説明

アレイセンサ装置

【課題】SN比を維持しながらも、処理速度の高速化を図ることができるアレイセンサ装置を提供する。
【解決手段】アレイセンサ装置1は、読出処理ごとに、電圧電流変換器4における第1の入力端In+に接続されるセンサ要素Pnと第2の入力端In−に接続されるセンサ要素Pnとを交互に順次変化させながら、電圧電流変換器4から出力される両センサ出力の差分信号を第1読出回路11と第2読出回路12に交互に読み出す。そして、第1読出回路11に読み出した差分信号と、第2読出回路12に読み出した差分信号との差分を、差分回路13から検出回路3の出力電圧Voとして出力することにより、回路固有のパターンノイズを除去しながら、処理時間の短縮を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセンサ要素を有するセンサ部を備えたアレイセンサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、物理量あるいは化学量を電気量に変換するセンサ部と、センサ部の出力を検出する検出回路とを備えたセンサ装置が知られている。
【0003】
この種のアレイセンサ装置に用いられるセンサ部としては、前記電気量の変化に応じた電流値の変化を出力する所謂電流検出型のものと、前記電気量の変化に応じた電圧値の変化を出力する所謂電圧検出型のものとがある。
【0004】
電流検出型のセンサ部と共に用いられる検出回路は、センサ部から出力される電荷を蓄積するコンデンサを具備し、所定の信号読出期間に充電される前記コンデンサの両端電圧を出力電圧として出力するものが一般的である。
【0005】
一方、電圧検出型のセンサ部と共に用いられる検出回路においても、電流検出型の場合と同様の構成の検出回路を用いることが考えられる。ただし、実際には電圧検出型のセンサ部は内部抵抗を有しているため、コンデンサと内部抵抗とで決まる時定数が影響し、信号読出期間においてセンサ出力の変化をコンデンサの両端電圧が追従できない場合がある。この場合、信号読出期間の終了時点でのコンデンサの両端電圧の大きさはセンサ部の内部抵抗の抵抗値に依存するため、内部抵抗の抵抗値のばらつきに起因して、センサ出力とセンサ装置から取り出される出力電圧との間に誤差を生じ、センサ出力の検出精度が低下する可能性がある。
【0006】
これに対し、本出願人は、電圧検出型のセンサ部と共に用いられる検出回路の入力段に、入力電圧の大きさに相当する電流を出力する電圧電流変換器を用いることで、上記問題を解決することを提案している。すなわち、センサ部の出力する電圧を電圧電流変換器の入力とし、電圧電流変換器から出力される電流によってコンデンサを充電する構成とすることにより、コンデンサの両端間に、センサ部の出力に応じた出力電圧を生じさせることができる。この構成では、電圧電流変換器は、電圧を入力とするものであって高い入力インピーダンスを有しているから、センサ部の出力でコンデンサを直接充電する場合のようにセンサ装置から取り出される出力電圧の大きさがセンサ部の内部抵抗の抵抗値に依存することはなく、センサ出力を精度よく検出することが可能である。
【0007】
また、検出回路に固有のパターンノイズ(回路オフセットおよびフリッカ雑音)を除去してSN比を向上させる目的で、相関2重サンプリング(Correlated Double Sampling:以下、CDSという)を行うことも考えられている。CDSとは、連続してサンプリングしたデータが低周波成分に対して高い相関を持っていることを利用し、パターンノイズと信号成分とをそれぞれサンプリングして双方の差分を取ることでパターンノイズを除去する手法である。
【0008】
具体的には、電圧電流変換器の後段に択一的に接続可能な一対のコンデンサを設け、オフセット検出期間において、電圧電流変換器の入力からセンサ部を切り離した状態で、電圧電流変換器から出力されるオフセット成分を一方のコンデンサに蓄積する。その後の信号検出期間においては、電圧電流変換器の入力をセンサ部に接続し、センサ出力を他方のコンデンサに蓄積する。そして、両コンデンサの出力電圧の差を検出回路の出力電圧として出力することで、パターンノイズが除去された信号成分のみを取り出すことができる。
【0009】
ところで、センサ装置のうち、センサ部が複数のセンサ要素からなるアレイセンサ装置においては、たとえば複数のセンサ要素を2次元配置してセンサ部を構成し、各センサ要素の出力を画素値とする画像が得られるものがある。この種のアレイセンサ装置としては、各センサ要素の出力を読み出すための検出回路を、各センサ要素ごとに有するものが知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0010】
