材料(アルミニウムインゴット103)の投入量、投入速度によっては、アルミニウム材料投入室5のアルミニウム溶湯101の温度が融解熱により低下してしまうおそれがある。一方、3m/秒を越えると、アルミニウム溶湯101に乱流が発生して空気を巻き込み、酸化物の生成が多くなるので好ましくない。
【0055】
本発明のアルミニウム溶解炉1においては、上述したように0.5m/秒乃至3m/秒の流速で流動しているアルミニウム溶湯101中にアルミニウム材料(例えば、アルミニウムインゴット103)が投入される。このため、アルミニウム原材料は流動しているアルミニウム溶湯に浸漬されて、溶解することになる。こうしてアルミニウム原材料は、アルミニウム溶湯中で溶解するため酸化することはない。
【0056】
アルミニウム原材料が溶解する際には大量の融解熱を吸収しアルミニウム溶湯の温度は低下するが、上述したように、アルミニウム溶解炉1内においてアルミニウム溶湯を流動させ、流れをつくることにより、投入された固体のアルミニウム原材料の表面に常に高温のアルミニウム溶湯が供給され、固体のアルミニウム原材料は急速に溶解するのである。
【0057】
この結果、本発明のアルミニウム溶解炉1の熱効率は50%以上と大幅に向上する。
【実施例1】
【0058】
アルミニウム溶解炉1に予め4トンのアルミニウム合金(ADC10)のアルミニウム溶湯101を満たし、ガスバーナー式浸漬型ヒーター2で加熱しアルミニウム溶湯101の温度を700℃に保持した。
【0059】
永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14を70Hzで駆動し、流動力付与室13内のアルミニウム溶湯101を矢印114で示すように回転させた。
【0060】
これによって、アルミニウム溶湯101は流動力付与室13から流出通路8を介して矢印115で示すようにアルミニウム溶湯加熱室3内に流入し、これに伴って、渦流発生室11内のアルミニウム溶湯101は矢印118で示すように渦となって吸引孔12に吸い込まれ、流動力付与室13内に流入する。
【0061】
こうして、アルミニウム溶湯101は、アルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間を、矢印111、112、113、114、115、116で示すように、循環流動する。
【0062】
循環流動するアルミニウム溶湯101の流速を、アルミニウム溶湯加熱室3と、アルミニウム材料投入室5との間の流路4で測定したところ2m/秒であった。
【0063】
5kgのアルミニウムインゴット103(ADC10)を72秒毎にアルミニウム材料供給装置15に供給し、72秒毎に5kgのアルミニウムインゴット103(ADC10)を2m/秒の流速で流動しているアルミニウム溶湯101中に投入、浸漬した。
【0064】
アルミニウム材料供給装置15には、耐熱性の接続パイプ23を介して、ガスバーナー式浸漬ヒーター2からの約900℃の排ガスが供給されており、アルミニウム材料供給装置15内はこれによって加熱されている。そこで、アルミニウム材料供給装置15に72秒毎に供給された5kgのアルミニウムインゴット103(ADC10)は不図示のウォーキングビームによってアルミニウム材料供給装置15中を徐々に下がりながら予熱され、この予熱された状態で、流動しているアルミニウム溶湯101中に投入、浸漬される。
【0065】
アルミニウム溶湯101中に投入、浸漬された5kgのアルミニウムインゴット103(ADC10)は目視によれば完全に溶解することを確認できた。
【0066】
一方、アルミニウム溶解炉1からはポンプで250kg/時でアルミニウム溶湯をくみ出した。この状態で連続運転を続けたが、アルミニウム溶湯101の温度は700℃±2℃に保持された。
【0067】
連続運転時の熱収支を表1に示す。このアルミニウム溶解炉1の設備熱効率は53.6%であった。
【表1】

【0068】
(比較例1)
従来使用されているガスバーナー加熱反射炉型アルミニウム溶解炉200(図6)でアルミニウム合金インゴット206を250kg/時投入して溶解運転を行い、熱収支を計算した結果を表2に示す。この炉の熱効率は25%であった。
【表2】

【実施例2】
【0069】
実施例1で図示し説明したアルミニウム溶解炉1に4トンのアルミニウム合金を満たし、ガスバーナー式浸漬型ヒーター2で加熱しアルミニウム溶湯温度を700℃に保持し、永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター14を70Hzで駆動し、流動力付与室13内のアルミニウム溶湯101を矢印114で示すように回転させた。
【0070】
矢印118で示すように渦となって吸引孔12に吸い込まれる渦流発生室11内のアルミニウム溶湯101にアルミ切粉を4.2kg/分(250kg/時)で投入した。
【0071】
投入したアルミ切粉は矢印118で示す渦流になっているアルミニウム溶湯101中に瞬時に没し、付着していた油は炎を上げて燃えた。
【0072】
アルミニウム溶解炉1から汲み出したアルミ溶湯中の酸化物およびガス量は正常であった。
【0073】
このように、本発明のアルミニウム溶解炉1においては、流動力付与室13を、アルミニウム溶湯が流入している流入通路6に連通していて流動力付与室13の上側に配置されている渦流発生室11と吸引孔12を介して連通していると共に、流動力付与室13内において流動力が付与されたアルミニウム溶湯101が流動力付与室13から流出していく流出通路8に連通している構造にしている。そして、流動力付与室13において、矢印114で示される回転方向の流動力をアルミニウム溶湯101に与えることによって、流動力付与室13からアルミニウム溶湯101を流出通路8を介して流出させ、これに応じて、渦流発生室11から吸引孔12を介してアルミニウム溶湯101を吸引することにより、渦流発生室11のアルミニウム溶湯101に矢印118で示す渦流を発生させている。