ただし、上述したような電圧電流変換器を用いて複数のセンサ要素の出力の読み出しを行う場合、回路の特性ばらつきにより発生する固定パターンノイズを低減するためには、各センサ要素ごとに検出回路を設けるよりも複数のセンサ要素に対して共通の検出回路を1つ設けることが望ましい。そして、複数のセンサ要素の出力を1つの検出回路で読み出す場合、1センサ要素当たりの読み出しにかかる処理時間の短縮が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−212656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、1センサ要素当たりの処理時間を短くすると、コンデンサへの信号蓄積の時間が短くなるためSN比の低下が懸念される。また、オフセット成分を除去する場合には、上述のCDSを行うために、図5に示すように一方のコンデンサにパターンノイズを読み出す読出処理(時刻t0〜t1)と、他方のコンデンサにセンサ出力を読み出す読出処理(時刻t1〜t2)と、両コンデンサの差をとる差分処理(時刻t2〜)との3段階のステップが必要になる。
【0013】
結果的に、SN比を維持しながら1センサ要素当たりの読み出しにかかる処理時間を短くすることは困難であり、複数のセンサ要素の出力を1つの検出回路で読み出す場合、処理速度が遅くなることが問題となる。
【0014】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、高いSN比を維持しながらも、処理速度の高速化を図ることができるアレイセンサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明では、それぞれ物理量あるいは化学量を電圧値に変換する電圧検出型のセンサ要素を複数有したセンサ部の出力を読み出して増幅する検出回路を備え、検出回路は、第1および第2の入力端を有し両入力端に印加された電圧の差分に相当する電流を出力する電圧電流変換器と、それぞれ電圧電流変換器の出力電流によって充電されるコンデンサおよびコンデンサのリセット用のスイッチを具備し、電圧電流変換器の出力をコンデンサに読み出す第1読出回路および第2読出回路と、第1読出回路および第2読出回路の各出力端に接続され第1読出回路および第2読出回路の両コンデンサの両端電圧の差分をとる差分回路とを有し、電圧電流変換器の各入力端にセンサ要素を択一的に接続することで両センサ要素間の出力の差分値に相当する電流でコンデンサを充電する読出処理を繰り返し実行し、読出処理ごとに、電圧電流変換器における第1あるいは第2の入力端に接続されたセンサ要素の出力と前回の読出処理で同一の入力端に接続されたセンサ要素の出力との差分が差分回路で得られるように、電圧電流変換器の一方の入力端に接続されるセンサ要素と他方の入力端に接続されるセンサ要素とを交互に順次変化させ、且つ、電圧電流変換器の出力を第1読出回路に読み出す状態と第2読出回路に読み出す状態とを切り替えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、検出回路は、読出処理ごとに、電圧電流変換器の一方の入力端に接続されるセンサ要素と他方の入力端に接続されるセンサ要素とを交互に順次変化させ、且つ、電圧電流変換器の出力を第1読出回路に読み出す状態と第2読出回路に読み出す状態とを切り替えるので、差分回路の第1読出回路および第2読出回路の両コンデンサの両端電圧の差分をとることにより高いSN比を維持できる。すなわち、1回の読出処理にて2つのセンサ要素の出力を含む差分信号を一度に読み出しており、さらに後段の差分回路にて差分信号同士の差をとることで、検出回路の出力からパターンノイズの影響を除去することができる。しかも、連続する読出処理では、いずれか一方の入力端に接続されているセンサ要素が共通であることから、差分信号同士の差をとることで、前記共通のセンサ要素のセンサ出力が検出回路の出力から除去されることになる。そのため、検出回路の出力は、同一の入力端に接続される2つのセンサ要素の出力の差分で表され、一方のセンサ要素のセンサ出力が求まれば、他方のセンサ出力も求めることができる。この処理を繰り返すことで各センサ要素の出力をそれぞれ求めることができるから、結局、各センサ要素のセンサ出力を求めるために必要な出力を1回の読出処理で読み出すことができ、処理速度の高速化を図ることができる。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記センサ部が物理量あるいは化学量の変化を受けない参照用のセンサ要素を有し、前記検出回路の後段には、前記差分回路の出力をデジタル値に変換するADコンバータと、ADコンバータから出力されるデジタル値を用いて演算を行うデジタル回路とが設けられ、デジタル回路が、異なる前記読出処理で得られたデジタル値を用いて、各センサ要素の出力から参照用のセンサ要素の出力を減算した値を求めることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、参照用のセンサ要素の出力を基準とした各センサ要素の出力を求めることができるので、センサ要素の温度特性やセンサ要素の経年劣化等によるオフセット成分を除去して、各センサ要素で検知される物理量あるいは化学量の絶対値を求めることができる。
【0019】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記第1読出回路および前記第2読出回路が、それぞれ前記コンデンサと各出力端との間に挿入され入出力間の信号を電気的に分離するバッファ回路を有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、コンデンサの両端電圧を維持したまま、差分回路にて第1読出回路および第2読出回路の両コンデンサの両端電圧の差分をとることができる。その結果、ある読出処理でコンデンサに読み出された値を次の読出処理で利用できるという利点がある。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記センサ要素が赤外線検出素子であることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、センサ要素での赤外線受光量が小さく、各センサ要素から取り出される電気量の変化が小さい場合でも、検出回路の出力においては高いSN比が維持されていることから、検出回路の利得を高くして十分な感度を確保することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、読出処理ごとに、電圧電流変換器の一方の入力端に接続されるセンサ要素と他方の入力端に接続されるセンサ要素とを交互に順次変化させ、且つ、電圧電流変換器の出力を第1読出回路に読み出す状態と第2読出回路に読み出す状態とを切り替えるので、高いSN比を維持しながらも、処理速度の高速化を図ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態1の構成を示す概略回路図である。
【図2】同上の電圧電流変換器の構成を示す概略回路図である。
【図3】同上の検出回路の利得の周波数特性を示す説明図である。
【図4】同上の動作を示すタイムチャートである。
【図5】従来例の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施形態1)
本実施形態のアレイセンサ装置1は、図1に示すように、物理量あるいは化学量を電気量に変換するセンサ部2と、センサ部2の出力を所定のサンプリング周波数fsで読出して増幅し出力する検出回路3とを具備している。
【0026】
ここで、センサ部2は、それぞれ物理量あるいは化学量を電圧値に変換する電圧検出型のセンサ要素P0,P1,P2・・・(以下、それぞれを特に区別しないときにはセンサ要素Pnという)を複数有したアレイセンサからなる。センサ要素Pnは2次元配置されており、センサ部2の出力は各センサ要素Pnの出力を画素値とする画像を構成する。そこで、以下では各センサ要素Pnに画素番号(1,2・・・)が割り当てられているものとして、当該画素番号(1,2・・・)によって各センサ要素Pnを区別する。なお、センサ要素Pnの一例として、ここでは赤外線を吸収することによる温度上昇に応じて電気量を変化させ、前記電気量の変化に応じた電圧値の変化を出力する焦電素子やサーモパイルを想定している。
【0027】
検出回路3は、図1に示すようにセンサ部2の出力電圧に応じた電流を出力する電圧電流変換器4と、電圧電流変換器4の出力の後段に設けられた、コンデンサCSおよびバッファ回路B1を具備する第1読出回路11と、コンデンサCRおよびバッファ回路B2を具備する第2読出回路12とを有する。ここで、第1読出回路11、第2読出回路12は、それぞれ電流電圧変換器4の出力とコンデンサCS,CRとの間に挿入されセット信号によって駆動されるスイッチSW11,SW12と、コンデンサCS,CRに並列接続されリセット信号によって駆動されるスイッチSW13,SW14とを具備している。コンデンサCS,CRは、それぞれ電流電圧変換器4の出力と基準電位点Vrefとの間に挿入され、バッファ回路B1,B2は、それぞれコンデンサCS,CRと第1読出回路11および第2読出回路12の出力端との間に挿入されている。