【0074】
加工によって生じた切粉はガスバーナー加熱あるいはアルミ溶湯に投入しても融けにくく、酸化物が多く生成してアルミ得率が低いため、その多くはリサイクルされずに廃棄されていた。本発明によれば、前述したように、加工によって生じた切粉などを渦流発生室11の渦流118に投入して、アルミ溶湯中の酸化物の生成を抑制しながら、効率よく溶解させることができる。
【0075】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明は上述した実施形態や、実施例に限定されることなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
【0076】
例えば、上記では、アルミニウム材料投入室5の下流で、アルミニウム材料投入室5とアルミニウム溶湯加熱室3との間に流動力付与室13を配置し、アルミニウム溶湯101をアルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間で循環流動させていた。これを変更して、アルミニウム溶湯加熱室3の下流で、アルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間に流動力付与室13を配置し、アルミニウム溶湯101をアルミニウム溶湯加熱室3とアルミニウム材料投入室5との間で循環流動させることもできる。
【符号の説明】
【0077】
1 アルミニウム溶解炉
2 ガスバーナー式浸漬型ヒーター
3 アルミニウム溶湯加熱室
4 流路
6 流入流路
5 アルミニウム材料投入室
8 流出流路
11 渦流発生室
12 吸引孔
13 流動力付与室
14 永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーター
15 アルミニウム材料供給装置
21 ガス燃焼バーナー
22 耐熱性チューブ
101 アルミニウム溶湯
103、103a、103b、103c アルミニウムインゴット
200 ガスバーナー加熱反射炉型アルミニウム溶解炉
201 溶解室
202 保持室
203 汲み出し室
204 ガスバーナー(アルミニウム溶解用)
205 ガスバーナー(アルミニウム溶湯加熱用)
206 アルミニウム合金インゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバーナー式浸漬型ヒーターが配備されているアルミニウム溶湯加熱室と、
アルミニウム材料をアルミニウム溶湯に投入するアルミニウム材料投入室と、
前記アルミニウム溶湯が前記アルミニウム溶湯加熱室と前記アルミニウム材料投入室との間を循環流動するように前記アルミニウム溶湯に対して流動力を付与する流動力付与室と
を備えていることを特徴とするアルミニウム溶解炉。
【請求項2】
前記ガスバーナー式浸漬型ヒーターは、前記アルミニウム溶湯加熱室内の前記アルミニウム溶湯に浸漬されている耐熱性チューブと、当該耐熱性チューブ内に燃焼炎を吹き込むガス燃焼バーナーとを備えており、
前記アルミニウム材料投入室において前記アルミニウム溶湯に投入される前記アルミニウム材料はアルミニウム材料供給装置に収容されていて、前記耐熱性チューブ内を通過してきた排ガスが当該アルミニウム材料供給装置の内部に供給されて、前記アルミニウム材料が予熱される
ことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム溶解炉。
【請求項3】
前記アルミニウム材料は、耐熱性の固定床と移動床とを備えている縦型ウォーキングビームによって前記アルミニウム材料供給装置を上側から下側に向けて移送され、前記アルミニウム溶湯に投入される
ことを特徴とする請求項2記載のアルミニウム溶解炉。
【請求項4】
前記流動力付与室は、
前記アルミニウム溶湯が流入している流入通路に連通していて前記流動力付与室の上側に配置されている渦流発生室と吸引孔を介して連通していると共に、
前記流動力付与室内において流動力が付与されたアルミニウム溶湯が前記流動力付与室から流出していく流出通路に連通しており、
前記流動力付与室の下側に、前記流動力付与室内の前記アルミニウム溶湯に流動力を与える永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーターが配備されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のアルミニウム溶解炉。
【請求項5】
前記アルミニウム溶湯加熱室と前記アルミニウム材料投入室との間を循環流動する前記アルミニウム溶湯が、前記アルミニウム材料投入室において前記アルミニウム材料が投入される際に、0.5m/秒乃至3m/秒の流速で流動するように、前記永久磁石式溶湯攪拌ジェネレーターによって、前記流動力付与室内の前記アルミニウム溶湯に流動力が付与される
ことを特徴とする請求項4記載のアルミニウム溶解炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−137272(P2012−137272A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291718(P2010−291718)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 関東経済産業局 産業部 製造産業課 刊行物名 戦略的基盤技術高度化支援事業 研究開発成果事例集 平成21年度補正予算採択事業 発行年月日 2010年7月
【出願人】(591140824)有明セラコ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】