【0028】
第1読出回路11および第2読出回路12の後段には差分回路13が設けられており、検出回路3の出力電圧Voは、第1読出回路11のコンデンサCSの両端電圧VSから第2読出回路12のコンデンサCRの両端電圧VRを差し引いたものとなる。差分回路13の後段には、検出回路3の出力電圧Voをデジタル値Vdoに変換するADコンバータ5と、デジタル値Vdoの演算を行うデジタル回路6とが設けられている。バッファ回路B1,B2は、高入力インピーダンス、低出力インピーダンスの特性により、入力側の信号と出力側の信号とを電気的に分離するものであって、その結果、検出回路3の出力電圧VoがADコンバータ5に出力されてもコンデンサCS,CRの両端電圧VS,VRには影響しない。
【0029】
電圧電流変換器4としては、一般的にgm素子あるいはOTA(Operational Transconductance Amplifier)と呼ばれるものを用いる。
【0030】
電圧電流変換器4は、センサ部2の出力に接続された第1の入力端In+と第2の入力端In−とを具備し、第1および第2の両入力端In+,In−間に生じた電圧差に相当する大きさの電流を出力端Toから出力する。
【0031】
具体的には、図2に示すように第1入力端In+と第2入力端In−には、PチャネルMOSFETからなるトランジスタQ1,Q2の各ゲートがそれぞれ接続される。両トランジスタQ1,Q2には直流電圧VDDが印加されており、両トランジスタQ1,Q2はソース電位が等しくなるようにそれぞれのソースを共通のバイアス用トランジスタQ0に接続している。バイアス用トランジスタQ0は、ゲートに印加されるバイアス電圧Vbの大きさに従ってバイアス電流を流すバイアス電流源として機能する。これにより、各トランジスタQ1,Q2に流れるドレイン電流は、それぞれのゲート電圧の大きさ、つまりセンサ部2から入力端In+への入力の大きさ、入力端In−への入力の大きさに従って決定され、バイアス用トランジスタQ0を通して供給される電流が第1および第2の入力端In+,In−への入力の比に応じて各トランジスタQ1,Q2に分配されることになる。
【0032】
トランジスタQ1のドレインは、第1のカレントミラーM1の入力側となるトランジスタQ3を通して接地され、トランジスタQ2のドレインは、第2のカレントミラーM2の入力側となるトランジスタQ4を通して接地される。具体的には、各トランジスタQ3,Q4はいずれもNチャネルMOSFETからなり、ドレインおよびゲートを各トランジスタQ1,Q2のドレインにそれぞれ接続する形で、トランジスタQ1,Q2のソース−ドレインと直列にドレイン−ソースを接続している。これにより、各トランジスタQ1,Q2に流れるドレイン電流はそれぞれ各トランジスタQ3,Q4のドレイン電流となる。
【0033】
トランジスタQ3を入力側とした第1のカレントミラーM1の出力側のトランジスタQ5は、NチャネルMOSFETからなり、ゲートおよびソースがトランジスタQ3のゲートおよびソースにそれぞれ接続され、トランジスタQ4を入力側とした第2のカレントミラーM2の出力側のトランジスタQ6は、NチャネルMOSFETからなり、ゲートおよびソースがトランジスタQ4のゲートおよびソースにそれぞれ接続されている。これにより、各トランジスタQ3,Q4のドレイン電流と同じ大きさのドレイン電流がそれぞれ対応する各トランジスタQ5,Q6に流れることになる。
【0034】
トランジスタQ5のドレインはトランジスタQ7に接続されている。また、トランジスタQ6のドレインはトランジスタQ8に接続されている。トランジスタQ7,Q8はそれぞれPチャネルMOSFETからなり、トランジスタQ7を入力側、トランジスタQ8を出力側とする第3のカレントミラーM3を形成している。すなわち、トランジスタQ7のゲートおよびソースはトランジスタQ8のゲートおよびソースにそれぞれ接続されている。各トランジスタQ7,Q8は、ドレインがそれぞれトランジスタQ5,Q6のドレインに接続される。ここで、トランジスタQ7は、ドレインおよびゲートをトランジスタQ5のドレインに接続しており、トランジスタQ7のソース−ドレインとトランジスタQ5のドレイン−ソースとの直列回路、およびトランジスタQ8のソース−ドレインとトランジスタQ6のドレイン−ソースとの直列回路には、それぞれ直流電圧VDDが印加される。
【0035】
そして、上記構成の電圧電流変換器4は、トランジスタQ8とトランジスタQ6との間に、第1読出回路11および第2読出回路12に接続される出力端Toを設定している。
【0036】
上述した構成によれば、トランジスタQ1のドレイン電流は、第1および第3のカレントミラーM1,M3によって、トランジスタQ8のドレイン電流の大きさを決定し、トランジスタQ2のドレイン電流は、第2のカレントミラーM2によってトランジスタQ6のドレイン電流の大きさを決定する。これにより、トランジスタQ8は、第1の入力端In+への入力電圧(つまりセンサ部2のセンサ出力)に応じた大きさの電流を出力端Toに流し、トランジスタQ6は、第2の入力端In−への入力電圧に応じた大きさの電流を出力端Toから引き抜くように機能する。すなわち、電圧電流変換器4は、第1の入力端In+への入力電圧と第2の入力端In−への入力電圧との差分を電流に変換し、この電流を出力端Toから出力する。
【0037】
しかして、電圧電流変換器4においてセンサ部2の出力電圧に応じて発生した電流は、スイッチSW11がオン、スイッチSW12がオフの期間には、出力端ToからコンデンサCSに流入してコンデンサCSを充電し、第1読出回路11の出力電圧(コンデンサCSの両端電圧VS)を決定する。一方、スイッチSW11がオフ、スイッチSW12がオンの期間には、電圧電流変換器4の出力電流は、出力端ToからコンデンサCRに流入してコンデンサCRを充電し、第2読出回路12の出力電圧(コンデンサCRの両端電圧VR)を決定する。
【0038】
ここに、リセット信号によってオンオフされるスイッチSW13,SW14は、それぞれオン時にコンデンサCS,CRの両端電圧をリセットするための放電経路を形成する。ここでは、第1読出回路11あるいは第2読出回路12へセンサ部2のセンサ出力を読み出すサンプリング期間Tsの開始直後にのみスイッチSW13,SW14をオンし、コンデンサCS,CRの両端電圧をリセットするものとする。リセット後のサンプリング期間Tsにおいては、スイッチSW11あるいはスイッチSW12をオンして、第1読出回路11あるいは第2読出回路12にてセンサ部2のセンサ出力の読み出しを行う。
【0039】
ここで、電圧電流変換器4は、オープンループ制御を採用している。すなわち、センサ出力をトランジスタQ1のゲートだけで受けるため、非常に高い入力インピーダンスを確保できる。したがって、検出回路3は、センサ部2の各センサ要素Pnにおける内部抵抗Rpのばらつきによる出力電圧Voのばらつきを生じることがなく、安定した検出を行うことが可能となる。しかも、帰還容量が不要になる分、回路規模を小さくすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、検出回路3は所定のサンプリング周波数fsでセンサ出力を読み出しており、このサンプリング周波数fsは、上述したサンプリング期間Tsの逆数で表すことができる(つまり、fs=1/Ts)。一方、検出回路3においては、所定のカットオフ周波数fcが存在し、当該カットオフ周波数fcを超える領域では、周波数が高くなるほど利得が低下する。本実施形態では、このカットオフ周波数fcをサンプリング周波数fsよりも低く設定してある。
【0041】
図3に検出回路3の利得の周波数特性とサンプリング周波数fsとの関係を示す。図3では、本実施形態の検出回路3の利得を実線で表し、一般的な離散系の検出回路の利得を2点鎖線で表す。
【0042】
すなわち、一般的な離散系の検出回路(増幅器)の場合、センサ出力を収束させ、収束後の安定した電圧を用いて信号処理を行うので、センサ出力を収束させるために、通常、検出回路のカットオフ周波数fc’をサンプリング周波数fsの3〜4倍以上に設定している。これに対し、本実施形態では、検出回路3のカットオフ周波数fcをサンプリング周波数fsよりも低く設定している。そのため、出力電圧Voが完全に収束しない過渡的な状態でサンプリング期間Tsを終了する。以下、上述のように過渡的な状態で信号を読み出すことを「非収束読出し」という。
【0043】
非収束読出しを採用することによる利点は、図3から分かるように、検出回路3の利得の周波数帯域が狭いので、帯域内の熱雑音やフリッカ雑音が少なく、出力を収束させる一般的な離散系の検出回路に比較して、低雑音な検出回路3を実現できる点にある。なお、センサ出力はカットオフ周波数fcよりも十分に低い周波数帯域(図3の破線領域)を使用するため、検出回路3ではセンサ出力に関して十分な利得を確保できる。
【0044】
ところで、本実施形態のアレイセンサ装置1は、電圧電流変換器4の各入力端In+,In−に対して、センサ部2における各センサ要素Pnの出力を択一的に接続するように構成されている。ここでは、画素番号が奇数(1,3,5・・・)のセンサ要素P1,P3,P5・・・は、それぞれスイッチ要素SW1,SW3,SW5・・・(以下、それぞれを特に区別しないときにはスイッチ要素SWnという)を介して第1の入力端In+に接続される。一方で、画素番号が偶数(2,4,6・・・)のセンサ要素P2,P4,P6・・・は、それぞれスイッチ要素SW2,SW4,SW6・・・を介して第2の入力端In−に接続される。しかして、任意のスイッチ要素SWnをオンすることで、対応するセンサ要素Pnの出力を電圧電流変換器4に入力することができる。
【0045】
ここにおいて、本実施形態では、センサ部2にセンサ要素Pnとして赤外線の変化を受けない(つまり赤外線感度を持たない)参照用のセンサ要素P0を設けてある。参照用のセンサ要素P0とその他のセンサ要素P1,P2,P3,…とは、出力の整合をとるため同一基板上に同一の加工プロセスにより形成されるものとする。参照用のセンサ要素P0の出力は、第1の入力端In+に対してスイッチ要素SW0+を介して接続されるとともに、第2の入力端In−に対してスイッチ要素SW0−を介して接続される。図1において、参照用のセンサ要素P0のみセンサ出力Vsおよび内部抵抗Rpを図示しているが、その他のセンサ要素P1,P2,P3,…も同様の構成を有するものとする。
【0046】
以下、本実施形態のアレイセンサ装置1の動作について表1を参照して説明する。なお、表1では、各サンプリング期間Tsにおける、電圧電流変換器4の各入力端In+,In−に接続されるセンサ要素Pn、スイッチSW11,SW12のオンオフの別、コンデンサCS,CRの両端電圧VS,VR、検出回路3の出力電圧Voおよびそのデジタル値Vdo、さらにデジタル回路6での演算結果を示している。ここに、表1中のS0,S1,S2・・・は、センサ要素P0,P1,P2・・・の出力電圧(センサ出力)を示し、Vnは検出回路3に固有のパターンノイズ(オフセット成分)を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
まず、最初のサンプリング期間Ts=1においては、スイッチ要素SW0+,SW0−をオンして、第1および第2の両入力端In+,In−に参照用センサ要素P0を接続する。そして、第2読出回路12側のスイッチSW12をオンすることで、センサ出力をコンデンサCRに読み出す。このとき、電圧電流変換器4の第1および第2の両入力端In+,In−間は短絡させられるので、コンデンサCRの両端電圧VRは、参照用センサ要素P0のセンサ出力に相当する成分が反映されずに「Vn」となる。
【0049】
次のサンプリング期間Ts=2においては、スイッチ要素SW0−,SW1をオンして、第1の入力端In+にセンサ要素P1を接続し、第2の入力端In−に参照用センサ要素P0を接続する。そして、第1読出回路11側のスイッチSW11をオンすることで、センサ出力をコンデンサCSに読み出す。このとき、コンデンサCSの両端電圧VSは、センサ要素P1の出力S1とセンサ要素P0の出力S0との差分にパターンノイズVnを加えた「S1−S0+Vn」となる。ここで、第2読出回路12のコンデンサCRの両端電圧VRは、バッファ回路B2により1つ前のサンプリング期間Ts=1の値「Vn」に保持されているため、差分回路13の出力である検出回路3の出力電圧Voは「S1−S0」となる。
【0050】
その次のサンプリング期間Ts=3においては、スイッチ要素SW1,SW2をオンして、第1の入力端In+にセンサ要素P1を接続し、第2の入力端In−にセンサ要素P2を接続する。そして、第2読出回路12側のスイッチSW12をオンすることで、センサ出力をコンデンサCRに読み出す。このとき、コンデンサCRの両端電圧VRは、センサ要素P1の出力S1とセンサ要素P2の出力S2との差分にパターンノイズVnを加えた「S1−S2+Vn」となる。ここで、第1読出回路11のコンデンサCSの両端電圧VSは、バッファ回路B1により1つ前のサンプリング期間Ts=2の値「S1−S0+Vn」に保持されているため、差分回路13の出力である検出回路3の出力電圧Voは「S2−S0」となる。
【0051】
その次のサンプリング期間Ts=4においては、スイッチ要素SW2,SW3をオンして、第1の入力端In+にセンサ要素P3を接続し、第2の入力端In−にセンサ要素P2を接続する。そして、第1読出回路11側のスイッチSW11をオンすることで、センサ出力をコンデンサCSに読み出す。このとき、コンデンサCSの両端電圧VSは、センサ要素P3の出力S3とセンサ要素P2の出力S2との差分にパターンノイズVnを加えた「S3−S2+Vn」となる。ここで、第2読出回路12のコンデンサCRの両端電圧VRは、バッファ回路B2により1つ前のサンプリング期間Ts=3の値「S1−S2+Vn」に保持されているため、差分回路13の出力である検出回路3の出力電圧Voは「S3−S1」となる。
【0052】
以降のサンプリング期間(Ts=5,6,7・・・)においては、第2の入力端In−に接続されるセンサ要素P2,P4,P6・・・と、第1の入力端In+に接続されるセンサ要素P1,P3,P5・・・とを交互に順次変化させることで、上述したサンプリング期間Ts=3,4と同様の処理を繰り返す。ここに、各入力端In+,In−への接続対象となるセンサ要素Pnは、画素番号が順次大きくなるように切り替えられるものとする。その結果、各入力端In+,In−に接続されるセンサ要素Pnの組み合わせは、各サンプリング期間Ts=1,2,3,4,5,6,7,8・・・に応じて、「In+,In−」=「P0,P0」,「P1,P0」,「P1,P2」,「P3,P2」,「P3,P4」,「P5,P4」,「P5,P6」,「P7,P6」・・・と変化する。
【0053】
なお、電圧電流変換器4の出力を第1読出回路11に読み出すサンプリング期間Ts(=2,4,6・・・)においては、期間の開始直後の数μsecの間にスイッチSW13をオンしてコンデンサCSを初期化する。また、電圧電流変換器4の出力を第2読出回路12に読み出すサンプリング期間Ts(=1,3,5・・・)においては、期間の開始直後の数μsecの間にスイッチSW14をオンしてコンデンサCRを初期化する。スイッチSW13をオンする時間と、スイッチSW14をオンする時間とは同一とする。
【0054】
以上説明したようにアレイセンサ装置1が動作することにより、結局、読出対象となるセンサ要素Pnの組み合わせを順次変化させながら、第1および第2の入力端In+,In−に入力される両センサ出力の差分信号を第1読出回路11と第2読出回路12に交互に読み出すことができる。そして、第1読出回路11に読み出した差分信号と、第2読出回路12に読み出した差分信号との差分を、差分回路13から検出回路3の出力電圧Voとして出力することにより、回路固有のパターンノイズ(回路オフセット等)を除去しながらも、処理時間の短縮を図ることができる。
【0055】
すなわち、本実施形態では、1回の読出処理にて2つのセンサ要素Pnの出力を含む差分信号を一度に読み出しており、さらに後段の差分回路13にて差分信号同士の差をとることで、出力電圧VoからパターンノイズVnの影響を除去している。しかも、連続するサンプリング期間Tsでは、いずれか一方の入力端In+,In−に接続されているセンサ要素Pnが共通であることから、差分信号同士の差をとることで、前記共通のセンサ要素Pnのセンサ出力が出力電圧Voから除去されることになる。そのため、出力電圧Voは、同一の入力端In+,In−に接続される一のセンサ要素Pnのセンサ出力と他のセンサ要素Pnのセンサ出力との差分で表され、一方のセンサ要素Pnのセンサ出力が求まれば、他方のセンサ出力も求めることができる。
【0056】
たとえば、表1の例では、参照用センサ要素P0のセンサ出力S0が既知であれば、サンプリング期間Ts=2,3のときの出力電圧Vo=「S1−S0」,「S2−S0」より、センサ要素P1,P2のセンサ出力S1,S2が求まる。さらに、この値S1,S2を用いれば、サンプリング期間Ts=4,5のときの出力電圧Vo=「S3−S1」,「S4−S2」より、センサ要素P3,P4のセンサ出力S3,S4が求まる。同様に、サンプリング期間Ts=6,7,8・・・のときの出力電圧Voよりセンサ要素P5,P6,P7・・・のセンサ出力も求まる。
【0057】
このように各センサ要素Pnのセンサ出力を求めるために必要な出力電圧Voは、図4に示すように1回の読出処理(時刻t0〜t1)と、差分回路13の出力を取り出す差分処理(時刻t1〜t2)との2段階のステップで求めることができる。これに対し、各センサ要素Pnについて、パターンノイズと信号成分とをそれぞれ別の読出処理にてサンプリングして双方の差分をとる場合、電圧電流変換器4の出力を読み出す読出処理が1センサ要素Pn当たり2回必要である(図5参照)。結局、本実施形態では図5の処理を行う場合に比べて、処理時間を2/3程度に短縮(読出処理1回分の時間短縮)することができる。
【0058】
また、電圧電流変換器4の出力は、センサ部2からの2入力信号の差分であり、比較的小さな値となるため、電圧電流変換器4の利得を非常に高くすることができ、電圧電流変換器4のSN比の向上を図ることができる。さらに、電圧電流変換器4の利得を高く設定しながらも、電圧電流変換器4の出力にて充電されるコンデンサCS,CRが飽和し難いから、広ダイナミックレンジの出力特性を実現することができる。
【0059】
ここにおいて、本実施形態のアレイセンサ装置1では、各サンプリング期間Tsに得られた出力電圧Voは、ADコンバータ5にてデジタル値Vdoに変換され、順次、後段のデジタル回路6のメモリ(図示せず)に保存される。デジタル回路6では、メモリに保存したデジタル値Vdoを用い、所定の演算式に従って演算を行うことで表1の演算結果を得る。ここでは演算式を「Vdo+(2つ前のサンプリング期間Tsの演算結果)」と定義しており、これによりサンプリング期間Ts=2以降は、「S1−S0」,「S2−S0」,「S3−S0」,「S4−S0」,「S5−S0」,「S6−S0」,「S7−S0」・・・という演算結果を得る。なお、サンプリング期間Ts=1,2においては、2つ前のサンプリング期間が存在しないので、演算結果=Vdoとなる。
【0060】
このようにして得られた演算結果は、各センサ要素P1,P2,P3・・・のセンサ出力S1,S2,S3・・・から参照用センサ要素P0のセンサ出力S0を減算した値であって、言い換えれば、参照用センサ要素P0を基準とした各センサ要素P1,P2,P3・・・の相対的なセンサ出力に相当する。そのため、各センサ要素Pnにおける赤外線の受光量の絶対値に相当する値が演算結果として得られることになる。この構成では結果的に、センサ要素Pnの実装された基板温度等に依存したパターンノイズを取り除いた演算結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 アレイセンサ装置
3 検出回路
4 電圧電流変換器
5 ADコンバータ
6 デジタル回路
11 第1読出回路
12 第2読出回路
13 差分回路
B1,B2 バッファ回路
CS,CR コンデンサ
In+ 第1の入力端
In− 第2の入力端
Pn センサ要素
Vo 出力電圧


【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ物理量あるいは化学量を電圧値に変換する電圧検出型のセンサ要素を複数有したセンサ部の出力を読み出して増幅する検出回路を備え、検出回路は、第1および第2の入力端を有し両入力端に印加された電圧の差分に相当する電流を出力する電圧電流変換器と、それぞれ電圧電流変換器の出力電流によって充電されるコンデンサおよびコンデンサのリセット用のスイッチを具備し、電圧電流変換器の出力をコンデンサに読み出す第1読出回路および第2読出回路と、第1読出回路および第2読出回路の各出力端に接続され第1読出回路および第2読出回路の両コンデンサの両端電圧の差分をとる差分回路とを有し、電圧電流変換器の各入力端にセンサ要素を択一的に接続することで両センサ要素間の出力の差分値に相当する電流でコンデンサを充電する読出処理を繰り返し実行し、読出処理ごとに、電圧電流変換器における第1あるいは第2の入力端に接続されたセンサ要素の出力と前回の読出処理で同一の入力端に接続されたセンサ要素の出力との差分が差分回路で得られるように、電圧電流変換器の一方の入力端に接続されるセンサ要素と他方の入力端に接続されるセンサ要素とを交互に順次変化させ、且つ、電圧電流変換器の出力を第1読出回路に読み出す状態と第2読出回路に読み出す状態とを切り替えることを特徴とするアレイセンサ装置。
【請求項2】
前記センサ部は物理量あるいは化学量の変化を受けない参照用のセンサ要素を有し、前記検出回路の後段には、前記差分回路の出力をデジタル値に変換するADコンバータと、ADコンバータから出力されるデジタル値を用いて演算を行うデジタル回路とが設けられ、デジタル回路は、異なる前記読出処理で得られたデジタル値を用いて、各センサ要素の出力から参照用のセンサ要素の出力を減算した値を求めることを特徴とする請求項1記載のアレイセンサ装置。
【請求項3】
前記第1読出回路および前記第2読出回路は、それぞれ前記コンデンサと各出力端との間に挿入され入出力間の信号を電気的に分離するバッファ回路を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアレイセンサ装置。
【請求項4】
前記センサ要素は赤外線検出素子であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアレイセンサ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13037(P2011−13037A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156103(P2009−156103)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】